【覆面ホンネ座談会】GXの2大看板に暗雲 洋上風力・水素の裏事情


テーマ:洋上風力と水素事業の課題

GX(グリーントランスフォーメーション)の目玉である洋上風力、そして水素関連事業の動向が芳しくない。しかし政府は引き続き巨額投資を続ける方針で……。

〈出席者〉Aメーカー関係者 Bメディア関係者 C有識者

―洋上風力で日本は欧米の後塵を拝したと言われるが、欧米でも黄信号が灯り始めた。

A トランプ米大統領は任期中、主に洋上風力の新設を認めない方針だ。GEは昨年末に洋上風力向けタービンの新規受注を凍結すると報じられており、日本の事業にどう影響するのか。また、3~4年前は欧州各地や米国、豪州や台湾などで開発が活況だったが、足元2年ほどで停滞感が強まり、特に台湾は国内サプライチェーンの重視がコストで裏目に出た。日本は今後本格的な事業化フェーズに入るが、発電コスト低減に向け、市場停滞で余力が生まれる海外の供給力活用を含めてサプライチェーンをどう構築するのか、改めて問われているのではないか。

B 陸上風力の話だが、中近東での開発に関わる日本の関係者が面白いことを言っていた。実は中国のブレードは、価格はもちろん性能も一番優れていて、本来であれば採用したいという。英フィナンシャル・タイムズは、スウェーデン政府が巨額投資したEV用電池企業・ノースボルトの経営破綻を「欧州の夢が絶たれた」と報じたが、洋上もこうした状況になりつつある。

A 中国製の性能は全くそん色なく、数年前時点でも欧米製より3~4割安かった。もともと中国勢は欧州の設計を買って真似ることから始めている。さらに国内向け生産量が膨大で学習効果が高く、性能がどんどん高まるサイクルができ、その上激しい国内競争にさらされているメーカーに他国はかなわない。

C 中国メーカーを十把一からげにはできない。事業者目線で重要なのは結局バンカブルがどうか。レンダーの技術審査をクリアした中国製が浸透していくのは必然の流れだ。

A 日本国内でも中国製風車を採用したいとの声は多い。富山県入善町沖では、既に中国ミンヤン製の風車を使った洋上風力設備が稼働している。同事業はウインドファーム認証などの許認可手続き面を含め業界の注目を集めたが、稼働の事実はエポックメーキングだ。

トランジションで「LNG頼み」の期間がますます長引くのか……


国内どの地点も課題山積 R3は予想通りの結果

―国内について、特に第2ラウンド(R2)は政治判断で運転開始時期を重視するなどルールが変更されたが、進ちょくはどうか。

B 今は岐路に差し掛かっている。あおったのは政府だ。電力・ガス自由化によく似た構図。政府が主導権を握りたいというだけで、目的に哲学はなくパッチワーク。事業者にとってはたまらない。

R2で一番進んでいるのはJERAの秋田・潟上沖だ。スケジュール的には今のところ順調で1月から陸上工事が始まる予定だが、採算状況は多分に漏れずかなり悪い。他方、新潟は陸上工事、特にグリッドなどを巡りゼネコンは採算が合わないと引き受けず、下請けが捕まらないなどの事情があると聞く。いずれもスケジュールが守られるのか不透明だ。

C 競争をするのは安価な再エネ電気の恩恵が最終的に国民や産業にもたらされるためだ。R1で三菱商事の総取りが良くないとの一部事業者の声に対し、電力多消費産業からは「電力価格が安ければ良い」との声が多かった。結局、FIT(固定価格買い取り)の「利潤配慮」の恩恵を受けてきた一部事業者が価格競争の回避を志向し、そして政策変更のタイミングでインフレが襲来した。

A R1では最初に運開予定の千葉・銚子が試金石だ。地元関係者との協議がかんばしくなく、千葉県庁と資源エネルギー庁の関係もうまくいっていないと聞く。また、秋田・由利本荘では具体的な課題が聞こえてくる。例えば、陸上連系変電所までの送電線は長距離の国道縦断を計画していた模様だが、元より許可を得ることは困難で、計画変更に伴うコスト増や工程見直しは避けられないだろう。

B イベルドローラが日本の事業から撤退するかもという話も聞く。やはりコスト上の理由のようだ。

A 昨年末結果が公表されたR3では、イベルドローラがコスモの陣営から抜け、結果コスモの洋上撤退につながった。

【イニシャルニュース 】参院選新潟は女の戦い W氏に迫りくる危機


参院選新潟は女の戦い W氏に迫りくる危機

田中角栄の影響で群馬県や島根県のような「保守王国」と誤解されやすい新潟県。だがかつては農民運動が盛んで、革新系が強い土地柄だ。保守系は第2次安倍政権時代にやや盛り返したが、昨年の衆院選で自民党が県内5選挙区で全滅。角栄の威光は見る影もない。

さて今夏の参院選。新潟県は勝敗のカギを握る1人区だ。3年前の参院選では自民党の小林一大氏が立憲民主党の森ゆうこ氏との接戦を制したが、今回も一筋縄ではいかない。

自民党県連は昨年9月、2000年のシドニー五輪競泳メダリストの中村真衣氏を公認した。年末に選対本部を立ち上げるなど急ピッチで準備が進む。同氏は県民栄誉賞を受賞するなど県内での知名度は抜群。「実際に会ってみたが、とてもいい人。明るくて声が大きく政治家向き」(自民党関係者)と評判は悪くない。しかし公認の経緯から、党内ではあつれきが生じているという。

参院選の行方に注目の新潟県

ある県議が打ち明ける。「選対本部ができたものの、司令塔は不在。なかなか中村氏を支えようという動きが出てこない。政策的な話を聞かれた時にどう答えたらいいか分からず、本人は困っている。問答集などがあればいいが、誰も作ろうとしない」

公募では、本来なら候補者選びを取り仕切る立場の佐藤信秋県連会長が事実上落選した。同氏は全国比例で3度の当選を誇り、官僚時代には国土交通事務次官を務めた大物だ。温厚な性格で同僚議員からの信頼も厚く、柏崎刈羽原発の避難道路整備を巡っても重要な役割を果たしたとされる。だが選挙区で勝てるかどうかは心もとなかった。77歳という年齢に加えて、相手は若手で勢いのある立憲民主党の打越さくら氏だ。

