【マーケット情報/6月10日】原油上昇、品薄感強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み上昇。供給不足感が一段と強まり、価格が続伸した。

欧州連合によるロシア産原油、石油製品への禁輸措置で品薄感が広がる一方、国際原子力機関(IAEA)がイランに対する非難決議を採択。イランはこれに反発し、IAEAが同国の核関連施設に設置した監視カメラの撤去を開始した。米国は、核合意復帰に向け努力する方針は変わらないとしたものの、合意復帰はさらに遠のいたとの見方が大勢。イラン産原油の供給増加は当面見込めないとの予測が、価格を支えた。

また、リビアの一部輸出港では、治安悪化を背景に、計画外停止の可能性が台頭。供給逼迫感がさらに強まった。

一方、米国の週間在庫は増加。ただ、供給逼迫感を和らげる要因にはならなかった。

【6月10日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=120.67ドル(前週比1.80ドル高)、ブレント先物(ICE)=122.01ドル(前週比2.29ドル高)、オマーン先物(DME)=119.10ドル(前週比7.00ドル高)、ドバイ現物(Argus)=118.76ドル(前週比6.71ドル高)

石油とアナログ半導体 共通する需給ひっ迫の構造


【オピニオン】後藤康浩/亜細亜大学教授

世界経済に暗雲を広げるインフレの主因は化石燃料と穀物の需給ひっ迫だが、それ以上に自動車など産業界を悩ませているのが半導体の供給不足だ。化石燃料と半導体は一見、まったく異なるコモディティだが、需給ひっ迫の背景には共通性がある。とりわけ両分野で“古株”の石油とアナログ半導体には供給側で類似した構造問題が生じている。

「脱炭素」の標的にされ、EVの普及などで需要の将来性に不安が高まる石油は、油田への投資が細り、石油会社はSDGs、ESG重視の投資家の圧力で石油から再生可能エネルギーへの大転換を進めつつある。産油国すら「ポスト石油」時代に向けた経済構造の転換を加速させている。コロナ禍が出口に向かい、石油需要が回復し始めても油田などへの増産投資が進まない問題は、既に繰り返し指摘されてきた。今、顕在化しているのは、油田開発投資が盛り上がったとしても、開発資材や設備、人材が追い付かず、開発投資に着手できないという懸念だ。

半導体はスマホやパソコン、AI向けの最先端のロジック半導体や電子機器向けに加え、データセンター用にも需要が膨らむメモリーへの増産投資が加速、台湾のTSMCや韓国サムスン、米インテルなどは最先端製品の工場の新増設を進めている。だが、車載や生産ラインの自動化、電力制御などを主目的とするアナログ半導体の増産にはそれほどの勢いがない。半導体の設備メーカーはTSMC向けなどの最先端の装置生産に全力を注ぎ、アナログ半導体向けの装置生産は後回しにしているからだ。

現実はアナログ半導体の需要はロジック以上に急増し、半導体の中では車載用のアナログ半導体の需給が最もひっ迫している。アナログ半導体は車1台当たり、EVでは内燃機関の2倍、自動運転車では10倍の個数が使用されるといわれる。自動車が使う情報は映像、振動、温度、回転、重力、電流などアナログ情報ばかりだからで、今後さらに需給ひっ迫が深刻化しかねない。

考えれば、これからモータリゼーションが進展するアジアの途上国、アフリカなどは電力の慢性的不足が続き、電力インフラ整備には時間がかかるため、EVよりも成熟したガソリンエンジン車あるいはハイブリッド車が先行して普及するのは当然だ。石油需要は粘り腰で続く可能性が高いが、石油を生産する側、とりわけ生産するための資材や装置、人材の供給増は期待できない。

石油とアナログ半導体はともに業界人は状況を正確に理解し、打つべき手を発信しているが、生産を支える設備業界や金融、人材は先入観にとらわれ、動かない。需要はあっても業界外の要因で供給を拡大できない構造問題といえる。

ウクライナ侵攻によって、世界の関心は軍事や地政学、物流などに向き、石油やアナログ半導体の持続的な需要増やそれに応える生産体制の整備に目が向かなくなっている。今、必要なのは先入観にとらわれず、正しい認識を持つことだ。

ごとう・やすひろ 早稲田大学政治経済学部卒。豪ボンド大学経営大学院修了(MBA取得)。
1984年日本経済新聞社入社。中国総局駐在、編集委員、論説委員、編集局アジア部長などを歴任。
2016年から現職。

脱炭素型産業への転換を決意 臨海部に新エネ拠点創出へ


【地域エネルギー最前線】茨城県

茨城県臨海部を舞台に、需要、供給双方に新エネルギーの拠点を作り出そうという構想が動き始めた。

製鉄所の高炉休止など地域経済の転換に直面する中、県や市町村は脱炭素に活路を見出そうとしている。

臨海部に集積する産業を、化石燃料多消費型からカーボンニュートラル(CN)型へ―。茨城県が有する茨城港と鹿島港、二つの港湾を舞台に、CN化のプロジェクトが始動している。地域特性を生かし、新エネ分野での新たな産業創出を目指す大規模な計画だ。

県臨海部には、JERAの常陸那珂火力や鹿島火力といった発電所、東京ガスの日立LNG基地、石油精製所、製鉄所、石油化学などさまざまな産業が集積している。地域特性はCO2の排出実態にも表れており、県の排出量のうち産業分野が6割近くを占める。つまり産業分野の対策強化が、県のCO2削減の迅速化につながる。

企業にとってもCN化は喫緊の課題だ。そして臨海部には先述の通り、エネルギーの供給側、需要側双方の拠点が立地している。こうした実態を踏まえ、県は臨海部にはCN化での成長ポテンシャルがあると判断。また、国土交通省が進めるカーボンニュートラルポート(CNP)施策も後押しとなり、昨年5月に「いばらきカーボンニュートラル産業拠点創出プロジェクト」を立ち上げた。

洋上風力をはじめとする再生可能エネルギーの導入、水素・アンモニアなどのサプライチェーン構築、関連の技術開発、設備投資を促進。新エネ需要拠点、新エネ供給拠点、メタネーション(合成メタン)などのカーボンリサイクル拠点創出を目指す。県が呼び掛け、エネルギー企業やコンビナート立地企業、行政、研究機関などでつくる協議会を設置し、検討を深めている。

