福島復興の「障害」除去へ トリチウム水海洋放出を決定


「福島の復興を成し遂げるためには避けて通れない」 4月13日、菅義偉首相はこう述べ、関係閣僚会議で福島第一原子力発電所サイト内のALPS(多核種除去設備)で処理したトリチウム水を海洋放出する方針を決定した。事故前の福島第一原発の放出上限である年間22兆ベクレルを30~40年かけて、2023年から毎年放出していく。

処理水は2022年秋に保管容量の限界に達する

首相の言う通り、福島第一原発の廃炉を進めるには、敷地内にたまり続ける処理水の放出が欠かせなかった。タンクに保管する処理水の量は既に125万tに上り、22年秋には保管容量の限界となる137万tに達する見通し。これ以上、結論を先送りすることはできなかった。

トリチウム水の海洋放出は、安倍晋三前首相の時から政府にとって重要な課題だった。昨年9月に就任した菅首相は海洋放出の検討を始めたが、漁業関係者などの反発で見送られている。

一方、東京電力は敷地内タンクが増え始めた時点から、福島県の漁業組合関係者と連絡を取っていた。漁業者は風評被害を最も恐れている。さらに「無害」と分かっていても、溶融燃料の冷却水から回収したトリチウムの放出には感情的なしこりがある。東電関係者は粘り強く説明を行い、理解を示す漁協幹部も出始めていた。

海洋放出の決定前に、国は処理水の扱いについて、「ご意見を聞く会」など地元自治体や漁業関係者らを交えた会合を繰り返した。その場で漁業関係者らは、海洋放出に強硬な反対姿勢を示している。一方、漁業団体とのつながりが深い自民党の水産部会は、海洋放出を容認する方針を固めていた。政府関係者は「水面下で、与党の水産族議員が漁協幹部と交渉を重ねていた」と明かす。

全国漁業協同組合連合会の岸宏会長は4月7日、官邸に招かれ、首相から海洋放出の方針を伝えられる。岸会長は会談後、記者団に対して「断固反対する」と強調した。だが官邸で岸氏に間近に接した記者によると、「半ば容認しているようにも見えた」。業界関係者は「トップレベルでは、合意ができていたはず」と話す。

風評被害防止に注力 中国・韓国は意趣返し!?

今後、最大の課題は風評被害対策になる。いまも、消費者には福島県産の農水産物を避ける傾向が見られる。政府はモニタリングを行い、海洋専門家を交えた会議を設置して水質データを検証する。また、国際原子力機関(IAEA)にデータを提供し、客観的な検証をしてもらう。

近隣国の懸念払拭も課題になる。韓国政府は「絶対に許せない措置だ」と批判。文在寅大統領は国際海洋法裁判所への提訴を指示した。中国政府も「深刻な懸念」を表明。垂秀夫・駐中国大使を呼び抗議を行っている。

しかし、両国ともに既に自国の原子力施設が福島第一原発を上回るトリチウムを海洋放出している。徴用工問題や台湾に言及した日米共同声明などを巡り、日韓・日中関係はぎくしゃくする。放出への批判は単に意趣返しのようだ。

【省エネ】再エネ電力の購入 法律で適切評価を


【業界スクランブル/省エネ】

経済産業省の2050年カーボンニュートラル。電力分野は非化石電源の拡大で脱炭素化を実現し、産業・民生・運輸部門(燃料・熱利用)では脱炭素化された電力による電化、水素化、メタネーション、合成燃料などを通じた脱炭素化を進めるイメージである。

電力供給側の取り組みとしてはエネルギー供給構造高度化法がある。一方、需要側では省エネ法の業界別ベンチマーク制度などがあるが、現在の省エネ法の一次エネルギー換算係数では、実際の炭素生産性とリンクしていない。よって、CO2削減対策の電化(業務用車両の電気自動車化や蒸気ヒートポンプ導入、誘導加熱)などがマイナス評価とされたり、再エネ電力購入などの取り組みが一切評価されない課題がある。

当然、環境先進企業が取り組むSBT(科学と整合した目標設定)、CDP(炭素開示プロジェクト)では適切に評価されており、日本企業の多くをカバーする省エネ法でも、脱炭素の取り組みを阻害しない制度に修正すべきである。なお、欧州EU-ETS(連合域内排出量取引制度)は、直接排出のみの規制で、セクターカップリングにより燃焼分野の脱炭素化に貢献する電化は全てプラス評価となる。省エネ法が再エネ電力購入も適切に評価する制度となれば、再エネ電力の需要が増加し、日本の再エネ増加の推進力となり得る。

電力と同じ二次エネルギーの水素については、省エネ法では系統電力とは逆にゼロ評価となっているが、「化石燃料を輸入して、国内で燃焼と同程度のCO2を排出して製造した水素(ある意味、火力発電の工程と同じ)」と「再エネ電力から製造したグリーン水素」の扱いが同じであり、グリーン水素の脱炭素優位性を省エネ法換算係数に加味すべきである。また、メタネーション(合成メタン)についても「Direct Air Carbon Captureと再エネ電力で合成したグリーンメタン」と、「化石燃料起因のCO2を用いるため、最終的には大気へのCO2排出増となるメタネーション」の評価を、「バイオマス起因メタン」と「化石燃料起因メタン」の差と同様に適切に差別化する必要がある。 (Y)

