【熊谷俊人千葉市長】電力と通信は密接な関係


くまがい・としひと 1978年、神戸市出身。2001年早大政治経済学部卒、NTTコミュニケーションズ入社。06年NPO政策塾「一新塾」に入塾後、07年千葉市議に当選。09年から千葉市長を務める。現在3期目。

NTT時代の知見を生かして、千葉市のレジリエンス化に向けて尽力する。阪神・淡路大震災も経験し、史上最年少の政令指定都市市長となった。

生まれは奈良県天理市だが、父親の転勤で大阪府堺市、千葉県浦安市、兵庫県神戸市で少年時代を過ごした熊谷氏。政治に関心を持つきっかけには、「高校生2年生の冬に、阪神・淡路大震災で被災したこと」を挙げる。

震災では、電気・水道・通信など、生活に欠かせないライフラインが分断。「都市計画を日ごろからどう進めるかが、防災にとって重要だと幼いながらに感じた。災害対応は国政の対応よりも、県知事や市長の判断力が問われる。被災を経験した一人の住民として、地方政治に参加したい」との思いを抱いた。

早稲田大学政治経済学部に入学し、卒業後はNTTコミュニケーションズに入社。当時の直属の上司は、現在NTT社長の澤田純氏だった。就職後も政治に対する関心は高かったといい、思いを知る別の上司から「政治家に会ってみないか」との話を受ける。議員会館で、当時民主党の代議士だった田嶋要氏と面会。ちょうど千葉市議選の候補者公募が行われていたこともあり、公募参加の誘いを受ける。その後は大前研一氏が主宰する政治塾に入塾し、公募にも合格。2007年に行われた市議選に出馬し、当選を飾った。

市議として活躍していた09年4月、大きな転機を迎える。鶴岡啓一・前千葉市長が収賄で逮捕される事件が発生したのだ。鶴岡氏を支援していた自民・公明陣営の新たな候補者の対抗馬として、熊谷氏に白羽の矢が立った。同年6月に市長選が行われると、過去最高得票を得て当選。政令指定都市では最年少の、31歳4カ月の若さで千葉市長となった。

NTT・東京電力と連携 電気・通信の強靭化に注力

市長としては、11年に東日本大震災、19年には台風15・19号など、未曽有の大災害を相次いで経験。東日本大震災では、千葉市内各所の住宅の損壊、土砂崩れのほか、液状化も発生し、停電や都市ガス供給に支障を来す被害を受けた。その後、市は民間企業と防災に向けた取り組みを進めたが、その最中に台風15・19号が千葉県に襲来。館山市、南房総市など房総半島の広い範囲が長期間にわたって停電に遭い、千葉市でも若葉区、緑区など内陸部の住宅地で数日間にわたって停電が発生した。

「メディアで千葉市内の状況はあまり報道されなかったが、停電で電気が使えないことに加え、水道のポンプが停止したため断水した地域も多かった。千葉にとっては東日本大震災以上の被害が起きた印象だ」と振り返る。

こうした災害の教訓を生かし、4月に東京電力、NTT、NTTアノードエナジー、東電とNTTの合弁会社であるTNクロスが、千葉市のレジリエンス(強靭性)能力を高める取り組みを行うと発表。市内182カ所の避難所に太陽光発電と蓄電池などを導入するほか、NTT東日本千葉支店の周囲に自営線を敷設し、災害時に電力供給を行うという。

東電、NTTグループと連携した防災力の強化について、「18年の北海道のブラックアウトでもそうだが、電気が止まれば通信機器も使えなくなる。私自身、NTTに勤めていた時から、電力と通信は密接な関係にあり一体的なものだと感じていた」と説明する。また古巣のNTTについては、「澤田社長に『電力と通信の強靭化で一緒に何かできませんか』と相談すると、『NTTも電力をしっかりとやらなればならない』と、熱意を持って応えてくれた」と語る。これまで千葉市が民間企業と多くの連携を行ってきたことに加え、熊谷氏の人脈も、電力と通信の融合によるレジリエンス強化という試みに乗り出した大きな要因かもしれない。

また市の内陸は農村地帯が広がり、太陽光発電所も多い。地元住民からは「太陽光を自分たちのレジリエンスのために使えないか」との要望も受けていた。「台風で甚大な被害を受けた地域だからこそ、電力強靭化政策に市民・議会の理解を得られた。これを災害に強いまちづくりの旗頭の一つに据えて取り組みたいと考えている」と抱負を述べる。

座右の銘は「温故知新」。歴史好きであるだけに「歴史の歩みを知ることで、学べることは多い」と、趣味が過去の教訓を生かした政策作りに反映されているのかもしれない。

目下、千葉県知事選への出馬も取り沙汰されている。出馬について聞くと「あくまで報道で出ているだけですよ」とさらり。とはいえ「千葉県には海も山もあり、畜産や新鮮な農水産物もある。いわば東京の隣にある北海道のようなもの。千葉のブランド力向上や地域のアピールを積極的に行いたい」と、さらなる活躍に向け意欲を示した。

自治体首長の中で、ツイッターのフォロワー数は大阪府知事の吉村洋文氏、都知事の小池百合子氏、大阪市長の松井一郎氏に次ぐ4番目。情報発信能力に定評のある熊谷氏の今後に関心が高まりそうだ。

「温暖化台風猛威論」の嘘 現実は大型化も多発化もせず


【気候危機の真相 Vol.08】長辻象平/産経新聞論説委員

「温暖化で台風が大型化・多発化している」といった主張は、既成事実化されつつある。だが統計を見れば誤りであることは一目瞭然。温暖化脅威論の「不都合な真実」がそこにある。

一昔前、次のような戯れ歌があった。

「郵便ポストが赤いのも、電信柱が高いのも、みんな私のせいなのよ」―。現代ではこのフレーズが「熱中症が増えるのも、梅雨の雨が多いのも、世界で山火事が起きるのも、みんなお前のせいなのだ」に形を変えて大流行の状況となっている。

