【リレーコラム】加藤丈佳/名古屋大学未来材料・システム研究所教授
小生は、毎年年末に実家で餅つきをする。朝6時から竈の火を起こし、二升のもち米を蒸し、石臼で10枚位をつく、家族総出で一日がかりの行事である。火の番は小学校高学年の頃から息子の担当であり、今や薪の燃やし方(燃料の扱い方)は小生よりも上手い。薪は、祖父が生前にどこからか調達した廃材などをこつこつと割って備蓄したものであり、ごみ焼却所行であったはずの廃材を、餅つきの燃料と言う付加価値をつけて、使えているのではないかと考えている。
今は新たな薪の調達はないが、備蓄量はあと10年分位ある。これだけあれば、大災害が発生して電気やガスの供給が途絶えても、一週間は湯を沸かしたり、暖をとったりできそうである。発電用にスターリングエンジン発電機を購入しようかと考えなくもない。
もっとも、都市部において薪の備蓄がある住宅はほとんどなく、災害時のエネルギー供給源として思い浮かぶのは太陽光発電(PV)である。卒FITのPVも出始めており、自家消費率を上げるために電気自動車や定置用蓄電池を導入する場合も増えるであろう。さらにカーボンニュートラルが実現する状況であれば、各住宅の屋根にPVが設置され、自立分散的に災害時の電力供給源を確保できるかもしれない。
どのような導入が望ましいか
山間部の集落であれば、災害時に燃料となる木材を確保できそうだが、ここでも災害時のエネルギー供給源の主役はPVかもしれない。環境省の再生可能エネルギーに関するゾーニング基礎情報によれば、耕作放棄地のPV導入ポテンシャル(レベル3)は8000万kWに達する。環境共創イニシアチブの「地域の系統線を活用したエネルギー面的利用事業」では、こうしたPVなどを活用し、災害等による大規模停電時に電力供給を継続できる地域マイクログリッドの構築が検討されている。先日、同事業に参画する山間の自治体に行き、民家に隣接する耕作放棄地にPVが点在する光景を見てきた。同様の光景はあちこちで見かけるが、まだ違和感がある。他の自治体で、緩やかな北斜面に逆バンクをつけて設置した設備を見たこともある。
カーボンニュートラルを実現するために3億kWものPV導入が必要との試算もある。しかし、無理な導入が増えると、導入適地の理解が得られなくなり、目標達成が難しくなるのではないか。3億kWの導入時にはどのような光景が広がっているのかについてしっかりとしたイメージを持ち、望ましい導入のあり方を議論することが重要であろう。

次回はENEOS中央研究所の古関恵一さんです。