埋設物の地震リスクを数値化 ガス・通信・水道にも適用可能


【東電設計】

 発電所、都市ガス導管網、製油所といった生活を支える各種エネルギーインフラには、取水管や導水路、導管など、地下にはさまざまな埋設物が設けられている。

当然のことながら、これら埋設物は経年が進めば改修しなければならない。事業者は限られた予算で効率よく設備改修を行うために、優先順位をどうやって決めるのか頭を悩ませている。

優先順位を決める上で、大きな判断基準になるのが、災害時に対象物がどれだけの損傷が受けるのかを表すPML(予想最大損失率)という概念だ。

PMLとは、災害が発生した際に、対象となる建築物がどれだけの損傷が発生するのかを確率論的に数値化した指標。これまでビルや発電所などでは建物ごとにPMLを算出して建物のリスク評価をしてきたが、地中で広範囲に張り巡らされた埋設物のリスク評価の算出は難しかったという。

そこで東電設計は、地震発生時の埋設物で生じる損傷リスクを数値化するサービスを、東京電力ホールディングスの委託を受けて開発した。サービスでは埋設物を1~3m程度に区分けして各部位のPMLを算出、さらにその総和を求めることで埋設物全体の地震リスクを評価する。

東電設計のサービスは埋設物の地震リスクを数値化する

部位ごとのリスクを数値化 ガス・水道・通信にも適用

サービスを利用することで、設備全体のPML値を比較し、被害リスクを数値化することができるようになる。つまり設備が複数ある場合、各設備がどれだけのリスクを抱えているのかを具体化することで、どれを優先して更新するのか判断材料として役に立つ。

また、埋設物を1~3m程度に区分けしてPMLを算出することから、埋設物全体の地震リスクに加え、部位ごとの地震リスクも数値化する。そのため修繕工事計画を立案する際に、特にリスクが高い部位から優先的に工事を進めることも可能になる。

土木本部技術開発部の栗田哲史氏は「地中には電力、石油、ガスなどエネルギー業界に留まらず、水道、通信などさまざまな業種の埋設物がある。今後、インフラの経年はどの業界でも大きな問題となるため、設備更新の際に本手法を多くの事業者に使ってもらいたい」と話す。今後は地震に伴う機械の損傷や、津波や土石流など広域災害も踏まえたリスク評価手法の開発も進めたい考えだ。

設備更新はインフラを運用する事業者にとって離れられない課題。東電設計のサービスはこの問題を解消するツールになりそうだ。

公取委がまたも立ち入り 電力ガス独禁法違反の疑い


公益事業制度に基づく地域独占体制に慣れ親しんできた電力・都市ガス会社の経営体質は、一朝一夕に変わらないのか。

10月5日、公正取引委員会がまたも電力・ガス会社への立ち入り調査を行った。今回は中部電力、中部電力ミライズ、東邦ガスの3社。大口顧客向けの電力・ガス販売でカルテルを結んでいた独占禁止法違反の疑いだ。

去る4月には中部電、中部電ミライズ、関西電力、中国電力4社が大口向けで、また中部電、中部電ミライズ、東邦ガス3社が家庭向けで、それぞれカルテル容疑で立ち入り調査。また7月には関電、中国電、九州電力、九電みらいエナジー4社が、大口向けのカルテル容疑で調査を受けている。

関係者によれば、2016年の小売り全面自由化を契機に、東京電力の販売子会社が西日本地域で安売り攻勢を仕掛けた。これが談合疑惑の引き金になった可能性があるという。「安定供給体制を堅持するためにも消耗戦は避けたい」。そんな独占時代の名残りが競争回避へと向かわせたのか。調査結果が出るまでには、しばらく時間がかかりそうだ。

【コラム/11月8日】昨今の電力需給等の議論をみて思い起こすこと


加藤真一/エネルギーアンドシステムプランニング副社長

 本コラムでは毎回、電気事業制度の振り返りをしているが、前回のコラムから3か月、相変わらず審議会等の動きは活発である。

 8~10月でざっと90本近い審議会等が開かれており、エネルギー・環境に関する各分野について幅広く議論が展開されている。夏から秋にかけては、審議の取りまとめや、それに伴うパブリックコメントも多く出されている。例えば、エネルギー基本計画や地球温暖化対策計画等が閣議決定され、カーボンプライシングは年内の一定の方向性取りまとめに向けた中間整理が、非化石証書取引については、FIT、非FITそれぞれ制度設計の見直しがなされている。

審議会等をみていて、とりわけ多く時間が割かれているのが、今冬及び来年度の電力需給状況を踏まえた対策である。昨冬(21年1月)の発電用LNG燃料の在庫下振れに伴うkWh不足は記憶に新しいが、1年経たずして、再度、厳しい冬が待ち受けることになった。

私の20年ばかりの社会人生活を振り返ると、電力需給の話題が節目で必ず出てくるなと最近よく思い起こすことがあり、少しだけ振り返ってみることとした。

電源調達が厳しかった当初の電力小売部分自由化

 私の社会人生活は、20年程前に東京電力に入社したことから始まったが、入社翌年には、電力小売部分自由化として特別高圧分野の小売自由化が開始された。当初は、今のように新規参入が700者を超えるようなことはなく、事業参入した事業者(PPS)は数える程度であった。

 大手電力からの離脱は民間企業を中心に行われてきたが、公共施設にも入札という形で切替えが促進されてきた。日本で初めての電力入札は2000年の通産省本省であったが、この時、応札に参加しようとしたPPSの1社が大手電力に部分供給を求め、その価格設定等の条件協議が難航したとの話があった。当時は、卸電力取引所もなく、実需同時同量や託送料金のパンケーキ問題、厳しいインバランス料金設定等、新規参入には厳しいハードルが多く、その中で、販売に十分な電源の調達も非常に難しかった時代であった。今は市場もでき、計画値同時同量で比較的、新規参入がしやすい制度となったが、当時から参入している事業者は創意工夫や努力を重ねて供給力確保や需給運用をしていたのである。

自家発電サービスから見えた課題

 入社から3年程経ち、東電が新規事業として設立したオンサイトエネルギーサービスを行う会社に出向となった。電力小売部分自由化で東電は当時の売上の約1割である5,000億円の離脱を想定し、その補完として新規事業に乗り出したのである。いまや、ベンチャー企業やファンド投資、エネルギー事業以外の新規事業を大手電力会社が当然のごとく行っているが、そのルーツは20年程前にあったのである。

 このオンサイトエネルギーサービス会社では、ディーゼル発電機やガスエンジン・ガスタービン発電機といった自家発電システムを企業の敷地に設置し、運用まで一括で行う事業を行っていた。設計から設置・電気工事、設備所有、燃料調達、O&M、撤去までの一貫したサービスを初期費用無料、月額サービス料をいただく形で提供しており、いまや自家消費太陽光や蓄電システムで採用されている第三者所有モデルの走りであった。

