陸上風力の目標引き上げ 「緑の党」大臣が危機感


【ワールドワイド/経営】

ドイツで昨年末発足した3党連立政権では、エネルギー・環境政策で先鋭的な主張を持つ緑の党所属の連邦経済・気候保護大臣の動きが注目される。主義主張の異なる3党の連立協定書には、石炭火力の全廃時期を従来の2038年から「理想的には30年に前倒しにする」などの妥協点が随所に見られるが、共通の重要課題として認識されるのは気候保護政策の強化だ。

 協定書は今年末の原子力全廃目標は堅持する一方で、30年の再エネシェアを80%に引き上げ、太陽光導入目標を100GW(1GW=100万kW)から200GWに倍増、洋上風力についても20‌GWから30‌GWに増やすといった野心的目標を掲げたほか、各省庁の法案を気候問題とすり合わせる『気候チェック』の実施もうたっている。

 では、陸上風力についてはどうか。21年の電力統計暫定値では風量の減少や電力需要の増加により再エネシェアは前年の46%から42%に低下した。特に陸上風力は前年より1割以上少ない920億kW時にとどまった。かたや、エネルギー部門のCO2排出量は前年より1割以上増加したのだ。1月初旬、ハーベック経済・気候保護大臣は温室効果ガス削減ペースが鈍いことに危機感をあらわにし、近年太陽光は年400~500万kW新設されているのに、陸上風力は過去10年で最低の100万kWにとどまっていると指摘、23年1月に再エネ法を改正して30年の陸上風力導入目標を71‌GWから100GWに引き上げると宣言した。

 連邦政府の矛先は地方に向かっている。協定書では国土の2%を陸上風力発電設備用地に指定することも掲げられていたが、現時点では実現可能性は低い。現状この目標に到達可能とされているのは2州のみであり、全国での利用率は0・5%程度にとどまる。ドイツでは風力発電設備と住宅地の最低離隔距離を1㎞とする原則があるが、各州政府は独自により厳しい規制を設けることができる。

 バイエルン州は風力発電設備の高さの最低10倍以上の離隔を規定している。ハーベック大臣は新たな陸上風力法の制定も視野に入れて、現在禁止されている軍用地での建設解禁に加え、州政府・住民との対話によって導入の迅速化を図ると述べ、地方行脚で各州を説得する構えだ。与党社民党幹部からも、「連邦・州・地方自治体が一丸とならなければ再エネ比率は上げられない。州間の競争を促す必要がある」との声が出ている。

 エネルギーを巡る内外情勢が激しく変転する中、ハーベック大臣の手腕が試されている。

(藤原茉里加/海外電力調査会調査第一部)

住宅購入者へ太陽光設備導入を支援 初期費用など相当額をサポート


【中部電力ミライズ】

 近年、環境への配慮や電気料金の節約、災害発生時の対策として新築住宅購入を検討する人から、太陽光設備や蓄電池の設置を望む声が高まっている。しかし設置にかかる初期費用がネックとなり、導入を諦める購入者も少なくない。

こうした要望を受け、中部電力ミライズは一条工務店と連携し、太陽光発電自家消費サービス「カナエルソーラー」を今年1月から開始した。大容量太陽光発電システムと定置型蓄電池の設置にかかる初期費用など相当額を中部電力ミライズがサポートすることで、住宅購入者の設備導入を支援する。

このサービスの特長は、一条工務店での新築購入者に対し、設置する太陽光パネルの容量に応じたサポート資金が、住宅引き渡し前に中部電力ミライズから一括で支払われる点だ。これにより、住宅購入者は2021年度の省エネ大賞を受賞した一条工務店の高気密・高断熱住宅に、初期費用を気にせず太陽光設備・蓄電池を導入することができるようになる。

契約終了後はより負担減 災害による停電にも活用へ

契約期間は15年で北陸エリア、四国エリア、沖縄エリアを除く全国で実施する。北陸・四国エリアでは今年3月から販売が開始される。加入条件は、①申し込み時点で契約者本人か同居者が60歳未満、②自宅に設置する発電設備の出力が10 kW未満―としている。

契約した住宅購入者は、太陽光発電で得た電力の消費量に応じた利用料金を支払い、余剰電力を中部電力ミライズに提供する。中部電力ミライズによると、契約期間中は設備を設置しない場合と比べ、利用料金を含めても同等以下の光熱費水準が期待できるという。契約終了後は利用料が無料になり、売電収入も得られるため、利用負担が一層軽減されることになる。

太陽光設備と蓄電池を活用し、大規模災害発生による停電などにも対応できる。日照時は太陽光の電気を利用・蓄電して、日没後も蓄電した電気を利用可能だ。

中部電力ミライズは、太陽光設備の安全で長期的な利用を目的とした太陽光長期稼働サポートサービスなども含め、太陽光設備・蓄電池の利用支援を推進。脱炭素社会の実現を目指していく方針だ。

太陽光設備・蓄電池の利用支援で脱炭素社会を目指していく

中央アジア「優等生」の混乱 カザフスタンで刷新なるか


【ワールドワイド/資源】

 年明けのカザフスタンでの暴動は、「国父」ナザルバエフ初代大統領から2019年に権力を受け継いだトカエフ現大統領による、旧体制排除の動きとみられるが、まだ不可解な点が多い。

 年始からの燃料価格上限撤廃に伴うLPガス価格急騰に対する抗議活動から急拡大した全国規模の暴動、それを「外部勢力が関与するテロ行為」と断定した大統領、カザフスタンからの支援要請に対するCSTO(集団安全保障条約機構)の躊躇ない迅速な派兵の決定など、今回の一連の動きのメカニズムの解明には想像が尽きないが、最も気になるのは、前大統領中心の旧体制に大なたを振るおうとしている現政権の今後である。