ここでの「お前」とは、大気中のCO2と地球温暖化のコンビのことである。現代のほとんどありとあらゆる異常気象が、このコンビの仕業とされている。冬に大寒波が南下したり、砂漠に雪が積もったりしてもいろんな理由をこじつけられて、コンビのせいということになってしまうのだ。

そうした認識構造の土台には、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)などが、この約30年間にわたって強調し続けてきたCO2による温暖化脅威論が広く深く根を張っている。

こういう状況下で世の中の人々に最も誤解されやすいのが台風の発生だ。「近年は温暖化によって台風が大型化し、かつ多発化の傾向にある」とする新聞記事などに接する機会が増している。

それに加えて、台風は海面から蒸発する水蒸気を燃料とする気体の渦巻きエンジンという科学知識も普及しているので、温暖化台風猛威論は、多くの現代人に一片の疑いも抱かれることなく受け入れられているのだろう。

気象庁統計で一目瞭然 脅威派の「不都合な真実」

だが、温暖化の進行による台風の強大化と多発化という認識は、正確さを欠いているというより、はっきり言えば誤りだ。

理由は気象庁のデータを見れば一目瞭然だ。同庁のホームページには、上陸時の気圧が低い歴代トップ5を載せた「中心気圧が低い台風」の表がある。台風は中心気圧が低いほど勢力が強い。

この表を一瞥すると驚くだろう。すべてが前世紀の台風で、多くが世紀中頃のものなのだ。

1位は1961年の第二室戸台風(925hPa)。2位は59年の伊勢湾台風(929hPa)、3位は93年の台風13号(930hPa)、4位は51年のルース台風(935hPa)と続く。

5位には54年から91年の間に上陸したいずれも940hPaの台風が6個並んで計10個。温暖化が問題になり始めた90年代の台風は、この10個中、わずか2個という少なさだ。

日本の台風では34年の室戸台風(912hPa)と45年の枕崎台風(916hPa)を忘れてはならないが、これらの超大型は一覧表から漏れている。

理由は気象庁の台風統計が51年からなので、参考記録扱いになっているためだ。

ともあれ、気象庁のデータからは現代よりも、過去の時代において、中心気圧が低くて強大な台風がひしめいていた実態がありありと見えてくる。

温暖化への恐怖をあおる勢力にとっては、まさしく「不都合な真実」だ。

次に、日本に上陸する台風の数は増えているのだろうか――。

1900年から2014年における日本の台風上陸数

気象庁の台風統計は、台風の定義が現在のものになった51年以降のものしかない。長期変化の把握にはもう少し古い時期の上陸数を知りたいところだ。そうした研究はないかと探していたところ、それがあった。

横浜国立大学教育学部の筆保弘徳教授や北海道大学理学部の久保田尚之特任准教授ら三人の台風研究者による2016年の論文だ。

【新電力】衝撃の容量市場 分かれる対応


【業界スクランブル/新電力】

1万4137円という、9月14日に突如公表された容量市場約定価格は、電源を持たない新電力にとって大変高額な負担になる。17日に開催された第42回制度検討作業部会で、新電力からは事業継続性に関わるといった切実な意見が出ている。最も大きな議論になる論点は、経過措置と逆数入札の在り方と考えられ、今後、既設電源の「棚ぼた」について議論が行われることになるだろう。

さて、今回、新電力間でも、電源を持つ新電力と持たない新電力で明暗が分かれた。大手新電力でガス・石油系は自社電源により容量市場収益がそれなりに確保できることから、影響は軽微であろう。問題は電源を持たない新電力、かつ主に高圧需要を積み上げてきた新電力である。高圧需要はここ数年の過当競争により、基本料金が限界まで値引かれているケースが多く、価格引き上げも容易ではない。既に新電力から入札やり直しや約定処理の見直しの声が上がっているが、これまで審議会で決めたルールに基づいて行った入札である。市場の信頼性を維持する観点から、今回の結果に基づいた負担は(仮に電源が「棚ぼた」的な利益を得ていたとしても)受け入れる必要がある。

気になるのは再生可能エネルギー系新電力の動きである。小泉進次郎環境相は9月29日、10月2日、6日の閣議後会見で容量市場の透明性・価格の妥当性について強い口調で触れており、「主に再エネを販売する新電力から容量市場への要望書を受け取った」と述べている。また、自民党再エネ普及拡大議連でも容量市場について扱うようだ。同議連では発電側課金について、参加議員から強い反発があり、検討が中断している経緯がある。

容量市場にせよ、発電側課金にせよ、有識者会議でさまざまな利害関係者を含めて議論を積み上げた結果、決まった制度である。行政府での議論に参加せず、施行段階で立法府を巻き込んで制度の根本をひっくり返すのは、制度設計・施行の根幹を揺るがすルール違反である。今後の展開に注目したい。(M)

温暖化で注目集まる電気の環境価値 需要家が分かりやすい電源構成表示を


【多事争論】話題:電源構成表示の在り方

再生可能エネルギーの導入拡大が進み、電気の環境価値への注目が高まっている。 FIT、非FITなどが混在する中、あらためて電源構成表示の在り方が問われている。

<FIT電気の環境価値は全電源平均 再エネと分け固有の電気として扱うべき>

視点A:市村拓斗 /森・濱田松本事務所弁護士

エネルギー供給構造高度化法(高度化法)に基づく中間目標の第1フェーズが今年度から開始し、原則5億kW時を超える小売り電気事業者は、3年度の平均で達成状況が判断される中間目標に応じた非化石証書を調達することが必要となる。そのため小売り電気事業者としては、事業戦略上、相対や非化石価値取引市場で調達したことにより発生するコストを、どのように小売料金に反映するかがポイントとなる。

また、近時はRE100や脱炭素化の流れにより、再エネ由来の電気を調達する需要家ニーズが高まりを見せており、非化石価値に付随する再エネ価値(再エネ指定証書のみ)やCO2フリーの価値(以下「再エネ価値等」と総称)をアピールして販売することが販売戦略上より一層重要となってくる。

