<出席者>電力・ガス・石油・マスコミ/4名
エネルギー価格の高騰や電力不足が国民生活、産業活動を脅かそうとしている。
原発の再稼働など対策はあるが、日経新聞でさえ正しい情報を伝えようとしない。
―いよいよ本格的な夏を迎える。電力不足は解消されてなく、経済産業省は電力ひっ迫注意報を出しそうだ。
石油 いまだに「太陽光が発電しているのに、なぜ出力制御をするのか」「なぜ電気料金が上がるんだ」という記事を見かける。
太陽光発電ばかりに頼ると、太陽が沈み始めた夕刻、供給力が足りなくなるのは小学生でも分かる。太陽光発電の普及は火力発電とセットで考えなければいけないが、火力の燃料が高騰している。そのことをマスコミはきちんと説明しなければいけない。
電力 その通りだが、再エネに過度に肩入れする新聞はそうは書かない。例えば朝日は電力不足に関して、家電の上手な使い方とか、どう節電でしのぐかに紙面を割いている。送配電会社にだけ重い負担が掛かる最終保障供給の仕組みなどの記事は、まず見掛けない。電力が足りないことに対して危機感が伝わってこない。
マスコミ 確かに節電は大切だろう。だが、もっと本質的な問題がある。なぜ電気が足りなくなるのか。小売り自由化、原発停止、再エネの過度な普及と火力の廃止、制度・市場の機能不全―などが複雑に入り組んで今の状況になっている。それらを分かりやすく読者に説明するのが、本来のマスコミの役割だ。
ガス それは一般紙には難しいだろうね。経産省の役人でさえ、乱立している審議会の議論にどう整合性を取るか頭を痛めている。あえて言うと電気新聞だけは、例えばBWR(沸騰水型軽水炉)の再稼働までにかかる時間とか、ネットワーク利用の検討状況とか、分かりやすく説明する記事を継続して掲載している。それらを読んでいくと、問題の全体像が分かっていくような気がする。
もっとも、それらを丹念に記者に教えていくのがエネルギー会社の広報の役割だ。ただ、最終保障供給などは、30年前に議論した話。もう社内でも説明できる社員がいない。
日経が「危機」を認識 記事内容は相変わらず
―日経新聞が6月に「エネルギー危機 日本の選択」の連載を始めた。
電力 ようやく「危機」と認識し始めたと思った。その点は評価している。ただ、内容は相変わらずだ。「脱炭素は安定供給があってこそ」と書く。その通りだ。幻滅したのは、その後だ。「自由化で先行した英国は原発の新設に加え、運営にかかる費用を確実に回収できる事実上の総括原価主義すら復活させようとしている。日本の動きは鈍い」と続けている。
その総括原価主義や原発新設に難癖をつけて批判してきたのは誰だ。朝日、毎日、東京だけじゃない。日経もじゃないか。新聞社は記事や論説に責任を負え、とは言わない。基本的に無責任なものだと思っている。ただ、もう少し矜持らしきものを持ってもいいんじゃないか。
―この座談会の皆さんは日経に厳しい。
石油 それは、日経がビジネスの現場にいる人間が読む新聞だからだ。朝日、読売、毎日は主婦や年配者、学生などが主な購読層。だから、世の中の潮流に合わせた編集方針を取る。記者もその方針で記事を書く。それはそれでいい。
だけど、日経はそれぞれの分野のプロが読んでいる。当然、専門的な知識や豊富な取材を経た記事を求める。しかし現実は、この座談会でさんざん批判してきたように、kWとkW時の区別がついているのか分からない記事を掲載する。残念なのは、じゃあ日経以外に読む経済紙があるかというと、ないことだ。
―確かにフジサンケイビジネスアイは休刊したし、日刊工業新聞は読者層が限られているようだ。
電力 日経の「経済教室」は時々、エネルギー問題を取り上げる。5月に「検証 電力システム改革」のテーマで、東大の大橋弘教授と都留文科大のT教授を登場させていた。
大橋さんの論文はオーソドックスなものだった。ただ内閣府の再エネタスクフォースなどで、再エネの推進に執着しているTさんの主張は、この人は本当に電気事業を正確に理解しているのか、首をかしげる内容だった。
マスコミ 結局、自分たちの意向に沿った学識者しか登場させない。エネルギー危機の連載も「英国では」とか「ドイツでは」とか、他の国の積極的な例を取り上げているが、同じことを日本が進めると
「まだ国民的議論が足りない」で締めくくる。よっぽど自虐的に「日本はだめだ」と言いたいらしい。この新聞の編集者は皆、マゾヒストなのかと思うよ。
原子力はチャンスの年 「40年ルール」見直しも
―やはり原子力はマスコミの「応援」を期待できないようだ。
電力 もう応援などとは言っていられない。実は、今年は原子力が進展するチャンスの年だ。関係者は着々と布石を打っている。
―具体的には。
電力 原子力委員会は今年、原子力の利用について「基本的な考え方」をまとめる。これは閣議決定もして、政府はその内容を尊重する。関係者はここにエネルギー安全保障、カーボンニュートラルの観点から、原子力の活用を最大限盛り込むよう、根回しを進めている。秋に閣議決定されたら、「40年ルール」の見直しなど、一気に原子炉等規制法の改正にまで踏み切るとみている。
マスコミ 与党が参院選に勝利したら、「黄金の3年間」を迎える。その期間に、必要なことをどんどん進めてほしい。
―まさに岸田政権の姿勢が問われる、あっ、日経と同じ書きぶりにしてしまった。









