【コラム/4月26日】グリーン成長戦略とデジタルトランスフォーメーションの課題


矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

現政権は、新型コロナウイルス禍からの経済回復の柱として「グリーン」と「デジタル」を位置づけている。菅首相は、昨年12月4日の記者会見で、2050年カーボンニュートラルについて、「我が国が世界の流れに追いつき、一歩先んじるためにどうしても実現をしなければならない目標」と述べた。また、環境対応は、「我が国の企業が将来に向けた投資を促し、生産性を向上させるとともに、経済社会全体の変革を後押しし、大きな成長を生み出すもの」と強調し、2兆円のカーボンニュートラル基金を創設すると言明した。さらに、デジタルトランスフォーメーションのために、1兆円規模の経済対策を明らかにし、6Gで世界をリードするよう政府が先頭に立って研究開発を行うと述べた。

このようなポストコロナの経済対策により、今後の電力政策は、グリーン成長戦略やデジタルトランスフォーメーションのウエイトが増すであろう。以下では、ポストコロナの電力政策の展開にあたって、いくつかの留意すべき点を述べたみたい。

まず、グリーン成長戦略であるが、第1に、市場メカニズムの活用と技術・エネルギー間競争の公平性の確保が重要である。脱炭素社会の実現に関しては、費用効率性の高い技術のセットが採用されなくてはならない。そのためには、価格シグナルが必要であり、市場メカニズムを可能な限り用いなくてはならない。そして、技術間またはエネルギー間の競争を歪める要因は排除・是正されなくてはならない。例えば、エネルギー間競争を歪める租税公課負担の不公平があってはならない。また、外部コストの内部化に関し、例外を可能な限り排除しなくてはならない。さらに、新しい技術の市場へのアクセスを差別することなく可能としなくてはならない。例えば、VPPやDRなどの需要側資源に関しては、需給調整市場へのアクセスが不当に妨げられてはならない。

第2に、インフラの効率的な形成が求められる。2050年脱炭素社会の実現に向けて、スマートグリッド、ガスパイプライン、充電ステーションの整備はもとより、水素パイプライン、鉄道インフラ(モーダルシフト)、CO2輸送インフラなど、インフラ投資は膨大になる可能性がある。そのため、投資コストを低下させる効率的な設備形成に関する政策が求められる。脱炭素化のシナリオにより、メインとなるインフラが異なる。例えば、オール電化シナリオであれば、電力ネットワーク、power to gasシナリオであれば、ガスネットワークがメインのインフラとなる。グリーン成長戦略のために必要なインフラは、戦略に基づき効率的に形成されなくてはならない。

デジタルトランスフォーメーションに関しては、個人データの取扱いに関する適切な規制枠組みが構築されなくてはならない。デジタル技術を駆使した新しいビジネスモデルの開発においては、高度なデータ保護が保証されなければならないことは言を俟たない。顧客にとっては、様々なメリット(消費の見える化やコスト削減など)に加えて、個人データの取り扱いにおける高いレベルのセキュリティへの信頼が、新しいデジタルビジネスモデルを受け入れるための決定的な要素であるからである。

同時に、この規制の枠組みは、新しいビジネスモデルを開発する余地を残しておかなくてはならない。ここにおいては、目的の矛盾が生じる可能性があり、慎重に比較衡量されなくてはならない。例えば、スマートメータリングからのデータは、デマンドサイドマネジメントに用いるために集計して評価することができる。しかし、個人データの評価を必要とするビジネスモデルも多く登場するだろう。また、破壊的なビジネスモデルの開発は、しばしば法的枠組みを超えてしまう可能性がある。それゆえ、データ保護などの基準を明確にしつつ、イノベーションのための柔軟性を残しておく必要がある。そのため、ダイナミックなモニタリングにより、エネルギー産業のデジタル化の進展とそれに伴う課題を早期に発見し、解決策を見出さなくてはならないだろう。

最後に、グリーン成長戦略とデジタルトランスフォーメーション双方に関連して、ローカルフレキシビリティ市場の設計が必要となるだろう。多くの再生可能エネルギー電源は、配電系統に接続されている。また、フレキシビリティを提供する重要な設備も配電系統への接続が増大してくるため、そのようなフレキシビリティを市場参加者が提供できるプラットフォーム(ローカルフレキシビリティ市場)が求められるようになるだろう。わが国では、ローカルフレキシビリティ市場に関する議論が進んでいないが、デジタル技術を駆使した分散的な革新的なプロダクトを創出していくためには、同市場の整備が求められるようになるだろう。

【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授などを歴任。東北電力経営アドバイザー。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。

【メディア放談】霞が関官僚の不祥事 総務官僚「高額接待」の波紋


<出席者>元官僚・専門紙記者ジャーナリストマスコミ業界関係者/4名

東北新社、NTTによる総務省の官僚への高額接待が世間を賑わせている。

菅義偉首相の親族が関係したことから、首相への不満が高まり、政局になる可能性も出ている。

―久々に霞が関官僚の不祥事が世間を賑わせた。菅義偉首相の長男が出席した東北新社の懇談会に、菅政権で内閣広報官を務めていた元総務審議官の山田真貴子氏らが参加していた『週刊文春』のスクープが発端だった。

マスコミ 官僚の不祥事を振り返ると、1998年に旧大蔵省と日本銀行の幹部が金融機関から繰り返し接待を受けていた事件があった。見返りに金融検査の日程などを漏らし、大蔵官僚と日銀の幹部らが起訴された。この時は、当時の三塚博蔵相、松下康雄日銀総裁が辞任している。

 それで、2000年に国家公務員倫理法・倫理規定が施行された。ところが、長年業者からゴルフ接待などを受けていたことで、07年に守屋武昌元防衛事務次官が逮捕され、実刑判決を受けている。

