【原子力の世紀】晴山 望/国際政治ジャーナリスト
東欧・北欧諸国に対するドローンでの領空侵犯が頻発し、欧州が対策を急いでいる。
米国の内向き志向が強まる中で、NATOは高まるロシアの脅威にどう向き合うのか。
欧州が安全保障面で最も気にかける国はロシアだ。2022年2月にロシアがウクライナに侵攻を始めて以後、欧州では、ウクライナとの戦争はロシアにとって「序の口」に過ぎず、次の標的は欧州との見方が広がる。
ロシアの脅威を説く代表的な人物は、ドイツ情報機関トップのカール長官だ。昨年10月に、ロシアが30年までに欧州を攻撃できる軍事力を備えるとドイツ議会に報告した。最近も、ロシア系住民が人口の約4分の1を占めるエストニアに、ロシアが「ロシア系住民の保護」を名目に攻め入る可能性を指摘している。北大西洋条約機構(NATO)のルッテ事務総長も「ロシアは3~7年以内にNATOを攻撃できる態勢を築く可能性がある」と備えの重要性を説く。
こうした懸念が高まるのは、ロシアがウクライナに侵攻して以後、欧州諸国でロシアによるものと見られる破壊工作が相次ぐためだ。ウクライナ支援物資を収めた貯蔵施設や鉄道の破壊、船のいかりを使い海底ケーブルを切断する事件などが続く。「グレーゾーン攻撃」や「ハイブリッド攻撃」と呼ばれる。
だが、ロシアはいずれの事件も「ロシアをおとしめるために西側諸国が流したプロパガンダだ」と反論、関与を認めていない。ただ、ロシア大統領府のペスコフ報道官は、ウクライナに武器の提供を続ける欧州諸国は「事実上、ロシアと戦争状態にある」と表現する。

相次ぐ領空侵犯 「ドローンの壁」を構築
有効な対策を打てない欧州をあざ笑うかのように、ロシアは攻撃のギアを一段上げた。欧州の備えを試す動きと言える。手始めはポーランドだった。9月9日夜から10日早朝にかけ、少なくとも19機のロシア製ドローンが次々と領空を侵犯した。NATO軍はF16戦闘機や最新鋭のF35ステルス戦闘機、早期警戒管制機(AWACS)などを緊急発進させる。だが、撃墜できたのは「3機もしくは4機」にとどまった。撃ち漏らしたドローンは燃料切れでポーランド領内に墜落した。幸い、爆弾を搭載していなかったため、死傷者こそでなかったものの、無残な「戦果」と言える。
連日のようにロシアからの攻撃に見舞われるウクライナ軍の対応と比較するとNATO軍のふがいなさが際立つ。同月上旬、ウクライナに過去最大となる800機以上のドローンや弾道ミサイルなどが襲いかかった。ウクライナ軍は対空砲火や、1機当たり数千ドルという格安の迎撃ドローンなどを駆使して9割以上を撃墜した。一方、1機1億ドル以上のF35を投入、1発100万ドルもする空対空ミサイルを放ったNATO軍の撃墜率は約2割と、コスパも含めて大差がついた。もし、数百機のドローンが連日押し寄せた場合、こうした高価な武器を使った対応はコスト的にすぐ限界を迎える。その後も欧州各国で同様の領空侵犯が相次ぐ。デンマークやノルウェーでは国籍不明のドローンが侵入し、主要空港がしばらくの間、閉鎖に追い込まれた。ロシアはバルト海上を航行する船舶からドローンを発進させた可能性がある。