 当時は原油価格が安価で推移しA重油を使ったディーゼル発電機のコストメリットを十分に享受できる状況であったこと、電力会社の季時別メニューの特徴を活かし、昼間は発電機を、夜間は安い系統の電力をハイブリッドで使うことで企業の電力コスト削減が図れることができた。

 また、生産ライン等の増強で増設をしたい企業の特高化回避や、落雷や電力系統事故による停電時に製造ラインを停止したくない工場への自立運転機能による電力供給等、自家発電が電力需給に果たす役割は相応に存在感があった。

 発電機の設置当初は、よくトラブルで停止し、その都度、電力会社の自家発補給電力を使わせてもらった。電力会社への申請・発電データ提出、お客さま説明等の対応も多くあった。自家発は系統連系しており発電機が止まっても電力は通常どおり供給されるため、お客さまに影響はなかったが、この自家発補給電力を使用した際のペナルティ分は事業者負担となっていたので、かなりの痛手になったことは苦い記憶である。

 ちなみに、自家発を設置しているから停電でも大丈夫というわけではなく、自立運転機能等の切替え機能が備わっていない自家発は系統停電時には解列し停止してしまうので、お客さま提案時の説明には留意していた。

 以上のような自家発の使い方は日常使いの常用発電機としての役割であるが、短期間に必要な供給力を賄う仮設方式も当時の会社では事業の柱として行っていた。2002年に開催されたサッカーの日韓ワールドカップでは放送用の電源として英国アグレコ社と共同で全国10会場に電源設置・運用を行い、大会を支えた。世界的なビッグイベントであるワールドカップの世界への中継を途切れさせることなく、そのための電力を送り届ける役割である。系統電力の場合、落雷等で瞬低が発生するおそれもあり、そうした影響を受けにくい仮設発電機での対応が、こうした世界的なイベントには多く採用されている。この現場を預かった当時の先輩の話をよく聞くことがあったが、設置から運用・撤去に至るまで、体力的にも精神的にも非常にタフな現場でよい経験になったとの話だった。別の意味での電力の安定供給の姿をみたものである。

 この経験を活かし、様々なイベントで仮設電源のレンタルサービスも展開した。スポーツ大会をはじめとしたイベントでは運営に必要な電力がないこともあり電力会社の臨時電力を敷設するケースが多いが、コストや申請の手間等を考えると、仮設電源での供給に分があった現場もあった。この時も常用同様に一括サービスとして提供することでお客さまの手間を極力減らしたことが功を奏したこともあった。

 そして、こうした地道な取り組みが活きたのが、2002年に東京電力の原子力発電所の自主点検記録改ざん問題に端を発した原発運転停止による翌2003年夏季の電力需給がひっ迫懸念への対応である。多くの企業から夏の電力供給への心配の声が届き、仮設電源レンタルへの問い合わせが多く入り、複数の企業に仮設電源を設置し、非常時に備える体制を整えた。実際に、2003年夏は冷夏であったことや老朽火力の立ち上げ等で事なきを得たが、電力会社に入社して初めて電気が足りなくなるとの不安を感じた場面でもあった。

 この会社は2004年頃からの原油価格高騰の煽りを受け、2006年に事業撤退をすることとなった。この動きは他のオンサイトエネルギーサービス会社も同様で、当時の最大手であったエネサーブ社も事業撤退せざるを得ない状況になった。この際に、問題となったのは、事業撤退とともに、それまで自家発電で賄っていた供給が系統側に戻るということであった。特高回避目的で導入した企業では特高受変電設備の新設が必要になり、電力会社の送配電部門では、幹線の増強や変電所の容量増加等の工事が必要になったところもある。撤退した事業者は電力会社と調整のうえ、一気に自家発停止・撤去するのでなく、順次、行うことで系統側の負荷を軽減するよう協力したものである。今も多くの自家発電が企業に設置・運用されているが、ここ数年でサービス契約が終了する案件も多いと想定され、送配電会社側が停止・撤去はされないと高を括ってしまうと同じような事態に陥る危険性はある。実際に私の知っている企業ではピークカット用で使っていた重油焚きの発電機をこの数年内に撤去することを決定している。

 これと前後する形で、今度はガスコージェネレーションが台頭し始めた。ディーゼル発電の総量規制を条例で定める自治体の出現や、環境面への配慮等も背景に、とりわけ都市ガス会社がこの分野でリードし、電力会社が追従する形となった。特に排熱の活用があるため、蒸気や温水・冷水をプロセスで使う工場で多く採用された。発電機は排熱回収ボイラ等との組み合わせにより電力だけでなく熱も供給する存在となった。

 上述の通り事業撤退はしたものの、一部のお客さまについては、東電の別の子会社に譲渡し、契約満了まで対応をしてもらうこととした。そこに、引継ぎの役目もあり、出向となったのが2007年。

そして、その7月に新潟中越沖地震があり、柏崎刈羽原子力発電所が停止するに至った。大型電源の停止により周波数が一気に低下し、関東地方で運転していた自家発で一斉に周波数低下のアラートが鳴り、発電機が解列する事象も発生した。

その年の夏は比較的暑く、原発停止により電力需給も厳しさを増し、東京電力は大口顧客に需給調整やピーク調整の契約を発動することもあった。自家発を預かる立場として夏の点検の端境期への移行やトラブルへの細心の注意をしていた矢先、それも8月の最大需要電力発生日に、契約先に設置した発電機がトラブルを起こし、発電機を停止して点検せざるを得ない事態が発生してしまった。当日の関東の電力需給が厳しい中で、お客さまも生産調整をして協力をしてくれた。このように2007年は電力供給に気を使った年になった。

東日本大震災時の話

 話はそれから4年経ち、2011年3月11日。東日本大震災とそれに伴う福島第一原子力発電所の事故、多くの火力発電の損傷が発生した。

 会社が復旧や計画停電等の対応をしている中で、海外から仮設電源を提供するとの話が出てきた。そんな矢先、オンサイトエネルギーの子会社で一緒に出向していた火力部門の方から、「仮設電源設置に関するデータや書類がほしい」との依頼がきた。子会社は撤退して清算したが、私が戻った部署でデータを保存したサーバを預かっていた。そのサーバを渡したのだが、なにせ5年以上の会社のデータである。必要なデータを探すのに時間がかかると言うのだ。そこで、色々と社内の伝手を手繰っていたところ、当時のデータを持っている方があらわれた。私は、その方からデータの入ったCD-ROMを借りて、そのデータを火力部門に渡して活用してもらうことになった。その後、火力発電所の敷地内に多くの仮設電源が設置され、一時の供給力として活用された。後で聞いた話だが、そこで活躍したのは、当時、あの子会社に出向して東電に戻ってきたメンバーが多かったとのことだった。大電源を動かすことに長けている人材は電力会社にも多くいるが、緊急時に野戦病院的に対応できる人材は、案外、子会社等に出されて第一線で実務に取り組んだところにいるのだろう。