ジャーナリスト それらと比べると、東北新社の接待は戒告か譴責で済みそうなものだ。ところが、首相の長男が出席していたので騒ぎとなり、NTTによる接待問題にまで発展した。首相の長男が関わっていなければ、これだけの騒動にはなっていないと思う。

―山田真貴子さんは、「懇親が主で仕事の話はしていない」と言っている。

ジャーナリスト 話のうち9割は雑談かもしれない。しかし、雑談だけのわけがない。東北新社もNTTも伝えたいことは、しっかり話しているはずだ。

元官僚 総務省は、01年の中央省庁再編で自治省、郵政省、総務庁の統合で発足した役所だ。自治省の母体は、GHQに解体されるまで「官庁の中の官庁」と言われた内務省。郵政省は「帝大、低能、逓信省」と呼ばれた逓信省だ。

 今回、処分を受けた郵政省組の学歴を見ても、山田氏は早大法学部、谷脇康彦前総務審議官は一橋大経済学部。東大法学部卒がズラリと並ぶ自治省組には、口には出さなくても優越意識があったはずだ。

 ところがIT革命が起きて、一人が最低1台、スマートフォンを持つ時代になった。すると、情報通信行政を握る郵政省組が日の目を見るようになり、政権にも重用されるようになった。自治省組としては当然、面白くなかった。

マスコミ 騒動の背景にあるのは、総務省内の自治省組と郵政省組との主導権争いといわれている。総務相を経験している菅首相は、郵政省組を優遇した。それに反発した自治省組が、文春に情報を持ち込んだらしい。

―文春は、東北新社との会合の録音データを持っていて、それを公開している。

マスコミ 録音したのは総務省の官僚に違いないだろう。いま省内で「犯人捜し」をしているらしい。分かったら、またひと騒動起こりそうだ。

【再エネ】エネ基議論の本丸 国民負担の在り方


【業界スクランブル/再エネ】

エネルギー基本計画見直しに向けて、各電源に関する2030年の議論が本格化してきた。再生可能エネルギーに関しては、3月1日の再エネ大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会がキックオフとなった。今次のエネ基見直し議論の本丸は、これまで正面から取り上げることを避けてきた国民負担の在り方だ。

現行の再エネ政策は、30年時点のFIT費用3.7~4兆円を前提としている。「太陽光バブルたたき」に象徴されるその呪縛は、審議会委員にも重くのしかかり、政策運営の制約にもなっている。こうした中、菅義偉首相による昨年10月の50年カーボンニュートラル宣言が、今回、再エネの国民負担の在り方を正面から取り上げる引き金となった格好だ。

いわゆる国民負担論は、電気料金の上昇という負担の一面から議論されることが多い。しかし、負担の裏には投資というプラスの面があるのも事実だ。例えば、再エネ活用に積極的な需要家が多数参加する日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)は、その提言の中で、国民負担論が「再エネ比率の引き上げや再エネ価格低下への好循環を妨げる」とし、「再エネ拡大に関連する支出を国民負担ではなく、『未来への投資』と位置付ける」べきだと指摘している。

菅首相は、昨年の所信表明演説で「経済と環境の好循環」を掲げ、「積極的に温暖化対策を行うことが(中略)大きな成長につながるという発想の転換が必要」と指摘した。経済産業省も、いわゆる「2兆円基金」やサプライチェーン対策補助金などの産業政策的アプローチのほか、カーボンプライシングなどの経済的手法の活用検討など、幅のある政策を矢継ぎ早に打ち出している。いずれも負担の先にある好循環の実現に向けた、長期的視点に立った取り組みといえる。

今後の再エネ政策の課題は、コスト低減と投資による好循環の両立だが、実現には足腰の強い政策運営基盤の確保が求められる。東日本大震災から10年を機に、国民負担論から脱し、国家戦略における再エネの在り方を転換する議論を期待したい。(C)

データ時代の国力の礎 数字にモラルのある人づくり


【リレーコラム】河本薫/滋賀大学データサイエンス学部教授

データ分析の道を歩み出したきっかけは、米国ローレンスバークレー研究所への留学だった。1999年当時は、インターネットが急速に普及し始めた頃だ。それに乗じるように「IT機器の電力消費は全電力需要の8%を占め、10年後には50%を占める。それに備え、もっと石炭火力をつくろう」という趣旨のレポートが公表された。石炭業界に近いコンサルタントによる分析だ。電力会社の株価が上がるほど社会に影響を与えた。研究所ではこの間違えた「数字」を放置してはならないとの声が上がり、その仕事を任された。

米国留学で得た数字への責任感

私は、できる限りのデータを集めて緻密に積み上げ、IT機器は全電力需要の約2%と報告した。上司からは「その数字に責任を持てるか」と細かく追及された。また、第三者評価を受けられるように、私の推計ファイルはネット上で公開された。ワーキングペーパー執筆では、データの出所や推計方法について、第三者が再現できるほどの具体的記載を求められた。同時に、前述のレポートの間違いを公表し、作成したコンサルタントへの反論も行った。

次第にメディアも私の数字を信用する論調に転じた。間違えた「数字」を世論から駆逐することに成功したのだ。私の論文はIPCC報告書にも引用され、グローバルな信用を得るに至った。この経験で芽生えた「数字への責任感」こそ、留学で得た最大の財産である。話は続く。当時の米ブッシュ(子)政権高官からクレームの電話がかかってきた。ブッシュ政権は石炭業界から支持されており、私たちの数字は都合が悪かったのだろう。

2000年に日本に帰国すると、米国で駆逐したはずの数字が生きていた。ある省電力技術を促進する組織が、冒頭の間違ったレポートを踏襲して数字を作り、新聞にも掲載されていた。会社に戻った私には、もはやその数字を駆逐する余力はなかった。

