【多事争論】話題:電力システム改革
電力小売り全面自由化開始から5年が経つが、さまざまな課題が顕在化している。
岸田政権が掲げる「新しい資本主義」で、電気事業はどう変わるべきか。
〈改革に伴い安定供給問題が顕在化 地域独占・供給義務の再評価を〉
視点A:飯倉 穣 経済地域研究所代表
電力システム改革は、小売り全面自由化(2016年)と発送電分離(20年)で一段落した。過去、自由化論者と担当官僚は、地域独占の安定供給義務を非効率と指弾し、市場機能で電力需給は安定すると主張した。
数年経ず経済産業大臣が、今夏・今冬の電力需給に警告を発した(21年5月14日)。そして経産省の電力・ガス基本政策小委員会は、9月以降「今後の電力システムの主な課題」を提示し、構造対策として電源確保と供給能力確保義務の検討を継続している(義務・責任・役割論で規制強化)。従来の自由化で安定強化という主張は詭弁だった。電力市場にわが物顔で介入を画策する管理意欲に疑念を抱く。
電力自由化は、米国要求対応と政官民の思惑が交差する「経済改革研究会中間報告(平岩レポート)」(1993年)の「経済的規制は原則自由・例外規制」の仕掛けから始まった。教祖と称された下村治博士亡き後(89年死去)、英米流の政策模倣だけを得手とする経済専門家の知力不足が目立った。専門家は、バブル崩壊後の経済政策の道筋を見失う。バブルの後始末でなく、新自由主義・市場重視を強弁しミクロ経済政策(分野毎の市場いじり)を持てはやす。
90年代の政策は、米国の示唆・強要もあり、雇用でなく消費者余剰重視となった。課題として内外価格差縮小、高コスト構造是正、日本型システム改革が喧伝された。従来の雇用第一を放棄、雇用配慮の需給調整・価格安定狙いの経済規制を罪悪視した。構造改革は雇用環境を悪化させ、安全弁欠如で社会保障拡大要求(例:手当支給・無償化など)を誘発する。電力自由化は、一部官の執念で、紆余曲折を経て卸電力市場の自由化(95年)、高圧部門の小売り自由化・卸電力所の創設(03年)となった。
東日本大震災当時、民主党政府主因の需給不安を背景に、市場機能を貫徹させる電力システム改革が論じられた。市場競争で効率を上げ、安い電力の安定供給をお題目に電力自由化は進められた。規模の経済を軽視、発送電一貫体制を弊害視した。大口需要者への需要価格弾力性の導入(価格で需給調整)、ピーク抑制・過大施設不要(予備率引下げ)、新規参入推進、送電線開放、小売り自由化などが基本的発想であった。実現すれば需要家の選択が拡大し、また競争は、供給企業の効率化を促し、コスト削減で料金も低下すると喧伝された。(八田達夫「電力システム改革をどう進めるか」12年12月:日本経済新聞出版)。そして自由化が完成する(20年)。
経産省(20・21年度統計)は、新電力のシェア20%、小売り電気事業者の登録件数727、新エネ導入比率21%、卸電力取引平均価格の低位、卸取引市場シェア40%などの数値を挙げ自由化成功を示す。
現実は評価と異なり、改革に伴う安定供給問題が顕在化している。予備率は従来8%程度だったが、経産省主導で3%目標となる。その数値に近づいたら、電力供給危機宣言である。この改革は明らかに政治・経産省主導の間違いである。電力システム改革の本質を問う議論もあった(南部鶴彦「エナジー・エコノミクス第2版」17年5月:日本評論社)。9電力・地域独占廃止に対する根本的な困難を指摘している。
電磁気学の法則に沿えは、安定性で発送電一貫体制が合理的かつ自然であること、また発送電一体の相互連結が、限界費用に基づく発電の効率性を確保する上で優位である。逆に発送電分離なら、ホールドアップ問題(不確実性)が発生し過少投資となり、予備力低下を招き、かつ供給義務の所在が不透明なため、安定供給が覚束なくなる。垂直統合=独占=悪という単純発想は、垂直統合の相互連結と発送電のコンビネーションの合理性を無視している。
構造改革は失敗の連続 安定供給体制の再構築を
この30年間の政治経済社会改革(含む構造改革)の推移をみると、多くの政策で当初の狙いは良さそうに見え、マスコミ報道にあおられ、国民の一部不満が過大評価され、実施に移されたものが多い。長期的に見れば、見込み違いで、当初の思惑とは異なる結果となっている。経済構造改革は、前川レポート(構造調整)を始め、失敗の連続である。
「新しい資本主義」は、持続可能性や人的資本重視、株主価値重視偏重の是正、民間企業の未来投資の強化を狙う。それを踏まえた電力の再改革では、電場の提供という性質に適合する安定供給体制(必要投資の実施)の再構築が必要であろう。具体的には地域独占・料金規制・供給義務を再評価したい。それが経済の安定、そして成長の鍵となる。
いいくら・ゆたか 東北大卒。日本開発銀行(現日本政策投資銀行)設備投資研究所長、東北大学、学習院大学非常勤講師などを歴任。













