【石油】静かなる石油危機 戦争とファンダメンタルズ


【業界スクランブル/石油】

原油価格はウクライナ侵攻で100ドルを超し、高止まりを続けている。確かに、昨今の価格上昇の最大の要因は、間違いなくウクライナ情勢の深刻化であるが、その背後にある石油需給のファンダメンタルズも忘れてはならない。

2020年のコロナ禍のパンデミックからの経済回復が予想以上に順調で、石油需要が伸びている一方で、産油国側の増産が遅れており、国際石油市場では21年年初以来、供給不足による需給ひっ迫が続いている。OPECと非加盟主要産油国からなるOPECプラスは、昨年8月以降、毎月日量40万バレルの減産緩和(増産)に合意しているが、参加各国の増産余力がないため、半分程度しか増産できておらず、IEA(国際エネルギー機関)によればトータルの許容生産量に日量90万バレル達していないという。

従来の価格回復局面では、OPEC内で、違反増産が横行し、価格が乱れることがあり、「OPECサイクル」と揶揄されたが、今回はそれが全く見られない。また、価格回復とともに、増産投資も行われたものだった。さらに、過去、増産志向で生産拡大を争ってきたサウジアラビアとロシアも、慎重な増産姿勢を崩していない。どこかの時点で、価格維持への政策転換があったとみるべきだろう。

増産の遅延は、米国も例外ではない。明らかに産油国側のビヘイビアは変わっている。同時に、石油投資に対する抑制傾向が高まっている。やはりその原因は拙速な脱炭素政策に求めざるを得ない。将来の座礁資産(投資回収不能資産)への投資は慎重にならざるを得ないし、稼げる間に確実に稼いでおきたいと考えるのは当然であろう。ウクライナ問題を含めて、エネルギー安全保障を再考する時期なのかもしれない。(H)

【検証 原発訴訟】リーディングケースの「伊方最判」 炉規制法の趣旨をどう解釈したのか


【Vol.1 伊方最判①】森川久範/TMI総合法律事務所弁護士

福島原発事故発生から11年。事故前後で原発訴訟はどのように変わったのか。

それを事業者はどう受け止めるべきか。原発訴訟に詳しい弁護士の分析を年間連載で紹介する。

 今回から12回にわたり、訴訟担当弁護士の実務的視点から原子力発電所訴訟の重要な判例・裁判例を検証する。第1~3回では、原発訴訟のリーディングケースである、伊方発電所に関する最高裁判決(1992年10月29日)を解説する。

伊方最判の判断枠組みは、その後の多くの原発訴訟の裁判例が踏襲している。最近の事例の問題の本質を分析し検証する上でも、伊方最判の論理構成の基本に立ち返る意義がある。

伊方最判は、伊方発電所の建設を予定していた四国電力が核原料、核燃料物質および原子炉の規制に関する法律(77年改正前のもの。原子炉等規制法)第23条1項に基づいて行った原子炉設置許可申請に端を発する。これを受けて内閣総理大臣(当時)が72年11月に行った原子炉設置許可処分に対し、原発建設に反対する付近住民らが原告となり、その取り消しを求めた。この行政訴訟において、最高裁判所として初の判断を示したものである。

多くの原発訴訟が伊方最判を参考にしている

司法に求められた科学的判断 法が定める行政裁量の範囲は

伊方最判の説示の中で判例として重要な論点は次頁の表の通り。伊方最判では論点①を論ずるに際し、その前提となる原子炉等規制法の解釈論をまず展開している。

本連載も、この解釈についての解説から始めたい。

現代科学の粋を集めた原子力発電所の安全性を問う訴訟は、専門科学的事項を争点とする科学裁判の典型であるが、裁判所がどの程度踏み込んだ審理をして、司法としての判断を下すのかが、原発訴訟における最大の論点である。

裁判所は、専門科学的事項については素人であり、裁判所の判断能力には限界があろう。かといって裁判所は、専門科学的事項に関する問題が法律上の争いになるような場合には、前提問題としてその点の判断を下す責務も負っている。専門的知識の不足は、その専門的知識を有する専門家の鑑定などにより補充すれば良いとも考えられる。実際、特許訴訟などでは、裁判所は、科学的事項でもあっても徹底的に審理し積極的に判断を下している。裁判所の審理において、科学的な専門的知識が必要ということだけでは、言い換えれば、専門科学的事項を争点とする科学裁判であることだけでは、裁判所の審理を制限することは難しいとも考えられる。

しかしながら、裁判所と行政機関との役割分担として、裁判所に行政機関の判断の尊重を求め、裁判所の審理範囲を制限した方が、公益および国民の権利利益の保護に資すると考えられる場合がある。この裁判所の審理範囲の制限を正当化する概念が行政裁量であるが、行政に裁量が認められる根拠は法律である。そうすると、法律が行政機関の判断を尊重すべきことを裁判所に求めている場合で、法律にそれを求める合理的な理由がある場合には、裁判所の審理範囲は制限されることになる。

専門技術的裁量の所在 行政にあると法解釈

これを原子炉設置許可処分で見ると、原子炉設置許可処分の根拠となっている法律自体が、どのような理由から行政にどの程度裁量を許しているのか、といった法律解釈をするということになる。そのため伊方最判では、法律解釈として、原子炉設置許可の基準を定めた原子炉等規制法の規定の趣旨を論じている。

まず、原子炉設置許可処分の基準を定めた原子炉等規制法24条1項3号(原子炉設置者に原子炉設置に必要な技術的能力及びその運転を適確に遂行するに足りる技術的能力があること)と、4号(原子炉施設の位置、構造及び設備が核燃料物質等による災害の防止上支障がないものであること)の趣旨を確認した。すなわち、「災害が万が一にも起こらないようにするため、原子炉設置許可の段階で、原子炉を設置しようとする者の右技術的能力並びに申請に係る原子炉施設の位置、構造及び設備の安全性につき、科学的、専門技術的見地から、十分な審査を行わせることにあるものと解される」として、原子炉施設の安全性に関する審査に焦点を置いた。

