ポーランドも脱炭素へ 大手電力が50年ゼロエミ宣言


【ワールドワイド/経営】

欧州最大の産炭国であり発電量の7割を石炭に依存するポーランドでも、脱炭素化に向けた動きが加速している。

 同国の電力最大手PGE(政府資本57%)は2020年10月、石炭火力発電所を段階的に閉鎖し、30年までに自社電源の50%を再エネに、50年までにゼロエミッション化することを目指す新たな経営戦略を発表した。同社ダブロフスキCEOは石炭火力の段階的な閉鎖に備え、今年末までに自社の石炭火力資産を別の国営企業として分離することを提唱している。

 19年12月の欧州グリーンディール発表後、欧州ではカーボンニュートラルに向けた動きがますます活発化しており、石炭火力の前途には暗雲が垂れ込めている。そうした中、新型コロナウイルス感染拡大によって、ポーランドでも昨年3月以降経済活動が制限され電力需要が急減、一方、欧州排出量取引制度(EU−ETS)の排出権価格や国内炭価格が上昇を続け、石炭火力の経済性は悪化した。PGEはこうした情勢や政府の原子力・再エネを主軸に据えるエネルギー戦略案を受けて、再エネ電源に活路を見いだそうとしている。

 PGEは自社発電設備の8割を占める石炭火力を今後約10年で天然ガス火力にリプレースし、コージェネと地域暖房設備についても石炭から天然ガスへ転換する方針を示している。さらに同社は30年までに総額750億ズロチ(約2兆円)を投じ、再エネ開発を進める計画だ。洋上風力と太陽光発電をそれぞれ250万kW新設、これらの出力変動を補完するため80万kW以上のエネルギー貯蔵システムを設置するとしている。

 再エネに注力する新戦略を発表後、同社の株価は上昇するなど、投資家からは高評価を得ているが、環境保護団体からは「石炭火力をスピンオフするだけならエネルギー変革にならない」との批判も残る。この石炭火力分離案については現在政府と協議中とされており、その行方が注目されている。

 こうした中、今年1月21日にドゥダ大統領が「洋上風力法」に署名し、近く施行される見通しとなった。同法は固定価格での差額決済契約(英国のFIT−CDFと同様)による洋上風力の開発、投資促進を目指すものである。PGEはバルト海沖に30年までに250万kW、40年までには最大650万kWの洋上風力発電所を建設することを目指している。今回、洋上風力法が成立したことで、50年の電源のゼロエミッション化を目指す新たな経営戦略は現実味を帯びてきている。

新たな石油生産エリアに成長? ガイアナとそれを追うスリナム


【ワールドワイド/資源】

南米・スリナム沖合第58鉱区では、2019年9月から21年1月までに4坑の探鉱井が掘削され、全坑井で油層が確認された。具体的な埋蔵量は公表されていないが、大規模な炭化水素の埋蔵が確認されたという。

 この第58鉱区に接する隣国ガイアナのStabroek鉱区では、15年に米エクソンモービル率いるコンソーシアムがLiza1号井で油層を確認。その後に掘削した17坑でも油層を確認した。現在、同鉱区の可採埋蔵量は80億バレル以上と推定されている。19年12月にはガイアナ初の石油生産が始まり、20年には石油輸出を開始。20年12月以降、石油生産量は日量12万バレルを上回っている。同社は26年までに5基の浮体式石油・ガス生産貯蔵積出設備を用いて、日量75万バレルの石油を生産することを計画している。

 ガイアナでは、政党間の争いにより20年3月2日に実施された総選挙の正式な結果が出ない状況が続いたことや、新型コロナウイルスの感染拡大で油田開発に一部遅れが見られた。しかし8月にイルファーン・アリ大統領が就任し政情が安定したことや、同国沖合油田の損益分岐点は原油価格1バレル当たり25~32ドルであることも相まって、開発が進展するようになった。これまでに油層が確認できなかった坑井もあったものの、油層の広がるエリアの確定につながり、開発を後押ししている。

 一方、スリナムでは国営石油会社Staatsolieにより1980年代から陸上で原油の生産が行われていたが、近年の生産量は日量1万5000バレル程度と小規模なものだ。沖合ではガイアナ沖合でLiza油田が発見されて以降、メジャーをはじめとする石油会社の参入の動きが活発化し、探鉱が行われてきた。だが、これまで商業規模の油田の発見はなく、ガイアナの後塵を拝していた。

 そんな中、米国の独立系石油会社アパッチは、スリナム沖合第58鉱区で19年9月に探鉱井の掘削を行った。同社は当初掘削の結果を公表せずに、掘削を続けるとしたことから「有望な結果を得られなかったのでは」とみられていた。しかし同年12月に仏トタルが同鉱区の権益50%を取得し、その後、油層の確認が相次いだため同鉱区やスリナムでの探鉱・開発への関心が一気に高まった。21年1月からはトタルがオペレーターを引き継ぎ、今後は評価井の掘削キャンペーンが実施される。

 スリナムが石油生産量を増やし、ガイアナと併せて新たな石油生産エリアとなれるのか注目が集まる。

新電力ビジネスの「困りごと」に対応 パートナー企業獲得で事業拡大目指す


【ダイヤモンドパワー】

中部電力グループのダイヤモンドパワーは、電力小売り競争が激化する中でさらなる事業拡大を図るため、小売り電気事業者向け支援サービスとして展開している「新電力プラットフォーム事業」の強化に乗り出した。

2000年に高圧需要家向けの電力小売業に参入し、「新電力1号」となった同社は、16年4月の全面自由化を機にそれまでの実績を生かし同事業を開始。事業者登録や営業活動、電源調達、需給管理、顧客管理といった、新電力に必要な業務を包括的にサポートしてきた。