 このように設置された緊急設置電源は一定期間、供給力としての役目を果たし、一部は北海道電力へ移設され、大半は撤去された。東電を辞めた後に移った会社で、他電力が設置した緊急設置電源を常用でコンバインドサイクル化して使えないかとの相談があり、少し関わらせてもらったこともあったが、巡り合わせというものもあるものだと感じたものである。

時は令和となり

 それから電力システム改革を経て、時代はカーボンニュートラルへの移りつつある。「S+3E」を大前提に再エネを主力電源として活用し、他の脱炭素電源と組み合わせてエネルギーミックスの目標が立てられた。

 その間には、2018年の北海道胆振東部地震による道内ブラックアウトや、大型台風による関東での停電長期化等、最近は、激しさを増す自然災害への対応が必然的となっている。

そして、2021年1月には発電用LNGの在庫下振れによりLNG火力を燃料制約で出力低下せざるを得なくなり、kWhが不足するという事態が発生した。卸電力取引所への売り札が減り、新電力をはじめとして小売電気事業者は供給力確保義務のもと、高値の札を出してまでして市場買いを行った結果、市場価格は高騰、連動しているインバランス料金も上昇するという結果を招いた。

こうした反省を教訓に、今後の電力需給については短期、中長期で対策を検討し、一部の施策は既に実行し始めている。それでも休廃止予定の電源は多く、今年の冬、来年の夏・冬も供給予備率が厳しい状況であるとの見通しが発表されている。

電気事業制度を毎月追っていると、多くの議論が並行して行われており、そのスピードに付いていくだけでも大変な状況である。次から次への新たな課題が出てくる中で、「柔軟に見直し」や「ファインチューニング」「不断の見直し」といった言葉が躍ることが多い。

「喉元過ぎれば熱さを忘れる」ではなく、まずは足元で緊急的に止血をしつつ、並行して恒久的な予防・治療対策をと議論し、一体何が最適な電力システムなのか、今一度、しっかり見直していくことが重要だろう。

【プロフィール】1999年東京電力入社。オンサイト発電サービス会社に出向、事業立ち上げ期から撤退まで経験。出向後は同社事業開発部にて新事業会社や投資先管理、新規事業開発支援等に従事。その後、丸紅でメガソーラーの開発・運営、風力発電のための送配電網整備実証を、ソフトバンクで電力小売事業における電源調達・卸売や制度調査等を行い、2019年1月より現職。現在は、企業の脱炭素化・エネルギー利用に関するコンサルティングや新電力向けの制度情報配信サービス(制度Tracker)、動画配信(エネinチャンネル)を手掛けている。

【マーケット情報/11月5日】原油続落、供給増見通し強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み続落。供給増加の予測がさらに広がり、売りが一段と優勢になった。

米国の10月29日までの一週間における週間原油在庫は、市場の想定以上に増加。生産増が背景にある。また、同国の石油サービス会社ベーカー・ヒューズが先週発表した国内の石油掘削リグの稼働数は6基増加し、450基となった。さらに、Shell社は、ハリケーン「アイダ」の影響で停止していたメキシコ湾の一部プラットフォームにおける生産を再開。供給増加の見込みが、需給を緩めた。

加えて、米国とイランは、米国の対イラン経済制裁解除と、イランの核合意復帰に向けた会合を、今月29日に開催予定。イラン産原油の供給増加へ、期待が高まった。

一方、OPEC+は、12月の生産予定を、日量40万バレルの増産のみで合意。新型コロナウイルスの感染再拡大や、中国経済の停滞による需要後退などを懸念材料に挙げ、追加増産を拒否した。

【11月5日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=81.27ドル(前週比2.30ドル安)、ブレント先物(ICE)=82.74(前週比1.64ドル)、オマーン先物(DME)=79.75ドル(前週比2.59ドル安)、ドバイ現物(Argus)=79.13ドル(前週比3.42ドル安)

ローカル5Gの検証スタート 次世代サービスの商用化も視野


【中部電力/中部テレコミュニケーション】

 高速大容量、低遅延、同時多数接続の特長を持つ、次世代通信規格「5G」。携帯電話事業者を中心に全国的にネットワークの整備が進むと同時に、自社施設や工場敷地内など、限られたエリア内で独自に5G通信網を構築する「ローカル5G」整備に乗り出す事業者が増えている。

中部電力もそうした事業者の一つで、同社はグループ会社の中部テレコミュニケーション(ctc)と共に、中電グループが運用する変電所と社員寮でローカル5G網を構築する共同検証を行っている。共同検証では、名古屋市西区にある中部電力の小田井寮(中電不動産所有)の敷地内に基地局を設置。寮施設と寮に隣接する枇杷島変電所で、実環境下での電波伝搬特性や通信性能、基地局の設置や運用など、実用化を見据えた各種検証を行う。

検証の実施イメージ

ローカル5Gを整備することで、これまで利用されてきた4G回線やLPWA(低消費電力長距離無線通信)以上の応答性能と高速大容量通信を活用した高度なIoT化やDX化が図れるのではと期待されている。また独立した通信網ということで、携帯電話事業者の通信障害や、基地局の被災の影響を受けにくいなどの特長がある。

ラストワンマイルに活用 新サービス商用化も視野

通信設備は一般的に利用されている5G設備を4G設備と連携させて通信を行うノン・スタンドアローン方式(NSA方式)ではなく、スタンドアローン方式(SA方式)を採用した。SA方式は5G設備のみ利用して5G通信を行う方式のため、NSA方式の5G通信と比べて設置や運用コストを抑えられるメリットがある。

インターネット・電話・テレビなどの通信サービス「コミュファ光」ブランドを提供するctcは、今回の検証を基に光ファイバーの幹線から契約者宅までのラストワンマイルを、ローカル5Gで無線化することで高速大容量の通信サービスの提供や、光ファイバー工事の工期短縮効果をもたらすと期待を寄せる。さらにローカル5Gによるインターネット接続の実用化に向けた評価を行い、商用化の検討を進める。

中部電力は遠隔監視、映像伝送、画像解析などによる災害時の設備復旧の迅速化、日常的な巡視点検の効率化などに向け、携帯電話事業者の5Gとローカル5Gの比較を行い、それぞれの特性を把握し、高度な自社通信ネットワークの構築に努めていく。

グループ全体で5Gの実用化を進めることで、新サービスの商用化および自社設備の高度化を図る方針だ。

【覆面ホンネ座談会】岸田政権の環境エネ政策は!? 記者が見た舞台裏事情


テーマ:岸田政権と環境エネルギー政策

 ついに船出した岸田新政権。最初の関門の衆院選を終え、エネルギー環境政策をどうかじ取りするのか。一般紙政治・経済記者の見方はこうだ。

〈出席者〉 A経済記者  B政治記者  C政治記者

――自民党総裁選は、予想以上に岸田文雄氏に議員票が集まっての勝利という結果に終わった。改めて振り返っての感想は。

A 今回の一番のポイントは「モリ・カケ・桜」問題への対応だった。再び表沙汰にしたくない安倍晋三元首相の思惑が強く働き、言うことを聞かない「小石河連合」より、言うことを聞く岸田氏の方が良いとの判断で流れができた。結局安倍氏の一人勝ちとなった。

