【コラム/1月5日】日本はカーボンニュートラルで何を目指すのか?


福島 伸享/元衆議院議員

菅首相が10月26日の所信表明演説で「2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを、ここに宣言いたします」とぶち上げて以降、にわかに「カーボンニュートラル」すなわち温室効果ガスをネットでゼロにすることがブームになっている。日本人の特性なのかもしれないが、こうして一斉に同じような方向を向いて多くの情報が流れてくる時こそ、冷静に現実を見据えなければならない。

まず第一に、日本がカーボンニュートラルを目指す目的を明確にしなければならない。言うまでもなく、1992年の気候変動枠組条約の採択によって国際的に温室効果ガスの削減に取り組む取り組みが始まり、1997年の京都議定書、2015年のパリ協定によって削減に向けた具体的な枠組みが定められているが、これらの条約交渉の過程で繰り広げられたのはまさに国益と国益のぶつかり合いであり、自国がいかに利益をあげられるかという観点から国際ルールや枠組みが作られてきた。言い換えれば、国際ルールや枠組みという土俵をうまく利用して、自国産業が利益をあげることを目指してきた。学校の校則のように、単にルールを守ればいいというものではないのだ。

今、世界中で再生可能エネルギーなどカーボンニュートラルに関連する新たな産業が勃興しているが、これらは京都議定書以降に作られた国際ルールや枠組みという土俵の中の競争であり、風力発電やグリッド技術など多くの分野ですでに日本は欧米各国のみならず中国などの新興国にも大きく遅れを取っている。技術や産業のみならず、石炭火力の位置付けなど規制や制度の分野でも、ドッグイヤーの世界のエネルギー政策の分野で周回遅れとなっている。菅総理は、所信表明で「世界のグリーン産業をけん引」などと言っているが、井の中の蛙か厚顔無恥でない限り、こんな恥ずかしいことを総理に言わせる原稿は書けないだろう。

 だから、私は、カーボンニュートラルを掲げるのであれば、今の世界の中の日本の位置や現実を冷静に見つめた上で、2050年までに一体今の状況から日本の産業構造やエネルギー供給構造をどのようなものにして、それが世界の中でどのような位置を占めるものになるのか、政策目的を明確に示すべきであると言っているのである。

 その第一歩になるのかどうかわからないが、12月8日に閣議決定された第三次補正予算では、コロナ禍に対応する喫緊の財政需要があるにも関わらず、「グリーン社会の実現」という項目で目玉政策として大盤振る舞いがなされている。しかし、その中身を見てみると、「カーボンリサイクル実現を加速するバイオ由来製品生産技術の開発事業」などの旧来型の政府主導型技術開発予算や、各省ごとの「海事・港湾分野のカーボンニュートラルの推進」、「畜産バイオマス地産地消対策」「産業・業務部門における高効率ヒートポンプ導入促進事業」といった補助的事業の羅列である。この30年間にすでに失敗したか、成果の見られない政策の延長の先に一体何が生まれるというのか。

 カーボンニュートラルの実現とは、国際ルールや枠組みを利活用した自国産業の発展である。それを実現するための政策は、たとえば膨大なグローバルマネーを活用した民間による技術開発や世界的な企業のアライアンスを促進するための環境の整備であり、あらたな科学技術をいち早く社会において活用するための前例にない社会的な規制や制度の創設である。総合的な戦略の下、それらの政策を相互に結び付け、自国に有利な土俵を作るための国際交渉を行うことこそが政府の役割である。平成の30年間に、ITだバイオだと惰性で繰り広げられ成果を上げてこなかった政策の延長に、日本の未来は何もない。2050年に、日本の温室効果ガスの排出は著しく減ったけど、日本の産業も著しく衰退して、アジアの二流国になっていたということにならないようにするためには、相当な危機感をもってこれまでの政策体系そのものを転換し、政策立案の仕方そのものも変えなければならない。残念ながら、これまでの菅総理の言動や政府が打ち上げられる政策からは、そのような兆しは見えない。

【プロフィール】東京大学農学部卒。通商産業省(現経産省)入省。調査統計、橋本内閣での行政改革、電力・ガス・原子力政策、バイオ産業政策などに携わり、小泉内閣の内閣官房で構造改革特区の実現を果たす。2009年衆議院議員初当選。東日本大震災からの地元の復旧・復興に奔走。

【省エネ】火力はアンモニア 配管は水素化に


【業界スクランブル/省エネ】

菅義偉首相が2050年のカーボンニュートラル方針を示し、同日の梶山弘志経済産業相の会見では「電化・水素化」が基本とされた。発電側での大規模CO2排出回収と異なり、需要側での回収は不可能であることから、カーボンフリーのエネ供給構造への変革が必須だ。特に運輸分野・熱分野が鍵だ。60年の脱炭素実現を宣言した中国では、中国工業情報化省が指導し、中国自動車技術者協会が「技術ロードマップ2.0」を取りまとめた。EVなどの新エネ車の販売比率を35年に50%以上とする、世界最大の自動車市場の強烈な目標設定だ。また25年にはV2X接続端子装備率50%、35年にはスマートシティと深く融合するなど、系統電力の再エネとEVの連携も考慮している。

脱炭素社会のエネルギー基盤としては、電力は太陽光・風力(洋上含む)の大量導入、グリーンアンモニア専焼火力が本命だ。熱分野は都市ガスインフラをグリーン水素ネットワークに更新し、水素燃料電池(熱電供給)とIHで脱炭素を実現。再エネ電力の余剰電力吸収課題はPower to Gasで水素ネットワークを巨大な吸収媒体として解決し、運輸部門のFC自動車は当該水素を活用するのが理想的である。

