【マーケット情報/9月25日】原油下落、需給緩和の観測強まる


【アーガスメディア=週間原油概況】

先週までの原油価格は、主要指標が軒並み下落。需給緩和観の強まりが、売りを促した。

ハリケーンSallyに備えて一時停止していた米国メキシコ湾岸の生産および出荷設備は、順調に復旧している。また、その後発生した台風Betaによる生産への影響は無いもよう。同国の石油ガスサービス会社ベーカー・ヒューズが発表する国内の石油ガス採掘リグ稼働数は、増加を示した。

また、リビアでは、フォースマジュールが解除され、8カ月ぶりに原油の生産が再開。輸出も、近く再開する見込みで、今月末までに最低3カーゴが出荷される予定。加えて、ロシアの10月海上輸出量が、前月から10%程度増加する見通しも弱材料となった。

他方、米国では、新型ウイルスによる死者数が、22日時点で20万人を超え、再度ロックダウンの可能性が台頭。英国、スペイン、フランスでも、感染が再拡大しており、世界経済減速にともなう石油需要後退への懸念が強まっている。

【9月25日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=40.25ドル(前週比0.86ドル安)、ブレント先物(ICE)=41.92ドル(前週比1.23ドル安)、オマーン先物(DME)=42.25ドル(前週比0.74ドル安)、ドバイ現物(Argus)=41.98ドル(前週比1.09ドル安)

【コラム/9月23日】新総裁・新首相選びを考える


新井光雄/ジャーナリスト

SNSとかいう手法での情報交換が当然の時代らしい。しかし、その弊害で書き込みとかいうものの誹謗中傷が社会問題になってきているようだ。ほとんどタッチしたことがなく、時にそれらしきものをパソコンで見てしまう時もあり、巷のヘイトスピーチと同じように読むに堪えないような表現にであう。自殺者まで出ているというから大きな社会問題なのだろう。簡単にいえばごく普通の庶民が発言の場を持ったという意味ある側面もあるのだろうが、そのルールが全く未成熟ということなのだろうか。

 そこで長い文筆活動で時々、批判めいた文章を書いた時に、自分にそれを書く資格のありやなしやを問う場合があった。「お前にそれを言われたく」。そんな意見に反論できるかどうかだ。難しい。職業として当然といってしまえばそれまでだが、そうもいかない。個人の受け止め方の側面がある。朝、テレビを見ていて放送局のキャスターとか放送記者が傲慢な社会批判を展開しているのを聴くと、「お前にそれを語る資格があるのか」と問い返したくなる。今はその問返しがSNSで簡単に出来るらしい。やったことはないから、その方法などは知らないのだが、物書きをしていると、時にその種の批判に多少はさらされ嫌な思いをする。根本は無名性の批判で、反論ができない。それを承知で相手は書き込みとかをしているのだろう。手に負えない。規制は言論を自由に注意しつつも必要と思う一人である。

 こんな話しを前提にしたうえで以下の話しだ。自民党の新総裁が決まり、結果、新首相も。総裁選はちょっとした茶番だった。どこかヤクザの親分がそれぞれ一党を率いて蠢いたと感じた。余りに民主的ではない。疑問なのは国会議員がここまで集団化しないといけないのだろうか、という疑問だ。選挙民は国会議員が個性を捨てて集団化することを望んでいるのだろうか。自由に立候補して、自由に投票してみてはどうか。推薦人とかも無用に思える。

なぜそれが出来ないのだろう。議員が個人でないところが余りに日本的。企業の派閥もあそこまで露骨ではない。何となく程度だ。 それが総裁選では露骨も露骨の集団行動。それを当然とする領袖とやらも、言えた義理ではないと承知で当方、品格に欠くと言いたい。大臣の椅子を狙う烏合の衆。気分がよくない。SNSの匿名ならば罵倒したいところだ。SNSの問題のありかが分かる。一挙に領袖の名前を出しての罵詈雑言で批判してしまうのかもしれない。  ともあれウンザリの新首相誕生劇だった。菅新総裁・首相は安倍政治の踏襲というから期待は全くないのだが、救いは「家業」でなく田中首相以来のタタキ上げ派だそうで、そこだけは素直に評価しておこうとは思う。 これも誹謗の書き込みだろうか。

【プロフィール】 元読売新聞・編集委員。 エネルギー問題を専門的に担当。 現在、地球産業文化研究所・理事 日本エネルギー経済研究所・特別研究員、総合資源エネルギー調査会・臨時委員、原子力委員会・専門委員などを務めた。 著書に 「エネルギーが危ない」(中央公論新社)など。 東大文卒。栃木県日光市生まれ。