B それを裏返してみると、メディアを含め、悲願の憲法改正のための安倍氏再登板を警戒する声も、要素として大きかったと思う。

C メディアが4候補にモリ・カケ・桜の再調査について問うたのは、安倍・麻生政治を継承するか否かの試金石という意味からだ。結局、最終的には岸田氏も河野太郎氏も再調査を否定し、安倍政治の継承が確定した。エネルギー政策も同様に継承路線だろう。

B 今回の総裁選は、NDC(CO2の国別目標)のような高い目標を掲げ、政治圧力を通じて国民に行動変容を促す非民主的な政治への転換か、積み上げで実現性のある政策を示していくかの岐路だった。前者は河野氏、後者は岸田氏の陣営。菅政権では、NDCでも石炭火力輸出でも、河野氏・小泉進次郎氏の独裁政治状態だった。ユートピアを語るだけで、経済や国民生活に過大な負担を課すエネルギー政策から脱却し、メンツをつぶされ続けた梶山弘志・前経済産業相らがこの混乱をどう収束させていくのか、注目している。

A エネルギー基本計画を巡り8月30日に梶山氏と河野氏が一対一で相まみえた時には、相当ケンカしたと聞く。河野氏の主張に対し、梶山氏は一歩も引かなかった。

B 梶山氏は官邸にも、自分が勝利したと報告したようだね。

C そして梶山氏は総裁選でさっさと岸田氏応援を表明した。菅義偉前首相との関係に亀裂が生じたと感じた。エネルギー問題が総裁選の底流にあったということだ。

A 梶山氏は経産相就任当初から(温暖化防止国際会議の)COPで化石賞を受賞するなど悪者にされてきた。一連の出来事によく耐えたと思うよ。

B 現職閣僚で唯一、岸田氏の推進人に名を連ねた。梶山氏はあまり本音を言わない人だが、側近には「今回は確実な方向に行きたい」と語っていた。泥を塗られ続けた怒りを感じたし、経産省の方向性に合致する候補は岸田氏だというメッセージでもあった。

A 省内には高市早苗氏を応援する人や、筆頭首相秘書官に就いた嶋田隆氏が野田聖子氏の推薦人確保に動いていたとも聞く。河野氏以外の誰が勝利しても良いように保険を掛けていた感じだ。

B ただ、高市氏だと経産省の留飲は下がるが、これまでと真逆の方向に振れ過ぎてしまうので、結果としては良かった。

――本誌としては、菅政権で再生可能エネルギー最優先に極端に振れた政策が、新政権下で揺り戻しがあるのではと期待している。

衆院選を経て、岸田政権のエネルギー・環境政策の方向性が徐々に見えてくる

菅政権に翻弄されたエネ政策 官邸主導に逆戻りか

C 岸田首相がエネルギー政策の修正に入ったと聞いている。所信表明演説で語った「クリーンエネルギー戦略」の本命は原子力政策だ。エネ基をほごにしない形で、再エネだけでなく原子力をしっかり進めていく考えだ。甘利明幹事長や山際大志郎・経済再生相らの働きかけだろう。

A 新増設は無理としても、リプレースをエネ基に入れようという動きはあったようだが、公明党の問題があった。菅氏は公明党の意見をよく聞いたが、それはエネルギー政策にまったく関心がなかったから。カーボンニュートラル(CN)も2030年46%目標も、国連特使で元GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の水野弘道氏らと内輪で決めた話だ。

――岸田内閣の顔ぶれの評価は?

C ベテラン勢については3A(安倍、麻生、甘利)に忖度した一方、実務型の全員野球との思いから若手も抜擢し、この両立に腐心した形跡が見える。エネルギーに関しては、山際氏や、小林鷹之・経済安全保障相、そして経産相に細田派の萩生田光一氏が就いたことがポイントだ。

B 入閣適齢期を過ぎた人がいて「余りもの内閣」との揶揄もある。ただ、甘利氏や山際氏、さらに幹事長代行で梶山氏が中枢に入った意味は大きい。一時、経産相には山際氏の名前が出たが、萩生田氏を重要閣僚で処遇するため、今のポジションに落ち着いた。

C 首相周辺は、一部報道で漏れたから山際氏を替えたと言っている。また、甘利氏の影響力を減らすという演出もあっただろう。

A エネルギーに詳しくない萩生田氏の経産相就任には少し首を傾げた。文部科学相時代も旧科学技術庁の分野にはあまり興味がなかったようだ。萩生田氏には財務相か外務相という話もあったね。党幹部の芽はなかったのかな?

C 党幹部の可能性は、甘利氏が入った時点でなくなった。萩生田氏の処遇については、文科相のままでは安倍氏が怒ってしまう。かといって茂木敏充外務相は替えられず、財務相も麻生氏への配慮で決まり、次の重要ポストである経産相に、という流れだ。

A 基本的にエネルギー政策は同じく秘書官の嶋田氏と、荒井勝喜・前経産省商務情報政策局長がグリップしていくんだろう。ただ、財務省出身の秘書官2人との駆け引きもある。

B 萩生田氏は官邸の下請けになりそうだな。経産相としての独自色は出さずにおとなしくしていくんじゃないかな。

――嶋田秘書官は、今井尚哉・内閣官房参与が押したとも聞く。

A 確かに総裁選では今井氏が暗躍した。総裁選前のスピーチの特訓とか岸田ノートとかいろいろなことをレクしたし、官邸に今井氏が残っていること自体、エネルギーは官邸でやるというメッセージだ。

C 岸田氏の公約には、今井氏が使いたい言葉が随所に出ていた。ただ、岸田首相待望論の中核となってきた「永霞会(永田町・霞が関開成会)」の中心は財務省で、経産省はど真ん中ではない。そういったことが今後どう影響するのか。

産消会議で「新協会」を発表 アジアのLNG安定化に貢献


LNG・天然ガスを巡り、年初のアジア市場の需給ひっ迫や、足元の世界的、歴史的な高騰局面と、市場が急速に不安定化している。そんな中、経済産業省とアジア太平洋エネルギー研究センターが10月5日、第10回LNG産消会議を開催。参加者からは、トランジションでのLNGの重要性が増す一方、不安定な市場の継続への懸念が相次いだ。

需要が拡大する東南アジア市場の安定化が課題だ

中国に続き、東南アジアでも今後10年、年約5000万t規模で需要が増加する見込み。昨年は新たにミャンマーが輸入国となり、ベトナムやフィリピンも仲間入りする見通しだ。アジアでの安定、安価なLNG供給を後押しするため、会議では「アジア天然ガス・エネルギー協会(ANGEA)」の発足が発表された。シェブロンやエクソンモービル、JERAなど日米豪韓企業が参加。LNGを土台に再エネや省エネも含め各国政府に政策提言するほか、インフラ開発やクリーン化に向けた技術導入の支援などを行う。

