銅の需給バランスに陰り 過剰なエネルギー消費の見直しを


【リレーコラム】新井 智/パンパシフィック・カッパー代表取締役副社長

 非鉄金属の製錬メーカーへ入社以来40年近く銅と関わっている。「電気」を効率的に伝導する役割を担う銅について考えてみたい。

銅の世界生産量は年間約2400万tと推定される。資源は偏在しており、チリ、ペルーなどの南米地域で約4割を占める。粗鉱中の銅品位は1%以下であり、2400万tの銅を作るために年間30億t以上の鉱石を掘り出している計算となる。また、開発環境が整っている地域での資源残存量は減少している。今後は高地、極地、紛争地への資源依存が大きくなりそうである。SDGs(持続可能な開発目標)が義務化されつつある中、新規の資源開発はハードルが高くなるだろう。

一方、消費は送電線用途、建物内配線・インフラ用途がそれぞれ28%、通信機器・電気製品用途が20%、鉄道・自動車など輸送関連用途が10%程度と推測。世界的な電気の普及に伴って、各家庭、オフィス、工場などの送電線需要は成長が続いている。最近はデジタル技術の進展、生活水準の向上に伴って通信機器・電気製品用途、ビル・住宅用配線用途が増加している。各住宅に複数のエアコン設置、各人が複数台持ちの携帯電話、パソコン、オール電化住宅、高層ビルのエレベーターなど、便利で快適な生活のため、過去20年間で銅の世界消費量は約1・6倍になった。

銅の消費増加トレンドに変化なし

今後は内燃機関から電気動力への置き換えが進んでいく。発電場所からの送電、蓄電、モーター、電子制御装置と銅の活躍する場は増加しそうである。自動車1台当たりの銅使用量が50㎏増加すると、世界の年間自動車生産量が1億台としても500万tの銅消費増となる。新興国を中心とした生活水準の向上は続くため、消費増加トレンドに変化はないようだ。資源開発の困難化を考えると、将来の銅需給バランスは不安定になる可能性がある。リサイクル比率の向上、製品技術高度化による省銅化、代替素材研究など、供給面での取り組みは急速に進んでいるが、それだけでは心もとない。

この傾向は銅に限らず、エネルギーについてもCO2削減目標の中、増大する電力需要を賄う方策についての議論がマスコミをにぎわせている。環境負荷を軽減するために再生可能エネルギーの整備を進めることも大切であるが、過剰なエネルギー消費を見直すことも肝要ではないか。街中にあふれている24時間営業の店はこんなに必要なのか。EV(電気自動車)が大型でラグジュアリーである必要はあるのか。昭和のオヤジとしては大いに気になる。

あらい・さとし 1983年日本鉱業(現JX金属)入社。入社以来、営業部門に在籍して銅、鉛・亜鉛、環境リサイクル、機能材料部門に従事。2017年からPPC執行役員、21年から現職。

※次回は飯野海運常務執行役員の小薗江隆一さんです。

【マーケット情報/4月22日】原油下落、需要後退の見通し


【アーガスメディア=週刊原油概況】

4月14日から22日までの原油価格は、主要指標が軒並み下落。需要後退の見通しにより、売りが優勢に転じた。特に、米国のWTI先物と北海原油の指標となるブレント先物は22日時点で、それぞれ前週比4.88ドルと5.05ドルの急落となった。

中国は引き続き、上海など複数の地域でロックダウンを導入している。上海では、工場の再稼働など一部経済活動の規制を緩和する計画だが、ロックダウン全面解除の見通しは立っていない。経済の冷え込みにともない、石油需要が後退するとの見方が一段と強まった。また、同国における製油所の稼働率低下も、需要の弱まりに拍車をかけている。定修や、ロックダウンおよび石油価格高騰が背景にある。

加えて、国際通貨基金は、ロシアのウクライナ侵攻を受け、今年と来年の経済成長見通しを下方修正。石油需要が落ち込むとの見方がさらに広がり、価格の弱材料となった。

また、米国が、戦略備蓄3,000万バレル全量の販売契約を締結したとの発表も、需給を緩める一因となった。

他方、ドイツは、年末までにロシアからの原油輸入を完全に停止すると表明。加えて、米国の週間在庫は減少した。ただ、こうした供給逼迫の要因は、価格の上方圧力とはならなかった。

【4月22日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=102.07ドル(前週比4.88ドル安)、ブレント先物(ICE)=106.65ドル(前週比5.05ドル安)、オマーン先物(DME)=104.97ドル(前週比0.39ドル安)、ドバイ現物(Argus)=105.13ドル(前週比0.41ドル安)

【需要家】製造業の死活問題 エネルギー危機に備えよ


【業界スクランブル/需要家】

気候変動対策で脱石炭を進めてきたドイツは、一次エネルギー供給の2割強を占める天然ガスの過半をロシアからの輸入に依存している。ロシアによるウクライナ侵攻に伴うその途絶は、社会経済に深刻な打撃を与える懸念がある。

そんな中でドイツは、昨年末に稼働中の6基の原発のうち3基を休止させ、本年末に残る3基を休止し脱原発を完了させる計画だ。脱原発を党是としてきた緑の党出身のハーベック経済気候保護大臣は、ウクライナ侵攻を受けて「原発稼働延長についてイデオロギーで否定はしない。タブーはない」といったん述べたものの、その後さまざまな制約があり稼働延長は「推奨できない」と表明。あらゆる代替策が模索されているようだ。

片や日本は、電力の約4割を輸入LNGで賄い、その約8%が長期契約で供給されるロシア産LNGである。これが経済制裁によって途絶すれば、たちまち備蓄の少ないLNGの不足をもたらす。他の供給地から調達するにしても、歴史的な高騰を続けているスポット価格での調達を余儀なくされ、ガス代や電気料金を押し上げることは間違いない。石油や石炭などの代替燃料も、昨年来の高騰が続く中、ロシアの侵攻により歴史的な値上がりを見せ、エネルギーインフレは不可避な情勢といえる。これは日本のエネルギー多消費産業にとっても、死活問題となる深刻な事態である。

