【需要家】エネ貧困の危機 生活水準守る対策を


【業界スクランブル/需要家】

 エネルギー価格が高騰している。2021年前半はコロナ禍での世界的なエネルギー需要減少に伴い原油価格が低下したが、一転現在は、経済活動の再開に伴いエネルギー価格が上昇。加えて円安やロシアによるウクライナ侵攻の影響など、価格が下がる要素は今のところあまり見当たらない。

総務省家計調査から、一般消費者のエネルギー価格負担について考察してみる。22年1~3月の2人以上世帯における電気単価は全国平均1kW時当たり29・21円で、少なくともここ10年の同期間における単価の中で最も高い。さらに電気・ガス・灯油の支払金額が消費支出に占める割合は全国平均8・6%、北海道は13・5%と、こちらもここ10年の同期間中では最高水準である。この影響を受けやすいのは低所得者層である。2人以上世帯では、21年における電気・ガス・灯油の料金が消費支出に占める割合は全国平均で5・8%だが、年収200万円未満の世帯に限ると9%となり、家計に与える影響が大きくなる。一般に低所得者層の住宅は断熱水準が低く、住宅設備も旧式で低効率な傾向がある。低所得者層ではエネルギー使用の効果や満足度が低くなる。言い換えると、一定の満足度を得るために低所得者層では多くのエネルギー消費を要することになるが、所得が少ないため結果的に我慢を強いられやすい。

英国では基礎的なエネルギーサービスを享受できないFuel Poverty(エネルギー貧困)が社会問題となっているが、今後、日本でも同様の問題が顕在化する恐れもある。脱炭素社会の実現だけでなく、全ての人の基本的な生活水準を守ることも両立させることが求められる。そのためには詳細な情報収集と、それに基づく対策の検討が必要となる。(O)

【稲田朋美 自民党 衆議院議員】「原子力議論、今が岐路に」


いなだ・ともみ
1981年早稲田大学法学部卒。弁護士。2005年衆院初当選(福井1区)。
14年政務調査会長、16年第二次安倍内閣防衛相、19年党幹事長代行などを歴任。当選6回。

自民党有数の保守派の論客として、多くの議連立ち上げや提言を行ってきた。

一方で女性活躍の推進や貧困問題にも取り組み、「伝統と創造」の信念を貫く。

 早稲田大学法学部を卒業後、弁護士として活動。当初は政治に興味がなかったという。現在の夫と大阪で独立開業し、子育ての傍ら月刊誌『正論』に投稿を始めた。それをきっかけに南京大虐殺に関する名誉毀損裁判などに携わり、法律家として戦後レジームからの脱却を目指した。

2005年、自民党幹事長代理(当時)の安倍晋三元首相から依頼を受け、党若手の議連で講演を行うと、その後、安倍氏に生まれ故郷の福井県から衆院選出馬を打診された。周囲からは猛反対を受けたが、夫から「君が法廷を通じてこの国を良くしようと思ったことを実現するためには、自民党の衆議院議員になることが一番の近道だ」と後押しを受け、初当選を果たした。

16年、第二次安倍政権で防衛相に就任。当時外務大臣だった岸田文雄首相とともに日豪・日露外務・防衛閣僚会議(「2+2」)などにも臨む。外交・防衛問題に取り組むも、PKO部隊の日報問題で監督責任を問われ、翌年辞任した。当時を「大変な挫折だった」と語るが、安全保障の最前線の状況を把握し、得るものも多かったという。「平和とは当たり前のものではなく、日本がこの厳しい状況下でどう生き延びるか。(防衛相としての経験が)政策の核になっている」とこれまでを振り返る。

現在は今までの経験を生かし、防衛費を対GDP比2%にするなど外交・防衛面から多くの提言を行っている。また、今年2月にはロシアによるウクライナへの軍事侵攻が行われ、その中で原発が攻撃対象に含まれたことを受けて、地元福井県15基の原発防衛の必要性を訴える。武力攻撃、ミサイル攻撃のほか、テロ攻撃などからも原発を防衛するために、自衛隊の警護出動を含めた法的検討も提案している。

「防衛政策、原子力政策は男性議員が取り組むことが多いが、国民の半分である女性が国防の重要性を理解しなければ、安全保障政策は進まない」と、女性にも分かりやすくエネルギー政策、安全保障政策を伝えることが自身の責務だと話す。

「現在の日本には多くの課題があるが、いろいろな意見がある中で、国のリーダーが方向性を示すことが重要」。かつて安倍元首相が表明した経済対策「アベノミクス」で、国民に示したリーダーシップが、今も自身の手本となっている。

「伝統と創造」で課題解決に尽力 脱炭素化社会に原子力の活用説く

国会議員になってからは、自民党有数の保守派論客として憲法改正、安全保障問題などに取り組む。一方で女性活躍の推進や貧困問題、シングルマザー問題にも力を入れる。「伝統と創造」「強くて優しい国」を政治信条に掲げて、これまで自民党の中で多くの議連を立ち上げてきた。

中でも自身が会長を務める「脱炭素社会実現と国力維持・向上のための最新型原子力リプレース推進議員連盟」には、顧問に安倍氏のほか、甘利明元経済産業相や額賀福志郎元財務相、細田博之元幹事長らが名を連ねる。50年カーボンニュートラル宣言の実現へ向け、将来のエネルギー政策のあるべき姿を明確に示し、原子力の方向性を明らかにする思いがあった。

「顧問の先生方は、そうそうたるメンバーに入っていただいた。強い経済をつくること、経済安保や安全保障の点からも、エネルギー自給率の上昇は重要」として、東日本大震災以降のエネルギー自給率の低さを指摘する。今後、原発の担う役割についても「世界の中でも厳格な日本の審査基準を満たしたものは再稼働し、将来は新しい技術の原子炉に置き換える。40年を超える原発の運転を進めるに当たって、リプレースの議論を進めるべきだ」と話す。

自民党政務調査会の「原子力規制に関する特別委員会」では、原発を抱える複数の自治体からヒアリングを受けた。「規制委員会と事業者とのコミュニケーションに問題がある。早く審査できるものは進めていく必要がある」と、安全審査が進まない原発再稼働の現状に疑問を呈した。原子力規制の在り方については「将来に向けた原子力の議論をしないと、人材も枯渇し、技術も失われる。今はちょうどその岐路に立っている」と警鐘を鳴らしている。

趣味の早朝ランニングは、有権者からの陳情や議員との会合の合間を縫って、現在も続けている。座右の銘は、フランスの哲学者アランこと、エミール=オーギュスト・シャルティエが執筆した『幸福論』の一部から引用した「高邁な精神で決断し、断固として行動する」。これからも決断することの重要性を認識し、決断したことに対して迷わずに行動していく。