伊方最判の重要論点

なお、伊方最判は決して、原子炉等規制法24条1項各号の趣旨が「災害が万が一にも起こらないようにせよ」といった直接的な結果を求めるものである、とはしていない。これを求めることは絶対的な安全性を求めることにほかならず、どだい不可能であるからである。あくまで「災害が万が一にも起こらないようにする」ことは、安全性等につき科学的、専門技術的見地から十分な審査を行わせることの理由として述べている。

続けて、原子炉等規制法24条2項が、基準の適合性についてあらかじめ原子力委員会(当時)の意見を聴き、これを尊重しなければならないとの手続を定めている趣旨についてはどう論じたのか。

やはり原子炉施設の安全性に関する審査に焦点を当て、この審査には「多角的、総合的見地から検討するもの」で、「将来の予測に係る事項も含まれて」おり、「多方面にわたる極めて高度な最新の科学的、専門技術的知見に基づく総合的な判断が必要とされるものである」との特質があることを指摘した。その上で、「原子炉施設の安全性に関する審査の特質を考慮し、右各号所定の基準の適合性については、各専門分野の学識経験者等を擁する原子力委員会の科学的、専門技術的知見に基づく意見を尊重して行う内閣総理大臣の合理的な判断にゆだねる趣旨」と解釈し、実質的に行政機関に専門技術的裁量を認めた。

このような原子炉施設の安全性に関する審査に焦点を当てた法律解釈を前提として、伊方最判では、論点①「原子炉設置許可処分の取消訴訟における裁判所の審理・判断の方法」を論ずるが、これについては次号に続く。

もりかわ・ひさのり 2003年検事任官。東京地方検察庁などを経て15年4月TMI総合法律事務所入所。22年1月カウンセル就任。17年11月~20年11月、原子力規制委員会原子力規制庁に出向。

【コラム/4月20日】ウクライナ危機とEUのエネルギーセキュリティ政策


矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

EUの一次エネルギーの域外依存度は、6割弱と高く、天然ガスは8割強、石油は10割弱、石炭は3割台半ばが輸入に頼っている。輸入元としては、ロシアが多く、天然ガスは4割弱、石油は3割弱、石炭は5割弱がロシアからのものである(2020年)。しかも、ロシアへの輸入依存度は、この10年で増大している。2010年には、EUの一次エネルギー輸入に占めるロシアの比率は、天然ガスは3割、石油は3割台半ば、石炭は2割強であったから、ロシア依存は天然ガスでは1割弱,石炭では3割弱高まったことになる(石油は若干減少)。EUにおいて、供給国が特定の国に集中することへの懸念がなかったわけではないが、一次エネルギーの生産者と購入者との間の相互依存(とくに投資を通じて)が高まれば、供給遮断は起こりにくいという考えも根強かった。

しかし、ロシアのウクライナ侵攻は、供給元としてのロシアへの信頼を失わせ、EUが一次エネルギーの高いロシア依存を見直すきっかけとなった。EUは、3月8日に欧州の共同アクションREPowerEUを提案し、化石燃料のロシアへの依存から2030年のかなり前に完全に脱却する戦略を打ち出した。最初の取り組みでは天然ガスに焦点を当てており、LNGとパイプラインによるロシア以外の供給者からの輸入を増やし、天然ガスのロシアへの依存度を1年以内に3分の2に減らす。そして、加盟国に最低レベルのガス貯蔵量の確保を義務付け、10月1日までに貯蔵キャパシティの90%程度(現在30%程度)を確保する。また、エネルギー利用効率を高めるとともに、再生可能エネルギーの開発を加速し、農業廃棄物や生ごみからのバイオガス利用を大幅に増加し、水素の利用を2030年までに4倍に増やすことになった。さらに、4月8日に、EUは8月半ばまでにロシア産の石炭の輸入を禁止することを発表している。

 EUがエネルギー問題について、これだけ力強いメッセージを”one voice”で出したことは注目に値する。EUではエネルギーセキュリティ確保に関しては種々の政策的な合意はあるものの、実際の対外的な行動は各国バラバラであった。

 とくに、天然ガスのロシア依存度は加盟国によって、大きく異なっており、依存度の高いドイツは、ロシアへの姿勢は融和的であり、協調的な関係を維持することを重視し、依存度が低い英国やフランスが厳しい姿勢で臨むのとは対照的であった。例えば、2008年のジョージア紛争ではロシアがジョージアに軍事介入したことに対して、ロシア依存度の低い英国は制裁を訴えたが、ロシア依存度の高いドイツは、ロシアを刺激することは避け、安定供給を優先させる立場をとった。また、2014年には、親ロシア姿勢を示していたウクライナのヤヌコビッチ政権の崩壊を受けてロシアがウクライナ南端のクリミアへ軍事介入を行い、これを併合したが、この時は、EUは米国とともに、ロシアを非難するとともに、経済制裁を科した。しかし、そのような中でも、ドイツは、天然ガスをロシアから海底パイプラインでドイツに直接輸送するノルドストリームプロジェクトを推進している。

 EUは、エネルギーセキュリティ確保のためには、「団結」が必要であると、繰り返し強調してきた。そして、2009年に発効したリスボン条約では、エネルギーに関連した事案について、EUは対外的に”one voice”で臨むことが定められた。それにもかかわらず現実には、一体的な行動は難しかった。しかし、今回のロシアのウクライナ侵攻で、EUが文字通り”one voice”で脱ロシアと共通のエネルギーセキュリティ政策を打ち出すことができた。その意味で、今回のウクライナ危機は、EUのエネルギーセキュリティ政策におけるエポックを画する出来事となった。

