暮らしを彩るサービスを提供 地域の発展と共に成長する企業に


【エネルギービジネスのリーダー達】野田英智/TSUNAGU Community Analytics社長

中部電力グループのDX化を一手に請け負い、人材とノウハウを着実に蓄積している。

2年目を迎える2022年度は、外販を本格化し中部地域のDX化の担い手としての一歩を踏み出す。

のだ・ひでとも 1991年名古屋工業大学大学院工学研究科博士後期課程終了、中部電力入社。18年技術開発本部技術企画室長、19年事業創造本部副本部長などを経て21年2月から現職。

 中部電力グループのデジタルトランスフォーメ―ション(DX)化を推進すべく、2021年2月に発足、4月に事業を開始したTSUNAGU Community Analytics(TCA)。中電事業創造本部が担ってきたデータ分析やデータ利活用のコンサルティング業務などを引き継ぎ、同本部の野田英智副本部長が社長を兼務する。

野田社長は高度なデータ分析に特化した専門組織として同社を立ち上げた狙いを、「DX化に欠かせない要員(データサイエンティスト)とデータ分析のノウハウを集約し、グループ会社、さらには中部地域のDX化を効率的に進めていくことだ」と話す。

人材の獲得と育成へ 独自の給与体系構築

デジタル・情報通信技術の進化により、データ分析に基づき顧客や社会ニーズの実態を精緻に把握し、ビジネスモデルを変革させるDXへの要請が高まっている。DX化を進めるには、データ解析に関する高度な専門スキルを持つプロフェッショナルの確保が欠かせないが、こうした人材は不足状態にあり争奪戦の様相を呈しているのが実情だ。

社会の波に乗り遅れることなく、円滑にDX化を進められるかどうかは、将来のグループの競争力に直結する。TCAの役割は、これまで外注していた情報分析業務などを内製化することで、グループ内にノウハウを蓄積することに加え、優秀な人材を獲得・育成することにある。

そのため同社では、人件費が高騰の一途をたどるデータサイエンティストを戦略的に採用できるよう、ほかのグループ会社にはない柔軟な給与制度を導入しているのに加え、社員が持つスキルに応じて職務内容を明確に規定し評価する「ジョブ型」雇用も先駆的に採用している。

現在のところ、12人いる社員は全て中部電力グループと協業先のアクセンチュアからの出向者だが、今後はプロパー社員の採用を積極的に行う計画で、22年度は経験者を採用し、23年度以降は新卒採用を行い人材育成にも力を入れていく構えだ。

初年度は、約30件請け負ったプロジェクトの多くが小売会社の中電ミライズや送配電会社の中電パワーグリッド(PG)といったグループ会社を対象としたものだった。5年後には、グループ外の売上比率を半数まで引き上げたい考えで、データアナリストとコンサルタントを合わせて50人体制の構築を急ぐ。

DXの効果に手応え 来年度は外販も積極化

野田社長は、グループ会社のDX支援による業務改善の成果には、強い手ごたえを感じているようだ。たとえばミライズにおいては、顧客の特性に合わせたキャンペーンなどを展開することで、新規獲得や離脱防止につなげた。またPGでは、需要予測によって的確なタイミングで資材発注を行うことにより、過剰生産、在庫の抑制を可能にした。

「現場は、何か課題があることは認識していても、解決のトリガーとなる課題が何か見えていないことが多い」と言い、コンサルティングを通じて顧客が認識していない真の課題やニーズを引き出すことに注力してきたという。

同社のもう一つの役割が、中部地域全体のDX化を担うことだ。というのも、同地域の産業はすそ野が広く、DX化のための人材を社内で抱えられる大企業のみならず、中堅企業の存在も地域経済にとって非常に大きい。こうした企業も含めてDX化を進めることが、地域の底上げの鍵を握ると考えている。

グループ内のさまざまな課題をデータ分析により抽出・解決した経験や作り出したモデルは、グループ外の企業にも適用できるものも多い。そこで2年目からは、ここで培ったノウハウを生かした外販ビジネスを積極化していく。

そのために現在、連携しているのが地元の金融機関だ。多くの取り引き企業を持つ金融機関には、DXをどう進めるべきか悩んでいるとの声が多く寄せられており、その最大の障壁がコスト。

そのため、同じような業態の企業2~3社を集約し、一つの仕事として請け負うなど工夫して進めていくことを検討している。さらに今後は、地域のテック企業や大学などと連携し、双方の技術を組み合わせた新たなサービスを創出するなど、より幅広い業種のニーズに応えていくための「武器づくり」も着実に進めていく。

TSUNAGU Community Analyticsには、「人と人、人と社会をつなぎ、グループ、そして地域コミュニティのDX化を進め、新しいコミュニティの形を創造するという思いを込めた」と語る野田社長。中電グループが地域とともに持続的な成長を果たすためには、地域課題を解決しより良い暮らしを実現するサービスを打ち出していかなければならない。それをデータ分析で強力にサポートしていく。

【都市ガス】欧州タクソノミー 天然ガスを追加


【業界スクランブル/都市ガス】

1月1日、欧州委員会は天然ガスと原子力をタクソノミー(エネルギー分類)で「グリーンエネルギー」と位置付ける方針を発表した。「2050年GHGネットゼロ」の達成には莫大な資金が必要となる。欧州委員会の気候変動対策「欧州グリーンディール」では、今後10年間で官民合わせて少なくとも1兆ユーロ(約120兆円)規模の投資を計画している。その対象に天然ガスと原子力を加える方向というわけだ。

天然ガスは化石燃料でCO2を排出するため「グリーン」と分類するには違和感があるとの声が加盟国の一部から出たが、欧州委員会は「過渡的な措置だ」として理解を求めたという。他方、原子力発電はCO2をほとんど出さないが、原発廃止を決めている国々からは反対の意見が出ていて、ドイツ、オーストリア、ルクセンブルクなどはタクソノミーに両エネルギーを含めることに反対している。1月中には採択される見通しだ。

