米国上流開発企業の課題 再エネ・脱炭素へ加速


【ワールドワイド/資源】

欧州系に比べ脱炭素や再生可能エネルギーに対する取り組みの遅れが指摘されてきた、米国上流開発企業のエネルギートランジションが加速している。5月26日に開催された米エクソンモービルの株主総会では環境活動家が提案した取締役候補の一部が選出され、シェブロンの総会では販売した石油製品から排出される温室効果ガス削減目標(スコープ3)を定める議案が可決された。

 新型コロナウイルスの感染拡大がこの動きに寄与したという指摘もある。化石燃料の中でも輸送用に使用される割合が大きい石油は、都市封鎖や移動制限の影響を大きく受けた。事実、昨年第2四半期にはシェールオイルの大幅な減産が余儀なくされた。現在では、米国内においてエネルギートランジションは「いずれ対応しなければならない問題」から「具体策を要する喫緊の課題」と位置付けられるようになった。

 最近の環境活動家は単に気候変動問題に対する企業の社会的責任や贖罪を求めているわけではない。彼らは「化石燃料に投下された資本が利益を生むことなく座礁資産化するリスクが高まっており、対応を怠れば企業価値を毀損する」と主張するのだ。そして、年金基金などの機関投資家はこれを広く支持する。

 エネルギートランジションによって再エネが事業ポートフォリオの現実的な選択肢となり、石油・天然ガスに対する需要が構造的に変化している。国際エネルギー機関(IEA)が発表したネットゼロ排出目標へのロードマップに対して、米系メジャーは技術的前提が非現実的で自社保有資産から生産するのに十分な需要があると主張してきた。一方で、環境活動家もリアルタイムでデータソースにアクセスが可能で、分析ツールも容易に入手できる。上流開発計画の見直しに慎重だったエクソンモービルが昨年第4四半期決算で減損処理を実施した背景には、環境活動家の影響を受けた機関投資家や当局による情報開示や説明責任を求める働き掛けがあった。

 今年に入り、エクソンモービルやオクシデンタルはカーボンプライスや税制優遇措置を活用した二酸化炭素回収貯留や水素関連の事業構想を発表した。エネルギートランジションにおいて欧州系メジャーに後れを取ってきた米国上流開発業界だが、シェール革命で発揮されたデジタル化や資金調達技術を発展させることができれば、気候変動問題で存在感を高めたいバイデン政権と共にリーダーシップを発揮する可能性がある。

(古藤太平/石油天然ガス・金属鉱物資源機構調査部)

ワクチン「虚偽予約」報道 毎日・朝日の希薄な責任感


【おやおやマスコミ】井川陽次郎/工房YOIKA代表

何度見ても衝撃的な写真だと思う。「ハゲワシと少女」と題された一枚だ。アフリカ・スーダンで1993年に撮影された。

肋骨が浮き上がるほど痩せこけた少女が乾いた土の上に突っ伏している。生きているか。死んでしまったか。すぐ後ろで、死肉を喰らうハゲワシが様子をうかがう。

スーダンは当時、飢饉に陥っていた。内戦も事態を悪化させた。南アフリカの写真家ケヴィン・カーター氏は現地で日々、生き地獄を目にしていた。

その日も村での取材を終え、通りに出ると、この少女がいた。国際支援の給食センターに通じる道だった。シャッターを押す。そこにハゲワシが飛来した。衝撃の瞬間が捉えられた。

追い払うと、ハゲワシは飛び去った。少女も再び、自力で給食センターへと向かって行った。

写真は米ニューヨーク・タイムズ紙に掲載された。惨状は世界に伝えられ支援が拡大した。カーター氏には、優れた報道を称えるピューリッツァー賞が贈られた。

だが、刺激的な写真に批判が広がった。なぜ少女を助けなかったのか。人命より取材が大切なのか、と。カーター氏が94年、多くを語らぬまま自ら命を絶ったこともあり、写真は「悪しき報道」の例に挙げられることがある。

現実には、少女は生き延びた。写真が撮影されてから14年後にマラリアで亡くなるまで。米タイム誌のサイト「世界を変えた100枚の写真」は、そう解説する。感染症のリスクを考慮し、取材者と住民の直接の接触は止められていた、との記述もある。

日本で最近、この写真が改めて道徳の授業に用いられているらしい。報道の責任は重い。それを考えさせる素材だという。

この報道はどうか。ワクチン接種を巡る毎日5月18日「大規模接種予約、架空番号で可」だ。記者が実際に「防衛省のサイトから、架空の市町村コードや接種券番号の数字を入力したところ、予約作業を進めることができた」と手順を紹介する。防衛省側は「善意に頼ったシンプルなシステム。迷惑な行為はやめてほしい」とコメントしたという。

朝日関連のAERA dot.5月17日「【独自】『誰でも何度でも予約可能』ワクチン大規模接種東京センターの予約システムに重大欠陥」はさらに詳しい。「編集部で東京の予約サイトで試してみると」などと架空コードの例を挙げて入力方法を解説し、「予約が取れてしまった」と書く。

ただし「接種券などの確認があり、(架空)予約しても接種できない」(毎日)。だとすると、予約システムを厳格にして利用者に不便を強いる意味は薄い。

最優先されるべきは、接種の速度を上げることだろう。

米国は明確に速度重視だ。薬局などですぐに接種できる。接種券は不要。海外の観光客にも接種してくれるので、「ワクチン接種目的で米国旅行、外国人が殺到」(ウォール・ストリート・ジャーナル5月11日)中という。

日本も真似していい。景気の回復に大きく貢献しよう。

読売5月19日「防衛省、『虚偽予約』の朝日新聞出版と毎日新聞に抗議文送付。『ワクチン無駄にしかねない』」は、ピント外れの報道へ当然の対応である。

コロナ禍で自死が増えた。倒産が相次ぎ、社会不安も広がる。「虚偽予約」を誇らしげに報じる記者は、現実をどう見ているのか。「責任感」が希薄すぎる。

いかわ・ようじろう  デジタルハリウッド大学大学院修了。元読売新聞論説委員。

前提と位置づけられる環境適合性 変化する3Eの考え方


【オピニオン】下郡けい/日本エネルギー経済研究所 戦略研究ユニット主任研究員

近年、気候変動を第一の優先課題に掲げる国が多くみられるが、3Eを構成するエネルギーの安定供給や経済効率性の考え方に変化はあるのだろうか。

世界の120を超える国が2050年までにCO2排出ネットゼロを目指すと宣言している。COP26に向けて各国の気候変動対策や目標が注目を集める中、日本でもエネルギー基本計画改訂の議論が進んでいる。

