トップ交代でグレンコアの石炭事業の行方は


【ワールドワイド/コラム】水上裕康 ヒロ・ミズカミ代表

「中国の石炭需給は大変な状況だ。気をつけろ」と言われたのは2003年11月のこと。グレンコアは後に“資源ブーム”と呼ばれた状況をいち早く把握していた。果たせるかな当時20ドル台だった一般炭価格は、翌春には50ドルを超えた。話を聞いたのはスイスのバールにある本社だ。ハイジが出てきそうな田舎町だったが、ここに世界中から生きた情報を集めていることに驚いたものである。

そのグレンコアのトップに19年間君臨するアイヴァン・グラセンバーグが6月末に退任する。就任以降、トレーディングが中心であった同社を資源生産者としても成長させた功労者だ。7月からは40代のギャリー・ネーグルがCEOを務める。そういえば当時、南アから来たばかりのイケメン青年がいたことを思い出す。同じ南ア人・石炭事業出身で、ミニ・アイヴァンと呼ばれることもあるギャリーだが、資源ブームのなかで事業を拡大した前任者に対し、彼を待ち受けるのは“脱炭素”の大潮流だ。逆風の一般炭事業では、他の資源大手が相次いで撤退する中、同社は今や世界一の輸出事業者である。

既にグレンコアは50年までのネット・ゼロ、35年までの40%のカーボン削減を表明。今後、石炭生産は頭打ちとし、コバルト、ニッケル、銅といった脱炭素時代を支えるメタルの事業に注力するとしている。蓄電池の主材料であるコバルトでは世界最大級の生産者になっている。

今回の一連の人事で、長年石炭の取引を率いてきたトア・ピーターセンも退任するようだ。彼もまた“古き良き”石炭の世界で生きてきた人間だ。後任は全く畑の違うフェロアロイ出身と聞く。石炭への包囲網が日増しに狭まるなか、生産・販売の両面で新経営陣の「次の一手」が注目される。

【電力】ゆがんだ再エネ制度 目標達成への回り道


【業界スクランブル/電力】

「RE100」を目指す企業をはじめ、再生可能エネルギー電気へのニーズが高まっており、非化石価値取引市場の見直しが検討されている。FIT非化石証書を取引する再エネ価値取引市場を新たに分離独立させ、企業が小売り電気事業者を介さずとも購入できるようにするとともに、最低価格を現行のkW時当たり1.3円から欧米並みの10~20銭に引き下げることを視野に入れている。国民が負担しているFIT賦課金は炭素価格に換算するとtCO2当たり数万円。対して1.3円は3000円以下である。志の高い企業が負担できない水準ではないと思っていたが、これでも高いらしい。

RE100の年次報告掲載のアンケートによると、回答者の70%が再エネ100%の電気に切り替えた理由を経済性と答えている(複数回答可)。つまり「再エネが安いから買った」である。うがった見方かもしれないが、安いから再エネが買われるなら、一般国民には高い電気が残る。これでは安い電気を大企業が買いあさる運動になってしまわないか。

ここは再エネ価値の基準が「追加性」を問わないことに原因がありそうだ。安い新設再エネも中にはあるだろうが、北欧やカナダの既設水力の電気を購入しても、再エネ価値を主張できてもそうしていない企業と差別化できるなら、国際競争に直面している本邦企業が、同じく追加性のないFIT証書を安く購入したいと思うのは理解できる。ただ、これでは割高であるが追加性のある再エネ導入の取り組みをスポイルしてしまい、再エネ推進のつもりが逆の結果を招きかねない。インセンティブがゆがんでいるのだ。

ゆがんだインセンティブはほかにもある。RE100は需要場所で使っている化石燃料の再エネ化を求めていない。だから、電気温水器、電気暖房、EVを採用せず、燃焼機器を使い続ける方がRE100を宣言しやすいのもゆがんだインセンティブだ。民間が自主的に取り組む姿勢は一般論としては尊い。しかし、2050年まで残された時間はそれほどない。ゆがんだインセンティブのために回り道することは避けたい。(T)

先進国と途上国の対立バイデン気候サミットで再燃


【ワールドワイド/環境】

4月22~23日、米国のパリ協定体制への復帰のPRと、2050年カーボンニュートラル(CN)に向けて各国に30年目標引き上げを迫ることを目的とした気候サミットが開催された。

 他国に目標引き上げを促すべく、米国は05年比マイナス50~52%という野心的な30年目標を発表したが、その確固たる裏付けはない。4月初めにグリーンインフラを含む8年間2・3兆ドルの経済対策を発表したものの、35年電力部門CNのための国内政策の導入の見通しは立っていない。1月の政権発足後、わずか3カ月での国内政策積み上げは土台無理であったが、他国の行動を促すべくケリー気候特使が発表を強く主張したという。

 バイデン政権としては、主要途上国、特に中国の目標引き上げを取りたかった。サミットの前週にはケリー特使が中国に赴き、米中気候変動協力の方向性は取り付けたものの、引き上げの言質を得ることはできなかった。ウイグル人権問題などで米中関係が緊張する中、習近平国家主席のサミット出席すら確認されていなかった。結局、習主席の参加こそ実現したものの、25~30年に石炭消費を抑制すること以外、60年CN、30年ピークアウトという現行目標の見直しについて何の言及もなかった。インド、ロシア、インドネシア、南ア、ブラジルなどからも目標引き上げの発表はなく、引き上げたのは米国、カナダ、日本、EUなどの先進国のみであった。

 50年CN達成のカギを握っているのは途上国である以上、30年全球マイナス45%は絶望的であると言わざるを得ない。むしろ1.5度目標とそのための50年全球CNに固執するあまり、限られた炭素予算を巡る先進国と途上国の対立を激化させる結果になったともいえる。

