【マーケット情報/12月17日】欧米原油、需要後退懸念を映して下落


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、欧米の先物価格が下落。新型コロナウイルスのオミクロン変異株の感染拡大が経済活動を抑制し、石油需要が伸び悩むとの観測が売りを促した。

欧州の複数国が、移動規制を強化。本来なら冬季休暇で旅行者が増え、ジェット燃料の需要が高まる時期にあるだけに、その影響は大きい。また、バーレーンやオマーンなどの中東諸国も、移動や集会を制限する方針を示し、需給が緩むとの懸念が強まった。

さらに、イラン外相が、国際原子力機関との核合意復帰に向けた話し合いで進展があったと発表。米国の対イラン経済制裁が解除され、イラン産原油の供給が増加するとの予見が高まったことも、売り戻しを誘う材料となった。

ただ、米国では、石油需要の兆しが出ている。米エネルギー情報局が発表した最新の週間統計によると、同国の軽油消費量が2003年1月以来の高水準を記録。また、ジェット燃料在庫は過去7年間で最低の水準まで減少した。原油在庫も前週比460万バレル減の約4億2830万バレルとなり、価格の下落を幾分か相殺した。

【12月17日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=70.86ドル(前週比0.81ドル安)、ブレント先物(ICE)73.52ドル(前週比1.63ドル安)、オマーン先物(DME)=73.24ドル(前週比0.52ドル高)、ドバイ現物(Argus)=73.37ドル(前週比0.43ドル高)

【コラム/12月20日】経済安保には要注意


福島 伸享/衆議院議員

 米中対立が高まる中で、経済安保の機運が盛り上がっている。年明けの次期通常国会には、我が国の経済安保の骨格となる法案が提出される予定となっており、今年の通常国会にはその前段としてのNEDO法等改正案が提出され、可決された。今回の法改正は、半導体を製造する企業の工場立地に補助金を出すための基金をNEDOに積めるようにするものだ。補正予算で計上されている予算額は、約6,000億円! そのうちの約4,000億円が、現在熊本に建設が予定されている台湾のTSMCという世界最大の半導体メーカーに交付される方向になっている。

 コロナ禍などの影響で世界の半導体の流通が大幅に減り、自動車などの生産が滞っている。日本国内に生産拠点を作るというのは、一見素晴らしい政策のように見えるが、実際にはそうはならないだろう。TSMCの半導体の売り上げのうち日本向けは元々わずか4~5%。世界中の需要がTSMCに集まる中で、日本は魅力的な売り先ではない。おそらく日本に新たに作る工場は、日本向けの製品というより、中国や韓国向けの製品を作る工場になるだろう。TSMCは日本の企業ではなく、日本政府は何ら経営に影響を与えられないから、「補助金をつけるから日本企業のために半導体を作れ」と言っても思ったようには行動はしない。

経産省の担当課長にこの点を問い質すと、「TSMCはちゃんと配慮しますと言っている」と答えるが、ビジネスの世界で契約書も何もない口頭での発言を元に何らかの決断をすることはありえない。TSMCが日本に来ることで日本への技術移転が期待できるかといえば、そもそも来る工場は先端製品ではなく汎用製品の工場だし、わざわざ「技術上の情報管理のための体制整備」を補助認定の基準にしていて、日本側に情報が渡らないようになっている。つまり、この法律では、日本のメリットになることが何ら保証されていないのだ。

このような、日本人の税金を原資として前代未聞の4,000億円もの政府資金を一外国企業に補助する法改正を、衆議院経済産業委員会のたった2時間半の審議で通してしまっていいのか?今ごろ6,000億円の予算措置をするなら、20年前に同額の予算を日本企業に講じていれば、ここまで日本の半導体産業が衰退することはなかったかもしれない。

私が、無所属で勝ち上がった猛者5人で組んでいる会派は同法案に反対したが、与党に加え、立憲民主党、日本維新の会、国民民主党もこの法案には賛成した。4年ぶりに国会に戻ってきて、劣化した官僚組織とそこが作る政策を無批判に通すだけの無能な政治こそが、日本の衰退の一番の根本原因であることを改めて実感する。読売新聞の報道によると、「経済安保の司令塔」を内閣府に設置するともいう。中身のない政策を隠すための常套手段は、新しい組織の設置と日本版〇〇と銘打った海外の制度を真似た制度を作ることだ。

 経済安保が、生き馬の目を抜くグローバルビジネスの中で、日本がカモになるだけの制度にならないか、キャッチフレーズやタイトルに踊らされることなく冷静に分析することが必要だ。

【プロフィール】東京大学農学部卒。通商産業省(現経産省)入省。調査統計、橋本内閣での行政改革、電力・ガス・原子力政策、バイオ産業政策などに携わり、小泉内閣の内閣官房で構造改革特区の実現を果たす。2021年10月の衆院選で当選(3期目)

多角化からLPガス販売に特化 快進撃を続ける都心戦略とは


【私の経営論(中)】津田維一/富士瓦斯社長

前回は当社のカーボンニュートラルと防災市場における取り組みについて書かせていただいた。今回はそのような取り組みを推進する企業風土になった契機である都心戦略について説明していきたい。

国内のLPガス販売数量は1996年の2000万tをピークに減少を続け、2020年度には1294万tとなり、市場規模は3分の2にまで縮小している。96年というのは液石法の大改正があった年でもあった。当時、ブローカーによる「ビン倒し」と呼ばれる顧客争奪戦が激化しており、LPガス業界にも弊社にも大きな転換点となった年であった。

