【都市ガス】ウクライナ情勢 対岸の火事にあらず

【業界スクランブル/都市ガス】

 ロシアによるウクライナ侵攻の脅威が高まる中、天然ガスのロシア依存度が40%台と高い欧州では、冬場の需要ピーク期を迎え、エネルギー危機に直面している。仮にロシアがウクライナに侵攻すれば、米欧は強力な対ロ経済制裁に踏み切る方針だ。そうなると、ロシアは対抗措置として、天然ガスの欧州向け供給を縮小ないし停止する可能性がある。

実は、今までロシアは紛争などでガスパイプラインを破壊したり、供給を止めたりしたことはない。1990年代のチェチェン紛争でもガスパイプラインを破壊せずガス供給も止めなかったし、2005年の料金不払いによるウクライナへのガス供給停止時にも、その先の欧州分のガスは供給し続けていた。ロシアは外貨獲得の約6割を石油・天然ガス輸出に頼っており、エネルギー供給の信頼を失うことが、ロシア経済に膨大な損害を与えることをよく分かっている。そのルールを破るとなれば、今回は相当深刻な状況に陥っている証拠であろう。

ウクライナの状況は日本にとって決して対岸の火事ではない。日本政府はバイデン政権の要請を受け、日本が輸入するLNGの一部を欧州に融通する検討に入ったとの報道があった。昨冬には国内のLNG在庫量が一時的に低下して火力発電所がフル稼働できず、電力市場価格を高騰させた。今冬も決して余裕があるわけではなく、慎重な対応が必要だ。また、最近のアジア市場のスポットLNG価格(JKM)は欧州天然ガス市場価格(TTF)にリンクしている。従って、今後昨年以上の価格高騰さらには調達困難な状況に陥る恐れがある。また、仮に米欧の対ロ経済制裁とロシアによる報復措置に日本が巻き込まれた場合、全輸入量の1割を占めるロシア産LNGを一時的に輸入できなくなる可能性もゼロではない。

半世紀にわたり、われわれは地政学的なリスクを回避し安定したLNG輸入を実現してきたが、今回はこれまで経験したことのない深刻な影響を受ける可能性があり、注意すべき段階にある。(G)

電気運搬船で再エネのコスト削減 脱炭素と料金低減の両立に貢献

【エネルギービジネスのリーダー達】伊藤正裕/パワーエックス代表取締役社長

ZOZOのテクノロジーイノベーションを率いてきた伊藤正裕社長が電力業界に飛び込んだ。

「電気運搬船」をはじめとする蓄電システムで、電力ビジネスに変革を起こそうとしている。

いとう・まさひろ 2000年、17歳で電子雑誌ストア運営を手掛けるヤッパ(現ZOZO NEXT)を起業。ZOZO取締役COOなどを経て21年3月にパワーエックスを設立。

 需要地から離れた場所で発電した電気を送電線を経由せず、電池にためて船で海上輸送する――。従来の常識では考えられないようなアイデアを具現化し、再生可能エネルギーの導入拡大と電力コストの低減に貢献するべく、昨年3月に誕生したのが、エネルギーベンチャーのパワーエックスだ。

着想は病院船から 遠隔の電気を安価に調達

同社を率いるのは、若干17歳でITベンチャーを起業するという異色の経歴を持つ伊藤正裕社長。昨年6月までは、ファッション通販サイト「ZOZOTOWN」を運営するZOZOでグループのイノベーションとテクノロジーをけん引してきた。

「テクノロジーは問題解決のために存在する」と言い切り、ZOZOでは、3D計測用のボディースーツ「ゾゾスーツ(ZOZOSUIT)」や、肌色計測ツールの「ゾゾグラス(ZOZOGLASS)」など、洋服や化粧品をインターネット購入する際の障害を取り除くサービスを世に出す立役者だった。

Eコマースの世界で順調にキャリアを築きながら、なぜ畑違いの電力業界に転身し、しかも巨額の設備投資が求められるビジネスを立ち上げようと思い立ったのだろうか。根底にあったのは、「これからの20年間で、イノベーションによって社会課題を解決し、長く残る仕事に取り組んでいきたい」という思いだという。

「電気運搬船」の着想は、共同創業者である鍵本忠尚会長が「病院船」の実現に注力していたこともあり、その平時運用について議論していた際に得た。そして、電気を船で運ぶことで、陸地から離れた海域で建設される浮体式洋上風力発電所の建設コストを低減し、さらなる導入拡大に貢献できるのではないかと考えた。

実現すれば、海底に送電線を敷設しなくても、離島の未利用の電気を需要地で消費したり、国境を越えて電気を運搬したりと、安い電気を調達するための選択肢が広がる。さらには、小型原発を沖に浮かべ、より安全な原子力活用にも活路が開ける。

既に、今治造船と共同で、電気運搬船のプロトタイプ「Power ARK」の開発に着手しており、2025年末までの完成を予定している。この船は、船舶用蓄電池を100個搭載することで、一度に約22万kW時の電気を運搬できる。

建造費は1隻30億円程度で、系統設備を設置する必要がないため、運営費を考慮しても海底送電線を敷設するよりも低コストに抑えられる。「浮体式風力の入札が28年ごろと聞いている。25年に船が完成していれば、電気運搬船が洋上風力のコスト低減に寄与することを実際に社会に示すことができる」と自信をのぞかせる。