ただ、今はまだ県が青写真を示した段階。取り組みの具体化はこれからの作業だ。実際に企業がどの程度の投資を決断するかが、プロジェクトの行方を握る。県は、「港湾と周辺地域のCN化を実現することで、産業や雇用が無くなるのではなく、今後も稼げるという形を県として示した。できるだけ多くの企業を巻き込み、これを絵に描いた餅で終わらせないようにする」(地域振興課)と意気込んでいる。

日鉄高炉休止の衝撃 既存産業への危機感強く

これほどの大規模プロジェクトを自治体主導で進める背景には、既存産業の将来性への危機感がある。2021年春、日本製鉄が鹿嶋市の製鉄所の高炉2基のうち1基の休止を発表したことは、地元にとって衝撃の出来事だった。手を打たないままでは、県内のほかの企業が同様の決断を下してもおかしくはなく、「新産業を作り出さなければ、地域として脱炭素化時代に生き残れない」(同)。

その本気度は21年度の予算措置に表れている。CN関連のさまざまな新規施策を用意したが、中でも目玉事業である「CN産業拠点創出推進基金」には200億円を措置した。CN対応に必要な共用インフラの整備や各社の設備投資を支援するものだ。県の予算総額が1・3兆円というから、かなりの額を割いたことが分かる。

県は「企業の設備投資に1000億円を要すると仮定し、1割を県が負担すれば、2社を支援できるイメージ。企業へのコミットの姿勢を示すために思い切った予算措置に踏み切った」(同)と説明。基金以外の補助事業、規制緩和や地元調整などの伴走型支援にも力を入れる。

21年度の取り組みとしては、常陸那珂港区ではアンモニアのサプライチェーン構築の可能性を探る。港湾内施設の整備に関する調整を進めつつ、愛知県の碧南火力でアンモニア混焼の実証を進めるJERAに対し、常陸那珂火力でも同様の実証を行えないか提案する。ここが実現すれば、中小規模も含めた潜在的な需要掘り起こしに向け、ほかの企業にも打診していく考えだ。

既に複製水素のパイプラインが整備されている鹿島コンビナートでは、水素導入の拡大を働き掛ける。念頭に置くのは老朽化した共同火力のリプレースだ。まず石油コークスを使う北共同発電などのリプレースを促し、将来的な水素需要量の把握や、水素利活用の拡大を図っていく。

「第二の鹿島開発」の気概 洋上風力関連産業の創出へ

高炉休止に揺れる鹿嶋市も、CNにかける思いは強い。「第二の鹿島開発」といった気概で、洋上風力を軸にした関連産業創出を目指している。

基地港湾の工事が進む鹿島港外港地区(提供:鹿嶋市)

市が洋上風力を柱に据えたのは、20年に鹿島港が国土交通省から基地港湾の指定を受けたからだ。基地港湾とは、洋上風力発電設備の設置や維持管理に活用する港湾。鹿島港は太平洋側で唯一指定されており、再エネ海域利用法に基づく促進区域である千葉県銚子市沖など、近隣海域の風力発電産業の拠点となる予定だ。24年度の供用開始に向け、国交省事業として、外港地区の岸壁整備や地耐力強化などの工事を実施している。

市のビジョンでは、基地港湾機能である部品の輸入・移入、建設・風車積み出し、O&Mなどの拠点化だけにとどめず、関連するさまざまな産業の誘致を図る。鹿島灘沖で計画される洋上風力発電所の電力の地産地消や、水素製造、人材育成、観光などの拠点化も模索したい考えだ。

もともとの人口減に折り重なる形での高炉休止の影響をどう乗り越えるかは、市の最重要課題。かつて主たる産業がなかったところ、1960年ごろから鹿島開発計画がスタートし、現在に至っている。錦織孝一前市長は新たなCN化の挑戦を「第二の鹿島開発」として注力してきた。4月に当選した田口伸一市長も、前市長の路線を継承する意向だ。市は「洋上風力の総合拠点化で地域活性化を目指す上で、いかに鹿島港に注目してもらえるかが課題。また、地元企業にも積極的に参入を呼び掛けていく」(港湾振興課)考えだ。

既存産業の転換というピンチをチャンスに変えることができるのか。茨城発のCN化の動向に引き続き注目したい。

カーボンニュートラル都市ガスを供給 地域需要家の「脱炭素化」を支援


【西部ガスホールディングス】

 今年4月、西部ガスは北九州市でカーボンニュートラル(CN)都市ガスの供給を始めた。

東邦チタニウム若松工場と、同月オープンしたイオンモールの「THE OUTLETS KITAKYUSHU(ジ アウトレット北九州)」に供給する都市ガスの全量が、CNLNGによってカーボンオフセットされた都市ガスとなる。

西部ガスホールディングスは2021年9月「西部ガスグループカーボンニュートラル2050を策定。50年には脱炭素化したガスや水素、再生可能エネルギーなどを適材適所に使い分けながらCNを実現すると宣言している。

実現までの移行期の取り組みとして、①石油・石炭からの燃料転換を図る「天然ガスシフト」、②CNLNGやメタネーションなどを活用した「ガスの脱炭素化」、③再エネの普及拡大などによる「電源の脱炭素化」―の三つの柱を掲げる。

将来的にはメタネーションで製造した合成メタンなどを供給して脱炭素化を図るが、移行期においては、石油・石炭から天然ガスへの転換が現実的だ。

30年までの具体的な目標としては、CO2排出削減貢献量150万t、再エネ電源取扱量20万kW、ガスのCN化率5%以上を目指すとしている。

ガスのCN化率5%については、CNLNGやメタネーション、水素、バイオガスなどの手段によって、ガスを調達・製造することを検討している。

今回のCN都市ガスの供給について、営業計画部の北原憲三マネジャーは「お客さまが脱炭素化への方法を探る中で、CN都市ガスの導入は設備を更新することなく低・脱炭素化を図れる」とし、「環境意識が高い企業や、海外向けに製品を輸出するメーカーなどに対して積極的に勧めていきたい」と話す。