既存の都市ガス配管網を座礁資産とせずに、水素ネットワークへと変革する技術ハードルは低い。経産省ガス安全室の事業でも、新設中低圧の都市ガス配管の水素化は問題ないと立証済みだ。高圧導管(1MPa以上)は未検証だが、水素ステーションは70MPaであり技術ハードルは低い。そもそも、日本の都市ガス配管は水素を主成分とした供給だった。その転換作業も経験済みで、「逆を行う」だけである。水素は発熱量が3分の1となるため、パイプライン輸送熱量が減るとの誤解もあるが、比重が軽く圧力損失が低いため流量を増加できるので問題はない。

日本の需要家のエネルギー使用を管理する法律は省エネ法のみ。EV導入などの電化・グリーン水素化を促進させる制度への変更が、30年後の脱炭素社会実現に向けて、今必要な改革である。(Y)

【住宅】修繕需要が向上 中古評価の必要性


【業界スクランブル/住宅】

今年度は新型コロナウイルスによる景気の後退が叫ばれている。加えて、近年の高齢化、世帯人数の減少、所得も増えずという状況は、住宅業界にとって厳しい環境と考えられる。一方でコロナの影響で外出を控えたり、在宅勤務を余儀なくされ、これまでにないほど「住まい」に関心を持った方が増えた年だともいえる。

内閣府の調査によると、コロナの影響下で新たに挑戦したり、取り組んだことの1位として「今までやれなかった日常生活にかかわること(家の修繕など)」との回答者が28%いたそうだ。家にいる時間が増えたことで今の住まいの不満や改善点が明確化し、リフォームしたいという潜在需要が喚起されたと思われる。

そんな時流を反映し、各企業からは在宅勤務・テレワークに配慮した商品、感染症対策への提案などが相次いで発表されている。また、2021年度からはテレワークで東京の仕事を続けつつ地方に移住した人向けに最大100万円を交付するとの政府の方針も発表された。新型コロナの影響はまだ数年続くとの予測もあり、現状の景気動向を考えると、新しい生活様式に合わせた住まいの形を実現するのに、コストを抑えられ工期が短くて済むリフォームは、今後ニーズが高まるのではないかと考えている。

リフォームは、空家対策、資源の有効利用や廃棄物削減、ヒートショックといった健康問題の解決に加え、断熱改修による省エネ性の向上、環境負荷低減といったエネルギー問題の解決にもつながる。しかし、市場では、リフォームして適切に管理されている建物でも価値が適正に評価されていない。まだまだリフォーム=修繕の域を出ないのである。中古住宅が適正に評価され、スムーズな流通の仕組みができれば、リフォームの価値も高まり、積極的に動く人が増える。新しい生活様式が進む中、ライフスタイルも含めた適切なリフォームを実現しつつ、エネルギー問題や社会の課題解決には、中古流通やリフォームに対する分かりやすい基準、国や自治体の支援、費用の明確化、適切な業者の育成などが必要とされている。(C)

【太陽光】普及拡大の鍵 PPAの事業化


【業界スクランブル/太陽光】

2022年4月から導入される予定のFIP(フィードインプレミアム)制度について、制度の詳細設計の議論が始まったところだが、再エネ主力電源化のトップランナーの太陽光は、国民負担を抑制するために少しでも早くPPA(電力購入契約)へ移行できる施策、事業環境の整備が必要ではないかと考えている。

ここでいうPPAは、従来の発電事業者と電力会社間における電力調達契約ではなく、企業が発電事業者と直接、電力調達契約を結ぶコーポレートPPAだ。同モデルは、米国で普及し始め、近年、欧州においても普及が加速している。海外では発電単価の安い風力発電から普及した。近年では太陽光も発電単価が低下し拡大中だ。同モデルが成立するには、発電単価+託送料金+インバランス料金+再エネ賦課金などが、従来の電気料金よりも安くなることが必要である。

幸い、オンサイト型PPAモデルであれば、発電単価と従来の電気料金との比較となるため、昨年度から国内でも事業化の動きが活発だ。PPAの市場規模をさらに拡大するには、本来のオフサイト型PPAを普及させていく必要がある。そのためには、EPCやO&Mのコスト削減、長期契約に対応する設備の長寿命・信頼性の向上、発電単価の低下が重要となる。インバランス料金を削減するためには、再エネのインバランスコストを低減できる能力のあるアグリゲーターの育成が必要だ。また、発電事業者と企業が直接PPA契約できるようにし、企業が主体的に新しい再エネ電源開発に関与・貢献できるようにすることが重要となる。これには、電気事業法の改正が必要となるが、台湾などPPA契約が可能になった事例はある。

PPAモデルへの移行を容易にするには、契約内容の複雑な面を解消するため、契約書のひな型を作成し、契約プロセスの効率化を図ることが大事となる。FIPと並行して、PPAの事業環境整備を進めることで、太陽光発電が再エネ型経済社会の実現を主導する信頼される電源として今後も拡大し、30年の目標値を大幅に超える導入量を達成することを期待したい。(T)

