【識者の視点】西村 陽/大阪大学招聘教授
省エネ法と建築物省エネ法がそろって改正され、脱炭素への行動を一層後押しすることが期待される。
ただ、建築物省エネ法はエネルギー原単位の変更を先送りした。その問題点を西村陽・大阪大学招聘教授が指摘する。
2023年冬の日本各地での厳しい寒さと電気代の予想外の高騰は、日本の建物の暖房に関する弱点、つまり「暖めるためには相当のコストがかかってしまう」ことを明らかにした。要は、断熱の不足と自家用太陽光発電導入の頭打ちへの対策不足である。また、産業・業務用についても多くのユーザーがエネマネ用の太陽光導入の遅れを後悔している。
その点、22年に行われた省エネ法改正は、国民一般と産業界に再エネ活用の意義を浸透させるために大きな力となるものだ。もともと省エネ法(経済産業省資源エネルギー庁所管)と建築物省エネ法(国土交通省住宅局所管)という二つの法律が対になり、国民の建物をエネルギー危機に対して強くする意義を持つが、これが石油危機以降の燃料消費中心の規制ルール(いわゆるキロリットル主義)から脱炭素に寄り添う形でリフォームされたのは意義深い。何しろ法律の名前自体に「非化石エネルギーの活用」という概念が加わって変わったのである。
画期的な「全電源」採用 省エネ法は大胆な改正
これによって「再エネが系統電力のエネルギー原単位として反映されていないことから、再エネ電源により低炭素化が進んだ電気の使用が進まず脱炭素を妨害しているのではないか」との批判に耐えられるようになり、むしろ大胆な改正によって再エネ導入を後ろ押しし、かつ系統電力から再エネを引き込む「上げDR(デマンドレスポンス)」も呼び込める法律へと画期的に変わったと評価できる。
既に、資源エネルギー庁分散型電力システム検討会で需給に貢献する「下げDR・上げDR」の省エネ法上の評価を具体設計し始めており、下げDRをベースラインも設定した報告義務、再エネ取り込みを含む上げDRはまずは自主的な報告対象となった。
それとともに、省エネ法運用上の長年の焦点だったいわゆる神学論争(建物新設時の選択によってエネルギー効率はどう変わるか、についての結論の出ない論争)も、電気利用の中の再エネウエートが常態的に上がり、火力発電の閉鎖が中長期にわたって続くことを反映して火力平均の原単位から全電源原単位に改定された。
火力平均の数値自体も低効率の石炭・石油の閉鎖や高効率機シフトが反映されていない状態が解消され、需要サイドの脱炭素化に貢献する電気利用の高い効率機器の評価がようやく正常化された改定であった。
このことは、機器選択の脱炭素貢献に直結する。需要サイドの電気利用機器は、再エネ大量導入時代に不可欠な需要サイドフレキシビリティーの拡充に貢献できる唯一のエネルギー利用機器という面があり、その導入遅れはロックイン効果(一度建物に入った機器は炭素税などの環境変化の影響を受けず、長い期間変更されないこと)を生む。省エネ法改正は、それに歯止めをかけたといえる。
このように前向きな改正がプレーヤーの動きに反映されつつある省エネ法に対して、対となる法律である建築物省エネ法も合わせて改正された。一番大きな変更点は断熱基準をはじめとする省エネ対策の強化であり、21年の内閣府タスクフォースでの激しいやり取りから改正に至ったのは記憶に新しいところだ。
全ての建築物について省エネ基準への適合義務を課す、というこの内容は、建物の3割を占める木造建築物の省エネ性能向上に大きく貢献することが期待される。冒頭で述べた「断熱は最大の暖房機器であり、エネルギーと戦う武器だ」と言われるゆえんである。
ところがその一方で、建築物省エネ法上での一次エネルギー換算係数については、省エネ法との整合を基本とするはずのこの法律で、全電源平均への改定が25年まで棚上げされた、というより永遠に放置の恐れさえある。
内部事情を察するに、①関連業界の協力が不可欠な省エネ基準適合義務化の円滑な導入を最優先するため、②また、エネルギー機器まで巻き込んで業界構造が変わりかねない原単位問題まで関わってはいられないという当局の事情、③さらには脱炭素への協調で大胆すぎる経産省だけに付き合っていられないという気持ち―も分からなくもない。
しかし、この改定の遅れ、しかも25年までの棚上げはそれまで建築物省エネ法が脱炭素貢献のある機器・システム転換を妨害し、ロックイン効果を助けていくと言っているのに等しい。これでは省エネ法と対にはなっていない。25年という固定化によって、技術や情勢変化に対して硬直的であることもさらなるイノベーションを阻害するかもしれない。

脱炭素実現の基礎付けに 改正効果を確実に浸透
目下のエネルギー危機は、日本中の一つひとつの家屋、企業の建物に「エネルギーコストにどう向き合い、どう投資してどう戦うか」
を考えさせる機会となっている。節約もDRも方法の一つだが、断熱や太陽光・蓄電池によるプロシューマ化の方がはるかに大きな投資効果を持つ。どのエネルギーを扱う企業もこの現実からは逃れられない。もはやエネルギービジネスは量を売るビジネスではなく、エネルギー支出削減ノウハウを売るビジネスに変貌しつつあるのは欧州の変化から見て明らかだ。全てのエネルギー販売企業は省エネ化、脱炭素に向けた国民の前向きなアクションを助ける産業でなければならず、対立している暇はない。もちろん建築業界も同様だ。
省エネ法と建築物省エネ法は国民のアクションを引き出すために不可欠なルールインフラを提供するものであり、その改正は確実に浸透させて、いわば日本の脱炭素化の基礎付け(ミクロ・ファウンデーション)を形作らなければならない。その「国民のために」という基礎に立って、業界調整をはじめ多くのハードルを乗り越えてこそ、脱炭素に貢献するエネルギー機器・建築産業、政策当局であり続けることができるのではないだろうか。













