大手電力の業績が総崩れ 規制料金の赤字影響鮮明に


資源価格高騰・円安進行を受け、エネルギー関連事業者が軒並み好業績を上げる中で、大手電力各社は総崩れの状態だ。

池辺電事連会長は11月18日の会見で「規制料金の在り方の検討が必要」と提起した

10月下旬に発表された2022年度上半期の決算(当期純損益)を見ると、大手電力10社のうち東京が1433億円の最終赤字を記録したのを筆頭に、東北1363億円、関西763億円、中国560億円、九州476億円、中部426億円、北陸381億円、沖縄168億円、北海道16億円と、9社が最終赤字に転落。四国だけが89億円の最終黒字となった。

通期予想を見ても、東京と九州が未定としている以外は、東北1800億円、関西1450億円、中国1390億円、中部1300億円、北陸900億円、北海道710億円、沖縄416億円、四国250億円と、大幅な最終赤字となっている。

最大の要因は、規制料金部門の収支悪化だ。石炭、LNG、石油の燃料調達価格が上昇する中で、燃料費調整条項に基づく燃調価格が全電力で上限(基準価格の1・5倍)に到達。超過分については、事業者側が負担する状況となっている。どの程度の負担額かといえば、事業者によって差があるものの、標準家庭(月使用量260kW時)の12月分料金で1400~3600円程度だ。仮に現状で燃調上限を撤廃すると、それだけの値上がりが発生することになる。

「燃料価格は過去にない水準に上昇し経営を圧迫している。このまま赤字が継続すれば、私どもの使命である電力の安定供給に支障をきたしかねず、複数の会社では規制部門の料金値上げが避けられない状況だ」。電気事業連合会の池辺和弘会長は11月18日の会見で、こう警鐘を鳴らした。

都市ガスは軒並み増益に 調整上限の影響受けず

その一方で、原料費調整条項の調整上限の大影響を実質的に免れた都市ガス会社の上半期決算は好調ぶりが目立った。主要6社の当期純損益を見ると、東京716億円、東邦68億円、西部71億円、北海道23億円、広島11億円の5社が最終黒字に。大阪だけが、米フリーポートLNGの火災事故の影響で割高なスポット調達を余儀なくされていることから、297億円の最終赤字となった。

通期予想では、東京1180億円(対前年比23・3%増)、大阪290億円(同77・8%減)、東邦160億円(同3・5%増)、西部100億円(同20倍)、北海道53億円(同1・2%増)、広島29億円(同20・8%増)と、全社が最終黒字だ。東邦を除き規制料金部門がないという事情もあり、大手電力との違いは鮮明だ。

ちなみに石油・LPガス主要各社の通期の純損益予想は、ENEOS3300億円、出光興産3250億円、コスモエネルギーホールディングス1150億円、岩谷産業300億円、伊藤忠エネクス130億円、ニチガス110億円と、こちらも全社が黒字だ。

いずれにせよ、大手電力の惨状が際立っているのは事実。安定供給体制を維持する上でも経営の健全化は急務だ。元凶である規制料金の在り方が問われている。

大けがから復帰し3年ぶり優勝 世界の頂へ「恩返し」目指す


【京葉ガス/柔道部】福岡 克仁

 岡山・関西高校在学中の2013年、全日本実業柔道団体対抗で記録員を務めると、その年に準優勝を収めた京葉ガスの活躍に心を惹かれた。「仕事をしながら競技を続け、強い相手をなぎ倒していく姿に憧れた」。当時、関西高校柔道部を指導していた槇英樹氏が京葉ガス出身ということもあり、社会人と柔道家を両立する京葉ガス柔道部に魅力を感じていた。

22年の全日本実業個人では3位入賞を果たす
提供:京葉ガス

15年に日大進学後、1年生で全日本学生体重別優勝を果たすと、京葉ガスの河原正太監督から「講道館杯を制し、世界を目指してほしい」とスカウトを受け、大学卒業後に入社した。全日本実業での団体優勝を目標に掲げる京葉ガスは、重量級の選手が多く在籍。「73㎏級の自分では力で勝負できない。体幹や肉体の強さで戦う」と猛練習を重ねたが、稽古中に左ひざの前十字、内側、後十字の断裂、半月板の損傷という大けがを負ってしまう。

「軽量級なのに会社から声をかけてもらって、恩返しもできず柔道を辞めなければいけないのか」と絶望に打ちひしがれるも、京葉ガスは寄り添った。結果が出なければ実業団選手は3年で一区切り、と言われる中で「焦らずにけがの再発だけはしないように」(河原監督)と長いリハビリに取り組んだ。復帰戦となる3年目の21年12月に全日本実業個人で優勝を果たした。出場権を手にした講道館杯は、新型コロナの影響で中止となってしまったが、代替開催された選考会でも結果を残し、全日本柔道連盟の強化選手に選ばれた。

現在は総務グループに所属しながら、午前と午後に分けて業務と練習を両立。会社に隣接する柔道場を拠点にしながら、首都圏の強豪大学や実業団へ出稽古に向かう。京葉ガス柔道部としては、地元市川市で行う柔道教室に河原監督やコーチ陣が中心となって参加し、子どもたちに柔道で得た経験を還元している。「柔道を通じて人とのつながりも増え、この会社に入社することができた。会社や柔道に恩返しができたら」と感謝の気持ちを話す。

選手としての目標は、今年の講道館杯で優勝し日本代表に選ばれて、日の丸を付けて世界で戦うことだ。同じ73㎏級には五輪二連覇の大野将平選手や、10月に開催した世界選手権準優勝の橋本壮市選手などライバルは多いが「昔ほどプレッシャーはない。自分のできることを行い、全力を出し切るのみ」。泰然自若の心で世界の頂に挑む。

1996年生まれ。岡山県出身。日本大学1年時の2015年、全日本学生柔道体重別で優勝。19年京葉ガス入社。入社直後、左ひざに大けがを負うも21年、全日本実業個人で3年ぶりに実戦復帰し優勝を果たす。

【マーケット情報/11月25日】原油下落、中国ロックダウンが重荷


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み下落。中国における新型コロナウイルスの感染再拡大を受け、経済減速と石油需要後退の懸念が一段と強まった。

中国では23日、過去最大の新規感染者数3万1,000人を記録。中国東部・鄭州市では25日からロックダウンが敷かれ、また、移動規制の対象地域も拡大。経済がさらに冷え込み、石油需要が減少するとの予測が広がった。

米国の製造業における購買担当者景気指数(PMI)が11月、2020年6月以来初めて前月比で悪化したことも、価格に対する下方圧力として働いた。

また、供給面では、ロシアの11月海上出荷が、21日時点で既に今年最高の日量350万バレルに達している。G7が禁輸措置の一環として、12月5日からロシア産原油に対する価格上限導入を計画しており、それまでに出荷を急いでいるとみられる。