最近、オランダでは新規天然ガスパイプラインの敷設が認められなくなった。しかし、天然ガスがタクソノミーに追加されれば、欧州において今後天然ガスインフラへの投資が進む可能性が出てくる。欧州のこの流れは世界的に波及していくことになり、日本への影響、特に現在検討中のグリーンエネルギー戦略への影響は大きいだろう。

われわれ都市ガス事業者にとっては朗報といえよう。LNG受入基地、パイプライン、天然ガス火力など、膨大な資金を伴うインフラ投資の意思決定はますます難しい状態になっている。そうした中、天然ガスインフラ投資が再生可能エネルギーへの移行に貢献する、持続可能な経済活動とのお墨付きを得られる可能性が出てきたのだ。

ただし、欧州委員会は50年までの脱炭素化を明言しており、あくまでも天然ガスは過渡的な措置の位置付けであることを忘れてはいけないだろう。これからもカーボンニュートラル実現に向けての努力を怠ってはいけない。(G)

【新電力】合理的な価格形成へ 需要家の市場参加を


【業界スクランブル/新電力】

小売り電気事業者の社会的な意義、役割とは一体何なのか。このような疑問は小売り全面自由化による競争激化後、度々議論されてきた。一部で「転売ヤー」などと痛罵されることも増えてきている。しかしながら、本来電源費用の回収機能を持つ小売り電気事業者の役割を形骸化させてきたのは固定費回収の枠組みなく、限界費用入札の枠組みのみを整備した制度設計当局の資源エネルギー庁であり、有識者による審議会だったのではないか。小売り電気事業者の位置付けは、制度設計当局と有識者が示していく必要がある。最近、電気事業審議会時代から委員を務めている有識者から、他責とも受け取れるようなコメントが多く見られる。当該経済学者には猛省を促したい。

さて、英、仏、独、蘭、ベルギー、フィンランド、チェコ、シンガポールでも小売り事業者が破綻している。欧州では、エネルギー価格高騰に伴い、特に電力を大量に消費するアルミニウム、電炉、化学といった産業では、需要家が生産活動を停止する事態にも発展している。これはある種の「需要破壊」とも呼べる現象である。欧州の産業用需要家はエネルギー事業者の小売り部門を通じて、一定量は先渡し取引を通じて電力確保もしくは、先物取引を活用してヘッジする傾向にある。今回の市場価格高騰を受け、電力転売益により操業停止しても損失を補えるだけの収益が得られることから、産業用需要家では電力転売がちょっとしたブームになったようだ。

昨年12月28日に経済産業省で開催された「第1回 卸電力市場、需給調整市場及び需給運用の在り方勉強会」においては、「小売電気事業者がDRなどの根拠に基づく合理的な買い価格での応札をする限り、市場価格は合理的に形成される」「どのような方策をとるべきか」といった問いが事務局から示された。日本では産業用需要家のプロシューマー化が遅れているが、小売り事業者の努力によって成し遂げられるものではなく、産業用需要家の市場参加、プロシューマー化によって実現されるとみるべきであろう。(M)

国民投票で原発運転再開を認めず 蔡政権「非核家園」目標の展望は


【論点】台湾の脱原発/鄭 方婷 日本貿易振興機構アジア経済研究所研究員

台湾の蔡政権は、数回実施した国民投票の影響を受けつつも、脱原発政策を維持してきた。

ただ、そこに脱炭素目標もかぶさり、電力需給ひっ迫という日本と同様の課題に直面する。

 台湾の蔡英文現総統は、2016年に政権交代を果たして以降、「持続可能なエネルギー政策」を推進してきた。その柱となるのが、脱原発(「非核家園」=原発のないふるさと)と再生可能エネルギーの拡大である。

具体的な数値目標は、16年当時の石炭火力発電設備容量(約35・5%)を25年には30%に、原子力発電は約10・4%からゼロに縮小または廃止する。一方、これにより減少した電力供給は、天然ガスを約31・6%から50%に、再エネを約9・5%から20%に拡大して補う。特に台湾では原発の完全な廃止を目指すが故に、その道のりも平たんではない。

脱原発のプロセスが本格化したのは17年の「電業法」(電気事業法)第95条改正である。これにより、台湾最南端に位置する第三(馬鞍山)原発(屏東県恆春鎮)の稼働停止予定の25年をもって、全ての原発を停止させる計画に法的根拠を与えた。さらに政府は既存の原発について稼働免許を延長させない立場をとっており、実際はすでに一部の原発で廃炉プロセスが始まっている。

既存の4基の原発の中でも、第四(龍門)原発の廃止は、現与党民進党の政治方針における核心の一つである。民進党は原発反対の市民運動を支持するなど、脱原発の姿勢を貫いてきたが、現野党の国民党は、発電コストや電力供給の安定性などから一貫して原発支持の立場である。

国民投票で紆余曲折も 原発「段階的廃止」維持

その民進党が政権の座に就いて以降、台湾で行われた2回の国民投票では、脱原発自体の是非、第四原発の稼働の是非を問う投票案も含まれていた。台湾ではエネルギー問題が最優先の政治課題の一つであるといっても過言ではない。

しかし、これまでの脱原発への道のりは必ずしも順風満帆ではなかった。18年11月に実施された1回目の国民投票では、脱原発の是非を問う投票案が否決され、改正電業法第95条にある「すべての原発は25年までに稼働停止とする」との規定が直ちに廃止された。その上、2年間は同様の法改正ができない仕組みとなっており、「25年の脱原発」は法的根拠を失ったのである。

その後、第四原発の商業運転再開に関する国民投票運動が組織され、21年12月下旬に国民投票が実施されることが決定した。国民投票案は、有効同意票が反対票よりも多く、かつ有権者総数の4分の1以上であれば可決される。第四原発の商業運転再開を求める投票案はこの条件を満たさなかったことから、現在の「原発の段階的廃止」という政府方針が今後も継続される見込みである。