 今後、先進国が途上国にCN目標表明や目標の引き上げを迫ったとしても、途上国は「先進国は40年以前のネットゼロエミッション達成と途上国支援の大幅積み増しをコミットすべきだ」と主張するだろう。トップダウンの目標にこだわり、各国の実情を尊重するボトムアップの枠組みでもあったパリ協定を変質させ、先進国、途上国のパイの奪い合いをもたらしたバイデン・ケリー気候変動外交の前途は決して容易ではない。もちろん米国の強い働きかけからマイナス46%目標をプレッジした日本の道のりも極めて厳しい。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院教授)

ASEANのエネルギー転換クリーンコール技術を活用


【ワールドワイド/経営】

東南アジア諸国連合(ASEAN)は、「持続可能な開発に向けたエネルギー転換(トランジション)」を目標に掲げている。ASEANにおけるトランジションの定義は、化石燃料から再生可能エネルギーへの転換に限られるものではない。経済成長と環境対応を両立させる上で、化石燃料のクリーン利用も重要な柱として強調されている。

 経済成長が著しい今のASEANには、エネルギー安定供給の観点から石炭火力を完全に排除する選択肢はなく、国連が提唱する持続可能な開発目標(SDGs)およびASEANの地域目標の達成に向け、二酸化炭素回収・利用・貯蔵(CCUS)を含むクリーンコールテクノロジーに対する期待が非常に高まっている。

 昨年発表されたASEANの長期エネルギー見通しによると、最大限の努力を行う場合でも、石炭火力は40年における発電電力量の3割超を占めており、どのシナリオであっても基幹電源となる。短中期的な石炭比率低減戦略は石炭のバイオマス混焼であり、これを中心に25年の一次エネルギー総供給量に占める再エネの割合を23%に引き上げることを目指している。長期的には超々臨界(USC)などの高効率低排出(HELE)石炭火力技術とCCUSにより低炭素社会とエネルギー転換を実現するとしている。発電分野では石炭火力のクリーン化に向けて、HELE石炭火力技術、バイオマスとの混焼、CCUSといった技術導入の研究・実証が行われている。

 このようにASEANはクリーンな石炭火力を「経済発展と環境対策の両立を可能にする有力な選択肢」と捉えている。その一方で、近年は先進国の金融機関や投資家などが石炭火力を「座礁資産」と位置づけ、投融資を引き揚げるダイベストメントや、企業活動に影響を及ぼすエンゲージメントに取り組んでいる。ASEANの友好協力国であるわが国もまた、新興国への石炭火力の新規開発を原則禁止とし、さらにUSCさえも融資対象から外すよう国際的な強い圧力を受けている。

 新型コロナのまん延により、経済成長の停滞など新たな課題を抱えているASEANでは、石炭を中核に据えたクリーンで安価なエネルギーの安定供給の重要性が再確認されている。石炭に依存せざるを得ないASEANに対するわが国の環境負荷低減への貢献は、CCUS付き高効率火力発電を中心とした技術導入支援によるものだろうが、それも国際的な理解を獲得できるかにかかっている。

(柳 京子/海外電力調査会調査第二部)

露が長期戦略で水素開発推進石油・ガス会社は増産を堅持


【ワールドワイド/資源】

気候変動対策として、世界的な脱炭素の潮流と代替エネルギーとしての水素への関心が高まる中、ロシア産化石燃料の最大市場である欧州は、グリーンディールによって気候変動対応へさらに大きくかじを切った。これに引きずられて、昨年11年ぶりに改訂されたロシアの「長期エネルギー戦略」(~2035年)には、水素戦略が盛り込まれた。

 ロシアにおける水素の生産主体としては、供給源・供給インフラとなる天然ガスとパイプラインを有するガスプロム、欧州が望む気候中立な「イエロー水素」(原子力発電を用いて生成した水素)の主体となるロスアトムに光が当たっている。その影で、ロシア最大の石油会社ロスネフチや第二位のルクオイルなど主要石油会社や、LNGを主業とする独立系ガス生産会社のノバテクは、政策から取り残される形になった。しかし、彼らは独自の解釈・考え方で試行錯誤を行い、この脱炭素の潮流への対応を目指している。

 ロスネフチは政府の動きに敏感に反応し炭素戦略を発表し、長期的な石油生産維持とクリーンな生産技術開発を成長戦略に据えた。炭化水素生産の大幅削減を発表した大株主BPの方針との矛盾が指摘される中、付け焼刃的に環境技術協力を立ち上げ、批判をかわそうとしている。ルクオイルも脱炭素に向けた情報公開を進める一方で、原油・天然ガスの生産抑制に対しては慎重な姿勢を貫く。「石油会社は代替エネルギー技術を開発するという高額で意味のないことに没頭するより、森林吸収とCCSに注力すべき」と言い、世界最大の森林地帯を有するロシアは、二酸化炭素排出量を相殺することが可能であると主張している。

 ガスプロムネフチは戦略見直しを表明するも、化石燃料増産目標は継続する方針だ。50年までにカーボンニュートラルを目指す計画を発表したタタールスタン共和国系のタフトネフチもまた、中期的な化石燃料増産は否定せず、炭素中立に向けた具体的な方策は不明確なままである。

 他方、石油会社同様に長期エネルギー戦略における水素エネルギー開発では蚊帳の外にいる、ガス業界第二位のノバテクは、独自に脱炭素に寄与する再生可能エネルギー・CCS・水素生産の具体的プロジェクトを立ち上げ、実現に邁進しているトップランナーと言えるだろう。しかし、同社も化石燃料の生産抑制は検討しておらず、カーボンニュートラルLNGを通常のLNGに代わり今後拡大する付加価値市場と捉えている。

