【コラム/4月5日】実はゼロエミ電源が有り余っている日本 強引な再エネ大量導入は有害無益


杉山大志/キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

一部の海外IT企業が、自身がゼロエミッション(脱炭素)宣言をするのみならず、サプライチェーンにもゼロエミを義務付けるという動きがある。これを受けて、「日本の製造業が海外IT企業などのサプライチェーンに生き残るためには、日本はゼロエミ電源の比率を上げなければいけない」という議論がある。

もちろん、原子力の再稼働によってゼロエミ電源比率を上げるならば、安価かつゼロエミの電力供給になるから、何も問題はない。だが、再生可能エネルギーの一層の大量導入によってゼロエミ電源比率を上げるというならば、コストの問題が生じる。コストがかさんでしまっては、CO2うんぬん以前にサプライチェーンに生き残れない。

前回は、国として再エネの大量導入をするのではなく、事業者の冷静な対応として競合相手や海外IT企業自体の振る舞いを見て、必要ならば国際的に再エネ証書を調達するなどの方法があると書いた。今回は、じつは日本のゼロエミ電源はあり余っていることを示そう。

海外企業がサプライチェーンに対してゼロエミを義務付けるといっても、全ての企業がそうする訳ではなく、世界全体での割合で言えば、ごく限定的になるだろう。ここでは仮に「米国とEUの全ての企業が輸入品に対してゼロエミ電源100%を義務付ける」と想定した上で、日本の輸出のために必要なゼロエミ電源の量を勘定してみよう。

日本の対世界の輸出総額は2019年において7060億ドルだった。このうち、対EU輸出総額は820億ドルで、対米輸出総額は1400億ドルだった。従って対EUと対米を足すと2220億ドルであった。これは輸出総額の31%にあたる。(以上データは日本貿易振興機構・ジェトロ)これに対して日本のGDPは5兆1540億ドル(ジェトロ)だったから、米国とEUへの輸出合計金額はGDPとの比率では4.3%に過ぎない。

ここでGDPを1円生み出すための電力消費と、1円の輸出をするための電力消費を等しいと措くと、日本の電源の4.3%だけゼロエミになっていれば、それを使うことで米国とEUへの輸出製品は全てゼロエミ電源で賄えることになる。具体的な業務手続きとしては、輸出する製品について投入電力量を計算し、実際にそれだけのゼロエミ電力を買えばよい。もしそれで足りなければ、それに見合うだけのゼロエミ電力の証書である「非化石証書」を買えばよい。

日本のゼロエミッション電源比率は18年度で23%であった(図1)。これは30年度には44%になる予定だから、これならばゼロエミ電源は全ての輸出を賄ってなお「有り余っている」。

図1 日本の電源構成

もしも強引に再エネを大量導入して電気料金が高騰すれば、日本の製造業は壊滅するだろう。そうではなく、原子力の再稼働を進める一方で、輸出するために必要な企業は非化石証書を買い求めやすくするような制度設計をしていけばよい。

輸出する企業だけがゼロエミ電力を購入したり非化石証書を買ったりするというのは、いかにもいびつに感じるかもしれない。けれども、どこの国も似たようなことをやることになると見る。例えば米国の電源構成を見ると、日本同様に化石燃料が半分以上を占めている(図2)。このためすべての企業がゼロエミ電源に切り替えることは不可能で、一部の企業しかゼロエミ電源にはできない。

図2 米国の電源構成

またしばしば、日本と欧州諸国を比較して、こんな意見も聞く。「フランスは原子力発電が多いから火力発電の多い日本よりCO2原単位が低くて、今後の自動車生産は日本ではなくフランスでやることになるのではないか」「スウェーデンの水力を使ってCO2ゼロのバッテリーを造ると、日本の電源構成では太刀打ちできない」――。

けれども、EU全体として見てみれば、日本と大して電源構成は変わらない(図3)。ということは、EU企業が出来ることと日本企業が出来ることはさほど変わらないはずだ。つまりEUの企業がフランスの原子力の電気を買ったり、スウェーデンの水力の電気を買ったりしているのと同じことを、日本もやればよい。例えば日本にバッテリー工場を建てるとき、ゼロエミにしたければ水力の電気を買えばよいことだ。あるいは、日本の自動車工場も原子力ないしは太陽光によるゼロエミ電力を買えばよい。

日本にゼロエミ電源は有り余っている。「日本製造業がサプライチェーンに生き残るための再エネ大量導入」なる考えは、百害あって一利なしである。

図3 EUの電源構成

【プロフィール】1991年東京大学理学部卒。93年同大学院工学研究科物理工学修了後、電力中央研究所入所。電中研上席研究員などを経て、2017年キヤノングローバル戦略研究所入所。19年から現職。慶應義塾大学大学院特任教授も務める。

欧米で進むレジリエンス対応の事業化 日本で成功するための鍵を探る


【アクセンチュア】村林正堂/アクセンチュア シニア・マネジャー ビジネスコンサルティング本部

むらばやし・まさたか 2010年入社。電力ガス事業者向けの中長期経営計画の策定や新規事業の立案、
デジタルトランスフォーメーション戦略立案や業務・組織将来像構想などが専門。

前回は洋上風力では浮体式の普及が必須であり、そのポテンシャルを生かすべきだと提言した。3回目は、電力のレジリエンスに焦点を当て、送配電事業の災害復旧とさらなる事業の向上余地を示したい。

ここ数年、大地震や大型化した台風が日本列島に襲来し、全国各地に被害の大きな爪痕を残し、ライフラインを寸断することが頻発した。この激甚化する災害への対応に、国でも議論する機会が増えている。一方、世界に目を向けると、国家主導によるレジリエンス(強靭化)への対応だけでなく、レジリエンスをチャンスとして捉え、マネタイズしようとする動きも出てきている。今回はそうした電力レジリエンスと新規事業の可能性を考察したい。