【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授などを歴任。東北電力経営アドバイザー。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。

【ガス】メジャーズに学ぶ 紛争リスクへの準備


【業界スクランブル/ガス】

ウクライナ戦争はわれわれの予想を超える大きな影響をエネルギー業界へ及ぼしている。中でも目を引いたのは、英BP、英蘭シェル、米エクソンモービルがロシアからの徹底をいち早く決断したことだ。ロシアは世界の天然ガス埋蔵量の3割を占める資源大国。各社とも長い年月をかけて対露ビジネスに力を入れてきた。ロシアでの成功が出世の条件ともいわれたほどで、それだけメジャーズにとって大切な存在だった。

例えば、シェルはサハリン2だけでも3000億円の減損や1000億円前後の配当を捨てることになる。その重大決断をロシアが侵攻を開始した4日後に下している。エクソンはその翌日にサハリン1からの撤退を表明した。おそらく、侵攻が始まる前に撤退シナリオが出来上がっていたのだろう。両事業には日本企業も深く関わっており、特にサハリン1には経済産業省の機関も出資している。しかし3月中旬現在、日本側の意思表明はまだ行われていない。今後の操業実務に支障が発生しないことを祈るばかりだ

今回得られた教訓の一つは、エネルギーを1カ国に過度に依存してはいけないということだ。幸い、日本のLNG調達先は5大陸10カ国以上に分散している。また、ロシア比率も1割弱と限定的だ。先代からの先見の明に感謝したい。

もう一つの教訓は、今回のような領土問題や統一問題に起因する紛争が、わが国の近隣でも発生し得るということだ。ひとたび台湾周辺で紛争が発生すれば、シーレーンは封鎖され、一部のLNG船が入港できなくなる可能性が生ずる。こうしたリスクを輸入事業者は想定しているだろうか。今回のメジャーズの鋭敏な動きに学び、起こり得るリスクを事前に想定し対策を準備しておくべきだ。(G)

価格と炭素排出量の相関に着目 エネマネと組み合わせ脱炭素化


【エネルギービジネスのリーダー達】宮脇良二/アークエルテクノロジーズ代表取締役CEO

2018年にアクセンチュアを退職し福岡市でエネルギースタートアップを起業した。
デジタル技術で脱炭素社会を実現するべくサービスの開発に注力している。

みやわき・りょうじ 1998年アクセンチュア入社。2018年8月にアークエルテクノロジーズを設立し代表取締役に就任。一橋大学大学院国際企業戦略研究科修了。スタンフォード大学客員研究員(18~19年)。早稲田大学講師。

 福岡市を拠点に、デジタルサービスの開発やコンサルティング業務を手掛けるアークエルテクノロジーズ。2018年に同社を設立した宮脇良二CEOは、「デジタル技術を活用したイノベーションにより、脱炭素化社会の実現を目指すクライメートテック企業」と、その位置付けを語る。

再エネと貯蔵技術 電気の最適利用を目指す

1998年にアクセンチュアに入社。電力・ガス事業部門の統括パートナーを務めるなど、エネルギー業界を対象にしたコンサルティング業務に長く携わり、2016、17年の電力・都市ガスの小売り全面自由化に際しては、エネルギー各社の自由化への移行やデジタルトランスフォーメーション(DX)化を後押しした。

起業を決意したのは、「自らイノベーションを生み出し実行する役割を担いたい」との思いから。当初は、ブロックチェーンやP2P(ピアツーピア)技術を活用したサービスを模索したが、再生可能エネルギーの大量導入時代を見据え、蓄電池やEVといった貯蔵技術と変動性再エネ(VRE)を組み合わせ、デジタル技術で需要と供給をマッチングさせることで付加価値を創出するビジネスモデルを構築する戦略にかじを切った。

エネルギー市場の自由化、DX化をビジネスチャンスと捉え、多くのスタートアップ企業が続々と誕生しているが、宮脇CEOには「日本のエネルギー構造と世界の先端事例の両方を理解しているスタートアップはそれほど多くなく、ビジネスの本質を理解した上で、高度なデジタル技術を活用したイノベーションを担えるという点で他社よりも優位にある」との強い自負がある。

35人の社員全員がエンジニアであり、プログラミングができるというのも大きな強み。自ら試行錯誤しながらシステムを開発し、先行する海外スタートアップの事例をベンチマークにしながら、日本の市場に合わせたサービスの確立を目指している。 

同社が本社を置く九州は、全国に先駆けて太陽光発電設備の導入が進み、発電量が需要を上回り出力抑制が実施されることがしばしば。まさに「課題先進地」であり、同社の取り組みの狙いは、市場の価格メカニズムをうまく活用して需給をマッチングさせ、より電気料金が安い時間帯に消費を促すといった、この社会課題を解決する仕組みを作り上げることにある。

基本的に、電力市場価格が安いときは、原子力や再エネを中心とした低炭素な電源が稼働している時間帯、価格が高いときは火力発電が稼働し炭素排出量が多い時間帯だと考えられる。つまり、理論上は、炭素排出量と市場価格には相関があり、より安い時間帯にEVや蓄電池に電気をためるなど消費を促すことができれば、再エネを余すことなく活用し脱炭素につなげることができるわけだ。

VPP(仮想発電所)のようにバーチャルで全体の需給を一致させることで付加価値を創出することは難しいと判断しており、同社が志向しているのは家庭やオフィス、工場などのエネルギーマネジメントシステムと連動し、建物・設備ごとに最適化することだ。

現在は、EVを所有する需要家の住宅30件と企業のオフィスの協力で、市場価格変動(ダイナミックプライシング)とEVにためた電気を宅内に供給する「V2H」機器を組み合わせ、①JEPXの価格予測、②太陽光発電予測、③消費電力予測、④EVの稼働予測―という四つのAI予測をもとにIoTで充放電を最適制御する実証に乗り出している。宮脇CEOは、「将来は、日本全国で出力抑制が発生する。実際に問題が発生している九州の地で実証を進めサービスを作り込み、全国展開につなげていきたい」と意気込む。