エネルギー基本計画の基本的な考え方は、「3E+S」である。安定供給、経済効率性、環境適合性、そして安全性という四つの視点は、日本にとってどれも欠けてはならないものだ。

しかしながら、世界的な気候変動対策の機運の高まりの中で、安定供給や経済効率性の議論に先んじて、日本では野心的な目標(50年ネットゼロ、30年に13年度比GHG排出量46%削減)が決定された。安全性と並んで環境適合性が疑う余地のない前提と位置付けられるとするならば、その中で安定供給と経済効率性をどのように考えるべきだろうか。

エネルギーの安定供給という点では、海外から資源(原料)を輸入する限り、その安定的で安価な調達の確保といった元来の要素はネットゼロを目指す世界でも不可欠である。しかし同時に、需要の電化が一層進むことで、新たな要素が加わることも考えられる。例えば、地域単位の電力系統のセキュリティやレジリエンスの確保、希少資源のリユースやリサイクルなどが挙げられるだろう。

また、経済効率性という点は、ネットゼロを目指す世界では、エネルギーコストの上昇が起こり得ることを認識すべきである。ネットゼロを達成するには、大気中CO2直接回収貯蔵(DACCS)やCCSとバイオマスエネルギーを組み合わせたBECCSなどが不可欠だ。また水素直接還元製鉄の実用化なども必要とされる。今はまだ実装されていない技術の実現を前提とする以上、経済効率性にネガティブな影響の及ぶ可能性も否定できない。ネットゼロを目指す他国も同様の状況に置かれるだろう。そのような中で、競争力のある産業をどのように維持あるいは創出できるかが、注目されよう。

新たな産業として、クリーンエネルギー分野への期待は著しい。国際エネルギー機関(IEA)が公表した50年のネットゼロに向けたロードマップでは、クリーンエネルギー分野への雇用の移行に言及している。クリーンエネルギー分野での雇用創出(1400万人)が石油やガス、石炭分野での雇用減少(500万人)を補い、雇用が純増すると指摘する。しかし、同分野での雇用に継続性があるのか、また雇用の転換がスムーズに進むのかは、まだ明らかでなく留意が必要である。

ネットゼロを目指す世界においても、エネルギーの安定供給と経済効率性の重要性は変わりない。しかし、その意味するところは、世界的な潮流を受けて変化しつつある。新たな3Eの考え方を踏まえ、今後のエネルギー政策を評価していくことが求められるだろう。

しもごおり・けい 2010年早大法学部卒。12年東大公共政策大学院修了後、日本エネルギー経済研究所入所。
専門はエネルギー・原子力政策など

振込用紙のない新たな決済サービス 東電EPが支払い業務をデジタル化


【東京電力エナジーパートナー/GMOペイメントゲートウェイ/NEC】

東電EPは昨年、GMO―PGとNECのサービスを活用し、「SMS選択払い」を開始した。

現金払いや電子決済、カード支払いなど、多くの決済方法に対応する。導入背景や特長を3社が語り合った。

――東京電力エナジーパートナー(東電EP)は、昨年10月からスマートフォンでさまざまな電気料金などの支払い方法に対応した「SMS(ショートメッセージサービス)選択払い」を開始しました。料金支払い業務における課題、同サービスを開始した背景をお聞かせいただけますか。

梅澤 これまで、主にご家庭における電気料金などの支払い方法では、銀行からの引き落としやクレジットカード支払い以外は、振込用紙での支払いが大半でした。SDGs(持続可能な開発目標)など、企業の事業活動における環境への配慮が社会的にも強く求められる中、当社も振込用紙作成に使用する紙をどう減らすかが大きな課題でした。お客さまにご協力をいただきながらペーパーレス化を進め、紙の生産に必要な森林伐採を減らすなど、環境配慮の姿勢を強めていきたいという思いが以前からありました。毎月の電気料金のご請求など、お客さまが振込用紙の発行を都度ご希望される場合、封筒に使用する紙も含め、年間を通じて多くの紙資源が必要となります。これがSMS選択払いで全て電子化されると、紙だけでなく、インクの使用量も大幅に削減されます。振込用紙をデジタル化する効果は非常に大きいです。

もう一つの課題は、支払いの利便性向上です。スマホの普及によって、電子マネーやコード決済など支払い方法が多様化する中、当社はこれらの決済手段に対応してほしいというお客さまニーズに十分応えられていませんでした。昨年春先から続く、新型コロナウイルスの感染拡大によって、支払いのためにコンビニに行くことをリスクに感じるお客さまもいらっしゃいます。そこで、自宅に居ながら支払える利便性は欠かせないと考えました。また、振込用紙の紛失によるお支払い忘れや遅延、当社に再発行の手続きを依頼する手間の軽減なども改善すべき点として検討を進めてきました。

東京電力エナジーパートナー
オペレーション本部 業務革新推進室
請求基盤構築グループマネージャー
梅澤功一

検討から早期立ち上げ実現 支払い状況の確認が可能に

――SMS選択払いを提供するに当たって、システム変更の面ではご苦労された点はありましたか。

柿原 これまで当社は支払い業務用システムを自社で構築してきました。このため、システムを改修するにはそれなりのハードルがあり、改修費用がかかるため、新しい機能を組み込むには大きな決断が必要でした。今回は、GMOペイメントゲートウェイ(GMO―PG)とNEC両社のサービスを利用することで、自社システムの構造を大きく変更せずに、当社の業務スキームに沿った仕組みづくりに柔軟にお応えいただきました。さらに、きめ細かい点もサポートいただき、ご利用いただくお客さま目線に立った分かりやすいサービスを導入することができました。

――業務面で導入して得たメリットはありますか。

梅澤 これまで得られなかった支払いに関する情報を取得できるようになりました。SMSがお客さまの元に送信できたか、請求情報を確認していただけたか、さらに、お支払い日時の傾向も分かります。SMSを送信する際も、お客さまの迷惑にならない時間帯か、支払い忘れがないよう告知するのに最適な時間帯か、送信するタイミングを分析できるようになりました。新サービスの検討にもこのデータを活用できると考えています。

