【エネルギービジネスのリーダー達】永田 健太郎/ALGO ARTIS社長
社会基盤を支える大企業向けに、AIによる運用計画の最適化ソリューションを提供している。
「人」に依存する技能やノウハウをシステム化し、社会全体の生産性向上にも貢献したい考えだ。
ながた・けんたろう 2008年3月大阪大学大学院理学研究科物理学専攻博士後期課程修了、インクス入社。09年8月、ディー・エヌ・エー入社し、携帯電話向けのコンテンツ開発などに携わる。21年7月にALGO ARTISを創業、社長に就任。
極めて複雑な運用計画に特化し、デジタル技術による最適化ソリューションを提供するALGO ARTIS(アルゴアーティス)。2017年にディー・エヌ・エー(DeNA)のAI(アルゴリズム)を活用した新規事業を手掛ける一部門として事業をスタートし、21年7月に独立・創業した。
AIが導き出す運用の最適解 計画策定の属人化も解消
同社のシステムの強みは、これまでのソリューションでは考慮しきれていなかったあらゆる運用上の要件を織り込んだ上で、より高い収益と低リスクの計画を短時間で自動出力し、収益向上を図ることにある。エネルギー業界では、関西電力が舞鶴発電所の燃料運用に、東北電力が石炭船の配船の最適化に同社のシステムを活用しており、年間数千万~数億円のコスト削減効果をもたらしている。
導入する企業の規模が大きいほど費用面のメリットが大きいこともあり、現在はエネルギー業界に加え、石油化学や物流商社など、重厚長大産業の計画の最適化に力を入れて取り組んでいるが、永田健太郎社長は、「当社のソリューションの効果は単にコスト削減だけではない」と強調する。
数十、数百とある運用計画上の要素を同時に考慮し、全体最適化を図ることは人間の能力をはるかに超えている。発電所や製造の現場でこれを担っているのが、限られた熟練技術者たち。同社のソリューションは、熟練技術者の経験やノウハウ、さらには現場の複雑な運用ルールをAIに落とし込むとともに、非熟練者でも直感的に操作可能なシステムを構築することで、計画策定業務の「属人化」を解消できるというのだ。
労働人口が減少していく中で、属人化したノウハウを失ってしまえば、将来の日本の生産性低下は避けられない。永田社長は、「ノウハウが存在しているうちにシステム化することで、生産性の低下に歯止めをかけるにとどまらず、むしろ現在よりも高度な運用を可能にし、社会全体の生産性向上に貢献していきたい」と意気込む。
同社のシステムは、企業側が求める要件に従って開発し納品すれば完了というものではない。実際に運用している人の「暗黙知」を含めてロジックを組み、それをベースにシステムのプロトタイプを作り、実際に使ってもらいながらエンジニアと現場が双方向にやり取りし、改善を繰り返していく。このため、プロジェクトとして成立するまでには、少なくとも半年から1年を要することになる。
さらには導入後、継続的に活用し続けることで価値を発揮することにも重点を置く。昨今、燃料調達における地政学上の要件が目まぐるしく変化しているように、今後、さまざまな外的要因で運用が変わっていくことが予想される中で、システムがその変化に追従し常に価値を発揮するように変更していく必要がある。
そして、こうした同社の高度なソリューション提供を支えているのが、さまざまな分野での経験を持つ20人の社員たちだ。特に、半数を占めるアルゴリズムエンジニアは、国内でもトップクラスの技術者が顔をそろえている。国内外でも例のない、より複雑な課題解決のためのシステム構築に携われることが魅力となり、優秀な人材を集めることができているという。
こうしたエンジニアのトップ集団を率いる永田社長自身は、大阪大学大学院で宇宙物理学の博士号を取得したという意外な経歴の持ち主だ。「自然の真理を追究する研究分野ではトップ集団に入れないだろう」と研究者の道は早々に断念し、最初に入社したのが「金型産業の革命児」と呼ばれたインクスだった。
09年に同社が経営破綻したことをきっかけにDeNAに入社。以降、携帯電話向けのエンターテイメントサービスの開発などに携わっていたが、徐々に製造業やリアルな産業の課題解決に携わりたいという気持ちが強くなっていったという。
転機が訪れたのは17年のことだ。AIを活用した新規事業を模索し、100社以上の企業と面談し課題を探る中で、電力会社が抱える課題を解決することが社会的な意義が大きく、事業として収益モデルを描けると考え、現在のアルゴアーティスにつながるAIを活用した最適化に関するプロジェクトに着手した。
持続的な投資へ独立を決断 海外展開も視野に
DeNAから独立したのは、新しい取り組みを社会に浸透させるためには、人や資金といったリソースを適切に集中投資することが不可欠との判断から。積極的、継続的な投資による事業の成長につなげるため、外部から資金調達しつつステークホルダーとしてDeNAの支援も得て独立を果たした。
「グローバルでつながるサプライチェーン全体を最適化することができれば、さらに大きなインパクトをもたらすことができる」と語る永田社長。その視線は既に海外にも向いている。