電源調達やインバランスのリスクを同社が全面的に引き受けることで、加入する事業者はリスクフリーで販売活動に専念できるのが特徴で、これまでに地方都市ガス会社やLPガス販売会社、地域新電力といった約50社が同プラットフォームに参加している。

今後は、電源調達のみ、需給管理のみといったように、事業者の個別の「困りごと」に柔軟に対応していく。また、再生可能エネルギーやCO2フリー電気の販売、自社の発電機を持つ顧客に対する自己託送といった、新たな顧客ニーズに対応できるよう、メニューづくりやサービス提案の支援にも力を入れる。中部電力ミライズが提供している生活支援サービスを付加価値サービスとして活用することもできるようになる。

ホームページでは「困りごと」に応じた支援を提案

パートナー企業100社へ ホームページも刷新

宮下功嗣営業部長は、「販売量の拡大には、本業で顧客との接点のあるパートナー企業の存在が欠かせない」と語る。実際、取り扱い電力量約60億kW時のうち、約7割を新電力プラットフォームを通じた販売が占めている。「困りごと」に応じたきめ細かい支援を通じて、パートナー企業を100社まで増やし電力販売量の拡大につなげたい考えだ。

1月15日には、ホームページを全面的に刷新し、自社の顧客、新たに電気事業を始めたい事業者、「困りごと」がある新電力、発電事業者―といった対象ごとに、事業内容に関する説明を充実させた。新型コロナウイルス禍で新規にパートナーを獲得するための営業活動が難しい中、ホームページを通じた問い合わせをきっかけに契約交渉が進むことへの期待は大きい。

現在は、昨年末からの電力需給ひっ迫やスポット市場価格高騰に伴う相談が多く寄せられているといい、電力事業を安定的に継続したい新電力に対してプラットフォームを提案する好機となっている。

【マーケット情報/3月12日】欧米原油上昇、需給緩和観が台頭


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、米国原油の指標となるWTI先物と、北海原油の代表であるブレント先物が、需給緩和の見込みを背景に下落。一方、中東原油の指標となるドバイ現物は、前週比で上昇した。

米国の週間原油在庫は、寒波に見舞われたテキサス州で生産が再開したことで増加。また、米エネルギー情報局は、原油価格の上昇を背景に、今年および来年の国内産油量に上方修正を加えた。さらに、リビアは今年の終わりまでに、産油量を2012年以来の最大にする方針を示した。他方、クウェイトとオマーンは、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、入国規制を延長。供給増加の見込みと燃料需要回復への不透明感が、WTI先物とブレント先物の重荷となった。

一方、ドバイ現物には、中東の情勢悪化による供給不安が強材料として働いた。イエメンを拠点とする武装勢力フーシが7日、サウジアラビアの石油関連施設をミサイルで再度攻撃。サウジアラビアは、それを迎撃したと発表した。

また、米国の新大統領は、ベネズエラの原油輸出に対する制裁を直ちに解除する意向はないと表明。加えて、同国大統領は、1.9兆ドルの新型コロナウイルス追加経済支援を承認。経済再建とワクチン普及にともなう石油需要増加への期待感が高まり、ドバイ現物を支えた。

【3月12日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=65.61ドル(前週比0.48ドル安)、ブレント先物(ICE)=69.22ドル(前週比0.14ドル安)、オマーン先物(DME)=67.91ドル(前週比ドル1.50高)、ドバイ現物(Argus)=67.90ドル(前週比1.51ドル高)

【コラム/3月15日】枝野氏の現実的発言を歓迎する


福島 伸享/元衆議院議員

 立憲民主党の枝野代表は、西日本新聞のインタビューに答えて「原発をやめるということは簡単なことじゃない」「政権の座に就いたら急に(原発ゼロを実現)できるとか、そんなのはありえない」「カーボンニュートラルには技術革新も必要で、何年やったらできますなんて無責任なことは言えない」と発言している。2月26日の記者会見でも同趣旨のことを繰り返し、「原発をゼロにするゴールは100年単位だ。使用済み核燃料が安定的に保管されて初めて原発をやめたと言える。廃炉も簡単に作業できるとは限らない」と語ったと報道されている。

 もちろん党の綱領に掲げる「原発ゼロ社会」の旗印を下ろしたわけではないが、イデオロギー的な「原発即時ゼロ」のスローガンを唱えるのではなく、現在の日本の原子力が抱える状況を見据えた上で、現実的な政策論を展開しうる土俵に降りてきたことを歓迎したい。最近打ち出している立憲民主党の「zeroコロナ戦略」もウイルスゼロということではないようなので、綱領の「原発ゼロ社会」も幅のある概念だということなのだろう。とかく選挙の時になると俗耳に入りやすい「原発即時ゼロ」「原発絶対ゼロ」を野党は掲げがちだし、支援者にはそれを期待する向きも多い。しかし、今回そうしたポピュリズムと一線を画する姿勢を明らかにしたことは、党の代表としては勇気のいることであると最大限に評価されるべきである。

 枝野代表は、「使用済み核燃料は、ごみではない約束で預かってもらっているものです。再利用する資源として預かってもらっているから、やめたとなったらその瞬間にごみになってしまう。この約束を破ってしまったら、政府が信用されなくなります。ごみの行き先を決めないと、やめるとは言えない」と、原子力政策に関わる立地地域との関係を指摘し、なぜ原発ゼロが簡単にいかないかその本質も的確に把握している。八ッ場ダムの二の舞を繰り返すことはないだろう。さらに、毎日新聞のインタビューでは「原子力技術をいかに残していくかも重要な課題だ」とも言っている。単純な「脱原発」論者じゃないことは、明らかだ。

