原子力とガスは「持続可能」 波紋広がるタクソノミーの評価

【多事争論】話題:EUタクソノミー

持続可能な経済活動を分類する「EUタクソノミー」の行方が注目されている。

欧州委員会は条件付きで原子力と天然ガスを含む方針を発表したが、専門家の評価は。

〈 EU脱炭素政策でロシアの脅威拡大 現実解として期待集める原子力推進〉

視点A:杉山大志 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

何が持続可能な技術かを政治・行政エリートがブリュッセルで交渉し決めるというのは、いかにもEU(欧州連合)らしい馬鹿げた方法だ。なぜなら発電技術はどれも一長一短だからだ。原子力はもちろん安全に気を使わねばならないが、安価でCO2も出ない。再生可能エネルギー技術にだってもれなく欠点はあり、完璧な技術など無い。景観問題や生態系破壊を起こす風力発電は持続可能なのか?ジェノサイド認定を受けている新疆ウイグル自治区で生産・精錬された太陽光発電が「持続可能」なのか? EVにもハイテク省エネにもレアアースが必須だが、EUはその9割以上を中国、これまた人権問題を抱える内モンゴル自治区に依存しているが、「持続可能」なのか?

ともあれ、原子力と天然ガスが必要だという当たり前のことがそれなりに位置付けられたのは、EUの人々にとって幸いだった。今EUは拙速な脱炭素政策の失敗でエネルギー危機にある。安定で安価な現実的なエネルギー開発を進めなければ、EU経済は崩壊の憂き目に遭う。

日本などにとっても、おかしなEUの政策を押し付けられる心配が減るのは良いことだ。政権方針が脱原発のドイツとオーストリアでは、今回の発表に対して猛然と反対の声が上がっているようだが、規則上は過半数のEU加盟国が反対しないと方針が覆ることは無いらしい。すると、フランスや東欧諸国をはじめEUでも実は原発推進派の国の方が多いので、そのままの決着となる。

東欧諸国で高まるEU脱炭素への懸念 原子力の合理的規制体系こそ重要

しばしば日本では誤解(ないしは意図的に曲解)して報道されるが、世界においてもEUにおいても、脱原発は潮流などではない。むしろ原子力利用こそ世界の潮流だ。IAEA(国際原子力機関)のまとめでは、原発を利用しない方針の国はドイツ、韓国、オーストリア、イタリアなど9カ国。一方、今後も利用する方針の国は39カ国に上る。この中には米国、フランス、中国、ロシア、インド、カナダ、英国、そしてチェコやポーランドなど複数の東欧諸国などがある。特に東欧諸国では原子力利用の機運が高まり、新規の建設計画が次々に発表されている。背景にはEUの脱炭素政策の深刻な失敗がある。執筆現在、EUのエネルギー危機は収まる気配がなく、全域でガス・電力価格が高騰している。

ポーランド議会は昨年12月、EUのエネルギーシステムが「新しい気候政策手段の採用と実施に伴い、ポーランドにとって大きな脅威となった」とする決議を採択した。隣国のチェコでも、閣僚たちがエネルギー価格の急上昇を警告し、この冬、電気をつけ家を暖かく保つための化石燃料の使用に対して、EUがより寛大な態度を取るよう要請した。

現在の危機の要因は複数指摘されている。パンデミックの規制が緩和されて経済活動が予想以上に再開されたこと、エネルギー市場の自由化に伴い天然ガスの在庫が減少していたことなどである。だが何よりも天然ガスへの依存度が高まったのは、EUの脱炭素政策の結果だ。石炭火力発電を減らし、出力が不安定な再エネを大量導入したことで、両者の代わりに天然ガス火力に依存せざるを得なくなった。これは大きな地政学的影響を伴う。EUの天然ガス供給量の約半分はロシアからのものだからだ。

かくして欧州の電力供給の主導権はクレムリンに奪われつつある。かつてソ連に支配された苦い経験を持つ東欧諸国は、EUで策定された脱炭素政策のせいでロシアの地政学的脅威が高まることを警戒している。その現実的な打開策として期待を集めているのが、原子力発電の推進だ。

さて、EUタクソノミーは「原子力は持続可能な技術か」という実に大雑把な議論に過ぎないが、本当に重要なのは、いかにしてS+3E(安全性+環境性、経済性、供給安定性)の観点から合理的な原子力事業の規制体系を作り上げるか、という制度作りの国際的な競争である。

今、小型モジュール炉(SMR)などの安全・安価な原子炉の開発については、日本だけでなく米国、カナダ、フランス、ロシア、中国など多くの国がしのぎを削っている。不合理な規制のある国では電源開発はもちろん、技術開発も進まない。米国やフランスでは、過剰な規制によって原発の建設コストが高騰する一方、新型のSMRの許認可にも長い年月と費用がかかるようになってしまった。このようなことが続くと、ロシアや中国に負けてしまう。制度間の裁定が起きることを意識し、日本においても、可能な限り規制体系を合理的なものにする知恵が問われている。

すぎやま・たいし 1993年東大大学院工学研究科物理工学修了後、電力中央研究所入所。2017年キヤノングローバル戦略研究所入所。19年から現職。

【火力】電源の組み合わせ 勝利へ手堅い作戦

【業界スクランブル/火力】

 多少旧聞となるが、昨年の日本プロ野球は、ヤクルトスワローズが大激戦の末に日本シリーズを制し20年ぶりの日本一となった。野球は四番打者だけを集めても勝てないということは以前からよく言われていたが、今回のスワローズは、「2桁勝利投手、3割打者ゼロで日本一」という珍しい記録を初めて達成し、強いチームをつくるためには、ずぬけた選手を集めるより選手の個性をうまく引き出す方が大切であることを証明する結果となった。

さて、そんなことを考えつつ電気事業を振り返ると、電力も火力、原子力、水力、太陽光、風力とさまざまな電源種を組み合わせている一方、S+3Eの観点で絶対的エースが存在しない点がよく似ている。