システムの柔軟性創出 デジタルサービスで貢献

同社が手掛けるもう一つの事業の柱が、カーボンニュートラルを目指す製造業などの企業向けコンサルティング業務だ。炭素排出量の見える化、EVのスマート充電や建物のエネマネなど、脱炭素化に資する多様なデジタルサービスを開発しクラウドで提供。さらには、新電力「ナチュールエナジー」として、再エネを調達し供給するところまで手掛けている。

宮脇CEOは、脱炭素化された社会をどのように描いているのだろうか。聞いてみると、「デジタル技術を駆使して、貯蔵やスマートホームの機能を活用することで可能な限りエネルギーを自給自足し、不足する分だけを一番安い時間帯に集中型の大規模システムから調達することが可能になっている社会」との答えが返ってきた。

カーボンニュートラルといえば、再エネ導入や水素活用などハード面が注目されがち。だが、需要と供給をうまくマッチさせ電力システムの柔軟性を創出できなければ、そうしたハードを使いこなすことができない。より柔軟性を高められるようなデジタルサービスを、しっかりと提供していく考えだ。

【マーケット情報/4月14日】原油急伸、需給緩和感が台頭


【アーガスメディア=週刊原油概況】

4月8日から14日までの原油価格は、前週から一転し、主要指標が軒並み急伸。需要回復の見通しと、供給の先行き不透明感で、価格が反発した。

中国は、上海における新型ウイルス感染拡大防止策のロックダウンを一部緩和。移動および経済活動の再開と、それにともなう石油製品の需要回復へ、期待が高まった。

また、ロシア産原油の供給不安も価格に対する上方圧力となった。欧州連合は、原油とガスも含め、ロシアのエネルギー輸出に対する追加制裁を検討している。

ただ、現時点では、加盟国間で意見が分かれている状態だ。アイルランドやリトアニアがロシア産原油への規制を促す一方、ルクセンブルグは禁輸措置の効果に疑問を呈している。また、スペインは経済への影響に懸念を示した。

【4月14日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=106.95ドル(前週比8.69ドル高)、ブレント先物(ICE)=111.70ドル(前週比8.92ドル高)、オマーン先物(DME)=105.36ドル(前週比7.54ドル高)、ドバイ現物(Argus)=105.54ドル(前週比7.24ドル高)

ドイツに学ぶエネルギー安全保障


【ワールドワイド/コラム】水上裕康 ヒロ・ミズカミ代表

ついにロシアのウクライナ侵攻が始まったが、これにより注目を集めるのがEUのロシアに対する天然ガス依存だ。ウクライナにはその主力供給ルートが通る。EU全体では需要の3分の1、ドイツは2分の1をロシアからの輸入に頼っている。

なぜドイツは戦略物資であるガスのロシア依存をここまで高めたのか。振り返れば、脱ロシアを決断する機会は何度もあった。2009年のロシア・ウクライナ間のガス価格交渉のこじれによる欧州向け供給停止、あるいは14年のロシアによるクリミア半島併合などだ。このときドイツが選択したのは、脱ロシアではなくウクライナのバイパスだ。そして、発電の不安定な再生可能エネルギーを増加させる一方、原子力、石炭火力などを削減してきた。

昨年春の低温、秋の風力不調などの需給変動の多くをガス火力が引き受けることになり、ガスの需給が逼迫したのはそのためだ。この備蓄の難しい、冬場に需要が偏るエネルギーを電力供給の「最後の砦」としてしまった上に供給の大半を危うい国に預けてしまったのだ。

ドイツ人は、ロシアに対して第二次大戦の贖罪意識が強く、冷戦時代から旧ソ連と独自の「平和外交」を築いてきた歴史がある。冷戦を終結させたのも、その経済外交の成果だと思い込んでいる国民が多いとのこと。元首相のシュレーダーがロシアの石油・ガス会社の要職にあるのもこの流れだ。

第一次大戦時、英国が軍艦の燃料をウェールズの石炭から海外の石油に転換したとき、海軍大臣のチャーチルは石油の安定確保に関し “variety and variety alone”(分散,分散に尽きる)と語っている。ちなみにロシアは、今年に入り中国と新たな契約を結び、静かに買い手を確保している。

ドイツが悩む再エネ力不足 エネルギー安保の原点回帰へ


【ワールドワイド/環境】

ロシア軍によるウクライナ侵攻は今後の世界のエネルギー・温暖化政策動向に大きな影響を与えるだろう。とりわけ影響が大きいのはドイツである。

ドイツではメルケル政権下で2023年の脱原発、38年の石炭フェーズアウトを決めた。緑の党の参加を得て昨年12月に発足したショルツ連立政権の下では、総発電量に占める再生可能エネルギーのシェアを30年までに80%に引き上げ、石炭火力のフェーズアウトを30年に前倒しするとの方針が打ち出された。  

変動性再エネのバックアップと閉鎖される原子力、石炭の代替を期待されていたのがロシア産の天然ガスであり、そのための切り札がノルドストリーム2であった。これが稼働すればドイツの対ロシア天然ガス依存度は7割に達する予定であった。

ロシアのウクライナ攻勢の強まりや、米国などからの圧力もあり、さすがにドイツもノルドストリーム2の承認を停止せざるを得なくなった。そこへ今回のロシア軍によるウクライナ侵攻が始まった。欧米諸国が厳しい経済制裁を課す中でロシアからの石油、天然ガス調達に影響が出ることは必至だ。こうした状況下で、ドイツによるロシア頼みのエネルギー転換の胸算用はむなしくなった。