 混乱発生直後、カザフスタン政府は暫定的な燃料価格上限再設定措置を講じるとともに、内閣総辞職、ナザルバエフ前大統領の国家安全保障会議終身議長(前大統領の「院政」ポスト)からの解任、さらに前大統領の側近で首相も務めたマシモフ国家保安委員会(KNB)委員長を解任後に反逆罪の疑いで拘束し、また、KNB副委員長だった前大統領のおいも解任、その後前大統領の3人の娘婿たちが相次いで政府系企業のトップを辞任する事態となった。

 情勢がある程度落ち着いた1月18日、ナザルバエフ氏本人が暴動後初めて映像で声明を出し、トカエフ大統領への権力移譲と自身の完全引退を宣言。その後も国家基金や国営会社幹部の解任などが続いている。

 カザフスタンは、石油、天然ガス、ウラン、クロムといった天然資源に恵まれ、欧米露中、東西両面から投資を呼び込むことに成功し、外交面でもバランスを取りながら経済発展を遂げた旧ソ連の優等生とも言える。その一方で、ソ連末期から30年にわたり最高指導者として君臨したナザルバエフ大統領とその周辺の一握りの人々に富と権力が集中し、贈収賄が横行し、社会の不平等も深刻化していた。LPG価格急騰が、豊かな地下資源を生産しながら自分たちにその見返りがないという市民の不満爆発のきっかけになったのは自然だろう。しかし、単なる権力移行だけで終わらせずに、政財界に根深いナザルバエフ関係者の排除と富の再分配をトカエフ政権がどれほど実現できるのか。

 18年のアルメニア政変、20年のベラルーシ反体制運動、キルギス政変と旧ソ連地域では古い体制からの脱却を志向する市民の運動が表出している。その中で資源国であるカザフスタンはどう着地するのか、今後の展開が注目される。

(四津 啓/石油天然ガス・金属鉱物資源機構調査部)

【マーケット情報/3月11日】欧米原油が反落、増産検討が重荷


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、米国原油の指標となるWTI先物および北海原油を代表するブレント先物が下落。産油国の増産検討により、週後半、価格が反落した。

イラクは西クルナ2油田での定修を短縮し、8日に再稼働させた。本来、3月末までの停止を計画していたが、在庫の逼迫で変更を余儀なくされた。また、同国は、ロシア産原油の供給減見込みを背景に、欧州、中国、インドなどの買い手から増産要請を受けている。

ベネズエラは、米国と協調して増産可能と発表。ロシア産原油の減少分をカバーするとの意向を示した。また、アラブ首長国連邦(UAE)は、OPECプラスに追加増産を呼び掛けると表明。欧米原油の価格に対する下方圧力となった。ただ、UAEはその後、OPECプラスが定めた日量40万バレルの増産枠に準じるとの発言もしており、対応は先行き不透明となっている。

8日時点で、WTI先物は123.7ドル、ブレント先物は127.98ドルとなり、2008年7月下旬~8月初頭以来の最高値となった。米国はロシア産原油の輸入停止を発表。英国も、今年中にロシアからの原油および石油製品の購入を停止する計画で、価格は引き続き、高止まりするとの見方が大勢だ。

中東原油の指標となるドバイ現物は上昇。9日時点で128.2ドルを付け、2008年7月下旬以来の最高を記録した。OPECプラスの2月産油量は日量3,825万バレルとなり、前月からは増加したものの、目標である日量3,914万バレルを下回った。OPECプラスは、ロシア産原油の不足分を補うのは困難であるとしている。また、価格高騰は、供給逼迫ではなく地政学的リスクによるものとしており、追加増産自体に消極的だ。

【3月11日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=109.33ドル(前週比6.35ドル安)、ブレント先物(ICE)=112.67ドル(前週比5.44ドル安)、オマーン先物(DME)=110.56ドル(前週比1.69ドル高)、ドバイ現物(Argus)=109.66ドル(前週比0.40ドル高)

首相経験者が福島の風評拡散 政府対応にダンマリの新聞も


【おやおやマスコミ】井川陽次郎/工房YOIKA代表

 米国を代表する新聞の一つニューヨーク・タイムズ紙は、題字左に「印刷に値する全てのニュース(All the news that’s fit to print)」の標語を掲げる。発案者は同紙を1986年に買収したオックス氏だ。スキャンダルで売る当時のタブロイド紙と一線を画す新聞とのアピールという。

読売2月3日夕刊「NYタイムズ、契約者1000万人」でこの標語を思い出した。「デジタルと紙媒体を合わせた全契約者数が、前年同期より16.2%増えて878万9000人に」なり、買収したスポーツメディア契約者も合算して1000万人を達成したという。伝統の標語は今も効くらしい。

一部新聞には印刷に値しないニュースなのだろう。日経2月3日「原発事故巡り不適切表現、環境相、元首相5人注意」である。

「岸田文雄首相は2日の衆院予算委員会で、小泉純一郎氏ら元首相5人が欧州連合(EU)欧州委員会に送った書簡に東京電力福島第1原発事故を巡る不適切な表現があったとして、注意を求める文書を山口壮環境相が出したと明らかにした」「書簡は1月27日付で、小泉氏のほか細川護熙、菅直人、鳩山由紀夫、村山富市各氏の連名。原発を地球温暖化対策に資する投資先として認定するとした欧州委の方針撤回を求めた。この中に福島で『多くの子どもたちが甲状腺がんに苦しみ』との記載があった」

朝日の同日紙面には、関連する記事が見当たらなかった。東京は、1月29日電子版「日本の元首相5人がEUに書簡、原発『グリーン』に認定反対」で、甲状腺がん関連の記述を省いて書簡を紹介しただけ。やはり続報がない。

さほど影響力があるとは思えない元首相5人の書簡に政府が迅速対応したのは異例だ。「誤った情報」(山口環境相の文書)を世界に広め、福島の子どもを苦しめることは許されないとの姿勢だろう。印刷に値するニュースである。

