【Vol.4 もんじゅ最判①】森川久範/TMI総合法律事務所弁護士
「もんじゅ」の原子炉設置許可の是非をめぐる訴訟では、2005年5月の最高裁判決で国が逆転勝訴した。
設置許可処分が違法・無効だとした控訴審の判断を、最高裁はどういった理由から覆したのか。
前回までに伊方最高裁判決(伊方最判)の理論構成について考察した。今回から2回にわたり、伊方最判で示された判断枠組みの論理を、具体的な事案に当てはめる手法を示した高速増殖炉「もんじゅ」に関する最高裁判決(2005年5月30日、もんじゅ最判)を扱う。
第2次控訴審で国が逆転勝訴 最高裁が処分無効と判断
もんじゅ最判は、1983年5月27日に動力炉・核燃料開発事業団(判決時・核燃料サイクル開発機構、現・日本原子力研究開発機構)に対して、内閣総理大臣が行ったもんじゅの原子炉設置許可処分(本件処分)について、周辺住民らが85年に本件処分の無効確認を求める訴訟(もんじゅ訴訟)を提起したことに対する最高裁の判断である。
使用済み燃料から抽出したプルトニウムとウランを用いて作られたMOX燃料を高速炉で燃やして発電に利用する「核燃料サイクル」の中核がもんじゅであった。しかしトラブルが続き、2018年3月にもんじゅの廃止措置が原子力規制委員会により認可された。ただ、核燃料サイクルは資源の有効利用、高レベル放射性廃棄物の減少、放射能レベルの低減などに貢献することから、21年の「エネルギー基本計画」ではサイクル政策を推進する方針が示されている。
伊方最判は処分の取消訴訟に係る判例であったが、もんじゅ最判は処分の無効確認訴訟である。取消訴訟は処分があったことを知った日から3カ月(当時、現在は6カ月)の間に訴訟の提起が必要という期間制限があるが、周辺住民らの訴訟提起が間に合わなかったために、そのような期間制限がない無効確認訴訟を提起したことによる。もっとも、取消訴訟では、争点となる処分が違法であれば取り消されることになるが、無効確認訴訟では、問題とする処分の「違法が重大かつ明白である」と認められなければ無効とはならないとされている。無効確認訴訟はほとんど勝ち目のない訴訟というのが実務的な感覚である。ちなみに無効「確認」訴訟となっているのは、処分が無効であればその処分はそもそも存在しないため、処分が無効であることを確認することしかできないためである。
ところで、このもんじゅ訴訟の過程は大きく二つの段階に分かれている。一つ目の段階では、「周辺住民らに訴訟を提起する資格(原告適格)があるか否か」が争点となった。1992年9月22日に最高裁がこの点を判断して、周辺住民らにこの資格を認め、1審から訴訟のやり直しを命じた。
そして、やり直しとなった訴訟が二つ目の段階であり、「本件処分が無効か否か」を争点とする審理が行われた。この訴訟が1審に係属中の95年12月、もんじゅの試運転中に2次主冷却系配管のナトリウム温度計が破損してナトリウムが漏れ、空気中の酸素と反応してナトリウム火災が起こり、この事故は訴訟でも議論された。
1審(福井地裁)では、本件処分に重大かつ明白な違法があるとはいえないと判断されたが、控訴審(名古屋高裁金沢支部)では、本件処分が無効であるというためには違法の重大性をもって足りるとした(すなわち違法が明白であることは不要)。その上で、2次冷却材漏えい事故(原子炉出力運転中に何らかの原因で2次主冷却系配管が破損しナトリウムが漏えいする事故)、蒸気発生器伝熱管破損事故(原子炉出力運転中に、何らかの原因で蒸気発生器の伝熱管が破損し、水または蒸気がナトリウム側に漏えいし、ナトリウム・水反応が生じる事故)、1次冷却材流量減少時反応度制御機能喪失事象(外部電源喪失により1次冷却材ナトリウムの炉心流量が減少し原子炉の自動停止が必要とされる時点で、制御棒の挿入の失敗が同時に重なることを仮定した事象)の各安全審査において、本件処分を無効とする重大な違法があると判断した。わが国で初めて設置許可処分を違法・無効と判断したものであった。
そして控訴審で敗訴した国が上告したことに対して、最高裁として判断を示し、国を逆転勝訴させたのが、もんじゅ最判である。
安全審査対象範囲の決定 行政機関に技術的裁量あり
もんじゅ最判で判例として重要な論点は表の通りである。結論として、本件処分がそもそも違法ではないと判断した。控訴審が、原子炉設置許可処分が無効となるためには違法の重大性だけで足りると判断した点に関しては、最高裁として何ら判断していない。つまり、この点についての控訴審の判断は最高裁によって認められたものではない。
表=もんじゅ最判の重要論点
もんじゅ最判では、論点①について「規制法の規制の構造に照らすと、原子炉設置の許可の段階の安全審査においては(中略)基本設計の安全性にかかわる事項のみをその対象とするものと解するのが相当である」として、伊方最判の判断枠組みを踏襲した。伊方最判と同様、原子炉等規制法24条2項(当時)が、基準の適合性についてあらかじめ原子力安全委員会(当時)の意見を聴きこれを尊重しなければならない、との手続きを定めている趣旨が、実質的に専門技術的裁量を認めるものであることを指摘。その趣旨にかんがみると、どのような事項が原子炉設置の許可の段階における安全審査の対象となるべき基本設計の安全性にかかわる部分かという点も、基準の適合性に関する判断を構成するものとして、専門技術的裁量があることを新たに指摘した。
要するに、何が基本設計の安全性に関わる事項か、すなわち、どこまでを原子炉設置許可段階の安全審査の対象とするかを決めることについても、行政機関に専門技術的裁量があるとした。この点について、もんじゅが研究開発段階の原型炉であることなどから、ほかの実用炉とは基本設計の範囲に関しても別に扱うべきであるとの意見もある。だが、原子炉等規制法はことさらもんじゅを特別扱いしていないため、原子炉等規制法の法解釈からは困難であろう。
次回では、もんじゅ最判が論点②~④についてどのように判断したかを解説する。
・【検証 原発訴訟 Vol.1】 https://energy-forum.co.jp/online-content/8503/
・【検証 原発訴訟 Vol.2】 https://energy-forum.co.jp/online-content/8818/
・ 【検証 原発訴訟 Vol.3】 https://energy-forum.co.jp/online-content/8992/
もりかわ・ひさのり 2003年検事任官。東京地方検察庁などを経て15年4月TMI総合法律事務所入所。22年1月カウンセル就任。17年11月~20年11月、原子力規制委員会原子力規制庁に出向。