一方、G7は依然、価格上限の詳細を詰めている状況。詳細が不透明なまま、5日を前に、リスク回避のためロシア産原油の取引が停滞する可能性が台頭した。さらに、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、クウェイト、およびイラクは増産を否定。OPECプラスによる協調減産の重要性を強調した。ただ、供給減少の見込みは、価格の強材料とはならなかった。

【11月25日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=76.28ドル(前週比3.80ドル安)、ブレント先物(ICE)=83.63ドル(前週比3.99ドル安)、オマーン先物(DME)=80.62ドル(前週比3.55ドル安)、ドバイ現物(Argus)=80.47ドル(前週比3.94ドル安)

次代を創る学識者/宮原ひろ子・武蔵野美術大学造形学部教養文化・学芸員課程教授


太陽活動の変動がどのように地球環境に影響しているか。

それを解明し、気候変動対策や気象予報に生かすべく研究を続けている。

太陽物理学、宇宙線物理学の研究に従事しながら、武蔵野美術大学で、芸術を志す学生たちに一般教養として物理学の講義を行っている宮原ひろ子教授。物理と芸術、一見相反するもののようだが、「どちらも物事の観察がベースにあるという大きな共通点があり、表現に説得力を持たせる上で物理の知識が大事になってくることもある。サイエンス・アートに取り組む学生もいて、そのお手伝いができることにやりがいを感じている」と話す。

研究テーマは、太陽活動の長期的な変動のメカニズムを探ること、そしてそれに伴い地球に降り注ぐ宇宙放射線量がどのように変動するかを分析し、それらが地球の気候変動や気象現象に及ぼす影響を解明することだ。

降水量の増減は、二酸化炭素(CO2)排出量の増大に起因する温暖化によるものと説明されがちだが、気候予測モデルは未完成で、一定の条件でのシミュレーションであり実験段階に過ぎない。実は、宇宙放射線など地球外からも含めさまざまな要因があると考えられ、特に、銀河宇宙線が雲の発達に影響しているのではないかとの仮説に立ち研究を進めている。

太陽活動や宇宙放射線の影響については、今のところ定量的な手掛かりは得られていないが、それを解き明かすことができれば、より精緻な気候変動予測や天気予報が可能になる。それが研究の最終目標だ。「現在は、予測できるのはせいぜい10日程度先までの天気だが、3カ月先まで読めるようになるかもしれない。太陽光や風力など、自然変動型の再生可能エネルギーの発電予測の精緻化にも貢献できたら」と、期待を込める。

熱中できるテーマ 研究を継続できる鍵

宮原教授は、名古屋大学理学研究科で博士課程を修了した後、NASA(アメリカ航空宇宙局)ゴダード宇宙飛行センターや、東京大学宇宙線研究所などで研究に従事してきた。

宇宙放射線が気候や気象に及ぼす影響を研究する研究者は世界的にも少ない。「学位取得後は、地球や宇宙を研究する異分野のラボに籍を置かせてもらう形で研究を進めてきた。仲間と議論する機会がなかなか持てなかったことは大変ではあったが、幅広い分野に触れてきた経験が今は大きな財産になっている」と語る。「何より、熱中できるテーマと出会えたことが最大の力になった」とも。

ただ、一児の母でもある宮原教授が、自らの経験を踏まえて実感していることは、女性が結婚や出産・育児を経験しながら研究者としてのキャリアを形成することの難しさだ。特に博士号を取得してから10年程度は、任期付きの職を渡り歩かなければならない状況との相性の悪さを感じている。そのため、「これから研究者を目指す人たちが、ライフイベントによる障壁を感じることなくキャリアビジョンを実現できるような環境が必要だ」と言い、その具現化にも貢献していきたい考えだ。

みやはら・ひろ子 1978年埼玉県生まれ。2005年名古屋大学理学研究科素粒子宇宙物理学博士課程修了。東京大学宇宙線研究所などで研究に従事。13年武蔵野美術大学専任講師に着任し、准教授を経て21年4月から現職。

【メディア放談】エネルギー政策と新聞報道 日経の「緊急提言」に物申す!


<出席者>電力・ガス・石油・マスコミ/4名

緊迫化するエネルギー情勢を受けて、日経が「緊急提言」を行った。

原子力推進を盛り込んだが、求められているのは中立・客観的な報道だ。

 ―原子力発電を巡る風向きが大分、変わってきた。マスコミの世論調査を見ると、再稼働や新増設・リプレースに賛成が反対を上回っている。

 ウクライナ侵攻で深刻度を増したエネルギー危機が背景にありそうだ。そういう世の中の風潮を感じ取ってか、新聞も論調を変えつつある。

電力 日経は9月にエネルギー政策について緊急提言を打ち出した。「原発活用の体制を国主導で再構築」しろという。

 もちろん歓迎している。だが、別に原発を持ち上げてほしいわけじゃない。再エネ、原発、火力。それぞれ長所、短所がある。どう電源構成のバランスを取れば、最も安定・低廉な電力供給ができるのか。日経は日本を代表する経済紙だ。経済分析専門の研究機関も持っている。再エネや原発を日経なりにきちんと評価して、ベストだと考える方策を示してほしい。

―クオリティペーパーならばそれが役割だろう。

電力 今まではあまりにも再エネに偏りすぎていた。太陽光、風力については何の疑問も持たずに推進側の言い分を記事にしていた気がする。それを真ん中に戻してほしいだけだ。

ガス 提言をつくる際に社内でかなりのせめぎ合いがあったという。再エネは2050年に7割を目指すとしている。この数字をどう見るかは別にして、関係者が「編集局の中にかなりの再エネ原理主義者がいることが分かった」と漏らしていたらしい。

―ほかの新聞は。

石油 東京も、例えば三菱重工業が発表した革新軽水炉のことを余計な論評を付けずにたんたんと載せていた。毎日は記者が上司の意向を忖度しないで自由に記事を書いている気がする。

 朝日もそうだが、個人のレベルでは意外に原子力に中立的な記者が多い。ただ社説になると違う。朝日、東京、毎日は反原発の主張を頑として変えない。

マスコミ 朝日、東京の論説を変えるのは、イスラム教徒をキリスト教に改宗させるようなもの。それでいいと思う。日本は中国、北朝鮮と違う。全体主義の国ではない。原発、自衛隊、米軍基地移転に反対する人たちがいるから、その声を代弁するメディアも要る。ある意味で社会が健全な証しだ。

電力 ただ、「うそ」は止めてほしい。よく例に出る「メガソーラー完成、原発1基分」の記事は「うそ」だと思っている。わざと右目をつぶって、左目だけで見えることを書く。太陽光発電で意図的にkW時に触れない記事は、正しいことを伝えていない。

―新聞も商品。朝日、毎日、東京は読者が再エネを「信仰」しているから、そういう記事を載せてきた。

石油 日経はどうだったかな。さすがにもう載せないと思うけど、注意して読んでいくよ。

原発に追い風吹くが…… 投資回収に難題あり

―原子力肯定派が増えていることで、政府が進めようとしている再稼働、運転期間延長、新増設・リプレースに弾みが付きそうだ。

電力 追い風が吹いて環境は整いつつあるが、本当に大変なのはこれからだ。再稼働と運転期間延長はそれなりに進む。問題は新増設・リプレースだ。原発の建設コストは1基1兆円程度になる。しかし、今、それだけの額の投資を回収できる保証はない。金融機関は安易な融資はしない。