【コラム/9月14日】再可エネ開発に伴う環境問題に対応するための法的措置を


福島伸享/前衆議院議員

先日、私の地元の茨城県笠間市の太陽光発電の乱開発の現場に編集部の皆さまに取材に来ていただいた。「百聞は一見に如かず」で、現場の住民の声を聞き、ドローンで上空から撮影をしてみると、問題の深刻さを身をもって理解していただいたことと思う。10月号の『エネルギーフォーラム』にそのルポタージュが掲載される予定とのことなので、ぜひご覧になっていただきたい。合わせて近日中にエネルギーフォーラムのホームページにも、衝撃的な動画がアップされるとのことなので、こちらもご覧いただきたい。

今回取材した地点は、笠間市本戸地区。約4キロ四方の範囲内に集落を取り囲むように3カ所のメガソーラー開発が進められている。そのうちの一つ、地元では「富士山」と呼ばれる山の斜面では、地元には「太陽光発電を作らせてもらいます」と話が来たので、畑の横に作るようなものを想像して同意したら、いつの間に山が丸裸になっていたと言う。最初に説明に来た業者から別の業者へと転売され、「今の事業者は誰なのかもわからない」と地元の人は言っていた。

さらに問題なのは、北半分の土地は当初の開発業者が倒産して放ったらかしにしていて、地肌を出した無残なはげ山のままでいるところである。地肌には雨水が流れてできた筋が何本もできていて、昨年の台風19号の時には滝のように流れて、隣の集落と結ぶ道路を埋めてしまった。今も少しずつ土砂は沢伝いに流れ続けて田んぼ2枚を埋め尽くし、ちょっとした雨でも道路は泥の河になってしまうという。でも、事業者は倒産してしまったため、誰に補償や対応を求めたらいいのかもわからず、道路の復旧も市が公共事業として行っているので、結局市民の負担となる。

もう一つの地点では、山の稜線を挟んで東側を中国系企業(10MW)が、西側を韓国系企業(12MW)が開発している。東側は現在造成中で、笠間市内に入ればどこからでも見えるくらい、大々的に地肌が出て無残な姿を晒している。西側は、数名の地権者が売ったり貸したりした山林を縫ってヘビの抜け殻のように太陽光パネルが広がっている。

住民は、「富士山」のメガソーラーで起きたような環境の破壊を恐れて反対運動を行ってきたが、法的には止める手段はない。FITの期限である20年が過ぎたら、パネルを張ってある場所がその後どうなるかもわからない。地表を削って岩盤まで達している状況では植林も困難だと、地元の造園業者は言っている。両社とも、外国企業の子会社が事業主体となっているので、期間が終われば海外に戻って連絡もつかなくなってしまうのではないか、と地元の人は恐れている。でも、それを止める法的な手立てはない。

 第5次エネルギー基本計画に基づき主力電源化が進められる再生可能エネルギーだが、この笠間市の例のように、外国企業が日本人から土地を買い、県外企業が外国人労働者を使って建設し、外資系企業が運営し、20年間利益を貪り尽くせば撤退する。しかも、その利益の源は、FIT制度に基づいて日本の電気利用者に上乗せされている電気代。地元は、土砂の流入や森林の破壊などの環境問題に苦しみ、一度壊された環境は長い間戻らない。土地を売った人以外に利益は何もなく、むしろ修復工事に地元の人の税金は使われる。これでは、一体誰のため、何のための政策なのか、根本的な再検証が必要となるだろう。

経済産業省はエネルギーの供給が所管なので、関係法令に基づき発電がしっかりと行われるように監督はしても、環境の保護や地元との共生の観点からは、さまざまな政策を講じているとはいうものの、強制力の伴う立法措置は行おうとしない。電力システム改革の前までは、事業許可を受けた一般電気事業者が「公益事業」として発送電も小売りも一体で事業を行ってきたから、地域から利益をむさぼるだけの事業形態は起こりえなかった。一方、発送電分離がされ発電への参入が自由となり、かつFIT制度という一定期間利益が保証された環境の下では、公益性や環境問題などの外部経済を考慮しない短期的な利益獲得だけを目指す事業者の排除はできない。  筆者は、これまでの電力システム改革の流れを否定する者ではないが、新しい電力システムに合わせた、環境問題や地域との共生などの公益的課題を解決するための必要な法制度の整備を行うことは喫緊の課題であろう。縦割り行政の間に紛れて、おざなりになるのは許されることではない。

