【特集2】日本の電力支える直流幹線 東西間の融通能力が向上


【東京電力・中部電力】

東日本大震災の教訓を得た、東西間を結ぶ周波数変換所と直流幹線が完成した。短い工期、厳しい環境条件が重なる困難も、現場の創意工夫で乗り切った。

周波数の異なる東西地域間で融通できる電力量を拡大するため、東京電力パワーグリッド(PG)と中部電力PGが5年前から建設工事を進めてきた「飛騨信濃周波数変換設備(FC)」が完成、3月末に運用を開始した。

2011年3月11日の東日本大震災では、東北・東京エリアの発電所の多くが被災し電源脱落が発生。これにより供給力が著しく低下し、東京電力エリアでは計画停電の実施を余儀なくされた。この教訓を踏まえ、災害時の東西間の電力融通量を拡大し供給安定性を高めることを目的に、国家プロジェクトとして整備することが決まったのがこの飛騨信濃FCだ。

飛騨信濃FCの完成により、それまで新信濃(60万kW、東電PG)、東清水(30万kW、中部電力)、佐久間(30万kW、Jパワー)の3カ所計120万kWだった東西間の連系容量は210万kWに拡大した。

自然災害が頻発する中、設備損傷による需給ひっ迫時など全国の電力安定供給に資するのに加え、平常時には電力取引の活性化や再生可能エネルギーの導入拡大、需給調整のための調整力の広域的な調達・運用に貢献することが期待されている。

新型コロナで厳しい工期も 20年度内に運用開始

飛騨信濃FCは、50 Hz側の交直変換設備である「新信濃変電所(長野県朝日村)」と60 Hz側の「飛騨変換所(岐阜県高山市)」、そして両変換所を接続する「飛騨信濃直流幹線」で構成されている。新信濃変電所の増設と直流幹線の建設を東電PGが、飛騨変換所の建設を中電PGが担当した。

交直変換設備の要となるのが、半導体素子「サイリスタ」を多数個組み合わせた「サイリスタバルブ」と呼ばれる高さ8・5mの巨大な装置だ。東日本側から西日本側に電気を流す際には、50万Vから15万4000Vに変電した交流電気を直流20万Vに変換、直流幹線を通して中部電力が新設した飛騨変換所に送る。逆に中部電側から直流幹線で送られてきた電気は、この装置で交流に変換し安曇幹線を通じて新秩父開閉所に送られる。電気をどちら方向にどれだけ送るかといった指令は全て、東電PGの中央給電指令所から発出するという。

東電PGの設備である新信濃変電所には、1977年に運開した1号FC、92年に運開した2号FCがあり、これまで計60万kWの変換能力を有してきた。二つのFCの役割はそれぞれ異なっており、1号は緊急的な電力融通に備えて待機、2号は市場に開放されて平時に東西間の電力取引に活用されている。

交直変換設備の増強工事は、16年4月に着手。「サイリスタバルブ」に加え、直流に変換した電気を平滑化する「直流リアクトル」、直流から交流に変換された電気の高調波を取り除く「交流フィルター」や電圧を一定に保つための「調相設備」などを増設。20年6月に使用前実施検査を完了し、10月から今年3月25日までの間、飛騨変換所との一体運用に向けた系統連系試験を実施した。

新型コロナウイルス禍の影響もあり厳しい工期に追われたが、当初計画していた通り20年度内に運用開始にこぎつけることができた。工事を担当した工務部送変電建設センターの藤岡慎太郎・東西連系線新信濃グループマネージャーは、「地震が多い日本で、新FCの運用により電力の安定供給に寄与できる」と期待を寄せる。

【特集2】全国で進むネットワーク強靭化 実現の陰にある知恵と工夫


災害や事故から需要家を守るべく、電力・ガスインフラの整備が全国で進められている。工期、予算、コロナ対策など数多くの制約を乗り越えるため、事業者の知恵と工夫が試される。

地震、台風、集中豪雨―毎年のように各種災害に見舞われる日本は世界でも類を見ない災害大国だ。特に台風や集中豪雨の被害は、年を経るごとに深刻化している。

2018年に襲来した台風21号では西日本が、19年に襲来した台風15・19号では東日本が甚大な被害を受けた。強風が発生すれば送配電インフラはなぎ倒され、広範囲で停電が発生。集中豪雨では河川が氾濫し、都市ガス導管網が水没する事態も生じたのは記憶に新しい。

また数年おきに震度6を超える地震も頻発している。11年の東日本大震災では原発事故に加えて太平洋沿岸の火力発電所が相次いで停止。さらに16年の熊本地震では土砂崩れの影響で鉄塔や配電設備に被害が生じたほか、18年の北海道胆振東部地震では、北海道全域の電力が停止するブラックアウトも発生した。

政府も昨今の異常事態を踏まえて、各地域の電力グリッド同士を接続することで緊急時に電力を融通する「地域間連系線」の整備を進めている。これまで電力系統整備は各電力会社が自社の電源や需要に応じて整備を進めてきたが、現在は電力広域的運営推進機関が中心となり系統整備の計画を立案。それを国が承認し、各電力会社が工事を担うという「プッシュ型」と呼ばれる整備方法へと変化している。

柔軟な電力融通が可能になることで、需給ひっ迫の緩和だけではなく全国各地に設置された太陽光・風力発電などの再生可能エネルギーを需要地へ大量に送ることも可能となる。地域間連系線の整備により地方の再エネポテンシャルを引き出す効果も期待される。

電力・ガスで完成ラッシュ 進むインフラ網のループ化

災害が大型化・激甚化する緊急事態下に置かれても、エネルギー事業者には「安定供給」を続ける使命が課せられている。これを実現するために電力・ガス事業者は、ネットワークインフラの整備を進めてきた。そして、20年代に突入し、事業者が積み上げてきた努力が実を結ぼうとしている。

電力業界では、3月31日に東日本・西日本の電力グリッドをつなぐ新信濃周波数変換設備(FC)と、飛騨信濃直流幹線が完成した。

東日本大震災の影響で太平洋沿岸に位置する発電所が相次いで停止したことで、電力需給ひっ迫が発生。新信濃FCおよび飛騨信濃直流幹線は、その対策として東西間の電力融通量を増やすべく計画された電力系統だ。東京電力パワーグリッド(PG)および中部電力PGが主体となって本来10年かかるともいわれた難工事を、わずか5年で完成させた。

