【マーケット情報/4月21日】原油反落、景気低迷の懸念が重荷


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み反落。景気低迷の懸念を受けて、需要減の見方が広がった。米国原油を代表するWTI先物、北海原油の指標となるブレント先物はそれぞれ4.65ドルの急落、ドバイ現物も4.88ドルの大幅下落となった。

米連邦準備理事会が5月に、0.25%の追加的な利上げを行うとの見通しから、同国経済の後退観測が強まった。また、国際通貨基金(IMF)は、今年の世界経済の成長見通しを下方修正。金融セクターの脆弱性から、追加的な修正にも言及した。これらにより、原油需要が弱まるとの見方が台頭した。

供給面では、米エネルギー情報局が、同国シェールガス生産が5月に、過去最高の日量933万バレルまで拡大するとの予想を発表した。

一方で、米国の週間在庫は減少。また、中国では、1~3月の経済成長率が市場予測を上回った。ただ、油価の上方圧力にはならなかった。

【4月21日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=77.87ドル(前週比4.65ドル安)、ブレント先物(ICE)=81.66ドル(前週比4.65ドル安)、オマーン先物(DME)=81.01ドル(前週5.01ドル安)、ドバイ現物(Argus)=80.90ドル(前週比4.88ドル安)

【再エネ】検討進む「前日同時市場」 蓄電池普及と両立は


【業界スクランブル/再エネ】

再生可能エネルギーの市場統合に向け、調整力確保の重要性が増しており、手段の一つとして蓄電池への期待が高まりつつある。第六次エネルギー基本計画では、再エネ併設型に加え、系統用蓄電池の導入促進にスポットライトが当たった。またGX基本方針では、経済安保や産業政策の観点から蓄電池の国内製造基盤の強化を掲げ、政策面からも大きな期待が寄せられている。

こうした流れに呼応するように昨年度、オリックス、SBエナジー、ユーラスなどが相次いで系統用蓄電池事業に参入した。一方、蓄電池活用の動きに水を差しかねないのが、「前日同時市場」創設の議論だ。

目下検討が進むこの新たな市場は、現行のJEPX(日本卸電力取引所)と需給調整市場を統廃合し、供給力と調整力を同時取引するというものである。脱炭素の実現に向けて再エネの導入拡大は不可避であり、前日同時市場の創設は、変化への対応方法として一定の合理性がある。しかし再エネ導入を後押しする蓄電池活用の観点からは、気掛かりな点もある。

例えば、調整力提供の手段となる系統用電池事業は、JEPXや需給調整市場といった、いくつかの市場取引を前提として、収益の安定化・最大化を図るビジネスモデルである。しかし、前日同時市場が導入されると、そうした収益獲得の選択肢が減ることで収益基盤が硬直的になり、収益確保の不透明性が増す懸念がある。

再エネの市場統合に向けて、制度面の手当が必要なことは論を待たない。しかしながら、現下の議論は電力市場の個別最適に寄った側面が強く、産業政策との連動に関しては心もとない。調整力を適切に確保していく観点からも、きめ細かに目配せした議論が不可欠だ。(C)

電力不祥事問題で公平性への信頼失墜 「所有権分離」議論の火種にも


【多事争論】話題:大手電力の不祥事問題

大手電力によるカルテルや顧客情報不正閲覧は、電力システム改革の根幹を揺るがした。

再発を防止し、公平・公正な競争環境を確保するためにはどのような措置が必要か。

〈  健全な競争環境確保へ 監視の在り方も問い直すべきだ

視点A:草薙真一/兵庫県立大学副学長

電力・ガス取引監視等委員会から、大手電力会社における送配電部門の顧客情報を小売り部門の職員が不正に閲覧していたという非常に残念な事案の報告が多数なされた。全ての需要家に低廉・安定な電気をもたらすために、全ての事業者に公平・多様な事業機会を与えようとする電力システム改革の根幹が大きく揺らいでいると感じたのは筆者だけではあるまい。今回の不正閲覧問題は大手電力1社の個別的な問題ではなく、全国的な送配電事業における情報の扱い方という非常に根の深い問題であることを広く国民に認識させた。

報道によれば、不正閲覧している本人はあまり悪気がなかった場合も多いことが理解された。ある大手電力は、閲覧していた社員中、電気事業法上問題になり得ると認識していたのは半分以下であるという調査結果を明らかにした。小売り部門の社員として、どんな様子で競争が生じているか眺めてみたかったのであろうか。そして、気になる顧客がスイッチングをしたか否かを知りたかったのであろうか。あるいは、新規参入者の動向を客観的に見てみたかったのであろうか。

