【火力】な削減目標 実現の根拠なし


【業界スクランブル/火力】

4月に米国大統領主催で開催された気候変動サミットにおいて、菅義偉首相は「2030年度に温室効果ガスを13年度比で46%の削減を目指す」と表明した。従来目標の26%削減から7割以上の大幅な引き上げとなったが、数字の作り方の過程は全くの別物である点を正しく理解しておく必要がある。

従来の26%削減目標については、実現に向け相応の蓋然性をもって示された見通しであることがエネルギー基本計画の中に明記されている。省エネの目標が厳しすぎるなどの意見もあるが、主要を占める電力部門については、エネルギーミックス(電源構成)と削減目標が整合の取れたものとなるよう電力会社なども巻き込みながら作り込まれている。裏を返せば、S+3Eを念頭に電力価格やエネルギーセキュリティーに配慮しながら実現可能なエネルギーミックスを想定し、それを基に30年のCO2削減目標を導き出していたのである。現状では原子力の再稼働の遅れが懸念材料だが、それ以外は、個別の事情による課題は数多くあるものの、全体として想定の範囲内で推移している。

それに引き換え、今回の46%削減に関しては「政治決断」とか「野心的」と言えば聞こえはよいが、今のところ実現のための根拠が欠けている状況だ。

再エネ比率を3割台に増やし火力を4割程度に抑えるとの話も出ているようだが、そもそも、火力比率の目標を下げれば再エネが拡大するのだろうか。拡大が期待される太陽光や風力などの自然変動電源については、変動性を補完する調整力・予備力がなければ安定供給を維持することができない。つまり、調整電源を担う火力をむやみに削減して再エネを増やすと、たちまち安定供給が崩壊することになってしまう。

このように調整力を維持しつつ火力の比率を下げるという矛盾したことをやらねばならず、それには現場実態を踏まえた検討が必要で、単なる数字合わせでうまくいくはずもない。30年目標はそびえ立つ冬山のようなものだ。地図もコンパスも持たず、軽装備で登ろうとするのは無謀としか言いようがない。(S)

【マーケット情報/6月18日】欧米続伸、需要回復へ期待高まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、北海原油を代表するブレント先物と、米国原油の指標となるWTI先物が続伸。需要回復への期待感が、一段と高まった。

国際エネルギー機関やトレーダーVitolが、石油需要の回復を予測。新型コロナウイルスのワクチン普及や、それにともなう移動の増加、経済活動の回復が背景にある。特に欧米で、感染防止策の規制緩和が続いている。

フランスの4月原油輸入量は、前年および前月から増加。また、製油所の稼働率上昇で、引き続き増える見込みだ。スペインの石油ガス会社Repsolは、燃料の増産を決定した。さらに、米国の週間在庫統計は、輸出増加と製油所の高稼働を受け、4週連続で大幅減少。米国の製油所における原油処理量は、2020年1月以来の最高を記録した。

一方、中東原油を代表するドバイ現物は、需給緩和観により小幅下落。マレーシアでは感染拡大が収まらず、全国的なロックダウンを6月末まで延長。燃料用需要の弱まりが予測される。また、イランでの生産と輸出の増加も重荷となった。

【6月18日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=71.64ドル(前週比0.73ドル高)、ブレント先物(ICE)=73.51ドル(前週比0.82ドル高)、オマーン先物(DME)=70.96ドル(前週比0.41ドル安)、ドバイ現物(Argus)=70.87ドル(前週比0.10ドル安)

【LPガス】30年以降が正念場 グリーン化加速を


【業界スクランブル/LPガス】

今後の資源・燃料政策の基礎となり、次期エネルギー基本計画に反映される報告書案を、資源・燃料分科会がまとめた。2050年カーボンニュートラル宣言や新型コロナ感染拡大に伴い大きく変化するエネルギー需給環境を踏まえたものだ。LPガスに関しては「エネルギー供給の“最後の砦”として、平時のみならず緊急時にも対応できる強靭な供給体制確保の重要性は変わらない」「燃焼時のCO2排出が比較的低いという特性を有しており、低炭素に貢献できるエネルギー」と、国民生活・経済活動に不可欠と位置付けた。具体的対応として、備蓄日数の維持とともに、災害時における避難所などでの自衛的備蓄や中核充てん所の新設・機能拡充への支援を継続していくとした。

カーボンニュートラル推進の観点からはどうだろうか。ボイラーや発電機などで石油燃料の燃料転換による需要増も期待できるとする一方で、産業のグリーン(非化石燃料由来)化を課題として挙げている。グリーン化施策では、バイオLPガスや合成LPガスなどの研究開発や、社会実装を目指す取り組みを後押しすると明記した。