そうであるにもかかわらず、エネルギーの議論になると、どの電源が一番安いのかといった話題ばかりで、多様な電源をうまく組み合わせることが大切との意見は世間ではマイナーであり、さらには何かの言い訳だと言われることすらある。しかし、野球より電気事業の方がよほど複雑なのだから、さまざまな電源種の特性を生かす工夫をせず、特定の電源に頼るばかりでは、S+3Eの実現など到底できるものではない。

ここでさらに懸念される話題がある。昨年末に立ち上がった長期の電源投資を検討する委員会において、CO2を発生する発電設備を対象電源から排除すべきではないかとの提案がなされていることだ。確かに長期を対象とするのだから、いずれは脱炭素をすることになるが、足元で再エネの拡大にも影を落としている供給力・調整力不足の懸念を払しょくすることが先決であり、そのためには、当面既設も含めた火力を活用しつつ、その間に将来に向けた技術開発や設備更新を着実に進めていくことが必要となるのではないか。

野球にも一つのアウトを献上しつつチャンスを広げる送りバントという作戦がある。脱炭素達成のためには、やみくもに脱炭素というホームランを毎打席狙うのではなく、勝利までの過程を見通し、今できることを積み上げていく手堅い作戦こそが必要となる。(S)

【マーケット情報/2月18日】原油下落、イラン産原油増加の見込み

【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、米国原油を代表するWTI先物、および北海原油の指標となるブレント先物が下落。中東原油を代表するドバイ現物も、前週から小幅に下落した。米国とイランの核合意復帰に向けた会合に進展があり、イラン産原油の供給が増加するとの期待が高まった。

イランの核合意復帰に向けた会合は、最終段階へ。米国が対イラン経済制裁を解除し、イラン産原油の出荷が増えるとの楽観が広がり、価格の下方圧力となった。

また、米国の石油サービス会社ベーカー・ヒューズが先週発表した国内の石油掘削リグの稼働数は、前週から4基増加し、520基となった。

ただ、政情悪化にともなう供給不安は根強く、価格の高止まりが続く。ロシアは15日、演習を終えた一部軍隊をウクライナ国境から撤収させると発表。これを受け米国は、ロシアとの首脳会談を表明し、緊張緩和の見込みが原油価格の重荷となった。しかし、18日には、ロシアとウクライナは互いに攻撃を受けたと非難。ロシアのウクライナ侵攻に対する懸念が一段と強まり、米国の対ロ経済制裁、およびロシア産原油の供給減少の予測が大勢となった。

WTI先物とブレント先物は、14日時点でそれぞれ95.46ドルと96.48ドルを付け、2014年9月以来の最高価格を記録した。また、ドバイ現物は15日、92.71ドルとなり、2014年10月初頭以来の最高値となった。

【2月18日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=91.07ドル(前週比2.03ドル安)、ブレント先物(ICE)=93.54ドル(前週比0.90ドル安)、オマーン先物(DME)=90.89ドル(前週比0.42ドル高)、ドバイ現物(Argus)=90.10ドル(前週比0.04ドル安)

【LPガス】「虎視眈々」の対応 業界一丸に期待

【業界スクランブル/LPガス】

昨秋以降コロナウイルス感染者数が急減、国内の沈滞ムードは一変したに見えたが、2022年が始まるとオミクロン株が猛威をふるい混沌とした情勢が続く。本年の干支は壬寅。「冬が厳しいほど、春の芽吹きは生命力にあふれ、華々しく生まれる」ことを示すというが、さて、どんな年になるのだろうか。

エネルギー業界はコロナ禍に加え、脱炭素化への社会的要請、カーボンニュートラルの実現に向けた課題が山積し、特に化石燃料であるLPガス業界は、その取り組みを加速させる必要がある。昨年末に全国LPガス協会の「LPガスのカーボンニュートラル対応検討会」が中間報告書をまとめた。報告書では「国は、温室効果ガス排出削減の観点から脱炭素化されたグリーンLPガスの研究開発や社会実装に取り組む産業界を後押しするとされているが、開発には時間がかかること、グリーンLPガスの製造原価が高くなることなどが予想される。また、競合エネルギーの脱炭素化、電源の脱炭素化、エネルギー全体の電化動向次第ではグリーンLPガスの商用化・本格普及前にLPガスの市場が消滅するリスクもある」と危機感を募らせる。

さらに、LPガスの市場が残るにせよ、現行のLPガスに炭素税が課されたものを継続して販売せざるを得ないため価格競争力を失う可能性や、将来的には行政による販売規制などが行われる可能性もゼロではないと指摘している。特に空調用、給湯用の石油、ガス機器のほとんどは電化に置き換えることが可能だ。LPガス業界では、トラジション期間中は燃料転換、省エネ機器の拡販で需要を守るとしているが、そもそも燃転は石油からLPガスへの転換であり化石燃料だ。50年のエネルギー業界の構造は全く異なるものになっていると専門家は予測している。

今後LPガス需要が急減することはないが、オール電化の流れを防ぐといった発想では劣後してしまうのは間違いない。今こそ元売りから卸売り・小売りの各LPガス事業者が一体となり、「虎視眈々」とチャンスをうかがうような取り組みに期待したい。(F)

原発訴訟で立証責任の在り方に変化 「責任所在は住民側」の原則に回帰

【羅針盤】森川久範(TMI総合法律事務所弁護士)

原発運転を巡る訴訟では、近年事業者に「立証責任」を負わせる傾向にあったが、変化し始めている。

2021年3月の広島高裁決定と11月の広島地裁決定を題材に、原発訴訟に詳しい森川弁護士が解説する。

 山口県内や広島県内に居住する住民が、伊方発電所3号炉について、地震等に対する安全性を欠いているため、住民の生命、身体等が侵害される具体的危険があるとして、原子炉の運転差止を命ずる仮処分命令を申し立てた。この事案に対して、2021年3月18日に広島高裁が、同年11月4日に広島地裁が、いずれも運転差止を認めない決定を出した(以下併せて「両決定」)。

