【マーケット情報/11月24日】ブレント8ヶ月振りの高値、ワクチン普及への期待高まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

23日までの一週間の原油市場はすべての指標が前週から上昇。北海原油の指標となるブレント先物価格は23日、バレルあたり46.06ドルの終値を付け、今年3月以来8ヶ月振りとなる高値を更新した。

米製薬ファイザーは18日、来年末までに10億本の新型コロナワクチンを生産すると発表。このワクチンは臨床試験で95%の予防効果を確認済みとの報告だ。また、23日には、英製薬アストラゼネカがオックスフォード大学と共同で開発するワクチンの臨床試験結果が報告された。同ワクチンはファイザー社のワクチンに比べ、安価かつ冷蔵庫での保管が可能とのことで供給拡大への期待が高まっている。

また、アジア、特に中国での経済が回復基調にあることも買いを強めた。同国の10月工業生産は昨年同月に対し6.9%増加。

一方で、リビアでの生産が増加していることや、米国での在庫量が増加したことで幾分か上昇が抑えられた。また、ワクチンの開発は進展しているものの、感染者は引き続き増加傾向にあり、こうしたことも買いを慎重にさせる一因となっている。

【11月23日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=43.06ドル(前週比1.72ドル高)、ブレント先物(ICE)=46.06ドル(前週比2.24ドル高)、オマーン先物(DME)=45.80ドル(前週比1.71ドル高)、ドバイ現物(Argus)=45.62ドル(前週1.84ドル高)

【メディア放談】電力システム改革の報道 容量市場で露呈した勉強不足


<出席者>電力・ガス・石油・マスコミ業界関係者4人

容量市場の約定価格が高値になり、「新電力がつぶれる」と新聞各紙が大きく報道している。しかし、新電力に固定費の負担を求めるのは既定路線であり、各紙の記事には勉強不足が目立つ。

―容量市場の約定価格がkW時当たり1万4137円とかなり高額になって、負担が増えて経営が厳しくなる小売り事業者が出てきそうだ。これにマスコミがかみついている。

ガス 各紙の容量市場の記事を見て、あらためてマスコミの勉強不足を痛感した。中でも朝日新聞。再エネ系の新電力を守りたいためか、容量市場の必要性などを詳しく説明しようとしない。とても日本を代表する新聞とはいえない報道だった。

電力 朝日や東京新聞は確かに世論をあおるような、一流メディアとはいえない伝え方だった。エネルギー業界の大部分の人たちは、口には出さなくても容量市場についての報道がおかしいと思っているはずだ。 

 卸電力取引所から電気を仕入れて小売りをしている新電力は、今まで発電にかかる費用のうち、固定費を払っていなかった。それでは、発電事業者は古い火力を維持できず、新しい発電所もつくれない。すると、将来の電力供給が危うくなる。それで、新電力にも固定費を負担してもらうことにした。別に、難しい話ではない。

 今回は初回ということもあって、約定価格が上限に張り付くような高額になった。経産省は新電力の反発も踏まえて、見直しを始めている。この問題は徐々に解決していくと思う。

マスコミ 一部の小売り事業者が見直しを求める要望書を出しているけれど、新電力と一般の国民への対応を分けて考えた方がいい。基本的にこの話はBtoBの話。BtoCへの影響、つまり家庭の料金負担増は限定的になる。新聞はそのことを伝えるべきだよ。

小泉環境相に失望 大手紙記者は勉強を

―小泉進次郎環境相が約定価格が高値になったことに文句を付けて、それをマスコミが大きく報道している。

電力 再エネの普及にブレーキがかかりかねないと思って、小泉さんは敏感に反応したんだろう。将来の総理候補で、期待しているところがあった。しかし、今までも物議を醸す発言があったが、今回は特に失望した。電気事業について勉強していないし、理解しようともしていない。結局、世論に迎合する政治家で終わるのかなと思った。

―新聞各紙は、小泉さんの発言を検証もしないで掲載していた。

マスコミ 朝日や東京だけでなく、大手紙の経済記者は「容量市場って何だ」というレベルの記者ばかり。彼らは、経産省の説明は聞くが、広域機関(電力広域的運営推進機関)に足を運んで取材するようなことはほとんどしない。