資源・燃料分科会やエネルギー基本計画を検討する基本政策分科会の委員を務める橘川武郎・国際大学副学長は、「ガス体エネルギーは30年までは化石内部の燃転などで順風だろう。問題は30年を過ぎると、供給する燃料自体をカーボンフリーにする必要があり、風向きは逆転する」と警鐘を鳴らす。

脱炭素化の要請が加速する中、日本LPガス協会を事務局とする「グリーンLPガスの生産技術開発に向けた研究会」がまとめた最終報告では「即効性のある形での手段が当面存在しない中で、グリーンDME(ジメチルエーテル)とプロパン混合方式は、社会が求める速やかな社会実装に向けた有効策」としている。だが、都市ガス業界が進めるメタネーション(合成メタン)などよりハードルは高いと言わざるを得ない。国民生活・経済活動に不可欠なLPガス産業の維持へ、さらなる取り組みのスピードアップが必要だ。(F)

需要高度化と電化・水素化の実装 現実的な手段で地球温暖化対策を


【羅針盤】矢田部隆志/東京電力ホールディングス 技術統括室プロデューサー

カーボンニュートラル実行戦略〈第2回〉

産業・運輸を中心に最終エネルギー消費の約75%が化石燃料の直接消費だ。

脱炭素化と産業競争力の両立には燃料直接消費から電化・水素化へのシフトが鍵を握る。

今回は、拙共著カーボンニュートラル実行戦略』(エネルギーフォーラム刊)の第2章について紹介したい。

投資家は企業を財務情報だけでなく、環境、社会、ガバナンスなどの「長期的な企業価値の最大化に寄与しているか」で評価するようになってきた。企業の気候変動リスクを評価するため、気候関連財務ディスクロージャータスクフォース(TCFD)も発足した。環境リスクの投資評価が確立したことにより、企業間取引において CO2フリーを条件として提示する企業も出現している。

これまで企業活動において、温暖化対策は、企業の社会的責任(CSR)活動の一環に位置付けられてきた。環境対策は、利益を生むものではなくコストである、ということが一つの理由である。

しかし、取引条件に CO2フリーが付されるということは、ビジネスとして発注をする製品の仕様に織り込まれることであり、売り上げに直接影響を及ぼすということでもある。これからは、CO2削減に向けた取り組みを各方面のステークホルダーに対して開示していくことが求められる。

供給対策から需要対策へ 非化石エネルギー源の選択

現在検討が進む第6次エネルギー基本計画では、2020年7月に開催された、総合資源エネルギー調査会基本政策分科会(第31回会合)で、今後のエネルギー政策として電化・水素化を掲げた。

CO2排出削減対策は、最終エネルギー消費の約7割を占める化石燃料燃焼をいかに削減するかが鍵である。電化・水素化の推進は最も現実的な手段であり、現時点でほかの選択肢がないことも事実である。

しかし、設備の低コスト化、プロセスやプロダクトの高機能化など、技術面・経済面での課題も多く克服に向けた対策が重要である。

既存の工場には、電気設備やガス設備、蒸気・水配管などさまざまな種別のユーティリティーが存在している。一般的に設備は15年でリプレースを迎えるとされている。パリ協定の50年まであと約30年間の期間があるため、工場や建築物で利用されている多くの設備は少なくとも1回、更新の時期を迎えることになる。したがって、化石燃料を消費する設備更新の機会を生かせば、需要家側での非化石化は実現可能である。

工場構内で最も重要なユーティリティーは蒸気インフラである。化石燃料をたいて水を蒸発させるだけの構造であることから、高度な技術がまだ未成熟であった高度経済成長時代に多くの工場で導入され、今でも蒸気インフラに依存している。

一度導入してしまうと改修後も同じ設備になってしまうことを「ロックイン効果」と呼ぶ。蒸気インフラのような工場のコアをなすインフラの場合、トラブルが発生すると、その影響は甚大であり、これまで導入したことのない設備を導入することは大きなリスクが伴う。このリスク回避もロックインの一つの原因である。

【都市ガス】英NGがガス売却 座礁資産化を懸念


【業界スクランブル/都市ガス】

「46というシルエットが浮かんできた」との小泉進次郎環境相の名セリフはさておき、4月22日開催の気候変動サミットで、菅義偉首相は世界に向かって「温室効果ガス・2013年比46%削減」を表明した。米国を中心に各国首脳が50%以上削減を表明する中、国際的信用を維持するために、日本にとって46%達成は絶対命題になったといえよう。

しかし、早くもこの目標は達成不可能との声が聞こえてくる。今年発表予定のエネルギー基本計画では、30年の原発比率20~22%を維持した上で、再エネ比率を30%台後半まで引き上げるという。それは現在9基が再稼働している原発を、今後10年間で約3倍の25基まで引き上げることを意味する。日本の政治家はCO2削減を理由に原発再稼働を押し進めることができるだろうか。再エネはどうだろうか。全国的に太陽光の設置はほぼ行き渡っている状態だ。今後はフローティング式洋上風力が最大の課題解決策となろうが、技術的・制度的に課題は山積みだ。