両決定では、民事保全(仮の地位を定める仮処分、以下「仮処分」)における原子炉の運転差止の申し立てに対して、裁判所の判断枠組み、特に主張立証責任(主張立証に失敗した場合に不利益を被ること。民事保全における立証責任は疎明責任であるが、本稿では単に「主張立証責任」という)の判断について、従前の裁判所の判断とは一線を画する判断がなされたため、主張立証責任の判断におけるこの二つの裁判例の意義を解説したい。

東日本大震災機に変化 運転差止認める決定増加

両決定は運転差止の「仮処分」命令申立事件であったが、原子炉の運転等を争う裁判の類型は三つに分かれる。一つは、国が行った原子炉設置許可処分の取消しを求める行政訴訟であり、他には、私人である電力会社に対する裁判として、原子炉の運転差止を求める民事訴訟と、両決定のように、その差止の仮処分を求める暫定的な民事保全がある。これらの裁判類型の差異は表の通りである。

原発運転を巡る裁判類型の違い

原子炉の運転の民事差止は、東日本大震災前から提起されていた。震災前に民事差止を認めたのは、民事訴訟での地裁レベルの判決1件のみ(後日高裁にて取消し)であった。これに対し、震災後には、原子炉の運転の民事差止が仮処分で争われることが多くなり、これまでに仮処分決定は地裁レベルと高裁レベルとを合わせ29件、高裁レベルの決定だけでも11件出されている。

また、震災後は原子炉の運転差止を認めるものも増えている。これまでに、民事訴訟で運転差止を認めたものは地裁レベルの決定が2件あり、仮処分では、地裁レベルの決定3件と高裁レベルの決定2件がある(なお、仮処分で運転差止を認めた決定はいずれも高裁において覆っている)。

震災後に原子炉の運転差止を認める決定が増えているのは、仮処分での主張立証責任の判断枠組み、いわば土俵の設定も影響していると思われる。というのも従前は、訴訟と異なり、立証の程度も一応確からしい疎明で足りるとする暫定的な仮処分でも、主張立証責任の判断枠組みについては、住民側の立証負担を軽減した、原子炉設置許可処分の取り消しが争われた行政訴訟における最判1992年10月29日(いわゆる伊方最判)の判示を参考とした。これを仮処分用に修正し、やはり住民側の立証負担を軽減した枠組みを採用する裁判例が大勢を占めていた。

その大要は、①原子炉の運転によって生命、身体等に対する侵害が生ずる具体的危険性があることの主張立証責任を住民側が負うことが原則であるとしつつも、事業者側が安全性についての資料を全て保有するという証拠の偏在等を理由に、この原則を修正し、②事業者において、原子力規制委員会が用いた審査基準に不合理な点がないこと及びこの基準に適合するとした同委員会の判断に不合理な点がないことを相当の根拠に基づいて主張立証しなければ、具体的危険性の存在を事実上推定される―などとして、事実上の主張立証責任を事業者側に負わせ、住民側の証明の負担を軽減していた。

立証責任を事業者に負わせず 両決定の意義大きく

このような仮処分における主張立証責任に関する土俵設定について、両決定はいずれも、具体的危険性の主張立証責任を原則通り住民側が負うとして、事実上の主張立証責任を事業者側に負わせたり、住民側の証明の負担軽減を図ったりすることはなかった。その理由付けは両決定で異なるが、広島高決3月18日は、具体的危険があるとの法的判断においては、規制委における判断やその判断の合理性の有無等は具体的危険性の存在を判断する上での重要な事実の一つにとどまるとした。

その上で、原子力発電所の安全性に影響を及ぼす大規模自然災害の発生の時期や規模については現在の科学的知見では具体的に予測できず、科学的には、直ちに、いずれの見解が正しいともいえないと指摘。独自の科学的知見を有するものでない裁判所において、原子炉の安全性についての具体的な検討を離れて、直ちに、住民の生命、身体等が侵害される具体的危険があると事実上推定するなどということは相当でない、とした。

そして広島地決11月4日は、具体的危険を巡る評価が合理性を有することについて事業者側に主張、疎明責任を負わせ、それが遂げられているかを裁判所が審査することは、結局のところ、規制委による多方面にわたる極めて高度な最新の科学的、専門技術的知見に基づく総合的判断の過程を、そのような知見を持ち合わせていない裁判所が事後にやり直すことと実質的に等しいことになると説明。

しかし、そのような司法審査のありようは、原子炉等規制法が原子炉施設の安全性に関する基準の策定および安全性の審査の権限を規制委に与える趣旨に反し、相当でないとした上で、規制委が関与しない手続である民事保全事件において、住民と事業者との間のいわゆる「証拠の偏在」なるものや、地元に対する働きかけの態様を強調することに決定的な意義を見いだし難いとした。

今後の原子炉の民事運転差止への影響が注目される。

もりかわ・ひさのり 2003年検事任官。東京地方検察庁などを経て、15年4月TMI総合法律事務所入所。17年11月から原子力規制委員会原子力規制庁にて原子力発電所に係る訴訟などに従事。20年11月同法律事務所に復帰。22年1月カウンセル就任。

【都市ガス】欧州タクソノミー 天然ガスを追加

【業界スクランブル/都市ガス】

1月1日、欧州委員会は天然ガスと原子力をタクソノミー(エネルギー分類)で「グリーンエネルギー」と位置付ける方針を発表した。「2050年GHGネットゼロ」の達成には莫大な資金が必要となる。欧州委員会の気候変動対策「欧州グリーンディール」では、今後10年間で官民合わせて少なくとも1兆ユーロ(約120兆円)規模の投資を計画している。その対象に天然ガスと原子力を加える方向というわけだ。

天然ガスは化石燃料でCO2を排出するため「グリーン」と分類するには違和感があるとの声が加盟国の一部から出たが、欧州委員会は「過渡的な措置だ」として理解を求めたという。他方、原子力発電はCO2をほとんど出さないが、原発廃止を決めている国々からは反対の意見が出ていて、ドイツ、オーストリア、ルクセンブルクなどはタクソノミーに両エネルギーを含めることに反対している。1月中には採択される見通しだ。