【住宅】低下する売電単価 昼間へ需要シフト


【業界スクランブル/住宅】

2021年1月末の調達価格等算定委員会において21、22年度の住宅用太陽光発電(PV)の売電単価がそれぞれkW時当たり19円、17円と公表された。20年度の売電単価21円でも、一般的な家庭用の電力単価約24円より安価であり、昼間にPVの発電電力を自家消費することが有効と言われていたが自家消費が大きく増加していない。理由は、そもそも一般家庭では昼間の電力需要は少なく、需要をシフトするメリットがなかったからだ。PV搭載住宅は同時に電化住宅メニューを採用しており、深夜電力単価と売電単価を比較した場合、まだ深夜電力単価の方が安いといった背景があると思われる。

21年1月時点で新規申し込みできる各大手電力会社の電化住宅用メニューの深夜電力単価は11~18円だが、これに基本料金の買電量に応じた按分、再生可能エネルギー賦課金、燃料調整費(現在はマイナスであるがプラスになる懸念あり)、消費税などを加えると16~23円程度になることが想定され、21年度以降は、PVの余剰電力の売電単価は深夜電力単価よりも安くなるという状況に変わってくる。この変化は大きな意味を持つ。例えば、エコキュートは安い深夜電力で運転しているが、昼間PVの余剰電力で運転すれば、単価が安い上に昼間は外気温が高いのでより省エネになる。蓄電池も電力単価が安い時間帯に充電することが有効なので、昼間充電になる。まさに昼間へ需要シフトすることがユーザーの経済的メリットにつながる状況が現実的になってくると考えられる。ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の政策も自家消費を拡大する方向へシフトしてきているが、経済的な視点から見ても昼間の需要を増やして自家消費型に切り替えることが今後のトレンドになりそうだ。

課題は昼間への需要シフトに設備機器が十分対応できていないことだ。PVの余剰電力(発電電力)は天候、季節により大きく変動する。その変化により細かく対応できる設備機器の進化が、自家消費型へのシフト加速につながるだろう。(Z)

【太陽光】さらなる普及へ 設置場所の開拓を


【業界スクランブル/太陽光】

パリ協定の目標「2050年カーボンニュートラル」を目指すことは、国内の産業競争力の飛躍やイノベーションのチャンスともいえ、分散型経済社会の実現に向け地域経済循環やレジリエンス向上にもつながるだろう。太陽光発電(PV)は数ある再生可能エネルギーの主力であると信じているが50年カーボンニュートラル達成には、現状の普及施策制度の見直しやコスト、設置場所(適地)、電力系統、地域共生などの解決すべき課題への解決の道筋の提示や、PV導入の将来ビジョンをさらに進化させ、大胆な未来予想図を描き関係者が一丸となって実現に進むべきであろう。

PVは、これまで工業団地の用地、塩田やゴルフ場の跡地など、大小の地上設置のPVが建設・運転されたことにより、わが国の電源構成に影響を与える規模に成長した。ただ今後もエネルギーや環境の観点から、PVの導入拡大を継続させるためには新たな設置場所を求める必要がある。そこで注目されているのが、農地の上の空間や水面の上などの活用だ。農地の上空間を活用する営農型PVシステムは、農地法の一時転用許可が導入の契機となった。地上設置型のPVシステムと比べ、高所太陽電池モジュール設置、支柱間隔の広さ、軟弱な農耕地での強度などの確保が今後の課題として挙げられる。水上設置型PVシステムでは、ため池などの静水面で樹脂製の浮体設置架台基礎(フロート)の上に太陽電池モジュールなどを設置する。建設に適した土地が減少する中で、①未使用(利用)である「水の上」の有効活用、②土地造成工事の不要・減少、③陸上設置に比べ日照を遮る障害物の少なさ、④遊休空間の活用による収入-などの利点がある。だが、風荷重などの設計資料がほとんどなく、台風などの強風時には被害が発生したことも記憶に新しく水上設置の懸念材料といえる。

新しい空間へのPVの普及は課題があるものの、安全・安心にPVシステムを設計・施工するためのガイドラインが検討されているので、PVの普及ツールとして期待したい。(T)

【マーケット情報/4月23日】原油下落、需給緩和観が台頭


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み下落。新型コロナウイルス感染拡大にともなう需要後退と、供給増加の見通しが、価格の重荷となった。

世界各国で引き続き、変異株も含めた新型ウイルスの感染が拡大している。特にインドでは感染者数が急激に増加しており、同国の首都ニューデリーは19日から、一時的なロックダウンを開始。英国や中東諸国はインドからの入国制限を導入した。さらに、クウェイト、オマーンは国内の移動規制も強め、燃料用需要が一段と後退する見通し。

