【原子力】中国の原子力開発 世界一を射程に


【業界スクランブル/原子力】

 中国の原子力開発の勢いが止まらない。福島第一原発事故以降の一時期、新規建設が停滞したが、近年は開発の速度を上げた。昨年1年間で3基の原発が運転を開始し、6基が着工。今年に入って福清6号機と紅沿河6号機が運転を開始し、田湾8号機と三門3号機が着工した。

これにより中国の運転中の原発は53基、5554万kW、建設中は1868万kWとなり、数年以内にはフランスを抜いて世界第2位の原発大国となる見込みだ。また、同国の原子力発電中長期計画では、2030年までに原発の設備容量を1億2000万~1億5000万kWまで増やす計画で、その時点では米国を抜いて世界一の原発大国となる可能性がある。

しかし、その中国での炉型選択は、いまだに迷走中だ。紅沿河6号機は広核集団が開発したACPR1000を、三門3号機は米ウエスチング社製のAP1000を採用。田湾8号機はロシア型VVER、福清6号機は華流1号の設計で建設される。

中国内で多様な炉型が選択される背景には、多様化というより核工業集団、広核集団、国家電力投資集団という3大事業者間の独自性と確執とがある。また、日本の原子力委員会に相当する中国国家原子能機構が、3大事業者間の調整機能を果たし得ていないという事情もある。

これらの中では華流1号だけが、中国が全面的に知的財産権を持つ炉型だ。このためパキスタンなどへの海外輸出時の炉型は、これに収斂しつつある。ただし、華流1号にしても圧力容器やメインポンプ、蒸気発生器などの基幹設備と部品は一定の割合で、今も欧米の原発先進国に依存している。このため原発大国を目指す中国は、その基幹設備の国産化率上昇に躍起になっている。(S)

【検証 原発訴訟】福島事故で国の責任認めず 最高裁判所の初判断のポイントは


【Vol.5 1F最判①】前田后穂/TMI総合法律事務所弁護士

6月17日、福島第一原発(1F)事故での国の責任を認めないという最高裁判所の初判断が示された。

当初は前号に続きもんじゅ最高裁判決を扱う予定だったが変更し、今回の1F最高裁判決を解説する。

福島第一原子力発電所の事故により、避難を余儀なくされた避難者らの集団訴訟は全国で約30件、原告は計1万2000人を超える。福島原発事故への国の責任について最高裁判所が初めて判断を示した本判決は、国と東京電力を相手に損害賠償を請求した4件(福島、群馬、千葉、愛媛、原告計3700人)の訴訟の上告審である。最高裁は今年3月に損害額(計約14億円)を先行して確定しており、東電については原子力損害賠償法により無過失責任が課されている一方、国に対する請求は国家賠償法に基づく不法行為責任が問題となっていた。

主要論点は、「予見可能性」と「結果回避可能性」の二点。具体的には、①国は2002年に地震調査研究推進本部(地震本部)が公表した「地震活動の長期評価」に基づき津波を試算すべきであり、試算さえすれば福島第一原発の原子炉建屋などが設置されている敷地(海抜10m)を超える最大15・7mの津波(以下、試算津波)を予見できたはずである、②国は規制権限を行使し、東電に試算津波対策を講じさせれば、本件事故は防げたとして、国には規制権限を行使しなかった違法がある―として損害賠償を請求した。

これに対し国は、「試算津波の根拠となった『地震活動の長期評価』は規制に取り入れられるような『予見可能性』の前提となる精度を伴うものではない。仮に試算津波に対する対策を講じたとしても、東日本大震災の津波とは規模が全く異なり、本件事故は防げなかったため『結果回避可能性』はなく、規制権限を行使しなかった不作為に違法はない」と主張した。

従来の判例上、裁判所が「国の規制権限の不行使」を違法認定する場合は、規制権限を定めた法令の趣旨、目的や、その権限の性質などに照らし、具体的事情の下において、その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠く、と認められる必要がある。著しく合理性を欠くか否かは、予見可能性や結果回避可能性などの諸事情を総合的に考慮し判断されている。もっとも、司法が行政の不作為の違法を導く法的「作為義務」を認定するためには、予見可能性と結果回避可能性を含む全ての要件を肯定しなければならないのに対し、「作為義務」を認めない場合は、一要件の否定で足りるのが論理的帰結となる。

福島第一原発事故を巡る訴訟の概要

事故前の津波への安全性評価 想定超える津波への規制なく

今回の最高裁は、試算津波の予見が可能であったかなどのほかの争点は判断しないまま、仮に、国が東電に対し、試算津波に対する対策を講じさせていたとしても、結果回避可能性はない、として国の責任を否定した。この判決では、法解釈の論理的帰結として「国の責任を認めない」とした多数意見に加え、多数意見の補足意見が2、反対意見が1付されている。「司法の謙抑性」から踏み込んで社会に向けて情報発信されたこれらの意見についても検討したい。

事故前、原子力規制機関による津波という自然事象に対する安全性の評価としては、「その供用期間中に極めてまれではあるが発生する可能性があると想定することが適切な津波によっても、原子炉施設の安全機能が重大な影響を受けるおそれがないことを十分考慮した上で設計されなければならない」とし、保守的に計算された一定の規模の津波を想定津波とし、想定津波によって原子力施設が安全かどうかを判断した。具体的には、想定津波よりも敷地高が高いか、敷地高を上回る津波が到来する箇所に防潮堤などが設置され、敷地に津波が浸入しない設計となっていれば、安全上問題はないとされていた。