最近、オランダでは新規天然ガスパイプラインの敷設が認められなくなった。しかし、天然ガスがタクソノミーに追加されれば、欧州において今後天然ガスインフラへの投資が進む可能性が出てくる。欧州のこの流れは世界的に波及していくことになり、日本への影響、特に現在検討中のグリーンエネルギー戦略への影響は大きいだろう。

われわれ都市ガス事業者にとっては朗報といえよう。LNG受入基地、パイプライン、天然ガス火力など、膨大な資金を伴うインフラ投資の意思決定はますます難しい状態になっている。そうした中、天然ガスインフラ投資が再生可能エネルギーへの移行に貢献する、持続可能な経済活動とのお墨付きを得られる可能性が出てきたのだ。

ただし、欧州委員会は50年までの脱炭素化を明言しており、あくまでも天然ガスは過渡的な措置の位置付けであることを忘れてはいけないだろう。これからもカーボンニュートラル実現に向けての努力を怠ってはいけない。(G)

暮らしを彩るサービスを提供 地域の発展と共に成長する企業に

【エネルギービジネスのリーダー達】野田英智/TSUNAGU Community Analytics社長

中部電力グループのDX化を一手に請け負い、人材とノウハウを着実に蓄積している。

2年目を迎える2022年度は、外販を本格化し中部地域のDX化の担い手としての一歩を踏み出す。

のだ・ひでとも 1991年名古屋工業大学大学院工学研究科博士後期課程終了、中部電力入社。18年技術開発本部技術企画室長、19年事業創造本部副本部長などを経て21年2月から現職。

 中部電力グループのデジタルトランスフォーメ―ション(DX)化を推進すべく、2021年2月に発足、4月に事業を開始したTSUNAGU Community Analytics(TCA)。中電事業創造本部が担ってきたデータ分析やデータ利活用のコンサルティング業務などを引き継ぎ、同本部の野田英智副本部長が社長を兼務する。

野田社長は高度なデータ分析に特化した専門組織として同社を立ち上げた狙いを、「DX化に欠かせない要員(データサイエンティスト)とデータ分析のノウハウを集約し、グループ会社、さらには中部地域のDX化を効率的に進めていくことだ」と話す。

人材の獲得と育成へ 独自の給与体系構築

デジタル・情報通信技術の進化により、データ分析に基づき顧客や社会ニーズの実態を精緻に把握し、ビジネスモデルを変革させるDXへの要請が高まっている。DX化を進めるには、データ解析に関する高度な専門スキルを持つプロフェッショナルの確保が欠かせないが、こうした人材は不足状態にあり争奪戦の様相を呈しているのが実情だ。

社会の波に乗り遅れることなく、円滑にDX化を進められるかどうかは、将来のグループの競争力に直結する。TCAの役割は、これまで外注していた情報分析業務などを内製化することで、グループ内にノウハウを蓄積することに加え、優秀な人材を獲得・育成することにある。

そのため同社では、人件費が高騰の一途をたどるデータサイエンティストを戦略的に採用できるよう、ほかのグループ会社にはない柔軟な給与制度を導入しているのに加え、社員が持つスキルに応じて職務内容を明確に規定し評価する「ジョブ型」雇用も先駆的に採用している。

現在のところ、12人いる社員は全て中部電力グループと協業先のアクセンチュアからの出向者だが、今後はプロパー社員の採用を積極的に行う計画で、22年度は経験者を採用し、23年度以降は新卒採用を行い人材育成にも力を入れていく構えだ。

初年度は、約30件請け負ったプロジェクトの多くが小売会社の中電ミライズや送配電会社の中電パワーグリッド(PG)といったグループ会社を対象としたものだった。5年後には、グループ外の売上比率を半数まで引き上げたい考えで、データアナリストとコンサルタントを合わせて50人体制の構築を急ぐ。

DXの効果に手応え 来年度は外販も積極化

野田社長は、グループ会社のDX支援による業務改善の成果には、強い手ごたえを感じているようだ。たとえばミライズにおいては、顧客の特性に合わせたキャンペーンなどを展開することで、新規獲得や離脱防止につなげた。またPGでは、需要予測によって的確なタイミングで資材発注を行うことにより、過剰生産、在庫の抑制を可能にした。

「現場は、何か課題があることは認識していても、解決のトリガーとなる課題が何か見えていないことが多い」と言い、コンサルティングを通じて顧客が認識していない真の課題やニーズを引き出すことに注力してきたという。

同社のもう一つの役割が、中部地域全体のDX化を担うことだ。というのも、同地域の産業はすそ野が広く、DX化のための人材を社内で抱えられる大企業のみならず、中堅企業の存在も地域経済にとって非常に大きい。こうした企業も含めてDX化を進めることが、地域の底上げの鍵を握ると考えている。

グループ内のさまざまな課題をデータ分析により抽出・解決した経験や作り出したモデルは、グループ外の企業にも適用できるものも多い。そこで2年目からは、ここで培ったノウハウを生かした外販ビジネスを積極化していく。

そのために現在、連携しているのが地元の金融機関だ。多くの取り引き企業を持つ金融機関には、DXをどう進めるべきか悩んでいるとの声が多く寄せられており、その最大の障壁がコスト。

そのため、同じような業態の企業2~3社を集約し、一つの仕事として請け負うなど工夫して進めていくことを検討している。さらに今後は、地域のテック企業や大学などと連携し、双方の技術を組み合わせた新たなサービスを創出するなど、より幅広い業種のニーズに応えていくための「武器づくり」も着実に進めていく。

TSUNAGU Community Analyticsには、「人と人、人と社会をつなぎ、グループ、そして地域コミュニティのDX化を進め、新しいコミュニティの形を創造するという思いを込めた」と語る野田社長。中電グループが地域とともに持続的な成長を果たすためには、地域課題を解決しより良い暮らしを実現するサービスを打ち出していかなければならない。それをデータ分析で強力にサポートしていく。