ついにショルツ首相は「ここ数日の動きにより、責任ある、先を見据えたエネルギー政策が、わが国の経済と環境のみならず安全保障のためにも重要である」とエネルギー政策を大転換するとの方針を示した。緑の党出身のハベック連邦経済・気候大臣は原発閉鎖の先延ばし、石炭火力の長期稼働も選択肢の一つとしている。

反原発は緑の党のDNAのようなものであり、温暖化防止至上主義からすればガスの穴を石炭で埋めることなどあり得ない。それでも、ショルツ首相らがこうした選択肢を検討せざるを得なくなった。それは、国民生活、産業活動にとって決定的に重要なのはエネルギーの安定供給であり、何事にも優先する他にないからだ。

環境至上主義者はウクライナ戦争によって再エネ100%へのスピードが加速すると強弁している。しかし、現実が示しているのは再エネの力不足である。つまり脱炭素に偏重したエネルギー政策のエネルギー安全保障への回帰である。ドイツを礼賛していた元首相五人はどうコメントするだろうか。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院特任教授)

70年排出ゼロ目指すインド 再エネ導入で送電投資拡大へ


【ワールドワイド/経営】

インドのモディ首相は2021年11月1日、英国で開催された第26回国連気候変動枠組み条約締国会議(COP26)の首脳級会合で演説し、70年までにカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)を達成するという目標を発表した。

国際エネルギー機関(IEA)によると、インドの19年のCO2排出量は世界全体の約7%の23億tで中国、米国に次ぐ第3位のCO2排出国である。

モディ首相はカーボンニュートラル達成に向け、30年までに①非化石電源発電設備容量を5億kwに引き上げること、②国内で使用する電力の50%を再生可能エネルギー由来とすること、③GDP当たりのCO2排出原単位削減目標を現状の05年比33~35%減から45%減に引き上げること、④CO2排出量をBAU(対策なし)比で10億t削減すること―の4項目を示した。

設備容量で37%を占める同国の再エネ電源は今後一層の拡大が見込まれるが、ポテンシャルが西部や南部などに偏在していることから、州間送電線の効率的な増強が急務となっている。米国ローレンスバークレー国立研究所の21年12月公表のレポートによると、インドで30年までに4億5000万~5億kwの再エネを導入する場合、必要となる州間送電線の送電容量は現状の2倍以上の2億8000万kwで、投資規模は3兆円近くと試算されている。

同国の送電事業は、外資の参入実績は少ないが、民間事業者に開放されている。モディ政権は送電事業を含めたインフラ整備全般において民間投資の活用を積極的に進める方針だ。21年12月には州間送電線計画23件を承認し、このうち13件は競争入札で事業者を決定する。さらに22年1月、第2期「緑のエネルギー回廊」プロジェク(GECII)について、約1900億円の予算を承認した。

GECIIは、再エネが豊富な州で発電した電力を全国で利用するための送電線建設計画で、25年度までの5年間で送電線1万750㎞(回線延長)と変電所(変圧器容量計2万7500MVA)を新設する。GECIIでも競争入札を実施し、政府がコストの33%を補助する。

インドで送電事業を行うインフラ投資信託のIndiGridは今後4年以内に、州間・州内送電線合わせて1・4兆円規模のプロジェクトが競争入札に付されると予想。今後は外資を含めた民間事業者による送電投資機会の増加が見込まれる。

(栗林桂子/海外電力調査会 調査第二部)

ロシア財政の要である石油生産 迫られる新規フロンティア開発


【ワールドワイド/資源】

ロシアにとって石油天然ガス輸出は財政の要であることは疑いの余地がない。中でも、税収としての重要性は石油の方が大きい。輸出総額では原油および石油製品の輸出総額は1530億ドル、全体の45%に上る。地政学的にはロシアからの天然ガス供給やパイプラインプロジェクトが着目される傾向があるが、天然ガスの輸出総額は全体の9%に当たる320億ドルで、石油の5分の1にとどまる。

石油収入確保がロシアにとって喫緊の課題である一方で、原油生産量は早晩減退を迎えることが予想されている。短期・長期見通しでは、足元ではコロナ禍からの需要回復と、OPECプラス協調減産の順次解除による生産増加を見込むが、2025年~30年のどこかで生産ピークを迎え、その後減退する公算が高い。長期的な見通しでは、最大で50年までに現在の生産量の8割まで減少する可能性も指摘されている。

増産傾向にある天然ガスと随伴する液分であるコンデンセートの含有率の高い、いわゆる「ウェットガス」が石油生産を補完していくと予想される。コンデンセート生産量は25年以降、6・5%という高い上昇率で増加傾向にあり、30年に日量108万バレルであるピーク生産量に達する可能性がある。増産基調から、ロシアはOPECプラス協調減産の枠組みで、コンデンセート生産量の減産対象からの除外を主張し、認められている。

生産を維持し、石油産業からの歳入を持続的に確保するには新規フロンティア開発が急務となる。世界最大のシェール層「バジェノフ」と地球上に残された最後の炭化水素フロンティアである北極域。減退する石油生産量を補完する新たなソースとして期待されるが、14年の欧米制裁で開発は遅延してきた。制裁発動から丸8年、外資に依存してきた分野では国内技術・製品への代替が加速している。14年当時の対外依存度が51%であったのに対し、21年には40%へ低下した。欧米制裁という環境がロシアの石油・ガス産業を強靭化している。

ウクライナを通る原油・天然ガスパイプラインへの影響も心配されるが、限定的な流量であることから、途絶した場合でも欧州市場への影響は軽微なものと考えられている。ロシアによるウクライナ侵攻で、日本も含め欧米は「これまでにない規模」の制裁をロシアに課している。今後の両国の戦闘の趨勢と欧米制裁の動きが注目される。