―検討開始から稼働までどの程度の期間を要しましたか。

梅澤 2018年2月に当社内で請求基盤構築グループを発足し検討開始してから2年半でサービスを開始しました。当初は、システム担当の私と業務担当の柿原に、数人加えた小規模なメンバーで検討を開始しました。Eメールを利用することや、ほかにより良い手段はないかなど検討し、お客さまの利便性向上に向けて試行錯誤しました。決済の電子化を推し進め、さまざまな支払い方法に対応するためスピード感を持って進めることができたと思います。

東京電力エナジーパートナー
オペレーション本部 サービスソリューション事業部
オペレーション企画グループ
柿原雄司

継続的な課金処理に最適 SMSは決済に特長を発揮

――GMO―PGとNECの両社が提供したサービスの特長を、それぞれ紹介していただけますか。

吉井 SMS選択払いは当社が提供する「GMOデジタル請求サービス」を活用いただいています。同サービスは、電力会社やガス会社、通信事業者、水道局、生命保険会社など、継続的に課金処理が発生する企業に適したものです。当社調査によると、こうしたサブスクリプションモデルの支払い件数は、1世帯当たり12〜15件程度あり、それだけ請求書や振込用紙が発行されているのです。電子化して紙を減らすことで、企業のSDGsの目標を解決する手段の一つになるのではと考えています。

同サービスはクラウドサービスです。従来はシステム改修に手間と時間がかかりましたが、汎用的なインターフェースで既存支払い業務システムに接続できるので、大きな影響を与えず、迅速に手間なく立ち上げられるのが強みです。利用いただくお客さまにおいては、外出せずに料金支払いができます。もちろん、近所のコンビニでも支払い可能です。さらに、「今月はクレジットカード」「来月はコード決済」など支払い方法を柔軟に変更できます。お客さまの支払い方法に幅広い選択肢を提供できるのも大きな特長です。

なお、お客さまへのお知らせ方法は企業にて選択でき、SMSの場合は、NECのサービスと連携しています。

このほか、従来の振込用紙での支払い処理では、コンビニ店舗において処理後の控え用紙を束ねて本部に送って集約しているそうで、非常に手間になっていると聞きます。これらの業務負荷軽減も期待できます。お客さま、導入企業、コンビニそれぞれにメリットがあるソリューションです。

【マーケット情報/7月9日】原油下落、需要後退への懸念強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み下落。新型コロナウイルスの感染再拡大で、売りが優勢となった。一方、OPEC+が生産計画で合意に至らなかったことで、価格に対する不透明感が強まっている。

新型コロナウイルスのデルタ変異株の感染が、アジア太平洋地域を中心に拡大している。インドネシアは、ロックダウンの対象地域を拡大。また、オーストラリアは、シドニーのロックダウンを延長した。日本では、東京が緊急事態宣言を再導入。さらに、サウジアラビアは、ベトナム、UAE、エチオピアへの渡航規制を導入し、燃料需要が後退するとの懸念が強まった。

他方、OPEC+の会合は、8月以降の生産計画で合意に至らず解散。原油価格の先行き不透明感が台頭した。今回の会合では、8月から、月毎に日量40万バレルの追加増産と、2022年末までの協調減産の延長が検討されていた。しかし、UAEが延長に反対し、交渉が決裂。これにより、8月も、7月並みの減産幅になるとの予測から、供給逼迫感が強まった。また、短期的には価格上昇が見込まれる一方で、それが続けば、米産の増加を招くとの見方もある。

【7月9日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=74.56ドル(前週比0.60ドル安)、ブレント先物(ICE)=75.55ドル(前週比0.62ドル安)、オマーン先物(DME)=73.09ドル(前週比1.03ドル安)、ドバイ現物(Argus)=72.69ドル(前週比1.04ドル安)

【コラム/7月12日】経済財政運営と改革の基本方針2021を考える~米国要求薄き時代、ポストコロナの経済社会ビジョンを描けるか


飯倉 穣/エコノミスト

1,欧米開発のワクチン投与進展で、新型コロナパンデミックの収束が期待される中、菅義偉内閣初の「経済財政運営と改革の基本方針」が閣議決定された(2021年6月18日)。コロナの影響を抑制しつつ、デフレに戻さず、外需取り込み、政策総動員で経済回復、成長と雇用・所得拡大の好循環を目指す。アベノミクスの考えを踏襲する。

報道は、中身の真偽判定に戸惑う。「経済・財政 描けぬコロナ後 骨太方針、歳入の議論できず」(日経同19日)「菅政権初の「骨太方針」選挙念頭財源論先送り、目立つあいまい記述」(朝日同)。政策転換なき経済財政運営を考える。

2、基本方針は、小泉純一郎内閣で、骨太の方針として出発した(01年)。市場重視の構造改革で日本経済の再生を企図した。不良債権問題処理、構造改革7プログラム(民営化・規制改革、チャレンジャー、保険機能、知的資産、生活維新、地方自立、財政改革)、政策プロセス改革で、デフレ脱却、民需主導成長を目指した。

経済(01~07年度)は、米国向け輸出増、金融緩和・資産価格効果、公債残高増150兆円で、GDP実質成長率1.5%/年、失業率低下(5.4→3.7%)となった。リーマンショックで虚構判明となる。目標は、経済改革でなく自民党内の力学変更であった。 

3,第一次安倍晋三内閣「美しい国」(07年)、福田内閣「開かれた国・全員参加成長」(08年)、麻生内閣「安心・活力・責任」(09年)の方針は、劇場効果なく、短命内閣の掛け声倒れだった。

民主党政権(09年)は、ビジョン「コンクリートから人」で事業仕分けに注力し、官僚を疎外、試行錯誤に終始した。東日本大震災由来の原子力事故で、責任・犯人捜し(国会事故調)に奔走し、日本的エネルギー政策を頓挫させた。地球環境問題で今日の迷走を生む。それでも経済は動く(09~12年度実質成長率1.4%)。

