【論説室の窓】関口博之/NHK論説委員
この冬、複合的な要因が重なり、全国規模で電力ひっ迫が発生した。今回の件を検証した上での長期的なエネルギー政策を考えていく必要がある。
「なぜこの程度の寒波で?」「大規模な発電所の停止や脱落があったわけでもなさそうだが?」この冬、電力の需給のひっ迫が全国規模で起きた際、最初に持った印象だ。気温の低下で電力需要が「10年に1度程度」と想定される規模を多くのエリアで上回ったこと、加えて火力発電の燃料のLNGの在庫不足が重なったことなど、複合的な要因によるものであることが分かってきたが、当然ながらしっかりした検証が必要だ。
各送配電会社の綱渡りぶりは、エリアを越えた電力融通の状況にうかがわれる。かつては電力各社がいわば相対で要請・受諾していた電力の融通だが、今は電力広域的運営推進機関の指示で行われる。例えば1月8日、中国電力管内は実に計42回、関西電力は18回、他社から供給を受けている。ほかに供給を受けたのは九州・北陸・東京の各電力。東電の場合、未明は受ける側、日中は送る側に回ったりで忙しい。1月12日は関西・四国・中国が受ける側で計47回の融通が行われた。
さらによく見ると時間帯では「午前0時~0時半」とか「0時半~3時」など家庭での需要がほとんどない時間にも行われている。これは午前中に電気を使うピークの朝食時間帯に向けて、揚水発電のために貯水池に水をポンプアップするための電力を賄ったとみられる。
LNG依存度が上昇 安定した資源の確保を
このことは今回の電力ひっ迫の特徴でもあって、ピークのkW=「供給力」ではなく、kW時=「供給量」が足りなくなったのだ。つまり夏場に最大電力のピークを抑える場合のように、時間帯をずらした電気の利用を呼び掛ければ済むという問題ではなかった。
寒波に加え、さまざまな要因が絡んでいる
なぜ「供給量」の問題になったのか。そこにLNGの在庫不足がかかわってくる。例えば深夜に揚水発電用の水のくみ上げを行う、太陽光発電の出力が落ちる時間に向け、同様にくみ上げをしておく、という場合でも結局、燃料のLNGが使われてしまうわけだ。その意味では、ベースロード電源として、終日一定の出力を保てる原子力発電が十分稼働できていないことも影響している。この年末年始の寒波の時期に運転されていた原発は3基だけだった。
LNGの不足自体についても複合要因があったとされる。JOGMEC(石油天然ガス・金属鉱物資源機構)の白川裕調査役によれば、まず去年秋以降、豪州・マレーシアなど世界各地のLNGの生産拠点で設備トラブルが相次いで発生したこと、さらにメキシコ湾岸から来るLNG船が、パナマ運河の「渋滞」につかまって荷が遅れたことも影響したという。
スポット調達をしようとしても2カ月程度のリードタイムが必要だし、一方で超低温での貯蔵が必要なLNGは、備蓄に向かないといった背景もある。とはいえ、日本が輸入するLNGは長期契約に基づくものが多い。輸送のための配船も当然、計画的に行われているはずだ。それなのになぜ不足と考えると、何らかの「見込み違い」があったのか、当然ここも検証の要だ。
これについては新型コロナウイルスの感染拡大による経済活動の低下や太陽光発電など再生可能エネルギーの発電量の増加などを受け、電力各社が「LNGを多く持ちすぎないように」と慎重になっていたのではないかという見方もある。世界最大のLNG輸入国、日本の思わぬ脆弱性を露呈したのは確かだ。
今回のLNG不足は、将来に向け、二つの意味でシミュレーションの材料になると思われる。一つは「移行期の主力としてのLNG」という視点だ。2019年度の電源構成でLNGは37%と、最も高い割合を占める。化石燃料の中ではCO2の排出が比較的少なく、脱炭素社会の手前、CO2排出をできるだけ減らしていく「移行」の時期には、特に大きな役割を果たすとされている。足元でも石炭火力が国際的にも厳しい目で見られ、比重を下げる方向に向かう中、既にLNG火力はベースロード電源的に使われているといってもいい。従来のミドル電源、あるいは再エネ電源の出力の増減を調整する役割にとどまらないことが依存度の上昇に表れている。
当面はLNG需要が高まる方向にあることは間違いない。今回の経験を基に、安定的な資源の確保をどう図るか、戦略を描く必要がある。当然その際には、急速にLNGへの需要を高めている中国との「争奪戦」も想定しておかなくてはならないだろう。
脱炭素期に向けLNG削減 原発の位置付けを明確に
もう一つはより長期での課題。こちらは「脱炭素期に向けたLNGの代替」というシミュレーションだ。今回は予想外の事態としてLNG不足が起きたわけだが、50年の温室効果ガス実質ゼロを目指すのであれば、LNGも含めて、火力発電を大幅に減らしていくことになる。つまり当面の「LNGを有効活用する」ではなく「徐々に減らしていく」に局面が変わる。
一方では再エネを増やし、主力電源化することが想定されている。となれば気象条件次第で出力が大きく変わる再エネ電源をどう補完し、バックアップするのかが、欠かせない課題になるわけだ。そのために一つは、原子力発電の位置付けを改めて明確にすることが必要と思われる。ベースロード電源として使い、カーボンニュートラルの実現に一定の役割を担わせるならば、今進められているエネルギー基本計画の見直しにおいても、方向性をしっかり示すべきだろう。
もう一方の「解」はやはり蓄電池だ。大容量で高効率の蓄電池の開発が望まれる。そうなればメガソーラーとの一体での運用が大きな効果を生むことになろう。さらには広く需要側も巻き込んだ、DR(デマンドレスポンス)の活用やVPP(仮想発電所)の構築も大事な要素になる。
寒波が過ぎ去れば「やれやれ」というわけにはいかない。今回の電力のひっ迫は、長期的なエネルギー政策の課題をさまざまな面で浮き彫りにしたといえる。