(原田大輔/石油天然ガス・金属鉱物資源機構調査部調査課)

再エネ100%で危機回避? あまりに能天気な東京新聞


【おやおやマスコミ】井川陽次郎/工房YOIKA代表

実用日本語表現辞典によると、「能天気」には相手をさげすむニュアンスがあるため「楽天的」と言い換えた方がいいらしい。東京3月3日「ウクライナ侵攻、世界でエネルギー危機」に、どちらを使うべきか少し悩んだ。

見出しは「わき出る原発回帰論」「戦時には標的、少ない供給量、核ゴミ未解決」で、締めは識者のコメントだ。「再生可能エネルギー100%になれば、今回のような事態でもあわてなくて済む」という。

日本の電源構成をご存じか。最も比率が大きいのは4割近くを占めるLNGで、石炭の約3割が続く。再エネは2割弱にすぎない。目前の危機に太陽光発電や風力発電などの再エネでは対応できない。そもそも再エネ100%が怪しい。

日経クロステック2月8日「日本の再エネ、狭い国土と安定供給に難」は「太陽光発電や風力発電は広い設置面積を必要とする割に発電量が小さい」と指摘する。

例に挙げるのは「日本最大級の太陽光発電所『瀬戸内 Kirei 太陽光発電所』」だ。「約260ha(東京ドーム56個分)の敷地を持ち、最大出力235MW。一般家庭約8万世帯分に相当する電力を供給できる」。だが、「この数字は最新の火力発電所1基の出力に満たない」。非力である。

事態は深刻だ。特に欧州は、天然ガスの4割をロシアから輸入している。中でもドイツは依存度が5割を超える。ロシア制裁のため大幅な引き下げが必要だ。

日本のロシア依存ははるかに低い。それでも日経3月4日「商社や電力、LNG調達に奔走、輸入量8%がロシア産」と、業界は対応を急ぐ。燃料費上昇を抑えるには、安全性が確認された原子力発電所の安定稼働が欠かせない。

同日、国際エネルギー機関(IEA)が発表した「脱ロシア依存に向けた10の計画」は「ロシアとの新たなガス供給契約を結ばない」や「輸入を他国に切り替える」を提言した。「再エネ導入加速」「原子力発電活用の最大化」も挙げた。総力戦である。

ロシアはエネルギー資源を背景に欧州への影響力を強めてきた。しかも欧州は脱炭素のため天然ガスの利用拡大に期待する。ウクライナを侵略しても欧州に大したことはできまい。ロシアはそう考えていた、との指摘は多い。

対するウクライナは国際的な世論工作に力を入れ、欧米など多くの国を味方に付けた。情報戦は実際の戦闘に劣らずしれつだ。

読売3月5日社説「原発が標的に、プーチン氏は正気を取り戻せ」は、「原子力施設への攻撃は取り返しのつかない大惨事を招きかねない。人類と文明社会に対する許しがたい暴挙である」と指弾した。ロシア軍がウクライナ南東部のザポリージャ原子力発電所を攻撃した、と現地の通信社が伝えたことを踏まえている。

ロシア側はツイッターで同日、攻撃は「ウクライナの破壊工作グループ」による挑発行為で、「西側メディアがあおり立てたヒステリー」と主張した。両国が発信する情報は多くが食い違う。

何が事実か。日本の記者はほとんど戦地におらず、直接の取材は少ない。戦地の住民へのネット取材もあるが、最新情勢は海外メディアの記者がネットで伝えるニュースから判断するしかない。

1990年の湾岸戦争で憎悪をあおった虚偽告発(ナイラ証言)など紛争に世論工作はつきものだ。能天気なエネルギー報道を含め冷静にニュースを読み解きたい。

いかわ・ようじろう デジタルハリウッド大学大学院修了。元読売新聞論説委員。

『太陽の都』*の幻想 ソーラーパネルの否定的側面


【オピニオン】セルゲイ・デミン/ロスアトム東南アジア日本支店代表

新型コロナウイルスによるパンデミック以前の15〜20年よりも、この2年間の方が世界は変わっている。原始的な消費の時代が終わり、創造の時代が始まる。持続可能な開発は、あらゆるレベルの生産の基盤になりつつある。エネルギー分野も例外ではない。

私たちは、エネルギー生産をできるだけ環境に配慮したものにしようと努めている。その点から、いま、多くの人たちによって万能薬として提供されている、太陽光発電や風力発電など「グリーンエネルギー」という選択肢を批判的に見ることは非常に重要である。

例えば、非常に「グリーン」なソーラーパネルは、有害な半導体の製造工程を経て作られている。パネルは、比較的効率の低い結晶シリコン製だ。比較的効率の高いパネルは、ガリウムとヒ素の化合物で有害なガリウムヒ素をベースに作られている。

使用済みソーラーパネルの処理の際にも、パネルに大きな炭素と化学物質の足跡が残っていることは、結論付けられている。そのうち、大量リサイクルの問題が人類の関心事になるだろう。 

電力は安定的に供給することが不可欠である。時間帯に左右されるソーラーパネルは、信頼性に欠けることがある。この意味では、風力発電も同じように信頼性が低い。このようなソースが広く使われることはユートピア的な発想と言わざるを得ない。

可変エネルギーを完全になくせとは言わない。しかし、われわれは原子力発電をもう一度見直す必要があると確信している。

原子力発電は、低炭素で信頼性の高い唯一の基礎電源である。天候に左右されず、24時間体制で送電網に接続されている。原子力発電所の敷地は、同規模の太陽光発電所よりもはるかに小さな面積を占める。