4,第二次安倍内閣(12年)は、脱デフレ・経済再生を掲げ、マクロ経済政策(三本の矢)で、成長率名目3%、実質2%実現を公言した。理論通り金融緩和は資産効果、財政出動は乗数効果のみで、成長の引き金にならず、14年以降政策課題の打上げ花火となった。岩盤規制改革、ローカルアベノミクス、まち・ひと・しごと創生、女性活躍、IT・ロボット、新三本の矢(600兆円経済等)、一億総活躍、働き方改革、コーポレートガバナンス強化、人づくり革命、生産性革命Soceity5.0、人生100年時代等々の用語が飛び交った。

アベノミクスは、量的金融緩和、公債残高181兆円増で、GDP実質成長率0.9%/年、失業率低下(4.3→2.2%)となった。19年10~12月期にGDP△1.9%となり崩壊する。

5,菅内閣の基本方針2021は、米中対決等の環境の中で、カーボンニュートラル宣言を踏まえ策定された。短期は新型コロナ感染拡大防止対策、コロナ後は、経済均衡を持続的成長で取り戻すとする。経済成長策として新たにグリーン化、デジタル化、地方の所得向上、子供・子育て支援を4原動力と捉える。またコロナで更に傷んだ財政に対し「経済あっての財政」の考えで600兆円経済の早期実現を強調する。

幾つか留意点を述べよう。現経済の落込みは、感染が収束すれば、経済はほぼ元の水準に回復する。経済的にはコロナで大きく影響を受ける人への対策で十分である。

経済は、コロナ影響のサービス産業を中心に供給過多が目立つ。今後資産価格バブルと破綻状態の財政に不安がある。かつ財政赤字分は需要超過で、拡大均衡がなければ、厳しい調整となる。

成長の可能性は、技術革新体化の独立投資次第である。グリーン化の前提となるエネルギーが、安価、大量、安定供給であれば、成長期待となるが、補助金頼り(含むFIT)では、期待薄である。デジタル化は、政府部門の経費削減となれば、財政均衡に幾分貢献する。現状明確でない。地方創りで、多彩な項目(人材仲介等)を挙げるが、地域の実情から期待薄である。子供・子育て支援は、社会政策である。故に提示の4原動力は心もとない。 

基盤づくりの政策項目として教育の質、研究基盤、女性活躍、若者活躍、セーフテイーネット、多様な働き方、経済安全保障、経済連携、対日投資促進、外国人受け入れ、国際金融センターを掲げる。多くが過去の焼き直しである。

経済変動の現実、経済均衡の姿、経済成長の基本、財政の現状から、実質600兆円経済は、心意気ならよいが、画餅であろう。

6,過去の基本方針は、経済変動の前に誤信か有害無益だった。意味は、下降局面の緩和効果程度に止まる。では何を目指すべきであろうか。国民経済の考え方に則った雇用重視の経済運営である。とりわけ企業経営の在り方である。構造改革で行われた一連の会社法制は、日本企業の活力に結びついていない。例えば社外取締役の強制等は不要である。

今回方針も「コーポレートガバナンス改革を進め、我が国企業の価値を高めていく」と記す。東芝のように極端でないが、多くの企業は、投機金融対象となり、短期志向の経営に追われている。雇用切り捨て・利益創出の姿が、豊かさに貢献するだろうか。米国要求対応の橋本政権、小泉政権、迷妄の安倍政権のマクロ経済運営の考え方、企業行動への対応、構造改革の悪影響を見直す時期であろう。

【プロフィール】経済地域研究所代表。東北大卒。日本開発銀行を経て、日本開発銀行設備投資研究所長、新都市熱供給兼新宿熱供給代表取締役社長、教育環境研究所代表取締役社長などを歴任。

脱炭素社会で「核心的役割」 ヒートポンプ蓄熱で省エネ推進


【ヒートポンプ蓄熱の新潮流/最終回

世間を賑わす「脱炭素」に向けて、ヒートポンプ蓄熱システムはどのような役割を果たすべきか―。

太陽光とエコキュートを組み合わせた宮古島の事例

ヒートポンプ・蓄熱センターが毎年7月に主催する「ヒートポンプ・蓄熱月間」。1998年に始まったこの活動は、省エネや負荷平準化に貢献するヒートポンプ蓄熱システムを導入した企業・団体に感謝状を贈るものだ。当初、数件だった贈呈先は、6年目に50件を突破。以後、毎年50~100件がその対象となっており、これまでの累計数は1500件程だ。「東日本大震災までは年々電力需要が伸び続けていました。そうした中、ピークカットや省エネに貢献していただいたお客さまには大変に感謝しています」(同センターの石川佳英事務局長)。

そんなヒートポンプ蓄熱にも今後、新たな役割が加わりそうだ。一つは再生可能エネルギー主力電源化を見据えた位置付けだ。再エネの余剰電気をヒートポンプや蓄熱槽で吸収する制御で、再エネ電気を無駄なく使う。そして、もう一つが、電力システム改革の流れで今年度から始まった電力需給調整市場への貢献だ。ヒートポンプ蓄熱を使ったDR(デマンドレスポンス)やVPP(仮想発電所)による新市場への貢献が期待されている。

「新たな役割については認識していますが、前提となるのがまずは省エネを進めること。特に固定価格買い取り制度の賦課金の負担が、今後重くなると思います。その際、まずはヒートポンプによってエネルギーの消費を抑えることで、その負担を少しでも減らせます。そのことが再エネ主力電源化に寄与し、結果的に脱炭素が進むと思います。その一翼を、ヒートポンプ蓄熱による電化システムが担いたい」(同)

次項以降では今年感謝状が贈呈された導入事例を紹介するほか、同センターの蓄熱専門委員会委員長である奥宮正哉氏のインタビューを掲載し、省エネに寄与するヒートポンプ事情を追った。

〈品川熱供給〉

電力とガスのベストミックス運用 「改修」と「見直し」で高効率を実現

品川インターシティのエネルギー供給を担う「品川東口南地区地冷」。

大規模改修と既存システムの見直しで、COPの改善を果たしている。

 山手線、東海道線、東海道新幹線など日本の大動脈が通過し、2027年には中央リニア新幹線の始発駅も計画される交通の要衝・品川駅。同駅港南口のペデストリアンデッキを渡ると、同地がビジネス街へと変貌を遂げるきっかけとなった品川インターシティの3棟がそびえ立っている。この高層ビル群のエネルギー供給を担うのが、「品川東口南地区地域冷暖房」だ。

