【エネルギービジネスのリーダー達】野田英智/TSUNAGU Community Analytics社長
中部電力グループのDX化を一手に請け負い、人材とノウハウを着実に蓄積している。
2年目を迎える2022年度は、外販を本格化し中部地域のDX化の担い手としての一歩を踏み出す。

中部電力グループのデジタルトランスフォーメ―ション(DX)化を推進すべく、2021年2月に発足、4月に事業を開始したTSUNAGU Community Analytics(TCA)。中電事業創造本部が担ってきたデータ分析やデータ利活用のコンサルティング業務などを引き継ぎ、同本部の野田英智副本部長が社長を兼務する。
野田社長は高度なデータ分析に特化した専門組織として同社を立ち上げた狙いを、「DX化に欠かせない要員(データサイエンティスト)とデータ分析のノウハウを集約し、グループ会社、さらには中部地域のDX化を効率的に進めていくことだ」と話す。
人材の獲得と育成へ 独自の給与体系構築
デジタル・情報通信技術の進化により、データ分析に基づき顧客や社会ニーズの実態を精緻に把握し、ビジネスモデルを変革させるDXへの要請が高まっている。DX化を進めるには、データ解析に関する高度な専門スキルを持つプロフェッショナルの確保が欠かせないが、こうした人材は不足状態にあり争奪戦の様相を呈しているのが実情だ。
社会の波に乗り遅れることなく、円滑にDX化を進められるかどうかは、将来のグループの競争力に直結する。TCAの役割は、これまで外注していた情報分析業務などを内製化することで、グループ内にノウハウを蓄積することに加え、優秀な人材を獲得・育成することにある。
そのため同社では、人件費が高騰の一途をたどるデータサイエンティストを戦略的に採用できるよう、ほかのグループ会社にはない柔軟な給与制度を導入しているのに加え、社員が持つスキルに応じて職務内容を明確に規定し評価する「ジョブ型」雇用も先駆的に採用している。
現在のところ、12人いる社員は全て中部電力グループと協業先のアクセンチュアからの出向者だが、今後はプロパー社員の採用を積極的に行う計画で、22年度は経験者を採用し、23年度以降は新卒採用を行い人材育成にも力を入れていく構えだ。
初年度は、約30件請け負ったプロジェクトの多くが小売会社の中電ミライズや送配電会社の中電パワーグリッド(PG)といったグループ会社を対象としたものだった。5年後には、グループ外の売上比率を半数まで引き上げたい考えで、データアナリストとコンサルタントを合わせて50人体制の構築を急ぐ。
DXの効果に手応え 来年度は外販も積極化
野田社長は、グループ会社のDX支援による業務改善の成果には、強い手ごたえを感じているようだ。たとえばミライズにおいては、顧客の特性に合わせたキャンペーンなどを展開することで、新規獲得や離脱防止につなげた。またPGでは、需要予測によって的確なタイミングで資材発注を行うことにより、過剰生産、在庫の抑制を可能にした。
「現場は、何か課題があることは認識していても、解決のトリガーとなる課題が何か見えていないことが多い」と言い、コンサルティングを通じて顧客が認識していない真の課題やニーズを引き出すことに注力してきたという。
同社のもう一つの役割が、中部地域全体のDX化を担うことだ。というのも、同地域の産業はすそ野が広く、DX化のための人材を社内で抱えられる大企業のみならず、中堅企業の存在も地域経済にとって非常に大きい。こうした企業も含めてDX化を進めることが、地域の底上げの鍵を握ると考えている。
グループ内のさまざまな課題をデータ分析により抽出・解決した経験や作り出したモデルは、グループ外の企業にも適用できるものも多い。そこで2年目からは、ここで培ったノウハウを生かした外販ビジネスを積極化していく。
そのために現在、連携しているのが地元の金融機関だ。多くの取り引き企業を持つ金融機関には、DXをどう進めるべきか悩んでいるとの声が多く寄せられており、その最大の障壁がコスト。
そのため、同じような業態の企業2~3社を集約し、一つの仕事として請け負うなど工夫して進めていくことを検討している。さらに今後は、地域のテック企業や大学などと連携し、双方の技術を組み合わせた新たなサービスを創出するなど、より幅広い業種のニーズに応えていくための「武器づくり」も着実に進めていく。
TSUNAGU Community Analyticsには、「人と人、人と社会をつなぎ、グループ、そして地域コミュニティのDX化を進め、新しいコミュニティの形を創造するという思いを込めた」と語る野田社長。中電グループが地域とともに持続的な成長を果たすためには、地域課題を解決しより良い暮らしを実現するサービスを打ち出していかなければならない。それをデータ分析で強力にサポートしていく。