【再エネ】太陽光パネル不法投棄 取り締まりが急務


【業界スクランブル/再エネ】

 2030年。太陽光は発電容量約1億350万~1億1760万kWとなる見通しだ。概算では太陽光パネルの総数は約2億7500万枚に及ぶと思われ、この膨大なパネルの相当数が廃棄物処理されることになる。適正に廃棄処理されれば問題はないのだが、それが果たして適正に行われるのか、疑わざるを得ない。

有害な物質が含まれており、廃棄やリサイクル技術はまだ確立されていないという。このままだと近い将来、使用済みパネルの不法投棄や放置などが横行し、深刻な社会問題となるのではないかと予想する。

太陽光パネルは、自動車のように車体番号があるわけでもなく、不法投棄されても所有者などを特定することは困難とみられる。それが故に、不法投棄が常態化し、それによる環境被害が懸念されるところだ。

もちろん不法投棄は犯罪だが、例えば太陽光パネルを有害廃棄物として輸出することはバーゼル条約などで規制されている。しかしリユースなどの名目であれば規制対象外となり、国外への持ち出しも可能になるのではないかと危惧する。

産廃処理なども手掛ける一部の悪質事業者は、廃棄パネルを貨物船などに積み込んで海洋投棄する恐れもある。そのような事態になった場合、果たして、それを適切に取り締まることが可能なのだろうか。 不法投棄で荒稼ぎを考えるような悪質事業者は、往々にして法律や制度に精通しているので手に負えない。国としては1日も早く、想定される事態が起こり得ないよう、綿密に法制度を整備し、それと併せて取り締り機関の体制強化を図っていく必要がある。環境破壊を防ぎ、国民が安心して暮らせるよう、真に実効性のある制度改正が行われることを切望する。(Y)

福島廃炉作業でまずやる仕事 事故現場の実体を図面に


【福島廃炉への提言〈事故炉が語る〉Vol.15】石川迪夫/原子力デコミッショニング研究会 最高顧問

福島第一の廃炉でまず必要なことは、破損・汚染の状況を炉ごとに克明に記した地図の作成だ。

地図なしでの廃炉工事は無謀であり、廃炉方法の検討などは地図ができてからにすべきだ。

 これまで内外の原子力事故について話してきた。そこから得た教訓は、事故の経緯は炉ごとに違い、破壊や汚染の状況も原子炉ごとに異なるであった。従って、廃炉も炉ごとに異なる。今回は廃炉を行うに当たっての必要な準備について述べる。

まず諸外国の状況から。米国のSL-1(静止型低出力原子炉1号)は廃炉を完了した唯一の事故炉だ。30年で完了できたのは、単純な暴走事故であったことと、発生が燃料交換の直後であったので、放射能の放出が少なかったことによる。廃炉に先立ってBORAX(Boiling Reactor Experiments)、SPR(Special Purpose Reactor Test)の暴走実験を行い、事故の実体を把握した上で解体工事を始めたことが円滑な廃炉に役立った。

これに比べて、TMI事故の検証は同じ米国でも手ぬるい。冷却水の注水直後に炉心溶融したことに気付かず、炉心溶融は崩壊熱で起きるとした従来の考え方に従った解析を行っただけで、実験による確認を行っていない。

解体作業の経験をもとにして作り上げた熔融炉心のスケッチ図は素晴らしいが、米国は図の解明をしていない。例えば、卵の殻の形成理由や、燃料デブリと溶融炉心とが別々に存在する理由などの説明がない。TMIの事故究明はまだ終了していない。

なお最近、TMIの廃炉工事再開のうわさを耳にした。格納容器の内部で作業できるのは汚染が少ない証拠で、恐らくその理由は炉心溶融ガスが深い水槽を持つ加圧器を通って格納容器に入ったことによろう。これはBWRの水ベントの「うがい効果」と同じで、大きな除染効果を持つ。

チェルノブイリ事故は、ゴルバチョフのグラスノスチ時代に起きた。おかげで、事故説明に隠し立てはなく、あるがままの破壊状態を見せてもらえたのは幸運であった。すさまじい被害実体はよく理解できたが、事故の原因や経緯の検討は十分ではない。

風雨が降り込んでいた石棺は、EUの出資で新建造物(覆い)が造られ、雨風も止まり、放射能の外部飛散もなくなった。米国地質学会誌によれば、30㎞圏の強制避難地域は野生動物の天国と化し、コロナ直前には年間10万人の見物客が押し寄せたとある。チ炉は事故状態から脱却して、安全管理による廃炉状態になったと安心していたが、ウクライナ侵攻で発電所が占領され、退却途中にロシア兵が陣を張り、多数が被ばくしたとの報道があった。今後どうなるか。

英国研究所の炉心溶融事故 60年後も手付かずに

発電炉ではないのでこれまで述べなかったが、世界で炉心溶融事故を起こした一番手は英国のウインズケール研究炉(金属燃料・黒鉛減速炉)だ。事故後60年がたつが、熔融炉心にはまだ手が付いていない。研究所は牧畜を営む静かな農村にあり、周囲との関係は良好で、住民に事故を気にしている様子はない。英国の国民性は、米国のように経済が最大関心事でもなければ、日本のようにせっかちな律儀者でもない。廃炉はTMIの様子を見た後に行えばよいと、どっしり構えている。下手に急いで、金を使って被ばく者をつくるのは無駄と考えているようだ。外国の概況は以上だ。解体撤去工事を急ぐ気配はどこにもない。

福島の廃炉は、これまで発表された政府見解から述べる。

2011年12月に政府が決定した中長期ロードマップは「30年~40年後に廃止措置の終了を目標とする」とあり、過去5回の改訂を経たが、内容に変更はない。

13年に発足した国際廃炉研究開発機構はこの意向を受けて、「溶融炉心の状況や所在の調査をすることから始めて、40年後の廃炉完了を目指す」と発表した。

16年12月に経済産業省が廃炉機構の試算として発表した廃炉費用は、明確な根拠はないとしながら、2兆円の東京電力の当初予算を大幅に増大して、8兆円にした。 過去に公式に示された政府の意向は以上だ。委員会の議事録などを散見する限り、40年での廃炉完了の方針に変更はなさそうだ。

この10年間、東電が行った仕事は、ほとんどが事故の後始末だ。列挙すれば、発電所の破壊調査、放射性物質の飛散防止、港湾の整備、汚染水の海洋流出防止、汚染水の浄化および貯蔵、地下水の流入防止工事など、みな事故処理仕事だ。廃炉の仕事は、使用済み燃料の施設外輸送と、ロボットによる格納容器内部の小手調べ調査くらいだ。今、問題の浄化水の海洋放出が終われば、事故の後始末はほぼ終了し、廃炉の出番となる。

炉ごとに異なる福島の廃炉 まず克明な地図の作成を

事故炉の廃炉は炉ごとに異なると冒頭に述べたが、福島第一の廃炉も炉ごとに異なる。まず最初に行うべき仕事は、それぞれの事故現場の状況を図面に表すことだ。言い換えれば、各発電所の破損と汚染の状況を克明に記した地図の作成だ。地図なしでの廃炉作業は、海図なしで見知らぬ海を航海するのと同じくらい危険。廃炉方法の検討などは、地図ができてからの話だ。

