A 2018年に電力・ガス取引監視等委員会の制度設計専門会合において、大手電力会社による取り戻し営業の手法の問題を議論した際に、同様の問題があるのではないかとの指摘があったようだ。当時、電取委による調査では、不正閲覧を行ったとの説明はなかったようだが、やはり事実だったのか。今回、システム的にも閲覧可能になっていたことが明るみに出たことに改めて驚いている。
B なぜ今なのかと、とても不思議だ。関電の法人分野の取り戻し営業が特に激しかったのは17~18年にかけてで、新電力関係者の間では顧客情報を見られているのではないかと、まことしやかにささやかれていたからね。
C 関電の送配電事業関係者に聞くと、営業と送配電部門は組織的には完全に遮断されていて、両部間の接点は親しい社員間でもほぼないとのことだった。だから、共謀して情報漏洩させたのではないと見ている。送配電事業者側は情報管理を徹底できなかったのだろう。どちらかと言うと閲覧できるからといって閲覧し、あろうことか営業に使ってしまった営業側のコンプライアンス意識の低さに問題があると感じる。関電に限らず、営業部門は組織が大きく社の方針を最優先に動く人が多い。末端までコンプライアンスや企業の社会的責任への意識を行き渡らせることの難しさが浮き彫りになったのではないか。
B 確かに、他の新電力関係者とこの話をすると、システム的に閲覧できるようになっていたことよりも、営業で情報が使われたことにあまりフォーカスが当たっていないことに不満を持つ人が多い。初めから電取委が徹底して対応するべきだったが過去は変えられないので、この機会に徹底的に調査した上で、まずは社会一般的にどのような対処が妥当なのかという視点で対応を考えてもらいたい。
―関電は昨年から不祥事が続いていて、なぜ、このタイミングでの発覚なのかが憶測を呼んでいる。
A 報道ベースでは、内部告発ということだから、高浜原発を巡る金品受領問題による内部執行体制の改善、その後のカルテル問題も含めて、不正を許してはいけないという自発的な動きなのかもしれない。特に関西は競合が激しいしね。関電のライバルの大阪ガスも、かつてコージェネシステムの補助金不正受給問題があったことで、コンプライアンス意識が高まったと聞いたことがある。身近な人が処分を受けたりするのを目の当たりにすることで、問題となる行動を取らないようにしようという意識が働くわけで、関電の営業も今がそうした体質を改善するタイミングなのかもしれない。
―不正閲覧は関電の取り戻し営業が苛烈だった時から起きていた。背景に何があったか。
B 実を言うと、当時は新電力側も、大手電力の不正閲覧を疑ったとしてもそれを見過ごさざるを得ない状況にあった。電取委に徹底した調査を求めたくても、今に至るまでリソース不足は否めず限界があった。確たる情報を揃えて訴えるには需要家の協力が欠かせないが、需要家も面倒に巻き込まれないよう情報提供を渋っていた。それに新電力としても、大手電力会社とはけんかをしたくないというのが本音。電取委に言い付けたことが明るみに出てしまうと、それが自社のリスクとして返ってきかねない。そうした空気感を含め、業界全体に問題があったのかも。
―大手電力会社の市場支配力がそれだけ大きいということか。
B 今はだいぶ弱まっているが、18年当時はそうだった。電力市場だけではない。需要家の協力が得られなかったのは、いろいろな形で大手電力会社と関わりを持っていて敵対するような行為を取りにくいからだ。それだけ、この業界のみならず社会が大手電力会社に頼ってしまっていたということだ。
A 18年から今に至るまでの間、送配電部門の法的分離が実施され行為規制が定められたにもかかわらず、その体質が何も変わっていなかったということは重い。顧客のために手続きのスピードを上げる目的で閲覧してしまったと言い訳をしているが、コンプライアンス意識の欠如としか言いようがないよ。
C 当時は、新電力が急速に契約件数を伸ばす一方、大手電力会社はシェア回復に非常に苦慮していた。特に離脱が多かった東電や関電の営業は、社内的なプレッシャーに堪えかねてなりふり構っていられるような状況ではなかったのではないか。営業のトップが死に物狂いで取り戻せと言えば、そうしなければならない空気があったのだろう。だからと言って、顧客情報を不正に閲覧するようなことを擁護できるわけではないが。