具体的な評価手続としては、原子力規制機関により、基本設計(想定津波が敷地へ浸水しない設計か)について設置許可を行い(前段規制)、その後、詳細設計(防潮堤を設置する場合には防潮堤の具体的設計)について工事計画認可(後段規制)を行うという厳格な審査を経た後でなければ、原子炉施設を稼働することはできない。それだけでなく、稼働後も定期的に原子炉施設を停止し、原子力規制機関による定期検査が義務付けられていた。

その上で原子力規制機関は、自然事象である以上、想定津波よりも巨大津波が到来することは否定しきれないものの、(例えば数千年周期というように)可能性は極めて低いものとして、設計に取り入れた想定津波より大規模な津波への個別対策は、事業者の自主的な対策であり、法令に基づく規制権限はないものとしていた。

多数意見と反対意見 結果回避措置の認定異なる

多数意見では、「地震活動の長期評価」を根拠として、仮に技術基準適合命令を行使して、津波による事故を防ぐための適切な措置を東電に義務付けた場合には、試算津波と同じ規模の津波による浸水を防護できるように設計された防潮堤を設置する措置が講じられた蓋然性が高い、と判断した。当該防潮堤は、南東側にのみ設置されるが、東日本大震災の津波は、南東側のみならず東側からも大量の海水が本件敷地に浸入しているため、結果は回避できなかったと判断した。

これに対し反対意見は、技術基準適合命令が発せられれば、東電としては、試算津波の遡上が確認されていない東側全面にも防潮堤を設置したはずである、と指摘。加えて、防潮堤の設置は長期間かかるものであり、その間の原子力施設の安全性を確保するため、東電としては、非常用電源設備の水密化も講じたはずであるとした。そうであれば、東日本大震災の津波によっても事故は回避できたと判断した。

このように、多数意見と反対意見が認定した結果回避措置は大きく異なる。反対意見は、事故前の規制で是認されていた津波対策を大きく超える対策を求めている。これは、国策として原子力施策を推進している国にも責任を負わせるべきという考えが背後にあると推察するが、国家賠償請求訴訟において、このような判断は妥当か。

次回、行政機関の規制権限の不行使の事案における司法判断の在り方について補足意見、反対意見も踏まえて検討する。

・【検証 原発訴訟 Vol.1】 https://energy-forum.co.jp/online-content/8503/

・【検証 原発訴訟 Vol.2】 https://energy-forum.co.jp/online-content/8818/

【検証 原発訴訟 Vol.3】 https://energy-forum.co.jp/online-content/8992/

・【検証 原発訴訟 Vol.4】https://energy-forum.co.jp/online-content/9410/

まえだ・みほ 2008年東京弁護士会登録。フロンティア・マネジメントなどを経て、17年1月から原子力委員会原子力規制庁に勤務。21年7月から現職。

【石油】原油価格変動が翻弄 ウクライナの運命


【業界スクランブル/石油】

 ウクライナ紛争は長期化の様相を呈している。今後、ロシアの継戦能力は、石油・天然ガスの価格水準次第ということになろう。ロシア経済は資源に依存しているため、その国力は資源価格次第である。

歴史を振り返ると、ロシアは原油価格が低迷すると、国内に混乱が起こりがちだ。東西冷戦の終結とソビエト連邦崩壊は1980年後半の価格暴落時だったし、98年のデフォルト騒動、エリティン辞任・プーチン登場は、アジア経済危機に伴う価格低迷期だった。

他方、価格高騰期には、海外介入・侵略に走りがちである。2008年のジョージア介入、14年のクリミア侵攻も高騰期だった。

今回注目するのは、旧ソ連時代、1981年のアフガン介入・戦争長期化、88年の敗戦・撤退の前例である。アフガン戦争はイラン革命直後の油価高騰期に始まり、暴落期に終わった。しかも、アフガンでの敗戦はその後のソ連崩壊に直結した。

したがって欧米主要国は、ロシアの戦費調達を困難にすべく、ロシア産石油禁輸や上限価格設定など、あの手この手を繰り出しているが、うまくいかない。サウジアラビア、UAEへの増産要請も有効ではない。原油価格を低下させるためには、米国がシェールオイルを増産するのが一番早い。

しかし、民主党のバイデン政権にはそれができない。米国を含めた産油国の増産余力の欠如も、増産設備への投融資の消極姿勢がその原因である。欧州のロシア産天然ガス依存に加えて、その点でも、結果的に欧米先進国の脱炭素政策はウクライナ国民を苦しめている。ソ連崩壊で悲願の独立を果たしたウクライナ。資源大国の隣国であるだけで、原油価格の変動に翻弄されている。(H)

【ガス】エネ資源を国家管理下に プーチン氏の戦略


【業界スクランブル/ガス】

今世界中を騒がせているプーチン大統領。彼は25年前にサンクトペテルブルグ鉱山大学で経済科学の博士号を取得している。1997年、45歳前後で大統領府監督局長を務めていたころに論文は執筆・提出され、99年には「ロシア経済の発展戦略における鉱物資源」というタイトルで出版されている。

実は、この論文は米国人経済学者の著書を盗用したものとロシア人研究者が結論づけている。超多忙だったプーチン氏が論文を書く暇などなかったことは想像に難くない。よくある話と片付けるのは簡単だが、問題はこの論文の内容である。