まず克明な状況の把握が必要になる

正確な地図を作るには、①事故現場を詳細に調査し、②事故経緯から発生事象を推考する―の二つが必用だ。実用に耐える地図を作るには、両者をつき合わせて検討する頭脳と技術の協力が欠かせない。炉心解体での掘削速度の相違をヒントに作ったというTMIのスケッチ図は、地図作成のお手本だ。出来上がる地図が完成していれば工事は成功し、不完全であれば難航する。廃炉の成否は地図の精度にかかっている。

東電は今、地図作成の時期にきていると思うが、その準備は始まっているのであろうか。率直に言って、そうは見えないのだが。

地図の作成は、現場の調査だけではない。②で①を考え、①で②を修正していく繰り返し作業だ。他人の意見に耳を傾け、議論を重ね、相補う忍耐が肝要だ。失礼ながら、誇り高い東電職員は、事故の責を負う気概が強い故か、この手の協力が苦手に見える。地図作成は、記憶がまだ残る今しかない。己を捨てての実行を期待する。

福島事故については、日本はまだ正式な発表を世界に対し行っていない。世界は一時、事故解明を支援する姿勢を日本に示したが、あまりにも反応がないのにあきれて、忘れたふりをしてくれている。地図作成を機に判明した範囲でよい、福島の現状を世界に伝えてはどうか。

いしかわ・みちお  東京大学工学部卒。1957年日本原子力研究所入所。北海道大学教授、日本原子力技術協会(当時)理事長・最高顧問などを歴任。

・福島廃炉への提言〈事故炉が語る〉Vol.1 https://energy-forum.co.jp/online-content/4693/

・福島廃炉への提言〈事故炉が語る〉Vol.2 https://energy-forum.co.jp/online-content/4999/

・福島廃炉への提言〈事故炉が語る〉Vol.3 https://energy-forum.co.jp/online-content/5381/

・福島廃炉への提言〈事故炉が語る〉Vol.4 https://energy-forum.co.jp/online-content/5693/

・福島廃炉への提言〈事故炉が語る〉Vol.5 https://energy-forum.co.jp/online-content/6102/

・福島廃炉への提言〈事故炉が語る〉Vol.6 https://energy-forum.co.jp/online-content/6411/

・福島廃炉への提言〈事故炉が語る〉Vol.7 https://energy-forum.co.jp/online-content/6699/

・福島廃炉への提言〈事故炉が語る〉Vol.8 https://energy-forum.co.jp/online-content/7022/

・福島廃炉への提言〈事故炉が語る〉Vol.9 https://energy-forum.co.jp/online-content/7312/

・福島廃炉への提言〈事故炉が語る〉Vol.10 https://energy-forum.co.jp/online-content/7574/

・福島廃炉への提言〈事故炉が語る〉Vol.11 https://energy-forum.co.jp/online-content/7895/

・福島廃炉への提言〈事故炉が語る〉Vol.12 https://energy-forum.co.jp/online-content/8217/

・福島廃炉への提言〈事故炉が語る〉Vol.13 https://energy-forum.co.jp/online-content/8547/

・福島廃炉への提言〈事故炉が語る〉Vol.14 https://energy-forum.co.jp/online-content/8843/

温暖化問題解決のカギ握るモビリティ ゼロエミッション車の主流はどれになるか


【多事争論】話題:脱炭素時代のモビリティーの在り方

カーボンニュートラル(CN)に向けて、次世代のモビリティーについて議論が進む。

電気自動車への関心は高いが、さまざまなタイプがしのぎを削ることになる。

〈 大型・長距離輸送でも有利に 陸上輸送はBEVがほとんどカバー 〉

視点A:櫻井 啓一郎/産業技術総合研究所安全科学部門主任研究員

電気自動車(BEV)を取り巻く状況は、この10年ほどで劇的に変わった。まずバッテリーの性能が上がった。体積・重量当たりのバッテリー容量が何倍にも増加し、BEVの航続距離は新車の平均で400㎞に達し、航続距離1000㎞の車種も発表されている。充電速度も、速いものでは6~8分で8~9割方充電できる製品が発売されている。加えて搭載するバッテリーの大容量化によって単位時間当たりの充電電力量も増え、休憩中の充電で不便なく移動可能な性能になった。耐久性も数十万㎞の走行に耐えるようになり、EVから取り外したバッテリーの二次利用も始まっている。水素や合成燃料の独壇場とも見られていた大型・長距離輸送においてもバッテリーの性能向上と価格の低減により、最近ではBEV化が合理的と分析されている。

大型のBEVトラックも発売・発表が相次いでいる。もはや陸上輸送は、BEVがほとんどをカバーできそうである。そもそもBEVは静か、素早くスムーズな反応で運転しやすい、重心が低く室内も広く平らで居住性が良い、冬も暖房がすぐに効く、走行コストやメンテナンスコストも概して安いなどの利点が多く、既に各国で人気である。2021年に世界市場の8・3%がBEVになったが、世界のバッテリーの生産能力は、25年までにさらに4倍以上に拡大するとみられる。

充電インフラを整え、税控除などで安価に購入・運用できるようにしたノルウェーでは、4月時点で新車の8割以上がBEVになっている。購入の最大の動機は金銭の節約であり、次に環境、そして時間の節約である。駐車ついでの充電なので、昨今の充電速度ならばガソリンスタンドに寄らない分、むしろ時間の節約が可能である(日本は充電インフラが貧弱で、不便だが)。BEVが安上がりになり、充電インフラも整えば、現在の性能でも乗用車の主流になれる。東南アジアやインドなどの新興国でも普及の動きが活発である。

製造時のCO2排出量についても、最大生産国の中国でも電力の低排出化が進められ、一部地域では既に日本よりも低排出である。加えて再生可能エネルギーが安価になったことで太陽光や風力の個別利用も増え、低排出を売りにした中国製品も見られる。現在の日本のように化石燃料火力発電の比率が高く年間走行距離が短めの国でBEVを利用しても、ハイブリッド車(HV)と同程度の排出削減効果がある。

大気汚染やエネルギー効率の点でも、エンジン車より環境に優しい。必要な金属・ミネラル資源は多めであるが、代わりに化石燃料の消費量は減らせる。さらに化石燃料と異なり、リサイクルも可能である。リチウムイオンバッテリーは既にHEVでも用いられており、リサイクルも事業化されている。

低下するバッテリー価格 いずれエンジン車より安価に

残る障害は価格である。バッテリーの価格はこの30年間で約100分の1になった。直近では需要の急増で値上がりしているものの、市場規模の拡大と新技術の投入が続いている。今後は各市場で順次、BEVがエンジン車よりも安価になっていき、ゼロエミッション車の主流になるものとみられている。

