【コラム/9月13日】再エネ導入拡大のための「アメとムチ」


加藤真一/エネルギーアンドシステムプランニング副社長

早いもので今年も9月に突入した。懸念されていた夏の電力需給は、現時点で特に大きなひっ迫もなく、国は節電やデマンドレスポンス(DR)の促進や次の冬に向けた準備(kW公募、最大9基の原子力発電再稼働)、来夏以降の原子力発電追加再稼働の検討などを粛々と始めている。依然として、毎月のように多くの審議会を開催しており、8月前半はお盆休みで一服していたが、月末からまたフル稼働といった状況だ。

さて今回は、審議会でも多くの議論が割かれている再生可能エネルギーの施策について触れたい。再エネ主力電源化という「錦の御旗」が掲げられる中で、単に開発だけを進めればよいというわけではない。そこには、アメ(緩和、補助など)とムチ(規制)の双方が一体となって政策を進めていくことが求められる。

再エネの施策は「推進」と「規制」

昨年10月に閣議決定された第6次エネルギー基本計画の中で、再エネは、「S+3Eを大前提に、2050年における主力電源として最優先の原則の下で最大限の導入に取り組む」と記載され、30年度のエネルギーミックス目標では電源構成で36~38%という数値が示された。

主力電源化を進めるにあたっては、①コストダウン(国民負担の抑制)、②地域共生・事業規律の確保、③系統制約の克服といった課題に取り組むことがうたわれている。つまり、「主力になるのであるから、相応の負担や責任は負ってもらいますよ」ということが問われていることになる。

エネ庁の再エネ大量小委の議論では、今後の再エネ政策として、「推進」と「規制」というキーワードを挙げて、具体的な施策の検討に入っている。

「推進」では、既に導入を促進するためにFITやFIP制度が整備されているが、今後、長期安定的に活用していくため、蓄電池併設時のルール緩和や3kWまたは3%以上の太陽光パネル増設・張替え時の価格要件見直し、低圧太陽光へのFIP制度適用、既設再エネの長期活用のための追加投資・再投資の促進といった施策の検討が始まった。そのほか、環境省や経産省では補助金を活用することで特定需要に対して長期間の再エネ供給を行うオフサイトコーポレートPPAの導入を促すなど、「アメ」の政策を講じている。

一方、「規制」については、地域と共生した再エネの適正な導入・管理のあり方について検討会が開催され、7月末に提言(案)が出された。もう一つの規制として、保安に関する規律確保が求められている。こちらは、6月に成立した「高圧ガス保安法等の一部を改正する法律」の中で、小規模再エネ発電設備の保安規律適正化が規定され、従来、一般用電気工作物であった小出力の太陽電池発電設備・風力発電設備を小規模事業用電気工作物と新たに位置付け、事前規制を強化することとなった。

このように、再エネを大量導入する時代には、「アメ」といった支援だけでなく、責任もった事業を長期安定的に行うための規制である「ムチ」を一体で考えていくことが、あらためて重要とされている。

「規制」はライフサイクルの視点で対応

今回は再エネのうち、「規制」部分について取り上げる。電力を使用する企業にとっては、世界的な脱炭素の流れやサプライチェーン上の取引先からのプレッシャーもあり、再エネ電気の利用を高めたいというニーズがあり、系統電力の再エネ比率向上や、オンサイトやオフサイトで自社専用電源を確保する動きが活発化しつつある。供給側である再エネ事業者やサービス事業者側は、その要望に応えようと開発に乗り出すことになるが、そこには、必ず地域との調整や関係法令遵守が前提となってくる。

ここ数年、自然災害の多発もあり、太陽光発電や風力発電の事故をメディアなどで目にするケースが増えている。こうした記事で目にすることで、ある意味、ネガティブイメージが定着し、「だから、再エネはダメなんだ」という短絡的な考えに陥ることも多々ある。こうした考えがもとで、しっかりと規律を確保しながら建設・保守運用している事業者にも悪いイメージがつく懸念もある。

そうしたことを背景に、経産省、環境省、国交省、農水省の4省が連携して、再エネの導入から運用、廃止・廃棄に至る「ライフサイクル」での課題を洗い出し、「速やかに対応」するものと、「法改正含め制度的対応を検討」するものを整理した提言(案)を7月末に出し、8月末までパブリックコメントが実施された。

提言(案)は、ライフサイクルを3つの段階、①土地開発前、②土地開発後~運転開始・運転中、③廃止・廃棄に区分し、さらに各段階における横断的事項の計4つにおける課題を整理している。その上で、法改正等の必要がなく、すぐにできることは速やかに順次、施策を実行し、年内目途に進捗状況のフォローアップを行うこととし、関係法令の改正が必要な対策については、各省庁の審議会等で検討した上で、制度的対応を図ることとしている。

法改正となれば、国会審議が必要になるので、準備期間を考慮すると、来年1月からの通常国会に法案提出されることが想定される。

内容は多岐にわたるので、一例を紹介すると、土地開発前では、急傾斜地や森林伐採を伴う開発が計画に対しては大雨などによる災害発生の懸念があることや、林地開発許可が必要なエリアで許認可取得前に売電を始めるといったことを挙げている。その対策として、「速やかに対応する」こととして、林地開発許可の対象規模の引き下げや再エネ開発の促進区域と抑制区域の情報を環境省のEADASに集約することで、適した区域への開発を誘導するといったことを、「法改正含め制度的対応を検討」することとして、再エネ特措法の認定申請要件に関係許認可の取得を条件にすることや、温対法の促進区域の実効性を高めて地域の目標値と整合する形で再エネ設備の立地を促進区域に誘導する支援策の検討などを挙げている。

こうして検討された内容は、検討会で定期的にフォローアップを行い、関係する自治体や住民、事業者に情報共有されることとなる。やりっ放しではなく、しっかりとフォローアップすることで、実効性を高めていくことは大切なので、状況をまずは見守りたい。

なお、この提言(案)で対策が取られるのは太陽光発電だけでなく、風力発電など、他の再エネも同様になる。具体的な施策は継続検討となりますが、その点も忘れてはいけない点だ。そして、事業規律は、FITやFIP制度という法令に基づいた電源だけでなく、今後、オンサイト/オフサイトコーポレートPPAなどで普及が見込まれている非FIT・FIPについても適用される。サービスを提供する事業者は、この点もよく含みおいて事業を計画・運営していくことが求められる。

業界団体も動き始めている

こうした動きを踏まえ、業界団体である太陽光発電協会は、8月30日に、「地域との共生・共創に基づく太陽光発電の健全な普及を目指して」として、意見表明を発表している。同内容は、その前日29日にマスコミ向けに説明会も開かれている。