そこで前衆議院議員のW氏が「勝てる候補」として送り込んだのが中村氏だった。最終的に佐藤氏が応募を撤回し、「全会一致」で中村氏の公認を決定。打越対中村の構図が出来上がった。ただW氏は旧民主党出身で、古くからの自民党支持者にとっては旧敵。「素直に応援できない」という関係者もいると聞く。

そんなW氏に追い打ちをかける出来事があった。昨年の衆院選である。W氏は小選挙区で惨敗。比例復活も叶わなかった。週刊誌では「資金不足」も取り沙汰されており、中村氏が参院選で落選すれば求心力のさらなる低下は必至。次回衆院選で2回連続の敗戦を喫すれば、政治生命をも断ち切られかねない。

「総力結集」―。角栄が作ったとされる造語だ。果たして県連は「一度決めたらまとまる」という自民党の強みを発揮できるか。


CNの旗降ろさずも 翻弄される業界の本音

昨年末、第7次エネルギー基本計画の素案が公表された。GXビジョン2040と合わせ、今後、脱炭素社会と産業振興の両立を目指していくための重要な指針として、エネルギー業界のみならず産業界全体から大きな注目を浴びている。

第7次は、カーボンニュートラル(CN)達成への野心的目標を掲げた第6次とは違い、ロシア・ウクライナ危機後の「安定供給」や「経済安全保障」への要請を受け、「現実路線」が強調されている。とはいえ、CNの旗を降ろしたわけではなく、その実現にはさまざまなハードルが待ち構えているだろう。

足元では、「人件費や資材費の高騰を受け、洋上風力や海底直流送電の整備事業など、GXの目玉プロジェクトは、いずれも民間企業が投資判断できるようなものではなくなっている」(電力業界のX氏)。それでも「補助金が出る限りは、政策にお付き合いせざるを得ない」(エネルギー大手のZ氏)というのが、業界の本音のようだ。

世界を眺めても、CN一辺倒だった一時期と比べると、化石燃料への揺り戻しの動きが目立つ。気候変動対策に後ろ向きのトランプ第2次政権がスタートしたことが、これにどう影響を与えるのか。

とはいえ、GX予算20兆円を引っ張ってきたエネ庁幹部のH氏は、次の次の経済産業事務次官候補の最右翼。「そうなると、日本は少なくともあと4年はCNの旗を降ろせないだろう」と、前出のX氏。

エネルギーを巡る国際情勢の不確実性が増す中、官民が同じ方向を向いて正しい手段を採れるかが、産業立国・日本を再興する鍵となることは間違いない。

LNG設備の大型投資続くか 北ガスが苫小牧で基地新設を検討


昨年11月、西部ガスがひびきLNG基地(北九州市)における3号タンク(23万㎘)の増設を投資決定したのに続き、今年1月には北海道ガスが、将来の水素・e―メタン導入を見据えた新たなLNG基地を苫小牧地区に建設する方向で検討に着手したと発表した。

外航船受け入れ設備やLNGタンク、気化器、内航船・ローリー出荷設備のほか、水素・e―メタン活用設備を導入し、GX(グリーントランスフォーメーション)を推進するカーボンニュートラル(CN)拠点としての整備を目指す。タンク容量や運用開始時期などの詳細を検討し、2025年度中に決定する方針だ。

LNGタンク新設を検討する苫小牧港
提供:北海道ガス

北海道は国内随一の再生可能エネルギーポテンシャルを有している。その利点を生かし苫小牧地区は、グリーン水素やアンモニア、e―メタンといったエネルギーインフラが集約され、GX推進の一大拠点として機能を果たすことが期待されている。

北ガスにとっては、石狩基地に次ぐ外航船を受け入れる1次基地ともなる。このため学識者の一人は「自前で複数のLNG基地を持つことで、定義上、東京・大阪・東邦ガスと同じ第1グループに属す大手の一角と見なせるようになる」とも言う。

第7次エネルギー基本計画の素案で、現実的なCNを進める上での重要なトランジションエネルギーとして位置付けられたLNG。経済安全保障や成長を損なわない現実的な脱炭素化へその役割が拡大していくことは間違いなく、さらなる大型設備投資の案件が浮上するか、エネルギー業界の関心は高まる。

脈々と受け継がれる安全思想 震災時に住民を受け入れた発電所


【東北電力】

昨年12月26日、東北電力の女川原子力発電所2号機が14年ぶりとなる営業運転を再開した。

被災プラント、BWRとして初の営業運転再開となり、震災からの復興などにつながる。

東北電力女川原子力発電所2号機は、昨年11月15日に再稼働(発電再開)し、12月26日に営業運転を再開した。同社は、再稼働を「再出発」と位置付けており、発電所をゼロから立ち上げた先人たちの姿に学び、地域との絆を強め、東京電力福島第一原子力発電所事故の教訓を反映し、新たに生まれ変わるという決意を込めている。

女川原子力発電所の全景

新規制基準に基づき、安全対策を多重化・多様化するとともに、原子力発電所の「安全対策に終わりはない」という確固たる信念のもと、さらなる安全性の向上に取り組んでいくと気を引き締めているが、同発電所は建設以来、不断の安全対策に取り組み続け、震災時には避難してきた近隣住民を受け入れるなど、地域と共に歩んできた。


自然への畏怖を持ち検討 多様な安全対策を実施

同社の原子力発電所に対する安全思想の根本は、女川1号機の設計時にまでさかのぼる。設計に際して、文献調査や地元の方々への聞き取り調査から、当初は津波の高さを3m程度と想定していた。しかし、その後の専門家を含む社内委員会において「貞観地震(869年)や慶長地震(1611年)による津波を考慮すると、津波は3mより大きくなる可能性がある」などの議論を経て、最終的に敷地の高さを海抜14・8mと決定した。また、原子炉を冷やすための重要設備である海水ポンプは、津波の影響を受けやすい港湾部ではなく、原子炉建屋と同じ敷地高さから掘り下げたところに設置した。さらに、ポンプの取水路を、海側からポンプ側に近づくにつれて深くする設計とし、津波の引き波時でも海水が確保できるような工夫を凝らした。