台湾で脱原発の準備が着々と進む背景として、民進党への政権交代のほかに、いくつかの理由も挙げられる。まずは福島第一原子力発電所の事故である。地震が頻発する台湾では社会に大きな衝撃が走り、13年3月には大規模な反原発デモが組織され、22万人以上の市民が参加したといわれる。

また、13年には第四原発の所在地および付近の海域に新たな断層帯が発見されている。その上、第四原発については設計上のトラブル発生、安全確認・試運転テストを完全にクリアできなかったといった事情があり、安全性そのものへの不安が解消されていない。

さらに日本と同様、核廃棄物の処理も深刻な問題として強く認識されるようになった。台湾においても、核廃棄物の処理や安全性対策などを考慮すると、原発はもはや安価な発電手段とは言えなくなっている。

第四原発の稼働は先送りされることに
出典:台湾電力会社

CNと脱原発両立は可能か 電力ひっ迫が最大の課題

台湾では「温室効果ガス削減管理法」により、温室効果ガスの排出を「50年に05年比で50%削減」と定めている。また、蔡総統は昨年4月の「世界地球日」に際し、「カーボンニュートラル」を新たな政策目標として打ち出すなど、世界的な脱炭素の潮流に合わせた積極的な姿勢をとっている。カーボンニュートラルとは、50年前後にCO2などの温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすることで、地球全体の気温上昇を1・5℃以内に抑えるための必要条件の一つとされている。

16年から本格的にスタートした台湾のエネルギー・トランジションは、20年までの途中経過を見ると、確かに原発は減って約 6・7%に、再エネと天然ガスは増えてそれぞれ16・4%、32・4%になっているが、同時に電力需要の急増に伴い石炭火力も36・4%と増えてしまっており、新たな課題に直面している。

電力需要の増加の裏には、好調な経済がある。半導体・精密機器をはじめとする製造業は内需・輸出ともにパンデミック下でも好調を維持しており、昨年、通年のGDP成長率も6%以上と推定されている。こうした状況下で電力需要も高い水準で推移しているが、さらに熱波・寒波といった異常気象が発生すると、電力需要の突然の増加に現行の電力網が対応できず、供給トラブルに(再び)陥る可能性は小さくない。

実際、昨年5月中旬には、新型コロナウイルス感染症の急拡大と連日の猛暑が重なり在宅勤務者が増えたことで、全国で大規模停電が複数回発生する事態となった。これを受け、政府は4カ所ある原発のうち唯一稼働している第三原発の2号機を発電量の上限まで稼働させ、さらに年度整備・メンテナンス中の1号機も予定を繰り上げて運転を再開させ、事態の収拾を図った。

エネルギー・トランジションで、原発に依存せずカーボンニュートラル目標の達成を目指す台湾だが、好調な経済活動や異常気象による電力需要のひっ迫は、今後も最大の課題であり続けるだろう。

ちぇん・ふぁんてぃん 2005年国立台湾大学政治学部卒。09~14年に東京大学法学政治学研究科で修士号、博士号(法学)取得。14年から現職。

【コラム/2月18日】低調な国会論戦


福島 伸享/衆議院議員

 これを執筆している現在、国会では衆議院の予算委員会での審議の真っ盛りで、採決に向けた出口が見え始めたころである。しかし、憲政史上最速ペースで進む予算案の審議は、盛り上がりに欠け、国会審議の模様がテレビや新聞で報道される機会はめっきりと減ってしまった。本来なら、7月の参議院選挙を前に与野党の対立構造を明確にして国民の判断を受けるべき重要な国会なのだが、そうならないのは野党第一党の立憲民主党が「野党は批判ばかり」という批判を気にして、政府に対して腰の引けた議論しかできないからだ。

もとより、週刊誌に報道されたスキャンダルを後追いでテレビ報道目当てに追及するような、一部の国会議員の姿勢は見苦しい。しかし、岸田政権が掲げる政策に厳しく追及すべき対立軸がないわけではない。そもそも水戸黄門の印籠のように繰り返しだされる「新しい資本主義」という紋切りフレーズは、何度聞いても何が「新しい」のかさっぱりわからない。羅列されている個別の政策に、特段「資本主義」という近代のパラダイムを超えうるような「新しい」政策はない。私自身も5人の「有志の会」という小さな会派から予算委員会の審議を眺めているが、いくつもある野党それぞれの党や会派がバラバラに、しかも党の中でも脈略もなく聞きたいことだけを聞いて、体系的・戦略的に岸田政権の掲げる政策の問題点を浮き彫りにできていないのだ。

 私自身は、この国会の一番の焦点は経済安全保障であると考えている。確かに経済力を背景とした中国の覇権主義傾向が強くなり、米中対立が深まる中で、様々な事態を想定したサプライチェーンの確保や、日本の最先端技術が軍事転用されないような仕組みは必要だ。しかし、過剰な規制や不透明な規制の運用が我が国の産業を委縮させてもいけない。エネルギー分野においても、これから新たな設備投資をする時に、安全保障上懸念のある製品が使われていないか事前審査を受けなければならない場合もあり、違反には罰則も課せられる予定だ。事業者にとっては、かなりの負担となる場合もありうる。

 このような制度を導入するに至った背景はどこにあるのか、米国の真の狙いは何なのか、日本政府自身にインテリジェンスも含め規制を執行する能力はあるのか、国会で議論しなければならない本質的な問題はいくらでもある。私も、2月2日の予算委員会で岸田総理と短時間ながら議論したが、そもそも「経済安全保障は何のためにやるのか」という問いに対する首相の答弁すら、はなはだ頼りないものであった。理念なき規制がもたらす弊害は、3.11後の原子力安全規制のようにさまざまな分野でこれまでも生じている。