レジリエンスを新規事業化するには、①他事業の能力を転用すること、②レジリエンスそのものを付加価値とした事業創出の大きく二つの方向性が考えられる。

①は他事業で需要家や社会のニーズを満たすサービスを提供する中で培ったオペレーションや有形・無形資産、パートナーなどを利用して、レジリエンス機能を高めていくのがコンセプトとなる。

②は停電を防ぐためであれば一定以上の金額を支払う意思を持っている需要家に対して、停電時間を最小化したり、停電発生しないようにするサービスを提案するものだ。

①では、自由化以降、電力会社も地域の見守りサービスなど、電力事業と直接関連しない新規事業も立ち上げ始めている。実際に、いくつかの新規事業では実証実験を終え、本格展開に臨むケースも見え始めており、その多くは、社会課題の解決に焦点を当てたものが多い。地域に根差した電力会社らしい事業展開となっている。

電力会社のノウハウを応用 事業化と同時に災害を低減

今後のマネタイズ方法や事業成長方法はさまざまな展開が考えられると思うが、こうした社会課題解決型事業を展開していく中でも、レジリエンス機能は磨かれていく部分は多い。ここでは、数ある社会課題の中でも「設備の老朽化」を解くサービスについて、「具体的な提供価値」、「電力会社ならではの能力」、「レジリエンスへの貢献」という視点で考察する。 「設備の老朽化」に関する「具体的な提供価値」は、例えば、台風が襲来すると、トタン屋根が吹き飛ぶ、住宅の浸水が発生するなど、住宅地や産業設備に多くの影響が発生する。その原因の一つに、設備修繕の未着手がある。高度経済成長時代につくられた設備をはじめ、異常のある建造物を早期に見つけ、適切なメンテナンスを提供することで、災害時の影響を最小化できる。

「電力会社ならではの能力」である設備の保守運用能力がここに生かせる。電気工事店・工務店などのネットワークを活用したり、自社の巡視・点検業務や子会社の施工力を活用し、直接的に手掛けられる可能性もある。

「レジリエンスへの貢献」では、一昨年の台風18号、19号による停電発生は飛来物や倒木が原因の被害が多かった。地域の住宅や事業所、樹木のメンテナンスを手掛けることで、台風の被害を減少させることができるだろう。

次に、そもそもレジリエンスで稼げるのだろうか―という②について考えたい。2013年の電力系統利用協議会(ESCJ)が実施した調査では、事前に停電連絡があったケースでは、停電コストは3050〜5890円kW時になるとの結果が出ている。東日本大震災から間もない中での表明選考形式での推計になるため若干のバイアスは考えられるが、19年のOCCTO(電力広域的運営推進機関)による停電コストに関する文献調査で、海外でも同規模の金額感で停電コストが報告されていることを考えると、通常を超えるレジリエンスサービスに対して一定の付加価値を感じる需要家群がいてもおかしくはない。

レジリエンスの事業性 有線給電などが有力

例えば、病院やデータセンターなど、電力需給がクリティカルな事業を営む需要家に対しては、自家発を設置せずに災害時に優先給電サービスが考えられる。具体的には、当該施設付近に蓄電池を設置して、複数施設向けとしてシェアリングし、通常時はVPP(仮想発電所)を使った調整力取引で稼ぎつつ、災害時にはためた電気を優先給電することで、自家発の設置コスト分を最大額としてマネタイズするといったものだ。

また、電力復旧に時間がかかりがちな離島や過疎地域向けにも同様のニーズが考えられる。海外でも取り組みが進んでおり、例えば、独E・ONや英SSENではレジリエンス・アズ・ア・サービスと銘打ち、分散型電源やスマートグリッドマネジメント機能を取りまとめ、停電時の過疎地の停電復旧速度を上げるための実証実験を開始し、その実現性と収益性の検証を始めている。

新型コロナウイルスを契機とした住宅での在宅勤務の常態化の継続や、台風・地震発生時における避難所生活での三密回避の難しさなど、安定した電力需要の重要性が生活の中に増している。これらへの対応に早期復旧に関わるサービスの裾野は広がる可能性がある。制度的な難しさはあるものの、国内での事業展開においても参考になる部分は多いものと認識している。

また、新たな事業展開するにあたっては、「マーケット動向を睨んだ事業参入」、「スピーディーな事業修正・撤退」、「テクノロジーと事業開発双方理解した人材の獲得・育成」、「自社の付加価値も踏まえた外部パートナリング」といった規制事業の推進とは異なる組織的な能力構築も求められる。

東電トップは会見開かず 処理水が象徴する復興の難しさ


東日本大震災、そして福島第一原子力発電所の事故から、3月11日で10年を迎えた。原発事故の影響が少なかった被災地では、課題を抱えながらも新たな街づくりが進むなど、前進した面も見られる。一方、原発事故からの復興に関する歩みは遅く、それを象徴するのがALPS(多核種除去設備)処理水の処分方針を巡る問題だ。現実的な選択肢である海洋放出には漁業関係者らの強い反対に加え、外交問題も絡むことから、7年以上検討を続けてもなお政府は方針を示せないでいる。

処理水を巡り「風評被害」が懸念される状況は事故直後と変わりない

菅義偉首相は、6日に福島県を視察した際に処理水問題について問われると、「いつまでも決定をせずに先送りはすべきでない」と強調しながらも、「適切な時期に政府が責任を持って処分方針を決定していきたい」と述べるにとどめた。ずるずると先送りしている間に、支持率低下で政治判断を一層やりづらい状況になっている。

東京電力の姿勢も問われる。2017年に就任直後の川村隆会長が海洋放出の方針を口にしてバッシングされて以降、表立った動きを見せていない。

さらに11日には報道向けに小早川智明社長が「『福島の復興と廃炉の両立』に全力で取り組み、福島への責任を全うしていく」といったコメントを示したが、事故から10年の節目にもかかわらず記者会見を開かず、取材にも応じなかったことが批判された。