フジガスは54年の創業以来、卸売りとオートガス販売に注力していたが、80年代以降は販売店の商権買収と郊外への営業所の出店によって、直売を中心とした業態へと転換を進めていた。一方で創業者は成長が見込めないLPガスに見切りをつけ、さまざまな多角化を行い、脱LPガス路線を目指していた。95年、26歳の私は北海道の同業他社での修行を終え、取締役社長室長として着任した。当時は創業者の後を受けた実母が社長に就任しており、多角化もうまくいかず、ビン倒しが激化しはじめ、社内は混乱していた。

安易な多角化の愚を悟った私はガス以外の事業を全て整理し、LPガスに特化することで成長戦略を描けないかを考えるようになった。とはいえ、資本力のないフジガスが価格差別化で勝負するのは自殺行為であり、簡単には答えが見つからなかった。考え抜いた結果、今でも当然のように行われているハウスメーカーに対する設備の無償貸与による新規物件の獲得を停止し、LPガスの新たな市場を切り開く道を選択した。この選択は社内では多くの反対を受け、幹部社員の退職などもあったが、自社のジリ貧状況を理解していた一部の社員の後押しもあって策定されたのが「都心戦略」である。

他社が敬遠する質量販売 LPの強みと積極展開

96年にスタートした都心戦略は、①同業他社との協業による効率化、②LPガスの都心需要の開拓、③都市ガス市場での機器販売、という三つの施策からなる。

①同業他社との協業については、配送の受委託を推し進め、世田谷区にある充填工場の稼働率をあげるとともに、拠点を統合、面的集約によって顧客密度を上げ、配送効率、業務効率をあげることができた。むやみな商圏の拡大、直売顧客数への固執をやめたことで、同業他社との協業、協調路線に転換することが可能となり、その結果、不毛なビン倒しによる損失も大きく軽減できた。現在では全国の協業先のご協力もあり、47都道府県でのガス供給を行っている。

②都心需要の開拓においてまず取り組んだのが、小型容器による質量販売である。LPガス販売の多くは50‌kgもしくは20‌kg容器によるメーター販売であり、小型容器を使った売り切りの質量販売は、手間がかかる、儲からない仕事として、多くの販売事業者から敬遠されていた。当社も、依頼があってもお断りをしている状況であった。しかし、LPガスの特長である「可搬性」「簡易性」「安全性」を最もアピールすることができる販売形態であり、なんとか販売を拡大できないかと考えていた。

その時に出会ったのが屋外暖房機の「パラソルヒーター」であり、大井競馬場での大量採用を契機に質量販売の専従部隊が編成された。その後も、燃焼によるCO2によって蚊をおびき寄せる蚊取り機「モスキートマグネット」の取り扱いを開始。勢いに乗る質量販売部隊は、当時増えつつあった食のイベントや音楽フェスの飲食ブース、学園祭の模擬店などのLPガス供給を軒並み獲得していった。

自社で企画、開発した屋外用ガス暖房機「DAN」

そして、この快進撃を支えたのは保安最優先の姿勢であった。現在でも業界内で質量販売というのは事故が起きやすいとのイメージがあり、敬遠されている。実は配管を使った供給よりもシンプルであり、事故が起きづらいはずなのだが、保安意識の低い販売店が充分な保安上の措置を怠るために事故が起きてしまっていた。そこで私たちは質量販売であっても保安機器としてガスメーターを設置するなど、さまざまな保安対策を講じることとした。その分コストも増加するが、保安最優先の考え方を理解していただけない場合には販売をしないという姿勢が結果的にお客さまからの支持につながったと考えている。防災需要など都心部でのLPガス市場の可能性は奥深く、今後地方都市でも大いに期待できると確信している。

都市ガス向けに機器販売 クレーム減手法が好評

③都市ガス市場での機器販売については、LPガス販売事業者として蓄積したガス器具の販売、施工のノウハウは、地元の都市ガスユーザーに対しても十分アピールできると考え、集合住宅の給湯器交換に絞ってマーケティングを行うことにした。LPガス市場では、集合住宅の給湯器はオーナーや管理会社から無償での交換を求められるケースも多く、社内で不安の声もあったが、質量販売同様に専従部隊を作って知恵を絞り、「壊れない給湯器プラン」の販売を開始。都市ガスエリアの集合賃貸住宅の管理会社をターゲットにし、壊れた際に一台一台交換するのではなく、「期限管理による壊れる前の一括交換」で管理の手間と入居者のクレームを減らす手法は好評を得た。事前の現場調査による機種や設置状況の物件情報の蓄積によって故障時のスピード対応も可能となった。分譲集合住宅への販売も開始し、5年ほどで都市ガス市場での機器販売は売り上げの3分の1を占めるまでになった。

これらのLPガスにこだわった施策はリフォーム、太陽光発電、ウォーターサーバーといった多くの同業他社の多角化戦略とは一線を画するものであり、現在の発電機販売やカーボンニュートラルLPガスの販売につながる土壌となったと考えている。

つだ・これかず 1993年東京大学法学部卒、商社系LPガス販売会社入社。95年家業である富士瓦斯に入社、2014年から現職。05年一橋大学大学院商学研究科にてMBA(経営学修士)を取得。スタディス社長、NPO法人LPガス災害対応コンソーシアム副理事長も務める。