また、別の大手電力は、コンプライアンスよりもスピードを優先したと記者会見で述べた。スイッチングをスムーズに行うには閲覧が最も早いという思いがあったということであろう。しかし、これらの思いから出る閲覧行為は、全て競争を歪める行為である。取り戻し営業の局面を考えた場合に、それは容易に理解される。大手電力が自社の小売り部門の正当な営業努力により新規参入者の顧客を奪い返した場合に、新規参入者はそのことをどう捉えるかという観点から考えたい。新規参入者からすれば、送配電部門から営業部隊が不正閲覧により情報を得て、大手電力ならではの集中力を発揮し、狙い撃ちをして奪い返したのではないかと常に疑うこととなり、その事実があろうとなかろうと、健全な競争環境を確保する上で大変不幸な状況に陥る。そのような疑念が絶対に発生しないように措置しておくことが極めて重要である。

悪質な故意の不正閲覧  一発アウトにできないか

電取委が調査した結果分かってきた事案で、明確に小売り部門の社員が閲覧した情報を直接的に営業に用いていた例や、小売り部門の社員が他の送配電部門の社員のIDとパスワードを使って新電力の顧客情報を閲覧した例があった。ここまで悪質なことをする者が出るとは、制度設計の当初は想定していなかったはずであり、これらに限れば、問題は制度の問題というよりは行為者の問題にほかならない。よって、そのような行為者を適切に罰することができるよう、電事法を改正することも制度改正の選択肢に入れるべきかもしれない。

業務改善命令を経ないで一発アウトにする「直罰方式」の導入もその一つである。そのくらい不正閲覧問題は危機的状況にあると見た方がよい。このまま社内処分に委ねてしまっては、上述のように、不正閲覧をした社員にも「勉強のため」「業務のため」など何らかの言い分が生じ、外部から見れば許しがたい行為であるにも関わらず、企業内部では甘さがその処分に出るかも知れないと考えるのは杞憂であろうか。

そのような厳しい認識を共有した上で、今すぐなすべきことは何か。まずは、全ての一般送配電事業者による、研修の実施である。その対象は全社員に及び、その内容は多岐にわたるべきであろう。大手電力の小売り部門の人が閲覧不可能なはずの送配電部門の情報を閲覧できることが分かったら閲覧せず、すぐさま送配電部門に通知せよ、という社員研修は有効であろう。災害時には閲覧可能にすることになっているので、システム上こういったことは平時にも絶対にあり得ないとは言えない。そして、新規参入者にも同様の研修を受講してもらうことに大きな意義があろう。

この種の情報漏洩は、発送電分離による競争促進の大原則を否定するものであることを銘記すべきである。そのことを受け、大手電力の内部組織として存在する一般送配電事業者は「法的分離」の現状から資本関係を切り離す「所有権分離」に進むべしとの意見もある。先述の電事法の改正による「直罰方式」の導入も、「所有権分離」との親和性が高い。仮にそこまで進まなくても、大手電力は早急に送配電部門とそれ以外の部門との情報遮断のレベルを上げる必要があるし、電取委は一般送配電事業者のコンピューターサーバーへのアクセスログ解析の徹底を試みるべきである。そのようなことを手はじめに、送配電事業の在り方のみならず、当局の監視の在り方を改善できないか、問い直すべきであろう。

くさなぎ・しんいち 慶応大学法学部卒、同大学院法学研究科単位取得。1996年神戸商科大学(当時)に就職。兵庫県立大学経済学部長兼経済学研究科長などを経て、現職。博士(法学)。

【火力】マスタープランに異議 電源と系統は車の両輪


【業界スクランブル/火力】

冬も終わり、電力需給も燃料価格も落ち着きを取り戻してきているが、物価上昇による家計への圧迫は続いており、電力会社の規制料金の扱いにも大きな関心が集まっている。

規制料金改定の審査に当たっては、経営の効率化が十分かとの観点で厳しい眼が向けられているが、「自由化されているのに規制料金が一番安い」「その規制料金で電気を売ると赤字が拡大するばかり」という状況こそが異常であり、旧一般電気事業者だけが世間からの批判にさらされるのは気の毒と言わざるを得ない。

電気は公共財なので無駄がないのに越したことはないが、別の場面の議論では、国などの方針が本当にベストの選択肢なのかと思うことがしばしばある。

例えば、先般まとめられた広域連系系統のマスタープラン案では、再エネの最大限の拡大を念頭に約7兆円をかけて送電線を増強するプランとなっている。言うまでもないが、この莫大な費用は最終的に消費者が負担することになるものだ。

