エネ庁支援策の効果は 新電力を襲う「3月危機」


昨年12月下旬からの急激な電力需給ひっ迫を受けて発生した、日本卸電力取引所(JEPX)のスポット価格高騰。最高値でkW時当たり251円を記録するなど、1月初旬から中旬にかけては連日100円超の高騰局面が続き、これが電力小売り事業者にとって大きな打撃となった。

需給ひっ迫の背景にはLNG不足があった

新電力の苦難はこれだけにとどまらない。高額が予想される1月分のインバランス料金の請求と支払いが3~4月に控えているのだ。このため、新電力の事業撤退や譲渡などの淘汰が進む「3月危機」がささやかれている。

資金繰りが悪化した新電力の経営を支援しようと、経済産業省はインバランス料金の支払いについて最大で5カ月の均等分割払いを可能とする特別措置を設けることを決めた。ただ、この措置には直近の2会計年度のいずれかで黒字計上していることなど事業の健全性を要件として求めており、ある新電力関係者は「中小事業者の多くが支援の対象外ではないか」と話し、効果は限定的だと見る。

一方で、3~4月にドラスティックな再編・淘汰劇が起きる可能性は下がったと見る向きも。新電力からの相談に応じているエネチェンジ法人ビジネス事業部の千島亨太事業部長は、「新電力の事業撤退や譲渡のムードは少しトーンダウンしている。むしろ、加入するバランシンググループを変更し、再起を模索する動きが出ている」と明かす。

背景には、支援措置で支払い交渉の猶予期間ができたこともさることながら、2月に入りJEPX価格が大幅下落し短期的には利益が出せるようになった事情もある。業界再編の本格化は、もう少し時間を要するかもしれない。

電力市場混乱の真犯人は誰か? 需給ひっ迫と価格高騰の真相


今冬の電力需給のひっ迫と卸市場価格の高騰を巡っては、各所で原因や対策について激論が交わされている。エネルギーフォーラムでは2月3日に緊急セミナーを開催。有識者4人が問題の根幹に迫った。

「電力暴騰問題を徹底討論」と題し、オンライン形式で開催された緊急セミナーには、日本エネルギー経済研究所電力グループマネージャーの小笠原潤一氏、エネルギーアナリストの大場紀章氏、社会保障経済研究所の石川和男氏、前衆議院議員の福島伸亨氏の4人が登壇し、激論を交わした。

まず話題に上がったテーマは、今回の需給ひっ迫を引き起こした原因は何かだ。これについては、昨年12月後半から今年1月にかけて、設備トラブルなどによる火力発電の停止が相次ぎ、そこに寒波による需要増が加わったことで需給がタイトになったことが、資源エネルギー庁などの公表データからも明らかになっている。

では、このような事態をあらかじめ予想することはできなかったのだろうか。小笠原氏は、昨年10月に電力広域的運営推進機関がまとめた「電力供給検証報告書」が、厳冬の場合、1月を中心に需給がひっ迫する可能性を指摘していたことを紹介。「報告書では、広域融通すれば予備率3%を確保できるとしており、実際に今回は融通指示により停電を回避できた」として、広域機関の見通し通りに推移したとの見方を示した。

厳冬を予想していれば、それに備えて燃料を確保することもできただろう。しかし、昨秋の時点で厳冬を予想しておらず、逆に大手電力会社は、昨夏ごろからだぶついていた在庫を絞り込んでさえいた。この需要の読み間違いが、結果として供給量(kW時)不足を招いてしまったわけだ。

需給ひっ迫が長期化 背景に過度なLNG依存

「今回の特徴は、需給ひっ迫や市場価格高騰が短期的に起きたのではなく長期間継続してしまったことだ」と語ったのは大場氏。「発電量の4割をLNGに依存している国は世界でも日本だけ。ほかの電源によるバックアップがない状態では、こういうことが数週間にわたって起きてしまう」と、図らずも日本の電力構造の弱さが露呈したと解説した。

福島氏は、①太陽光発電の導入量が劇的に増えたことで、供給力が厳しくなる季節が夏から冬に変わってしまったこと、②原子力発電が停止しLNG一本足打法であること、③電力システム改革後、供給責任を誰が負うのかが不透明であること―といった根本的な問題が潜んでいることへの危機感を強調。その上で、「放置すればさらに大きな問題が起こりかねない。一つひとつ課題を点検していくべきだ」と主張した。

司会役の石川氏は「3・11後、原発が停止し火力燃料の輸入に最大で4兆円もの国富が流出したにもかかわらず、(電気料金が)自動引き落としであることもあって国民はそれを実感していなかった。今回も結果的に停電などは起きなかったため、多くの国民は電力不足を実感しなかったのではないか」と、エネルギー問題に対する危機意識の低さゆえに議論が広がらないことに疑問を投げかけた。

この需給ひっ迫に伴い発生したもう一つの問題が、日本卸電力取引所(JEPX)のスポット価格の暴騰だ。時間帯によっては1kW時当たり200円を超え、卸市場で調達する新電力の経営に大きな打撃を与えることになった。

小笠原氏は「需要側が高い買い札を入れマッチングしてしまうと、高い価格で約定することになる。供給側の限界費用を反映したわけではなく、価格高騰は人為的な供給曲線の設定にあった」と、その背景を説明した。

大場氏も「LNGの在庫量が減り、発電事業者が燃料節約のためにぎりぎりまで出力を落とした結果、市場に出す玉が減った。インバランス回避のために小売り事業者が高値で入札したことで暴騰した」と、小売り事業者の行動が価格高騰を招いたとした。ただ、聴講者からの「市場高騰の責任の一端は新電力にあるのではないか」との質問に対しては、「インバランスを絶対出さないよう求められる今のシステムでは、小売り事業者はどんなに高くても買うというマインドになる。それを新電力の責任というのは少しかわいそう」と否定的な見解を示した。