九州地域では、九州北部と南部をつなぐ新たな50万V幹線、日向幹線の整備が進んでおり、22年6月に完成予定だ。整備が終了した暁には九州一円の幹線網がループ化され、万が一災害などで送電を中止せざるを得ない事態に陥った場合にも、違うルートから電力供給を続けることができる。

【特集2】再エネ電気を有効活用 新時代の系統運用が可能に


【東京電力パワーグリッド】

設備容量90万kWの増強を果たした東西連系線。これにより多くの電力を他地域に融通することができるようになり、電力ひっ迫が発生するリスクが低減する。

加えて、昨今は太陽光を中心とした再生可能エネルギー電源が全国各地で急増しており、顕著に増加する地域では、事業者に出力制御をかけなければならないほどに再エネ電源が余っている。東西連系線を活用し、こうした地域の電気を大需要地に送ることで、再エネ電気を余らせずに有効活用することにもつながる。

東京電力パワーグリッド技術統括室広域系統計画グループの元木啓明マネージャーは「新設備により運用の柔軟性が高まり、今年4月からスタートしている需給調整市場にも活用されます」と期待を語った。

これまで再エネの出力変動は各社管内を中心に制御していた。しかし地域間の電力グリッドを増強し、再エネや電気需要ピーク時に各地方電力同士でこれまで以上に自由な融通が行えるようになれば、複数のグリッドを一つにまとめて需給バランスを制御する全体最適化にもつながっていく。

新信濃FCや飛騨信濃直流幹線の整備は、再エネ時代に対応した未来のグリッド網を築く上でも象徴的な工事といえるだろう。

元木啓明/東京電力パワーグリッド技術統括室広域系統計画グループマネージャー

【特集2】災害対策・省力化に注力 九州一円を守る日向幹線整備


【九州電力送配電】

九州の南北をつなぐ基幹送電網「日向幹線」の整備が、着々と進行している。50万V幹線がループ化することで、九州全域の電力系統レジリエンスは大きく向上する。

九州電力送配電管内では、九州全域の電力系統のレジリエンス(強靭性)を高める上で重要な鍵を握る「日向幹線」の整備が山場を迎えている。

日向幹線は、大分県臼杵市の東九州変電所と宮崎県木城町のひむか変電所を結ぶ、総延長124㎞の50万V基幹送電線。これまで管内の50万V幹線では、福岡県筑前町にある中央変電所と、鹿児島県伊佐市の南九州変電所を結ぶ「熊本幹線」(81㎞)、「中九州幹線」(40㎞)、「南九州幹線」(80㎞)が九州の南北の安定供給を担ってきた。既設幹線も経年が進み、22年下期から30年代初頭にかけて電線やその支持金具など各種設備を更新する工事が予定されている。

更新工事が行われる間、幹線の2回線のうち1回線は停止しなければならない。更新工事中に落雷などで残る1回線の送電がストップしてしまった場合、電力系統が分断され、大規模停電が起きる可能性がある。こうした背景もあり、九州のレジリエンスを向上させるべく日向幹線の建設計画が立ち上がった。

台風に悩まされた幹線整備 省力化へ各種方策を施行

計291基の鉄塔建設と鉄塔間に電線を張る架線工事を行うためには、当然ながら大量の資材を現場に運搬しなければならない。とはいえ建設予定地の大半は九州山地の険しい山岳地帯で、いずれも交通網が貧弱な地域。工事に当たり九電がまず行ったのは、資材を輸送する道づくりだった。

14年から道路整備に着手してきたが、自然災害が九電の行く手を阻んだ。

15年に発生した台風の影響で、整備した搬入路の多くで崩落が発生。長期間にわたって工事を中断しなければならない事態に直面した。当初は19年6月の運開を計画していたものの、16年2月に完成予定を22年6月に延期するという苦渋の決断を強いられた。

さらに昨今は少子高齢化で社会構造が変化したことにより、工事会社作業員の高齢化も深刻な問題となっている。将来の施工力が不足しないよう、省力化をどう図るかということも、幹線を整備する上で大きなテーマとなった。

その対策として、作業員の動作をアシストする専用の器具を導入した。そもそも鉄塔を建設する際は、まず基礎を施工するために穴を掘削する必要があり、作業員は穴の中で作業をしなければならない。この穴への昇り降りも結構な労力になることから、昇降動作を補助する器具を一部の工区で採用した。この施策は「労力軽減になる」と、作業員からも好評だったという。

昇降アシスト装置も導入した

架線工事では、先に鉄塔間にロープを通す工程がある。通常はヘリコプターを飛ばして作業するが、ヘリを飛ばせないような場所ではドローンで作業を代替する取り組みもあったという。ほかにも資材の搬入には道路以外にも索道やヘリを活用。作業員を確保するために、工事量が1年間で最も少ない夏場に集中させるなど、滞りなく工事を進めるためにさまざまな知恵を働かせた。

また工事を行った山間部には、クマタカなど特定猛きん類の営巣地や、希少植物の生息が確認されたエリアがあった。これら動植物の生育に影響が出ないよう自然環境に対しても、細心の注意を払いながら工事を進めている。

幹線整備で体制は盤石に 整備完遂に向け前進

現在は22年6月の運開に向けて最後の架線工事に取り掛かっている段階で、5月末時点の工事進捗率は95%。5月末までに鉄塔工事を全て終えた後には、11月までに架線工事を終える計画。その後は設備の使用前自主検査を半年かけて実施し、6月に幹線に電気を通す事前試験を行ったのちに運用する予定となっている。

工事を管理する九州電力送配電・延岡送変電工事所の小笠原博所長は「日向幹線が最後の50万V幹線。きちんと工事が行われれば基幹送電網は盤石のものになる」と語る。残されている工程を着実に進め、九州一円の50万Ⅴ幹線のループ化に向け、安全の確保を大前提に、努力を重ねていく構えだ。

【特集2】建設から点検まで大活躍 電力で活用が進むドローン


【九州電力】

電力業界でドローンの活躍が著しい。とりわけ注目されるのが保安・点検分野だ。

ドローンを活用するメリットは大きい。作業員が送電鉄塔に昇らないため感電リスクや墜落のリスクがない、ボイラー点検では点検用に足場を組まずに済むためコストを削減できる、自然災害などで立ち入りが難しい場所でも簡易に点検可能―など、業務の効率化に貢献する。