今年度からすべての非化石電源が非化石証書制度の対象となり、再エネ価値などは電源構成とは完全に切り離されている。例えば、水力の電気を需要家へ販売する場合でも、非化石証書を取得していなければ再エネとして訴求することはできないとされる。もっとも、水力発電所から発電した再エネ由来であることは事実であるため、仮に非化石証書が充てられていない水力の電気であっても、「再エネ由来」であることを訴求することもありうるし、「再エネ由来」の訴求を認めるか否かにかかわらず、電源構成の表示としては再エネ100%になると思われる。

ただし、そうした場合、「再エネ」として訴求できないことと、「再エネ由来」であることを訴求できることとの違いは、一般消費者をはじめとする需要家にとっては、容易に理解しがたい。

電源構成表示に求められる

「正しさ」と「分かりやすさ」

需要家の誤解を回避するための解決策として、注釈(「この電気は非化石証書を充てていないため、再生可能エネルギーとしての価値を有しません」等)を付けることが考えられる。ただ、注釈が多いのも需要家にとっては分かりにくいし、そもそも再エネ由来とアピールしながらその価値を有しないという注釈はかえって混乱を生む懸念もある。電力の小売り営業に関する指針(小売りガイドライン)の環境価値表示については、「正しさ」は大前提であるが、同時に「分かりやすさ」が求められ、電源構成に関する表示は前提としつつも「再エネ由来」といった訴求は認めるべきではないように思われる。

また、FIT電気の表示の在り方についても、見直しが議論されている。これまで、非化石証書を充てる場合、「実質再エネ」という表示が認められてきたが、再エネにもかかわらず「実質」というのは、需要家に分かりにくいという指摘を受けてのものである。ただし、FIT電気については、国民負担で賄われていることを踏まえた制度設計が必要である。すなわち、需要家の負担するFIT賦課金を原資とした交付金による補てんを受けており、その環境価値はすべての需要家に薄く帰属すると考えられる。

そのため、CO2排出係数の算定上は、再エネの電気とは異なる全電源平均の環境価値を有する電気、いわばFIT電気という固有の電気として取り扱うことが必要と思われる。再エネ指定の非化石証書を充てた場合であっても、「実質再エネ」という表示を求めているのは、この点を踏まえたものと言える。

現在、再エネ表示などの議論が行われている電力・ガス取引監視等委員会の制度設計専門会合においては、「再エネ」としての訴求を認めた上で、FIT電気であることの明示や説明を行うことなどを求めることが案として取り上げられている。前記のように、FIT電気という固有の電気として取り扱うとの考えを踏まえると、非化石証書を充てた場合であってもFIT電気の説明を行うことなどは当然として、「再エネ」と「FIT電気」の表示は、「FIT電気(再エネ)」「再エネ(FIT電気)」といったように、最低限セットでの表示を義務付けるべきである。

以上、全非化石電源の非化石証書化に伴う表示ルールの見直しに関する私見を述べたが、再エネ価値などについては、電源構成とは完全に切り離されていることを需要家が正確に理解することは難しい。小売り電気事業者は、説明義務を履行するために最低限必要な内容にとどまらず、より一層分かりやすい説明をすることが求められる。

この点は、基本的には小売り電気事業者が総意工夫すべきものと言えるが、非化石価値・取引については政府の広報も重要であり、小売りガイドライン以外に小売り電気事業者が活用できるパンフレットを作成するといった対応も一案と思われる。

いちむら・たくと 森・濱田松本事務所弁護士。早大法科大学院修了。著書に『知らなかったでは済まされない!電力・ガス小売ビジネス116のポイント』がある。

【電力】環境相への要望 骨太の取り組みを


【業界スクランブル/電力】

上限価格に近い約定価格(kW当たり1万4137円)となった容量市場の第1回メインオークションに小泉進次郎環境相が大臣会見で疑義を挟んでいる。おそらく結果に不満な事業者が陳情したのだろうが、数年にわたって議論を積み上げ、やっと実施に移した制度を、もし政治が介入してひっくり返すことになれば、託送料金の発電側基本料金に続く事態となる。

これらはいずれも、インフラコストの負担について、現存する需要家間の不公平を適正化するためのものであることが見落とされていないか。再エネ主力電源化は国策だが、サイレントマジョリティの負担で再エネを甘やかし続けることが主力電源化ではないだろう。

小泉環境相の政治手法は、父親譲りなのか敵をつくってたたいて注目を集めようとするもののようだ。石炭火力しかり、今回の容量市場しかりである。そして、そのようなパフォーマンスが、すぐに対立の構図をつくろうとするマスコミの格好の材料になる。

容量市場については、10月3日の朝日新聞朝刊が「容量市場、電気料金に響くか 経産相『追加負担ではない』環境相『可能性ある』」と報じているが、これなど最たるものだ。内容をよく見れば、両大臣の発言は矛盾するものではない。それをあたかも見解の相違があるように演出する朝日も朝日だが、無駄に攻撃的な物言いでマスコミに使われる大臣も大臣だ。

小泉環境相の誕生時、筆者は福島第一原発のトリチウム水問題の進展を期待したが高望みし過ぎた。COPでは各国間調整に精力的に動き、各国から感謝されたと聞く。それには素直に敬意を表するが、国内については、本人も温室効果ガス削減効果に乏しいと認めてしまうレジ袋有料化とか、誰が見ても空手形と分かる自治体の2050年CO2ゼロ宣言とか、同じように入閣前の立ち位置が与党内野党的であった河野太郎大臣とはだいぶ差がついたように思える。

せっかく環境大臣に再任されたのだから、もっと骨太の課題、さしずめ、大型炭素税に本気で取り組んでいただけるなら、見直すこと必定なのだが。(T)

SDGsとは何か 持続可能な開発の意味


【羅針盤】三井久明/国際開発センター SDGs室長・主任研究員

持続可能な開発目標(SDGs)を、長期的な経営戦略作りの指針として活用する企業が増えてきている。SDGsを経営に活用するには、まず持続可能な開発の意味を理解する必要がある。