緊急事態に安価で安定的なエネルギーを大規模に供給できる当面唯一の代替手段は、休止中の二十余基の原発である。一次エネルギー供給の85%を輸入化石燃料に依存し、天然ガス、石油、石炭をロシアから輸入している日本も、安全基準を満たした原発の一刻も早い再稼働を進めないと、深刻なエネルギー危機に直面しかねない。(M)

4号機建屋を大きく破壊 すさまじい水素の爆発威力


【福島廃炉への提言〈事故炉が語る〉Vol.13】石川迪夫/原子力デコミッショニング研究会 最高顧問

福島第一事故での海外の関心は、当初燃料を取り出したのに爆発した4号機にあった。

爆発原因が3号機からの水素流入と分かって、海外の不安は収まった

 4号機の爆発は、3号機の水素が漏れ込んで起きた。この事実は今でこそ有名だが、原因が分かるまでは「日本は真実を伝えない」と、世界中から苦情がきた。

事故当時、4号機は原子炉を停止して燃料は貯蔵プールで保管していた。原子力発電所の爆発は、それだけで大ニュースだが、世界を震撼させたのは米国の過剰な懸念にあった。米国はこう考えた。地震で燃料プールが壊れ、水が流出して保管中の燃料棒が溶融し、水素爆発が起きて放射能が漏れ出たと。水のない、裸のプールからの放射能放出となれば、チェルノブイリと同じだ。米国は在日米国人の80㎞ 圏内への立ち入りを禁止し、トモダチ作戦の開始を控えた。TMIの避難騒ぎも同じだが、心配による風評が原子力事故を大騒動に仕立てる。

米国が震えれば世界も震える。英国を除いて、東京駐在の各国外交官やマスコミ記者はわれ勝ちに日本を脱出した。民主党政府もこのうわさを信じて、自衛隊ヘリに海水散布を命じた。家族を外国に避難させた有名議員もいた。

だが、4号機の燃料プールは壊れていなかった。水も十分にあった。調査をすれば直ぐに分かったことだが、調査なしの行動は、全てが無用で、無駄であった。

私事になるが、僕は事故前日の3月10日、福島第一の見学で⒋号機プールを見ている。事故後の3月16日、自衛隊ヘリが天井の壊れた隙間から青い水のあるプールを撮影した映像をテレビで見た。3月23日、ワシントンに行きこの話を原子力規制委員会(NRC)や原子力エネルギー協会(NEI)にしたが、既知のヤッコ委員長を除いて多くは半信半疑で、ではなぜ⒋号機は爆発したのかと、返事のできない逆襲に遭った。当時の世界の関心は、1~3号機よりも4号機にあった。

水素はなぜ流入したか スタックの設計に原因

4号機への水素流入は、3、4号機の建屋排気を1本のスタック(排気筒)から放出する設計に原因があった。排気はスタックの底で合流して大気に放出されていたが、事故当時は停電でファンが停止したため、3号機の排気ガスがスタックの底から4号機建屋に流入して、中の水素が爆発したのだ。

この事実が判明したのが8月末だ。4号機の排気フィルターの汚染が通常とは逆で、出口側が入口側より高いことを測定で見つけたことによる。水素ガスの逆流を証明する動かぬ証拠で、世界はこれで安堵した。発見職員の功績は、昔なら金鵄勲章ものだ。「まだ言い張るのか」との僕への外国メールも9月末に止まった。

福島第一の事故跡を見学できたのは12月、寒い日だった。発電所付近の放射線はまだ高く、バスでの見学だった。構内には津波のつめ跡が点在し、発電所外壁と垂直配管の間には流された自家用車が挟まり、宙づりになっていた。

海水ポンプ近くの岸壁と4号機の入り口では下車を許された。海水ポンプは津波をかぶって停止していた。4号機建屋の放射線量は微量だが、内部の破壊は複雑で、多岐にわたっていた。子どものころの空爆で経験した(500㎏爆弾と聞いた)、家を壊し地面に大穴を開ける単純な爆破とは大違い。水素爆発は複雑ですさまじい。

爆発は4階で始まったらしい。4階の床には大きな球形の浅いへこみの爆心点の跡が明確に残っていた。破壊力の強い水素爆発が、爆心点の痕跡を床に残すとは珍しいと思った。

爆心点の近傍にあった排気ダクトに、燃料プール上面の吸入口がつながっていた。この吸入口にかぶせたゴミよけのネットが、爆発後は吸気とは逆向きに、外側に向かって突き出していたという。

これらの所見から、爆発の経過は次のように説明されている。最初に4階のダクトの中で、水素火災が発生した。この火災で、吸入口のネットが外側に膨らんだ。火災の炎はダクト排気口から外に出て、4階の天井にたまっていた水素ガスに着火して、小さな爆発を起した。その痕跡が前述の爆心跡という。

この小爆発は5階に伝播し、広いフロアの天井にたまっていた大量の水素ガスを爆発させた。5階の壁のほぼ全てが外側に向かって倒れていた事実から見て、爆発の力は肩を突くように、壁の上部を強く押したと思われる。壁がなくなった5階フロアは屋上と変わり、見学では隣の3号機の破壊が目の前に見えた。

5階から1階の出口までの帰路は、破壊跡を避けた曲折の仮設通路で、両手両足を使って体操さながらの全身運動だった。現場に居た時間は30分くらいだったろうか、受けた放射線量は0・01mSvほどの軽微なものだったが、その大部分が5階屋上で浴びた3号機の放射線との話であった。この程度の汚染であれば、4号機の解体工事は早期に可能と思った。

僕のSPERT(Special Power Execurtion Test)留学の昔、日本人が居ると聞いて出張で来た老研究者が訪ねてくれた。爆発についての経験談を話してくれた最後に、「最も恐い水素爆発は横に飛ぶ」と話した。なぜかと問うと、「知らない。水素は怖いから直接触っていない」と笑った。

その言葉通りに、テレビで見た1号機爆発の映像は、5階の天井に沿って横向きに火を吹いた。軽い水素は天井の上部に集まって濃くなり爆発性ガスとなるので、爆発は横に走るのであろう。