大学などと共同で技術開発 地域とつながり価値を創造

ガスの脱炭素化では、九州大学や日本炭素循環ラボ(九大発ベンチャー)と一緒に、新しいCO2回収技術の共同検討に取り組み始めた。都市ガス燃焼後、ガスボイラーやガスコジェネなどのガス機器から出た排ガスに含まれるCO2を回収し、変換・利用する技術の開発だ。

カーボンニュートラル推進部の石井直也マネジャーは「50年のCNという目標に対し、できることを着実に一歩一歩やっていきたい」と抱負を語る。

エネルギーと暮らしのサービスを通じて地域とつながり、信頼を築いてきた西部ガスグループ。そのつながりを力の源として、未来を変える価値の創造に挑みたいとしている。

2月に約7万tのCNLNGがひびきLNG基地に到着した

EUが国境炭素税前倒し 日本のCP政策にも影響


エネルギーの脱ロシア化で、欧州連合(EU)の脱炭素化にブレーキが掛かるかと思われたが、逆にギアを上げる展開を見せている。欧州議会環境委員会は5月17日、炭素国境調整メカニズム(CBAM)を1年前倒して25年に導入する法案を可決した。

CBAMは、EUの30年温暖化ガス55%減目標の一環で、温暖化対策が緩い国からの輸入品に課税するもの。域内の事業者に対し、対象品を輸入する際、同じ品目を域内で製造する場合に排出量取引制度(ETS)で課される炭素価格に応じた価格の支払いを義務付ける。法案ではこのほか、現在一部を無償化しているETSの完全有償化を30年と5年前倒すことも決定。また電力、鉄鋼、セメント、アルミニウムなどの対象品に、水素・アンモニア、プラスチックなども追加する。 日本のカーボンプライシング(CP)政策にも影響を与えそうだ。23年から始まるGX(グリーントランスフォーメーション)リーグについて、政府関係者は「排出量取引への移行や有償オークション導入の前倒しが必要となる可能性がある」と示唆する。

日本半導体の「復権」なるか 天野・名大教授の挑戦


【脱炭素時代の経済探訪 Vol.3】関口博之 /経済ジャーナリスト

 かつて世界を席巻した日本の半導体産業が凋落して久しい。1988年世界で50%以上あった日本のシェアは2019年には10%。企業売上ランキングでも9位にキオクシアがやっと顔を出すのみだ。昨年には遂に政府が巨額の補助金を用意し、台湾のファウンドリー・TSMCの合弁工場誘致に踏み切った。それでも日本半導体の“復権”はあり得ると言うのがノーベル賞科学者、名古屋大学の天野浩教授だ。天野教授は青色発光ダイオード発明の功績で14年、赤崎勇氏、中村修二氏ととともにノーベル物理学賞を受けた。その天野氏が今取り組んでいるのが、「次世代のパワー半導体」の開発だ。

窒化ガリウム応用のEVを披露する天野名大教授(提供:時事)

パワー半導体はおよそ電力を制御するところには必ず使われる。つまりあらゆる電気機器の省エネにかかわる。国の半導体戦略でも省エネ化・グリーン化をいち早く達成することが競争力の源泉だとして、新素材による次世代パワー半導体を技術開発の柱の一つに掲げる。

天野教授らが目指すのは、窒化ガリウム(GaN)を材料に使う方法だ。そう、窒化ガリウムはあの青色LED(発光ダイオード)を実現した素材。それが今度はパワー半導体でも活躍するとは、何ともできた「孝行息子」ぶりだ。名古屋大学にある研究施設は1000㎡超のクリーンルームを備え、もはや“実験室レベル”を超えている。現場では共同研究企業からの出向者も加わり、結晶成長やデバイスの試作などが行われている。

高電圧・大電流で使おうとすると従来のシリコンでは発熱によるロスが大きいが、窒化ガリウムならばこの電力損失が少ない。ロスはシリコンの10分の1以下で、まずはEVへの導入を目指している。天野教授によれば、今のひと抱えもあるようなインバーターが、将来はモーターの一部になってしまうほど、小型化が可能だという。

この半導体には当然、高品質の窒化ガリウム結晶が不可欠だ。「実は結晶を磨き、ウエハーにする工程で、愛知の陶器の伝統技術が生きている」と天野教授は言う。微細回路を描く前の工程にこそ強みがあるというのだ。窒化ガリウムによるパワー半導体開発では、日本はまさに世界のトップランナー、と天野教授は自信を見せる。

DXが進展する中、デジタル関連の電力消費量も急増し、30年には1兆4800億kW時、今の36倍になるとも試算されている。EVに加えデータセンター、鉄道、産業機器、さらには電力系統向けなどグリーン化を支えるパワー半導体の活躍の場は広がる。天野教授は国や企業の投資の在り方にこんな注文をつけた。「数千億円の投資でなくてもいい。例えば1~2世代前のクリーンルームの装置でもわれわれに使わせてもらえれば、従来品を凌駕するデバイスが作れる。もし稼働率が低い工場があるなら、そこに少し投資をすれば新素材のパワー半導体生産は一気に進む」。競争力を失ったレガシー工場の再活用、一考に値するアイデアだろう。ノーベル賞科学者は次の“勝ち筋”もしっかり見据えている。

【脱炭素時代の経済探訪 Vol.1】ロシア軍のウクライナ侵攻 呼び覚まされた「エネルギー安保」

【脱炭素時代の経済探訪 Vol.2】首都圏・東北で電力ひっ迫 改めて注目される連系線増強

せきぐち・ひろゆき 経済ジャーナリスト・元NHK解説副委員長。1979年一橋大学法学部卒、NHK入局。報道局経済部記者を経て、解説主幹などを歴任。

米子市でバイオマス発電所を運転 安定供給と地域活性化に貢献


【中部電力】

 中部電力、三菱HCキャピタル、東急不動産、シンエネルギー開発、三光は共同で、米子バイオマス発電合同会社を設立。鳥取県米子市にバイオマス発電所を建設し、4月2日から運転を開始している。