【私の経営論(上)】https://energy-forum.co.jp/online-content/7052/

【都市ガス】LNGは供給過剰も 柳の影に怯えるな


【業界スクランブル/都市ガス】

 昨冬、旧一般電気事業者のみならず都市ガス事業者のLNG在庫量が減少し、天然ガス発電所の稼働抑制を余儀なくされたことから、1カ月にも及ぶ卸電力市場価格の高騰を招いたことは、まだ記憶に新しい。今冬が厳冬との見通しがある中、昨冬と同じようにLNG不足が発生して市場高騰を引き起こすのではないか、という不安がつきまとう。そのためか、12月〜3月の先物・先渡し電力価格はkW時当たり30円を上回っている。

今年も中国が石炭火力停止分の電力確保のため、天然ガス火力の稼働率アップに向けてスポットLNGを買い漁り、東アジアLNGスポット価格(JKM)を百万BTU(英国熱量単位)当たり30ドル前後と、昨冬をも上回る価格レベルに高騰させている状況にある。今冬も昨冬同様にスポットLNGの奪合いが発生し、LNG不足に陥る可能性はあるのだろうか。

資源エネルギー庁は昨冬のような事象を発生させないため、旧一電のLNG在庫量のモニタリングを開始した。夏季ピークを過ぎた9月末実績は約250万tと昨年同時期(約160万t)を上回っている。例年がおおむね180万t前後であることから、今年は十分余裕があると判断できる。今夏は想定よりも低需要で、各社のLNG在庫が余剰気味であることが数字に出ている。ラニーニャの影響を受けている今冬は厳冬予想だが、暖冬になる可能性もあり、その場合はLNGタンクが満杯になるタンクトップの恐れもあるという。

そもそも旧一電のLNG契約量は余剰傾向。競争激化による需要減、再エネの急増、METI主導でのシェールガスLNG購入、原子力の再稼働などが重なり、需給のバランスが崩れ、オーバーサプライとなっているのだ。従って、スポットLNGを奪い合うというよりも余剰LNGを市場で売却して需給調整を行っている状況だ。都市ガス事業者も含め日本のエネルギー企業は利益最大化のために供給支障が生ずるような過度のLNG売却などはしない。冷静に現状を見て判断すべきだ。柳の影に怯えてはいけない。(G)

プライム市場への移転にハードル より高度な企業ガバナンスが必須


【論点】プライム市場の創設/荻野零児 三菱UFJモルガン・スタンレー証券 シニアアナリスト

東京証券取引所は来年4月から市場を「プライム」「スタンダード」「グロース」の三つに区分する。

プライム市場は高い企業ガバナンスが求められ、気候変動に関する企業情報も量と質の一層の充実が求められる。

 東京証券取引所(東証)は、2022年4月4日に新たな市場区分をスタートする予定である。

現在の東証の市場区分は、市場第一部、市場第二部、マザーズ、ジャスダックと四つに分かれている(図表1参照)。このうち、市場第一部は、いわゆる東証一部と呼ばれ、上場会社数は2173社(21年9月末)である。

TOPIX(東証株価指数)は、東証一部の時価総額の合計を指数化したものである。また、日経平均株価(225銘柄)を構成する上場企業は、東証一部から採用されている。

東証によると、現在の市場区分には次の二つの課題がある。第一に、各市場区分のコンセプトがあいまいであり、多くの投資者にとっての利便性が低い。第二に、上場会社の持続的な企業価値向上の動機付けが十分にできていない。

これらの課題を踏まえて、見直し後の市場区分は、プライム市場、スタンダード市場、グロース市場の三つに分かれる。これら市場の上場基準は、各市場区分のコンセプトに応じて、流動性やコーポレート・ガバナンスなどに関する定量的・定性的な基準が設定される。なお、流動性とは、株式市場に出回る株式の数や金額を示す尺度であり、流動性が高いほど、投資家にとって売買しやすい銘柄であると判断される。

出所:東京証券取引所の資料に基づきMUMSS作成

定量的な上場基準を設定 年末までに移行先を選択

図表2は、プライム市場のコンセプトを示している。そして図表3は、プライム市場の上場基準の3種類の項目と考え方を示している。東証は、各項目における定量的な上場基準を設定している。例えば、流動性の項目では、株主数や流通株式数、流通株式時価総額、売買代金の定量的な上場基準が設定されている。

新市場区分への移行プロセスの今後のスケジュールは次の通りである。21年12月30日までに、上場会社は、移行先となる市場区分を主体的に選択することになっている。そして、22年1月11日に、日本取引所グループ(JPX)のホームページで、上場会社の新市場区分の選択結果が公表される予定である。

東証一部の業種分類のうち、エネルギーと関連性が高い業種の上場会社数は次の通りである。鉱業6社、石油・石炭製品9社、電気・ガス業22社(21年9月末)。見直し後の市場区分であるプライム市場でのエネルギー関連の上場会社の数が注目される。

東証は、新しい市場区分において、上場会社に、上場後も継続して各市場区分の新規上場基準の水準を維持することを求めている。図表3に示したように、プライム市場の上場基準では、①株式の流動性、②ガバナンス、③経営成績・財務状態―の三つの項目が注目点となる。

株式の流動性を改善させる方策は、流通株式を増やす工夫も必要であるが、経営の「王道」は、株式市場における企業価値である時価総額(=株価×株式数)を向上させることである。株式市場における企業価値は、財務パフォーマンスと非財務ファクターの二つの観点から評価されていると考える。

財務パフォーマンスは、上場基準の③経営成績・財務状態の項目に該当する。企業価値の向上のためには、エクイティ・スプレッド(=ROE・株主資本コスト)の財務に関する生産性KPI(重要業績評価指標)の中長期的な改善がキードライバーになると考える。

非財務ファクターについては、②のガバナンスが重要な課題となっている。図表3に示すように、プライム市場の上場基準では、東証が策定したコーポレートガバナンス・コード(一段高い水準の内容を含む)の全原則の適用が求められている。このコードは21年6月に改訂され、プライム市場上場会社のみに適用される原則も載っている。