特に九州電力は、積極的にドローンを導入している企業の一つだ。九電・情報通信本部は、空撮、産業用ドローンなど各種ドローンを100機以上、操縦士も100人以上備えており、火力・水力発電所の点検、土木測量、発電所ボイラーの点検、イベントの空撮に利用している。グループ会社の九電送配電でも、子会社の九電ハイテックが中心となってドローンを使った保守・点検を行う。すでに同社の大分、佐賀、鹿児島支社では、ドローンが飛行可能な区域にある鉄塔の点検業務をドローンに切り替えている。

代替を進めた結果、これまで6人程度必要だった鉄塔点検は、ドローンを用いた現場では3人に半減。1日に点検できる鉄塔の基数も、従来の1基(50万Vの場合)から2基に倍増した。22万V、11万V以下の鉄塔でも作業効率が向上した。ドローンによる鉄塔の点検基数は、2020年度だけで400基に上る。 工事から保安に至るまで、今後もドローンは電力の現場に欠かせない機器になりそうだ。

【特集2】ガスネットワークの集大成 着実に歩んだ究極への道


【東京ガス】

今年3月、安定供給の鍵を握る茨城幹線と日立LNG基地の2号タンクが運開した。ループ化と分散化による1000㎞超のネットワークは、まさに「究極」と言っても過言ではない。

東京ガスは今年3月11日、「日立LNG基地2号タンク」と、茨城県神栖市と同県日立市をつなぐ「茨城幹線」の運開を発表した。

同社は10年以上の歳月をかけ、北関東エリアで高圧幹線の整備を進めてきた。2012年には千葉県内にある導管網を鹿島臨海工業地帯まで延伸する千葉~鹿島ライン(約80㎞)、15年には埼玉県から茨城県に延びる埼東幹線(約40㎞)、16年には茨城~栃木幹線(約80㎞)、17年には古河~真岡幹線(約50㎞)が完成。都市ガスのもととなるLNGの受け入れ基地についても、茨城県日立市に日立LNG基地を16年に運開するなど、供給安定性の向上や供給ネットワーク全体の輸送能力を向上させるべく、ネットワーク網を構築してきた。

これら取り組みの集大成ともいえるのが、日立LNG基地と鹿島臨海工業地帯をつなぐ茨城幹線であり、日立LNG基地の2号タンク増設だ。92・6㎞にわたる茨城幹線と日立LNG基地の2号タンクが完成したことで、北関東の導管網がループ化され、四つのLNG基地の相互バックアップによる供給安定性の向上、ガス輸送能力の増強を実現した。

日立基地のタンク増設 省力化工法を初採用

日立LNG基地2号タンクの容量は、1号タンクと同じ23万㎘。国内でも屈指の大容量を誇る。工事は18年4月に着工したが、工事に当たっては、供給安定性の向上、ガス輸送能力の増強をより効果的にするためにも、茨城幹線と同じ21年3月の完成を目指した。

LNGタンクは、マイナス162℃のLNGを貯留する内槽部と、それを囲むコンクリート製の防液堤の2層で構成される。このためタンクを建設する際は、まずコンクリート製の防液堤を構築、次に内槽部の工事に取り掛かる。内槽部も積み木のように下部から上部へ側壁を構築し、最後にふたをして内槽部が完成するという手順を踏む。従来工法では内槽部と防液堤の工事は同時並行で進めることができず、時間がかかるという課題があった。

この課題をクリアするべく、IHIの「JCM(ジャッキ・クライミング・メソッド)工法」と、鹿島建設の「P3wall工法」という二つの新工法を初採用した。

「JCM工法」は、屋根と内槽部の側壁をジャッキで持ち上げて1層ずつ積み上げていく工法で、防液堤工事と並行して工事を行える特長がある。

さらに「P3wall工法」は、防液堤建設のために現場でコンクリートを打設するのではなく、高層ビルなどの施工で用いられるプレキャストコンクリート(PC)を用いて構築する工法。工場で製造したPCを積み上げて防液堤を構築することから、省力化や天候に左右されず作業を進められるなどのメリットがある。

これら工法を積極的に採用したことで、2号タンクの建設は従来工法と比べて約7カ月も短縮することに成功した。東京ガス・エネルギー生産部生産企画グループの小菅惇担当課長は「当社としても初めて採用した工法だったが、事故もなく円滑に工事を進められた。23万㎘のタンクとしては国内最速の28カ月で完工した」と語る。

さらに工事のピークを迎えた20年にはコロナ禍が世界中を襲った。当初、現場では工事を中断するのか否か大きな議論にもなったというが、消毒やソーシャルディスタンスの徹底、密集状態の回避などの対策を取りつつ工事を継続。工期に影響もなく、感染者数ゼロで工事を終えられたという。

丁寧な地元対応を継続 困難乗り越え究極の導管網

茨城幹線の建設でも、工期短縮やコスト削減に向けて創意工夫を重ねた。

都市ガス導管は多くの場合、道路に埋められて敷設される。そのため導管を埋設する道路が国道、県道、市道なのかによって、管理者が異なる。特に敷設する道路が国が管理する直轄国道の場合、道路上に作業帯を設置する開削工事は交通機能を低下させてしまう恐れがあるため、占用許可の取得が難しい。

その場合、代替ルートを選択するか、または道路に沿う形でのシールド工法による敷設となるが、いずれもコスト増や工期の延長につながる課題が生じる。東京ガス担当者は道路上での作業帯設置について、片側2車線道路は、1車線にとどめること、また片側1車線の道路は、交通機能を低下させないように作業帯設置方法を工夫し、代替ルートがない一部区間のみを幹線のルートにすることで、国道の占用許可を取得した。

道路占用許可にも力を割いた

また、沿線地域の鹿嶋市や鉾田市、ひたちなか市などはLPガスが供給されているエリアだ。それだけに道路を開削して行う都市ガス工事に対する認知度があまり高くないという問題もあった。そのため、建設事務所の所員が中心となって沿線ルートの自治会や、数千戸にも及ぶ一般民家に対して戸別訪問しながら工事の説明に回った。さらに一部自治体からは工事手法や安全性などについて説明を求められると、議会に赴き計画内容について説明をしたという。

