【おやおやマスコミ】井川陽次郎/工房YOIKA代表
結果的には正解だった。衆院選の結果を予測した朝日10月26日「自民、過半数確保の勢い、衆院選中盤情勢調査」である。
読売11月2日「自民幹事長に茂木外相、首相、経済対策を中旬策定」は「第49回衆院選は1日、全議席が確定し、自民党が国会を安定運営できる絶対安定多数の261議席を獲得した」と伝える。
予測を読んだ直後はホントか?と首を捻った。ほとんどのメディアが自民の苦戦を伝えていたからだ。予測前日の朝日「参院補選、静岡で自民敗北」も「岸田政権にとって初の国政選挙」での黒星は「政権の打撃」と書いていた。
朝日の急転換の意図を怪しむ声がネットでも広がった。
特に疑われたのは「アナウンスメント効果」だ。朝日の時事用語辞書『知恵蔵』によれば、「マスメディアによる選挙予測報道が有権者の投票行動に影響を与えること」を意味する。
具体例として「すべての新聞の予測が『与党(自民党)の安定多数』だとすると、与野党伯仲を望む有権者は、他党に投票したり、棄権したりする」を挙げる。
逆に言えば「自民苦戦」の予測ばかりなので、朝日はあえて逆張りした。そんな指摘である。
狙い通りか。選挙終盤の情勢に関して、10月29日の日経、読売は、それぞれ「自民、単独過半数の攻防」「自民単独過半数は微妙」と苦戦を伝えた。
それでも最終的に「自民単独で絶対安定多数」(読売11月2日)となって、政治の安定を歓迎するムードも広がるが、読売は警戒を強める。「針路、21衆院選後〈上〉」(11月2日)だ。
今回の選挙結果について「薄氷の勝利」とし、「野党の候補者一本化の影響を受け、多くの小選挙区が接戦に。自民が5000票未満の僅差で逃げ切った選挙区は17に上り、34選挙区が1万票未満の差。結果は一変していたかもしれない」と分析する。
薄氷の下は奈落だ。
「来夏には参院選が控えている。政権選択選挙の衆院選とは異なり、『有権者がお灸をすえやすい』(閣僚経験者)。2019年参院選では32ある改選定数1の1人区すべてで、野党は統一候補を立てた。計15議席以上減らせば、与党は参院で過半数を失い、『ねじれ国会』に逆戻りしかねない」
日経11月5日「来夏参院選1人区、自民28勝4敗か、衆院選票数で予測した場合、与党で過半数維持の試算」も、与党有利の予測を示しつつ、「07年の参院選は1人区で与党系が6勝23敗と負け越した。参院で野党が与党を上回る『ねじれ国会』となり、09年の衆院選で民主党が政権交代を実現する足がかりとなった」と、政権交代のリスクにまで言及する。
「新型コロナウイルスの感染状況や景気の回復具合などで与野党を取り巻く政治情勢も来夏までに変わり得る。試算はあくまで現時点の各党の勢いを表す目安」
参院選に向け、メディアは過激さを増すと考えるべきだろう。
毎日11月2日コラム火論「『勝者』はいるのか」は、その先駆けだろうか。
衆院選について「前政権による『自粛』頼みのかじ取りで、あおりを受けた飲食店の経営者や非正規従業員は少なくない。その『信任』を問う選挙。だが与党は堅調だった」と書く。
前政権の観光支援策「GoToトラベル」事業や五輪開催に反対し「自粛」を叫んでいたのは野党だが……。メディアに御用心。
いかわ・ようじろう(デジタルハリウッド大学大学院修了。元読売新聞論説委員)