【石油】サウジのバランス感覚 OPEC+の増産拡大


【業界スクランブル/石油】

OPECとロシアなど主要産油国から成る「OPECプラス」が、6月2日閣僚級会合で7、8月の増産を従来の日量43.2万バレルから64.8万バレルに拡大した。EUがロシア産石油の原則輸入禁止を決め、石油需給のひっ迫が予想される中、多方面から期待されていたものだ。特に、中間選挙を控えるバイデンの国内ガソリン価格抑制のための度重なる要請に応えた。

他方、友好国ロシアの代替供給先になることは避けた。そのため、9月の増産分を7、8月に前倒しする形とした。さらに、経済制裁によるロシア減産量は、4月日量100万バレル、5月以降300万バレルとみられるが、その規模から見ると、増産は焼け石に水、原油価格水準に影響するものでもない。米国配慮のポーズをとりつつ、協調国ロシアへの仁義も欠かさない。主導国サウジアラビアの絶妙なバランス感覚を久々に見た。

そもそもOPECプラスはシェールオイルで最大産油国となった米国に対抗し、サウジ・ロシアの協調・主導で需給調整を行う組織である。シェール増産による需給緩和・価格暴落に対応して、2017年から協調減産、20年のコロナ禍による需要激減下でも、史上最大日量990万バレルの減産で対応、価格を回復させた。その意味では、石油市場では米国がライバルであり、FT紙は、サウジ・ロシア関係を「石油同盟」と評した。しかも、米国は、シェール革命でエネルギー自立達成、軍事的には中東撤退で、イラン勢力の伸長を招いた。さらに、バイデンは記者殺害や女性人権などでサウジに批判的。おそらくイランの脅威がなければ、米国との伝統的同盟関係は解消されているであろう。サウジと米国、ロシアには、同盟関係のねじれが生じている。(H)

【検証 原発訴訟】控訴審の「違法」判断覆す もんじゅ最高裁判決の論点とは


【Vol.4 もんじゅ最判①】森川久範/TMI総合法律事務所弁護士

「もんじゅ」の原子炉設置許可の是非をめぐる訴訟では、2005年5月の最高裁判決で国が逆転勝訴した。

設置許可処分が違法・無効だとした控訴審の判断を、最高裁はどういった理由から覆したのか。

 前回までに伊方最高裁判決(伊方最判)の理論構成について考察した。今回から2回にわたり、伊方最判で示された判断枠組みの論理を、具体的な事案に当てはめる手法を示した高速増殖炉「もんじゅ」に関する最高裁判決(2005年5月30日、もんじゅ最判)を扱う。

第2次控訴審で国が逆転勝訴 最高裁が処分無効と判断

もんじゅ最判は、1983年5月27日に動力炉・核燃料開発事業団(判決時・核燃料サイクル開発機構、現・日本原子力研究開発機構)に対して、内閣総理大臣が行ったもんじゅの原子炉設置許可処分(本件処分)について、周辺住民らが85年に本件処分の無効確認を求める訴訟(もんじゅ訴訟)を提起したことに対する最高裁の判断である。

使用済み燃料から抽出したプルトニウムとウランを用いて作られたMOX燃料を高速炉で燃やして発電に利用する「核燃料サイクル」の中核がもんじゅであった。しかしトラブルが続き、2018年3月にもんじゅの廃止措置が原子力規制委員会により認可された。ただ、核燃料サイクルは資源の有効利用、高レベル放射性廃棄物の減少、放射能レベルの低減などに貢献することから、21年の「エネルギー基本計画」ではサイクル政策を推進する方針が示されている。

伊方最判は処分の取消訴訟に係る判例であったが、もんじゅ最判は処分の無効確認訴訟である。取消訴訟は処分があったことを知った日から3カ月(当時、現在は6カ月)の間に訴訟の提起が必要という期間制限があるが、周辺住民らの訴訟提起が間に合わなかったために、そのような期間制限がない無効確認訴訟を提起したことによる。もっとも、取消訴訟では、争点となる処分が違法であれば取り消されることになるが、無効確認訴訟では、問題とする処分の「違法が重大かつ明白である」と認められなければ無効とはならないとされている。無効確認訴訟はほとんど勝ち目のない訴訟というのが実務的な感覚である。ちなみに無効「確認」訴訟となっているのは、処分が無効であればその処分はそもそも存在しないため、処分が無効であることを確認することしかできないためである。

ところで、このもんじゅ訴訟の過程は大きく二つの段階に分かれている。一つ目の段階では、「周辺住民らに訴訟を提起する資格(原告適格)があるか否か」が争点となった。1992年9月22日に最高裁がこの点を判断して、周辺住民らにこの資格を認め、1審から訴訟のやり直しを命じた。

そして、やり直しとなった訴訟が二つ目の段階であり、「本件処分が無効か否か」を争点とする審理が行われた。この訴訟が1審に係属中の95年12月、もんじゅの試運転中に2次主冷却系配管のナトリウム温度計が破損してナトリウムが漏れ、空気中の酸素と反応してナトリウム火災が起こり、この事故は訴訟でも議論された。

1審(福井地裁)では、本件処分に重大かつ明白な違法があるとはいえないと判断されたが、控訴審(名古屋高裁金沢支部)では、本件処分が無効であるというためには違法の重大性をもって足りるとした(すなわち違法が明白であることは不要)。その上で、2次冷却材漏えい事故(原子炉出力運転中に何らかの原因で2次主冷却系配管が破損しナトリウムが漏えいする事故)、蒸気発生器伝熱管破損事故(原子炉出力運転中に、何らかの原因で蒸気発生器の伝熱管が破損し、水または蒸気がナトリウム側に漏えいし、ナトリウム・水反応が生じる事故)、1次冷却材流量減少時反応度制御機能喪失事象(外部電源喪失により1次冷却材ナトリウムの炉心流量が減少し原子炉の自動停止が必要とされる時点で、制御棒の挿入の失敗が同時に重なることを仮定した事象)の各安全審査において、本件処分を無効とする重大な違法があると判断した。わが国で初めて設置許可処分を違法・無効と判断したものであった。