 折しもそうしたときに、肝心の法案担当責任者の藤井国家安全保障局内閣審議官が、週刊誌で女性問題と不適切な経費使用の報道がなされて担当を外されるという事件が起きた。藤井審議官の問題の背後関係については、さまざまな風評が流れている。それが確かなものかはわからないが、経済安全保障政策が岸田政権の目玉として俎上に上がるに至るまでに、さまざまな経緯があったことも報道されている。

 経済安全保障以外にも、コロナ対策は当然のこととして、原子力政策の再構築をはじめとするエネルギー政策など岸田政権と対立軸を明確にすべき問題は山積みである。私の所属する有志の会では、5人のメンバーがフル回転して国会論戦に当たってまいる所存だが、議席に応じて配分される質疑時間はごくわずかだ。豊富な審議時間を持つ野党第一党の皆さんにも奮起を促したい。

【プロフィール】東京大学農学部卒。通商産業省(現経産省)入省。調査統計、橋本内閣での行政改革、電力・ガス・原子力政策、バイオ産業政策などに携わり、小泉内閣の内閣官房で構造改革特区の実現を果たす。2021年10月の衆院選で当選(3期目)

【電力】需給のタイト化 政策選択の失敗


【業界スクランブル/電力】

本誌1月号の今井尚哉氏のインタビュー記事を興味深く読んだ。首肯する部分も多かったが、氏が資源エネルギー庁次長として関わった電力システム改革についてはもう少し踏み込んでほしかった。すなわち、「電力は自由化しても安定供給マインドのない、つまり容量を持たない人を市場参入させてはならない」「容量市場創設が自由化の前提」であるのに、現状は「太陽光事業者や一部新電力のつまみ食いを許している」という現状認識は筆者も共有するが、その元凶である余剰電力全量をスポット市場に限界費用で入札する大手電力による自主的取り組みに触れてほしかった。筆者の理解では、この取り組みは当時の審議会委員であった一部学識者が強く主張したものだ。その学識者は、需給がタイトなときの市場価格のスパイクにより固定費は回収できる、市場で固定費が回収できないとしたら、それは設備が多すぎるとの主張だった。

これは一つの考え方ではある。だが、政府がこの主張を採用する選択をするのであれば、信頼度目標を達成すべく政府が介入して、価格スパイクの可能性をふさぐべきではない。市場でコストが回収できる設備量こそ正しい設備量であり、設備形成はあくまで市場に委ねるのでなければ首尾一貫しない。残念ながら政府関係者のコミュニケーション不足か、この認識が共有されていなかったようだ。価格スパイクの可能性がふさがれた帰結として、設備の退出が静かに進展する。これに対する歯止めを企図して、容量市場の導入が決まったが、本格導入前のこの冬の需給はここ10年で最もタイトになっている。

若干の皮肉を込めて言えば、この状況は政策の失敗ではない。このようになる政策を選択した結果だ。問題は、そういう選択をしたのだという自覚に乏しい関係者が多いように見えることだ。だから、需給のタイト化も市場価格上昇も「これは予定していたことだ」とのメッセージが政府ないし当該学識者から出されないものか、いや出すべきではないかと、筆者は思っている。(U)

欧州電力危機と第四の電力価値「ΔkW時」


【ワールドワイド/コラム】水上裕康 ヒロ・ミズカミ代表

一般に電力の価値には「kW(容量)」「kW時(電力量)」「ΔkW(調整力)」の三つが挙げられる。ところが最近の欧州の電力危機を見ると、不足したのは一定期間の発電量を柔軟に増減する「ΔkW時」とでもいうべき第四の価値である。商取引でいうオプションだ。在庫を持てない電力の市場取引において、実は非常に大きな価値を持つものである。

欧州では昨年5月まで長引いた冬の寒さと、秋口の風力発電の不調に対してガス火力の発電量増加で対応したが、ガスの在庫が限界近くまで下がり価格高騰につながった。昨年のわが国の電力危機も、数週間にわたる需給変動に対して発電量を増減する能力の欠如が原因だ。対策として再生可能エネルギーや原子力を増やせとの声もあるが、再エネはかえって発電量の調整ニーズを増し、原子力は発電量の増減は苦手だ。結局、この任務を中心的に担うのは火力であり、その価値の源は燃料の柔軟な確保である。

燃料の柔軟な確保には、まず燃料種(炭・ガス・油)や調達先の分散、輸送の確保、備蓄の保有などの仕掛けが前提だ。加えて契約、売買スキル、取引相手との信頼関係が欠かせない。変動再エネが増えてΔkW時の要請が増す中、対応可能な電源をガス火力に集約し、そのガスも「じきに使わなくなるよ」と取引先にけんかを売るのは、ほとんど自殺行為だ。そもそもガスは貯蔵が容易でなく、需要は冬に偏り、LNGはスポット取引も限られる。相当量の在庫なしには、冬に発電量の増減などできないのだ。

今後、蓄電池やデマンド・レスポンス(DR)がΔkWを担うと言われるが、残念ながらΔkW時を担うのは容易ではない。毎冬繰り返される電力危機から脱却するためにも、脱炭素に向けた歩みを着実に進めるためにも、議論を深めたい“価値”である。

EUタクソノミーで欧州紛糾 ドイツ連立政権の選択が鍵に


【ワールドワイド/環境】

2022年1月1日、欧州委員会は持続可能な経済活動を分類する制度である「EUタクソノミー」に合致する企業活動に原子力や天然ガスを含める方向で検討を開始したと発表した。50年カーボンニュートラルを目指すEUは、その目的に実質的に貢献する事業や経済活動の基準を「タクソノミー」において明確化することで、クリーンな投資を促進しようとしている。

 タクソノミーでの原子力や天然ガスの扱いは、加盟国間で意見が大きく割れてきた。原子力への依存度が高いフランス、フィンランド、チェコなどは、CO2を多く排出する石炭火力からの移行を果たすために原子力は欠かせないとするが、原発廃止を掲げるドイツ、オーストリア、ルクセンブルクなどは頑強に反対してきた。