事故直後から県民を苦しめる風評被害はいまだに存在する。「品質が保証されても福島沖で揚げた魚は売れず、県民でも福島沖以外の魚を選ぶなど、地元では生々しい問題」(一般紙記者)。処理水問題の膠着は、原発事故からの復興の難しさを物語っている。

CO2削減目標を大幅引き上げか 気候対策を巡る菅政権の「内憂外患」


2050年の脱炭素化にかじを切った日本だが、30年の温暖化ガス削減目標を巡り米国から激しい圧力がかかる。

4月の訪米を政権浮揚の起爆剤にしたい菅義偉政権は「内憂外患」の様相を見せている。

米バイデン政権の誕生により、気候変動対策が主要国の最重要課題に浮上している。米国とはいやが応にも仲良くしなければならない日本にも、その波が押し寄せる。2030年の国別の温暖化ガス削減目標(NDC)を巡り、米国は日本政府に現在の倍近い削減目標を設定するよう、圧力を掛けてきた。日本政府は慌てふためいている一方で、内閣支持率の低下で苦しい政権運営を続ける菅義偉首相のスタッフの中には好機と捉える向きもある。既に政府部内では「13年比45%削減」という目標で、米国の要求に応える準備を始めている。その過程で政権内のあつれきが顕著になってきた。

「ケリーは本気だ。1・5℃目標に整合するよう、少なくとも50%の削減を求めている」。バイデン政権で気候変動特使に就任したジョン・ケリー元国務長官は、政権が始動した1月からターゲットとしている国々に対し、50%削減のための直接交渉を行っている。日本に関しては小泉進次郎環境相のほか、首相官邸や在外公館などさまざまな機関に強い圧力をかけており、米国主導で気候変動対策を推進する構えだ。

米国の事情に詳しい人物は「ケリーが日本に強い圧力をかけるのは、日本に対してベンチマークになる役割を期待しているからだ。日本の削減量を積み増すことで、二大排出国の中国、インドを揺さぶりたい狙いがある」と分析する。タフネゴシエーターとの異名もあるケリーは、独自に分析した各国の最大削減量を示して「これぐらい削減できるはずだ」と迫る。のらりくらりとかわすことを許さない徹底ぶりだ。

ケリーの交渉を下支えする組織もある。研究者が集って欧州で気候変動の研究プロジェクトを運営する「クライメート・アクション・トラッカー」だ。ここが先ごろ出した報告によると、日本は「30年に60%以上削減できる」と結論付けた。ケリーもこうした分析データを基に科学的事実で攻めてくるからたまらない。

米圧力で45%減目標が浮上 菅政権の求心力低下も影響

日本は当初、NDCの引き上げを甘く見ていた。昨年秋ごろの経産省の認識は「仮にバイデン政権になっても現状(26%)の4%を上乗せするぐらい」といった感じだったが、事態は時を追うごとに厳しさを増している。ケリーが圧力をかけ始めた1月ごろから目標値は35%に上がり、2月には「40~50%」の範囲に、3月にはついに「45%減で調整に入った」(政府関係者)という変わりようだ。

日米の思惑が絡み合いNDC引き上げが避けられない状況に

45%減という目標はどういうメカニズムなのか。政府関係者が解説する。「再エネの促進や石炭の削減、需要側の脱炭素がベースにあるが、大きなことは従来の考え方から転換することで実現できる」。従来、経済成長と排出量は並行して上がっていく計算だったが、ここ数年のトレンドでは経済成長しても排出は減っている。これを30年の排出量に当てはめると「7~8%積み上げできる」(政府関係者)というから驚きだ。

削減目標を設定する時期もどんどん前倒しされている。9月の国連総会前というのが常識化していたが、6月に英国コーンウォールで開催するG7サミットになり、ついには4月初旬の菅首相の訪米に合わせるようになった。政府関係者は「米国のプレッシャーに耐えられなくなった」と解説する。

急変した理由は圧力だけではなく、菅政権の苦しい事情も要因となっている。支持率浮揚策に使えるというのだ。4月初旬の訪米も米国側はそれほど乗り気でないのに官邸が早々に日程を公表した。困ったときの外交頼みで、その際には必ず削減目標について話し合う。本格的な外交デビューを飾るためにも米国側にお土産を渡したいのだ。しかも米国との交渉がうまくいけば政権浮揚にもなるというのが官邸側の皮算用だ。

菅首相は新型コロナウイルス対策や東京五輪問題には興味がなく、さらには総務省やNTTの接待問題で「目がうつろで生気がない」(官邸関係者)。政権浮揚につながる話として、気候変動対策だけが頼みの綱だとも指摘される。そんな中で、政権内のきしみが悪化する出来事が3月上旬に勃発した。

官邸の気候相構想に経産省反発 米国対策の評価も不透明

気候変動担当相―。小泉環境相が突如兼務することになった閣僚ポストだ。しかしこの担当相、実際は環境相と何ら変わりない単なるお飾りなのだ。情報筋によると、担当相構想と、内閣官房に「気候変動推進室」、官邸に有識者による推進会議を設置するという3本柱は、1月に菅首相の政務秘書官となった財務省出身の寺岡光博氏が主導。関係する各省には直前まで秘せられていた。

当初の構想は、担当相がNDC、カーボンプライシング、石炭火力問題を一手に担い、実動部隊として推進室の官僚を動かし、科学的な事実を基にした考え方を有識者会議でまとめるものだった。しかし発表直前に経産省に漏れ伝わると、梶山弘志経産相はじめ経産省は反発。幹部を中心に猛烈な巻き返しが始まった。小泉環境相が会見でいくら「特命担当」と繰り返しても、単なる肩書の追加にすぎず、推進室も当初より減員して発足、有識者会議の人選も難航した。

ある政府関係者は言う。「ケリーのカウンターパートだと勘違いしている小泉氏が菅総理に入れ知恵した。支持率低下を食い止めたい菅総理、実権を経産省から奪いたい財務省、目立ちたい小泉氏、それぞれの思惑が一致し、官邸の当初の構想につながった」