【再エネ】脱炭素化の方向性 電気と熱で議論を


【業界スクランブル/再エネ】

総合資源エネルギー調査会・基本政策分科会でエネルギー基本計画の審議が始まり、梶山弘志経済産業相が「今世紀後半のできるだけ早期に実現するとされている脱炭素社会」と述べたが、直後に菅義偉首相から2050年脱炭素宣言が出されたことには驚いた。エネ基の改定では50年脱炭素を見据えた議論になる。

50年脱炭素に向けての再エネ大量導入の課題について、通常議論される電気だけでなく熱も含めて眺めてみたい。再エネの利用拡大により脱炭素に近づいていくとき、安定供給の課題とライフサイクルCO2(LCCO2)の課題がより顕在化するであろう。これは再エネの電気と熱に共通することである。

再エネによる安定供給には調整力が必要になる。再エネ電力の太陽光・風力と再エネ熱の太陽熱がこの問題を抱えている。蓄電・蓄熱は進むであろうが、それとともに調整力に必要なエネルギーの非化石化を図る必要がある。一方、安定的電源となる水力、地熱、バイオマスと、安定的熱源となる自然界の温度差エネルギー(地中熱・河川熱などの再エネ熱)、バイオマス熱の利用拡大が、エネルギーの安定供給に寄与できる。

電気と熱のセクターカップリングも脱炭素に必要となる。電源の再エネ比が高まれば、電気を使った熱利用として、ヒートポンプが脱炭素により有効になる。この熱源には多様であるが、中でも再エネ熱である温度差エネルギーは、極めて効率的な利用ができる。

もう一つの課題であるLCCO2では、再エネ電気・熱ともに設備製造を含め設置から廃棄に至るプロセスでの脱炭素化が課題となる。再エネ利用のために消費されるエネルギーは、産業・運輸・業務・家庭部門にまたがっている。再エネ利用における脱炭素化をこれまで以上に進めるには、部門を横断してLCCO2評価を行い、そこから課題を抽出することが必要であろう。

梶山大臣が言われたように、エネ基の審議は結論ありきではなく、個別の議論を積み重ね、全体の方向性を示していくことである。50年の脱炭素に向けて、再エネ電気・熱の議論を深めてほしい。(S)

【石炭】「飛び恥」をなくせ 航空業界の水素化


【業界スクランブル/石炭】

昨年、スウェーデンのグレタ・トゥーンベリさんは、航空機利用を忌諱してヨットで大西洋を横断して話題になった。航空機業界は世界のCO2排出量の2.5%を占めてなお増加の傾向にあり、脱炭素社会に逆行していると矢面に立たされていた。しかしEUの進める水素航空機の開発が進めば状況は変化するだろう。EUと米国の11カ国、31企業のクライオプレーンプロジェクトで、水素を燃料として、CO2を排出しない航空機を開発するとしているからだ。エアバス社によると2035年までに開発する。水素は液体で貯蔵され、エンジンで燃焼するもののほか、燃料電池として電力利用がある。

しかも水素ステーションなどのインフラ整備が不要という。パラ系アラミド繊維「ケブラー®」で塗装された楕円形のポッドを開発し、陸上輸送では貯蔵容器、航空機搭載の際には燃料タンクにする計画。、1937年に爆発事故を起こした飛行船ヒンデンブルク号の件が想起されるが、それ自体が爆発するリスクのあるジェット燃料より、非常に軽い水素はすぐ拡散して危険が少ないという。

石炭は炭素の塊として地球温暖化の面からは目の敵にされているが、水素化合物である点を忘れてはいけない。太古の植物が光合成で得たエネルギーを炭化水素として蓄積し、石炭ガス化の際にはこの中の水素が回収される。水素は元来、太陽形成の時より生成されてきたものだ。光合成のエネルギーはカルビン回路で固定され、元来は太陽エネルギーである。

石炭は化石燃料とされているが、水素を燃焼させてエネルギーを得ても発生物はH2O(水)であり、地球温暖化の原因となるCO2は発生しない。環境に悪いと飛行機利用を避ける「飛び恥」の主張も水素利用が主になるとなくなろう。単位重量当たりのCO2排出量が多いというだけで、悪の根源のように言われる石炭も水素の塊という点では文句の付けようがないであろう。ウィズコロナの時代のグリーンリカバリーが始動し始めたといえよう。(T)

【石油】バイデンの失言 従業員に不安


【業界スクランブル/石油】

米国大統領選挙、ようやくバイデン候補に当選確実が付いた。予想以上に激戦州でバイデンがてこずった理由、トランプ大統領が驚異の追い上げを見せた理由として、最終盤でのバイデンの石油を巡る失言を指摘したい。

10月22日のテレビ討論会。バイデンは「石油産業を転換させる。石油産業への補助金は止める」と発言、すかさずトランプに「石油産業を破壊するのか」と突っ込まれた。バイデン候補の選挙戦中の数少ない失言であった。選挙戦の激戦地のペンシルベニア州は、近代石油産業発祥の地。小さいながらも産油州である。確かに、テキサス州などの南部産油地帯はもともと共和党の地盤であるし、民主党候補として当然の発言ではあるが、この発言で、石油企業の従業員はもちろん石油関連の雇用者も大きな不安を抱いたことだろう。

翌日には、ダメージコントロールとして、バイデン陣営はこれまで言及してこなかった、シェールオイルの中核技術である水圧破砕を「禁止しない」と発言せざるを得なくなった。地下水汚染の懸念がある、水圧破砕技術の禁止は、民主党の伝統的主張で、前回大統領選ではヒラリー・クリントン氏も公約としていた。さぞ、民主党左派・環境派には不満であったことであろう。

