ガス事業の課税方式変更 全面見直しには至らず


政府・与党の2022年度税制改正大綱が決定し、都市ガス事業者12社や製造事業を行う新規参入者を対象とする事業税の課税方式が見直されることになった。現行では、一般の事業者よりも負担が重くなりやすい収入金課税の方式が採られており、小売り全面自由化後の競争激化や、22年に控える東京・大阪・東邦の大手3社の導管分離を踏まえ、業界側がほかの事業者と同じ所得割方式に見直すよう要望していた。

これに対し、強硬な反対姿勢を見せたのが地方税収を安定的に確保したい総務省。結果的に、西部、北海道、静岡、京葉など大手3社以外については全面的に所得割に見直す一方、大手3社とそのエリア内にある製造事業者については、課税額の4割についてのみ所得割と「付加価値割」「資本割」の外形標準課税を組み合わせる課税方式を採用することになった。

課税方式見直しにより、税負担の軽減につながるものの、ガス導管の普及促進のために設けられている固定資産税特例が廃止されるため、実質の軽減効果は半減する見通し。規制が残る導管部門は、今回の見直しの対象外だけに、業界関係者にとっては腑に落ちない結果と言えそうだ。

原油価格高騰で異例の判断 国家備蓄放出から見えるもの


【論説室の窓】関口博之/NHK 解説委員

原油価格が高騰する中、政府はバイデン米大統領の呼び掛けに応じ、初の国家備蓄放出に踏み切った。

カーボンニュートラルを目指す中、「移行期」には最適な現実解を求めることも必要になる。

 原油高騰が続く中、日本政府は2021年11月24日、石油備蓄の「放出」を決めた。アメリカのバイデン大統領の協力呼び掛けに応じたもので、日本のほか、中国、インド、韓国、英国が協調して放出することとなった。過去に備蓄放出を主導したIEA(国際エネルギー機関)が参加せず、インドや中国といったIEA非加盟国が加わる。アジアの主要消費国と米英が組んだ形で、日本エネルギー経済研究所の小山堅首席研究員は「異例の組み合わせという点にも注目すべきだ」としている。

日本にとって国家備蓄の放出は初めてだ。ちなみに1991年の湾岸戦争時や2011年の東日本大震災の際に備蓄放出は行われたが、これは民間備蓄についてだった。石油備蓄法は放出を、紛争などによる供給途絶の恐れや災害時、つまり供給が不足する事態に限定していて、価格の抑制を目的とした放出は想定していない。このため政府は、今回の事実上の放出も「定期的な油種の入れ替えを前倒しするもの」との説明だ。いずれにしても異例の判断であることは間違いない。

国家備蓄は紛争など供給不足を想定している

数百万バレルを放出 価格高騰を抑止できるか

21年9月末時点での備蓄は国家備蓄が国内消費量の145日分、民間備蓄が90日分、産油国共同備蓄が6日分となっている。国家備蓄・民間備蓄とも目標値を大きく越えているが、実際に石油元売りや商社などへ今後、売却される量は1~2日分、数百万バレルにとどまる見込みだ。一方、アメリカは今後数か月で5000万バレルを放出するとしている。

では、これが原油の価格を抑え、反転させることにつながるのか。業界関係者の多くは、マーケット規模に比べこの程度の量では効果は限定的だと見る。いわば口先介入的な効果にとどまるとの見方だ。となると今回の日本の立ち位置も「お付き合い的参加」ということになろう。10月後半に1バレル85ドルを付けたWTI先物価格は、アメリカの備蓄放出の観測を織り込んで、11月中旬に76ドル台まで下がった後、協調放出が発表された後はいったん、78ドル台まで上げる形となった。

次の焦点は産油国側の出方になる。そもそもバイデン政権の協調放出の呼び掛けは、大幅増産に否定的なOPEC(石油輸出国機構)プラスを牽制する目的で行われている。産油国側が反発し、いわばしっぺ返しに出てくることも考えられた。市場が固唾を飲んで見守る中、21年12月2日のOPECプラスは、1月の生産も既定方針通り増産を続けることを決めた。消費国と産油国の全面対立は、ひとまず杞憂に終わった。折しも新型コロナの新たな変異株「オミクロン株」が各国で確認され、世界経済への悪影響への懸念から原油価格が急落したこともあって、増産を見送るのではないかという観測もあったが、OPECプラスは毎月40万tの小幅増産は維持した。景気の先行きが不透明だからこそ、今はアメリカなどとの衝突は回避しようと考えたとみられる。 

一方、少し長い目で見た場合、今回の備蓄放出の対応は、中東産油国と独自の友好関係を築いてきた日本にとって、アメリカと中東産油国との間で板挟みになりかねないおそれもはらんでいる。この点について石油連盟会長のENEOS杉森務会長は「産油国にも日本の立場は理解されている。関係悪化は心配していない」とするが、今後も資源外交上、神経を使わざるを得ない課題だ。

それ以上に俯瞰した視点でみると、高騰と足元での価格の乱高下が、「脱炭素化」という大きな潮流の中で起こっていることに注目すべきだろう。折しも11月13日に閉幕したCOP26(気候変動枠組み条約締約国会議)は1・5℃目標に向けた努力の追求を明記し、何らかの形でカーボンニュートラル、あるいはそれに近い目標を表明した国も排出量全体の9割に達した。総じてみれば気候変動問題への大きな前進といえる。

こうした脱炭素の機運が加速する中で、必然的に化石燃料の資源開発への投資は縮小されてきている。近年は投資家や金融機関による投融資案件の選別も進んでいる。IEAによれば、原油や天然ガスの開発や生産に投じられた資金は、20年には前年比で3割も減ったとされる。そのIEA自身も、50年のカーボンニュートラル(ネットゼロ)から逆算すれば、化石燃料への新規の開発投資は不要になるとの趣旨を21年5月の報告書に盛り込み、波紋を呼んだ。

思惑が市場を不安定に 「移行期」の難しさを露呈

化石燃料の生産が先細りしていくという展望がリアルなものとなってくる一方で、人類はしばらくは化石燃料に頼らざるを得ないのも現実だ。となればいずれ化石燃料の需給ひっ迫が起こるのではないか、こうしたことが意識される中で、原油にしろ天然ガスにしろ、石炭にまで価格上昇の圧力が掛かってきている。まさに脱炭素を見越した市場の動きと言っていいだろう。実需の反映だけでなく、こうした思惑が市場を不安定なものにし、価格の振れ幅をより大きくしかねない。ここに「移行期」であればこその難しさがある。

考えてみれば、COP26で脱炭素化へ国際社会が決意を固めた直後に、一転して〝産油国に石油の増産を要求している〟というのは皮肉な事態だ。そこにわれわれが抱える矛盾があるともいえる。だとすれば理想論をかざすだけでなく、「最適な現実解」を求めていくことも重要だろう。たとえば化石燃料を脱炭素化して使い続けるという発想だ。例えばアジアでの火力発電でのCCUSの実装しかり、同じく火力発電での水素・アンモニアの混焼もそうだろう。