コロナ禍で先行きが見えない今日、将来の社会の持続性を考えるツールとして、SDGsへの関心が高まってきている。このたび、SDGsとは何か、これを企業経営にどのように活用するかといった課題を整理し、拙著『SDGs経営の羅針盤』として刊行した。今回を含め3回に分けてこの書籍の内容を紹介する。第1回では、SDGsとは何か、「持続可能」はどういった意味か、について解説する。

国連サミットで提示 17のゴールから構成

SDGsとは、2015年の国連サミットで「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に掲げられた、国際的な開発目標のことである。世界の150カ国を超える加盟国首脳の参加のもと、全会一致で採択された。貧困、飢餓、ジェンダー、教育、環境、経済成長、人権など、幅広いテーマをカバーしており、30年までの達成が目指されている。「誰一人取り残さないこと」が強調されている。

SDGsのポスター(17のアイコン日本語版)

国連で合意された国際的な開発目標には、これまでもいくつもの枠組みがあった。SDGsの前身であるMDGs(ミレニアム開発目標)がその代表的なものである。従来は、こうした開発アジェンダは、国や国際機関やNGOなどが対処するものという考え方が一般的であった。だが、近年の環境や経済、社会課題は、地球規模で影響が拡大しており、政府や国際機関だけでは対処できなくなりつつある。企業、市民社会、メディア、教育機関などのさまざまな組織の積極的な関与が必要となっている。特に、企業は環境、社会、経済への影響力が大きく、ビジネスを通じてSDGsに取り組むことが期待されている。

SDGsは17のゴールから構成されている。各ゴールには、カラフルなアイコンがセットになっており、それぞれのアイコンに簡潔にゴール内容が表記されている。例えば、ゴール1は「貧困をなくそう」、ゴール2は「飢餓をゼロに」、ゴール3は「すべての人に健康と福祉を」、ゴール4は「質の高い教育をみんなに」といった具合である。

近年、本邦企業を対象としてSDGsに関する意識調査が各種実施されている。「どのSDGsゴールを重視するか」といった質問には、13(気候変動)、8(働きがい・雇用)、12(消費・生産)、3(健康と福祉)、7(エネルギー)、5(ジェンダー平等)といった回答が多い。やはり地球温暖化など気候変動は日本企業にとっても身近なテーマと受けとめられている。また、「働きがい・雇用」や「消費・生産」も民間セクターが深くかかわるゴールであり関心が高い。

SDGsという言葉は、徐々に日本社会に浸透しつつあるように見えるが、そもそも「持続可能な開発」とは何なのか。実は、1987年に発表された国連の委員会の報告書の中で明確な定義がある。持続可能な開発とは、「将来世代のニーズを満たす能力を損なうことがないような形で、現在の世代のニーズも満足させるような開発」と示されている。つまり、開発が持続可能かどうかの焦点は、将来の世代のニーズを損なうか損なわないかにある。現代の世代のニーズばかり追い求めることで、我々の子供や孫といった将来の世代の暮らしが、甚大な悪影響を受けるようであれば、その開発は持続的でないことになる。

エネルギー参入で事業規模拡大 次の成長領域は地域密着型


【私の経営論(2)】吉本幸男/エフビットコミュニケーションズ社長

前回は、私が18歳で通信事業を立ち上げ、新規領域に積極的に乗り出すことで業容を拡大してきた経緯についてお話させていただきました。企業の成長には、新領域に進出する決断力、勇気が必要であると述べましたが、その経営理念は創業から56年が経過した今も変わりません。

IC(通信)事業、法人向けソリューション事業に続いて着手した、マンションISP(インターネット・サービス・プロバイダー)事業、チェーンホテル向けのビデオ・オンデマンド(VOD)事業でも市場競争が過熱化し、以前のような高い収益を生むことが難しい情勢となりました。そこで、満を持して乗り出したのが電力事業です。

2008年の高圧契約の自由化を機に、マンションなどの大型施設で電力会社と一括契約することで電気代を削減できる高圧一括受電とLED設置などを合わせて、エコとコスト削減を実現する電力ソリューションの提供を開始したのです。

通信とエネルギービジネスを多角的に展開

小売りから発電まで エネルギー事業も多角化

エネルギー分野への進出は、畑違いに打って出るように見えるかもしれませんが、ISPサービスを手掛けマンション管理組合との関係を構築していたので、実はとても親和性があり一括受電契約を獲得しやすい環境でした。

また、自動検針による電力メーターチェックや料金未納に伴う供給停止など、エネルギー事業には通信技術を必要とする要素も多く実はつながっています。そしてこれを起点に、当社はエネルギービジネスの多角化も進めていくことになります。

11年には、再エネFIT制度を活用し、全国の遊休地などを利用したメガソーラー事業を開始しました。建設を進めた山林は、境界線があいまいだったり、土地の登記がでたらめだったりと、開発許可を取得、造成し太陽光パネルを設置する以前に、権利を取得する段階で大変な苦労がありましたが、この7年間で15万kW程度を開発し、約750億円の特需を得ることができました。

さらにエネルギー小売り全面自由化に伴い、16年には電力小売り事業者として「エフビットでんき」を、17年には都市ガス小売り事業者として「エフビットガス」の販売をスタートしました。電力については現在、高圧需要家向けを中心に約40万kWの契約電力を獲得。これを24年には100万kW規模まで拡大したいと考えています。

また、電力小売りビジネスの競争力強化に向け、今年8月には新電力のFパワーが千葉県袖ケ浦市に所有していたガス火力発電所「新中袖発電所」を買収しました。発電所を保有、運用するのは当社としても初めてのことです。この件については次号で詳述しますが、地産地消のバイオマス発電所の設立に向けても動き出しています。