福島氏の見方は「小売り事業者と発電事業者の情報の非対称性や小売り事業者の寡占性による卸市場の不全にこそ、価格高騰の要因がある」というもの。「小売り事業者に供給力確保義務を負わせて、インバランスを出させないよう厳しく対応する一方、発電事業者側には責務がない。卸市場制度の設計を見直すことが必要」と話し、是正の必要性を訴えた。

討論はオンラインで開催した

システム改革の功罪 曖昧化した責任の所在

電力自由化が走り出し、安定供給は後回しにされてきた感は否めない。討論の終盤は、今回の経験を踏まえ電力システムはどうあるべきかに議論が及んだ。

福島氏が「仮に今回ブラックアウト(全域停電)が起きたとしても、エネ庁は法的には何もできなかっただろう。3・11のような想定外を繰り返してはいけない。オイルショック並みの危機や戦争などに備えるエネルギー危機管理法制が必要だ」と政府に注文を付けると、大場氏は「政府の公式見解は、長期的な供給力の担保は市場を通じて達成されるというもの。自由化によってエネ庁にも事業者にも、責任者不在のムードが醸成されてしまっているのではないか」と、現状への危機感を示した。

小笠原氏は「現状、安定供給維持の責任は広域機関が担っている。ただ、かつて広域機関が容量市場創設前に需給ひっ迫に陥るリスクがあるとの報告書を経産省に提出したが、所管する電力・ガス取引監視等委員会にはそれを受けて安定供給について議論をする部署がなかった。そういう構造的な問題もある」と組織の改善を求めた。

石川氏は「何らかの形で電源投資の回収を担保する仕組みが必要だ。それでこそ発電事業者は責任を持って供給しようとするだろうし、その責任を負うことが国家としてのエネルギー安全保障だ。次期エネルギー基本計画では、そうした政策を盛り込んでもらいたい」とまとめた。

規制委が地震動策定を見直し 対応迫られる川内・玄海原発


電力会社はそれぞれの原子力発電所で定めている基準地震動(Ss)の見直し作業を進める。原子力規制委員会が地震動策定での規制基準などを改定するためだ。新たに耐震工事が必要な原発が出る可能性がある。

玄海原発は新たな耐震工事が必要になりそうだ

原発の地震動は、震源を「特定して策定」するものと、震源を「特定せず策定」する二つの手法で計測する。揺れのより大きい方がSsとなる。後者は、調査しても原発敷地周辺で活断層は見つからないが、発生する可能性がある地震動の検出方法。見直すのは、特定せず策定する地震動だ。

地震動は、解放基盤面(表層や構造物がないものとして仮想的に設定する堅牢な地盤、S波速度=毎秒700m以上)を設定して計測する。規制委は2019年、特定せず策定する地震動の応答スペクトルを提示。また解放基盤面に代わり、より硬く深い位置に地震基盤相当面(S波速度=毎秒22

00m以上)を設定、ここで地震動を計測するよう求めた。解放基盤面よりも硬い基盤で測ることで、地震動はより大きくなる。

どの原発に影響が出るだろうか。ほとんどの原発が、震源を特定して策定する地震動が、特定せず策定を上回っている。その中で川内・玄海原発は、特定せず策定(620ガル)が、特定して策定(540ガル)を上回り、620ガルをSsとしている。見直しにより地震動は620ガルを超えるとみられ、対応が必要になる。

一方、対応の必要がなさそうな原発もある。西日本の若狭地域の硬岩サイトに立地する高浜・大飯・美浜原発は、解放基盤面と地震基盤相当面の硬さがほぼ同じ。そのため、現在のSsを維持することになりそうだ。

「炭素価格付け」が急展開か 交錯する経産・環境省の思惑


首相の指示という政治介入で、カーボンプライシングが再びエネルギー・環境政策の表舞台に引っ張り出された。経済を痛めないよう現実解を探る経産省に対し、炭素税導入が悲願の環境省は、意外にも攻めあぐねている。

長年膠着状態にあったカーボンプライシング(炭素価格付け、CP)の議論が、政治介入で新たな局面を迎えている。昨年末に菅義偉首相が、梶山弘志経済産業相と小泉進次郎環境相に連携してCPを検討するよう指示。年が明け、菅首相が通常国会の施政方針演説で「成長につながるカーボンプライシングに取り組む」と正式表明したのだ。環境省幹部は「環境省単独で審議会を開く状況が長く続いてきたが、ステージが変わった」と強調する。

さらに2月5日の衆院予算委員会で、菅首相が踏み込んだ発言をしたとの一部報道もあった。立憲民主党の岡田克也氏が、地球温暖化対策税(温対税)の税収見込みでは温暖化ガスの削減効果が乏しいと指摘したところ、首相は「数千億円ではなくどんどん増やしていかないといけない」と回答。だが、どうも前後の文脈からすると、首相が「増やさないと」と語ったのはカーボンニュートラル(実質ゼロ)対策全般についてのようだ。「まさにこれから経産省と環境省で議論を始めるというタイミングに、国会で先取りするような発言をするわけがない」(霞が関関係者)。首相の年末の指示以降、官邸からCPの具体的な話は降りてきていない模様だ。