そして控訴審で敗訴した国が上告したことに対して、最高裁として判断を示し、国を逆転勝訴させたのが、もんじゅ最判である。

安全審査対象範囲の決定 行政機関に技術的裁量あり

もんじゅ最判で判例として重要な論点は表の通りである。結論として、本件処分がそもそも違法ではないと判断した。控訴審が、原子炉設置許可処分が無効となるためには違法の重大性だけで足りると判断した点に関しては、最高裁として何ら判断していない。つまり、この点についての控訴審の判断は最高裁によって認められたものではない。

表=もんじゅ最判の重要論点

もんじゅ最判では、論点①について「規制法の規制の構造に照らすと、原子炉設置の許可の段階の安全審査においては(中略)基本設計の安全性にかかわる事項のみをその対象とするものと解するのが相当である」として、伊方最判の判断枠組みを踏襲した。伊方最判と同様、原子炉等規制法24条2項(当時)が、基準の適合性についてあらかじめ原子力安全委員会(当時)の意見を聴きこれを尊重しなければならない、との手続きを定めている趣旨が、実質的に専門技術的裁量を認めるものであることを指摘。その趣旨にかんがみると、どのような事項が原子炉設置の許可の段階における安全審査の対象となるべき基本設計の安全性にかかわる部分かという点も、基準の適合性に関する判断を構成するものとして、専門技術的裁量があることを新たに指摘した。

要するに、何が基本設計の安全性に関わる事項か、すなわち、どこまでを原子炉設置許可段階の安全審査の対象とするかを決めることについても、行政機関に専門技術的裁量があるとした。この点について、もんじゅが研究開発段階の原型炉であることなどから、ほかの実用炉とは基本設計の範囲に関しても別に扱うべきであるとの意見もある。だが、原子炉等規制法はことさらもんじゅを特別扱いしていないため、原子炉等規制法の法解釈からは困難であろう。

次回では、もんじゅ最判が論点②~④についてどのように判断したかを解説する。

・【検証 原発訴訟 Vol.1】 https://energy-forum.co.jp/online-content/8503/

・【検証 原発訴訟 Vol.2】 https://energy-forum.co.jp/online-content/8818/

【検証 原発訴訟 Vol.3】 https://energy-forum.co.jp/online-content/8992/

もりかわ・ひさのり 2003年検事任官。東京地方検察庁などを経て15年4月TMI総合法律事務所入所。22年1月カウンセル就任。17年11月~20年11月、原子力規制委員会原子力規制庁に出向。

【コラム/7月20日】EUにおけるガス供給のセキュリティに関する規制枠組み


矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

EUでは、域内で消費するガスの4割近くは、ロシア産であり、ガスのロシア依存度は他のエネルギー種より高い(2021年)。しかも、輸入のほとんどをロシアに依存する国も多い。さらに、過去にロシアからのガスの供給支障も経験していることから、EUのエネルギーセキュリティに関する文書を読むと、ガス供給のセキュリティに大きな重点が置かれていることが分かる。そこで、本コラムでは、EUにおけるガス供給のセキュリティに関する規制枠組みのポイントを紹介し、わが国の参考にしたい。

EUにおけるガスの供給確保に関しては、「ガスの供給保障を確保するための措置に関する規制」(2017年10月25日)で、EUの緊急事態への備えと供給途絶に対するレジリエンスのための枠組みが規定されている。同規制では、共通の供給リスクを評価し(コモンリスクアセスメント)、共同の予防・緊急対策を策定するための地域グループにおける加盟国間の協力などが定められている。また、加盟国が策定する予防行動計画や緊急時対応計画には、コモンリスクアセスメントと国別のアセスメントに基づき特定されたリスクの除去・軽減策や、ガス供給の途絶による影響の除去・軽減措置が含まれる。

加盟国は、極端な供給支障が生じた場合でも、「保護すべき消費者」に対して確保すべき消費量を保証する措置を講じることが求められている。そのため、極度の供給支障が生じた場合に機能するガス供給に関する連帯メカニズムについての協定を近隣加盟国との間で結び、最も弱い立場の消費者が、厳しい状況下でも引き続きガスを利用できるようにすることが義務づけられている。

また、欧州委員会は、ウクライナ危機を踏まえて2022年3月23日に発表した「供給の安定性と手頃なエネルギー価格に関するコミュニケーション」の中で、ガス市場における問題の根本原因に対処し、来冬以降も適正な価格での供給の安定を確保するための方策を提案した。この提案には、2022年11月1日までに最低80%のガスの貯蔵レベル確保の義務を課し、次年度以降はこれを90%に引き上ることが含まれている。

ガスの貯蔵設備、とくに地下貯蔵設備は、ガス供給の安全保障に不可欠である。欧州では、通常、冬季に消費されるガスの25〜30%が貯蔵ガスにより供給される。2021年には、ガス価格が高騰したが、その原因の一つとなったのは、貯蔵レベルが通常より低かったことである。さらに、2022年初頭のロシアのウクライナ侵攻以降、地政学的緊張が高まり、供給の不確実性が増した。これらの出来事が、来るべき冬に向けて十分なガス貯蔵を確保する必要性を高めた。