こうした多くの工夫を重ね、今回の工事は従来の同規模の幹線と比べ、約1・3倍の進捗率で推移した。防災・供給部幹線グループの小金丸健一課長は「行政や沿線にお住まいの方々へのご説明などに真摯に対応し続けることが大切であり、予定工期内での完了にもつながった」と話した。

さまざまな困難を乗り越えて系統が連結したことで、東京ガス管内ではこれまでの千葉、東京、埼玉、神奈川を結ぶ東京圏のループに加え、茨城、栃木、群馬、埼玉を結ぶ北関東の大きなループが構成されるようになった。1000㎞を超える究極のガスネットワーク網は、飽くなき挑戦と、地道な努力の積み重ねによって成り立っている。

【特集2】難工事を乗り越えた九北幹線 福岡の暮らしを支える導管網


【西部ガス】

北九州と福岡をつなぐ第二の幹線「九州北部幹線」がついに完成した。導管網のループ化を実現したことで、地域のレジリエンス力は大きく向上する。

西部ガスは2020年12月4日から、北九州と福岡を結ぶ「九州北部幹線(九北幹線)」の供用を開始している。

九北幹線は「ひびきLNG基地」(北九州市若松区)と、福岡市に隣接する「的野ステーション」(福岡県新宮町)を結ぶ、約60㎞の幹線。これまで同社は福岡市内と北九州市内の工場で都市ガスを製造し、双方向から需要家に向けて供給していたが、14年11月に両工場を北九州市内のひびきLNG基地に集約。同基地を中核とした広域供給体制が整った。

福岡地区への供給は既設高圧幹線(福北幹線)により行っており、万が一の災害に備えて複線化が必要になった。高圧幹線は耐震性が高く災害には強いが、想定外の災害や事故などにも備えてセキュリティー強化とさらなる安定供給を図り、今後のガス需要にも対応するために九北幹線が計画された。計画ルートは、福岡県北部の海側に幹線を通すもので、14年2月に着工した。総工費220億円の一大プロジェクトだ。

工事ではさまざまな困難に見舞われたが、最大の難所となったのが、「遠賀川」の横断だ。

困難だった河川横断工事 ループ化で供給力が向上

遠賀川は筑豊地域を源流に、玄界灘へと流れる福岡県を代表する河川の一つ。工事ルートは砂層と岩盤層が連なる互層構造の複雑な地形だったこともあり、実際の工事も細心の注意を払いながら行った。横断工事は建設会社の力を借りながらシールド工法で掘削。トンネル総延長は約1・5㎞、最深部で22mにも及ぶなど、設計に2年、実際の施工に2年を要し、足掛け4年を費やして横断した。

プロジェクトを担当した供給管理部の切通正裕マネジャーは遠賀川の横断について「複雑な地形だったことに加え、ここの工程が遅れてしまうとほかの工程も遅れてしまうという重要な工区。九北幹線には遠賀川のほかに3カ所の河川を越えた区間があるが、これほどまでに大規模なものは当社としても経験がない。まさに一大工事でした」と振り返る。 延べ7年弱にわたる工事を経て九北幹線を整備したことで、ひびきLNG基地と福岡地区までの幹線が複線化した。既設の福北幹線と併せて運用することで、片方の導管に障害が発生するような災害に見舞われた場合にも供給を継続することができ、安定供給体制がさらに高まった。福岡と北九州という大需要地をつなぐ九北幹線は、九州北部でエネルギーを供給し続けるという重大な任務を果たしていく。

【特集2】スマメ全件導入で進む変革への期待 電力データをスマートに生かす


スマートメーターが2024年度末までに全国8000万件に導入される。スマメから取得できるビッグデータにはどのような可能性があるのか。業界関係者が集まり、今後の展望を語り合った。

〈司会〉江田健二/ラウル代表取締役 エネルギー情報センター理事

〈出席者〉

一色正男/神奈川工科大学 創造工学部ホームエレクトロニクス開発学科教授

平井崇夫/グリッドデータバンク・ラボチーフディレクター

渡邊太郎/NTTデータ経営研究所 社会・環境戦略コンサルティング ユニットマネージャー

江田 エネルギー業界には、デジタル化の波が押し寄せています。皆さんが現在取り組んでいることを教えてください。

江田健二/ラウル代表取締役 エネルギー情報センター理事

平井 私が所属しているグリッドデータバンク・ラボは、東京電力パワーグリッド、関西電力送配電、中部電力、NTTデータの4社が出資する有限責任事業組合です。電力データ、特にスマートメーター(スマメ)のデータを活用してさまざまな社会課題解決、あるいは新しいビジネスやサービスの創造に向けた実証をしています。組合の趣旨に賛同する約150の自治体や企業が会員となり、電力データだけでなく、異業種データも組み合わせた実証も進めています。

 電力データの利活用に向けたルール整備などに関する会員ニーズについては、適宜、国の審議会などへ提言し、データ活用が促進されるような社会作りへ貢献できるよう取り組んでいます。

一色 2011年末に経済産業省の「スマートハウス・ビル標準・事業促進検討会」で仕事をしたときに、スマメのBルートをどう処理していくか、電力会社を含め皆さんと議論をしました。また、エコーネットライトという国際標準化機構(ISO)に準拠した通信規格をベースに、スマメが全需要家に導入されることを見据え、準備を進めてきました。メーターからデータをどう取り出し、利用するのかを研究テーマとしています。

 また、太陽光発電や蓄電池を組み合わせ、スマメを使った自家消費や逆潮された電力の出し入れといった、需要家内の電力の需給バランスの計測。これについても、電力の売買の議論を支えるために必要なシミュレーターを作り、効率的利用について研究しています。

渡邊 官公庁や自治体向けの環境コンサルティング業務を行っています。直近では愛知県岡崎市の「岡崎さくら電力」の設立や、栃木県宇都宮市の地域新電力設立の事務局支援をしています。再生可能エネルギー由来の水素を活用した実証事業にも取り組んでいます。

 実は前職で、電力会社に勤務し、検針業務で実際に現場に足を運んでいたことなどもあります。

素晴らしいインフラの整備 従来検針員の配置転換

江田 スマメデータの公開領域をどこに設定するかなど、課題はあるかと思いますが、私自身はスマメの導入には大きな意義があると思っています。皆さんはどのような意義を感じていますか。