【プロフィール】東京大学農学部卒。通商産業省(現経産省)入省。調査統計、橋本内閣での行政改革、電力・ガス・原子力政策、バイオ産業政策などに携わり、小泉内閣の内閣官房で構造改革特区の実現を果たす。2009年衆議院議員初当選。東日本大震災からの地元の復旧・復興に奔走。

【マーケット情報/9月11日】原油続落、需給緩和で売りが加速


【アーガスメディア=週間原油概況】

先週までの原油価格は、主要指標が軒並み続落。需給が緩むとの観測から、売りが優勢となった。

複数の産油国が相次いで、10月積みフォーミュラ価格を引き下げ。スポット需要が減少するとの観測が強まった。また、OPECプラスの8月産油量が、協調減産基準の緩和によって、前月比で増えたことも弱材料となった。

さらに、米国の週間原油在庫統計が増加。ハリケーンで一時停止していたメキシコ湾岸の生産設備および港湾施設の復旧が進み、産油量と輸入が増加した。

ニュージーランドの4〜6月ジェット燃料消費量が前年同期比で減少し、さらに過去最低を記録したことも、価格の重荷となった。また、インドをはじめとした新型ウイルスの感染拡大第二波と、米中関係の悪化も、世界経済減速にともなう石油需要後退の見方を強めた。

【9月11日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=37.33ドル(前週比2.44ドル安)、ブレント先物(ICE)=39.83ドル(前週比2.83ドル安)、オマーン先物(DME)=39.34ドル(前週比4.58安)、ドバイ現物(Argus)=39.14ドル(前週比4.66ドル安)

【コラム/9月7日】収束なくして回復なし~受忍し、この機に経済運営変更を


飯倉穣/エコノミスト

1、新型コロナが、内外経済に与えた影響が示された。「GDP年27.8%減 戦後最悪 緊急事態宣言経済直撃4~6月期」(朝日夕2020年8月17日)、「GDPマイナス27.8% 戦後最大の下げ 4~6月実質年率 コロナで自粛打撃」(日経夕同)。

四半期ベースでみると、前期比GDP△7.8%(41兆円減)、民間消費△8.2%(23.8兆円減)、輸出△18.5%(16.2兆円減)である。落ち込みは、経済変動論に沿った推移と言える。感染現況から暫くこの低下水準が継続しそうだ。当面受忍を強いられ、適応が課題である。そしてコロナ収束後の脱出の展望が求められる。今後の方向を考える。

2、現経済の状況はどうか。新型コロナという天然現象は、自然リスク最小化模索の人工経済の脆弱性を呼起した。グローバル化や市場重視の新自由主義の取柄を低下させ、弱点を際立たせた。各国は、グローバル化・自由貿易第一でなく、まず自国経済第一を確認した。悪夢から覚めた人々の行動は、浮かれ経済を変えつつある。ある意味で「花見酒」経済の終焉である。収束迄、需要収縮で厳しい状況が継続する。

3、今後の展開はどうか。コロナ下の賢明な行動自粛は、サービス産業を直撃している。中小零細の自営業の休・廃業を招来する。大企業も、アベノミクスの財政・金融現象で得た蓄積(全産業純資産比率11年38.6%⇒18年43.5%)を費消し、縮小均衡でリストラを余儀なくされる。適応過程で多くの失業者、失職者を生起する。一般的にはGDP40兆円減なら約400万人以上の雇用調整となる。

影響を受ける業種、働く人は、時間消費関連つまりサービス産業関係である。サービス産業動向調査(18年)で直撃事業を拾うと、運輸業(一般乗用旅客自動車運送業、航空運輸業)、物品賃貸業(自動車賃貸業)、宿泊業・飲食サービス業(宿泊業、飲食店)、生活関連サービス業(その他生活関連サービス業:旅行業・冠婚葬祭業、娯楽業)等である。産業規模は、売上で71兆円、従事者760万人(うち非正規577万人)である。これまで所謂「構造調整・改革」の雇用調整の受け皿であった。これに小売・輸出関連産業等が続く。

市場経済の就業は各人の必死の生き様任せとなる。今新産業創出の雇用増は期待できない。最低賃金でもどこでも稼ぐ姿勢が問われる。縁者を頼るもよし、不本意でも働き口を見つけるのもよし、研修生でも海外でもよしである。

4、コロナ後を見据えた中期はどうか。経済運営の変更が必要である。自然経済時代は、天然・自然現象への備えが何時も課題であった。天災による経済ショック対応は、旧約聖書創世期第41章「エジプト王パロの夢とその実現」が参考となる。自然経済時代の経済変動の姿を伝える。7頭の牝牛と7つの穂の話である。ヨセフは予言する。7年の豊作継続後、7年の飢饉到来である。そして豊作時作物の5分の1を貯えることを進言する。夢解き通りの推移が、備えの大切さを教える。聖書の話は、飢饉終了なくして解決策なし、事前の備えこそ対策と説く。