そうなると、化石燃料削減に拍車が掛かってくることは想像に難くない。石炭や石油はもちろんのこと、化石燃料の優等生である天然ガスも例外ではない。都市ガス事業者が「30年まで現状の方向性を維持しつつ、その後CO2ネットゼロに向けて戦略を考える」と悠長なことを言っているとしたら、CO2削減の流れから取り残されることになろう。

3月に「英国の大手エネルギー企業ナショナル・グリッド(NG)が、保有するガス事業の株式の過半を21年中に売却し、送配電会社を買収する」との報道があった。英国政府が推進するグリーン産業革命の中で、今後ガス需要は減少する方向だ。NGはガス事業インフラが座礁資産化する前に売却する戦略をいち早く打ち出したわけだ。

今後、世界的にNGに追従する動きがどの程度進むのか、大変注目されるところだ。ただし、その動きが顕著になったときに慌てても、既に「It’s too late」ということなのであろうが。(C)

ポイントが強みの経済圏 デジタル活用の基盤づくりに注力


【エネルギービジネスのリーダー達】中塚裕之/楽天エナジー取締役副社長

Eコマースの巨人である楽天は、その影響力をエネルギー事業にも展開し顧客数を伸ばしている。

通信事業者などのコンサル業務で培った経験を生かし、この勢いをさらに加速させる。

なかつか・ひろゆき 2006年京都大学大学院情報学研究科修士課程修了。アクセンチュア、ボストン・コンサルティング・グループを経て、18年9月楽天入社。21年4月から現職。

「楽天経済圏」――。この文字通り、楽天は手掛ける多数あるサービスを自社プラットフォームで展開し、一つの経済圏を作りつつある。グループの発行ID数は1億を超え、国民一人につき、一つは取得している計算になるほど膨大な数を有する。

このID数を生かし、主力の「楽天市場」のEコマース(EC)をはじめ、旅行、デジタルコンテンツ、通信などのインターネット事業、クレジットカードや銀行、証券、電子マネーなどのフィンテックと呼ばれる金融事業などを手掛ける。その中核には、楽天ポイントがあり、これらのサービスを熱心に利用すればするほどたまりやすくなる仕組みになっている。

楽天が提供するサービスの中で、電気やガスといった、エネルギー分野を受け持つのが楽天エナジーだ。同社は、楽天グループが2012年7月に太陽光発電システムの販売に乗り出したことに始まる。翌年には、他社と協業して電力需要抑制ソリューションや、ボイラー改修などを中心とした熱領域にも参入し、全体的な最適化を目指すエネルギーソリューションビジネスに着手。17年には電力小売り事業者登録の申請を行い、高圧部門の販売事業を開始。18年には低圧部門もスタートした。

変革するエネ業界に興味 コンサル業務の知見が強み

中塚副社長が楽天に入社したのは、低圧小売りの開始直前だ。それ以前は、コンサルティング会社に13年在籍した。主に通信事業者やハイテク系企業を担当。プロジェクトを70近くこなしてきた。上場企業の全社戦略の立案、M&A(合併・買収)、新規事業の立ち上げ、現場でオペレーション改革にも携わってきた。エネルギーについては、「系統の送電ロスをどう最適化するか」「エネルギー消費をどう効率的に行い、電気代を安くするか」など、コンピューターサイエンスを活用できる事柄への関心があった。

エネルギーシステム改革が進み、16年に電力小売り全面自由化が始まった。「異業種のコンサルに関わっていても、エネルギーの自由化にどう関わっていくか、が議題に挙がっていました」。その状況を目の当たりにして、大きな変革期に突入すると直感した。

一方で、自由化が進む中にあっても、エネルギー事業者は「絶対に供給を止めてはいけない」という使命感を持って取り組んでいる。その難しさが、中塚副社長の目には、自身が携わってきた通信業界でいう第2・第3世代(2G・3G)の時代に近いものに映った。

「2000年ごろ、NTTドコモの『iモード』によりパケット通信が普及し、音声用と通信用の周波数帯域をともに保証するハイブリット型の通信形態が出てきました。今後の電力業界でも、ベースロード電源で安定供給を保証しつつ、ベストエフォート型の分散型電源が台頭する点が重なります」

昨年末から今年初めに掛けて、安定供給について見つめ直すきっかけとなる出来事があった。電力の需給ひっ迫だ。日本卸電力取引所の価格が高騰し、電力会社は苦しい経営状況に置かれた。楽天エナジーも例外ではない。1月26日には新規募集を停止する事態となった。これについては誤解もあったという。