人は、自分の職業に誇りを持っている。環境が理由であろうとも、自分の職業が否定されて気分が良いわけがない。おそらく、気候変動対策の進展は、特定の人々の雇用そのものを脅かす段階に至ったのであろう。

わが国でも10月26日、菅義偉首相は所信表明で、「2050年温室効果ガス排出実質ゼロ」を宣言した。この方針は、来年度改訂予定の「エネルギー基本計画」で具体化されるであろう。欧州でも、米国でも、わが国でも、社会・経済・環境の変化で特定の産業が転換されていくことはやむを得ない。しかし、政策的に特定の産業の転換が必要とされる場合には、十分な政策的配慮が必要となろう。(H)

【メディア放談】菅首相のカーボンニュートラル宣言 歓迎一色の報道に注文あり!


<出席者>電力・ガス・石油・マスコミ業界関係者4人

菅義偉首相の2050年ゼロエミッション宣言をマスコミは好意的に伝えている。だが、再生可能エネルギーに偏りすぎる報道は、国民をミスリードしかねない。

―菅義偉首相が10月26日、所信表明演説で2050年カーボンニュートラルを宣言した。マスコミは歓迎ムード一色だ。

電力 反対する理由がない。ただ、専門家は簡単な話でないことは分かっている。再エネだけで実現できるわけがなく、誰がいつ、どういう形で原発の新増設を言い出すか注目している。

ガス 菅首相が周囲の意見を聞いて、判断したと思う。梶山弘志経産相は50年実質ゼロに慎重だったと聞く。日経の電子版がいち早く報道して、毎日が続いて1面トップ記事にした。毎日の記者はこの件を追っていて、和泉洋人首相補佐官に取材して書いたようだ。

 経産省出身の今井尚哉補佐官が退いてからは、官邸では和泉さんの守備範囲が広がっている。エネルギー問題も見ているらしい。

マスコミ 首相はスマホの料金引き下げに熱心だけど、これは国内のビジネスの話。しかし、ゼロエミは国の政策で世界にも伝わる。それだけにかん口令が敷かれていて、記者は取材に苦労していた。

―和泉さんは国土交通省出身だけど。

石油 そうだが、住宅局長を務めたことがある。そこでエネルギー業界とつながりができた。今は詳しいはずだ。

マスコミ 菅さんが首相になってから、公明党が脱炭素社会の構築を進言している。経産省参与に就いた水野弘道氏からも意見を聞いて、経産・環境省の両次官から説明も受けている。

 和泉さんも局長クラスから話を聞いていた。パリ協定復帰を公約していたバイデンさんの米大統領当選を見通して、首相が決めたとみている。

ガス 気になっているのは、実質ゼロ宣言を受けて、自民党にカーボンニュートラル実現推進本部ができたこと。本来なら政調会長が責任者になるべきだが、二階俊博幹事長が本部長に就いている。

マスコミ 二階さんが何をしたいのかは分からないが、耳触りのいい世間受けする政策だけを並べるのはやめてほしい。RITE(地球環境産業技術研究機構)が経産省の審議会に提出した資料によると、EUでは再エネを中心にしてゼロエミを実施した場合、50年の電力単価は3~7割上昇する。

 日本の場合、再エネだけに頼ろうとすると、もっと国民負担は大きくなるだろう。本気で50年実質ゼロを実現するならば、原子力の役割を主張しなければ、政治家の資格はない。

「10年間新増設なし」 気になる原発の位置付け

―電力・ガスはともかく、石油業界へのインパクトは大きかったと思う。

石油 元売り大手は、再エネや水素で生き残ろうとしている。ガソリンスタンドも電気・水素自動車でも、クルマ周りで何とかやっていける。大変なのはLPガス業界。もっとも、もともと薪や炭を売って生業にしていた人たち。これからは電気や水素を売ってくことを考えればいい。

―エネルギー基本計画見直しの議論が始まっている。実質ゼロ宣言を受けて、原発の位置付けが気になっている。

電力 梶山経産相は、朝日のインタビューで「10年間、新増設の議論はしない」と言っている。次期エネ基でも、新増設は明記されないかもしれない。

 30年に原子力比率20~22%の目標は、既存の原発の再稼働や運転延長で達成できるかもしれない。だけど、50年を見据えて将来、原発を造るとなると、10年間建設がないと、メーカーの製造力や電力会社の運営能力は取り返しがつかないほど落ちる。産業として成立しなくなってしまう。

―でも、なぜかマスコミはそのことを伝えない。

電力 経産省の役人は事情を分かっている。それで取材する記者も原発が実質ゼロに欠かせないことを大体は理解する。ところが、そんな記事を書いても編集局の幹部がはねてしまう。論説委員も、産経、読売は別にして他紙のほとんどは原発は眼中にない。

ガス 経済界に影響力がある日経が再エネ主力電源化に偏りすぎで、経産省は頭を痛めている。編集幹部に説明にいっても、冷たくあしらわれるらしい。

マスコミ ただ、梶山さんは原子力の必要性を理解していないわけではない。新増設よりも、とりあえずは足元の再稼働や運転延長などに集中すべきだと考えている。それで、梶山さんへの信頼は省内でも厚い。原子力産業の在り方にしても、当然、何か対策を考えているはずだ。

米新政権でシェールガスは? LPガスは米国に7割依存

―話は変わるけれど、民主党のバイデン氏が米国新大統領になる。環境問題重視を打ち出しているけど、アメリカは今やエネルギー輸出国だから、当然、日本にも影響が出そうだ。