また、船に搭載する大型蓄電池の開発も同社の重要なビジネスの一つ。今年中に蓄電池工場の建設に乗り出し、プロトタイプを作成する。23年に試験生産、24年には本格生産に入る計画だ。

同社が手掛けるのは、船舶用のみならず、電気自動車(EV)の急速充電用電池、定置用電池などの製造、販売。セルを内製せず、外部から大量購入し自社のモジュールにパックし、製品化する。生産工程の8割は全製品共通で、経年化しても二次、三次利用が可能であるため、導入コストを相当程度低減できることが、既存メーカーにはない強みだ。

蓄電池をAIで制御 ソフトウエアは外販も

蓄電池を最大限に活用し、ピークカットやVPP(仮想発電所)として機能させるためには、何を電源にいつどれだけ充電するか、どれだけのスピードでどの設備に対して放電するかなど、適切な管理運用が求められる。

そこで、販売する蓄電池をクラウド上で制御するためのソフトウエアも開発中。クラウド契約をしてもらうことで、ピークカットやVPPなど、ニーズに合わせた制御をAIが自動で行う。このソフトウエアは、自社製品に標準搭載するのはもちろん、他社の蓄電池に向けても販売していく予定で、蓄電池制御のプラットフォームの役割を果たしていく考えだ。

ZOZOを離れパワーエックスとしての仕事に本格的に乗り出した昨年7月以降、伊藤社長は、今後の計画を着実に実行していくための準備を急ピッチで進めてきた。電気運搬船や電池工場を作ると言っても、最初は怪訝な顔をする人がほとんどだった。だが、徐々に理解者を増やし、巨額の設備投資に向けた資金調達にめどを付けることもできた。

「このまま国民が負担する電気料金が膨れ上がれば、国内産業は疲弊してしまうことは目に見えている。この社会課題にきちんと向き合い、イノベーションによって解決することで日本の国際競争力向上に貢献することが、今後20年をかけてこのビジネスをやり切ろうというモチベーションだ」と力強く語る伊藤社長。〝異色〟の社長が、電力業界に変革の旋風を巻き起こすことに期待が高まる。

【新電力】英価格高騰の代償 巨額の国民負担

【業界スクランブル/新電力】

 既に本稿では何度か説明しているが、昨年9月以降、英国では29社の小売りエネルギー事業者が経営破綻に追い込まれた。うち1社は特別公的管理下で事業継続しているものの、28社は事業撤退に追い込まれ、3000万世帯のうち450万世帯が影響を受けた。

英国ではエネルギー供給の最終保障を小売り事業者が担う仕組みになっているが、最終保障に要する需要家負担の費用は18億ポンドに上るとみられている。

特別公的管理となったBulb向けの政府特別融資は30億ポンド、2月上旬に公表された電気料金一時割引などの政府財政出動による需要家支援措置は91億ポンドとなり、エネルギーコスト上昇の影響は総額139億ポンド(2兆1682億円)にも上る。費用の一部はエネルギー料金を通じて回収することになるが、多くは国民負担となる。このような巨額の国民負担を強いる状況を生み出した原因は、競争促進にのみ注力し、新規参入者の財務チェックや国家のエネルギーセキュリティーを軽視するOfgemの方針にある。

事実、Ofgemは2月8日に開催された庶民院BEIS委員会において、競争促進政策を優先した結果、新規参入者の財務チェックを怠っていたことを認めている。英国ではこれら足元のエネルギー価格高騰を踏まえ、急きょ2022~23年向けの容量市場1年前オークションの募集容量を増やした。これにより、募集容量が応札容量を超過するものと見られ、上限価格での約定が見込まれている。

さて、これらの事象からいえることは、燃料制約による市場価格高騰や容量市場の上限価格約定といった日本でこれまで発生してきた多くの事象は、欧米でも1~2年遅れで発生しており、日本が特別ではないということだ。日本は再生可能エネルギーの課題、短期限界費用に基づいた市場の課題、天然ガスの課題が早期に発生している課題先進国であり、諸外国に先駆けて、制度的な手当を講じていく必要がある。最も影響を受けるのは小売り事業者である。小売り事業者も今後、リスク管理体制の強化が必要になるだろう。(M)

電力調達に見る「現代版イソップ物語」 なぜ今、リスクヘッジが求められるのか

【論点】電力先物取引の必要性/土方 薫 東北電力エナジートレーディング社長

昨年の電力市場価格高騰を機に、小売り事業者のリスクヘッジの在り方が問われている。

先物、先渡市場活用が求められるが、「敷居が高い」と感じる事業者も多い。

イソップ物語のアリとキリギリスの話は、誰でも知っている有名な逸話だ。実はこの話が、今の日本の電力取引市場の現状をとても良く反映している。電力市場に置き換えて書き直すと、恐らくこのようなことが起きている。

『ある夏のこと、キリギリスはバイオリンを弾き、のんびりと暮らしていました。その一方で、アリは来る冬のために、電力をせっせと調達していました。キリギリスは「電力をわざわざ今買わなくても、市場にたくさんあるじゃないか」と話しかけると、アリは「今はたくさんあるけど、何かあったらすぐになくなってしまうよ」と答えました。しかしキリギリスは「まだまだ安いし、このまま過ごせばもうかるのに」とアリをからかっていました、秋になり燃料価格が上昇しはじめていても、キリギリスは遊んで暮らしていました。