数字を作る者は、その数字が社会に大きな影響を与えるという自覚のもと、全責任を負う覚悟で、発信してほしい。正しい数字を発信するだけでは足らない。同じ数字でも、不確実性の大きさが違えば、その取り扱い方は変えないといけない。前提条件の下での数字は、その前提条件の下でしか扱ってはならない。数字を正しく取り扱えるかどうかは、使う側の責任ではなく発信する側の責任だ。データ時代で数字が作りやすくなったからこそ、この理念はさらに重要なのだ。微力ながら、数字にモラルのある若者を育てることに努めていきたい。

かわもと・かおる 1991年京都大学応用システム科学専攻修了、大阪ガス入社。98年から米国ローレンスバークレー国立研究所でエネルギー消費データ分析に従事。帰社後、2011年からビジネスアナリシスセンター所長。18年4月から現職。

次回は大阪ガスビジネスアナリシスセンター所長の岡村智仁さんです。

【石炭】気候変動の傑物 二人のナオミ


【業界スクランブル/石炭】

米国は話題の多かったトランプ政権から国際協調も重視するバイデン政権に移る中、「二人のナオミ」が活躍しているのが面白い。

一人はドイツ出身のブロンドのきれいな20歳の、自分を「気候変動の現実主義者」と名乗り、マスコミは「反グレタ」と報じているナオミ・ザイプトさん。所属団体のイリノイ州にあるハートランド研究所は、米共和党をはじめとする保守派の支持を受けている気候変動懐疑一派だ。

「私たちは進歩と革新の素晴らしい時代に生きている」と主張する。「温暖化は全く憂慮するようなことではなく、過去において何度となく起きてきた自然の流れにすぎない」のだという。

いやそれどころか、「CO2が過剰に排出されるということは、植物がもっと呼吸できるようになるから良い結果をもたらす」とさえ言っている。これではグレタさんが反発するのも当然だ。

一方、トランプ前政権に真っ向から反対していたのがカナダ出身のナオミ・クラインさん。『ブランドなんか、いらない』『貧困と不正を生む資本主義を潰せ』を著し、レイチェル・カーソン以来、最も偉大な環境活動家と評されている。トランプ大統領と正面から対決し、国際環境NGO「350.org」のボードディレクターを務め、社会的公正に根ざしたグリーンニューディールを主張。国民皆保険制度、誰もが利用可能な保育サービスの実現、大学の無償化など、問題提起は環境課題にとどまらない。

現在、シリコンバレーが新型コロナ危機に乗じて、リモート学習やオンライン診療などの非接触型テクノロジーを拡充し、「人間をマシンに置き換える」構想を加速させているというのに対し、パンデミックの今こそ「グリーンニューディール」に力を入れるべきだと訴える。人が温もりを失い、監視が強化されているという。

このように、活発な議論が絶えない米国。今後も政策の動きには目を離せない。(C)

【石油】大震災から10年 変質する安全保障


【業界スクランブル/石油】

あの東日本大震災から10年が経過した。

震災で、石油のサプライチェーンにおける安定供給の重点課題は大きく変化した。すなわち、海外調達から、国内供給体制への問題の変質である。特に、災害時のレジリエンスの確保が課題となった。

当時、東日本各地の出荷基地(製油所・油槽所)の被災などにより、被災地や首都圏では石油製品の供給不足が発生した。同時に、石油製品は輸送・貯蔵・取り扱いの利便性から、被災直後の頼れるエネルギー「最後のとりで」として、再評価されるとともに、災害時の供給強靭化に向けたソフト・ハードの体制強化が図られた。その結果、熊本地震、福井豪雪、北海道胆振東部地震などの災害時にあっても、石油安定供給はおおむね円滑に確保された。

しかし、需要減少が加速し、2050年脱炭素化が政策目標となる中、今後、「最後のとりで」としての役割をどのように果たしていけばよいのか、淘汰される石油が公共施設や発電所のバックアップ燃料となっている現実をどう考えるのか、全くの疑問である。

他方、石油の海外調達(供給途絶)の問題については、30年前の湾岸戦争で解決済みであると考える。消費国側の石油備蓄の活用(国際エネルギー機関協調的緊急時対応措置)と産油国側の余剰生産設備による緊急増産で、7カ月にわたるイラクとクウェートからの供給途絶を乗り切った。

確かに近年、イランを巡る地政学リスクは高まっているが、東西冷戦時代のように、供給途絶が長期化する事態は考えにくい。わが国の場合、現在、石油備蓄日数は、石油需要の減少で、官民合わせて250日を超えている(備蓄法ベース)。国家備蓄量(分子)は維持されているが、石油需要量(分母)は減少するから、備蓄日数は増加する。

したがって、今日、エネルギー安全保障の重点は国内供給体制強靭化と転換期の対応である。エネルギー自給率をその指標とすることは、もはや時代錯誤であろう。(H)

【秋本真利 自民党 衆議院議員】これからは再エネの時代


あきもと・まさとし 1975年千葉県富里市生まれ。法政大学法学部卒。12年衆院選で初当選。内閣では国土交通大臣政務官を務めたほか、党の再生可能エネルギー普及拡大議員連盟事務局長などを務める。当選3回。

直接民主制を学ぶ過程で、原子力への疑問と再エネのポテンシャルの高さに気が付いた。

自民党内屈指の再エネ推進派議員が、独自の電力システム改革案を披露した。

自民党の再生可能エネルギー普及拡大議員連盟の事務局長を務め、党内屈指の再エネ推進論者で知られる秋本氏。中学、高校から新聞や報道番組をよく目にしていたため、社会問題や政治に強い関心があった。「法律を変える立場になり、世の中を変えたいと思う人たちの気持ちを受け止めたい」。進路を考えた際、こうした思いから法学部を選んだ。