意見表明では、国の提言(案)の基本スタンスへの賛同と、業界団体として健全な事業発展のために行っていく施策等について記載されている。

こうした意見表明が、事業者にも浸透され広く適用されることが期待される。

まだまだ多い課題

事業者の規律を確保し、健全な事業運営がなされるだけでは、再エネが主力電源たると言えるかというと、そうでもない。

再エネを大量に導入するために必要な系統の増強や安定化のための運用、そのために必要なコスト負担、事故を起こさないよう運開前の確認検査の徹底、日本全体の電力需給を踏まえた他の電源や需要とバランスの取れた電力システムの構築等、まだ多くの課題が残っている。

ざっと今後の制度設計スケジュールをみても、他の施策同様、多岐に渡り、複雑化している。国には全体最適となるシステム設計を引き続き、期待したいところだ。

オイルショックの教訓 国産・地産の水素製造に知恵を


【オピニオン】最首公司/エネルギージャーナリスト

 戦後の高度経済成長の余韻を残していた1973年秋、突然起こったのがオイルショックだった。

第二次世界大戦で勝利した欧米諸国は、パレスチナの地にイスラエル建国を強行した。だが、そこには先住者のパレスチナ人がいた。土地を失い、家を追われたパレスチナ人は、サウジアラビア、クウェートなど産油国に職を得たのはごく一部で、多くは難民となって中東各地に四散した。遺恨を抱く若者の中から「アラブ・テロリスト」と呼ばれる過激集団が現れた。

アラブ側は三度、イスラエルと戦争した(パレスチナ戦争、スエズ戦争、六日戦争)ものの、勝利感はなく、若者の不満は募る一方だった。

体制の危険を感じたエジプト・サダト大統領は72年夏、密かにサウジアラビアを訪ね、ファイサル国王と密談した。この時、国王の腹心ヤマニ石油相も同席している。同じころ、日本では通商産業省(当時)の外局「資源エネルギー庁」が創設され、エネルギー行政を一元的に扱うことになった。

翌73年秋、エジプト軍はイスラエルに奇襲攻撃(第四次中東戦争)し、これに呼応して、サウジアラビアなどアラブ産油国(OAPEC)は①反アラブ国には石油輸出禁止、②日和見国には削減、③友好国は従来通り―という「石油戦略」を発動した。これこそがサダト・ファイサル両首脳間で練られた戦略だった。

石油輸入国にとっては、文字通り「油断」で、英仏両国は燃費の悪い超音速旅客機、コンコルドの開発を断念、日本ではマツダがロータリーエンジン車の製造を中止した。エレベーターやビルの照明は半減し、電車やバスは間引き運転となった。錯綜する情報に庶民は戸惑い、合成洗剤やトイレットペーパーの買いだめに走った。

時の田中角栄内閣は、三木武夫副総理を団長とする使節団をサウジアラビアなど中東産油国に派遣した。筆者もこれに同行したが、ファイサル国王との会談の後、緊張気味の三木氏が笑顔を浮かべるのを見て、禁輸措置が緩和されるのだと思った。年末には制裁が解かれ、例年通りの新年を迎えた。

この危機を教訓に政府も国民も石油製品の節約に励む一方、原発や太陽光、風力など自然エネルギー開発に力を入れるようになった。

これからは脱炭素=水素の時代になるだろう。中国は既に水素を燃料とする燃料電池車を走らせ、カナダの技術者は水の事前処理によって、数倍も効率のいい水素製造を開発している。ウクライナに侵攻したロシア・プーチン大統領はドイツなど「非友好国」への天然ガス供給を一方的に中断した。日本企業群もサハリンでのガス開発事業を一時停止した。専制国家での長期事業は常に危険が伴う。

政府も民間もオイルショック、プーチン・リスクを教訓に、他国に頼らず、自力での水素供給・利用拡大に取り組まなければならない。

さいしゅ・こうじ 1956年上智大学新聞学科卒、東京新聞入社。編集委員として一貫して中東・エネルギー問題を担当。日本アラブ協会理事。八戸市特派大使。

【マーケット情報/9月9日】原油下落、需要後退の見方が重荷


【アーガスメディア=週刊原油概況】

主要指標、需要後退の観測を受け、軒並み下落。ただ、米国原油の指標となるWTI先物および北海原油を代表するブレント先物は、それぞれ前週比0.08ドルと0.18ドルの小幅下落に留まっている。供給不足の見込みが、価格下落をある程度抑制した。

中国・成都市では、新型コロナウイルスの感染拡大が収まらず、ロックダウンを延長。また、米連邦準備理事会は、インフレ抑制のため、さらなる金利の引き上げを検討している。経済の減速、および石油需要減少の見通しが一段と強まった。

一方、ロシアは欧米の制裁に対抗し、エネルギー製品の出荷を完全に停止すると示唆。さらに、OPECプラスは10月の産油量を、前月比で日量10万バレル削減することで合意した。ただ、元々、一部生産国の増産が計画に追い付いていなかったこともあり、10月の減産による影響は限定的との見方もある。OPECプラスの8月産油量は日量3,869万バレルとなり、目標を日量340万バレル下回っている。

【9月9日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=86.79ドル(前週比0.08ドル安)、ブレント先物(ICE)=92.84ドル(前週比0.18ドル安)、オマーン先物(DME)=90.34ドル(前週比4.33ドル安)、ドバイ現物(Argus)=90.25ドル(前週比4.12ドル安)

欧州規格に準ずるガス検知器 プラントや現場の最前線で活躍


【理研計器】

火力発電所やLNG基地、製油所といったエネルギープラントでの作業は可燃性ガス漏れや酸欠、一酸化炭素中毒など、常に危険と隣り合わせの中で行われる。

理研計器がこのほど発表したガス検知器「GX―Force」は周囲の空気を内蔵ポンプで吸引し、ガスの発生をいち早く検知してガスによる危険から身を守ることができるのが特徴だ。

ガス検知器「GX-Force」

「ガスを扱う製造・開発現場では、酸素など臭いのないガスが気づかないうちに不足していたり、臭いのあるガスが充満していることに気づいてから対応を始めても手遅れとなったりする場合があります。

GX―Forceは危険が常に存在していることを想定し、音や光、振動などあらゆる形でアラートを発して作業員に危険を知らせます」。営業技術課の杉山浩昭課長はそう話す。