地震対策としては、震災前の10年6月までに1~3号機で約6600カ所の機器や配管を補強する耐震工事を実施。地震発生時にも安定した体勢で操作・監視ができるよう、中央制御室制御盤へ手すり棒も設置した。これは余震が断続した震災時に活躍した。加えて、緊急時対策室などがある事務棟の耐震工事も実施してきた。

このように女川原子力発電所では、設計当初から、津波や地震など自然への畏怖を持ちながら、常に最新の知見を反映した対策に取り組んできた。同発電所は震災時、最大567・5ガルの大きな揺れと、約13mの津波に襲われたが、原子炉起動中であった2号機と、運転中であった1、3号機の3基とも設計通り自動停止。未曽有の大地震に見舞われながらも、これまでの対策が功を奏し「止める」「冷やす」「閉じ込める」の機能が有効に働き、安全に冷温停止(原子炉温度が100℃未満)することにつながった。

震災翌年の12年7~8月に国際原子力機関(IAEA)が行った現地調査では「あれほどの地震動にもかかわらず、構造物・機器は驚くほど損傷を受けていない」との評価を得た。

安定供給の基盤確立が国益に 脱炭素と経済成長を両立へ


【巻頭インタビュー】武藤容治/経済産業

トランプ政権誕生をはじめ、日本を取り巻くエネルギー情勢は一層先行きが見通せない。

脱炭素と経済成長の両立に向けどのようにかじを取るのか、武藤経産相に考えを聞いた。

衆議院議員。当選6回。慶應義塾大学商学部卒業。2005年岐阜3区から衆議院議員に初当選。外務副大臣、経産副大臣、自民党経産部会長、総合エネルギー戦略調査会事務局長などを経て、24年から現職。

―経済産業政策全般において、どのような課題意識を持ち、何を成し遂げたいですか。

武藤 一つは価格転嫁を可能にする環境を整え、物価上昇を上回る賃上げを実現することです。これが経済の好循環を生み出すための課題と言えます。中小・小規模事業者の経営においてエネルギーコストが大きな圧迫要因にならないようにすることも重要です。第7次エネルギー基本計画やGX(グリーントランスフォーメーション)2040ビジョンを踏まえ、成長型の投資を呼び込み、好循環を生み出すことも目指していきます。

―エネルギー価格補助金の度重なる延長については、業界から批判の声が上がっています。

武藤 いつまでも継続すべき政策でないのは確かです。段階的に縮小させてはいますが、物価高に苦しむ国民生活や事業者を支える観点から必要な措置であり、よく状況を見定めながら今後の対応を考えていきます。

―日本を取り巻くエネルギー情勢をどう見ていますか。

武藤 世界情勢は依然として混迷しており不確定要素が多い。国内需要についても、半導体産業の進出や、生成AIの台頭などで電力需要の増加が見込まれています。S+3E(安全性、供給安定性、経済合理性、環境適合性)を前提に、安定的に国際的に遜色ない価格水準で電力供給を実現させなくてはなりません。輸入燃料に依存していると為替変動による影響が大きいため、エネルギー自給率の向上は必須で、再生可能エネルギーと原子力の拡大がその鍵を握ります。ペロブスカイト太陽電池や、洋上風力発電など、次世代技術の進展を視野に、需給の両面で包括的に対応することが不可欠です。トランジションに向け、今年はまさに正念場を迎える時期に差し掛かっています。

―資源小国である日本にとって、化石資源の安定的な調達確保は依然として避けられない課題です。

武藤 長期的には脱炭素化を進めていく一方で、化石燃料の供給と確保は、引き続き必要です。特に、LNGはCO2排出量が比較的少なく、脱炭素化へのトランジション期を支える重要なエネルギーとなります。長期契約をベースに、安定した価格で調達することが重要です。今後も、積極的な資源外交やJOGMEC(エネルギー・金属鉱物資源機構)によるリスクマネーの供給を通じて支援していきます。一方、合成燃料などの次世代燃料や水素、CCS(CO2回収・貯留)への目配せも欠かせません。AZEC(アジア・ゼロエミッション共同体)などを通じて価値観を共有する国々と、協力体制を整えていきます。

―世界的な脱炭素の潮流の中で、経済成長とどのように両立していくべきだと考えますか。

武藤 現実的なアプローチが求められます。例えば、自動車産業において、すべての車両を一斉にEVに切り替えるのは適切ではないでしょう。その点、日本は自国の自動車メーカーが強みを持ち、環境性能が高いハイブリッド車(HV)を電動車の一種として位置付けています。

発電分野でも、アンモニア混焼をはじめ、日本ならではの技術が発展してきました。こうした技術を国内にとどめず、AZECなどを通じて、火力発電を含めた脱炭素化の取り組みを進めていきたい。こうして日本が具体的な貢献策を実現していくことこそ、現実的なアプローチといえるでしょう。

―米国との関係についてはどうお考えですか。

武藤 トランプ大統領は、パリ協定から離脱しましたが、いずれにしても気候変動対策は世界全体の課題であり、前進させていく必要があります。また同盟国として、エネルギー安全保障の観点からも、価値観を共有することが重要です。主張すべきことはしっかり主張しながら、協調を図っていきます。


自立した体制を構築 かじ取りに重い責任

―首都圏の電力供給で焦点となっている柏崎刈羽原子力発電所の再稼働は、地元同意が得られずにいます。

武藤 地元のご理解があって初めて実現できるものだと考えています。実情を踏まえつつ丁寧に進めていく方針です。

―次世代革新炉の開発や建て替えについて、前進に向けた動きはあるのでしょうか。

武藤 革新軽水炉の規制に関しては、事業者と規制当局との対話が進展し、予見性が高まる見通しです。これまでの取り組みが一つの区切りを迎え、次のステップに進む準備が整いつつあります。ようやくここまで来た、との思いです。新設を後押しするには、ファイナンス面での予見性を確保するとともに、国民の理解を得ることが欠かせません。依然として高いハードルがありますが、これらの課題に着実に取り組み、次の一歩を踏み出すことが求められます。

