テーマ:岸田政権下のエネルギー政策
業界が注目するクリーンエネルギー(CE)戦略の議論が、2021年12月16日に始まった。第六次エネルギー基本計画の失敗を挽回するのか。それとも引き続き政策は停滞を続けるのか。
〈出席者〉 A元経産官僚 B電力関係者 C霞が関事情通
――衆院選を経て岸田政権のカラーが見え始めてきた。12月6日の所信表明演説でも、エネルギー政策について何点か語っていた。
A しかし「新しい資本主義」が何を指すのか、哲学やビジョンが見えなかったし、エネルギーも同様に何をやりたいのか不明だ。特に一丁目一番地に「社会のあらゆる分野の電化」を掲げるなんて、何をしたいのか全然ピンとこない。これまでのエネルギー政策から見てかなり違和感がある。まずできることは供給面のグリーン化なのに、いきなり電化なのか。送配電網や蓄電池に関しても具体性を欠き、光り輝くものが見えない。役人の作文だとしても安倍、菅政権時代よりも熱がなく、記事の見出しにもなっていない。
B 確かに「あらゆる分野の電化」だけでは説明不足。電源のゼロエミッション化は既定路線だが、熱需要でCO2を出し続けていたらカーボンニュートラル(CN)にはならない。この熱をできるだけ電化するという方針を言わんとしたのではないかと推察する。
期待を込めた見方をすれば、粛々と仕事をこなしていく意思はにじんでいたと思う。火力の燃料転換や送配電網のバージョンアップなどやるべき実務を挙げ、特にエネルギー政策の重要なピースである原子力を名指しはしなかったが、CE戦略において政策を見直していくのだろう。大上段から国民に原子力の是非を問うていては、なかなか前進しない。原子力に関する国民の確たるコンセンサスはまだないが、必要なオプションとして、華々しく語らなくとも、運転期間の延長問題をはじめ地に足のついた政策の推進を望みたい。
CE戦略は評判倒れ? サイクル見直しの棚上げ続く
C (温暖化防止国際会議の)COP26で、岸田文雄首相がCE戦略のことを「グリーン」と言い間違え、その後あえて「クリーン」と言い直したから、余計に注目された。岸田氏は官邸記者クラブのインタビューで、CE戦略で需要側のエネルギー転換の方策を示すと説明し、「現実的なエネルギー転換」と二度も口にしたという。第六次エネ基は積み上げではなくなった。熱の分野を水素社会にしていくまでのトランジションが宙ぶらりんだ。それを補う内容にするため、経済産業省も環境省もトランジションや「現実的な燃料転換」を意識した予算を計上している。ただ、鉄や化学などエネルギー多消費産業の水素化のプロセスが大問題で、電化だけでは話が進まない。これを岸田氏がどこまで把握しているのか。ビジョンを訴えるだけだった小泉進次郎氏、河野太郎氏の後始末をどうつけるかが重要だ。
A 21年の前半はエネルギーが政局を決めるような雰囲気だったが、総裁選をピークにその後は無風状態。しかしエネルギーの世界情勢が大きく動く中、熱の入らない所信表明でいいのか。国の曲がり角なのに、CNに日本が外交戦略上どう対応するのか具体的に語っていない。
このままなら日本の原子力はなし崩し的なフェードアウトになってしまう。再稼働の議論だけではだめで、核燃料サイクル政策が破綻したままでは、バックエンド問題も含めて将来原子力がどうなるのか、国民にきちんと説明することができない。これは安倍政権も菅政権もやってこなかった。政策資源を配分し直し、原子力政策を根本的に組み立て直さなければ、国民の理解は永遠に得られない。しかし岸田氏は所信表明で原子力に一文字も触れなかった。紋切型でも触れていた安倍政権からも後退している。
B 資源の乏しい日本にとって核燃料サイクルは必要だが、さまざまな課題があることも確かで、このままでいいわけがない。しかし、総裁選での河野氏のように単に「手じまい」せよと言うだけでは、原子力政策全体がスタックしてしまいかねない。原子力というオプションを手放さずにどのような着地点が見出せるか、知恵を絞る必要がある。
望ましい「政治主導」とは 与党の責務果たせるか
C 岸田氏に近い人たちのうち、木原誠二・官房副長官はメディアに「首相はリプレースをしなければCNは無理だと考えている」と述べている。一方、宮沢洋一・党税制調査会長が自身の懇談会で語ったように、「参院選はきつい戦いになる。7月に向けては安全運転でいかなければならない」面もある。経産省幹部もCE戦略にはエネ基以上のことは入れない方針のようで、「安全運転」には原子力も入るのだろう。CE戦略は6月に提示する予定だが、トランジションの議論の中で原子力がどこまで表に出てくるかは微妙そうだ。
A それはうそ。原子力は選挙に関係ない。国民は冷静で、スローガン的な「原発ゼロ」を信じていない。サイクル事業に関わる青森県との調整など、政治家が覚悟を持って前面に立つかどうかだ。河野氏の問い掛けは、そうしたことへの一歩となる問題提起にはなった。現実的にはサイクルをやるしかないと考えているが、塩漬けが一番だめで、自民党が今の態度を続けることは怠慢だ。現状維持でなく具体的な一歩を踏み出せるか、萩生田光一経産相の手腕に期待したいが、官僚が委縮していないか気がかりだ。
B 官僚は自らの失敗を決して認めない。でも間違えることもあるから失敗を糊塗して軌道修正しようとする。それで事態がますますややこしくなってしまう。だからこそ政治のリーダーシップが必要だ。安倍政権は当初、憲法改正という悲願のために原子力政策を封印したが、最後は政権維持のために原子力の議論から逃げているように見えた。
一方、岸田氏は、安倍氏の憲法改正のような祖父の代からの悲願やポリシーがないように映る。ただ、政治の役割は全てトップダウンで決めることではなく、最後の方向性を示すこと。政治と官僚の二項対立でなく、スクラムを組んでほしい。特に菅政権はこれが全くできなかった。自ら「聞く力」をアピールする岸田氏には、官僚の意見をよく聞いた上で、官僚にはできない政策転換や縦割りの是正といった本来の政治主導を期待したい。
C ただ、自民党の「安全運転」にエネ庁も乗ればCE戦略にはSMR(小型モジュール炉)以上のことは書かないだろう。今取り組むべき課題を動かすけん引力に誰がなるのか。
A 国民や地元の説得は政治の役割。昔の自民党にはその知恵があったが、今は調整役の人材などもおらず政治が機能していない。軽水炉を動かさないままのSMR政策などあり得ず、民間も投資できない。原子力政策の一歩を記すことは与党の責務だ。