「事業継続性に問題があったのではなく、あの期間、急激に申し込み者数が増えて、そうせざるを得なかったのです。既存のお客さまに安定したサービスを提供するための措置として、募集を停止しました。3月から再開し、その後も順調に加入数は増えています」

直近の資源エネルギー庁が発表する低圧部門の小売り販売量では、新電力の中で楽天エナジーは8位につける。事業を開始して2年6カ月でこの数値は驚異的といえるだろう。顧客獲得の要因として挙げるのが、楽天経済圏の存在だ。ポイントを強みに急速に利用者が増えている。高圧についても、楽天市場に出店する法人を中心に増加傾向にあるとのことだ。20年に取り次ぎ販売を開始した都市ガスも同様で、グループが展開するサービスのヘビーユーザーを中心に顧客を獲得している。「外から見て感じた以上に楽天経済圏の影響力は大きいです。コールセンターに届く声も大半が楽天ファンであり、親身なものばかり。皆さまの生活の一部に、楽天があると実感しています」

効率化に不可欠な顧客数 さらなる獲得に挑む

エネルギー業界はデジタル化のフェーズに入ることは間違いない。その中で、同社が注力しているのはさらなる顧客獲得だ。ネットワークを利用するビジネスでは、顧客数が増えた効果は単純な足し算ではなく、その数の2乗で表れるというメトカーフの法則がある。デマンドレスポンス(DR)や、P2Pによる電力取引といった新ビジネスはより多くの顧客を抱えて最適化した方がより効果が大きくなる。楽天経済圏の強みはデジタル化したエネルギービジネスで、より効果を発揮していきそうだ。

【新電力】英国で問題視 再エネメニュー氾濫


【業界スクランブル/新電力】

英国で「グリーンウォッシュ」と呼ばれる、REGO(再エネ証書)を活用しているが再生可能エネルギーの新設投資に結び付かない再エネ料金プランに対する批判が高まっている。特にREGOが安価であることから、再エネメニューが氾濫しており、メニューの30%はグリーンウォッシュであるとの調査結果も出ている。当然、再エネ電源への投資を行っている小売事業者からは批判の声が上がっている。REGOの価格は大変安価であり、また大半は海外産(特にイタリア、デンマーク、スウェーデン)の証書が活用されているため、国内で再エネの増加に寄与していないというのだ。

電力小売りの差別化は非常に難しく、小売り電気事業者の立場からは資金調達や顧客遡及の観点から、設備投資を行うことなく「再エネメニュー」の表記が可能になるグリーンウォッシュを使わない手はない。他方で、富の偏在化を自ら創出してしまうことになる。事業者の視点から考えると、大変なジレンマである。

国民負担により、リスクが僅少で投資されながら極めて高い買い取り価格が設定されたFIT電源ではなく、買い取り価格が安いFIT電源や新設再エネ電源に対して環境価値を帰属させ、再エネメニューで支えるような仕組みが必要ではないだろうか。中小規模の一部新電力は再エネ電源へのアクセスの「公平性」を主張するが、「公平性」は突き詰めると各社同じサービスしか提供できない金太郎飴のような市場環境を招いてしまい、過当競争に陥る。これは電力業界が電力システム改革で学んだ大きな教訓だといえる。

過去、大手電力会社は政界と連携した動きを取ってきたと批判されたが、今や一部新電力が同種の行動を取っている。残念ながら一部新電力の行動は、社会にゆがみを生じさせ、再エネ普及拡大には役立たないものである。設備を持たない新電力は、規制の中でしか生きることができない存在だ。社会的に意義のある役割を見いだし、必要な制度的措置を政策当局に訴えかけていくことが肝要ではないのだろうか。(M)

トップ交代でグレンコアの石炭事業の行方は


【ワールドワイド/コラム】水上裕康 ヒロ・ミズカミ代表

「中国の石炭需給は大変な状況だ。気をつけろ」と言われたのは2003年11月のこと。グレンコアは後に“資源ブーム”と呼ばれた状況をいち早く把握していた。果たせるかな当時20ドル台だった一般炭価格は、翌春には50ドルを超えた。話を聞いたのはスイスのバールにある本社だ。ハイジが出てきそうな田舎町だったが、ここに世界中から生きた情報を集めていることに驚いたものである。

そのグレンコアのトップに19年間君臨するアイヴァン・グラセンバーグが6月末に退任する。就任以降、トレーディングが中心であった同社を資源生産者としても成長させた功労者だ。7月からは40代のギャリー・ネーグルがCEOを務める。そういえば当時、南アから来たばかりのイケメン青年がいたことを思い出す。同じ南ア人・石炭事業出身で、ミニ・アイヴァンと呼ばれることもあるギャリーだが、資源ブームのなかで事業を拡大した前任者に対し、彼を待ち受けるのは“脱炭素”の大潮流だ。逆風の一般炭事業では、他の資源大手が相次いで撤退する中、同社は今や世界一の輸出事業者である。