平井崇夫/グリッドデータバンク・ラボチーフディレクター

平井 一般論ですがスマメを導入するメリットには三つの視点があると思います。一つは送配電事業者の業務効率化を図れる点、二つ目は小売り事業者が料金メニューを充実させられる点、そして三つ目がまさにグリッドデータバンク・ラボが手掛けている電力分野以外での社会課題の解決や、新しいサービスの創出に向けた電力データの活用といった点です。

 業務効率化に関しては、毎月実施していた現地検針や、引っ越し後の負荷開放処理など、現地出向作業の軽減を実現しており、また料金面についても、30分毎の料金メニューなどが、小売り事業者によって既に展開されています。

江田 電力やガス、水道を組み合わせた共同検針はどうですか。

平井 共同検針の実証事例はありますが、以前からハードやソフトを、各業界が別個に作っています。そのため、両者のシステムをどう統一するかが課題かと思います。国の検討会などでいろいろな事業者で知恵を出し合いながら、ベストな共同検針の在り方を検討しているのが今の段階です。

一色 HEMS利用の観点から言うと、スマメのデータは30分に1回送信されるので、ある程度需要家の動きが分かります。ただ、これだけでは足りないなと感じています。実は日本のスマメは非常に優秀で、技術的には1分値を拾うことができますし、そうした値を使うメリットとしては、電力需給のより効率的な運用が可能になるほか、「見守りサービス」なども展開できると期待しています。また、家の周りは「雨が降っている」などの別の状況も推定できます。この辺にデータ活用の新しい世界があります。いずれにせよ、10年にも満たない期間でこうしたインフラを全国にくまなく整備する日本の電力会社はすごいです。

 それから水道やガスのデータは、本当は取り出せた方が良い。例えば水データがあれば洗濯なのか、お風呂のお湯を沸かしているのかが分かる。さらにユーティリティーの無駄が分かってくる。今後、省エネやゼロエミの時代を目指していく中で、そうした取り組みは意義を持つと思います。

渡邊 電力会社に勤務した経験から話すと、検針やメーター関連設備作業など、その業務のためだけに片道1時間をかけて現地に向かうことがありました。そうした点を考えると、スマメによる遠隔検針には意義があると思っています。

 一方、これまで検針業務を担っていた人材をどう配置転換していくかは課題だと感じています。日常の検針業務は、お客さまと折衝するわけではないため、時間の融通が割と利く仕事です。そのため、例えば日中に家に居なければいけない方々にとっては大事な仕事ではないかと思います。ベストなシナリオとしては、スマメを核とした新規事業、新しいサービスについて、旧来の検針員の方々が担えることではないでしょうか。

【特集2】垣根超えた「チーム原町」の結束 業界横断の連携で復旧と復興果たす


福島県内に多くの大型火力発電が立ち並ぶ中、原町火力は東北電力の主力電源だ。「早く電気を届けたい」――。そんな現場の思いを胸に大災害からの早期復旧を果たした。

福島県内には原町、相馬共同、広野、常磐共同など東北電力や東京電力(現JERA)の石炭火力を中心とする大型電源が数多く立ち並び、東日本の安定供給を支えていた。そうした中で起きた巨大津波は、それら全ての電源を一瞬にして喪失させた。

国内の石炭火力でも有数の規模を誇る、南相馬市に立地する原町火力(計200万kW)も例外ではなかった。「タービン翼や軸受け、電気集じん機など損傷はひどかった。主力電源を失った喪失感は言葉にならなかった」。当時を知る関係者は振り返る。周辺エリアは、福島第一原発から30㎞圏内に位置し屋内退避区域に指定されたこともあり、本格的な復旧作業もままならなかった。ただ「2011年夏に、『復旧計画』の目標が定まったことがターニングポイントだった」そうだ。

13年夏までの運転再開―。一つの目標を全社的に共有できたことで、早期復旧に向けて一気に動き出した。そして、当時、原町の現場で陣頭指揮を執っていたのが、現在の東北電力の樋口康二郎社長だ。「早期復旧こそが復興のシンボル」。そんな思いで電力業界、メーカー、ゼネコンなどが一体となって復旧作業に当たった。

幸い、原町から30㎞ほど北にある相馬共同火力とも連携を取ることができた。プラントが兄弟機であるため特殊工具などを貸し借りすることができたからだ。また、復旧作業期間に受け取れなかった石炭燃料をほかの電力会社が引き取ったケースも。困ったときは助け合う。そんな電力会社同士の連携もあった。ピーク時には現場の人員は1日2500人に上ることも。復旧というよりは、丸ごと一つの大型火力電源をゼロからつくり上げるような作業だった。 大同団結で挑んだ作業によって計画よりも半年も早く運転再開にこぎつけた。わずか2年で、200万kWをもとに戻した。東北電力では、この結束を「チーム原町」と呼んでいる。未来にも語り継がれるべきエピソードである。

【特集2】求められる情報災害への備え


福島に生まれ、この地と縁の深い開沼博准教授は、震災後の被災地の姿を見続けている。これまでの10年を振り返りながら、今後の「東北」について寄稿した。

【特別寄稿】開沼 博 /立命館大学准教授

この10年を振り返れば、後悔することは無数にある。とはいえ、10年前のあの当時には全く見通せなかった未来の姿が、いまそれなりに見えてきているのも事実であり、その点では達成感が全くないわけではない。

3・11直後は、とにかく目の前で起こっていることを書き残すことに注力していた。被災地を回っては、そこで知ったことを雑誌や書籍に手当たり次第に記述していた。その後3年、4年と時間が経つと、何が起こっているのか、状況がだいぶ見えてきた。統計資料を集め、現場でのフィールドワークを改めて行い、全体像を俯瞰的に捉える作業を行うようになった。拙著『はじめての福島学』(15年)、『福島第一原発廃炉図鑑』(16年)はその一つの成果物だった。その頃には既に3・11の多くの問題が明確になった。当初は「何が分からないかが分からない」状態だったところから「何が分からないかは分かる」状態に変化していった。これは大きな前進だった。