NDCの大幅引き上げにより、外交的な成果をひっさげ支持率浮揚につなげたい官邸だが、果たして狙い通りにいくのか。米国事情に詳しい研究者は「米国は45%減で納得しないだろう。むしろ50%に到達しないことにがっかりするかもしれない。訪米で血祭り状態になり、『リーダーシップを発揮できない菅首相』のレッテルだけが残る可能性はある」と手厳しい。脱炭素政策が国内外の脱菅政権につながることさえ否定できなくなってきた。

「熱利用」脱炭素化の切り札 CNL普及拡大へ新組織


東京ガスなど国内企業15社はこのほど、CO2クレジットによる相殺で温暖化ガスの排出量が「実質ゼロ」と見なされる「カーボンニュートラルLNG(CNL)」の普及拡大を目指すための新組織「カーボンニュートラルLNGバイヤーズアライアンス」を設立した。

CNLの普及拡大へ供給・需要双方の事業者がタッグを組んだ(3月9日)

東ガスのほか、アサヒグループホールディングス、いすゞ自動車、オリンパス、東芝、三井住友信託銀行、三菱地所、ルミネなど、CNLを購入する幅広い業種の企業・法人が設立メンバーとして参加。供給事業者と需要家が連携してCNLの認知、市場形成を目的としたプロモーションを展開することで、その価値を広く社会に訴求していくのが目的だ。

投資評価の向上狙う 他エリアを巻き込めるか

さらには、ESG投資評価の向上、環境関連諸制度におけるCO2削減手段としての位置付けの確立に向けた取り組みを進め、LNG利用と脱炭素化の両立を図りながら参加各社の企業価値向上につなげる狙いもある。

昨年10月、菅義偉首相が打ち出した「実質ゼロ宣言」により、日本は脱炭素経済への移行に大きくかじを切った。強靭性(レジリエンス)を備えた持続可能なカーボンニュートラル社会を実現するため、エネルギー分野では熱利用の脱炭素化をいかに進めるかが大きな課題だ。

3月9日の記者会見で東ガスの野畑邦夫副社長は、「水素、メタネーション、CCU(CO2回収・利用)の社会実装に向けイノベーションを進めているが、実現には一定の時間を要する。まずは、足元で最もフィジブル(実現可能)な手段であるCNLの普及拡大を推進していきたい」と、アライアンスの活動の意義を強調した。

一方、需要側にとっても、自社で消費するエネルギーの脱炭素化に向けて供給側と一体となった取り組みが欠かせない。

天然ガスを燃料とする車両の製造・販売を手掛けるいすゞ自動車の池本哲也取締役常務執行役員は、「4月の導入に合わせ、藤沢工場(神奈川県藤沢市)に設けている充填所で、供給するガスの全量をCNLとするほか、栃木工場(栃木県栃木市)の一部でも使う」と表明した上で、「2050年カーボンニュートラルを目指す上で、さまざまな分野の事業者との協業は欠くことができない」と述べ、今回のアライアンスもその一環だとの認識を示した。

また、東芝の上條勉執行役常務は、「まずは4月に府中(東京都府中市)と川崎(川崎市)の事業所のボイラーや暖房、自家発などの機器でCNLの利用を開始し、順次ほかの事業所にも拡大していく。CNL利用の意義を理解し、市場導入の拡大に貢献したい」と意気込みを語った。

今回参加したのは、首都圏で事業を展開する東ガスの顧客企業に限られている。脱炭素時代に、同アライアンスは存在感を発揮できるのか。エリア内の幅広い業種の顧客企業の参加を促すとともに、ほかの都市ガスエリアも巻き込むことができるかにかかっている。

【省エネ】高価格の機器 自律的普及に期待


【業界スクランブル/省エネ】

省エネ法は「燃料資源の有効な利用の確保」を目的としており、事業所構内の再エネ発電電力量(CO2排出ゼロ)を一次エネ換算値「ゼロ」として控除するなど、CO2排出量削減対策促進と整合が取れた制度である。一方、脱炭素社会に向けては、エネルギー供給側と需要側のさらなる取り組み強化が必要だ。

事業所・工場などの脱炭素化へ、炭素生産性(付加価値額/CO2排出量)を向上させる政策手法としては、EUのようなC&T(国内排出量取引)制度導入より、現状の省エネ法をベースとして脱炭素対策を強化する方が日本の現状に適している。

具体的には、現在は発熱量ベースの燃料一次エネ換算値にCO2排出係数の差による重み付けを考慮すると、重油から都市ガスへの燃料転換のCO2削減効果が省エネ法で適切に評価できる。また、グリーン熱証書や海外のCO2クレジットでオフセットされた都市ガスの販売も始まっており、一次エネ換算の際に考慮すべきである。また現制度ではゼロ評価の水素も、燃焼と同程度のCO2排出がある化石燃料起因のグレー水素と再エネ起因のグリーン水素の一次エネ換算値は差別化して、グリーン水素購入を高く評価すべきである。再エネ100%の電力購入なども、CO2排出係数の差を考慮した換算値として促進させるべきである。

現在、小売電気事業者に非化石比率の目標が義務化されているが、省エネ法対象需要家にも使用エネルギーの非化石比率目標を義務化し、電力会社間で低炭素電力販売の価格競争をする姿が市場原理を活用した脱炭素対策促進として効果的である。なお、需要家の非化石目標は一律とすべきだが、一部の業種には、国際競争力に配慮した軽減措置の適用が必要である。

日本のエネルギー消費原単位の改善率は鈍化しており、LED照明などの費用対効果が高い省エネ対策の多くは実施済み。CO2フリー電気・ガスは価格が高いため、高価格な省エネ機器導入の投資回収年数が短くなり、従来よりも一段高いレベルの高効率機器の自律的普及促進効果による省エネ増も期待できる。(T)