大学卒業後は、大学院で直接民主主義を専攻。研究テーマは産業廃棄物処理場や核施設などの、いわゆる迷惑施設建設の是非を問う住民投票について。「住民投票は原子力関係の話が多く、高知県東洋町で起きた高レベル放射性廃棄物の最終処分場の建設問題もその一つだった。当時から私は自民党員であったが、原子力政策についての勉強を進めたことで原子力発電の問題性に気が付いた」

独自に研究を進めた結果、「核燃料サイクルは破綻している」との結論に至った。

「青森県六ヶ所村の核燃料再処理工場も稼働しておらず、使用済み核燃料の置き場も定まっていない。一時保管場所として使われている原発サイト内の使用済み核燃料プールを拡張させてしのごうとする動きもあるが、いずれ限界を迎える。さらに高レベル放射性廃棄物の処分場所も決まっていないなど、核燃料サイクルは破綻しているにもかかわらず、原発推進のために地域振興を名目に税金を費やすのは健全ではない。震災前から再エネの方がはるかに将来性はあると思っていた」

そうした中、大学の講義に河野太郎氏が講師としてやってきた。その講義では冒頭に「核燃料サイクルを説明できる学生はいるか」と、質問が投げかけられたという。そこで秋本氏が挙手して質問に答えたところ、「君は何者だ」と河野氏の目に止まった。

「講義後に河野さんに呼ばれて『原発を推進する自民党でも核燃料サイクルをきちんと説明できる人はそういない。一緒に働かないか』とのオファーも受けた。もともと政治家という仕事に興味があったが、本格的に志そうと思った一つのきっかけだ」と当時を振り返る。

弱冠27歳で地元市議に当選し2期務めた。その後は党の衆院選の候補者となり、地元議員との懇親の場で脱原発と再エネのポテンシャルの高さを語ったところ、「そんな考え方なら共産党に行けばいい」と言われたこともあったそうだ。

2012年には衆議院議員選挙で千葉9区から出馬し初当選を飾り、舞台は国政へ。内閣では国土交通大臣政務官を経験。党では国会対策副委員長などを務めている。

再エネの大量導入が重要 送配電会社の「東西2社」案も

「日本を将来の担う主力電源は何か」と聞くと、「太陽光発電と風力発電だ」と語っている。「環境省が公表している資料でも、送電線に接続可能な地域の再エネ容量は国内の電力総需要の2倍以上ものポテンシャルを秘めている。評価が低いのはおかしな話だ」と述べ、「これからは間違いなく再エネの時代。進めなければ技術的にも諸外国に置いていかれる」と、導入拡大の重要性を訴えた。

政府も50年までにカーボンニュートラルの実現を目指す上で、再エネの大量導入が重要だと位置付けている。その中では系統に水素製造装置や蓄電池を導入することで、系統安定化や余剰電力を活用しようと計画しているが、このプランに対しても意見がある。

「再エネ主力電源化によって電力コストが上がるとの批判があるが、現段階で蓄電池や水素を接続すればコストが上がるのは当然の話。今すべきなのは系統に再エネを大量に導入すること。系統が不安定化するという懸念には、系統の高度化や利用ルールの整備で対応できる。蓄電池や水素の調査・研究は必要だが、商業利用はまだまだ先の議論のはずだ」

現在の送配電会社の在り方も、再エネの大量導入を阻害しているのではと疑問を持っている。「この狭い国土に10社も送配電会社があるのは非常に効率が悪い。例えば50 Hz帯、60 Hz帯の東西2社ぐらいに再編すれば、北海道のような再エネの高いポテンシャルを持つ地域の電気を、東京などの大需要地に送ろうとするインセンティブが働く。グリッド改革は再エネ導入拡大にもつながる」と説く。

また政府が計上した2兆円の環境投資基金についても、「10年先に開発できるかもしれない技術に投資するよりも、ラストワンマイルを埋められれば実用化できる技術にも投資できるような仕組みを作っていくべきだ」と指摘。「1年半かかるものを1年に短縮するための投資も重要で、現在の方針は非連続のイノベーションに重点を置き過ぎ。これも優先順位が違うのではないか」と主張した。

座右の銘は「先憂後楽」。「数十年後の日本国民から感謝してもらえるよう、責任ある判断をしたい」と語る。これからも確固たる信念を持ち、エネルギー政策と向き合う構えだ。

廃炉にどう向き合うべきか 「解体撤去」ではない方法も


【福島廃炉への提言〈事故炉が語る〉Vol.1】石川迪夫/原子力デコミッショニング研究会 最高顧問

福島第一発電所事故の後、原子炉をどう廃炉にするのか、国民の関心は高い。

更地に戻す解体撤去だけでなく、国際原子力機関(IAEA)は他に二つの方法も示している。

原子力デコミッショニング研究会の石川迪夫最高顧問は、国内外を問わず長く原子力発電所の廃炉に携わってきた。福島第一発電所の廃止措置という難題を抱える日本。どうすれば、最も安全かつ合理的で国民負担の少ない廃炉ができるのか―。自らの経験と、数多くの事例の調査・研究を踏まえた石川氏の考察、提言の寄稿を連載する(編集部)。

事故を起こした原子力発電所の廃炉とはどのようなものか。福島第一発電所事故の後、国民の関心は高い。政府は事故後40年をめどに廃炉工事を完了させると約束し、東京電力が廃炉作業に取り組んでいる。しかし、その進捗状況はどうなっているのか、詳細を国民は知らない。福島について報道される問題は、汚染水の処分や廃炉工程の手直しなどいろいろあるが、それが廃炉全体の中で何を意味するのか、知る人は少ない。