ガス 日本企業はシェールガスの権益を多く買っている。新大統領は水圧破砕法(フラッキング)を否定しないようだが、民主党内の環境重視派は廃止を求めている。新政権の人事にもよるが、これからどうなるか気になっている。

石油 LPガスはサウジアラビアから輸入しているイメージが強いが、実は今、約7割を米国産に依存している。パナマ運河が拡幅されてVLCC(20~30万t級タンカー)が通れることが大きい。

 値段も米モントベルビューの市況価格だから、サウジアラムコのCP(コントラクトプライス)よりも安い。もし米国産の輸入に支障が出たら、またサウジ頼りに逆戻りしてしまう。

―ちなみにバイデン氏は既存原発を活用して、新型炉も開発するとしている。そこは見習ってほしいね。

【火力】急がば回れ! 脱炭素社会への道


【業界スクランブル/火力】

菅義偉首相は所信表明演説で、温室効果ガスを実質ゼロにすると宣言した。火力業界としては、7月の梶山弘志経済産業相による非効率石炭火力フェードアウトの方針に続く唐突な発表に対し戸惑いを覚えているのが本音ではあるが、厳しくとも目指すべきゴールがハッキリしたことで攻めに転じるきっかけになるのではないかとポジティブに受け止めている。

目標は明らかになったものの、その道筋となると現段階では全く見通せていない。首相は「もはや、温暖化への対応は経済成長の制約ではありません」と述べているが、これは願望を語っているだけで、実際にはエネルギーのコストや安定供給にかなりの影響が出ることは避けられないだろう。政府がS+3Eの旗を降ろすことはないと思うが、びた一文まからないとすれば現状から一歩も動くことができず、一方CO2削減のみに気を取られていては、コロナ禍で明らかになったように国民生活が破壊されてしまうことになる。

このように目標実現のため具体的な道筋を示すことができるかが鍵になるが、再エネとバッテリーやカーボンフリー燃料の組み合わせに一直線で向かうというのは、残念ながら現実的であるとは言えない。イノベーションが必要となることもあるが、再エネの拡大には、その変動性を補う予備力・調整力が必須である一方、二次エネルギーであるバッテリーなどを調整力として機能させるには、再エネから十二分な余剰電力が供給されることが前提となっているからだ。

そこで火力の役割として、当面はCO2の発生量抑制に取り組みつつ調整・予備力機能を最大限発揮し、中期的には既存インフラを活用しつつカーボンフリー燃料の利用拡大とCCS、カーボンリサイクルを実用化し、最終的にカーボンフリー燃料による火力発電の脱炭素化とバッテリーと火力による調整力の協調運用というつじつまの合ったロードマップを提案したい。

今後、技術開発方針や制度の整備など解決すべきことが多いが、火力の活用こそが脱炭素社会への“急がば回れ”なのだとを広く知ってもらいたい。(M)

【原子力】ゼロエミ宣言 絵に描いた餅も


【業界スクランブル/原子力】

菅義偉首相は2050年CO2削減80%の方針を上方修正し、50年温室効果ガス排出ゼロ方針を打ち出した。他国同様に実行計画を伴わないが、もしこのままなら意欲と方向性だけの絵に描いた餅になる。しかし、わが国の特長は首相が50年ゼロを成長戦略として位置付けるとし、今後実行計画を策定するとみられる点にある。意欲的目標に実行計画をプラスするのは世界に例のないことであり、極めて困難な道だ。もし道を誤れば環境・経済・社会に幅広く深刻な影響を与え一国を滅ぼす恐れすらある。

50年に向けた発射台を13年とすれば、わが国のCO2排出量は14億tで、鉄鋼と化学産業だけで2.5億tに達す。エネルギー消費のうち約75%が非電力部門で、ほぼ化石燃料による発電。それを使用抑制すれば経済への悪影響が甚大だ。非電力部門を電化し、非化石燃料による電力で賄えば効率的にCO2抑制が図れる。すなわち有効な処方せんは電源脱炭素化と需要の電化であり、そのかけ算でCO2排出を抑制できる。

13年のわが国の総電力消費量は1兆kW時だったが、放っておけば人口減・経済停滞・省エネ進展により、総需要は減少傾向だ。しかし、電化を進めると25%増程度になる。これをどう賄うかというと、再エネが53%、石炭なしの火力発電が35%、原子力が10%(20基相当・2000万kW)としても、CO2は72%減にすぎず、カーボンニュートラルは未達だ。実行計画の策定はそれだけ難しい。わが国の再エネ普及遅延が話題になるが、狭い国土ながら、太陽光は世界第三位に伸びた。それは既に織り込み済みであり、再エネの国民負担が極めて大きい。賦課金だけでも年間2.4兆円、家庭用電気料金の約10%、業務用・産業用の電気料金の約20%に達している。カーボンニュートラルの実行計画には、低炭素電源での原子力をどうするかという視点が欠かせない。当面有力な道である既設原発の長期運転にしても、米国は80年超運転に既にかじを切っているが、その立法政策の担当すら具体化していない。地に足がついた実行計画の策定を望む。(Q)

【LPガス】地域の持続可能性 脱炭素化への対応


【業界スクランブル/LPガス】

2050年までに温暖化ガスの排出を実質ゼロにする目標を菅義偉首相が表明した。その際、LPガス業界がどうなるのか考える必要がある。忘れてはならないのは「地域がどうなっているのか」という問題認識と組み合わせて考えなければならないということだ。あくまでも現実的な解決策を求める必要がある。