ガス貯蔵量の確保で重要なのは、負担分担の仕組みである。EU諸国には、自国の消費量を上回る貯蔵容量を有する施設を持つ国から、まったく貯蔵施設を持たない国まで存在する。後者は、前者の貯蔵設備に年間消費量の15%に相当する量を確保することが求められる。または、貯蔵設備を有する国々は、それを有さない国々と負担を公平に分担するメカニズムを共同で開発することが求められている。

EUでは、2006年と2009年におけるロシアとウクライナの間のガス料金を巡る紛争により、欧州向けのガス供給に支障が生じたことを契機に、ガスの供給保障、とくにガス輸送の中断への対応が、エネルギーセキュリティ政策の重大な関心事となった。そのため、EUでは、ガスの供給中断が及ぼす影響についてのスタディが何度も行われている。そこで重視されているのが、加盟国間の連帯である。EUにおいては、個々の国の置かれた立場の違いからエネルギーセキュリティ確保に関しては、統一的な行動をとることは必ずしも容易ではなかった。そのため、「団結」の必要性が、繰り返し強調されてきた。今回のウクライナ危機で、ガスの共同調達に関するタスクフォースを立ち上げ、需要をプーリングすることで購買力を強化することが決まったが、そこには、セキュリティ確保に関する加盟国間の団結が強まっていることを見て取れる。

EUにおけるエネルギーセキュリティ確保に関する規制枠組みは、わが国でも参考にすべきところが多い。わが国においても、特定の国からの供給遮断に関する様々なシナリオと、それが発生した場合の対応策を事前に策定しておく必要があるだろう。そのさい、わが国全体での協力関係を築いていくことが重要であり、保護すべき需要家に対しての必要最小限度のエネルギーの確保方策を策定することが求められるだろう。折しも、この原稿の作成中に、日本も出資する石油・ガス複合開発事業であるサハリン2をロシアが国有化するというニュースが報道された。このような事態に対して、わが国は、危機管理能力を高めていかなくてはならないだろう。

【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授などを歴任。東北電力経営アドバイザー。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。

技術由来の変革に対応できるか 半歩先の脱炭素ビジネスを提案


【エネルギービジネスのリーダー達】埼玉浩史/クリーンパワーアソシエイツ代表取締役

エネルギー投資ファンドや新電力経営で名をはせた埼玉浩史氏が、新ビジネスを始動させた。

脱炭素に向けた急ピッチな変革に企業が対応できるよう、経験を生かした提案を行っていく。

さいたま・ひろし
1988年日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。2009年Fパワー設立。18年代表取締役会長兼社長。21年4月にクリーンパワーアソシエイツを設立し現職。

 脱炭素化に向けて経済や生活様式が目まぐるしく変革する時代に突入している。「これから世界は大変革時代を迎える。企業は現在の延長線上での考えにとらわれず、不連続な世界へ対処していく準備が不可欠」。こうした信念から、これまで金融、エネルギー業界に長く身を置いてきた埼玉浩史氏が、新会社「クリーンパワーアソシエイツ(CPA)」を設立した。準備期間を経て今春から本格始動している。「脱炭素」、そして「エクスポネンシャル・テクノロジー」をキーワードに、半歩先を行くエネルギービジネスを提案していく考えだ。

一つ目のキーワード・脱炭素の重要性は言わずもがなだが、現状では再生可能エネルギーに代表されるグリーン技術に偏重する傾向にある。本来目指すべき脱炭素社会はグリーン技術の追求だけでは到達し得ないはずだが、原子力や化石燃料の有効利用も包含したビジネス展開はあまり見当たらない。埼玉氏がこれまで蓄積してきたノウハウを活用し、企業に対して脱炭素にフォーカスした提案を行っていく余地があるとみている。

そのためには二つ目のキーワード「エクスポネンシャル・テクノロジー」が欠かせないと言う。VR(バーチャルリアリティー)やAI、ビッグデータ分析、自動運転、シェアリングエコノミーなど、今後の社会変革を担う技術を指す。

現状の延長線上では対応できず パッチワーク対応から脱出を

「現在は、馬車から蒸気自動車、そしてエンジン車へと置換した時と同様の局面にある。自動運転やシェアリングが普及し、自動車製造だけでは生き残れない時代があと数年で到来する。今後、オセロをひっくり返すようなインパクトがあちこちで起きる」(埼玉氏)

しかし変革への対応の遅れは随所で見られ、エネルギー業界も例外ではない。半世紀前に電力・都市ガス会社がLNG導入を決断したような先見の明が、まさに今求められているという。

では、エネルギーのビジネスチャンスはどんなところに芽生えていくのか。

一例として、ブロックチェーン(分散型台帳)を活用し、特定の再エネ電気を需要家間で最適融通するといったモデルが徐々に試行されているが、これが定着していくと系統の役割もおのずと変わってくる。他方、少子高齢化で人口が都市部に一層集中する中、地方に偏在する再エネの地産地消化だけでは安定供給は確保できない。例えば、データセンターの電力需要には原子力を活用するなど、家庭用の供給の在り方とは別に考える必要があるのではないか。それに即した発電事業や燃料調達の在り方はどうあるべきか―。こうした思考を巡らせると、過去からの延長戦略の限界が見えてくる。

埼玉氏は「未来からバックキャストし、どういった取り組みや政策に注力すべきか、それを国民でどう負担するかを詰めなければならない。今のパッチワーク的な対応からの脱出が第一歩となる」と強調。海図なき時代には課題〝設定〟能力が重要になるとの考えに立ち、「業界に寄り添うだけでなく、半歩先を見通してお手伝いすることが当社の目的だ」と続ける。

新電力業界はむしろ好機 自由化さらに進展へ

現在の課題にフォーカスすると、電力調達価格の振れ幅が拡大し、新電力の撤退・倒産が加速、需要家が最終保障供給に流れ込む事態が多発している。かつて新電力経営で困難に直面した埼玉氏。現状は、当時経験したことがここ数年で広範囲に鮮明化してきており、その時の知見は電力自由化が新たなステージに進む上で意味のあるものになり得ると語る。むしろ今は新電力にとって苦境ではなく、新しい発想の提案ができる好機と捉える。