こうした「移行期を乗り切る」戦略をわれわれは考えていく必要がある。一定の期間、一定の上流投資を続けていくことも考えれば、産油国などと消費国の協力・協調も必要になる。「最適な現実解」を模索するため、日本が持っている中東産油国との良好な関係という外交的な資産を有効に使い、橋渡し役を果たすことが重要になってくると思われる。

経産省がCP議論を加速 炭素取引新市場の検討開始


経済産業省が、カーボンプライシング(CP)の一環として創設する「カーボンクレジット市場」に関する議論をスタートさせた。2022年度中に実証を始める予定だ。同省は将来的な排出量取引制度の導入を見据えており、ほかにも企業の自主的な取り組みを促す「カーボンニュートラルトップリーグ」に取り組む。CP政策をけん引し、炭素税議論を封じ込める狙いもあるようだ。

12月8日に新たな検討会を設置。新市場の基本設計などを議論し、報告書を22年春に取りまとめる。企業の間ではカーボンニュートラルLNGなどクレジットの活用が盛んになっているが、民間主導のクレジットには多様な方法論や性質のものが混在する。どんなクレジットがNDC(国別目標)に計上できるかなど、用途に応じた活用方針を整理していく。

一部では、カーボンニュートラルへの企業の足並みをそろえるため、50年までのどこかの段階で義務的な排出量取引の導入が必要になるとの意見が出ている。その時期は、新市場やトップリーグ、代替技術開発の進捗などに左右されることになる。

ITでグループの基幹業務を支える データセンターを中心に外販にも注力


【ほくでん情報テクノロジー/魚住 元 取締役社長】

北海道電力グループのほくでん情報テクノロジーは、電力関連のITソリューション構築を担う。

現在は、電力以外の商材開発にも積極的に取り組むなど新たな一歩を踏み出している。

うおずみ・げん 1983年北海道大学大学院卒、北海道電力入社。2009年原子力部原子燃料統括室長、12年広報部長、16年泊原子力事務所長を経て、20年6月から現職。

 ――北海道電力グループのIT企業として、電力システム改革に関連するシステム開発は大きな仕事だったと思います。どのようなことに取り組みましたか。

魚住 2016年4月に開始となった電力小売り全面自由化が大きな山場でした。託送システムの開発、スマートメーターシステムとの連携、自由化料金メニューへの対応など大規模開発が続きました。昨年度は法的分離にも対応し、一区切りをつけることができました。

 今後も需給調整市場や発電側託送課金など制度へのシステム対応や、配電・火力などの大規模業務システムの再構築、ホスト(メインフレーム)の廃止に向けた対応が続く見込みです。

営業システムの改修など 大規模なプロジェクト続く

――現在、電力関連で取り組む代表的な仕事を教えてください。

魚住 ホストコンピューターのクライアントサーバーへの移行を進めています。特に大規模改修となるのが、北電が扱う営業システムのサーバー移行です。電気料金の受付、検針、計算、請求・収納を行うもので、主に規制料金メニューを契約する低圧のお客さまを扱っています。データ量が膨大で大きなプロジェクトになります。

――北電グループにおけるDXの位置づけは。また、具体的にどのようなことに取り組んでいますか。

魚住 DXの推進をグループの経営基盤強化の柱の一つに位置づけています。現在、HMD(ヘッドマウントディスプレイ)を活用した現場作業支援や発電所内での通信ネットワーク構築実証試験などの取り組みを進めており、HMDのPoC(概念実証)には当社も加わっています。今後も継続してグループ内のDXに主体的に携わっていくため、AIやIoTなどの技術力を積み上げているところです。組織面では、20年度に社外へのソリューションサービス提供、DX推進専任の「デジタルソリューション部」をつくり体制強化を図っています。

――電力関連でお客さまに提供するサービスではどのようなものを手掛けていますか。

魚住 北電ネットワークが手掛けたスマホアプリ「LINE」で停電情報を通知するサービスを開発しました。18年の北海道胆振東部地震の大停電以降、停電情報はお客さまからも関心が高い情報です。

――情報セキュリティーへの要求は日増しに高まっています。どのような対応をしていますか。

魚住 電気事業は社会の重要インフラとして、情報セキュリティーの確保が至上命題です。高度化、巧妙化するサイバー攻撃に対し、北電ではセキュリティー事故対応体制「CSIRT」や監視体制「SOC」を設置し、対応の強化を図っています。SOCに関しては、当社が北電から委託を受けて、全面的にその役割を担っています。今後、ワークスタイルの変革、DXの推進など、クラウドの利用が拡大していくことから、さらなる充実と強化が求められます。

――北電グループ外への販売事業について聞かせてください。

魚住 当社はデータセンター事業を01年に開始しました。現在、約180社のお客さまにご利用いただいており、外販の柱になっています。まずは、同事業の営業活動の強化と充実を図るとともに、サービスを充実させ顧客の幅を広げていきたいと考えています。

 このほか、RPAや企業用メッセンジャー、情報セキュリティーサービスなどを提供しています。また、近年のワークスタイルの変革は、ビジネスチャンスでもあります。20年度には、リモートデスクトップ方式のテレワークソリューション「スプラッシュトップビジネス」やウェブ会議導入支援サービスの提供を開始しました。さまざまなサービスを提供していますが、まだ収益は少なく主要事業には育っていません。当面の柱はデータセンター事業です。将来的には、新サービスとのシナジー効果によって、データセンター事業の顧客拡大につなげていければと思っています。

外販事業の中核となるH-IXデータセンター

成長に向けた二つの目標 グループ貢献と事業拡大

――今後、北電グループにおける貴社のミッションや果たすべき役割はどのようにお考えですか。

魚住 まずは、北電および北電ネットワークの基幹業務システムと情報インフラを一貫して支えていくことです。当社売上高の8割以上は北電と北電ネットワークからの収入で賄われています。本社のシステム開発に注力していくとともに、DXの実現に向けて必要なサービスを提供していきます。

 今後数年は北電グループからの仕事によって一定水準の収入が期待できますが、近い将来には縮小に向かうものと想定しています。

当社は20年6月で創立30年周年を迎えました。今後も持続的な成長を果たしていくためには、グループ以外の事業領域をさらに拡大していかなければなりません。データセンター事業を中核に一般市場での収益拡大を目指します。技術動向を的確にキャッチアップし、機会を逸することなく挑戦していきたいと思っています。これらを果たすことで、北海道の電力安定供給と北電グループの発展に貢献していきます。

【覆面ホンネ座談会】原子力再構築の本気度は!? 「政治主導」の意味を問う


テーマ:岸田政権下のエネルギー政策

業界が注目するクリーンエネルギー(CE)戦略の議論が、2021年12月16日に始まった。第六次エネルギー基本計画の失敗を挽回するのか。それとも引き続き政策は停滞を続けるのか。