日本なら二宮尊徳「勤・倹・譲・分度」の倹(蓄えのための倹約)であろう。分限度合に徹した生活と変への備えを大事にする。政府推奨の合言葉「貯蓄から投資・消費へ」は、この精神を軽視する。

5、平成バブル崩壊以降、日本は針路を見いだせず、米国流経済運営の押付・模倣となった。グローバル化の下で、新自由主義(市場崇拝)、資本・株主第一、フロー(利益)重視の企業経営効率化、人件費の変動費化(雇用の流動化・不安定化=非正規)を進めてきた。そして資本の論理を翳した金亡者のゼロサムゲームが横行する。株主利益重視・蓄積資本の社外分配促進は、蓄えや雇用を軽視する。

今回のコロナ異変は、企業存続・雇用維持で含み資産経営や内部留保蓄積が理に適っていることを示している。今後の経済運営は、米中摩擦、温暖化防止、技術革新停滞を念頭に置きつつ、「雇用とセキュリテイ」を理念とすべきである。新自由主義市場経済運営の修正である。雇用第一、企業の低収益・安定容認、株式の確定利付債券的見方が基本である。 コロナ対策と経済の両立が謳われている。収束なくして回復なしである。飢える人への食料供与以外に良策は無く、現代科学が感染を終了させることを期待したい。何時でも合理的・理知的・利潤追求の企業行動こそ脱出への道である。

【プロフィール】経済地域研究所代表。東北大卒。日本開発銀行を経て、日本開発銀行設備投資研究所長、新都市熱供給兼新宿熱供給代表取締役社長、教育環境研究所代表取締役社長などを歴任。

【マーケット情報/9月4日】原油下落、需給緩和感が強まる


【アーガスメディア=週間原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み下落。需給緩和感が台頭し、売り意欲が戻った。ハリケーンに備えて一時停止していた米国メキシコ湾岸の生産および出荷設備は、徐々に復旧している。加えて、米国でガソリンおよび軽油需要が後退したことで、需給緩和感が強まった。特にガソリン需要は、前週比で、5月中旬以来最大の減少幅を記録した。

一方、米国の週間原油在庫は、悪天候による生産停止を背景に減少。また、米ゴールドマン・サックスは、来年の石油需要予測に上方修正を加えた。さらに、米国および欧州の製造業における8月経済指標は回復を見せたが、価格を持ち上げる要因にならなかった。

【9月4日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=39.77ドル(前週比3.20ドル安)、ブレント先物(ICE)=42.66ドル(前週比2.39ドル安)、オマーン先物(DME)=43.92ドル(前週比0.54安)、ドバイ現物(Argus)=43.80ドル(前週比0.31ドル安)

ビジネス見据えたVPP実証 多様な事業者と需要家が参画


電力各社が本格的なビジネスを見据えたVPP実証を始めている。既に約700万台が普及したエコキュートにも新たな期待が持たれている。

電力各社が取り組むVPP実証―。東京電力など大手電力が5年ほど前から先陣を切って取り組んできた実証の動きは、昨今は地方の電力会社にも波及している。

北陸電力や四国電力は、関西電力が手掛ける「関西VPPプロジェクト」に昨年から参画し、自らの供給エリア内に存在する需要家のエネルギーリソースを活用しながらリソースアグリゲーターとして参加し始めている。

2016年度から実証を始めている幹事会社の関西電力は、十数分から数時間程度の比較的長時間の負荷変動に対応する調整力の制御について、リソースアグリゲーター自らがエネルギーリソースを制御するためのシステムを開発。実フィールドにおいて高度な制御ができることを確認している。また数秒から数分程度の短周期の制御では約1万台規模の蓄電池を一括制御するシステムを構築するなど、今年度も実証を進めていく方針だ。

参画している北陸電力によると、「地域に分散している需要側のエネルギーリソースの統合制御の精度向上に努めていく」という。

キーワードは「多様化」 需要家巻き込み安定供給

各社の実証の中身はVPPのビジネス展開を見据えたものになっている。中部電力の小売りカンパニーである中部電力ミライズでは、今年度から始めている実証で、①多種多様なエネルギーリソースの調整力への活用を検証、②需給調整市場への参入や幅広いビジネスモデルを検討、③多様な事業者・需要家の参加、④調整力を活用したビジネスへの参入しやすい環境を構築―の四つの特徴を掲げ、主に五つの実証項目に取り組む(表参照)。