 欧州委員会が今回、このような方針を掲げた背景には欧州を席巻するエネルギー危機が大きい。欧州諸国は風力を中心に再生可能エネルギーを遮二無二推進する一方、ベースロード電源であった石炭火力は炭素排出量が多いとの理由で次々に閉鎖。その結果、再エネの出力変動の調整の役割を天然ガスが担うこととなった。しかしコロナ禍からの経済回復に伴い電力需要が拡大する中で、昨年は風況が非常に悪く風力発電の出力が大幅に低下する。欧州で天然ガス需要が例年以上に高まると同時に、世界規模で天然ガス需要が増加したことで欧州のガス価格は6倍にまで上昇。電力価格高騰が発生した。

 根本的な原因は化石燃料の需給ギャップだが、価格が上昇しても新規投資は停滞している。この背景には欧州発の環境原理主義に立脚する化石燃料たたきの傾向があり、COP26で化石燃料セクターへの公的投資の差し止めを求める共同声明に米国、EU諸国が名前を連ねたのはその表れである。

 長期化するエネルギー危機の下で、再エネ、天然ガス二本足打法の限界は明らかである。欧州委員会が天然ガス、原子力をクリーンエネルギーに加えたのはこうした行き過ぎた政策の軌道修正とみるべきだろう。しかしこれはあくまで欧州委員会の提案であり、今後、専門家グループの検討を経て欧州議会、欧州理事会で決定されることとなる。連立政権に緑の党が参加したドイツがタクソノミーに原子力を含めることをすんなり受け入れるとは考えにくい。熾烈なバトルはまだまだ続きそうだ。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院特任教授)

故荒木浩氏の思い出


【追悼】

東京電力、電気事業連合会の会長を務めた荒木浩氏が永逝された。

優れた時代感覚と実行力で、東京電力の改革を前進させた。

好きな天体観測の話になると思わず笑みをこぼす一面も

 時代の転換を自ら担う覚悟 先を読む力で「自由化」にも対応

「(私は)エリートじゃないから」。荒木浩氏は、東京電力のトップに上り詰めても諧謔的な物言いを変えようとしなかった。だがよく耳を傾ければ率直な心情と分かる。同じ総務部門を土台に強固な体制を築き上げた前任の那須翔元社長、経団連会長を務めた平岩外四元会長のラインと比べると確かにその経歴は、起伏に富んでいた。

東京生まれ、1954年東大法学部を卒業し入社。転機になったのは燃料部燃料調査課長の時である。絶大な力を持っていた上司と衝突し、行き場を失った。東電人生の危機、救ったのは慧眼の持ち主平岩総務部長だった。しかし英語が行き交うような前職場と比べると総務部門の仕事は過酷だった。人脈も細く苦労が積み重なった。

79年総務部長。やがて光明がさす。営業部門でくすぶっていた山本勝氏(62年京大法卒)を見出し、総務部門要職に就けるとまさに型破りの活躍をした。「清濁併せ呑んで物事をまとめあげる才覚、大胆で柔軟な発想」(荒木氏評)は、政・官・財・マスコミ各界に幅広い人脈を作り上げた。背番号のない同じ〝拾われ組〟の上司・部下の関係は、以後太いきずなとなり、東電改革にまい進する(山本氏は2001年不帰の人に)。

「普通の会社を目指そう」「『電』の字のつかない人と付き合おう」等々。93年社長、95年電気事業連合会会長に就任し、99年会長に退くまで荒木氏は、常にキャッチコピーを編み出し社員・グループ、さらには業界人へ呼び掛けた。

荒木経営の特色は、優れた時代感覚と実行力。〝聞く耳〟を持ち施策に結びつけた。バブル崩壊後の低成長下の電気事業を「初めて供給サイドから需要サイドへと事業運営のパラダイム変換が行われた時代」と見て「需要増~設備増強~資本費増大という悪循環サイクルを断ち切る」とした。電事連会長として「送電線を開放する」と表明した電力自由化も〝中年太り〟東電の改革に取り入れた。

「先を読む力」が備わっていて時代の転換を自ら担っていく覚悟があったのだろう。象徴的場面が、02年「東電データ不正問題」での荒木氏ら首脳陣5人の一斉辞任と次世代への引き継ぎである。過去の責任をとる形で平岩相談役の退任を含めた決断は、まさに戦後電気事業の総決算といった意味合いさえ感じる。その荒木氏を同世代の電力首脳は、「友人」「戦友」と呼び、付き合いは多年に及んだ。

懸案の電源開発の原子力進出問題が決着したのち、一方の田中眞紀子元科学技術庁長官は、「荒木さんは財界で一番笑顔が素敵」と伝えたことがあったという。そういえば好きな天体観測の話になると少年のような笑みをこぼすことがあった。笑顔も似合う人だった。

21年12月6日、90歳で逝去。

文:中井 修一/電力ジャーナリスト

ASEANで広がるネットゼロ アップル・アマゾンも資金援助


【ワールドワイド/経営】

第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)では、多くの国がネットゼロ目標を発表する中、各国のさらなる目標引き上げに向けて活発な議論が繰り広げられた。

 東南アジア諸国連合(ASEAN)では、COP26開催前からインドネシアが2060年ネットゼロを公表したほか、タイ(65~70年)、マレーシア(50年)もネットゼロを宣言し、これに追随してベトナムがCOP26で50年ネットゼロを発表し注目を集めた。さらに国としては目標未設定のフィリピンやシンガポールでも、現地企業が相次いで独自のネットゼロ目標を掲げ、政策立案に先行してカーボンニュートラルに向けたエネルギー転換に取り組んでいる。

 火力発電比率が約7割、石炭火力だけでも約3割を占めるASEAN諸国が突如ネットゼロにかじを切ったことは驚きだが、その背景には国際社会からの圧力に加え、気候変動による実害を受け始めた点が挙げられる。世界最大の群島国であるインドネシアや長い海岸線を持つベトナムでは海面上昇に直面、メコン川流域のラオスやカンボジアでは洪水が頻発している。