〈出席者〉 A元経産官僚  B電力関係者  C霞が関事情通

――衆院選を経て岸田政権のカラーが見え始めてきた。12月6日の所信表明演説でも、エネルギー政策について何点か語っていた。

A しかし「新しい資本主義」が何を指すのか、哲学やビジョンが見えなかったし、エネルギーも同様に何をやりたいのか不明だ。特に一丁目一番地に「社会のあらゆる分野の電化」を掲げるなんて、何をしたいのか全然ピンとこない。これまでのエネルギー政策から見てかなり違和感がある。まずできることは供給面のグリーン化なのに、いきなり電化なのか。送配電網や蓄電池に関しても具体性を欠き、光り輝くものが見えない。役人の作文だとしても安倍、菅政権時代よりも熱がなく、記事の見出しにもなっていない。

B 確かに「あらゆる分野の電化」だけでは説明不足。電源のゼロエミッション化は既定路線だが、熱需要でCO2を出し続けていたらカーボンニュートラル(CN)にはならない。この熱をできるだけ電化するという方針を言わんとしたのではないかと推察する。

 期待を込めた見方をすれば、粛々と仕事をこなしていく意思はにじんでいたと思う。火力の燃料転換や送配電網のバージョンアップなどやるべき実務を挙げ、特にエネルギー政策の重要なピースである原子力を名指しはしなかったが、CE戦略において政策を見直していくのだろう。大上段から国民に原子力の是非を問うていては、なかなか前進しない。原子力に関する国民の確たるコンセンサスはまだないが、必要なオプションとして、華々しく語らなくとも、運転期間の延長問題をはじめ地に足のついた政策の推進を望みたい。

CE戦略は評判倒れ? サイクル見直しの棚上げ続く

C (温暖化防止国際会議の)COP26で、岸田文雄首相がCE戦略のことを「グリーン」と言い間違え、その後あえて「クリーン」と言い直したから、余計に注目された。岸田氏は官邸記者クラブのインタビューで、CE戦略で需要側のエネルギー転換の方策を示すと説明し、「現実的なエネルギー転換」と二度も口にしたという。第六次エネ基は積み上げではなくなった。熱の分野を水素社会にしていくまでのトランジションが宙ぶらりんだ。それを補う内容にするため、経済産業省も環境省もトランジションや「現実的な燃料転換」を意識した予算を計上している。ただ、鉄や化学などエネルギー多消費産業の水素化のプロセスが大問題で、電化だけでは話が進まない。これを岸田氏がどこまで把握しているのか。ビジョンを訴えるだけだった小泉進次郎氏、河野太郎氏の後始末をどうつけるかが重要だ。

A 21年の前半はエネルギーが政局を決めるような雰囲気だったが、総裁選をピークにその後は無風状態。しかしエネルギーの世界情勢が大きく動く中、熱の入らない所信表明でいいのか。国の曲がり角なのに、CNに日本が外交戦略上どう対応するのか具体的に語っていない。

 このままなら日本の原子力はなし崩し的なフェードアウトになってしまう。再稼働の議論だけではだめで、核燃料サイクル政策が破綻したままでは、バックエンド問題も含めて将来原子力がどうなるのか、国民にきちんと説明することができない。これは安倍政権も菅政権もやってこなかった。政策資源を配分し直し、原子力政策を根本的に組み立て直さなければ、国民の理解は永遠に得られない。しかし岸田氏は所信表明で原子力に一文字も触れなかった。紋切型でも触れていた安倍政権からも後退している。

B 資源の乏しい日本にとって核燃料サイクルは必要だが、さまざまな課題があることも確かで、このままでいいわけがない。しかし、総裁選での河野氏のように単に「手じまい」せよと言うだけでは、原子力政策全体がスタックしてしまいかねない。原子力というオプションを手放さずにどのような着地点が見出せるか、知恵を絞る必要がある。

望ましい「政治主導」とは 与党の責務果たせるか

C 岸田氏に近い人たちのうち、木原誠二・官房副長官はメディアに「首相はリプレースをしなければCNは無理だと考えている」と述べている。一方、宮沢洋一・党税制調査会長が自身の懇談会で語ったように、「参院選はきつい戦いになる。7月に向けては安全運転でいかなければならない」面もある。経産省幹部もCE戦略にはエネ基以上のことは入れない方針のようで、「安全運転」には原子力も入るのだろう。CE戦略は6月に提示する予定だが、トランジションの議論の中で原子力がどこまで表に出てくるかは微妙そうだ。

A  それはうそ。原子力は選挙に関係ない。国民は冷静で、スローガン的な「原発ゼロ」を信じていない。サイクル事業に関わる青森県との調整など、政治家が覚悟を持って前面に立つかどうかだ。河野氏の問い掛けは、そうしたことへの一歩となる問題提起にはなった。現実的にはサイクルをやるしかないと考えているが、塩漬けが一番だめで、自民党が今の態度を続けることは怠慢だ。現状維持でなく具体的な一歩を踏み出せるか、萩生田光一経産相の手腕に期待したいが、官僚が委縮していないか気がかりだ。

B 官僚は自らの失敗を決して認めない。でも間違えることもあるから失敗を糊塗して軌道修正しようとする。それで事態がますますややこしくなってしまう。だからこそ政治のリーダーシップが必要だ。安倍政権は当初、憲法改正という悲願のために原子力政策を封印したが、最後は政権維持のために原子力の議論から逃げているように見えた。

 一方、岸田氏は、安倍氏の憲法改正のような祖父の代からの悲願やポリシーがないように映る。ただ、政治の役割は全てトップダウンで決めることではなく、最後の方向性を示すこと。政治と官僚の二項対立でなく、スクラムを組んでほしい。特に菅政権はこれが全くできなかった。自ら「聞く力」をアピールする岸田氏には、官僚の意見をよく聞いた上で、官僚にはできない政策転換や縦割りの是正といった本来の政治主導を期待したい。

C ただ、自民党の「安全運転」にエネ庁も乗ればCE戦略にはSMR(小型モジュール炉)以上のことは書かないだろう。今取り組むべき課題を動かすけん引力に誰がなるのか。

A 国民や地元の説得は政治の役割。昔の自民党にはその知恵があったが、今は調整役の人材などもおらず政治が機能していない。軽水炉を動かさないままのSMR政策などあり得ず、民間も投資できない。原子力政策の一歩を記すことは与党の責務だ。

「岸田カラー」のエネルギー政策は、今後どのような展開を見せるのか。

中国が石炭輸入を再開 くすぶり続ける供給懸念


今秋、歴史的な石炭価格の高騰が引き金となり、広い範囲で停電が発生した中国。深刻な電力不足を解消するため、政府は国内炭の生産増強を指示し、関係が悪化しストップしていたオーストラリアからの輸入再開に踏み切った。

ひとまず停電状態は解消されたが……

石炭輸入量は、11月に入って前月比3割増の3515万tと2021年最高を記録。強力な価格抑制策により、価格も短期間のうちに半分まで急落したという。ただ、有識者の一人は、「生産・輸入量ともに増加傾向にあるとはいえ、電力需要は10月までに12%ほど増加しており、とても需要を賄いきれるものではない。今後も需給がひっ迫する可能性は高い」と、危機は去っていないと見る。