今回、どんな着地点に降り立つのかは議論の行方を見守る必要があるが、経産省の狙いは、昨年末の段階から透けて見えていた。

成長戦略で透けて見えた方針 経産省は時間軸を意識し検討

実質ゼロの実現に向け、経産省を中心に作成された政府の「グリーン成長戦略」のCPに関する記述にそれが表れている。従来は炭素税と並ぶ論点とされてきた排出量取引を、「クレジット取引」の一種と整理した点がポイントだ。課題が多い排出量取引より、非化石証書やJクレジットなど、既存制度の強化や対象の拡充を強調した書きぶりにした。

新たな論点として、炭素価格が低い国からの輸入品に課税する「国境調整措置」も取り上げた。EUで制度設計が進んでいることに加え、米国バイデン政権も公約に掲げており、世界的な動きを意識してのことだ。一方、炭素税は「専門的・技術的な議論が必要」と従来の見解をなぞるだけにした。

経産省は「世界全体でのカーボンニュートラル実現のための経済的手法等のあり方に関する研究会」を新設。6月ごろ策定される成長戦略に反映させるため、それまでに中間整理を行う予定だ。2月17日の初会合では、グリーン成長戦略からさらに肉付けする形で、いくつかのポイントが示された。特に強調されたのは、時間軸を意識したポリシーミックスの視点だ。

「CPには炭素税や排出量取引以外にもさまざまな手段がある。企業の行動を変えるには代替手段に導く必要があるが、現時点で選択肢はそれほどなく、いま炭素税などを入れても逃げ場がなくなるだけだ」(経産省幹部)。エネルギー諸税や、証書・クレジット、FIT(固定価格買い取り制度)など既存施策のほか、民間の取り組みも組み合わせ、ダメージを与えず行動変化を促す仕掛けを模索する。

エネルギー諸税などの扱いも整理する必要がある

例えば既存施策の活用は、トランジション(低炭素化への移行)を促す短期的手法としてイメージする。一方、国境調整措置は中長期のイメージだ。導入の是非ではなく、EUなどの仕組みが固まらないうちに、公平な競争条件を確保できるような原則論を日本側から発信したい考え。産業技術環境局だけでなく、通商政策局などとも情報共有しながら進めていく。

こんな見方もできる。「国境調整措置の話では、炭素価格がいくらなのかという話に触れざるを得ない。日本の公式的な価格は温対税のCO2t当たり28

9円だが、相手国に額面だけで低いと見られたら、日本の不利になる」(エネルギー業界関係者)。日本のエネルギー諸税はCO2t当たり約4

000円という水準にあり、FITなどの負担も大きい。だからこそ、これまで炭素価格としての扱いがあいまいだった既存施策もきちんと整理することが重要になる。ただ、「日本の温対税率では不十分だから炭素税が必要、と主張してきた環境省幹部は、この議論を嫌がるだろうけどね」(同)。

方向性見えない環境省 落としどころに悩み

では、1日に「カーボンプライシングの活用に関する小委員会」を1年半ぶりに再開させた環境省は、どんな戦略なのか。検討事項として、①成長に資するCPはどのようなものか、②国境調整措置や排出量取引などに関する世界情勢を踏まえ、日本はどんな対応を取るべきか、③それらを踏まえ具体的にどんな制度設計が考えられるか―を提示。「成長に資するかどうか、さまざまな手法ごとに課題を整理していく。間口を広く、丁寧に議論を重ねていく」(環境省幹部)方針だ。ただ、具体的な論点は示されなかった。

CP導入のチャンス到来かと思いきや、同省は落としどころに悩んでいるように見える。

2019年夏にまとめられた同小委の中間整理は両論併記にとどまり、考えられる炭素価格の水準や、そのCO2削減効果、影響などについて、「今後の定量的な議論が重要」としていた。しかし、「前回よりは具体的に示したいが、税率の目安といった生々しい話は難しい。定量的な議論をするかどうかは要検討だ」(同)。

同省の本命は炭素税のはずだが、コロナ禍で経済が痛んでいる今、「成長に資する」という条件をどうクリアするかは難題。ここで無理な勝負をしかけても、条件に引っ掛かり中途半端な形になりかねないし、経済界も交えて丁寧に積み重ねてきたこれまでの議論をぶち壊すことは望んでいない。

同省は年内にとりまとめを示すとしているが、夏には22年度税制改正要望のリミットもある。また、小泉氏はCPを今年の最重要課題と位置付けており、選挙のタイミングなども議論の行方に影響しそうだ。CPには税制が絡むだけに、これまでも節目では政治介入があったが、今回はどんな展開が待ち受けるのか。

【マーケット情報/2月26日】原油上昇、需給逼迫の見方が強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み上昇。需給逼迫の観測が強まり、買いが優勢になった。

寒波による影響で停止していた米国テキサス州の製油所が、徐々に稼働を再開している。3月初旬には概ね復旧する見込みだ。また、新型コロナウイルスに対するワクチンの普及が進んでいることも、経済回復にともなう石油需要増加への期待感を高め、価格に上方圧力を加えた。

他方、OPECの1月減産順守率は103%を達成。12月の99%から上昇し、需給が引き締まるとの予測を強めた。米国のバンク・オブ・アメリカ・メリルリンチ、ゴールドマン・サックス、および英国のバークレイズなど金融機関が、今年の原油価格予測を相次いで上方修正したことも強材料となった。

一方、米国エネルギー情報局が発表する週間在庫統計は、製油所の低稼働と輸出遅延を背景に増加。また、米国の石油サービス会社ベーカー・ヒューズが毎週発表する国内石油ガス採掘リグの稼働数は、悪天候にもかかわらず2020年5月以来の最高を示し、価格の上昇を幾分か抑制した。

【2月26日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=61.50ドル(前週比2.26ドル高)、ブレント先物(ICE)=66.13ドル(前週比3.22ドル高)、オマーン先物(DME)=64.09ドル(前週比3.40ドル高)、ドバイ現物(Argus)=64.14ドル(前週比3.25ドル高)