中小企業の省エネを支援 顧客に寄り添うコンサル事業


【エネルギービジネスのリーダー達】安孫子崇弘/エネルギーアンドシステムプランニング代表取締役

省エネ支援を通じて、これまで携わった需要家やパートナー企業に恩返しをしたいと起業した。

創業以来、「お客さまに寄り添うこと」を第一に、コンサルタント事業などを展開している。

あびこ・たかひろ 1998年東京電力入社。2000年新規事業会社のハウスプラス住宅保証に出向。06年日本ファシリティ・ソリューションに出向し、建物や設備の省エネ対策の実務を担当。13年東電に帰任後、同社を退職して起業し現職。

脱炭素化、省エネ法や「RE100」への対応など、企業は省エネに対してさまざまな取り組みを求められている。だが、情報収集力や資金力を豊富に持つ大手企業とは異なり、中小企業ではなかなか手が回らないのが現状だ。

エネルギーアンドシステムプランニングは、ここにビジネスの種を見いだし、中小企業を中心に省エネコンサルティング業務を展開する。これまで、製紙工場、味噌・醤油工場、電線工場、合金製造業、化学プラントなど、産業系の工場で実績を積み上げてきた。

創業から7年目。単身で立ち上げた安孫子崇弘社長は「お客さまに100%寄り添い、良質なサービスを提供すること」を信条とする。工場は、照明のLED化や設備の更新でも省エネが可能だ。だが、作業環境の改善と生産品の品質確保を両立するには、生産工程にまで踏み込む必要がある。

例えば、化学プラントでは、現場の安全確保のため、化学反応で発生した熱を冷ます「冷却工程」が欠かせない。一方で、エネルギー使用量が多く、削減の余地は大きい。提案に当たり、まずは生産工程を知ることからスタートする。

高校の教科書を開いて化学反応をおさらいし、それでも分からないことは、現場担当者から教わることも。「良い提案をしなければ」というプレッシャーをばねに、積極的に専門知識の習得に努めた。

長期にわたる出向経験 顧客ファーストを醸成

工場は企業秘密の塊だ。一方、現場から信頼され、徐々に情報が入るようになれば、提案の幅が大きく広がる。エネルギーは専門性が高い。「省エネの意義や技術的な内容などにビジネスの視点を入れて、分かりやすく翻訳すること」が同社の役割だ。企業と二人三脚で省エネを進めてきた。

時間も労力も費やすが、辛いと思ったことは一度もない。顧客と共に得る達成感。そこに仕事の楽しさがある。

大学卒業後、東京電力に入社。その2年後、東電が新たに立ち上げたハウスプラス住宅保証に出向し、ハウスメーカーへの住宅性能評価制度の普及や営業などに取り組んだ。約6年半の在籍後、子会社の日本ファシリティ・ソリューション(JFS)に出向。企業の省エネ診断やESCO提案とともに、改正省エネ法に関する新サービスの立ち上げにも携わる。新しいことにチャレンジするのが好きな性分。さまざまなジャンルの業務を意欲的にこなしていった。

約13年間の出向期間、顧客に近い業務が多かったことが、独立した時に掲げた「お客さまファースト」という理念を醸成。また、電力会社に在籍したことで、多種多様な工場や機械・設備を扱う機会に恵まれた。その経験から、今ではだいたいの設備の仕組みや構造を把握できるようになった。

東日本大震災の発生後、福島第一原発の廃炉関連業務に携わった。いったんエネルギーサービスの仕事から離れた時、これまで関わった企業担当者の顔が次々と浮かんだ。震災後、「JFSさんは関係ないよ」と変わらず取り引きを続けてくれた企業もあった。「エネルギーサービスで世の中にもっと貢献したい」。この思いが強くなり、独立への一歩を踏み出した。

審議会をレポートで配信 ビジネスのヒントに

初の取引先となった佐賀県の企業をはじめ、新潟県、栃木県、徳島県―と、顧客先は全国各地に及ぶ。「遠くても近くても、お客さまとの心の距離は離れないよう心掛けている」。各社の訪問は月に1回程度。これまで築き上げた関係があるので、コロナ禍であっても関係性に影響はない。

2年ほど前から制度情報配信サービス「制度TRACKER」を開始した。経済産業省や環境省では、エネルギー・環境分野に関する審議会が同時並行で開催されており、聴講だけでも大変だ。そこで、審議会を毎回ウオッチし、月に1回、レポートで配信する。

各審議会が関連するジャンルを表で表すほか、その内容はポイントをまとめて箇条書きで表記。さらに、今後の見通しや将来展望なども記載されている。

新規参入企業にとって、規制領域だった電力事業は分からないことが多い。「自由化で参入した企業が、制度を知らないことで事業上のリスクを負わないようにしたい」という。議論の結果を踏まえ、今後のビジネスを考えるヒントとして省エネ以外のエネルギーサービスにつなげていく狙いもある。

一方で、新規事業にも動き出した。昨年、IoT化を支援する子会社「マーカーシステムズ」を設立。工場のIoT化による生産性向上とデータ収集分析は、設備更新や省エネ改修などの低コスト化につながると考えている。

「頼んで良かった」。この言葉が何よりうれしい。「より多くのお客さまに品質を落とさないサービスを提供していくこと」が、今後の課題であり目標でもある。「顧客に寄り添う」という創業当時の思いは、これからも変わらない。

原子力界でのロスアトムの実力 核燃サイクルで世界をリード


【ロスアトム】

日本ではこれから六ヶ所再処理工場の稼働が始まり、核燃料サイクルのスタート地点に立つ。だが、隣国ロシアのロスアトム社は、核燃料サイクルで既に世界をリードする存在になっている。

ロスアトム社には、ウラル地方とシベリア地方に使用済み燃料の再処理工場がある。いずれも六ヶ所工場と同じように、ピューレックス法(PUREX法)で使用済み燃料からプルトニウム、ウラン、そして高レベル放射性廃棄物(HLW)を分離する。ただ、六ヶ所工場と違い、シベリアの工場では液体試薬をループすることにより、液体廃棄物を全く出さない。