北海道大学名誉教授の木村汎氏は著書『プーチンのエネルギー戦略』の中で、この論文の趣旨は「ロシアが豊富なエネルギー資源の力を国家利用するために、資源を国家管理下におくことはロシアの地政学的利益の促進や内外政策の遂行に役立つ」としている。

プーチン氏はこの考え方に基づき、まずガスプロムの再国営化、石油大手ユコスの解体・再国有化など、民間エネルギー企業の国有化を推進。また、政治・外交目標を達成する道具としてエネルギー資源を位置付けている。これは、現在のウクライナ侵攻でのドイツなどの状況を見れば明白であろう。加えて、外国資本の締め出しを狙っている。もちろん、サハリン2も例外ではない。

6月30日にプーチン氏は、サハリン2の運営会社「サハリンエナジー社(英国籍)」の外国企業資産を、今後新設するロシア企業に無償で引き渡すことを命じる大統領令に署名した。これはウクライナ侵攻で対ロ制裁を鮮明にしている日本などへの報復措置との見方が一般的だ。しかし、プーチン氏にとっては長年の資源政策の一環にすぎないのかもしれない。(G)

IoTデバイスで電力需要を制御 自然と共生する社会を後押し


【エネルギービジネスのリーダー達】塩出晴海/Nature創業者

創業以来、IoTで家電製品を制御するスマートリモコンの普及拡大に取り組んできた。

目指すのは、再エネ中心の持続可能なエネルギーシステムであり、人間が自然と共生する社会だ。

しおで・はるうみ
2008年スウェーデン王立工科大学でComputer Scienceの修士課程を修了。三井物産に入社し、途上国での電力事業投資・開発などを担当。16年にハーバード・ビジネス・スクールでMBAを取得、在学中にNatureを創業する。

2014年創業のNature。主力事業として開発・製造・販売を手掛ける家庭用のスマートリモコン「Nature Remo」は、赤外線式のリモコンを使用する家電をIoT化し、スマートフォンを通じて外出先からスイッチを入れたり、自動で節電したりといった機能を持つ。電力不足が懸念される中、需給安定化に資するデマンドレスポンス(DR)の自動化ツールとしても期待が高まっている。

電力の需給調整を視野 デバイス普及に注力

創業者の塩出晴海氏は、三井物産を退社し米ハーバード・ビジネス・スクールに在学中、ボストンで起業しスマートリモコンの開発に着手した。赤外線の送受信部や人感センサーを内蔵した上で、理想のデザインを実現することは困難を極め、ようやく製品を世に出すことができたのは予定よりも1年遅れの17年のことだった。

「白い素材は赤外線が透過しにくく、それまで全体が白い筐体は存在していなかった。製品の外観に強くこだわったばかりに、意図せずして世界で誰も成し遂げていなかったことにチャレンジすることになった」と苦労を振り返る。

そのかいあり、スマートリモコンの草分けとなったNature Remoの販売は好調な滑り出しを見せた。デザイン性のみならず、グーグルやアマゾンのスマートスピーカーと連携し音声操作が可能なことも評判を呼び、最初の2年間で10万台を販売。その後も順調に伸び続け、この夏には、50万台突破も視野に入る。

だが当初から、塩出氏の狙いは単にスマートリモコンを普及拡大させることではなかった。太陽光を中心に自然変動の再生可能エネルギーの導入量が拡大すれば、デマンドをコントロールする仕組みが必ず必要になる。スマートリモコンは、あくまでもそのためのツールなのだ。

新型コロナウイルス禍とウクライナ危機という想定外の出来事が背景にあるとはいえ、昨今の電力の需給ひっ迫と価格高騰をきっかけに、塩出氏の読み通り、需要側の機器制御は需給安定化に欠かせない取り組みになりつつある。

需給ひっ迫時にどう家庭の需要を効率的に抑制するかは大きな課題だが、機器制御を組み合わせたDRを大規模に展開していることは他社にはない同社の大きな強み。これは、創業から6年をかけて地道にIoTデバイスを普及させてきたからこそできることだ。

この夏は、関西電力の「夏の節電プロジェクト2022」にDR支援サービスを提供している。前日に通知する時間帯に節電を実施すると、節電量に応じてポイントを付与する仕組み。今後も、小売り事業者と連携し制御対象となる需要規模の拡大を目指していく。

一方で価格高騰は、昨年3月に参入したばかりの電力小売り事業からの撤退という苦い経験ももたらした。「今後数年間は、赤字が確定してしまうようなビジネスをスタートアップとして継続することはできない」という厳しい判断を余儀なくされたのだ。

商社で日本のユビキタスコンピューティング領域の技術を海外で事業化したいと三井物産に入社した塩出氏が、電力ビジネスに関心を持つようになったきっかけは、配属を希望していたユビキタス事業部が入社直後に廃止され、自らが取り組みたいことと社会のニーズに乖離を感じたことだ。

「父がITエンジニアだったこともあり、おのずとユビキタス(IoT)の分野が関心事になっていた。しかし、そこで立ち止まって考えた結果、自分にとってのキーワードは『自然』だと思い至った。ヨットは風を受けて帆を張り進む。同じように、人間もDNAレベルで自然の中にありたいもの。ビジネスパーソンとして最も脂が乗るころ(08年年当時に10年後をイメージ)に、自然というキーワード時代のニーズとマッチできるビジネスが、『クリーンテック』『クリーンエナジー』だった」