国民投票で原発運転再開を認めず 蔡政権「非核家園」目標の展望は

【論点】台湾の脱原発/鄭 方婷 日本貿易振興機構アジア経済研究所研究員

台湾の蔡政権は、数回実施した国民投票の影響を受けつつも、脱原発政策を維持してきた。

ただ、そこに脱炭素目標もかぶさり、電力需給ひっ迫という日本と同様の課題に直面する。

 台湾の蔡英文現総統は、2016年に政権交代を果たして以降、「持続可能なエネルギー政策」を推進してきた。その柱となるのが、脱原発(「非核家園」=原発のないふるさと)と再生可能エネルギーの拡大である。

具体的な数値目標は、16年当時の石炭火力発電設備容量(約35・5%)を25年には30%に、原子力発電は約10・4%からゼロに縮小または廃止する。一方、これにより減少した電力供給は、天然ガスを約31・6%から50%に、再エネを約9・5%から20%に拡大して補う。特に台湾では原発の完全な廃止を目指すが故に、その道のりも平たんではない。

脱原発のプロセスが本格化したのは17年の「電業法」(電気事業法)第95条改正である。これにより、台湾最南端に位置する第三(馬鞍山)原発(屏東県恆春鎮)の稼働停止予定の25年をもって、全ての原発を停止させる計画に法的根拠を与えた。さらに政府は既存の原発について稼働免許を延長させない立場をとっており、実際はすでに一部の原発で廃炉プロセスが始まっている。

既存の4基の原発の中でも、第四(龍門)原発の廃止は、現与党民進党の政治方針における核心の一つである。民進党は原発反対の市民運動を支持するなど、脱原発の姿勢を貫いてきたが、現野党の国民党は、発電コストや電力供給の安定性などから一貫して原発支持の立場である。

国民投票で紆余曲折も 原発「段階的廃止」維持

その民進党が政権の座に就いて以降、台湾で行われた2回の国民投票では、脱原発自体の是非、第四原発の稼働の是非を問う投票案も含まれていた。台湾ではエネルギー問題が最優先の政治課題の一つであるといっても過言ではない。

しかし、これまでの脱原発への道のりは必ずしも順風満帆ではなかった。18年11月に実施された1回目の国民投票では、脱原発の是非を問う投票案が否決され、改正電業法第95条にある「すべての原発は25年までに稼働停止とする」との規定が直ちに廃止された。その上、2年間は同様の法改正ができない仕組みとなっており、「25年の脱原発」は法的根拠を失ったのである。

その後、第四原発の商業運転再開に関する国民投票運動が組織され、21年12月下旬に国民投票が実施されることが決定した。国民投票案は、有効同意票が反対票よりも多く、かつ有権者総数の4分の1以上であれば可決される。第四原発の商業運転再開を求める投票案はこの条件を満たさなかったことから、現在の「原発の段階的廃止」という政府方針が今後も継続される見込みである。

台湾で脱原発の準備が着々と進む背景として、民進党への政権交代のほかに、いくつかの理由も挙げられる。まずは福島第一原子力発電所の事故である。地震が頻発する台湾では社会に大きな衝撃が走り、13年3月には大規模な反原発デモが組織され、22万人以上の市民が参加したといわれる。

また、13年には第四原発の所在地および付近の海域に新たな断層帯が発見されている。その上、第四原発については設計上のトラブル発生、安全確認・試運転テストを完全にクリアできなかったといった事情があり、安全性そのものへの不安が解消されていない。

さらに日本と同様、核廃棄物の処理も深刻な問題として強く認識されるようになった。台湾においても、核廃棄物の処理や安全性対策などを考慮すると、原発はもはや安価な発電手段とは言えなくなっている。

第四原発の稼働は先送りされることに
出典:台湾電力会社

CNと脱原発両立は可能か 電力ひっ迫が最大の課題

台湾では「温室効果ガス削減管理法」により、温室効果ガスの排出を「50年に05年比で50%削減」と定めている。また、蔡総統は昨年4月の「世界地球日」に際し、「カーボンニュートラル」を新たな政策目標として打ち出すなど、世界的な脱炭素の潮流に合わせた積極的な姿勢をとっている。カーボンニュートラルとは、50年前後にCO2などの温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすることで、地球全体の気温上昇を1・5℃以内に抑えるための必要条件の一つとされている。

16年から本格的にスタートした台湾のエネルギー・トランジションは、20年までの途中経過を見ると、確かに原発は減って約 6・7%に、再エネと天然ガスは増えてそれぞれ16・4%、32・4%になっているが、同時に電力需要の急増に伴い石炭火力も36・4%と増えてしまっており、新たな課題に直面している。

電力需要の増加の裏には、好調な経済がある。半導体・精密機器をはじめとする製造業は内需・輸出ともにパンデミック下でも好調を維持しており、昨年、通年のGDP成長率も6%以上と推定されている。こうした状況下で電力需要も高い水準で推移しているが、さらに熱波・寒波といった異常気象が発生すると、電力需要の突然の増加に現行の電力網が対応できず、供給トラブルに(再び)陥る可能性は小さくない。

実際、昨年5月中旬には、新型コロナウイルス感染症の急拡大と連日の猛暑が重なり在宅勤務者が増えたことで、全国で大規模停電が複数回発生する事態となった。これを受け、政府は4カ所ある原発のうち唯一稼働している第三原発の2号機を発電量の上限まで稼働させ、さらに年度整備・メンテナンス中の1号機も予定を繰り上げて運転を再開させ、事態の収拾を図った。

エネルギー・トランジションで、原発に依存せずカーボンニュートラル目標の達成を目指す台湾だが、好調な経済活動や異常気象による電力需要のひっ迫は、今後も最大の課題であり続けるだろう。