【マーケット情報/3月26日】欧州、中東原油上昇、供給不安が強材料


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、北海原油を代表するブレント先物と、中東原油の指標となるドバイ現物が、供給不安を背景に上昇。一方、米国原油の指標となるWTI先物は、需給緩和感の強まりを受け、前週比で下落した。

スエズ運河で23日、コンテナ船の座礁事故が発生。通行停止となり離礁も難航していることから、供給が滞るとの見方が台頭した。26日時点で影響を受けている船舶は、原油および石油製品タンカー33隻を含め、合計237隻に上る。

加えて、イエメンを拠点とする武装勢力フーシが新たに、サウジアラビアの石油関連施設をドローンおよびミサイルで攻撃したと発表。中東情勢が一段と悪化し、供給不安を強めた。

一方、WTI先物には、需給緩和感が下方圧力として働いた。複数の欧州諸国が、感染再拡大を受け、経済活動および移動の自粛を延長。経済の冷え込みにともなう石油需要後退への懸念が強まった。また、米国の週間在庫統計は5週連続で増加。OPEC+は2月の協調減産順守率で、過去最高の113%を達成した。

【3月26日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=60.97ドル(前週比ドル0.47安)、ブレント先物(ICE)=64.57ドル(前週比0.04ドル高)、オマーン先物(DME)=62.24ドル(前週比0.21ドル安)、ドバイ現物(Argus)=62.51ドル(前週比0.39ドル高)

【コラム/3月29日】なぜ試してはいけないのか~電力改革同様、無理が深みに、破綻を招く金融政策の構図


飯倉 穣/エコノミスト

 今日までの経済推移を検証すれば、2013年以降リフレ派が主導した量的緩和、総需要拡大、物価目標実現は幻想であった。日銀は、決定会合で政策転換の方向を論議せず、昨年末約束した金融緩和の点検を公表した。金融緩和がもたらす金融機関収支不調、株価不安定、金利上昇への対応策に絞り対応を提示し、金融緩和継続を強く打ち出した。日銀資産膨張が続き、日銀の健全性への不安(信認低下)も浮上している。金融緩和政策の出口が見えない。

日銀は、97年改革で大蔵省から脱皮し独立性を高めたようだが、現実は論薄き政治主導が横行している。一部学者主張の市場重視・規制緩和推進の電力自由化失敗と同様、改革の意味を改めて考え、量的緩和政策に代わる経済の安定に必要な金融政策の検討が望まれる。

1, 日銀は、政策点検を公表し「より効果的で持続的な金融緩和」を決定した(2021年3月19日)。報道は「日銀、金融緩和修正へ ETF購入目安を撤廃 副作用軽減へ苦渋」(朝日3月20日)、「緩和持続へ政策見直し 日銀、ETF購入目安削除」(日経同)と伝える。

金融政策で「物価上昇率が高まりにくい状況下、物価上昇率プラスの状況定着、需給ギャップ改善、労働生産性向上で、良好な経済情勢が継続した」と評価し、2%物価安定目標達成のため更に機動的な金融緩和継続を表明した。また現政策で問題となる金融機関収支対策として貸出促進付利制度創設、株価下落対策としてETF必要買入れ、金利上昇対策で連続指値オペを提示した。

2,果たして金融政策は、日銀の点検・評価のような「物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展」に導いたであろうか。改めて日銀の政策と姿を考える。

日銀には、歴史的な4大失敗(戦前の金解禁と国債引受、1972年と1980年代後半の金融緩和)があるという。今日の金融運営の窮状は、内需拡大狙いの前川レポート(1986年)の機動的な金融政策運営を嚆矢とする。

爾後迷走する。バブル期の過熱認識なしの金融引き締めの遅れ(80年代後半)、バブル崩壊後の緩和遅延(90年代前半)、金融危機時の対応失敗(90年代後半)である。そして2000年以降「デフレ」と決めつけ、大胆な量的緩和実施継続(マネタリーベース(以下MBという)重視の国債購入等)となる。

3,2000年代初めデフレ経済を巡って論議が活発だった。リフレ派(通貨膨張主張)は、ゼロ金利下でもインフレ目標を定め、量的緩和(長期国債買い切りオペ等でMB拡大)すれば、総需要を増加させ、期待インフレ率を引上げ、適度な物価上昇可能と主張した。

当時これに対し小宮隆太郎教授は、理論的にゼロ金利政策で十分で、長期国債買切りオペ等量的緩和の実体経済への影響は「微害無益」等に近いと主張した。また財務大臣の「長期国債の買い切り購入額要請」を衆愚的金融論議と断じた。

日銀のバランスシート(B/S)悪化(信認低下)の評価も分かれた。未だ明確な解は存しない。起きて初めて分かる類のリスクとなる。

4,13年アベノミクスの一環で、リフレ派の主張に沿って、財政出動と並行してデフレマインド払拭狙いの大胆な金融政策が開始された。日銀は、MB重視の運営で、2%物価上昇を目指し、国債(長期国債等)、ETF(指数連動型上場投資信託)、J-REIT(不動産投資信託)等の資産を買い入れた。

経済変動的には12年以降回復期となり、政策開始後2015年まで、経済パフォーマンスは、成長率、物価、雇用面で動意を見せた。政権・日銀は、財政出動の下支えや金融緩和(為替安や株価上昇)が功を奏したと吹聴した(実質GDP年平均1.2%、名目同2.4%)。その後勢いは鈍化し18年にピーク越えとなった。

19年まで見れば、財政出動の乗数効果の罠に嵌まり、経済は低成長(実質GDP年平均1%、名目同1.7%)で財政依存の姿である(20年まで実質・名目共に0.9%)。金融緩和の実体経済への影響は些少であった。むしろ金融緩和中毒が市場機能と企業活動の健全性を歪めている。