GX―Forceは可燃性ガス、酸素、一酸化炭素、硫化水素の4成分をセンサーで検知する。独自のセンサーは世界最小クラス。しかも耐久性に優れ3年間の保証付きだ。

メタネーション開発に貢献 27種類の可燃性ガスを検知

可燃性ガスの読み替え機能では、水素など27種類に対応する。現場に合わせてガス種を設定すると、

ガス濃度を自動で表示。別途計算して読み替える必要なく、電源オン・オフ後も設定は保持される。「同機能は従来の拡散式タイプの検知器にも搭載して大変好評でした。今回、吸引式タイプの同製品でも対応しました。エネルギー事業者は水素やメタネーションなど新たなエネルギーの開発に注力しています。開発現場でも、GX―Forceを利用してもらえたらと考えています」(杉山課長)

このほか、作業中でも使いやすいように、筐体の握る部分を細くし、操作ボタンの数を2個に減らした。こうすることで片手で操作することが可能になった。また、上部にLEDライトを搭載し、プラントの暗部で作業しやすいよう工夫している。このほか、フル充電で連続使用時間を従来比3倍の30時間に延長したのに加え、充電端子をUSBタイプCに対応するなどデジタル機器トレンドに合った規格を採用する。

もちろん、ガス検知器としての重要な耐久性にも優れ、3m落下耐久試験をクリアするほか、IP67相当の防塵防水構造、使用温度範囲はマイナス40〜60℃を確保するなどの性能を有する。

今後、同製品は欧州EN規格に申請予定で取得を目指すという。「欧州の厳しい規格を取得することで、ワールドワイドなスタンダート機として定着することを目指します」と杉山課長。

次世代を見据えた新製品GX―Force―。前機種以上にガスを扱う多くの現場で採用されていきそうだ。

エネ会社と再開発でにぎわいづくり 「グリーン」で新たな価値創造へ


【地域エネルギー最前線】 静岡県静岡市

政令指定都市ながら人口減に悩む静岡市は、にぎわいづくりや地域の新たな価値創出を課題としている。

解決に向け地元エネルギー事業者と進める構想が政府のCN政策とも合致。今年度から本格始動する。

 2003年に旧静岡市、清水市の大合併で誕生した現静岡市。東海道新幹線や東名・新東名高速など交通の便も良いが、実は近年、急速な人口減少に悩んでいる。静岡県内でも最速ペースで減少が進み、20年には政令指定都市で初めて70万人を割り込むまでに。特に進学や就職を機にした若者の流出が顕著だ。

清水港を中心としたエリアはかつて港湾工業都市として栄え、地域経済を支えてきたが、日本の産業構造転換に伴い既存業者の撤退が進み、活気が失われつつある。さらに地域内の資金の流れを分析したところ、エネルギーの域外流出額は1190億円に上り、特に電気代の流出が大きかった。こうした課題解決に向け、市はエネルギー事業者とともに複数エリアの再開発を計画。にぎわいづくりや地域の新たな価値創造、地域資源を生かしたエネルギーの地産地消に取り組み始めていた。

同時にこれは国のカーボンニュートラル(CN)政策にもぴたりと当てはまった。30年度に民生部門のCN化という新たな目標を書き加え、環境省の脱炭素先行地域第一弾に応募し、結果選出された。同事業の一環として、「みなとまちしみずから始まるリノベーション」をキーワードにした3エリアの再開発が今年度からスタート。ENEOSが清水駅東口エリア、鈴与商事が日の出エリア、静岡ガスとゼネコンのフジタが設立した新会社が恩田原・片山エリアを担当する。

地域に根差すエネルギー事業者が複数存在することは強みである一方、CN対応で化石エネルギーへの依存を縮小し、新規事業を確立することが各社共通の経営課題だ。市は、全国的な注目度が高い脱炭素先行地域に3エリアが選ばれたことで、「手厚い交付金でスピーディーに計画を実施できることはもちろん、企業価値の向上にもつながることが大きい」(グリーン政策推進室)と強調する。

PPAに市が補助金用意 地域全体で再エネ拡充図る

3エリア内ではそれぞれ主に太陽光発電の導入を進めるが、それだけでは年間約760万kW時もの需要は賄えない。そこで市内全域で、都市部では屋根置き太陽光を、山間部では小水力発電を導入し、その余剰で3エリアの需要を賄う考えだ。市内の再エネ導入量の合計は、3エリアの民生需要の2倍超を見込む。基本PPA(第三者所有モデル)とし、その下支えとして市独自の補助金を準備、今年度は5000万円を措置した。「地域の再エネ事業がグリッドパリティになるまで補助金を継続する」(同)構えだ。

こうしたコンセプトに基づき、各エリアで三者三様のモデル確立を目指していく。

清水駅東口エリアの取り組みは、ENEOSの清水製油所跡地の有効活用が発端だ。いったんはLNG火力建設計画が持ち上がったものの、事業環境の変化や住民の反対などで計画は白紙に。その後、市とENEOSは〝地域に喜ばれる再開発〟に向け計画を練り直した。約3MW(1MW=1000kW)のメガソーラー、大型蓄電池、自営線などを整備して、同社や近隣ビルへの再エネ電気の供給と、エネルギーマネジメントを行う。今後港湾ではトラックやフォークリフト、船などの水素需要が見込めることから、再エネ由来水素の製造、供給も予定する。同社はほかの製油所跡地でも同様のモデルの展開を模索している。

日の出エリアは、歴史的な石造り倉庫や物流倉庫が立地。さらに大型商業施設や国内外のクルーズ船港など、市内随一の観光交流エリアでもある。ここでは鈴与商事が主導し、建物の耐震性も考慮してエリア内に屋根置き太陽光を設置。導入可能量は最大約1・6MWと見込む。さらに地域マイクログリッド構築も目指す予定だ。

そして恩田原・片山エリアは内陸に位置するものの、「日本平久能山スマートインターチェンジ」に近く、縮小する清水港の機能を補完する工業・物流エリアとして区画整理が進行中だ。エネルギーの地産地消化を参入条件に、十数の企業進出を見込む。倉庫や工場などの建設時に屋根置き太陽光を設置し、導入可能量は最大約8MWと試算。物流会社は倉庫の屋根面積が大きく発電量が多く見込めるものの、電力需要は少ない。一方、工業用の電力需要は多いが、工場屋根上での発電量はそれほど見込めない。特徴を踏まえて面的に融通し、最適な運用を目指す。