既にグレンコアは50年までのネット・ゼロ、35年までの40%のカーボン削減を表明。今後、石炭生産は頭打ちとし、コバルト、ニッケル、銅といった脱炭素時代を支えるメタルの事業に注力するとしている。蓄電池の主材料であるコバルトでは世界最大級の生産者になっている。

今回の一連の人事で、長年石炭の取引を率いてきたトア・ピーターセンも退任するようだ。彼もまた“古き良き”石炭の世界で生きてきた人間だ。後任は全く畑の違うフェロアロイ出身と聞く。石炭への包囲網が日増しに狭まるなか、生産・販売の両面で新経営陣の「次の一手」が注目される。

【電力】ゆがんだ再エネ制度 目標達成への回り道


【業界スクランブル/電力】

「RE100」を目指す企業をはじめ、再生可能エネルギー電気へのニーズが高まっており、非化石価値取引市場の見直しが検討されている。FIT非化石証書を取引する再エネ価値取引市場を新たに分離独立させ、企業が小売り電気事業者を介さずとも購入できるようにするとともに、最低価格を現行のkW時当たり1.3円から欧米並みの10~20銭に引き下げることを視野に入れている。国民が負担しているFIT賦課金は炭素価格に換算するとtCO2当たり数万円。対して1.3円は3000円以下である。志の高い企業が負担できない水準ではないと思っていたが、これでも高いらしい。

RE100の年次報告掲載のアンケートによると、回答者の70%が再エネ100%の電気に切り替えた理由を経済性と答えている(複数回答可)。つまり「再エネが安いから買った」である。うがった見方かもしれないが、安いから再エネが買われるなら、一般国民には高い電気が残る。これでは安い電気を大企業が買いあさる運動になってしまわないか。

ここは再エネ価値の基準が「追加性」を問わないことに原因がありそうだ。安い新設再エネも中にはあるだろうが、北欧やカナダの既設水力の電気を購入しても、再エネ価値を主張できてもそうしていない企業と差別化できるなら、国際競争に直面している本邦企業が、同じく追加性のないFIT証書を安く購入したいと思うのは理解できる。ただ、これでは割高であるが追加性のある再エネ導入の取り組みをスポイルしてしまい、再エネ推進のつもりが逆の結果を招きかねない。インセンティブがゆがんでいるのだ。

ゆがんだインセンティブはほかにもある。RE100は需要場所で使っている化石燃料の再エネ化を求めていない。だから、電気温水器、電気暖房、EVを採用せず、燃焼機器を使い続ける方がRE100を宣言しやすいのもゆがんだインセンティブだ。民間が自主的に取り組む姿勢は一般論としては尊い。しかし、2050年まで残された時間はそれほどない。ゆがんだインセンティブのために回り道することは避けたい。(T)

先進国と途上国の対立バイデン気候サミットで再燃


【ワールドワイド/環境】

4月22~23日、米国のパリ協定体制への復帰のPRと、2050年カーボンニュートラル(CN)に向けて各国に30年目標引き上げを迫ることを目的とした気候サミットが開催された。

 他国に目標引き上げを促すべく、米国は05年比マイナス50~52%という野心的な30年目標を発表したが、その確固たる裏付けはない。4月初めにグリーンインフラを含む8年間2・3兆ドルの経済対策を発表したものの、35年電力部門CNのための国内政策の導入の見通しは立っていない。1月の政権発足後、わずか3カ月での国内政策積み上げは土台無理であったが、他国の行動を促すべくケリー気候特使が発表を強く主張したという。

 バイデン政権としては、主要途上国、特に中国の目標引き上げを取りたかった。サミットの前週にはケリー特使が中国に赴き、米中気候変動協力の方向性は取り付けたものの、引き上げの言質を得ることはできなかった。ウイグル人権問題などで米中関係が緊張する中、習近平国家主席のサミット出席すら確認されていなかった。結局、習主席の参加こそ実現したものの、25~30年に石炭消費を抑制すること以外、60年CN、30年ピークアウトという現行目標の見直しについて何の言及もなかった。インド、ロシア、インドネシア、南ア、ブラジルなどからも目標引き上げの発表はなく、引き上げたのは米国、カナダ、日本、EUなどの先進国のみであった。

 50年CN達成のカギを握っているのは途上国である以上、30年全球マイナス45%は絶望的であると言わざるを得ない。むしろ1.5度目標とそのための50年全球CNに固執するあまり、限られた炭素予算を巡る先進国と途上国の対立を激化させる結果になったともいえる。