【省エネ】炭素税の導入 処方箋の一つに


【業界スクランブル/省エネ】

欧州環境機関(EEA)の報告では、欧州の2020年までの気候変動対策主要目標(トリプル20)のうち、「CO2排出量20%以上削減」と「再生可能エネルギー比率20%以上」は達成見込みだが、「エネルギー効率20%以上改善」は達成困難と報告している。エネルギー効率を向上させ、EU全体の最終エネルギー消費量ならびに一次エネルギー消費量を、「07年に想定した20年のエネルギー消費量比」で20%削減する目標だが、気温影響による変動を考慮しても達成が難しい。

これは、再エネ電源増加のための施策は比較的コントロールしやすいが、建築物・運輸・産業の各分野において、多くの個人・事業者の多様な取り組みが必要となる「エネルギー消費量の削減」はコントロールが困難ということでもある。欧州委員会の分析では、建築物部門が増加しており、次いで運輸部門が増加している。一方、産業部門のエネルギー消費量はほとんど増加しておらず、発電部門に至っては再エネシフトにより減少している。

省エネによるエネルギー使用量削減は重要な取り組みだが、地道で継続的な取り組みが必要で、かつ難しい。CO2排出ゼロは、オール電化建物とEVに、再エネ電力メニューの購入を組み合わせて実現可能だが、各家庭や事業者のエネルギー消費量を2割削減(基準値比較ではなく、実消費量を2割削減)するのはとても難しく、地道な省エネ行動の継続も難しい。この努力の継続には金銭支出削減の見える化が一番だが、当然、削減額が小さい省エネ対策は実施され難い。

実際、日本では海外よりエネルギー価格が高いため、省エネが進んでいる面もある。よって、「コロナ対策の政府支出増の穴埋め」と「脱炭素社会への社会変革費用捻出」を目的として、欧州水準を超える炭素税の追加導入(低所得者対策の積み増し、特定業種への控除検討、国境炭素税対応検討などの関連施策とのパッケージが前提)により、エネルギー価格を大幅に上昇させることが、省エネ推進・脱炭素社会実現に向けた処方箋の一つでもある。(T)

【住宅】暖房需要で電力危機 省エネ義務化が急務


【業界スクランブル/住宅】

年末年始にかけて、日本卸電力取引所(JEPX)の取引価格がかつてないレベルで高騰した。その原因として、LNG火力の燃料制約や、寒波の影響が取り沙汰されているが、電力需要を電力会社の想定よりも押し上げた一つの理由は、リモートワークの普及や換気の徹底などの「コロナファクター」による、家庭での暖房用電力需要の増加があると考えられる。そして、それを助長してしまったのが、日本の住宅の断熱性能の著しいまでの低さだろう。

熱の多くは窓から出入りする。窓の断熱性能は「U値(W/㎡・K)」という指標で比較し、小さいほど熱の出入りが少なく高性能であることを意味する。例えば、日本の既存住宅の8割はU値6.5の「アルミサッシ+単板ガラス」が使われている。また、新築の約7割はU値4.65の「アルミサッシ+ペアガラス」が「高性能窓」として使われている。

実は、この4.65という水準は、経済産業省が定める「省エネ建材等級表示区分」における星1つの最低ランクである。同区分の最高ランクの星4つは、U値2.33の「樹脂とアルミの複合サッシ+ペアガラス」となっている。しかし、この日本の最高基準の窓でさえ、欧米では人が住む家に使われる窓として使用することが禁止されている。つまり、日本の戸建住宅のほとんど全ては、欧米では人間が住んでよい家とは見なされていないということになる。

これ以上の断熱性能の窓となると、U値1.31の「樹脂フレーム+複層ガラス」か、U値0.90の「樹脂フレーム+トリプルガラス」となる。欧米の多くの国では1.3未満の窓の使用が禁止されている。韓国や中国でさえ2.5程度が最低基準になっている。しかし、日本では最低基準自体が存在しない。

世界的な新型コロナウイルスの第3波の到来で、わが国においてもさらなる巣ごもりを余儀なくされ、暖房需要が高まらざるを得ない。今こそ、住宅の省エネ性能を電力需給にも関わる問題として捉え直す好機ではないだろうか。(Y)

【太陽光】市場拡大への課題 電気使用で情報不足


【業界スクランブル/太陽光】

30年前、太陽電池の担当部門には太陽電池を使った電卓や時計などが所狭しと並んでいた。将来は住宅用太陽光発電が大きな市場に成長するとの予想もあったが、小型電子機器の稼働しかできない太陽電池が住宅向け設備に利用できるか懐疑的だった。しかし、太陽光を発展させようとする企業努力の結果、再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)導入の後押しもあり2019年には太陽光発電は日本の電源構成の6.7%を占めるまでに成長した。既に18年の第5次エネルギー基本計画における30年度想定の電源構成比7%に限りなく近づいており、30年までにはその想定を大きく超えていることが予想される。

20年から太陽光発電は新しいステージに入ってきた。FIT開始当初の太陽光発電業界は、FITにて買い取りされる太陽光発電の電気を作ることが事業目的となっていたが、ここにきてRE100やRE Actionに参加している企業、太陽光発電で作られた再エネ電気を使う企業、自治体が増加している。さらに菅義偉首相の50年カーボンニュートラル宣言以降、日本社会において再エネの大きな柱である太陽光発電の利用拡大を目指す動きが一層加速してきている。