メディア報道は不十分と考えたのだろう。事故当時、避難対応などに当たった細野豪志氏は自身のユーチューブチャンネルで2月4日、元首相5人の書簡の誤りを具体的に指摘し、批判した。

まず、国連放射線影響科学委員会(UNSCEAR)が出した「全体として甲状腺吸収線量は大幅に低いため、福島県で多数の放射線誘発甲状腺がんが発生すると考える必要はない」との見解を紹介している。自身が環境相だったときに立案した3県調査の結果も解説した。青森、長崎、山梨の各県での甲状腺がん発生数と福島県での数を同世代で比較して差はなかった。影響があれば頻度は異なる。

鳩山氏は馬耳東風。2日のツイッターは「EUが原発を推進すると言うので、無しでやるべしと共同声明を出したところ抗議が来た。福島の子どもたちに多発した甲状腺がんが放射線が原因とは限らないとの批判だ。医者も政治家も統計学を学んだ方が良い」と唱えている。

日経2日「作家・政治家、強烈な個性、タカ派言動で度々物議」は1日死去した石原慎太郎氏の人物像を描く。東日本大震災後の2011年秋の逸話が光る。

「被災地に積み上がるがれきの都内への受け入れについて『都民が反対している』と記者会見で質問」された際、石原氏は「放射能汚染を測ったうえで何でもないから持ってくるんだ。黙れ、と言えばいい」と答えた。ユーチューブの映像では「黙れ」の後、はにかんだような笑みを浮かべる。もう一度この言葉を聞きたかった。

いかわ・ようじろう  デジタルハリウッド大学大学院修了。元読売新聞論説委員。

再エネ普及と有効活用を評価 2021年度新エネ大賞決まる


【新エネルギー財団】

 新エネルギーに関する機器開発、設備導入、普及啓発に貢献した取り組みを表彰する「新エネ大賞」(主催:新エネルギー財団)の受賞企業が、1月に決定。最高位の経済産業大臣賞には、地域共生部門からTJグループホールディングス、導入活動部門から東急不動産、商品・サービス部門からアイテスが選ばれた。

東急不動産は自社保有施設で再エネ電力を活用する

TJグループホールディングスの取り組み「地域から地域へ、木質資源の地産地消」は、山林の未利用材や建物の廃材などを燃料にバイオマス発電し、TJグループが所在する大阪府大東市の公共施設や企業を中心に電力供給するもの。都市部で発生する廃棄物を燃料とするため、地域を選ばず安定的な燃料調達が実現できる点が高く評価された。

東急不動産の「再生可能エネルギーについての一連の取り組みについて」は、太陽光、風力、バイオマスなど全国70発電所(計約125万kW)を展開する同社が、オフィスビルなど自社保有の施設に再エネ由来の電気を供給する取り組み。

不動産業として初めて「RE100」に加盟。使用する電力の再エネ比率100%の目標を205

0年から25年に前倒し達成することを決めており、まずは22年度中に、全オフィスで再エネ100%に切り替える方針だ。保有する発電所を中心とする地域マイクログリッド構築や、地元の子供たちへの環境教育など地域連携を進めた点も、再エネ業界発展に貢献したと評価を受けた。

自主事業化以降で最多 60件の応募から20件が受賞

アイテスの「住宅・低圧太陽光発電設備の点検に『eソラメンテ』」は、‌50‌kW未満の発電設備を対象にした太陽光パネル点検機器だ。国内の太陽光パネルのうち99%、230万件以上を50‌kW未満が占めており、知識やスキルに左右されないメンテナンスツールが今後ますます欠かせなくなる。従来製品の半額以下という低価格でありながら、携帯性が高くシンプルな設計で使いやすいことが魅力。太陽光発電の発展に貢献できるとの期待から、今回の受賞に至った。

21年度は、11年度に新エネ財団が同賞を自主事業化して以降最多の60件の応募があり、20件が受賞した。政府が50年カーボンニュートラル社会実現の目標を掲げる中、最新の技術や知見が一堂に会する「新エネ大賞」にますます注目が集まりそうだ。

粒ぞろいの2021年度省エネ大賞 最高賞に工業団地スマエネ事業など


【省エネルギーセンター】

 国内の企業や自治体、教育機関の優れた省エネ推進事例や製品、ビジネスモデルを表彰する省エネ大賞。昨年12月に2021年度受賞者が発表され、120件以上の応募の中から省エネ事例部門で32件、製品・ビジネスモデル部門では28件が受賞した。

「ENEX2022」で受賞内容を展示

省エネ事例部門で最高位の経済産業大臣賞を受賞したのは、栃木県と東京ガスエンジニアリングソリューションズ(TGES)、県内3社7事業所が連携し宇都宮市の清原工業団地で展開するスマートエネルギー事業だ。電力と熱を複数事業所で連携利用することで、事業所単独で使用するよりも、約20%の省エネ、省CO2を達成している。

TGESのスマエネセンターには高効率の大型ガスコージェネレーションシステム6基、蒸気ボイラー7基と太陽光発電システムが導入されており、災害時に停電が発生した際にも、都市ガスを燃料に自立発電し、各事業所に電気と熱を継続して供給することができる。工業団地による高効率エネルギー利用の先駆けとして、全国への普及拡大が期待できると高い評価につながった。

省エネ事例部門ではこのほか、トヨタ自動車高岡工場の省エネ活動など4件が最高評価を受けた。

利用者のDR参加意欲促進 先駆的な取り組みと評価

製品・ビジネスモデル部門では、ソフトバンク子会社のSBパワーが展開する家庭用デマンド・レスポンス(DR)サービス「エコ電気アプリ」が経産大臣賞を受賞した。電力小売り事業者がアプリを通じて利用者に節電を呼びかけ、利用者は節電成功に応じたポイントを受け取る仕組みで、利用者の参加意欲を促し、節電意識を高めるとともに、電力事業者側を電力のピークカットとコスト削減につなげた。