【再エネ】最大限の導入 その近道は


【業界スクランブル/再エネ】

 ロシアのウクライナ侵攻は、エネルギー安全保障の問題を改めて浮き彫りにした。再生可能エネルギーを巡っては、脱炭素などの観点から再エネシフトを一層加速させるべきとの声がある一方で、現実路線として原子力も含めエネルギー源、供給先などの多様化を求める声が大勢を占めている。再エネ最大限導入方針は踏襲しつつも、取り組みの後退は避けられないとの見方が一般的だ。

そうした中、最大限導入のためには地域共生に向けた制度整備が鍵を握るとみる向きもある。菅義偉政権の時、河野太郎規制改革担当相や小泉進次郎環境相らの下で太陽光発電や風力発電、地熱発電などの設置促進に向け、環境アセス法や自然公園法、農地法、森林法などの規制が相次ぎ緩和された。その全てを否定するものではないが、これら規制改革において地域共生の取り組みがなおざりにされたために、地域の再エネに対する警戒感、反発を強めた感は否めない。

いま注目されているのが、環境省が地球温暖化対策推進法を改正して創設した「地域脱炭素化促進事業制度」だ。4月1日付けで施行される。

自治体は、国や都道府県が定めた基準を踏まえて「地域脱炭素化促進区域」を設定し、「地方公共団体実行計画」を策定。市町村が認定した民間事業者の事業計画を、国や自治体が手続きの合理化、アセス特例措置、財政措置などにより後押ししていく仕組みだ。今後、制度がうまく回るのかも含めて、行方が注目を集めている。

ただ、再エネの立地は同法に基づくものだけではない。結局は環境アセス法や電気事業法、保安規制など、しっかりとした法規制に基づき地元住民らと地域共生の関係を構築し、設備などの適正な立地を促していくことが近道と思われる。(O)

高騰対策の補助金上限引き上げへ 政府の次なる打ち手の評価


【多事争論】話題:石油価格高騰対策

石油元売りへの補助金上限の引き上げに続き、トリガー条項解除も検討され始めた。

この政府の対応について、有識者や石油業界関係者はどう反応しているのか。

〈 補助金方式の実効性と公平性に疑問 政府に求められる「根治療法」 〉

視点A:橘川武郎 国際大学副学長・大学院国際経営学研究科教授

3月10日から、石油製品価格の激変緩和策の一環として、ガソリン価格の上昇を抑える補助金の上限が、1ℓ当たり5円から25円へ、大幅に引き上げられた。この補助金が昨年12月に始まった当初から、その実効性と公平性には疑問が持たれていたが、これらの懸念は、補助金増額によって一層強まった形だ。

補助金は、ガソリンの小売価格の全国平均が1ℓ当たり170円を超えた場合、石油元売り会社などに支給される。ガソリンだけでなく、軽油や灯油、重油も対象とし、政府は4油種共に卸価格の上昇を抑制するよう元売りに要請する。その後、元売りの卸価格と販売量の実績を確認した上で、補助金を支給するという仕組みだ。

実効性に関してまず問題視されているのは、元売りへの支給という「迂回路」を通すため、補助金の支給幅通りに末端の小売価格が抑制されるか不確実だという点だ。支給幅が5円だった時期にも、卸価格はその通り抑えられたものの、小売価格の抑制額がそれを下回ったり、抑制そのものに時間がかかったりするケースが全国的に数多く観察された。

何よりも補助金の実効性を危うくしているのは、世界的に原油価格が高騰しているという事実である。原油価格は、新型コロナ禍による規模縮小からの経済の回復による石油需要の拡大、脱炭素への流れの高まりによる石油上流部門への投資の低迷、産油国の増産への消極的な姿勢などの影響で、2020年半ばから上昇傾向をたどるようになった。それが22年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻によって、文字通り「急騰」の様相を呈するに至ったのである。本稿を執筆している前日の3月7日には、ロンドン市場で北海ブレント原油先物の期近物が1バレル139ドルにまで上昇した。

要するに日本政府がいくら補助金を積み増しても、原油価格上昇の勢いの前には「焼け石に水」なのである。この点が、補助金の実効性に疑問が生じる最大の要因となっている。

元売りへの補助では事足りず 石油危機と同様の危機感を

公平性に関しても問題がある。元売りへの補助金支給という迂回路方式では、卸価格が一律に抑制されても、最終的な小売価格への反映には差異が生じる。地域や販路によって小売価格の抑制効果に違いができるのは避けられないのである。

より深刻な不公平性もある。迂回路方式では、ガソリン・軽油・灯油・重油の供給が全て石油元売り会社によって担われているという前提で、元売りへ補助金を支給すれば「事足れり」と考えているわけだ。しかし、これは必ずしも実態とは合致していない。日本には、数社であるが重油の生産・販売を行うナフテン系潤滑油の中堅メーカーが存在する。現在、市場で販売されている潤滑油の多くは、中東産などの原油から精製されるパラフィン系ベースオイルを使用しているが、一部ではベネズエラ・米国・オーストラリア・ロシア産原油などから精製されるナフテン系ベースオイルも用いている。ナフテン系潤滑油は独特の性状を有し、市場で根強い人気がある。

問題はこれらのナフテン系潤滑油メーカーが、重油の供給元でありながら石油元売りではないという理由で、今回の補助金支給対象から外されていることである。小売市場では、補助金を受けたメーカーが供給した重油か、補助金を受けていないメーカーからの供給かについて区別しないから、補助金相当分の価格抑制圧力が全ての重油にかかることになる。補助金を受けていないこれらのメーカーは、この圧力をそのまま自社負担で吸収するしかない状況に追い込まれ、経営上重大な損失が生じている。しかも補助金の増額によって、この損失は甚大な規模になりつつある。これが、メディアがあまり報じていない、今回の補助金支給が持つ不公平性の別の側面である。