欧州では高まるLNG需要に供給が追い付かず、風力の稼働率低下なども影響し、エネルギー危機に見舞われている。アジアではこうした状況を回避できるよう、ANGEAにとどまらず、政府のさらなる対応に関心が集まる。

柏崎刈羽の稼働見通せず 尾を引く不適切対応


東京電力柏崎刈羽発電所で起きたIDカードの不正使用、核物質防護での不適切な対応が尾を引いている。

謝罪する東電の小早川智明社長ら

新潟県は来年6月に知事選を実施する。再選出馬が予想される花角英世知事は、東電の不適切対応について「原発を稼働する事業者としての能力があるか疑わしい」と述べ、知事選で再稼働を争点としないもよう。東電再生に欠かせない柏崎刈羽の運転再開は、また先行きが見通せなくなった。

同僚のロッカーから無断でIDカードを持ち出して使用する、侵入者監視カメラの故障を放置し代替品ですましてしまう―。柏崎刈羽での核物質防護での不適切な対応は、「原子力関連施設では通常あり得ない」(岩本友則・日本核物質管理学会事務局長)ことだ。一方、東電が打ち出した再発防止策には評価の声がある。その内容は、改善に向けて内部監査室などとともに、有識者など第三者の視点を積極的に取り入れていくというもの。

改善策について岩本氏は、「問題点が明確に示されている。実施されれば、核物質防護に対する考えや体制は明らかに変わる」と話す。失われた信頼を取り戻すことができるか―。東電の原子力部門にとっては、まさに正念場だ。

ガソリン・灯油が異常高騰 消費者から悲鳴の声も


ガソリン、灯油など石油製品の値上げが止まらない。ガソリン価格(レギュラー)は10月から160円代に突入。灯油の値段は3年ぶりにℓ当たり100円を超えた。政府は経済産業相など関係4大臣による会合を開き対策に乗り出したが、価格が下落に転じる気配は感じられない。

札幌市内ではガソリン価格が160円台に突入した

元凶は米先物市場で80ドルを突破した原油価格の高騰。経済がコロナ禍からの回復基調に入り需要は大幅に拡大している。一方、産油国とロシアなどで構成する石油輸出国機構(OPEC)プラスは10月4日に会合を開いたが、結論は減産幅の縮小にとどまった。需給のアンバランスが高値を招いている。

消費国にとって頼みの綱は、米国でのシェールオイル増産だ。油価低迷で生産量は2020年春以降、日量780万バレルと低水準で推移していたが、価格高騰を受けて掘削装置(リグ)の稼働数は増えている。しかし、「冬の需要期に価格に影響を与えるほどになるかは不透明」(業界関係者)と見られている。

11月4日に開かれるOPECプラスの会合も注目されている。消費国は増産を期待するが、「脱炭素政策で石油需要が減るのを見越して、今のうちに利益を得ようという国もある」(同)。生産増に踏み切るかは見通せない。

高値に消費者から悲鳴に近い声が上がり始めた。寒冷地で必需品の灯油価格は、既に10月に昨年より約20円高い100円超の値を付けている。北海道生協などは、年収100万円以下の世帯などの購入を支援する「福祉灯油」の申請を行う方針。政府が手をこまねいていれば、政権運営に重大なダメージになりかねない。

【イニシャルニュース】 COMSのモデルは? 『日本沈没』の裏事情


 COMSのモデルは? 『日本沈没』の裏事情

「わが国は地球物理学の権威、世良教授のもと、50年にCO2排出量を実質ゼロにする目標を掲げ、本格的な取り組みを進めてきた。それが『COMS』だ。9000mの海底岩盤の隙間に存在する、CO2を出さないエネルギー物質『セルステック』を、パイプを通して抽出するシステムが稼働した。セルステックの埋蔵量は日本のCO2排出量の120年分といわれ、これによりCO2排出量は飛躍的に抑えられることになる」

これはTBS系日曜劇場『日本沈没 希望のひと』の初回冒頭のシーンだ。俳優の中村トオルさん演じる東山首相が世界環境会議の場で、新エネルギーシステム『COMS』を発表、世界の温暖化対策をリードする決意の表明からドラマがスタートする。

1973年に刊行された小松左京氏の同名小説を、21年版にアレンジ。原作では日本沈没の口火を切った伊豆諸島の小島の沈没を自然現象として描いているが、ドラマではCOMSの稼働が海底プレートを刺激し、関東沈没を誘発していくストーリーに仕立てている。

COMSはもちろん架空のエネルギーシステムだが、業界関係者から見ると、どことなくメタンハイドレートやCCS(CO2の回収・貯留)を彷彿とさせる設定になっている。そんな中、エネルギー関係者X氏から興味深い話を聞いた。以前、某エネルギー団体に制作会社側から「CCSを題材にしたドラマを作りたいので詳しく教えてほしい」との問い合わせがあったというのだ。

つまり当初は、プレート崩壊の原因としてCCSを想定していたらしい。確かに、18年9月に発生した北海道胆振東部地震を巡っては、震源地近隣でのCCS実証が影響したのではないかと報じたメディアがあった。結局、CCSのイメージを大きく損ねると判断されたのだろうか。この案は見送られ、COMSに取って代わったようだ。

肝心のドラマは初回視聴率が15・8%(ビデオリサーチ調べ)と上々の滑り出し。霞が関を舞台に繰り広げられる官僚と政治家の駆け引きなど見どころ満載で、今後の展開から目が離せない。

小泉前大臣に寄せ書き 環境記者が異例の対応

菅政権の退陣に伴い、小泉進次郎氏が約2年間務めた環境相の任から外れた。この間、石炭火力輸出方針の見直し、原子力政策への言及、再エネ規制緩和、2030年46%減目標、カーボンプライシングなどを巡る発言の数々が大きく注目されてきた小泉氏。小泉氏が環境省を去るのと同時に、同省の記者会から退会する記者も多かったそうで、メディアの注目度の高さを物語っている。

そんな小泉氏は最後の閣議後会見でこの間の歩みを振り返った際、自身の成果を語った後、記者との思い出話に触れた。特に専門紙のベテラン記者であるK氏(K紙)とS氏(E誌)の名前をたびたび口にし、「環境省の今までの歴史をずっと見てきた方々から鍛えられて始まった、あの2年前の会見を忘れることはできない」「温かくこの2年間で鍛えていただいた、育てていただいたという思い」などと感謝を述べた。

さらに新大臣へのアドバイスを問われた際にも「K氏とS氏の話をよく聞いた方がよいと思う」と強調した。記者サイドも、小泉氏に寄せ書きを贈るなど異例の対応で2年間の重責を労った。