一方、ノルウェー国営エネルギー会社Equinorは、北海の新規油田で、近く生産開始を計画。また、米国の週間在庫統計は、前週比で増加を示した。加えて、米国とイランは核合意を巡る協議に進展があったと発表。米国の対イラン経済制裁が解除された場合、イラン産原油が市場復帰し、供給の増加が予測される。

【4月23日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=62.14ドル(前週比ドル0.99安)、ブレント先物(ICE)=66.11ドル(前週比0.66ドル安)、オマーン先物(DME)=63.22ドル(前週比2.04ドル安)、ドバイ現物(Argus)=63.01ドル(前週比2.18ドル安)

【コラム/4月26日】グリーン成長戦略とデジタルトランスフォーメーションの課題


矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

現政権は、新型コロナウイルス禍からの経済回復の柱として「グリーン」と「デジタル」を位置づけている。菅首相は、昨年12月4日の記者会見で、2050年カーボンニュートラルについて、「我が国が世界の流れに追いつき、一歩先んじるためにどうしても実現をしなければならない目標」と述べた。また、環境対応は、「我が国の企業が将来に向けた投資を促し、生産性を向上させるとともに、経済社会全体の変革を後押しし、大きな成長を生み出すもの」と強調し、2兆円のカーボンニュートラル基金を創設すると言明した。さらに、デジタルトランスフォーメーションのために、1兆円規模の経済対策を明らかにし、6Gで世界をリードするよう政府が先頭に立って研究開発を行うと述べた。

このようなポストコロナの経済対策により、今後の電力政策は、グリーン成長戦略やデジタルトランスフォーメーションのウエイトが増すであろう。以下では、ポストコロナの電力政策の展開にあたって、いくつかの留意すべき点を述べたみたい。

まず、グリーン成長戦略であるが、第1に、市場メカニズムの活用と技術・エネルギー間競争の公平性の確保が重要である。脱炭素社会の実現に関しては、費用効率性の高い技術のセットが採用されなくてはならない。そのためには、価格シグナルが必要であり、市場メカニズムを可能な限り用いなくてはならない。そして、技術間またはエネルギー間の競争を歪める要因は排除・是正されなくてはならない。例えば、エネルギー間競争を歪める租税公課負担の不公平があってはならない。また、外部コストの内部化に関し、例外を可能な限り排除しなくてはならない。さらに、新しい技術の市場へのアクセスを差別することなく可能としなくてはならない。例えば、VPPやDRなどの需要側資源に関しては、需給調整市場へのアクセスが不当に妨げられてはならない。

第2に、インフラの効率的な形成が求められる。2050年脱炭素社会の実現に向けて、スマートグリッド、ガスパイプライン、充電ステーションの整備はもとより、水素パイプライン、鉄道インフラ(モーダルシフト)、CO2輸送インフラなど、インフラ投資は膨大になる可能性がある。そのため、投資コストを低下させる効率的な設備形成に関する政策が求められる。脱炭素化のシナリオにより、メインとなるインフラが異なる。例えば、オール電化シナリオであれば、電力ネットワーク、power to gasシナリオであれば、ガスネットワークがメインのインフラとなる。グリーン成長戦略のために必要なインフラは、戦略に基づき効率的に形成されなくてはならない。

デジタルトランスフォーメーションに関しては、個人データの取扱いに関する適切な規制枠組みが構築されなくてはならない。デジタル技術を駆使した新しいビジネスモデルの開発においては、高度なデータ保護が保証されなければならないことは言を俟たない。顧客にとっては、様々なメリット(消費の見える化やコスト削減など)に加えて、個人データの取り扱いにおける高いレベルのセキュリティへの信頼が、新しいデジタルビジネスモデルを受け入れるための決定的な要素であるからである。

同時に、この規制の枠組みは、新しいビジネスモデルを開発する余地を残しておかなくてはならない。ここにおいては、目的の矛盾が生じる可能性があり、慎重に比較衡量されなくてはならない。例えば、スマートメータリングからのデータは、デマンドサイドマネジメントに用いるために集計して評価することができる。しかし、個人データの評価を必要とするビジネスモデルも多く登場するだろう。また、破壊的なビジネスモデルの開発は、しばしば法的枠組みを超えてしまう可能性がある。それゆえ、データ保護などの基準を明確にしつつ、イノベーションのための柔軟性を残しておく必要がある。そのため、ダイナミックなモニタリングにより、エネルギー産業のデジタル化の進展とそれに伴う課題を早期に発見し、解決策を見出さなくてはならないだろう。

最後に、グリーン成長戦略とデジタルトランスフォーメーション双方に関連して、ローカルフレキシビリティ市場の設計が必要となるだろう。多くの再生可能エネルギー電源は、配電系統に接続されている。また、フレキシビリティを提供する重要な設備も配電系統への接続が増大してくるため、そのようなフレキシビリティを市場参加者が提供できるプラットフォーム(ローカルフレキシビリティ市場)が求められるようになるだろう。わが国では、ローカルフレキシビリティ市場に関する議論が進んでいないが、デジタル技術を駆使した分散的な革新的なプロダクトを創出していくためには、同市場の整備が求められるようになるだろう。