例えば、原則4―8(独立社外取締役の有効な活用)では、プライム市場上場会社の独立社外取締役の人数についての言及がされている。

気候変動リスク開示を要求 エネ企業への注目度高まる

また、原則3―1(情報開示の充実)の補充原則では、プライム市場上場会社は、気候変動に係るリスク及び収益機会が自社の事業活動や収益などに与える影響について、(中略)TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)、または、それと同等の枠組みに基づく開示の質と量の充実を進めるべきであるとする。

プライム市場に上場するエネルギー会社は、コーポレートガバナンス・コードの一般的な原則は当然として、プライム市場上場会社のみに適用される原則への適応についての進捗への注目度合いが高まると考える。

おぎの・れいじ 1988年国際証券(現三菱UFJモルガンスタンレー証券)入社。2001年企業調査課に異動し、電力・ガス・石油セクターを担当。

【新電力】再エネ制度の歪み 需要の不利益も


【業界スクランブル/新電力】

 英国で10月31日から開催されているCOP26では、46カ国が石炭火力発電所の廃止・新規建設停止に署名するなど、温室効果ガス抑制に向けた動きが加速していることが実感できるものとなった。

一方、世界中でエネルギー価格の上昇が止まらない。10月のJEPX前日スポット市場における24時間平均の約定価格はkW時当たり12.06円となり、1月以来の水準となった。海外でも市場価格は高止まりしており、英国ではkW時当たり0.179ポンド(27.48円)、フランスでは0.173ユーロ(22.42円)、ドイツでも0.140ユーロ(18.13円)となり、非常に高い水準の価格が継続している状況となっている。エネルギー価格高騰を受けて、欧州では原発新設に向けた機運が高まっている。英国はサイズウェルCの建設を決定したほかフランスは原発6カ所の建設を決定した。英仏両国の原子力推進政策は「脱炭素」の目標に向け必要な手当を講じたものであり、再エネ偏重の政策・事業環境が変化しつつある。

さて、本題の日本の新電力の事業戦略であるが、相変わらず「再エネメニュー」が幅を利かせている。非化石価値の価格が非常に低く、またPPAとの組み合わせも、再エネ賦課金の負担を逃れることができるといった制度の歪みを突いたビジネスモデルになっており、制度設計が変わった場合には需要家のコストメリットが創出できなくなる恐れが高い。さらに危惧される事態として、一部で再エネのインバランスリスクを需要家に負担させるビジネスモデルが勃興しつつある。需要家側はスキームのリスクをよく理解せずに契約しているケースが散見され、今後インバランス価格が大きく変動し、需要家が予期せぬリスクを負う可能性も否定できないと考えられる。

前述の通り、欧州では再エネにとどまらず、脱炭素目標に向けた取り組みが加速している。新電力がいつまでも再エネに偏重した取り組みに留まり、リスクを需要家に押し付けているようでは、いつか社会から見捨てられはしないか、大変に心配である。(M)

【電力】グリーンとクリーン 言い換えの真意


【業界スクランブル/電力】

 2021年のCOP26は、化石燃料の品薄、価格上昇が世界的に起きている中、英国グラスゴーで開催されている。この原稿を書いている段階ではどんなアウトプットに至るか不明であるが、大きな成果が出るとは思えず、総選挙直後にもかかわらず岸田総理がわざわざ出向くほどのものかと思っていた。もっとも、就任したばかりの岸田総理にとっては、得難い首脳外交の機会であったのかもしれない。実際、数時間の滞在の中でバイデン米国大統領をはじめ精力的に首脳会談をこなしたようである。

さて、COP26世界リーダーズ・サミットでの岸田総理のスピーチであるが、筆者は次の箇所が印象的であった。

「議長、日本は、アジアを中心に、再エネを最大限導入しながら、クリーンエネルギーへの移行を推進し、脱炭素社会を創り上げます」

どこが印象に残ったかというと、総理はグリーンといったん発言したあと、クリーンエネルギーと言い換えている。クリーンとグリーンの違いに明確な定義があるわけでは多分ないが、筆者はクリーンエネルギーには原子力が含まれると勝手に思っている。そして、これも筆者の妄想かもしれないが、これは意識的であったかもしれないと思った。

さて、報道によると日本は2年連続、化石賞を受賞したそうである。理由は「脱炭素の発電としてアンモニアや水素を使うという夢を信じ込んでいる」とのことであるが、欧州でも昨年あたりからグリーン水素への取り組みは活発であるし、自然変動性の再エネの出力変動を調整する火力をグリーン水素キャリアで稼働させれば、効率的な脱炭素エネルギーシステムの一つの答えになりうる。化石賞の主催者である団体のメンバーである自然エネ財団の報告書でもグリーン水素の輸入にメリットがあることが言及されている。

この主催団体は考えが硬直化していないか。他方で、化石賞報道のヤフコメをみると、化石賞に批判的なコメントが結構見られる。ほっとするものがある。(T)

COP26参加のインド・モディ首相の思惑


【ワールドワイド/コラム】水上裕康 ヒロ・ミズカミ代表

COP26期間中の11月2日、英国とインドが世界の電力系統の連系を改善する計画を発表したとロイターが報じた。例えば、日没を迎えた国が太陽光が注いでいる国から電力供給を受けることができるというわけだ。今や“お祭り”と化したCOPの場では、こうした壮大な構想がポンと出てくるようだ。もっとも、計画の内容や費用、資金調達などには触れられず唐突感は否めない。エネルギーの専門家からは、「再エネ利用には多くの送電線の整備が必要だと強調するようなもの」「時差を跨いだ送電は旧ソ連などが構想したが進ちょくしていない。系統技術は進歩したが多額の費用がかかる」など、厳しいコメントが飛ぶ。海、砂漠、山岳地帯などの地形的障壁も指摘されている。

