【マーケットの潮流】佐藤祐輔/enechainリサーチ&データデスクディレクター
テーマ:電力スポット市場
電力スポット市場は近年、さまざまな要因を背景にエリア間の分断が鮮明化している。
市場参加者である事業者は、リスクを可視化し適切に管理する必要がある。
日本の電力スポット市場では、かつて北海道や九州と本州を隔てるエリア間、あるいは西日本と東日本といった大きなブロック間で顕著な価格差が見られてきた。しかし近年、その構図は大きく変わりつつある。これまで分断がほとんど生じていなかったエリア間、例えば東北―東京、中部―関西、中国―関西といった本州主要エリア同士でも値差が顕在化している。
恒常的な値差につながる エリア間の電源構成の違い
従来は一体的に動くと考えられてきたエリア間で新たに乖離が見られるようになったことは、市場構造が変化していることを示しており、今後の電力事業運営においても重要な論点となると考えられる。
本稿では、この変化の背景にある要因を整理するとともに、エリア値差により生じるリスク、および対応としてどのような手法が必要かを考察する。
エリア値差を拡大させる最大の要因は、再生可能エネルギーや原子力の偏在による電源構成の地域差である。太陽光発電の導入が進んでいる九州、四国、中国など西日本のエリアでは、出力抑制が生じるほど再エネ比率が高まっており、他エリアとの価格差を生む一因となっている。また、東北エリアなど東日本の一部地域においても、再エネ比率の上昇が価格の下押し圧力となり、周辺エリアとの値差の一因となっている。
一方、関西を中心とした西日本、九州では原子力が再稼働しており、ベースロード電源として市場価格を下支えている。対して東京や北海道では原子力が再稼働しておらず、ベースロード電源を欠く分、需給ひっ迫の際には価格が高騰しやすい。こうした再エネの偏在と原子力の有無が複合的に作用することで、エリア間の恒常的な値差につながっている。
もう一つの要因は、送電網の制約である。北海道―本州や九州―本州の連系線は依然として容量が限られており、余剰電力を十分に送電することができず分断の要因となっている。
さらに近年では、電源構成の変化に伴い、従来は分断が限定的であった東北―東京、中部―関西、関西―中国といった主要連系線においても容量が十分ではなく、混雑が発生している。結果、「安いエリア」と「高いエリア」が慢性的に分断されやすい構図が形成されている。
加えて火力電源、特にガス火力の入札における限界費用の考え方がエリアごとに異なることも、値差発生の一因となっている。例えば関西や九州エリアなどでは、長期契約LNGや保有在庫の実コストが反映されやすい。一方で、東京をはじめとする他エリアでは、ガススポット価格による追加調達コストが入札価格に織り込まれる。結果、同じガス火力発電であっても、エリアごとにスポット入札価格が乖離する。
以上の要因から、各エリアでスポット価格の傾向が異なるため、値差が発生している。 例えば、原子力比率が低く、かつ燃料の追加調達が考慮される東京、中部、北海道といったエリアでは、需給状況や燃料市況の変化に応じて価格が大きく変動しボラティリティが高まる傾向があり、特に需給ひっ迫時には非連続な価格上昇が起こりやすい。一方で、関西や九州のように原子力が稼働しており、燃料スポット価格の影響が相対的に小さいエリアでは、価格は低位で安定しやすい。結果として、各エリアの天候や需給バランス、燃料価格の変化に応じて値差が生じやすい市場構造となっている。

出典:電力データサービス「eCompass」