石油製品価格の激変緩和を公平に進めるためには、トリガー条項の凍結を解除し、ガソリン税の上乗せ分1ℓ当たり25・1円、および軽油引取税の上乗せ分が同17・1円の課税を停止する「直接方式」を実施することが望ましい。ただしこの方式にも限界がある。消費者や事業者を苦しめる灯油や重油の値上がりに対しては効果を発揮しないからである。

このように見てくると、そもそも石油製品価格の激変緩和策という「対症療法」では、問題を解決できないことは火を見るよりも明らかである。ロシアのウクライナ侵攻以前から進む原油価格の高騰に対しては、1970年代に石油危機に直面したときと同様の危機感を持って、エネルギーに関わる法体系の抜本的改定を含む「根治療法」で臨む必要があるだろう。

きっかわ・たけお 1975年東京大学経済学部卒、東大大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。一橋大学教授、東京理科大学大学院教授を経て2020年4月から現職。

【火力】長期の電源投資 議論の迷走を懸念


【業界スクランブル/火力】

 昨年後半から長期の電源投資を促す仕組みの検討が始まったが、ここにきて議論が迷走しているようだ。そもそもこの検討は、中長期の費用回収の予見性を高めることで、安定電源ではあるが建設期間が長く投資額が大きい大型電源への投資を促し、供給力の安定確保を図ろうとするものだ。

ところが、事務局の提案によると、入札時に他市場収益をゼロとして応札させ、後で一部を還付させるのがシンプルな設計だとしているが、その場合「固定費負担の軽いものほどオークションで有利」であるとも言っており、その結論では、いつの間にか当初の方向性から見て真逆になってしまっている。

このように、はたから見ていておかしな論旨がいくつか見受けられるが、そうなる原因は、実態と合っていない事柄を議論の前提として置いているためであると思われる。その主なものを指摘したい。

一つ目は、「シンプル」とか「公平」の名の下に、性能がかけ離れている各電源種を同一に扱っていること。つまり、安定電源でかつ調整力にもなる火力や一部水力、天候に左右される太陽光や風力、充電しなければ稼働できない蓄電池や揚水、この3種を特性も考慮せず、ごちゃ混ぜに扱おうというのは、あまりに乱暴というものだ。

もう一つは、可変費や運転維持費などの定義が曖昧な点。説明によると可変費=燃料費で、運転維持費は固定費に割り振られているようだが、修繕費などを含む運転維持費は、その時々の設備の運用状況に応じ変化し続けるものであり、それを応札時点で見通しておくことなど現実的には不可能だ。

他にも突っ込みどころが散見される。地に足を着けた議論を意識しないと、さらに迷路に迷い込むことになりそうだ。(S)

【原子力】ウクライナ侵攻 割れる意見


【業界スクランブル/原子力】

原子力発電についての議論が高まっている。ロシア軍のウクライナ侵攻に伴ったもので、再稼働やリプレースなどについて肯定的、否定的な二つの意見がある。SNSなどで熱い論戦が交わされている。

まず肯定的な意見。侵攻により西側諸国がロシア産の原油・天然ガスの輸入を止めたことで、既に高騰していた価格の上昇に拍車が掛かった。政府は備蓄原油の放出などの手を打ったが、市場価格自体を抑えることは不可能。石油元売りへの補助金投入も焼け石に水だ。市民生活や産業界がエネルギー価格の上昇に悲鳴を上げつつある中、国が唯一打てる策は原発の再稼働となる。

さらに、ロシアが国際ルールを破って侵攻したことで、完全な「商品」だった原油、天然ガスなどが「戦略物質」になったことを挙げる。「ウクライナの次は台湾」との見方があり、化石燃料などの供給途絶は現実にあり得る。エネルギー安全保障の点から、供給源がオーストラリア、カナダなど信頼できる国で、長期間の燃料備蓄が容易な原発の役割が欠かせなくなる―という主張だ。

一方、否定的な意見。ウクライナへ侵攻したロシア軍は、チェルノブイリ原発、ザポロジエ原発を制圧した。ロシア側の真意は測りかねるが、ミサイル攻撃や砲撃で原子炉圧力容器や使用済み燃料などを破壊、放射性物質を周囲にまき散らすこともあり得る。

最近、北朝鮮が頻繁に弾道ミサイルを発射している。核弾頭を装着しなくても、もし日本の原発が狙われたら、被害は福島第一原発事故の規模では済まない―と訴える。

どちらの主張にも、それぞれ説得力がある。今、世論調査を行ったら、国民はどちらの説を支持するだろうか。(S)

駿府城・静岡市の特性を生かす 官学民連携で新たな脱炭素モデルへ


【羅針盤(第1回)】中井俊裕/カーボンニュートラル・ラボ代表取締役/静岡大学客員教授

官学民連携を通じて脱炭素型の街づくりを目指す静岡市。

江戸・銀座が手本にしたという駿府城下町ならではの取り組みを紹介する。

 カーボンニュートラル社会の実現に向け、エネルギー分野の技術開発のみならず制度設計、金融システムなどあらゆる分野で世界が動き出している。

新聞紙面でも連日のようにESG(環境・社会・ガバナンス)、SDGs(持続可能な開発目標)といった言葉があふれ返り、これまで環境分野の問題であった気候変動が、サステナブルファイナンス、グリーンボンドなどをはじめとした経済の世界に移ってきていることが実感できる。

一方で、いまだに、企業や個人において気候変動対策はいわゆるコストであり、企業においては利益を圧迫させるものと捉えられている。家庭においては消費財支出の増加であり、車を例にとると、通常のガソリン車よりも高額なハイブリット車を購入しなければならないといった観点で認識されている。特に企業においては、環境投資の評価の仕方などが、エネルギーコストをいかに削減できたかによって評価されるケースが多いのではないだろうか。

さらに、企業の社会的責任(CRS)の観点においては、寄付と同じ位置付けになっているようにも感じている。しかしながら、カーボンニュートラルという新しい社会システムへの移行を目指すには、この考え方を転換していくことが必要で、それを達成した企業こそが次代型企業として認められていくのだろう。