5,ここに来て政策の宴の跡も浮上している。政治に翻弄された日銀の財政状況である。アベノミクス・コロナ対策で日銀のB/S合計は、12年末158兆円(MB139兆円)から20年末702兆円(MB618兆円)となった。日銀は、国債535兆円と残高の50%以上、ETF35兆円と東証一部時価総額の7%(日銀公表)等を保有する。安易な国債発行に貢献し、株や不動産(住宅価格)も管理市場化の様相である。長期金融緩和の弊害である。

6,リフレ派が、机上の論を盾に「なぜ試してはいけないのか」と主張・実行した姿が現在である。二進も三進もいかず、出口さえわからない状況にある。ボルカ―は、「金融政策の精度が低いことを考えれば、(物価が上昇出来るのか)試してみるという誘惑に屈することは、健全な金融政策に欠かせない物価安定の約束を弱めてしまう」と述べている。現状評価すれば、依然金融政策は経済変動局面の短期的な緩和措置という考えが妥当である。

7,90年代の金融危機対応失敗を踏まえた日銀改革(97年)は、金融政策の自主性を重視した。大蔵省支配からの脱皮だったが、その後の運営を見ると独立性と言いながら、論なく、時の政治権力に弱い日銀の姿が露出している。

経済の安定(経済均衡)を取り戻す策は、金融政策依存症では困難である。現状の経済・技術体系の中で、財政均衡も重視し、若干の成長をもたらす工夫と努力が求められる。 

【プロフィール】経済地域研究所代表。東北大卒。日本開発銀行を経て、日本開発銀行設備投資研究所長、新都市熱供給兼新宿熱供給代表取締役社長、教育環境研究所代表取締役社長などを歴任。

【住宅】在宅時間の増加 ZEH普及に好機


【業界スクランブル/住宅】

新型コロナウイルスの影響が衰えを見せない2021年の年明け、10年に一度ともいわれる大寒波が襲来。これらにより在宅時間が増え、家庭での暖房需要が増加した。さらに火力発電用LNGの不足、雪や日照時間の短さから太陽光発電量が低下した結果、全国規模で電力需給がひっ迫。エリアによっては電力使用率が99%に達した。家庭での電力使用状況は、冬が一番大きいとの調査結果がある。暖房機器の使用に加え、重ね着や厚手の衣類などにより洗濯の回数が増加する。乾きづらさによる乾燥機の使用、照明利用の長さも影響しているそうだ。そもそも住宅などの建築物が消費するエネルギー量は、全てのエネルギー消費量の3割以上を占めるほど大きいのだ。

ニューノーマルの暮らしは、在宅時間が増え昼間の電力使用量も増えるが、諸外国に比べ断熱性能の低い日本の住まいは、エネルギー効率が悪く、省エネにも新しいライフスタイルにも対応できていない。私の周りでは在宅勤務時の問題として「寒くて仕方がない」「西日で暑い」「電気代が高い」などの声を聞く。

そこでZEH(ネット・ゼロエネルギー・ハウス)。高い気密・断熱性能の躯体に高効率設備を使用することで、室内環境の快適性を確保できる。室内の温度差がなく冬場のヒートショックにも効果がある。再生可能エネルギーによりエネルギー使用量収支をゼロにするので、脱炭素社会にも貢献できる。加えて、太陽光発電の自家発電により災害時の電力確保といった強靭化(レジリエンス)機能も有する。いいことずくめだ。

しかし問題は導入のハードルの高さにある。20年の省エネ基準適合義務化が延期となったが、「省エネ住宅への工務店の習熟度の低さ」「消費者の省エネ住宅への意識の低さ」「採用時のコスト増」などが原因といわれている。建築主の省エネ住宅導入への理解を深めるため、21年4月から建物の省エネ性能について建築士から建築主への説明が義務化される。引き続き、工務店、コストの問題の解決に向け、政府、行政、企業の努力が待たれる。 (C)

【太陽光】事故報告の義務化 点検勧める好機


【業界スクランブル/太陽光】

4月1日から低圧の発電設備も事故報告が義務化される。発電事業者は事故を覚知してから(要するに知ってから)24時間で速報、30日以内に詳報を提出する必要がある。

50kW以上の設備で義務化されていたものが、低圧発電所を持つ事業者(発電所のオーナー)にも、課せられた格好だ。詳細は経済産業省の電力安全小委員会・電気保安制度ワーキンググループの資料などで確認できる。近いうちに広く周知するための、会議資料より分かりやすいパンフレットなどが公開されるはずであり、関係者各位にはぜひご確認をお願いしたい。

報告すべき事故は、主要設備の半壊以上(規模感で20%以上の損壊など)の事故、敷地外へ損害を与えた事故などであるが、パネルが1枚敷地外の近隣へ飛散したり、敷地からの土砂が近隣宅地へ流出するなどは報告対象になると考えられる。

実は、「風が吹くと桶屋が……」的な話だが、これで低圧設備の保守点検(必要あれば修繕)が進むとありがたいと思っている。

以下、表現が少々荒っぽいが、分かりやすさを優先していえば、「パネルが飛ぶ、地元住民が自治体へ相談、自治体が現地確認。まずここで設備に適切な標識がないとFIT法違反になる。標識により事故を通知されればその時点から速報、詳報を期限内に各地域の産業保安局へ届ける必要がある。これを怠れば電気事業法違反」ということになる。

現地と適切な関係を持ち、設備近隣に保守事業者かその関係者がいるような発電所オーナーなら、事故を知るか、知らされれば即現地確認をお願いして、必要な速報、必要な修繕、再発防止、詳報の準備も保守事業者の助けを得て適時適切に実施できそうだが、そうでない場合、すぐに対応するのは非常に難しそうだ。

ということをオーナーにも保守事業者にも広く知っていただき、今のうちに点検してくれと依頼する、または点検しましょうとお勧めする、という動きにつながるといいな、と思っている。(T)