知らない、知らされない―。その間に時は過ぎて、事故から10年を迎えた。このあたりで、福島第一発電所の廃炉が持つ問題を可能な限り具体的に検討し、世に警鐘を鳴らすのは廃炉経験者の役目であろう。

だが、事故炉の廃炉を語ることは難しい。前例がないからだ。一般の廃炉の概略を述べて、事故炉のそれと比較すれば理解が容易となるのが、困ったことに、廃炉そのものが始まったばかりで、広く知られていない。まさに解説者泣かせだ。

この連載では、原子力発電所の一般の廃炉の話は必要なときにのみ引き合いに出し、事故炉の廃炉と比較していくことにする。

IAEAが廃炉を3分類 「石棺」は密閉管理方式

原子力発電所の廃炉といえば、解体して撤去するもの、跡地は更地に戻るものと多くの人は思っている。だが、この理解がまず間違いだ。これは解体撤去方式と呼ばれる、廃炉工事の一方法だ。

「えっ、ほかの方法もあるの」と驚く人もいるだろうが、廃炉は解体撤去だけではない。国際原子力機関(IAEA)が定めた文書には、①密閉管理、②隔離埋設、③解体撤去―の3方式が記載されている。

数年前、福島県知事が原子力損害賠償・廃炉等支援機構の山名元理事長の話を誤解して、「福島第一発電所を廃炉にせずに、石棺にするのか」と激怒されたそうだが、これは福島県の勉強不足だ。昨年完成したチェルノブイリ原発の石棺を覆う構築物は、密閉管理方式による具体的な廃炉例だ。

今回は、それぞれの廃炉方式についての説明から始めよう。

隔離埋設は、昔の研究用原子炉の廃炉に多い。原子力が始まったばかりの頃の原子炉は、出力が小さく放射能の汚れもそれほどでないが、やたらに頑丈につくった。このため壊すのが大変で、燃料棒を取り除いた後の残りの施設は全て地中に埋めて、埋め殺し処分とした。これが隔離埋設方式だ。

隔離埋設方式の実例は日本にもある。日本人の手で設計・建設された最初の国産原子炉、「国一」の愛称で呼ばれた旧JRR―3がそれだ。約20年間働いて使い勝手も悪くなったので、格納容器や補助設備は残して原子炉だけをつくり替えた。これが現在の3号炉だ。

【火力】議論の本質はどこへ 供給力不足の予兆


【業界スクランブル/火力】

昨年4月に緊急事態宣言が発出されてからはや1年。ワクチンにはそれなりに期待を持ちたいところだが、「リバウンド」や「病床数のひっ迫」などの仮説や目先の結果を挙げて緊急事態宣言をどうこうするという話ばかりで、新たな医療体制とか有効な感染予防の具体策などの話がめったに俎上に上らないのが現実だ。電力供給に関しては、昨年後半から今後の懸念となりそうな事象が顕在化してきている。一つは容量市場の落札価格が高値に張り付いたこと、もう一つは、1月の寒波とLNG不足による需給ひっ迫である。

これらは出現の仕方にkWとkW時の違いはあるものの、どちらも供給力が徐々に不足し始めている兆候という根本的な問題であるが、そこに注目する人は思いの外少ない。

長期的に見ると、火力発電においては、昭和の時代の老朽火力を東日本大震災後の対応で設備更新をしそこねたこと、電力システム改革の議論が小売り中心であり新規参入者も含め電源投資への機運が高まらなかったこと、さらに昨今の脱炭素の流れで石炭はもちろん、LNGについても将来見通しが立たないという事情がある。加えて、原子力の再稼働は進まず、再生可能エネルギーの設備量が増えても変動電源として四六時中は当てにすることができないのが実情だ。

短期的には、先月の本稿で指摘したように需要の予測と実績の乖離が需給ひっ迫の発端となるが、監視等委員会から示された対策案が「旧一般電気事業者の自社需要予測の精緻化」とあり、ツッコミを入れたくなる。需要予測の精度は極めて重要だが、それなら新電力も同様の精度で予測を出さなければ全体の必要量を見極めることなどできない。

こうしてみると一時の危機はしのいだものの、わが国の電力供給力は八方ふさがりだ。供給力不足は、S+3Eのうちエネルギーセキュリティーと経済性の二つまでも棄損するため、より本質的な議論が必要だ。行司役も交ざり旧一電と新電力のマウントの取り合いにかまけている場合ではない。(S)

【原子力】プルトニウム利用 原発再稼働が急務


【業界スクランブル/原子力】

六ヶ所再処理工場とMOX(混合酸化物)燃料工場の操業計画(2022年度上期・24年度上期にそれぞれ竣工予定)が具体化し、許可だけでなく認可に向けて審査が進んでいることを踏まえ、電気事業連合会は2月末にプルトニウム利用計画を公表した。

30年度までに少なくとも12基のプルサーマル実施を目指すという前向きな姿勢を示すという点では意味があるが、各社ごとのプルサーマル炉と12基とは直接リンクするものではない。しかも23年度までの具体的な利用計画は、3月7日に再稼働した高浜原発3号機と、同4号機だけにすぎず、その点で前進したという印象は乏しい。また東京電力の3~4基という従来の記載がなくなり、そして英国で保有するプルトニウムをフランスで保有するプルトニウムに帳簿上移転して四国電力や九州電力が利用したことにする方針という帳簿上の操作にとどまり、国としての総量の消費につながらないという消極的な性格が拭えない。