一方、太陽光発電の電気を作ることから使うことへ変化する中、使うための課題も見えてきている。太陽光発電の導入を検討している企業が必要な情報の入手ルートが少ないため導入に時間がかかっている例が散見される。また、供給側も誰が太陽光発電の電気を使いたいのか潜在顧客情報の収集手段が少ないなど、お互いの必要情報をマッチングさせることができていないことが再エネ導入の大きな課題になっている。もう一つは制度上の問題だ。企業間で再エネ電気を直接売り買いすることができず、小売事業者を通す必要がある。また、離れた自社設備から太陽光発電の電気を託送するために余分な費用が掛かることが、自家消費を目的としたオフサイトでの太陽光導入の阻害要因になっている。太陽光発電市場拡大のため、これらの課題解決に道筋をつける努力が求められている。(T)

【再エネ】効果大の省エネ 脱炭素で熱利用


【業界スクランブル/再エネ】

再生可能エネルギー熱は創エネか、省エネか。そして、再エネ熱は供給側のエネルギーか、需要側のエネルギーか。これらの質問にどう答えればよいだろう。

再エネ熱は多くの場合、自家消費されるので電気やガスのように供給事業者がいない。需要側で利用されるエネルギーは、通常は料金の発生する電気・ガスの世界であり、再エネ熱は木質バイオマスのように料金が発生するものもあるが、それ以外は太陽熱や地中熱のように利用料金を必要としない環境資源である。

利用者の意識はどうか。家庭やオフィスで空調や給湯に再エネ熱を使うと電気やガスの使用量が減るので、省エネと思ってしまう。省エネ法は化石燃料を規制の対象にしているので、再エネ熱の利用は省エネになる。だが、省エネという言葉の中に再エネ熱が包み込まれると、自然界からエネルギーを採り出している創エネとしての再エネ熱が見えなくなってしまう。

再エネ熱は創エネ、つまり供給側のエネルギーとして把握できる場合もある。地域熱供給や地点熱供給の事業者により再エネ熱は需要家に供給されている。ここで供給される熱には、電気と同様に計量法にのっとった取引が成立しており、需給構造が分かりやすい。地域熱供給は現在、全国に134カ所あり、うち22カ所で太陽熱・地中熱(地下水を含む)、バイオマス熱、下水熱(中水を含む)、河川熱、海水熱、雪氷熱が供給されている。2018年の年間熱供給量は2394テラジュール(原油換算6.2万㎘)である。

供給側として見た再エネ熱は、熱量を把握できている点で存在感があるが、年間利用実績で見ると、太陽熱とバイオマスがそれぞれ36 万 ㎘、258 万㎘(15年)で、大局的には需要側のエネルギーと見た方がよさそうである。再エネ熱の使用により、利用者にとってはガス代や電気代が安くなる。さらに、極めて効果の大きい省エネ手段である側面に着目するなら、脱炭素を実現する政策では、民生・産業部門のエネルギー需給構造の中で再エネ熱をしっかりと捉えておく必要があるだろう。(S)

【メディア放談】電力需給の報道 電力危機は国民に伝わったか


<出席者>電力・ガス・石油・マスコミ業界関係者4人

今冬、電力需給は危機的な状況に陥ったが、マスコミは大きく報道せず国民の関心は薄かった。経産省と電力業界の対応も一枚岩でなく、今後に禍根を残しそうだ。

―年明けから電気の需給がひっ迫して、電力供給は綱渡り状態が続いた。しかし、マスコミはあまり注目しなかった。

電力 東日本も西日本も危機的な状況が続いた。国が節電要請を出してもおかしくなく、マスコミはもっと異常な状態であることを伝えるべきだった。もっとも、新型コロナの東京の感染者が1月7日から急激に増えて、マスコミにとってはコロナの報道が優先。大きく紙面を割いた。電力危機は後回しにされた。13日ごろから各紙が報じ始めたが、「もう少し早くから伝えてくれれば」と思っている。

ガス さすがに電気新聞は年明けからスポット市場の高騰を書き始めて、その後も継続的に需給の問題を追っていた。電力会社と近い関係にあるだけに、現場の人たちの切実な危機感を伝えていた。その後に日経が書き始めたが、ほかの一般紙は出遅れている。

石油 ただ、朝日、毎日、東京をはじめ、産経を除く各紙の電力需給の記事は歯切れが悪かった。今回は、LNG、石油などの燃料不足が大きな要因だ。原発は3基しか稼働していなかったが、多く動いていればこんな事態は起きなかった。燃料輸入が停止しても安定的に電力供給をする原発の役割について、原子力嫌いの大手紙は書こうとしない。しかも、再エネを盛り立てたいから、調整力として欠かせない火力発電の重要性にもあまり触れない。それで、結局何が言いたいのか分からない記事や論説ばかりとなった。

―電力業界関係者からは、国の節電要請を求める声も出ていた。

電力 経済産業省は需給ひっ迫を深刻に受け止めていなかった。梶山弘志経産相は会見で「電気を効率的に使ってほしい」と話したが節電には触れていない。それどころか、「暖房の利用などは普段通りに」と言っていた。記者も、大臣が「効率的に」と同じことしか言わないことが分かっているから、それ以上、踏み込んだ質問をしなかった。

マスコミ 経産大臣が効率的な使用しか言わないのは、官邸からクギを刺されているから。新型コロナ対策で7日に緊急事態宣言を出して、「とにかく家にいてください」と言っている。すると例年にない寒さだから、エアコン暖房の人たちは室温を上げる。それを「温度を下げてください」と言ったら、ただでさえ支持率が低下気味なのに、一気に政権批判が高まってしまう。