BEVは余力を集めるコストだけで利用できる、安価かつ大容量の蓄電資源にもなる。例えば現在の日本でも、昼間に太陽光発電の電力が余って捨てられる(出力抑制される)ことがある。そこで職場などの駐車場に小型の普通充電器や200Vコンセントを設置すれば、昼間の安価な電力でBEVに充電できる。さらにV2H(ビークルトゥホーム)設備があれば、その電力を帰宅後に住宅で利用可能だ。V2H設備は今のところ高価だが、BEVの高出力なインバーターから住宅に直接給電するようにすれば、V2Hも安価に実現できるだろう。すると、国全体でも排出削減を促進できる。

例えば日本の年間発電電力量の2割が太陽光と風力になり、そのうち5%が出力抑制されると仮定すると、その出力抑制分はBEVの旅客用乗用車600万台分の電力需要量に相当する。また日本の旅客用乗用車6000万台のうち5%が平均50‌kW時のバッテリーを搭載したBEVになったと仮定すると、バッテリー容量の合計(150GW時)は全水力発電所(約28‌GW:揚水発電含む)が5時間稼働したときの発電電力量を超える。BEVのバッテリー容量のごく一部が利用できるだけでも、無視できない規模の国益をもたらし得る。加えて災害・長時間停電時のエアコンや給湯の電源になり、太陽光発電からも充電できることで、住宅部門の脱炭素化も促せることになる。

さくらい・けいいちろう
1971年生まれ。京都大学大学院工学研究科博士課程修了。独ハーンマイトナー研究所客員研究員、米国国立再生可能エネルギー研究所客員研究員などを経て、産業技術総合研究所入所。博士(工学・京大)。

【火力】システム改革再考 一度立ち止まろう


【業界スクランブル/火力】

 昨年からエネルギー資源の世界的な高騰が問題となっているが、最近になってウクライナ危機の長期化により混迷の度はますます深まるばかりだ。

気候変動問題への影響に関してもさまざまな見方があるようで、例えばドイツの場合、これを機にロシア依存からの脱却も含め一層再エネの普及を加速すべしとの意見もある一方、エネルギー政策の生命線であるノルドストリーム2(独露を結ぶ天然ガスパイプライン)を当てにすることができなくなったため石炭に回帰せざるを得ないという話もある。これら真逆の話のどちらにも一理ありそうだが、エネルギー無くして現代社会は成り立たないのだから、エネルギー途絶という決定的な状況を避けながら両論の間を右往左往していくことになるのだろう。

わが国においても、エネルギー資源確保の問題は重大だが、それに加えて供給力が不足する問題にも直面している。いわゆるkWもkW時も不足することが懸念されており、そのことが問題をより複雑にしている。

切迫した状況を受け、資源エネルギー庁主導の検討会が急ぎ行われており、kW問題もkW時問題も正確な情報を関係者で共有することが何より重要であるということが真っ先に指摘されるのだが、ここに大きな問題がある。自由化の進展に伴い発送分離が実現し、肝心の情報が公平性の観点から発電・送配電・小売りの間でスムースに流れないようにしてしまったことだ。

しかし、ひっ迫警報による節電要請や計画停電という自由化とは相容れない手に頼るまでに追い詰められているのだから、いったん立ち止まり、情報の一元管理で、全体最適化を目指す仕組みを考えてはどうか。懸念される不公平に対しては、払しょくする仕組みを別途考える方がよほどの近道だ。(N)

【コラム/6月22日】ウクライナ危機とエネルギー自立の動き


矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

2022年2月24日のロシアによるウクライナ侵攻により、EUが、エネルギーのロシア依存を解消すべく様々な対応策を打ち出す中で、主要加盟国は、独自のエネルギーセキュリティ政策を発表している。様々な報道をみると、英国、フランス、ドイツでは、つぎのような動きがみられる。

英国は、4月6日に、ビジネス・エネルギー・産業戦略省(Department for Business, Energy and Industrial Strategy: BEIS) が発表した「英国エネルギーセキュリティ戦略」(“ British Energy Security Strategy”)で、短期的には国産の石油や天然ガスの増産を支援するものの、2030年までに電力供給の95%までを低炭素化し、原子力発電、風力・太陽光発電、クリーン水素などのクリーンエネルギー設備を拡大していく。

原子力発電については、2030年までに最大8基を稼働させ、小型モジュール炉(Small Modular Reactors: SMR)を含めて、2050年までに最大2,400万kWの発電容量を確保し、国内電力需要の最大25%までを賄う。開発を支援する新しい政府機関として、年内にも「大英原子力」(”Great British Nuclear”)を設立し、十分な予算措置を講じることで、新設プロジェクトの投資準備や建設期間中の支援を可能にする。

英国では、2014年から、自由化市場の下での低炭素電源促進のために、原子力発電にも差額決済取引型固定価格買取制度(Contract for Difference Feed- in Tariff: CfD FIT)を導入したが、プロジェクトから撤退する事業者も多く、新規原子力発電を支援する上で新たな政府機関がどれだけ有効に機能するか注目される。

フランスでは、マクロン大統領が、 2022年2月13日に、2050年カーボンニュートラルと原子力産業再生を目指して最大14基の原子炉を新設することを発表している(少なくとも6基の原子炉を新設し、さらに8基をオプションとする)。4年前の大統領就任時には、原子力発電への依存度を減らすために12基閉鎖するとしていたが、拡大に方針を転換した。最初の原子炉の稼働は2035年までの建設を目指す。また、既存の原子炉については、安全が確認された場合には、稼働延長する。小型モジュール炉( SMR)も複数基建設する。同時に、再生可能エネルギー発電や省エネも推進していく。

原子力発電の拡大についての懸念材料としては、まず電力会社EDFが巨額な負債を抱えていることが挙げられる。また、建設中のフラマンビル3号(163万kWの欧州加圧水型軽水炉)の燃料装荷が2023年第2四半期となり、2007年12月の建設着手から15年以上を経過する上、建設費も当初予算の4倍の127億ユーロになっていることから、将来的に、順調な建設が見込まれるか予断を許さない状況にある。

ドイツでは、ショルツ首相が、2022年2月22日、ロシアによるウクライナ東部地域の独立承認を受け、ロシアからの天然ガス輸送パイプライン、ノルドストリーム2のプロジェクト承認停止を明らかにした。また、2月27日に、連邦議会で、2カ所のLNG基地の建設と今年中に廃止する予定であった原子炉3基と石炭火力発電所の稼働延長を検討する考えを示した(LNG基地については、その後、4隻の浮体式貯蔵再ガス化設備の導入が計画されている。また、原子力炉については、 3月8日に稼働延長案は却下された)。