未来を探る活動が活発化 得られた重要な教訓

住民の多くも、単なる受動的な被災者ではなく、日常に戻っていた。自ら能動的に未来を探る活動に関与する動きが活発になってきた。そこからは、旧避難地域で開催され続けている最大規模の住民参加型イベント「福島第一廃炉国際フォーラム」のプロデュースをはじめ、住民との対話や事実共有の機会の創出に関わり、また大学教育の中での被災地訪問、地元高校での学びの機会の提供なども継続的に行ってきた。災害科学科ができた宮城県多賀城高等学校、休校になった避難地域内の高校の伝統を受け継ぎ新設された福島県立ふたば未来学園高等学校などには何度も訪問する機会をもらうようになり、行くたびに生徒の変化と教員の熱心さを感じた。

昨夏、青森から、東北と関東をわける勿来の関を超えるところまで、車で沿岸部を走った。いまも復興工事が続く部分もある一方、新たな街や道路、防潮堤などが整備され、よくここまできたなと思わされる。三陸道や常磐道の一部はこの10年に復興の文脈の中で開通した。道路に限らず、10年前にはなかった人の交流の基盤が整えられてきているのを感じる。

10年の「節目」がいかなる意味を持つかとの問いには、私は個々の「記憶・記録が一塊の歴史に変わっていくタイミングだ」と言ってきた。あの時の経験は、そこに関わった人、あるいは遠くからそれを眺めていた人にとっても衝撃的で、多くの教訓を残せたはずだ。しかし、その教訓が広く共有されているとは言えないのではないか。

例えば、福島県では地震・津波で亡くなった人が1600人ほどであるのに対して、避難の過程・長期化の中で亡くなった人=震災関連死は2300人を超える。つまり、「災害から身を守るためには避難が必要だ」という常識的感覚に反する現実が立ち現れている。

これは重要な教訓だ。例えば、数十年内に高確率で起こると言われている首都直下地震、南海トラフ地震の際には、3・11よりも大量の避難者が発生することが想定される。人が集住する地域の被害が大きければ、避難の完了までに大きな混乱が生じ、十分な住居の確保にも時間がかかって避難期間が長期化する可能性もある。その時に、単に「みんなで避難所に行きましょう」と備えるだけでは解決されないさまざまな問題が生じるだろう。

だが、人命に関わるこの単純で、最も重要な教訓がどれだけ広く共有されているのだろうか。実際に身の回りに震災関連死をした人がいるような個々人の経験を超えて、この事実を歴史に残すことを私たちは10年のうちにはできてこなかった。達成してきたことを振り返り、何を歴史に残していくべきか、いま改めて考える必要がある。

高まる利便性と高まるリスク 冷静な議論で対「情報災害」

これは当然、エネルギーの問題についても当てはまることだろう。電力自由化、FIT(固定価格買い取り制度)の導入による再生可能エネルギーの拡大、北海道胆振東部地震や一昨年の台風19号をはじめとする災害による大規模停電。激動の10年間の中での経験をどれだけ業界内、あるいは広くエネルギー消費者の中で共有すべき歴史として残すことができてきたのか。それぞれが顧みるべきことは少なからずあるだろう。

そんな東北の10年を振り返りながら、これからの10年を迎えるにあたり何が必要か。これもまた多様な答えがあり得るが「情報災害」への対応力は意識されるべきだ。現代の災害・社会的危機は、物理的な災害そのもののみならず、災害に付随する情報の混乱への対応も、私たちに負担を掛けてくる。後者は情報災害と呼べる。ドイツの社会学者ウルリッヒ・ベックは、自然が生み出すリスクとは別に、科学技術など人間自身が作り出したものが生み出すリスクが存在すること、そして、後者が人類を脅かすようになっていることを論じた。例えば、原発事故、薬害、金融危機などはその代表例だ。

ここで重要なのは、人類の生活が便利になるにしたがい、そのリスクも高まるということだ。コロナ禍はもちろん自然のリスクたる感染症であるが、これがグローバル化の進展による人の移動や情報化の中でのニセ科学・陰謀論などの流布と結びつくことでより制御しにくくなっていることは、まさにいま起こっていることだろう。

そもそも、東北は情報の受発信に弱い地域だった。それを最も象徴するのがインバウンドの実績だ。コロナ禍の前までだが、日本を訪れたインバウンド観光客のうち、東北地方に訪問・宿泊する人はどのくらいいたか。観光庁発表の東北6県の外国人延べ宿泊者数によれば、その割合は1・5%だ。日本地図の中で占める東北の面積と見比べればあまりにも小さな数値だ。もちろん努力をしてこなかったわけでも、魅力がないわけでもない。でも、その努力・魅力はほかの地域でも各々積み重ねてきたものでもあった。その情報の受発信の競争の中で東北は圧倒的に負けてきたという事実は重い。そして、当然、3・11による国際的なイメージの悪化がこの数字の伸び悩みの一因となっていることも改めて言うまでもない。 3・11により、風評被害の問題にとどまらない情報の混乱はいまも続き、本来なされるべき客観的かつ冷静な議論が進まず、いまに至っている側面がある。エネルギーを巡る国民的議論もそこに含まれる。いくら被災地で表面的に建物、インフラが整備されたとしても、情報災害の爪痕はまだまだ残っている。自然災害への対応力を高めるべくエネルギーの安定供給の体制はさまざまに整えられてきただろうが、情報災害への対応力を高める取り組みに見えるものは少ない。いまに至る3・11後の情報災害の爪痕を、情報受発信の力に劣る東北が跳ね返す拠点になれば、それは大きな成果なのではないだろうか。




かいぬま・ひろし 福島県生まれ。 東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。 現在、立命館大学准教授。著書に『日本の盲点』『福島第一原発廃炉図鑑』『はじめての福島学』『漂白される社会』ほか。

【特集2】7年越しの相馬プロジェクト 電気とガスの一大拠点に


石油資源開発と福島ガス発電が参画する相馬プロジェクト。LNG基地からは仙台広域圏へ天然ガスを供給。発電所は独自のトーリング方式で営業運転を始めている。

東日本大震災発生時、石油資源開発(JAPEX)が操業する新潟―仙台間(総延長約260㎞)のガスパイプラインが供給停止に追い込まれるような被害は受けなかった。だが、日本海側のガス田やLNG受入基地に加え、太平洋側にLNG基地を構えることで、天然ガスの供給安定性向上、特に仙台広域圏を中心とする太平洋側のパイプライン沿線の需要増などに対応できる強靭なインフラ構築が必要と考えたという。