 今後、先進国が途上国にCN目標表明や目標の引き上げを迫ったとしても、途上国は「先進国は40年以前のネットゼロエミッション達成と途上国支援の大幅積み増しをコミットすべきだ」と主張するだろう。トップダウンの目標にこだわり、各国の実情を尊重するボトムアップの枠組みでもあったパリ協定を変質させ、先進国、途上国のパイの奪い合いをもたらしたバイデン・ケリー気候変動外交の前途は決して容易ではない。もちろん米国の強い働きかけからマイナス46%目標をプレッジした日本の道のりも極めて厳しい。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院教授)

ASEANのエネルギー転換クリーンコール技術を活用


【ワールドワイド/経営】

東南アジア諸国連合(ASEAN)は、「持続可能な開発に向けたエネルギー転換(トランジション)」を目標に掲げている。ASEANにおけるトランジションの定義は、化石燃料から再生可能エネルギーへの転換に限られるものではない。経済成長と環境対応を両立させる上で、化石燃料のクリーン利用も重要な柱として強調されている。

 経済成長が著しい今のASEANには、エネルギー安定供給の観点から石炭火力を完全に排除する選択肢はなく、国連が提唱する持続可能な開発目標(SDGs)およびASEANの地域目標の達成に向け、二酸化炭素回収・利用・貯蔵(CCUS)を含むクリーンコールテクノロジーに対する期待が非常に高まっている。

 昨年発表されたASEANの長期エネルギー見通しによると、最大限の努力を行う場合でも、石炭火力は40年における発電電力量の3割超を占めており、どのシナリオであっても基幹電源となる。短中期的な石炭比率低減戦略は石炭のバイオマス混焼であり、これを中心に25年の一次エネルギー総供給量に占める再エネの割合を23%に引き上げることを目指している。長期的には超々臨界(USC)などの高効率低排出(HELE)石炭火力技術とCCUSにより低炭素社会とエネルギー転換を実現するとしている。発電分野では石炭火力のクリーン化に向けて、HELE石炭火力技術、バイオマスとの混焼、CCUSといった技術導入の研究・実証が行われている。

 このようにASEANはクリーンな石炭火力を「経済発展と環境対策の両立を可能にする有力な選択肢」と捉えている。その一方で、近年は先進国の金融機関や投資家などが石炭火力を「座礁資産」と位置づけ、投融資を引き揚げるダイベストメントや、企業活動に影響を及ぼすエンゲージメントに取り組んでいる。ASEANの友好協力国であるわが国もまた、新興国への石炭火力の新規開発を原則禁止とし、さらにUSCさえも融資対象から外すよう国際的な強い圧力を受けている。

 新型コロナのまん延により、経済成長の停滞など新たな課題を抱えているASEANでは、石炭を中核に据えたクリーンで安価なエネルギーの安定供給の重要性が再確認されている。石炭に依存せざるを得ないASEANに対するわが国の環境負荷低減への貢献は、CCUS付き高効率火力発電を中心とした技術導入支援によるものだろうが、それも国際的な理解を獲得できるかにかかっている。

(柳 京子/海外電力調査会調査第二部)

露が長期戦略で水素開発推進石油・ガス会社は増産を堅持


【ワールドワイド/資源】

気候変動対策として、世界的な脱炭素の潮流と代替エネルギーとしての水素への関心が高まる中、ロシア産化石燃料の最大市場である欧州は、グリーンディールによって気候変動対応へさらに大きくかじを切った。これに引きずられて、昨年11年ぶりに改訂されたロシアの「長期エネルギー戦略」(~2035年)には、水素戦略が盛り込まれた。

 ロシアにおける水素の生産主体としては、供給源・供給インフラとなる天然ガスとパイプラインを有するガスプロム、欧州が望む気候中立な「イエロー水素」(原子力発電を用いて生成した水素)の主体となるロスアトムに光が当たっている。その影で、ロシア最大の石油会社ロスネフチや第二位のルクオイルなど主要石油会社や、LNGを主業とする独立系ガス生産会社のノバテクは、政策から取り残される形になった。しかし、彼らは独自の解釈・考え方で試行錯誤を行い、この脱炭素の潮流への対応を目指している。

 ロスネフチは政府の動きに敏感に反応し炭素戦略を発表し、長期的な石油生産維持とクリーンな生産技術開発を成長戦略に据えた。炭化水素生産の大幅削減を発表した大株主BPの方針との矛盾が指摘される中、付け焼刃的に環境技術協力を立ち上げ、批判をかわそうとしている。ルクオイルも脱炭素に向けた情報公開を進める一方で、原油・天然ガスの生産抑制に対しては慎重な姿勢を貫く。「石油会社は代替エネルギー技術を開発するという高額で意味のないことに没頭するより、森林吸収とCCSに注力すべき」と言い、世界最大の森林地帯を有するロシアは、二酸化炭素排出量を相殺することが可能であると主張している。