(原田大輔/石油天然ガス・金属鉱物資源機構調査部)

LPや機器販売などで売り上げ拡大都市ガス事業の業績を補う


【常磐共同ガス】

福島県の浜通りに位置する常磐共同ガスは、顧客数1万6000件規模の都市ガス会社だ。東日本大震災では、地震や津波で大きなダメージを受けたのと同時に、福島第一原子力発電所の事故の影響も重なり、復旧に多くの時間を要した。復旧が思うように進まなかったときには、事業継続を危ぶむ意見もあったという。そうした困難を乗り越えて、現在、同社は売り上げを急拡大させている。

相双営業所の新社屋(上)とデポ基地

主力の都市ガス事業は厳しい状況にある。少子高齢化や人口減少が進む中、新型コロナウイルスが需要減少に追い打ちをかけたのだ。地元の商業施設や温泉旅館などが、大きな影響を受けた。業務用途では、いわき市医療センターで2019年に開始したエネルギーサービス事業や施設管理を手掛けている。ここでの知見をほかの施設でも活用していくなど、新たな需要拡大の施策を検討している。

震災以降はさらなる成長のために、他事業に従来にも増して注力している。その一つがLPガス販売だ。いわき市には被災者や避難者向けの仮設住宅や公営の復興住宅が建設された。原発避難区域を中心に、避難する住民の流入に伴い、居住する世帯が一気に増加した。金成義順・供給部長は「地域によっては人口が2~3倍増えたと思います。コンビニはいつも混雑し、歯医者は1~2カ月先まで予約が取れないほどでした」と当時を振り返る。

LPガス需要も急激に増え、顧客数は1万件にまで達している。現在、同社ではいわき市周辺から浜通りを中心に営業エリアを拡大中。昨年には、LPガス配送拠点機能を有する相双営業所(福島県広野町)と、南相馬営業所(福島県南相馬市)の新社屋を相次いで開設している。

エコキュートなども販売 水素設備の施工にも挑戦

家庭用エネルギー機器販売も好調だ。ガス機器にこだわらず、エコキュートやIHコンロなども手掛けている。「これまでも低炭素社会を念頭にエネルギー機器販売戦略を考えてきましたが、昨年10月の菅義偉首相のカーボンニュートラル宣言の影響は大きくなるとみています。長期的に展望していくと、多くの商材を手掛けていく必要性を改めて感じました」と金成部長は語る。

このほか、水素など新エネルギーへの挑戦にも前向きだ。同社は昨年7月に運転開始となったJヴィレッジ(福島県楢葉町)に設置された東芝エネルギーシステムズ製の純水素燃料電池システム「H2Rex」の工事を担当。こうした活動にも積極的に取り組んでいく構えだ。

【コラム/6月14日】カーボンニュートラルは地域経済の破滅計画 忍び寄るエネルギー貧困の危機


杉山大志/キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

日本政府はCO2を2030年までに46%減、2050年までにゼロにするとしている。そして「経済と環境を両立」させて「グリーン成長」によってこれを達成するとしていて、「イノベーションを推進」している。

けれども、カーボンニュートラルというのは、本当に実施しようとすれば、そんなきれいごとでは到底済まない。

県によって温度差 地域経済が崩壊するのはどこ?

カーボンニュートラルを目指すというとき、特に脆弱なのはどの県か。指標を見てみよう。

(出典:総合地球環境学研究所)

リンク:https://local-sdgs.info/fukusu_content/731-941/

図は、縦軸が県民総生産当たりのCO2排出量、横軸が県民総生産当たりのエネルギー消費量である。県民総生産とは、県の経済規模を表す指標である。

まず第一に分かることは、ほぼ一直線上にデータが並んでいること。すなわち、CO2排出量とは、エネルギー消費量とほぼ同義であることを意味している。

つまりCO2を減らすとなると、エネルギー消費を減らさねばならない。既存の工場ではその技術的手段は限られるから、大幅にCO2を減らしたければ、最後は生産活動を止めるしかない。

そして第二に分かることは、県によって、大きな違いがあることだ。

縦軸の「県民総生産あたりのCO2排出量」は、カーボンニュートラルに対する脆弱性の指標である。図を読むと以下のようになっている(単位はtCO2/百万円)

1位  大分  6.7

2位  岡山  6.0

3位  山口  6.0

・・・

最下位  東京  0.7

トップの大分では6.7であるのに対して、最下位の東京は0.7なので、10倍も開きがある。

大分で「県民総生産あたりのCO2排出量」が大きい理由は、製造業が発展しており、それに頼った経済になっているからだ。CO2を急激に減らすとなると、大分、岡山、山口では、工場は閉鎖され、経済は大きな打撃を受けることになるだろう。

4位以下もリストにしておこう。

4位  和歌山

5位  広島

6位  愛媛

7位  千葉

8位  茨城

・・・

以上の県の人々は、これから自らの経済がどうなってしまうのか、よく考えるべきだ。そして、菅政権の下で進む無謀なカーボンニュートラル政策に対して、自治体、政治家、企業、労働者、一般市民が一体となって、異議を唱えるべきだ。

議論進む炭素税 寒冷地・農村部の負担重く

炭素税の導入の是非が政府審議会で議論されている。この夏には中間報告が出る予定だ。

もしも導入されるとなると、産業部門は国際競争にさらされているから、家庭部門の負担が大きくならざるを得ないだろう。実際に欧州諸国ではそのようになっている。

ではどの地域の負担が大きくなるだろうか。これも、炭素税に対する家計の脆弱性の指標を見てみよう。

(出典:国立環境研究所)