そして、冬がやってきました。キリギリスは電力を調達しようとするものの、周りには何もありません。調達不足が続いて困り果てたキリギリスは、アリが電力をたくさん調達していたことを思い出し、分けてもらおうとアリの家を訪ねました。キリギリスは、夏の間に働いていたアリをからかってしまったことを思い出し、電力を分けてもらえないのではと思っていましたが、アリは「お分けしましょう。ですけど〝市場価格〟ですよ」と言いました。

キリギリスは不足のままのわけにはいかず、高いお金を払って電力を分けてもらいました。これに懲りたキリギリスは、次の年の夏からは、真面目に電力調達するようになったそうです』

将来の取引価格を確定 事業の不確実性に備え

もう何を言いたいか、お分かりだろう。今の電力市場に必要なのは、将来の不確実性に対する「備え」だ。実際のところ、将来の電力価格がどうなるか知るすべはなく、なかなか「備え」ることはできない。人はどうしても、現在の延長線上に将来を描いてしまう。

しかし、「今」が永遠に続いたことは歴史上なく必ず大きな変化がやってくる。これが個人的な資産運用などであれば、損害を被るのは本人なので問題ないが、電力となると話は違う。現代社会にとって、電力は一時も供給が滞ってはならない大切な資産だからだ。

これまでの日本の電力市場と言えば、日本卸電力取引所(JEPX)というスポット市場が中心だった。しかしここでは、その時々の市場価格でしか電力を調達することができず、将来の不確実性に対しての「備え」にならない。そこで先物市場、あるいは先渡市場が必要になる。

先物(先渡)取引をすることで、将来の価格を今の時点で決めることができる。つまり将来に何が起こっても、契約した時期になれば契約した価格で電力を取引でき、将来の価格変動に対する損失を排除できる。両者の違いは、先渡しは電力の現物を受払いする取引、一方、現物を伴わず引き渡し時点のスポット価格と取引した先物価格の差をやりとりするのが先物取引だ。

例えば、8月渡しの先渡ベース取引は、8月1~31日の毎日24時間にわたって受払いする電力の現物を取引する。先物取引は、8月1~31日のJEPXスポット価格と先物価格の差分を決済する。その時、スポット価格が先物価格よりも高ければ、電力先物の買い手は売り手から差額を受領し、その利益をスポット調達した際にかかるコスト増の補填に充てることで、実質、先物価格で電力を調達したことになる。肝心なのは、将来の価格変動に対するリスクヘッジという点で、どちらも同等の経済効果を得られるということだ。

先物忌避は過渡期現象 いずれ活用は不可避に

ところで、こういった有効なツールがあるにもかかわらず、なかなか普及が進んでいないという話をよく耳にする。その理由は何か。まず考えられるのは、電力事業が長い間、規制下にあったために、ヘッジに対するマインドが醸成されていないことがある。旧一般電気事業者にとっては、総括原価に加え、燃料費調整制度などもあり、将来の価格変動リスクがカバーされていたことも影響している。

二つ目は、先物価格と実際の販売価格に乖離があり、ヘッジ取引をした途端に赤字が確定してしまうことだ。今赤字を確定してしまうより、この先ひょっとしたら市場価格が安くなる可能性だってある―という考え方もあるだろう。

私は、いずれも一時的な現象だと考えている。電力の市場化が拡大し、総括原価の世界だけでは事業が成立しないことは既に自明のことだ。販売価格と市場価格の乖離も、やがて時間が解決する。

歴史をひもとけば、1985年のプラザ合意により、日本経済は急激な円高に見舞われ、多くの輸出企業が苦しんだ。その水準で為替予約(為替の先物取引)をすれば赤字は確定、事業撤退にもつながる状況だった。しかしその後も、為替レートは戻ることなく現在に至る。その間、輸出企業は並々ならぬ企業努力で、現実の為替レートに追従できる企業体力を作り出した。これが現実のビジネスの世界なのだ。

最後に、冒頭のイソップ物語には、ほかの結末があるといわれている。その一つが、キリギリスが食料を分けてくれとアリのすみかを訪れた時に、「夏遊んでいたのだからあげられない」と言って追い返されるもの。キリギリスはその場で凍死してしまう。二つ目が、キリギリスがアリに「もう歌うべき歌がない、君たちは僕の亡きがらを食べればいいよ」と自虐的になるもの。

どちらの結末をも迎えることがないよう、電力事業者はリスクマネジメントにしっかりと取り組むべきだろう。

ひじかた・かおる Enron、住友商事などを経て2014年東北電力入社。17年に東北電力エナジートレーディング社長に就任。現在、東北電力上席執行役員。

原子力巡る著名ジャーナリストの誤解

【ワールドワイド/コラム】水上裕康 ヒロ・ミズカミ代表

少し前になるが、フィナンシャルタイムズのコメンテーターで、かつて米国版編集長を務めたジリアン・テットが「私が原子力に関し誤解していた事」と題して同紙に記事を載せた。記事ではCOP26の期間に行ったIAEAのグロッシ事務局長への公開インタビューが描かれる。グロッシが「福島では放射線被ばくで死んだ人はいない」(正確には労災認定された作業員が一人)と言うと、場内は大笑いに包まれた。グロッシは「何千人もの死亡は津波と避難のストレスによる」と続ける。彼女は、なおも訝る聴衆と同じ認識だったことを吐露している。