ちぇん・ふぁんてぃん 2005年国立台湾大学政治学部卒。09~14年に東京大学法学政治学研究科で修士号、博士号(法学)取得。14年から現職。

【新電力】合理的な価格形成へ 需要家の市場参加を

【業界スクランブル/新電力】

小売り電気事業者の社会的な意義、役割とは一体何なのか。このような疑問は小売り全面自由化による競争激化後、度々議論されてきた。一部で「転売ヤー」などと痛罵されることも増えてきている。しかしながら、本来電源費用の回収機能を持つ小売り電気事業者の役割を形骸化させてきたのは固定費回収の枠組みなく、限界費用入札の枠組みのみを整備した制度設計当局の資源エネルギー庁であり、有識者による審議会だったのではないか。小売り電気事業者の位置付けは、制度設計当局と有識者が示していく必要がある。最近、電気事業審議会時代から委員を務めている有識者から、他責とも受け取れるようなコメントが多く見られる。当該経済学者には猛省を促したい。

さて、英、仏、独、蘭、ベルギー、フィンランド、チェコ、シンガポールでも小売り事業者が破綻している。欧州では、エネルギー価格高騰に伴い、特に電力を大量に消費するアルミニウム、電炉、化学といった産業では、需要家が生産活動を停止する事態にも発展している。これはある種の「需要破壊」とも呼べる現象である。欧州の産業用需要家はエネルギー事業者の小売り部門を通じて、一定量は先渡し取引を通じて電力確保もしくは、先物取引を活用してヘッジする傾向にある。今回の市場価格高騰を受け、電力転売益により操業停止しても損失を補えるだけの収益が得られることから、産業用需要家では電力転売がちょっとしたブームになったようだ。

昨年12月28日に経済産業省で開催された「第1回 卸電力市場、需給調整市場及び需給運用の在り方勉強会」においては、「小売電気事業者がDRなどの根拠に基づく合理的な買い価格での応札をする限り、市場価格は合理的に形成される」「どのような方策をとるべきか」といった問いが事務局から示された。日本では産業用需要家のプロシューマー化が遅れているが、小売り事業者の努力によって成し遂げられるものではなく、産業用需要家の市場参加、プロシューマー化によって実現されるとみるべきであろう。(M)

欧州電力危機と第四の電力価値「ΔkW時」

【ワールドワイド/コラム】水上裕康 ヒロ・ミズカミ代表

一般に電力の価値には「kW(容量)」「kW時(電力量)」「ΔkW(調整力)」の三つが挙げられる。ところが最近の欧州の電力危機を見ると、不足したのは一定期間の発電量を柔軟に増減する「ΔkW時」とでもいうべき第四の価値である。商取引でいうオプションだ。在庫を持てない電力の市場取引において、実は非常に大きな価値を持つものである。

欧州では昨年5月まで長引いた冬の寒さと、秋口の風力発電の不調に対してガス火力の発電量増加で対応したが、ガスの在庫が限界近くまで下がり価格高騰につながった。昨年のわが国の電力危機も、数週間にわたる需給変動に対して発電量を増減する能力の欠如が原因だ。対策として再生可能エネルギーや原子力を増やせとの声もあるが、再エネはかえって発電量の調整ニーズを増し、原子力は発電量の増減は苦手だ。結局、この任務を中心的に担うのは火力であり、その価値の源は燃料の柔軟な確保である。

燃料の柔軟な確保には、まず燃料種(炭・ガス・油)や調達先の分散、輸送の確保、備蓄の保有などの仕掛けが前提だ。加えて契約、売買スキル、取引相手との信頼関係が欠かせない。変動再エネが増えてΔkW時の要請が増す中、対応可能な電源をガス火力に集約し、そのガスも「じきに使わなくなるよ」と取引先にけんかを売るのは、ほとんど自殺行為だ。そもそもガスは貯蔵が容易でなく、需要は冬に偏り、LNGはスポット取引も限られる。相当量の在庫なしには、冬に発電量の増減などできないのだ。

今後、蓄電池やデマンド・レスポンス(DR)がΔkWを担うと言われるが、残念ながらΔkW時を担うのは容易ではない。毎冬繰り返される電力危機から脱却するためにも、脱炭素に向けた歩みを着実に進めるためにも、議論を深めたい“価値”である。

【電力】需給のタイト化 政策選択の失敗

【業界スクランブル/電力】

本誌1月号の今井尚哉氏のインタビュー記事を興味深く読んだ。首肯する部分も多かったが、氏が資源エネルギー庁次長として関わった電力システム改革についてはもう少し踏み込んでほしかった。すなわち、「電力は自由化しても安定供給マインドのない、つまり容量を持たない人を市場参入させてはならない」「容量市場創設が自由化の前提」であるのに、現状は「太陽光事業者や一部新電力のつまみ食いを許している」という現状認識は筆者も共有するが、その元凶である余剰電力全量をスポット市場に限界費用で入札する大手電力による自主的取り組みに触れてほしかった。筆者の理解では、この取り組みは当時の審議会委員であった一部学識者が強く主張したものだ。その学識者は、需給がタイトなときの市場価格のスパイクにより固定費は回収できる、市場で固定費が回収できないとしたら、それは設備が多すぎるとの主張だった。

これは一つの考え方ではある。だが、政府がこの主張を採用する選択をするのであれば、信頼度目標を達成すべく政府が介入して、価格スパイクの可能性をふさぐべきではない。市場でコストが回収できる設備量こそ正しい設備量であり、設備形成はあくまで市場に委ねるのでなければ首尾一貫しない。残念ながら政府関係者のコミュニケーション不足か、この認識が共有されていなかったようだ。価格スパイクの可能性がふさがれた帰結として、設備の退出が静かに進展する。これに対する歯止めを企図して、容量市場の導入が決まったが、本格導入前のこの冬の需給はここ10年で最もタイトになっている。

若干の皮肉を込めて言えば、この状況は政策の失敗ではない。このようになる政策を選択した結果だ。問題は、そういう選択をしたのだという自覚に乏しい関係者が多いように見えることだ。だから、需給のタイト化も市場価格上昇も「これは予定していたことだ」とのメッセージが政府ないし当該学識者から出されないものか、いや出すべきではないかと、筆者は思っている。(U)

