A しかし「新しい資本主義」が何を指すのか、哲学やビジョンが見えなかったし、エネルギーも同様に何をやりたいのか不明だ。特に一丁目一番地に「社会のあらゆる分野の電化」を掲げるなんて、何をしたいのか全然ピンとこない。これまでのエネルギー政策から見てかなり違和感がある。まずできることは供給面のグリーン化なのに、いきなり電化なのか。送配電網や蓄電池に関しても具体性を欠き、光り輝くものが見えない。役人の作文だとしても安倍、菅政権時代よりも熱がなく、記事の見出しにもなっていない。
B 確かに「あらゆる分野の電化」だけでは説明不足。電源のゼロエミッション化は既定路線だが、熱需要でCO2を出し続けていたらカーボンニュートラル(CN)にはならない。この熱をできるだけ電化するという方針を言わんとしたのではないかと推察する。
C (温暖化防止国際会議の)COP26で、岸田文雄首相がCE戦略のことを「グリーン」と言い間違え、その後あえて「クリーン」と言い直したから、余計に注目された。岸田氏は官邸記者クラブのインタビューで、CE戦略で需要側のエネルギー転換の方策を示すと説明し、「現実的なエネルギー転換」と二度も口にしたという。第六次エネ基は積み上げではなくなった。熱の分野を水素社会にしていくまでのトランジションが宙ぶらりんだ。それを補う内容にするため、経済産業省も環境省もトランジションや「現実的な燃料転換」を意識した予算を計上している。ただ、鉄や化学などエネルギー多消費産業の水素化のプロセスが大問題で、電化だけでは話が進まない。これを岸田氏がどこまで把握しているのか。ビジョンを訴えるだけだった小泉進次郎氏、河野太郎氏の後始末をどうつけるかが重要だ。
A 21年の前半はエネルギーが政局を決めるような雰囲気だったが、総裁選をピークにその後は無風状態。しかしエネルギーの世界情勢が大きく動く中、熱の入らない所信表明でいいのか。国の曲がり角なのに、CNに日本が外交戦略上どう対応するのか具体的に語っていない。
B 資源の乏しい日本にとって核燃料サイクルは必要だが、さまざまな課題があることも確かで、このままでいいわけがない。しかし、総裁選での河野氏のように単に「手じまい」せよと言うだけでは、原子力政策全体がスタックしてしまいかねない。原子力というオプションを手放さずにどのような着地点が見出せるか、知恵を絞る必要がある。
望ましい「政治主導」とは 与党の責務果たせるか
C 岸田氏に近い人たちのうち、木原誠二・官房副長官はメディアに「首相はリプレースをしなければCNは無理だと考えている」と述べている。一方、宮沢洋一・党税制調査会長が自身の懇談会で語ったように、「参院選はきつい戦いになる。7月に向けては安全運転でいかなければならない」面もある。経産省幹部もCE戦略にはエネ基以上のことは入れない方針のようで、「安全運転」には原子力も入るのだろう。CE戦略は6月に提示する予定だが、トランジションの議論の中で原子力がどこまで表に出てくるかは微妙そうだ。
A それはうそ。原子力は選挙に関係ない。国民は冷静で、スローガン的な「原発ゼロ」を信じていない。サイクル事業に関わる青森県との調整など、政治家が覚悟を持って前面に立つかどうかだ。河野氏の問い掛けは、そうしたことへの一歩となる問題提起にはなった。現実的にはサイクルをやるしかないと考えているが、塩漬けが一番だめで、自民党が今の態度を続けることは怠慢だ。現状維持でなく具体的な一歩を踏み出せるか、萩生田光一経産相の手腕に期待したいが、官僚が委縮していないか気がかりだ。
B 官僚は自らの失敗を決して認めない。でも間違えることもあるから失敗を糊塗して軌道修正しようとする。それで事態がますますややこしくなってしまう。だからこそ政治のリーダーシップが必要だ。安倍政権は当初、憲法改正という悲願のために原子力政策を封印したが、最後は政権維持のために原子力の議論から逃げているように見えた。
長期エネルギー需給見通しは、1977年以降しばしば発表されてきた。見通しは文字通り解釈すれば単なる予測でしかないが、実際は、将来のあるべき需給の姿を描いている。だからこそ、関係者の利害を反映して、その改定時には常に侃侃諤諤の議論がなされるのである。しかし、根本的な疑問は、これらの数値目標を自由化市場でどのようにして実現していくのかという点である。長期エネルギー需給見通しは、もともと電気事業が独占であった時代に策定されていたものである。独占時代には、総括原価主義が適用されていたから、確実に投資コストの回収が可能であった。そのため、長期エネルギー需給見通しで示された電源構成は、電気事業者が遵守すべき目標と位置づけてもその実現は(理論的には)可能だし、むしろ、それは官民共同で作成されていたといってよいだろう。しかし、自由化市場では、規制当局が電気事業者に電源(ミックス)の開発目標をアプリオリに決定し、明示的にまたは暗黙にその遵守を求めるべきではないだろう。自由化時代では、エネルギー市場での競争力の源泉は、なによりも発電であり、電気事業者による電源選択については、基本的にその経営判断(競争戦略)を尊重すべきである。例えば、電源の脱炭素化のために、原子力発電、再生可能エネルギー発電、合成燃料を用いたガス火力発電、CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)付きの石炭火力発電等のいずれをどの程度使うか、またどのような電源ミックスが競争上優位と考えるかは各社の経営戦略に依存する。また、自由化時代では、特定の電源(ミックス)を選好する需要家に対しては、そのような電源を提供する電気事業者の選択を認めるべきだろう。
ただし、シングルバイヤーシステムの基本的な要素である長期契約は、ある種の電源に適用される場合もあることは付言しておく。その典型的な例は、原子力発電であり、英国ではシングルバイヤーシステムと類似の制度として、差額決済取引型固定価格買取制度(Contract for Difference Feed- in Tariff: CfD FIT)が原子力発電に適用されている。しかし、このような長期契約に基づき投資コストの回収を制度的に認める電源は、エネルギーセキュリティやカーボンニュートラルの観点から必要不可欠と理論的根拠をもって判断され、パブリックアクセプタンスが得られるものに限定されるべきであろう。