【メディア放談】原発事故10年の報道 福島事故で変貌した電力業界


<出席者>電力・ガス・石油・マスコミ業界関係者4人

福島第一原発事故は、エネルギー需給の在り方について大きな問い掛けを残している。

しかし、エネルギー・原子力問題に正面から向き合うマスコミの報道は少ない 。

―東日本大震災、福島第一原発事故から10年を迎える。東京電力の社員は、事故を思い返さざるを得ない。

電力 原発事故に直接対応したのは原子力部門だが、本当につらい思いをしたのは事務系職員だ。本店と支社・支店の社員が、福島の賠償対応に駆り出された。

 あれだけの事故を起こしたのだから当たり前だが、福島の人たちの怒りは並大抵でなかった。それでも皆、「何で俺たちが」と思いながら、ひたすらお詫びを繰り返した。そのうちメンタル面で耐えきれない社員が出てくるようになって、会社は2年で異動させるようになった。

石油 東電の肩を持つわけではないが、福島事故で被害を受けた人たちに対応する姿を見て、さすがは日本を代表する企業の社員たちだなと思った。

ガス 福島第一原発事故で東電は実質国有化されて、大きく変わった。それとともに東電がリードしてきた電気事業と、事業を取り巻く環境も変わった。1980年代にはなかった料金値上げがあり、規制緩和は送配電部門の法的分離まで進んだ。

 ただ、東電の抱える問題は解決していない。賠償や廃炉に充てるだけの利益は稼いでいないし、トリチウム水の海洋放出もめどが立たない。再建の切り札の柏崎刈羽原発の再稼働も、10年経ってもまだ先行きが見通せない。

マスコミ 原発事故で、電力業界は東電という「長兄」をなくした。ならば「次男」、「三男」が頑張って、東電が一手に引き受けていた永田町や霞が関、マスコミ対応を引き継ぐべきだった。

 しかし、今まで東電に頼りすぎていたので、関西電力、中部電力がすぐにその代役を果たすわけにはいかなかった。それで電力業界は政治力を失った。

 東電に福島事故の賠償、廃炉を任せ、ほかの電力会社にも原発の安全対策で膨大な費用を負担させるには、本当ならばある程度、地域独占・総括原価主義を残すべきだった。だが、電力業界の力が弱まったことで、規制緩和が大きく進んだ。

 結果として、電力会社の体力は衰弱する一方で、東電も賠償や廃炉の費用を負担できる状況にはなっていない。ほかの電力会社も、原発が稼働していても青息吐息の経営が続いている。

電力 冷静に考えるならば、マスコミさんの言う通りだと思う。だけど、福島事故後に吹き荒れた反原発・反東電の嵐の中、とてもそんなことを言い出せる雰囲気ではなかった。

ガス 確かに、福島事故前の東電の力は圧倒的だった。経産省の役人の中には、「俺の人事は東電が決める」と言う人もいた。今の落剝ぶりを考えると、まさに諸行無常の一言だ。

【再エネ】発電側課金見直し 再エネは負担減に


【業界スクランブル/再エネ】

1月の電力・ガス取引監視等委員会の制度設計専門会合において、2023年度に開始予定の発電側基本料金について、kW課金と合わせてkW時課金を導入することが合意された。当面は比率を1:1とし、将来、kW時を考慮した系統整備の割合が想定と大幅に乖離した場合には、見直しをしていく。

会合の簡易試算では、10社の発電側課金の対象原価は計5333億円(託送原価の1割程度)。kWベースのみ従来案では、毎月kW当たり約150円程度と見込まれたが改正案では約75円に半減。残りの対象原価2650億円は発電量に基づく従量課金となる。低稼働率の再エネ電源にとっては相当な負担減だ。

現行の託送料金制度は、小売りの部分自由化が始まった2000年に創設。当時は、従来型の大規模電源が大宗を占め、主に都市部の需要の拡大に応じて送配電設備が整備されてきたことから、需要家が起因者・受益者との考えに基づき、託送料金の全額を小売事業者が負担する仕組みとなっていた。ところが、再エネを中心とした分散型電源の立地による潮流の変化など、発電事業者が設備増強の起因者となるケースが増加したことを背景に、16年に発電側課金導入の議論に着手し、18年にはkWに応じて発電事業者に課金する仕組みが決まっていた。

これを覆したのが梶山弘志経産相だ。昨年7月、再エネ導入加速化に向け、基幹送電線利用ルールの抜本見直しとともに発電側課金についてもこれと整合する仕組みとなるよう見直しを指示したのだ。なお、FIT電源の調整措置の具体案については、調達価格算定委員会などで引き続き議論されることになる。事業の予見可能性確保のためにも、早期の決定が待たれる。

カーボンニュートラルの実現に向け再エネ電源を大量導入するには、送配電網の増強は不可欠。電力需要が伸び悩み送配電網の高経年化に伴う修繕などの増大が見込まれる中、社会的総費用を最小化することが重要だ。投資効率化に資する割引制度など、インセンティブを機能させる方策にも期待したい。(N)

【石炭】2兆円グリーン投資 偏りすぎる議論2兆円グリーン投資 偏りすぎる議論


【業界スクランブル/石炭】

コロナ禍で、世界各国で経済活動が止まってしまった結果、CO2排出量は減ったとされているが、感染収束後に、その反動で再びCO2排出量が増える懸念もあり、環境省が対策に乗り出している。こうした状況を踏まえて日本政府は、グリーン投資の成長のために、2兆円規模の追加経済対策を行うという。収束後をにらんで直接の経済効果をGDP比で3.6%としている。

環境やデジタル化を中心に水素技術や蓄電池開発などの技術に資金を出すのは、主要国に共通した潮流である。各主体バラバラであった長年の課題を統一的に行うという。

2050年までに日本国内でカーボンニュートラルを達成するため「30年ガソリン車禁止」などの方針がマスコミを賑わしている。背景にESG投資を促し、画期的なイノベーションを期待する状況がある。ここで目指すべき姿をいきなり「脱炭素」にせずに、「低炭素」にしておくことは重要ではなかろうか。