リンク:https://www.nies.go.jp/kanko/news/39/39-1/39-1-03.html

市町村単位での世帯当たりCO2排出量の推計値(図)を見ると、以下の特徴が分かる

•都市より農村で多い

•寒冷地で多い

この結果、東京・大阪などの都市部に比べて、北海道・東北などの農村部では、世帯あたりのCO2排出量が倍になっている。

図中赤く塗られているところが世帯あたり5t以上のCO2を出しているところだ。5tのCO2を出している世帯は、仮に1tCO2あたり1万円の炭素税になるとして、負担は年間5万円になる。

炭素税が導入されるとなると、過疎化や高齢化が進む北海道や東北などの地域にとって、特に重い負担になりそうだ。寒冷地の方は要注意である。

英国にはエネルギー貧困ないしは燃料貧困という言葉がある(energy poverty, fuel poverty)。多くの貧しい人々が、光熱費が高いので、暖房をつけず、部屋の中でマフラーや帽子をして、布団に入って暮らしているのだ。映画「チャーリーとチョコレート工場」の主人公チャーリーの家がそうだ。

日本でもこんな生活が待っているのだろうか?

【プロフィール】1991年東京大学理学部卒。93年同大学院工学研究科物理工学修了後、電力中央研究所入所。電中研上席研究員などを経て、2017年キヤノングローバル戦略研究所入所。19年から現職。慶應義塾大学大学院特任教授も務める。

【マーケット情報/6月11日】原油続伸、需要回復が加速する見通し


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み続伸。需要回復が加速するとの見方で、買いがさらに優勢となった。

移動・経済活動の規制緩和が進む欧州では、新型ウイルスのワクチン接種歴などを記載した証明書の携帯を条件に、EU加盟国間の渡航を解禁。証明書の発行は7月1日からとなっている。加えて、米国では今夏、ガソリン消費の前年比増加が見込まれており、燃料需要回復への期待感が高まっている。

また、国際エネルギー機関は、来年末には、世界の石油需要が新型ウイルス感染拡大前の水準に戻ると予測。価格に、さらなる上方圧力を加えた。

製油所の原油処理量増加も、強材料として働いた。米国では製油所の高稼働により、週間在庫統計が減少。フランスでは、Total社のGonfreville製油所が、2019年12月に発生した火災から復旧し、1年半ぶりに再稼働した。さらに、インドでは、複数の国営製油所が徐々に稼働率を引き上げている。国内の感染者数増加が減速し、ロックダウンを緩和したことが背景にある。

【6月11日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=70.91ドル(前週比1.29ドル高)、ブレント先物(ICE)=72.69ドル(前週比0.80ドル高)、オマーン先物(DME)=71.37ドル(前週比0.99ドル高)、ドバイ現物(Argus)=70.97ドル(前週比1.11ドル高)

40年超原発はボロボロ? 根拠のない朝日・日経記事


【おやおやマスコミ】井川陽次郎/工房YOIKA代表

アニメ「サザエさん」の磯野波平さんは、公式サイトによると54歳だ。一本だけ毛が残る頭頂部から、もっと高齢と見られがちだが、実は若い。サラリーマンなら働き盛りである。末娘のワカメちゃんは9歳らしいので、まだまだ引退できない。

読売4月28日夕刊「40年超原発、再稼働へ、美浜・高浜3基、福井知事同意」のニュースに波平さんを思い出した。記事の脇に「脱炭素へ、原発活用を」との解説がつく。運転開始から40年を超えたが、まだ働け、である。

これまでが大変だった。

「2011年の東京電力福島第一原発事故を受けた改正原子炉等規制法で、原発の運転期間は『原則40年』と定められ、原子力規制委員会が特別に審査して認可した場合、1回に限り、最長20年の延長を認めている」

「3基は1974~76年に運転を開始し、定期検査で2011年に停止。16年に延長が認可された」「識者による県の原子力安全専門委員会も3基の安全性に問題はないとの報告書を提出している」

これを踏まえた解説には「原発の新規建設は地元の同意を得るまでにハードルが高い上に、安全対策にかかる費用も増大しており、議論は停滞が続く。既設の原発を長期間、最大限活用する取り組みは、国のエネルギー政策上も重要だ」とある。ごもっとも。

対照的なのは朝日だ。なんとしても負のイメージを発信したいのだろう。同日夕刊で「老朽原発再稼働、福井知事が同意」と「老朽」をことさら強調している。

辞書によれば、老朽とは「老いて役立たなくなる」だ。「朽」は「腐ってボロボロ」を意味する。どこがボロボロか。大変なので読み返したが、書いてない。

翌29日の朝日「時時刻刻」は「原発延命、懸念棚上げ」だ。老いて朽ちて瀕死状態なので「延命」した、と言いたげだが、老朽化した部品は特定していない。

関連しそうなのは「劣化した設備や装置は修理や新型への交換ができても、原子炉そのものは換えられない」の部分だが、規制委のコメントとして「厳正かつ慎重に審査しており、結果には自信を持っている」とある。原子炉がボロボロという訳ではなさそうだ。

新聞の根幹は事実に基づいた報道である。それに値するか。

同日日経「原発再開、苦難の一歩」は「高齢化」の言葉を使うが、やはり40年で高齢とする理由は書かれていない。そもそも改正原子炉等規制法の「原則40年」が政治の産物とされ、科学的根拠はない。欧米には実際、40年以上現役の原子炉がいくつもある。