北京五輪を控える中国にとって、今冬は特別な冬だ。前回の北京五輪開催時と同様、期間中の「青空」を確保するための大気汚染対策として、企業が工場の操業を停止させられたり、自動車の走行を禁止されたりすることが予想される。

ただでさえ、冬は暖房需要で燃料使用量が増える。五輪対策が、中国の旺盛なエネルギー需要にどのような影響を与えるのか―。世界のエネルギー情勢に影響を与えかねないだけに、関係者の耳目が集まっている。

【イニシャルニュース】 労組の期待とは逆展開? 立民で泉体制が始動


 労組の期待とは逆展開? 立民で泉体制が始動

衆院選で「惨敗」した立憲民主党。枝野幸男前代表の下、エネルギー政策では「気候危機に歯止め」「自然エネルギー立国の実現」など非現実的なビジョンに終始した。

エネルギー専門家のY氏はウェブコラムで「エネルギー政策を見る限り立民は労働者のことを考えているとは思えないし、多くの国民のことも頭にないようだ」と批判を展開した。そんな再エネ主義者の枝野氏が辞任に追い込まれ、泉健太氏が新代表に選出された。泉氏は旧国民民主党出身の中道路線。原子力政策に関しては、代表選の中で限定的な原発再稼働を容認するなど、左派の論調とは一線を画している点が注目される。

一方、決選投票で敗れた逢坂誠二氏は、選挙区の対岸にある大間原発の建設中止を長年訴えており、代表選中には寿都町などが手を挙げる最終処分場に関する文献調査にも慎重姿勢を示していた。

立民は泉氏の代表就任により、枝野氏の下で左に寄り過ぎた路線の軌道修正が期待できる。そのため、電力会社などの旧同盟系労組もさぞ歓迎しているのかと思いきや、実はひそかに望まれていたのは逢坂氏の勝利だったという。どういうことなのか。

泉氏が選ばれていなかったら……

「労組関係者にとっては、枝野路線を継承すると見られた逢坂氏がトップになることで、立民の分裂が進むというのが歓迎するシナリオだった。そうなれば、立民の中道派と国民民主の合流という展開もあり得た」(電力関係者X氏)

蓋を開けてみれば、代表選で泉氏と争ったほかの3者が新執行部入りするなど、立民は党の結束をアピール。電力労組など支持層の望みとは逆の展開になっているようだ。

市長の同意義務なし!? 泥沼化する太陽光訴訟

静岡県I市で、メガソーラー建設を巡る訴訟合戦が泥沼化の様相を呈している。

話は2019年に遡る。太陽光事業者のI社が工事用の橋を架けるため申請した河川の占有許可について、市が条例を理由に出さなかったことから、I社側が静岡地裁に提訴。一審では市の処分を取り消す判決を下し、続く東京高裁の控訴審でも処分取り消しは覆らなかった。

ただ、判決内容は「理由の提示が不十分」という手続き上の不備を指摘しただけで、不許可の判断自体は「裁量権の逸脱に当たらない」として市側の主張を一転容認。これを受け、I市のO市長は「実質的な勝訴」として21年7月、地元住民の反対を理由にI社側の占有申請を再び却下した。すると11月に入り、今度はI社側が市の工事中止要求に法的根拠がないことなどを確認するための訴えを、静岡地裁に起こしたのだ。

具体的には、I社が開発を行うにあたり、①太陽光条例に基づく市長の同意を受ける義務がない、②市側に事業を中止する義務がない―ことの確認を求めている。これに対し、O市長は「市条例に基づく対応の正当性を主張する覚悟」とコメントした。

「窮地に立たされたI社による破れかぶれの提訴にしか思えない」。太陽光訴訟問題に詳しい関係者Y氏は、こう指摘する。「義務がないから事業を継続しても問題ないという身勝手な理屈が通るとでも思っているのだろうか。FIT法では自治体条例を遵守するよう義務付けているので、市長の同意を得ずに着工しようとするなら、経産省は毅然と認定を取り消すべきだ」

異色の裁判だからこそ、その行方が注目される。

系統資料に「S+3E」 エネ庁がようやく明記

資源エネルギー庁の新エネルギー小委員会の下にある専門家会合。再生可能エネルギー導入量を最大限増やすため、既存の電力系統との接続条件が制約とならないよう、座長O氏のもとで中立的な立場の委員が議論を重ねてきた。

21年秋に開催された会合で、事務局が提示した「再エネ出力制御の低減に向けた取組について」と題する資料の中に、「S+3E」の文言が初めて明記され、業界関係者の関心を集めている。具体的には、「S+3Eを大前提に、電力需給の調整力を担う火力発電の最低出力を引き下げる」といった趣旨だ。

「エネ庁が供給安定性や経済合理性を軽視していたわけではないだろうが、実務的な議論の中で、ようやくこの文言が明記された」。議論を傍聴してきた、X団体の関係者はため息交じりにこう話す。

そもそもS+3Eはエネルギー政策の一丁目一番地のはずだ。この大前提が抜け落ちた再エネ導入論など意味がないに等しい。

再エネの出力変動に火力発電が調整力として対応することは業界の常識。にもかかわらず、これまでの会合で火力業界が発言の機会を得ることができたのはごくわずかだ。実質的な政策議論も「再エネ業界最優先」で展開されている様子が浮かび上がる。

「安定供給」を口にすれば、「抵抗勢力」のレッテルを貼ってきた東日本大震災以降のシステム改革論議。10年の時を経てようやく現実に目を向け始めたようだ。

SMR時代の到来か カナダがGE日立製建設


カーボンニュートラルに向けて、既存の大型炉に対して安全性、経済性などに優れているSMR(小型モジュール炉)に熱い視線が集まっている。各国の電力会社に先駆けて、カナダ・オンタリオ電力が建設予定のSMRとしてGE日立製のBWRX―300(30万kW)を採用と発表した。

冷却材損失事故の発生を極限まで低減する

カナダは政府、産業界などが国を挙げてSMRの建設を支援している。規制当局は審査をスムーズにするために、非公式の「サービス審査」を実施。BWRX―300はその対象に選ばれていた。今後、正式な審査を経て早ければ2028年の完成を予定している。

「カナダで実績のある炉を輸入できないか」。日本でもこんな声が高まりそうだが、現在の制度では、新しいタイプの原子炉には原子力規制委員会による審査の「高い壁」がある。また、メーカーが独自に審査を申請することはできない。

航空機の分野では相互承認制度により、協定を結んだ国で生産された旅客機は安全審査を省いて自由に飛行できる。SMRにより原子力発電も「商品化」しつつある。SMRに詳しい田中隆則・原子力学会フェローは「航空機のように輸出入ができる仕組みが望ましい」と話している。