事業継続を選択した事業者は、調達価格のリスクヘッジに頭を悩ませているが、「市場連動メニューの導入を選択するなら、今後先物でヘッジする手段が得られ、フォワードカーブをベースに新電力自らの判断でリスクとリターンを取れるようになる」。金融界では当たり前のこうした仕組みを、電力業界にも導入することが欠かせないと強調する。

需要家側も、価格変動を受け入れるのか、少し高値でも定額を望むのかといった固定と変動の選択肢を選ぶことが可能になる。「もう、総括原価方式に戻ることはない。供給側だけでなく需要家側ともリスクとリターンをシェアし、自由市場化をさらに進めるための制度を考えなければならない」と訴える。

新会社経営に当たっての心構えを聞くと、「時中」との答えが返ってきた。「これだけの大変革時代には『時中』、つまりタイミングとポジションを常に意識し最適な対応を取ることが肝要。そして20~30代の若い世代とともに、激動期のビジネスに参戦できたら面白い」。新たなフィールドで、再びエネルギー業界の荒波に乗り出そうとする姿勢が印象的だ。

【ガス】LNG確保に必死の欧州 日本は危機感が欠如


【業界スクランブル/ガス】

ウクライナ危機によってLNG需給状況は激変している。特に、長期契約の余剰分であるスポットLNGは2026年ごろまで欧州各国が全量押さえてしまったとの情報も聞こえてくる。一昨年冬のLNG不足は石炭火力停止に伴う中国エネルギー企業のスポット買いあさりが原因の一つといわれている。また、冬場の需要が夏場の10倍に及ぶ韓国は長年冬場のスポットLNGに依存してきた。そこに、欧州各国がスポット購入競争に参入してくるのだ。

仮に液化トレイン故障などで長期契約分の供給量が減少した場合、日本買い主は減少分の手当を容易にはできないことになる。サハリン2からの長契LNG輸入がストップする可能性もゼロではない。もちろん、TTFより高値を出せば購入できる可能性もあるが、とてつもなく高価なLNGとなろう。特に冬場の需要期には相当危機的な状況が起こり得る。

今年2月、JERAが長年購入してきたカタールの長契更改を行わなかったとの報道があった。カタールは黎明期から中部電力を中心に日本買い主が支えてきたプロジェクトで、3.11の時はスポットLNGを優先的に融通してくれた実績もある。JERAが更改しなかった理由として、仕向け地条項に関する公正取引委員会の判断があったともいわれている。

一方、ロシア産ガスの依存度を下げたいドイツはカタールとの間で、LNG長期契約を含む協力関係強化で合意したとの発表を5月に行った。EUも長年仕向け地条項撤廃に向けて動いてきたが、今回はエネルギー安全保障の観点で目をつむって世界最大級のLNG生産国カタールとの関係構築を優先させたのだとすると、日本のエネルギー安全保障に対する危機感欠如が問われることになろう。(G)

【マーケット情報/7月18日】欧米原油が下落、需要後退の予測


【アーガスメディア=週刊原油概況】

7月11日から18日の一週間における原油価格は、米国原油を代表するWTI先物、および北海原油の指標となるブレント先物が下落。経済減速を背景とした需要後退の予測が、価格の重荷となった。

中国では、上海など一部地域で、新型コロナウイルスの感染が再拡大。ゼロコロナ対策にともなう厳しい制限が再度敷かれるとの懸念が台頭した。また、国際エネルギー機関は、エネルギー価格の高騰と経済の冷え込みを要因に、2022~23年の石油需要予測を下方修正した。

供給面では、ロシアがカスピ海パイプライン・コンソーシアム(CPC)輸出港の停止命令を撤回。カザフスタン産の供給不安が解消された。

一方、中東原油を代表するドバイ現物は、前週から上昇。米国バイデン大統領のサウジアラビア訪問を受け、サウジ外相が16日、原油増産の確約は出来ないと発言。また、リビア国営石油は、原油出荷のフォースマジュールを解除。ただ、政情不安は続いており、引き続き供給は安定しないとの見方が強い。

【7月18日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=102.60ドル(前週比1.49ドル安)、ブレント先物(ICE)=106.27ドル(前週比0.83ドル安)、オマーン先物(DME)=102.68ドル(前週比0.64ドル高)、ドバイ現物(Argus)=102.23ドル(前週比0.78ドル高*)

*11日がシンガポール休場のため、ドバイ現物のみ12日との比較。

【新電力】未納金450億円 問われる在るべき姿


【業界スクランブル/新電力】

 託送料金・インバランス料金の未納額が2020年4月から22年4月までの2年間で450億円に上ると報じられている。当然ながら、託送収支の悪化につながるものであり、新電力撤退の増加に伴い、未納額の総額は膨らむ可能性がある。この状態は真面目に事業運営を行っている新電力にとっても不幸である。既に新電力は、インターネット上で「転売ヤー」といった批判を浴びており、非常に厳しい立場に追い込まれている。自身が率先して業界の在るべき姿、業界秩序を正していくべきではなかろうか。

なぜこのような状況に陥っているのだろうか。現在の環境は、容量市場の導入が遅れているにもかかわらず、自由化の枠組みが進展したことで、固定費回収ができなくなった火力発電所が廃止され、供給力不足が起きたことのあおりを受けている側面と、国際的なエネルギー価格が上昇しているという二つの側面がある。特に前者については、過去数年間の破滅的な価格競争や、容量市場の受渡開始時期前倒しの議論を止めてしまった代償を払っているといえる。