同発電所は、木質資源や植物残さといった生物由来の資源(木質バイオマス燃料)を燃焼し発電する木質バイオマス発電所だ。燃焼時に排出されるCO2は、燃料となる植物が成長過程で行う光合成によって吸収し、相殺される仕組みとなっている。

化石燃料の代わりに木質バイオマス燃料を利用することで、カーボンニュートラルを実現しつつ、安定した出力で発電できるため、ベースロード電源としての利用が可能だ。同発電所の発電出力は5万4500kW、想定年間発電電力量は約3・9億kW時で、再エネの固定価格買い取り制度(FⅠT)による売電を行う。

自然由来のクリーンなエネルギーを地域に供給

持続可能性に配慮し調達 国際認証制度に基づき購入

米子バイオマス発電所で使用する燃料は、木質ペレットおよびパーム椰子殻(PKS)だ。木質ペレットは乾燥させた木材を細粉し、円筒状に成形したもの。熱と圧力によって木材に含まれる成分を固めるため、粘着剤などを使用することなく成形が可能である。また、乾燥しているため、燃焼時の発熱量が大きい。さらに、同発電所では、植林・伐採を計画的に管理するなど持続的な森林資源を原料とした木質ペレットを購入。国際的な森林認証制度によって、製造から納入まで、適切に管理されていることを確認する徹底ぶりだ。

もうひとつの燃料であるパーム椰子殻は、パーム椰子の果実からパーム油を搾った種子殻である。かつては廃棄物として処理されていたが、水分量が少なく発熱量が大きいことから、現在はバイオマス燃料として有効活用されている。

米子バイオマス発電所は、生態系破壊などの懸念もあるパーム椰子殻の調達では、現地の持続可能性に留意。国内外の燃料供給事業者と連携し、パーム椰子殻の発生地と流通経路を確認。国際的な認証制度下で持続可能性が認められたパーム椰子殻の調達に努める。

同社はクリーンなエネルギーを供給することで、地球環境改善はもちろん、発電所の運営や燃料の運搬などで新たな産業・雇用を生み出し、地域の活性化にも貢献。中部電力は共同出資者とともに、同発電所の運転を通じて、持続可能な社会の実現に寄与する。

【コラム/6月10日】電力逼迫(ひっぱく)と出力制御、電気足りない?電気余っている?


渡邊開也/リニューアブル・ジャパン株式会社 社長室長

 2020年の冬、電力料金高騰のニュースが流れ、2021年5月当時の経済産業大臣である梶山大臣が会見で夏の電力逼迫(2021年の夏)の懸念とその対策を早急に立てるように指示している。そして今年2022年も直近で「夏の電力逼迫、節電要請、閣僚会議 全国規模は7年ぶり」や「エネルギー危機・日本の選択(上)電気不足、冬に110万世帯分 火力閉鎖・動かぬ原発…節電頼み 停電回避へ政策総動員」(いずれも日本経済新聞)といったように電力逼迫のニュースが流れている。2011年の東日本大震災などは地震という災害に伴う電力逼迫であったが、この数年における電力逼迫は、海外から燃料を輸入して火力発電を主として電気を供給するというこれまでの構造、ウクライナ情勢も踏まえて、エネルギーの安全保障という観点からも現実的かつ長期的な課題であるという認識あるいは危機感が一般の方々にも肌感覚で感じるようになってきていると思う。電気が足りないことが慢性的な(生活習慣病みたいな感じになってきた?)ものとなりつつあるのかもしれない。
 一方で、「出力制御、四国と東北に続き中国エリアでも開始。大型連休にはさらに拡大か」(ソーラージャーナル)や「東北電力、10日に初の再生エネ出力制御」(4月9日)、「中国電力、17日に初の再エネ出力制御へ」(4月16日)、「北海道電力も初の再エネ出力制御、最大19万キロワット」(5月8日)といったように今年の4月から5月のGWにかけて、出力制御のニュースが流れている。出力制御は主に九州において実施されていたものが、今年になっていよいよ本州や四国、北海道にも本格的に実施されるようになってきた。これが業界の方の肌感覚だと思う。好天となって太陽光発電の出力が高くなり、供給が需要を上回ると見込まれる、それに伴い需給バランスが崩れて停電が起きることを防ぐために出力制御を実施するのであるが、その実施回数が増加しつつあるのは、太陽光発電の導入がそれなりの規模になってきたことを示している。出力制御を実施するということは、電気が一時的に余っているということになる。この「電力逼迫:電気足りない」と「出力制御:電気余っている」というニュースを比較した時、一般の方々からすると何か矛盾に感じるであろう、あるいは、子供に「電気って足りないの?余っているの?どっち?」って聞かれたら何と答えるのだろうか?「脱炭素社会の推進で再生可能エネルギーの導入を進めているのに、燃料費タダで発電できる再生可能エネルギーの電気を制御するのはもったいない」ということを素朴に思う人は多いのではないだろうか?

 では、どうしたら良いのかということになるのだが、それについては、「再エネがもったいない!広がる太陽光発電の停止・出力制御 NHK解説委員室」を是非ご覧いただきたい。
https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/700/467520.htmlそこには具体的に4つ書かれている。①火力の出力のさらなる低下②電気の料金プラン、電気の余る昼間の料金を安くする(これまでは夜間を安くする料金プランが主流であったが)③送電線の増強(余った電気を足りない所に流す)④電気を貯める、すなわち蓄電池である。私はこの4番目の貯めるということをもっと促進していくべきではないかと思う。再エネが増えて電気の需給バランスを取るのが大変になったような論調が多く見受けられるような気がするのであるが、であれば、貯めるという技術を積極的に導入することで、自然現象に依存して発電する太陽光や風力、いわゆる変動電源を蓄電池をセットにして安定電源にしていくということをもっと議論しても良いのではと思う。2020年3月時点で太陽光56GW、風力4.2GWの導入量実績があり、この既存設備に対して蓄電池の導入を促すような施策を実施するのはいかがだろうか?FIT制度との絡みでこれ以上の国民負担をという議論は当然あるかもしれない。しかし、電力価格が高騰し、電力小売りとの契約がない法人に必ず電気を届ける「最終保障供給」の利用が1万3045件に上る(5月20日時点)、いわゆる「電力難民」が発生している状況が続くのであれば、また結局のところ脱炭素の実現を進めて行かなくてはいけないという前提に立つならば、再エネ導入の促進と貯めることによる安定電源の実現を目指すということはもっと優先順位を上げて議論していっても良いのではないかと思う。