小型原子炉で豊富な実績 ロシア製SMRの抜き出た実力


【ロスアトム】

地球温暖化防止の「切り札」としてSMR(小型モジュール炉)に関心が高まっている。

ロスアトムは、原子力砕氷船での実績などから、SMR開発で他企業の一歩先を走っている。

 地球温暖化が人類の将来に大きな脅威となり、CO2を排出しない電源として、再生可能エネルギーとともに原子力発電に期待が高まっている。特に注目されているのが、SMR(小型モジュール炉)だ。高い安全性や、投資額が大型炉に比べて安価であることなどから、米ニュースケール・パワー社など欧米の企業が開発を急ピッチで進めている。

その中で、ロシア国営原子力企業「ロスアトム」は、SMRの開発で他社を一歩先行している。原子力砕氷船への搭載など、ロシアには既に小型原子炉の開発・運転で豊富な実績があるためだ。

原子力砕氷船で積んだ実績 最新小型原子炉を使用

ロシア(当時はソビエト連邦)は1959年、OK―150型原子炉(電気出力9万kW)3基を搭載した世界初の原子力砕氷船「レーニン」を就航させた。以後、原子力砕氷船は60年以上にわたり北極海航路を航行し、同国にとって、小型原子炉の効果的な商業利用の一例となっている。

原子力砕氷船に搭載する原子炉には継続的に改良が加えられ、現在は最新のRITM―200型(熱出力17・5~19万kW)が使用されている。2020年10月、RITM―200型を2基搭載した最初の原子力砕氷船「アルクティカ」が就航。北極海の砕氷船隊に加わった。

RITM—200型を積んだ原子力砕氷船「アルクティカ」

今後、ロスアトムはアルクティカ級砕氷船の建造、運用を進める。将来は合わせて7隻が砕氷船隊に加わり、より強力な体制となって北極海航路での安全な運航に貢献することになる。

小型原子炉をSMRとして発電用などで陸上に建設、運転する計画も進んでいる。21年8月、極東のサハ共和国のウスチ・ヤンスク地区でのSMR建設に対して、連邦環境・技術・原子力監督庁が建設を許可した。ロスアトムは、この地区に陸上設置タイプのRITM―200N型(電気出力5・5万kW)を建設し、28年までに完成する計画を立てている。

ウスチ・ヤンスク地区の人口は約7000人。北極海に面した極寒の地だ。SMRの建設により、原子力によるCO2排出のないエネルギーで住民に電気と熱を供給し、大気中に有害物質を排出し環境を汚染することもない。この地域への投資を促進し、雇用を生み産業や鉱業を発展させることも期待されている。

サハ共和国では現在、石炭・ディーゼル燃料を利用した火力発電で発電などが行われている。ロスアトムは、サハ共和国でSMRプロジェクトを実施した場合、年間約1万tのCO2排出を削減することができるとしている。

ロスアトムの小型原子炉の活用で欠かせないのが、海上浮揚式原子力発電所(FNPP)だ。ロシアでは、既に小型原子炉を搭載した海上浮揚式発電所が稼働している。19年12月、原子炉KLT―40S型(電気出力3・5万kW)を2基搭載した「アカデミック・ロモノソフ」が、ユーラシア大陸の最北東端に位置するチュクチ自治区の港湾都市、ペヴェクで運転を開始した。ロシア本土の送電網から隔離されたチャウン・ビリビノ系統に送電を行っている。

アカデミック・ロモノソフは、チャウン・ビリビノ系統での電力需要の約2割を賄っている。この地域では長く、ビリビノ原子力発電所が電力・熱供給を行ってきたが今後、経年化で発電所は閉鎖されていく。それに伴い、アカデミック・ロモノソフが、地域での主力電源の役割を担っていくことになる。

SMRは極寒の地に電気、熱を供給する

工事期間を大幅に短縮 ロスアトム製のメリット

ロスアトムはRITM―200型原子炉をベースとしたSMRについて、次のようなメリットを挙げている。

①広い地域での展開 

設計上の特徴から、立地可能な地域を砂漠から北極まで、大きく拡大することができる。

②コンパクト

ほかの発電方式と比べて設置面積が最も小さく、土地資源のより効率的な使用を可能にし、周辺地域の生態系のバランスを保てる。ロスアトムが設計するSMRの設置面積は、同程度の容量を持つ化石燃料、水力、再生可能エネルギーの発電設備と比べて、大幅に小さくなる。

③モジュール化

設計がモジュール化されているため、工場内でプレハブ工法で製造できる。また量産時には高い品質を実現し、製造コストを削減することができる。結果として、資金調達コストが低減でき、顧客のエネルギー需要に応じて容量を増やすこともできる。

④工事期間の短縮

建設期間が、原子力発電産業の競争力を左右する主な要因の一つになっている。モジュール式の設計と、建設・備え付け作業の規模が小さいため、ロスアトムが設計するSMRの建設は、最初のコンクリート打設から試運転まで平均3~4年間で完了する。

⑤操作性

大規模な原子力発電所は主にベースロードで運転するように設計されているが、周波数・電力制御モードで運転ができ、最終利用者にとって効率的、経済的な発電所になる。

⑥安全性

ロスアトムによるSMRは、安全性を最優先に設計されている。RITM―200型の発電所は、最先端の第3世代以上の原子力発電所と同等の安全性を備えている。

各国が将来のカーボンニュートラルを宣言する中、今後、再エネとともに原子力発電に関心が高まることは間違いないだろう。その中で、他企業の一歩先を行くロスアトム製SMRが、世界の各地で電力供給と地球温暖化防止にどう役割を果たしていくのか、大きく注目されそうだ。

大手都市ガスに温度差も 合成メタン開発で団結なるか


O2と水素を反応させてメタンガスを精製するメタネーション(合成メタン)は、都市ガス業界が「2050年カーボンニュートラル実現」への切り札として研究開発を推進している注目技術だ。日本ガス協会では昨年6月に発表した行動計画の中で、「カーボンニュートラルメタンの都市ガス導管への注入1%以上」を30年目標に掲げている。

そうした中、東京、大阪の大手都市ガス2社がそれぞれ開いた社長会見(内田高史・東京ガス社長=11月26日、藤原正隆・大阪ガス社長=11月19日)で、合成メタンに対する両社のスタンスの違いが図らずも浮かび上がった。

まず藤原社長は、技術系出身で大阪ガスケミカル社長を務めた経験もあることから、合成メタン開発には積極姿勢。19日の会見でも「水電解・サバティエ反応方式」と「共電解・革新的SOEC方式」の二種類の技術がある状況を解説しながら、「完成された技術のサバティエ方式を今後さらにスケールアップするとともに、新たな触媒を開発することで効率を上げ、ガス協会の30年1%目標に向けて取り組む」と意欲を示した。

一方、内田社長は26日の会見で合成メタンについてコスト面での課題を指摘しながら、「(30年ごろまでに)合成メタンを持ってきて(導管に)入れるのは不可能とは言わないけれども、かなり難しい。どうしても無理なら、カーボンニュートラルLNGで代替していくことになるのかもしれない」と、慎重な姿勢を見せた。