小売り電気事業者のビジネスモデルは、2000年の部分自由化以来、「価格が安い」以外の価値がなかったが、いよいよ限界に達している。小売り電気事業者は市場価格連動でなくては自社のリスクを過大に抱えることになる。

他方、最終保障契約が市場価格連動となったことで、燃料価格や電力市場価格が低下したときには、小売り電気事業者の価格よりも、最終保障契約の方が割安となる可能性がある。小売り電気事業者は「安定した価格で安定的に電力供給を行う」機能を需要家に提供していくことになるが、新電力が単独で生き残る姿が見えない。新電力の将来は暗い。(M)

【電力】首をかしげる主張ばかり 再エネTFは廃止を


【業界スクランブル/電力】

 河野太郎前規制改革担当相の肝いりで発足した再エネ等規制等総点検タスクフォース(TF)だが、もう廃止した方がよいのではないか。

もともと規制改革推進会議ではエネルギー問題は投資等ワーキンググループが取り組んできており、知見を有する委員が総理から指名されている。つまりTFは屋上屋なのであり、河野大臣の交代とともに本来の姿に戻すべきだった。

そのようにならなかったのは、後任の牧島かれん大臣が河野前大臣と同じ自民党神奈川県連だからという話も側聞するが、真偽は定かではない。

自然エネ財団関係者が2人入ったのは河野大臣人脈だろう。経済産業省OBも2人加わって、そこそこバランスが取れた議論になるのかなと当初想像したが、そのようなことは全くなかった。

住宅の省エネ基準に切り込むなど良い取り組みもしていることは理解する。他方、電力分野は首をかしげるものばかりだ。先日の「2022年3月の福島沖地震による停電や需給逼迫警報を受けた提言」で「火力発電への投資も原発の再稼働も解決策になり得ない」と主張するに至っては、情報源の偏りが深刻で、ほぼデマと言ってもよい。

加えて、「悪天候により太陽光が十分に発電しなかったと、再生可能エネルギーの責任を問う声があるが、筋違い」と来ては、火力・原子力サゲと再エネアゲへの先鋭化が過ぎないか。これが一定の政治力を持って「再エネ最優先」のスローガンを振り回すのは危うさしか感じない。

再エネが良いものなら普通に選択されるはずだ。不足ならカーボンプライスなどで後押しすればよい。こんなスローガンは本来不要だ。偏った主体にこん棒のように振り回されれば、害しかない。(U)

英国の再エネ接続は最大10年待ち


【ワールドワイド/コラム】水上裕康 ヒロ・ミズカミ代表

フィナンシャルタイムズによれば、英国では変動再エネ(VRE)の系統接続が6~10年待ちになっているとのこと。このため、昨年のCOP26やロシアのウクライナ侵攻で盛り上がるVRE大量導入計画に暗雲が立ち込めている。この国の送配電を独占的に担うナショナル・グリッドに不満が集まるが、どうやら問題は規制当局のOfgemが、系統の強化費用を託送料(最終的には電気料金)に転嫁することを渋っていることが根っこにあるようだ。

日本でもVRE大量導入に向け、地域間連系線の強化がうたわれているが、必要なのはそれだけではないはずだ。現に英国は国営電力庁時代から全国的に整備したネットワーク型の系統である。“地域ごとの独占事業者が連系線の整備を怠ってきた”わけではない。結局、いずれの国においても既設の系統でVREを容易に受け入れられる段階が終わり、より抜本的な系統強化が必要になっているということではないか。短時間に集中する大量の発電量を広範囲にシェアしたり、下位系の電圧から上位系に流したり、天候次第でダイナミックに変化する潮流を制御したりと、素人が考え付くだけで従来とは全く次元の違う系統のイメージが浮かび上がる。送配電網に加え、現在は火力発電が担う調整力の役割を脱炭素化するには、蓄電池などにも大きな投資が必要だ。

相変わらず各国政府は安易な「再生可能エネルギー」の導入量を競っているが、再エネそのもののコストが低下する中、むしろ大変なのは、系統側の受入体制だろう。送電網の整備には高所作業員や鉄塔の製造能力の確保などの問題もある。再エネには気前よく補助金が出されるが、地味なこの分野は、なかなか政治の光が当たらない。どこの国でも矛先は送配電会社に向かうようだ。

石炭火力のフェーズアウト 排出削減対策の解釈に幅


【ワールドワイド/環境】

5月27日に閉幕したG7気候・エネルギー・環境大臣会合の争点の一つは国内石炭火力の廃止年限を定めるかどうかという点にあった。議長国ドイツは「2030年までに排出削減対策を講じていない国内石炭火力のフェーズアウト」を共同声明に盛り込むことを提案していた。報道によれば欧州諸国は30年廃止を支持、米国は「30年代」を提案する一方、日本は難色を示していた。

原発の再稼働が遅れている中で、石炭火力は安価なベースロード電源として電力料金の上昇を抑える役割を果たしてきた。昨年秋以来のエネルギー危機やウクライナ戦争によってLNG価格が大きく上昇する中、国内石炭火力を放棄することはただでさえ諸外国に比して高い日本の産業用電力料金をさらに引き上げることになるのだから日本の懸念も当然である。

共同声明では「35年までに電力セクターの大宗を脱炭素化する目標へコミットし、30年の温室効果ガス排出削減目標及びネット・ゼロのコミットと整合性をとりながら、国内の排出削減対策の講じられていない石炭火力発電を最終的にフェーズアウトさせるという目標に向けて具体的かつ適時の取り組みを重点的に行う」とされ、年限を明示することは見送られた。「35年までに電力セクターの大宗を脱炭素化(predominantly decarbonized electricity sectors by 2035)」との整合性が論点となるが、predominantlyの解釈には幅があり、発電部門における化石燃料のシェアを41%に抑えることを目指す日本の30年目標がこれに反していることにはならない。