地球規模というくせ者 考え方の転換が重要に

では、どのように考え方を転換すべきなのか。その答えの一つがCSV経営である。CSVとは「Creating Shared Value」の略称で「共通価値の創造」という意味。米ハーバード大学のマイケル・ポーター教授が提唱した概念である。ポーター氏は社会価値によって経済価値を創造することで、ブルーオーシャン市場を創り上げることにもなり、持続可能な事業モデルにもなると説明している。

これをカーボンニュートラルに置き換えると、脱炭素の価値をいち早く見極めて新たな取り組みを行い、地域に対して社会価値を還元する。結果として、顧客や投資家、社員などのステークホルダーらの支持が広がり、持続可能な企業に発展していくことができると考えられる。

ところが、「現実的にカーボンニュートラルへの対応にどのように手をつけるか」という設問に対しては、なかなか答えが見いだせないことも事実である。その原因の一つとして、カーボンニュートラルという問題の設定が地球規模であり、かつ2050年をゴールにするという長期の時間軸設定であることが挙げられる。

この地球規模というところがくせ者であり、問題を遠ざけているような印象を受ける。温暖化ガスの排出によって気候変動に至る過程というのは、個々のミクロの現象が相互に作用し、結果として大きなマクロ的な現象が生み出されることに間違いない。ところが、精神的にも自分だけが環境に良いことをしても何も変わらないのではないかといった、人ごとになってしまうことが課題として挙げられる。

時間軸の観点においても、「今、行動を起こす必要があるのか」といった、人間特有の先延ばしをする傾向もマイナスに働いているのではないだろうか。そして、なかなか気候変動対策が進まない理由の一つとして、主導する主体が不鮮明であることも挙げられる。

新たなプロジェクト発足 最新技術を用いて実践へ

そこで、中井俊裕カーボンニュートラル・ラボ(NCL)では、「カーボンニュートラル城下町」を目指すべく、静岡市の大手事業者、地域の大学、自治体、エネルギー企業との連携を通じて、段階を経ながら街づくりを行っていくことが目標だ。

カーボンニュートラル城下町形成のための連携

静岡市内の主要企業との関わりについては、各企業における環境問題に対応するための組織のあり方やカーボンニュートラルを中期計画などの事業経営の中にいかに落とし込むのか、そして、どのように実践していくべきか意見交換を行い、さらには社員への環境教育などを実施していく。

静岡経済研究所が22年2月に発表した県内企業を対象としたアンケートの調査結果においても、8割以上の企業がカーボンニュートラルへの対応について必要性を感じているとの結果であった。

その8割の内訳を見ると、2割は積極派、その他の6割は必要が生じれば対応せざるを得ないといった消極派であり、まだまだ「やらされ感」を感じている企業が多いことが分かった。従って、先行的にいくつかの企業とCSVの実践を試み、まずは地域の事業者の意識の転換を図ることが重要だ。

次に、静岡大学との連携も今後が楽しみな分野である。静岡大学内でもカーボンニュートラルが未来の社会デザインをする上で、とても重要な要素だと位置付けている。現在、大学内にすでに蓄積されている研究の成果などを、地域のカーボンニュートラル推進に役立てるために、NCLが率先して地域との橋渡しを行い、静岡大学の知を存分に生かすことができるフィールド開発を進めている。

自治体との関係づりでは静岡県の県議会に組織されている「脱炭素社会推進特別委員会」の参考人として、特別委員会に所属する議員と意見交換を行っている。そこでは、各企業の現場の声を県議会に届けつつ、相互の意思疎通を図れるような役割を果たしていきたい。残念ながら、特別委員会は1年間という期限があるため、23年度からは少し名称などは変更があるものの、基本的な関係は継続していく。

最後に、最もカーボンニュートラル社会実現への期待が大きい「地域のエネルギー企業」とも意見交換を通じ、最新の技術を用いたプロジェクトの実践などを推進していきたい。そして、このようなネットワークが静岡に生まれることで、江戸の銀座が駿府城下町を手本にしたように、静岡発全国へという流れをつくっていくことを目標に掲げている。

なかい・としひろ 1986年宇都宮大学工学部卒、静岡ガス入社。静岡ガス&パワー社長などを経て、2022年3月退社。中井俊裕カーボンニュートラル・ラボを設立し現在に至る。

【石油】静かなる石油危機 戦争とファンダメンタルズ


【業界スクランブル/石油】

原油価格はウクライナ侵攻で100ドルを超し、高止まりを続けている。確かに、昨今の価格上昇の最大の要因は、間違いなくウクライナ情勢の深刻化であるが、その背後にある石油需給のファンダメンタルズも忘れてはならない。

2020年のコロナ禍のパンデミックからの経済回復が予想以上に順調で、石油需要が伸びている一方で、産油国側の増産が遅れており、国際石油市場では21年年初以来、供給不足による需給ひっ迫が続いている。OPECと非加盟主要産油国からなるOPECプラスは、昨年8月以降、毎月日量40万バレルの減産緩和(増産)に合意しているが、参加各国の増産余力がないため、半分程度しか増産できておらず、IEA(国際エネルギー機関)によればトータルの許容生産量に日量90万バレル達していないという。

従来の価格回復局面では、OPEC内で、違反増産が横行し、価格が乱れることがあり、「OPECサイクル」と揶揄されたが、今回はそれが全く見られない。また、価格回復とともに、増産投資も行われたものだった。さらに、過去、増産志向で生産拡大を争ってきたサウジアラビアとロシアも、慎重な増産姿勢を崩していない。どこかの時点で、価格維持への政策転換があったとみるべきだろう。

増産の遅延は、米国も例外ではない。明らかに産油国側のビヘイビアは変わっている。同時に、石油投資に対する抑制傾向が高まっている。やはりその原因は拙速な脱炭素政策に求めざるを得ない。将来の座礁資産(投資回収不能資産)への投資は慎重にならざるを得ないし、稼げる間に確実に稼いでおきたいと考えるのは当然であろう。ウクライナ問題を含めて、エネルギー安全保障を再考する時期なのかもしれない。(H)