中部電力の実証項目と内容

キーワードは「多様化」だろう。エネルギーリソースは照明、空調、自動販売機、発電機、エネファーム、水道ポンプ、蓄電池、電気自動車など実に多様なアイテムが並ぶ。プレイヤーも多様だ。リソースアグリゲーターとして大阪ガス、トヨタエナジーソリューションズ、明電舎など6社が参画する。需要家側も多様である。学術機関、製造業、自動車販売店、植物工場、水道局など需要家自らも協力する体制で臨む。

再エネ普及を支える電化の理想形 新事業モデルの挑戦と価値


座談会:竹内純子/国際環境経済研究所理事・主席研究員
    矢田部隆志/東京電力ホールディングス技術戦略ユニット技術統括室プロデューサー
    比嘉直人/ネクステムズ代表取締役社長
    西川弘記/パナソニックエコソリューションズ社スマートエネルギー営業部主任技師

国が目指す「再エネ主力電源化」への道のりは長い。ヒートポンプ・蓄熱を中心とした電化システムが果たす役割は何か。TPO(第三者保有)などの新しい事業モデルがその道程に貢献しようと動き出している。

竹内純子

竹内 コロナ禍によって社会システムが大きく変わったと言われていますが、エネルギー業界ではどうでしょうか。スピード感やバランスが多少変わることはあったとしても、分散化や低炭素化、デジタル化といった方向性はそれほど変わっていないと私自身は感じています。まず、コロナ禍においての環境変化について、ご意見や感じていることをお聞かせください。

矢田部 7月に総合資源エネルギー調査会基本政策分科会が開催され、エネルギー情勢の現状と課題が示されました。気になったのが「エネルギー転換」、つまり需要側の電化や水素化の項目です。

 これまでのエネルギー政策は供給側の視点が多かったわけですが、今後は需要側の対策に注力していく必要があるのではないか、と明記されたわけです。東京電力としても需要側の重要性は認識しており、電化や水素化が求められていると感じ始めています。

 コロナ禍の状況変化について触れると、今年度の第1四半期の電力需要・ガス需要が果たしてどうなったのか。関東においては、電力需要は5%、ガス需要は20%くらい落ち込んでいます。家庭用は堅調ですが、特にガスについては産業用・業務用の落ち込みが大きい。エネルギー転換の加速化は、こうした末端の需要構造が変化している点で進んでいく可能性があるのではないかと感じています。

比嘉 コロナ自体、大変に不幸なできごとですが、幸いリモートワークが意外と活用できるなと感じています。リモートワークでは、効率良くいろいろなところとつながって仕事ができる。

 後ほど説明しますが、われわれが宮古島で始めている事業、つまり「TPO(第三者所有)」や、「PPA(電力売買契約)」ですが、住宅側に太陽光パネルや蓄電池、エコキュートなどを普及させようとする事業モデルでは、太陽光発電の自家消費を促すリモートワークは歓迎です。島民にとって、住宅の光熱費への関心が高まれば、われわれの事業にとっては追い風だと思っています。

 これまで宮古島は過剰な観光バブル景気でした。しかし、コロナ禍によって観光客がパタッと止まってしまった。そうした中、住民の皆さんが少し冷静になって自分たちの暮らしに向き合うようになっており、われわれのサービスが注目されるようになってきました。

エネルギーとレジリエンス 個人の対策と全体の対策

西川 モノづくりの企業として気になるのが、雇用システムですね。人手を介さないロボットやAI化が加速するのではないかと感じています。加えて中国一極集中に恩恵を受けてきた製造業界にとって、グローバルチェーンのレジリエンスも考えていかなければと感じています。例えば、太陽光発電のパワコンなども中国製部品が不足すると製品が完成しないなど、リスクと恩恵のバランスを考慮しないといけないと感じています。

竹内 レジリエンスという単語が出てきました。2018年の北海道ブラックアウトや19年に千葉を襲った台風被害をきっかけに、エネルギー業界でもレジリエンスがキーワードになりつつあります。さらに、コロナによって、リスクはものすごく多様だということをわれわれは今、学んでいます。

矢田部隆志

矢田部 レジリエンス対策では、最終的に個人個人が対策を進めないといけないポイントがある中で、再エネを中心とした分散型電源が解の一つになると感じています。

 再エネの自家消費化には、やはり家の中の電化を進める必要があります。普段から再エネ電気を使いこなすことで、非常時でも対処できる。そうすると、エコキュートや太陽光発電を組み合わせた仕組みは今後のレジリエンスのモデルの一つになると思っています。