 容量市場の仕組みは複雑だけど、広域機関はかなり工夫して説明用の資料をつくっている。しかし、それさえ読まずに記事を書いている記者がいる。

石油 容量市場をよく分かっている記者は、電気新聞などの業界紙にしかいない。それで容量市場の必要性や、今年から入札が始まることが、大手紙やテレビを通じて世間に伝わることが、価格発表までまったくなかった。その中で突然、「費用総額は1兆6000億円」という記事が出て、世間もあわてた。「誰がこんなことを決めたんだ」となった。

マスコミ 「電気料金が国民全体で平均500円上昇する」との記事に対して、梶山弘志経産相が会見で「追加の国民負担はない」と火消しに走った。ただ、政権の側には、小売り自由化後に雨後の筍のようにできた新電力が、負担増である程度淘汰されるのは仕方ないと考えている節もある。

 菅義偉首相は、「日本経済の停滞は、生産性の低い中小企業が多いからだ」と訴えるデービット・アトキンソン氏の影響を受けている。卸電力だけに頼るような新電力は低生産性の典型的企業。早く撤退して、商売替えした方がいいと考えているんじゃないか。

―容量市場に限らず電力システム改革は複雑になりすぎて、普通の人には分かりづらい。

電力 行政の側に責任があると思う。電力システム改革の中で、広域機関の権限が強くなっている。容量市場や需給調整市場に加え、系統増強やマスタープランの検討なども始めている。

 しかし、広域機関には自分たちの検討していることの内容や、これからの議論の方向性を積極的にメディアに伝えようという姿勢が足りない。それでマスコミも、よく理解できないままでいる。

石油 ここが大きな問題。エネ庁の制度改革であれば、経産省は記者クラブを通じて情報発信ができる。だけど、広域機関はそれができない。たまたま関心を持った人が取材するだけだ。容量市場を巡る誤解だらけの記事も、そういった構造的な問題が背景にあるとみている。

電気新聞の秀逸記事 負担増発言を痛烈批判

―すると、業界紙の役割が重要になる。

電力 やはり、さすがだと思ったのは電気新聞。電力自由化については歯切れの悪い記事が多かったけれど、10月5日の「容量市場 どこまで理解?」は分かりやすく、読んでスッキリした。

 「(新電力の)分担額は過去1年間の卸市場価格の下落によって、フリーライダーが手にした利益でほぼ賄える水準」と指摘していた。電気新聞だからこそ書けた記事といえる。「大手紙記者はこれを読んで勉強しろ」と思った。

マスコミ 小泉さんの発言への批判もあった。記者会見で「小売り事業者の負担が増える」と述べたのに対して、「本来あるべき負担の在り方を完全に無視した発言」とバッサリ切って捨てた。久しぶりの骨太の記事だった。

―電気新聞に座布団一枚!

【火力】高額の落札価格 結果の受け入れを


【業界スクランブル/火力】

容量市場は、電力市場制度の要の一つである。その初めてのオークションがこの7月に行われ、9月に落札結果が公表された。約定価格は、指標価格を大幅に上回り、ほぼ上限価格の1万4137円。この結果に驚きの声とともに小売り事業者からは反発の声が上がっている。

しかし、発電事業者の視点に立つと、この水準は、現状の需要と供給力のバランスを素直に反映したものであり、おおむね妥当なレベルとなっている。さらに言えば上限価格近傍に多くの入札があったことは、発電事業者に無理を強いている表れであるともいえる。

電力・ガス取引監視等委員会の報告によると、今回の入札に関し、売り惜しみや価格つり上げなどの問題行動は確認されていない。すると、今回の落札結果こそが市場からの価格シグナルであり、指標価格の1.5倍の上限価格に張り付いた原因は、指標価格の算定方法や1.5倍という係数が実態から乖離していることを示しているにほかならない。

今回の入札では、経過措置に伴う逆数入札の仕組みを問題視する意見も多かった。しかし、そもそも経過措置を一律に科したこと自体が根本原因ではないか。応札価格が高くなる傾向の経年火力では、機能維持のためのコストが“今から”かかってくるのであり、応札価格こそが必要な経費を反映するものだからだ。経過措置の控除率×逆数入札という分かりにくい制度にこそ問題があることを認識してもらいたい。 容量市場は、不安定な卸市場を補完し将来にわたり供給力を安定的に確保するためのもので、うまく機能すれば事業者にも消費者にもメリットのあるものだ。今回は初回ということもあり、検証と修正を行うのは当然であるが、落札価格が高かったから一方的に抑え込もうとするばかりでは、ますます制度の在り方をゆがめてしまうだけだ。今後、CO2の削減と整合の取れた市場をつくるという新たな課題が加わることもあり、まずは今回の結果を虚心坦懐に受け入れるところから始めなければならない。(M)