20年12月からの4カ月間に3万2000世帯が参加し、合計23万kWの節電効果を挙げている。これが先駆的なDRサービスとの高評価につながり、製品・ビジネスモデル部門に新設された「省エネコミュニケーション分野」での受賞を果たした。

製品・ビジネスモデル部門ではこのほか、パナソニックの「給水フリー加湿&新ナノイーX」搭載エアコンなど五つの事例が経産大臣賞を獲得した。

1月26日に東京ビッグサイトで開催予定だった表彰式と受賞事例発表会は、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で中止となった。しかし、1月26~28日に開催された「ENEX2022」の受賞事例の紹介コーナーには、省エネへのヒントを得ようと多くの業界関係者が訪れ、注目度の高さがうかがえた。

原油価格の異常高騰 拙速な脱炭素政策が招へい


【オピニオン】橋爪吉博/石油情報センター事務局長

 原油価格がバレル80ドル台後半まで高騰している。関係者の中には、100ドル突破を予想する向きも出ている。コロナ禍からの順調な経済回復による石油需要の拡大に、産油国側の供給(増産)が間に合っていないことが主な要因である。昨年末からは、オミクロン株の経済的影響は限定的だとの認識の広がり、さらには、ウクライナ情勢の緊迫化やUAEとイエメン「フーシ派」との対立激化など地政学リスクの高まりが、価格上昇に拍車を掛けている。値下がり要因としては、米国の金融引き締め政策(利上げ)ぐらいしか見当たらない。

そうした要因の中で、特に注目されるのは、OPECプラスの慎重な増産姿勢と各国の増産の遅延である。OPECプラスは、2020年の需要減少に対応し、減産を行ってきた。21年以降は増産に転じているが、そのテンポは極めて慎重である。21年8月以降、月初のオンライン閣僚協議で、需給環境を確認しつつ、各月、日量40万バレルの減産緩和(増産)にとどめており、しかも、多くの減産参加国は、座礁資産化を懸念して、増産余力はなく、実際の各月の増産量は20万バレルにも達していない。明らかに、サウジアラビア、ロシアを含めて、産油国の石油政策は、市場シェア重視の増産優先から、需給タイトめの価格維持優先に転換している。例えば、サウジは、昨年1~7月、日量100万バレルの自主減産を行った。サウジは、1980年代前半の単独減産の反省から、86年に生産シェア奪回、スイングプロデューサー放棄を宣言して以来、減産時はOPEC全体で分担した減産しか認めてこなかったが、自主減産は35年ぶりの政策転換である。さらに、従来のOPECであれば、原油価格が回復すると、合意違反の増産が横行するのが通例であったが、今回はそれも見られない。脱炭素化、カーボンニュートラルを見据えた産油国の方針転換が原油価格高騰を招いていると考えざるを得ない。売れる間に、高値で売っておきたいということであろう。

増産余力の欠如については、特に深刻である。サウジやUAEなどは別として、リビアやナイジェリアなど多くの産油国が資金難で増産余力が維持できない状況に陥っている。今後も、途上国の石油需要拡大が予想される中、ESG投資やダイベストメントの考え方に基づいて、石油プロジェクトに対する投資が抑制されることは、供給制約を招き、安定供給を阻害する。米国におけるシェール企業の増産の遅れも、バイデン政権の気候変動政策が影響しているといわれている。原油価格高騰に対して、バイデン大統領は、産油国に増産を要請しているが、世界各国に脱炭素を主導する中で、産油国に増産要請を行うことは噴飯もの、支離滅裂である。原油価格鎮静化には、米国の増産が先だ。

途上国を含めて、本格的な石油需要減少が始まらない限り、原油価格の低下はない。当面、原油価格の高騰は続くと考えるべきであろう。

はしづめ・よしひろ 1982年中央大学法学部卒、石油連盟事務局入局。在サウジアラビア大使館二等書記官、石連流通課長・企画課長・広報室長などを歴任。2019年から現職。

【コラム/3月11日】ロシア侵攻で米国議会の潮目変る 「反グリーンディール」の猛攻開始


杉山 大志/キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

米国内では、バイデン政権の自滅的なエネルギー政策がロシアのウクライナ侵攻を招いたとして、野党共和党の大物議員が激しくバイデン政権の失態を非難している。これには大物の民主党議員も加わっている。

バイデン政権はグリーンディール(日本で言う脱炭素)にばかり熱心で、石油・ガスの採掘を環境規制によって妨げ、石油・ガス企業に圧力をかけて事業や権益を放棄させてきた。結果としてOPEC(石油輸出国機構)とロシアが世界の石油・ガス市場を支配するようになり、石油・ガス価格の高止まりを招いてきた。これはプーチンが付け入る機会になった。

3人の大物議員の批判を紹介しよう。

元大統領候補のテッド・クルーズ上院議員は、バイデンの大失敗は2つあったとする。

一つはアフガニスタンからの無様な撤退であり、これが「アメリカ弱し」との印象を世界に与えたこと。もう一つは、ノルドストリーム2ガスパイプラインにトランプ政権が課していた経済制裁を解除してしまったことだ。これは、ウクライナを通らない形で、ドイツがますます多くのロシアのガスに依存したがっていることを意味した。

プーチンはこれを見て、経済制裁があるとしてもたかが知れていると読み、ウクライナに侵攻した。

もう1人の有力者、元大統領候補のマルコ・ルビオ上院議員も、同じくアフガニスタンとノルドストリーム2がバイデンの二大失敗だとした。その上で、欧米が自らの石油・ガス産業を痛めつけてきたせいで、ロシアへの依存を高めてしまい、ロシアに力を持たせてしまったことを糾弾している。