その後、電力事業に携わる事業部に配属され、インドネシアの石炭火力事業に携わるように。初めて飛び込んだ電力の世界で、ビジネスの基礎と電力マンとしてのノウハウを培うことになった。

テクノロジーを駆使し 人と自然をつなぐ

目標は、25年ごろまでに屋根置き太陽光など創エネと機器制御を組み合わせた家単位のエネルギーマネジメントの最適化で、一定のプレゼンスを持つこと。そして30年ごろまでには、電力全体をマネジメントするプラットフォームへと進化を遂げることだ。

「エネルギーの主体がエンドコンシューマーにシフトすれば、求められるインフラは大きく変わる。そこで高いプレゼンスを発揮できる企業でありたい」(塩出氏)

同社のコーポレートミッションは「自然との共生をドライブする」。

テクノロジーで人と自然をつなぎ、持続可能なエネルギーの未来、そして人間が自然を感じながら心地よく生きられる社会を目指すことが、ビジネスの原動力だ。

【新電力】続くLNG供給不安 長期展望描けず


【業界スクランブル/新電力】

 LNGの供給不安が止まらない。折からの円安に加えて、ロシアの欧州向け天然ガス供給が減少していること、欧州が大量調達を行っているためである。既にパキスタンでは国内で必要な調達ができなくなっており、計画停電が頻発している。火災事故が発生したフリーポートの運用再開も一部再開が10月、完全再開が年内と見込まれており、今冬の需給改善に寄与するか微妙な情勢である。記事執筆時点で定期検査に入っているノードストリームの運用再開も不安視されている。西側のエネルギー供給、特に化石燃料の安定供給には不安要素が目立ち、改善要素に乏しい。

当然、これらの事象は小売り電気事業者に多大な影響を及ぼすが、新電力には需要家への提案価格変更か、契約終了くらいしかヘッジ手段はない。新電力のビジネスモデルは中長期的な展望を描くことができず、常に短期の最適化が求められると痛感させられる。

他方、新電力は本当に短期の最適化のみ求められるポジションに甘んじていてよいのだろうか。業界内でも徐々に疲弊の色が見えてきており、長期的な展望を語る人が減ってきたように感じている。金融機関などと連携し、ゼロエミッション電源の開発や火力電源の買収・長期契約締結などの努力が必要だ。

しかしながら、電力小売事業は調整電源を確保しながら遂行していく必要がある。現在は、常時バックアップ(BU)が調整電源の役割を果たしているものの、本来常時BUに求められている役割はベースロード電源の代替である。化石燃料が活用されるのは調整電源であり、この可変費の価格安定化が必要である。新電力の経営安定には、火力電源については総括原価を前提にした市場設計が必要なのではないだろうか。(G)

豪州電力市場取引停止の教訓


【ワールドワイド/コラム】水上裕康 ヒロ・ミズカミ代表

6月15日、シドニーやメルボルンなど豪州東側の主要地域に供給する電力市場「NEM」が、供給力不足の懸念を理由に取引を停止した。発電用燃料の石炭や天然ガスが豊富な豪州で、20年以上の歴史を誇る電力市場の突然の事態が注目されている。

話は天然ガス価格の急騰から始まる。NEMの限界供給力はガス火力であるため、電力市場価格も急上昇し、プライスキャップが発動された。これにより、燃料価格に対し逆ザヤとなったガス火力は一斉に運転を停止。市場運用者のAEMOは、主力の供給力である石炭火力に期待したが、冬の需要期にもかかわらず、補修や燃料不足で3分の1程度のユニットは動かなかった。やむなくAEMOは市場取引を停止、規制価格による発電を指令した。

供給力(kW)は十分あるはずなのに実際は使えない、という事態が発生した。まずはプライスキャップである。市場をゆがめる価格の制約が、供給維持にはいかに危険かが分かる。それ以上の教訓は、脱炭素に向けた転換期の電力市場における火力の維持の在り方である。一定の設備容量を残すだけでは不十分ということだ。再エネが増えてkW時ベースの収入が減る中、計画的な補修を行い、燃料確保が可能な状況で待機させなければならない。燃料でいうと、物流が細る中での急なユニット稼働には、いま以上の在庫能力で対応するしかない。発電設備も負荷変動や起動停止の増加で、損耗は激しくなるのではないか。要するに、これまで以上にカネをかけられるような仕組みが必要だということだ。

先発からストッパーに転向した江夏(古い!)の報酬を、球数に応じて減らすことはできない。世の中には「歩合制」では測れぬ価値があるのだ。改めて市場のあり方の議論が深まることを期待したい。

【電力】節電ポイントより合理的 「大臣DR」に期待


【業界スクランブル/電力】

周知の通り、今年度の夏冬の電力需給が厳しい。その中でも太陽光発電の貢献が期待できる夏は、期待できない冬ほどではないと目されてきたが、6月に記録的な猛暑が到来し、東京地方は連日電力需給ひっ迫注意報が発出される事態となった。3月22日の寒波によるひっ迫警報から3カ月しかたっていない。何とも目まぐるしい。

そんな中、政府が唐突に打ち出した家庭向けの節電ポイントが炎上気味だ。サハリンLNGの途絶が普通に想定される状況でこれがタマでは率直に言って寂しい。選挙対策のつもりならまず裏目に出るのではないか。