―最後に、大臣の考えるエネルギー分野での「国益」とは何か、お聞かせください。

武藤 なるべく他国に依存せず、自国で賄える体制を整えることです。例えば、日本はこれまでエネルギー資源を海外に依存する中で、原子力を活用し、安定供給の一端を担ってきました。しかし、福島第一原発事故を契機に原発の運転停止を経験しました。新たに生成AIなどがもたらす電力需要の増加も懸念される中で、改めて原子力の重要性が認識されつつあります。こうした課題を前に、政府としてのかじ取りが問われており、その責任は重い。今後も国益を見据えた政策の実現に努めていきます。

KK再稼働停滞が解消か 住民投票請求で否決の観測


思わぬ〝外圧〟が、停滞する柏崎刈羽原発の再稼働問題を前進させるかもしれない。

その外圧とは、県民投票条例の制定を求める新潟県への直接請求だ。有権者数の50分の1以上の署名があれば可能となる。昨年10月に「柏崎刈羽原発再稼働の是非を県民投票で決める会」が署名運動を開始。約3万6000筆が必要だが、1月7日時点で14万筆超が集まったという。同様の請求は2012年にも行われたが、当時の署名数は約6万8000筆だった。「花角英世知事が判断に時間を掛けていることが注目度を高めた一因」(事情通)。同会は3月中旬ごろの請求を予定する。

記者会見する「県民投票で決める会」のメンバー
提供:朝日新聞社

請求後、知事は議会を招集し、意見を付けて県議会に提案しなければならない。過半数を握る自民党は、県議によって再稼働を巡るスタンスには濃淡がある。だが県民投票については、間接民主制を尊重する観点などから「ノー」で大方が一致。花角知事との調整が必要となるが、「否決した場合、再稼働の是非について議会の結論を出す必要があるのでは」。県政関係者からはこんな声が漏れ聞こえる。

「さすがに(議論が必要な)ハードルも在庫が尽きたのではないか」。1月8日の定例会見で柏崎市の櫻井雅浩市長がこう述べたように、県の技術委員会は昨年末に報告書を取りまとめ、原子力規制委員会は屋内退避の運用を巡る議論を今年度内に総括する。資源エネルギー庁による住民説明会も大詰めを迎えた。規制委が「合格」を出してから1年超─。花角知事が言う「議論の材料」はそろいつつある。

総合的な自給率向上を政策目標に 農村=農業の枠組みからの脱却を


【論点】改正食料・農業・農村基本法/河野太郎・政策ストラテジスト

昨年5月29日に改正食料・農業・農村基本法が成立し、同年6月5日に施行された。

河野太郎氏が、歴史的な視点を踏まえ今後のあるべき農業政策の方向性を解説する。

昨年の第213回通常国会において、農政の領域では食料・農業・農村基本法改正法が、関連三法(食料供給困難事態対策法、農振法等改正法、スマート農業技術活用促進法)とともに成立し、本格的な改正が初めて行われた。基本法は、その名の通り、個別政策や個別法の大きな方向性・指針となるものであり、食料・農業・農村基本法は「農政の憲法」とされてきた。その前身に当たるのが、1961年に制定された農業基本法で、「農業憲章」として位置付けられていた。

今回の改正の基本的なポイントは、食料安定供給に関する課題などに鑑みて、①食料安全保障の明示、②環境との調和の規定、③人口減少への対応の明確化、④関係者の役割の拡充など

―となっている。2022年に始まったウクライナ戦争の影響や、人口構造の変化といった国内外の情勢変化に対応するとともに、農林水産業においても環境との両立が求められていることを踏まえれば、基本法の中で明確に「環境との調和」が規定されたことは大きな意義を有する。

農・エネルギーの共存に向け支援は必須だ


人口減少・高齢化見据え 産業の枠超えた農地活用を

改正された食料・農業・農村基本法は、元来、1999年に農業の成長産業化を目指して制定されたものである。農地の効率的利用を目的とした2009年の農地法改正や、農地の集積・集約を進める枠組みを規定した13年の農地バンク法制定は、改正前の基本法の下で展開された政策であり、全耕地面積に占める担い手の利用面積は、14年から約10%上昇して24年には60・4%となるなど一定の効果を上げてきた。

農地の集約化はもちろん重要であるが、農村における人口減少・少子高齢化などを踏まえると、今後は産業の垣根を超えた農地の有効活用についてもより一層、図っていくべきであると考えられる。21年の基幹的農業従事者の平均年齢においては、67・9歳だった。

農政には、産業政策の側面と同時に地域政策の側面がある。

基本法第43条においては、「景観が優れ、豊かで住みよい農村とするため、(中略)農村との関わりを持つ者の増加に資する産業の振興に取り組む」とされている。ここで言われている産業とは、必ずしも農業だけを意味するものではない。農業だけが、農村における地域政策に寄与・貢献しているのではないはずである。

阪神淡路大震災から30年 地震列島で伝承される教訓


1月17日、阪神・淡路大震災から30年を迎えた。最大震度7、死者約6400人、住宅の全半壊約25万戸、約260万戸の停電、約85万戸の都市ガス供給停止と、都市直下型としては戦後最大の被害を生んだ巨大地震。建物・施設やインフラなどの防災・地震対策に大きな教訓をもたらし、エネルギー業界においても発災時の対応や復旧・復興時の連携体制などを強化させる大きなきっかけとなった。

阪神・淡路大震災30年追悼式典で献花される天皇、皇后両陛下
提供:時事

その後も、十勝沖地震(2003年9月)、新潟県中越地震(04年10月)、新潟県中越沖地震(07年7月)、東日本大震災(11年3月)、長野県北部地震(14年11月)、熊本地震(16年4月)、大阪府北部地震(18年6月)、北海道胆振東部地震(18年9月)、福島沖地震(21年2月、22年3月)、能登半島地震(24年1月)、日向灘地震(24年8月)など、震度6以上の地震が多発。まさに地震列島だ。

内閣府では、南海トラフ、首都直下、日本海溝・千島海溝の三つの巨大地震について今後30年以内の発生確率を、それぞれ80%、70%、60%程度と推定。とりわけ南海トラフでは昨年8月8日と今年1月13日に臨時情報(巨大地震注意)が発表された。大震災はいつ発生してもおかしくないのだ。

電力・ガス業界はシステム改革の結果、地域独占時代のような団結や連携が図りにくい状況になってしまったが、ライフラインとしての役割は不変であり、その原点を揺るがせてはならない。30年前の経験を伝承し、有事の備えを一層強化していくことが求められている。