「排出削減対策を講じていない(unabated)」の定義も明らかにされていない。共同声明ではメタン削減に関し、「フレアリングやメタン削減(abatement)プロジェクトを推進し、石油ガスセクターにおけるメタン排出削減のための政策を強化するための他の産油・産ガス国との協力にコミットする」としている。ここでいう「abatement」という用語を火力発電に当てはめれば、石炭火力のCO2排出削減のために日本が推進するアンモニア混焼、バイオ混焼も立派なabatement である。

天然ガス価格上昇によりアジア諸国で石炭が想定より長く使われる可能性がある。「CCSでなければunabated ではない」という解釈ではアジア諸国がついてこない。現実的対応が求められる。 

(有馬 純/東京大学公共政策大学院特任教授)

エネルギー・環境政策を強化 第二次マクロン政権で省再編


【ワールドワイド/経営】

フランスでは今年4月に行われた大統領選挙でマクロン大統領が再選を果たした。同氏は、昨今の欧州大でのエネルギー価格高騰やロシアによるウクライナ侵攻などへの対応として、エネルギー・環境政策の強化を掲げており、5月に行われた組閣では、それぞれの政策のより強力な推進を目的とした省の再編が行われた。これまでエネルギー・環境政策を一括して担っていた環境移行・連帯省が、エネルギー転換省およびエコロジー転換・地域結束省という二つの省に分割されたのである。

エネルギー政策はエネルギー転換省の管轄となり、マクロン大統領の「原子力と再エネの拡大」という方針を推し進める。具体的には、50年までに6基のEPR2(改良型欧州加圧水型炉)建設、50カ所の洋上風力発電所建設、太陽光発電の設備容量を1億kW以上へ引き上げといった、大統領の一連の公約実現に向けた工程を監督する。また、石炭火力発電所の閉鎖や産業部門の脱炭素化なども同省の担当となる。一方、環境政策はエコロジー転換・地域結束省が担い、地域ごとの環境保護、生物多様性、建物・交通部門の温室効果ガス(GHG)排出削減対策などを各自治体と連携して進める。

さらに新首相には、マクロン前政権下で環境移行・連帯大臣を務めた経験のあるボルヌ氏が任命された。同氏には、首相業務に加えてエネルギー・環境関係の新計画策定を行う任務が与えられ、前述の2省の大臣が補佐に当たるとともに、首相直下に事務局が新設されるなどの体制が整えられた。

この新計画に関する詳細は明らかになっていないが、国内の新たな環境目標を設定し、省庁・部門を横断した議論や大規模な国民討論などが行われる可能性が報じられている。同計画で国内の30年GHG削減目標(1990年比40%)を、EU目標の55%に合わせ引き上げる可能性もあり、第二次マクロン政権における重要なイベントの一つとなるだろう。 

このほか、国内の10カ年エネルギー計画や脱炭素化に向けたロードマップの改定、欧州委員会とのEDF(フランス電力)再編に関する交渉再開、脱ロシア産ガスに向けた供給力確保といった重要案件も新政権には待ち受けている。

第一次マクロン政権は20年再生可能エネルギー開発目標が未達に終わるなど、エネルギー・環境政策が不十分との批判を受けることが多かった。このような評価の払拭を図る新政権が、今後、どのように野心的な国内目標や対策で成果を上げるか、注目される。

(西島恵美/海外電力調査会調査第一部)

インドネシアの生産減退 石油メジャー撤退などが影響


【ワールドワイド/資源】

 インドネシアの原油・ガス田は成熟しており生産減退が続いている。原油とガスを胚胎している貯留層が比較的小さいためである。原油の2022年生産目標は日量70万3000バレルだが、15年実績(同77万9000バレル)と比べ約10‌%減少している。天然ガスも同様に22年生産目標は日量60億9000万立方フィート(ft3)と15年実績(73億7000万ft3)と比べ17・4%減少している。

政府は30年において原油日量100万バレル、天然ガス同120億ft3を生産するという目標を掲げている。この高い目標を達成するため、国営石油会社プルタミナが中心となり既存油ガス田における追加井の掘削およびEOR(Enhanced Oil Recovery:二次・三次回収)を実施している。また、エネルギー鉱物資源省は鉱区入札を通じて新規鉱区への開発投資を積極的に誘致している。

上流開発における問題点は、①エネルギー移行期の中で、投資意欲が湧いてくる新規油・ガス田の減少、②プルタミナによる既存権益の取得と、それに応じて大手石油会社(IOC)が保有してきた権益の減少、これに伴うIOCの同国からの撤退および開発技術力の低下、③上流規制監督機関(SKK Migas)の非効率さと投資意欲をそぐ高いローカル・コンテンツの存在にある。

①については、広大な領土と水域の資源探査は完了していない。アラフラ海など遠隔かつ大水深に可能性がある。一方、エネルギー移行の観点から化石燃料の新規エリアに投資する風潮が乏しい。

②については、従来の生産物分与契約(PSC)を見直し、コストリカバリー方式からコントラクターに多く配分し、そこからコスト回収を行うというグロス・スプリット方式へと転換を試みたが、大型プロジェクトにおいてコスト回収に年数がかかりすぎることから、どちらかを選択できるようになった。③は最終投資判断(FID)と同じくFEED(Front End Engineering Design)に入る前段階でのPOD(Plan of Deve-lopment)の政府承認が重要であり、SKK Migasの審査が技術およびコスト面に及ぶ。コストリカバリーの場合、政府負担コストがあるため審査は厳格でありかつ時間がかかることがある。