本検討の基本的考え方として、系統増強の内容は需要と電源の立地などのアンバランスの度合いによると明記されている。これに基づき需要や再エネの配置については三つのシナリオで検討されているものの、主要電源かつ調整力でもある火力発電については、政府が2050年に向けて仮置きした電源構成1ケースのみで、系統側との整合を考慮した電源の最適配置や性能の向上などについては一切考慮されていないもようだ。

電力系統の安定運用は、電源・系統・需要の絶妙な連携でようやく実現されるものである。系統のマスタープランではあるが、電源側の在り方も併せて検討しなければ、S+3E実現に向けた最適な組み合わせを見出すことはできないだろう。(N)

【原子力】ALPS処理水放出 問われる「胆力」


【業界スクランブル/原子力】

原子力規制委員会の山中伸介委員長は3月10日、福島第一原発の事故から12年となるのを前に、原子力規制庁の職員を前にこう訓示した。

「規制委員会の行う安全規制は科学的な知見に基づき、技術をあるべき姿に近づけていくための仕事だ。福島第一原発のような事故を二度と起こさないために、原子力に100%の安全はないことを肝に銘じながら、常に科学技術に基づいた判断をしてください」

ただ、やみくもに安全性追求だけを訴えても、今日の複雑な問題の解決には役立たない。むしろこの12年間を踏まえ、どういう環境変化があり、それを踏まえて何を反省材料とするかをつまびらかにすべきだったのではないか。近年の原子力を取り巻く環境変化と課題、また3条機関として独立した形で規制を強化するために発足したことの反省点こそを、山中委員長は内外に示すべきだろう。

一方、福島第一原発の廃炉作業の状況はどうか。メルトダウンで溶け落ちて総量880tにも上るとされる核燃料デブリの取り出しが廃炉での最大の難関とされ、今年10月以降に2号機で計画されている。今、それに向けて調査や準備が進められている。

まず必要不可欠なのは、いまも1日100tのペースで増え続け、サイト内にたまり続けるALPS処理水への対応だ。政府は基準の40分の1まで薄めた処理水を今春から夏ごろにかけて海への放出を始める方針。放出に使う海底トンネルの工事は6月には完了する見通しで、工事の完了が近づいている。

しかし、放出には漁業者などを中心に反対の声が根強くある。海洋放出が迫る中で政府や東京電力は関係者からの理解を得られるか―。まさに「胆力」が試される。(S)

AIで社会基盤を最適化 「暗黙知」継承で生産性向上も


【エネルギービジネスのリーダー達】永田 健太郎/ALGO ARTIS社長

社会基盤を支える大企業向けに、AIによる運用計画の最適化ソリューションを提供している。

「人」に依存する技能やノウハウをシステム化し、社会全体の生産性向上にも貢献したい考えだ。

ながた・けんたろう 2008年3月大阪大学大学院理学研究科物理学専攻博士後期課程修了、インクス入社。09年8月、ディー・エヌ・エー入社し、携帯電話向けのコンテンツ開発などに携わる。21年7月にALGO ARTISを創業、社長に就任。

極めて複雑な運用計画に特化し、デジタル技術による最適化ソリューションを提供するALGO ARTIS(アルゴアーティス)。2017年にディー・エヌ・エー(DeNA)のAI(アルゴリズム)を活用した新規事業を手掛ける一部門として事業をスタートし、21年7月に独立・創業した。

AIが導き出す運用の最適解  計画策定の属人化も解消

同社のシステムの強みは、これまでのソリューションでは考慮しきれていなかったあらゆる運用上の要件を織り込んだ上で、より高い収益と低リスクの計画を短時間で自動出力し、収益向上を図ることにある。エネルギー業界では、関西電力が舞鶴発電所の燃料運用に、東北電力が石炭船の配船の最適化に同社のシステムを活用しており、年間数千万~数億円のコスト削減効果をもたらしている。

導入する企業の規模が大きいほど費用面のメリットが大きいこともあり、現在はエネルギー業界に加え、石油化学や物流商社など、重厚長大産業の計画の最適化に力を入れて取り組んでいるが、永田健太郎社長は、「当社のソリューションの効果は単にコスト削減だけではない」と強調する。

数十、数百とある運用計画上の要素を同時に考慮し、全体最適化を図ることは人間の能力をはるかに超えている。発電所や製造の現場でこれを担っているのが、限られた熟練技術者たち。同社のソリューションは、熟練技術者の経験やノウハウ、さらには現場の複雑な運用ルールをAIに落とし込むとともに、非熟練者でも直感的に操作可能なシステムを構築することで、計画策定業務の「属人化」を解消できるというのだ。