ではなぜ、両国はこの構想の発表に至ったのか。今回のCOPでは、主要排出国である中国、ロシアの首脳が欠席。英国のジョンソン首相としては、会議の成功を印象づけるために世界3位のCO2排出国であるインドのモディ首相の参加は必須だったのであろう。もともとインドは、気候変動への努力を表明するかどうかも疑問視されていた。結果的にモディはグラスゴーにやってきて、その前日に2070年のネット・ゼロを宣言した。英国と共同での計画発表に関し、「モディは先進国の援助があれば前向きに脱化石燃料に向かうことを示したのだ」との声もある。結局、ジョンソンはインドの貢献を称え、モディは先進国の援助の必要性を強調するということで折り合ったということか。

先進国の援助次第というこの計画も、50年後のネット・ゼロも、具体的な約束をしたとは言えまい。それでもモディは欠席裁判によってこの祭りの生贄になることは免れたというわけだ。

日本が栄えある「化石賞」受賞 加熱する化石燃料バッシング


【ワールドワイド/環境】

11月2日、衆院選に勝利した岸田文雄首相は最初の外遊先として英国・グラスゴーのCOP26に参加。演説で「2050年カーボンニュートラルを長期戦略の下で実現する。30年度に13年比46%減を目指し、さらに50%の高みに向けて挑戦を続ける」との目標を改めて表明した。

 さらに温暖化問題解決に向け、①アジアを中心に再生可能エネルギーを最大限導入しながら化石燃料火力を水素、アンモニアなどのゼロエミッション火力に転換するため1億ドル規模の先導的な事業を展開、②先進国全体で年間1000億ドルの資金目標の不足分を補うべく5年間で官民合わせて600億ドルの支援に加え、新たに今後5年間で最大100億ドルの追加支援を用意、③25年までに適応分野での支援を倍増し官民合わせて約148億ドルの支援、④森林分野への約2・4億ドルの支援―を打ち出している。

 ところが同日、国際環境NGO気候ネットワークが豪州、ノルウェー、日本に「化石賞」を授与した。授賞理由として「岸田首相は火力発電所を推進している。脱炭素の発電としてアンモニアや水素を使うという夢を信じ込んでいる」と述べたという。当面は化石燃料に依存せざるを得ないアジア地域で、まずは石炭から天然ガスに燃料転換を行い、既存石炭火力をアンモニア、水素混焼から専焼に転換する考え方は極めてまっとうだ。化石燃料の脱炭素化に関わる技術を語っているのに「火力発電の推進だ」と断じるのは、いかにも再エネしか認めない環境NGOらしい。

 石炭を標的にしたバッシングは今や化石燃料全体に及んでいる。先進国は30年代、途上国は40年代の石炭フェードアウトをめざす「脱石炭連合」が発足当初の23カ国から、当初不参加だったドイツ、ポーランドらが参加して46カ国になった。中国、インド、米国、日本などは参加していない。22年度末までに全化石燃料に対する公的融資を停止するとの宣言に米国、カナダなど25カ国と国際金融機関が名を連ねたが、日本、中国などは未参加。これら枠組みに参加していないとの理由で、また化石賞をもらうかもしれない。

 上流投資の落ち込みなどでコロナ禍からの経済回復に伴う化石燃料需要増に供給が追い付かず、各地でエネルギー危機が生じている現実と比べると、COPの議論は別な惑星であるかのようだ。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院特任教授)

米国の分散型エネルギー資源 政策優遇でビジネス成長


【ワールドワイド/経営】

 米国では、住宅向け太陽光や蓄電池、電気自動車などの分散型エネルギー資源(DER)が増加している。

 背景には、電気料金の節減、電力のクリーン化、自然災害への備えに関する需要家意識の高まりがある。こうした中、カリフォルニア州を中心に需要家側に設置されたDERをアグリゲート(集約)して活用するビジネスが広がりを見せており、同州では2021年10月現在、22社がDERアグリゲーターとして登録されている。

 その一例として、09年に設立されたスタートアップ企業のStem(ステム)が挙げられる。同社は「Athena」と呼ばれるAIソフトウェア・プラットフォームを付帯した蓄電池のリースを通じてアグリゲーションビジネスを始めている。Athenaは消費電力量、充放電量、電力単価などさまざまな要素を複合的に分析する機能を備えており、需要家側に設置された蓄電池の充放電管理を最適化し、エネルギーコストの削減を可能にする。需要家利益を最大化するよう蓄電容量の一部を電力取引市場へ入札する機能も具備し、入札のタイミングや入札量を自動的に決定する。現在はパイロットプロジェクト段階であるが、将来的には需要家の蓄電池をアグリゲートし、同州の独立系統運用機関であるカリフォルニアISOの電力取引市場への入札を自動制御することを目指している。

 カリフォルニア州では業務用電気料金が高いことや、DER導入を図るインセンティブプログラムが整備されていたことなどから、ステムは早くから蓄電池のリース事業により、商業用需要家を獲得してきた。しかし米国内ではテスラやフルーエンスなどの蓄電池メーカーが躍進するほか、エネル、シェル、トタルなどの欧州エネルギー事業者が米蓄電池メーカーの買収により事業拡大を図り、事業者間の需要家獲得競争が激化した。ステムはAIを活用したビジネスで差別化し、顧客基盤と収益の維持・拡大を狙っている。