 このように土俵を設定されると、政府・与党の側でも現実的な原子力政策の再構築を提示せざるをえないだろう。10年前の東日本大震災以降、原子力をめぐる環境が根本的に変わったにもかかわらず、7年8ヶ月の安倍政権の間に惰性で無為な時間を過ごしてしまった。そのため、あの大事故後、日本の原子力政策の目標はどこにあって、そのためにどのような体制で遂行し、どのような政策資源を投入していくのか、ほとんど何も決まってはない。その結果、再稼働はほとんど進まず、原子力産業は衰退し、日本の原子力は瀕死の状況に陥りつつある。私は、その状況を拙著『エネルギー政策は国家なり』で、「実は「脱原発」の安倍政権」と表現している。

野党第一党側は、100年単位での現実的な原発ゼロへの道を模索し始めている。そうであるなら、政府・与党側からも今の日本のエネルギーや原子力が現実に置かれている環境を的確に見据えた上で、やはり現実的な原子力政策論を展開すべきであろう。菅総理の唱える「カーボンニュートラル・バブル」に踊っている場合ではないし、カーボンニュートラルにかこつけてドサクサ紛れに原子力政策を進めるといった弥縫策も通用しまい。まずは、バックエンド問題をどう解決していくのか、もんじゅの廃炉やプルサーマル可能な稼働原発数の激減、最終処分場の立地を巡る自治体での新たな動きといった環境変化を踏まえた政策を提示しなければならない。

「原発か再エネか」などといった単純な二項対立の無意味な議論は、もう終わった。イデオロギー的観念論ではない、現実の所与の条件に即した、地に足の着いたエネルギー政策の議論が、今後政治の場で始まることを期待したい。そのためにも、自分もその場に戻らなくてはならない。

【プロフィール】東京大学農学部卒。通商産業省(現経産省)入省。調査統計、橋本内閣での行政改革、電力・ガス・原子力政策、バイオ産業政策などに携わり、小泉内閣の内閣官房で構造改革特区の実現を果たす。2009年衆議院議員初当選。東日本大震災からの地元の復旧・復興に奔走。

「女性発言」は最重要か? 見過ごされる電力危機


【おやおやマスコミ】井川陽次郎/工房YOIKA代表

原子力関連の会合でパネル討論に出た時のことだ。原子力発電所の再稼働に向けて理解を得るにはどうすべきか、と問われた。

「女性の活躍に期待する。ついては発電所長などリーダーに女性をどんどん登用すべきだ」と申し上げた。「再稼働が難航している今こそ」。そう強調した。

人に思いを伝えるコミュニケーション能力は、概して女性の方が高い。そう考えるからだ。

フィンランドを訪問した際に見かけた原子力関連の冊子にも、同じ趣旨の記述があった。同国は世界で初めて、使用済み核燃料の処分地を決めたことで知られる。どう対話を結実させたか。理由の一つとして、女性たちの積極的な役割が紹介されていた。

日本で、原子力発電所や関連企業、研究機関を女性が率いる例は聞かない。おっさんばかりだ。

ところが、である。女性パネリストから叱責された。「今は、どうせ発電所が止まっている。だから女性に任せとけばいい、というのか」。予想外のツッコミで、その後はシドロモドロになり、会場の失笑を買った。

朝日2月5日の一面トップ「五輪組織委、森会長、発言撤回し謝罪」「女性が多い会議、時間がかかる」に、当時を思い出した。

記事によると、東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長が3日の日本オリンピック委員会(JOC)臨時評議員会で、「『女性っていうのは競争意識が強い。誰か一人が手をあげていうと、自分もいわなきゃいけないと思うんでしょうね。それでみんな発言される』などと発言した」という。

「国際オリンピック委員会の広報担当者は、取材に『森会長は謝罪した。これで問題は終了したと考えている』とコメントした」とあるが、朝日は容赦しない。社会面で「撤回で終わり? 強まる逆風 性差別に『怒り』、海外メディア批判」と展開する。

前日の報道を見ると、実は、だいぶ雰囲気が違う。

問題の会議は記者たちに公開されており、読売4日朝刊は社会面ベタ記事。同日の朝日朝刊社会面「JOC会合、森氏『女性がたくさんいる会議、時間がかかる』」に至っては、発言に「評議員からは笑い声もあがった」である。

同日の毎日社会面「森会長が私見」には、「組織委の7人の女性理事にも言及し、『みなさんわきまえておられる。競技団体ご出身で、国際的に大きな場所を踏んでおられる方ばかり。話も的を射ており、役立っている』とも述べた」とある。

本当に、これは最重要のニュースなのだろうか。

森氏を袋だたきする紙面を横目に、例えば読売5日朝刊を見る。社説「車の半導体不足、『産業のコメ』確保に知恵絞れ」は「日本の半導体産業の再生も課題だ」と主張する。重要な視点である。

地味だが、同日の日経朝刊10面「LNG 日本へ初輸出 タイ石油公社」も見逃せない。

「タイ石油公社が火力発電の燃料となる液化天然ガス(LNG)を初めて日本に輸出したことが4日、分かった。他国から輸入したLNGを再輸出した形。日本は冬季でエネルギー需給がひっ迫する一方、タイは比較的余裕がある」

電力供給が危機に陥った日本の今冬の状況を考えれば、ニュースの軽重は明らかだ。

そして、電力の安定供給に資するのは原子力発電所の再稼働である。出よ! 女性のリーダー、と書くと、炎上するだろうか。

いかわ・ようじろう  デジタルハリウッド大学大学院修了。元読売新聞論説委員。

カーボンニュートラル宣言 新増設・リプレースに正面から議論を


【オピニオン】新井史朗/日本原子力産業協会理事長

昨年10月末、菅義偉首相は、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち50年カーボンニュートラルを宣言。省エネルギーの徹底や再生可能エネルギーの最大限導入と並んで、原子力による安定的エネルギー供給にも言及された。