グループ一丸で「BX実現」目指す 競争力強化と新たな価値創造に注力


【四国電力】

四国電力ではDX推進の環境を整備しDX人材を中長期的に育成すべく取り組みを推進中だ。

既存サービスの多様化、高付加価値化に加え、新規事業や新サービスの創出も狙う。

四国電力グループは、2021年3月に発表した「よんでんグループ中期経営計画2025」で、「デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進」を長期重点課題の一つに掲げている。同グループでは、DXを「デジタル技術とデータを活用し、ビジネスモデルや業務プロセス、組織風土、従業員のマインドなどを含むビジネス全般を変革すること」【BX by「D」】(Business Transformation by「Digital & Data」)と定義し、DX推進のための環境整備とDXにつながる取り組み実践を進めている。

図 LUC3Kは英語の頭文字から

昨年3月、DXで目指す姿について、全従業員により分かりやすく伝えることを目的としてグループのBXビジョン「LUCK」を策定した。LUCKは英語の頭文字で(図参照)、各キーワードにビジネス変革への強い思いを込めている。実現までのロードマップでは、23年度までを「フェーズ1」と位置付け、全社大での意識改革に向けた研修や基礎的なDXラーニングプログラムの提供、システム基盤構築などの環境整備に加え、一部の部門で先行的にDXの取組方針を策定の上、具体的な施策の実践に取り組んできた。24年度以降の「フェーズ2」では、データ活用の推進やDX実践の中核となる人材の育成によって、既存事業・サービスの多様化や高付加価値化はもとより、新規事業・新サービスの創出など新たな価値創造にもチャレンジしている。


認定制度で計画的人材育成 表彰で社員の意欲向上狙う

同グループでは、DXを推進する人材を「DXビジネス人材」と「デジタル技術人材」の二つのタイプに大別し、個々のレベルに応じて必要な知識・スキルの習得ができるよう、「四電DXラーニングプログラム」を整備している。今後さらなるDX推進のためには、デジタル技術やデータの力を適切に理解し、事業環境の変化や社会的課題に対応できるDX人材を中長期的視野で育成していく必要がある。このため、「初級」「中級」「上級」の3段階から成る「DX人材認定制度」の運用を開始し、計画的に人材育成を進めている。初級はIT・ビジネス全般に関する基本的な知識を有する人材、中級は組織のDXを推進していくために必要な知識・スキルを有する人材、上級は組織の中心となってDXをリード・マネジメントできる人材と定め、経済産業省と独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が策定した「デジタルスキル標準(DSS)」を参考に、四つの人材タイプを設定して認定を行う。25年度末までに、中級以上の人材を従業員の5%程度、30年度末までに15%程度育成することを目標としている。

また、新たに導入したデジタルツールや技術の業務活用を促進し、従業員が主体的・積極的にDXに取り組む意識の高揚、風土の醸成を図るため、四国電力と四国電力送配電の社員を対象に、デジタルツールの利活用や業務改革に関するテーマについて優れた事例を表彰する「DXテーマ別コンテスト」を企画 し実施している。昨年3月に開催した第1回は、社内専用環境で利用できる生成AIの活用、9月に開催した第2回は、BIツールを用いたデータ活用をテーマとし、多くの業務活用事例が報告された。優れた事例や結果を全社で共有することでDXに取り組む従業員のさらなる意欲向上にもつなげる考えだ。

ハイテク・素材・食品産業まで 幅広い分野が注目するナノテラス


【業界紙の目】中村直樹/科学新聞 編集長

東北地方に拠点を置く民間企業と政府が共同出資し整備された〝巨大顕微鏡〟ナノテラス。

一般には分かりにくいが、実はさまざまな産業で研究開発への貢献が期待される最先端設備だ。

放射光はこれまで主に科学研究などで使われてきた。しかし、昨年4月に東北大学の青葉山新キャンパス内に設置されたナノテラス(NanoTerasu)が供用を開始してから、産業界にとってより身近な存在になりつつある。

ほぼ光の速さまで加速された電子を、磁石の力によって進行方向を変えると、接線方向に明るく絞られた光(放射光)が発生する。ナノテラスでは、軟X線からX線(硬X線の一部を含む)までの放射光を発生させ、さまざまな物質の形や機能をナノスケール以下の精度で見ることができる。超大型(直径約100m)の顕微鏡のようなものだ。

昨春供用を開始したナノテラスの全景

この巨大な顕微鏡を利用することで、電池の小型化・高出力化・長寿命化、次世代エレクトロニクス開発・製造、ポリマー材料のリサイクル・アップサイクル、食品の食感やうまみなどの高付加価値化といった、多様な研究開発が可能になる。

光科学イノベーションセンターを中心とする民間企業と国が費用を拠出したナノテラスは、光科学イノベーションセンターを中心とする民間企業と国が費用を拠出した約380億円を使い整備された。施設設置者であり国の主体である量子科学技術研究開発機構(QST)と地域パートナーの代表機関である光科学イノベーションセンターに加え、利用促進業務を行う高輝度光科学研究センター(JASRI)が参画して運営する。


コアリション制度を導入 共用ビームはリーズナブル

ナノテラスでは、コアリションメンバー制度を導入している。1口5000万円を出資した企業はコアリションメンバーとして、10年間にわたって年間200時間、施設を利用できる権利を得られる。ただ、それでは敷居が高いという企業も多いことから、メンバー以外でも利用できる仕組みがある。

現在整備されている10本のビームラインのうち、コアリションメンバーが使うビームラインが7本、誰でも利用できる共用ビームラインが3本だ。共用ビームラインの利用料は、成果を公開する場合は消耗品使用料程度で非常に安価だが、成果を公開しない場合でも1時間12万円程度で利用できる。まず試してみたい場合は、共用ビームラインがリーズナブルだろう。