また、3月25日には、連邦政府は、オランダ経由でのLNG調達や浮体式貯蔵再ガス化設備の導入などで、2024年夏までにロシアへのガス依存率を10%にまで引き下げるとの見通しを発表している。さらに、連邦政府は4月6日に、再生可能エネルギー法、洋上風力エネルギー法、エネルギー経済法などの改正案を束ねた「イースターパッケージ」(“Osterpaket”)を採択し、今後、連邦議会で立法手続きに入る。改正再生可能エネルギー法では、2035年には電力供給のほぼ全てを再生可能エネルギーでまかなう目標を定めている。

ドイツにも課題もある。再生可能エネルギーに大きく依存することで、電力システムの安定性に対する懸念が高まること、再生可能エネルギー支援コストの増大により国民負担が増すこと、大規模ソーラー発電や風力発電に対しての住民のアクセプタンスが現在でも困難化しているのに、これらの発電設備を何倍にも拡大することは果たして実現可能かなどである。

英国、フランス、ドイツにおいてそれぞれ課題はあり、実現可能性に不確かなところもあるが、各国は、最大限自前でエネルギーを確保すること目指している。従来は、エネルギーセキュリティ確保には供給元や供給ルートの多様化が重要と考えられた。ウクライナ危機で、世界経済のブロック化が進む可能性が指摘されているが、エネルギー分野では、国や地域の独立性が高まっていくだろう。

【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授などを歴任。東北電力経営アドバイザー。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。

【原子力】ウクライナの「長期戦」 日本の立ち位置は


【業界スクランブル/原子力】

ウクライナ戦争は長引き、米バイデン政権かプーチン政権が終了するまで継続する可能性が高い。ただ、いずれは終わる。その時のために関係を維持することも大切になる。駐日ロシア大使館員の追放は合理的に行ったように見えない。

独シュルツ首相は4月に戦争の見通しについて、米・英・仏・日など西側トップの総意として「ロシアの勝利を許してはならない」と発言し、早期停戦の可能性がなくなった。ウクライナによる東部・南部・クリミアの回復(ほぼ実現不可能)を目標にしてしまったからだ。

露ラブロフ外相は、米国に対するチャンネルが消滅したことを認めた。米露外交は表裏とも消滅し、キューバ危機以上に関係は悪化している。ドネツク決戦が近いが、ドネツクをロシアが制圧するとゼレンスキー政権が持たないので米国はウクライナ支援を決めている。懸念するのは、ポーランドがもともとポーランド領であるガリチア地方への軍派遣を検討していることだ。もしそうなればNATO軍とロシア軍の戦闘が始まる。

その中で、日本の立ち位置はどうか。サハリン1、2からの天然ガスの大量輸入の実態があり、経済産業省、経団連がそれの継続の方針でブレていないことは正しいだろう。岸田文雄首相は、G7との共同歩調を鮮明にしているが、ロシアを無理に締め出すのは国益に反する。

わが国はベストミックスの観点から、原発の再稼働を進めるべきであるし、核融合なども進めるべきだ。つなぎとして新型炉も必要だ。すると当然、日露関係が大切になる。また忘れてならないのが、火力発電での協力関係だ。JERAはアンモニア発電を進めているが、ロシアには原料を安価につくる計画がある。ロシアとのパイプを切るべきではない。(S)

エネ事業者が消費行動を予測 地域総ぐるみで取り組む時代へ


【羅針盤(第3回)】中井俊裕/カーボンニュートラル・ラボ代表取締役/静岡大学客員教授

脱炭素時代に向け、自治体や地域に根差したエネルギー事業者の果たす役割が高まっている。

地域で産官学連携の横断的な組織をつくり、羅針盤をつくり上げていくことが期待される。

 カーボンニュートラル(CN)社会への対応とは、まさに社会構造の変革、社会システムの再構築と捉えており、この社会構造変化を仕掛けることができた者が次代の勝者になるのだと前号まで論じた。言い換えると、CSVの実践によって付加価値を生み出す考えをいち早く取り込むことができた企業のみが明るい将来を享受できるのではないか、ということだ。

本稿では、このマクロ的な課題であるCNをどの程度の範囲で考えたらよいのかを論じてみたいと思う。その答えの一つは、「〝地域〟をよく理解すること」ではないかと考えている。

エネルギー基本計画のエネルギー供給構造や電力のエネルギーミックスの議論、そして(電気・熱配分後の)温暖化ガス排出量の結果などは、わが国全体を俯瞰した計画であり、結果である。ただし、エネルギーの供給構造を論じる上では、エネルギー消費構造を理解する必要があるし、また今後数十年単位でどのように消費構造が変化していくかを見極めることが大事だと思う。そして、エネルギーの需要構造をいくつかのシナリオによって理解することで、温暖化ガスの排出量の変化を論じることができるのではないだろうか。

例えば、静岡県には火力発電や鉄鋼などの産業は存在しないため、CO2の排出源の構成は全国平均とは全く異なる。静岡県におけるCO2排出源の多くを占める産業分野においても、産業構造が徐々に変化していることが製造品出荷額の推移などから考察される。また自動車関連産業の出荷額は相変わらず比率が高いものの、この数年は伸びが止まっており、電気機械分野が伸びていることが分かる。紙の町として知られる富士市を中心とした紙パルプ産業や化学、食品など比較的エネルギー多消費産業といわれる分野はほぼ横ばい傾向となっている。今後、これらの産業は社会環境の変化に伴って、どうなるのだろうか。

静岡県の世帯数と人口

過去のトレンド参考にならず 消費構造をどう推定するか

まず大きく影響するのは、自動車の電動化と人口減少ではないか。電気自動車の普及に伴い、旧来の自動車産業の構造は大きく変わり、また中国製の電気自動車との競合など輸送機械部門は構造転換を強いられるのではないかと予想される。また人口減少に伴って、生活関連である生活紙、食品、飲料などは生産量自体が減少するのではないかと思われる。

一方で、DXを合言葉に、電気機械や情報産業系などは伸びも期待できるし、素材革命によってのプラスチックや化学なども有望な分野と考えられる。多分、過去の消費トレンドが全く参考とならない時代になろう。従って、この地域の中の産業構造の変化とエネルギー需要について、しっかりと自治体や地域に根差したエネルギー事業者などが研究をしていく必要があるのではないだろうか。

また、民生用のエネルギー消費構造もどうなるのか。人口構成や世帯数、平均気温や所有する家電製品など多くの要素が影響する。間違いなく人口減少と平均年齢の上昇、そして電化住宅の増加や電気自動車の普及率アップといった要素を今後のトレンドに取り込んだときに、消費構造をどう推定すればよいのだろうか。

これらも全国の平均ではなく、一つの県単位で推定することが有効だと考えられる。その理由は、人口変化の社会動態による影響や所得の傾向、気温などその県ならではの独特の傾向があるからであり、これらも地域で活躍をするエネルギー事業者などが、その土地の将来傾向をつかみ複数のシナリオを用意しておくべきだろう。言い換えると、地域のエネルギー事業者は消費構造をしっかりと予測しないと供給面でのリスクが高まることを意味している。