LPガス事業を取り巻く課題として、次の四つの大きな潮流がある。すなわち、①エネルギー間のさらなる競合激化、②脱炭素社会への対応、③人口減少社会への対応、④地球温暖化への対応―であり、これらの課題が深刻化する中にあったとしても、LPガス事業にとって保安や災害に対する強靭さの確保は必要不可欠なものであることは変わらない。

50年を視野に入れた時に、化石燃料のLPガスも、天然ガスと同様に脱炭素化が求められるが、燃焼時に出るCO2を大気中に排出させないための処理をしない限り、残念ながら環境面ではほかのカーボンフリー・エネルギーに劣後してしまう。都市ガスは、メタネーションによるカーボンニュートラルを検討しており、既存のガス導管網を活用して消費者に供給できる可能性がある。

一方LPガスの場合は、仮にプロパネーションや、バイオLPガスで「グリーンLPガス」が作れるにせよ、物流・配送形態が今のままの効率では、商用化の可能性は極めて低い。価格が利用不可能な水準であれば消費者は選択しないだろう。

LPガスは、地球温暖化対策にかかわらず生活には必要不可欠なものであり、死活問題にもなりかねないため、消費者に対して使用禁止措置を講じることはあり得ないと思われる。故に、人口減少社会下にある地域のエネルギー供給と密接不可分に関わってくるLPガスは、地域の生活者にとっての「最後のとりで」となるエネルギーであり、たとえノーカーボンではないにせよ、LPガスはローカーボンで「地域の持続可能性を支えていくエネルギー源」であると強固に主張するしかないのかもしれない。(D)

【松本洋平衆議院議員(自民党)】日本が一歩を踏み出してきた


「人の役に立つ」との思いで政治家を志し、福島復興やエネルギー政策の最前線に立った。政権では福島復興の難しさに直面。課題に真正面から向き合い、収束に向け奔走する構えだ。

まつもと・ようへい 1973年東京都品川区出身。96年慶大経済学部卒、三和銀行入行。05年衆院選に出馬し、初当選。14年内閣府政務官、16年内閣府副大臣(防災担当)、19年経済産業副大臣兼内閣府副大臣に就任。当選4回。

1973年に東京都に生まれた松本氏。学生時代には陸上競技に打ち込む青春を送り、高校ではインターハイやジュニアオリンピックに、大学ではインターカレッジにも出場。就職活動をするに当たり、「仕事を通じて社会の役に立ちたい」との思いもあって、三和銀行(現三菱UFJ銀行)に入行した。
しかし、入行後にはアジア通貨危機が発生。急速な円高の影響で金融業界の経営は一気に苦しくなった。「社会の役に立ちたいと思って入行したが、銀行の財務状況は悪く、中小企業への貸し渋り・貸し剥がしが社会問題化する厳しい現実に直面した」

それから政府が貸し渋り・貸し剥がし対策に乗り出したことで、状況は改善の兆しを見せる。政府施策で自身が担当していた多くの企業が救われたのを目の当たりにすると、「政治の判断には、大きなインパクトがあると実感した。正しい政治が人々の暮らしを助ける」と思い、政治家を志すようになった。

出馬に向けて数多くの政治に関わる勉強会に参加したほか、国会議員事務所にアポなしで訪問するなど多くの活動を行った。その結果、2003年の衆院選に自民党から出馬することが決定する。しかし、初めての選挙戦の結果は落選。05年に行われた衆院選に東京19区から出馬し初当選を飾る。その後は浪人も経験しながらも、現在4期目を迎えた。政権では16年の第3次安倍政権で内閣府副大臣に就任し、19年9月から今年9月にかけて経済産業副大臣兼内閣府副大臣を務めた。

政治家としては、自身が第2次ベビーブーム世代で就職氷河期を肌で知る経験から、社会構造の変革を目指している。「私が生まれた昭和40年世代が今後の日本経済を支えていくボリュームゾーンになるが、将来の社会保障に期待が持てない難しい世代になってしまっている。人口が右肩上がりに増加する時代の古い社会から、人口減が進む現代に合わせてモデルチェンジしたい」と思いを語った

福島復興は国の存在意義と同義 脱炭素化に向け水素に期待

銀行員として、また国会議員としてもエネルギー政策とは直接的な接点は多くなかったが、かねてから海洋資源開発推進を目指す議連に所属していたこともあり、「エネルギーの安定確保は、国民生活の基本だ」との感想を持っていた。
経産副大臣時代には原子力災害対策本部の現地対策本部長も兼任。時間があれば地元に行き、多くの関係者と対話の機会をつくるなど、福島復興や、福島第一原子力発電所の廃炉、ALPS処理水問題の収束に従事した。

「福島は前に進んでいる姿と、3・11から時が止まっている姿の両方が印象に残っている。地元の方からは『福島には二つの風が吹いている』という話を聞いた。一つは『風評』で、もう一つは『風化』だ。政府の存在意義が国民の生命・財産を守るのであれば、福島の事故に真正面から向き合い、復興の実現は必ずやり遂げなければならない課題だ」
また国内外のエネルギー施設の視察や、国際会合に出席し、エネルギー業界で起きる最先端の潮流にも触れた。今年10月26日には菅義偉首相が「50年カーボンニュートラル」を宣言するなど、日本も本格的に脱炭素社会を目指そうとしている。こうした取り組みに重要なこととして、「具体的な取り組みを積み重ね、新技術を確立することが目標達成につながる」と指摘する。