 同社のようなビジネスモデルを展開している事業者は、カリフォルニア州やニューヨーク州などのDER導入に積極的な州に集中している。これらの州では、DERの導入を促す料金制度や補助金制度が存在しており、ビジネスの成長は州政府の支援策により支えられている。今後、バイデン政権の下で連邦大でもアグリゲーターの参入が可能となる市場環境整備が進むと、DERアグリゲーションビジネスの事業性はさらに高まるものと期待されている。

(長江 翼/海外電力調査会調査第一部米国グループ)

中東初の「ネットゼロ」計画 国営会社が脱炭素化に本腰


【ワールドワイド/資源】

 アラブ首長国連邦(UAE)は10月7日、中東で初めて2050年までに温暖化ガス排出量を実質ゼロにする計画を発表した。6000億ディルハム(約18兆円)を再生可能エネルギーやクリーンエネルギーに集中投資を行う。湾岸諸国では、サウジアラビアとバーレーンがUAEに追随して、10月下旬に(UAEより10年遅い)60年までに「ネットゼロ」を実現するとの目標を発表した。

 UAEの積極的な「ネットゼロ」計画は、同国が世界有数の産油国でありながら再エネなどのクリーンエネルギー分野で豊富な経験と蓄積を持つことが背景にある。06年に設立された再エネ企業Masdarは世界各地で太陽光発電、風力発電のプロジェクトを手掛け、すでに30カ国以上で200憶ドル規模の事業を展開している。19年には世界最大級のスワイハン太陽光発電所(117万7000kW)、20年には中東初の原子力発電所(バラカ原発)が稼働した。早くから再エネ事業の重要性を認識していたUAEは、11年に正式発足した国際再生エネルギー機関(IRENA)の本部のアブダビ誘致を実現したが、気候変動問題へのさらなる貢献姿勢を示すため、23年のCOP28の開催地候補として名乗りを上げ、誘致活動を本格化している。

 カーボンニュートラル実現の鍵を握るとされる水素・アンモニア事業については、アブダビ国営石油会社(ADNOC)が中心となって進めている。ADNOC、Mubadala、ADQの3社がアブダビ水素同盟を結成し、主にADNOCが炭化水素由来のブルー水素、他社がグリーン水素の開発を行う。同社は、仏トタルおよび英BPと脱炭素化に関する協力協定を締結し、INPEX、JERA、JOGMEC(石油天然ガス・金属鉱物資源機構)とはグリーンアンモニア生産のFS実施に関る共同調査契約を締結した。

 UAEは、「本業」の石油ガス事業の強化にも余念がない。ADNOCは石油生産能力(現状日量400万バレル)を30年までに500万バレルに引き上げる計画を予定通り進める考えである。脱炭素の流れのもと、中長期的に需要縮小も予想される中、UAEは石油・天然ガス上流投資を続け必要な埋蔵量を確保した上で「最後の供給者」のポジションを確保する考えであろう。

 ADNOCは、さらにパイプライン操業会社の株式売却や子会社の新規株式公開(IPO)など、保有資産の売却(収益化)を推進し、資金調達の一助としている。

(猪原 渉/石油天然ガス・金属鉱物資源機構調査部)

処分場「文献調査」が一歩前進 寿都町長選が示した「住民理解」


【北海道寿都町町長選/石川和男 寿都町・神恵内村地域振興アドバイザー】

高レベル放射性廃棄物の処分場選定の文献調査に応募した寿都町の町長選で、片岡春雄町長が当選した。 現地を訪れ「町民は理解を深め、将来を考えて判断した」と指摘する石川和男氏が、町長選を振り返る。

いしかわ・かずお 1989年東京大学工学部卒、通商産業省(現経済産業省)入省。エネルギー政策、産業政策などに携わる。内閣府規制改革会議専門委員、政策研究大学院大学客員教授などを歴任。専門は社会保障産業政策論、エネルギー政策論など。

 10月26日に行われた寿都町長選で片岡春雄町長が6選を果たした。昨年10月に片岡町長が処分場選定の文献調査に応募してから、町民はものすごい「雑音」にさらされてきたことだろう。主に寿都町外の原発反対派の人たちからのもので、彼らの主張に惑わされて、文献調査について疑心暗鬼になった町民は少なくなかったと思う。

その中で、有権者は賛成派、反対派双方の主張を聞いた上で、文献調査の継続を訴えた片岡氏を町長に選んだ。それには、さまざまな理由があったと考えている。

まず、町の将来を考えた時、国家事業を誘致すれば、半永久的に国との関係が結ばれることのメリットだ。もちろん、応募によって得られる資金的資源は大きい。しかし、それだけではない。文献調査、さらに概要調査、精密調査と進めていくと、多くの地層処分に携わる関係者が町を訪れる。

もし処分場の工事に着工すれば、さらに人的資源、技術的資源が寿都町に集積することになる。町民の多くは、将来世代に発展が期待される町を残そうと考えたのだと思う。

片岡町長の熱心さが、町民に伝わったことも勝因の一つだろう。今回の選挙戦を見て思ったのは、地方自治体では首長や議会が本気かつ真摯になって取り組めば、住民の支持を得ることができる、ということだ。

寿都町も全国の多くの市町村と同じように、少子高齢化に悩まされている自治体だ。主な産業は漁業と公共事業で、多くの若者が町を去っていく。片岡町長は、高齢者などに対する社会保障、それに何よりも、寿都町で子供たちが育っていくための財政見通しを考えると、自分たちだけで資金を生み出すことは難しく、国策に協力することに伴う財源確保の道を選んだと話していた。