一方、小規模開発でグロス・スプリットの場合、審査期間が短くなる利点がある。ローカル・コンテンツ要求はオフショア大型プロジェクトの場合55%と高く、投資に影響を及ぼしている。

(加藤 望/独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構調査部)

「読売よ、おまえもか」 地裁判決でアンフェアな批判


【おやおやマスコミ】井川陽次郎/工房YOIKA代表

 電力会社を指弾して、全て責任を負わせればうまく行く問題なのだろうか。読売6月3日社説「原発再稼働、電源確保を着実に進めたい」である。

前半は、中国電力島根原子力発電所2号機を扱う。「再稼働すれば、昨年6月の美浜原発3号機以来、11基目となる。福島第一原発と同じ沸騰水型としては初めてで、意義は大きい」と述べる。

島根県の丸山達也知事が2日、再稼働に同意する考えを表明したことを受けている。

電力供給は、不安定な状況が続く。電気料金は上昇し、政府の対応が定まらない。そこにロシアのウクライナ侵略だ。世界的なエネルギー危機が深刻化している。少しでも安定な電源を増やしたい。妥当な内容といえよう。

問題は後半だ。

札幌地裁が5月31日、北海道電力泊原発に対して運転差し止めを命じたことについて、地裁は「理解が不十分」と疑問を呈しつつ、「北海道電力側にも問題が多い」と指摘する。

具体的には、「泊原発の安全審査は9年に及んでいる。北海道電力は原子力規制委員会の審査が続いていることを理由に、裁判で防潮堤の安全性を十分に説明せず、訴訟が滞っていた」とし、「規制委は安全審査が進まない理由に、北海道電力の対応のまずさを挙げている。地裁も今回、説明不足を厳しく批判した。安全審査や裁判に対応できる専門的な人材の確保が急務である」と説く。

この地裁判断を報じた6月1日の読売記事でも、見出しは「津波対策に不備」「提訴10年『安全』立証できず」「『規制委審査』理由に先延ばし」と北海道電力に対して極めて厳しい。

一方的に過ぎないか。必要なのは審査状況の客観分析だろう。

東日本大震災の後、基準そのものが抜本的に変わった。過去の審査データは全てゼロから再評価される。特に難しいのは地盤や地層のデータだ。発電所の建設は大規模な工事を伴う。地盤や地質は改変され、表土も削り取られる。改めてデータを取り直し、安全な地盤であると証明せよ。そう迫られても容易なことではない。

範囲を広げてデータを取る必要がある。海底の断層は、船から音波を発信して反射波を調べるが、漁業関係者の了解を得るのが大変だ。地上のボーリング調査も地権者の同意なしには実施できない。必要な費用の確保、専門業者の手配も手間がかかる。火山や地震の研究文献を広範に収集し解析・整理するにも時間を要する。

泊発電所の敷地内断層について、こうした調査データに基づき規制委が「活断層ではない」と認めたのは、やっと21年だ。

日経電子版5月6日によると、「(原発対応に当たる)160人のうち50~60人は(地震や火山などに対応した)経験者を充てている」(北海道電力)という。かなり多い。これ以上どう増やすか。国内にそれほどの数の地震、火山の専門家はいるのかどうか。

規制委は発足以来、審査長期化は電力側の責任としてきた。実態はどうだろう。求められるのは、その検証である。岸田首相も「審査の合理化・効率化を図る」(読売4月2日)と述べている。

むろん、地裁の判断は疑問だらけだ。規制委の審査中に独自の判断を下すのも越権行為にしか見えない。朝日電子版31日は見出しで「『規制委に代わり判断』原告ら安堵」と称賛するが、司法への信頼を傷つけないか。心配だ。

いかわ・ようじろう  デジタルハリウッド大学大学院修了。元読売新聞論説委員。

【インフォメーション】エネルギー企業の最新動向(2022年7月号)


【東京電力エナジーパートナー/首都圏の分譲住宅に「バーチャルメガソーラー」導入】

東京電力エナジーパートナーは野村不動産と共同で「バーチャルメガソーラー」を開始する。東電エナジーパートナーが提供する太陽光PPAサービス「エネカリプラス」を活用し、野村不動産が首都圏を中心に展開する分譲戸建「プラウドシーズン」の約300戸に、メガソーラー発電と同規模となる総発電出力1000kW相当の太陽光発電(PV)を導入。住宅の購入者は契約期間の10年間、初期費用や月額サービス料なしで、PVで発電した電気を利用できる。さらに、空気の熱とPVの電気でお湯を沸かす「おひさまエコキュート」の併用で、光熱費の節約にもつながる。両社は休閑地が少ない首都圏における省エネ・創エネを推進し、「電力の地産地消」を目指していく。

【アストモスエネルギー/CNLPガスの供給・受入でCO2削減に貢献】

アストモスエネルギーは、盛岡ガス燃料や山代ガス、食協、広島ガスプロパン、吉武産業などと、カーボンニュートラル(CN)LPガスの売買に関する契約を締結し、供給・受入を開始した。アストモスエネルギーが調達・輸入するCNLPガスは、生産から燃焼までの工程で発生する温室効果ガスを、カーボンクレジットによってオフセットしたもの。このカーボンクレジットは、地球規模での温室効果ガス削減・排出抑制、現地での雇用創出や生物多様性の保護など、SDGsに関連する環境保全プロジェクトによって創出。第三者検証機関により、二酸化炭素などの温室効果ガス排出の削減あるいは吸収を認証されている。