節電量に応じてポイントを出すのは、ピークタイムリベートと呼ばれるDRプログラムの一種ととらえられる。そこで節電ポイントが1kW時当たり5円相当とされていることに、DRに造詣の深い経済学者が苦言を呈している。市場価格が1kW時当たり100円、小売料金が同30円であれば、差し引き70円のリベート支払いが可能だ、5円は不当に安いと。

この主張、部分的に真理であろうが、こうしたプログラムを実装するにはもっと周到な準備が必要だ。ピークタイムリベートは、医療保険の給付金のようなものだ。万一の入院のときに給付金がもらえるのは、普段から保険金を支払っているからこそだ。しかし、家庭向け電気料金原価に保険金に相当するものは含まれていない。含めるには、料金原価算定の考え方を変える必要がある。

家庭用のDRは手間の割に効果が小さく、取り組みが後回しになるのは、致し方ない面はある。誰も責められないだろう。今段階では、付け焼き刃なことは考えず、大臣による節電の呼び掛け(いわゆる大臣DR)に期待するのがむしろ合理的と言えまいか。(U)

理念的なG7共同声明 現実世界との乖離広がる


【ワールドワイド/環境】

G7エルマウサミットは6月28日に首脳声明を採択して閉幕した。国内石炭火力の扱いについては「2035年までに電力部門の完全または大宗の脱炭素化の達成にコミット」「国内の排出削減対策が講じられていない石炭火力発電のフェーズアウトの加速に向けた、具体的かつ適時の取り組みにコミット」とされ、フェーズアウトの具体的年限は設定されなかった。

化石燃料プロジェクトへの公的融資については、「国家安全保障と地政学的利益の促進が極めて重要であることを認識した上で、各国が明確に規定する、1.5℃目標やパリ協定の目標に整合的である限られた状況以外において、排出削減対策の講じられていない国際的な化石燃料エネルギー部門への新規の公的直接支援を22年末までに終了」との文言が盛り込まれた。昨年11月のCOP26で化石燃料セクターへの公的支援を22年末までに終了との有志国による共同声明を踏襲するものだが、「国家安全保障と地政学的利益の促進が重要であることを認識した上で」という枕ことばが入り、1.5℃目標などとの整合性については「各国が明確に規定」とされている。例外となる状況の解釈に各国の国家安全保障上の必要性が考慮されるようになったといえる。

またロシア産天然ガスからの脱却のためにはLNG転換が不可欠であることから、LNG投資については再エネ由来水素開発のための国家戦略への統合などによりロックイン効果を回避すれば「一時的な対応として適当であり得る」との文言が入った。「化石燃料への公的投資の停止」という方針を掲げた中での苦心の作文である。

ドイツの提案する「気候クラブ」は産業部門の野心を向上させ、国際ルールを順守しながら排出集約財のカーボンリーケージのリスクに対処するとされている。具体的内容はいまだ不明確だが、気候クラブに実効性を持たせるためには中国、インドの参加が不可欠だ。しかし彼らがG7共同声明の要請に応じて1.5℃目標と整合的な形で国別貢献目標(NDC)を年内に見直すとは思えない。

ウクライナ戦争によるエネルギー安全保障上の脅威の下でも温暖化アジェンダにコミットするG7であるが、中国、インド、ロシアの入るG20では全く様相が異なる。理念的なG7共同声明と現実世界との乖離がさらに広がっている。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院特任教授)

需要家参加型で関心高まる オームコネクト社のDR事業


【ワールドワイド/経営】

米国では今夏、熱波による記録的な電力需要の高まりによる需給ひっ迫が懸念される地域がある。また、卸電力価格の高騰によって電気料金が上昇し、インフレに苦しむ家庭用需要家の負担がさらに増嵩することが危惧されている。このような中、節電ができ、かつ料金の削減につながる需要家参加型デマンドレスポンス(DR)への期待が高まっている。

この分野で特に注目されているのが、2013年に設立されたスタートアップ事業者のオームコネクト社(カリフォルニア州)だ。同社は、カリフォルニア州やニューヨーク州の主に家庭用需要家向けに電力管理プラットフォームアプリを提供し、需給ひっ迫が予想される時間に使用量の削減やピークシフトを促すDRビジネスを行っている。

同社のDRプログラム「オームアワーズ」は、24時間以内に需給ひっ迫が予測される場合、プログラム発動時間をメールやSMSで顧客に通知し、DRプログラムへの参加を促す。参加した顧客は、使用量の削減量に応じた報酬を得る仕組みとなっている。

また、20年からは需給ひっ迫時にリアルタイムで発動する「オートアワーズ」プログラムも提供している。このプログラムでは、顧客の機器操作なしに、発動時間に自動的にネットワーク化されたサーモスタットや家電製品が15分単位で制御される。このように同社は家電製品とDRプログラムの統合を積極的に進めており、その顧客数は17年の約1万件から、22年には約20万件へと大幅に増加している。

同社は最近、EVや太陽光発電(PV)、蓄電池などの分散型エネルギー資源(DER)を仮想電源として制御するバーチャルパワープラントシステムを活用したDRサービスも手掛け始めた。3月からは、PV設備メーカー・サンパワー社と連携し、ルーフトップPVと蓄電池を保有する顧客に対して、ピーク時に使用量削減だけでなく、蓄電池からの電力を配電網へ逆潮流することで報酬を上積みするDRプログラムを実施中だ。