【コラム/8月31日】再生可能エネルギー電源の増大とスマートメータ導入の効果


矢島正之・電力中央研究所名誉研究アドバイザー

低炭素社会を実現するためには、炭素税や排出量取引の導入のほか、再生可能エネルギー電源の拡大や省エネルギーの促進が鍵を握っている。前者については、FIT(feed-in-tariff )やFIP (feed-in-premium)といった政策支援が講じられている。また、後者については、省エネ法等による規制的手段が採用されてきたが、今後はスマートメータを利用したデマンドレスポンスが期待されている。本コラムでは、低炭素社会実現のための重要な手段である再生可能エネルギー電源の増大がスマートメータの導入により可能となるデマンドレスポンスに与える影響について考えてみたい。

わが国では、スマートメータの導入が進み、電力各社は2022~2024年には全戸に設置を完了させる予定である。スマートメータの導入により、電力消費の「見える化」が可能になるが、これが実際の消費削減行動に結びつくかは疑問である。電力は「普段意識していない財」である。電力消費が「見える化」された当初は、消費行動の変化はあっても、やがては消費削減意識も薄れていく可能性がある。また、ピークシフトやピークカットを動機づけるために、リアルタイム料金を適用し、需要家に電力の使用パターンを変化させるデマンドレスポンスが期待されている。ところが、再生可能エネルギー電源が大量導入された場合、デマンドレスポンスの効果は大きく減ずる可能性がある。

政策的な支援で再生可能エネルギー電源が飛躍的に増大しているドイツでは、卸の価格が低迷する一方で、同電源支援のための公課や系統増強のための費用の増大で、電気料金に占めるエネルギーコスト(電力調達コスト)のシェアが小さくなってきている。同国の2019年における家庭用電気料金の構成は、エネルギーコスト(小売の運営コストと利益を含む)25%、ネットワークコスト23%、租税公課52%である。エネルギーコストの電気料金全体に占める割合は1/4に過ぎず、エネルギーコストが低減しても、電気料金は高止まったままだろう。

ドイツでは、再生可能エネルギー電源からの発電量の総発電電力量に占めるシェアは、2020年1月現在42%であるが、政府目標では2050年には80%を占めることになる。そのような場合には、卸電力の価格は一層下落していくだろう。このことは、電気料金がほとんどエネルギーコスト以外の削減不可能な要素によって占められることを意味している。負荷シフトをしてもエネルギーコスト以外の費用が相変わらず重くのしかかってくるのであれば、負荷シフトのインセンティブは大きく減じることになるのではないか。また、ピークカットにしても、家庭の生活スタイルを大きく変えてまで消費の削減をすることは現実的とは思われない。 以上のことから、とくに再生可能エネルギー電源が大量導入される場合、スマートメータ導入の効果を発揮させるためには、「見える化」やリアルタイム料金だけでは十分でなく、一層革新的なプロダクトが求められているといえるだろう。そのさい鍵を握るのは、スマートメータを利用して太陽光発電や蓄電池などの機器を自動制御するエネルギー自立支援システムではないだろうか。電力会社のイノベーション能力に期待したいところだ。

【プロフィール】国際基督教大学大学院行政学研究科卒。博士(行政学)。1970年、電力中央研究所入所、理事待遇、首席研究員を経て2009年より研究顧問。2010~2011年度、学習院大学経済学部経済学科特別客員教授。2012年度、慶応義塾大学大学院商学研究科特別招聘教授。公益事業学会理事、国際公共経済学会理事。専門分野は公益事業論、電気事業経営論。

【マーケット情報/8月28日】原油上昇、悪天候による供給不安が台頭


【アーガスメディア=週間原油概況】

先週までの原油価格は、主要指標が軒並み上昇。悪天候に備え、米国での生産および出荷が一時停止したことが、価格を支えた。

ハリケーンLauraの接近を受け、米国メキシコ湾岸の生産設備のうち、84%が一時操業を停止。一部輸出港も閉鎖し、供給が滞るとの見通しから、逼迫感が台頭した。また、米国の週間在庫統計が減少を示したことも、強材料として働いた。

ただ、ハリケーンによる被害は、想定より軽微に留まった。加えて、インドの7月原油処理量が、前年比19%減少。4〜6月の輸入量も、前年比で26%の減少を示した。さらに、インドは、新型ウイルスの感染拡大を背景に、一部地域でロックダウンを1か月延長することを検討しており、価格の上昇が幾分か抑制された。

