【識者の視点】漆原将樹/BSIグループジャパン社長
環境と経営を革新し企業の競争力を高めるため、欧米ではISOの戦略的導入が進む。
企業活動の環境負荷低減と収益性向上の両立、さらには社会への貢献も期待できる。
近年、世界的なエネルギー危機が深刻化している。2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻を契機に、原油や天然ガスの供給不安が広がり、電力料金の高騰が各国で続いている。また、地球資源の枯渇を防ぐため、企業活動にサステナビリティを組み込むことが欠かせない。
こうした状況の中で、企業や自治体がエネルギー消費を効率的に管理し、持続可能な社会の構築に寄与する手段として、国際規格「ISO14001(環境マネジメントシステム)」や「ISO50001(エネルギーマネジメントシステム)」の活用が、ESG(環境・社会・ガバナンス)時代の「E(環境)」を支える戦略として注目されている。これは、脱炭素社会の実現に向けた国際的な潮流の一環であり、持続可能性を競争力の源泉とする「サステナビリティ経営」への転換が重要である。

ISO規格は、製品やサービスの品質、安全性、効率性などを国際的に統一するために策定された、世界で共通して用いられる基準である。そして、その国際的な基準づくりを英国規格協会(BSI)が長年にわたりけん引してきた。
BSIは1901年に設立された世界初の国家規格協会であり、ISO(国際標準化機構)の創設メンバーでもある。世界中で多くの組織が認証を取得しているISO9001(品質マネジメントシステム)の原案となった英国国家規格BS5750や、ISO14001の原案であるBS7750の策定において中心的な役割を果たすとともに、国際規格の発展に大きく寄与してきた。現在も世界の課題に焦点を当て、新たな基準を策定し続けており、グローバルに認証・検証・研修を展開することで、社会全体の改善に貢献している。
本稿では特にISO50001を取り上げるが、その原案であるBS16001の策定においても一翼を担っている。
欧州では活用が浸透 経営戦略として重視
ISO14001は、企業が環境負荷を低減し、法令順守を確保するための仕組みを提供する。一方、ISO50001は、エネルギー使用量と効率を可視化し、定量的に評価することで、省エネ法への対応はもちろん、エネルギーコストや温室効果ガス排出の削減にもつながる。
認証取得に向けた取り組みにより、企業はエネルギー方針の策定、エネルギーレビューの実施、目標設定、教育・訓練、設計・調達の見直しなど、組織全体でエネルギー効率を高める取り組みを体系的に進めることができる。特に、経営者のコミットメントが求められる点は、単なる技術的改善にとどまらず、経営戦略の一環としてエネルギーマネジメントを位置付けることを意味する。
両規格に共通する特徴は、構成にPDCAサイクル(計画・実行・評価・改善)が組み込まれている点にある。これにより継続的な改善が行われ、持続可能な経営の基盤となる。
日本企業においては、ISO14001の取得は普及しているものの、ISO50001の導入は欧州諸国などに比べ遅れている。IAF(国際認定フォーラム)が発表したISOサーベイ2024によると、本規格の認証取得数はドイツ・イタリア・英国・スペインなどの欧州諸国では1000件を超えているのに対し、日本では100件未満に留まっている。このことからも、日本における本規格の浸透度はまだ十分でないと言えるだろう。
多くの日本企業が法令順守やCSR対応を目的にISO14001規格を導入しているが、ISO50001は、エネルギーの〝実効的な改善〟と脱炭素戦略の一環として位置付けられ、ハードルが高く捉えられる傾向にあり、普及が進みにくい状況にある。


