労働人口が減少していく中で、属人化したノウハウを失ってしまえば、将来の日本の生産性低下は避けられない。永田社長は、「ノウハウが存在しているうちにシステム化することで、生産性の低下に歯止めをかけるにとどまらず、むしろ現在よりも高度な運用を可能にし、社会全体の生産性向上に貢献していきたい」と意気込む。

同社のシステムは、企業側が求める要件に従って開発し納品すれば完了というものではない。実際に運用している人の「暗黙知」を含めてロジックを組み、それをベースにシステムのプロトタイプを作り、実際に使ってもらいながらエンジニアと現場が双方向にやり取りし、改善を繰り返していく。このため、プロジェクトとして成立するまでには、少なくとも半年から1年を要することになる。 

さらには導入後、継続的に活用し続けることで価値を発揮することにも重点を置く。昨今、燃料調達における地政学上の要件が目まぐるしく変化しているように、今後、さまざまな外的要因で運用が変わっていくことが予想される中で、システムがその変化に追従し常に価値を発揮するように変更していく必要がある。

そして、こうした同社の高度なソリューション提供を支えているのが、さまざまな分野での経験を持つ20人の社員たちだ。特に、半数を占めるアルゴリズムエンジニアは、国内でもトップクラスの技術者が顔をそろえている。国内外でも例のない、より複雑な課題解決のためのシステム構築に携われることが魅力となり、優秀な人材を集めることができているという。

こうしたエンジニアのトップ集団を率いる永田社長自身は、大阪大学大学院で宇宙物理学の博士号を取得したという意外な経歴の持ち主だ。「自然の真理を追究する研究分野ではトップ集団に入れないだろう」と研究者の道は早々に断念し、最初に入社したのが「金型産業の革命児」と呼ばれたインクスだった。

09年に同社が経営破綻したことをきっかけにDeNAに入社。以降、携帯電話向けのエンターテイメントサービスの開発などに携わっていたが、徐々に製造業やリアルな産業の課題解決に携わりたいという気持ちが強くなっていったという。

転機が訪れたのは17年のことだ。AIを活用した新規事業を模索し、100社以上の企業と面談し課題を探る中で、電力会社が抱える課題を解決することが社会的な意義が大きく、事業として収益モデルを描けると考え、現在のアルゴアーティスにつながるAIを活用した最適化に関するプロジェクトに着手した。

持続的な投資へ独立を決断  海外展開も視野に

DeNAから独立したのは、新しい取り組みを社会に浸透させるためには、人や資金といったリソースを適切に集中投資することが不可欠との判断から。積極的、継続的な投資による事業の成長につなげるため、外部から資金調達しつつステークホルダーとしてDeNAの支援も得て独立を果たした。

「グローバルでつながるサプライチェーン全体を最適化することができれば、さらに大きなインパクトをもたらすことができる」と語る永田社長。その視線は既に海外にも向いている。

【石油】OPEC増産か 価格動向は不透明


【業界スクランブル/石油】

今年に入り、原油価格は方向感覚を欠く不安定な動きを示している。年明けは堅調に推移したが、2月には弱含んだ。3月上旬時点では、WTI先物70ドル台後半、ブレント・ドバイ80ドル台前半で動いている。最近の上昇要因は、ロシアの経済制裁への対抗減産懸念、中国のコロナからの経済回復期待。低下要因は米欧の利上げ継続・長期化観測に基づく景気後退懸念。問題は先行きである。

最近新しい要素として挙がっているのは、次回6月のOPECプラス閣僚会合(ONOMM)における増産合意観測である。先行きの需給ひっ迫懸念に対応して、現行の日量200万バレル減産維持方針を増産に転換するのではないかとの見通しだ。

ただ、OPECプラスの期待原油価格が問題である。特に、戦費確保が必要で減産によって先進国に脅しをかけるロシアと脱炭素に向けて高めの価格誘導を図るサウジアラビアが、意図に反する増産に賛成するかは疑問だ。

また一部の専門家は、経済制裁によるロシアの中長期的な減産影響を指摘する。「ハリバートン」や「シュルンベルジュ」といった上流専業の欧米先進国企業のロシア撤退で、開発や生産の維持管理の停滞により、生産の先細り必至との見方だ。戦争長期化で、その影響が出始める時期との観測もある。脱炭素政策による投資不足、増産余力不足と相まって、中長期的懸念事項である。