事実に基づかず、不安や不満を煽るだけの報道は、社会を混乱させ、人々を不幸にする。その悪影響は、長期間にわたる。

産経28日「『従軍慰安婦』表現は不適当、『強制連行』も、政府答弁書決定」は、隣国の反日を助長した朝日記事に関連する。

「答弁書では、1993年の河野洋平官房長官談話で用いられた『いわゆる従軍慰安婦』との表現に関し、朝日新聞が虚偽の強制連行証言に基づく報道を取り消した経緯を指摘し『「従軍慰安婦」という用語を用いることは誤解を招く』と明記した」

文部科学省の教科書検定では「従軍慰安婦」との表現を使ったものが合格している。隣国の反日の主力材料でもある。報道が生んだ不毛の軋轢と言えよう。

残念ながら、当の朝日は、この件を全く報じていない。

いかわ・ようじろう  デジタルハリウッド大学大学院修了。元読売新聞論説委員。

石炭火力を40年までに全廃? ゼロエミ型への置き換え目標年に


【オピニオン】北村雅良/一般財団法人 石炭フロンティア機構会長

「世界の平均気温上昇を産業革命前に比べ1.5℃以内に抑えなければならないのは科学面から異論の余地がない。そのためには2050年までに温暖化ガス排出を実質ゼロにしなければならない。(中略)石炭火力発電からの段階的な撤退は、世界の平均気温上昇を1.5℃以内に収める目標の達成に向けた最も重要な一歩だ。化石燃料の中でも特に環境負荷が大きく、大気汚染につながる石炭を発電から締め出すためにすぐ行動すれば、気候変動リスクと十分に戦える可能性が見えてくる。(中略)そのために先進国は30年までに、ほかの国は40年までに石炭火力発電から撤退する必要がある。石炭火力発電所の新設を正当化できる場所はない。(後略)」。これは環境NGOや気候NPOの言葉ではない。国連事務総長のグテレス氏が「気候変動サミット」を前に日経新聞に寄稿したものだ。氏はなぜかここ数年、気候変動対策を阻害する諸悪の根源は石炭火力だと言わんばかりの物言いをしているが、「石炭火力」を「在来型の石炭火力」と言い換えれば、この寄稿はおおむね首肯し得る。

在来型の微粉炭火力は長年技術改良を重ねて、亜臨界圧から超臨界圧、超々臨界圧へと蒸気条件を高め、発電効率を高めてきた。すなわち、同じ量の電気を作り出すのに要する石炭の量を減らしてきた。この効率をさらに飛躍的に高めようと、石炭をガス化してガスタービンとHRSG(排熱回収ボイラー)による蒸気タービンを組み合わせた石炭ガス化複合発電(IGCC)が福島県で最近、商用発電を開始した。先進国たる日本が率先して行うべきことは、石炭利用を止めることではなく、在来型微粉炭火力をIGCCのような高効率システムに置き換え、資源的に石炭に依存せざるを得ない途上国にもその普及を支援していくことである。

IGCCでもまだCO2排出量は天然ガス火力よりも多いという声が聞こえてきそうだ。やはり石炭は駄目なのか。問題は、石炭利用に伴うCO2排出の多寡なのである。酸素吹き石炭ガス化のプロセスでガス化ガスからCO2を取り除いてしまえば、精製ガスはほとんど水素成分だけになり、燃焼後にCO2は出さない。ここまでは既に大崎クールジェンプロジェクトで技術実証されている。

残る課題は取り除いたCO2を再び大気放出せずに、地層に貯留したり、有用物質のカーボン源としてリサイクルすることであり、その商業的な成立を急ぐべきである。ガス化することは石炭を水素に変えて利用することにほかならない。クリーン燃料と期待される水素をいかに安く大量に作るのかという問いへの答えの一つにもなる。石炭ガス化プラスCCUS(CO2回収・利用・貯留)による水素と再エネ電気分解水素が、商用化に向け経済性を競い合うことは良いことだ。

40年は石炭火力全廃ではなく、既設サイトをゼロエミ型プラントに置き換えていくトランジション目標年と考えればよい。それが最も社会コストを抑えた石炭利用ゼロエミ化への道である。 

きたむら・まさよし 1972年東京大学経済学部卒、電源開発株式会社入社。2000年企画部長、09年代表取締役社長、16年代表取締役会長。15年に一般財団法人石炭エネルギーセンター会長に就き21年4月から現職。

石狩LNG基地でCNLNG受け入れ事業活動全体のCO2排出量10%削減


【北海道ガス】

北海道ガスは3月、石狩LNG基地でカーボンニュートラルLNGを受け入れた。

菅義偉首相の宣言によって加速する脱炭素化に対する施策の一つとして注目が集まる。

3月19日――。北海道ガスの石狩LNG基地に一隻の大型LNG船がサハリンから入港し注目を浴びた。CO2排出量が実質ゼロのカーボンニュートラル(CN)LNGを積んでいるためだ。

今回、北ガスはCO2クレジットでカーボンオフセットしたLNGを三井物産から購入。受け入れたLNGは約6.4万t、同社の年間取扱量の10%に相当する。

北ガスは従来、低炭素化に向けた取り組みを進めてきた。エコジョーズやガスマイホーム発電といった高効率ガス機器の促進やガス導管の拡充など、天然ガスの普及拡大を着実に推進。加えて、石狩LNG基地内の「北ガス石狩発電所」と同社本社ビル地下の「北ガス札幌発電所」の合計10万9200kWの電源を中心とした分散型を整備するとともに、道内の間伐材を用いた木質バイオマス発電や、太陽光発電など再生可能エネルギーの活用、地産地消のエネルギーモデル構築に向け道内自治体と連携した取り組み、さらにエネルギーマネジメントシステム(EMS)を活用した省エネ、など多岐にわたる。