基地を建設した相馬港は津波の影響を大きく受けた地点。ここに新たなエネルギー拠点を築き復興の起爆剤にしたいと期待する国や県の支援を受け、計画は始まった。

建設過程を振り返り、石井美孝電力事業本部長はこう話す。「LNGタンクは基地全体の工期短縮を図るため、LNGタンクでは従来工法に比べ、工期を10カ月短縮できるジャッキクライミングメソッド(JCM)工法を採用。発電設備では、実績がある形式に最新の要素技術を加えて高い発電効率を実現しました。いずれも経験のない当社なりの最短で確実な建設を意図したもので、結果として、いずれも当初の計画通りに完成し運用を開始できました」

新パイプラインが開通 仙台圏や沿線の地域活性へ

ガス供給面では、既存のパイプラインと接続する相馬・岩間間パイプライン(総延長約40㎞)が開通。仙台圏への安定供給を実現するとともに、沿線にある工場などへの供給が始まった。

発電所は運用会社の福島ガス発電(FGP)を15年に設立。JAPEXを含む5社が事業パートナーとして参画した。同社がユニークなのは、独自のトーリング方式というスキームを採用した点だ。出資各社が必要な電力量に応じたLNGをFGPに引き渡し、FGPはLNGに相当する電力に変換し引き渡す。複雑な運用と思われるが、「立ち上げ前にさまざまなルール設計をしっかり実施した結果、トラブルもなく運用できている」(石井本部長)。 発電所は営業運転開始から半年が経過する。注力しているのはコロナ禍においても安定的に稼働させること。これまで作業員から新型コロナウイルスの感染者は一人も出ていない。今後も細心の注意を払っていく構えだ。

【特集2】LNGインフラと連携 災害に強い街づくり


災害に強い街づくりが進む福島県新地町。近隣のLNGインフラと連携したスマートシティが実現している。

福島県の浜通り北端に位置する新地町は、津波で町面積の5分の1が浸水するなど大きな被害を受けた。復興事業は、住まいの再建事業から始められ、その後、津波で消失後に移設する新地駅周辺の市街地整備事業を軸とした「環境と暮らしの未来(希望)が見えるまち」づくりを目指してきた。その中核が、エネルギーの地産地消と災害に強い持続可能な街づくりを目指す「新地町スマートコミュニティ事業」だ。

新地町は、震災後に国の「環境未来都市」に選定され国立環境研究所と協定を結ぶなど、環境に配慮した新たな街づくりについて検討してきた。その過程で、相馬港からのガスパイプラインが近接する立地を生かしたエネルギー事業について、民間を含めた産官学連携で検討。それに基づき、高台移転したJR新地駅の再開とホテル・温浴施設などを含む駅周辺の街づくりに合わせて、経済産業省の「スマートコミュニティ事業」を活用し、地域のエネルギー拠点となる新地エネルギーセンターが整備された。

2019年春から地域に熱と電気を供給するエネルギー事業が開始し、20年夏には新地町文化交流センターがオープン。新地駅周辺の環境共生型の復興街づくりが実現している。

相馬基地のインフラ活用 災害に強いエネルギー設備

この事業は、石油資源開発(JAPEX)の相馬LNG基地のインフラを活用し、ガスコージェネレーションや太陽光発電を組み合わせて、電気と熱を対象施設に供給している。また、耐震性に優れるパイプラインやコージェネ、太陽光発電・蓄電池などの自立電源化で災害に強い地域づくりに貢献している。

事業の具体化に際しては、町と民間企業が連携し、18年に新地町と12の民間企業・団体が出資する形で現在エネルギー事業の運営母体でもある「新地スマートエナジー」を設立した。事業の計画から設計・出資に関わっている日本環境技研の安達健一・環境計画部長が言う。

「環境未来都市にふさわしい街づくりを推進する新地町、それからJAPEXなど民間の知見とノウハウ・実行力を加えた体制で進めてきました。この規模の地方都市では見られない、面的エネルギー利用の高効率で自立分散型のシステムによるスマートシティが実現しています」 今後も新たに進出予定である施設園芸農業と連携し、コージェネシステムの排気ガスのCO2回収・植物への育成利用など、エネルギーを軸とした復興街づくりを推進していく計画だ。

【特集2】石炭火力の概念を覆す技術 世界へ東北復興をアピール


高効率石炭火力「IGCC」が営業運転への最終段階だ。福島県内に2カ所新設する発電所から東京に電気を送り、その技術力の高さと東北復興をアピールする。

石炭をガス化して効率的な発電を行う最新鋭のIGCC(石炭ガス化複合発電、54万kW)。東日本大震災や原子力事故からの産業の復興を目的とした福島イノベーション・コースト構想の一つとして、福島県いわき市の勿来IGCCパワーと同広野町の広野IGCCパワーの2カ所で稼働に向けた試運転が進んでいる。

IGCCは、微粉炭を1800℃の高温で熱することで石炭ガスを生成し、そのガスを燃焼してガスタービンで発電する。さらに、その際にできた600℃の排熱を排熱回収ボイラーに送り蒸気を発生させ、蒸気タービンで発電する。二つのタービンを組み合わせたコンバインドサイクル発電によって48%という高い発電効率が実現する︒2基の発電所は石炭をガス化する際のガス化剤として空気を使用する空気吹きIGCCを採用。開発はパイロットプラント、実証プラント、商用機に至るまで、一貫して福島県内で進められてきた。

脱炭素で必要性高まる 再エネ導入促進に寄与

一方、昨年10月の菅義偉首相のカーボンニュートラル宣言以降、脱炭素に関する取り組みが注目されている。そうした中にあって、勿来IGCCパワーの遠藤聰之副所長はこう強調する。

「今後、再生可能エネルギーの導入を進めていくためにも、バルクでコンスタントに発電できる石炭火力は必要です。国内のエネルギー事情から見て、安定的かつ安価に燃料を調達できる石炭火力の存在は不可欠であり、従来型の石炭火力発電と比較してCO2を削減し、石炭を賢く使い続けることが可能なIGCCは温暖化対策に配慮した発電技術です」