国内では、6月から燃料油補助金の本格的削減が始まり、9月末には終了の予定である。国内製品価格は、補助金効果で安定的に推移し、ウクライナ戦争や円安の影響がほとんどなかった昨年とは異なり、原油価格への連動が回復することになる。その意味からも価格の先行きが心配だ。(H)

軍事侵攻開始から1年超 サプライチェーンの激変を振り返る


【論点】露・ウクライナ戦争下のエネルギー情勢/藤 和彦 ・大場紀章 ・栗田抄苗

ロシア・ウクライナ戦争が1年以上続き、世界情勢のあらゆる場面に影響を及ぼし続けている。

昨年2月下旬以降に様変わりしたエネルギー事情を、専門家がそれぞれの視点で振り返る。

「ロシア・ファクター」は一服へ  中長期の原油高騰リスクは健在

(藤 和彦 経済産業研究所コンサルティングフェロー)

ロシアのウクライナ侵攻から1年が経った。米WTI原油先物価格(原油価格)はこのところ開戦前の水準(1バレル65~75ドル)で推移している。

昨年の原油市場はロシア情勢に振り回されたと言っても過言ではない。「欧米がロシア産原油を禁輸する」との懸念から、原油価格は開戦当初、130ドルを超えたが、年半ばから下落傾向が顕著になった。インドがロシア産原油を安値で爆買いする一方、欧州は米国や中東産でその穴を埋めるという「市場の調整メカニズム」が働いたからだ。

その後、ロシア産原油に上限価格を設定する制度を導入するG7(主要7カ国)などに対し、ロシア側が報復措置を取ると反発したことから、再び供給不安が懸念されたが、制度導入後に大きな混乱は生じていない。今年1月のロシア産原油が50ドル以下に落ち込む中、タンカー運賃の低下や旺盛な需要などのおかげで、G7などが設定した上限60ドルに向けて価格が上昇している。

世界の原油市場に大きな影響を与えてきた「ロシア・ファクター」だが、筆者はようやく一段落したのではないかと考えている。

足元は各国の中央銀行の利上げによる需要減の懸念があるものの、ゼロコロナ政策を解除した中国の需要が急回復するとの期待が高まるばかりだ。サウジアラビアの国営石油会社・サウジアラムコのナセルCEOは3月初旬、「中国の原油需要は非常に強い」と語った。同様の見方を有する米金融大手ゴールドマン・サックスも「今年下半期まで世界の原油市場は供給不足に陥り、原油価格は再び100ドル超えになる」と予測する。

だが、果たしてそうだろうか。

ゼロコロナ政策が解除されても、中国人の財布のひもは堅く、住宅や耐久消費財の購入需要の戻りが鈍い。持続的な消費回復のためには雇用状況の改善が欠かせないが、さらに悪化しているとの指摘もある。製造業は回復基調にあるとされているが、経済の屋台骨である不動産市場が回復する兆しはほとんど見えていない。中国経済は構造的な課題に直面しており、ゼロコロナ政策の解除程度で経済が急速に回復するとは思えない。

世界経済も今年後半から景気後退(リセッション)入りする可能性が高まっており、「今年の原油価格は高騰するよりもむしろ下落する」と筆者は予測している。

だが、中長期的に原油価格が高騰するリスクは高いと言わざるを得ない。石油輸出国機構とロシアなどで構成するOPECプラスは、昨年11月から日量200万バレルの減産を実施しているが、実際の生産量が目標に達しない状態が続いている。

OPEC第3位の産油国であるアラブ首長国連邦(UAE)のマズルーイ・エネルギー相は2月中旬、「一部の産油国が生産や投資に苦戦している。来年の世界の原油市場は需要よりも供給がより大きな問題になる」と警告を発している。

米国の原油生産量も日量1200万バレル強で頭打ちとなっている。シェール革命やコロナのパンデミック、脱炭素のせいで、世界の原油開発部門の投資が慢性的に不足していることがその要因だ。世界の原油生産量(日量約1億バレル)は今後減少する可能性があり、そうなれば原油価格の高騰は必至だろう。

日本の原油輸入の中東依存度が98%と過去最高レベルになっている点も気掛かりだ。米国が関与を弱めつつある中東の地政学リスクをこれまで以上に警戒しなければならない。

G7 は情勢変化に翻弄され、ロシアも厳しい状況が続く

ふじ・かずひこ 1984年早稲田大学法学部卒、通商産業省(現経済産業省)入省。エネルギー分野で多数経験を重ねる。2003年~11年まで内閣官房に出向(内閣情報分析官)。21年1月から現職。