 ASEAN地域でネットゼロに向けたエネルギー転換の鍵を握るのは、省エネ・再生可能エネルギーの飛躍的な普及、CCUS(CO2回収・有効利用・貯留)などの脱炭素化技術、および社会全般の電化だ。ただしASEAN諸国は資源構成や経済発展の度合いが異なるため、目標経路にそれぞれ特徴が見られる。

 例えば、薪などの利用が中心のミャンマーの未電化地域では、系統整備や分散化電源による電化の加速が優先され、再エネの普及が遅れているインドネシアでは、火力発電の代替としての再エネ転換や遠隔地のミニグリッド構築が重視される。ベトナムのように近年急速に再エネ普及が進んだ地域では、既に出力変動への対応が課題として浮き彫りとなっている。

 国際エネルギー機関は、ASEAN地域の電力需要が今後も高い伸びを示し、40年には現在の約2倍に増加すると予想している。域内では経済発展と環境を両立させる取り組みが進展しているが、課題は資金不足だ。これに対し、最近ではアジア開発銀行による脱石炭火力スキームのほか、アマゾンやアップルなどによる巨額の投資ファンド設立といった支援の動きも活発化し始めた。電力・通信など基礎インフラの整備が遅れていたASEAN地域は最先端技術の導入による「リープフロッグ現象」のポテンシャルを秘めている。

(柳 京子/海外電力調査会調査第二部)

低コスト・低炭素で再評価 プレソルト開発を図るブラジル


【ワールドワイド/資源】

ブラジルの石油生産量はこの10年間で日量約100万バレル増加し、日量300万バレル程度となった。

 成熟油田の生産減退を補い、さらに生産増をけん引してきたのが、リオデジャネイロやサンパウロの沖に延長約1000㎞、幅約100㎞にわたり広がるプレソルト(下部白亜系岩塩層直下の炭酸塩岩を貯留岩とする地質構造)の油田だ。ブラジルでは2006年以降、プレソルトで大規模な油田の発見が相次ぎ、09年以降に順次生産が開始された。現在はプレソルトで生産される石油が同国の石油生産量の75%を占めている。

 当初、プレソルトの開発は国営石油会社ペトロブラスが中心となり進められていたが、17年にプレソルトの鉱区を対象とする入札が実施されるようになると、メジャーをはじめとする大手石油会社もプレソルトでの探鉱・開発に積極的に参入するようになった。最大の要因は、プレソルトの油田は、坑当たりの生産量が日量数万バレルと生産性が極めて高く、スケールメリットを生かして、低コストで生産が可能であることであると思料される。ペトロブラスによると、16~20年のプレソルトの石油生産コスト(操業費)はバレル当たり3・7ドルとなっている。

 順調に進むプレソルトの開発だが、19年11月以降のプレソルトを対象とする鉱区入札では入札する石油会社が少なく、低調な結果に終わり、石油会社のプレソルトへの関心が冷めたかと懸念された。

 しかし、直近の21年12月、プレソルトの生産中鉱区への参入を認める入札は、活況を呈した。すでに生産中の鉱区が対象とされたことや政府が入札条件を緩和したこと、油価が回復を見せていることなどに加え、世界的に脱炭素化への取り組みを求める声が高まる中、プレソルトの油田は温室効果ガスの排出量が少ないことが、石油会社の関心を集めたと考えられる。ペトロブラスによると、世界最大規模の沖合でのCO2再圧入プログラムを実施していることもあり、プレソルトの大規模油田ではバレル当たりの温室効果ガス排出量は0・01t以下だという。

このような状況から、低コスト、低炭素のプレソルトでは、生産中鉱区やその周辺鉱区を中心に、引き続き活発な開発が続き、ブラジルの石油生産量は増加を続けるとみられている。また政府は、さらに石油会社の関心を引こうと、22年以降は複数の種類があった鉱区入札の制度を一本化し、石油会社の負担を軽減する計画がある。今後の動向が注目される。

(舩木弥和子/石油天然ガス・金属鉱物資源機構調査部)

【マーケット情報/2月11日】原油続伸、供給不足感さらに強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み続伸。供給不足感が一段と強まり、買いが優勢となった。米国原油を代表するWTI先物は、11日時点で93.10ドルを付け、2014年9月末以来の最高価格を記録。また、北海原油の指標となるブレント先物も94.44ドルとなり、前週に続き、2014年10月初旬以来の高値となった。

ロシアのウクライナ侵攻の可能性が一段と高まり、情勢が緊迫化。米国の対ロシア経済制裁発動と、それにともなうロシア産原油供給の急減が危惧されている。

供給不安に加え、OPECプラスの生産不足に対する見方も広がっている。国際エネルギー機関(IEA)によると、OPECプラスの1月産油量は、目標を日量90万バレル程度下回った。IEAは、一部加盟国の増産が追い付かず、生産が計画を下回る傾向が続くと予測している。 米国の週間在庫が減少したことも、需給逼迫感を強めた。米エネルギー情報局が発表した先週の国内原油在庫は4憶1,039万バレルとなり、2018年10月中旬以来の最低を記録した。

【2月11日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=93.10ドル(前週比0.79ドル高)、ブレント先物(ICE)=94.44ドル(前週比1.17ドル高)、オマーン先物(DME)=90.47ドル(前週比0.18ドル安)、ドバイ現物(Argus)=90.14ドル(前週比0.25ドル高)

数学や統計データが苦手な朝日 受験シーズンは注意して読もう


【おやおやマスコミ】井川陽次郎/工房YOIKA代表

余計なお世話だろうが、朝日1月3日「声」の欄に掲載された読者の投稿を見て心配になった。

「今年こそ」をテーマに新年の抱負をまとめている。

例えば、90歳主婦は「声出して『天声人語』読み続ける」。東京都内77歳「山の動く日そろそろ来ないか」は「虐げられてきた女性の歴史の転換点」に、と。

朝日ファンらしい読者の思いが溢れる中で気になったのは、49歳会社員の「高校数学、30年ぶりに挑戦するぞ」である。高校生の娘の数学の教科書を目にして「今年は熱い思いで高校数学に挑戦したい」と宣言している。