【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授などを歴任。東北電力経営アドバイザー。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。

【メディア放談】霞が関官僚の不祥事 総務官僚「高額接待」の波紋


<出席者>元官僚・専門紙記者ジャーナリストマスコミ業界関係者/4名

東北新社、NTTによる総務省の官僚への高額接待が世間を賑わせている。

菅義偉首相の親族が関係したことから、首相への不満が高まり、政局になる可能性も出ている。

―久々に霞が関官僚の不祥事が世間を賑わせた。菅義偉首相の長男が出席した東北新社の懇談会に、菅政権で内閣広報官を務めていた元総務審議官の山田真貴子氏らが参加していた『週刊文春』のスクープが発端だった。

マスコミ 官僚の不祥事を振り返ると、1998年に旧大蔵省と日本銀行の幹部が金融機関から繰り返し接待を受けていた事件があった。見返りに金融検査の日程などを漏らし、大蔵官僚と日銀の幹部らが起訴された。この時は、当時の三塚博蔵相、松下康雄日銀総裁が辞任している。

 それで、2000年に国家公務員倫理法・倫理規定が施行された。ところが、長年業者からゴルフ接待などを受けていたことで、07年に守屋武昌元防衛事務次官が逮捕され、実刑判決を受けている。

ジャーナリスト それらと比べると、東北新社の接待は戒告か譴責で済みそうなものだ。ところが、首相の長男が出席していたので騒ぎとなり、NTTによる接待問題にまで発展した。首相の長男が関わっていなければ、これだけの騒動にはなっていないと思う。

―山田真貴子さんは、「懇親が主で仕事の話はしていない」と言っている。

ジャーナリスト 話のうち9割は雑談かもしれない。しかし、雑談だけのわけがない。東北新社もNTTも伝えたいことは、しっかり話しているはずだ。

元官僚 総務省は、01年の中央省庁再編で自治省、郵政省、総務庁の統合で発足した役所だ。自治省の母体は、GHQに解体されるまで「官庁の中の官庁」と言われた内務省。郵政省は「帝大、低能、逓信省」と呼ばれた逓信省だ。

 今回、処分を受けた郵政省組の学歴を見ても、山田氏は早大法学部、谷脇康彦前総務審議官は一橋大経済学部。東大法学部卒がズラリと並ぶ自治省組には、口には出さなくても優越意識があったはずだ。

 ところがIT革命が起きて、一人が最低1台、スマートフォンを持つ時代になった。すると、情報通信行政を握る郵政省組が日の目を見るようになり、政権にも重用されるようになった。自治省組としては当然、面白くなかった。

マスコミ 騒動の背景にあるのは、総務省内の自治省組と郵政省組との主導権争いといわれている。総務相を経験している菅首相は、郵政省組を優遇した。それに反発した自治省組が、文春に情報を持ち込んだらしい。

―文春は、東北新社との会合の録音データを持っていて、それを公開している。

マスコミ 録音したのは総務省の官僚に違いないだろう。いま省内で「犯人捜し」をしているらしい。分かったら、またひと騒動起こりそうだ。

【再エネ】エネ基議論の本丸 国民負担の在り方


【業界スクランブル/再エネ】

エネルギー基本計画見直しに向けて、各電源に関する2030年の議論が本格化してきた。再生可能エネルギーに関しては、3月1日の再エネ大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会がキックオフとなった。今次のエネ基見直し議論の本丸は、これまで正面から取り上げることを避けてきた国民負担の在り方だ。

現行の再エネ政策は、30年時点のFIT費用3.7~4兆円を前提としている。「太陽光バブルたたき」に象徴されるその呪縛は、審議会委員にも重くのしかかり、政策運営の制約にもなっている。こうした中、菅義偉首相による昨年10月の50年カーボンニュートラル宣言が、今回、再エネの国民負担の在り方を正面から取り上げる引き金となった格好だ。

いわゆる国民負担論は、電気料金の上昇という負担の一面から議論されることが多い。しかし、負担の裏には投資というプラスの面があるのも事実だ。例えば、再エネ活用に積極的な需要家が多数参加する日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)は、その提言の中で、国民負担論が「再エネ比率の引き上げや再エネ価格低下への好循環を妨げる」とし、「再エネ拡大に関連する支出を国民負担ではなく、『未来への投資』と位置付ける」べきだと指摘している。

菅首相は、昨年の所信表明演説で「経済と環境の好循環」を掲げ、「積極的に温暖化対策を行うことが(中略)大きな成長につながるという発想の転換が必要」と指摘した。経済産業省も、いわゆる「2兆円基金」やサプライチェーン対策補助金などの産業政策的アプローチのほか、カーボンプライシングなどの経済的手法の活用検討など、幅のある政策を矢継ぎ早に打ち出している。いずれも負担の先にある好循環の実現に向けた、長期的視点に立った取り組みといえる。

