<出席者>電力・ガス・石油・マスコミ/4名
7月10日投開票の参議院選は、大方の予想通り与党の圧勝に終わった。
ただ、安倍元首相死去で永田町の勢力図が一変。今後の政策はどう動くのか。
マスコミ 7月11日のガス事業制度に関する審議会で、節ガスの話題が出た。各紙翌日付で報じる中、特に日経はかなり紙面を割いていた。ひっ迫に応じて3段階の対策を用意し、企業に制限令が出る可能性など細かく説明している。
充実のダイヤモンド特集 ZAITENは「戦犯」追及
ガス しかし審議会の資料を見てもピンとこない。大口への制限令を出すとして、本当に産業政策上重要な分野への供給を止められるのか。打てる手は限られる。かといって家庭のガス給湯器は1台しかなく、余計手段がない。そもそも気温が1℃上がれば給湯のガス使用量は数%減るのだから、自助努力より気温の影響の方が大きい。
石油 ところで週刊ダイヤモンド7月16・23日合併号の「エネルギー大戦」特集は充実した内容だ。洋上風力の最新事情、原子力再編、LNG調達事情など幅広い。しかし悲しいかな、表紙の扱いがひどい。最初は同じ号の「ひとり終活」特集しか目に入らず、エネルギー特集に気付かなかった。この号にはサハリン2に関するロシア大統領令に伴い、最悪シナリオでの広島ガスなどへの影響を試算した記事も面白かっただけに、残念。
マスコミ 橘川武郎・国際大学副学長が最近「自民も役所も原発新増設と言わなくなった」と語っているが、その通りだ。原子力に関わる自民党の三つの会合の提言全てに「新増設」の単語はなく、再稼働より先のことは言わない。
―ただ、7月14日の会見で岸田文雄首相は今冬に向け最大9基稼働するよう指示したと表明。9基と踏み込んだのは意外だった。
マスコミ しかし、どんな手段でどう動かすのかは不明なままだ。追い風が吹いても、風が流れているだけ。各紙は首相の「原発の最大限活用」という発言を取り上げるが、これは第六次エネルギー基本計画の表現そのまま。岸田政権が新たに言及したことではない。
石油 本当に大規模停電しなければ原子力問題は進まないのかも。ZAITEN8月号「電力崩壊の戦犯」特集に書かれている通り、東電の小早川智明社長からは責任感が感じられない。他電力はホールディングス社長が節電のお願いをしていたが、東電は表に立つのは基本パワーグリッド。東電の顔は一体誰なのかと言いたい。
安倍氏急逝の余波 業界人の選挙注目点は
―7月8日に突如死去した安倍晋三元首相は、安全保障の観点から核燃料サイクルに理解を示していたと思う。
電力 サイクルの今後を考える上でも大きな事件だ。安倍氏は自ら希望し、青森県の六ヶ所村の施設を二度見学、職員に「頑張ってください」と語り掛けたそうだ。原子力業界はあまり接点がない人もシンパシーを感じていた。これで右派の求心力が失われることは心配だ。月刊WiLLやHanadaには毎号のように安倍氏が登場していた。こうした対応を、今後安倍氏の代わりに誰が務めるのか。
マスコミ 細田派が分裂しかねない。衆院にくら替えできてない世耕弘成氏は焦っているはずだし、後継者として萩生田光一経産相や西村康稔氏はまだ実績不足だ。
電力 高市早苗氏の首相の芽も消えたのだろう。右の論客からは「日本の終わりだ」といった声が上がっているし、安倍氏に近かったジャーナリストは、本当に夜も眠れないほどショックを受けていると聞くよ。
マスコミ ちなみに高市首相誕生となった場合、経産省から送り出す秘書官は既に決まっていたそうだ。エネ庁のMさんだったらしい。
―参院選の結果はどうかな。柏崎刈羽問題を抱える新潟選挙区は自民が接戦を制し、電力総連の竹詰仁氏も無事比例当選した。
ガス 大混戦の京都では、維新候補の大阪ガス職員が1万7000票差で次点だった。完全に個人としての出馬だったが、仮に当選していたら大ガスは微妙な立場になっただろう。ちなみに、かつて旧民主党が大勝した選挙で、比例名簿に名前を貸した関電社員のまさかの当選があったが、休職して議員を務めていた。その次の選挙に落選後、会社に復帰した。
―最近はエネルギー業界の選挙での動きが目立たないね。
石油 全石連は以前ほど選挙に積極的ではない。阿達雅志氏も当確までかなり時間がかかっていた。
むしろLPガス業界の方が盛り上がっている。東京都LPガス協会は会長の地元が八王子。そのつながりで萩生田氏がプッシュした生稲晃子氏を応援していた。でもせっかく当選したのに、インタビュー拒否で早速のバッシングだ。
―手に入れた「黄金の3年間」で岸田政権はどう動くのか。これまでの動きを見ると、過剰な期待はしない方がいいのかも……。
マスコミ 電力のkW不足と燃料不足のダブルパンチの今冬は本当に危機的だが、経産省もメディアも審議会も目先のことだけ。誰も中長期のスケジュールを示さない。電力会社の収支問題も重なり、このままでは電力もガスも毎年ひっ迫が繰り返されてしまう。
電力 柏崎刈羽は東電単独での早期稼働は無理だろう。六ケ所もここ数年でどう立て直せるのか。また、女川は23年冬、東海第二は24年秋まで安全対策の工事が終わらず、稼働は見込めない。
驚いたのが、福島第二は廃炉するのにまだ計画が出ていないからと、原子力規制委が水面下でテロ対策の特重建設を要求しているといった話も聞く。それがまかり通るようでは、原子力政策の再構築はこの先も望めない。
―政治決断に期待して小誌も長年問題提起をしてきたが、最近は虚しさすら感じる。とはいえ危機はすぐそこまで迫り、今こそ与党の奮起に期待したい。最後に、安倍元首相のご冥福をお祈りします。