工業物流エリア恩田原側。屋根置き太陽光設置が進む
提供:静岡ガス

民間のビジョンとも一致 自走し地域内で資金循環へ

参画事業者の1社である静岡ガスは昨年、50年CNと、30年ビジョンを策定し、その中で「地域共創」での都市ガス以外の新規事業拡大を掲げ、再エネ事業もその一つだ。柿沼卓也・都市デザイングループリーダーは「30年までに再エネ開発20万kWを目指し、太陽光では顧客へのPPA事業に力を入れていくが、PPAだけではおのおの余剰電力の扱いに困る部分も出てくるため、面で融通するサービスが必要になる」と説明。先行地域の経験が、自社ビジョンの推進を後押しすると考えている。

先行地域の事業について、市は他社とも考えが合致していると強調する。田辺信宏市長は常々、「公民連携を進める上では公益性と事業性の両立が必要で、それを行政が下支えするべき」との考えを発信している。初期は公的支援をしつつ、支えを受けた民間がその対価をさらなる投資に振り向け、将来的に自走できる形を重視している。「地元のエネルギー会社がCNで事業形態を変えても引き続き地元にお金を落とし、それが循環する。そういうモデルを市外での水平展開にまで結び付けたい」(市グリーン政策推進室)。

現在のエネルギー高騰局面は、再エネPPAにとっては追い風とも言える。この風をうまく生かせるのか、事業の今後に注目していきたい。

節電ポイントに残る疑問 効果不明で「不適切」


8月3日、政府が取り組む「節電ポイント」事業の詳細が明らかになった。電力会社の節電プログラムに参加する家庭に2000円、法人に20万円を支給する。政府が7月に節電ポイントを打ち出した際に噴出した疑問はぬぐい切れていない。各社のデマンドレスポンス(DR)のベースラインがバラバラなうえ、どれほどの節電効果が見込まれるのか。節電プログラムに参加表明しても、実際に節電を行う保証はあるのか―。

翌4日、紀尾井町戦略研究所が発表した意識調査の結果には、節電ポイントに対する国民の感情がにじみ出る。「節電ポイントに参加したいか」との問いに対し、「参加したい」と回答したのは40%、「参加したくない」は30%。同ポイントの仕組みについては、「適切」の35%に対し、「不適切」が46%と上回った。お金がもらえるなら参加してもいいが、仕組み自体は不適切――というわけだ。

一方、「原発再稼働を進めるべきか」には、半数を超える51%が「進めるべき」と回答。国民は小手先の対応ではなく、岸田政権の英断を待っている。

なじみのない「節ガス」 欠かせない国民へのPR


【脱炭素時代の経済探訪 Vol.6】関口博之 /経済ジャーナリスト

経済産業省は都市ガスの需給ひっ迫に備え、ガスの節約を呼び掛ける「節ガス」の議論を始めている。ロシアのサハリン2からのLNG供給に支障が出る事態を念頭に置いてのことで、都市ガスのひっ迫対策の検討は初だ。なじみのない節ガス、電力との違いを踏まえて考えたい。

一番の違いは、節電では電力使用量が増える時間帯のピークシフトが目的になるのに対し、ガスの場合は使用総量を抑えるのが課題になる。つまり瞬間的な「山」の高さではなく、電力のkW時にあたる「面積」を抑制しなければ、原料のLNG在庫は着実に減っていく。

また家庭で考えると、節電はLED電球に切り替える、エアコンの温度設定を調整する、省エネ性能の高い家電製品に買い替えるなど、ライフスタイルに根づいてきた面もあるが、節ガスでは何をすべきか、即座には思いつかない。ガス業界では、例えば①シャワーの時間を一人1分短縮すると4人家族なら4.2%の削減、②ガスコンロの炎はなべ底からはみ出さないようにすると1.2%の削減になる―などとアドバイスしているが、多くの方は「へえそう」という程度の反応だろう。今後のPRが欠かせない。

炎はなべ底からはみ出さないようにする

節ガスを要請する基準をどうするかも課題だ。電力ではいわゆる「予備率」が使われていて、「でんき予報」では予備率3%を切ると厳しいなどとされる。ガスの場合は何で見るか。例えばエリアごとにLNGの在庫状況を目安にする方法はある。 ただし、在庫状況を公表すればLNGの売り手に足元を見られ、価格がつり上げられかねないとガス事業者は危惧する。分かりやすく、緊迫度が分かる指標を作り、国民へ情報提供する必要がある。

DR(デマンドレスポンス)も議論されている。企業向けに節ガス要請に応えた場合のインセンティブを用意することは考えられる。ただ家庭についてはスマートメーターがある電力と違い、月一回の検針でどれだけタイムリーなDRができるか、設計はかなり難しい。

さらに電力とガスの大きな違いは、電力は沖縄を除き、全国で送電網がつながっているため、電力の融通が可能になっている。ところがガス導管網は都市部中心で、つながっていない。エリアを超えてガスを融通するのは難しく、結局対策は原料をLNG船で回すというやり方しかない。

しかも、国全体のエネルギーセキュリティーからいえば、都市ガス需給がひっ迫している時には、火力発電のLNGも調達が困難になっている可能性は高い。電力・ガスの業界の垣根を超えた融通も検討課題だが、その際どう優先順位をつけるのか、それこそ国が大局的に判断しなければならない場面になる。

経済産業省は足元では安定供給は確保されていると強調するが、それもロシアの出方次第だ。サハリン2の事実上の接収、供給も停止となれば「万が一」の事態はこの冬どころか、すぐにでも起こり得る。

【脱炭素時代の経済探訪 Vol.1】ロシア軍のウクライナ侵攻 呼び覚まされた「エネルギー安保」

【脱炭素時代の経済探訪 Vol.2】首都圏・東北で電力ひっ迫 改めて注目される連系線増強

【脱炭素時代の経済探訪 Vol.3】日本半導体の「復権」なるか 天野・名大教授の挑戦

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.4】海外からの大量調達に対応 海上輸送にも「水素の時代」

【脱炭素時代の経済探訪 Vol.5】物価高対策の「本筋」 賃上げで人に投資へ

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せきぐち・ひろゆき
経済ジャーナリスト・元NHK解説副委員長。1979年一橋大学法学部卒、NHK入局。報道局経済部記者を経て、解説主幹などを歴任。

苦悩しながら決断し調整に汗を流す 政治家・西村経産相への期待


【永田町便り】福島伸享/衆議院議員

 第二次岸田改造内閣が発足し、萩生田光一氏に代わり西村康稔氏が経済産業大臣に就任した。

政治家が大臣として官庁に入って果たすべき役割は、斬新な政策を打ち出したり、それを格好よく国民に語り掛けることだけではない。政治家として大臣にとって一番大事な役割は、決断し調整をすることである。