今後の再エネ政策の課題は、コスト低減と投資による好循環の両立だが、実現には足腰の強い政策運営基盤の確保が求められる。東日本大震災から10年を機に、国民負担論から脱し、国家戦略における再エネの在り方を転換する議論を期待したい。(C)

データ時代の国力の礎 数字にモラルのある人づくり


【リレーコラム】河本薫/滋賀大学データサイエンス学部教授

データ分析の道を歩み出したきっかけは、米国ローレンスバークレー研究所への留学だった。1999年当時は、インターネットが急速に普及し始めた頃だ。それに乗じるように「IT機器の電力消費は全電力需要の8%を占め、10年後には50%を占める。それに備え、もっと石炭火力をつくろう」という趣旨のレポートが公表された。石炭業界に近いコンサルタントによる分析だ。電力会社の株価が上がるほど社会に影響を与えた。研究所ではこの間違えた「数字」を放置してはならないとの声が上がり、その仕事を任された。

米国留学で得た数字への責任感

私は、できる限りのデータを集めて緻密に積み上げ、IT機器は全電力需要の約2%と報告した。上司からは「その数字に責任を持てるか」と細かく追及された。また、第三者評価を受けられるように、私の推計ファイルはネット上で公開された。ワーキングペーパー執筆では、データの出所や推計方法について、第三者が再現できるほどの具体的記載を求められた。同時に、前述のレポートの間違いを公表し、作成したコンサルタントへの反論も行った。

次第にメディアも私の数字を信用する論調に転じた。間違えた「数字」を世論から駆逐することに成功したのだ。私の論文はIPCC報告書にも引用され、グローバルな信用を得るに至った。この経験で芽生えた「数字への責任感」こそ、留学で得た最大の財産である。話は続く。当時の米ブッシュ(子)政権高官からクレームの電話がかかってきた。ブッシュ政権は石炭業界から支持されており、私たちの数字は都合が悪かったのだろう。

2000年に日本に帰国すると、米国で駆逐したはずの数字が生きていた。ある省電力技術を促進する組織が、冒頭の間違ったレポートを踏襲して数字を作り、新聞にも掲載されていた。会社に戻った私には、もはやその数字を駆逐する余力はなかった。

数字を作る者は、その数字が社会に大きな影響を与えるという自覚のもと、全責任を負う覚悟で、発信してほしい。正しい数字を発信するだけでは足らない。同じ数字でも、不確実性の大きさが違えば、その取り扱い方は変えないといけない。前提条件の下での数字は、その前提条件の下でしか扱ってはならない。数字を正しく取り扱えるかどうかは、使う側の責任ではなく発信する側の責任だ。データ時代で数字が作りやすくなったからこそ、この理念はさらに重要なのだ。微力ながら、数字にモラルのある若者を育てることに努めていきたい。

かわもと・かおる 1991年京都大学応用システム科学専攻修了、大阪ガス入社。98年から米国ローレンスバークレー国立研究所でエネルギー消費データ分析に従事。帰社後、2011年からビジネスアナリシスセンター所長。18年4月から現職。

次回は大阪ガスビジネスアナリシスセンター所長の岡村智仁さんです。

【石炭】気候変動の傑物 二人のナオミ


【業界スクランブル/石炭】

米国は話題の多かったトランプ政権から国際協調も重視するバイデン政権に移る中、「二人のナオミ」が活躍しているのが面白い。

一人はドイツ出身のブロンドのきれいな20歳の、自分を「気候変動の現実主義者」と名乗り、マスコミは「反グレタ」と報じているナオミ・ザイプトさん。所属団体のイリノイ州にあるハートランド研究所は、米共和党をはじめとする保守派の支持を受けている気候変動懐疑一派だ。

「私たちは進歩と革新の素晴らしい時代に生きている」と主張する。「温暖化は全く憂慮するようなことではなく、過去において何度となく起きてきた自然の流れにすぎない」のだという。

いやそれどころか、「CO2が過剰に排出されるということは、植物がもっと呼吸できるようになるから良い結果をもたらす」とさえ言っている。これではグレタさんが反発するのも当然だ。

一方、トランプ前政権に真っ向から反対していたのがカナダ出身のナオミ・クラインさん。『ブランドなんか、いらない』『貧困と不正を生む資本主義を潰せ』を著し、レイチェル・カーソン以来、最も偉大な環境活動家と評されている。トランプ大統領と正面から対決し、国際環境NGO「350.org」のボードディレクターを務め、社会的公正に根ざしたグリーンニューディールを主張。国民皆保険制度、誰もが利用可能な保育サービスの実現、大学の無償化など、問題提起は環境課題にとどまらない。

現在、シリコンバレーが新型コロナ危機に乗じて、リモート学習やオンライン診療などの非接触型テクノロジーを拡充し、「人間をマシンに置き換える」構想を加速させているというのに対し、パンデミックの今こそ「グリーンニューディール」に力を入れるべきだと訴える。人が温もりを失い、監視が強化されているという。

このように、活発な議論が絶えない米国。今後も政策の動きには目を離せない。(C)