【大京/分譲マンションでのEV充電コンセントを標準化】

大京は、今後開発する全ての新築分譲マンションの駐車区画にEV充電コンセントと、将来的にコンセントの増設が可能な空配管を設置する。現在は駐車区画数の10%にEV充電コンセントを標準設置している。設置率を50%に引き上げ、残りの区画は空配管にする計画で、業界初の取り組みとなる。EVの普及を促進し、持続可能な社会の実現に貢献することを目指す。この取り組みでは、ユビ電社の電気自動車充電サービス「WeCharge」を導入。全てのEV・PHV(プラグインハイブリッド)車に対応し、スマートフォンのアプリを使って利用手続きから充電量の算出、精算までを完結できる。使用料金はユビ電を通じて管理組合に支払われるため、管理会社の集金の手間を軽減する。

【静岡ガス/ガスエンジン増設で発電出力2倍に】

静岡ガスはこのほど、電力事業を手掛ける子会社の静岡ガス&パワーが富士発電所(富士市蓼原)のガスエンジン発電設備を2基増やすと発表した。8月に着工し、2023年度の運転開始を見込む。増設により、発電能力は既存設備の出力1万7000kWの約2倍の最大3万2610kWとなる。新設備は川崎重工業のものだ。発電した電力は同社が提供する「SHIZGASでんき」として販売予定。自社発電比率を向上させ、電力の安定供給と調達コストの低減化・平準化を図る。

【北海道電力/1000kW級の水素製造装置を導入】

北海道電力は苫小牧市に1000kW級の水の電気分解による水素製造装置を導入する。資源エネルギー庁の補助事業で2023年3月の運用開始を予定している。水の電気分解による水素製造は、再生可能エネルギーの余剰電力や出力変動を吸収し、再エネのさらなる導入拡大を図ることができる。運用開始後は、設備性能を評価するとともに、寒冷地における運用・保守技術の確立を図り、将来の水素社会の実現に向けた各種の検討を進める。

【IHI/アンモニア専焼に成功 低炭素社会の実現へ】

IHIはこのほど、相生事業所内(兵庫県相生市)の小型燃焼試験設備で、NOX(窒素酸化物)を抑制した状態でのアンモニア専焼に成功した。アンモニアは多量の窒素分を含むため、燃焼時にはNOXの排出濃度が上昇するほか、難燃性のため安定燃焼が課題になる。今回の成功により、火力発電用ボイラーにおけるアンモニア専焼技術の実用化が大きく前進した。

【コスモ石油ルブリカンツ/初のバイオマスマーク取得 ディーゼルエンジンオイル】

コスモ石油ルブリカンツは、植物由来のベースオイルが80%以上のディーゼルエンジンオイル「コスモディーゼル“カーボニュート”10W-30」を開発し、国内で初めて「バイオマスマーク(バイオマス度80%)」を取得した。製品中の植物由来成分が成長過程でCO2を吸収するため、CO2排出の低減が可能。販売開始は8月を予定している。

石油産業における革新的技術 官民一体で開発加速を


【オピニオン】髙橋直人/石油エネルギー技術センター 専務理事

 CO2排出量削減に向けた動きが世界的に加速している。グリーンディール政策やFit for 55 パッケージ法案が公表された欧州では、石油大手が温暖化対策目標の見直し・具体化、製油所の集約化やバイオリファイナリーへの転換、クリーン水素製造プロジェクトの立ち上げなどを進めている。各国政府もファンドの創設などにより積極的に支援している。

米国でも、大統領令による気候変動対策が打ち出され、石油大手は製油所の低炭素化戦略と連動しつつ、グローバル水素ハブ構築によるエネルギー転換戦略を掲げるなどCO2排出削減に動き始めている。

わが国も、第6次エネルギー基本計画における新たな削減目標の設定、グリーンイノベーション基金の創設などカーボンニュートラル社会実現に向けた動きが盛んになっている。わが国の石油産業も、低・脱炭素や資源循環に係る革新的技術開発をさらに加速し、その実現に貢献していかねばならない。

分子成分情報やデジタル技術などを活用した製油所操業最適化のさらなる高度化によりエネルギー消費量を大幅削減することや、製油所や給油所など既存のインフラを最大限に活用して水素の利活用に取り組むことが重要である。また、EV化が推進される自動車に関し、全てがEV化した場合の需要に見合うグリーン電力の確保について現段階では不透明である。SAF(持続可能な航空燃料)を含めバイオ燃料の開発・製造も進められているが、これも量的な課題がある。そうした中、CO2を有効利用して液体合成燃料を製造することは、選択肢の一つとして内外の期待も大きい。ただし、これも社会実装させるためには生産効率の向上や大量の安価なグリーン水素の調達など課題が山積し、官民が一体となって取り組む必要がある。

一方で、人口減少を含む社会構造の変化などにより石油製品に対する需要は減少していくことが見込まれるものの、平時・緊急時を問わず、石油が引き続き国民生活・経済活動に不可欠なエネルギーであることはエネルギー基本計画にも明示されている。しかし、カーボンニュートラル下における石油産業の将来を不安視して優秀な人材が石油から離れつつあるという話を聞く。プラントの保守点検を含め石油精製に関わる技術や新たな可能性にチャレンジする研究開発が滞るといった事態は避けねばならない。石油産業は、カーボンニュートラル社会における自らの将来像をしっかり描き、優秀な人材の確保に努めなければならない。

カーボンニュートラル社会の実現のためには旧来の取り組みの延長線上ではなく、イノベーションが不可欠である。それは、特定の企業・産業界のみの努力・負担によってなし得るものではなく、官民あげて連携・協力、必要に応じて適切な負担の分かち合いをしながら取り組んで初めて可能となる。2050年まで長いようで短い。取り組みを一層拡充・加速化していかねばならない。

たかはし・なおと 1988年東京大学法学部卒、通商産業省(当時)入省、商務情報政策局流通政策課長、特許庁総務部長、九州経済産業局長、日本政策金融公庫取締役などを経て2021年6月から現職。