【静岡ガスグループ】
静岡ガスがグループ会社の島田ガス(新家博之社長)と連携し、地元の自治体とともに地域に根差したエネルギー事業の展開に注力している。きっかけは、島田市が、市庁舎を含めた公共施設で自ら使用する電気調達の在り方を見直す作業に着手したことだった。
「(島田市は)従来の供給元は大手電力会社でしたが、電力コストの削減や地産地消にかなうような電力調達を求めて市はプロポーザル入札を実施しました。そこで親会社である静岡ガスと共同企業体を組成し、島田市のニーズに沿うような提案をしました」。日ごろから島田市とはさまざまなセクションで接点を持つ島田ガスの新家社長はそう振り返る。
提案内容の立案に当たっては、エネルギー設備の設計やエンジニアリング業務に知見の深い静岡ガス側がその役割を担った。「公共施設に太陽光発電や蓄電池、EV向けの給電インフラを整備することで、地産地消に加え災害にも強く、SDGsに資する市政運営をお手伝いできるような提案内容としました」。実務を担った静岡ガス営業本部都市エネルギー部の加藤力弥部長は話す。
とはいえ、蓄電池や発電出力の不安定な太陽光発電(PV)だけでは、電力の安定供給を果たすことはできない。そこで、出番となるのが、静岡ガスがこれまで整備してきた多様な電源(電力調達)のポートフォリオだ。自らが所有する大型ガスエンジンを用いた10万kW級の発電設備に加え、エリア内のコージェネ設置者から電力の相対調達、卸電力取引市場からの調達など、これまで構築してきたさまざまな調達スキームを駆使しながら、再エネ利用の最大化を図る。そして、余剰の再エネ分は、引き取っていく。
こうして自ら構築してきた電力需給調整機能によって安定供給を担保しながら、なおかつ島田市のニーズを満たす。そんな提案が評価され、共同企業体が見事落札。島田市とは、昨年7月に「SDGsを先導し持続可能なまちづくりを推進する電力供給等業務に関する協定」を締結。公民連携の取り組みが本格的にスタートした。
異例の長期「15年」供給 持続可能な契約で相互利益
「落札後は平坦な道のりではなかったですね」と加藤部長は振り返る。気を使ったのがPVの導入だ。屋根の材質やPVの荷重にどれだけ耐えられるか施設ごとに躯体強度を確認。加えて電力配電系統への接続容量を地点ごとに評価し電力会社(中部電力側)と連系協議する必要があった。また各施設を所管する島田市側の窓口はそれぞれ異なる。そんな地道な作業を踏まえ、現在、7地点でPV(計300kW程度)を設置し、3月ごろから本格的な運用が始まる予定だ。残りの施設についても引き続き市と調整していく計画だという。
今回、島田市との契約で最大の特徴は15年という長い期間の電力供給だ。1年契約が一般的である中、異例だ。「このスキームはPVなどの設備を共同企業体側で負担した運用です。このスキームで大きな利益を出すことが目的ではありませんが、さすがに『1年』では、運用は困難です。SDGsの趣旨である『持続可能』な事業モデルとして島田市さんにも理解をいただきました。それでこそ行政、市民、事業者が互いにWin―Winになるのだと理解しています」(加藤さん)
実は島田市との契約関係は、電力供給だけにとどまらない。市とは「公共施設の利活用」でも連携する。新家社長は言う。「公共施設の運用もお手伝いします。例えば照明や空調設備の高効率な機器への更新をサポートしたり、公共施設で遊休のスペースが生じた場合、地元に開放してイベントを企画しながら交流の場として臨時運用するなど、民間ならではの知恵で無駄のない運用をお手伝いしたいですね」。エネルギー事業者の範疇を越える地域密着型の取り組みを進めている。そんな島田市は2023年に耐震強化を目的に新庁舎への建て替えを計画中だ。静岡ガス・島田ガス共同企業体として、エネルギー設備提案を既に進めているそうだ。
島田市側との連携を図る静岡ガスは同時に、同じ県内の富士市との関係構築にも力を入れ始めている。富士市は昨年、SDGs未来都市に選ばれるなど環境意識の高い都市だ。そんな富士市でこのほど稼働した「新環境クリーンセンター」と呼ぶごみ処理施設に対して、静岡ガスは余剰電力の買取契約を結んだ。「施設から発電される電気はごみの分別に応じて『FIT電気』と『非FIT電気』に分けられますが、当社では非FIT電気を預かり、富士市の公共施設にお届けします」(加藤部長) エネルギーの地産地消を図りたいとする富士市のニーズを見事にかなえる取り組みである。