―確かに原子力規制委員会の判断、裁判所の決定や判決、自治体首長の考えなどで、原発は突然止まったり、定検中の発電所が再稼働しなくなったりする。

電力 原発の発電単価を低レベルに保つには、そういったリスクを一つずつ消していくしかない。それは水面下での作業になる。

マスコミ 反対派はコストの点を突いていくだろう。そこが原発の「急所」だと思う。リスクを減らすのは面倒な作業になるが、再稼働、運転延長から一歩ずつ進めて信用を得ていくしかない。すると需要家の理解が得られて、「一時的に多少値段が高くなっても、安定した電源が必要」となるかもしれない。

―もっとも原子力も完璧なエネルギー源ではない。

マスコミ むしろ足を引っ張りかねないのは原発推進派の方だ。原子力は優れた技術だが、国や学識者などが「上から目線」で話をしても拒否反応しか起きない。あれだけの被害があったのだから、日本人は福島事故を忘れていない。東京電力の「A級戦犯」は起訴までされたが、国は「無罪」になった。傲慢な態度を取ると猛烈な反発をくらうことになる。

官邸のトップダウンに困惑 問われる首相の「話す力」

―電気・ガス料金の急激な値上がりの激変緩和として、政府は負担軽減策を打ち出す。託送料金の引き下げなどが検討された。

ガス 政権首脳の「需要家に軽減幅が分かるようにしろ」の一声で託送料金の引き下げはなくなった。激変緩和対策は官邸からのトップダウンで、実際に対策を考える経産省は頭を抱えている。

石油 もともとはガソリン価格高騰への対策だった。景気後退の懸念で原油価格は一時的に下落したが、OPECプラスの減産で来年、また上昇するかもしれない。当然、リンクして天然ガスも上がる。しかも円安が進んでいる。するとズルズルといつまでも高騰対策を続けなければならない。

マスコミ では財源をどうする。首相は「聞く力」で総理総裁になったが、エネルギー政策では「話す力」が問われる。時には、できないことはできないと言うことも大切になる。

―せっかくの黄金の三年間。輝いてほしいのだが……。

森林資源を地域密着型発電所に 持続可能な豊かな社会の実現を


【リレーコラム】勝山 猛/フォレストエナジー執行役員

 わが国の経済競争力の低下が止まらない。

1ドル140円で換算した今年のドル建て名目GDPは30年前に逆戻りし、4兆ドルを下回り、4位のドイツとほぼ並ぶ見込みと報じられたのは記憶に新しい。今や一人当たりのドル建て名目GDPは世界30位近くの水準にある。自律的な経済成長が実現できなくなった穴埋め策として、財政出動で経済を支えてきた結果、今年度末の普通国債発行残高は30年前の約6倍、初の1000兆円超えが予想される。政府債務残高は対GDP比で250%超、世界ワースト2位という状況だ。これまでは家計と企業の貯蓄によって国債の国内消化構造を維持してきたが、貯蓄超過の余剰幅は頭打ちを迎え、この構造が揺らぐ懸念が生じている。

この懸念を増幅させる事象の一つが経常収支の悪化だ。経常赤字が続けば国債の国内消化率が低迷し、海外資金の調達が必要となるが、国債消化の海外依存はひとたび信用不安が発生すると急速な財政悪化を招きかねない。 これら経済的諸問題の解決に寄与し、さらに環境問題の改善、エネルギー安全保障の確立にも寄与するのが再生可能エネルギーだ。再エネの普及は経常収支の改善、経済構造の改革に寄与する。また、地球温暖化対策、エネルギー自給率の向上にも寄与する。

バイオマス発電で地域と国に貢献

中でも当社の主業である地域密着型の小型木質バイオマスエネルギー事業はこれら諸問題の解決に寄与する有力手段の一つであることを信じて疑わない。わが国は国土の約7割を森林が占める世界有数の森林資源大国だ。この森林を有効活用する事業が地域密着型の小型木質バイオマスエネルギー事業である。

中山間地域の森林資源をエネルギー源として活用し、分散電源化を実現することで地域内のエネルギー循環・経済循環に貢献し、わが国の経済・エネルギー構造の改革に寄与する。また、当社の発電所で副産物として生まれるバイオ炭は、CO2などの排出量の削減に関わるJクレジットの認証を受けた。つまりカーボンニュートラルを超え、カーボンネガティブを実現する事業であり、脱炭素化に貢献する事業である。森林資源の活用が森林整備につながり、CO2吸収源対策に寄与することも可能だ。さらには欧州が先行する熱電併給設備などの国産化を進め、産業空洞化対策に寄与することもできる。

この事業を通じて日本経済の再生、脱炭素社会の実現、エネルギー安全保障の確立に寄与し、持続可能な豊かな社会の実現に貢献する。使命感を持って取り組んでいきたい。

かつやま・たけし 国内外の資産運用会社、金融庁などを経て、2012年、FIT制度創設と同時に再エネ業界に転身する。フォレストエナジーの創業メンバーとして木質バイオマスエネルギー事業に従事。現在に至る。

※次回はレノバ執行役員の永井裕介さんです。

【柳本 顕 自民党衆議院議員 環境大臣政務官兼内閣府大臣政務官】「電力構成のベストミックス重要」


やなぎもと・あきら 京都大学法学部卒。1997年関西電力入社。99年より大阪市会議員(5期)。2015年、19年大阪市長選挙出馬。21年、衆院初当選(比例近畿ブロック)。22年環境大臣政務官兼内閣府大臣政務官に就任。

父の急逝をきっかけに、関西電力を退社。市議として政治の世界に飛び込んだ。

大阪都構想議論で注目を集Aめ21年衆院初当選。福島復興や環境問題に尽力する。

 父親は元大阪市議会議員の柳本豊氏。叔父は衆議院で法務委員長などを務めた柳本卓治氏と、政治を身近に感じられる立場にあったが、政治家を志したことはなかった。頭にあったのは「日本という国に対して、どう貢献できるか」。就職活動ではインフラなどの基幹産業に対し興味を持ち、大学卒業後は関西電力に入社した。

入社3年目の1999年、本店に異動となった直後、父・豊氏の逝去に伴う大阪市議会の補欠選挙が行われることとなった。「25歳で仕事も後任に引き継ぎを終えたタイミング。さまざまな状況が重なり、運命的なものを感じた」と出馬し、最年少25歳で初当選を果たす。以降、一般企業で培った市民感覚を忘れず、大阪市議会で市民に寄り添った政策提案を行ってきた。