 ガスプロムネフチは戦略見直しを表明するも、化石燃料増産目標は継続する方針だ。50年までにカーボンニュートラルを目指す計画を発表したタタールスタン共和国系のタフトネフチもまた、中期的な化石燃料増産は否定せず、炭素中立に向けた具体的な方策は不明確なままである。

 他方、石油会社同様に長期エネルギー戦略における水素エネルギー開発では蚊帳の外にいる、ガス業界第二位のノバテクは、独自に脱炭素に寄与する再生可能エネルギー・CCS・水素生産の具体的プロジェクトを立ち上げ、実現に邁進しているトップランナーと言えるだろう。しかし、同社も化石燃料の生産抑制は検討しておらず、カーボンニュートラルLNGを通常のLNGに代わり今後拡大する付加価値市場と捉えている。

(原田大輔/石油天然ガス・金属鉱物資源機構調査部)

LPや機器販売などで売り上げ拡大都市ガス事業の業績を補う


【常磐共同ガス】

福島県の浜通りに位置する常磐共同ガスは、顧客数1万6000件規模の都市ガス会社だ。東日本大震災では、地震や津波で大きなダメージを受けたのと同時に、福島第一原子力発電所の事故の影響も重なり、復旧に多くの時間を要した。復旧が思うように進まなかったときには、事業継続を危ぶむ意見もあったという。そうした困難を乗り越えて、現在、同社は売り上げを急拡大させている。

相双営業所の新社屋(上)とデポ基地

主力の都市ガス事業は厳しい状況にある。少子高齢化や人口減少が進む中、新型コロナウイルスが需要減少に追い打ちをかけたのだ。地元の商業施設や温泉旅館などが、大きな影響を受けた。業務用途では、いわき市医療センターで2019年に開始したエネルギーサービス事業や施設管理を手掛けている。ここでの知見をほかの施設でも活用していくなど、新たな需要拡大の施策を検討している。

震災以降はさらなる成長のために、他事業に従来にも増して注力している。その一つがLPガス販売だ。いわき市には被災者や避難者向けの仮設住宅や公営の復興住宅が建設された。原発避難区域を中心に、避難する住民の流入に伴い、居住する世帯が一気に増加した。金成義順・供給部長は「地域によっては人口が2~3倍増えたと思います。コンビニはいつも混雑し、歯医者は1~2カ月先まで予約が取れないほどでした」と当時を振り返る。

LPガス需要も急激に増え、顧客数は1万件にまで達している。現在、同社ではいわき市周辺から浜通りを中心に営業エリアを拡大中。昨年には、LPガス配送拠点機能を有する相双営業所(福島県広野町)と、南相馬営業所(福島県南相馬市)の新社屋を相次いで開設している。

エコキュートなども販売 水素設備の施工にも挑戦

家庭用エネルギー機器販売も好調だ。ガス機器にこだわらず、エコキュートやIHコンロなども手掛けている。「これまでも低炭素社会を念頭にエネルギー機器販売戦略を考えてきましたが、昨年10月の菅義偉首相のカーボンニュートラル宣言の影響は大きくなるとみています。長期的に展望していくと、多くの商材を手掛けていく必要性を改めて感じました」と金成部長は語る。

このほか、水素など新エネルギーへの挑戦にも前向きだ。同社は昨年7月に運転開始となったJヴィレッジ(福島県楢葉町)に設置された東芝エネルギーシステムズ製の純水素燃料電池システム「H2Rex」の工事を担当。こうした活動にも積極的に取り組んでいく構えだ。

【コラム/6月14日】カーボンニュートラルは地域経済の破滅計画 忍び寄るエネルギー貧困の危機


杉山大志/キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

日本政府はCO2を2030年までに46%減、2050年までにゼロにするとしている。そして「経済と環境を両立」させて「グリーン成長」によってこれを達成するとしていて、「イノベーションを推進」している。

けれども、カーボンニュートラルというのは、本当に実施しようとすれば、そんなきれいごとでは到底済まない。

県によって温度差 地域経済が崩壊するのはどこ?