品川インターシティと食肉市場(右下)

 同地冷は1998年11月の品川インターシティ完工と同時にプラントの供用を開始。品川インターシティのA・B・C棟と商業施設が入居する低層棟に冷温水と蒸気の供給をスタート。4年後の02年からは設備を増強して、ビル群に隣接する東京都中央卸売市場食肉市場のセンタービルにも冷水および蒸気の供給を開始した。

 プラントは品川インターシティC棟の地下3階に設けられており、広さは約4400㎡。蓄熱槽の容量は冷水が2200㎥、冷温水が2300㎥の合計4500㎥。多数のオフィスが入居する高層ビル群のエネルギー需要を一括して管理することで、電力負荷の平準化や地域のエネルギーの有効活用、環境負荷軽減に貢献している。

供給フロー

米PJMの容量市場入札 政策変更の影響で大幅下落


米国北東部地域の地域送電機関であるPJMが6月、22/23年受け渡しの容量市場の入札結果を公表した。6エリアのうち、「RTO」で1000kW当たり50ドル/日と、前回(21/22受け渡し)の140ドルよりも大幅に下落。この11年でも最も低い水準となった。

本来は19年5月に実施されるはずだったが、米連邦エネルギー規制委員会(FERC)によるMOPR(政策的支援を受けた電源の参加による価格低下を防ぐための最低入札価格ルール)の見直しで延期されていた。そこで注目されるのが、電源別の落札量の変化だ。需要要因で全体の目標調達量が減る中、原子力が450万kW、ガス火力が340万kW、再エネが130万kW増やし、石炭火力が800万kW減らしている。

現地関係者は、一部原子力がMOPRからの除外を交渉、0円入札が可能となり落札量を増やした一方、前日市場で入札に参加しないペナルティのリスク見合いで、高めに入れざるを得ない石炭火力が割を食った形と見る。容量市場の政策変更による落札価格のボラティリティの高さがうかがえる。

再エネと原発が共存共栄 ハイブリッドに関心高まる


カーボンニュートラルを実現するのに、最も費用対効果のいい方法は何か―。最近、米国で関心が高まっているのが、原子力発電と再生可能エネルギーを組み合わせた「ハイブリッドシステム」だ。

太陽光・風力発電などの電気と原発の電気を統合して、電力グリッドに一箇所で接続。蓄電池も組み合わせ、変動する再エネの電気を安定的に供給する。また、蓄熱機も併設し、原発の排熱や余剰の電気などを利用して、水素などの製品をつくる。「収益を最適化できるシステム」(業界関係者)と期待は高い。

ただ、課題もある。需給のバランスを保つために、電気・熱の需要を正確に把握しなければならない。そのためAIなどを活用して、情報を統合的に処理するシステムの開発が必要になる。

最大の課題は、再エネを信奉する人たちの「原発嫌い」だ。ある原子力関係者は「再エ推進派の人たちに再エネと原発は共存すべきだと主張すると、一笑に付される」という。

手段を選んでいては、地球温暖化は防止できない。再エネ信奉者には、柔軟な対応を期待したいのだが……。

脱炭素へエンジ産業の「覚悟」 ピンチをチャンスにできるか


【業界紙の目】宗敦司/エンジニアリング・ジャーナル社編集長

脱炭素化が急速に進む中で、エンジニアリング産業も事業構造の大転換に本腰を入れている。

これまでのノウハウも生かしつつ、この激変を乗り越えチャンスをつかめるか、各社の戦略が試される。

プラントビジネスの事業環境は急速な変化が進んでいる。日本のエンジニアリング会社が得意とする大規模LNGプラントは、2019年の記録的な規模の発注量から一転し、20年はわずか1件にとどまった。そして今年はカタールの大規模LNGプロジェクトが発注となったものの、最終投資決定が予定されていた案件の約半分は先送り、もしくは中断となっている。

実行が予想されるLNGプロジェクトも、今後はCCUS(CO2回収・利用・貯留)を併設するよう計画を変更している。また石炭火力発電は世界的に投資からの撤退が進み、日本の石炭火力プラントメーカーも今後の新規受注を諦めているのが実情だ。

水素・アンモニアに積極姿勢 洋上風力では温度差も

その一方で、水素や燃料アンモニア関連のプロジェクトが世界各地で立ち上がってきた。発電設備は昨年の投資減少から今年は増加に転じるとみられているが、IEA(国際エネルギー機関)では発電設備投資の70%が再生可能エネルギーとなると予測している。

脱炭素化はプラント市場に大きな影響を与えており、エンジニアリング産業がこれまで軸足としてきた分野の多くで持続可能性に疑問が生じ、事業分野のシフトは必須となった。4月以後、エンジニアリング会社の多くが、こうした状況に対応した事業の長期ビジョンや経営計画を相次ぎ公表している。その多くは、既存の事業分野を継続しつつ、新規事業の育成を図っていくというものだ。

専業エンジ会社の事業の基本はEPC(設計、調達、建設)である。特に大型のプラント建設プロジェクトのEPCで日本は優位性を確保してきた。そのノウハウそのものは、化石資源関連以外の分野でも生かすことができる。

例えば、ガス処理や石油精製、LNG、石油化学プラントには、水素や燃料アンモニア関連技術も使われており、プラント建設そのもののノウハウはさほど変わらない。実際、千代田化工建設や日揮ホールディングス、東洋エンジニアリングはこれまでも、水素やアンモニア設備について長年の実績がある。これらの設備の規模はこれまでより飛躍的に大きくなるのだが、スケールアップもエンジニアリング会社の得意分野だ。そのため、各社はこれらの分野に積極的に取り組んでいくことを表明している。

30年以後は、既存のEPC分野の比率は50%程度となり、新規分野のEPCやサービス事業、あるいは事業運営などが残りを占めるという事業イメージを描く。分野の広がりだけでなく、EPC以外の仕事に幅を広げようとしている点が注目される。

再エネに関しても建設実績は多く保有している。ただ、今後主力となる洋上風力は各社で若干温度差があり、日揮ホールディングスは積極的だが、東洋エンジニアリングは日鉄エンジニアリングとのコラボレーションの中で対応していく程度だ。