いくら良い政策を「決断」しても、それを実現するために政府内をとりまとめ、ステークホルダーを巻き込み、反対する勢力を説得し、政策によってマイナスになることに対応するなどといった「調整」ができなければ、その政策は実現しない。この地道な、労を要する仕事こそが、選挙によって国民から負託をされた政治家のやるべきことなのだ。

西村大臣は、原子力発電所の再稼働について会見で「原子力規制委員会が新規制基準に適合すると認めた場合にはその判断を尊重し、地元の理解を得ながら進める」と話した。これは、岸田文雄首相の発言と軌を一にするものだが、政治家としては何も言っていないに等しい。原発の新増設や建て替えについても「現時点では想定していない」と今の段階では当たり前だが、何も決断はしていない。

官邸や他省を説得し 業界との調整に汗

これからの将来に向けた日本のエネルギー需給を考えた場合に原子力の役割が必要とするなら、原子力規制委員会の規制基準を所与のものとするのではなく、「世界で最も厳しい水準の規制基準」と言っている現在の規制が果たして科学的に見て合理的なものなのか、「世界で最も厳しい」ということが本当に安全を担保するものになっているのか、という規制体系自体を見直すことに取り組むべきだろう。原子力規制委員会は国家行政組織法第三条の定める独立の基幹として政治から独立して規制の執行に携わるべきだが、規制のあり方そのものはまさに国民の負託を受けた政治が決断すべきことだからだ。

一般的に官僚出身の政治家が出身省の大臣に就任することは、稀である。それは、先に述べたような大臣と官僚の役割の分担を踏まえた時に、同じようなDNAを持った大臣と官僚組織では、近親相姦的な「食い合い」が起こってしまうからである。しかも若い西村大臣は、多田明弘事務次官と年次が一つ上にすぎない。私も西村氏と同じ経産省出身だが、多士済々の優秀な政策マンを抱える経産省が求める大臣は、「よっしゃ、よっしゃ」と言って官邸や他省を説得したり、業界との調整に汗をかく人物である。

西村大臣には、出身省の後輩たちに政策議論を挑むのではなく、選挙を何度も経た政治家として、苦悩しながら決断し調整に汗を流す姿を見せて省を盛り立ててほしい。現在の日本のエネルギーを巡る歴史的な困難な状況を突破する、リーダーシップを発揮することを期待したい。

ふくしま・のぶゆき
1995年東京大学農学部卒、通産省(現経産省)入省。電力・ガス・原子力政策などに携わり、2009年衆院選で初当選。21年秋の衆院選で無所属当選し「有志の会」を発足、現在に至る。

家庭向けDRサービスを開始 再エネの利用拡大目指す


【中部電力ミライズ】

 カーボンニュートラルの実現に向けて、再生可能エネルギーの開発が進んでいる。一方で、太陽光発電や風力発電などの再エネは、天候や季節、時間帯によって発電量が大きく変動するため、電気を安定的に供給するには「使う量」(需要)と「つくる量」(供給)のバランスを保つことが重要になる。そこで、再エネの利用拡大に向けて、「再エネの発電量に合わせて電気を使う」という〝新しい電気の使い方〟を体験できるサービスが開発された。

専用サイトで貢献量が確認できる

メールでアクションを依頼 結果に応じてポイント進呈

7月1日、中部電力ミライズが開始した「NACHARGE(ネイチャージ)」は、新しい電気の使い方をサポートする家庭向けDR(デマンドレスポンス)サービスだ。

参加者に向け、再エネの発電状況や電力の需給状況に応じて、「節電」や「電気の使用時間の変更」といった〝お願いメール〟が配信される。依頼内容に従い「エアコンの設定温度を変更する」「家事の時間をずらす」といったアクションを起こすと、その結果を翌日以降に専用サイトで確認できる。アクション結果に応じて電気料金の支払いや、提携先企業の他のポイントと交換可能な「カテエネポイント」を付与。特に需給が厳しい7~8月は節電量1kW時につき10ポイント、さらにこの期間内で節電に成功した全員に100ポイントを追加で進呈する。

参加者全員の貢献量からCO2排出削減量を算出し、環境への貢献度を知ることもできる。

担当者によると、申込件数は約5万4000件(8月5日時点)となり、総貢献量も約5万kW時(7月末時点)に達したという。

NACHARGEは、「自然(Nature)由来の再エネで社会を満たしていきたい(Charge)」という思いから命名された。中部電力ミライズは「電力の安定供給および2050年カーボンニュートラル社会の実現に向けて最大限貢献していく」としている。

託送料金上昇は不可避 送配電各社が収入見通し


一般送配電事業者10社は7月25日、2023年度に新たな託送料金制度へと移行するのを前に、同年から5年間の平均収入見通しを経済産業省に提出した。電力・ガス取引監視等委員会の専門会合の査定を経て、承認されれば来年度の託送料金に反映されることになる。

これは、レベニュー(収入)キャップ制度の導入に伴うもの。送配電事業者は事前に5年間(第一次規制期間)の計画を示し、その実施に必要な費用を見積もった収入上限について国の承認を受け、その範囲内で柔軟に託送料金を設定することになる。

今回示された見通しによると、経営効率化によるコスト削減を織り込む一方、再生可能エネルギー拡大に伴う送配電網の増強や強靭性向上、調整力確保のための費用などがかさみ、各社の収入は現行よりも軒並み上昇することになるため、託送料金の値上げにつながる公算は大きい。

大手電力関係者は、「中長期にわたって託送料金の大幅上昇を抑止するには、電気自動車など顧客側の機器を活用して設備全体をどうスリム化するか。そういう意味でも、5年後に始まる第二次規制期間が非常に重要だ」と強調する。

【コラム/9月9日】「新冷戦」勃発 安全保障と経済重視へ政策転換を急げ


杉山大志/キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹

地球温暖化問題が国際社会の注目を浴びたのは1992年の地球サミットのころからであり、これが91年のソ連崩壊の翌年であることは偶然ではない。冷戦が終わり、地球規模の問題に世界全体で協調して対処することが初めて可能になった。世界平和が訪れたというユートピア的な高揚感の下で、地球温暖化問題が世界的な議題になったのだ。

だが今、ロシアとG7(先進7カ国)諸国の間で、新冷戦が始まった。ロシアの後ろには中国も控えている。ウクライナでの戦争はその代理戦争だ。新冷戦の下では、自らの国力を伸長すること、そして敵の勢力を削ぐことが重要な目標になる。これまでG7が信奉してきた経済自殺型の再生可能エネルギー偏重型の脱炭素政策は、この目標に全く反する。自国経済を痛めつけるのみならず、ロシアや中国の勢力拡大を招くからだ。

