【多事争論】話題:小売りの供給力確保義務
昨年末からの冬の電力需給ひっ迫で、供給力不足の懸念が広まった。
小売り事業者が安定供給にどう役割を果たすべきか、議論が不可欠になっている。
〈 CN移行期の課題が顕在化 プレーヤーの行動改革が不可欠〉
視点A:竹廣尚之 エネット取締役需給本部長
国内の電力市場全体を取り巻く環境が昨冬の需給ひっ迫、そしてカーボンニュートラル(CN)の潮流を受けて大きく変化している。本稿では、供給力確保の課題に対し、各プレーヤーに求められる役割や事業制度として検討すべき点について、今後の事業環境変化を見据えながら考えてみたい。昨冬の需給ひっ迫は、LNG在庫不足によるkW時不足と寒波での需要増が重なったことが直接的な原因だが、背景には限界費用ゼロの再生可能エネルギー導入拡大とそれに伴うスポット市場価格の低下、火力の退出増傾向による供給力低下もあった。この教訓から、燃料不足の予兆を把握するために広域機関によるkW時モニタリングが試行されるとともに、国による燃料ガイドラインが整備された。東京電力エリアにおける今冬の供給力不足へも速やかに対応し、調整力公募による追加供給力の調達が行われることにもなっている。
これまで東日本大震災などの災害時などを除けば、安定供給がある意味所与の条件として小売り競争が行われてきた。しかし今後は、 小売り事業者も3E+Sのうちエネルギーの安定供給に貢献しつつ競争する時代に突入したと感じている。小売り事業者は、相対取引や先物・先渡・ベースロード(BL)・スポット市場を最適に組み合わせ、リスクをマネジメントしながら健全な競争の中で脱炭素へと移行する需要家ニーズに適応し、個社の提供価値を組み合わせてその存在意義を示していくものと考える。大手電力会社の発販一体が続く状況下で需給構造の変化が急速に進むことが予想される中、供給力確保をどう実現していくべきか。
顕在化した広域的な供給力不足 小売り事業者の役割の議論熟さず
昨冬に顕在化した通り、広域的に供給力が不足し追加的な調達手段がほぼ失われた際に、どこまで市場原理に依存し小売りの供給力確保義務をどう扱うかの議論は熟されていない。系統全体で供給力不足が想定される時には、一定のルールを整備した上で安定供給を一般送配電事業者が担い、小売り事業者は顧客との接点を生かし需要抑制・シフトなどの取り組みで需給に貢献する形も考えられる。
CNへの移行期における課題が既に顕在化しているが、各プレーヤーの行動態様を変える契機が訪れているともいえる。市場支配力のある事業者にとってみれば、内外無差別の徹底やBL市場への対応、余剰電源の限界費用での市場供出など多くの措置が取られ、あらゆる行為についての監視の目も厳しく相当に大変な対応が発生している。一方で、利潤最大化行動のもとで新規参入者との相対取引・交渉に臨み、収益を追求することには極論すれば何ら制約はない。新電力もまた、ヘッジの重要性を再認識させられ昨年の今頃と状況は大きく変わっている。
第1・2回BL市場は、取引が適切に実施された前提で考えれば、上昇局面にある燃料市場の動向をどう見切るか、あるいは別策でどうヘッジできるかによって価格目線が変わる中、売り手、買い手とも踏み込んだ価格で臨めなかったと考える。資源価格が想定できない値動きをする状況下、燃料費調整なしのオークションであり交渉で歩み寄るアプローチが取れない仕組みの中、約定が難しい。
一方、この約定結果は次年度の相対交渉を進める一つの価格インジケーターになり得る。市場と並行して売り手と買い手が利潤最大化を追求し、早期の交渉によって計画的に売買先を確保できれば、全てではないが、供給力確保問題の一部は経済合理性や個社の商取引力の問題へと変化していく。
いみじくもニーズが高まった常時バックアップは、小売りが高需要期に有効活用する電源として合理的な価格水準で安定供給に資する卸メニューとして位置付ければ、トランジション期に適合する柔軟性電源として役割を発揮するだろう。その際は、もはや補助的な役割を想起させる名称ではなく再エネと共生する重要電源として再定義するのではないか。
通信では激しい競争の末、NTT東西が光アクセスを「サービス卸」へと見直し、さまざまなパートナーのサービスと組み合わせ新たな価値を提供する「道具」として活用されることへと転換を図った。電力の世界でそのまま当てはまるものではないが、データを有効活用する環境は整いつつある。新規参入の立場で見える景色は、今持っている前提や先入観によってもたらされていることに気付く必要があり、前提が変わればプレーヤーの行動も一気に変化することを考えておく必要がある。
供給力確保の問題は制度設計で整理する部分とともに、プレーヤーの行動変革に依存する部分も大きい根の深いテーマである。