【ガス】都市ガス会社の好決算 手放しで喜べず


【業界スクランブル/ガス】

1月下旬に発表された第3四半期決算を見ると、東京ガスが3250億円と史上最高益を見通すなど、総じてLNGを輸入している都市ガス事業者は対前年で大幅に利益を伸ばしている。一方、電力会社は東京電力が5020億円の赤字を見通しているように、一様に財務状況は厳しい。電力・ガスで明暗がはっきり分かれた形だ。

ただ共通して言えるのは、高いスポットLNGを購入しなくて済んでいることだ。ウクライナ侵攻後、天然ガス不足の欧州で市場価格高騰に引っ張られる形で、北東アジア向けのスポットLNG価格も値上がりし、長期契約LNG価格の2〜3倍する状況が継続。これに伴い、日本に入着するLNGの平均価格(JLC)が引き上がっており、長期契約で需要量を確保している都市ガス事業者は、JLCよりも安価な価格でLNGを調達できており、その差分が収支上のメリットになっている。

量のリスク回避を優先して長期契約で需要量を固めてきたことが、今の環境下では経営を助ける方に効いている。現在の状況が続けば、「結果オーライ」的に高収益は継続するだろう。しかし、このメリットは他力本願で得られているものだ。

例えば、サハリン2からのLNG供給がストップした瞬間にこのメリットは消えてしまう。不足分を高価なスポットLNGで充てるからだ。欧州の天然ガス価格が下落すると、連動して北東アジアのスポットが長期契約を下回る価格に急落して、今度は安いスポットを購入できず、デメリットに変わる。

今回の高収益は決して手放しで喜べないものだ。このタイミングを好機と捉えて、中長期的なスポットLNG価格のボラティリティを前提とした、リスク管理体制をきちんと構築していくべきだろう。(G)

エネルギー安全保障は安くない


【ワールドワイド/コラム】水上裕康 ヒロ・ミズカミ代表

ロシアのウクライナ侵攻で加速したエネルギー危機を背景に「エネルギー安全保障」という言葉が大はやりだ。引き合いに出されるのは、ロシアの天然ガスへの依存を高めてしまったドイツである。

調達の現場にいた自分の感覚で言うと、エネルギー安保とは「ソースの選択肢」、「物流」および「備蓄」の確保ではないかと思う。現下の状況では、ふむふむとうなずいていただけるのだが、平時には「無駄」と言われて評判の悪いものばかりである。「選択肢」の確保とは、最適とは言えないソースも捨てないことだ。また、効率化経営では、余分な備蓄や輸送手段を持たないのが基本だ。安保は決して安くはないことを理解してもらわねばならないのだ。

ドイツの政策は、ある意味、理想的であった。脱原子力を決意した国として、再エネに注力する一方、当面、必要な火力の燃料を低炭素の天然ガスに絞り込む。主要供給元は、世界一の生産を誇り、パイプラインで大量・安定輸送が可能なロシアである。地政学的脅威であるロシアとの相互依存関係を構築するという政治的意義もある。絵にかいたような計画ではないか。ところが「鴨川の水に山法師、賽の目」の如く、世の中、意のままにはならぬこともある。従って、いまドイツはLNGを選択肢に加え、その受入基地という物流を整備し、従来にも増して備蓄を積み上げる努力をしている訳だ。

非常事態になってから繰り出す、こうした泥縄のプランは、「羹に懲りて……」ということになりがちで、高く付くことも多い。資源市場がひっ迫するたびに、割高になった権益を求めに行って失敗するのも、このパターンではないか。平時のうちに、どこまでの無駄を許容するかという議論を重ねて、継続可能な手を打っておくべきものなのだ。

【新電力】足元は安価に推移も 危険な卸市場依存


【業界スクランブル/新電力】

今冬の電力卸市場価格は、懸念された高騰もなく、穏やかに推移した。自社電源を保有しない多くの新電力は存亡の危機を逃れ、安堵していることであろう。

ただ、至近のスポット価格は下落しているとはいえ、3年前と比べLNGは依然として高い。今冬の市場価格をファンダメンタルズだけで分析するには、やや無理があり、大手発電事業者が限界費用での玉出しをせざるを得なかった事情が背景にあるものと推察される。

今後も卸市場は、一部の大手プレーヤーの思惑や動向で左右され続け、市場価格が安定推移している状況に安閑としている限り、新電力はその存続の生殺与奪を握られ、経営の安定化は到底おぼつかないままだろう。