志は素晴らしい。問題は朝日新聞を読むときの心構えだ。政治や経済の記事より客観的なはずの数学でも首をひねることがある。

中でも、同紙12月24日「ピタゴラスよ、遅かったな」「バビロニア人、三平方の定理使った測量図」には驚いた。

 「紀元前2000年ごろから数百年にわたって栄えた古バビロニアの遺跡で見つかった粘土板に、直角三角形の3辺の長さの比を表す数の組み合わせや、それを利用した図形の面積などが描かれているのが見つかった」との内容だ。

三平方の定理については「直角三角形の3辺は、斜辺の長さの2乗が、もう2辺のそれぞれの(長さの)2乗を足した数に等しい」「発見したとされていた紀元前6世紀の古代ギリシャの哲学者の名前から『ピタゴラスの定理』とも呼ばれる」とある。

アレレなのは、「バビロニア人は、三平方の定理を満たす数だけでなく、ルート2の正確な値や二次方程式の解法も知っていたとされる」の部分だ。絶対に、「ルート2の正確な値」を「知っていた」わけがない。

ルート2は正方形の1辺と対角線の長さの比である。中学校では近似値「1.4」も教えるが、あくまで近似値で、終わりのない数が永遠に続く。無限小数なのだ。

そもそも、正確な値が分かるならルートの記号は要らない。

ピタゴラスも正確な値があると信じていた。全ての数は分数で正確に表せるはず、と。だが、ルート2は分数で表せないと弟子が証明したため、船から海に投げ込んで殺したと伝えられる。

朝日は統計データもねじ曲げる。新型コロナウイルス感染を扱った12月28日夕刊コラム「素粒子」は「論拠の曖昧な対応を続け、夏に五輪を催し感染爆発、明らかな『失政』」と総括した。

理解に苦しむ。NHK9月10日「小池都知事 東京五輪・パラ開催による感染拡大への影響を否定」は、「小池知事は、1人が何人に感染を広げるかを示す『実効再生産数』が大会期間中に下降したデータを示し、『大会が感染爆発につながる、という懸念は結果としてなかった』と述べた」と伝えている。「データは8日開かれた厚生労働省の専門家会合で出された」という。朝日は、統計データが読めないのだろうか。

NHK8月6日「デルタ株、1つの起点から全国拡大か、 国立感染症研究所が分析」は決定的だ。

 「(同)研究所が遺伝子データを分析したところ、海外から首都圏に流入した1つの起点から全国に広がったとみられることがわかりました」と報じる。起点は「5月18日に首都圏で検出されたウイルス。さらに調べると、これと似たウイルスが4月16日に空港の検疫で見つかっていた」という。五輪よりだいぶ前だ。

受験の季節。朝日にご用心。

いかわ・ようじろう(デジタルハリウッド大学大学院修了。元読売新聞論説委員)

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鬼首地熱発電所をリプレース 末永く地元と共存できる存在に


【Jパワー(電源開発)】

東北屈指の温泉地のそばで40年以上にわたり運転を行ってきた鬼首地熱発電所。

グループの力を結集し、環境保全にも取り組みながらリプレース工事を進めている。

東北新幹線古川駅から北西に約‌60‌km。秋田・山形の県境にほど近い宮城県大崎市の鬼首カルデラに「鬼首地熱発電所」がある。宮城県内で唯一の地熱発電所だ。駅から発電所に向かう途中にある鳴子温泉郷は、400を超える源泉数を誇り、日本にある11種類の泉質のうち9種類もの泉質が集まる。みちのく随一の湯治場としても名高い温泉地だ。

湯けむりが風情を醸し出す鳴子温泉郷

この地熱エネルギー豊かな土地で鬼首地熱発電所が運転を開始したのは1975年。出力1万5000kW、東北地方の主要な地熱発電所として電力の安定供給に貢献してきた。40年を経てもなお、地下には今後も利用できる豊富な地熱資源があることが確認されたため、高経年化した設備の更新を決定。2017年に運転を停止し、19年からリプレース工事に入った。運転開始は23年4月の予定だ。

工事では、発電用の蒸気を得ていた9本の生産井と、取り出した熱水を地下に戻す8本の還元井を全て埋め戻し、新たに5本ずつ掘削する。蒸気タービン・発電機の性能が向上し、生産井を9本から5本に減らしても発電出力はリプレース前と同等の1万4900kWとなる。

グループの力を結集 より安全に配慮した設計

訪れた21年11月14日は、発電所本館の建設工事、生産井・還元井の掘削工事と配管基礎工事などを進めていた。ちょうどその日、5本目の生産井を掘り当てたところで、能力評価に移る現場には慌ただしくも活気が感じられた。

掘り当てた報告を受け、生産井の前で笑顔の茅野所長

同発電所の約13万9000㎡の敷地は、地熱活動が活発な自然噴気地にある。地表の温度が高く、硫化水素の噴出が認められる場所もある。敷地内は安全対策に万全を期し、地下50m地点の地温や地震、振動、傾斜を常時監視。異常が確認されると警報を出し、作業員を安全なエリアに避難させる。特に地熱活動が活発なエリアへの立ち入りは事前許可制にして記名を徹底させている。