名前が一躍全国で知られるようになったのは、2度にわたる大阪市長選挙だ。1回目となる15年当時、橋下徹大阪市長と大阪都構想で論戦を繰り広げていたが、出身である西成区の特区構想などで「西成を変えることが、大阪・日本を変えることになるという思いは、橋下さんと合致していた」と話す。高度経済成長期の西成区は、日本の労働力を担うエリアであったが、90年代以降は労働産業の構造が変化。まちづくりは大きな転換期を迎えていた。

大阪市の権限や財源を、府に吸収させる大阪都構想には反対したが、一極集中構造から多極分散型の国土構造へ変革を求めるベクトルでは、橋下市政に協調して、西成区だけでなく、大阪全体の都市ブランド力の構築を目指した。

地方行政に関わる中で、国の民営化推進路線への課題も見えてきたという。「新自由主義的な発想ですべて民間に任せることは、行き過ぎた競争をあおることになる」と、インフラの過剰な民間委託で起こり得る生活基盤の破壊に警鐘を鳴らす。大阪市では都構想とともに、水道事業を巡る民営化の議論も行われていたが「命の水に外資企業が入って、本当に市民の生活を守れるのか」と疑問を呈していた。

制度設計や行財政改革という面で俯瞰的に政策を行う国の視点には、地元の視点や現場の状況把握が足りないと話す。「これまで携わってきた地方政治のエッセンスを国政に注入したい」という思いで、21年に衆議院選挙に出馬、初当選を果たした。

行財政改革で過度な集約化を危惧 多極分散型の国土構造変革目指す

22年8月、第2次岸田改造内閣の環境大臣政務官兼内閣府大臣政務官に就任。環境保全分野で、海洋プラスチック問題や循環経済への移行、公害健康被害対策や東日本大震災、福島原発事故からの復興再生に向けた取り組みを担うとともに、原子力規制委員会を所管する。内閣府の政務官も兼務し、原子力防災にも関わる。10月には福島第一原子力発電所を視察した。「想定外も想定しながら、安全対策と復興への住民理解のための信頼関係の構築を進めなければいけない」と決意を新たにする。

原子力の活用に関しては、関電時代に教育を受けた「電力構成のベストミックスのあり方」を重視している。当時と現在で比率は異なるものの、火力と水力と原子力、そして再生可能エネルギーで、それぞれ役割を担うことが重要だと話す。安定的で安価、CO2排出量削減という点で、原子力も一定の役割を持つと期待している。

資源循環、廃棄物行政の面でも大阪での知見を生かしたいと話す。13年当時、大阪市の中で唯一中心部に立地するごみ焼却場「森之宮工場」の老朽化に伴い、建替や廃止の議論があった。紆余曲折の結果、周辺部の焼却工場で分散対応し、現地は別用途で活用する方向となった。「老朽化や余力ある処理場の集約化は、行財政改革の視点でいえば正しい」とする一方で「環境負荷の観点でいえば、市中心部の処理場がなくなったことで、輸送によるコスト増やCO2排出に影響がある」と指摘。真の循環型社会を目指す上では、廃棄物処理についても行革による集約化・広域化の視点だけではなく、新技術をいかした自区内処理に努める必要もあると前を見据える。

現在は大阪の課題や問題を吸い上げ、国に反映する橋渡し役として汗をかく毎日だ。大阪都構想の住民投票などで、市井の声の力を体感し「政治は住民の声があれば、マグマのよう物事が進む」と話す。自身も日々、住民の声を聴くことが政治活動だとして、情報発信や信頼関係構築の重要性を説く。「父の死

をきっかけにサラリーマンから転身したが、政治の世界の非日常性を常に感じてきた。政治家らしくないかもしれないが、一般的な感覚をこれからも持ち続けたい」。市民に寄り添う政治信念をこれからも貫いていく。

【需要家】節電プログラムの効果は カギ握る広報戦略


【業界スクランブル/需要家】

冬の需給ひっ迫に備え、政府による節電プログラム促進事業が始まっている。小売り電気事業者が実施する節電プログラムに参加した家庭などの低圧の需要家に対し2000円、高圧・特別高圧の需要家に対し20万円相当のポイントを付与する。節電行動を実施せずともポイントが得られる枠組みで、施策の効果は不透明であるが、やるからには少しでも効果を上げるため、政府、電力会社からの積極的な広報に期待したい。筆者が契約する電力会社の場合、会員向けウェブサイトより節電プログラムへの参加を表明することが可能となっている。こうした仕組みの場合、まず会員向けウェブサイトの閲覧率向上に向けた取り組みが必要であろう。

エネルギー小売り事業者の情報提供について検討している経済産業省の「エネルギー小売事業者の省エネガイドライン検討会」では、委員より需要家がウェブサイトを閲覧しない実態について指摘される場面があった。同委員会で公表された消費者向けアンケート(2020年11月実施)によると、電力会社が「家電等の使い方による省エネ効果や光熱費の削減額」の情報提供を行うことを把握している割合は33%で、請求額など基本的な内容を除く情報については認知度が低い状況である。一方、アンケートでは情報の入手先としてSNSやテレビも一定のニーズがあることが確認されており、さまざまなチャネルを通じた広報が有効と考えられる。

近年電力会社のウェブサイトでは、エネルギー消費量の他世帯比較など、省エネルギーを促すコンテンツが充実しつつある。節電促進事業がこうしたコンテンツに触れるきっかけとなることで、需給ひっ迫時における節電だけでなく、平時の省エネルギー推進につながることにも期待したい。(K)

【コラム/11月24日】電気料金抑制策の課題


矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

総務省が9月20日に発表した8月分の消費者物価指数(総合指数、以下同様)は、前年同月比3.0%の上昇を記録し、これは、消費税率の影響を除くと、1991年11月以来、30年9ヵ月ぶりとなった。また、10月21日に公表された9月分の消費者物価指数も横ばい、前年同月比3.0%の上昇となっている。9月分の消費者物価指数上昇率の内訳をみると、電気代21.5%(エネルギー全体では16.9%)、生鮮食品を除く食料への支出4.6%となっており、この2つの項目で、物価上昇率の約6割を説明できる。これまでにも、食料品やエネルギーについては、いくつかの物価対策が講じられてきたが、電気料金については、明示的な価格抑制策はとられてこなかった。

電気料金の上昇は、燃料価格の高騰や、為替レート(円安)の影響が大きいが、このような状況は改善の兆しが見られず、電気料金は、来春には、さらに2~3割ほど上昇する見込みである。このような中で、岸田首相は、10月28日にとりまとめた総額39兆円の財政支出を伴う事業規模72兆円の総合経済対策の目玉として、電力・ガス料金の抑制に6兆円を投じることを明らかにした。電気料金の抑制では、来年1~9月に家庭向けでは7円/kWhの補助金を投入する。補助金の投入について、10月12日に岸田首相は、「国からの巨額な支援金が電力会社への補助金ではなく、全ての国民の負担軽減に充てられることを明確に示す仕組みとしなければならない」と強調している。電気料金の軽減は、大幅な物価上昇に苦しむ国民には歓迎されるであろう。その一方で、懸念材料も多く残されている。