再稼働の許可が得られた原発が9基にすぎず、実際に稼働しているのは5基という再稼働の遅れが大きな制約条件になっているのが、今回の利用計画の素顔だ。だから、今夏にも改定されるエネルギー基本計画では、プルサーマル炉を中心とする原発の再稼働を新しい発想で大きく推進・抜本的に加速することを望みたい。ある学識経験者は、大間原発と同程度の出力130万kW超クラスのABWR(改良型沸騰水型軽水炉)の炉をプルサーマル炉に変更すれば、六ヶ所工場で抽出されるプルトニウムは全て消費できると指摘している。

梶山弘志経産相は「今は再稼働を徹底的に推進するのが急務だ」と省内でハッパを掛けていると聞く。正論だ。しかも稼働停止後10年を迎える原発が8基に上っているが、これらの原発の現場の士気・モチベーションの緩みも懸念される中、その困った現状を踏まえると急務だ。プルサーマル推進の面でも問題は少なくない。出力130万kW超クラスのABWRのプルサーマル炉化も含めて原発再稼働を推進してもらいたい。エネルギー基本計画策定はそのよい機会だ。(Q)

再エネTFに「大義」はあるか 無理筋な制度見直しに多くの異論


【多事争論】話題:再エネ規制総点検タスクフォース

政府の再エネ規制総点検タスクフォース(TF)提言が、業界に波紋を呼んでいる。

その意義と本来あるべき規制改革の絵姿について、有識者に話を聞いた。

<TFが各省庁に問うている本質 実質ゼロに本気で取り組むのか?>

視点A:原 英史 株式会社政策工房 代表取締役社長

昨年11月から、政府の再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース(TF)の委員を務めているが、この会議はどうやら、「極論を主張する過激派」と認識されているらしい。せっかくの機会なので私の考えを紹介したい。あくまで個人の考えであってTFの意見ではない。

私自身はこれまでも諸分野の規制改革に関わってきた。過去には内閣府の規制改革推進会議で、エネルギー分野も担当するワーキンググループの座長を務めたこともある(2017〜19年)。当時、実は再エネに関する規制改革はほとんど会議で扱わなかった。なぜかというと、再エネ主力電源化が政府方針として閣議決定され、「あとは各省庁に任せておいても進むだろう」と思っていたからだ。ところが今回TFに入って改めて事業者要望などを集めた結果、見立てが違うことに気付かされた。再エネ主力電源化というお題目に対し、現実の諸制度は乖離したままだ。

例えば、新たな再エネ電源を作ろうとしても、送電網は先着優先ルールが敷かれているため、新規参入者はなかなか使わせてもらえないし、莫大な負担金を求められることもある。また風力発電所の場合は環境影響評価法(環境アセス)に何年もかかる。農地や林野に作ろうとすると、やたら厳しい制約で阻まれる――いずれも長らく指摘されてきた問題で、とっくに片付いたかと思っていたが、未解決のままだった。なぜそんなことになっていたのか。端的にいえば、誰も本気でなかったからだ。資源エネルギー庁の本音はおそらく、「本当は原発再稼働にかじを切りたいが、そうもいかないので、当面は再エネを強調しておこう」という程度だったのではないか。そんな姿勢が関係業界や他省庁にも見透かされ、現状維持の慣性力が働いたのだと思う。

現状維持のままで構わないなら、それでもよい。しかし日本が止まっている間に世界は先に進む。グローバルに展開する企業を中心に、再エネ電力利用を調達基準などとする動きも拡大している。「再エネ拡大はいわゆるお題目」と言っていると、日本は世界のサプライチェーンから外れることにもなりかねない。そんな中で昨年10月、菅義偉首相は50年実質ゼロを宣言した。その実現のため、河野太郎規制改革担当相の下にTFが設けられ、送電網への接続ルール、環境アセス、農地、建築物の省エネなど、さまざまなテーマについて各省庁と議論した。

私からみれば、各省庁に問うてきたことは本質的には一つ。「50年実質ゼロに本気で取り組むのか?」という点だ。幸いにして、いくつかの省庁はこれまでとは違う「本気」度を見せ始めており、環境省は環境アセスの要件見直しの方針を固め、国土交通省も建築物の省エネ基準義務化を進める方向に転じた。

腰を据えない資源エネルギー庁 「ウィンウィン」の規制改革を

その一方、相変わらず腰が定まらないように見える省庁もある。その一つが、再エネ拡大の中核となるべきエネ庁だ。

昨年末来の電力市場価格高騰を巡っても、曖昧な姿勢が浮き彫りになった。今回の事態は、私の理解では数年に一度レベルの寒波と、LNG調達の混乱が原因だ。決して稀有な異常気象に襲われたわけではないにもかかわらず、平時の10倍以上の価格が数週間続くという異常事態が発生した。原因と結果を見比べれば、その間に市場の機能不全があったことは明らかで、「市場ではこんなことも起きる」といって済ませてよい話ではない。市場の不備解消に直ちに取り組むべきであり、これは再エネ拡大とも表裏一体の課題のはずだ。

ところが、これまでエネ庁は市場の不備に正面から向き合っているようには見えない。原因の一つに「太陽光の出力低下」と説明するなど、再エネ悪玉論に乗じて責任逃れをしている―ようにさえ見える。これでは市場の信頼も回復できないだろう。エネ庁は「電力自由化」や「再エネ拡大」に本気で取り組む気があるのか、そろそろ明確にすべきだ。

最後にもう一点、規制改革は、誰かを犠牲にして誰かが利益を得る取り組みではないこともお伝えしておきたい。例えば農地での再エネ利用の議論をすると、「農業を犠牲に再エネを拡大しようというのか」との批判がつく。しかし、適切な形での再エネ導入は農業経営の改善、耕作放棄地の再生にもつながる。現行の農地規制のように、「太陽光を入れると農業がないがしろにされる」との推定を前提に、過剰な制限を課していることで、むしろ農業強化の道を閉ざしているのではないか。再エネと農業はともに強化することが可能だ。TFではそういった社会全体にとってウィンウィンの規制改革をさらに模索したい。