彼女ほどの言論人にしてその程度の認識だったことには少なからぬ衝撃を受けた。福島の事故後の世界的な脱原子力の動きは、こうした誤解も根底にあったかもしれない、それを私たちは「欧米では」と逆輸入してきたのだが。事故を軽んじるようなことは決してあってはならないが、最近の「多くの子どもたちが甲状腺がんに苦しんでいる」も含め、ときおり飛躍した言論が流布するのはどうしたものか。

リスクへの懸念は、多少裏付けが甘くとも最悪の事態を前提にするものだ。その議論は人びとの不安や正義感によって高揚しがちである。メディアは、倫理的にも商業的にもリスク側に立った報道をするものであろう。こうして「懸念」が膨らむのは民主的な議論の中で起こり得ることだが、残念なことに「懸念」が軽々しく「断定」として使われることも往々にして見られた光景ではないか。

今年も3.11がやってくる。私たちは、あの重大な事故を繰り返さないためにも、被災地の確かな復興のためにも、さまざまな意見を尊重し、倦まず弛まず議論を続けていかねばならない。いま一度、将来に向かって丁寧に事実に向き合っていきたい。

【電力】中立を装った主張? 事業者に不利益も

【業界スクランブル/電力】

 Choose Life Project(CLP)というネットメディアがSNSを中心に炎上している。「自由で公正な社会のために」公共のメディアを目指すとしながら、特定政党(立憲民主党)から資金を受けていたことが発覚したためだ。CLPという名前は筆者には初耳で、メジャーなメディアではないと思うが、番組に出演していたリベラル系の論者数人が内情を暴露して抗議するという特異な経緯も目を引いたようだ。

一般的には、公共の財産である電波を特権的に利用するテレビを除き、報道メディアが党派性を持つことは否定されるものではない。政党からの資金提供を隠しつつ、中立をことさら標ぼうするのは褒められたものではないが、CLPのコンテンツの党派性は一見して明白、視聴者が惑うような実害はほとんどないだろう。では、リベラル系論者たちはなぜわざわざ内情を暴露してCLPに抗議したのか。自分たちが中立だというセルフイメージが傷つくと思ったからか。しかし、客観的に見て彼らの党派性も明らかだし、党派性があろうがなかろうが、質の高い言論で勝負すればよいはずだ。一見中立そうなイメージを装ってポジショントークをしている自覚があるということか。

これはわが業界でも思い当たる。企業関係者が特任教授などに任用され、大学などで研究者として活動し、その肩書で意見発信をすることがある。質の高い言論であれば結構であるが、中立そうなイメージを装うために肩書が用いられるのであれば、任用した大学や派遣した企業の見識が問われよう。

先日、公表された洋上風力事業公募の結果についてある大学特任教授による論考を読んだ。自ら関係者である某社を含む3社の名前を挙げ、これらが落札した三菱商事グループよりも評価されるべきとの論旨であった。落札手続きが不満だ、自社の方が落札者にふさわしいとの主張なら、当事者としての立ち位置を前面に出して行うべきだろう。主張内容の是非以前に、中立を装ったポジショントークに見えてしまうのでは、某社にとっても損なのではないか。(U)

CO2削減の目標達成に暗雲 与党議員が対策法案に難色

【ワールドワイド/環境】

温暖化問題を重視するバイデン政権は2021年4月の気候サミットの際、オバマ政権時の25年26~28%減(05年比)を30年50~52%減に大幅に引き上げた。

しかし米国の50~52%目標の裏付けとなる施策は導入できていない。21年3月に発表された5年間2・2兆ドルの大規模インフラ計画は共和党との超党派法案とするため、5年間1兆ドルに大幅に圧縮され、気候変動対策の多くは削除された。これに不満な上院民主党は社会保障、気候変動対策などを盛り込んだ10年間3・5兆ドルの予算決議を50対49で採択した。財源は富裕者向け増税および法人税増税であり、決議には電力部門の脱炭素化を目指すクリーン電力パフォーマンス給付(CEPP)や炭素汚染者輸入課金(Carbon Polluter Import Fee)が盛り込まれている。

 民主党はフィリバスターの対象とならない財政調整措置を企図してBBB法案(Building Back Better法案)策定作業に入ったが、中道・穏健派であり、法案成否の鍵を握るマンチン上院エネルギー天然資源委員長(ウェストバージニア州)が巨額財政支出に伴うインフレ懸念や石炭産業への影響などを理由に法案に難色を示してきた。バイデン政権は予算規模を1・75兆ドルに縮小し、富裕層課税、CEPPも取り下げた。総額は縮小したとはいえ、気候変動関連支出は再生可能エネルギー、電気自動車への補助金など、5500億ドルに上る。下院は11月に1・75兆ドルのBBB法案を可決した。

 バイデン政権は総額の縮小でマンチン上院議員の支持を取り付けられると見込んでいたが、12月に入り、マンチン上院議員は巨額な財政支出がインフレや政府債務にもたらす影響への懸念、停電リスクの増大や外国のサプライチェーンへの依存度上昇などを理由に、BBB法案にノーを突き付けた。

 民主党左派のサンダース上院議員らはマンチン上院議員の反旗に強く反発しているが、バイデン大統領周辺では「マンチン議員に受け入れ可能な案を作ってもらおう。規模がさらに縮小し、法案名が変わってもゼロよりはましだ」との議論が浮上している。温暖化対策予算が不成立となれば、米国の50~52%目標の達成は不可能となる。秋の中間選挙を控え、支持率低下に悩むバイデン政権としては少しでも得点を稼ぎたいところであるだけに必死であろう。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院特任教授)