脱炭素社会構築に向けては、再生可能エネルギーの主力電源化や、水素に大きな期待を寄せている。特に水素については、今年3月に開所した福島県浪江町の福島水素エネルギー研究フィールドの開所式に出席。また国内で行われる水素のサプライチェーン構築に向けた運搬船の実証の模様などを視察し、「実験にとどまらず社会実装できる」と感じた。

「水素は実用化に程遠いとの意見も多い。しかし過去を振り返れば、50周年を迎えたLNGも当初は未知の技術とされていた。そうした状況にあっても日本が一歩を踏み出したことで、今では世界中で当たり前のように使われている。水素には国内だけではなく、世界を変えられる大きなチャンスがある。仕組み作りを行っていくことも大事な観点だ」

座右の銘は、大学の恩師から送られた、小平市名誉市民の彫刻家・平櫛田中の「今やらねばいつできる、わしがやらねばたれがやる」という言葉。課題に直面したときに、この言葉を思い出して「逃げることなくやっていくんだ」と自らを奮い立たせるそうだ。

「政治を志したきっかけは、貸し渋り、貸し剥がしで苦しむ中小企業を救うことだった。そういう意味ではコロナ禍で苦しむ中小企業を救う経産省での仕事は、難しいながらも、やりがいのある仕事だった」と、この1年を振り返る。政権中枢で得た知見をどう還元するのか、注目が集まる。

【コラム/12月21日】コロナ下の経済成長戦略を考える~空論・期待脱却、現実直視で


飯倉 穣/エコノミスト

 成長戦略会議で、ポストコロナ時代も考えた実行計画の中間まとめがあった。従来の成長戦略の考え方を踏襲し、労働参加率、労働生産性の指標に重点を置いてイノベーション投資増と働き方で労働増を狙う。現下の日本は技術革新停滞が継続し、成長牽引の投資は願望の域を出ない。計画は、50年カーボンニュートラル実現を目指し、革新的イノベーションを訴えた。肝心の研究体制について、独立行政法人化等で当初のプロパガンダと違い大学や国立研究機関の弱体化を仄聞する。研究・技術開発力の低下が懸念される中で、革新的エネルギー利用技術の実現は可能なのであろうか。また現在の技術で活用可能な原子力発電等の推進が曖昧である。最終報告では、机上の空論にならないように現実を踏まえた実行計画を期待したい。

1、新型コロナ対策で感染対策と経済政策の方向が迷走する中、菅新政権の成長戦略会議・実行計画の中間取り纏めがあった(2020年12月1日)。地味な報道があった。「成長戦略の実行計画」(朝日2日)、「成長戦略会議 実行計画 中小の業態転換に補助金 生産性向上へ規模拡大 脱炭素の技術開発も支援」(日経同)。

2、内容は、15章に及ぶ。まず成長戦略の考え方と50年CO2排出ゼロ・グリーン成長戦略の現実性が気懸りである。また論点の中小企業対策、デジタル化、国際金融都市、経営者の多様化も吟味が必要である。他は従来政策の焼き直しである。この稿では経済成長の考え方と研究開発状況を踏まえたエネルギー選択を考える。

3、実行計画の成長戦略の考え方は、ソローモデルの延長にある。同モデルは、成長要因分析に係る一つの考えである。資本、労働、TFP(技術進歩率・生産性等)で説明する。計画は述べる。経済成長率は、労働参加率の伸び率と労働生産性の伸び率を合計したものである。近時(安倍内閣時代)の成長で、参加率は女性や高齢者参加で拡大したものの、労働生産性の伸びが低いと指摘する。今後両者の伸び率が必要と労働投入や通常投資増を目論む。

4、繰り言だが、経済成長は、技術革新を体化した民間企業設備投資(独立投資)が惹起する。企業家の事業化意欲が投資を具現する。資金確保、投資実施(例えば工場建設等)に伴う資材・労働調達、そして生産開始・出荷・販売となる。生産性上昇(労働時間当たり生産数量増)があれば、製品単価の低下、販売増がある。そして所得増、賃金・利潤の支払い増となる。結果的にソローモデルの語る資本や労働の増加を観察できる。成長の基本は、イノベーション具現化の独立投資である。労働や資本が成長のけん引役でない。

5、過去の経済成長の姿を見れば、前年度の民間企業設備投資が、当年度のGDP増加を生起する。高度成長時代なら、前年度の実質設備投資10兆円が、当年度実質GDPを5~10兆円増加させた。当年度GDP増加額/前年度設備投資比率(以下GDP増・投資比率という)は、1~0.5だった。オイルショック後0.2程度、その後さらに低下し90年代以降0.1前後である。アベノミクス期(13~19年度)のGDP増・投資比率は、約0.04である。例えば17年度90兆円の設備投資は、翌年度16兆円のGDP増を見たが、18年度91兆円の設備投資は、翌年度GDP増に至っていない。それが低成長の姿である。設備投資内容の多くは維持更新的である。前政権は民間投資を喚起する成長戦略を謳ったが、効果はなかった。大胆な金融政策・機動的な財政政策は、成長に何ら貢献せず、財政状況悪化と日銀バランスシートを肥大化させた。

