八甲田山周辺で計画される、日本最大級の陸上風力発電事業に反対運動が起きている。
事業者は国立公園内の風車を除外するなど計画を修正。過度な再エネ政策の転換点となるか。
「再生可能エネルギーが日本の未来に必要なのは理解している。しかし八甲田山の尾根を削り、後世に残すべき自然を破壊してまで進めるべきものなのか」―。
風力発電導入で全国一を誇る青森県。その南側の八甲田山系では、国内最大級の風力発電事業が計画されている。事業に反対する市民団体「Protect Hakkoda」の川崎恭子さんは、計画の是非をこのように問いかけた。
八甲田山を中心にした地域は人間の手が加えられていない原生林や希少生物の宝庫だ。県道から一歩外れた瞬間、手つかずの森が辺りを覆う。かつて映画の舞台にもなった八甲田山の荒々しい自然に魅力を感じる観光客は多い。そんな中で計画が進む風力発電だが、昨今の再エネを巡るトラブルもあり「風向き」が変わりつつある。
事業主体のユーラスエナジーが進める「(仮称)みちのく風力発電事業」の計画によると、青森市や十和田市など県内6市町にまたがる約1万7300haに、ブレード部分の先端が地上から最高200mに達する風車(定格出力4000~5000kW級)を120~150基建てる。最大出力は約60万kWにのぼり、一つの風力発電事業としては国内最大だ。2021年9月に事業計画を公表し、30年4月の運転開始を目指す。
現在は環境影響評価(アセスメント)の配慮書提出段階だが、配慮書には想定区域として十和田八幡平国立公園が含まれている。川崎さんは「大半は保安林であり、生態系へ悪影響が懸念される」と計画見直しを求め、5月には約7600人分の署名簿を県と青森市に提出した。その規模の大きさから注目度も高く、安易な環境破壊は起きそうもなく思えるが、実は抜け穴があるという。
この事業における資材運搬ルートには国立公園内、田代平地区の県道242号から延びる林道を使用する予定だ。整備は行き届いておらず、乗用車1台がようやく通れる程度。5000kW級の風車ブレードを運搬するのは不可能だ。原生林が並ぶ区域の林道拡張工事は事業計画に必須だが、工事は環境アセス対象にならない可能性があると川崎さんは指摘する。国立公園内は片側が崖の部分もあり、拡張には反対側の原生林を大幅に伐採する必要がある。「現在はユーラスエナジー側が自制しているが、計画が進めば林道工事は止まらない」(川崎さん)と危惧する。
影響はすでに景観面に出ている。ジャパン・リニューアブル・エナジーが手掛ける七戸十和田風力発電所は、ユーラスエナジーの事業計画に隣接する形で4000kW級風力発電8基(出力規模3万500kW)を運用中だ。山丘ガイドが本職の川崎さんは「田代平湿原を訪れた観光客から『せっかくの自然に風車が紛れ込み残念』と言われた」と肩を落とす。

数少ない適地で競争が激化 推進していた自治体も反発
これまで青森県は、数少ない陸上風力の適地として多くの風力事業を担ってきた。しかし近年は限られた適地を巡り事業者間の競争が激化。自治体側も地元産業の活性化のため風力発電導入を推進してきたが、ユーラスエナジーの配慮書計画を受けた三村申吾青森県知事は8月の記者会見で「再生可能エネルギーだったら何をやってもいいのか」と不快感を表明。運搬ルートや国立公園内の開発計画に苦言を呈している。
青森市議会では事業に反対する議員らが中心となり、9月に事業中止を求める決議案を提出した。これは否決されたが、反対運動を行う中村美津緒市議は「10月の青森市議会選挙で今回の風力発電事業反対派が過半数を上回った。12月に行われる定例会で決議案を再提出する」と白紙撤回の実現に意気込む。
ただ、反対運動に参加する人の中には「事業の白紙撤回が一番だが、本質的な環境への影響や論点を論議せぬまま、反対だけ声高に叫んでも事態は変わらない」と冷静な意見もある。再エネに対する住民同士の温度差もあり、一致団結した反対運動にはつながっていないという。
事業者側も計画見直し 可能な限り負荷軽減へ
一方で、やり玉に挙げられるユーラスエナジーの意見はどうか。取材に対し、林道の拡張工事については「道が無いところに一から新たな道を造成するよりも、伐採面積・改変面積を減らせるメリットがある」と回答。可能な限り伐採範囲を軽減しながら林道を活用する意向を示している。
また、当初提出した配慮書では「各種条件をクリアする場合は、国立公園内での風車設置も否定されていない」としていたが、住民の反対意見や国立公園内への風車設置に対し「原則設置しないよう」求める環境大臣意見を反映。「Protect Hakkoda」との意見交換後、風車設置区域から国立公園を除外する方針に修正した。
事業全体の風車数についても、17基を設置検討していた国立公園内・境界の風車をゼロとするなど、最大150基から3分の2程度の最大100基まで減少させる計画変更を行う。その他、十和田八幡平国立公園に面する南側の開発計画区域を縮小。「環境に与える影響の確認作業はこれから実施する。その結果次第ではさらなる区域絞り込みが必要だと考えられる」としている。
今後の想定スケジュールに関しては、年内提出予定だった方法書の公表時期を見直し、準備書提出以降のスケジュールも住民説明を行った上で慎重に進める考えを明らかにした。ユーラスエナジーは山林業者からの意見として「風車と風車をつなぐ道路を森林施業目的として併用できれば、入りづらい場所、管理しづらい場所にアクセスしやすくなる」と林道整備のメリットを強調。そのほか主要な環境アセスメント項目である「騒音・水質・地質・猛禽類・景観」の項目についても、法令に基づき適切に対処、可能な限り影響軽減に取り組むとしている。
今後は事業者側と地元住民の間で、どれだけ合意点を見出せるかが焦点だ。環境アセスメントの実務研究を行う朝倉淳也弁護士は「合意形成がなされないと、事業者側がやりたい放題になる」と指摘。一方の事業者側からは「他社に取られる前に計画を進めようと、なりふり構わぬ業者が多くなった」(大手再エネ事業者)と規律の乱れを嘆く声が上がる。
日本の狭い国土で行う大規模再エネ開発はすでに限界点に達した感がある。過度な再エネ促進政策の転換点となるか、八甲田山風力発電事業の未来に注目したい。