【検証 原発訴訟】リーディングケースの「伊方最判」 炉規制法の趣旨をどう解釈したのか


【Vol.1 伊方最判①】森川久範/TMI総合法律事務所弁護士

福島原発事故発生から11年。事故前後で原発訴訟はどのように変わったのか。

それを事業者はどう受け止めるべきか。原発訴訟に詳しい弁護士の分析を年間連載で紹介する。

 今回から12回にわたり、訴訟担当弁護士の実務的視点から原子力発電所訴訟の重要な判例・裁判例を検証する。第1~3回では、原発訴訟のリーディングケースである、伊方発電所に関する最高裁判決(1992年10月29日)を解説する。

伊方最判の判断枠組みは、その後の多くの原発訴訟の裁判例が踏襲している。最近の事例の問題の本質を分析し検証する上でも、伊方最判の論理構成の基本に立ち返る意義がある。

伊方最判は、伊方発電所の建設を予定していた四国電力が核原料、核燃料物質および原子炉の規制に関する法律(77年改正前のもの。原子炉等規制法)第23条1項に基づいて行った原子炉設置許可申請に端を発する。これを受けて内閣総理大臣(当時)が72年11月に行った原子炉設置許可処分に対し、原発建設に反対する付近住民らが原告となり、その取り消しを求めた。この行政訴訟において、最高裁判所として初の判断を示したものである。

多くの原発訴訟が伊方最判を参考にしている

司法に求められた科学的判断 法が定める行政裁量の範囲は

伊方最判の説示の中で判例として重要な論点は次頁の表の通り。伊方最判では論点①を論ずるに際し、その前提となる原子炉等規制法の解釈論をまず展開している。

本連載も、この解釈についての解説から始めたい。

現代科学の粋を集めた原子力発電所の安全性を問う訴訟は、専門科学的事項を争点とする科学裁判の典型であるが、裁判所がどの程度踏み込んだ審理をして、司法としての判断を下すのかが、原発訴訟における最大の論点である。

裁判所は、専門科学的事項については素人であり、裁判所の判断能力には限界があろう。かといって裁判所は、専門科学的事項に関する問題が法律上の争いになるような場合には、前提問題としてその点の判断を下す責務も負っている。専門的知識の不足は、その専門的知識を有する専門家の鑑定などにより補充すれば良いとも考えられる。実際、特許訴訟などでは、裁判所は、科学的事項でもあっても徹底的に審理し積極的に判断を下している。裁判所の審理において、科学的な専門的知識が必要ということだけでは、言い換えれば、専門科学的事項を争点とする科学裁判であることだけでは、裁判所の審理を制限することは難しいとも考えられる。

しかしながら、裁判所と行政機関との役割分担として、裁判所に行政機関の判断の尊重を求め、裁判所の審理範囲を制限した方が、公益および国民の権利利益の保護に資すると考えられる場合がある。この裁判所の審理範囲の制限を正当化する概念が行政裁量であるが、行政に裁量が認められる根拠は法律である。そうすると、法律が行政機関の判断を尊重すべきことを裁判所に求めている場合で、法律にそれを求める合理的な理由がある場合には、裁判所の審理範囲は制限されることになる。

専門技術的裁量の所在 行政にあると法解釈

これを原子炉設置許可処分で見ると、原子炉設置許可処分の根拠となっている法律自体が、どのような理由から行政にどの程度裁量を許しているのか、といった法律解釈をするということになる。そのため伊方最判では、法律解釈として、原子炉設置許可の基準を定めた原子炉等規制法の規定の趣旨を論じている。

まず、原子炉設置許可処分の基準を定めた原子炉等規制法24条1項3号(原子炉設置者に原子炉設置に必要な技術的能力及びその運転を適確に遂行するに足りる技術的能力があること)と、4号(原子炉施設の位置、構造及び設備が核燃料物質等による災害の防止上支障がないものであること)の趣旨を確認した。すなわち、「災害が万が一にも起こらないようにするため、原子炉設置許可の段階で、原子炉を設置しようとする者の右技術的能力並びに申請に係る原子炉施設の位置、構造及び設備の安全性につき、科学的、専門技術的見地から、十分な審査を行わせることにあるものと解される」として、原子炉施設の安全性に関する審査に焦点を置いた。

伊方最判の重要論点

なお、伊方最判は決して、原子炉等規制法24条1項各号の趣旨が「災害が万が一にも起こらないようにせよ」といった直接的な結果を求めるものである、とはしていない。これを求めることは絶対的な安全性を求めることにほかならず、どだい不可能であるからである。あくまで「災害が万が一にも起こらないようにする」ことは、安全性等につき科学的、専門技術的見地から十分な審査を行わせることの理由として述べている。

続けて、原子炉等規制法24条2項が、基準の適合性についてあらかじめ原子力委員会(当時)の意見を聴き、これを尊重しなければならないとの手続を定めている趣旨についてはどう論じたのか。

やはり原子炉施設の安全性に関する審査に焦点を当て、この審査には「多角的、総合的見地から検討するもの」で、「将来の予測に係る事項も含まれて」おり、「多方面にわたる極めて高度な最新の科学的、専門技術的知見に基づく総合的な判断が必要とされるものである」との特質があることを指摘した。その上で、「原子炉施設の安全性に関する審査の特質を考慮し、右各号所定の基準の適合性については、各専門分野の学識経験者等を擁する原子力委員会の科学的、専門技術的知見に基づく意見を尊重して行う内閣総理大臣の合理的な判断にゆだねる趣旨」と解釈し、実質的に行政機関に専門技術的裁量を認めた。

このような原子炉施設の安全性に関する審査に焦点を当てた法律解釈を前提として、伊方最判では、論点①「原子炉設置許可処分の取消訴訟における裁判所の審理・判断の方法」を論ずるが、これについては次号に続く。

もりかわ・ひさのり 2003年検事任官。東京地方検察庁などを経て15年4月TMI総合法律事務所入所。22年1月カウンセル就任。17年11月~20年11月、原子力規制委員会原子力規制庁に出向。