二つの発電所が特徴的なのは、規模や設備、レイアウトなどを同一にすることで設計を共通化している点だ。これにより、「大幅なコスト削減を図っただけでなく、計画で先行する勿来の知見やデータを広野の建設に生かすなど、さまざまな面で効率化を実現しています」(遠藤副所長) 20年7月に定格出力での試運転を実現した勿来のIGCC発電所は現在、営業運転に向けて最終段階を迎えている。3月中旬時点で、東京五輪・パラリンピックは今夏の開催が有力。もし実現すれば、IGCCで作られた福島産の電気が首都圏各地の競技場へも送られる、日本の技術力をアピールする絶好の機会となりそうだ。

建設中の広野IGCCパワー

【特集2】発電所の燃料需要増に対応 東日本を支える供給拠点


国際バルク戦略港湾に指定された福島・小名浜港。広野・勿来両火力で進むIGCCへの燃料供給、さらには次世代エネルギーの拠点として整備が進む。

東日本大震災で福島県の小名浜港は、震度6強の地震と高さ5・4mの津波に襲われた。その結果、大型クレーンの倒壊や、地盤の沈下、コンテナの流出、漁船が陸地に乗り上げるなど、計137の港湾設備が被害を受けたという。こうした背景もあり、小名浜港では「災害に強い港づくり」に向けた取り組みを行っている。

福島県小名浜港湾建設事務所の箱﨑寿文次長は、「災害対応に向けた取り組みは震災以前から行ってきました。特に、石炭などの荷揚げを行う5号ふ頭では、揺れや液状化に強い耐震強化岸壁を採用したことで、震災時も港湾機能を維持することができました。現在整備を進めている東港地区のふ頭も耐震岸壁を採用するなど、ハード・ソフトの両面で災害対策を進めています」と説明する。

IGCCの需要増に対応 供用しながらの難工事

小名浜港では震災からの復旧という難題に加え、港の南北に位置する広野発電所と勿来発電所の稼働率が高まったことで、港湾で取り扱う石炭の量が増加。世界的に船舶が大型化したことで接岸できる岸壁が足りず、接岸を待つ貨物船舶が沖合に停泊する問題が慢性的に生じていた。

このため小名浜港は13年に大型船による大量輸入を行える特定貨物輸入拠点港湾に指定され、かねて進められていた港内の人工島・東港地区の整備が本格化、この工事に際しては多くの苦労があった。

東港地区が急ピッチで進む中、広野・勿来の両火力で次世代型石炭火力、石炭ガス化複合発電(IGCC)建設が決定。石炭需要の大幅増に対応するためにも、東港地区全体の整備が完了する前にヤードを供用させる必要があった。箱崎次長は「勿来IGCCの試運転に合わせて一部設備を供用するため、発電事業者とも調整をしながら工事を進めました。設備を前倒しして運用することを前提に工程を考えるなど、通常と比べて特殊な工事でした」と話す。

19年12月には供用設備が完成し、20年3月には石炭船の受け入れと野積場の使用、勿来発電所へのトラック輸送が始まった。現在は、広野IGCCに向けて内航船が着岸できるようヤードの整備を行っており、22年3月には東港地区の整備が完了する予定だ。こうした設備ができることで、石炭取扱量は約1000万t(19年実績)から、約1500万~1600万tまで増強できるという。

また国土交通省はアンモニアや水素を取り扱う「カーボンニュートラルポート」の検討港に小名浜港を指定している。港の今後について箱崎次長は「中長期的には石炭のみではなく、水素やアンモニアなどの新しい燃料にも取り組みたい」と語った。 これまでもこれからも、小名浜港が果たす役割は大きそうだ。

【特集2】独自にインフラ強化推進 LPガス式非発を開発・販売


災害の度に存在が注目される分散型エネルギー、LPガス。震災後、岩谷産業ではインフラ機能の強化を推進。独自基準に基づく「基幹センター」整備に取り組んだ。

現在、国が定める「LPガス中核充填基地」の原点になったといえるのが、岩谷産業によるLPガスの三次基地『LPG基幹センター』の設計思想だ。岩谷は震災を契機に、災害にも強い充填基地について、全国に先駆けて独自に整備。非常用発電設備(非発)の導入、衛星電話の設置、タンク類の耐震強化など独自基準で充填基地の強靭化を進めてきた。現在、同社が保有する全国のLPGセンターのうち53カ所を基幹センターとして整備を完了した。

この整備の端緒ともなった充填基地が被災の地、仙台市にある。当時、仙台支店でマルヰガス・石油部の職にあった伊藤友一さん(現・マルヰガス部担当部長)は当時をこう振り返る。「仙台センターには運良く重油式の非発が設置されていて、震災時でも稼働しました。これで安定的にLPガスを供給できると思いました。日頃から非発をしっかりと管理しておいて本当に良かった」

輸入基地からのLPガス調達に多少の時間はかかったものの、それでも震災2日後にはLPガスの供給を再開。充填基地にタクシーが列を成した光景は今でも覚えているそうだ。そんな仙台で得られた経験を基に、社内で生まれた発想が「基幹センター化」だった。

もう一つの教訓 燃料多様化の非発

教訓はもう一つある。それは「非発の多燃料化」だった。それまで「非発燃料=石油」が一般的だったが、災害に強いLPガスも燃料に加えよう―。そんなアイデアから生まれたのがLPガス式の非発だった。メーカーのデンヨー社と共同開発に着手し、2012年には販売を開始した。岩谷の「マルヰ会」などを含めた販売組織によって、19年度までに1000台以上を販売した。医療や介護施設を中心に導入提案しており、施設運用のBCP(事業継続計画)を支えるアイテムとして活躍中だ。

そんな岩谷では基幹センターのレジリエンス強化を推進中だ。19年秋に東日本を襲った台風被害では、河川の氾濫で水害を受けた基地もあった。「自治体公開のハザードマップを見比べながら浸水が想定されるセンターを割り出し、非発のかさ上げを進めました。加えて高性能のカメラを設置して遠隔監視する『次世代保安システム』を21年度より全センターに導入を計画しています」(同) さまざまな災害を教訓に、継続的なレジリエンス対策によってLPガスの安定供給を支えていく。

震災後開発したLPガス式の非常用発電設備の画像