なお、小泉氏は「今後も立場を超えて環境行政に継続的に取り組んでいきたい」とも語っている。今後、どのような発言をしていくのか、引き続き注目したい。

環境省の記者には人気があった

太陽光に「反社」の影 FIT制度を悪用か

全国的な問題として広がりを見せている、山間部などでの太陽光発電所の乱開発。今夏も日本各地で、台風や豪雨の影響で太陽光パネルが損壊するなどの被害が相次いだ。のべつまくなしの開発の結果、日本の美しい里山が次々と破壊されていく様子は、目を覆うばかりだ。また自然災害の誘発は地域住民の生命をも脅かし始めている。

こうした中、反社会的勢力が太陽光開発に群がっている実態が、取材を通じて浮かび上がってきた。例えば、全国でメガソーラー事業を展開しているA社を巡っては、かねてから地元とのトラブルが頻発している。

「住民説明会がおざなりだったり、工事がずさんだったり、法令違反を犯したりと、とにかく問題だらけ」。乱開発問題に詳しいZ氏は、語気を強めてこう話す。「いろいろと調べていくうちに、A社の幹部が反社組織とつながりのある可能性が浮かび上がってきた。地元議員ら政治家との関係も深い。全国から寄せられる情報を踏まえると、こうした事例は氷山の一角だ」

もちろん太陽光事業者の多くは真っ当な企業である。温暖化防止に貢献するため、地域に根差したインフラビジネスを展開している。その一方で、参入障壁の低いFIT制度を悪用し、環境破壊もいとわず金儲けを企んでいる企業があるのも事実だ。

「サラ金やマルチ商法などでしのぎをやっていた連中が、太陽光ビジネスに目を付けた。国は傍観せず、早いとこ手を打たないと、取り返しのつかない事態になりかねない」。元警察関係者のQ氏は、こう警鐘を鳴らしている。

防災業務を一元化する専門部署 備えへの意識を高め早期復旧を目指す


【中国電力】

新設された保安防災部・防災グループは、非常時の災害情報を収集・集約・発信する役割を担う。

スムーズな復旧のために平時からの社内の意識付けや、人材育成にも取り組んでいる。

中国電力ネットワークは今年4月、「保安防災部」を新設した。防災の主管箇所となる「防災」グループの他、「保安」「配電研修」「送変電研修」の四つのグループから構成され、部には34人が所属している。

分社前の2019年12月、「非常災害対策室」を大幅リニューアルした。中国地方に甚大な被害をもたらした、18年7月の西日本豪雨の災害対応の経験を踏まえた対策だ。大型モニターやTV会議システムを完備し、災害対策本部と復旧活動にあたる現業機関との確実な情報共有のため、ICT(情報通信技術)を活用した支援ツールも数多く導入した。また、毎年実施している総合防災訓練での気付きを防災関連システムに継続的に反映させてきた。

さらに、近年激甚化する自然災害への対応強化と昨年6月の「エネルギー供給強靭化法」の施行による電力業界に対するレジリエンス強化への社会的要請の高まりを受け、防災の専門セクション「保安防災部」の新設に踏み切った。防災に関する専門部署の設置は、大手電力では初めての取り組みだ。

防災の中枢となる司令塔 的確な判断が早期復旧に

防災グループは平常時には、非常時に備えた社内体制整備に従事する。例えば、防災に関する社内ルールの策定・改正、災害時に一体となって対応する全社総合防災訓練の企画・運営を行う。また、自治体や自衛隊、海上保安本部、NEXCO西日本との連携や協定が非常時に有効に機能するための関係づくりや共同訓練実施にも力を注ぐ。昨年7月に一般送配電事業者10社で国に提出した「災害時連携計画」に基づく一般送配電事業者間での相互応援など、新しい法制度に対応したマニュアルの更新も重要な仕事だ。

今年の総合防災訓練は部署設立後、わずか2カ月で行われた。同グループは災害時連携計画を念頭に、他電力への事前の応援要請や自治体へのリエゾン(情報連絡要員)派遣、自衛隊や海上保安本部への協力要請などを訓練シナリオに盛り込んだ。新しい制度や協定が有効に機能するかを検証するためだ。訓練は台風による設備被害を想定。社員が現地でドローンを操縦して故障箇所を撮影し、本社の非常災害対策室でリアルタイムに確認した。停電箇所や被害現場で復旧作業に当たる社員が撮影した写真や、高圧発電機車の位置情報をウェブ上の地図に表示。即座に復旧活動の情報を共有した。

総合防災訓練では社員がドローンを操縦し撮影した

訓練から2カ月経った8月、中国地方では、台風9号と線状降水帯を伴う記録的な豪雨といった災害が続いた。台風9号の際には、波が高く民間船は欠航したため、海上保安本部との協定に基づき、島根県隠岐諸島へ復旧応援要員を搬送した。豪雨では、同じく隠岐諸島で土砂崩れの発生により、1200戸を超える住宅が停電する事態となったが、1000kVAの高圧発電機車をフェリー輸送。即日の停電解消を実現した。この時も、位置情報をリアルタイムで地図上にマッピングするシステムを活用した。本社の対策本部で高圧発電機車が現場に到着するまでの一部始終を見ながら、現業機関における復旧計画の遂行状況を確認することができた。

非常時には司令塔として、情報を的確に収集・集約・発信する判断力が求められ、非常災害対策本部を運営する中心的役割である情報班として行動する。8月の台風襲来や豪雨の際にも、復旧活動に関わる情報を総本部速報として取りまとめ、社内に随時発信した。

同グループの小方美和マネージャーは「災害時は、土砂崩れや河川氾濫などのテレビ映像が次々と報道される。そのような状況下で自社の設備状況に関する迅速な情報発信は、社内関係者の安心と確実な状況判断につながった」と、部署が果たした役割を振り返る。

停電情報を知らせるアプリも提供

同グループでは週3回、中央給電指令所と日本気象協会との気象情報共有のためのオンライン会議にも参加。台風の接近や大雨の予報などの気象情報をもとに、離島への復旧要員の事前派遣など、災害対応への準備を全社的に指示することも重要な防災業務だ。

リエゾンの育成にも注力 専門部署で細やかに対応

一方で同グループは、自治体との調整力を持ったリエゾンの育成にも力を入れている。非常時に自治体などに派遣または駐在し、自社の対応状況を情報提供しながら必要な応援を依頼したり、自治体からの要請を自社に伝え、連携が最大限に機能するよう橋渡しをする重要な役割だ。

新たな試みとして、リエゾンに任命された社員を対象にした研修を企画した。研修では、リエゾンの役割や派遣の流れ、情報連絡経路、持参物など事前準備の具体的な実施事項の説明を行った。また、西日本豪雨災害や広島市土砂災害で実際に復旧活動を経験し、リエゾンという用語がまだ使われていなかったころに自治体との調整・対応に従事したOBを講師として招き、体験を語ってもらった。オンラインや動画配信を通じて200人以上が参加し、リエゾンの役割についての貴重な学びの場となった。