一方、これまで積極的に洋上風力に取り組んでこなかったJFEエンジニアリングは、180度方向転換する方針だ。JFEグループが取り組みを強化する中、国内で初めて基礎構造物であるモノパイルの生産工場を、約400億円を投じて構築する計画を打ち出している。

相次ぐ組織変更 分野横断で技術を統合

脱炭素化は、エンジニアリングビジネスそのものを大きく変化させてきている。

IHIはプラント事業ユニットとボイラー事業ユニットを統合して新たに「カーボンソリューション」ユニットとした。三菱重工業も今年、三菱パワーを本体に統合する。ほかにもプラント事業関連分野の組織やセグメントを変更する重工メーカーは多い。

その理由は、今後求められる脱炭素化エンジニアリングは、従来事業の枠を突破しなければ実現できないからだ。

例えば川崎重工業は液化水素チェーンの確立を図っているが、これにはプラントビジネスだけでなく船舶も関与する。そのためセグメントを「エネルギーソリューション&マリン」とした。住友重機械工業も、同様に船舶や産業機械とプラント事業のセグメントを統合。「エネルギー&ライフライン」として、液化空気エネルギー貯蔵、バイオマスの地域別事業展開、バイオリアクター展開などを進める。こうした動きに象徴されるように、脱炭素化は個別技術で対応するのではなく、分野横断的に各種技術を統合したソリューションを展開していかなければならない。

川重などが豪州ビクトリア州に建設した水素液化基地

ケミカルや航空機燃料なども、これまでのようにナフサなどの安定した原料を使用できなくなると、バイオマス由来や再エネ由来の原料、さらにCO2から合成した炭素循環原料を使っていく必要がある。LNGも先述のようにCCUS設備付きが標準となり、カーボンニュートラルLNGでなければ販売できなくなる。

これらの脱炭素化需要を満たしていくには、まずCO2を回収する技術が必須だ。CO2回収が低コストで可能となればガスタービン複合発電は将来的に適用可能だし、石炭火力の復権もあり得る。

また、化石資源由来の水素やアンモニアもクリーン化することができる。さらに再エネ由来の水素と、回収したCO2を電気分解することで得られるCO(一酸化炭素)を組み合わせた合成ガスを原料に、触媒反応を用いて液体炭化水素を合成するFT合成(フィッシャー・トロプシュ法)技術経由で、各種の燃料製造や化学品原料の製造も可能となる。

これら技術のほとんどをエンジ業界は既に持っている。そして自社技術に限らず、廃棄プラスチックのガス化リサイクルなど他業界が保有する技術をいかに組み合わせ、脱炭素社会に実装していくか。その統合化ソリューションを構築していく上でも、エンジ産業が重要な役割を担うことになる。

エンジ産業の覚悟は示された。脱炭素をチャンスとし、前進していくのみだ。

〈エンジニアリングビジネス〉〇1981年創刊〇発行部数:1万部〇読者構成:エンジニアリング会社、プラントメーカー、機器ベンダーなど

震災復興と支援への感謝を発信 東京・秋葉原で「東北ハウス」開催


【東北ハウス実行委員会】

東京五輪・パラリンピックが開催される今年は、東日本大震災から10年目にも当たる。この節目の年に、東京・JR秋葉原駅前のアキバ・スクエアで、復興を着実に進めている姿と、東北と新潟の魅力を国内外の人たちに伝える「東北ハウス」が7月22日から8月7日まで開催される。

岩手・宮城・福島の人たちが映像で感謝を伝える

コロナ禍で五輪会場への海外観客の受け入れは見送りとなり、外国人の入国や行動は制限される。だが、五輪開催に合わせて訪日する人はおり、また日本に関心を持つ人も増える。

東北ハウスの目的は、この機会に①震災時に海外から寄せられた支援に感謝の気持ちを伝える、②復興に向けて着実に歩んでいる姿を紹介する、③豊かな東北・新潟の魅力を伝える―ことだ。

また、コロナ禍でアキバ・スクエアを訪れる来場者が通常よりも少なくなることを考慮。そのため、コンテンツの大半をウェブ上で公開し、国内外に発信するバーチャル開催を8月24日から来年の1月24日まで展開する。

国内外に感謝の気持ちを 「酒と食」のコーナーも

入場すると、まず「感謝のパネル」が来場者を迎える。岩手・宮城・福島県の8人(組)が映像で登場。復興にまつわるエピソードや、支援への感謝の気持ちなどを伝える。

会場で目を引くのは、半円形の巨大なパノラマスクリーン(円周34m)。東北・新潟の豊かな自然の風景や夏祭りの様子などを、圧倒的な迫力で体感してもらう。風景は360度カメラを搭載した大型ドローンで撮影。また、複数の通常サイズの映像を180度の映像に合成するなど、意欲的なオリジナル作品を上映する。

主催は、東北・新潟の自治体、経済団体、企業などで構成する東北ハウス実行委員会。委員長を務める海輪誠氏(東北経済連合会会長)は、「これまでの各方面からの復興支援に対する感謝の気持ちや、復興を成し遂げつつある現在の姿のほか、豊かな自然や文化、祭りといった東北・新潟の魅力を伝えるべく、官民が一体となって取り組みました」と話す。

東北ハウスでは、伝統工芸の製作を実体験したり、東北・新潟が誇る「酒と食」を味わえたりするコーナーもある。海輪委員長は「多くの皆さんの来場を心よりお待ちしています」と話している。

東北・新潟の「酒と食」を味わえるコーナーもある

政治決着の温室ガス46%削減 安定供給とコストにも配慮を


【論説室の窓】井伊重之/産経新聞論説委員

菅首相が打ち出した温室効果ガスの排出削減を達成するには、エネルギー転換が欠かせない。

転換は国民に「痛み」を強いるため、きちんと説明し理解してもらう必要がある。

菅義偉首相が米国主催の気候変動問題に関する首脳会議で、2030年度までに温室効果ガスを13年度比で46%削減する目標を表明した。従来の政府目標は26%の削減だったが、ここから7割以上も増やす野心的な目標だ。そして菅首相は「さらなる高みを目指す」として50%削減まで挑戦する姿勢も示した。