【石油】大震災から10年 変質する安全保障


【業界スクランブル/石油】

あの東日本大震災から10年が経過した。

震災で、石油のサプライチェーンにおける安定供給の重点課題は大きく変化した。すなわち、海外調達から、国内供給体制への問題の変質である。特に、災害時のレジリエンスの確保が課題となった。

当時、東日本各地の出荷基地(製油所・油槽所)の被災などにより、被災地や首都圏では石油製品の供給不足が発生した。同時に、石油製品は輸送・貯蔵・取り扱いの利便性から、被災直後の頼れるエネルギー「最後のとりで」として、再評価されるとともに、災害時の供給強靭化に向けたソフト・ハードの体制強化が図られた。その結果、熊本地震、福井豪雪、北海道胆振東部地震などの災害時にあっても、石油安定供給はおおむね円滑に確保された。

しかし、需要減少が加速し、2050年脱炭素化が政策目標となる中、今後、「最後のとりで」としての役割をどのように果たしていけばよいのか、淘汰される石油が公共施設や発電所のバックアップ燃料となっている現実をどう考えるのか、全くの疑問である。

他方、石油の海外調達(供給途絶)の問題については、30年前の湾岸戦争で解決済みであると考える。消費国側の石油備蓄の活用(国際エネルギー機関協調的緊急時対応措置)と産油国側の余剰生産設備による緊急増産で、7カ月にわたるイラクとクウェートからの供給途絶を乗り切った。

確かに近年、イランを巡る地政学リスクは高まっているが、東西冷戦時代のように、供給途絶が長期化する事態は考えにくい。わが国の場合、現在、石油備蓄日数は、石油需要の減少で、官民合わせて250日を超えている(備蓄法ベース)。国家備蓄量(分子)は維持されているが、石油需要量(分母)は減少するから、備蓄日数は増加する。

したがって、今日、エネルギー安全保障の重点は国内供給体制強靭化と転換期の対応である。エネルギー自給率をその指標とすることは、もはや時代錯誤であろう。(H)

【秋本真利 自民党 衆議院議員】これからは再エネの時代


あきもと・まさとし 1975年千葉県富里市生まれ。法政大学法学部卒。12年衆院選で初当選。内閣では国土交通大臣政務官を務めたほか、党の再生可能エネルギー普及拡大議員連盟事務局長などを務める。当選3回。

直接民主制を学ぶ過程で、原子力への疑問と再エネのポテンシャルの高さに気が付いた。

自民党内屈指の再エネ推進派議員が、独自の電力システム改革案を披露した。

自民党の再生可能エネルギー普及拡大議員連盟の事務局長を務め、党内屈指の再エネ推進論者で知られる秋本氏。中学、高校から新聞や報道番組をよく目にしていたため、社会問題や政治に強い関心があった。「法律を変える立場になり、世の中を変えたいと思う人たちの気持ちを受け止めたい」。進路を考えた際、こうした思いから法学部を選んだ。

大学卒業後は、大学院で直接民主主義を専攻。研究テーマは産業廃棄物処理場や核施設などの、いわゆる迷惑施設建設の是非を問う住民投票について。「住民投票は原子力関係の話が多く、高知県東洋町で起きた高レベル放射性廃棄物の最終処分場の建設問題もその一つだった。当時から私は自民党員であったが、原子力政策についての勉強を進めたことで原子力発電の問題性に気が付いた」

独自に研究を進めた結果、「核燃料サイクルは破綻している」との結論に至った。

「青森県六ヶ所村の核燃料再処理工場も稼働しておらず、使用済み核燃料の置き場も定まっていない。一時保管場所として使われている原発サイト内の使用済み核燃料プールを拡張させてしのごうとする動きもあるが、いずれ限界を迎える。さらに高レベル放射性廃棄物の処分場所も決まっていないなど、核燃料サイクルは破綻しているにもかかわらず、原発推進のために地域振興を名目に税金を費やすのは健全ではない。震災前から再エネの方がはるかに将来性はあると思っていた」

そうした中、大学の講義に河野太郎氏が講師としてやってきた。その講義では冒頭に「核燃料サイクルを説明できる学生はいるか」と、質問が投げかけられたという。そこで秋本氏が挙手して質問に答えたところ、「君は何者だ」と河野氏の目に止まった。

「講義後に河野さんに呼ばれて『原発を推進する自民党でも核燃料サイクルをきちんと説明できる人はそういない。一緒に働かないか』とのオファーも受けた。もともと政治家という仕事に興味があったが、本格的に志そうと思った一つのきっかけだ」と当時を振り返る。

弱冠27歳で地元市議に当選し2期務めた。その後は党の衆院選の候補者となり、地元議員との懇親の場で脱原発と再エネのポテンシャルの高さを語ったところ、「そんな考え方なら共産党に行けばいい」と言われたこともあったそうだ。