はら・えいじ 通商産業省(当時)入省後、中小企業庁制度審議室長、規制改革・行政改革担当大臣補佐官などを経て退職。2009年に株式会社政策工房を設立。国家戦略特区ワーキンググループ座長代理、大阪府・市特別顧問、NPO法人万年野党理事なども務める。

株式市場は構造改革を評価 問われる既存事業の選択と集中


【羅針盤】荻野零児/三菱UFJモルガン・スタンレー証券 シニアアナリスト

石油元売りの経営統合などの構造改革を株式市場は歓迎し、業界のROEは改善した。

しかし、カーボンニュートラルを目指す中、今後は事業ポートフォリオの転換を余儀なくされそうだ。

過去10年間(2010年末~20年末)の石油セクターの株価指数のパフォーマンスは、良好ではなかった。図1と図2が示すように、同期間の石油セクター(主に石油元売り)の株価指数の上昇率は3%にとどまり、TOPIXの上昇率(101%上昇)を下回った。

図1 注1:2010年末から2020年末の10年間の株価パフォーマンス
注2:セクター分類は日経業種別

図2 注1:月末値、2010年12月末を100として指数化 注2:セクター分類は日経業種別

なお、同期間の鉱業セクター(主に原油ガスの上流会社)の株価指数は50%下落した。ドバイ原油価格は、10年末のバレル当たり91ドルから20年末には51ドルへと低下し、油ガス田事業の収益悪化が懸念されたと考える。

本稿では、過去10年間の石油業界の株価とファンダメンタルズを振り返り、今後の中長期的な経営課題を述べたい。

元売り経営統合が奏功 構造改革でROE改善

図2を見ると、17~20年の石油セクターの株価指数が、前半に大幅上昇し、後半に大幅下落したことが特徴的である。この前半期間(17年ごろから18年9月)に株価指数が上昇した主な要因は、石油業界の構造改革が進み、その成果としてROE(=純利益÷自己資本)が改善したためと考える。

石油業界の構造改革の例としては、JXホールディングスと東燃ゼネラル石油が経営統合し、JXTGホールディングス(現在のENEOSホールディングス)が発足したのは、17年4月だったことが挙げられる。また、同年5月に、出光興産と昭和シェル石油は、協働事業(ブライターエナジーアライアンス)の趣意書を締結した(経営統合は19年4月)。

そして17年度に、ROEは前年比で大幅に改善した。ROEは、会社が株主から預かっている資金(自己資本)を使って、どのくらい稼いでいるかを示す指標であり、株式市場で最も重要視されるKPI(重要業績評価指標)である。

例えばENEOSホールディングスの「統合レポート2020」によると、16〜19年度の同社のROE(国際会計基準に基づく)は、次のように推移した。

16年度9.6%→17年度15.2%→18年度12.3%→19年度マイナス7.5%

なお、16年度のROEは、JXホールディングスと東燃ゼネラル石油の合算である。

17年度にROEが改善した主な要因は、石油製品スプレッド(1ℓ当たりの粗利益)の改善や原油価格上昇による「在庫の影響」の差益拡大と考えられる。

石油製品スプレッド改善の主な要因は、製品の国内需要減少に対応した製油所の精製能力の削減や、経営統合などと考える。株式市場では、石油製品スプレッド改善が業界構造の改革の成果として、ポジティブに評価されたと推定する。

【LPガス】コロナと脱炭素 大転換期に突入へ


【業界スクランブル/LPガス】

昨年、新型コロナウイルス感染拡大により中止となったLPガス国際セミナーが、「多様性とウィズコロナの時代~LPガス市場の挑戦」をメインテーマに3月上旬にオンライン形式で開催された。産ガス国や需要国の関係者が将来動向などについてプレゼンした。

この1年でコロナ禍がエネルギー業界に及ぼしたインパクトは大きく、LPガス業界も同様だ。資源エネルギー庁は「2019年のLPガス国内需要は約1400万tだったが、20年は1200万tまで減少する」との見通しを示し、「コロナの収束が見通せない中、脱炭素社会への取り組みなどLPガス事業をいかに継続していくかはチャレンジングだ」と指摘する。

また、主催者のエルピーガス振興センターの岩井清祐理事長(ENEOSグローブ社長)は、脱炭素への動きが加速する中で電化や再エネの台頭を示唆。LPガスが社会に支持されるエネルギーとなるために、カーボンニュートラルへの対応なども含め、新たな挑戦が必要と強調した。

1929年に始まったLPガスの歴史は、それまで主な家庭用エネルギーであった木炭や練炭、豆炭から主役の座を奪い、事業者もそれに伴い柔軟に業態を変化させてきた。しかし、今回を大転換期と捉える事業者は多い。グリーンLPガスと呼ばれるプロパネーションやバイオLPガスなど新たなイノベーションについては課題が多いが、LPガスのレジリエンス性を含め地域を支える総合生活インフラ事業者として、個々の企業のビジョンを多様性をもって確立しておくことが重要になる。

世界LPガス協会のジェームズ・ロックオールCEOは、「今こそLPガスが効果的な燃料としていかに未来に貢献できるかを発信すべきだ。将来的には、バイオLPガスによりCO2排出が80%減るともいわれている」とした上で、「今年12月にドバイで開かれる世界LPGウィークで今後のLPガスの世界を披露する」と明言した。次世代に向けどのようなビジネスモデルが示されるのか、注目される。(F)