破綻した欧州の戦略 資源を持たざる途上国が巻き添えに

脱炭素一本槍の欧州のエネルギー政策は完全に破綻した。日本でも信奉者の多かったドイツの「エネルギーベンデ(=エネルギー転換)政策」は、恐るべき災厄をもたらした。

ドイツは脱原子力と脱炭素を同時に進め、再エネへ移行するとした。だが実際にはそれではエネルギーが足らず、ガス輸入をロシアのパイプラインに大きく依存することになった。この弱みを握ったプーチンは、欧州はロシアに強い態度を取れないと読んでウクライナへ侵攻した。

ドイツだけではない。他の欧州諸国も脱炭素を進めた結果ロシア依存を深めてきた。戦争になると経済制裁としてエネルギー輸入の段階的停止を宣言したものの、あべこべにロシアからガスの供給を止められつつあり、エネルギーの不足と価格暴騰が起きた。

英国ではこの冬に家庭の光熱費が倍増して年間60万円に達する見込みで、暖房が使えず寒さで亡くなる人々が出るかもしれない。ガスを原料とする肥料製造業はすでに欧州全域で操業が低下している。他の産業も崩壊するかもしれない。

追い詰められた欧州は、あらゆる化石燃料の調達に奔走している。英国は新規炭鉱を開発する。ドイツは石炭火力のフル稼働を準備している。天然ガスの採掘もする。イタリアも石炭火力の再稼働を検討中だ。欧州は輸入も増やしている。南アフリカ、ボツワナ、コロンビア、米国など世界中から石炭を購入している。LNGを米国から大量に買い付けている。

この爆買いのせいで、エネルギー危機は全世界に伝播した。途上国も化石燃料の調達に必死だ。

インド政府は燃料輸入に補助金をつけた上で、石炭火力発電所にフル稼働を命じた。さらに100以上の炭鉱を再稼働し、今後2~3年で1億tの石炭増産を見込む。炭鉱の環境規制も緩和した。ベトナムも国内の石炭生産を拡大する。中国は今年だけで年間3億t、石炭生産能力を増強する。これは日本の年間石炭消費量の倍近くだ。

だが増産できる国はまだ良い。最も気の毒なのは資源を持たない貧しい国々だ。スリランカでは経済が破綻して大統領が国外逃亡した。これは数々の失政の帰結だが、止めの一撃は自動車用の燃料の払底だった。

脱炭素の世界協調頓挫か 次は「エネルギー・ドミナンス」へ

先進国はロシアへの経済制裁を呼び掛けているが、途上国はこれにほとんど参加していない。G7の権威は失墜した。

ロシアの原油輸出は仕向け先が変わり、先進国ではなく、中国、インド、ブラジル、エジプトなどになった。サウジアラビアとUAE(アラブ首長国連邦)もロシアから購入し、代わりに自国の石油を輸出することで、産地ロンダリングをしている。

大量の燃料が肥料の製造に必要であり、肥料は食料の生産に欠かせないが、ロシアはこの燃料、食料、肥料の全ての一大輸出国である。これら全てが世界的に不足する状況が起きつつある今、途上国はロシアからの輸入を止める訳にはいかない。

もはや脱炭素に関する世界協調など望むべくもない。ロシア・中国は、世界中の途上国と化石燃料はもとよりあらゆる資源を共有し、G7との政治システム闘争を続ける。そこではグリーンな贅沢はどうでもよくなる。

対抗するG7のエネルギー政策も、再エネや電気自動車偏重のイデオロギー的なものであることを止め、原子力と化石燃料の利用など、安全保障と経済を重視したものに移らざるを得ない。

まもなく11月に米国では中間選挙がある。共和党が勝てば、米国のエネルギー政策は、「エネルギー・ドミナンス(優越)」の実現に変わってゆくだろう。これはエネルギーの大量供給によって自国を繁栄させ、敵を圧倒することを意味する。 日本のエネルギー政策はどうか。岸田文雄首相が原子力の再稼働にようやく言及したものの、まだ高価で経済負担の大きいグリーン政策の色彩が強い。これは欧州で完全に失敗した政策だ。そして世界は今、化石燃料に回帰している。この教訓を学び、日本は、原子力と化石燃料を重視し、「再エネ最優先」を止めるよう、早々に政策転換をすべきだ。

【プロフィール】1991年東京大学理学部卒。93年同大学院工学研究科物理工学修了後、電力中央研究所入所。電中研上席研究員などを経て、2017年キヤノングローバル戦略研究所入所。19年から現職。慶應義塾大学大学院特任教授も務める。「中露の環境問題工作に騙されるな! 」(共著)、「脱炭素は嘘だらけ」、「15歳からの地球温暖化」など著書多数。

規制と自由の逆転鮮明に 燃調上限突破で見直し急務


10月分の電気料金(経過措置規制料金)で、中部電力の燃料費が調整上限に達し、これにより大手電力全社が「燃料費持ち出し」の状況となった。

とりわけ、深刻なのは北陸電力だ。他電力に先駆けて平均燃料価格が2月に上限を超えて以降、自社負担の拡大が継続。9月分の平均燃料価格は6万4200円となり、上限価格3万2900円の2倍近くに達しているのだ。

「同じ低圧でも、自由料金メニューは上限が撤廃されていて、燃料費調整単価を見ると規制料金の約4倍。自宅の使用形態でシミュレーションをしてみたら、規制料金のほうが単純に1~2割も安く、完全に逆転現象だ。ユーザーにしてみれば、今は規制料金に戻ったほうがどう考えてもお得になるのでは」(北陸管内の需要家)

こうした逆転現象は北陸に限らず、上限突破が続く他電力でも多かれ少なかれ発生している。「割安な規制料金に戻る需要家が続出すれば、収支への悪影響は拡大する一方だ。料金改定による基準価格の見直しが急務なのは間違いない」(電力関係者)。各社の対応に関心が集まる。

地域課題解決の重要プレーヤー ガス会社の強み生かし脱炭素化へ


【業界紙の目】黒羽美貴/ガスエネルギー新聞 編集部記者

2050年カーボンニュートラル実現に向け、自治体も具体的に歩みを進める段階に入った。

そして都市ガス会社は、供給エリアの脱炭素化などを導く重要プレーヤーとして活躍し始めている。

 環境省が4月、「脱炭素先行地域」に全国から26件の計画提案を選定したと発表した。これは2030年度までに民生部門でのCO2排出をゼロにする先進的エリアの構築を目指すもの。主体となる地方自治体の共同提案者として名を連ねた都市ガス会社は東邦ガスのみだったが、直接・間接的にこの枠組みに参加する都市ガス事業者は多い。