一方で、行政による内外価格差是正の指導徹底により、2023年度の電力相対卸価格は、これまで優遇を受けていた一部の新電力も含め、例外なく、燃料費調達条項を含む限界費用に加え、固定費と一定の利潤を上乗せした価格(個人的には、これが適正価格だと考えているが)で契約したと聞く。これは、足元の電力市場価格を相当上回る水準と推定される。

自社電源を保有しない大多数の新電力は、その比率に差異があるとはいえ、卸市場と相対卸契約双方から電源の調達を行っている。足元は安価であるが一部プレーヤーの動向次第で価格が大きく変動するリスクがある卸市場と、足元は高価であるが卸市場ほど価格変動がなく燃料費調整条項の設計次第では顧客への価格転嫁が可能な相対卸契約、どちらも一長一短がある。

新電力各社は、自社にとり最適な電源調達ポートフォリオを構築するとともに、市場変動・燃料費変動リスクを最小化する独自の小売価格を設定することが経営安定化に不可欠だ。(K)

アジアゼロエミの初会合 G7控えた日本が存在感示す


【ワールドワイド/環境】

3月4日にアジアの脱炭素化で日本と各国が相互協力する枠組み「アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)」の第1回閣僚会合が開催された。会合には西村康稔経済産業大臣、西村明宏環境大臣に加え、インドネシア、ブルネイ、カンボジア、フィリピン、ラオス、マレーシア、シンガポール、タイ、ベトナム、豪州が参加した。アジア地域は高い経済成長を背景に今後の世界のエネルギー需要、CO2排出量の増分の大部分を占め、パリ協定が目指す脱炭素化の帰趨を握る。同時にウクライナ戦争などによるエネルギー価格高騰はアジア諸国に大きな負担をもたらしている。共同声明の中では、アジアの経済成長を実現しつつ脱炭素化を進めることが重要であること、脱炭素化への道筋は各国の実情に応じた多様で現実的なものであるべきこと、再生可能エネルギー、水素、アンモニア、CCUSなど幅広い技術の開発、普及が必要であることなどを内容とする共同声明が採択された。

パリ協定の下で国際社会は脱炭素化に向けた取り組みを行っているが、気候変動枠組み条約締約国会合(COP)においては、1.5℃目標、2050年カーボンニュートラルを絶対視する観点から化石燃料および化石燃料関連技術を全否定する議論が目立つ。21年のCOP26で採択されたグラスゴー気候合意には石炭火力の段階的削減が盛り込まれた。岸田文雄首相は水素、アンモニア、CCUSの重要性を強調したが、環境NGOは「化石燃料の存在を前提とした技術である」と批判し、日本に化石賞を授賞した。22年のCOP27で欧米先進国は段階的削減の対象を化石燃料火力全体に広げる提案をした(途上国の反対により、決定文書には反映されなかった)。こうしたCOPの議論は、エネルギー供給の大部分を化石燃料に依存し、需要が増大傾向のアジア地域のエネルギーの実情と乖離している。事実、AZEC会合では各国が異口同音に天然ガス投資の必要性、化石燃料使用に伴うCO2削減に対する水素、アンモニア、CCUSの重要性を強調した。

日本がAZECを提唱した背景は、各国の国情を踏まえたプラグマティックで多様な道筋と域内協力の重要性についてアジア地域の声を挙げていこうというものだ。アジア唯一のG7国である日本が23年広島サミットの前にアジア地域の声を集めた意義は大きい。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院特任教授)

【電力】市場の信頼を棄損 残念な不正閲覧問題


【業界スクランブル/電力】

昨年末以降、一般送配電事業者が保有する新電力の顧客情報が、グループ内の小売り部門により不正に閲覧されていた事案が、多数発覚している。

一般送配電事業者は電気事業法で、託送業務に関して知り得た顧客情報を託送業務以外の目的で利用あるいは提供することを禁止されている。また、その情報を適切に管理する体制を整備するよう求められている。

この対応としてまず必要なのは、他部門に開示してはいけない情報のマスキングであるが、法律の求めるシステム対応ができておらず、しかもこれがグループ内で長年問題視されずにきた意識の欠落は深刻だ。

そして関西電力が行ったアンケートに関する報道によれば、回答した小売り部門社員の4割が電事法上問題になり得ると認識しながら閲覧し、6割は問題になるとの認識がなかったというのも驚きだ。系統運用部門のように、日常的に新電力情報を扱うわけではないゆえかもしれないが。