個社の方針の違いといえばそれまでだが、経産省からは「業界が一致団結しないと、合成メタンの社会実装は困難」との苦言も。将来、合成メタン時代は来るのか。

方向性の違いが浮き彫りに(内田・東京ガス社長㊤と藤原・大阪ガス社長)

気候変動巡る主導権争いが激化 欧米けん制で中国は新たな枠組み模索


分断が鮮明化したCOP26では、気候変動対策を巡る主導権争いも顕在化した。

欧米は来年にかけて中国封じ込めを本格化し、対する中国は新たな枠組みづくりを模索する。

 「分断」「途上国との対立鮮明」。英国グラスゴーで開かれた温暖化防止国際会議のCOP26を巡る報道は、2015年のパリ協定合意後最も厳しい論調に支配された。

目玉だった首脳会議に、世界最大の温暖化ガス排出国、中国の習近平国家主席が欠席し、中ロにインドも加わって先進国に対する批判を繰り広げた。議長国の英国は、石炭火力の段階的廃止や自動車のゼロエミッション化を合意させようとしたが、思惑通りには事が進まず分断のイメージだけが残った。COPは「京都議定書のように空中分解する兆候が見えた」とする見方もあるが、あくまで気候変動対策を誰がどうけん引するか、という主導権争いが顕在化しただけという捉え方が適当だろう。

「先進国はCOP26で種をまいただけだ。勝負どころ、つまり本番は22年の先進国首脳会議(G7)ドイツだ」。ある国際交渉官はCOP26はあくまで序章にすぎないと解説する。インドの猛反発で後退した文言に修正された石炭火力の段階的廃止について、COP26で合意できないと当初から見込み、まずはどうリアクションが起きるかを試したというのだ。

先進国はG7ドイツで石炭火力の段階的廃止、または年限を区切って全廃という方針を合意する方向に舵を切っていく。議長国のドイツは気候変動対策に積極的だったメルケル首相が去り、「信号機連合」と呼ばれる小党連立政権に変わった。当初は路線転換がささやかれたが、連立には緑の党が参加。メルケル政権時代の路線は継承され、G7ドイツで合意形成される可能性が大きくなった。

ドイツG7で打ち上げへ 先進国が狙う石炭火力廃止

青写真はこうだ。G7ドイツで対中国を鮮明にし、先進国が一致した姿を見せるため合意を取り付ける。その流れのままCOP27に突入して踏み込んだ合意に持ち込む。そして23年のCOP28で予定されている35年目標を具体的に決める「グローバルストックテイク」で、先進国主導でよりパリ協定を進化させて1・5℃目標に近づけるという算段だ。

なぜ22年のG7ドイツが勝負どころなのか。それには二つの要素がある。最も大きいのは米国の政治日程で、24年に大統領選挙がある。失業率の上昇とインフレなどがバイデン政権を直撃し、早くも次の大統領選で「トランプがまた台頭してくる」とささやかれている。目玉政策の一つの気候法案も今だ見通しが立たない。「米国が気候変動対策に積極的なうちに決めてしまおう」(前出の国際交渉官)という目論見だ。

もう一つは日本への失望だ。23年夏のG7開催は日本。米国の事情はともかく、COP28のグローバルストックテイクまでに野心的な合意を得ればいいはずだ。しかし「日本は国内対策がつまずいている。資金面でも途上国支援に威勢良く100億ドル拠出するというが、中身があやしい。議長国として野心的な議長提案がなされるとは思われていない」(外交関係者)という。つまりは「日本はアテにできない」というレッテルが貼られてしまっているわけだ。

いずれにせよ、COP26はあくまで前座であって、京都議定書時代の09年COP15の「コペンハーゲンシンドローム」と呼ばれる失敗と同じような道筋はたどらないとの見方が強い。実際にCOP26でも1・5℃目標達成への野心は共通認識として確認された。ある国際機関の幹部は「パリ協定以前は気温が4℃上昇するといわれていたが、21年は2・1℃まで軽減している。この事実がパリ協定の実績になり、推進力につながっている」と強調する。

途上国巻き込む中国の思惑 日本は存在感低下の一途

一方で中国の動きが不穏だ。中国に詳しい専門家は「習政権は中国が気候変動対策でも主導権を握っていると自負している。国連に代わる新たな枠組みを中国が作り出す可能性は否定できない」と指摘。経済的にも強国となり、米国の没落、移民問題で疲弊する欧州を尻目に国際社会のリーダーとして、途上国を巻き込んで新機軸を模索しているというのだ。

豊富な資金力を武器に中国が対欧米戦略を画策する

欧米がけん引する国連中心の枠組みへの反発がCOP26でも随所に見られた。実際、公式な交渉ではのらりくらりを繰り返していたが、世界の企業が集まるパビリオンではビジネス交渉と併せて中国としての戦略会議を開いていたという。何といっても豊富な資金力が魅力だ。先進国が途上国支援にあくせくする中、中国は安くてそん色ない自らの技術を供与して途上国を抱き込んでいる。約束を果たさない先進国への不信感は募る一方、間隙を縫って中国の求心力が高まっているという図式だ。

温暖化ガス削減目標も先進国側が50年を軸にしているのに対し、中国は10年先の60年に設定。「先進国が苦しむ姿を見ながら、中国はそれをテキストにして良いとこ取りをしようという狙いが透ける」(専門家)と分析する。

G7ドイツで中国封じ込めを目論む先進国だが、やり方次第ではパリ協定の実効性が無くなる可能性も秘める。COP26で垣間見せた気候変動対策を巡る主導権争いは来年以降さらに深化していくだろう。

翻って日本。COP26では存在感低下が目立った。フロンガス対策連合など一部で途上国からの注目を集めたものの、「交渉の場ではいるんだかいないんだか分からないぐらい影が薄かった」(米国関係者)。菅義偉前政権時代に急進的にやり過ぎた反動が国内で起き、表裏一体であるエネルギー対策の立て直しの最中なのは仕方がない。しかし、存在感がなく、巨額の資金援助もいぶかしがられ、失望を買っている状況は打開しないといけない。

かつて日本は湾岸戦争時、総額130億ドルもの巨額支援をしたが、侵攻されたクウェートはおろか国際社会からもこの支援を認識されなかったことがあった。気候変動対策でも再び同じ道を歩むのか。岸田文雄政権は日本が国際社会でアピールできる術を急いで示すべきだ。

効果不明の石油高騰対策 減税議論の封印が狙い


ガソリン価格が一時7年振りの高値となり、政府は石油元売りなどへの補助金と、国家備蓄放出という異例の措置を決めた。負担軽減策として揮発油税などを減税する「トリガー条項」があるが、東日本大震災の復興財源確保のため凍結されている。日本維新の会と国民民主党は共同で同条項の凍結解除に向けた法案を提出しており、「これが参院選でイシューになると困る官邸が、財務省の意向も踏まえ税の議論を封じようと手を打った格好」(政府関係者)だが、評判は芳しくない。

異例の国家備蓄放出などの対策効果は……(写真は苫小牧東部国家石油備蓄基地、提供:朝日新聞社)