高速炉用のMOX燃料の集合体

再処理により分離されたウランは濃縮され、核燃料として再利用されている。RBMK(黒鉛減速沸騰軽水圧力管型原子炉)は、全てこのウラン燃料を使用している。また、VVER(ロシア型加圧水型原子炉)の燃料に転換することも計画されている。

人工元素であり、ウランの核変換によってのみ生成されるプルトニウムは、エネルギー強度の面でウランよりもさらに価値がある。核分裂時にはウランの核分裂より14%も多くエネルギーを生む。

しかし、軽水炉では十分なパワーが出ず、高速炉で実力を発揮する。ロシアの高速炉、BN−800は再処理で作り出されたプルトニウムを燃料に使用している。

廃棄物から有用元素を分離 アクチニドを高速炉で燃焼

再処理により出るHLWの中には、現在世界で最も高価なカリフォニウムの原料になるキュリウムなどの元素を含んでいる。また、同じようにセシウム、ストロンチウム、アメリシウム、プロメチウム、キセノン、クリプトンなどの成分も産業利用ができる。

課題はそれらの分離だ。ロスアトム社は、HLWから、まずマイナーアクチニド(ネプツニウム、アメリシウム、キュリウム)と、「ホット」フラクションと呼ばれるストロンチウム、セシウムを分離することに取り組んでいる。アクチニドは高速炉で燃焼し、ホット成分は強制冷却する。

これらの作業により、使用済み燃料のうち約3%とごく一部だけを最終処分にでき、放射性廃棄物の危険性を大幅に減らせられる。ロスアトム社は廃棄物の組成をこのようにすることを目標にしており、その廃棄物は300~350年後には地表近くで処分できる。

また、原子炉ではMOSART(溶融塩アクチニドリサイクル転換炉)の開発を進めている。核燃料物質を溶融塩に溶解させた液体燃料炉で、フッ化リチウム塩、核分裂生成物(主にプルトニウム)、マイナーアクチニドを燃料とする。

燃料塩が下から上にゆっくりと移動し、核反応を起こしてマイナーアクチニドを危険性の低い核種に変換していく。2022年に概念設計を作成し、31年の運転開始を目指している。

【マーケット情報/11月13日】原油続伸、ワクチンに対する楽観が強材料


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み続伸。新型コロナウイルスに対するワクチンに期待が高まったことが、価格を支えた。

米国の製薬会社PfizerとドイツBiotechが、共同開発しているワクチンが高い有用性を示したと発表。新型ウイルスの感染拡大が収束に向かい、石油需要が回復するとの楽観が台頭した。

ただ、世界では感染者数の増加が続いている。また、国際エネルギー機関はワクチンの効果に悲観的で、来年の石油需要予測を下方修正。さらに、米国の金融会社ゴールドマンサックスは、リビアの増産と、冬季の感染拡大で、来年も需給緩和が続くと予想しており、価格の上昇が幾分か抑制された。

【11月13日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=40.13ドル(前週比2.99ドル高)、ブレント先物(ICE)=42.78ドル(前週比3.33ドル高)、オマーン先物(DME)=43.49ドル(前週比2.55ドル高)、ドバイ現物(Argus)=42.93ドル(前週2.60ドル高)

【コラム/11月16日】2050年CO2ゼロ宣言を考える~技術楽観論でなく科学的・現実的選択論を


飯倉 穣/エコノミスト

 地球温暖化の影響による災害が日常化する中で、菅総理がインパクトある所信を表明した。2050年までに温暖化ガス排出を実質ゼロにすると宣言した。また再生可能エネルギーのみならず原子力を含めてあらゆる選択肢を追求すると答弁した。経済水準維持に必要なエネルギー量の確保は容易でない。今後のエネルギー選択は、化石エネなしで、再生可能エネルギーと原子力となる。限られた選択肢の下で当たり前のエネルギー政策の確立が肝要である。今後は再エネ拡大は無論のこと、原子力縮小政策を見直し、安全な新規原子力発電の建設を推進したい。 

 今年の球磨川豪雨(7月)や 台風10号(9月)は、温暖化による大気中水蒸気量上昇と海面水温上昇の影響を見せつけた。自然災害が日常的となり、居住・生産環境の変化や被災者になった場合の不安を掻き立てる。CO2削減で閉塞感が覆う中、インパクトある所信表明演説があった。

「菅首相、温暖化ガス2050年ゼロ、初の所信表明、産業・社会に変革」(朝日2020年10月27日)、「首相、温暖化ガス2050年ゼロ表明、成長へ技術革新号砲、エネ政策抜本見直し」(日経同)。

 東日本大震災以降、公論は原子力縮小、省エネ・再生可能エネルギー傾斜に引き寄せられた。そして再エネの夢と現実を浮き出した。コストと国民負担の限界(19年度賦課金約2.4兆円)、国土利用未考慮の乱開発と地域紛争等に直面している。国土環境に適応した利用の姿を描き切れていない。また科学技術としての原子力利用を蔑視し、化石エネ依存を継続した。

政官民に温暖化ガス削減のお題目はあったが、強い意思はなかった。「福島の復興なくして日本の再生なし」に代表される政治的・社会的情緒の下、時は流れている。福島浜通りの復興は、原発再構築が鍵である。原発は、地場産業だった。なければ自然経済に戻るか、自然に帰るであろう。政府の施策、地元の期待は、地域資源・経済の根本を見間違えている。将来残るは公共投資の所産のみである。

 菅義偉首相は、演説7主題中の3番目「グリーン社会の実現」で、温暖化ガス排出を実質ゼロにすると宣言した。また達成に向け「再生可能エネルギーのみならず原子力を含めてあらゆる選択肢を追求する」(11月28日代表質問に)と答弁した。

とりあえずゼロ宣言は政治的目標で、今後人口、経済水準、産業構造、エネルギー需給、研究開発状況、都市構造、インフラ、国土利用等の検討があろう。留意点は経済水準とエネ選択である。