小方マネージャーは、部の新設が全社に防災を強く意識させるきっかけになったと感じている。「平時から非常時まで防災を一元的に取りまとめる組織として社内外の期待に応え、保安防災部の存在価値を高めていきたい」。今後のさらなる活躍に期待がかかる。

非常災害対策室での小方美和マネージャー

世界同時電力危機の実態 脱炭素で脆弱化する供給力


新型コロナウイルス禍で停滞した社会・経済からの復活を図る世界を、エネルギー危機が襲いかかっている。

性急すぎる脱炭素シフトが危機を助長しているとの声が上がるなど、移行期の戦略の重要性が再認識されている。

 北半球が本格的な冬を迎えるのを前に、世界各地で電力供給が危機的状況に陥っている。再生可能エネルギーの出力減少や異常気象など要因は複合的だが、最も影響が深刻なのが化石燃料資源の需給ひっ迫と価格高騰だ。今年に入り、新型コロナウイルス禍からの経済回復で化石燃料需要が軒並み急増。ところが、昨今の上流開発への過少投資があだとなり、供給が追い付かず争奪戦の様相を見せている。

歴史的な石炭高騰が誘因 広い地域で停電や供給制限

中国では、歴史的な石炭価格高騰で広い範囲で電力不足の状態にある。昨年10月に豪州産の輸入を禁止したのに加え、相次ぐ炭鉱事故に伴う安全基準の強化や、CO2排出抑制のために国内生産の停止、縮小が進むなどし、旺盛な石炭需要を賄いきれていない。

そして電力会社は、政府による料金の統制を受けているため燃料費増分を自由に需要家に転嫁することができない。赤字幅が膨らむことを憂慮した電力会社が燃料を買い控えた結果、9月末には全31のうち20の省などで停電や供給制限するに至った。

この事態を打開しようと、中国政府は石炭の生産増強に踏み切り、電力会社による料金値上げも認めた。さらに、港湾に保管されたままの豪州炭の通関を許可。10月に入ってからも、産炭地での豪雨被害により操業停止が余儀なくされており、電力不足回避に手段を選んではいられないようだ。

一方で中国は、石炭の代替としてLNGの調達を拡大。これが、北東アジア向けLNGスポットの指標価格であるJKMの高騰を引き起こし、10月6日には100万BTU(英国熱量単位)当たり56ドルと過去最高値を付けた。

この結果、深刻なガス不足が一層加速してしまったのが欧州だ。昨冬の厳しい寒さで消費が予想以上に進み、今冬に向けガスの地下貯蔵が十分回復しきれていない。スポット調達に買い負けたままでは、来年早々にもガスが枯渇しかねないと、各国は警戒感を強める。

欧州の天然ガスの指標価格であるオランダTTFは、11月渡しの取引で1MW当たり155ユーロを付けるなど歴史的な高騰局面が続く。そこに、欧州全体の風力発電の稼働低下や、英仏間の送電設備の火災事故による一部機能の停止、北欧における貯水量不足などが追い打ちをかけ、各国の電力の卸価格を押し上げている。

各国政府はエネルギー価格高騰への対応に追われている。英国では、電力多消費産業である肥料製造事業者が生産ラインを一時停止。肥料生産の副産物である産業用CO2が不足し、食肉産業などへの影響が懸念されたことから、政府が補助金を投じ操業を再開させた。

スペインでは、ガス料金に上限価格を設定すると同時に、ガス価格上昇で利益を得ているエネルギー事業者から30億ユーロを徴収すると発表。イタリアは、低所得者層や中小零細企業支援に、30億ユーロの支出を決定している。

この危機に、欧州内外では「再エネ投資のみに傾注しながら、再エネシフトに必要なグリッドの冗長化にも適切に対応してこなかったツケが回った」と批判する向きは多い。ただ、欧州委員会は、「今回の電力価格高騰の要因は、再エネ推進や炭素価格の上昇ではなく、世界的なガスの需要増とロシアからの供給不足にある」と、自らの落ち度ではないとのスタンスを崩していない。

直近1年の主要国における大規模停電・需給逼迫事案
出典:エネルギー経済社会研究所

エネルギー経済社会研究所の松尾豪代表取締役は、「スポット調達を拡大し続け、そもそも価格変動に脆弱であることが問題の根底にある」と指摘。スプリント・キャピタル・ジャパンの山田光代表は、「脱炭素エネルギーシステムへのシフトには、石炭と石油を代替するために十分な天然ガス(LNG)の供給が必要。再エネの大量導入のスピードより、石炭・石油火力の削減スピードが速すぎた」と、移行期戦略のタイミングとバランスの重要性を強調する。

厳冬の停電リスク 社会不安を招く恐れも

今冬は、欧州のみならず北東アジアや北米でも厳しい寒さが予想され、燃料獲得競争が熾烈さを増すことは想像に難くない。ヒロ・ミズカミの水上裕康代表は、「高値の燃料を買えない貧しい国から停電が広がっていく可能性がある」と、エネルギーのない冬が社会不安を招く恐れを指摘する。

日本は、原油リンクの長期契約を基本とし欧州のような極端なことは起きにくい。とはいえ、在庫は2週間分。想定以上の需要が発生すれば、いつこの混乱に巻き込まれてもおかしくない。改めて各国は、長期的なエネルギー政策の課題を突き付けられている。

原発緊急再稼働で危機回避!? 岸田政権に問われる英断


世界的なエネルギー危機に発展していくのか。石油、天然ガス、石炭などのエネルギー資源価格が秋の不需要期にもかかわらず、異常な高値を記録している。米ニューヨーク市場の先物価格動向を見ると、10月5日に天然ガスが100万BTU約6・3ドル、石炭が1t約270ドル、20日には原油が1バレル約83ドルと、いずれも年初来最高値を記録した。前年の同時期と比較すると、2~4倍程度の大幅な値上がりだ。

10月14日の衆院解散後にガッツポーズする岸田政権幹部。冬場の電力危機を回避できるか

アジア市場も同様だ。例えば、石炭では中国の山西省を襲った洪水で炭鉱閉鎖が相次ぎ、先物価格は一時1507元と過去最高値を更新。またLNGでも欧州や中国での需要増を背景に、アジア向けスポット価格「JKM」の先物が一時50ドルに達するほど急騰。10月中旬現在は38ドル前後の取引で推移している。

脱炭素化の潮流を踏まえ、環境派が訴えるように脱化石が世界的に進んでいるとすれば、石炭や天然ガスの価格は需要の落ち込みによって下落傾向にあっていいはずだが、現実は真逆。コロナ禍の収束に伴う世界的な経済回復、脱炭素化を見据えた資源開発投資の停滞、天候に左右される自然エネルギー発電の急増―。さまざまな要因が同時多発し異常な価格高騰を引き起こしている、というのが専門家の一致した見方だ。