CO2排出ネットゼロを目指して 分散型主流時代に向け課題解決


【私の経営論(3)】比嘉直人/ネクステムズ社長

「ベンチャーの社長は資金調達に時間を取られ、技術開発に没頭できないよ」。信頼する方の言葉。すぐに痛感することになる。 

われわれの構想に活用できる補助事業があることを知り、理想的な普及モデルの証明のために総額3億円の補助事業への申請に躍起になっていた。手元資金は数百万円。早速銀行へ。

補助事業の申請や第三者所有と呼ばれる普及モデルで利用者建物に無料で太陽光発電などを設置して、利用料金で投資回収を図ることなどを説明したが、前例がほとんどない事業であるため銀行側は一向に納得しない。

一つの銀行では10回目の訪問で別の支店管轄になる宣言を受けた。一つの銀行ではベンチャーファンドのチラシを渡しただけだった。望みの綱の地元銀行を幾度も訪問し、融資の取り付けに成功した。この金融機関とのやりとりは大変骨が折れる作業だったが、資金調達に必要なさまざまな資料が出来上がる頃、私の知識もかなり潤沢になっていた。

メーカーへの受発注頓挫 脱補助金で普及モデルを

こうして2018年度は市営住宅40棟に太陽光発電とエコキュートを導入する事業を行った。翌年度は福祉施設や事業施設など加え、前年度の4倍程度に対象範囲を拡大して補助金申請を行った。他方、事業に新規性や魅力を感じていただけた商社や企業から出資の申し出があったので、第三者割当増資を実施することにした。巨額の資金調達のためにも企業与信を高めるためにも必要であった。

各社との協議で依頼される資料を、一つひとつ頭を抱えながら作成した。どうにか各社と出資条件が整った頃、補助金の採択結果が出たが不採択3件、条件付き1件というがくぜんとする内容だった。

後日、理由を確認したが、前年度の事業内容に類似しており先進性に欠けるとのこと。前年度とは異なる点が多数あったので食い下がったが覆すことはできなかった。

この衝撃で、3社が出資を辞退し、銀行融資も白紙に。出資意向をつないでくれた3社と協議して、融資無しで済む程度に採択された1件を仕立て直し、交付申請した。問題はメーカーなどへの受注準備をいったんキャンセルしなければならないことだった。交付決定までは発注不可だが、資機材が多量だったため、メーカー側も計画生産を必要としていた。それをキャンセルするのだから相手も尋常ではなかった。心苦しかった。

さらに、宮古島は当時異常なまでのホテル建設ラッシュがあり、現場職人の手配が難しい状況だったので補助事業を見越して人員や宿泊先も確保してもらうなどの準備を施工会社にしてもらっていたが、これも全て白紙に戻した。

当初計画の8分の1の規模で交付決定となったので、機器調達をメーカーと再度協議して資機材を購入したが、資金調達も十分でなかったので一時は口座に数百円しかない状況にまで追い込まれた。

この苦い経験で当初目標であった「補助金に頼らない事業」の実現を強く思い返した。補助金があれば事業収支は良くなるが、今回のように採択の有無で事業推進が大きく影響を受け、企業としての信用に関わり機器調達などが危ぶまれる。単年度事業であるため労力を過度に集中させる必要もある。

逆に、補助金に頼らなければ不安定性がなくなり、補助金に不慣れな事業者でも取り組むことができる真の普及モデルとなり得る。事業性を高めるためには自家消費量を引き上げる必要があった。太陽光とエコキュートでは沖縄地域の給湯需要が少ないこともあり、自家消費量は高くならない。建物に電力供給しても昼間需要のみでは大きく改善はしない。

【都市ガス】LNG不足は人災? 困難な在庫運用


【業界スクランブル/都市ガス】

今回の電力市場価格高騰の主な原因の一つであるLNG不足は「人災だ」との声を耳にする。確かにそうした側面があるのは否定できない。しかし、日本のエネルギー企業にとって、LNGの管理が極めて難しいこともまた事実である。

LNGは産ガス国で季節に関係なく生産されるため、買い手は需要期・非需要期の区分けなく一定数量を受け入れる義務がある。州際パイプラインの張り巡らされた欧米では、受け入れたLNGをどんどん気化して導管に流し込むことができる。しかし、州際パイプラインが発達していない日本では、受け入れたLNGを一定期間貯蔵しておく必要があるのだ。

マイナス163℃の超低温下でLNGを貯蔵するタンクの建設は巨額の投資を必要とするため、簡単に増設することはできない。そのため、限られた貯蔵能力の中で年間を通じてLNGの受け入れキャパシティーを維持することが、最も重要な作業の一つとなっている。仮にタンクがいっぱいの状態でLNGを物理的に受け入れられなくとも、テイク・オア・ペイ条項に従って産ガス国への支払いは発生するため、会社に大きなダメージを与えることになる。実際、LNGがだぶついた昨年の夏先には、そのリスクが顕在化した。

LNG調達量の8〜9割以上を占める長期契約では、1年前には受け入れ計画が決まってしまう。先の見えないエネルギー需要の変動に合わせて、タンク管理をしていくのだ。2018~19年度は暖冬続きでLNG在庫が計画より残ってしまう状況が続き、さらに20年度は春先からコロナ禍で想定外にエネルギー消費量が減少する状況が続いた。担当者は年間を通して受け入れに支障が出ないよう、契約の範囲内で受け入れ時期を先延ばししたり、量的調整役であるスポットLNGの購入を控えたり、契約上転売可能なものは転売先を探すなど、貯蔵量のスリム化を精一杯図った。そこへ、さまざまな要件が重なった上に、平年よりも一足早い寒波が来てしまい、LNG不足となったわけだ。さほどにLNGの在庫運用は難しいのである。(G)