まず、今回の措置は、急速な電気料金上昇への当面の緊急対策として講じられるものであるが、その原因である燃料価格の高止まりや円安の為替相場が、今後2~3年継続することは十分考えられる。そのような場合には、電気料金の抑制は一時的なものにとどまらない可能性が高い。さらに懸念されるのは、今回の料金抑制が、悪しき前例となり、電気料金が高い場合には、政府による市場介入は当然との考え方が国民や政治家の間で広まっていく可能性である。また、財政赤字の悪化も懸念される。今回のウクライナ危機に端を発したエネルギー価格の高騰はやがて収束するにしても、地政学的リスクの顕在化がエネルギー価格に影響を及ぼす事態は将来も起きるだろう。また、カーボンニュートラル(CN: carbon neutrality)実現に向けて、電気料金は今後も上昇していくと考えられる。CN実現を急げば急ぐほど、炭素価格は上昇するであろう。また、CN実現のためには、再生可能エネルギー電源やネットワークの一層の拡大・増強、原子力発電の新規開発、二酸化炭素回収・有効利用・貯留(CCUS: Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)の開発、Power-to-Xや蓄電池などの種々のフレキシビリティ技術の 開発・導入も求められる。しかし、それを達成するためのコストについては、国民はほとんど知らされていない。政府による非効率的な市場介入を防ぐ観点からも、CN実現のために国民が負担しなくてはならない膨大なコストについての認識を促進しなくてはならない。

つぎに、CN実現のためには、電力市場における価格シグナルは極めて大事であることを認識しなくてははらない。デマンドレスポンスの費用対効果には、その実施コストと電気料金の水準が決定的な影響を及ぼす。そのため、電気料金は電力供給コストを正確に反映したものでなくてならない。そうでなければ、社会的に最適なデマンドレスポンスの規模は確保できない。将来的には、オンサイトの再生可能エネルギー電源と蓄電池がデジタル技術と組み合わされ、高度なソリューションビジネスが展開されることになるだろう。このような需要側リソースの利用拡大は、CN社会実現のための重要な鍵を握ると考えられる。物価上昇には、料金引き下げではなく、物価にスライドした賃金上昇を定着化させることが王道であり、政府による支援が行われる場合は、社会的弱者に焦点を当てた財政措置とすべきだろう。

さらに指摘しなくてはならないことは、わが国では、政府は電気料金の抑制に力を入れるとしているが、電力会社は、経過措置料金、燃料費調整、最終保障料金に規制が課せられた結果、燃料費の料金への十分な転嫁ができず、財務が毀損していることである。電力市場が自由化されても、電力会社は最終的には健全な財務の下で安定的な電力を供給する役割が期待されている。この機会に、自由化市場における料金制度の抜本的な見直しを図る必要があるだろう。対照的に、電力市場が自由化され、わが国のような規制が存在しない欧州の多くの国では、このような規制の失敗は生じていない。基本的に料金規制が存在していないドイツの電力会社の経営状況について見てみると、下流に特化するe.onの利益(EBITDA)は、2022年(予想)においては、前年並みである。ネットワーク部門は堅調であるし、燃料費上昇の影響を最も受ける小売りについても、価格転嫁を進めることから前年並みの利益を維持できる見込みである。また、上流に位置するRWEの利益は極めて好調である。(ただし、ロシアからの天然ガス供給が停止したことから、スポットで調達をしなくてはならなくなった発電事業者uniperは、経営難に陥り、破綻を避けるため、ドイツ政府により国有化されることになったが、これは特殊事例である。)

最後に、最初に指摘したことに関連するが、料金抑制のような市場への介入は、本来的に非効率な手段であり、政治的な配慮に基づく緊急措置であるため、期限を明記し一時的なものとすべきであろう。今回の電気料金抑制策は、来年9月まで規模を維持し、10月以降は支援規模を縮小する方針とされているが、実際に、縮小から廃止の方向に向かうであろうか。ガソリンへの価格補助同様、抑制策はだらだらと継続することにならないだろうか。

【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授などを歴任。東北電力経営アドバイザー。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。

逆ザヤで送配電事業者の経営悪化 解消急がれる電力供給制度のゆがみ


【多事争論】話題:最終保障約款での供給

小売り事業者との契約解消で最終保障供給に切り替える大口需要家が急増している。

一般送配電事業者による供給は逆ザヤ化し、制度の見直しが急務になっている。

〈 赤字を引き起こす中途半場な自由化 安定経営に適切な政策と市場設計を 〉

視点A:安田 陽 京都大学大学院 経済学研究科 再エネ経済学講座特任教授

世界的な天然ガス価格の高騰に伴い、小売り電気事業者のいずれとも電気の需給契約についての交渉が成立しない顧客が増え、最終保障供給約款により一般送配電事業者が電力供給を行うケースが増加している。この最終保障供給約款による電力供給は一般送配電事業者にとって逆ザヤとなり、収益を悪化させている。このような「電力赤字問題(Tariff Deficit)」はこれまでさまざまな形で海外でも発生している。

電力赤字問題は電力料金の総収入が発電や送電などのコストの総額を下回るために発生する現象である。海外での電力赤字問題の典型例としては、まず2010年代初頭のスペインやポルトガルの事例が挙げられる。スペインの問題の原因は、太陽光発電の買い取り価格と実価格に乖離があり(風力は乖離はほとんどなかった)、かつネットワークコストが厳しく規制されていたため送電事業者に赤字が累積したことにある。スペインでは結果的にFIT・FIP制度変更の遡及適用が行われたため、日本では再エネ政策やFITの失敗のように紹介されることもあるが、そのような理解は表面的であり、問題の本質からかえって目がそらされることになる。

同じく電力赤字問題が顕在化したポルトガルでは買い取り価格と実価格の乖離は確認されず、主に小売り側の料金規制が原因とされる。同様に、当時再エネがあまり普及していなかったフランスやブルガリアでも電力赤字問題が若干見られている。このように問題の直接的原因はさまざまであるが、構造としては、自由化されたはずの市場において不自然な料金規制(大抵はポピュリズム的政策による)が存在すると発生しやすい点が共通する。

電力赤字問題は、古くは2000〜01年に発生したカリフォルニアの電力危機の構造にも当てはまる。この電力危機は日本では電力自由化の失敗のように語られることも多いが、1996年にカリフォルニア州議会で可決されたAB1890法案によって電力小売価格に上限が設けられたことに起因する。このケースも、市場が自由化されたのにもかかわらず不自然な形で料金規制が設けられたことが原因であり、電力赤字問題は自由化が中途半端だと起こりやすい。

望ましい原価に見合う料金の適用 日本を覆う転嫁しづらい風潮

このような世界の問題の諸事例から現在の日本の状況を俯瞰すると、問題の構造と解決すべき課題が見えてくる。本来、最終保障供給約款により一般送配電事業者が電力供給を行う場合、その料金は硬直的な料金ではなく、原価に見合う料金が柔軟に適用されることが望ましい。あるいは、料金規制された最終保証供給により減益が生じた場合は、託送料金に転嫁することが適切である。そうでなければ電力赤字問題が発生する。しかし、現実には国民感情の悪化やインフレの懸念を恐れ、原材料の高騰が製品・サービスの売価に転嫁しづらい風潮が日本全体を覆っている。