原子力発電を続けることは、今後、何年にもわたる予測可能な電力価格とエネルギー自立を意味する。

原子力、放射線、環境の安全確保を含め、使用済み核燃料や放射性廃棄物を取り扱う技術を、ロスアトムを含む世界有数の企業は数多く持っている。

一方では持続可能性への関心が高まり、他方ではエネルギー消費の増加が予想されることから、エネルギー源である原子力への需要が高まることになる。このことの理解は広まっており、脱原発支持派が2019年の60%から36%に低下しているドイツの世論調査が非常に示唆的である。

 再生可能エネルギーだけで持続可能なエネルギーシステムを持つことは不可能であることを認識し、21世紀に『太陽の都』を建設するという約束を盲信することをやめるべきだと思っている。

原子力発電所を閉鎖しても、自然エネルギーが増えるわけではなく、炭化水素が増えることを認識しなければならないのだ。

*トマソ・カンパネラによる哲学的作品で古典的なユートピアの一つ

セルゲイ・デミン 1990年モスクワ国際関係大学卒、ノーヴォスチ通信社入社。石油・天然ガス会社、大手不動産会社幹部を経て、2015年からロスアトム・インターナショナル・ネットワーク社東アジア地域副社長。日本語、英語に堪能。

大震災機に地産地消へ本腰 官民連携で目指す持続可能な地域


【地域エネルギー最前線】神奈川県小田原市

カーボンニュートラルの実現に向け、地域社会はそれぞれどんな戦略を描いているのか。

各地の挑戦を追う連載初回は、東日本大震災を機に官民連携を進めた小田原市を取り上げる。

11年前の東日本大震災は、多くの地域にエネルギーの地産地消を意識づけるきっかけとなった。神奈川県小田原市も、計画停電に伴う市民生活への影響や、観光業などの地域経済が打撃を受けた経験から、エネルギーシステムの在り方を再考するようになった。

震災後に環境省の再生可能エネルギー関連事業に市が採択され、地元企業などと立ち上げた検討会が、現在に至る一連の取り組みの土台となった。地元商工会議所には温暖化対策に積極的な企業が多く、多様な主体がエネルギーの地産化に関わる機運が醸成された。

2012年4月に市は、専門部署となるエネルギー政策推進課を設置。事業者への奨励金などで再エネの利用促進を図る条例や、エネルギー計画を制定した。その延長線上で19年、50年カーボンニュートラル(CN)という長期目標を掲げ、その後全国的に広がった自治体の「ゼロカーボン宣言」の先駆けとなった。今春には、22年度から環境省が着手する「脱炭素先行地域」第一弾にも応募した。

地域ではこの間さまざまなプロジェクトが展開されてきたが、いずれにも市は出資せず民主導の形を貫いている。「再エネは持続可能なまちづくりのために必要なインフラ。その事業が自走し、地域経済を回していくことが最も重要だ」(山口一哉・市エネルギー政策推進課長)との考えからだ。 

軌道に乗る「0円ソーラー」 屋根置き太陽光さらに拡大へ

まず手を付けたのは再エネ電源の拡充だ。地元企業二十数社が出資した発電事業者「ほうとくエネルギー」が中心となり、太陽光をメインに導入を進めた。徐々に拡大する地産電源を活用するため、再び地元企業が出資した地域新電力の「湘南電力」も誕生。売電収益の一部をパートナー企業に還元するなど、地域循環を意識した経営方針を取る。現在約3800件の顧客を抱えている。

都市部で有望な屋根置き太陽光の導入加速が急務となる中、力を入れているのが第三者所有モデルの「0円ソーラー」だ。パネル設置費用の一部に県の補助金を活用し、残りは湘南電力が負担して10年間で電気代から回収。導入実績は約180カ所まで増えた。ほうとくエネルギー立ち上げから関わり、現在湘南電力の経営も担う小田原ガスの原正樹社長は「自前電源を増やすだけでなく、顧客が地域で再エネを生み出す主体になるという側面にも大きな意義がある」と強調する。

21年度は0円ソーラーの環境価値を地域内で循環させる実証も行った。市や湘南電力のほか、新電力向けサービスを展開するエナリス、CO2削減可視化サービスを提供するゼロボードが参加した。環境価値をJ―クレジット化し、電気とセットで販売するメニュー「湘南のカーボンフリー」を活用。顧客の和菓子店が、同メニューで商品の「カーボン・オフセット」を実現するとともに、削減したCO2の量に応じ店で使えるクーポンを0円ソーラー所有者に還元する。スキームにはクレジット化の煩雑さなど課題も多いが、この経験を次のビジネスにつなげていく。

「地元の商品を地元の電気でオフセットし、発電側と利用者間の絆も生まれる。こうした試みを引き続き模索しつつ、持続的なインフラを地域で担う必要性を市民にも認識してもらいたい」(原氏)。

CNを見据えた市の現在の再エネ導入目標は30年度15万kW。現状の5倍で、屋根置き可能な建物の3分の1に相当するチャレンジングな水準だが、地域全体を巻き込んでその達成を目指していく。

【北神圭朗 有志の会 衆議院議員】「平和で豊かな日本を次世代に」


きたがみ・けいろう 1992年京都大学法学部卒、大蔵省(現財務省)入省。2005年衆院議員。拉致問題特別委員会筆頭理事、経済産業大臣政務官、内閣府大臣政務官(原子力損害賠償支援機構担当)、首相補佐官などを歴任。

湾岸戦争での日本のあいまいな対応をきっかけに、「祖国に貢献したい」と政治家を志す。

幼少時から米国に長く滞在するが、政治活動の底流には「日本人の魂」がある。

 「北神さんは腰が低いなあ」。大蔵省の調査企画課(当時)に勤めていたときのこと。ある大手都市銀行からの出向者に、こう言われたことがある。調査企画課には、金融機関から10人ほどが出向し、職員と机を並べて働いていた。いずれも優秀な銀行マン。だが、大蔵省のキャリア官僚から見れば、「民」の人たち。尊大な態度に、眉をひそめる出向者もいた。

