産業電化への関心が日ごと高まっているエレクトロヒート技術。日本エレクトロヒートセンターの内山洋司会長に今後の展望を聞いた。
【インタビュー】内山洋司/日本エレクトロヒートセンター会長
―脱炭素の流れの中で、日本エレクトロヒートセンター(JEHC)の役割を教えてください。
内山 JEHCは、電気加熱やヒートポンプの最新情報、導入に必要なノウハウを、産業界はもとより電力各社に普及啓発していく役割を持つとともに、ユーザー、メーカー、電気事業の橋渡し役になる役割を担っています。エレクトロヒートの技術については後ほど説明しますが、この技術を通して電力産業にイノベーションを興すために、中立的な立場から必要な情報をいかに発信していくかに注力しています。近年ではカーボンニュートラル(CN)に向けた支援セミナーを開催しており、とりわけ「工場の廃熱活用」には多くの企業が強い関心を示しています。
―毎年秋に開催するエレクトロヒートシンポジウムが好評です。
内山 コロナ禍によってウェブ開催にしたところ、来場者が急増し、昨年は全国から3600人が参加しました。CNに向け、産業分野の電化対策が欠かせません。来場者の増加傾向は喜ばしい限りです。
エネルギー事業者の役割 既存インフラの活用が適策
―エネルギー事業者の役割や供給側の対策をどう考えていますか。
内山 事業者には、メーカーやエンジニアリング会社が持つ情報をユーザーとマッチングさせる役割が高まってきています。エネルギー料金の徴収だけでなく、エレクトロヒート技術の普及によって電化を推進し、さらには産業のイノベーションを興す役割もあります。
供給側で早期の脱炭素となると、既にインフラ設備が整備されている電力施設を有効に活用するのが現実的でしょう。現在、日本にある発電所や送配変電設備は、第二次世界大戦以前から数百兆円以上にも及ぶ投資によって整備されてきました。これらの既存インフラを活用し、再生可能エネルギーや原子力といったCO2フリーの電源を普及すること。一方で電力以外に消費されている化石燃料を電気エネルギーに転換する電化システムは、脱炭素への有効手段です。
大切な需要側の対策 燃焼伴わないヒート技術
―需要側の対策も大切です。日本には需要側の電気技術や機械技術には優れた技術力があります。
内山 例えば工場現場の電力化は、ロボットやAIを駆使することで多品種少量生産やリサイクルを可能にし、見込み生産で無駄が多かった大量生産システムを転換してきました。ライフサイエンス分野でも電気を使う医療機器やAIによる新薬の製造が進んでいます。加熱、暖房、給湯、調理など熱利用分野にもヒートポンプ(HP)や赤外線、誘導加熱技術が普及していますね。
―全電化住宅に代表されるように民生部門で電化が進みました。
内山 IH調理器やエコキュートのほか、LED照明、電気機器の直接制御、電子レンジ、赤外線暖房機器などが普及しました。輸送面でも、リニアモーター、プラグインハイブリッド、電気自動車などが普及し始めています。今後も需要側の電力技術は進化するでしょう。
―特殊な熱を必要とする産業分野の電化はどうでしょうか。
内山 鉄鋼業では電気炉、非鉄金属では誘導加熱による溶解炉が普及しつつあります。一方、鉄や石油化学製品などの原料生産に必要な高温熱源に化石燃料が消費され、また素材産業の多くで製品製造時に必要となる直接加熱やボイラーによる自家用蒸気の生産にも化石燃料が使われています。
直接加熱と自家用蒸気の消費量は、原油換算でそれぞれ6530万㎘と2040万㎘(計8600万㎘)です。2030年度までの政府の省エネ目標6200万㎘を大きく超えています。エレクトロヒート技術には、直接加熱と自家用蒸気に現在使われている燃焼技術を代替することで、化石燃料を大幅に削減する可能性があります。
―エレクトロヒート技術について詳しく教えてください。
内山 燃焼を伴わない電気による加熱は熱伝達による間接的な加熱ではなく、利用場所で必要な部分のみを直接加熱して高い省エネ性を発揮する技術です。また、制御性にも優れ急速かつコンパクトに加熱できることから、製品製造の生産効率を向上できます。
加熱技術には、誘導加熱、赤外線加熱、マイクロ波加熱、ヒートポンプなどさまざまな方法があり、加熱方法は顧客のニーズに合わせて選択できます。用途は、溶解、溶着、熱処理、乾燥、合成、調理、殺菌、解凍などです。一方、ボイラーによる自家用蒸気熱は、生産ラインで使われた後は廃棄されています。その廃熱はHPによりリサイクル(昇温)でき、生産ラインにて熱を再利用します。

脱炭素を支えるエレクトロヒート技術
進化する電化技術 CO2濃度高い石炭の活用策
―産業用技術は進化してますか。
内山 HPの性能を表す成績係数は、圧縮機や熱交換器などの進歩によって、最近は4以上にまで向上しています。また、適用温度もマイナス数十℃から100℃以上まで幅広い温度域に広がり、用途も家庭、業務、産業などの分野で空調用、プロセス冷却、加温・乾燥など利用が進んでいます。産業用では自家用蒸気の熱需要が大きく温度帯は150~200℃です。HPの技術進歩は著しく、現在は200℃まで適用できる開発が進んでいます。将来は最も多い熱需要にHPが適用できるでしょう。
―今後のエネルギー政策の方向性についてどう考えていますか。
内山 安定供給、エネルギー安全保障、CN、経済回復の四重苦を乗り切るリスク管理が必要です。再エネは、安全保障とCN面で期待されていますが、日本では電力供給の不安定さと高いコストが課題です。まずは既存インフラである石炭火力や原子力発電を有効活用することでしょう。
石炭は最も豊富で、人口が世界一多いアジアでは必要な資源です。CO2を多く放出しますが、裏を返せば、排ガス中のCO2濃度が高く、CO2を回収しやすい。将来はCCSやCCU技術で有効活用する必要があるでしょう。原子力は、安全性が確認された発電所の早期再稼働が望まれます。原子力規制担当者を増強し効率的な規制を実施すべきです。いずれにせよ既存設備である原子力の再稼働は、電気料金の上昇を抑え、経済の好循環につながります。