本来、物価が上昇すれば最低賃金を上げたり、電気代や燃料費が支払えない経済弱者に直接的な支援をする政策が適切である。しかし、上流側の企業に対する補助金は透明性が低く、適切な再分配が期待できない。さらに結果的にガソリンや火力発電に対する補助金になるようでは脱炭素政策に逆行し、政策の理論的正当性を見いだすことができない。

このような混沌の中、新たに導入されるレベニューキャップ制度は、一般送配電事業者が自力で問題を緩和するための有力なツールとなる可能性がある。なぜならば理論的にはレベニューキャップ制度は、規制部門であっても一般送配電事業者が経営努力によって収益を増やすことや料金を柔軟に設定することが、定められた範囲内で可能だからである。

調整力のコストが増大しているという指摘もあるが、これに対しては一般送配電事業者自身が再エネ予測技術を向上させると同時に、市場取引を通じて需給調整に責任を持つアグリゲーターの育成が急務である。再エネ導入が先行する欧州では、市場閉場時間の短時間化によって時間前市場が活性化し、再エネ増加にもかかわらず需給調整市場で取引され応動する調整力が少なくすんでいる実績がある。調整力コストの増大は、市場設計を見直すべきという市場シグナルでもある。

化石燃料の高騰が恒常化しつつある現在、インフラを担う一般送配電事業者がどのように安定的な経営を行うかは、一般送配電事業者の努力だけでなく、適切な政策と市場設計にかかっている。日本の電力自由化はまだ途上であり、さまざまな問題が山積している。中途半端な状態で終わらせず、さらに前に進むことが肝要である。

やすだ・よう 1989年横浜国立大学工学部電気工学科(当時)卒、94年横浜国立大学大学院工学研究科電子情報工学専攻博士後期課程修了。関西大学工学部准教授などを経て2016年から現職。博士(工学)。

【再エネ】乱開発に及び腰はなぜ 川勝知事の姿勢を問う


【業界スクランブル/再エネ】

リニア建設事業では自然破壊の影響を声高に訴えている静岡県の川勝平太知事だが、こと熱海伊豆山の土石流災害への対応や太陽光発電の乱開発問題への対応を巡っては、弱腰の姿勢が目立つ。一体、なぜなのか。

「全国一厳しい規制にする」との掛け声の下、今春に県の盛り土規制条例を改正したものの、既に林地開発許可を受けた案件には条例を適用しない旨の附則を設けるなど、その実態は骨抜き改正と言っていい。

また災害の原因となった盛り土の現所有者に対する責任追及も甘い。盛り土問題では、前・現所有者が責任の所在を巡り真っ向から対立中。川勝知事は、現所有者側の代理人らを中心とした再エネ推進派グループとの親交もあるだけに、関係者の中には「知事側が現所有者側や再エネ事業者などに配慮しているのでは?」と勘繰る向きも。

自然環境を大切にする知事のこと、よもやそんなことはないと信じたいが、太陽光乱開発規制への及び腰を見ていると、そんな疑念もわいてくる。

お隣の山梨県では、長崎幸太郎知事が「太陽光乱開発は絶対許さない」との強い姿勢で昨年10月、県独自の太陽光条例を制定した。しかし静岡県では、全国に先駆けて乱開発問題が深刻化しているにもかかわらず、同条例の制定に動こうとしない。違和感を覚えて仕方ない。

そんな中、前副知事で県理事の難波喬司氏が県を退職し、静岡市長戦への出馬を検討しているとのニュースが流れた。難波氏は、熱海の問題では経験・知識に乏しい知事ではなく、自分にしか対応できないと周囲に話していたのに、報道が事実ならあまりにも無責任だ。 悲惨な災害を二度と起こさない。そんな決意の下で、川勝、難波両氏には全身全霊で対策強化に取り組んでほしい。(R)

【火力】安定供給の再構築へ 供給力不足は補えるか


【業界スクランブル/火力】

カーボンニュートラル社会の実現を目指すGX実行会議やエネルギー政策の方向性を議論する総合資源エネルギー調査会基本政策分科会において、「エネルギー安定供給の再構築」がキーワードになっている。GXを進めるためには、エネルギーの安定供給が大前提という点をぶれずに指摘している点は心強いが、足元の対応と中長期の対応の間には依然として大きなギャップがあり、そのことが安定供給のほころびにつながっていくのではと危惧している。

ここ数年、火力設備の減少により供給力不足が常態化しているが、今冬については、供給力の公募により休止火力を再稼働させることで何とか対応できるとのことだ。しかし、これでは今後先細りとなる状況は避けられない上に、その都度つぎはぎを当てるようなやり方はコストがかさみ、結果的に需要家は高い電気代を負担させられることになる。大規模な改修工事をすれば設備の若返りを図ることも可能ではあるが、供給力公募や24年度から導入される容量市場のような単年度ごとの仕組みでは、リスクが大きすぎて事業者は大胆な投資に踏み切れない。

一方、将来的には、原子力の活用と再エネの大量導入により供給力を確保する絵姿が示されている。この場合必要となる調整力については、系統の強化や蓄電池などの拡充、さらにカーボンフリー燃料の火力で対応するとされているが、いずれの場合も相当量の再エネ余剰を活用できることが前提となっている。しかし、実際には再エネを拡大しようにも調整力不足がネックとなっており、大きなジレンマを抱えていることになる。

故に足元と中長期の間のギャップを埋めるには、現状7割を占める火力の今後の在り方を具体的に示し、ジレンマを解消することが何より必要だ。(N)

石油高騰対策の出口戦略問題 価格上昇見通しで判断悩ましく


【業界紙の目】津金宏嘉/燃料油脂新聞 編集局石油部長

物価高騰が社会課題として重みを増す中で、期間延長を繰り返す「燃料油価格激変緩和対策事業」。

巨額の国費を投じてきた施策だけに、どのような出口を迎えるのか注目が集まる。

 脱炭素化へのトランジションの途上で発生したロシアのウクライナへの軍事侵攻と、西側諸国の対露経済制裁により、世界各国がエネルギー安全保障問題に直面している。政府は、最終エネルギー消費の47・4%(2020年度総合エネルギー統計)を占める石油の価格高騰対策として、22年1月下旬以来「燃料油価格激変緩和対策事業」を実施してきた。

同事業は石油製品の出荷元となる事業参加企業34社に政府が補助金を支給して、SS(サービスステーション)を運営する石油製品販売業者などへの仕切価格(卸価格)の高騰を抑え、最終的に石油製品(ガソリン、灯油、軽油、重油)の小売価格上昇を緩和するのが狙いだ。現在の制度は12月末を期限とし、レギュラーガソリン全国平均価格を1ℓ168円程度に抑えるために、必要な補助額を政府が毎週算定する立て付けになっている。例えば前週のレギュラーガソリン全国平均が170円なら、今週は補助金を2円増額しなければ168円にならない。さらに元売りの仕切価格は原油コストをベースに策定するため、前週と当週の原油コストの差も補助金に反映する。要は原油価格が上がったり、為替レートが円安ドル高に傾いたりすると補助支給額が増えるが、際限がないので補助上限を原則35円とし、35円を超す場合は超過分の2分の1を加算する。ちなみに10月第1週の支給額は35・7円、第2週は33・8円、第3週は36・8円だった。