自分たちの世代ではなく、将来の世代のことを考えている。そういう気持ちは、確実に有権者に伝わっていたと思っている。

有権者は文献調査の継続を訴えた片岡氏を町長に選んだ

廃棄物処分を巡る誤解 長期間にわたる全体事業

高レベル放射性廃棄物の処分事業については、世間に多くの誤解がある。最終処分事業は実に長い期間が必要になる。2年間文献調査を行い、次に概要調査、その次の精密調査と、処分地選定まで20年ほどかかる。実際に処分場の建設工事が始まっても、完成までは10年ほどかかる。反対派の人たちはすぐにでも高レベルの放射性廃棄物がやってくるようなことを言うが、実際は文献調査開始から25~30年ほど先になる。 

さらに肝心なことは、全く安全な事業だということだ。処分される前の高レベル放射性廃棄物は十分に冷却されていて、化学変化を起こさず、それが強固なキャスクという容器の中でガラス固化体となっている。放射能が漏れるようなことは、100パーセントないといえる。

しかし、新聞、雑誌、テレビなどで処分事業が取り上げられて、不安を覚える人たちの声が載ると、それが見出しなどになって、増幅されて針小棒大に伝わってしまう。

寿都町では、反対派の人たちがビラやパンフレットなどを配っていた。私の率直な印象として、「危険性を誇張している面はあるが、分かりやすく、よくできている」と思った。

何とか賛成派の人たちを翻意させようとして作っているから、ある程度根拠もしっかりとしている。印象的だったのは、親しみを感じさせる内容だったことだ。ただ、問題は結論が反対であるということだ。

NUMO(原子力発電環境整備機構)が作る資料は、安全性などについて事実を分かりやすく表現している。だが、反対派はそれを上回るものを作っている。反対派の作るものには参考にすべき点が多いと思った。

町長選は、「文学・哲学対数学・工学の戦い」だったと考えている。反対派は一定のファクトに基づいていても、結局は不安感、恐怖感など人間の感情に訴えた。それに対して多くの町民は、町の将来を考えた上で、科学的な根拠に基づいて理性的な判断を行った。片岡町長の当選は、結局「数学・工学」が「文学・哲学」に勝った結果といえると思う。

昨年10月の応募は町長と議会が決めたことで、町民の意見を聞くかたちにはなっていなかった。今回、選挙を行ったことで、町民の多くが安全性を含めて処分事業について理解を深めた。選挙によって文献調査は、「お墨付き」をもらったといえるだろう。

アナウンス効果を疑われた朝日 参院選に向けメディアの思惑は


【おやおやマスコミ】井川陽次郎/工房YOIKA代表

 結果的には正解だった。衆院選の結果を予測した朝日10月26日「自民、過半数確保の勢い、衆院選中盤情勢調査」である。

読売11月2日「自民幹事長に茂木外相、首相、経済対策を中旬策定」は「第49回衆院選は1日、全議席が確定し、自民党が国会を安定運営できる絶対安定多数の261議席を獲得した」と伝える。

予測を読んだ直後はホントか?と首を捻った。ほとんどのメディアが自民の苦戦を伝えていたからだ。予測前日の朝日「参院補選、静岡で自民敗北」も「岸田政権にとって初の国政選挙」での黒星は「政権の打撃」と書いていた。

朝日の急転換の意図を怪しむ声がネットでも広がった。

特に疑われたのは「アナウンスメント効果」だ。朝日の時事用語辞書『知恵蔵』によれば、「マスメディアによる選挙予測報道が有権者の投票行動に影響を与えること」を意味する。

具体例として「すべての新聞の予測が『与党(自民党)の安定多数』だとすると、与野党伯仲を望む有権者は、他党に投票したり、棄権したりする」を挙げる。

逆に言えば「自民苦戦」の予測ばかりなので、朝日はあえて逆張りした。そんな指摘である。

狙い通りか。選挙終盤の情勢に関して、10月29日の日経、読売は、それぞれ「自民、単独過半数の攻防」「自民単独過半数は微妙」と苦戦を伝えた。

それでも最終的に「自民単独で絶対安定多数」(読売11月2日)となって、政治の安定を歓迎するムードも広がるが、読売は警戒を強める。「針路、21衆院選後〈上〉」(11月2日)だ。

今回の選挙結果について「薄氷の勝利」とし、「野党の候補者一本化の影響を受け、多くの小選挙区が接戦に。自民が5000票未満の僅差で逃げ切った選挙区は17に上り、34選挙区が1万票未満の差。結果は一変していたかもしれない」と分析する。

薄氷の下は奈落だ。

「来夏には参院選が控えている。政権選択選挙の衆院選とは異なり、『有権者がお灸をすえやすい』(閣僚経験者)。2019年参院選では32ある改選定数1の1人区すべてで、野党は統一候補を立てた。計15議席以上減らせば、与党は参院で過半数を失い、『ねじれ国会』に逆戻りしかねない」

日経11月5日「来夏参院選1人区、自民28勝4敗か、衆院選票数で予測した場合、与党で過半数維持の試算」も、与党有利の予測を示しつつ、「07年の参院選は1人区で与党系が6勝23敗と負け越した。参院で野党が与党を上回る『ねじれ国会』となり、09年の衆院選で民主党が政権交代を実現する足がかりとなった」と、政権交代のリスクにまで言及する。

