【おやおやマスコミ】井川陽次郎/工房YOIKA代表
見出しが気になった。日経8月31日「The Economist、加州知事リコール、民主主義の欠陥」である。米カリフォルニア州のニューサム知事が解職の危機にあり、後継者としてトランプ前大統領を信奉し、過激な発言で知られるラジオ番組司会者が有力視されているのだという。住民投票は9月14日なので、本誌発行の頃には結果が出ているだろう。
問題は、「民主主義の欠陥」とは何かだ。
現職知事は、貧困層の税控除拡大など実績を残してきた。最重要の新型コロナウイルス対策は「おおむね好調」で「今の苦境が奇妙に思える」と記事にある。それでもリコールが発議されたのは制度の欠陥が原因だと指摘する。
記事によれば、同州では「有権者の12%にあたる署名」で住民投票が実施される。解職を免れるには50%以上の信任票が要る。下回ると、後任候補の中で得票数最多の人物が知事になる。
民主党支持者が圧倒的に多い同州だが、現職信任の動きは鈍い。後任候補も、支持が「20%に満たない」過激な司会者にかなう人物は出ていないという。
安定性を欠く制度だが、コロナ対応への不満もあるだろう。感染ゼロは不可能で社会生活に制約が伴うのは明らかだが、鬱憤は残る。それが政治を揺るがす。
日本も変わらない。読売9月6日「首相退陣『当然』47%、内閣支持最低31%」が国民心理を物語る。菅義偉首相が退陣を決めたことを受けた世論調査結果だが、意外にも「菅内閣の約1年の実績を『評価する』は、『大いに』9%と『多少は』46%を合わせて55%と半数を超えた」とある。しかし、コロナ対策では「『評価しない』58%」だった。
こうした世論を意識したのだろう。朝日4日社説「菅首相1年で退陣へ、対コロナ、国民の信失った末に」は全否定だ。「国民の命と暮らしを守る役割を途中で投げ出す」「専門家の懸念や閣僚の進言を無視して、東京五輪・パラリンピックを強行」「自らの政治的な利害を優先し、根拠なき楽観論に頼って感染拡大に歯止めをかけられない」とののしる。
さらに「首相を選び、この1年、政権運営を支えてきた自民党自身にも、重い責任がある」と与党をたたくが、政策への言及は薄い。
同日の日経と読売の社説は、コロナ対策を含めて幅広く論じ、「菅政権が取り組んだデジタル化の推進や地球温暖化対策などは、政権が変わっても注力すべき重要テーマ」(日経)、「デジタル庁創設や携帯電話料金の引き下げでは指導力を発揮し、一定の成果を上げた」(読売)と評価する。
読売社説は、朝日が全面否定した東京五輪・パラリンピックについても、「中止論を抑えて開催に導いた。大きな集団感染を発生させることなく、国際社会に対して、開催国としての責任を果たすことができた」と書いている。
いずれも、朝日社説のように感情的ではない。
ツイッターなどを利用したネット世論が政治に影響する時代になり、社会心理学の古典とされるギュスターヴ・ル・ボン著「群集心理」(1895年刊)が改めて注目されている。群衆は扇動され、偏向しやすい。感情に染まり時に暴走する。そう分析した。
現在の衆院議員は10月21日に任期が満了する。自民党総裁選を経た新首相の下、衆院選が行われる。メディアにあおられ、国民が群衆化すれば、将来を誤る。
いかわ・ようじろう(デジタルハリウッド大学大学院修了。元読売新聞論説委員)