財務省が経産省に注意 「焼け太り批判」は正しいのか

国内で石油精製機能を有する企業はENEOS、出光興産、コスモ石油、太陽石油の4社だが、海外から輸入したガソリンなども補助支給対象のため、輸入機能を持つ大手石油販売業者も参加企業に名を連ねている。制度上は、元売りなどの参加企業が巨額の補助金を受け取る設計だが、現実には国が石油業界のサプライチェーンを用いて、国民に補助を行き渡らせる仕組みだ。元売りは自身のホームページで宣言している通り、補助金が1円も残らず自社を素通りして流通ルートに回るよう人的リソースを割き、システムを構築して事業の運用に協力している。

石油販売業者については、財務省が10月に公表した予算執行調査で、補助金が「SSの経営改善に実質的に使われていると見られる事例もある」と指摘。3~7月の販売実績で推計すると、ガソリン分の補助支給額5577億1300万円に対し、高騰抑制額が110億4700万円(2・0%)下回ったとして経済産業省に注意を促した。ただ、石油販売業者は競合店との熾烈な競争を通じて小売り市況を形成しており、どこまでが補助金による高騰抑制効果で、どこまでが業者自身の利益確保努力かを切り分けるのは不可能だ。そもそも仕入れ値の変動を小売価格に反映するまでにはタイムラグが生じる。事業途中の効果測定における2%のギャップを、予算の無駄遣いといえるのかどうかは正直なところ分からない。一部では「石油業界が国の補助金で焼け太り」との解釈が見受けられるが、制度の趣旨である「原油価格高騰が(中略)コロナ下からの経済回復の重荷になる事態を防ぐため」に協力してきた当事者たちには少し気の毒な感がある。

同制度による買い控え抑制効果は、石油業界にとって大きな恩恵だ。ただ効果が間接的で実感が湧きにくいのも事実で、そのせいか石油業界の政府への要望は事業期間延長ではなく、出口戦略のあり方に要点を置いている。

混乱来さず収拾できるか 元売りと販売店で意見にずれ

補助事業の終わり方については、石油業界には苦い記憶がある。旧民主党政権の下で10年に発動した、いわゆるトリガー条項(レギュラーガソリン全国平均価格が3カ月連続で160円を超すと揮発油税の暫定税率分25・1円、軽油引取税の17・1円を減税する措置)で、発動後と終了前にSSに給油客が押し寄せ、タンクローリーなどの製品配送にまで混乱が及んだ。消費者利益を最優先するのが大前提だが、国の事業に「補助金配布係」として協力してきた石油業界にすれば、せめて出口部分で混乱に巻き込むことはやめてほしいとの思いが強い。

補助金がなければガソリン価格は200円近い

9月29日に石油連盟の新会長に就任した木藤俊一氏(出光興産代表取締役社長)は、同日午前の西村康稔経産相との意見交換会で「原油価格の動きを考慮しながら、緩やかに事業を終える形にしてほしいと要望した」と明かす。同事業が当初の5円から25円、35円と補助額を拡大していった時から、業界関係者は「いきなり補助がゼロになったら大混乱に陥る」との認識を共有しており「緩やかに」との石連会長の要望は石油業界全体の思いを代弁している。

一方で補助金減額の仕方については、元売りと販売業者の意見が微妙に食い違う。配送・物流段階の混乱を最小限度に抑えたい元売りにすれば、消費者の仮需(目先の必要がないのに購入する行為)はできる限り発生しないのが望ましく、毎週1~2円ずつといった小幅減額を繰り返す出口戦略を理想としている。一方、小売りを担うSS業者の間では「1~2円の減額だと、価格競争のなかで転嫁値上げを見送る競合店が現れる」(東京都内のENEOS系特約店)との懸念が強く、誰もが値上げに動かざるを得ない5円、10円といったまとまった規模の減額を望む意見が多数派だ。

本来なら補助金を必要としない水準に原油価格が下がり、事業が役目を終えるのが望ましい。6月には1バレル120ドル台に上昇していた米国のWTI先物原油価格は、9月下旬に80ドルを割る水準に軟化し、理想的なシナリオに向かうかと思われた。しかし産油国連合のOPECプラスは10月の閣僚会合で日量200万バレルの減産を打ち出し、油価下落を抑えたい意向を鮮明にした。物価高騰への国民の不安は高まるばかりで、石油業界では灯油需要が最盛期に差しかかる12月末を本当に激変緩和事業の出口にできるのか、との疑問も上がり始めた。

〈燃料油脂新聞〉○1945年創刊○発行部数:8万部○読者層:元売り、石油販売業者、自動車用品業者、官公庁、石油需要家など

【原子力】電力のひっ迫理由 ウクライナ侵攻にあらず


【業界スクランブル/原子力】

わが国の電力会社の経営が火の車に陥っている。代表的なのは東京電力ホールディングス(HD)の販売子会社の東京電力エナジーパートナー(EP)だ。2022年4~6月期の経常損益は908億円の赤字で、6月末時点で67億円の債務超過に陥っていた。電力を売れば売るほど赤字が広がる「逆ザヤ」状態に直面。原発の再稼働が見通せない中で燃料価格の高騰は続いているので、今後も赤字が続く可能性があるとみて、東電HDから2000億円の資本増強を行い財務基盤を強化する。東電EPは収益改善のために、法人向けの電気料金の値上げを検討している。ほかの電力会社も似たり寄ったりだ。

電力各社の収支が目を覆うような状態に陥ったのはオイルショック以来だが、ウクライナ戦争の影響が原因と決めつけるのは早計だ。20年12月までWTI原油価格は50ドル以下で安定していた。21年6月以降70ドル以上に高騰し、LNG不足も顕在化した(ウクライナ戦争が起きた22年2月以前からエネルギー危機は深刻化していた)。

こうした化石燃料の高騰でまず衝撃を受けたのは、余った電力の転売で収益を得ている新電力だった。経済産業省が制度設計をして16年から始まった電力自由化システム、そして実効性の乏しい原発再稼働政策のなれの果てが今の実情だ。

現状打開には電力不足解消に向けた電力自由化システムの抜本的見直しと、原発再稼働政策の抜本的再整備が急務。電力不足が表面化しつつある今日、泊原発など10年経っても進展しない原発の再稼働審査の合理化・効率化徹底、化石燃料の安価な調達の整備、岸田政権のGX戦略の中に現状盛り込まれていない原発新増設の制度整備などを政権に徹底的に推進していただきたい。(S)