【プロフィール】1996年一橋大学経済学部卒、東京三菱銀行(現三菱UFJ銀行)入行。2017年リニューアブル・ジャパン入社。2019年一般社団法人 再生可能エネルギー長期安定電源推進協会設立、同事務局長を務めた。

再エネの乱開発防止へ国が動く 「関係省庁で横串を通す」規制見直し


【永田町便り】福島伸享/衆議院議員

私は落選中、選挙区内の各地で森林開発による太陽光発電所の設置に関する地元とのトラブルを見聞きしてきた。本誌でも、2年前からこの問題を大々的に特集し、警鐘を鳴らしてきた。FIT制度導入以降、森林を大規模に伐採してメガソーラーなどを建設する事例が各地で増えてきたが、農水省の森林法、環境省の環境アセス法、経産省の電気事業法、国交省の建築基準法など各省の既存法令でバラバラに対応しており、実際に生じている問題を既存法令では解決できなくなっていた。

そうしたことを受けて、昨年10月末に国会に戻った私は、早速この問題について2月14日の予算委員会で取り上げ、萩生田光一経産相、金子原二郎農水相、山口壯環境相らと議論を行った。その場において、「FIT法の中には、再生可能エネルギー発電事業計画の認定基準に、関係法令の規定を遵守するとあるが、関係法令で25の法律がある。省庁横断的な制度、法律がなければ(適正な)再エネは推進できない。大臣がリーダーシップを取って各省が連携して、太陽光や風力など、再エネに関わるさまざまな事情がある中で、環境を守り、住民との関係を円滑にするための、省庁の縦割りを超えた制度、法律を作るべきだと思います。萩生田大臣の見解をお聞かせください」と問うたところ、「その問題意識は極めて大事で、そうした横串を通すような法律が果たしてなじむかどうかも含めて、関係する省庁と、しっかり議論を交わして、必要があれば法律で対応する。検討を続けてみたい」と、萩生田大臣から前向きな答弁をいただいた。

萩生田氏の迅速な対応 新制度を含め検討へ

それから約2カ月後。4月19日の閣議後会見で、萩生田大臣は「4月21日から、経産省が中心となって農水省、国交省、環境省との共同で再エネ発電設備の適正な導入及び管理に関する検討会を立ち上げます」と表明した。さらに、「関係省庁で横串を通す形で、必要となる制度的対応や運用の在り方などについて検討会の場で議論し、スピード感を持って対策を具体化していきます」として、新たな制度の創設を含めた検討を行うことまで踏み込んだ。

5月号で報告した洋上風力発電事業者の公募基準の見直しに続いて、政治家として国会での議論などを受けて自ら迅速に判断し物事を進める、萩生田大臣の政治的リーダーシップに改めて敬意を表したい。

肝心なのは、これからの検討会での議論である。森林法、環境アセス法、この国会で成立した盛土等規制法などの法令は、実際の太陽光発電の開発には合致していない規定が多い。大臣がおっしゃるような、再エネの特性に特化した「関係省庁で横串を通す形」の制度を新たに創設する必要がある。省庁の縦割りを超えた結論が導かれることを期待したい。

ふくしま・のぶゆき
1995年東京大学農学部卒、通産省(現経産省)入省。電力・ガス・原子力政策などに携わり、2009年衆院選で初当選。21年秋の衆院選で無所属当選し「有志の会」を発足、現在に至る。

脱炭素先行地域に26件 常連組や意外な地域も


2025年度までに100カ所の創出を目指す「脱炭素先行地域」の第一弾が決定した。環境省は4月26日、79件の応募の中から26件を選定したと発表。内容を見ると、再生可能エネルギー先進地として既に有名な自治体もあれば、省内からも珍しいエリアと受け止められるケースも。共同提案者として、大手電力や都市ガス事業者の名も挙がっている。

先行地域では、30年度までに民生部門の電力消費のCO2排出実質ゼロを目指す。同省は再エネ設備や基盤インフラなどの整備に対し、5年程度で原則交付率3分の2という手厚い支援を用意。「脱炭素ドミノの起点となり得る計画で、先進性やモデル性、特に単なるRE100(再エネ100%)でなく地域の課題解決にどう資するかというストーリー性を重視。また実現可能性もチェックした」(近藤貴幸・地域脱炭素事業推進調整官)。地域の偏りよりも内容重視で選んだという。

今秋にも2回目の選定結果を発表予定だ。「地域の脱炭素化加速に向け、できるだけ多くのアイデアを出してほしい」(同)。エネルギー企業にとっても地域とのつながりを深めるチャンス。次回はどんなメンバーが選ばれるのか。

脱炭素化へ本腰の証? 東ガスがLPG事業撤退


東京ガス(TG)は、100%出資子会社であるTGリキットホールディングスが保有する、TGエネルギーとTGLPGターミナルの二つのLPガス関連会社の株式を岩谷産業に譲渡し、同事業から完全撤退する。

TGエネルギーは1960年設立。以来、首都圏を中心とする関東地方でLPガス事業を展開してきた。今後は全国展開する岩谷産業の傘下に入り、両社のガス調達機能や卸機能、物販機能の連携を強め、安定供給や営業の効率化、物流の合理化などでシナジー効果の創出を目指す。

TGがLPガス事業を手放すことについて業界関係者は、「都市ガスとLPガスの両輪でガス体エネルギーの普及拡大を進めてきたこれまでの路線から、脱炭素化へ明確にかじを切った」と分析する。

一方で、「TGのLPガス撤退劇というよりも、岩谷産業の首都圏における事業強化戦略だ」と見る関係者も。ライバルのニチガスが着々と顧客を拡大していく中、首都圏の事業基盤を固める狙いがあるのではないかという。都市ガスのみならず、首都圏のLPガス争奪戦も激しさを増しそうだ。