2021年12月~22年3月まで、資源エネルギー庁が公表するレギュラーガソリン小売価格(全国平均)が1ℓ当たり170円以上となった場合、元売りなど29社に対し5円を上限に支給。激変緩和措置のため、いったん発動後は4週間ごとに基準価格を1円ずつ引き上げる。ガソリン、軽油、灯油、重油の4油種が対象だ。

ただ、橘川武郎・国際大学副学長は「元売りの上期決算が好調なところへの補助金で、しかも末端価格に反映されるのか見通せず、筋悪だ。逆に170円まではOKだと線を引いたように見える」とし、消費者にとっても元売りにとっても減税の方が歓迎されたと指摘する。

米中などと足並みをそろえた価格抑制のための国家備蓄放出については、「他国では経済的な理由での放出はたびたびある。日本は安定供給上の理由で制度が窮屈だが、今回うまくいけば良い経験にはなる。ただ、国備放出は簡単ではない。東日本大震災時、石油はLPガスと異なり技術的な問題などから放出できず、現在もすぐ対応できそうな基地は限られる」(橘川氏)といった事情もある。

【コラム/1月5日】長期エネルギー需給見通しと電源開発


矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

昨年の10月22日に、第6次エネルギー基本計画が閣議決定された。また、これを定量的に肉付けするために、長期エネルギー需給見通しも同時に発表されている。第6次エネルギー基本計画では、1昨年10月に表明された「2050年カーボンニュートラル」や昨年4月に表明された新たな温室効果ガス排出削減目標の実現に向けた政策の道筋を示すことが一つの重要なテーマであった。これを踏まえた新しい長期エネルギー需給見通しでは、2030年度の電源構成として、再生可能エネルギー発電の割合を前回見通しよりも10ポイント以上引き上げ、36~38%程度とし、原子力発電については、前回見通し同様の20~22%程度とするとともに、火力発電は15ポイント引き下げ、41%程度(うちLNG20%程度、石炭19%程度、石油等2%程度)とした。

長期エネルギー需給見通しは、1977年以降しばしば発表されてきた。見通しは文字通り解釈すれば単なる予測でしかないが、実際は、将来のあるべき需給の姿を描いている。だからこそ、関係者の利害を反映して、その改定時には常に侃侃諤諤の議論がなされるのである。しかし、根本的な疑問は、これらの数値目標を自由化市場でどのようにして実現していくのかという点である。長期エネルギー需給見通しは、もともと電気事業が独占であった時代に策定されていたものである。独占時代には、総括原価主義が適用されていたから、確実に投資コストの回収が可能であった。そのため、長期エネルギー需給見通しで示された電源構成は、電気事業者が遵守すべき目標と位置づけてもその実現は(理論的には)可能だし、むしろ、それは官民共同で作成されていたといってよいだろう。しかし、自由化市場では、規制当局が電気事業者に電源(ミックス)の開発目標をアプリオリに決定し、明示的にまたは暗黙にその遵守を求めるべきではないだろう。自由化時代では、エネルギー市場での競争力の源泉は、なによりも発電であり、電気事業者による電源選択については、基本的にその経営判断(競争戦略)を尊重すべきである。例えば、電源の脱炭素化のために、原子力発電、再生可能エネルギー発電、合成燃料を用いたガス火力発電、CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)付きの石炭火力発電等のいずれをどの程度使うか、またどのような電源ミックスが競争上優位と考えるかは各社の経営戦略に依存する。また、自由化時代では、特定の電源(ミックス)を選好する需要家に対しては、そのような電源を提供する電気事業者の選択を認めるべきだろう。

競争的要素を取り入れつつ、あるべき電源構成を計画通りに実現するとしたら、需要家の電源に関しての選好を認めないことが必要となる。すなわち、規制当局が電源構成のシェアを予め決めておき、送電事業者に各電源の必要容量を競争入札で調達することを義務づけ、すべての小売事業者は同一の電源ミックスからなる電力を送電事業者から購入することを義務づけることが必要である。この場合には、調達してくる卸電力コストには差がないことから、小売事業者は、他サービスとのバンドリング、省エネ、家電機器の販売など、電力の付加価値の部分で競う合うことになるだろう。これは、計画的な電源開発と市場自由化の一つの妥協策として、欧州での電力自由化議論が始まった当初、フランスが提案したシングルバイヤーシステムの考え方である。しかし、自由化市場では、電力本体に関しての選択肢を認めることは当然なことである。グリーン電力100%の電力がほしいとか、最も安い電源の組み合わせの電力がほしいと考えている様々な需要家のニーズを踏まえて、電気事業者は電力を供給すべきであり、シングルバイヤーシステムが一般に受け入れられるとは思えない。

それでは、市場の自由化と矛盾しない形で、カーボンニュートラルを達成するためにはどうしたらよいであろうか。そのためには、環境への外部効果を内部化した炭素税や排出量取引を導入するのが基本的に正しい考え方である。これら制度の下で、経営の自由な創意工夫により、電源の脱炭素化が図られるべきだろう。とくに、将来的には、デジタル化の進展とともに、発電と小売を組み合わせた様々な革新的なプロダクトやサービスが創出されることになるだろうが、競争こそがそれを促進することになるだろう。シングルバイヤーシステムの考え方では、現在の技術を前提として、入札という一回きりの競争で、将来的に開発する技術を既存のものにロックインしてしまい、現段階では出現していないイノベーションを排除してしまう可能性がある。

ただし、シングルバイヤーシステムの基本的な要素である長期契約は、ある種の電源に適用される場合もあることは付言しておく。その典型的な例は、原子力発電であり、英国ではシングルバイヤーシステムと類似の制度として、差額決済取引型固定価格買取制度(Contract for Difference Feed- in Tariff: CfD FIT)が原子力発電に適用されている。しかし、このような長期契約に基づき投資コストの回収を制度的に認める電源は、エネルギーセキュリティやカーボンニュートラルの観点から必要不可欠と理論的根拠をもって判断され、パブリックアクセプタンスが得られるものに限定されるべきであろう。

【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授などを歴任。東北電力経営アドバイザー。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。

再エネ普及の一翼を担う 給湯器の遠隔制御システムを開発


【四国総合研究所】

LPWAで電気給湯器を制御し、需要負荷を調整する「放送型通信制御システム」。

昼間の太陽光発電量に合わせ負荷を平準化し、再エネ電源を有効活用できる技術が登場した。

 2030年度の温室効果ガス46%削減目標や、50年のカーボンニュートラル実現に向けて、今後ますます再生可能エネルギーの導入が加速する。だが、太陽光や風力など、再エネによる発電量は天候などさまざまな条件によって変動する。20年と21年の5月には西日本で日照量が増え、太陽光発電量が大幅に増えたが、蓄電できない電力のため余剰電力となってしまった。

電力会社では火力など複数の発電方法を組み合わせ、エネルギーマネジメントを行い需給バランスを取っている。このような発電設備の出力調整に加え、需要負荷を制御することも再エネ普及の大きな前進につながる。