ルビオは、「最大の対ロシア制裁は、いますぐ愚かなグリーンディールを止めると宣言することだ」と述べている。

ロシアは巨大な産油国・産ガス国であり、経済も財政も石油・ガスの輸出に頼っている。石油・ガスの価格が高いことで、戦争をする経済的余裕が生まれた。グリーンディールを止めることで世界的にエネルギー価格が下がれば、ロシアにとって大きな経済的痛手になるはずだ。

のみならず、いま石油・ガスの価格が高いため、欧米はロシアへの経済制裁に二の足を踏んでいる。欧米が増産していれば、こんなことにはならないはずだった。

(参考:マルコ・ルビオ上院議員インタビュー動画)

石油・ガス増産求める声拡大 超党派で政権を突き上げ

共和党だけではなく、与党の民主党に属しながら造反して、バイデン政権のグリーンインフラ整備を目指した「ビルド・バック・ベター」法案を葬り去ったジョー・マンチン議員は、「ロシアからのあらゆる輸入を止め、国内の石油・ガスを大増産して自由世界に提供すべきだ」としている。

(参考:マンチン: ロシアからの全ての輸入を禁止することで世界に率先し、かつてなかったほどにエネルギーを増産すべきだ、ブライトバート3月1日)

もとより共和党はバイデンを批判しているから、民主党の造反者と共に、米国議会からは、石油・ガス増産を可能にする法案が次々に出てくると予想される。これには、これまで気候危機を煽りグリーンディールにこだわり続けたバイデン政権もかなりの程度従わざるを得ないのではないか。

すでに、議会の攻勢の第1弾があった。ロシア石油の禁輸は、国内のエネルギー価格上昇を招くだけだといって、バイデン政権は当初は反対していた。だが、超党派で突き上げられて、豹変し、結局はまるで自分たちの手柄の様に禁輸措置を発表した

米国のエネルギー政策が大幅に揺り戻されることは間違いなさそうだ。

米国のグリーンディールとドイツのエネルギーベンデは、戦争という最悪の結果をもたらした。日本もこれを機会に無謀な脱炭素政策を止め、安全保障と経済に軸足を置いて、エネルギー政策を根本から造り変えるべきだ。

【プロフィール】1991年東京大学理学部卒。93年同大学院工学研究科物理工学修了後、電力中央研究所入所。電中研上席研究員などを経て、2017年キヤノングローバル戦略研究所入所。19年から現職。慶應義塾大学大学院特任教授も務める。「脱炭素は嘘だらけ」「15歳からの地球温暖化」など著書多数。

内田社長が異例の5年目へ 東ガス「導管分離」遂行で


東京ガスの社長就任から丸4年がたつ内田高史氏が、来年度も続投する公算が強まっている。同社の社長人事を巡っては、上原英治氏が1999年に就任して以来、2003年就任の市野紀生氏が3年間で退任したことを除けば、鳥原光憲氏06年就任、岡本毅氏10年就任、広瀬道明氏14年就任、そして内田氏が18年就任と、4年交代のサイクルを続けてきた。

そんな経緯があるだけに、内田社長を巡っても22年交代説が業界内外でささやかれており、一部報道では後任候補として副社長の沢田聡氏らを挙げていた。ただ同社関係者によると、「社長交代がある場合、1月下旬前後に発表するのが通例。それがないということは、続投の可能性が高い」。異例の展開になった背景には何があるのか。事情通が言う。

「今年4月から大手都市ガス3社を対象にした導管分離、別会社化がスタートする。この歴史的な経営改革を、現経営陣が責任をもって遂行していくというのが、大きな理由ではないか」

脱炭素化、資源高騰など重要課題が山積する中、現経営陣の改革のかじ取りが注目される。

自動車各社が電動化に本腰 EV普及のカギ握る電源構成


【業界紙の目】村田浩子/日刊自動車新聞社 記者

欧州や中国勢がEVに大きくかじを切る一方、日本勢はハイブリッド車を含む全方位型の姿勢を崩さない。

火力発電への依存度が高い日本では、ライフサイクルアセスメント視点での対応も求められる。

 自動車メーカー各社が相次いで電動化戦略を公表している。

トヨタ自動車は昨年末、2030年にEVの世界販売台数を350万台にすると発表した。従来目標の200万台から150万台を積み上げた形だ。レクサスブランドは30年までに年間100万台をEVとし、35年にはEV専用ブランドとする。

30年までの電池関連投資も従来の1兆5000億円から2兆円に積み増すとともに、電動化の総投資額を8兆円と見積もった。

トヨタはこれまで、EVには後ろ向きと言われることが多かった。自社の強みであるハイブリッド車(HV)を電動車戦略の要とし、燃料電池車(FCV)、EVと、全方位でラインアップを固めており、「EV一本足」からは距離を置いていた。

一方、昨年11月に英国グラスゴーで開催された国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)に合わせて環境団体グリーンピースが公表した主要自動車メーカーの脱炭素化の取り組みのランキングではトヨタが最低評価となるなど、世界から厳しい目を向けられていた。

欧州ではメルセデス・ベンツが30年まで、米国ではゼネラル・モーターズ(GM)が35年までにEVなどのゼロエミッション車(ZEV)専業メーカーへの転身を宣言しているのに対し、トヨタはHVの販売終了時期を明かしておらず、それが今回の評価につながったと見られる。

豊田章男社長は、年末の記者会見の場で「これ(新たな目標)で前向きではない会社と言われるなら、どうすれば前向きな会社とご評価いただけるのか、逆に教えていただきたい」と発言し、自社のEV戦略に自信を見せた。

トヨタは2030年350万台のEV販売を目指す

国内30年電動化率9割へ 主軸はEVではなくHV

日系メーカーでいち早くEVシフトを表明したのはホンダだ。40年には新車販売をEVとFCVに絞る。20年には初の量産EV「ホンダe」を投入。得意の軽自動車で培った駆動性能で、小回りの良さを追求した。