資金収支が示す大手電力の苦境 燃料高騰より重大な構造問題とは


【論点】電力会社のフリー・キャッシュ・フロー状況/廣瀬和貞 アジアエネルギー研究所代表

2021年度決算で大手電力の損益が軒並み悪化し、半数の5社が最終赤字に陥った。

発電燃料の高騰が主な原因だが、キャッシュ・フロー分析からはさらに大きな問題が浮かび上がる。

旧一般電気事業者の問題の本質は、燃料費高騰で損益が悪化したことにあるのではない。損益計算書よりも、キャッシュ・フロー(CF)計算書を中心に各社の決算を分析すると、損益が赤字だったことよりも重要な、業界全体の構造的な課題が見えてくる。

損益計算書は、経営者の判断で記載内容が左右される。現に20年3月期から減価償却方法を定率法から定額法に変更し、利益をかさ上げして見せている旧一電が多い。昨今の燃料費高騰の前から、既に損益は苦しかったのである。一方CF計算書は現金の入り払いの記録から作成され、経営の恣意的な判断が反映されにくいため、各社の実力を知ることができる。

CF計算書は、営業CF、投資CF、財務CFで構成される。営業CFは事業でどれだけの資金を稼いだか、投資CFは事業継続のためにどれだけの設備投資をしたか、財務CFは前二者の差し引きで資金が不足した場合に、どのように資金を調達したか、反対に足りている場合には、どれだけ債務返済や株主還元をしたかを示す。 営業CFと投資CFの合計、つまり事業で稼得した資金から事業に必要な投資額を差し引いた残りをフリー・キャッシュ・フロー(FCF)と呼ぶ。債務はFCFから返済されるため、FCFが黒字であることが重要だ。ただし、投資額には波があるため、FCFの額は毎年大きく変動し、一時的に赤字となることも多い。従って、単年ではなく何年間かの長期的な傾向を見ることが有効である。

設備投資額も拡大 資金不足が常態化

電力システム改革が進展し、16年4月からは小売り事業が全面自由化された。この期から直近の22年3月期まで6年度の各社のCF状況を分析してみよう。下表に、自由化の例外である沖縄を除く旧一電各社の6期間平均の年間CFを示す。燃料市況や設備投資の変動が均され、各社の実力としてのFCF創出力を見ることができる。

注1:JERAは2018/3期から2022/3期の5期の平均値
注2:中部の投資キャッシュ・フローは、火力資産のJERAへの統合に伴う調整金3,350億円を補正

この間、全社のFCFが赤字である。どの会社も、債務の返済に充てるべき資金を生み出せていないことになる。FCFの赤字に示される不足資金は金融債務の増加で賄われているが、その返済の目途が立たない状況である。

業界全体として見ると、合計で毎年5千億円以上もの資金が不足している。もちろん、以前からこのような窮状にあったわけではない。電力自由化が本格化する前、東日本大震災の直前までの時期においては、平均して全体で年間約7千億円もの黒字のFCFが生み出されていた。業界として健全な姿だったといえる。その時期と比較して、直近の数字では営業CFが全体で約7千億円減少、反対に投資CFは約5千億円増加した結果、FCFは約1兆2千億円も悪化して、約5千億円もの赤字となっているのである。

広がる資金収支の格差 金融環境変化で再編も

各社別に見ると、個社の状況の違いは大きい。企業規模に比して、北海道、北陸、中国、四国、九州のFCFの不足額は大きいと言える。相対的に、東北、東京、中部、関西は、資金不足ではあるがその程度が小さい。なお、JERAの資金不足が巨額なのは、グローバルな燃料トレーディングなど新規事業の拡張に伴うもので、他の旧一電各社とは意味が異なる。

旧一電各社は各地域でエネルギー政策の実現に重要な役割を果たしており、たとえ資金不足の状況にあっても、それを理由に必要な設備投資を削減し、電力安定供給を停滞させることは社会的に許容されない。これをもって、旧一電が経営破綻に至る可能性は極めて低いと見ることもできる。資金の提供者である国内の銀行や社債投資家もそう考えているからこそ、現在でも旧一電各社はどこも不自由なく不足資金を調達できている。

しかし一方で、各社の資金創出力の不足は、現状のままの事業体制・事業構成では、健全な業界として存続できないほど深刻である。何らかの業界再編が行われることが必要となろう。先述のように、各社の資金創出力には格差が見え始めている。事業環境が厳しさを増していることを考慮すると、今まで通りの事業構成で、かつ単独で今後も存続できる会社と、そうでない会社の格差は、広がることはあっても縮小することはない。需要の伸びが期待できない地域では、投資回収がさらに困難になっていくと考えられるからである。

そして、従来は旧一電各社の信用力に懸念を持たずに資金を提供し続けてきた国内の金融機関や投資家が、今後の金融情勢の変化によって投融資の姿勢を変化させることも考えられる。本稿執筆時点で日本銀行は金融緩和政策を変更していないが、既に他の主要国は金融政策を大きく転換し始めており、それは必ず国内の金融環境にも影響を及ぼす。

調達金利が上がれば、悪化している各社の損益がさらに厳しくなる。資金調達環境の変化が一つのきっかけとなり、旧一電各社の事業別の提携・統合といった再編成、あるいは会社全体の資本提携・経営統合が始まる可能性がある。少なくとも、そのための条件は既に揃ったと見るべきである。

ひろせ・かずさだ 東京大学法学部卒、米デューク大学経営学修士。日本興業銀行、ムーディーズを経て現職。資源エネルギー庁審議会委員、日本信用格付学会常任理事。近著に「アートとしての信用格付け その技法と現実」(金融財政事情研究会)。

「67年間の成功体験と決別」 ニチガスが16年ぶり社長交代


エネルギー大手のニチガスが16年ぶりに経営陣を刷新した。5月2日付で、和田眞治社長が代表権のない会長執行役員に退き、後任には柏谷邦彦・代表取締役専務執行役員コーポレート本部長が就任した。また東京電力出身の吉田恵一・専務執行役員エネルギー事業本部長が代表取締役に昇格。渡辺大乗・代表取締役専務執行役員営業本部長を加えた3人が代表権を持つ体制となった。