「新型コロナウイルスの感染状況や景気の回復具合などで与野党を取り巻く政治情勢も来夏までに変わり得る。試算はあくまで現時点の各党の勢いを表す目安」

参院選に向け、メディアは過激さを増すと考えるべきだろう。

毎日11月2日コラム火論「『勝者』はいるのか」は、その先駆けだろうか。

衆院選について「前政権による『自粛』頼みのかじ取りで、あおりを受けた飲食店の経営者や非正規従業員は少なくない。その『信任』を問う選挙。だが与党は堅調だった」と書く。

前政権の観光支援策「GoToトラベル」事業や五輪開催に反対し「自粛」を叫んでいたのは野党だが……。メディアに御用心。

いかわ・ようじろう(デジタルハリウッド大学大学院修了。元読売新聞論説委員)

【マーケット情報/12月10日】原油反発、変異株への警戒緩和


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み反発。米国原油を代表するWTI先物は5.41ドル、北海原油の指標となるブレント先物は5.27ドルの大幅上昇となった。新型コロナウイルス・オミクロン変異株に対する警戒感が緩和されたことが背景にある。

世界保健機構は、オミクロン変異株の感染による症状は、比較的軽度であるとの見解を示した。南アフリカでは同変異株の感染者数が急増しているが、集中治療室の利用率は低い。欧州委員会は、移動規制の強化を保留。また、インドネシアは、クリスマス休暇と年末に向け、移動規制を緩和する計画。経済活動が維持され、石油および燃料需要は保たれるとの予測が強まった。

加えて、北東アジアの製油所は高稼働を続ける見通し。中東産油国の1月ターム供給価格が発表され、石油製品の精製マージンが明確になるまでは、原油処理量の変更には踏み切らない見込みだ。

供給面では、米国政府が、戦略備蓄5,000万バレルの放出時期を数カ月ほど調整する可能性を示唆。エネルギー価格が下落した場合は、柔軟に対応すると表明した。また、同国の週間在庫は減少。

一方、インドは、変異株の感染拡大を受け、国際便の停止期間を1か月半ほど延長。英国も入国規制を強めた。さらに、米国の石油サービス会社ベーカー・ヒューズが発表した国内の石油掘削リグの稼働数は、前週から4基増加して471基となり、価格上昇を幾分か抑制した。

【12月10日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=71.67ドル(前週比5.41ドル高)、ブレント先物(ICE)75.15ドル(前週比5.27ドル高)、オマーン先物(DME)=72.72ドル(前週比1.90ドル高)、ドバイ現物(Argus)=72.94ドル(前週比2.45ドル高)

持続可能社会を支えるエネルギー 原子力の価値を社会に発信


【オピニオン】山口 彰/日本原子力学会会長

 第6次エネルギー基本計画では、S+3Eがエネルギー政策の根幹であることが確認された。しかし、S+3Eのありようについて共通理解は得られていないと思う。例えば、太陽光エネルギーの発電コストが原子力を下回ることが注目されたが、系統につなげる統合コストや予備力確保、運用のコストなどは発電コストに含まれていない。発電の総コストにしてもS+3Eのほんの一部にすぎない。

従来は、エネルギーの自給率(燃料をどれだけ自国で賄えるか)と発電コストに基づいていれば概ね適切な政策決定ができていた。今や、社会システムや技術が複雑化・多様化してきたことにより、エネルギーの評価がより難しくなった。持続可能社会を支えるエネルギー構成の選択には多くの要因を考慮するとともに、それらの適切な評価軸と定量的な指標が求められる。

1900年、米国では4192台の自動車が生産され、その内訳は、1681台は蒸気自動車(1769年発明)、1575台は電気自動車(1873年発明)、ガソリン自動車(1885年発明)は936台であった。蒸気自動車は蒸気圧が十分に高まるまで10分以上かかり、蒸気はそのまま捨てていたので、30~50kmごとに水を補給する必要があった。それなのに蒸気自動車が40%を占めた理由は統合コストにある。1900年のマンハッタン島には180万人の人間と23万頭の馬が暮らしており、往来する馬のためにあちらこちらに公共の水桶が設置されていた。蒸気自動車はその水を使うことができたので、普及したのである。その後、ガソリンが洗浄剤や溶剤、燃料として至る所で使われ始め、どこでも手に入るようになった。統合コストが安くなり、ガソリン自動車が普及することになる。

技術が社会に普及・定着するには、社会システムにうまく適合する必要がある。社会に適合するとは二つのことを意味する。まず、既存の社会インフラへの接続性などの技術や制度の問題、そして人々がその技術を良いものとして利用するという社会的受容性である。蒸気自動車は、1800年代に蒸気機関が普及し、既に受容されている技術であった。

エネルギー基本計画では、S+3Eのさまざまな要素が議論された。技術自給率、サプライチェーン、国民からの信頼、蓄電や蓄熱、CCUS、技術実用レベル、レジリエンスなどである。それらに求められる条件を満たすエネルギーは果たしてあるのだろうか。エネルギー源を適切に組み合わせてこそ社会システムに適合するのであり、それはS+3Eを評価・検証して導かれるエネルギー構成である。 日本原子力学会は、社会に対して原子力の価値をお伝え(発信)するとともに、社会からの声をお聞き(受信)することを本年の基本方針のひとつとした。S+3Eの目標を総体として達成するために、原子力の価値と果たす役割を社会にお伝えすることが大切である。原子力科学技術は、持続可能社会を支えるエネルギー構成に不可欠な要素であるのだから。

やまぐち・あきら 1979年東大工学部原子力工学科卒、東大大学院博士課程修了。動力炉・核燃料開発事業団(当時)など経て2015年東大大学院工学系研究科教授。工学博士