【コラム/2月18日】低調な国会論戦

福島 伸享/衆議院議員

 これを執筆している現在、国会では衆議院の予算委員会での審議の真っ盛りで、採決に向けた出口が見え始めたころである。しかし、憲政史上最速ペースで進む予算案の審議は、盛り上がりに欠け、国会審議の模様がテレビや新聞で報道される機会はめっきりと減ってしまった。本来なら、7月の参議院選挙を前に与野党の対立構造を明確にして国民の判断を受けるべき重要な国会なのだが、そうならないのは野党第一党の立憲民主党が「野党は批判ばかり」という批判を気にして、政府に対して腰の引けた議論しかできないからだ。

もとより、週刊誌に報道されたスキャンダルを後追いでテレビ報道目当てに追及するような、一部の国会議員の姿勢は見苦しい。しかし、岸田政権が掲げる政策に厳しく追及すべき対立軸がないわけではない。そもそも水戸黄門の印籠のように繰り返しだされる「新しい資本主義」という紋切りフレーズは、何度聞いても何が「新しい」のかさっぱりわからない。羅列されている個別の政策に、特段「資本主義」という近代のパラダイムを超えうるような「新しい」政策はない。私自身も5人の「有志の会」という小さな会派から予算委員会の審議を眺めているが、いくつもある野党それぞれの党や会派がバラバラに、しかも党の中でも脈略もなく聞きたいことだけを聞いて、体系的・戦略的に岸田政権の掲げる政策の問題点を浮き彫りにできていないのだ。

 私自身は、この国会の一番の焦点は経済安全保障であると考えている。確かに経済力を背景とした中国の覇権主義傾向が強くなり、米中対立が深まる中で、様々な事態を想定したサプライチェーンの確保や、日本の最先端技術が軍事転用されないような仕組みは必要だ。しかし、過剰な規制や不透明な規制の運用が我が国の産業を委縮させてもいけない。エネルギー分野においても、これから新たな設備投資をする時に、安全保障上懸念のある製品が使われていないか事前審査を受けなければならない場合もあり、違反には罰則も課せられる予定だ。事業者にとっては、かなりの負担となる場合もありうる。

 このような制度を導入するに至った背景はどこにあるのか、米国の真の狙いは何なのか、日本政府自身にインテリジェンスも含め規制を執行する能力はあるのか、国会で議論しなければならない本質的な問題はいくらでもある。私も、2月2日の予算委員会で岸田総理と短時間ながら議論したが、そもそも「経済安全保障は何のためにやるのか」という問いに対する首相の答弁すら、はなはだ頼りないものであった。理念なき規制がもたらす弊害は、3.11後の原子力安全規制のようにさまざまな分野でこれまでも生じている。

 折しもそうしたときに、肝心の法案担当責任者の藤井国家安全保障局内閣審議官が、週刊誌で女性問題と不適切な経費使用の報道がなされて担当を外されるという事件が起きた。藤井審議官の問題の背後関係については、さまざまな風評が流れている。それが確かなものかはわからないが、経済安全保障政策が岸田政権の目玉として俎上に上がるに至るまでに、さまざまな経緯があったことも報道されている。

 経済安全保障以外にも、コロナ対策は当然のこととして、原子力政策の再構築をはじめとするエネルギー政策など岸田政権と対立軸を明確にすべき問題は山積みである。私の所属する有志の会では、5人のメンバーがフル回転して国会論戦に当たってまいる所存だが、議席に応じて配分される質疑時間はごくわずかだ。豊富な審議時間を持つ野党第一党の皆さんにも奮起を促したい。

【プロフィール】東京大学農学部卒。通商産業省(現経産省)入省。調査統計、橋本内閣での行政改革、電力・ガス・原子力政策、バイオ産業政策などに携わり、小泉内閣の内閣官房で構造改革特区の実現を果たす。2021年10月の衆院選で当選(3期目)

EUタクソノミーで欧州紛糾 ドイツ連立政権の選択が鍵に

【ワールドワイド/環境】

2022年1月1日、欧州委員会は持続可能な経済活動を分類する制度である「EUタクソノミー」に合致する企業活動に原子力や天然ガスを含める方向で検討を開始したと発表した。50年カーボンニュートラルを目指すEUは、その目的に実質的に貢献する事業や経済活動の基準を「タクソノミー」において明確化することで、クリーンな投資を促進しようとしている。

 タクソノミーでの原子力や天然ガスの扱いは、加盟国間で意見が大きく割れてきた。原子力への依存度が高いフランス、フィンランド、チェコなどは、CO2を多く排出する石炭火力からの移行を果たすために原子力は欠かせないとするが、原発廃止を掲げるドイツ、オーストリア、ルクセンブルクなどは頑強に反対してきた。

 欧州委員会が今回、このような方針を掲げた背景には欧州を席巻するエネルギー危機が大きい。欧州諸国は風力を中心に再生可能エネルギーを遮二無二推進する一方、ベースロード電源であった石炭火力は炭素排出量が多いとの理由で次々に閉鎖。その結果、再エネの出力変動の調整の役割を天然ガスが担うこととなった。しかしコロナ禍からの経済回復に伴い電力需要が拡大する中で、昨年は風況が非常に悪く風力発電の出力が大幅に低下する。欧州で天然ガス需要が例年以上に高まると同時に、世界規模で天然ガス需要が増加したことで欧州のガス価格は6倍にまで上昇。電力価格高騰が発生した。

 根本的な原因は化石燃料の需給ギャップだが、価格が上昇しても新規投資は停滞している。この背景には欧州発の環境原理主義に立脚する化石燃料たたきの傾向があり、COP26で化石燃料セクターへの公的投資の差し止めを求める共同声明に米国、EU諸国が名前を連ねたのはその表れである。

 長期化するエネルギー危機の下で、再エネ、天然ガス二本足打法の限界は明らかである。欧州委員会が天然ガス、原子力をクリーンエネルギーに加えたのはこうした行き過ぎた政策の軌道修正とみるべきだろう。しかしこれはあくまで欧州委員会の提案であり、今後、専門家グループの検討を経て欧州議会、欧州理事会で決定されることとなる。連立政権に緑の党が参加したドイツがタクソノミーに原子力を含めることをすんなり受け入れるとは考えにくい。熾烈なバトルはまだまだ続きそうだ。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院特任教授)