経済水準は、投入エネルギーの価格と量に大きく依存する。石炭時代は産業革命、石油時代は大量・安定・安価原油で戦後高度成長を起因し、現水準がある。オイルショック後ゼロ成長に近い。再エネも原子力も石油代替の域を出ていない。

課題は明快で、水準維持に必要な経済的エネルギー量の確保である。エネルギー供給は、50年非化石エネルギーだけとなる。核エネルギーと再生可能エネルギーの選択しかない。電中研の19年試算が好例になる。50年CO2量80%削減の場合、発電量約1兆2千億Kwhに対し、再エネで最大限供給可能量8千億Kwh(地熱、風力、太陽光等:現在の10倍)と見る(実現性は?)。残りは、原子力とLNG火力である。発電規模は、水力・バイオ・地熱59百万Kw、風力75百万Kw、太陽光356百万Kw、蓄電池215百万Kw、揚水25百万Kwを見込む。少なからず原子力(29百万Kw)を必要とする。

大胆に試算しても現技術水準延長の再エネのみでは、不十分である。化石エネは使用禁止である。経済水準維持に原子力発電の展開が鍵となる。困難なら人口抑制・経済水準低下の選択も検討せざるを得ない。

故に技術開発に期待が高まる。研究開発状況は、将来のエネルギーに係る「革新的環境イノベーション戦略」(内閣府20年1月)が参考となる。5分野16の技術課題を挙げる。再エネ主力電源、水素、原子力・核融合、CO2分離回収、人工光合成、バイオ等である。代わり映えしない寄せ集めの感もある。技術開発に成功すれば、世界CO2排出量10年490億トン(エネ起源以外も含む)に対し、総計850億トンの削減効果を目論む。過去の米国(ブッシュ・ジュニア、オバマ政権)のような技術楽観論は慎みたい。

当たり前に考えれば、緊要の課題は原子力の扱いである。福島第一原発震災事故で、推進は頓挫した。自然災害だったが、科学者・技術者の信用と志気が低下した。その状況で菅総理の「ゼロ宣言」は、地球生態系の保持と経済水準の維持を立案する上で、原子力の再活用を図る契機と言える。今、CO2削減に必要なことは、安全な新規原子力発電の建設である。

「国民から信頼される政府」は、科学的思考の下に現実的な政策をまず作成・推進すべきである。菅総理の宣言が、鳩山首相「温室効果ガス25%削減、世界に宣言」(09年9月)の二の舞にならないことを祈念したい。

【プロフィール】経済地域研究所代表。東北大卒。日本開発銀行を経て、日本開発銀行設備投資研究所長、新都市熱供給兼新宿熱供給代表取締役社長、教育環境研究所代表取締役社長などを歴任。

エネルギー業界で世代交代が発生?


【ワールドワイド/コラム】

今年6月、イーロン・マスク率いる電気自動車(EV)企業のテスラが、トヨタ自動車の時価総額を抜いたと大きな話題となった。「自動車産業の世代交代か」ともささやかれたニュースだが、エネルギー業界でも同様の事態が起きている。

ロイター通信は10月2日の取引において、油価下落で苦しむ米メジャー・エクソンモービルの時価総額を米国で風力・太陽光事業を展開するネクステラ・エナジーが上回ったと報じた。本件についてスイス大手銀行・UBSは「投資の矛先が、より持続可能なニュー・エコノミーへのシフトが見受けられる」と分析。世界市場の脱炭素社会に対する期待が、クリーンエネルギー企業の株価を下支えしているといえるだろう。

そもそも、コロナ禍による石油需要の低迷もあり、エクソンに限らず米シェブロン、英蘭シェル、英BPなど、石油大手各社の決算は惨憺たる結果に見舞われた。9月末にシェルは経営合理化で最大9000人、10月5日にエクソンが欧州の人員1900人のリストラを見込んでいると報じられるなど、各社ともに苦しい経営環境にあるのは間違いない。こうした中、シェル、BPは世界で巻き起こる金融の環境シフトを受け、2050年までにCO2排出ネットゼロを目標に掲げるなど、投資を呼び込もうと環境分野への注力を発表している。

今年7月、シェル、BP、エクソンも参加する業界団体「石油・ガス気候イニシアチブ(OGCI)」は業界大の温室効果ガスの削減目標を策定した。しかし、「目標設定が甘い」との指摘も多い。日頃から批判にさらされる石油業界だけに、より意欲的な目標設定を行い世間の理解を得られない限り、厳しい状況は今後も続きそうだ。

核燃料サイクルの意義と有用性 熱い「語り部」の養成が課題


【核燃料サイクル】小島正美

ウラン資源の節約、放射性廃棄物の減容化で核燃料サイクルにはメリットがある。一方、経済的な利点については、分かりやすい費用対効果の説明が求められている。

核燃料サイクル問題をどう考えたらよいか。非常に難しいテーマだ。長く記者生活を送ってきたものの、専門外ということもあり、実のところ、あまり深く考えたことはなかった。もし私が核燃料サイクルの重要性を伝えるコミュニケーターという任務を与えられたなら、何が必要なのだろうか、という観点で考えてみた。

7月29日、青森県六ヶ所村にある日本原燃の使用済み核燃料再処理工場の安全対策が新規制基準に適合していることが、原子力規制委員会によって認められた。このニュースを読んで、その意義を理解できる人は少ないだろう。私自身もその一人だ。

さっそく「核燃料サイクルとは何か」をネットで探ってみた。まずは当事者の日本原燃、9電力会社で組織した電気事業連合会、日本原子力文化財団、青森県庁のウェブサイトを見た。概略は理解できたが、サイクルにどういう意義や経済的利益があるかについては、いまひとつよく分からない。

六ヶ所村での再処理事業は投じた費用に見合った効果を得られるだろうか

エネ庁の充実したサイト 核燃サイクルの意義を理解

次いで資源エネルギー庁のサイトを見た。思った以上に充実していた。「『六ヶ所再処理工場』とは何か、そのしくみと安全対策(前編・後編)」や「資源エネルギー庁がお答えします! 核燃料サイクルについて、よくある3つの質問」など数多くの解説があり、ようやくサイクルの意義を理解できた。