和田会長と柏谷社長は5月6日、記者会見を行い、DXを機軸に地域社会のスマートエネルギー供給を担う、新たなビジネス展開に向けた意気込みを表明した。

会見する柏谷社長(左)と和田会長

「ニチガス67年間の成功体験と決別するという意味だ」。和田会長は、今回の社長交代についてこう言い切った。「私が率いた時代の成功体験が新しい挑戦の足かせになる。代表権を返上して、名実ともに新たな代表取締役3人体制に移行することにした」

新社長の柏谷氏は1997年に一橋大学大学院修了後、外資系コンサルなどで経験を積み、2012年にニチガス入社。51歳の若さで社長に上り詰めた。「地域社会に最適なエネルギーソリューションを提案できる企業へと進化し、新たな挑戦を進めていく」。エネルギーDXを先導する同社のかじ取りに業界内外の視線が集まる。

自由と民主主義のコストか ロシア制裁の大きな「副作用」


【論説室の窓】神子田 章博/NHK解説主幹

西側諸国の原油輸入禁止などの措置は、大きな効果はなく、油価高騰で各国の首を絞めている。

しかし、蛮行は許されるべきではない。価格高騰は「西側」の価値観を守るコストと受け止めるべきだろう。

 ロシアのウクライナ侵攻に対する先進各国による経済制裁。第二次世界大戦に戻ったかのような総力戦をロシア軍が継続するには、巨大な戦費を必要とする。その資金源となるエネルギー収入を断って停戦に追い込もうという戦略だったが、かつてない規模の制裁の包囲網を築く取り組みの効果は早くから疑われていた。

ロシアの原油輸出量は世界第二位の規模。世界最大の産油国であるアメリカは、ロシア産の原油の輸入を禁止する経済制裁を発表。カナダやオーストラリアも輸入の禁止を決めたほか、イギリスも輸入を段階的に減らして年末までに停止するとしている。

しかし、ベルギーの民間調査会社の「KPLER」によると、ロシアから輸出されタンカーで各国に到着する1日当たりの原油の量は、侵攻直後の落ち込みから回復し、4月は26日の時点で、去年の平均をおよそ7%上回ったという。 国別にみると、経済制裁に踏み切った欧米各国で大幅に減っている一方で、インドが8・4倍、トルコが2・4倍と大きく増えたほか、中国も13%増加したという(NHKニュースより)。欧米の先進各国による包囲網は、「この際、割安になったロシア産原油を買いましたい」という思惑を持つ需要国によって、いとも簡単に破られたわけだ。

ロシア産原油の購入は批判を受ける(サハリン2)
提供:時事

中国はロシアと連携 制裁は解決にならず

とりわけ注目されるのが、中国の動きだ。中国は、アメリカが中国との対立を民主主義と専制主義の戦いと規定し、日本やオーストラリアなどと中国包囲網を築こうとする中で、権威主義的な政治体制を持ち、以前から欧米との対立を強めていたロシアとの連携を通じてアメリカと対峙する道を選択。ロシアの軍事行動に賛意こそ示さないものの、対ロ経済制裁については「問題の解決につながらない」として反対を表明している。加えて、世界第二の経済大国は大量のエネルギーを必要としており、欧米がロシアから原油を買わなければ、その分を購入することで、自らの需要を満たすとともに、ロシアへの恩を売る形にもなる。中国という買い手が存在することで、果たして制裁は問題の解決につながらない形となっている。

さらに中国と同様、国連総会の「ロシアによるウクライナ侵攻を非難する決議」に棄権票を投じたインドも、ロシアからの原油購入に意欲的だ。原油価格が高騰する中、自国の利益になる取引を求めるのは自然なことだと主張し、制裁を強める欧米と一線を画している。かくしてロシア包囲網はいとも簡単に破られ、制裁の効果を薄れさせている。

その一方で、各国のロシア産原油の禁輸措置は、コロナ禍の景気回復で高騰していた原油価格を一段と押し上げた。原油は、サウジアラビアなどに生産余力があり、増産が実施されれば価格を抑える効果が期待される。今回の危機を受けて、欧米や日本は原油の増産を要請しているが、サウジアラビアは応じようとしなかった。背景には、この国の外交や石油政策を事実上決めているムハンマド皇太子とバイデン政権のギクシャクした関係がある。4年前、ムハンマド皇太子を批判するジャーナリストがトルコで殺害された事件で、人権問題に厳しい目を向けるバイデン政権が激しく批判したことが背景にあるとされる。

またサウジアラビアは近年、同じ産油国であるロシアとの関係を深めてきたといわれる。実際にムハンマド皇太子とプーチン大統領は、3月と4月の2度、電話会談を行い、この中でプーチン大統領は、OPEC(石油輸出国機構)に、非加盟のロシアなど10カ国を加えた「OPECプラス」の合意を守るよう要請したもようだ。

サウジアラビアも油価の下落は望んでいなかったようだ。経済的な利益はときに政治的な道義を超越する。OPECプラスは、増産を小規模にとどめる従来の方針を貫き、原油価格を維持する道を選んでいる。

こうしてみると、ロシアに対するエネルギー制裁は大きな効果を期待できない一方で、原油のさらなる高騰を招き西側の先進各国の首をかえって絞める結果となっているようだ。グローバリゼーションが進む中、経済の規模が小さいとは言えないロシアに対する経済制裁によって、制裁をかける側が返り血を浴びるのは全般的に言えることだが、ことエネルギー分野に関しては、その副作用もひときわ大きい。それでも欧米各国が制裁強化を打ち出すのは、経済的な得失を度外視してでも守らなければならないより大事なことがあるからだろう。

ロシア産原油に「血の匂い」 購入継続を厳しく批判

今年3月、イギリスの石油大手シェルが、ロシア・サハリンの石油・天然ガス開発事業「サハリン2」から撤退すると表明した後もロシア産原油の購入を続けていたことに対し、ウクライナのクレバ外相はツイッターに投稿。軍事侵攻によって大勢のウクライナ人が犠牲になっていることを踏まえ、「ロシアの原油にウクライナの血の匂いを感じないのか」と厳しく批判した。ロシア産の購入を拒むことは、西側諸国が価値観を共有する自由と民主主義を守る姿勢を断固として示すことと同義ともとらえられている。