共用ビームラインの一つ、軟X線超高分解能共鳴非弾性散乱ビームラインは、ナノテラスで最も長いビームライン光学系により、世界最高のエネルギー分解能(入射エネルギーの10万分の1のエネルギー変化が検出可能)を実現。物質中に生じるさまざまな電子状態の変化を解明できる。例えば、各種電池における電極反応など、化学反応に伴う電子状態の変化を検出することで、バッテリー寿命や充放電特性の向上につながる研究開発が可能になる。また、超伝導体における電子対の変化を捉えることで、高温超伝導発現のメカニズムの解明にもつながる。さらに溶液中の分子構造や分子振動の変化を捉えることができるため、光合成メカニズムの解明や新薬の合成に役立つ知見が得られる。バイオエコノミーやカーボンニュートラル、量子技術の発展にも貢献する。

露―欧ガス導管停止の波紋 スロバキア首相が怒るワケ


戦争勃発以降、ロシアから欧州向けに唯一稼働していたウクライナ経由のガスパイプライン「ソユーズ」での供給が年末にストップした。ウクライナが、ロシアのガスプロムとの契約を延長しなかったためだ。更新を望んでいたロシアは経済的に打撃だが、欧州でも供給が停止している内陸の国々を中心に混乱が生じている。

契約更新拒否で批判されるゼレンスキー氏
提供:EPA=時事

戦争後、ソユーズを通じて欧州には年間12~15bcm(1bcm=10億㎥)が輸送されていた。今後、トルコ経由で欧州向けの導管輸送を拡大しても全量は賄えず、米国やカタール産など割高なスポットLNGの調達を増やさざるを得ない。親ロシアのフィツォ・スロバキア首相は、更新を拒否したゼレンスキー大統領を批判。スロバキア国営ガスはガスプロムと長期契約を有しているにもかかわらず供給が停止され、損害を負担しなければ、ウクライナへの電力供給を止めると憤っている。

ロシア事情に詳しい国際協力銀行(JBIC)エネルギー・ソリューション部長の加藤学氏は「安定したロシア産ガスの恩恵を享受してきた国々の不満が高まり、欧州内で不協和音が生じている。ゼレンスキー疲れの声が拡大し、停戦の機運が高まる可能性がある」と見る。

3年前のような価格高騰の可能性は低いとの見方がある中、「厳しい寒さから欧州のガス貯蔵は7割に急減し、トランプ政権がスタートしても即LNG輸出が急増するわけではない。今年の価格は高止まりの可能性がある。また、年始のイベントが市場心理に与える影響は大きい」(加藤氏)と指摘する。

温室効果ガス60%減巡る「ピンずれ騒動」 環境運動家が政府批判で大暴れの実情


政府が昨年原案を示した2035年度の温室効果ガス削減目標を巡り、路線対立が先鋭化した。

「2013年度比60%削減」に対し、気候正義の運動家は猛反発。だが世界は経済重視に動き始めている。

「気候正義」論を振りかざし、SNSや各種メディアを通じて政府の温室効果ガス削減目標案の修正を繰り返し訴える環境運動家―。その動きは徐々にエスカレートし、経済産業省などの前でデモ活動をするだけにとどまらず、霞が関の特定官僚を名指しする怪文書をまくなど異様な様相を呈した。だが、世界の趨勢と日本の国益を考えると、政府案は現実解を示したものといえるのだ。

「ギリギリの線」。環境省幹部は政府案をこう評する。経産省と環境省の有識者会議が昨年末に支持した60%削減を目標とする政府案は、50年のカーボンニュートラルに向けて、緩やかな削減を見込む道筋だ。経済への影響や今後の技術革新のスピードなどを勘案すると、今考え得る最も現実的な選択をしたというわけだ。

永田町に出回った環境団体の怪文書

しかし有識者会議は荒れた。「若者枠」として有識者会議に参加していたハチドリ電力の池田将太社長は、急激な削減プロセスを採用し、35年度の目標を75%まで引き上げることを望んだ。しかも池田氏は、有識者会議について「既に存在するシナリオに都合の良いコメントを付け加えているようにしか見えない」と、会議自体のあり方を批判した。これに反応したのが、気候正義を振りかざす市民運動家らだ。有識者会議に示した政府案と会議のあり方を、SNSやメディアを通じて盛んに取り上げた。

日本若者協議会の室橋祐貴氏は「結論ありきの議論」「先進国として責任ある削減目標を示せ」「60%では足りず最低でも66%、70%以上の削減が必要」と主張した。さらに室橋氏は、有識者会議が池田氏に発言の機会を与えなかったとし、「議論を封殺した」と断罪した。あろうことか環境省が水俣病の患者団体との対話で、マイクを音切りして団体に発言させなかった問題を引き合いに出し「都合の良い意見は聞き、都合の悪い意見は封殺する、今回の審議会での対応と性質は同じかもしれない」と言い切ったのだ。

ちなみに有識者会議は連日、終了時間を超える激しい議論がなされていた。


議員会館にまかれた怪文書 環境省幹部を決定権者に

気候正義を追求する運動家にとっては自分たちの主張が反映できなければ、全てが黒に見えたのだろう。「Friday for future」はSNS上で署名を集めて、政府案の見直しを求めた。「WE WANT OUR FUTURE」は「民主的炬燵会議」と称して経産省前でデモ活動を展開。これには立憲民主党や日本共産党の国会議員も参加していた。

そして国際NGOのグリーンピースは削減目標を決定するのは環境省の総合政策統括官だと決め付け、「最終決定権を持つ総合政策統括官・〇〇〇氏にご照会頂き、なんとしても1・5度整合が実現可能な66%削減に引き上げるよう、ご要請頂きますと幸いです」という怪文書を議員会館で配ったのだ。温室効果ガスの削減目標は一省庁の一役人に決められるわけがないのに、である。

運動家にとっては政府の削減目標が格好のエサになり、一種の祭りのような騒ぎに発展した。だが世間は冷淡だった。運動家の思惑通りにはいかず、世論も盛り上がらず、国会でも怪文書を巡った質問や追及もなかった。極めて限定的な「お祭り騒ぎ」にしかならなかったのだ。

では政府が示し、有識者会議が是認した35年度60%削減目標は筋違いの目標なのか。IEAのデータによると、22年のCO2国別排出量は、中国が3割を超えてダントツで首位だ。次いで米国で約15%、インド、ロシアと続き日本は約3%で世界第5位だ。

しかし排出量世界トップの中国は、30年までに排出量のピークアウト、60年までに実質的なカーボンニュートラルを実現することを目指すとしているだけだ。道筋も見込みも全く公表していない。