陸上風力の目標引き上げ 「緑の党」大臣が危機感

【ワールドワイド/経営】

ドイツで昨年末発足した3党連立政権では、エネルギー・環境政策で先鋭的な主張を持つ緑の党所属の連邦経済・気候保護大臣の動きが注目される。主義主張の異なる3党の連立協定書には、石炭火力の全廃時期を従来の2038年から「理想的には30年に前倒しにする」などの妥協点が随所に見られるが、共通の重要課題として認識されるのは気候保護政策の強化だ。

 協定書は今年末の原子力全廃目標は堅持する一方で、30年の再エネシェアを80%に引き上げ、太陽光導入目標を100GW(1GW=100万kW)から200GWに倍増、洋上風力についても20‌GWから30‌GWに増やすといった野心的目標を掲げたほか、各省庁の法案を気候問題とすり合わせる『気候チェック』の実施もうたっている。

 では、陸上風力についてはどうか。21年の電力統計暫定値では風量の減少や電力需要の増加により再エネシェアは前年の46%から42%に低下した。特に陸上風力は前年より1割以上少ない920億kW時にとどまった。かたや、エネルギー部門のCO2排出量は前年より1割以上増加したのだ。1月初旬、ハーベック経済・気候保護大臣は温室効果ガス削減ペースが鈍いことに危機感をあらわにし、近年太陽光は年400~500万kW新設されているのに、陸上風力は過去10年で最低の100万kWにとどまっていると指摘、23年1月に再エネ法を改正して30年の陸上風力導入目標を71‌GWから100GWに引き上げると宣言した。

 連邦政府の矛先は地方に向かっている。協定書では国土の2%を陸上風力発電設備用地に指定することも掲げられていたが、現時点では実現可能性は低い。現状この目標に到達可能とされているのは2州のみであり、全国での利用率は0・5%程度にとどまる。ドイツでは風力発電設備と住宅地の最低離隔距離を1㎞とする原則があるが、各州政府は独自により厳しい規制を設けることができる。

 バイエルン州は風力発電設備の高さの最低10倍以上の離隔を規定している。ハーベック大臣は新たな陸上風力法の制定も視野に入れて、現在禁止されている軍用地での建設解禁に加え、州政府・住民との対話によって導入の迅速化を図ると述べ、地方行脚で各州を説得する構えだ。与党社民党幹部からも、「連邦・州・地方自治体が一丸とならなければ再エネ比率は上げられない。州間の競争を促す必要がある」との声が出ている。

 エネルギーを巡る内外情勢が激しく変転する中、ハーベック大臣の手腕が試されている。

(藤原茉里加/海外電力調査会調査第一部)

住宅購入者へ太陽光設備導入を支援 初期費用など相当額をサポート

【中部電力ミライズ】

 近年、環境への配慮や電気料金の節約、災害発生時の対策として新築住宅購入を検討する人から、太陽光設備や蓄電池の設置を望む声が高まっている。しかし設置にかかる初期費用がネックとなり、導入を諦める購入者も少なくない。

こうした要望を受け、中部電力ミライズは一条工務店と連携し、太陽光発電自家消費サービス「カナエルソーラー」を今年1月から開始した。大容量太陽光発電システムと定置型蓄電池の設置にかかる初期費用など相当額を中部電力ミライズがサポートすることで、住宅購入者の設備導入を支援する。

このサービスの特長は、一条工務店での新築購入者に対し、設置する太陽光パネルの容量に応じたサポート資金が、住宅引き渡し前に中部電力ミライズから一括で支払われる点だ。これにより、住宅購入者は2021年度の省エネ大賞を受賞した一条工務店の高気密・高断熱住宅に、初期費用を気にせず太陽光設備・蓄電池を導入することができるようになる。

契約終了後はより負担減 災害による停電にも活用へ

契約期間は15年で北陸エリア、四国エリア、沖縄エリアを除く全国で実施する。北陸・四国エリアでは今年3月から販売が開始される。加入条件は、①申し込み時点で契約者本人か同居者が60歳未満、②自宅に設置する発電設備の出力が10 kW未満―としている。

契約した住宅購入者は、太陽光発電で得た電力の消費量に応じた利用料金を支払い、余剰電力を中部電力ミライズに提供する。中部電力ミライズによると、契約期間中は設備を設置しない場合と比べ、利用料金を含めても同等以下の光熱費水準が期待できるという。契約終了後は利用料が無料になり、売電収入も得られるため、利用負担が一層軽減されることになる。

太陽光設備と蓄電池を活用し、大規模災害発生による停電などにも対応できる。日照時は太陽光の電気を利用・蓄電して、日没後も蓄電した電気を利用可能だ。

中部電力ミライズは、太陽光設備の安全で長期的な利用を目的とした太陽光長期稼働サポートサービスなども含め、太陽光設備・蓄電池の利用支援を推進。脱炭素社会の実現を目指していく方針だ。

太陽光設備・蓄電池の利用支援で脱炭素社会を目指していく

中央アジア「優等生」の混乱 カザフスタンで刷新なるか

【ワールドワイド/資源】

 年明けのカザフスタンでの暴動は、「国父」ナザルバエフ初代大統領から2019年に権力を受け継いだトカエフ現大統領による、旧体制排除の動きとみられるが、まだ不可解な点が多い。