かつて1938年、イギリスのチェンバレン政権はナチス率いるドイツによるチェコスロバキアの一部占拠を認める宥和政策をとった。相手の行為が不当なものだと分かっていても、当面の衝突を避けるために見過ごしたのだ。それが結局はヒトラーを増長させ、ポーランドへの侵攻を招き、第二次世界大戦につながったといわれる。ロシアを巡っても、2014年のクリミア半島の併合に際し、西側諸国による制裁が不十分だったことが、今回のウクライナ侵攻につながっているという指摘もある。

制裁の効果はどうあれ、ロシアの許されざる蛮行に毅然とした態度で応じる。エネルギー価格の上昇は、自由と民主主義を守るためのコストだと受け止めるべきなのだろうか。

オフィスビル「福岡舞鶴スクエア」が完成 持続可能なコミュニティーを共創する


【九州電力】

九電グループ初の開発型SPCを活用した福岡舞鶴スクエアがオープンした。再エネ由来の電力を全館に導入し、脱炭素社会の実現に貢献する。

福岡舞鶴スクエア。コロナ禍にもかかわらずほぼ満床で稼働した。

 九州最大の繁華街、福岡市天神から地下鉄で一駅の「赤坂駅」から徒歩3分。福岡城の本丸跡がある緑豊かな舞鶴公園の近くに今年4月、「福岡舞鶴スクエア」が完成した。

黒田藩主の別邸があった広い敷地に建ち、1階は商業フロア、2階以上がオフィスフロアの9階建てオフィスビルだ。都心部では希少なワンフロア約1800㎡の広さを誇り、天井高2.9mの快適性を備える。敷地内には4階建ての自走式立体駐車場を併設。130台の収容が可能で、EV充電器も備えている。

下は1830㎡のオフィスフロア。120㎡~で分割のフロアもある

2回線受電を採用 再エネ100%の電力導入

福岡舞鶴スクエアは、九電グループでは初の開発型SPC(特別目的会社)による事業だ。投資家の出資や銀行の融資で、不動産の開発・運営を行う不動産証券化手法で事業に取り組む。SPCへの出資者には九州電力、電気ビル、九州メンテナンス、九電不動産のグループ4社に加え、(一財)民間都市開発推進機構、九州リースサービスなどが名を連ねる。

SPCを取りまとめるアセットマネジメントは、玄海キャピタルマネジメントが担い、自社ビルの運営・管理で実績のある電気ビルがプロパティマネジメントを、九州メンテナンスがビルメンテナンスを行う。

福岡舞鶴スクエアはBCP(事業継続計画)対応として、①異なる変電所から電力供給を受ける“2回線受電”で電力の信頼性を強化。本線を引く変電所からの電力供給が万一滞った際には、別の変電所から供給が可能、②非常時に72時間電力を供給できる非常用電源設備(出力225kVA)を設置。非常用エレベーター2基が対応、③制振ダンパーを採用し、地震発生時の揺れを軽減―といった特長を備える。

また、感染症対策として外気取り入れ窓を設置し、壁材やドアハンドル、トイレ機器などを抗菌仕様にした。さらに共用のエレベーター5基は、エレベーター行先予約システムを導入。ゲートにあらかじめ行先階を登録したカードをかざすと、システムがA~Eの各号機の稼働状況やほかの利用者の予約状況を踏まえ、最適な号機を選別し表示。乗車するとエレベーター内の行先ボタンを押さなくても目的のフロアに到着する。

当初、システムの導入は運用の効率化や混雑緩和が目的だった。現在は、ソーシャルディスタンスの確保や分散乗車につながり、感染症対策の役割も果たしている。

ゲートで乗るべきエレベーターを表示

ビル全館に供給する電力が再生可能エネルギー由来ということも大きな特長だ。九電の法人向け料金プラン「再エネECO極(きわみ)」を利用し、水力・地熱など100%再エネ由来の電力を導入する。CO2排出量はゼロとなり、入居するテナントは「RE100」を実現できる。隣接する駐車場に設置したEV普通充電器18台、急速充電器1台にも再エネ100%電力が導入される。

玄海キャピタルマネジメントの友田順也アソシエイトは、「九電が参画する事業なので、再エネ100%電力という付加価値をつけることができました」と話す。アセットマネジメントの立場では最大限の収益向上がミッションだが、カーボンマイナスの実現を目指し、供給側と需要側の両面から脱炭素に取り組む九電から「再エネECO極」の提案があり、環境価値の高いオフィスビルになった。

電気ビルのビル事業本部の田村直敏副長は「SPCで大型案件に参画し、グループのノウハウも培うことができました」と振り返る。

都市のにぎわいも創出 地域とともに発展していく

福岡舞鶴スクエアの建つ赤坂エリアは法務局や裁判所、法律事務所などが多い一方、住宅地も広がる。天神エリアに近いこともあり、職住近接をかなえる場所としても注目を浴びる。そのため、都市のにぎわい創出も意識して、1階には、ドラッグストアやコンビニエンスストア、内科や歯科といった複数のクリニックなど、ビルの利用者や地域の人々の利便性の高い店舗を配置している。

こうした取り組みや建物の環境性能が高く評価され、(一財)住宅・建築SDGs推進センター(現)の「CASBEE福岡(建築環境総合性能評価システム)」で、Aランクを取得している。

新たな事業やサービスによる市場の創出を通じて、電気事業以外での収益拡大を目指すことを戦略の柱とした「九州電力グループ経営ビジョン2030」。九州電力の都市開発事業本部の成田真也副長は、「都市開発事業はその一環です。地域・社会の持続的発展への貢献や、国内のエネルギー関連事業の収益拡大にもつなげたい」と意気込む。

大規模再開発「天神ビッグバン」が進む天神エリアのそばで、環境と地域に配慮したオフィスビルは、脱炭素社会と地域共生を目指すモデル事業として注目を浴びそうだ。

(左から)田村副長、成田副長、友田アソシエイト