6、実行計画は、新たに50年温暖化ガス排出ゼロを打ち出した。排出ゼロ且つ経済水準向上を目指すなら、大量・安定・経済性の3条件を満たす非化石エネの獲得が必須である。計画は、革新的なイノベーションの推進で、次世代型太陽電池、カーボンリサイクル、水素等の技術革新を掲げ、デジタルインフラでグリーン成長戦略を支えるとする。革新的研究開発促進と規制改革等政策で脱炭素社会を目指す。

7、技術開発を振り返れば、高度成長終了後「模倣から創造へ」というモットーを掲げて半世紀を経た。エネルギーの場合、サンシャイン計画(1974年)、ムーンライト計画(78年)から、技術戦略マップ等を経て、革新的環境イノベーション戦略(20年)を実施中である。

過去50年弱の研究技術開発を俯瞰すれば、同じ様なテーマの繰り返しである。未だ一次エネで石油代替の3条件具備のエネルギーの姿は見えない。何時も核融合、太陽電池変換効率向上、人工光合成効率(自然界は1%程度)引上げが、将来の成長牽引の手掛かりである。いずれも実用化を展望する段階でない。当面、現在利用可能な非CO2エネ利用技術の最大活用を図るほかない。とりわけ原子力発電、そして地熱、風力等の開発である。

8、この現実を踏まえて、新政権は今後の経済運営、成長戦略を再考すべきであろう。技術革新停滞状況では、低成長の事実を甘受し、現実的・安定的な経済運営(時に我慢も必要)が基本となる。また脱CO2では、現在の技術で可能なことに取り組みつつ、研究テーマ・開発体制の再構築も必要であろう。最終報告での充実を期待したい。

【プロフィール】経済地域研究所代表。東北大卒。日本開発銀行を経て、日本開発銀行設備投資研究所長、新都市熱供給兼新宿熱供給代表取締役社長、教育環境研究所代表取締役社長などを歴任。

【マーケット情報/12月18日】続伸、供給引き締め材料揃う


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み続伸。供給ひっ迫材料が出揃ったことで、市場は買い優勢となった。ブレント先物価格は18日、52.26ドルの終値となり、今年2月以来約10か月振りとなる高値更新となった。

世界各地で出荷量減少との報告が相次ぎ、先の供給に不安が広まった。リビアでは1月の出荷量が前月比23%減となる見通し。同国ではメリタターミナルで2月末までメンテナンスが予定されている。また、ロシアからの1月積みも前月比10%減と報告されている。アンゴラでも2月の出荷量減少が予想されており、過去3年で最低水準との報告だ。

また、米エネルギー省が先週発表した原油在庫統計は大幅な減少を示した。他国からの供給量が減少したことと、国内生産量も減少したことが要因としている。

一方、世界各地で原油需要予測に下方修正が加わったことが価格の上昇を幾分か抑えた。コロナ感染者の増加で国際的に経済活動が鈍化するとの予想につながっている。ただ、米議会が19日、9000億ドル(約93兆円)規模の追加新型コロナウイルス対策を発動することで大筋合意した。経済の好影響となり原油需要の増加も見込まれ、価格はさらに急伸している。

【12月18日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=49.10ドル(前週比2.53ドル高)、ブレント先物(ICE)=52.26ドル(前週比2.29ドル高)、オマーン先物(DME)=51.23ドル(前週比0.66ドル高)、ドバイ現物(Argus)=51.25ドル(前週1.04ドル高)

【都市ガス】脱炭素待ったなし 先駆的戦略構築を


【業界スクランブル/都市ガス】

菅義偉首相は2050年温室効果ガス実質ゼロを宣言した。注目すべきは「もはや、温暖化への対応は経済成長の制約ではない」とし「積極的に温暖化対策を行うことが、産業構造や経済社会の変革をもたらし、大きな成長につながるという発想の転換が必要」とした発言だ。これは、環境対策を経済の足かせと捉えるのではなく、グリーンリカバリーやグリーンディール投資計画など、世界が脱炭素経済への移行を経済発展の主戦略に据えていく中、日本でもようやく新しい経済社会への変革に踏み出したことを意味しているといえよう。

経団連や経済同友会などの経済団体はこの宣言を歓迎し、自動車・航空・船舶・鉄鋼・ゼネコンといった数多くの業界が実質ゼロにつながる抜本的な脱炭素化対策を企業戦略の中心に据えている。さらに、金融業界も環境対策事業を投融資の柱にすることを表明している。既に、各業界とも国際的な競争力を維持拡大するために、脱炭素化は必須事項となっているのだ。

もちろん、エネルギー業界も例外ではない。火力発電は日本のCO2総排出量の約4割を占めており、電力各社は洋上風力など再エネの主力電源化と併せ、アンモニアや水素の混焼・専焼に向けての研究開発を積極的に進めている。既存の火力発電設備を活用してゼロエミッションを実現できるとなれば、電力会社にとっては画期的で強力な戦力となる。

それでは、都市ガス業界はどうであろうか。天然ガスは化石燃料の優等生ではあるが、どうしてもCO2を排出する。現在、「2050年に向けたガス事業の在り方研究会」がちょうど良いタイミングで開催されているが、本研究会を形式的に終わらせてはならない。業界全体を抜本的に方向転換させるには極めて時間がかかる。周りの動きを見ながら対応策を考えているのでは、命取りになりかねない。50年前に都市ガス事業者は世界に先駆けてLNG導入を意思決定した。これからの50年を見据え、ほかに先駆けた戦略構築を強く望む。(G)