まず、名古屋市と東邦ガスの取り組みを紹介する。東邦ガスの港明工場跡地(同市港区)の再開発により誕生した街区「みなとアクルス」は、18年9月に街開きをした商業・スポーツ施設、集合住宅などが集まる街区で、東邦ガスが「総合エネルギー事業のモデル地区」として力を入れている。すでにガスコージェネレーションなどを利用してガス、電気、熱を一括供給するエネルギーセンターが稼働し、太陽光発電設備や大型蓄電池なども備えている。街区内のエネルギーを最適管理するシステムも導入済みだ。

今回、同地域に選ばれたことで、太陽光の追加設置や小型風力発電、蓄電池を新増設する。また、同街区に市所有のゴミ焼却工場などから余剰電力を供給する。さらにエリア内で水素を製造し、既存のガスコージェネやボイラーの燃料を水素やカーボンニュートラル(CN)ガスに燃料転換する。製造した水素をカーシェアリングするFCVなどへ供給することも計画されている。なお、東邦ガスはアグリゲーターとして、ゴミ焼却工場などの分散型再生可能エネルギー電源を束ね、広域再エネグリッドを構築する。

提案者として直接社名は出てこないが、自治体や他企業などとタッグを組み、地域の脱炭素化を進める都市ガス会社もいる。

「みなとアクルス」のエネルギーセンターとNAS電池

水面下で続々と進行 ガス会社と自治体がタッグ

大阪ガスが参加する大阪府堺市の泉北ニュータウンエリアなどで行う「堺エネルギー地産地消プロジェクト」は、泉北ニュータウンのスマートシティ化などを目指す産学官民組織「SENBOKUスマートシティコンソーシアム」の試みとリンクする。同組織では、大阪ガスがエネルギー分野のワーキンググループのリーダーとなり、同エリアでの効率的なエネルギー利用を検討していく。

エリアの中心にある泉北高速鉄道・泉ケ丘駅周辺の地域冷暖房を行う大阪ガスグループのエネルギーセンターにCO2実質排出ゼロの電力やガスを導入し、高効率な空調設備に更新。ガスコージェネシステムなどの導入で停電時の電源を確保し、地域の強じん化を進める。また、同エリアの府営住宅の建て替えにより創出される活用地に、高性能ネットゼロエネルギー住宅「次世代ZEH+」180戸を建設する。

静岡ガスは新会社を作り、自治体の提案を後押しする。静岡市の「脱炭素を通じて新たな価値と賑わいを生む『みなとまちしみず』からはじまるリノベーション」は、JR清水駅東口の製油所跡地などのエリアや物流倉庫立地エリア、区画整理が進む工業物流エリアからなり、建物の屋根に太陽光発電設備を設置するPPA(電力購入契約)などの事業を展開、当該エリアの脱炭素化を図る。静岡ガスは準大手ゼネコンのフジタと新会社「S&F地域マネジメント合同会社」を7月に設立し、JR東静岡駅から直線距離で約2km離れた工業物流エリアでPPA事業を推進する。

そのほか、北海道ガスが出資する地域商社・karchの事業部門の一つ「かみしほろ電力」が、北海道上士幌町全域を脱炭素化する「未来へつなぐ持続可能なまちづくり―ゼロカーボン上士幌の実現とスマートタウン構築を目指して」に参加する。

さらに、米子ガスが出資する新電力「ローカルエナジー」と山陰合同銀行が、鳥取県米子市、境港市と「地域課題解決を目指した非FIT再エネの地産地消と自治体が連携したCO2排出管理によるゼロカーボンシティの早期実現」を展開。両市の608の公共施設などの使用電力を再エネ由来にする。ローカルエナジーと山陰合同銀行はPPA事業のための新会社を設立しており、公共施設や荒廃した農地などに設置する太陽光発電を電源にする。

地域に根差す存在感を発揮 災害以外の包括連携が増加

地下に張り巡らせたガス導管のように、まさに地域に根差したビジネスを展開する都市ガス会社の運命は地域と共に在る。ここ最近は、従来の災害時連携協定だけでなく、エネルギーや環境なども連携項目に加えた包括的な連携を自治体と締結する会社が規模を問わず増えた。

東京ガスは、関東圏の都市ガス会社(秦野ガス、大東ガス、武州ガス、太田都市ガスなど)と、50年CNを目指す「ゼロカーボンシティ」を宣言している自治体との3者協定を相次いで締結している。CNな街づくり、防災力強化、学校での環境・エネルギー教育の展開など各社の強みを結集し、ゼロカーボンシティ実現を目指す。

東海ガスや京葉ガス、金沢エナジーなども、供給エリアの自治体と包括連携を組み、公共施設へ環境クレジットなどを使った「CNガス」の供給や省エネ支援、省エネ機器の導入促進、環境・エネルギーに関連した情報発信などに力を入れる。自治体単体では難しい地域のCN化をサポートする。

また、静岡ガスは地元の金融機関と連携し、中小企業を支援する。具体的には、静岡ガスが省エネ診断や太陽光発電設備によるPPAなどを中小企業に提案、金融機関は省エネや脱炭素化に取り組む企業向けの融資新商品を販売し、地域社会全体へCN施策の浸透を図っている。

都市ガス事業者は今後も、省エネやCNの方策など得意分野で地域をサポートする機会が増えていくだろう。ZEBプランナーの登録をするなど、支援内容をアップデートしている会社もある。今秋発表予定の脱炭素先行地域の第二回選定でも、都市ガス事業者が活躍できる提案が選ばれることを期待したい。

〈ガスエネルギー新聞〉○1959年設立○購読者数:3万1000部○読者層:都市ガス事業者、関連メーカー、官公庁など

海洋放出に中韓が猛反発 透けて見える「敵対心」


東京電力は8月4日、福島第一原子力発電所の処理水の海洋放出に必要な海底トンネルなどの工事を開始した。2023年春までの完成を目指す。

処理水は100倍に希釈され、トリチウム濃度は世界保健機関(WHO)が定める飲料水基準の7分の1に低下する。地元の漁業関係者は反対の姿勢を崩していないが、安全性について国民の理解は得られたといえるだろう。