今の電事法にはこのような情報閲覧自体を違法とする規定がない。インサイダー取引にも似た市場の信頼を棄損する行為といえ、相応の罰則を設けるべきとの意見が出るのは当然だろう。

適切な情報管理は市場の信頼を確保する肝であり、この点では電力広域的運営推進機関においてこの際点検すべきではないか。広域機関には大手・新電力を問わず小売り・発電部門からの出向者がいる一方、各発電・小売り事業者の供給計画や需給計画の情報が集まってくる。これらの情報を持ち出しはしないという誓約書は作っていると聞くが、それだけで十分なのか。この機に適切なガバナンスを模索するべきだろう。(U)

※3月号本欄で「再稼働したら値上げする」とあるのは「再稼働したら値下げする」の誤りでした。訂正します。

【マーケット情報/4月14日】原油続伸、景気と需要回復の見通し


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み続伸。米国経済のインフレ緩和から、景気と需要回復の見通しが広がった。

米国では、3月の消費者物価指数の伸びが前月から鈍化。前年同月比での上げ幅は、2021年5月以来の最小となった。これにより、米連邦準備理事会による金利引き上げのペースが緩み、景気が改善し、原油需要が増加するとの見方が強まった。

また、フランスでは、労働者ストライキのため停止中だった製油所および港湾施設が再稼働。原油消費が戻るとの観測が台頭した。

供給面では、米エネルギー情報局が、OPECプラス8カ国による自主的な追加減産を受け、世界の原油生産量の予想を下方修正。国際エネルギー機関も、供給が需要を一段と下回るとの予測を発表した。

一方、米メキシコ湾では、英石油メジャーBPがオフショア油田で新規生産を開始。ただ、油価への影響は限定的だった。

【4月14日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=82.52ドル(前週比1.82ドル高)、ブレント先物(ICE)=86.31ドル(前週比1.19ドル高)、オマーン先物(DME)=86.02ドル(前週2.12ドル高)、ドバイ現物(Argus)=85.78ドル(前週比1.14ドル高)

※4月7日はロンドンおよびシンガポールが祝日で休場だったため、4月6日との比較。

重要法案成立で再エネ加速へ ドイツの野心的目標と課題


【ワールドワイド/経営】

ドイツでは、今年1月~2月にかけて「改正再エネ法」や「陸上風力法」などの重要法令が施行された。

前者が掲げる「2030年までに電力消費に占める再エネの割合を80%にする」という目標に向けて、風力・太陽光の導入ペースを従来の3倍に加速する方針だ。ショルツ首相は「30年まで、1日に平均4~5基のペースで陸上風力タービンを建設する」と約束しているが、実現可能なのか。

導入拡大の追い風となる動きもある。ロシアのウクライナ侵攻を契機にエネルギー安全保障がクローズアップされ「自立のためのエネルギー」である再エネの重要性が再認識された。一般家庭では、電気料金高騰対策として自家発自家消費への関心が高まり、ルーフトップPVがブームとなっている。需要の急拡大にパネル設置業者の対応が追い付かず、順番待ちリストができているという。

陸上風力に関しては、連邦政府が各州の立地規制への介入を強めている。冒頭で挙げた陸上風力法は、「30年目標達成のため国土の2%に風力タービンを設置する」方針の下、全16州に対して拘束力のある目標を設定している。例えば、風況に恵まれ全国で風力導入量が最多のニーダーザクセン州では、32年までに州面積の2・2%を風力タービンが設置可能な区域に指定する必要がある。目標未達の州に対しては、風力タービンと住宅地の離隔距離を規制する州法令を無効化し、政府目標の達成を優先する。

野心的な目標の前に、課題も山積している。世界的なインフレによる原材料価格の高騰は、再エネ開発事業者の投資意欲に悪影響を及ぼす可能性がある。許認可手続きのさらなる迅速化や、再エネ開発に従事する技術者の育成・確保も大きな課題である。また、30年目標を達成したとしても、天候に左右されない調整電源は引き続き必要になる。このため、連邦政府は天然ガス火力・バイオマスなどの発電設備容量を倍増させる方針である。

脱原子力・脱石炭を選択したドイツにとって、再エネ導入と調整電源の確保は将来の電力安定供給の要である。これらに十分な投資が集まらなければ、ドイツは供給力不足を回避するため他国からの電力輸入への依存を強めざるを得ない。脱石炭のため電力市場から退出させた石炭火力を、予備電源として使い続けることも考えられる。野心的な目標を理想のままで終わらせないために、ショルツ政権の奔走は今後も続く。

(佐藤 愛/海外電力調査会・調査第一部)