乗用EV「リーフ」を他社に先駆けて市場投入した日産自動車は、三菱自動車、ルノーを加えたアライアンスの中で、30年までにEV35車種の投入を目指す。今後5年で電動車開発に230億ユーロ(約3兆円)を投資し、コンパクトカー、軽、低価格車など多様なセグメントでEVをそろえる考えだ。日産単体としては、30年代前半にはグローバルで電動車100%を目標に掲げる。

このほかにも、マツダとダイハツ工業が30年に全ての国内販売を電動車にするほか、スバルはグローバルで30年代前半には全車に電動車技術の搭載を目指している。スズキも30年までに世界で電動車技術の全面展開を見込む。

各社の電動化戦略を踏まえると、現在4割にも満たない国内乗用車市場の電動車比率は、30年には9割近くに達する見通しとなっている。10台に9台が電動車となる計算だ。

一方、EVの販売は1~2割水準にとどまる見通しで「電動化=EV」の構図は30年にはまだ成り立たない様相だ。国内においてはHVが販売の大半を占めている。EVの本格普及には、コストの多くを占める電池の低コスト化と大容量化、さらに小型車や軽自動車への搭載も視野に入れた軽量化が必須となる。航続距離の伸長との両立も求められることになり、一朝一夕では進まないのが実態だ。

欧州などと比べて日本勢のEV化がスローペースなのは、日本独自のエネルギー事情も関係している。火力発電の比率が4割未満で再生可能エネルギーの割合が高い欧州と、火力発電への依存が7割以上で再エネの比率が2割にとどまる日本とでは、再エネを利用するのにかかるコストが大きく異なる。「50年カーボンニュートラル達成」のためには、再エネ比率の拡大が必須となるが、再エネは天候によって発電量が左右されやすく、安定供給の点がネックになっている。初期投資の金額も大きく、そのコストを誰が負担するかも課題になるだろう。

欧州はLCAルール化に着手 日本の事情考慮した戦略を

自動車産業には、ライフサイクルアセスメント(LCA)全体でのCO2の排出削減が求められることになる。LCAとは、製品の生産から輸送、使用、廃棄までを含めた環境評価のこと。EVは走行中こそCO2を排出しないものの、電池やモーターなどを製造する際には大量のCO2を排出する。LCA視点では、EVは「究極のエコカー」とは言い切れないのが現状だ。

このLCAが今後の自動車の環境規制の基準になるとの見方が強い。特に欧州はすでにLCAのルール作りを始めている。再エネ比率が高い欧州が国際基準のルールメイキングの主導権を握れば、日本メーカーにとって不利な内容になる恐れがある。

自動車産業もこのような状況に危機感を強めている。日本自動車工業会(自工会)の豊田会長は「日本らしいカーボンニュートラル実現の道筋がある」とし、欧州に追随するのではなく、日本のエネルギー事情をくんだ政策を打つべきとくぎを刺す。

日本政府が昨秋公開した第六次エネルギー基本計画では、30年の電源構成で再エネの比率を現在の約2倍となる36~38%に引き上げ、石炭火力の比率を従来の26%から19%に引き下げるとしている。しかし、欧州にならって再エネの数字だけを追っていては、実現性は乏しい。

また、この差を10年足らずの期間で縮めるには、イノベーションの創出だけでなく、社会実装も急ぐ必要がある。しかし、多額の費用がかかれば電気料金の上昇に直結し、産業界では製造コストに跳ね返る。これにより価格競争力が弱まれば、輸出で稼いできた自動車を含む日本の製造業の収益構造を揺るがしかねない。

日本のエネルギー事情を踏まえたLCAルールを早急にまとめ、国際市場での議論に加わる必要がある。

〈日刊自動車新聞〉〇1929年創刊〇発行部数:日刊10万2600部〇読者構成:自動車メーカー、部品メーカー、電機メーカー、自動車ディーラーなど

経産省主導のGXリーグ 排出量取引の前哨戦に


CP(カーボンプライシング)の新施策として経済産業省が始める、企業間で自主的に排出量を取引する「GX(グリーントランスフォーメーション)リーグ」の基本構想が明らかになった。2023年春からの本格稼働を前に、経産省が賛同企業の募集を開始。今春以降、賛同者を交え制度設計を進め、秋から実証を始める。既に電源開発などが賛同を表明し、エネルギー企業の関心も高い。

経産省は、将来的には政府による義務的な排出量取引があり得るとの考えで、GXリーグはその前哨戦となる。「CN(カーボンニュートラル)の先行企業の取り組みは、遅れた企業よりも炭素価格が高くなる。その格差を調整することが必要になる」(同省幹部)

参画企業はCNと整合する30年の温暖化ガス削減目標を資本市場に開示し、毎年の進ちょく公表が求められる。国が掲げる30年46%減より高い水準の目標に設定して超過達成した場合は、国がカーボンクレジット化する仕組みだ。未達の場合は、今後創設される取引市場からクレジットを調達できるようにする。クレジット購入は義務化しないが、金融市場などのプレッシャーで取引を活性化させたい考えだ。

水素を可視化する計測技術を開発 火炎も捉え安全な設備運用に貢献


【四国総合研究所】

水素活用に向けインフラや設備の導入が進む中、無臭で着火しやすい性質は取り扱いの課題が多い。

四国総研はガスの計測原理に着目し、独自開発した技術で安全な水素社会の実現をサポートする。

 近年、水素は有望なクリーンエネルギーの一つとして世界的に注目を浴びている。水素はカーボンニュートラルを達成する上で、燃焼時にCO2を排出しないといった特徴が優位な点とされ、生成する方法も多岐にわたる。

水素の特徴を安全運用の観点で見てみると、二つの課題が浮かび上がる。 

一つ目は、水素分子は小さいため、漏えいしやすいガスということだ。水素を取り扱う施設では、天井などに漏えいを検知する警報器を取り付けるなど、万一のガス漏れに備えている。その一方で、仮に警報器が発報しても、警報器がカバーする空間のどこかから水素ガスが漏えいしていることは認知できるものの、無臭でもあるため具体的な漏えい箇所を特定し、広がりを確認することは難しい。漏えい箇所の特定には探査作業が必要になることに加え、作業に長時間を要するなど、安全確保の面での課題が出てくる。