 年始からの燃料価格上限撤廃に伴うLPガス価格急騰に対する抗議活動から急拡大した全国規模の暴動、それを「外部勢力が関与するテロ行為」と断定した大統領、カザフスタンからの支援要請に対するCSTO(集団安全保障条約機構)の躊躇ない迅速な派兵の決定など、今回の一連の動きのメカニズムの解明には想像が尽きないが、最も気になるのは、前大統領中心の旧体制に大なたを振るおうとしている現政権の今後である。

 混乱発生直後、カザフスタン政府は暫定的な燃料価格上限再設定措置を講じるとともに、内閣総辞職、ナザルバエフ前大統領の国家安全保障会議終身議長(前大統領の「院政」ポスト)からの解任、さらに前大統領の側近で首相も務めたマシモフ国家保安委員会(KNB)委員長を解任後に反逆罪の疑いで拘束し、また、KNB副委員長だった前大統領のおいも解任、その後前大統領の3人の娘婿たちが相次いで政府系企業のトップを辞任する事態となった。

 情勢がある程度落ち着いた1月18日、ナザルバエフ氏本人が暴動後初めて映像で声明を出し、トカエフ大統領への権力移譲と自身の完全引退を宣言。その後も国家基金や国営会社幹部の解任などが続いている。

 カザフスタンは、石油、天然ガス、ウラン、クロムといった天然資源に恵まれ、欧米露中、東西両面から投資を呼び込むことに成功し、外交面でもバランスを取りながら経済発展を遂げた旧ソ連の優等生とも言える。その一方で、ソ連末期から30年にわたり最高指導者として君臨したナザルバエフ大統領とその周辺の一握りの人々に富と権力が集中し、贈収賄が横行し、社会の不平等も深刻化していた。LPG価格急騰が、豊かな地下資源を生産しながら自分たちにその見返りがないという市民の不満爆発のきっかけになったのは自然だろう。しかし、単なる権力移行だけで終わらせずに、政財界に根深いナザルバエフ関係者の排除と富の再分配をトカエフ政権がどれほど実現できるのか。

 18年のアルメニア政変、20年のベラルーシ反体制運動、キルギス政変と旧ソ連地域では古い体制からの脱却を志向する市民の運動が表出している。その中で資源国であるカザフスタンはどう着地するのか、今後の展開が注目される。

(四津 啓/石油天然ガス・金属鉱物資源機構調査部)

【マーケット情報/3月11日】欧米原油が反落、増産検討が重荷

【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、米国原油の指標となるWTI先物および北海原油を代表するブレント先物が下落。産油国の増産検討により、週後半、価格が反落した。

イラクは西クルナ2油田での定修を短縮し、8日に再稼働させた。本来、3月末までの停止を計画していたが、在庫の逼迫で変更を余儀なくされた。また、同国は、ロシア産原油の供給減見込みを背景に、欧州、中国、インドなどの買い手から増産要請を受けている。

ベネズエラは、米国と協調して増産可能と発表。ロシア産原油の減少分をカバーするとの意向を示した。また、アラブ首長国連邦(UAE)は、OPECプラスに追加増産を呼び掛けると表明。欧米原油の価格に対する下方圧力となった。ただ、UAEはその後、OPECプラスが定めた日量40万バレルの増産枠に準じるとの発言もしており、対応は先行き不透明となっている。

8日時点で、WTI先物は123.7ドル、ブレント先物は127.98ドルとなり、2008年7月下旬~8月初頭以来の最高値となった。米国はロシア産原油の輸入停止を発表。英国も、今年中にロシアからの原油および石油製品の購入を停止する計画で、価格は引き続き、高止まりするとの見方が大勢だ。

中東原油の指標となるドバイ現物は上昇。9日時点で128.2ドルを付け、2008年7月下旬以来の最高を記録した。OPECプラスの2月産油量は日量3,825万バレルとなり、前月からは増加したものの、目標である日量3,914万バレルを下回った。OPECプラスは、ロシア産原油の不足分を補うのは困難であるとしている。また、価格高騰は、供給逼迫ではなく地政学的リスクによるものとしており、追加増産自体に消極的だ。

【3月11日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=109.33ドル(前週比6.35ドル安)、ブレント先物(ICE)=112.67ドル(前週比5.44ドル安)、オマーン先物(DME)=110.56ドル(前週比1.69ドル高)、ドバイ現物(Argus)=109.66ドル(前週比0.40ドル高)

首相経験者が福島の風評拡散 政府対応にダンマリの新聞も

【おやおやマスコミ】井川陽次郎/工房YOIKA代表

 米国を代表する新聞の一つニューヨーク・タイムズ紙は、題字左に「印刷に値する全てのニュース(All the news that’s fit to print)」の標語を掲げる。発案者は同紙を1986年に買収したオックス氏だ。スキャンダルで売る当時のタブロイド紙と一線を画す新聞とのアピールという。

読売2月3日夕刊「NYタイムズ、契約者1000万人」でこの標語を思い出した。「デジタルと紙媒体を合わせた全契約者数が、前年同期より16.2%増えて878万9000人に」なり、買収したスポーツメディア契約者も合算して1000万人を達成したという。伝統の標語は今も効くらしい。