さらに、今年の夏季(5月30日~9月30日)には、ピーク時に使用量削減に応じた顧客に対し、通常のDR料金にボーナスを加算し、抽選で賞金や豪華景品が当たるMEGAサマーキャンペーンを実施している。同社のデブリースCEOは、料金が最も高いときに使用量を抑えるためのツールとインセンティブを顧客に提供することで顧客自らが節電行動をとるようになると述べている。

(長江 翼/調査第一部米国グループ研究員)

【マーケット情報/8月12日】原油上昇、需要増加の見通し強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み上昇。需要回復の見通しが、供給増加の観測を上回り、買いが優勢となった。

米国では、ガソリン需要が前週比で増加。前年を引き続き下回る水準ではあるが、燃料需要回復の兆しが、価格の支えとなった。また、国際エネルギー機関が、今年の石油需要予測を大幅に上方修正。天然ガス価格の急騰が、発電事業者による石油の代替利用を促すと予想した。

一方、サウジアラムコ社の9月ターム供給は、多くのアジア太平洋、欧州・地中海における買い手の希望通りとなる見通し。また、核合意復帰に向けた米国とイランの会合が進展。米国の対イラン経済制裁の解除、およびイラン産原油の供給増加へ、期待が高まった。さらに、ロシアからハンガリー、スロバキア、チェコ共和国へ原油を輸送するドルジバ・パイプラインの稼働が再開。ウクライナの支払い問題により、4日から停止していたが、供給不安が緩和された。ただ、価格の下方圧力とはならなかった。

【8月12日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=92.09ドル(前週比3.08ドル高)、ブレント先物(ICE)=98.15ドル(前週比3.23ドル高)、オマーン先物(DME)=99.08ドル(前週比4.71ドル高)、ドバイ現物(Argus)=98.03ドル(前週比4.96ドル高)

ウクライナ侵攻で制裁解除も 石油産業復活には課題が山積


【ワールドワイド/資源】

ベネズエラは、3038億バレルと世界第1位の石油確認埋蔵量を誇っている。しかし、チャベス前政権以降の失政で、石油会社や石油サービス会社の一部が同国から撤退したり、事業を縮小したりしたことなどで、石油産業は打撃を受け、ピークの1998年には日量350万バレルほどあった生産量が減少を続けている。

さらに、2018年の大統領選の正当性を巡り米国との関係が悪化、19年初めには米国財務省がベネズエラ国営石油会社PDVSAを制裁対象とした。これにより、ベネズエラは石油輸出先の多くを失うとともに、確認埋蔵量の大宗を占める超重質油を輸送するために必要な軽質原油やコンデンセートなど希釈剤を輸入することが困難となった。この米国による制裁が追い打ちをかけ、生産量は日量50万バレル程度まで落ち込んだ。

21年9月以降、イランからコンデンセートが供給されたことで、ベネズエラの石油生産量は一時、日量100万バレルまで回復した。しかし、停電や事故、火災の発生、部品不足、盗難の頻発、原油輸出の滞りなどから、22年1~5月は日量69~75万バレルとなった。

ロシアのウクライナ侵攻により石油需給ひっ迫懸念が高まったことで、ベネズエラのこの状況に変化が生じる可能性が出てきた。22年3月、米国はベネズエラと、経済制裁の緩和やベネズエラの原油増産に向けて協議を開始した。これについては、反米のマドゥロ政権に対する制裁緩和になるとして、米国議会の与野党議員から反発する意見が表明された。

しかし、5月中旬、米国が対ベネズエラ制裁の一部緩和に動いた(具体的にはシェブロンとマドゥロ政権の協議再開を一時的に認めた)ことから、マドゥロ大統領は米国が支持する野党側との協議を再開することとし、米国は、この協議の進展次第では、制裁を大幅に緩和するとした。とはいえ、本稿執筆の6月末時点で、米国はシェブロンに対して、これまで同様、同国での掘削、生産、輸送、販売などは禁止、資産維持や設備のメンテナンスなどのみを認めている。

一方、米国は6月、ベネズエラで操業中のEni(伊)とRepsol(西)に対してシェブロンと同様に同国産原油を欧州市場向けに輸出することを正式に認めており、状況次第では、引き続き米国が制裁を解除する可能性がある。ただし、米国の制裁が解除されても、ベネズエラの石油産業復活には投資や人材の確保などの課題があり、容易には進まないとの見方も多い。

(舩木弥和子/石油天然ガス・金属鉱物資源機構調査部)

【インフォメーション】エネルギー企業の最新動向(2022年8月号)


【東邦ガス/バイオガス由来のCO2でメタネーション実証】

東邦ガスは、知多LNG共同基地内で、バイオガス由来のCO2を活用したメタネーションの実証試験に取り組む。知多市と連携し、2023~26年度に実施する。知多市が南部

浄化センターの下水汚泥処理で発生するバイオガス由来のCO2を提供。東邦ガスはLNGの冷熱を活用した冷熱発電などによる電力を使って水素を製造し、メタネーションを行う。合成されたメタンは都市ガスの原料として利用する。実証では、東邦ガスはメタネーション設備の構築と、システム全体での効率を評価する。メタネーションによって合成されたメタンを都市ガスの原料として利用するのは国内初となる見込みだ。将来はメタネーション設備の社会実装で、ガス自体の脱炭素化を目指す。