18年に気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、脱炭素化の目標は原子力なしでは達成できないことを明らかにしている。また、国際エネルギー機関(IEA)は、19年に公表した「Nuclear Power in a Clean Energy System」において、パリ協定の目標を達成するにはエネルギー効率改善と再エネと共に、原子力の大幅な増加が必要だとしている。

世界の多くの国は、発電時にCO2を排出しない原子力利用による電力の脱炭素化に注目しており、英国、中国、ロシア、東欧、中東、インド、米国、フランス、フィンランドなどで原子力発電所の新増設が進行し、アフリカやアジア諸国でも導入の検討が行われている。

日本では、年間CO2排出量11億4000万tのうち、4億2000万tを電力部門が排出しているが、仮に100万kW級の原子炉1基が稼働すれば年間約310万tの削減効果がある。さらに、原子力は間欠性のある再エネを補って電力の安定供給を確保し、再エネ導入拡大によるコスト増大を緩和し、電気料金の低廉化に貢献する。

原子力がこうした役割を果たすためには、新規制基準に合格したプラントの再稼働を着実に進めるとともに、50年に向けて、稼働率向上や運転期間延長による既存炉の徹底活用、さらには50年以降を見据えた新増設・リプレースの検討が必要である。

一方、前述の11億4000万tには、エネルギー起源のほかに、鉄鋼・化学など産業部門の2億8000万t、運輸部門の2億t、都市ガスやプロパンガスといった熱源からの1億1000万tが含まれており、カーボンニュートラルにはこれらの抑制も必要である。IEA発行の「World Energy Outlook 2020」においても、再エネや原子力による電力は、輸送や産業部門の電化を通じて一層のCO2排出削減に役立つとされている。

日本には、現在、建設中を含め36基(廃炉申請済みを除く)の原子炉があるが9基しか再稼働していない。未稼働の原子炉について、早急に安全審査、安全対策工事を完了させ、1日も早い再稼働を期待する。さらに、持続可能な原子力発電の利用には技術力の維持・継承と人材の確保・育成が欠かせない。次期エネルギー基本計画の策定においては、可能な限り原子力依存度を低減するという現行方針の見直しや新増設・リプレースについて、正面から議論されることを望む。

原子力産業界は、たゆまぬ安全性向上、技術革新、そしてそれらを推進する人材の育成に努めると共に、脱炭素社会の実現と持続的発展に貢献する原子力の価値について、国民の理解が深まるよう努めてまいりたい。

あらい・しろう 1982年東大工学部原子力工学科卒、東京電力入社。2010年柏崎刈羽発電所副所長、14年東通原子力建設所長、19年東京電力ホールディングス理事・原子力・立地本部副本部長、20年8月から現職。

新たなモビリティの活用を実証へ 丸紅と共同でEVバスを運用


【中部電力】

中部電力が丸紅と共同で設立した合同会社「フリートEVイニシアティブ」(FEVI)は、EVバスの運用を1月15日より開始した。長野県飯田市、信南交通、中部電力が取り組むEVバスの充電を活用したエネルギーマネジメントの実証を行うものだ。

実証は、飯田市の市内循環線など信南交通の商用路線でEVバスを運行させ、乗合バス事業におけるEVバスの最適運用に関する知見を得ることを目的に実施。期間は、2022年3月31日までを予定している。

カラフルなラッピングが施されたEVバス

最適な充電方法を検討 新たな価値の創出

具体的には、中国のBYD(比亜迪)製小型EVバス1台を使用し、運行スケジュールに応じた最適な充電方法を検討することで、次の五つの効果を実証する。

①バスをディーゼルから電動化することに伴う走行距離、燃費(軽油→電気)、CO2排出係数の変化や、バスに充電する電気を再生可能エネルギー由来の電源とすることによるCO2削減、②EVバスを災害時に被災者の休憩場所として活用したり、避難所で携帯電話の充電や扇風機、電気ポットなどの電源として活用するなど、EVバスの新たな価値の創出に資するBCP(事業継続計画)対策など、③再エネの過剰出力分をEVバスへ充電して消費することによる再エネの利用拡大、④充電器を制御し、最大電力(kW)抑制(ピークカット)し、事業場の電力消費の少ない時間帯に充電(ピークシフト)することに伴う電力消費のピークコントロールによる電気料金の抑制、⑤運行状況を考慮した最適な充電制御により充電設備をコストダウンすることで、急速充電器の稼働率の向上によるコスト低減―。

FEVIは、実証の運営・評価や、EVバスの導入支援、急速充電器の設置、充電マネジメントなどを担い、信南交通は、EVバスの運行、運行データの提供などを行う。

また、物流・運輸事業者などの車両電動化を通じて、CO2削減に貢献。同時に、電動車両の蓄電機能を活用したBCP対策や、再エネのさらなる活用についても提案を進めていくことで、持続可能な社会の実現に努めていく。

「脱炭素」でなく「炭素循環」社会へ 化学産業は実現の担い手となるか


【業界紙の目】伊地知英明/化学工業日報編集局記者

宣言が各国で相次ぐが、脱炭素化本質的に問われているのは地球の炭素循環の正常化だ。環境と経済の両立を図る上で化学産業の役割が期待されるが、日本がリードすることはできるのか。

人類が抱える課題を世界が一丸となってどのように解決していくのか―。この問題は、大きくは地球上の「誰一人取り残さない」ことを目的とする国連の「持続可能な開発目標」(SDGs)と、「パリ協定」に集約されるだろう。ようやく米国の国際社会への復帰が期待される中、各国の施策だけでなく民間の経営も含めて、押し戻すことができないムーブメントとなる現実味を帯びる。さらに新型コロナウイルスのパンデミックは、モノづくりを含めたデジタル・トランスフォーメーション(DX)を加速し、「社会全体のデジタル化」というパラダイムシフトを引き起こそうとしている。