図は静岡県の世帯数と人口を示したグラフだが、この10年間で20万人ほどが減少していることが分かる。これが先の産業分野に雇用という形で影響も与えることから、エネルギー消費構造を誰が主導して作り上げるのか。CNの戦略を考える上で十分考慮されるべきだろう。

最後に、CO2排出に影響を与えると考えられる静岡県の自動車保有台数について触れる。こちらも所有台数自体は、この数年310万台程度で横ばい傾向だが、その中身は軽自動車の比率が増加しており、これも世帯・人口数や生活の仕方などの傾向が現れているものと思われる。

マクロとミクロをつなぐ まずは静岡から発信へ

筆者は現在、大学に籍を置きながら、静岡県の地域のエネルギー需給構造がどうあるべきかについて研究を行っている。全国大で論じられるエネルギー政策論(マクロな視点)とは違った、地域独自の傾向を取り入れた個々の消費構造(ミクロ的な視点)を積み重ねることにより、日本全体としても間違いのない羅針盤が出来上がるのではないかと思われる。

このような羅針盤を作り上げるためには、それぞれの地域における行政と事業者、そして大学などを交えた横断的な組織が各地で出来上がればと期待しているところだ。まずは、地元の静岡で「CN城下町」を作り上げ、全国に発信していきたい。

人類がこれまで地球という船の単なる乗員だった時代から、船を操縦する役割に変わった今、地球号の行方をコントロールできるのは人類しかいない。CNは規制ではなく、SDGsの理念「地球の持続可能な発展」のために不可欠な取り組みだ。

今こそ、社会価値と企業価値の両立を実践する事業者や、地域の最適なエネルギー消費構造を作りCNのエネルギー供給を手掛けるエネルギー事業者、そして自治体や大学などが一体となって未来をつくり出す〝地域総ぐるみ〟の取り組みを行う時代が到来したことを自覚するべきだ。

なかい・としひろ 1986年宇都宮大学工学部卒、静岡ガス入社。静岡ガス&パワー社長などを経て、2022年3月退社。中井俊裕カーボンニュートラル・ラボを設立し現在に至る。

【羅針盤(第1回)】 駿府城・静岡市の特性を生かす 官学民連携で新たな脱炭素モデルへ https://energy-forum.co.jp/online-content/8491/

【羅針盤(第2回)】人材・リスク・技術革新が重要 迫り来る脱炭素社会への取り組みhttps://energy-forum.co.jp/online-content/8822/

【石油】補助金の意外な評価 出口戦略の必要性


【業界スクランブル/石油】

市場原理に反する、物価体系の相対水準を壊す、価格抑制の実感がない、選挙目当てのバラマキだ、温暖化対策へ逆行―など批判の多い原油高騰対策の補助金であるが、意外にも、経済産業省の記者や元売り会社・ガソリンスタンドの関係者などからは評判が良い。制度的に精緻で良く考えられており、現実の取引を阻害することなく、面倒な手続きなど悪影響の発生を抑え、効果を上げているからだという。

補助金は、石油製品価格の上昇がコロナ禍からの経済回復の重荷になる事態を防ぐため、時限的・緊急避難的に、基準価格時点からの原油価格の上昇分を卸売価格抑制の原資として、石油元売会社に対して補てんするものである。価格上昇に伴い4月末には、補助限度額が1ℓ当たり25円から35円に増額され、支給基準価格も同172円から168円に引き下げ、支給期間も9月末まで延長されるなど、大幅に拡充された。元売りも、補助金の趣旨どおり、忠実にトンネル役を果たしており、ガソリン小売価格も、補助金開始以降、基準価格172円前後の水準で推移している。この間の原油価格の変動から見れば、補助金がなければ200円前後の水準に達していてもおかしくない。その意味では、価格抑制の効果は十分に出ている。

しかし、何分にも、月間最大3000億円の財源が必要である。ウクライナ戦争については長期化が予想され、原油価格鎮静化の兆しも見えない。もし補助金の終了時に油価高騰が続き、35円限度額が出ていたら、石油製品の小売価格は一挙に35円も上がる。こうなっては、目も当てられない。

戦争と同様に、物事は始めることより、終わることの方が難しい。出口戦略を早いうちに考えておくことが必要だ。(H)

【検証 原発訴訟】取消訴訟の主張立証責任 実質的に行政庁に転換したインパクト


【Vol.3 伊方最判③】森川久範/TMI総合法律事務所弁護士

「伊方最判」の分析第三弾では、原子炉設置許可処分の取消訴訟の主張立証責任に焦点を当てる。

主張立証責任は原告側との原則を修正して実質的に行政側にあるとしたが、これはどんな意味を持つのか。

 前回に引き続き、伊方発電所に関する最高裁判決を取り扱う。第二回では、伊方最判が、原子炉設置許可取消訴訟における裁判所の審査・判断の方法を、行政機関が行った審査に焦点を当てて、現在の科学技術水準に照らし二段階で行うとしたこと、この裁判所の審査・判断の方法が現在でも通用することを確認した。

伊方最判では、原子炉設置許可処分の取消訴訟の主張立証責任についても判断を示している。主張立証責任とは、主張立証に失敗した場合、主張立証しようとした事実等がないなどと扱われ、不利益を被ることをいう。

伊方最判は、原子炉設置許可処分の基準の適合性の判断について次のように示している。行政機関に専門技術的裁量が認められるとの原子炉設置許可処分の性質からすると、例外的にその裁量を逸脱または濫用して行政庁の判断に不合理な点があると主張する側(伊方最判で言えば原子炉設置許可処分の取消を求めている原告=住民側)に主張立証責任を負わせるべきとの考えの下、「被告行政庁がした判断に不合理な点があるとの主張立証責任は、本来、原告が負うべきものと解される」と判断して、まずは原則論を確認した。

今では規制委は審査状況をおおむね公開している

許可処分不合理との「推認」 覆すことは事実上不可能

しかし、伊方最判はこの原則論を修正した。すなわち、「当該原子炉施設の安全審査に関する資料をすべて被告行政庁の側が保持していることなどの点を考慮すると、被告行政庁の側において、まず、その依拠した前記の具体的審査基準並びに調査審議及び判断の過程等、被告行政庁の判断に不合理な点のないことを相当の根拠、資料に基づき主張、立証する必要があり、被告行政庁が右主張、立証を尽くさない場合には、被告行政庁がした右判断に不合理な点があることが事実上推認されるものというべき」とした。

要するに、被告行政庁がまずその判断に不合理な点がないことを相当の根拠・資料に基づいて主張立証する必要があり、それに失敗した場合には、行政庁の判断に不合理な点があることが事実上推認されるとした。