処理水が貯蔵されている保管タンク

一方、猛反発しているのが中国、韓国だ。そのかたくな姿勢からは、台湾情勢や防衛費増額、徴用工問題などを巡る日本への敵対心が透けて見える。

中国の趙立堅報道官は昨年4月、日本人記者から中国の原発も放射性物質のトリチウムを放出していることを問われ、事故が起きた原発と正常に稼働している原発の処理水は別物である―と科学的根拠のない回答をした。

韓国では前政権から、国際海洋法裁判所への提訴が検討されている。しかし、韓国の原発のトリチウム放出量は日本よりも多いので、全く的外れである。

要するに中国、韓国は意趣返しをしているにすぎない。政府は国内外に海洋放出の安全性を繰り返し訴え、東電は粛々と工事を進めるべきであろう。

「ちりつも」で今冬のひっ迫改善へ 家庭向けDRサービスの効果と期待


【SBパワー/ファミリーネット・ジャパン】

物価高騰と電力需給ひっ迫を受け、政府は「節電ポイント」などで需要家向けDRの拡大を後押しする。

以前からDRを積極展開してきた事業者にこれまでの成果や、需給緩和への寄与の可能性を聞いた。

岸田政権が物価高騰や今冬の電力需給ひっ迫対策として節電ポイントを付与する事業を行うと発表して以降、需要家向けDR(デマンドレスポンス)への注目が高まっている。ただ、新規でDRサービスをいざ提供しようとしてもシステム構築などのハードルに直面するケースが多い。また、特に家庭向けDRについては、特高や高圧と異なり1件ごとの節電量はわずかで、需給改善効果は限定的と見る向きもあった。こうした意見に対し、以前からDRに積極的な事業者からは「ちりも積もれば山となる」とひっ迫改善への貢献に期待する声が挙がる。

専用アプリでDR通知 積極的に他社にも提供

ソフトバンク系の小売り事業者であるSBパワーは、専用のスマホアプリ「エコ電気アプリ」を使った家庭向け節電サービスを2020年夏から提供する。当時は21年初頭の市場高騰前で、周囲からは「家庭向けDRは手間暇はかかるが、積み上げても効果はそれほど期待できない」との見方が多かったが状況は変わり、参加者はサービス開始時の数万世帯から最近は50万世帯を突破。ほかの事業者でも、九州電力や東京電力エナジーパートナー、東邦ガスなど数社が「エコ電気アプリ」をベースにしたシステムの提供を始め、今後も拡大するという。

SBパワーは専用アプリのプッシュ通知でDRを要請

同サービスでは、JEPX(日本卸電力取引所)からの調達価格が提供価格を上回った際などにDRを発動し、「節電チャレンジ」として節電に参加協力してもらえるよう需要家に依頼。参加した需要家が、その時間帯の前日予測需要量=ベースラインを下回り節電に成功すると、報酬をキャッシュレス決済サービス「PayPay」で還元する。21年度の節電効果は約508万kW時だった。

当初の成功報酬は1回1~2円程度相当だったが、今の高騰局面では数十円程度のケースもあり、6月以降は毎日のようにDRを発動。さらに3月22日の需給ひっ迫警報時の実績を検証したところ、節電チャレンジ不参加に比べ、参加者の節電効果が10%高かった。ひっ迫警報や政府の呼びかけに加えての同サービスの展開で、節電効果が高まることが確認できた。

ソフトバンクは「アプリを通じて顧客が状況を理解し活動することで、ある程度の塊として節電を制御できる可能性が出てきた。ゲーム感覚で節電を楽しんでもらえるサービスにすることで継続的に協力いただけるようにすることがポイントだ」(エナジー事業推進本部事業開発部)と説明する。

同社では世帯ごとに翌日の需要を予測しベースラインを算出しており、グループ会社のエンコアードジャパンの特許技術を活用している。ただ、別の事業者が同様の仕組みを新たに自社で始めようとするハードルは高い。

「DRだけで家庭向けサービスが完結できるわけではなく、新電力各社の限られたリソースをDR開発だけに割り当てられないと思われる。かといって導入を見送るのではなく、当社のシステムを広く活用してもらうことで、全体として節電量を増やし効率的なエネルギー消費に向かうことができれば、ソフトバンクらしい取り組みとして提供の意義が示せる」(同)と強調する。

一括受電でもDR実績 デマンドを3段階で評価

マンション一括受電でも、DRの実績を培ってきた事業者がいる。ファミリーネット・ジャパン(FNJ)は、2012年から新築マンション向け一括受電でのDR型電気料金プラン「スマートプラン」を提供する。一括受電は、計画停電の経験から東日本大震災後に急増し、当時は大手電力の経過措置規制料金と比べて数%安いとのうたい文句形が主流。それと「スマートプラン」は一線を画し、当初からエネルギーマネジメント志向のプランを提供してきた。エネマネ志向に理解を示したデベロッパーに採用を続けてもらい、現在は首都圏、名古屋市、仙台市でサービスを提供している。

同プランの特徴は、デマンドを3段階に分けて料金を変動させ、節電を促す点だ。リアルタイムの節電量と、ピークが立つかどうかで、30分ごとに料金が変動する。ピークを立てないよう家電を使うタイミングを変え、ベースライン(2段階目)以下に納まるように家電を使うと、東京電力の従量電灯B、Cより5%安くなる。最も低い1段階目の範囲に収まった場合は、さらに安くなる。自社開発のインジケーターでリアルタイムの電気の利用状況を知らせ、ピークを抑制するような行動を促す。スマートメーターなどを使い30分値で料金変動するプランはほかにもあるが、リアルタイムの使用量を反映するプランは珍しいという。

FNJのインジケーターイメージ図

野村不動産と共に、14年夏、冬に千葉県船橋市の5棟約1500世帯を対象に行った実証では、スマートプランと見える化、さらに省エネアドバイスレポートの提供まで実施した場合、kWを低減するピークカット効果が約11%、kW時を削減する省エネ効果は約7%との結果が示された。今年3月の需給ひっ迫時も、顧客向けに料金確認画面や専用ホームページなどで政府からの情報を随時発信し、無理のない範囲の節電を呼び掛けた。今冬に向けては、さらに啓蒙の仕方を検討する考えだ。

同社は「スマートプランは10年目となり、その趣旨がようやく政策と合致するようになってきた。デベロッパーの関心も高まっており、DR自体が定着してきている」(草刈和俊・取締役常務執行役員)と手応えをつかんでいる。

本番の冬に向け、今後各社のDRサービスが続々発表されそうだ。緊急措置的な側面はあるにせよ、「ちりつも」DRが需給改善にどれだけ貢献できるのか、引き続き検証していくことが重要になる。