ただ、IoT社会の浸透は使用電力を増大させ、化石燃料、太陽光、風力、水力、地熱、排熱や、安全性を担保した原子力といったあらゆるエネルギーの「電気への変換」と、さらなる省エネが大前提となる。このためにもセンサー、集積回路、電力変換素子、蓄電池などのデバイスの高機能化に欠かせない革新的な素材・材料が必須だ。学術としての化学、産業としての化学技術は日本のお家芸とされ、ゲームチェンジャーとしての真価が問われる。

人類が目指す「持続的発展」 CO2の滞留をどう改善するか

地球はこれまで、さまざまな生き物のための「場」を提供してきた。この営みは「資源の循環」が基本であり、「有限な元素の使い回し」で成り立っている。物質を構成する分子は複数の原子の組み合わせであり、原子の種類は元素と呼ばれる。元素を性質ごとに整理したのが周期表だが、記載された元素は118種類ある。

この中で地殻に存在する元素は限られる。全体の5割近くは酸素で、あとは2~8%のケイ素、アルミニウム、鉄、カルシウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウムの8元素でほぼ地表はできている。ちなみに炭素は0・1%以下だ。さらに化学反応に用いる触媒や、半導体といったデバイス、リチウム二次電池(蓄電池)、燃料電池などに用いる金や白金といった貴金属や希土類は、極めて希少な元素で、産地も偏在している。

一方、石油(原油)は化石資源であり、産業革命以降の人類の豊かな暮らしを支えてきた。熱エネルギー源(動力)としての役割だけでなく、プラスチックをはじめとした炭化水素系製品などの原料となっている。この地球の恵を「無駄なく使いこなす」のが石油化学である。つまり、生き物から化石に引き継がれた炭素を活用して、有用な物質となる素材・材料に変換する役目を果たしている。

また、「現代の大気」は窒素が約8割、酸素が約2割と大半を占め、炭素は100ppmオーダー(1%は1万ppm)だ。「人類最大の敵」と名指しされている温室効果ガスのCO2は、数百ppmレベルとなる。このCO2は地球の資源循環の視点からすれば、基本的に植物の光合成(森林への吸収)や海洋への吸収などによって再び地球表面に戻る。地表と大気の間の循環を繰り返し、生き物などを形づくっている。

人類が今、突きつけられていることは「環境保全と経済的格差を生じさせない持続的発展の両立」である。現在の共通認識では産業革命以降、人為的に大気へ排出されたCO2が大気温度の上昇を招いている。CO2も人類が出し続けている廃棄物の一つであり、そろそろプラスチックなどとともに、この滞留を是正しなければならない時期に入っている。つまり、循環する元素にどのように向き合うかである。地球の営みからすれば、「脱炭素」には違和感があり、「循環する炭素」として扱うべきではないだろうか。

先駆者として風力に挑戦し続ける 地域との共生で事業を継続し発展


【Jパワー】

Jパワーの風力事業は、2000年に営業運転を開始した苫前ウィンビラ風力発電所から始まった。20年目を迎え、築いてきた地域との信頼と実績で事業を継続し、風力発電のさらなる発展に挑む。

1997年、民営化が決まったことを機に、Jパワーの風力発電事業への取り組みは始まった。数々の新規事業を検討する中で風力に着目したのだ。検討を開始した当時、国内に商用での大規模風力発電はなかった。

「水の力で培った発電技術があるなら、風の力でもできるのではないかという発想でした」と、再生可能エネルギー本部・風力事業部事業推進室の戸田勝也室長は振り返る。

先行する海外の風力発電を研究し、試行錯誤を重ねながら、技術者たちは力を結集。そして2000年12月に営業運転を開始したのが、北海道の苫前ウィンビラ発電所だ。20年が経ち、昨年8月、リプレース工事に着工した。

リプレース工事に着工した苫前ウィンビラ発電所

21年1月末時点で、Jパワーの風力発電設備は全国25カ所、稼働風車は300基以上に上る。出力合計は約58万kWで国内のシェアは第2位。全国の風力発電出力の15%を占める。これに加え、現在建設中および建設準備中、環境影響評価の手続き中の地点が10カ所以上ある。これら陸上での取り組みにより、国内トップシェアに躍り出る勢いだ。「25年度の再エネ出力100万kW増」の目標に向け、風力発電事業を加速させる。

洋上風力への挑戦 30 GW目標の実現を目指して

菅義偉政権は、昨年末の成長戦略実行計画で「40年までに洋上風力発電の設備容量を30 GWにする」(1GW=100万kW)との目標を掲げている。

一方で、Jパワーの稼働する25カ所の風力発電は、全て陸上風力だ。国内全体でも商用化されている洋上風力はほとんどない。

山や谷が多い日本は風が乱れやすく、今後は安定した風が吹く洋上風力が主流になるといわれる。設備も大型化しているため、海の方が運びやすいという利点もある。

Jパワーの風力発電設備一覧

こうした現状を踏まえて、Jパワーも今後は洋上風力に力を入れる。現在推進している国内の洋上風力は、①福岡県響灘、②北海道檜山エリア、③秋田県能代市、三種町および男鹿市沖―など計6カ所だ。

①の響灘は、現在事業化に向けて調査中であり、25年度の運転開始を目指している。②の檜山エリアは開発の可能性を調査中で、候補地は全長100㎞を超える。運転を開始すれば最大約72万kWの大規模電源になる。③の能代市、三種町および男鹿市沖は既に国の促進区域に指定されている海域だ。昨年11月から公募を開始しており、応札に向けた準備を進めている。