この判示については、被告行政庁が主張立証を尽くさない場合の効果として、行政庁の判断に不合理な点があることが「事実上」推認されるとの言い回しから、主張立証責任を原告側(住民側)から行政庁に転換したものではないと説明されることがある。しかし、行政庁が主張立証に失敗した場合に、事実上とはいえ原子炉設置許可処分をした判断に不合理な点があることが「推認」されることのインパクトは、非常に大きい。

というのも、この推定が働くのは、被告行政庁が具体的審査基準や審査過程において不合理な点がないことを相当の根拠、資料に基づき主張立証することに失敗した場合である。そのような場合に、原子炉設置許可処分をした判断に不合理な点がないとして、この推定を覆すことはおよそ不可能だからである。実務的感覚としては、「事実上の推定のテクニックを用いて、被告行政庁へ立証責任を転換している」との評価が最も的を射ているであろう。

伊方最判がこうした主張立証責任の実質的転換をした理由は何か。「当該原子炉施設の安全審査に関する資料をすべて被告行政庁の側が保持していることなどの点」、すなわち証拠が被告行政庁側に偏在していることのみを明示的な理由とした。「など」として他にも理由があることがうかがわれるが、最も強い理由が証拠の偏在であることは間違いない。

では、この証拠の偏在という理由が現在でも妥当するのか。現在の原子力規制委員会では、いわゆる新規制基準への適合性審査の状況をほぼ全て公開していることや、伊方最判後に行政機関の保有する情報の公開に関する法律(いわゆる情報公開法)が制定されたことなどから、安全審査に関する資料についての証拠の偏在状況は、伊方最判当時とかなり異なるといえる。とすれば、現在では伊方最判が挙げる理由のみで被告行政庁への立証責任の転換を認めることは困難だと思われ、より具体的かつ説得的な理由付けが必要になるだろう。

安全審査の対象範囲 基本設計に限定

また伊方最判では、原子炉設置許可段階における安全審査の対象についても判断を示した。これは、上告人ら(住民側)が、安全審査は核燃料サイクル全般、原子力発電の全過程に及ぶと主張していたことに対する判断である。

ここでも原子炉等規制法の法解釈から結論を導いた。すなわち、炉規法がいわゆる分野別規制(製錬事業や原子炉の設置、運転などといった分野ごとに規制を行うこと)と段階的規制(原子炉施設の設計から運転に至る過程を段階的に区分して規制を行うこと)という構造だと指摘(ただし分野別規制と段階的規制を取る合理性については触れていない)した上で、「規制の構造に照らすと、原子炉設置の許可の段階の安全審査においては、当該原子炉施設の安全性にかかわる事項の全てをその対象とするものではなく、その基本設計の安全性にかかわる事項のみをその対象とするものと解するのが相当である」と法解釈した。

そして、固体廃棄物の最終処分の方法、使用済み燃料の再処理および輸送の方法、ならびに温排水の熱による影響などに関わる事項は、原子炉設置許可段階の安全審査の対象にはならないと判断した。要するに炉規法の仕組みから、原子炉設置許可段階における安全審査の対象は基本設計に関わる事項のみであると判断したのである。

他方、基本設計(ないし基本的設計方針)という用語・概念は法律上のものではなく、内容が判然としないとの意見もある。しかし、行政訴訟では結局、原子炉設置許可処分の違法性が問題となるのであるから、原子炉設置許可処分に当たっての行政機関の審査対象が何なのかが重要であって、それを端的に基本設計という用語・概念で説明したと捉えればよい。

この点については、最判2005年5月30日のいわゆる「もんじゅ最判」との関連で述べた方が分かりやすいため、次号ではもんじゅ最判を取り上げる。

・【検証 原発訴訟 Vol.1】 https://energy-forum.co.jp/online-content/8503/

・【検証 原発訴訟 Vol.2】 https://energy-forum.co.jp/online-content/8818/

もりかわ・ひさのり 2003年検事任官。東京地方検察庁などを経て15年4月TMI総合法律事務所入所。
22年1月カウンセル就任。17年11月~20年11月、原子力規制委員会原子力規制庁に出向。

【マーケット情報/6月17日】原油下落、需要後退の予測台頭


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み下落。特に米国原油の指標となるWTI 先物は11.11ドル、北海原油を代表するブレント先物は8.89ドルの急落となった。米国の経済減速を背景とした需要後退の見通しが台頭し、売りが優勢に転じた。

米国の連邦準備理事会が、インフレ対策として急激な利上げを決定。1994年以来の大幅上昇となる75ベーシスポイント(0.75%)の引き上げとなった。これにより、米国の経済が冷え込み、石油需要が後退するとの予測が広がった。

供給面では、米国で、日量100万バレルの戦略備蓄放出のうち、6~7月デリバリーで3,600万バレルの買い手が決定。加えて、同国の石油サービス会社ベーカー・ヒューズが毎週発表する国内石油採掘リグの稼働数は4基増加して584基となった。石油とガス採掘リグの合計は740基となり、2020年3月以来の最高を記録した。

【6月17日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=109.567ドル(前週比11.11ドル安)、ブレント先物(ICE)=113.12ドル(前週比8.89ドル安)、オマーン先物(DME)=116.33ドル(前週比2.77ドル安)、ドバイ現物(Argus)=116.10ドル(前週比2.66ドル安)

【ガス】CNの潮流止まらず LP業界は発想転換を


【業界スクランブル/ガス】

 全国LPガス協会は、カーボンニュートラル(CN)対応検討会で昨年末にまとめた中間報告の実行への対応を検討するため、4月末に「LPガスCNWG」を立ち上げ、〝見える化〟から始まるグランドデザインを作成する。中間報告で示した10項目の経営展望を具体化するものだ。LPガス販売事業者の省エネやCO2排出量の算出・把握、排出量の削減・カーボンオフセット取引、サプライチェーン内での可視化などをデータベース化し、LPガスがCO2削減に有効であることなどをアピールするという。

LPガス元売りでは「日本グリーンLPガス推進協議会」がグリーンLPガスの研究開発をスタートさせたが、実用化へのハードルは高い。LPガス存続にはトラジションでの卸売・小売業界の活動が重要だ。実行活動として挙げるのがエコジョーズやエネファーム、高効率給湯器の普及活動。また、低消費電力の広域無線通信技術・LPWAを活用した集中監視システムの導入率改善、充てん所・配送センターの統合を足掛かりとしてAI・IoTを活用した交錯配送の改善による効率化向上なども検討するとしている。ただ、これらの活動は重要だが、今までも実施してきたことで新鮮味があるとはいえない。

ロシアのウクライナ侵攻でエネルギー情勢に多様な変化が起きている。CNの潮流は停滞するかもしれないが止まることはなく、脱炭素化は着実に進める必要がある。ここはこれまでの発想を変えて、大手LPガス事業者が川崎市に建設したDX(デジタルトランスフォーメーション)を実装した世界最大規模のLPガス充てん基地の共同利用や、先進的ビジネスモデルを実行するLPガス事業者への相乗りも視野に入れてはどうだろうか。(F)