2012年には衆議院議員選挙で千葉9区から出馬し初当選を飾り、舞台は国政へ。内閣では国土交通大臣政務官を経験。党では国会対策副委員長などを務めている。

再エネの大量導入が重要 送配電会社の「東西2社」案も

「日本を将来の担う主力電源は何か」と聞くと、「太陽光発電と風力発電だ」と語っている。「環境省が公表している資料でも、送電線に接続可能な地域の再エネ容量は国内の電力総需要の2倍以上ものポテンシャルを秘めている。評価が低いのはおかしな話だ」と述べ、「これからは間違いなく再エネの時代。進めなければ技術的にも諸外国に置いていかれる」と、導入拡大の重要性を訴えた。

政府も50年までにカーボンニュートラルの実現を目指す上で、再エネの大量導入が重要だと位置付けている。その中では系統に水素製造装置や蓄電池を導入することで、系統安定化や余剰電力を活用しようと計画しているが、このプランに対しても意見がある。

「再エネ主力電源化によって電力コストが上がるとの批判があるが、現段階で蓄電池や水素を接続すればコストが上がるのは当然の話。今すべきなのは系統に再エネを大量に導入すること。系統が不安定化するという懸念には、系統の高度化や利用ルールの整備で対応できる。蓄電池や水素の調査・研究は必要だが、商業利用はまだまだ先の議論のはずだ」

現在の送配電会社の在り方も、再エネの大量導入を阻害しているのではと疑問を持っている。「この狭い国土に10社も送配電会社があるのは非常に効率が悪い。例えば50 Hz帯、60 Hz帯の東西2社ぐらいに再編すれば、北海道のような再エネの高いポテンシャルを持つ地域の電気を、東京などの大需要地に送ろうとするインセンティブが働く。グリッド改革は再エネ導入拡大にもつながる」と説く。

また政府が計上した2兆円の環境投資基金についても、「10年先に開発できるかもしれない技術に投資するよりも、ラストワンマイルを埋められれば実用化できる技術にも投資できるような仕組みを作っていくべきだ」と指摘。「1年半かかるものを1年に短縮するための投資も重要で、現在の方針は非連続のイノベーションに重点を置き過ぎ。これも優先順位が違うのではないか」と主張した。

座右の銘は「先憂後楽」。「数十年後の日本国民から感謝してもらえるよう、責任ある判断をしたい」と語る。これからも確固たる信念を持ち、エネルギー政策と向き合う構えだ。

廃炉にどう向き合うべきか 「解体撤去」ではない方法も


【福島廃炉への提言〈事故炉が語る〉Vol.1】石川迪夫/原子力デコミッショニング研究会 最高顧問

福島第一発電所事故の後、原子炉をどう廃炉にするのか、国民の関心は高い。

更地に戻す解体撤去だけでなく、国際原子力機関(IAEA)は他に二つの方法も示している。

原子力デコミッショニング研究会の石川迪夫最高顧問は、国内外を問わず長く原子力発電所の廃炉に携わってきた。福島第一発電所の廃止措置という難題を抱える日本。どうすれば、最も安全かつ合理的で国民負担の少ない廃炉ができるのか―。自らの経験と、数多くの事例の調査・研究を踏まえた石川氏の考察、提言の寄稿を連載する(編集部)。

事故を起こした原子力発電所の廃炉とはどのようなものか。福島第一発電所事故の後、国民の関心は高い。政府は事故後40年をめどに廃炉工事を完了させると約束し、東京電力が廃炉作業に取り組んでいる。しかし、その進捗状況はどうなっているのか、詳細を国民は知らない。福島について報道される問題は、汚染水の処分や廃炉工程の手直しなどいろいろあるが、それが廃炉全体の中で何を意味するのか、知る人は少ない。

知らない、知らされない―。その間に時は過ぎて、事故から10年を迎えた。このあたりで、福島第一発電所の廃炉が持つ問題を可能な限り具体的に検討し、世に警鐘を鳴らすのは廃炉経験者の役目であろう。

だが、事故炉の廃炉を語ることは難しい。前例がないからだ。一般の廃炉の概略を述べて、事故炉のそれと比較すれば理解が容易となるのが、困ったことに、廃炉そのものが始まったばかりで、広く知られていない。まさに解説者泣かせだ。

この連載では、原子力発電所の一般の廃炉の話は必要なときにのみ引き合いに出し、事故炉の廃炉と比較していくことにする。

IAEAが廃炉を3分類 「石棺」は密閉管理方式

原子力発電所の廃炉といえば、解体して撤去するもの、跡地は更地に戻るものと多くの人は思っている。だが、この理解がまず間違いだ。これは解体撤去方式と呼ばれる、廃炉工事の一方法だ。

「えっ、ほかの方法もあるの」と驚く人もいるだろうが、廃炉は解体撤去だけではない。国際原子力機関(IAEA)が定めた文書には、①密閉管理、②隔離埋設、③解体撤去―の3方式が記載されている。

数年前、福島県知事が原子力損害賠償・廃炉等支援機構の山名元理事長の話を誤解して、「福島第一発電所を廃炉にせずに、石棺にするのか」と激怒されたそうだが、これは福島県の勉強不足だ。昨年完成したチェルノブイリ原発の石棺を覆う構築物は、密閉管理方式による具体的な廃炉例だ。