【コラム/4月20日】ウクライナ危機とEUのエネルギーセキュリティ政策


矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

EUの一次エネルギーの域外依存度は、6割弱と高く、天然ガスは8割強、石油は10割弱、石炭は3割台半ばが輸入に頼っている。輸入元としては、ロシアが多く、天然ガスは4割弱、石油は3割弱、石炭は5割弱がロシアからのものである(2020年)。しかも、ロシアへの輸入依存度は、この10年で増大している。2010年には、EUの一次エネルギー輸入に占めるロシアの比率は、天然ガスは3割、石油は3割台半ば、石炭は2割強であったから、ロシア依存は天然ガスでは1割弱,石炭では3割弱高まったことになる(石油は若干減少)。EUにおいて、供給国が特定の国に集中することへの懸念がなかったわけではないが、一次エネルギーの生産者と購入者との間の相互依存(とくに投資を通じて)が高まれば、供給遮断は起こりにくいという考えも根強かった。

しかし、ロシアのウクライナ侵攻は、供給元としてのロシアへの信頼を失わせ、EUが一次エネルギーの高いロシア依存を見直すきっかけとなった。EUは、3月8日に欧州の共同アクションREPowerEUを提案し、化石燃料のロシアへの依存から2030年のかなり前に完全に脱却する戦略を打ち出した。最初の取り組みでは天然ガスに焦点を当てており、LNGとパイプラインによるロシア以外の供給者からの輸入を増やし、天然ガスのロシアへの依存度を1年以内に3分の2に減らす。そして、加盟国に最低レベルのガス貯蔵量の確保を義務付け、10月1日までに貯蔵キャパシティの90%程度(現在30%程度)を確保する。また、エネルギー利用効率を高めるとともに、再生可能エネルギーの開発を加速し、農業廃棄物や生ごみからのバイオガス利用を大幅に増加し、水素の利用を2030年までに4倍に増やすことになった。さらに、4月8日に、EUは8月半ばまでにロシア産の石炭の輸入を禁止することを発表している。

 EUがエネルギー問題について、これだけ力強いメッセージを”one voice”で出したことは注目に値する。EUではエネルギーセキュリティ確保に関しては種々の政策的な合意はあるものの、実際の対外的な行動は各国バラバラであった。

 とくに、天然ガスのロシア依存度は加盟国によって、大きく異なっており、依存度の高いドイツは、ロシアへの姿勢は融和的であり、協調的な関係を維持することを重視し、依存度が低い英国やフランスが厳しい姿勢で臨むのとは対照的であった。例えば、2008年のジョージア紛争ではロシアがジョージアに軍事介入したことに対して、ロシア依存度の低い英国は制裁を訴えたが、ロシア依存度の高いドイツは、ロシアを刺激することは避け、安定供給を優先させる立場をとった。また、2014年には、親ロシア姿勢を示していたウクライナのヤヌコビッチ政権の崩壊を受けてロシアがウクライナ南端のクリミアへ軍事介入を行い、これを併合したが、この時は、EUは米国とともに、ロシアを非難するとともに、経済制裁を科した。しかし、そのような中でも、ドイツは、天然ガスをロシアから海底パイプラインでドイツに直接輸送するノルドストリームプロジェクトを推進している。

 EUは、エネルギーセキュリティ確保のためには、「団結」が必要であると、繰り返し強調してきた。そして、2009年に発効したリスボン条約では、エネルギーに関連した事案について、EUは対外的に”one voice”で臨むことが定められた。それにもかかわらず現実には、一体的な行動は難しかった。しかし、今回のロシアのウクライナ侵攻で、EUが文字通り”one voice”で脱ロシアと共通のエネルギーセキュリティ政策を打ち出すことができた。その意味で、今回のウクライナ危機は、EUのエネルギーセキュリティ政策におけるエポックを画する出来事となった。

【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授などを歴任。東北電力経営アドバイザー。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。

【ガス】メジャーズに学ぶ 紛争リスクへの準備


【業界スクランブル/ガス】

ウクライナ戦争はわれわれの予想を超える大きな影響をエネルギー業界へ及ぼしている。中でも目を引いたのは、英BP、英蘭シェル、米エクソンモービルがロシアからの徹底をいち早く決断したことだ。ロシアは世界の天然ガス埋蔵量の3割を占める資源大国。各社とも長い年月をかけて対露ビジネスに力を入れてきた。ロシアでの成功が出世の条件ともいわれたほどで、それだけメジャーズにとって大切な存在だった。

例えば、シェルはサハリン2だけでも3000億円の減損や1000億円前後の配当を捨てることになる。その重大決断をロシアが侵攻を開始した4日後に下している。エクソンはその翌日にサハリン1からの撤退を表明した。おそらく、侵攻が始まる前に撤退シナリオが出来上がっていたのだろう。両事業には日本企業も深く関わっており、特にサハリン1には経済産業省の機関も出資している。しかし3月中旬現在、日本側の意思表明はまだ行われていない。今後の操業実務に支障が発生しないことを祈るばかりだ

今回得られた教訓の一つは、エネルギーを1カ国に過度に依存してはいけないということだ。幸い、日本のLNG調達先は5大陸10カ国以上に分散している。また、ロシア比率も1割弱と限定的だ。先代からの先見の明に感謝したい。

もう一つの教訓は、今回のような領土問題や統一問題に起因する紛争が、わが国の近隣でも発生し得るということだ。ひとたび台湾周辺で紛争が発生すれば、シーレーンは封鎖され、一部のLNG船が入港できなくなる可能性が生ずる。こうしたリスクを輸入事業者は想定しているだろうか。今回のメジャーズの鋭敏な動きに学び、起こり得るリスクを事前に想定し対策を準備しておくべきだ。(G)

価格と炭素排出量の相関に着目 エネマネと組み合わせ脱炭素化


【エネルギービジネスのリーダー達】宮脇良二/アークエルテクノロジーズ代表取締役CEO

2018年にアクセンチュアを退職し福岡市でエネルギースタートアップを起業した。
デジタル技術で脱炭素社会を実現するべくサービスの開発に注力している。

みやわき・りょうじ 1998年アクセンチュア入社。2018年8月にアークエルテクノロジーズを設立し代表取締役に就任。一橋大学大学院国際企業戦略研究科修了。スタンフォード大学客員研究員(18~19年)。早稲田大学講師。