【8月28日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=42.97ドル(前週比0.63ドル高)、ブレント先物(ICE)=45.05ドル(前週比0.70ドル高)、オマーン先物(DME)=44.46ドル(前週比0.21安)、ドバイ現物(Argus)=44.11ドル(前週比0.20ドル高)

【マーケット情報/8月7日】欧米下落、経済停滞で需要後退の観測強まる


【アーガスメディア=週間原油概況】

国際エネルギー機関(IEA)が、世界各国で経済回復が遅れていることを背景に、今年の石油需要予測を下方修正。また、OPECは、今年の需要予測に下方修正を加える一方、非加盟国の生産量予測を上方修正した。他方、米国の7月経済指標は、再度の経済活動自粛を受けて悪化。石油需要後退への懸念が強まり、欧米先物価格に下方圧力を加えた。

ただ、米国の週間在庫統計は減少。同国の石油ガスサービス会社ベーカー・ヒューズが発表する国内の石油ガス採掘リグ稼働数も減少し、過去15年で最低を記録した。さらに、米エネルギー情報局(EIA)が、今年の国内生産量予測に下方修正を加えたが、欧米先物を支えるには至らなかった。

一方、中東原油を代表するドバイ現物は、前週比で上昇。サウジ・アラムコが、経済活動の再開にともない、今年後半は石油需要が回復するとの見方を示した。加えて、サウジアラビアでは、新規の製油所が稼働開始。中国でも、新たな製油所が試運転を開始しており、需要回復への期待感が、より強く上方圧力として働いた。

【8月7日現在の原油相場(原油価格($/bl))】
WTI先物(NYMEX)=41.22ドル(前週比0.79ドル安)、ブレント先物(ICE)=44.40ドル(前週比0.40ドル安)、オマーン先物(DME)=44.01ドル(前週比0.27ドル高)、ドバイ現物(Argus)=43.68ドル(前週比0.56ドル高)

【火力】油断は禁物 予備力の確保


【業界スクランブル】

2020年は、「パリ協定」や発送電分離が実施段階となり、エネルギー分野にとって節目の年である。しかし言わずもがなであるが、今年の上半期は、コロナ禍への対応一色となってしまった。

エネルギー問題に対する議論が一時的に滞るのはやむを得ないとしても、コロナ禍のあまりの脅威を目の当たりにして、「新しい生活様式」とか、ポストコロナへの変革といったイメージ先行で、大げさな(大衆受けしそうな)キーワードばかりが目に付くことが気に掛かる。上っ面ばかりに気を取られ、議論があらぬ方向へすっ飛んでしまうことはないのだろうか。懸念している。

一方足元では、次のような問題が顕在化しているとのことだ。つい先日までコロナ対応の病床不足による医療崩壊が叫ばれていたが、患者数の減少を受け、一転して空き病床が病院の経営を圧迫しているというのだ。この問題は電力の予備力の話に似ている。病床が不足すれば、たちまち医療崩壊を引き起こし、予備力が無くなれば停電となる。また両方とも、余れば途端に経営が成り立たなくなってしまう。わずかのずれが深刻な結果を招いてしまう上に、状況変化が極めて急激である点など、相互に参考にすべきことが多いのではなかろうか。

そうこう考えていたら、「石炭火力9割休廃止」というニュースが飛び込んできた。「再エネ重視へ転換」との見出しもあるが、出力が天候に左右される再エネの拡大を阻んでいる最大の要因は、その変動を補うための予備力・調整力が不足することであり、やみくもに火力を停止すれば、かえって再エネ拡大にも影を落とすことになる。送配電を強化すればカバーできるとの話もあるが、コロナ禍でいえば病床不足をオンライン診療ですべて補おうとするようなもので、実際には極めて困難である。 コロナ禍を機にグリーンリカバリーを目指すのもよいだろうが、心地よいビジョンを追うばかりでは、現実が立ち行かなくなってしまうだろう。(Z)

【石炭】日食への対応 火力で備えを


【業界スクランブル】

日本時間の6月21日午後に日食があった。日本では、夕方の時間帯に全国で部分日食を見ることができた。今回の日食は、アフリカから東欧、アラビア半島・ロシア南部、アジアほぼ全域、豪州北部とオセアニア北部で見ることができ、アフリカ東部からアラビア半島南部、パキスタン・インド北部、中国(チベット・四川・福建・台湾)を通ってグアム沖までの帯状の地域では金環日食となった。皆既日食中は、太陽光パネルは発電しないから、火力発電などで補給しないと停電となって大変なことになる。世界のどこでも停電になったということが報告されていないので、用意がうまく、補てんできたのだろう。