また、菅政権の掲げる30 GWの目標は、今後の浮体式洋上風力の必要性も示唆する。

着床式の洋上風力は、遠浅の海が続く欧州で主流だ。陸上と同様、風車基礎を海底に固定する。だが日本では、着床式に適した遠浅な海域は限られている。そのため、風車基礎を浮かべ、海底に係留する浮体式が適しているが、海外でも実証から商用を目指す段階だ。

戸田室長は、「ハードルは高いですが、Jパワーのこれまで蓄積してきた知見や技術力で挑戦していきたい。私たちの強みは、自社完結型で事業を検討・展開できる点です。風況や電気、土木に強いエンジニアがいる。私が所属する事業推進室はそれぞれの事業の方向性を示す重要な役割を負っています」と、自信を見せる。

事業推進室の戸田室長

地域と共生する風力発電 信頼を築きリプレースを実現

第1号の苫前ウィンビラ発電所を建設した時、初めての挑戦は成功ばかりではなかった。技術を磨き、地域の声に真摯に向き合い、信頼関係を築いてきた。そうした地道な取り組みがリプレースという事業継続につながったのだ。今後も複数の風力発電所でリプレースに向けた準備が進む。

「熊本地震の後、阿蘇にしはらウィンドファームではブレードを外して運転を中止した時期がありました。2年半後に風車が回り始めた時、地元の方から『やっと震災から復興したと思えた』との声をいただきました。既に地域に必要な景色の一部になっていたのがとてもうれしかった」(戸田室長)。地域と共生してきた発電所の証だ。

民営化後を見据えた新規事業として始まったJパワーの風力発電。全国2位のシェアとなり、カーボンゼロ達成の一翼を担うまでに成長した原動力は、20年間絶えることなく受け継がれてきた社員一人ひとりの情熱だ。

次は洋上風力だ。戸田室長は「未知な分野でも、できることを見つけていく。技術力を磨き、より高みを目指して期待に応えたい」と、エネルギー政策の一翼を担う気概を力強く示した。

広域機関理事長に大山氏 技術・制度の両面に精通


2015年の電力広域的運営推進機関発足当初から理事長を務めてきた金本良嗣氏が3月末で任期満了を迎えることに伴い、大山力・横浜国立大学大学院教授が新理事長に就任することが分かった。3月2日に開催される通常総会で正式決定する。

大山氏は電力システム工学が専門。経済産業省の審議会で委員を歴任しエネルギー政策に関与してきたほか、広域機関の「調整力及び需給バランス評価等に関する委員会」では委員長を務めるなど、技術、自由化制度の両面で電力システムに精通した人物といえる。

広域機関は、1月の電力需給ひっ迫時に「非常災害対応本部」を立ち上げ、地域間の電力融通を指示するなどして停電回避に力を発揮。発送電分離時代の電力安定供給体制の強化に向け、今後も重責を担うことになる。さらに技術的な検討を含む制度の詳細設計を担うなど、設立時の想定を超える役割が求められているのも事実だ。

こうした状況下での大山氏の理事長就任に新旧双方の電力業界関係者から「打ってつけの人選だ」と、その経験値に期待を寄せる声が上がっている。

複合要因による電力ひっ迫 将来の政策に向けた検証を


【論説室の窓】関口博之/NHK論説委員

この冬、複合的な要因が重なり、全国規模で電力ひっ迫が発生した。今回の件を検証した上での長期的なエネルギー政策を考えていく必要がある。

「なぜこの程度の寒波で?」「大規模な発電所の停止や脱落があったわけでもなさそうだが?」この冬、電力の需給のひっ迫が全国規模で起きた際、最初に持った印象だ。気温の低下で電力需要が「10年に1度程度」と想定される規模を多くのエリアで上回ったこと、加えて火力発電の燃料のLNGの在庫不足が重なったことなど、複合的な要因によるものであることが分かってきたが、当然ながらしっかりした検証が必要だ。

各送配電会社の綱渡りぶりは、エリアを越えた電力融通の状況にうかがわれる。かつては電力各社がいわば相対で要請・受諾していた電力の融通だが、今は電力広域的運営推進機関の指示で行われる。例えば1月8日、中国電力管内は実に計42回、関西電力は18回、他社から供給を受けている。ほかに供給を受けたのは九州・北陸・東京の各電力。東電の場合、未明は受ける側、日中は送る側に回ったりで忙しい。1月12日は関西・四国・中国が受ける側で計47回の融通が行われた。

さらによく見ると時間帯では「午前0時~0時半」とか「0時半~3時」など家庭での需要がほとんどない時間にも行われている。これは午前中に電気を使うピークの朝食時間帯に向けて、揚水発電のために貯水池に水をポンプアップするための電力を賄ったとみられる。

LNG依存度が上昇 安定した資源の確保を

このことは今回の電力ひっ迫の特徴でもあって、ピークのkW=「供給力」ではなく、kW時=「供給量」が足りなくなったのだ。つまり夏場に最大電力のピークを抑える場合のように、時間帯をずらした電気の利用を呼び掛ければ済むという問題ではなかった。

寒波に加え、さまざまな要因が絡んでいる

なぜ「供給量」の問題になったのか。そこにLNGの在庫不足がかかわってくる。例えば深夜に揚水発電用の水のくみ上げを行う、太陽光発電の出力が落ちる時間に向け、同様にくみ上げをしておく、という場合でも結局、燃料のLNGが使われてしまうわけだ。その意味では、ベースロード電源として、終日一定の出力を保てる原子力発電が十分稼働できていないことも影響している。この年末年始の寒波の時期に運転されていた原発は3基だけだった。