そうした中、菅義偉首相が昨年10月、2050年CNを宣言した。これを受けて、日本ガス協会は昨年11月に「CNチャレンジ2050」を発表。脱炭素社会に向けて業界目標を掲げた。金田幸一郎・経営企画部長は「これまで進めてきた低炭素化の取り組みを、さらに加速させる施策の一つとして、CNLNGを導入しました。国や業界が掲げるCN目標達成にも貢献していきたい」と話す。

商社からクレジット購入 21万t分のCO2に相当

CNLNGは、天然ガスの採掘から液化、輸送、都市ガス製造、消費に至るまでの工程で発生するCO2を、クレジットでカーボンオフセットしたものだ。今回、北ガスが受け入れたLNGは21万t分のCO2に相当する。世界的に信用性の高い認証機関が森林育成や森林保全プロジェクトにおけるCO2排出削減効果をクレジットとして認証したものを、三井物産を通じて購入した。

② CNLNGの導入目的と活用

今回、北ガスではCNLNGを同社のガスや電気など、総合エネルギーサービス事業全般で活用する。これにより、北ガスの事業活動におけるCO2排出量全体の10%を削減する。「CNLNGを事業全体で使用することで、当社の低炭素社会構築に向けた取り組みを広くお客さまに知っていただくという側面もあります。脱炭素化への取り組みを一層加速できたらと考えています」。金田部長はそう説明する。

この動きに早速反応する需要家がいた。業務用の大型物件などでガスを利用する企業の総務やCSR担当者などだ。原料企画室の矢本令子主査は「CNLNGを『自社の脱炭素化への取り組みに利用できないか』といった問い合わせを多数いただきました」と反響を語る。

ただ、今回のCO2クレジットは国内の省エネ法や温対法などの報告義務が課されているCO2排出量の相殺にカウントされない。環境価値を正しく評価する制度への改善がなされることで、国内におけるCNLNGの利用拡大が見込まれる。

また、ガス協会の「CNチャレンジ2050」には30年5~20%削減という中間目標がある。今回のCNLNG導入は、その達成手段として有効なものだということも分かった。

カーボンニュートラルLNG6.4万tを積んだ「OB RIVER」

一方、CO2クレジットの調達には課題もある。脱炭素化への機運の高まりによって価格が高騰していく可能性がある。このことから、CO2クレジットの安定的な調達については、検討の余地がありそうだ。

北ガスでは、今後もCNLNGを調達するかは検討中という。「導入の効果をあらゆる点から検証しています。お客さまからのニーズはもちろんのこと、制度面でCNLNGの有効性が認められるかといった動向も注視しており、CO2クレジットへの知見を深めていきます。CNLNGをはじめ、さまざまな取り組みにより、北海道の持続可能なエネルギー社会の実現に寄与していきたい」(金田部長)と語る。

道内に多く賦存する再エネ 有効利用の取り組みを加速

脱炭素化に向けては、まず省エネや高効率機器の普及によって、CO2排出量を減らすことが不可欠だ。このため、北ガスでは、前述の低炭素化への取り組みと今回のCNLNG導入など新たな施策を組み合わせていく。

特に、積雪寒冷地における省エネと道内に多く賦存する再エネの活用は脱炭素化の大きな鍵を握ると北ガスではみている。既に展開中の独自開発の家庭用EMS(HEMS)に加え、今年度参入する住宅賃貸事業で家庭向けの省エネの知見を深めるとともに、太陽光や風力、地熱、水力といった資源の有効利用の取り組みを加速するため、自営線を利用したマイクログリッドの活用も検討していく方針だ。

脱炭素の二つの事業モデル 輸入型の課題と自給型への期待


【論点】ゼロエミ時代の事業モデル/紺野博靖 西村あさひ法律事務所弁護士

化石燃料の輸入依存がさまざまな課題を日本にもたらしてきたことは広く知られている。

脱炭素においても輸入依存となってしまうのか――。輸入型と自給型モデルを考察する。

日本の火力発電事業者(仮に甲社とする)がCO2排出量をゼロにしようとする場合、選択肢として次の七つのモデルがある。比較してみよう。

①ブルー水素輸入モデル=A国のX社が天然ガスの改質により生産した水素を輸入し、当該水素を燃焼して発電する。改質により発生したCO2はX社がA国の地下に貯留する。

②グリーン水素輸入モデル=A国のX社が再生可能エネルギー電力による水電解で生産した水素を輸入し、当該水素を燃焼して発電する。

③ガス発電・CO2海外貯留モデル=A国のX社が生産した天然ガス(LNG)を輸入し、当該天然ガスを燃焼して発電する。燃焼により発生したCO2はX社に引き取ってもらい、X社がA国の地下に貯留する。

④ガス発電・CO2国内貯留モデル=A国のX社が生産したLNGを輸入し、日本で当該天然ガスを燃焼して発電する。燃焼により発生したCO2は日本の地下に貯留する。

⑤ブルー水素国内生産・CO2海外貯留モデル=A国のX社が生産したLNGを輸入し、日本で当該天然ガスを改質して水素を生産し、当該水素で発電する。改質で発生したCO2はX社に引き取ってもらい、X社がA国の地下に貯留する。

⑥ブルー水素国内生産・CO2国内貯留モデル=A国のX社が生産したLNGを輸入し、日本で当該天然ガスを改質して水素を生産し、当該水素で発電する。改質により発生したCO2は日本の地下に貯留する。

⑦国産グリーン水素購入モデル=国内で再エネ電力による水電解で水素生産する事業者から水素を購入し、当該水素で発電する。

脱炭素に二つの手法 輸入型と自給型

いずれも、甲社は発電によるCO2排出量ゼロを達成する(CO2排出量相当のカーボンクレジットを購入してカーボンニュートラルを達成することも考えられるがここでは割愛する)。