モノを一つ作るにしても、その製造過程や運搬過程でCO2を出さないようにする必要がある。太陽光パネルの製造も例外ではない。技術開発の段階にあってはその点は多少目をつぶってもいいのではないか。「低炭素」なくしては「脱炭素」にならないので、移行のための「トランジション」の段階を経てイノベーション促進を目指すことを規格化してほしいものだ。

欧州タクソノミーでは、石炭利用を「ブラウン」として環境に優しくない行為と決めつけているのだ。無資源国日本として賛成できないが、再生可能エネルギーの施設の修理における化石燃料の使用などは許容されていいのではないかと思う。

欧州案は「善悪」の二元論に偏りすぎている。解決のための手段も否定されては最適なイノベーションも育たないだろう。世界的な地球温暖化対策は、「脱炭素政策」合戦の様相を呈しているが、それぞれの国によって事情は異なる。それぞれの国情に沿った地に足の着いた議論を期待したい。 (T)

統計は政策のインフラ 自由化によって失われた情報


【リレーコラム】鶴崎敬大/住環境計画研究所研究所長

シンクタンクの研究員として社会人生活を開始して間もなく24年になる。省エネルギーや地球温暖化対策などの政策的課題に取り組む官公庁や自治体、それらの社会的課題に対応しつつエネルギーの安定供給を行うエネルギー事業者のお手伝いをしてきたが、その基礎はエネルギーの使用実態調査であった。

住環境計画研究所の主な調査対象である家庭部門にはエネルギー使用実態に関する統計が長年欠けていた。その状況が調査の依頼の背景でもあったが、公的統計が不可欠と考え、環境省の「家庭部門のCO2排出実態統計調査(家庭CO2統計)」の実現に尽力してきた(2017年度から毎年度実施中)。

統計は政策のインフラだ。その有り難みは失われなければ実感しにくい面もある。エネルギー分野では需要側の統計の充実が図られる一方で、供給側の統計は自由化に伴って変化し、失われた情報もある。これまで自治体の依頼に基づきエネルギー事業者が提供してきた区域のデータが、自由化後に提供されなくなり、自治体が苦慮していると聞く。政策・制度が要求するデータは、依頼に基づくのではなく、制度的に確保されるべきだろう。

調査票情報へのアクセス改善求む

公的統計には社会の急速な変化を捉えきれない面もあり、近年、オルタナティブデータが注目されている。経済分野のクレジットカードやPOSのデータ、検索語やSNSの投稿などテキストデータがそれに含まれる。データの質と量の両面で、公的統計とは違う魅力がある。スマートメーターデータもこの文脈で捉えられよう。こうしたデータの活用は試行錯誤が必要であり、当面は公的統計を補完するものと位置付けられるだろう。

家庭CO2統計に携わって感じたことは、調査票情報(個票データ)の利用のしにくさである。政策の他には学術・教育目的に限定され、手続きの負担も大きい。家庭CO2統計の設計では、できるだけ多くの説明変数を取得することに留意してきた。しかし、統計表だけでは提供できる情報に限りがあり、調査票情報へのアクセスのしやすさが本統計の価値を左右すると考えている。米国の類似統計では匿名処理された調査票情報を、誰でも自由にダウンロードでき、エネルギー事業者やサードパーティによる省エネ情報提供サービスの発展に貢献した。

わが国ではエネルギー小売事業者には情報提供の努力義務が課されており、その内容も一層の充実が求められるだろう。本統計が広く利用され、その一助となれるように統計制度のさらなる改革に期待したい。

つるさき・たかひろ 1997年慶応大学大学院政策・メディア研究科(修士課程)修了、住環境計画研究所入社。2013年より現職。17年博士(工学)取得。

次回は滋賀大学データサイエンス学部教授の河本薫さんです。

【石油】サウジの自主減産 政策転換の謎


【業界スクランブル/石油】

このところ、原油価格が堅調に推移している。2月初旬には、WTI先物が55ドル前後、ドバイ原油も50ドル台後半に達した。

ワクチン接種開始や米国経済指標改善など早期の経済回復期待、各国の金融緩和効果もあろうが、やはり、サウジアラビアが1月5日に発表した2~3月の自主的な追加減産(日量100万バレル)が大きかった。この発表は、OPEC(石油輸出国機構)プラス合同閣僚監視委員会後の記者会見で、アブドルアジズ・エネルギー相から、同国ムハンマド皇太子の決定だとして発表された。感染再拡大で需要回復が遅れる中、需給改善効果が評価されたのだろう。

ただ、この発表を聞いて、筆者は耳を疑った。事実ならば、35年ぶりのサウジによる石油政策の変更だからだ。確かにその間、減産が必要な局面でサウジ一国が黙って減産したことはあったが、公言したことはなかった。

第2次石油危機後の需要減少にOPEC内のスイングプロデューサーとして、一手に減産を引き受けた結果、1985年夏、サウジの産油量は100万バレルを切る水準まで落ち込んだ反省から、一国での減産は拒否、OPECベースでの生産調整を続け、2017年からは減産負担軽減のため減産のベースを広げOPECプラスによる調整に移行した歴史がある。生産カルテルの原則は、「プロラタ」である。生産シェアを変更することなく負担や痛みを平等に分担するのが基本だ。一国で調整可能であれば、カルテルは不要である。

サウジの石油政策は安定志向で、長期的視野に立ち、こうした原則には忠実で保守的であった。しかし、ムハンマド皇太子が最高実力者となってからは、よくブレる。昨年3月の協議決裂時もそうであったが、今回は35年に及ぶ原則を放棄した。

皇太子の真意はよく分からないが、サウジの石油政策が短期的な政策や思惑でブレるのはよくない。4月以降の生産政策がどうなるか、3月の合同閣僚監視委員会が懸念される。 (H)