 福岡市を拠点に、デジタルサービスの開発やコンサルティング業務を手掛けるアークエルテクノロジーズ。2018年に同社を設立した宮脇良二CEOは、「デジタル技術を活用したイノベーションにより、脱炭素化社会の実現を目指すクライメートテック企業」と、その位置付けを語る。

再エネと貯蔵技術 電気の最適利用を目指す

1998年にアクセンチュアに入社。電力・ガス事業部門の統括パートナーを務めるなど、エネルギー業界を対象にしたコンサルティング業務に長く携わり、2016、17年の電力・都市ガスの小売り全面自由化に際しては、エネルギー各社の自由化への移行やデジタルトランスフォーメーション(DX)化を後押しした。

起業を決意したのは、「自らイノベーションを生み出し実行する役割を担いたい」との思いから。当初は、ブロックチェーンやP2P(ピアツーピア)技術を活用したサービスを模索したが、再生可能エネルギーの大量導入時代を見据え、蓄電池やEVといった貯蔵技術と変動性再エネ(VRE)を組み合わせ、デジタル技術で需要と供給をマッチングさせることで付加価値を創出するビジネスモデルを構築する戦略にかじを切った。

エネルギー市場の自由化、DX化をビジネスチャンスと捉え、多くのスタートアップ企業が続々と誕生しているが、宮脇CEOには「日本のエネルギー構造と世界の先端事例の両方を理解しているスタートアップはそれほど多くなく、ビジネスの本質を理解した上で、高度なデジタル技術を活用したイノベーションを担えるという点で他社よりも優位にある」との強い自負がある。

35人の社員全員がエンジニアであり、プログラミングができるというのも大きな強み。自ら試行錯誤しながらシステムを開発し、先行する海外スタートアップの事例をベンチマークにしながら、日本の市場に合わせたサービスの確立を目指している。 

同社が本社を置く九州は、全国に先駆けて太陽光発電設備の導入が進み、発電量が需要を上回り出力抑制が実施されることがしばしば。まさに「課題先進地」であり、同社の取り組みの狙いは、市場の価格メカニズムをうまく活用して需給をマッチングさせ、より電気料金が安い時間帯に消費を促すといった、この社会課題を解決する仕組みを作り上げることにある。

基本的に、電力市場価格が安いときは、原子力や再エネを中心とした低炭素な電源が稼働している時間帯、価格が高いときは火力発電が稼働し炭素排出量が多い時間帯だと考えられる。つまり、理論上は、炭素排出量と市場価格には相関があり、より安い時間帯にEVや蓄電池に電気をためるなど消費を促すことができれば、再エネを余すことなく活用し脱炭素につなげることができるわけだ。

VPP(仮想発電所)のようにバーチャルで全体の需給を一致させることで付加価値を創出することは難しいと判断しており、同社が志向しているのは家庭やオフィス、工場などのエネルギーマネジメントシステムと連動し、建物・設備ごとに最適化することだ。

現在は、EVを所有する需要家の住宅30件と企業のオフィスの協力で、市場価格変動(ダイナミックプライシング)とEVにためた電気を宅内に供給する「V2H」機器を組み合わせ、①JEPXの価格予測、②太陽光発電予測、③消費電力予測、④EVの稼働予測―という四つのAI予測をもとにIoTで充放電を最適制御する実証に乗り出している。宮脇CEOは、「将来は、日本全国で出力抑制が発生する。実際に問題が発生している九州の地で実証を進めサービスを作り込み、全国展開につなげていきたい」と意気込む。

システムの柔軟性創出 デジタルサービスで貢献

同社が手掛けるもう一つの事業の柱が、カーボンニュートラルを目指す製造業などの企業向けコンサルティング業務だ。炭素排出量の見える化、EVのスマート充電や建物のエネマネなど、脱炭素化に資する多様なデジタルサービスを開発しクラウドで提供。さらには、新電力「ナチュールエナジー」として、再エネを調達し供給するところまで手掛けている。

宮脇CEOは、脱炭素化された社会をどのように描いているのだろうか。聞いてみると、「デジタル技術を駆使して、貯蔵やスマートホームの機能を活用することで可能な限りエネルギーを自給自足し、不足する分だけを一番安い時間帯に集中型の大規模システムから調達することが可能になっている社会」との答えが返ってきた。

カーボンニュートラルといえば、再エネ導入や水素活用などハード面が注目されがち。だが、需要と供給をうまくマッチさせ電力システムの柔軟性を創出できなければ、そうしたハードを使いこなすことができない。より柔軟性を高められるようなデジタルサービスを、しっかりと提供していく考えだ。

【マーケット情報/4月14日】原油急伸、需給緩和感が台頭


【アーガスメディア=週刊原油概況】

4月8日から14日までの原油価格は、前週から一転し、主要指標が軒並み急伸。需要回復の見通しと、供給の先行き不透明感で、価格が反発した。

中国は、上海における新型ウイルス感染拡大防止策のロックダウンを一部緩和。移動および経済活動の再開と、それにともなう石油製品の需要回復へ、期待が高まった。

また、ロシア産原油の供給不安も価格に対する上方圧力となった。欧州連合は、原油とガスも含め、ロシアのエネルギー輸出に対する追加制裁を検討している。

ただ、現時点では、加盟国間で意見が分かれている状態だ。アイルランドやリトアニアがロシア産原油への規制を促す一方、ルクセンブルグは禁輸措置の効果に疑問を呈している。また、スペインは経済への影響に懸念を示した。

【4月14日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=106.95ドル(前週比8.69ドル高)、ブレント先物(ICE)=111.70ドル(前週比8.92ドル高)、オマーン先物(DME)=105.36ドル(前週比7.54ドル高)、ドバイ現物(Argus)=105.54ドル(前週比7.24ドル高)