しかし、北神圭朗氏には、そもそも相手の所属や地位で対応を変えるという意識がなかった。米国滞在18年の帰国子女、京大法学部、大蔵省、衆議院議員―。絵に描いたようなエリートコースをたどる。だが、生い立ちや国会議員になるまでの経緯などを聞くと、経歴から思い浮かぶエリート像とはかけ離れた政治家の姿が浮かび上がる。

1967年、まだ1ドル360円の時代。父・泰治氏は夫人と生後9カ月の圭朗氏を連れて米国に渡った。大企業から派遣されたわけでも、就職口の保証があったわけでもない。高いドルを稼いで、日本に戻って一旗揚げる―。そんな考えだけの、やや無謀な渡米だった。

決して治安良好とはいえない加州ロサンゼルスのダウンタウン。ここに住居を定め、日本からボルトやナットを仕入れて販売する事業を始める。米国のネジ業界は、コネもないアジア人がすぐに入り込める世界ではなかった。差別的な発言は日常茶飯事。売掛金の回収に赴き、拳銃を突き付けられたことも。そんな体験を重ねながら、ビジネスの足場を築いていった。

一方、圭朗氏は米国での暮らしが水に合った。小学校から成績は常にトップクラス。自由で個性を重視する米国で、充実した学園生活を送る。そんな圭朗氏にも、週に一度、気持ちが沈むことがあった。ロサンゼルス郊外に日本人のための補習校、朝日学園がある。通うのは主に米国に赴任した企業人の子女。泰治氏は土曜日、この学園に通うことを子供たちに義務付けた。「お前、漢字もろくに書けないのか」。現地の学校のクラスメートの視線から一転、朝日学園では日本人生徒から見下される存在に。気が付くと、劣等生のレッテルを貼られていた。

やがて問題児扱いになり、教師は両親を呼び、「周りの子供たちに迷惑。無理に通わせることはない」と退学を勧告。しかし、泰治氏はやめることを許さなかった。日本人としての自覚をなくしたら、自分たちは根無し草になってしまう―。激しい差別や不条理に向き合って痛感した「日本人の魂」を持つことの大切さ。それを子供たちにも、しっかり胸に刻んでほしかった。

自民党の強固な地盤で立候補 選挙で鍛えられ役に立つ政治家に

帰国し京大に入学。湾岸戦争での日本のあいまいな態度に違和感を覚え、「自分も祖国に貢献できる」と考え始める。前原誠司氏(現国民民主党代表代行)の選挙応援などをしながら、政治の道に進むことを決心。「そのためには、まず財政の勉強」と大蔵省に入る。約10年間、官僚として働き、2003年、民主党公認で衆議院選挙に出馬した。

選挙区は、自ら京都4区を選んだ。野中広務元自民党幹事長が7回当選を重ねた、強固な自民党の地盤だ。「初陣」は野中氏の後継者を相手に落選。それから選挙での戦績は四勝四敗(参議院選一敗、衆院繰り上げ当選を含む)。楽な選挙は一度もない。だが、4区を選択したことを後悔していない。「政治家の仕事は人に動いてもらうこと。この選挙区で人間が鍛えられれば、役に立つ政治家になれる」。民主党が大敗した12年を除き、選挙のたびに1万票ほど得票数を増やしている。21年の総選挙では、自民候補に約1万6000票の差をつけて当選を果たした。

11年9月、野田内閣の経済産業大臣政務官に就任。真っ先に取り組んだのは、原発の再稼働だった。福島第一原発事故を受けて関西電力の原発が停止し、近畿圏の電力需給は危機的な状況に陥る。停電回避に大飯原発の再稼働が欠かせなかったが、枝野幸男経産相も経産官僚も原発事故で委縮、腰が重い。そのため自ら周辺自治体の首長との交渉を行い、強硬に反対していた橋下徹・元大阪府知事とは直談判。「暫定的な再稼働」とすることで了解を得た。

いま最大の課題は、人口減少に歯止めをかけることだ。全人口に占める現役世代が減り始め、このままでは国力は衰退の一途をたどる。先祖が築いた平和で豊かな日本を次の世代につないでいく―。強い信念を持ち、少子化対策などに取り組んでいる。

かばんには折口信夫の『口訳万葉集』をしのばせている。時折ページを開き、劣等生として過ごした朝日学園での日々を思い返すという。

【マーケット情報/4月8日】原油続落、需給緩和感強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み下落。供給増加と需要後退の見通しが一段と強まり、価格が続落した。

国際エネルギー機関の加盟国は、今後6か月間に渡り、戦略備蓄(SPR)を追加で1憶2,000万バレル放出する計画。このうち6,000万バレルは米国からで、同国が3月末に発表した1億8,000 万バレルのSPR放出の一部となる。米国の放出分と合わせて、合計で2億4,000万バレルの原油が追加で供給される見通しだ。

また、米国の石油サービス会社ベーカー・ヒューズが先週発表した国内の石油掘削リグの稼働数は546基となり、前週から13基増加。2020年4月以来の最高を記録した。

中国・上海におけるロックダウン延長も、価格下落の要因となっている。上海では新型コロナウイルスの感染拡大が続いており、移動や経済活動に対して厳しい制限が敷かれている。これにより、移動用燃料の消費減少や、経済の冷え込みにともなう石油需要後退の予測が一段と強まった。

一方、OPECプラスの3月産油量は日量3,806万バレルとなり、2021年2月以来初めて前月比で下落した。また、当初の生産計画を日量148万バレル下回り、価格下落をある程度抑制した。

【4月8日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=98.26ドル(前週比1.07ドル安)、ブレント先物(ICE)=102.78ドル(前週比1.61ドル安)、オマーン先物(DME)=97.82ドル(前週比3.36ドル安)、ドバイ現物(Argus)=98.30ドル(前週比2.88ドル安)