一部新聞には印刷に値しないニュースなのだろう。日経2月3日「原発事故巡り不適切表現、環境相、元首相5人注意」である。

「岸田文雄首相は2日の衆院予算委員会で、小泉純一郎氏ら元首相5人が欧州連合(EU)欧州委員会に送った書簡に東京電力福島第1原発事故を巡る不適切な表現があったとして、注意を求める文書を山口壮環境相が出したと明らかにした」「書簡は1月27日付で、小泉氏のほか細川護熙、菅直人、鳩山由紀夫、村山富市各氏の連名。原発を地球温暖化対策に資する投資先として認定するとした欧州委の方針撤回を求めた。この中に福島で『多くの子どもたちが甲状腺がんに苦しみ』との記載があった」

朝日の同日紙面には、関連する記事が見当たらなかった。東京は、1月29日電子版「日本の元首相5人がEUに書簡、原発『グリーン』に認定反対」で、甲状腺がん関連の記述を省いて書簡を紹介しただけ。やはり続報がない。

さほど影響力があるとは思えない元首相5人の書簡に政府が迅速対応したのは異例だ。「誤った情報」(山口環境相の文書)を世界に広め、福島の子どもを苦しめることは許されないとの姿勢だろう。印刷に値するニュースである。

メディア報道は不十分と考えたのだろう。事故当時、避難対応などに当たった細野豪志氏は自身のユーチューブチャンネルで2月4日、元首相5人の書簡の誤りを具体的に指摘し、批判した。

まず、国連放射線影響科学委員会(UNSCEAR)が出した「全体として甲状腺吸収線量は大幅に低いため、福島県で多数の放射線誘発甲状腺がんが発生すると考える必要はない」との見解を紹介している。自身が環境相だったときに立案した3県調査の結果も解説した。青森、長崎、山梨の各県での甲状腺がん発生数と福島県での数を同世代で比較して差はなかった。影響があれば頻度は異なる。

鳩山氏は馬耳東風。2日のツイッターは「EUが原発を推進すると言うので、無しでやるべしと共同声明を出したところ抗議が来た。福島の子どもたちに多発した甲状腺がんが放射線が原因とは限らないとの批判だ。医者も政治家も統計学を学んだ方が良い」と唱えている。

日経2日「作家・政治家、強烈な個性、タカ派言動で度々物議」は1日死去した石原慎太郎氏の人物像を描く。東日本大震災後の2011年秋の逸話が光る。

「被災地に積み上がるがれきの都内への受け入れについて『都民が反対している』と記者会見で質問」された際、石原氏は「放射能汚染を測ったうえで何でもないから持ってくるんだ。黙れ、と言えばいい」と答えた。ユーチューブの映像では「黙れ」の後、はにかんだような笑みを浮かべる。もう一度この言葉を聞きたかった。

いかわ・ようじろう  デジタルハリウッド大学大学院修了。元読売新聞論説委員。

再エネ普及と有効活用を評価 2021年度新エネ大賞決まる

【新エネルギー財団】

 新エネルギーに関する機器開発、設備導入、普及啓発に貢献した取り組みを表彰する「新エネ大賞」(主催:新エネルギー財団)の受賞企業が、1月に決定。最高位の経済産業大臣賞には、地域共生部門からTJグループホールディングス、導入活動部門から東急不動産、商品・サービス部門からアイテスが選ばれた。

東急不動産は自社保有施設で再エネ電力を活用する

TJグループホールディングスの取り組み「地域から地域へ、木質資源の地産地消」は、山林の未利用材や建物の廃材などを燃料にバイオマス発電し、TJグループが所在する大阪府大東市の公共施設や企業を中心に電力供給するもの。都市部で発生する廃棄物を燃料とするため、地域を選ばず安定的な燃料調達が実現できる点が高く評価された。

東急不動産の「再生可能エネルギーについての一連の取り組みについて」は、太陽光、風力、バイオマスなど全国70発電所(計約125万kW)を展開する同社が、オフィスビルなど自社保有の施設に再エネ由来の電気を供給する取り組み。

不動産業として初めて「RE100」に加盟。使用する電力の再エネ比率100%の目標を205

0年から25年に前倒し達成することを決めており、まずは22年度中に、全オフィスで再エネ100%に切り替える方針だ。保有する発電所を中心とする地域マイクログリッド構築や、地元の子供たちへの環境教育など地域連携を進めた点も、再エネ業界発展に貢献したと評価を受けた。

自主事業化以降で最多 60件の応募から20件が受賞

アイテスの「住宅・低圧太陽光発電設備の点検に『eソラメンテ』」は、‌50‌kW未満の発電設備を対象にした太陽光パネル点検機器だ。国内の太陽光パネルのうち99%、230万件以上を50‌kW未満が占めており、知識やスキルに左右されないメンテナンスツールが今後ますます欠かせなくなる。従来製品の半額以下という低価格でありながら、携帯性が高くシンプルな設計で使いやすいことが魅力。太陽光発電の発展に貢献できるとの期待から、今回の受賞に至った。

21年度は、11年度に新エネ財団が同賞を自主事業化して以降最多の60件の応募があり、20件が受賞した。政府が50年カーボンニュートラル社会実現の目標を掲げる中、最新の技術や知見が一堂に会する「新エネ大賞」にますます注目が集まりそうだ。

粒ぞろいの2021年度省エネ大賞 最高賞に工業団地スマエネ事業など

【省エネルギーセンター】

 国内の企業や自治体、教育機関の優れた省エネ推進事例や製品、ビジネスモデルを表彰する省エネ大賞。昨年12月に2021年度受賞者が発表され、120件以上の応募の中から省エネ事例部門で32件、製品・ビジネスモデル部門では28件が受賞した。