さらに米国は12月19日、35年までに05年比61~66%削減する目標を打ち立てたものの、トランプ次期大統領の判断次第では空手形と化す可能性が高いといえよう。

温室効果ガス排出量の二大国の動向が未知数の中、排出量わずか3%の日本が突出した削減目標を出しても、1・5度目標には届かない恐れがあるということだ。


経済重視が現実解 求められる国益の観点

気候変動対策よりも経済重視の方向に傾いているのが、世界の流れだ。新型コロナウィルスの大流行による経済縮小から抜け出すタイミングで、ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー危機、中東不安が相次ぎ景気の良い話は聞かない。あれだけ好調を誇っていた中国も、大手企業が経営破綻するなど減速している。

気候変動対策の旗手とも言える欧州は、長引くインフレと移民対策に手を焼いている。インフレは経済を直撃しており、国民は生活苦からの改善を求めて、極右政党を支持する傾向が顕著だ。米国も経済格差と行きすぎたポリティカル・コレクトネスによる社会の分断が激しく、トランプ氏の返り咲きを認めた。トランプ氏は気候変動枠組み条約からの脱退も視野に入れているとされる。

翻って日本はどうだ。足元は円安による物価高に賃金上昇が追いつかない状況。所得拡大が見通せない中、高齢化に伴う現役世代の負担増が必至となり将来不安が増大しているのだ。こうした状況下で、気候変動対策だ、気候正義だと声高に叫んでも国民の理解が得られるとは考え難い。わが国としての10年先の経済的展望さえ見えない中で、気候変動問題をことさら優先してやたら高い削減目標を設定することは、国益を損なう「悪夢」のシナリオであり、無責任極まりない選択肢といっても過言ではない。

「脱炭素路線」を大転換へ 第2次トランプ政権の実行力


国家エネルギー非常事態を宣言し、地球温暖化対策の国際枠組みである「パリ協定」から離脱する―。米国第47代大統領となったドナルド・トランプ氏は1月20日の就任初日から、前バイデン政権路線の大転換に着手。公約の中心に掲げていたエネルギー政策でも抜本的な改革に乗り出すべく、数多くの大統領令に署名した。

1月20日就任式後、支持者らを前に演説するトランプ大統領
提供:共同通信

前バイデン政権は温暖化対策を米国の外交・安全保障の中心に位置付け、石油・エネルギー政策をこれに従属させてきた。第2次トランプ政権は脱炭素化の制約を全面的に撤廃し、前政権が規制していた大陸棚外縁やアラスカを含め、全米でのエネルギー・重要鉱物資源(化石・バイオ燃料、ウランなど)の最大活用を企図している。

具体的なポイントは、①前政権が凍結していた新規LNG輸出審査を即時再開、②エネルギー供給の最大活用では太陽光・風力発電を除外、③大陸棚外縁における洋上風力発電向け新規リースを停止、④EV充電設備支援など「グリーン・ニューディール」向け融資・補助金を凍結、⑤州レベルの排出量規制も含めてEV普及支援策を全廃―などだ。

トランプ氏は20日の就任演説でこう強調した。「私は全閣僚に対し、記録的なインフレを打破し、コストと価格を急速に引き下げるために、巨大な権限を結集するよう指示する。インフレ危機は、大規模な過剰支出とエネルギー価格の高騰によって引き起こされた。私は国家エネルギー非常事態を宣言する。掘って掘って掘りまくれ」「米国は地球上のどの国よりも多くの石油と天然ガスを手に入れる。われわれは価格を引き下げ、戦略埋蔵量を再び引き上げ、米国のエネルギーを世界中に輸出、再び豊かな国になる」―。


「宣言」で強い意思表示 市場は公約実行を評価

米国在住の国際石油アナリスト、小山正篤氏が解説する。「一連の政策転換は、既に大統領選挙中から広く予想されており、特に意外なものではない。しかし、政策の全面転換を政権発足初日で指令する手際良さは、事前に周到な準備が積み重ねられていたことを、改めて印象付けた。『国家エネルギー非常事態』宣言は、この政策転換を安全保障上の最優先事項の一つとして、強権を発動してでも実現を目指す、という強い意思表示と受け取るべきだろう」

米金融関係者によれば、市場は許認可を緩和するための国家エネルギー非常事態の宣言、開発用地の開放、前政権時代のクリーンエネルギー政策の転換を通じて石油・ガス生産を増大させるという公約の実行を評価しているという。実際、欧米メジャーや国際金融機関は相次いで、脱炭素投資の方向修正にかじを切っている。

第7次エネルギー基本計画をまとめる日本でも、国益を主軸に据えた「ジャパン・ファースト」の政策展開が求められる。

原子力の未来のために! 「設工認」取得へ士気高く


【電力事業の現場力】日本原燃労働組合

多くの組合員が体育館に詰めて審査対応に全力を注ぐ。

精神的負荷が大きい業務だが、モチベーションは高い。

猛吹雪で視界が遮られる中、青森県の三沢空港から北上すること1時間。突然、巨大な建物が見えてくる。日本原燃の原子燃料サイクル施設(六ヶ所村)だ。わが国の原子力政策の中核施設として、1993年に着工した。現在、再処理工場と混合酸化物(MOX)燃料工場は新規制基準適合に向けて審査中だ。電力会社やメーカーからの出向者を含む約400人が、本社前の体育館を執務室として設計および工事計画認可(設工認)取得のためオールジャパン体制で戦っている。

体育館で審査対応に当たる

審査対応は地道で根気がいる業務だ。原子力発電所の審査が地震(断層)や津波関連で長期化しやすい傾向があるのに対し、再処理工場は膨大な設備の安全対策がメインとなる。前処理・分離・精製・脱硝と複数の工程で放射性物質や薬品を扱うため、発電所とは異なる対策が求められる。

例えば万が一、安全重要度が高い建物、設備の近傍に航空機が墜落したらどうなるか。燃料が満タンだった場合の燃焼時間や温度は……。さまざまな角度から精度の高い安全対策の検討を行い、薬品タンクの地下化、冷却塔の竜巻対策など安全対策を講じてきた。約2万5000の機器の安全をどう確保するか。長く険しい道のりだが、協力会社も含め多くの技術者が日々努力を続けている。