四国総研は、電気温水器やエコキュートなどの電気給湯器を遠隔制御し、太陽光発電量カーブに合わせた沸き上げを行う「放送型通信を用いた『電気給湯器・遠隔制御システム』」を開発した。需要家側の給湯器が自律制御して、電力使用全体の需要負荷を調整する。

放送型通信による遠隔制御

電気給湯器を遠隔制御 需給の調整力として利用

家庭用の電気給湯器は、電気料金の安い夜間の時間帯に翌日分の湯を沸かし貯湯するしくみだ。夜間時間帯前の貯湯タンク残湯量から、沸き上げに必要な時間を計算し、夜間時間帯の明け方側に湯沸かしを行う。電力需要が少ない夜間の時間帯の負荷を構築し、負荷平準化にも貢献してきた。だが機器の普及が進むにつれ夜間の電力需要が増え、負荷平準化につながりにくくなっている。

四国総研は、湯切れを起こさず、湯沸かしでの電気料金が変わらなければ、電気給湯器を需要負荷の調整力として利用できると考えた。太陽光発電量の多い日は昼間に電気給湯器の沸き上げを行うよう制御して、新たな昼間負荷を構築し、電気給湯器を価値ある調整力として活用することができる。

電気給湯器の湯沸かし制御

開発したシステムは、低消費電力で長距離の無線通信ができるLPWA(920MHz・LoRa)を使って、中継局から制御情報を一方向で送信。受信エリア内の需要家機器が制御情報によって自律制御するしくみだ。

制御指令は前日の午後11時までに送信する。機器側がシフト制御情報を受信し、自器が制御対象だと識別すると、夜間時間帯の湯沸かしを中止する。必要沸き上げ時間を計算してアルゴリズムによって作り出された疑似乱数を用い、沸き上げ開始時刻を決定。翌日昼間の時間帯にシフトして湯沸かしを行う。

この仕組みにより、制御対象の集合体は、太陽光発電カーブに沿った負荷を構築する。太陽光発電の余剰分を無駄にすることなく有効利用できるのだ。

前日の太陽光発電の状況から、昼間シフトを行わない場合の夜間沸き上げにも疑似乱数の制御を導入して、明け方の沸き上げ負荷の軽減も図る。

各家庭の給湯利用に影響がないよう、残湯量検知による湯切れ防止制御なども考慮した設計になっている。

シフト制御の効果

安価を実現するLPWA 基板交換で既存品にも対応

軒)の需要家を対象に実施した。制御情報を送信する中継局から30㎞以上離れた地点や、建物内などの閉所に設置した電気給湯器、中継局からの制御情報を直接受信できない住宅でも、近隣の受信制御装置(リモート制御アダプター)を経由して、受信制御情報を再送信して確実に受信。機器を適正に制御し、太陽光発電カーブに沿った負荷構築ができることを確認した。スマートメーターの検針値で動作の事後確認もできる。

LPWAの活用で、エリア内に点在する多くの給湯機器を効率よく遠隔制御でき、安価で広いエリアのカバーが実現した。大量の機器制御に適した一方向の放送型通信を用いることで、VPP(仮想発電所)のような1対1の双方向通信を必要とせず、既存設備が利用できる。容易に上げDR(デマンドレスポンス)構築が可能な装置になった。

20年10月、四変テック社はこの制御プログラムを導入した電気温水器の販売を開始。既存製品は基板の交換で対応可能になる。03年以降製造の同社の電気温水器や、ECHONET Lite対応のエコキュートが対象だ。

電力技術部の吉田正志電力利用グループ長は「電気給湯器が需給運用対策や再エネの抑制回避、普及拡大への貢献機器となり、再エネ電源を多く持つ地域でこのシステムを活用してもらいたい」と意気込む。

再エネが主力電源となり、無駄なく安定的に利用できる電源になる大きな一歩になりそうだ。

全電化社会を目指すCE戦略 肝心要の「原子力」はどこへ?


岸田文雄首相が2021年10月8日の国会所信表明で打ち出した「クリーンエネルギー(CE戦略)」の議論がいよいよ始まった。経済産業省は12月16日、クリーンエネルギー戦略検討合同会合(座長=白石隆・熊本県立大学理事長)の初会合を開いた。

「クリーンエネルギーを中心とした社会システム全体での大きな構造転換に向け、現実的かつ段階的な移行・転換の道筋が求められている。昨年末のグリーン成長戦略、今年秋のエネルギー基本計画を踏まえ、供給サイドに加え、需要サイドでのエネルギー転換を意識した議論をお願いしたい」

保坂伸・資源エネルギー庁長官の冒頭あいさつが物語るように、議論のテーマは多岐にわたる。事務局が提示した検討用資料も計115頁に上る膨大な量だ。経産省の意気込みが伝わってくるが、具体的には一体何を議論するのか。

CE戦略合同会合であいさつする保坂・エネ庁長官(12月16日)

①エネルギーを起点とした産業のGX=再生可能エネルギー、水素、アンモニア、原子力、蓄電池などの分野ごとに、投資を後押しするためのビジネス環境整備の方策、②GX時代の需要サイドのエネルギー構造転換=製造プロセスで化石燃料・原料を用いる産業部門や民生、運輸部門について、海外事例なども踏まえ、具体的なエネルギー転換の処方箋、③GX時代に必要となる社会システム、インフラ導入=化石から非化石へのエネルギー転換などに必要となる新たな社会システム、インフラの導入への対応策―。

配布資料からは、これといったイメージが浮かんでこない。実は合同会合が目指す方向性については、岸田首相が12月6日の臨時国会の所信表明で分かりやすい言葉で表現している。それが、「目標実現には社会のあらゆる分野を電化させることが必要」。つまりCE戦略のポイントは「オール電化社会の実現」にあるのだ。

抜け落ちた「原子力」 注釈にこっそりと……

そう考えると、大量の資料も筋道立てたものに見えてくる。残念なのは、電化社会を支える供給力確保の抜本対策、すなわち「原子力をどうするのか」という論点が抜け落ちていることだ。

事務局が秋口に作成した当初の「アジェンダ案」には、安定供給確保の処方箋として「原子力は既存設備の徹底活用の方策(長期運転、再稼働の徹底推進)」が盛り込まれていた。しかし政府関係者によれば、衆院選を経て夏の参院選も控える中「原子力を前面に打ち出すのは時期尚早。CE戦略は需要サイドを中心に議論する」方向に。その後の事前資料では「脱炭素化に伴うコスト増への対応」の注釈として、「この議論の中で原子力を使わざるを得ないことを議論か」と書くにとどまった。

「こそこそやるから逆に怪しまれる。CE戦略では原子力の必要性を明示し、国民的議論を巻き起こしてほしいのだが…」。大手エネルギー会社の幹部は、ため息交じりにこう話す。あらゆる分野の電化に伴って、停電リスクが増大したら元も子もない。今こそ、政府としてのメッセージを堂々と国民に発信することが求められる。