地球温暖化防止に向け、先進各国は温室ガスの削減を競い合っている。日本も他国に負けないような高い理想を掲げるのは理解できる。だが、化石燃料からの脱却を図る温室ガスの削減は、将来の国民生活や産業に大きな影響を与える取り組みだ。それだけ重要な目標が政治主導で進み、政府内で建設的な議論がないままに決定したのは問題だ。唐突に数字だけが独り歩きする意思決定システムに危うさを感じる。

首相自ら数値目標を決断 「46%」の根拠はあいまい

今回の新たな政府目標の策定を巡り、菅首相は政治主導による決着にこだわった。最終的な数値は誰にも知らされず、初めて明らかにされたのは首脳会談の直前に開催された、菅首相がトップを務める地球温暖化対策推進本部の場だった。菅首相は自ら数値目標を決断することで、温暖化対策を率いる姿勢を示した。

これは昨年9月の首相就任後、国会で初めて表明した「50年に温室ガス排出を実質ゼロにする」というカーボンニュートラル宣言と同じ構図だ。菅首相が宣言を出した直後、経済産業省幹部は「あれは私たちが提案したものではない。これから苦労する産業界には覚えていてほしい」と苦い表情で語っていた。

そもそも46%削減の根拠はあいまいだ。新たな削減目標を策定するに当たり、従来の手法で積み上げを目指した経産省は「40%程度が限界」としていた。

これに対し、環境省は50%削減を主張していた。小泉進次郎環境相が気候変動問題のケリー米大統領特使と数回にわたって会談し、「米バイデン政権の意向だ」として50%削減を強く求めたことで両省の調整は難航した。

落としどころとして両省の間をとって「45%」が浮上したが、最後になって菅首相はさらに1%を積み増す形で46%を表明し、米国と足並みをそろえる協調姿勢をみせた。新型コロナウイルスの感染拡大防止が進まずに内閣支持率の低下に直面する中で、首相自らが主導する形で地球温暖化防止に向けた新たな削減目標を打ち出した格好だ。

この数値目標が公表された直後、テレビ番組に出演した小泉環境相は「くっきりとした姿が浮かんだわけではない。おぼろげながら浮かんできた」と発言し、根拠があいまいだとの批判を浴びた。最後は菅首相の政治判断で決まった数値目標だけに、本人にしてみれば、おぼろげな姿しか浮かばなかったのは当然かもしれない。

さまざまな政治的な思惑が交錯する中で決まった温室ガスの削減目標だが、その実現には高いハードルが待ち受ける。従来の13年度比26%削減という目標も高い数値だったが、そこから目指すべき山はさらに高くなった。特にほとんど根回しがないまま厳しい削減目標を突きつけられた産業界にとってみれば、「これは環境ファッショではないか」(鉄鋼大手)との恨み節も聞こえてくる。

重油や石炭などの化石燃料を使う自家発電設備を保有する鉄鋼や製紙、セメント、化学などのエネルギー多消費型産業は今後、エネルギー転換に伴う厳しい痛みを強いられる。中には工場閉鎖に追い込まれたり、日本からの脱出を迫られたりする事態も予想される。そうした企業が立地する企業城下町の自治体も厳しい対応を迫られるのは確実だ。そうした痛みを具体的に説明しない政府の姿勢は無責任でもある。

温室ガス排出削減の課題は、火力発電の低炭素化だ。日本全体のCO2(二酸化炭素)排出量のうち、発電所を中心とするエネルギー部門が4割を占める。原発の再稼働が進まない中で、現在の電源比率は7割以上を石炭やLNG(液化天然ガス)などの火力発電が占めている。次期エネルギー基本計画で示す30年度の電源構成では、火力発電の比率を全体の4割程度まで落とす目標になるが、実際にどこまでその比率を下げることができるかは不透明だ。

一方で太陽光などの再生可能エネルギーは大幅に引き上げられて4割程度まで引き上げる方針だが、既に太陽光パネルの設置に適した土地は少ないとされる。山の斜面を切り開いてパネルを設置する手法は、景観だけでなく、土砂崩れを引き起こす原因にもなりかねない。自治体による規制条例も相次いでおり、今後は公共施設の屋根などへの設置が進む見通しだが、電力系統の強化を含めて課題は多いといえる。

政策は環境ばかりに重点 安定供給・コストは二の次に

注意したいのは一連の温室ガスの排出削減について、政府は成長戦略の一環と位置付けていることだ。菅首相も「地球温暖化防止に向けて新たなイノベーション(技術革新)を引き出す」と意欲を示している。水素やアンモニア、CO2の地中貯留など新たな技術開発を進め、その商用化を通じて投資を進めることで新たな産業の育成につなげようとしている。

首相は政治主導の決着にこだわった

しかし、政府のエネルギー政策は三つのEが基本である。エネルギーセキュリティー(安定供給・安全保障)とコストなどの経済効率性、そして環境である。現在の政策は温室ガスの排出削減という環境ばかりに重点が置かれており、安定供給やコストには焦点が当たっていない。エネルギーとは手段にすぎず、それをいかに効率よく利用するかでその価値が決まる。どんなに環境性能が高いエネルギーでもコストが高く、利用されなければ、エネルギー本来の役割は果たせない。

成長戦略として始まった温室ガスの排出削減について、安定供給を目的とする現実的なエネルギー政策として着地させるには、まだ時間がかかりそうだ。

石炭火力輸出にまた逆風 G7サミットで方針見直し


6月13日に閉幕したG7サミット(主要7カ国首脳会議)の宣言では、途上国への石炭火力輸出について、5月下旬の気候・環境相会合の合意からさらに踏み込んだ方針を示した。排出削減対策を講じていない石炭火力への新たな公的支援について、気候・環境相会合では「終了に向けた具体的ステップを21年中に取る」としたところ、首脳宣言では「21年末までの終了に今コミットする」と言及。政府は首脳宣言を反映する形で17日にインフラ輸出戦略の方針を見直した。

これまでは、脱炭素化を目指す国に対して超々臨界圧以上の高効率技術に限るなどとしていたが、今後は排出削減対策が講じられているか否かで判断する。問題は「排出削減対策」が何を指すかだ。首脳宣言には具体的記述はなく、公的支援の縮減について「限られた例外を除き」との文言もあり、線引きははっきりしていない。

梶山弘志経済産業相は18日の会見で「排出削減対策がどういうものかということが今後の議論の対象になる。国内での議論や国際的なルール作りをしっかりやっていく」と説明した。