二つ目は、水素の炎は燃焼しても肉眼では見えないという点だ。通常、炎といえば橙色や青色をイメージするが、水素の炎は無色透明だ。そのため水素関連施設では、一般的な火災警報器とは異なる水素専用の火炎検知警報器を設置し、水素火炎の発生を監視している。だが水素漏えいの場合と同様、水素火炎発生の警報器が発報しても炎が目に見えないため、発生箇所が特定できないという問題が起こる。水素に起因する火災が発生した際、その現場において水素火炎が見えないということは、火元の特定や鎮火の確認が難しくなることは想像にたやすい。

四国総研は、これらの課題を解決し、水素エネルギーの安全な利用に資する、光を利用した独自の可視化技術を開発した。

水素ガスを可視化する技術 迅速で安全に漏えいを検知

マルチガスライダーでガスを可視化

ガス分子に光を照射すると、光の散乱が生じる。散乱した光のほとんどは照射された光と同じ色(波長)で発生するが、ごくわずかに異なる色に変化して散乱する光が発生する。これはガス分子と光との間でエネルギーの交換が起こり、その結果として現れる現象で、「ラマン効果」と呼ばれている。ラマン効果によって生じる、異なる色の光は「ラマン散乱光」と呼ばれ、ラマン散乱光の色は分子ごとに固有のものになるため、この現象を利用する。これにより、水素ガスを大気成分などのほかのガスと分離識別することが可能となるのだ。

また、光計測技術の一つとして、「ライダー」と呼ばれる技術がある。これは空間中にパルス状のレーザー光を照射し、対象物から返ってくる光の応答を捉えることで、対象物までの距離と分子種や濃度といった対象物の情報を同時に得ることができる。

四国総研はこのライダー技術とラマン効果を融合し、ライダーの応答としてラマン散乱光を捉える、水素専用のリモートセンシングシステムを開発した。電子アグリ技術部レーザグループの朝日一平副主席研究員は成功までの日々をこう振り返る。「ラマン散乱光は非常に微弱なため、高感度に捉えることに工夫や知恵を絞りました」 この機能を搭載した「マルチガスライダー」は、観測したい空間にレーザー光を照射。レーザービーム上に存在する水素の位置と濃度を同時に遠隔計測することができる。光を用いているため、レーザー照射からラマン散乱を捉えるまでの過程は光速で進行し、応答は速い。また、レーザービームを上下左右の空間に照射して、二次元、三次元空間の水素の存在や分布を計測し、可視化。安全かつ迅速に水素ガスの漏えい検知や漏えい箇所の特定が可能となる。

マルチガスライダーは、水素に限らずさまざまなガス種に適用できる。

火炎の可視化も実現 水素の普及につなげたい

水素火炎は人の目に見えない。これは水素が燃焼しても、人の目が感じることができる色(波長)の領域に光を発していないためだ。しかし、水素火炎は紫外線や赤外線の領域の光は発している。

四国総研は、水素火炎のこれらの目に見えない発光を特殊なカメラで捉え、画像処理を施してモニター上に水素火炎を可視化する装置を開発した。

携帯型水素火炎可視化装置

水素火災の発生時、現場から10m以上離れた安全な場所に、片手で持てる小型で軽量な「携帯型水素火炎可視化装置」を配置する。撮影する空間に水素火炎が存在した場合、水素火炎から生じる近赤外領域の光を選択的に捉える。同時に取得した背景画像との差分を取り、二値化処理を加えて水素火炎領域を顕在化。取得した水素火炎画像のみを再び背景画像と重ね合わせて表示する。これにより、モニター上に動画として水素火炎を可視化することができるのだ。

目で見た水素火炎(上)と可視化装置を通して見た水素火炎(下)

瞬時にその場所と火炎の規模を認識できれば、迅速で安全、合理的な消火活動につながる。

朝日副主席研究員は、「これらの装置が水素エネルギーに対する社会的受容の向上や、普及促進につながることを目指している」と水素社会実現への展望を語った。

安全な水素利用に役立てたいと話す朝日さん

「原発ゼロ」方針変わるか 経団連幹部が公明に要請


カーボンニュートラル社会の実現、電力安定供給リスクの回避、エネルギー価格上昇の抑制という三つの社会要請から、世界的に存在価値が再評価されつつある原子力発電。フランスのマクロン大統領が2月中旬、原発14基の新増設計画を発表したことが、再生可能エネルギー至上主義からの潮目の変化を象徴する。

2011年3月の福島原発事故を経験したわが国も例外ではない。自民党が原子力政策の「復権」に向けて本格的に動き出す中、経団連の十倉雅和会長は2月2日、公明党の山口那津男代表ら幹部と会談し、「再エネが最優先であっても、原子力政策を前に進めることが不可欠だ」と訴えた。原発の増設やリプレースのほか、小型モジュール炉や核融合といった技術開発の必要性も強調したという。

公明党は「原発ゼロ社会の実現」を政策方針に掲げており、政府・与党として原発政策に取り組む際の足並みの乱れが大きな課題となっている。山口代表は、十倉会長らに対し「党内でしっかり議論していきたい」と明言。今夏の参院選に向け、党の方針がどうなるか。要注目だ。

【コラム/3月8日】エネルギー資源価格上昇の経済運営を考える~基本は縮小均衡調整、エネ対策で原子力発電利用拡大が必須


飯倉 穣/エコノミスト

1,新型コロナ感染防止対策の進展(ワクチン接種、治療方法改善等)を背景に、行動制限緩和があり、欧米で景気回復が見られる。回復に伴う需要贈、気候変動対策の影響(投資減)等で、21年下期以降エネルギー資源価格が上昇している。且つロシアのウクライナ侵略の影響も憂慮される。報道は、内外の懸念を伝える。

