【業界紙の目】村田浩子/日刊自動車新聞社 記者
欧州や中国勢がEVに大きくかじを切る一方、日本勢はハイブリッド車を含む全方位型の姿勢を崩さない。
火力発電への依存度が高い日本では、ライフサイクルアセスメント視点での対応も求められる。
自動車メーカー各社が相次いで電動化戦略を公表している。
トヨタ自動車は昨年末、2030年にEVの世界販売台数を350万台にすると発表した。従来目標の200万台から150万台を積み上げた形だ。レクサスブランドは30年までに年間100万台をEVとし、35年にはEV専用ブランドとする。
30年までの電池関連投資も従来の1兆5000億円から2兆円に積み増すとともに、電動化の総投資額を8兆円と見積もった。
トヨタはこれまで、EVには後ろ向きと言われることが多かった。自社の強みであるハイブリッド車(HV)を電動車戦略の要とし、燃料電池車(FCV)、EVと、全方位でラインアップを固めており、「EV一本足」からは距離を置いていた。
一方、昨年11月に英国グラスゴーで開催された国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)に合わせて環境団体グリーンピースが公表した主要自動車メーカーの脱炭素化の取り組みのランキングではトヨタが最低評価となるなど、世界から厳しい目を向けられていた。
欧州ではメルセデス・ベンツが30年まで、米国ではゼネラル・モーターズ(GM)が35年までにEVなどのゼロエミッション車(ZEV)専業メーカーへの転身を宣言しているのに対し、トヨタはHVの販売終了時期を明かしておらず、それが今回の評価につながったと見られる。
豊田章男社長は、年末の記者会見の場で「これ(新たな目標)で前向きではない会社と言われるなら、どうすれば前向きな会社とご評価いただけるのか、逆に教えていただきたい」と発言し、自社のEV戦略に自信を見せた。
トヨタは2030年350万台のEV販売を目指す
国内30年電動化率9割へ 主軸はEVではなくHV
日系メーカーでいち早くEVシフトを表明したのはホンダだ。40年には新車販売をEVとFCVに絞る。20年には初の量産EV「ホンダe」を投入。得意の軽自動車で培った駆動性能で、小回りの良さを追求した。
乗用EV「リーフ」を他社に先駆けて市場投入した日産自動車は、三菱自動車、ルノーを加えたアライアンスの中で、30年までにEV35車種の投入を目指す。今後5年で電動車開発に230億ユーロ(約3兆円)を投資し、コンパクトカー、軽、低価格車など多様なセグメントでEVをそろえる考えだ。日産単体としては、30年代前半にはグローバルで電動車100%を目標に掲げる。
このほかにも、マツダとダイハツ工業が30年に全ての国内販売を電動車にするほか、スバルはグローバルで30年代前半には全車に電動車技術の搭載を目指している。スズキも30年までに世界で電動車技術の全面展開を見込む。
各社の電動化戦略を踏まえると、現在4割にも満たない国内乗用車市場の電動車比率は、30年には9割近くに達する見通しとなっている。10台に9台が電動車となる計算だ。
一方、EVの販売は1~2割水準にとどまる見通しで「電動化=EV」の構図は30年にはまだ成り立たない様相だ。国内においてはHVが販売の大半を占めている。EVの本格普及には、コストの多くを占める電池の低コスト化と大容量化、さらに小型車や軽自動車への搭載も視野に入れた軽量化が必須となる。航続距離の伸長との両立も求められることになり、一朝一夕では進まないのが実態だ。
欧州などと比べて日本勢のEV化がスローペースなのは、日本独自のエネルギー事情も関係している。火力発電の比率が4割未満で再生可能エネルギーの割合が高い欧州と、火力発電への依存が7割以上で再エネの比率が2割にとどまる日本とでは、再エネを利用するのにかかるコストが大きく異なる。「50年カーボンニュートラル達成」のためには、再エネ比率の拡大が必須となるが、再エネは天候によって発電量が左右されやすく、安定供給の点がネックになっている。初期投資の金額も大きく、そのコストを誰が負担するかも課題になるだろう。
欧州はLCAルール化に着手 日本の事情考慮した戦略を
自動車産業には、ライフサイクルアセスメント(LCA)全体でのCO2の排出削減が求められることになる。LCAとは、製品の生産から輸送、使用、廃棄までを含めた環境評価のこと。EVは走行中こそCO2を排出しないものの、電池やモーターなどを製造する際には大量のCO2を排出する。LCA視点では、EVは「究極のエコカー」とは言い切れないのが現状だ。
このLCAが今後の自動車の環境規制の基準になるとの見方が強い。特に欧州はすでにLCAのルール作りを始めている。再エネ比率が高い欧州が国際基準のルールメイキングの主導権を握れば、日本メーカーにとって不利な内容になる恐れがある。
自動車産業もこのような状況に危機感を強めている。日本自動車工業会(自工会)の豊田会長は「日本らしいカーボンニュートラル実現の道筋がある」とし、欧州に追随するのではなく、日本のエネルギー事情をくんだ政策を打つべきとくぎを刺す。
日本政府が昨秋公開した第六次エネルギー基本計画では、30年の電源構成で再エネの比率を現在の約2倍となる36~38%に引き上げ、石炭火力の比率を従来の26%から19%に引き下げるとしている。しかし、欧州にならって再エネの数字だけを追っていては、実現性は乏しい。
また、この差を10年足らずの期間で縮めるには、イノベーションの創出だけでなく、社会実装も急ぐ必要がある。しかし、多額の費用がかかれば電気料金の上昇に直結し、産業界では製造コストに跳ね返る。これにより価格競争力が弱まれば、輸出で稼いできた自動車を含む日本の製造業の収益構造を揺るがしかねない。
日本のエネルギー事情を踏まえたLCAルールを早急にまとめ、国際市場での議論に加わる必要がある。
〈日刊自動車新聞〉〇1929年創刊〇発行部数:日刊10万2600部〇読者構成:自動車メーカー、部品メーカー、電機メーカー、自動車ディーラーなど