米国内で新型原発を建設へ ゲイツ氏「脱炭素へ必要」


米国で有数の石炭産出量を誇るワイオミング州。30年までに温室効果ガス半減を目指すバイデン政権と歩調を合わせ、6月にナトリウム冷却型の第4世代原子炉第一号の誘致を決定した。日本でも新型原子炉を推進すべくリプレース議連が発足する中、20年前から議論されてきた第4世代原子炉の建設に期待が高まる。

ワイオミング州に建設される新原発の完成イメージ
提供:テラパワー社公式HPより

運営主体は、大富豪ビル・ゲイツ氏が会長を務める原子力ベンチャーのテラパワー社と、著名投資家のウォーレン・バフェット氏が所有する電力会社のパシフィコープ。連邦政府もこのナトリウム冷却材を用いた原子炉に期待しており、昨年10月にエネルギー省はテラパワー社へ8000万ドル(88億円)の資金提供を行っていた。7年後の運転開始を目指し、建設費は約10億ドル(1095億円)。新原発は、34・5万㎾の発電能力を有し、必要に応じて50万㎾まで引き上げられる。

ゲイツ氏は、ナトリウム原子炉は設計を簡素化したことにより安全で、発電コストが低いと強調。何より、気候変動問題の解決に向けて「原発は必要だ」と言い切った。日本の原発の新増設、リプレースの行方を占う意味でも、米国の次世代原子炉の行方が注目される。

【覆面ホンネ座談会】都市ガスは座礁資産化するか 炭素実質ゼロで迫られる決断


テーマ:ガス事業者のCN生き残り戦略

2050年カーボンニュートラル(実質ゼロ・CN)に向け、都市ガス業界では大手は既に戦略を示したものの、地方の動向はよく見えてこない。約200社はどう生き残りを図るべきなのか。そして将来の都市ガス事業の姿やいかに。

〈出席者〉 A大手ガス事業者  B地方ガス事業者  Cコンサル  D金融関係者

――50年実質ゼロは半世紀前のLNG導入に匹敵する大きな挑戦で、業界全体での達成には実にさまざまな課題があると思う。

A 昨年10月の菅義偉首相のカーボンニュートラル宣言を聞いた時は正直厳しいと思ったが、その直後、広瀬道明・日本ガス協会前会長がガス事業者の生き残りに向けチャレンジする方針を明言。そして今年6月に工程表としてアクションプランが発表された。エネルギーの実質ゼロというと電源の脱炭素化や電化が注目されがちだが、それ一辺倒で実現できるものではない。エネルギー消費の約6割は熱であり、トランジション(移行)期においても特に高温熱を使う産業分野や既築住宅など、電化に向かない分野の着実なCO2削減に都市ガス業界が貢献できる。

 昨年のチャレンジ宣言時には、50年には9割をメタネーション(合成メタン)ガスで、残りを水素や、CO2クレジットを活用したCNLNGで、といった数値目標を掲げた。それに対し今回は、①30年46%減への貢献、②メタネーション実装への挑戦、③水素直接供給への挑戦―の三つのアクションで取り組む方針を示した。各社社長がメンバーとなる委員会を設置し具体化していくそうだ。

B ガス自体の脱炭素化は事業存続の命綱になると期待している。ただ、中小にはそれにコミットできるリソースがない。中長期の事業継続を考えたとき、地方ガスとしての生き残りにこだわるつもりは正直ない。確かに電化シフトが進んでも、ガスによる熱供給は残るだろう。だが脱炭素以前に、人口減少・少子高齢化に伴う市場のシュリンクの方が深刻だ。導管資産や雇用の維持はガス事業一本では難しい。地方ではどの産業も疲弊し、このままでは共倒れだ。異業種連携で新電力事業など総合インフラ事業体を新しくつくることで、ガス事業継続の道も見えてくる。まず持続可能なまちづくりを進め、その上でCNガスの供給体制を整えないと意味がない。

電化との競争本格化へ 需要家サイドへの提案が鍵

C 実質ゼロ化へのイノベーションも重要だが、トランジションで累積排出量をいかに抑えるか、つまりコージェネなど天然ガスの高効率利用の一層の深掘りも重要だ。ガス業界は、電力セクターがどう仕掛けるかを考えつつ、低炭素化という武器を生かした貢献策を追求する必要がある。現場はエネルギー間競争を意識しており、トランジションでの競争に劣後すれば、地方の事業者は存続できない。

 電化シフトが実質ゼロの処方箋といった流れができつつあるが、電源の低炭素化が進まないうちから電化が必要、というロジックはふに落ちない。例外的にEV(電気自動車)はメーカーの対応やインフラ普及に時間がかかるので早めに電化を進めることは理解できる。しかし他分野の電化がCO2削減に即貢献するわけではない。まずは足元の低炭素化を軸にした競争に注力すべきだ。

世界的な電化シフトのうねりに都市ガス事業者はどう立ち向かうのか

D メタネーションは50年に向けた長期視点、30年46%減はほぼ明日の話と区別した上で、両輪の取り組みが求められる。50年についてはメタネーション一本足ではリスキーで、幅のあるシナリオを想定し、手立てをきちんと考えていくべきだ。30年の局面では、全体で非化石電源を2~3倍増やせなければ、ガス会社に一層のCO2削減のしわ寄せが行くことも予想される。そこで電力への進出も当然考えられるし、カーボンクレジットを使った対策も頭に入れる必要がある。

 メタネーションは供給サイドの視点だが、先ほど出たように需要家サイドがガス会社生き残りのキーワードになる。各社は今後、顧客のニーズに合わせてエージェント的にガス、熱、電気をどう調達するかを考えるべきだ。それは電力業界にはない強みになる。Bさんが言った異業種連携はこれにつながる話で、こうしたプラットフォームは重要だ。

A CNLNGのクレジットの活用については、CO2の削減量がどこに帰属するかが課題になる。パリ協定のルールでも扱いを検討中だが、わが国が世界に先駆けた仕組みを発信する必要がある。経産省の官民協議会でも議題として取り上げられるようだ。

D 同感。しかし欧米では公的機関の検討より、民間によるボランタリーマーケットの動きの方が圧倒的に早いことが、京都議定書の時との相違点だ。日本も後手に回るとクレジットを高値でつかまされる羽目になるよ。