それによると、核燃料サイクルとは、原子力発電所で使い終えた使用済み燃料から、再利用可能なプルトニウムやウランを取り出して(再処理して)、「MOX燃料」(プルトニウムとウランの混合物の呼び名)に加工して、もう一度、発電所の燃料として再利用することだと分かる。MOX燃料を軽水炉と呼ばれる原子力発電所で利用すれば、もともとのウラン資源の使用を1~2割節約できるという。

さらに使用済み燃料をそのまま直接処分するよりも容積が3~4分の1になり、最終的に地下深くに埋められるとみられる高レベル放射性廃棄物の量を減らすことができる。

また、使用済み燃料をそのまま処分すると、その放射能レベルが天然ウランと同程度になるまでに約10万年かかるのに対し、再処理を経れば、その期間が約8000年に縮まることも分かった。

つまり、再処理工場の主な意義は①燃料の節約・再利用、②最終的な廃棄物量の削減、③放射能レベルの低下で地層処分がしやすくなる―の三つだ。

習主席の炭素中立化宣言 石炭火力の開発と矛盾


【ワールドワイド/環境】

9月22日のバーチャル国連総会において、中国の習近平国家主席が「中国は2030年までにCO2排出をピークアウトし、60年までにカーボンニュートラルを達成する」と発言して世界を驚かせた。

 今年12月に開催予定であったCOP26が1年延期されるなど、地球温暖化に対するモメンタムが損なわれることが懸念される昨今。世界の排出量の28%を占める中国が初めて長期目標を表明したことを歓迎する論調が多い。

 しかし、このプレッジを額面どおり受け止めるのは時期尚早である。中国には昨年末時点で1億5000万kWの石炭火力発電所の開発計画があり、本年第1四半期に昨年1年分の合計に相当する1000万kWの石炭火力の新設にゴーサインを出している。これらは60年以上稼働が可能であり、60年のカーボンニュートラルとどう整合させるか不明である。

 中国を取り巻く国際環境は厳しさを増している。米中対立は新冷戦ともいうべきレベルに達し、超党派で厳しい視線が送られている。また中国は新型コロナ感染拡大の初期段階での情報 や、マスク外交の失敗により、国際的な評判を大きく落とした。さらに香港国家安全維持法の導入や新彊ウイグル自治区における非人道的な政策などにより、これまで中国批判に及び腰であった欧州諸国も批判のトーンを強めている。

 こうした中で習主席が国連総会で多国間主義の重要性を強調し、温室効果ガス削減の長期目標を表明したのは、明らかにトランプ大統領の米国第一主義と温暖化問題を軽視する姿勢との対照を演出し、温暖化に強いこだわりを持つ欧州諸国や米国民主党に擦り寄ろうとしたのであろう。

 事実、9月14日のEU-中国サミットにおいて、EU側は中国に25年ピークアウト、60年カーボンニュートラルを迫り、さもなければ検討中の炭素国境調整措置の適用対象になると示唆したもようだ。

習主席の表明はEUの要請に応えた形だが、目標を表明するだけで炭素国境調整措置が適用除外になるのであれば、EU域内の野心レベルの引き上げに伴うコスト増分とのレベル・プレーイング・フィールド確保という国境措置の本来の趣旨とかけ離れた恣意的な運用となる。WTO(世界貿易機関)との整合性は主張できなくなるだろう。

有馬 純/東京大学公共政策大学院教授

ラオスの水資源を活用 ASEANに系統接続の構想


【ワールドワイド/経営】

ASEAN諸国では、各国の送電系統を接続する「ASEAN Power Grid(APG)」構想が加速し始めている。

もともとは各国のエネルギー資源の有効活用を目的として1990年代に始まったものだが、費用対効果の面から最近まで進展は見られなかった。しかし、電力需要の増大やそれに伴う国際電力取引需要の増加、そして近年では急増する再エネへの対応という観点から期待が急速に高まりつつある。

APG構想の中でも中核となっている国は、水資源が豊富なラオスだ。これまでの取引は隣国タイやベトナム、カンボジアなどとの2カ国間取引がメインであったが、近年はマレーシアやシンガポールもラオスに関心を寄せている。価格もさることながら、その起源が再エネであれば輸入電力でも再エネ目標の達成手段としてカウントできることが背景にある。ASEAN諸国では、2025年までに一次エネルギー供給量の23%を再エネで賄う目標を掲げており、その進捗が遅れている各国はラオスの水力に目を付けている。

最初の多国間取引プロジェクトとして動き出しているのがラオスの電力をタイを経由してマレーシアやシンガポールへ送電するというものであり、既にマレーシアとは取引が開始されている。今後、多国間取引に向けて、マレーシアとシンガポール間の連系容量を拡大するとともに、取引ルールの整備などが進められることになっている。将来的には、海底ケーブルを介して、インドネシア、ブルネイ、フィリピンとも連系し、ASEAN大のネットワークを構築する構想が描かれている。

水力は再エネ電源が増大する中において系統安定化という面でも大きな意味を持っている。水力電源を多数保有するラオスは、ASEANのパワーセンターとして戦略的に生きる道を探ることも重要である。この貴重な電源をいかに賢く使うことができるかが、今後のラオスの発展にも大きく関わってくることになろう。

一方、このような動きに目を付けているのがラオスと国境を接する中国である。ラオスでは、ラオス電力公社(EDL)の送電部門を分社化する動きがあるが、この株式を中国の南方電網が所有する方向で話が進んでいるという。実現すれば中国がASEANの電力セクターで大きな存在となることは想像に難くない。

 APGは単にASEAN各国の系統を連系するプロジェクトにはとどまらない。経済的、政治的な思惑が大きく絡み合っている。

山本孝徳/海外電力調査会調査第二部