需要期の冬場に向けては、さらなる需給ひっ迫・価格上昇も予想される。「日本が前年の冬以上の電力危機に見舞われる可能性も否定できない」(新電力幹部)。電力卸市場価格が10月に急上昇したことも懸念に拍車を掛ける。

有力候補は女川2号か 野田政権時代に実績も

エネルギー緊急事態ともいえる情勢下で、関係者の一部から聞こえているのが「原子力発電所の緊急再稼働」だ。「原子力規制委員会の適合性審査に合格しながら、地元同意など手続き上の問題から未稼働の原発がある。足元の有事に対応するため、政治判断による特例措置として緊急的に動かすべきではないか」。エネルギー会社の幹部はこう指摘する。

現在、審査に合格し未稼働の原発は、東北電力女川2号、東京電力柏崎刈羽6・7号、日本原子力発電東海第二、関西電力高浜1・2号、同美浜3号、中国電力島根2号―。うち、原発がいまだに1基も動いていない50 Hz地域にあって、訴訟やテロ対策などの大きな問題を抱えていない女川2号が、まずは緊急再稼働の対象として考えられそうだ。

2012年4月、当時の野田佳彦政権は夏場の需給ひっ迫に対応するため、定期検査で停止中だった関電大飯3・4号機を政治判断で再稼働させた実績がある。再エネ依存度が飛躍的に高まっている現在、電力ひっ迫のリスクは9年前どころではない。

「ベースロード電源に厚みを持たせることが、停電リスクを回避する最良の手段。いま頼りになるのは原発しかない」(前出の新電力幹部)。岸田新政権は、国益を守るための政治判断に踏み切れるのか。「国民の声を聞く内閣」の英断が問われる。

【コラム/11月1日】再エネ最優先は強制労働排除に矛盾 エネルギー基本計画に漂う暗雲


杉山大志/キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

G7(主要7カ国)貿易相会合が10月22日に開かれて、「サプライチェーンから強制労働を排除する」という声明が発表された。名指しはしていないが、中国のウイグル新疆自治区における強制労働などを念頭に置いたものだとメディアは報じている。

ところで、経済産業省の報道発表でも国内の報道でもなぜか書いていないが、声明を読むと、下記のように太陽光発電は農産物、衣料品と並んで、名指しになっている。

おおむね世界の太陽光発電の8割は中国製であり、半分は新疆ウイグル自治区で生産されていて、強制労働に関与しているとされる(図1)。残念ながら、太陽光発電の現状は、屋根の上のジェノサイドと呼ぶべきおぞましい状況にある。

図1 結晶シリコンの世界市場シェア(ヘレナ・ケネディーセンター報告による

G7声明を受け、新疆ウイグル自治区からの巨大な太陽光パネルの供給が消滅するのだろうか?だとすると、価格は暴騰して、かつての石油ショックならぬ、太陽光ショックが起きるのだろうか。

エネ基でもれた人権侵害の論点 グリーン技術全体に波及も

さて、日本では、菅政権時に検討されたエネルギー基本計画が岸田政権によって閣議決定され、再生可能エネルギーは最優先で大量導入されることになった。でも、いったいどうやって、それを強制労働排除と両立するのか。エネルギー基本計画では、まともな議論は全くなされていない。

そして、問題は太陽光パネルに止まらない。風力発電、EV、AI・IoTによる省エネなどの「グリーン」テクノロジーは、中国産の鉱物資源に大きく依存しているのが現状だ。特にモーター用の磁石に使われるネオジムなどのレアアースは、人権侵害が問題視されている内モンゴル自治区が主要な生産地になっている。

だが、この内モンゴル自治区では、モンゴル人に対する人権侵害が問題となっている。モンゴル語での教育禁止、それに反対する人々への弾圧などである。犠牲者も複数出ている。海外ではこれは文化的ジェノサイドと呼ばれ非難されている。

日本でも、高市早苗衆院議員を会長とした南モンゴル議連が今年4月に発足している。設立総会では、文化的ジェノサイドに加え、日本国内に在住する南モンゴル出身の留学生や家族が中国政府からどう喝を受けている、といった問題が指摘された。同議連では外交および国内法整備で対処するとしている。

米国ではかつて銅の副産物として安価にレアアースが生産されていた。だが、環境規制が厳しくなり、1980年代からレアアース生産は経済性を失った。今ではレアアース生産は大幅に縮小している。

米国に代わって世界市場を席捲したのは中国だ。中国が世界に占めるレアアースの生産シェアは、2019年時点で7割強となっている。そして、これは急激には変えようがない。鉱山の開発には5年から10年はかかるからだ。

そして、生産工程よりも中国に一極集中しているのは、環境負荷が高い選鉱工程である。これは中国が世界の9割近くを占めている(図2)。

図2 レアアースの選鉱工程のシェア(データはIEAより

現時点でグリーンエネルギー技術を大量導入するならば、そこで使われるレアアースの供給はかなりの程度、中国、それも人権問題を抱える内モンゴル自治区からの供給に頼る可能性が高い。

これは日本の国策として適切なのだろうか。企業はそのようなサプライチェーンをどう考えるべきか。G7も、いずれ中国産のレアアースの排除に動くかもしれない。詳細な情報収集に基づいた、熟慮による判断が必要だ。

「グリーン技術」の性急な大量導入は避け、中国に一極集中してしまったレアアースのサプライチェーンを再構築することから手掛けるほうが賢明なのではないか。

【プロフィール】1991年東京大学理学部卒。93年同大学院工学研究科物理工学修了後、電力中央研究所入所。電中研上席研究員などを経て、2017年キヤノングローバル戦略研究所入所。19年から現職。慶應義塾大学大学院特任教授も務める。

【マーケット情報/10月29日】原油下落、供給増加の予測が台頭


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み下落。供給増加の見通しにより、売りが優勢となった。

イランは、欧州連合との核合意復帰に関わる会談を、11月中に再開予定。米国の対イラン経済制裁解除、それにともなうイラン産原油の供給増加に対する見込みが強まり、価格の重荷となった。また、米国の週間在庫は増加。堅調な輸入と生産が背景にある。さらに、米国の石油サービス会社ベーカー・ヒューズが先週発表した国内の石油掘削リグの稼働数は、前週から1基増加し、444基となった。

一方、英国は11月1日を以て、全ての国からの渡航者に対し、入国時の隔離措置を解除。また、供給面では、リビア国営石油がパイプラインの漏えいにより、一部油種の生産を72%減少させた。ナイジェリアでは、Shell社が10月25日から輸出のフォースマジュールを宣言している。需給逼迫感が、価格の下落を幾分か抑制した。

【10月29日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=83.57ドル(前週比0.19ドル安)、ブレント先物(ICE)=84.38ドル(前週比1.15ドル)、オマーン先物(DME)=82.34ドル(前週比0.41ドル安)、ドバイ現物(Argus)=82.55ドル(前週比0.13ドル安)