【リンナイ/家庭用給湯器で世界初の水素100%燃焼技術を開発】

リンナイは、世界初となる家庭用給湯器での水素100%の燃焼技術開発に成功した。同社はCO2排出削減に取り組む中で、商品使用時に排出されるCO2が約95%を占めることから、高効率給湯器などの省エネ商品開発の先に、CO2を排出しない商品の開発を目標としてきた。水素はCO2排出ゼロのクリーンな燃料として注目される一方、爆発の危険性や不安定な燃焼といった課題がある。こうした課題に対し、同社はガス機器の開発で長年にわたって蓄積してきた燃焼技術や流体制御技術を活用。実用化に向けて、2022年末頃から実証実験をスタートする予定だ。水素給湯器の量産化を目標とし、さらなる技術の確立と信頼性の向上を目指す。

【大阪ガス/エネファームを活用した仮想発電所の実証を開始】

大阪ガスは、エネファームをエネルギーリソースとした仮想発電所(VPP)を構築し、系統需給調整に活用する実証事業を開始した。需要家とVPPサービス契約を直接締結してリソース制御を行う大阪ガスは、昨年度にDER(分散型エネルギーリソース)実証事業に参画し、3600台以上のエネファームによる実証を行い、調整力供出量ベースで1MW以上の供出に成功するなどの一定の成果を得た。今年度は制御方式を変更し、系統需給状況に応じたエネファームの遠隔制御の精度向上、より速い調整力への対応を目指した技術検証を行う。今後、エネファームなどの低圧リソースを活用し、DERと組み合わせたエネルギーネットワークの普及拡大を進める。

【エア・ウォーター/CO2を回収しドライアイスを製造】

エア・ウォーターは、低濃度のCO2(燃焼排ガス中のCO2濃度10%程度)を高効率に回収できる装置「ReCO2 STATION」を開発した。4月から、バイオマス発電所に設置。燃焼排ガスから純度約99%で回収したCO2でドライアイスを製造し、顧客に提供する事業実証を行った。非化石燃料由来のドライアイス製造は、国内初の取り組みだ。同装置の導入で、CO2回収と利用がワンストップで可能になる。将来的に地産地消型のCO2回収・利用モデル構築を目指す。

【丸紅/離島で蓄電池併設型太陽光の実証開始】

丸紅は鹿児島県奄美大島で、蓄電池併設型屋根置き太陽光発電の長期売電事業の実証を開始した。この実証では、複数の施設や駐車場の屋根などに初期費用負担なしで太陽光発電システムを導入。発電した電力を長期売電契約に基づき売電する。また、電力の不足時には、併設の蓄電池を遠隔制御して電力を放電する。この需給調整機能の提供についても事業性の検証・評価を行う。この実証を通じて、離島での分散型電源や蓄電池、需給調整事業を推進していく方針だ。

【四国電力/グリッド/AI活用し需給計画立案 運用の効率化に貢献】

四国電力とグリッド社はAIを活用した電力需給計画立案システムを開発し、7月から運用を開始した。電力需要の想定などからシナリオを複数作成し、シナリオごとに最適な発電計画を作成する。期待収益を分析・評価し、最も経済的な発電計画を採用する。このシステムの導入により、複雑化する電力需給計画の最適化が可能となるという。

【商船三井/次世代石炭船の第2船 「HOKULINK」と命名】

商船三井が建造経験の豊富な国内造船所と、同社のノウハウを結集して設計した次世代型石炭船「EeneX」の第2船が完成した。北陸電力向け専用船で、北陸電力の松田社長が「HOKULINK」と命名した。就航中の「エナジープロメテウス」と共に、北陸電力の石炭火力発電所向け海外炭輸送の一翼を担い、持続的で安定的な電力供給に貢献する。

日本のマスコミの実態 「平和ボケ・不誠実・お花畑」


【おやおやマスコミ】井川陽次郎/工房YOIKA代表

 原子力は頼りにならない、と思われているせいではないか。

その現状を憂える国際エネルギー機関(IEA)の報告書について報じた国内メディアはごく一部だった。一つが日経7月1日「温暖化ガス、50年にゼロなら…IEA『原子力投資3倍超に』」だ。

報告書は6月30日に公表。「世界のエネルギー供給に占める原子力の割合は2020年で5%。32カ国で413ギガワット」だが、「50年に排出を実質ゼロにするには」「原子力への投資を3倍超に引き上げ」「容量を倍増させる必要がある」と試算したという。

問題は、この記事が触れていない部分だ。報告書は「先進国で稼働中の原子力発電所は30年までに3分の1に縮小する」と見積もり、「2017年以降、世界で建設を始めた31基の原子炉のうち27基はロシアか中国の設計」と指摘したうえで、先進国の技術力の衰退に警鐘を鳴らしている。

ロシアのウクライナ侵略はエネルギー危機をもたらした。原子力でもロ・中の支配が進めば、エネルギー安全保障やセキュリティー上のリスクが増す。報告書の核心はそうした懸念だろう。米CNBCも4日、「ロ・中が原子炉設計を支配、IEA警告」と伝える。