ガス 電気事業連合会は10日から節電の要請を始めたが、「節電」という言葉を使うか、経産省と電事連との間でかなり激しいやり取りがあったようだ。経産省の要請が「効率利用」で、電力業界が「節電」では国民は戸惑う。結果として需給ひっ迫は乗り切れそうだが、大停電を引き起こす可能性があった。今冬、経産省と電力業界が一枚岩になれなかったことは、今後に禍根を残したと思う。

ピンチに電力間で温度差 関電は頭を下げて燃料調達

―電力業界は停電阻止に懸命だったと思うが。

電力 いや、そうとは言えない。福島第一原発事故の前は、電力会社はとにかく安定供給が至上命題。予備率が5%を切ると「大変だ」と、社内は雰囲気が一変して、社員の顔色が変わった。ところがいまは、例えば東京電力の場合、どこか緊張感が足りない。経産省の支配下になって、供給義務もなく責任感が薄れて、「停電が起きてもエネ庁の責任。おれたちが悪いわけじゃない」という雰囲気を感じる。

マスコミ 会社によって温度差がある。例えば、発電と小売りが一体の関西電力は、停電阻止に会社が一丸となった。LNGを分けてもらうために、幹部が大阪ガスに頭を下げたと聞く。停電や台風などに使う高圧発電機車も出動させている。こんなことは、大阪北部地震でもなかったらしい。「できることは、全てやった」と社員が言っていた。ところが、持株会社の下に3社に分けた東電は、責任感、義務感もバラバラになった気がする。

激変するエネルギー業界 原発否定では解決せず

―需給ひっ迫で再エネは役に立たず、火力発電は石油火力まで動員して危機に対応した。それでも、原子力に否定的なマスコミの風潮は変わっていない。

石油 カーボンニュートラル宣言をしたこともあり、日本のエネルギー全体を取り巻く状況が大きく変わろうとしている。それをマスコミは直視しようとしていない。3月11日の福島第一原発事故10年に向けて、原子力に批判的な記事が出始めている。まだ避難している人たちが多くいることを考えると、仕方がない。だけど原発を否定するだけでは、日本が抱える課題は何も解決しない。

マスコミ 朝日が東日本大震災10年の連載で、原子力規制委員会誕生の経緯と現状を取り上げていた(1月17日)。福島事故の後、当時野党だった自民・公明党が規制機関を「3条委員会」にすることを求めたことなど、なかなか読み応えがある内容だった。ただ、再稼働が遅れている理由を、「(電力会社の)基準を満たす最低ラインを探るような姿勢」とするのは首をかしげた。遅れているのは主に、活断層の審査が進まないせい。個人の主観で判断がコロコロ変わるような内容の規制にしたため、一部の専門家などが「(活断層の)可能性は否定できない」と主張して止まっている。世の中に「可能性を否定」できるものはない。朝日には、そこまで突っ込んでほしかった。

―それを朝日に期待するのは無理だと思う。

【石炭】火力技術の英知 福島発IGCC


【業界スクランブル/石炭】

石炭エネルギーの世界で新たなイノベーションが結実した。福島・勿来IGCCパワー54万kW商用機が、2020年7月19日に100%の負荷に到達した。今後、米国炭(亜瀝青炭パウダーリバー・スプリングクリーク炭)を利用し、21年9月の商業運開を目指すという。

日本人は建国以来、“工夫するDNA”が育まれ数多くのイノベーションを生み出してきた。近年最も代表的なイノベーションとしてコンビニが挙げられるだろうか。これはデパートの機能を身近な商品に絞り込み、身近な場所に店舗を置くという“ちょっとした工夫”から生まれたイノベーションだ。一方、IGCC(石炭ガス化複合発電)は発電関連技術の総力を結集したイノベーションである。

IGCCの開発をさかのぼると1983年の1日当たり2tの小型ガス火炉開発にたどり着く。その後同200t規模のパイロットプラント、さらに同1700t、出力25万kWのIGCC実証機を経て、関係者の血と汗の結晶が54万kWのIGCC商用機として結実した。この場を利用してあらためて関係した皆さんの努力を称賛したい。そして、引き続き広野IGCCパワー54万kW商用機も並行して21年に運開を目指し工事が進捗しているようだ。

このIGCCは従来型石炭火力と比べ、発電効率の向上、CO2排出量原単位削減などが大きな特徴だ。ただ、幅広い炭種を利用できるメリットを生かし、廉価な亜瀝青炭を主燃料として運用することで運用費が低減できることも忘れてはいけない。海外に目を向けると、発電事業者の多くは廉価な亜瀝青炭の利用計画が多く、IGCCの誕生を見て、そのニーズが増すのではないか。

新型コロナウイルスの感染が世界中に広がり、海外渡航が自由にならない現在だが、この規制が解除されれば、勿来、広野のIGCCの見学を希望する海外からの発電事業者が増えるだろう。近い将来IGCCが海外でも利用される時代が到来することを期待したい。(Z)

危機的な状況の引き金に これぐらいは大丈夫の積み重ね


【リレーコラム】柴田善朗/日本エネルギー経済研究所 研究主幹

世界中で新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない。医療関係者の多くは、人の移動・旅行・外食が主な原因と指摘する。百年に一度の世界的危機ともいわれるが、街行く人々にそんな悲壮感は見られない。政治家の会食は危機感への麻痺を通り越し、危機・窮状を訴える医療従事者への冒涜にも映る。