LNGの不足自体についても複合要因があったとされる。JOGMEC(石油天然ガス・金属鉱物資源機構)の白川裕調査役によれば、まず去年秋以降、豪州・マレーシアなど世界各地のLNGの生産拠点で設備トラブルが相次いで発生したこと、さらにメキシコ湾岸から来るLNG船が、パナマ運河の「渋滞」につかまって荷が遅れたことも影響したという。

スポット調達をしようとしても2カ月程度のリードタイムが必要だし、一方で超低温での貯蔵が必要なLNGは、備蓄に向かないといった背景もある。とはいえ、日本が輸入するLNGは長期契約に基づくものが多い。輸送のための配船も当然、計画的に行われているはずだ。それなのになぜ不足と考えると、何らかの「見込み違い」があったのか、当然ここも検証の要だ。

これについては新型コロナウイルスの感染拡大による経済活動の低下や太陽光発電など再生可能エネルギーの発電量の増加などを受け、電力各社が「LNGを多く持ちすぎないように」と慎重になっていたのではないかという見方もある。世界最大のLNG輸入国、日本の思わぬ脆弱性を露呈したのは確かだ。

今回のLNG不足は、将来に向け、二つの意味でシミュレーションの材料になると思われる。一つは「移行期の主力としてのLNG」という視点だ。2019年度の電源構成でLNGは37%と、最も高い割合を占める。化石燃料の中ではCO2の排出が比較的少なく、脱炭素社会の手前、CO2排出をできるだけ減らしていく「移行」の時期には、特に大きな役割を果たすとされている。足元でも石炭火力が国際的にも厳しい目で見られ、比重を下げる方向に向かう中、既にLNG火力はベースロード電源的に使われているといってもいい。従来のミドル電源、あるいは再エネ電源の出力の増減を調整する役割にとどまらないことが依存度の上昇に表れている。

当面はLNG需要が高まる方向にあることは間違いない。今回の経験を基に、安定的な資源の確保をどう図るか、戦略を描く必要がある。当然その際には、急速にLNGへの需要を高めている中国との「争奪戦」も想定しておかなくてはならないだろう。

脱炭素期に向けLNG削減 原発の位置付けを明確に

もう一つはより長期での課題。こちらは「脱炭素期に向けたLNGの代替」というシミュレーションだ。今回は予想外の事態としてLNG不足が起きたわけだが、50年の温室効果ガス実質ゼロを目指すのであれば、LNGも含めて、火力発電を大幅に減らしていくことになる。つまり当面の「LNGを有効活用する」ではなく「徐々に減らしていく」に局面が変わる。

一方では再エネを増やし、主力電源化することが想定されている。となれば気象条件次第で出力が大きく変わる再エネ電源をどう補完し、バックアップするのかが、欠かせない課題になるわけだ。そのために一つは、原子力発電の位置付けを改めて明確にすることが必要と思われる。ベースロード電源として使い、カーボンニュートラルの実現に一定の役割を担わせるならば、今進められているエネルギー基本計画の見直しにおいても、方向性をしっかり示すべきだろう。

もう一方の「解」はやはり蓄電池だ。大容量で高効率の蓄電池の開発が望まれる。そうなればメガソーラーとの一体での運用が大きな効果を生むことになろう。さらには広く需要側も巻き込んだ、DR(デマンドレスポンス)の活用やVPP(仮想発電所)の構築も大事な要素になる。

寒波が過ぎ去れば「やれやれ」というわけにはいかない。今回の電力のひっ迫は、長期的なエネルギー政策の課題をさまざまな面で浮き彫りにしたといえる。

電力高騰で東ガスに打撃 380万件獲得への宿題も


年明けの需給ひっ迫に端を発した日本卸電力取引所のスポット価格の高騰局面は、大手エネルギー系新電力の経営も直撃した。東京ガスは、1月下旬に発表した2020年度通期見通しで、電力事業の営業利益が前回(第2四半期)に比べ、125億円減との見通しを示した。卸販売電力量は増加したが、市場高騰に伴うマイナス分が大幅に上回った。

同社は300万kW程度の自社電源を供給力のベースとしており、市場依存度は低い。にもかかわらず、今回ほどの高騰局面では深刻な打撃を受けることが明らかになった。

一方、一部需要家が高額な料金を請求されたことを念頭に、「電気へのお客さまの関心が上向いている。この機を捉えていく」(早川光毅専務執行役員)とも強調。22年度380万件の目標達成に向けた好機との見方を示した。

だが、市場高騰に備えたリスクヘッジはどうするのか。再エネ導入目標は示しているが、投資回収の見通しが立ちにくい火力の新たな開発計画はない。また、相対取引を選択肢としているが、それはほかの新電力も同じ。380万件分の供給力をどう確保するかが、今後の宿題となりそうだ。

異なる分野の需要を束ねて管理 再エネ電力の最大活用で脱炭素を


【電力中央研究所】

たかはし・まさひと 東京大学大学院工学系研究科 博士号(工学)取得。
1995年電力中央研究所入所。エネルギーエシステム分析・需要分析やデマ
ンドレスポンスなどの研究に携わり、2016年10月から現職。

需要と供給側のエネルギー管理によって、脱炭素化を図る「セクターカップリング」という考え方がある。電気自動車、太陽光発電、エコキュートなどを用いて研究する、高橋雅仁・上席研究員に話を聞いた。

―セクターカップリングとは何でしょうか。

高橋 エネルギーは運輸、家庭、工場、店舗など、さまざまな部門で消費されています。エネルギーの利用効率を高め、再生可能エネルギーを活用するために、エネルギーの需要側と供給側を部門横断で管理して脱炭素を行うのが、セクターカップリングという考え方です。省エネやCO2削減だけではなく、電力系統の安定化と再生可能エネルギーを最大限活用することもできます。これらのメリットは需要家、小売り電気事業者、送配電事業者のコスト低減にもなり、社会全体の利益として還元されます。電中研では、電気自動車(EV)を活用した需給協調や、HP給湯機のエコキュートと住宅用太陽光パネル(PV)を用いたシステム、また産業部門の電化とネガワットの研究を行っています。