この予備の電力を準備しておくのが容量市場だ。先行例は2015年3月20日にドイツで起きた。この日は天気が良く太陽光発電も順調だった。9時半に日食が始まり、11時前に日食のピークが来て12時に終了。太陽光による発電量は、日食が進むにつれ1200万kW激減し、その後12時頃、1900万kW回復した。欧州の電気事業への影響として、揚水発電が急稼働し、ドイツからの電力輸出量が大きく減った。従来型の化石燃料などによる発電量はほとんど変わっていない。結果、容量メカニズムがうまく機能して停電には至らなかった。何億年も前の太陽光を缶詰した化石燃料が貯蓄のごとく払い出され、現在の太陽光発電停止分を補てんした。

日食の発生は、22年までに現在の太陽光発電を1億kWに引き上げるとしているインドにあっては一大事である。皆既日食は滅多に起きないが、インドの配電網のオペレーターは、このイベントが起こる時に全国の電力網に降りかかる、突然の停電に備えていた。スイッチが切替わるまでのほんのわずかな時間での柔軟な対応、9分の停電の間に配電網管理の偉業をやり遂げねばならないと、国有パワーシステム操作株式会社はモディ首相に言われたそうである。日食は今回のコロナ禍や巨大サイクロンやサイバー攻撃同様、備えておくべきインパクトであった。(T)

【省エネ】故片倉氏の魅力 大所高所の視点


【業界スクランブル/省エネ】

日本の省エネ進展に大きく貢献した、元東京電力の片倉百樹氏が78歳で亡くなられた。2012年に「ジェイテム」を起業する前までは東京電力の執行役員を務め、在職中は一貫してエネルギー営業部門に従事し、家庭・都市・産業などのあらゆる分野の省エネ推進活動に貢献してきた。

片倉氏は同分野の長い職歴から幅広い人脈を持ち、持ち前の行動力で電力業界の省エネ活動をけん引してきた。「東京電力が日本の省エネをけん引すべき」という、社会貢献の強い意志を持っていた。こうした動きがライバル業界であるガス業界や石油業界の需要側省エネ活動を促進させたことは紛れもない事実であり、結果さまざまな省エネ機器開発・普及活動が積極的に行われた。他国と異なり、エネルギー事業者が自主的に積極的な省エネ活動を行う、日本独自の状況が実現したわけだ。また、ヒートポンプ・蓄熱センターや日本エレクトロヒートセンターなどの省エネ活動をけん引し、大所高所からの困難なアイデアを実現させた。日本冷凍空調学会の会長も務め、国際活動も含めて冷凍空調業界の発展に大きく貢献した。

外野から見ていてよく思ったことがある。片倉氏はよく笑う、人間的に魅力的な方だった。この笑顔のために、部下も片倉氏の理想実現のために努力を惜しまないのだろうし、巻き込まれた他企業の人も協力を惜しまない状況が作り出されたようにも感じる。地道かつ継続的な努力が要求される日本の省エネ進展のためには、民間企業側に社会的責任として「限りある資源の節約・温暖化対策」にも経営資源を投入すべきという高い志を持つ人物が必要で、その志が伝播し広がるためには当該人物の人間性が重要となる。 突然の訃報に驚くばかりだが、氏がけん引した「単一エネルギー供給を主体とする企業群による省エネ推進」の時代が終わったような感慨がある。大所高所からエネルギー事業者の省エネ活動を考え、導いてきた片倉氏の逝去を、外野に身を置く立場ではあるが、心から悼みたい。(R)

都市ガス子会社を導管分離 ニチガスの狙いは


日本瓦斯(ニチガス、和田眞治社長)が都市ガス子会社の再編に乗り出す。まずは今秋、埼玉県内の東彩ガスと新日本ガスの2社を合併させ、その後両社の導管部門と小売り部門を切り離すアンバンドリングを実施する。 「(ニチガスは)大手都市ガスに課せられているような法的分離の対象企業ではない。なぜ実施するのか」―。2022年度の〝大手分離〟に先駆けることに対して業界では波紋が広がっている。

 同社はガスメーター利用を高度化し、需給管理と配送合理化を実装するLPガスのDX(デジタルトランスフォーメーション)戦略に相当の自信があるのだろう。 ある業界関係者は「都市ガスとLPガスでは、もちろん事業形態は異なるが、自社のDX技術の一部を都市ガス会社へと水平展開することで託送コストの削減につなげる。結果的に自らの導管利用者を募り、託送運用のプラットフォーマーとしての地位を築く考えなのだろう」と分析する。

果たして、業界内外から支持される「公益的」な託送プラットフォームが実現するのか。今後の動きに要注目だ。