脱炭素化は聖域に踏み込むことが必要か

社会・経済のマクロな動きはミクロな行動の積み重ねで形成されている。個々人の行動が世界を変え得る。エネルギー・環境分野でも同じ。茅方程式が示す通り、CO2排出削減には、経済成長の維持を前提とするならば、エネルギーの炭素強度を弱めエネルギー消費原単位を削減するしかないが、これまで人間の行動は聖域と見られてきた。つまり、人間は必要なときに必要な量の効用を得るための行動を取る主体として、その行動を所与とし、エネルギーの炭素強度の低下・エネルギー消費原単位の削減により低炭素化を図るというものである。しかしながら、近年、人間の行動変容を方策に取り入れることの重要性も指摘されている。聖域にも踏み込まなければ、脱炭素化の達成は厳しいのかもしれない。

今までの在り方に変化を求めることは制約であり部分的な自由の剥奪でもある。だが、制約条件があって、知恵・工夫が生まれ、新たな産業も生まれる。歴史上、産業の興廃は不可避で、世の流れで衰退・消滅した産業は数多い。雇用はほかの産業や新たな産業が受け皿になるしかない。外食・旅行産業を死守して、その裏で医療崩壊が起これば本末転倒だ。同様に、脱炭素化を目指すなら化石燃料関連産業は衰退せざるを得ないので、新たな産業へのシフトが求められる。

気候変動科学分野では、ある擾乱がTipping Pointと呼ばれる一定水準を超えると、地球システムに対して不可逆的な変化を加速させる可能性が指摘されている。新型コロナウイルスも、これぐらいは大丈夫との判断の下、これまでの活動を継続していると、その積み重ねで医療崩壊を引き起こし、取り返しのつかないことになるかもしれない。

気候変動も新型コロナウイルスも、人間の行動や産業構造の大きな変化に向けた心構えや覚悟を持つことを人類に求めている。両事象とも、将来起こるかもしれない全世界的危機の度合いが即座に実感しにくいので、個人の行動をどう変えていくべきか、は非常に難しい問いである。しかし、医療崩壊を回避する行動の在り方は、スーパーコンピューターで飛沫拡散状況のシミュレーション結果を示されなくても、容易に分かることである。

しばた・よしあき 1994年東大大学院工学系研究科修士課程修了、東芝入社。住環境計画研究所を経て、2010年日本エネルギー経済研究所入所。15年4月から現職。

次回は住環境計画研究所長の鶴崎敬大さんです。

【石油】550万人の雇用 自工会が政府に反発


【業界スクランブル/石油】

新春、箱根駅伝の中継を見ていたら、日本自動車工業会の自動車関連産業従事者にエールを送るイメージ広告が流れていた。部品を作る人、組み立てる人、整備する人、燃料を入れる人、自動車を運転する人と自動車関連産業で働く人々の姿が次々と映し出され、最後に「自動車を走らせる550万人」とテロップが流れる、感動的なCMであった。

同時に、筆者には、十分な国民的議論がなく決まった、菅義偉政権の2050年CO2排出ネットゼロ、30年代半ば新車電動化方針に対する自工会の反論・反発に聞こえた。わが国の雇用人口の1割弱に相当する550万人は、エンジン自動車を前提としており、電動化で部品点数は半減し、550万人の雇用を維持できなくなる。

さらに、自工会HPを見ると、このCMとともに豊田章男会長のメッセージがあり、政府のネットゼロ方針を「大英断」と評価しつつも、火力依存の電源構成に懸念を示し、自動車関連業界の納税額15兆円、自動車の経済波及効果を2.5倍と紹介している。

政府は、昨年末にグリーン成長戦略を策定したが、電動化や再生可能エネルギーの推進には、大きな経済波及効果は期待できないし、税収とは逆に大量の補助金が必要になる。北欧各国では電動車の使い勝手の悪さを補助金でカバーしている。また、中国では補助金の削減で電動車の販売台数が減少した。コロナ禍で大規模な財政出動が行われる中、ガソリン税収の減少とグリーン成長のための補助金拡大が許されるのであろうか。

おそらく、温暖化対策をイメージで語れる時代は終わった。脱炭素化は納税者の負担や有権者の雇用に大きな影響を与える時代に入った。脱炭素による失業者発生や脱炭素のための大幅な負担増加など、コスト負担も考えておく必要があろう。

それを忘れると、フランスのイエローベストや米国のトランプ支持者のような有権者・納税者の反乱が起こりかねない。(H)

【櫻井雅浩新潟県柏崎市長】原発には国家的な意義がある


教師の職を辞し故郷・柏崎市に戻り、原発推進・反対両派の支持を得て市長に就任した。柏崎刈羽原発の再稼働に意義を認め、集中立地のリスクを解消して共存の道を選ぶ。

さくらい・まさひろ 1981年柏崎高校卒、86年早大教育学部国語国文学科卒、女子美術大付属中・高校教諭。91年柏崎市議、学習塾(SEA桜井教育研究所)を創業。2016年柏崎市長。

「細い道を行きます」。2016年11月、柏崎市長に初当選すると、周囲にこう話した。三度目の挑戦で勝ち取った市長の職。二度の落選(04年、08年)で11年に政治団体を解散し、政治活動に終止符を打っていた。

「もう一度、市長選に出てみないか」。声を掛けたのは、原発推進・反対派それぞれのリーダー的立場の市会議員。思いもかけない人たちだった。1991年に柏崎市議に当選して以来、柏崎刈羽原発の必要性に理解を示す一方で、「再生可能エネルギーを将来の柏崎の産業の大きな柱に」と、太陽光や風力発電などの重要性を訴えていた。その姿を、多くの市議や市民が見ていた。

推進・反対両派の支持を得ての市長職。柏崎刈羽の再稼働が政策課題として浮上してくる中、「真ん中の細い道を進むしかない」と覚悟を決めた。だが、原発の在り方について、市民を対象に行ったアンケートの結果を見て、自らの考えが「細い道ではなく、ブロードウェイだった」と気付く。