このうち、①ブルー水素輸入モデル、②グリーン水素輸入モデル、③ガス発電・CO2海外貯留モデル、および⑤ブルー水素国内生産・CO2海外貯留モデルは、いずれも脱炭素機能(改質設備、水素加工設備、CO2地下貯留設備、再エネ発電設備、水電解設備)を海外に依存するので、「脱炭素輸入型」と呼ぶ。

他方、④ガス発電・CO2国内貯留モデル、⑥ブルー水素国内生産・CO2国内貯留モデル、および⑦国産グリーン水素購入モデルは、脱炭素機能が国内で完結するので、「脱炭素自給型」と呼ぶ。

輸入型の六つの課題 自給型の優先的導入を

脱炭素輸入型の場合、日本は「脱炭素消費国」にとどまる。他方、脱炭素自給型の場合、日本は脱炭素消費国と同時に、「脱炭素生産国」となる。

脱炭素輸入型については次の課題が指摘できる。

1.脱炭素輸出国(A国)の消費者ではなく、日本の消費者の電力料負担でA国の脱炭素機能の開発費を賄うことになる。脱炭素自給型であれば、日本の消費者の負担は日本の脱炭素機能の開発を賄う。また、脱炭素機能の経済波及効果(雇用、資材調達など)も日本国内に生まれる。

2.国内のCO2貯留ポテンシャルが「宝の持ち腐れ」となるリスクがある。例えば、水素輸入モデルを先行的に導入し、水素受け入れ基地、水素発電所がひとたび設置された後、LNGの受け入れやガス火力に戻れない。

国内にCO2貯留ポテンシャルが残っていたとしても、④ガス発電・CO2国内貯留モデルおよび⑥ブルー水素国内生産・CO2国内貯留モデルの導入は不要となる。

世界最大級の水素製造施設「FH2R」(福島県浪江町)

3.輸出国(A国)や後発輸入国(アジア諸国など)にフリーライドされる懸念がある。脱炭素輸入型の場合、日本の消費者の電力料負担でA国に脱炭素機能が開発される。日本の公的支援がなされた場合には、国民の税負担も寄与する。「A国の脱炭素機能は日本国民の負担で完成した」ともいえる。A国や後発輸入国(アジア諸国など)はそのような負担をすることなく、A国に完成した脱炭素機能を利用できる。それは日本とA国や後発輸入国との電力コスト負担の差となり、日本の製造業の競争力低下につながる恐れがある。

4.「脱炭素ナショナリズム」により、脱炭素機能の輸入価格が上昇し、貿易赤字、電力コスト上昇、製造業の競争力低下につながる恐れがある。CO2排出量削減に関する国際的なルールが強制力あるものへと進むほど、自国の脱炭素化を他国よりも優先させようとする脱炭素ナショナリズムが台頭する可能性がある。その台頭が脱炭素機能の輸入価格を押し上げることが懸念される。

5.脱炭素機能の現場が海外になるため、日本企業の脱炭素技術の研究開発現場が十分確保できなくなる。現場が日本にあれば、競争力ある技術革新が日本企業により生み出される可能性が広がるが、それがかなわない。

6.改質代やCO2貯留代も合わせた価格になり、市場価格が反映されない恐れがある。LNG市場や日本電力市場の発展で、ガス(LNG)や国内電力について需給バランスで決まる市場価格が形成されつつある。カーボンプライシングの議論も進んでいる。脱炭素輸入型の輸入価格がこれらを適正に反映するか不透明である。反映されない場合、発電事業者が市場リスクの負担を強いられる。

経済と環境の好循環を果たしつつ、カーボンニュートラルを達成する上で、脱炭素自給型を優先的に導入することが合理的ではないだろうか。

こんの・ひろやす 1997年早稲田大学法学部卒。2006年コーネル大学ロースクール卒。
西村あさひ法律事務所パートナー、弁護士、ニューヨーク州弁護士。

石油導管網にサイバー攻撃 運用停止でガソリン不足に


5月7日に起きた米石油パイプラインへのサイバー攻撃に「わが社は大丈夫か」と、肝を冷やした経営者は多いだろう。

米東海岸とテキサス州を結ぶパイプラインを運営する、コロニアルパイプライン社への身代金型ウイルス(ランサムウェア)によるサイバー攻撃により、東海岸への石油流通は約1週間にわたり停止した。米CNNによると、同社導管は国内の石油需要の45%を扱う大動脈。影響で首都ワシントンにあるガソリンスタンドの81%でガソリン不足が発生したという。

今やエネルギーインフラへのサイバー攻撃は、世界中で当たり前のように行われている。過去にはウクライナやイランの発電所や送電所が被害を受け、昨年10月にインド・ムンバイの送電網が攻撃対象となり大停電が発生。鉄道や株式市場が停止する事態に陥った。

今冬にはアメリカ、日本で電力需給ひっ迫が発生したのは記憶に新しく、こうした非常事態時とサイバー攻撃が重なる最悪の事態が起きる可能性もゼロではない。その場合、日本経済に深刻な被害が及ぶのは確実。官民ともに防護体制を見直す必要がありそうだ。