ASEANで広がるネットゼロ アップル・アマゾンも資金援助

【ワールドワイド/経営】

第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)では、多くの国がネットゼロ目標を発表する中、各国のさらなる目標引き上げに向けて活発な議論が繰り広げられた。

 東南アジア諸国連合(ASEAN)では、COP26開催前からインドネシアが2060年ネットゼロを公表したほか、タイ(65~70年)、マレーシア(50年)もネットゼロを宣言し、これに追随してベトナムがCOP26で50年ネットゼロを発表し注目を集めた。さらに国としては目標未設定のフィリピンやシンガポールでも、現地企業が相次いで独自のネットゼロ目標を掲げ、政策立案に先行してカーボンニュートラルに向けたエネルギー転換に取り組んでいる。

 火力発電比率が約7割、石炭火力だけでも約3割を占めるASEAN諸国が突如ネットゼロにかじを切ったことは驚きだが、その背景には国際社会からの圧力に加え、気候変動による実害を受け始めた点が挙げられる。世界最大の群島国であるインドネシアや長い海岸線を持つベトナムでは海面上昇に直面、メコン川流域のラオスやカンボジアでは洪水が頻発している。

 ASEAN地域でネットゼロに向けたエネルギー転換の鍵を握るのは、省エネ・再生可能エネルギーの飛躍的な普及、CCUS(CO2回収・有効利用・貯留)などの脱炭素化技術、および社会全般の電化だ。ただしASEAN諸国は資源構成や経済発展の度合いが異なるため、目標経路にそれぞれ特徴が見られる。

 例えば、薪などの利用が中心のミャンマーの未電化地域では、系統整備や分散化電源による電化の加速が優先され、再エネの普及が遅れているインドネシアでは、火力発電の代替としての再エネ転換や遠隔地のミニグリッド構築が重視される。ベトナムのように近年急速に再エネ普及が進んだ地域では、既に出力変動への対応が課題として浮き彫りとなっている。

 国際エネルギー機関は、ASEAN地域の電力需要が今後も高い伸びを示し、40年には現在の約2倍に増加すると予想している。域内では経済発展と環境を両立させる取り組みが進展しているが、課題は資金不足だ。これに対し、最近ではアジア開発銀行による脱石炭火力スキームのほか、アマゾンやアップルなどによる巨額の投資ファンド設立といった支援の動きも活発化し始めた。電力・通信など基礎インフラの整備が遅れていたASEAN地域は最先端技術の導入による「リープフロッグ現象」のポテンシャルを秘めている。

(柳 京子/海外電力調査会調査第二部)

故荒木浩氏の思い出

【追悼】

東京電力、電気事業連合会の会長を務めた荒木浩氏が永逝された。

優れた時代感覚と実行力で、東京電力の改革を前進させた。

好きな天体観測の話になると思わず笑みをこぼす一面も

 時代の転換を自ら担う覚悟 先を読む力で「自由化」にも対応

「(私は)エリートじゃないから」。荒木浩氏は、東京電力のトップに上り詰めても諧謔的な物言いを変えようとしなかった。だがよく耳を傾ければ率直な心情と分かる。同じ総務部門を土台に強固な体制を築き上げた前任の那須翔元社長、経団連会長を務めた平岩外四元会長のラインと比べると確かにその経歴は、起伏に富んでいた。

東京生まれ、1954年東大法学部を卒業し入社。転機になったのは燃料部燃料調査課長の時である。絶大な力を持っていた上司と衝突し、行き場を失った。東電人生の危機、救ったのは慧眼の持ち主平岩総務部長だった。しかし英語が行き交うような前職場と比べると総務部門の仕事は過酷だった。人脈も細く苦労が積み重なった。

79年総務部長。やがて光明がさす。営業部門でくすぶっていた山本勝氏(62年京大法卒)を見出し、総務部門要職に就けるとまさに型破りの活躍をした。「清濁併せ呑んで物事をまとめあげる才覚、大胆で柔軟な発想」(荒木氏評)は、政・官・財・マスコミ各界に幅広い人脈を作り上げた。背番号のない同じ〝拾われ組〟の上司・部下の関係は、以後太いきずなとなり、東電改革にまい進する(山本氏は2001年不帰の人に)。

「普通の会社を目指そう」「『電』の字のつかない人と付き合おう」等々。93年社長、95年電気事業連合会会長に就任し、99年会長に退くまで荒木氏は、常にキャッチコピーを編み出し社員・グループ、さらには業界人へ呼び掛けた。

荒木経営の特色は、優れた時代感覚と実行力。〝聞く耳〟を持ち施策に結びつけた。バブル崩壊後の低成長下の電気事業を「初めて供給サイドから需要サイドへと事業運営のパラダイム変換が行われた時代」と見て「需要増~設備増強~資本費増大という悪循環サイクルを断ち切る」とした。電事連会長として「送電線を開放する」と表明した電力自由化も〝中年太り〟東電の改革に取り入れた。

「先を読む力」が備わっていて時代の転換を自ら担っていく覚悟があったのだろう。象徴的場面が、02年「東電データ不正問題」での荒木氏ら首脳陣5人の一斉辞任と次世代への引き継ぎである。過去の責任をとる形で平岩相談役の退任を含めた決断は、まさに戦後電気事業の総決算といった意味合いさえ感じる。その荒木氏を同世代の電力首脳は、「友人」「戦友」と呼び、付き合いは多年に及んだ。

懸案の電源開発の原子力進出問題が決着したのち、一方の田中眞紀子元科学技術庁長官は、「荒木さんは財界で一番笑顔が素敵」と伝えたことがあったという。そういえば好きな天体観測の話になると少年のような笑みをこぼすことがあった。笑顔も似合う人だった。

21年12月6日、90歳で逝去。

文:中井 修一/電力ジャーナリスト