第六次エネルギー基本計画が閣議決定され、脱炭素社会実現に向けた動きが加速している。
その大きな鍵を握るのは、最終エネルギー消費の7割を占める熱利用分野だが、課題は山積している。
政府が掲げる2050年カーボンニュートラル(CN)社会の実現は、不可逆的な流れとして社会全体に大きな構造転換を促そうとしている。
10月に閣議決定された第六次エネルギー基本計画には、「従来の発想を転換し、積極的にCNに向けた取り組みを行うことで、産業構造や社会経済の変革を見出し、次なる大きな成長につながる『経済と環境の好循環』を作っていくことが求められる」と明記されている。
これを実現するには、行政、研究開発機関、エネルギー供給事業者、そして産業界を中心とした需要家が一体となって、産業の競争力を維持向上させながら脱炭素化を実現するためのイノベーションへの挑戦に、待ったなしで挑戦していく必要がある。
エネ基議論では、とかく電源構成比率(エネルギーミックス)の数値ばかりが注目されがちだ。今回のエネ基を巡る報道を見ても、ほぼ再生可能エネルギー比率や原子力の最大限活用の是非に終始していたと言って過言ではない。
それに加えて、10月末から英国で開かれていた国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)を巡っては、各国が石炭火力の低減・廃止をどう宣言するか、しないのかといったニュース一辺倒で、あたかも電源の脱炭素化さえ実現できれば、気候変動問題の全てが解決できるかのような報道が目立った。
これでは、こうした報道に触れる国民の多くが、CO2排出問題=電源問題であると思っても不思議ではない。
新技術の社会実装へ 具体的な道筋示せ
しかし、忘れてはならないのは、日本の最終エネルギー消費のうち直接的な電力として利用されるのは約3割に過ぎず、残りは化石燃料を用いた熱利用が占めているということだ。需要側で省エネと電化がある程度進むとはいえ、30年度の断面でもその構造が大きく変わることはない。
それは50年に至っても同様だ。脱炭素社会を実現するということは、極論すれば化石燃料を使わないということ。しかし、日本は産業用の熱需要が多く、電化以外を認めないとなれば製造業が衰退し雇用が維持できなくなる恐れが大きい。
エネ基が掲げる、脱炭素社会の追求による「経済と環境の好循環」を創出するには、未利用熱エネルギーの有効活用と熱源の脱炭素化に資する技術の確立を急ぐと同時に、社会実装に向けた具体的な政策を示さなければならない。それがなければ、50年脱炭素化など絵に描いた餅に終わる。

しかし、熱エネルギーについて、再エネなど電力分野と同様に長期的な政策やロードマップを描くことは、そう簡単ではない。課題は主に三つあるようだ。
一つ目は、熱は、投入エネルギー(石油、石炭、天然ガスなど)、供給・利用設備(ボイラー、工業炉、ヒートポンプ、コージェネレーションシステムなど)、熱の形態(温水、蒸気など)、利用温度(10℃以下の冷熱~1000℃以上の超高温熱)といった、供給や利用方法が事業所によって千差万別であるということ。このため、需給実態の把握は困難を極める。
二つ目は、簡単な道のりではないとはいえ、電力分野が再エネや原子力など脱炭素化に向けた技術的な活路がそれなりに見出せているのに対し、「熱エネルギーの獲得、活用、再利用といった基礎的な技術が圧倒的に不足している」(大口需要家)ことだ。
蒸気や温水などによる低温帯の熱需要については、ヒートポンプなどの電化技術による脱炭素化が期待される。一方、電化が困難な高温帯の領域では、水素やアンモニア、合成メタンなど合成燃料の活用による脱炭素化、特に産業部門においては、水素還元製鉄や人工光合成などのイノベーションが不可欠となる。だが現時点では、これらが技術的、コスト的なハードルを越えられるかは未知数だ。
最後に、エネルギー政策を主導する資源エネルギー庁の組織的な問題がある。関連政策が広範に及ぶことから、政策によって担当課がエネ庁内で分散してしまっており、トータルで熱政策を語れる部署がないのだ。 何より、「電力」「ガス」「石油」といった供給側の政策を手掛ける同庁にとって、需要家の取り組みが主軸となる熱エネルギー政策は「不得意」。エネ庁幹部でさえ、「熱エネルギーはエネ庁のアキレス腱だ」と言わざるを得ないのが実情だ。熱政策に本腰を入れるために、まずは組織体制の見直しを図る必要があるかもしれない。
CNの国際基準主導へ 官民の総合力問われる
いずれにしても、今すぐに熱源を水素に切り替えられるわけではなく、現状では企業需要家は、電化なのか、天然ガスシフトなのか、次の数十年を見据えた設備投資計画を描くことすらままならない。「技術革新に合わせてどう設備更新計画を描くのか、その羅針盤を示すのがエネ庁の役割だ」(エネ庁OB)
まずは、電化が可能な領域以外では、熱源をより低炭素なガスに切り替えた上で、技術が確立した暁にはそのガスを脱炭素化していくことが選択肢の一つとなる。都市ガス業界が将来のCN技術として注力するメタネーションは、再エネ由来の水素とCO2を反応させ合成メタンを生成する仕組み。利用時にCO2が排出されるが、回収するCO2と相殺されCNであるとみなし得る。
ただ、こうした技術が確立したとしても、今のところこれらをCNとして定義付ける制度が国内にも国際的にも存在していない。特に欧州各国は、化石燃料を活用し続ける仕組みには否定的で、国際標準化の前途は多難。
いかに世界に協力国を作り、熱分野のカーボンニュートラルの国際基準づくりを主導していくのか。つまり、政府がCOPやG20といったハイレベルな交渉の中で発信力を高められるか―。官民の総合力が問われている。