推進派は「全ての原子炉を稼働すべきだ」と主張する。反対派は「再稼働を認めず、原子炉7基全てを廃炉に」と訴える。しかし、この両極端の人たちの数は限られていた。将来的に原発に依存しない、再エネを中心とした街づくりを望みながらも、約8割の市民が再稼働を容認、あるいは否定しないという立場だった。

「再稼働は認めるが、集中立地のリスクは減らしたい」―。市長として、東京電力に対して6、7号機の運転再開を容認しながらも、1基以上の廃炉計画を明確化することを要請。東電の小早川智明社長も理解を示した。20年11月の市長選では、反原発色の濃い対立候補に大差をつけて再選を果たす。「自分の考え方を、市民が現実的な選択肢として認めてくれた」。自らの判断に確かな手応えを感じた。

転機をもたらしたネパールの青年 柏崎で再エネ普及に力を注ぐ

大学卒業後、都内の女子中・高校で国語教師として教壇に立つ。夏・冬などの長期休暇になると、ヒマラヤ山脈をはじめ世界中の名峰を訪れ、趣味のトレッキングを満喫。柏崎市に戻り市政に参加することは、考えていなかった。

しかし、ネパール・カトマンズのゲストハウスで知り合った青年の発言が、「故郷に戻り何かをしたい」という思いを呼び起こす。90年、イラクがクウェートに侵攻し、湾岸戦争が始まる。開戦を伝える新聞を手にした青年が、「クウェートを助けるためにネパールはグルカ兵を送る。大量の原油を買っている日本は何をするんだ」と詰め寄ってきた。「ネパールのような貧しい国の若者でさえ、自国にプライドを持ち、国の在り方を考えている」。青年の言葉が脳裏から離れず、郷里に戻り市議選への出馬を決意する。28歳の時だった。

日本で最初に石油精製が行われ、世界最大級の出力を持つ原発サイトがあるエネルギーの街、柏崎市。市議となり、石油、原子力に次ぐエネルギーとして再エネの将来性に注目し、環境問題にも取り組んできた。市長としても、脱炭素社会を視野に入れ、「エネルギーの街3・0」の構想を掲げている。地域エネルギー会社を中核企業として、再エネの電気を地域、また将来的には首都圏の需要家に届けたいというものだ。

一方、依然逆風が強く吹く原子力。「日本経済を支えている低廉・安定的な電源であり、温室効果ガスを出さない環境エネルギー。運転には国家的な意義がある」と、原発について重要性の認識は変わらない。中でも柏崎刈羽の稼働については、その必要性を独自の視点で語る。

「福島第一原発事故の一義的な責任者は国であり、国を構成する国民一人ひとりに責任がある。本来ならば国民が福島の復興、賠償の費用を税、電気料金の値上げという形で負担するべきだ。しかし、そこには限界がある。誠に皮肉だが原発の再稼働により、東電が得る利益を復興、賠償に充てるしかない」

福島事故により、今も新潟県には原子力に対して否定的な考えを持つ人たちが少なくない。柏崎刈羽の再稼働では、民意をどう捉えるかが課題になる。困難な判断を迫られるが、「日本は代表民主制を取る。議会での議論を重視して、民意は議会を通して得ていく」。18年の県知事選での公約で〝県民の信を問う〟とした花角英世知事にも、「県議会を通した民意の把握をしていただきたい」と望んでいる。

幼少期からの趣味である登山では、アフリカ・キリマンジャロの山頂に立ったこともある。今も休日には、柏崎市周辺の山々でのトレッキングを楽しむ。フランスの哲学者、アランの著作を愛読。「雨の日に笑え」を座右の銘とする。

【火力】異例の需給ひっ迫 ツケは送配電に


【業界スクランブル/火力】

今年の正月はコロナ禍第3波の勢いが衰えず、1都3県に再度緊急事態宣言が発出される状況となった。全国的にも年末年始の帰省ラッシュが見られず、初詣も分散参拝となるなど例年とは様変わりだった。そんな影響なのか、電力需給も例年にはない珍しい状況となっている。昨年末から需給がタイトな状況が続いており、1月3、4日には東京エリアへ最大100万kWの電力融通を広域的運営推進機関が指示した。広域的な電力融通の促進は、電力システム改革の柱の一つであるので有効に活用されるのは良いことなのだが、正月休み中に緊急融通を受けるという状況は筆者の記憶では初めてだ。

正月休みは、ゴールデンウィークと並んで1年の中でも最も需要が低くなる時期で、供給力そのものが不足するとは考えにくく、実際足りなくなったのは燃料のLNGらしい。報道によると年末から続く寒波に加えコロナ禍による巣ごもりが消費を押し上げており、東京エリアでの電力量は例年の1割増しとのことだが、この程度の需要は過去に例がなかったわけではない。それでは、どうして今回のような燃料不足を招いてしまったのであろうか。

発電事業者は、小売事業者の需要想定に基づき燃料を調達している。年末の需給ひっ迫が起こるまでは、卸電力取引所のスポット価格は安値で安定しており、余剰のLNGを調達しなかったのは当然の行動だ。一方小売りにとっても、今回のようなことがなければ、需要を高めに見積もるのは経営を圧迫するだけなので、できるだけ避けたいと考える。このように発電事業者にも小売事業者にも供給余力を持つインセンティブが働かず、結果として送配電事業者にツケが回ることになる。

停電という重大事項は起きていないが、今回の件は発送販分離によるインシデントとして受け止めるべきではないか。責任を押し付けあうのではなく、競争下でも協力し合える仕組みを作り上げることが結果として需要家のメリットにもつながる。(Z)