分散型電源の普及拡大に貢献 エネルギーシステムを変革する


【エネルギービジネスのリーダー達】上村一行/シェアリングエネルギー代表取締役

太陽光発電由来の電気をお得に利用できる「シェアでんき」を展開する。

目指すのは、脱炭素社会を実現するための新たなエネルギーシステムの構築の一端を担うことだ。

うえむら・かずゆき 2002年デロイト・トーマツ・コンサルティング(現アビームコンサルティング)入社。08年アイアンドシー・クルーズを設立。18年1月シェアリングエネルギー設立に携わり20年2月代表取締役。

 「再生可能エネルギーによる分散型電源を創出し、エネルギーシステムを変革する」という、明確なミッションを掲げ2018年に発足した電力ベンチャーのシェアリングエネルギー。このミッションを達成するべく、住宅の屋根上に特化した太陽光発電(PV)システム無料導入サービス「シェアでんき」を手掛けている。

上村一行代表取締役は、「同様のサービスを手掛ける企業は多数あるが、現在、ユーザーにとって経済的なメリットが最も高いのがシェアでんきだ」と自負。あくまでも同社が設備を保有する第三者保有モデルであるため、ユーザーは設備利用料を負担しない。電気の使用量に応じ課金され、よりお得に再エネ由来の電気を利用できる仕組みだ。

屋根上PVの導入加速 不可逆的な流れに

初期費用ゼロ円にこだわるのは、「経済的なお得感があり、その結果として脱炭素に貢献しているというストーリーがなければ普及は進まない」との信念から。この4年間で、家庭用の低圧分野に特化しオペレーションの標準化を進めコスト競争力を高めたほか、地場の設置工事会社とのネットワークを築き、効率的な施工管理体制を構築してきたことも、他社よりも高い経済的メリットを提供できる原動力になっているという。

スタート当初は、ゼロ円でPVを導入できるということへの不信感から二の足を踏む人が多かったが、20年10月の菅義偉前首相の「50年カーボンニュートラル宣言」が追い風となり、この4年間で約5000棟を手掛けた。提携する住宅メーカーや工務店は今や、全国700社に上る。

「内閣府が策定した『地域脱炭素ロードマップ』の中でも、重点施策の一つに屋根上自家消費PVが据えられ、PPA(電力販売契約)を主軸としたPVの導入促進が不可逆的な流れとなっていると強く感じている」と言い、これを追い風に、年間1万棟の導入を目指すべく体制を強化している。

実は、上村代表が起業したのは、シェアリングエネルギーが初めてではない。大学時代から起業を志し、卒業後は、デロイト・トーマツ・コンサルティング(現アビームコンサルティング)に入社。大手総合商社の経営改革プロジェクトなどに携わっていた。そして6年後の2008年、最初に起業したのがアイアンドシー・クルーズだった。

同社で手掛けたのは、インターネットを通じて再エネに関する製品やサービスを需要家とマッチングする事業。まだまだ富裕層や特に環境意識が高い層だけがPVに興味を持っていた当時、事業者と需要家の間に情報の非対称性がある中で、インターネットで正しくマッチングすることでマーケットを広げていけると考えたのだ。

それまでエネルギービジネスに携わった経験はなかったが、商材として再エネを扱うことを決めた背景には、「起業を前に子供が生まれたこともあり、次世代にしっかりと紡ぐべき価値観やサービス・プロダクトをインターネットを用いて世の中に広めていきたい」との強い思いがあったという。

やがてFIT(固定価格買い取り)制度が始まり、太陽光はメガソーラーなど産業用が主流になっていく。また同時に設置コストも急速に低下していった。こうした状況の中、仲介役としてではなく、事業者として自ら分散電源の普及拡大にリーダーシップを取っていきたいと、シェアリングエネルギーを設立するに至った。

シェア20~30%獲得へ 環境価値など市場取引も

今後は、PVの導入促進にとどまらず、それに付随する二つの新たな取り組みを事業化する。

一つは、「シェアでんき」のユーザーに対し、20年という契約期間の中でさらなるお得感に加え、生活の質が向上したと感じてもらえるようなサービスを提供していくこと。例えば、蓄電池を導入し自家消費率を高め、系統電気に頼らない生活を実現することや、EV(電気自動車)とエネルギーシステムを組み合わせ、お得に脱炭素に貢献できるようにするなど、ライフスタイルに合わせてエネルギー利用を最適化するサービスを打ち出していく。

もう一つは、屋根置きPVの市場でシェア20~30%獲得を目指し、そのスケールメリットを生かした新たなビジネス。再エネ価値を環境価値として市場で販売したり、調整力として需給調整市場に供出したりといった取り組みを着実に進めていく方針だ。

「最初に起業した会社はM&Aで売却することになったが、シェアリングエネルギーは上場を目指し、社会の公器として次世代のエネルギーシステムの在るべき姿を構築する役割を果たしていきたい」と意気込む上村代表。自治体など、地域を巻き込んだ地産地消型エネルギーシステムのパッケージをショーケースに、日本のみならずアジアを中心とする海外にも進出を果たし、グローバル企業を目指す。

【新電力】システム改革の失敗 リスクを負う新電力


【業界スクランブル/新電力】

 電力システム改革の失敗が公然と語られるようになっている。残念ながら今日の電力システムは脆弱と言わざるを得ない。なぜこのような制度になったのか。2013年に公表された改革方針では、「発電と小売りの多様化が進む中でも安定供給を達成する」「再生可能エネルギーの導入が進む中でも安定供給を達成する」と記載されているが、その目的が達せられることはなかった。

一部では、「諸悪の根源は、限界費用玉出しにあるのではないか」といった声が上がっている。筆者は、広域メリットオーダー実現の観点からは、限界費用をベースとした卸電力市場は必要であると考える。他方で、電源固定費の手当なしに限界費用玉出しを強行したことは明らかに火力の退出を促した側面があったと考えられる。

さらに、現在の容量市場の価格約定メカニズムにも課題があるのではないだろうか。現在の容量市場はシングルプライスで約定される仕組みであり、全電源の固定費と可変費の和が同一価格もしくは、一定価格以下である前提の制度となっている。

電源は価格で表せることのできない利点を有する。揚水は、電力貯蔵による非化石電力有効活用が可能であり、原発は非化石電力を安定的に供給でき、エネルギー自給率向上に寄与する。

これら電源の特性を無視した現在の枠組みでは、発電事業者は稼働率の高い電源を残して、残りの電源は廃止することが合理的となってしまう。もちろん、過度な国民負担は避けるべきであるが、価格では表せない特性を評価する観点から、容量市場ではマルチプライス化へ制度変更すべきではないだろうか。安定供給が損なわれたシステムで最もリスクを負うのは新電力である。新電力こそ安定供給維持を主張せねばならない。(M)