「米インフレ止まらぬ勢い 消費者物価1月7.5%上昇 高い賃金・原油 見通し押し上げ」 日経22年2月11日、「原油高・見えぬ賃上げ 焦る首相 コロナ禍かじ取り難しく」(朝日同)、「原油100ドルインフレ拍車」(日経2月25日)

米国の消費者物価上昇は、供給サイドの制約に加え、サプライチェーン等の人手不足を契機とする賃上げも目立つ。エネルギー価格上昇、供給制約、デマンドプルの下で、物価見合い賃上げとなれば、インフレ以上にスタグフレーションの足音が忍び寄って来る。

日本の道筋は、視界不良である。資源エネルギー価格上昇、輸入物価、企業物価、消費者物価の動向から、今後の経済運営を考える。

2, 昨年(21年)の輸入額(24%増、財務省貿易統計)は、鉱物性燃料(1.5倍)、原料品(1.5倍)の他、化学製品、原料別製品、電気機器等押し並べて輸入増であった。為替安も一因だが、それ以上に単価の上昇がある。とりわけエネルギー価格は5割以上の値上げである。本年1月も1.8倍の価格上昇(昨年同月比)で輸入額も1.8倍である。

故に輸入物価(指数)は、昨年23%上昇(前年比)している。本年1月は、前年同月比38%アップである。石油・石炭・天然ガス輸入物価上昇が顕著である。

国内企業物価(指数)は、昨年約5%上昇(前年比)で、本年1月は、約9%上昇(前年同月比)である。石油・石炭製品(前年比28%)、木材・木製品(同29%)、鉄鋼(同13%)、非鉄金属(同29%)、化学製品(同9%)等の上昇が顕著である。1月も、石油・石炭製品等の上昇が大きい。

消費者物価(指数)は、昨年通信費下げの特殊事情で△0.2%減である。昨年末から電気・都市ガス等エネルギー料金上昇で1月は約20%上げ(前年同月比)、本年1月の総合指数は0.3%上昇となった。このようなエネ・資源価格高騰による物価上昇を背景に賃金の引き上げが話題になっている。又ガソリン価格高騰で、需要家への支援も昨年後半から始まっている。どう対処すべきか。

3,我が国は、第一次オイルショック時にエネルギー資源価格の上昇に直面した。その経験をまず想起したい。第一オイルショック当時、石油の価格上昇に伴う輸入物価の上昇に加えて、千載一遇のチャンスとばかりドサクサ紛れの価格上乗せで、消費者物価(1974年23.2%増)を異常に押し上げた。そして賃金の高騰(ベア73年20.1%、74年32.9%)を招いた。その当時下村治博士は、原油価格の上昇で輸入物価の高騰はあるものの、消費者物価20%強の上昇は、ほとんどが便乗値上げである(上乗せを除けば本来6%程度)。便乗による物価高騰は、時間がたてば需要縮小で元に戻る。故に賃上げ時期を先延ばし、コストプッシュインフレを回避すべきと指摘した。政府は、この考えに沿って賃上げ交渉時期を繰り延べた。75年消費者物価上昇は平均で11.7%に低下、賃上げも13.1%にとどまった。これが功を奏し、他の欧米諸国が陥ったスタグフレーション突入を回避できた。

4,当時、経済の動きは、原油供給量(輸入量)に合わせた生産水準と原油価格上昇対応に伴う需要縮小等で縮小均衡となり、経済成長率は戦後初のマイナス成長となった。つまり輸入量の制約や輸入物価の上昇、とりわけエネルギー資源価格の上昇は、我国に需給調整能力がないため、甘受せざるを得ない。それが国内物価を上昇させるならば、経済は、縮小均衡調整を余儀なくされる。

今回も同様の対応が賢明であろう。輸入物価・企業物価上昇に伴う消費者物価上昇に合わせた賃金インデクセーションをせず、賃金は、生産性上昇に合わせることが基本である。

また政府施策でガソリン価格高騰対策として元売り事業者に補助金を交付し販売価格を抑制している。野党の石油税のトリガー条項発動要求対応で追加支援策も登場している。ばらまき合戦である。石油需給・価格は、国際市場の視点で考える必要があること、日本は無資源で国際環境適応宿命国であり、価格高騰は需要縮小等で対応せざるを得ないことを踏まえれば、全く不要な政策である。適正な価格転嫁の有無を監視するだけで十分である。

5, 国際的なエネルギー価格の上昇・下落は、需給状況に加え、国際的なカルテル(生産調整)、投資制約、資源国の政治情勢等を背景としている。それに金融投機や地政学リスクが加味されると極端な騰貴を生起する。我国の国際エネルギー市場への関与は、限定的である以上に無力近い。国際エネルギー価格上昇には、当面輸入価格の受容、円滑な価格転嫁、価格上昇に伴う需給調整で対応せざるを得ない。

ここで重要なことは、国内の生産水準維持に必要な量を購入できるという購買力(支払い能力)である。故に経済運営上国際収支とりわけ貿易収支の問題が重要である。貿易赤字に陥らない工夫(一定の黒字確保)がいつも必要である。

その対策として、第一オイルショック後は、短期的には省エネ、生産水準の引き下げ(縮小均衡調整)、中長期的には代替エネルギーの開発,産業構造の転換が解であった。価格効果を前提とする企業行動とその誘導政策である。現在は、化石エネルギー利用の制約問題もあり、原子力発電利用が、益々日本経済運営の鍵となる。その議論が消えていることに問題がある。政治主導思考の限界である。

【プロフィール】経済地域研究所代表。東北大卒。日本開発銀行を経て、日本開発銀行設備投資研究所長、新都市熱供給兼新宿熱供給代表取締役社長、教育環境研究所代表取締役社長などを歴任。