「ENEX2022」で受賞内容を展示

省エネ事例部門で最高位の経済産業大臣賞を受賞したのは、栃木県と東京ガスエンジニアリングソリューションズ(TGES)、県内3社7事業所が連携し宇都宮市の清原工業団地で展開するスマートエネルギー事業だ。電力と熱を複数事業所で連携利用することで、事業所単独で使用するよりも、約20%の省エネ、省CO2を達成している。

TGESのスマエネセンターには高効率の大型ガスコージェネレーションシステム6基、蒸気ボイラー7基と太陽光発電システムが導入されており、災害時に停電が発生した際にも、都市ガスを燃料に自立発電し、各事業所に電気と熱を継続して供給することができる。工業団地による高効率エネルギー利用の先駆けとして、全国への普及拡大が期待できると高い評価につながった。

省エネ事例部門ではこのほか、トヨタ自動車高岡工場の省エネ活動など4件が最高評価を受けた。

利用者のDR参加意欲促進 先駆的な取り組みと評価

製品・ビジネスモデル部門では、ソフトバンク子会社のSBパワーが展開する家庭用デマンド・レスポンス(DR)サービス「エコ電気アプリ」が経産大臣賞を受賞した。電力小売り事業者がアプリを通じて利用者に節電を呼びかけ、利用者は節電成功に応じたポイントを受け取る仕組みで、利用者の参加意欲を促し、節電意識を高めるとともに、電力事業者側を電力のピークカットとコスト削減につなげた。

20年12月からの4カ月間に3万2000世帯が参加し、合計23万kWの節電効果を挙げている。これが先駆的なDRサービスとの高評価につながり、製品・ビジネスモデル部門に新設された「省エネコミュニケーション分野」での受賞を果たした。

製品・ビジネスモデル部門ではこのほか、パナソニックの「給水フリー加湿&新ナノイーX」搭載エアコンなど五つの事例が経産大臣賞を獲得した。

1月26日に東京ビッグサイトで開催予定だった表彰式と受賞事例発表会は、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で中止となった。しかし、1月26~28日に開催された「ENEX2022」の受賞事例の紹介コーナーには、省エネへのヒントを得ようと多くの業界関係者が訪れ、注目度の高さがうかがえた。

原油価格の異常高騰 拙速な脱炭素政策が招へい

【オピニオン】橋爪吉博/石油情報センター事務局長

 原油価格がバレル80ドル台後半まで高騰している。関係者の中には、100ドル突破を予想する向きも出ている。コロナ禍からの順調な経済回復による石油需要の拡大に、産油国側の供給(増産)が間に合っていないことが主な要因である。昨年末からは、オミクロン株の経済的影響は限定的だとの認識の広がり、さらには、ウクライナ情勢の緊迫化やUAEとイエメン「フーシ派」との対立激化など地政学リスクの高まりが、価格上昇に拍車を掛けている。値下がり要因としては、米国の金融引き締め政策(利上げ)ぐらいしか見当たらない。

そうした要因の中で、特に注目されるのは、OPECプラスの慎重な増産姿勢と各国の増産の遅延である。OPECプラスは、2020年の需要減少に対応し、減産を行ってきた。21年以降は増産に転じているが、そのテンポは極めて慎重である。21年8月以降、月初のオンライン閣僚協議で、需給環境を確認しつつ、各月、日量40万バレルの減産緩和(増産)にとどめており、しかも、多くの減産参加国は、座礁資産化を懸念して、増産余力はなく、実際の各月の増産量は20万バレルにも達していない。明らかに、サウジアラビア、ロシアを含めて、産油国の石油政策は、市場シェア重視の増産優先から、需給タイトめの価格維持優先に転換している。例えば、サウジは、昨年1~7月、日量100万バレルの自主減産を行った。サウジは、1980年代前半の単独減産の反省から、86年に生産シェア奪回、スイングプロデューサー放棄を宣言して以来、減産時はOPEC全体で分担した減産しか認めてこなかったが、自主減産は35年ぶりの政策転換である。さらに、従来のOPECであれば、原油価格が回復すると、合意違反の増産が横行するのが通例であったが、今回はそれも見られない。脱炭素化、カーボンニュートラルを見据えた産油国の方針転換が原油価格高騰を招いていると考えざるを得ない。売れる間に、高値で売っておきたいということであろう。

増産余力の欠如については、特に深刻である。サウジやUAEなどは別として、リビアやナイジェリアなど多くの産油国が資金難で増産余力が維持できない状況に陥っている。今後も、途上国の石油需要拡大が予想される中、ESG投資やダイベストメントの考え方に基づいて、石油プロジェクトに対する投資が抑制されることは、供給制約を招き、安定供給を阻害する。米国におけるシェール企業の増産の遅れも、バイデン政権の気候変動政策が影響しているといわれている。原油価格高騰に対して、バイデン大統領は、産油国に増産を要請しているが、世界各国に脱炭素を主導する中で、産油国に増産要請を行うことは噴飯もの、支離滅裂である。原油価格鎮静化には、米国の増産が先だ。

途上国を含めて、本格的な石油需要減少が始まらない限り、原油価格の低下はない。当面、原油価格の高騰は続くと考えるべきであろう。

はしづめ・よしひろ 1982年中央大学法学部卒、石油連盟事務局入局。在サウジアラビア大使館二等書記官、石連流通課長・企画課長・広報室長などを歴任。2019年から現職。