【検証 原発訴訟】規制委の審査結果覆す初の司法判断 衝撃的な大飯判決の論法とは


【Vol.8 大飯判決】森川久範/TMI総合法律事務所弁護士

「大飯判決」では、原子力規制委員会が認めた再稼働の取り消しが妥当との初の司法判断を示した。

伊方最判の判断枠組みを踏襲するが、どのような論法で規制委の判断を否定するに至ったのか。

 今回は、福井県などに居住する住民が大飯発電所3・4号機について、原子力規制委員会による2017年5月24日付け設置変更許可処分(本件処分)の取り消しを求めた事案に対し、20年12月4日に大阪地裁が同処分の取り消しを認めた判決(大飯判決)を扱う。判決骨子では、「関西電力は、大飯原発3号機及び4号機の設置変更許可申請において、各原子炉の耐震性判断に必要な地震を想定する際、地質調査結果等に基づき設定した震源断層面積を経験式に当てはめて計算した平均値としての地震規模をそのまま用いた。新規制基準は、経験式による想定を超える規模の地震が発生し得ることを考慮しなければならないとしていたから、新規制基準に基づき基準となる地震動を想定する際には、少なくとも経験式による想定を上乗せする要否を検討する必要があった。規制委員会は、そのような要否自体を検討することなく、上記申請を許可した。規制委員会の調査審議及び判断は、審査すべき点を審査していないので違法である」とした。東日本大震災後に、新規制基準に基づいた設置変更許可処分を、伊方最判の判断枠組み(本連載①~③参照)を用いて取り消した初の裁判例である。

地震動審査の是非が焦点 ガイドの扱いに疑問

本稿では、本件処分の取り消し理由とされた基準地震動および耐震設計方針に係る審査ガイド(地震動審査ガイド)のばらつき条項に関する判断を考察する。地震動審査ガイドで、震源モデルの長さや面積、あるいは1回の活動による変位量と地震規模を関連付ける経験式を用いて地震規模を設定する場合、経験式の適用範囲が十分に検討されていることを確認する。その際、経験式は平均値としての地震規模を示すものであり、経験式が有するばらつきも考慮される必要がある、と定めたものが「ばらつき条項」である。

本件処分の適否の判断枠組みは次の通りだ。①現在の科学技術水準に照らし、規制委の調査審議で用いられた具体的審査基準に不合理な点がある、あるいは、②当該原子炉の設置許可申請がこの具体的審査基準に適合するとした規制委の調査審議および判断の過程に看過し難い過誤、欠落があると認められる―。これらの場合には、規制委の判断に不合理な点があり、その判断に基づく原子炉設置許可処分は違法であると解するのが相当だとして、伊方最判の判断枠組みを踏襲した。

設置許可基準規則では、耐震重要施設に大きな影響を及ぼすおそれがある地震による加速度によって作用する地震力(基準地震動による地震力)に対して、安全機能が損なわれるおそれがないことを要求している(4条3項)。これに関して本判決では、①「地震動審査ガイドは基準地震動の策定に関する審査基準」であり、同ガイド中のばらつき条項は「震源特性パラメータの設定に関する基準の一つ」である、②経験式が有するばらつきの考慮とは「経験式によって算出される平均値に上乗せをする要否を検討すべきものである」―と解釈した。そして、規制委が基準地震動の策定に当たり、当該上乗せの要否を検討せず経験式により算出された地震規模の値をそのまま漫然と採用したことは、ばらつき条項の趣旨に反して先述の規則に適合しないものであり、「規制委の調査審議及び判断の過程には看過し難い過誤、欠落がある」と判示した。

判決では、地震動審査ガイドは基準地震動策定の審査基準だとして、同ガイドは規制委が調査審議に用いた具体的審査基準であることを前提とするが、なぜ同ガイドが審査基準に該当するかの理由は示していない。むしろ判決別紙2では同ガイドを、「規制委員会の内規(行政手続法上の命令等にあたらないもの)」に区分し、行政手続法上の審査基準ではないことを前提としている。

また、地震動審査ガイドは「発電量軽水型原子炉施設の設置許可段階の耐震設計方針に関わる審査において、審査官等が設置許可基準規則及びその解釈の趣旨を十分に踏まえ、基準地震動の妥当性を厳格に確認するために活用することを目的」としている。同ガイドが審査基準に該当すると解釈するには相応の理由が必要であろう。伊方最判との関係では、「規制委員会の調査審議において用いられた具体的審査基準」とは具体的にどこまでの審査基準をいうのかが問われるところである。

なお、行政手続法上の審査基準である設置許可基準規則およびその解釈には、地震動審査ガイド上の経験式が有するばらつきの考慮に相当する条項はない。同ガイドが〝具体的審査基準〟に該当しないとすれば、判断枠組みである「具体的審査基準に適合するとした規制委員会の調査審議及び判断の過程」への当てはめの前提を失うだろう。

大阪地裁が示した大飯判決は衝撃だった

規制委の専門技術的裁量 「ばらつきの考慮」も範囲内

大飯判決は、経験式が有するばらつきの考慮について、経験式によって算出される地震規模の平均値への上乗せの要否を検討すべきであると解釈した。しかしながら、伊方最判の判断枠組みを踏襲することは、規制委の専門技術的裁量を尊重しつつ現在の科学技術水準に照らして行政統制の方向性を検証することとなる。だが、現在実務上用いられている「震源断層を特定した地震の強震動予測手法」にも、経験式により求められた地震規模の値に上乗せの検討を求めるような記載はない。

リスク測定の統計手法につきまとう変数の代入(データを当てはめること)方法の恣意性を排除して理論値の精度を高めるのではなく、自然科学の専門家が設計した経験式から算出される値の取り扱い方法について、裁判所が、実務上も用いられていない特定のバイアスをかける方向性を要請することは、行き過ぎた司法介入ではないかと思われる。

なお、玄海原子力発電所3・4号機に係る設置変更許可処分の取り消し訴訟でもばらつき条項が争点となったが、佐賀地判(21年3月12日)は原告らの請求を棄却した。また、地震動審査ガイドは22年6月8日、審査実績などを踏まえた改正がなされ、ばらつき条項は現在では削除されている。

・【検証 原発訴訟 Vol.1】 https://energy-forum.co.jp/online-content/8503/

・【検証 原発訴訟 Vol.2】 https://energy-forum.co.jp/online-content/8818/

【検証 原発訴訟 Vol.3】 https://energy-forum.co.jp/online-content/8992/

・【検証 原発訴訟 Vol.4】https://energy-forum.co.jp/online-content/9410/

・【検証 原発訴訟 Vol.5】https://energy-forum.co.jp/online-content/9792/

・【検証 原発訴訟 Vol.6】https://energy-forum.co.jp/online-content/10115/

・【検証 原発訴訟 Vol.7】https://energy-forum.co.jp/online-content/10381/

もりかわ・ひさのり 2003年検事任官。東京地方検察庁などを経て15年4月TMI総合法律事務所入所。22年1月カウンセル就任。17年11月~20年11月、原子力規制委員会原子力規制庁に出向。