飯倉 穣/エコノミスト
1,菅義偉政権決断のカーボンニュートラルに取り組む総合資源エネルギー調査会基本政策分科会第(21年8月4日)が開かれた。報告案取り纏めで化石エネ扱いへの危惧や原子力推進のコメントがあった。現在パブリックコメント(9月3日開始)中である。
報道もあった。「国2030年試算 発電コスト原発11.7円以上、太陽光が下回る見通し」(朝日8月4日)、「エネ基本計画案 原発 将来像の判断先送り 小型炉研究は推進」(同5日)。
今回の素案を見ると、政治目標ありきで実現性検証は困難な下、再エネは精一杯努力する漸進主義。原子力は発電所新増設が明確でなく及び腰である。これで経済成長かつカーボンニュートラル達成のエネルギー手当てが可能だろうか。気候変動対策のエネルギー選択の基本を改めて確認し、原子力の扱いを考える。
2,気候変動対策の要諦は、生物の環境形成作用で作られた現地球生態系(地球エコロジー)の保持である。生物は、無機的環境と相互作用で原始大気(気圧30気圧、CO2濃度95%)を約40億年かけ現在の大気(1気圧、CO2濃度0.04%以下)とした。この大気の下で、人間は地球生態系の一部である局所生態系を破壊・改質し都市・経済活動を行っている。意識すべきは「人類は、農業と工業の恩恵で自然の局所生態系の制約を脱しながら、依然地球生態系に依存している」ことである。
活動に必要なエネルギーの85%は化石エネで、現経済水準を維持している。排出CO2は、温暖化を加速し気候変動に伴う災害等で人類の生存基盤を危うくする。
3,地球エコロジーの視点から見れば、エネルギーの選択肢は、明解である。化石エネを不使用とし、核反応(核融合・分裂)か自然エネ(太陽光由来か地殻内の放射性物質の崩壊熱由来:地熱)利用である。その高度利用(エネ変換)に一定の技術水準を要する。核分裂の一部は現在技術、再エネ利用技術は発展段階技術、核融合は22世紀技術である。選択肢は少ない。
4,この事実にもかかわらず、再エネ一辺倒論者がいる。恰も月光仮面(正義の味方)である。ジェレミー・レゲット(グリーンピース)は、物質利用で予防原則を掲げ、温暖化対応で化石燃料使用中止、省エネ・再エネ推進、結果的に再エネ軽視となる原子力利用を否定する(1991年)。その流れか、グリーン派は、原子力利用を拒絶する。例えば気候ネットワーク関係者等は、石炭火力と原子力発電は全廃し、過渡的に「自然再生エネルギー50%、天然ガス火力50%」と述べる(日本記者クラブ会見8月2日)。気候変動対策の本丸として大幅な省エネと「再エネ100%」を力説する。エコロジスト(生態保護論者)なら、世代間倫理から化石エネゼロである。緑大事の人の暫定的天然ガス利用容認は不可思議である。
5,ジェームズ・ラブロック(英国 生物・物理学博士)は、自己調節する地球をガイアと名付けた。地球温暖化対策は手遅れ状態であり、化石エネをやめ、核融合と再エネが有効利用できるまで、核分裂エネが安定した電力源として必要と述べた。そしてガイアが養える人口は5億人か10億人と考えた。(「ガイアの復讐」2006年)。
人類が経済水準維持の欲望を追求するなら、地球エコロジー的には、再エネだけでなく原子力技術を利用し、同時に人口規模と経済水準の検討が必要である。
6,今回のエネ基本計画策定は、第一次オイルショック後のエネルギー需給見通し作成に類似する。技術的・経済的に積上げ可能な供給量不足に直面している。当時は、石油供給制約(量と価格)の下で、経済成長・エネルギー確保を目指し、需要抑制と石油代替エネルギーの確保がテーマだった。発電部門は、石炭、LNG、原子力、地熱、新エネ・再生可能エネルギー(研究開発対象)の選択だった。不足分の皺寄せは、再エネ等新エネ(技術開発期待)で賄う姿となった。結果は、成長率低下による需要停滞、省エネ、LNG・石炭という化石エネの活用、原子力の拡大、わずかな地熱活用となった。経済的に実用段階だったLNG・石炭・原子力が大きな役割を担った。
7,今回の基本計画は、エネルギー需給で、需要縮小と化石エネ代替エネルギーの確保がテーマである。選択肢は少ない。非化石は、核融合(研究開発中)・核分裂(原子力発電、実用段階)、太陽電池・風力発電(補助金付き実用化)、地熱他の再エネ(多くは研究開発段階)のみである。
発電コスト検証では、太陽・風力も10円/kwh前後でいずれも実用段階の印象を受ける。故にその拡大は如何様にも可能なようだが、量的拡大に伴う立地制約が顕在化している(国土利用計画不在)。またコスト検証も2030年の話である。つまり介護保険付き再エネ(現在3兆円弱の国民負担)では、経済水準維持は困難である。経済性でも原子力の着実な利用拡大が必要である。
8,勿論原子力活用には、技術者・経営者の意識覚醒・対応努力・想像力・説明力向上が求められる。また原子力規制委員会にも課題がある。福島事故は、津波への対応問題である。津波対策に特化すれば、10年放置することなく再稼働可能であった。
地球エコロジーの基本を考えれば、再生エネ一本足打法でなく、原子力発電等使えるものをフルに活用する複線思考こそ大切である。また化石エネは、限定的ノーブル・ユースとなろう。日本人の陥りがちな単線思考だけは回避したい。
【プロフィール】経済地域研究所代表。東北大卒。日本開発銀行を経て、日本開発銀行設備投資研究所長、新都市熱供給兼新宿熱供給代表取締役社長、教育環境研究所代表取締役社長などを歴任。