今回は、それぞれの廃炉方式についての説明から始めよう。

隔離埋設は、昔の研究用原子炉の廃炉に多い。原子力が始まったばかりの頃の原子炉は、出力が小さく放射能の汚れもそれほどでないが、やたらに頑丈につくった。このため壊すのが大変で、燃料棒を取り除いた後の残りの施設は全て地中に埋めて、埋め殺し処分とした。これが隔離埋設方式だ。

隔離埋設方式の実例は日本にもある。日本人の手で設計・建設された最初の国産原子炉、「国一」の愛称で呼ばれた旧JRR―3がそれだ。約20年間働いて使い勝手も悪くなったので、格納容器や補助設備は残して原子炉だけをつくり替えた。これが現在の3号炉だ。

【火力】議論の本質はどこへ 供給力不足の予兆


【業界スクランブル/火力】

昨年4月に緊急事態宣言が発出されてからはや1年。ワクチンにはそれなりに期待を持ちたいところだが、「リバウンド」や「病床数のひっ迫」などの仮説や目先の結果を挙げて緊急事態宣言をどうこうするという話ばかりで、新たな医療体制とか有効な感染予防の具体策などの話がめったに俎上に上らないのが現実だ。電力供給に関しては、昨年後半から今後の懸念となりそうな事象が顕在化してきている。一つは容量市場の落札価格が高値に張り付いたこと、もう一つは、1月の寒波とLNG不足による需給ひっ迫である。

これらは出現の仕方にkWとkW時の違いはあるものの、どちらも供給力が徐々に不足し始めている兆候という根本的な問題であるが、そこに注目する人は思いの外少ない。

長期的に見ると、火力発電においては、昭和の時代の老朽火力を東日本大震災後の対応で設備更新をしそこねたこと、電力システム改革の議論が小売り中心であり新規参入者も含め電源投資への機運が高まらなかったこと、さらに昨今の脱炭素の流れで石炭はもちろん、LNGについても将来見通しが立たないという事情がある。加えて、原子力の再稼働は進まず、再生可能エネルギーの設備量が増えても変動電源として四六時中は当てにすることができないのが実情だ。

短期的には、先月の本稿で指摘したように需要の予測と実績の乖離が需給ひっ迫の発端となるが、監視等委員会から示された対策案が「旧一般電気事業者の自社需要予測の精緻化」とあり、ツッコミを入れたくなる。需要予測の精度は極めて重要だが、それなら新電力も同様の精度で予測を出さなければ全体の必要量を見極めることなどできない。

こうしてみると一時の危機はしのいだものの、わが国の電力供給力は八方ふさがりだ。供給力不足は、S+3Eのうちエネルギーセキュリティーと経済性の二つまでも棄損するため、より本質的な議論が必要だ。行司役も交ざり旧一電と新電力のマウントの取り合いにかまけている場合ではない。(S)

【原子力】プルトニウム利用 原発再稼働が急務


【業界スクランブル/原子力】

六ヶ所再処理工場とMOX(混合酸化物)燃料工場の操業計画(2022年度上期・24年度上期にそれぞれ竣工予定)が具体化し、許可だけでなく認可に向けて審査が進んでいることを踏まえ、電気事業連合会は2月末にプルトニウム利用計画を公表した。

30年度までに少なくとも12基のプルサーマル実施を目指すという前向きな姿勢を示すという点では意味があるが、各社ごとのプルサーマル炉と12基とは直接リンクするものではない。しかも23年度までの具体的な利用計画は、3月7日に再稼働した高浜原発3号機と、同4号機だけにすぎず、その点で前進したという印象は乏しい。また東京電力の3~4基という従来の記載がなくなり、そして英国で保有するプルトニウムをフランスで保有するプルトニウムに帳簿上移転して四国電力や九州電力が利用したことにする方針という帳簿上の操作にとどまり、国としての総量の消費につながらないという消極的な性格が拭えない。

再稼働の許可が得られた原発が9基にすぎず、実際に稼働しているのは5基という再稼働の遅れが大きな制約条件になっているのが、今回の利用計画の素顔だ。だから、今夏にも改定されるエネルギー基本計画では、プルサーマル炉を中心とする原発の再稼働を新しい発想で大きく推進・抜本的に加速することを望みたい。ある学識経験者は、大間原発と同程度の出力130万kW超クラスのABWR(改良型沸騰水型軽水炉)の炉をプルサーマル炉に変更すれば、六ヶ所工場で抽出されるプルトニウムは全て消費できると指摘している。

梶山弘志経産相は「今は再稼働を徹底的に推進するのが急務だ」と省内でハッパを掛けていると聞く。正論だ。しかも稼働停止後10年を迎える原発が8基に上っているが、これらの原発の現場の士気・モチベーションの緩みも懸念される中、その困った現状を踏まえると急務だ。プルサーマル推進の面でも問題は少なくない。出力130万kW超クラスのABWRのプルサーマル炉化も含めて原発再稼働を推進してもらいたい。エネルギー基本計画策定はそのよい機会だ。(Q)