ウラン濃縮工場は運転を再開

厳しい労働環境の中で原燃労組が行った直近のアンケートでは、組合員のモチベーションの高さが明らかになった。「設工認を得られなければ会社の将来はない」という使命感が、審査対応を担う組合員を奮い立たせている。一方、4年前の調査と比べると組合員の疲労感が増しているという。休みは取れているが、精神的な負担からか「疲れが抜けない」といった回答が目立った。原燃労組は技術継承の観点から、人材の維持・定着に大きな課題認識を持っている。今後も労働環境を注視し、組合員の声に耳を傾けていく。


地域に誇れる会社に 多くの仲間に支えられ

労組の重要課題の一つである春闘を巡っては、再処理工場、MOX燃料工場のしゅん工時期変更による影響を懸念する声が挙がっている。

建設中のMOX燃料工場

一方で、埋設事業では低レベル放射性廃棄物を定期的に受け入れている。また2023年8月にはウラン濃縮工場が運転を再開した。「組合員が抱いている不安を希望に変えていかなければならない。そのためには、労使でしっかりと会社の魅力を高めていく必要がある」。有馬文也本部書記長は切実な思いを口にする。何よりも、組合員が会社の存在意義について、自信と誇りを持ち続けられる職場であることが重要だ。「組合員が親、知人、地域の人々から『原燃に入って良かったね』と言われ、日本にとってなくてはならない事業だと理解してもらえるよう、研さんを積んでいかなければならない」(有馬氏)

低レベル放射性廃棄物の3号埋設施設

「原子力の未来のために共に頑張りましょう!」。原燃労組の事務所の壁には、悲願の再稼働を果たした他電力の原子力部門からの寄せ書きが張られていた。多くの働く仲間に支えられながら、再処理工場は26年度中、MOX燃料工場は27年度中のしゅん工を目指す。

身を切られるような寒風に吹かれながらも、組合員がくじけることはない。

【北陸電力/松田社長】未曽有の災害乗り越え 地域の持続的な発展と社会課題の解決に貢献


2024年に石川県能登地方を襲った地震と豪雨災害。

復旧・復興へは道半ば、エネルギーの安定供給という使命を果たしつつ、
地域の持続的な発展に貢献。

災害の知見を踏まえ、脱炭素化など社会課題解決に取り組む。

【インタビュー:松田光司/北陸電力社長】

まつだ・こうじ 1985年金沢大学経済学部卒、北陸電力入社。営業推進部長、エネルギー営業部長、石川支店長などを経て、2019年6月に取締役常務執行役員。21年6月から現職。

志賀 2024年元日の「令和6年能登半島地震」発生から1年が経ちました。復旧作業を記録した映像「電気を送り続けるために」を視聴しましたが、復旧の最前線で皆さんがどのような思いでおられたのか、よく伝わってくるものでした。

松田 北陸電力グループの社員と協力会社、他電力から応援に駆けつけてくれた皆さんが、過酷な災害現場でどのように活動したのか、今、見ていただくだけではなく後世に残したいという思いで作成した記録映像です。時を経て、震災後に入ってくる社員が増え、この災害を経験した社員が少なくなれば記憶は薄れていきます。新入社員教育のカリキュラムに取り入れるなど、組織としてしっかりと、この経験を伝えていきたいと考えています。

志賀 YouTubeで社外の方も視聴できます。インターネット時代にふさわしい、良い取り組みですね。現場の過酷さは相当なものだったのではないでしょうか。 松田 これまで北陸地方は、比較的自然災害が少ない地域と言われていました。われわれが全国の災害現場に駆け付けることはありましたが、誰もが身をもって経験したことのない「未曾有の災害」で24年が始まりました。平常時と違う状況の中で、電気は人びとの生活や産業を支える大事な役割を担うだけでなく、明かりが灯ることで震災からの不安を和らげる意味もあります。ただでさえ極寒の季節である上に、現場は寝るところもトイレもない困難な作業環境でしたが、北陸電力グループが一丸となってこの大きな試練を乗り越え、安全を確保しつつ一刻も早く電気をお届けするという強い覚悟を元日早々に決めました。


災害対応の課題を検証 知見を広く共有

志賀 さらに同年9月には、豪雨災害も奥能登を襲いました。復旧状況はいかがでしょうか。

松田 復旧は「こころをひとつに能登」のスローガンの下、グループ一丸となって対応してきました。地震で延べ約7万戸の停電が発生しましたが、停電復旧はまず自治体の災害復旧拠点や病院、福祉施設、避難所などを優先し、全体としては1カ月で概ね電気をお届けすることが出来ました。その後、追い打ちをかけるように9月に豪雨災害が発生しました。これにより、能登地域を中心に延べ約1万1000戸の停電が発生。作業は洪水や浸水による泥との戦いとなりました。地震により約3000本、豪雨によりさらに約300本の計約3300本の電柱に被害が発生しました。これまでに、約1000本の対応を終えていますが、今後は、残された2300本ほどの電柱の本格復旧に取り組むことになります。道路状況などに併せて復旧を進める必要があり、長丁場になることが予想されます。自治体や関係機関と連携しながら、着実に本格復旧を進めていきます。

奥能登では地震に続いて豪雨災害からの復旧に尽力した

災害で多くの苦労もありましたが、多くの知見を得ることもできました。「電気が復旧して良かった」で終わるわけにはいきません。現在、災害対応をハード面だけではなく、後方支援や関係機関との連携などソフト面も整備して災害対応力の強化を図っています。また、この知見を全国に共有していくことも当社の使命です。

志賀 震災から2度目の冬を迎えました。供給力の面で懸念はありますか。

松田 地震で被災した七尾大田火力発電所(石川県七尾市)は、 石炭払出機の倒壊や、広範囲にわたるボイラー管の損傷など、甚大な被害が発生しました。協力会社やメーカーを含め最大900人体制で復旧作業に当たり、2号機は昨年5月10日に、1号機は定検期間中の7月2日に運転を再開し、目標としていた夏季の高需要期までの復旧を成し遂げました。今冬についても、計画外のトラブルや災害への備えなど緊張感を持って、万全な供給体制を確保しています。