EVバッテリーで系統安定 余剰電力をHPに活用

―EVを用いたセクターカップリングについて教えてください。

高橋 EVに搭載されている蓄電池を系統に接続することで、昼間に発生するPVの余剰電力を蓄電池に充電し、PVの出力がない夜(点灯帯)には系統に逆潮流させるV2G(Vehicle to Grid)技術があります。電中研は九州電力、日産自動車、三菱自動車工業、三菱電機の5社が参画するV2Gを用いたVPP(仮想発電所)実証に2018年から参加しています。

―実証で電中研はどういった役割を担っていますか。

高橋 まず、九州エリアのPV出力制御量の低減やダックカーブ対策にEVがどれほど効果的かを検証しています。その中で電中研はV2Gのシミュレーションを担当しています。

 もともと電中研では道路網内のEVの交通行動を模擬し、充電スタンドを効率的に配置するにはどうするのかを計算をする「EV-OLYENTOR」というシミュレーターを開発していました。実証では九州全域でEVが120万台普及し、かつ各所にEVスタンドがあるという条件で、PVの出力制御時にEVの蓄電池をどれだけ有効活用できるのか試算しました。

その結果、夜から昼間にシフトしてEVの充電を行うV1Gでは最大37万kW、V2Gの場合は最大130万kW分のPV出力を活用できるという結果を得られています。しかし、EVユーザーにアンケートを行ったところ、8割近いユーザーが「対価があれば実証に参加したい」とコメントした一方、「電池の劣化」や「電欠」などの懸念も聞こえました。今後は、こうした問題が解消できるのか、またビジネスに発展させられるのかを評価していく予定です。

V1G:夕方18時以降のEV充電量を、翌日昼間9時-15時にシフトして需要創出する
V2G:V1Gに加えて、点灯帯18時-21時に放電、EVの蓄電残量の空き容量を確保。翌日昼間9時-15時にこの空き容量に充電して需要創出する

―住宅用PVとエコキュートを組み合わせたセクターカップリングとはどのようなものですか。

高橋 19年11月からFITの買い取り期限を終える住宅用PVが大量に発生し、買取価格が下がるため、昼間に発生するPV余剰電力を蓄電池に蓄えて、自宅で消費するニーズが増しています。そこで、電中研ではその卒FIT後のPV余剰電力をエコキュート向けに使えないのか、検証と評価を進めています。研究は関西地域の戸建住宅(4人世帯)を想定し、PVの余剰電力を①売電する、②蓄電池(容量6kW)に充電し夜間に消費、③売電+エコキュートを活用(夜間蓄熱)、④売電+エコキュートで余剰電力による昼間蓄熱と、本来の夜間蓄熱を併用する最適運転―のCO2排出量や1次エネルギー使用量を考慮した環境面、再エネ自家消費率、需要家にかかる年間コストを評価しました。

――どのような結果が出ましたか。

高橋 まず環境面では、都市ガスを使わない分、蓄電池や売電よりもエコキュートを活用した③と④が最もよい評価が出ています。自家消費率は②の蓄電池が最も効率がよい評価でしたが、④の最適運転を行うエコキュートは日中に発生する電気を蓄熱に回しているため、2番目によい評価でした。

需要家にかかる年間コストについては、エコキュートの導入費用は蓄電池よりも安価のため、エコキュートの方が経済的との結果が出ています。さらに①の売電との比較でも都市ガス料金が発生しないことから、ガス給湯器との差額を考慮しても④の最適運転を行ったエコキュートが最も経済性がよいという評価となりました。

電力会社と産業間を橋渡し 未来のビジネスに向け後押し

―政府は50年までにカーボンニュートラルを実現すると宣言しています。

高橋 政府のカーボンニュートラル宣言には、エネルギー業界のみならずさまざまな業界から反応がありました。CO2の排出削減には、需要の電化と電源の脱炭素化が不可欠です。電力を供給する電気事業者とともに、モノづくりの専門家であるメーカーと電力に関する専門家集団である電中研の強みを組み合わせながら、カーボンニュートラル実現に向けて研究を進めていきます。

 現在行われている技術実証事業は、将来のビジネスにつながっていきます。そのためにも協力をしていきたいですし、より情報発信を行っていきます。

関電と福井県との「合意」 共用化案にむつ市長が反発


関西電力の運転開始から40年を超える三つのプラント(高浜1・2号機、美浜3号機)の稼働が実現に近づいた。

関電の森本孝社長は福井県の杉本達治知事と2月12日に会談。森本社長は、知事が3プラント稼働の条件とした使用済み燃料の中間貯蔵施設の県外立地点提示について、2023年末までに確定すると発言。青森県むつ市の中間貯蔵施設の共同利用を含め、あらゆる可能性を追求するとした。オンライン参加した梶山弘志経産相も国の支援を約束。終了後、知事は稼働の議論を進める意向を示した。

一方、関電に不信感を募らせているむつ市の宮下宗一郎市長は、即座に反応。翌13日に文書を発表し、「(関電が)むつ市に立地する施設を県外搬出先の候補地の一つとして提示、あるいは共用化がその選択肢の一つになることはあり得ない」と反発した。資源エネルギー庁幹部は「宮下市長の態度は軟化していない」とみる。

関電による中間貯蔵施設の県外立地は、今まで難航を極めた。だが今回、あえて23年までに確定と確約。いよいよ瀬戸際に立たされることになった。