電力販売カルテル被疑事件 自由化の進展と新たなリスク


【識者の視点】松田世理奈阿部・井窪・片山法律事務所パートナー弁護士

大手電力を含む4社への公取委立ち入りは、業界の枠を超えて社会に対して大きな衝撃を与えた。

今後の展開を踏まえ、事業者には激化する競争に対する新たな備えが必要となる。

報道各社は4月13日、「中部電・関電に公取委立ち入り」「大手電力カルテルの疑い」などと大々的に報道した。

公正取引委員会が、電力販売に関するカルテル(不当な取引制限)の疑いで、中部電力、中部電力ミライズ、関西電力、中国電力の計4社に立入検査を行ったというのだ。また、公取委は同日に、中部電力、中部電力ミライズ、東邦ガスの計3社について、別の被疑事実により立ち入ったとも報じられている。

報道によれば、中部電力、中部電力ミライズ、関西電力、中国電力の4社は2018年ごろから、中部、関西、中国の各エリアの「特別高圧と高圧の電力販売」に関し、顧客獲得競争を制限するようなカルテルを結んでいた疑いがある。

また、中部電力、中部電力ミライズ、東邦ガスの3社は、同じく18年ごろから、中部エリアの「商店や家庭向けの低圧電力や都市ガスの料金」について、値下げ競争をせずに価格を維持することを目的としたカルテルを結んでいた疑いがある。

いずれも、独占禁止法で禁じられているカルテルが結ばれていた疑いがあるという点で共通している。

カルテルとは、競争事業者同士が市場の独占を目的として、販売価格や販売地域などに関して、互いに競争を制限するような示し合わせを行っていたことをいう。そのような行為があった場合には、独禁法違反として、事業者に対し行政処分などが下されることになる。

当事者申告で発覚か 結果次第で多額の課徴金

どうしてこのタイミングで今回の事件の調査が行われることになったのか。

公取委は、事件調査の具体的な内容に関して、正式な行政処分を下すまで一切対外的に発表しない。また、事件調査の端緒については、正式な行政処分を下した後でも公表せず、秘密を保持している。そのため、今回の事件について、公取委が立入検査を行った契機や、その判断材料が何であったのかという点については、正確なところは不明である。

他方で、一般論として、カルテルのように通常は当事者同士にしか知られない行為については、リニエンシー、つまり当事者による自主的な公取委への申告により発覚することが多い。今回の事件についても、関係者によるリニエンシーにより発覚したのではないかとみる向きが多い。

なお、事業者が立入検査などの正式調査が始まる前に最も早くリニエンシーを行うと、その事業者は公取委の行政処分を免れることができる。

今後は、公取委による関係者の取調べなど、事件の調査が当面続くことになる。調査期間は、最近の例を平均すると1年半程度になると思われるが、事案の複雑さや事業者の協力度合いによって前後し、1年程度で終わる場合や、2年近くかかる場合もある。

調査の結果、公取委がカルテルの事実を認定すれば、事業者に対し「排除措置命令」と「課徴金納付命令」という2種類の行政処分が下される。カルテルの場合に課される課徴金は、基本的に違反行為の対象となった取引の売上額の10%となる。しかし、事業者が違反行為を認めて申告し、公取委の調査に協力することで減算されることがある。

仮に報道された疑いが事実であると認められ課徴金納付命令が下されるとすれば、特に販売金額の高い「特別高圧および高圧の電力販売」が対象となっている事件について、その課徴金が多額に上ることが予想される。

KDDIと5G共同検証を開始 業務効率化とレジリエンス強化へ


【中部電力】

2020年3月に運用が開始され、利用エリアが拡大する第5世代移動通信システム(5G)。昨今は対応モバイル端末やIoT機器が続々と登場し注目を集める。

本格的5G社会の到来に先駆け、中部電力はKDDIと共同で、5Gを活用した遠隔監視などの共同検証を20年10月1日から21年1月21日まで行った。

常に安定した供給が求められる電力業界において、「現場業務のさらなる安全確保や効率化」「災害発生時の迅速な設備復旧」などは常々課題となっている。中部電力パワーグリッドでは改善施策の一つとして、変電所の現場業務について、ロボットによる遠隔監視・診断などの開発に取り組んできた。その中で、従来の無線による遠隔操作ではリアルタイムでの操作が難しいという課題が挙がっており、大量かつ低遅延な情報伝送が求められていた。

「高速・大容量」「低遅延」「多接続」といった特性を持つ5Gにかかる期待は大きく、業界に先駆けて今回の検証が行われた。

巡視ロボットを遠隔操作 データの送受信を確認

今回の検証では、中部電力パワーグリッド大高変電所と中部電力技術開発本部先端技術応用研究所の2拠点に5G環境が構築された。変電所の実環境における通信性能の検証を行うとともに、①遠隔からの巡視ロボット運転操作、②高精細カメラやスマートグラス(SG)による遠隔監視と作業支援、③マルチアクセスエッジコンピューティング(MEC)活用によるAI分析―など、実運用を見据えた検証が実施された。

5Gを活用した検証のイメージ

①では、中部電力と三菱電機で共同開発中の巡視ロボットが投入され、5Gを活用した遠隔運転操作とその検証が行われた。ロボットアームを操作することにより視点の移動が可能であり、リアルタイム性が上がることで、より人に近い巡視が可能となる。

②では、現場作業者が装着したSGの視界を、遠隔にいる作業指示者と高精細映像で共有するとともに、作業指示をSGの画面上へ同時並行して表示させた。これにより、リアルタイム性が要求される遠隔からの作業支援の有用性が検証された。

③では、通信端末に近い場所にサーバーを配置することで通信の遅延時間を短縮させる技術であるMECを活用した、ストリーム映像のAI分析が行われた。

今回の検証を通して、5G環境により高精細映像や画像などのデータが安定的に送受信できることが確認された。検証場所では、検証終了後の2月以降も追加的なデータ取得などを継続している。今後も両社は5Gを活用し、現場業務の効率化とレジリエンス強化に向けた取り組みを推進していく構えだ。