カーボンニュートラルを目指すというとき、特に脆弱なのはどの県か。指標を見てみよう。

(出典:総合地球環境学研究所)

リンク:https://local-sdgs.info/fukusu_content/731-941/

図は、縦軸が県民総生産当たりのCO2排出量、横軸が県民総生産当たりのエネルギー消費量である。県民総生産とは、県の経済規模を表す指標である。

まず第一に分かることは、ほぼ一直線上にデータが並んでいること。すなわち、CO2排出量とは、エネルギー消費量とほぼ同義であることを意味している。

つまりCO2を減らすとなると、エネルギー消費を減らさねばならない。既存の工場ではその技術的手段は限られるから、大幅にCO2を減らしたければ、最後は生産活動を止めるしかない。

そして第二に分かることは、県によって、大きな違いがあることだ。

縦軸の「県民総生産あたりのCO2排出量」は、カーボンニュートラルに対する脆弱性の指標である。図を読むと以下のようになっている(単位はtCO2/百万円)

1位  大分  6.7

2位  岡山  6.0

3位  山口  6.0

・・・

最下位  東京  0.7

トップの大分では6.7であるのに対して、最下位の東京は0.7なので、10倍も開きがある。

大分で「県民総生産あたりのCO2排出量」が大きい理由は、製造業が発展しており、それに頼った経済になっているからだ。CO2を急激に減らすとなると、大分、岡山、山口では、工場は閉鎖され、経済は大きな打撃を受けることになるだろう。

4位以下もリストにしておこう。

4位  和歌山

5位  広島

6位  愛媛

7位  千葉

8位  茨城

・・・

以上の県の人々は、これから自らの経済がどうなってしまうのか、よく考えるべきだ。そして、菅政権の下で進む無謀なカーボンニュートラル政策に対して、自治体、政治家、企業、労働者、一般市民が一体となって、異議を唱えるべきだ。

議論進む炭素税 寒冷地・農村部の負担重く

炭素税の導入の是非が政府審議会で議論されている。この夏には中間報告が出る予定だ。

もしも導入されるとなると、産業部門は国際競争にさらされているから、家庭部門の負担が大きくならざるを得ないだろう。実際に欧州諸国ではそのようになっている。

ではどの地域の負担が大きくなるだろうか。これも、炭素税に対する家計の脆弱性の指標を見てみよう。

(出典:国立環境研究所)

リンク:https://www.nies.go.jp/kanko/news/39/39-1/39-1-03.html

市町村単位での世帯当たりCO2排出量の推計値(図)を見ると、以下の特徴が分かる

•都市より農村で多い

•寒冷地で多い

この結果、東京・大阪などの都市部に比べて、北海道・東北などの農村部では、世帯あたりのCO2排出量が倍になっている。

図中赤く塗られているところが世帯あたり5t以上のCO2を出しているところだ。5tのCO2を出している世帯は、仮に1tCO2あたり1万円の炭素税になるとして、負担は年間5万円になる。

炭素税が導入されるとなると、過疎化や高齢化が進む北海道や東北などの地域にとって、特に重い負担になりそうだ。寒冷地の方は要注意である。

英国にはエネルギー貧困ないしは燃料貧困という言葉がある(energy poverty, fuel poverty)。多くの貧しい人々が、光熱費が高いので、暖房をつけず、部屋の中でマフラーや帽子をして、布団に入って暮らしているのだ。映画「チャーリーとチョコレート工場」の主人公チャーリーの家がそうだ。

日本でもこんな生活が待っているのだろうか?

【プロフィール】1991年東京大学理学部卒。93年同大学院工学研究科物理工学修了後、電力中央研究所入所。電中研上席研究員などを経て、2017年キヤノングローバル戦略研究所入所。19年から現職。慶應義塾大学大学院特任教授も務める。

【マーケット情報/6月11日】原油続伸、需要回復が加速する見通し


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み続伸。需要回復が加速するとの見方で、買いがさらに優勢となった。

移動・経済活動の規制緩和が進む欧州では、新型ウイルスのワクチン接種歴などを記載した証明書の携帯を条件に、EU加盟国間の渡航を解禁。証明書の発行は7月1日からとなっている。加えて、米国では今夏、ガソリン消費の前年比増加が見込まれており、燃料需要回復への期待感が高まっている。

また、国際エネルギー機関は、来年末には、世界の石油需要が新型ウイルス感染拡大前の水準に戻ると予測。価格に、さらなる上方圧力を加えた。

製油所の原油処理量増加も、強材料として働いた。米国では製油所の高稼働により、週間在庫統計が減少。フランスでは、Total社のGonfreville製油所が、2019年12月に発生した火災から復旧し、1年半ぶりに再稼働した。さらに、インドでは、複数の国営製油所が徐々に稼働率を引き上げている。国内の感染者数増加が減速し、ロックダウンを緩和したことが背景にある。

【6月11日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=70.91ドル(前週比1.29ドル高)、ブレント先物(ICE)=72.69ドル(前週比0.80ドル高)、オマーン先物(DME)=71.37ドル(前週比0.99ドル高)、ドバイ現物(Argus)=70.97ドル(前週比1.11ドル高)