日経は平和ボケか。

こちらも肝心の要素がない。朝日6月24日夕刊「いま聞く、核のごみ処分場、反対の訳は」だ。

高レベル放射性廃棄物の最終処分場について「日本に適地はない」と主張する札幌管区気象台の予報官を紹介する。「北海道寿都町で最終処分場の議論が始まり2年。寿都の歴史に詳しい気象庁職員」なのだという。

何を根拠に「適地はない」と言うのか。首をひねりながら読むと根拠を示さずに「思います」。処分場は地下深くに建設されるが、この職員は日本列島の地下データをきちんと分析したのか。記者も、裏付け取材をしたのか。記事は不誠実に見える。

同じ朝日系列では、テレビ朝日6月27日「スーパーJチャンネル」がネット炎上した。節電を訴えるニュースで「家庭における電気の使用割合」を円グラフで紹介した際、もとになった資源エネルギー庁の資料から「テレビ・DVD」の8.2%を省いたためだ。

ITmedia ビジネスオンラインテレビ6月30日の検証によれば、テレビ・DVDはエアコン、照明、冷蔵庫に次いで4番目に電力を消費する。節電のためテレビを消そう、では視聴率が下がると心配したのか。不誠実極まりない。

お花畑かと驚いたのは日本テレビ系列の元人気アナウンサーで、今も活躍する辛坊治郎氏だ。

7月初め、太陽光発電を絶賛するネット発信が相次いだ。2日ツイッターで「『原発動かしたら電力不足解消』は間違い。関東の人が熱中症で死なないのは、太陽光パネルのおかげ。土下座して感謝すべき」。4日は「未来の日本のエネルギーは全て太陽光。否定する人がいたら、経産省に洗脳されている。お馬鹿さん!」。

産経4日「電力需給逼迫、再エネ弱点鮮明、太陽光、半日で予測一転」は、「日射は低下するが、まだ気温が高く需要が高止まりしている夕方に、受給が逼迫」と解説する。日射低下時の電源不足を補う有力候補が原子力だ。

「全て太陽光」も、例えば富士山が噴火して、広域で火山灰がパネルに積もったら電力は確保できるのか。冬の豪雪は大丈夫か。

平和ボケ、不誠実、お花畑。メディア情報のうのみは危ない。

いかわ・ようじろう  デジタルハリウッド大学大学院修了。元読売新聞論説委員。

迷走する日本 電力需給ひっ迫は大衆迎合の帰結


【オピニオン】品田宏夫/新潟県刈羽村長

 恐れていたことが起きた。安倍晋三元首相が目の前で凶弾に倒れてしまった。数々の功績をたたえるとともにご冥福を衷心より祈り上げたい。凶行に怒り心頭であると同時に何とか警護できなかったものかと今更ながら悔やむ。

日中国交正常化後、何年かたった総選挙だったと記憶しているが、お国入りした田中角榮元首相の警護はかなり緊張感を持ったものだった。防弾用の鉄板が仕込まれた演台を大人6人がかりで運搬したことがある。

合計特殊出生率低下を1.57ショックと表し騒動になったのは1990年のことである。以来、少子化対策は今日に至るまでその重要性を増すばかりだ。30年余、子育て支援策に代表されるさまざまな手を打ってきたが出生率は回復する気配すらない。出生数は右肩下がりのまま現在に至っている。30年という長い期間にわたって実践されてきた施策の失敗は明らかだ。それら施策の拡大を試みることが少子化対策に有効であるという考えは根底から改めるべきではないのか。

この世に生まれた尊い命に対し、幼児虐待事案が急増している。抵抗できない幼児に圧倒的な力で暴力を振るうなど、恥ずかしいにも程がある。卑劣というほかない。誰かから大きな力で制止されるまで己の卑劣さに気付かないのか。自分さえ傷つかなければ平穏でいられるなどと、どのアタマで考えているのか想像もつかない。閉鎖的な自己中心社会で安穏と生きられるような社会整備にこの国は熱心だ。自己中心と、欧米に見られるような個人主義は全く異質のものである。

まさか停電するなどとは誰一人思ってもみなかった。奇跡的に回避できたが、冷や汗をかいたのはごく一部の人で大衆は危機的状況を全く理解できなかった。今年3月のことである。6月にも需給がひっ迫した。厳しい夏は何とかなるらしい。正念場は冬で、そのときは万事休すというのが現在の見立てである。節電が大事だそうだが意味が分からない。

無理のない範囲の節電というが、そんなことは既にやっている。不要な電気を使うばかはいない。無駄な電気を使わないのは経費の節約だ。節電とは必要な電気を使わない、使わせないということではないのか。エアコン不使用は命に関わる。工場が生産を止めたら事業が成り立たない。日本はこんな国になってしまったのである。

需給ひっ迫の対処は発電量を増やす以外にない。号令をかければ発電が始まると大衆は考えているが、号令や議論で電力が生まれるはずがない。設備があれば発電できるがそれがない。効率の悪い設備は消えてしまった。儲からないからだ。電力自由化がもたらした弊害がこれだ。

総じてこの国は己の確固たる意志を持てなくなったように感じる。決断ができなくなったと感じる。大衆迎合の結果として停電するなら、不遇を我慢してもらうしかない。勝手気ままに生きられた歴史は人類史に存在しない。わがままが通る……それはただの空想である。

しなだ・ひろお
駒澤大学経済学部卒。1991年刈羽村議会議員。99年刈羽村議会議長。2000年刈羽村長。20年12月6期目就任。