リプレースではさらに安全性を高める設計にした。地表の温度が高いエリアに点在していた生産井と還元井をより安全なエリアに集約して発電する。

同発電所は、地下1000~1600mに滞留する約250℃の熱水を利用する。生産井は、一度地上から圧力をかけて減圧すると蒸気混じりの熱水が継続して噴出する。これを気水分離器で蒸気と熱水に分け、1時間に約130tになる蒸気のエネルギーでタービンを回し発電する。蒸気を一度だけ利用するシングルフラッシュ方式で、タービンを回した後の蒸気は復水器で冷却して温水に戻す。この温水は、蒸気と分離した熱水と共に還元井から地下に戻す。地下に戻った温水は年月をかけ、岩盤の割れ目を通って、地熱によって再び高温になり生産井から噴出する。地熱発電は天然の資源を循環再利用する、究極のエコ発電なのだ。

建設中の発電所本館。奥に見えるのは還元井

発電所では生産井を5本同時に使用して運転開始する計画だ。発電条件に合う生産井を掘り当てるのは難しいといわれる中、5本の生産井を全て掘り当てた。

茅野智幸所長は「地熱発電の開発では、資源開発会社が蒸気を供給し、電力会社が発電を担うことが多い。Jパワーは掘削から発電までをグループ内で行うので、ノウハウが蓄積されます」とグループの強みを話す。5本の掘削が100%の成功率になったのも、長年の知見の賜物だ。「一気通貫で技術が磨かれて、次の現場にも生かされます」

Jパワーは新たな地熱発電所建設に向け、近隣の高日向山地域で資源量調査に取り組んでいる。

築いてきた地元との信頼 地球と環境に配慮した発電

鬼首地熱発電所は環境や地域との共生にも力を注ぐ。1975年に運転を開始する前から、鳴子温泉郷のひとつ、鬼首温泉の源泉のモニタリングを毎月欠かさず続けている。運転中だけでなく、運転を停止している現在も源泉の温度や成分、湯量などが変わらないことを確認し、データを提供し続けている。温泉は地域にとって大切な観光資源。客観的なデータを示し、コミュニケーションを図ることで信頼関係を築いている。年に数回の事業説明会も設け、対話の場を作ってきた。

調査開始から数えると60年。鬼首で発電を続けてこられたのは、代々の所員がこうして地元との信頼関係を築いてきたからだろう。

近隣の川はかつて硫黄鉱山だったことを思い起こさせる 

信頼を得る努力は発電だけでなく、環境保全にも及ぶ。発電所は栗駒国定公園内に立地しているため安全教育と同じくらいの重要度で自然保護に関する入構教育を行う。気づかないほど小さな希少高山植物や、クマタカが生息しているので、新しい工事関係者が加わるたびに入構教育を行っている。

火山国である日本は世界第3位の地熱資源量を誇る。地熱発電は太陽光や風力のように自然条件に左右されず安定的な運用ができる再生可能エネルギーとして、大きな期待が寄せられている。カーボンニュートラル社会の実現に向けた取り組みの方向性と道筋を掲げた「ブルーミッション2050」では、25年度までに17年度比で150万kW増の再エネの新規開発を目標としている。

国も再エネに力を入れている現在、鬼首地熱発電所でも生産井を増やして、発電量を上げればいいのでは? と疑問を投げかけてみた。茅野所長は明確にこう答えた。「これからも長い期間発電を続けるためには、地球の恵みである地熱資源を適正な量で大切に利用し、自然環境にも地球にも配慮して発電していくことが大事なのです」

インフラメンテナンス大賞で受賞 煙突内部のドローン点検手法を開発


【関西電力】

 関西電力はこのほど、経済産業省、国土交通省などが行うインフラメンテナンス大賞で、「経済産業大臣賞」を受賞した。インフラメンテナンス大賞は、国内のインフラメンテナンスに関わる優れた取り組みや技術開発を表彰し、理念の普及とメンテナンス産業の活性化を図ることを目的としたものだ。全247件の応募の中から関電の「自律飛行型ドローンを活用した火力発電所煙突内部点検手法の開発」が同賞に輝いた。

火力発電所の煙突点検は、ゴンドラでの目視点検方式が主流だ。高さが200mにも及ぶ煙突内では、自律飛行して撮影するドローン技術が必須。だが煙突内は非GPS環境に加え一様な景色のため、一般的な映像認識技術だけでは安定した飛行ができない。

そこで関電はドローンに、①水平制御用カメラとLiDARセンサーを搭載し、水平を制御、②気圧センサーで高度を制御、③方位制御用カメラを搭載し、煙突底部のLEDテープライトを認識させ、方位角を制御―の三つの組み合わせで安定した飛行と高精度な点検が可能な手法を開発した。

鍵は煙突底部に設置するLEDテープライトだ。これにより、ドローンは円の中央と方位を保持しながら自律飛行で上昇し、カメラ正面の範囲を撮影する。1回の上昇で約200枚を撮り、別の方位に機体を回転させ撮影を繰り返す。画像は専用の画像処理ソフトで自動合成し、展開図化したものをチェックする。ひび割れの分布状況などをソフトで定量的に評価できるため、優先すべき補修箇所も見つけやすい。ゴンドラで目視点検する0・3mm幅のひび割れもしっかり捉え、既に自社設備の実点検で適用している。

開発した手法は多方面での活用に期待できる

ドローンの活用で仮設の足場が不要となり、工期も約90%を短縮。点検コストも約50%の削減につながった。何より高所での作業がなくなり安全性が向上した。

土木建築室保全技術グループの森井祐介さんは「ゴンドラ点検はその場で補修できるというメリットがある。ドローン点検と組み合わせて活用したい」と話す。

高さ方向の形状が同一であれば内部が金属であっても対応が可能で、ボイラーや石炭サイロ内部、水力発電所への活用も見込まれる。

洋上風力の点検にも期待 発電コストの低減に貢献

関電は、洋上風力でも自律飛行するドローン点検の実証を進めている。嶋田隆一チーフマネジャーは、「被雷して風車の点検が必要な時に、波浪で船が出せないことがある。ドローンならそのような場面でも迅速に対応できる」と、有用性を強調。いち早く確認ができれば、発電機会の損失を防ぎ発電コストの低減につながる。自社の開発技術を活用し、社会的コストの削減に貢献したいとしている。