【原子力】海外への技術移転 ポーランドに協力


【業界スクランブル/原子力】

わが国の原発の運転が11月初旬に1基のみとなる見通しとなった。原子力規制委員会の厳しい審査に9基が合格しているが、伊方3号が広島高裁の仮処分決定を受けて停止中のほか、川内1、2号と高浜3、4号がテロ対策の「特重」対策遅れで停止しており、大飯4号機が11月初旬に定期検査で停止。また、7月から定期検査で停止している大飯3号は配管に傷を示す信号が確認され、運転再開のめどが立たないなどのため、国内で稼働中の原発は玄海4号のみとなる。

原発を1基停止すると代替の燃料調達などで1日約1億円の負担増といわれ、CO2の排出もそれだけ増える。来年は、エネルギー基本計画の改定の年。S+3Eの視点に立った原発ウエート見直しと再稼働策の抜本的強化、さらにはわが国の原子力技術の将来的な確保が、原発稼働たった1基の厳しい現実の下で改めて急務となっている。

わが国の原子力技術は、今も世界でトップレベルにある。その進んだ技術を海外へ伝えるプロジェクトが米・英・ベトナム・トルコなどで進められたが、残念ながらどれもついえてしまった。その中で、堅調な経済発展を続けEUの中での存在感を増しているポーランドへ原子力技術を伝え、社会貢献をしようという取り組みが昨年9月に始まっている。安全性が高い次世代原子炉の「高温ガス炉」の設計などでポーランド国立原子力研究センターとの協力が始まった。将来ポーランドが建設する予定の研究炉(2020年代に建設)や商用炉(30年代に出力16万5000kW規模を建設)で日本発の技術を活用し、CO2排出削減を目指す。

ちなみに、ポーランドはCO2排出量がEU28カ国中で多い国のトップ5だ(18年に一人当たり8t、EU平均は5.5t)。日本との協力プロジェクトに対し、原子力資機材輸出の前提となる二国間の原子力協定が整っていないことを問題視して、他国が事実上の妨害をしていたりと多難な状況もあるようだが、菅首相の外交で何とか課題克服し、このプロジェクトが実を結ぶことを期待したい。(Q)

学生時代は知的好奇心を探求 数十年先を見通した研究を


【リレーコラム】江村勝治/大阪大学特任教授

約三十年間の企業勤務を経て、今年一月から大学に奉職している。仕事柄、世界トップクラスの先生方に身近で接する機会が多く、先生方の高邁な理想、どん欲な知的好奇心、猛烈な仕事ぶりに驚くばかりの毎日である。

自分自身の学生時代を思い返すと、浅学菲才の身でありながらも、素晴らしい先生方や先輩方のおかげで充実した日々であった。私が大学院生の頃、ある先生が、「エネルギー分野は基礎研究から実用化まで数十年かかることもある。われわれは数十年先を見通して、数十年先の社会が苦境に陥らないよう今から研究に打ち込まないといけないんだよ」と熱く語っておられたことを思い出す。若い頃のオイルショックの原体験が、このような熱い思いに昇華させたようだった。大学は、熱い思い、進取の気風、自由闊達な精神で満ちた場であり続けてほしいと思う。

研究テーマ設定は自由な発想が最重要

大学において、研究テーマの設定は、研究者の自由な発想や知的好奇心に基づき行われるものと理解している。ただ、最近、研究の現場を回っていて少し気になることがある。「重要な研究領域だが、論文になりにくいので、人が集まりにくい」といったお話を時折耳にすることだ。

一定の質的レベルを担保された論文数は、研究者や機関の研究力を反映する指標とされる。私が学生だった頃は、論文数の計数自体が大変な労力を伴うものだったので、数を比較してうんぬんすることは少なかったように思う。しかし、今では論文データベースの整備が進み、研究者ごとの論文数や引用回数などを手軽に把握できるようになった。このため、論文数が各種評価に用いられるようになってきている。数字は大事だが、無機質に扱ってしまえば弊害を誘発しかねない。研究テーマの設定は、本来、研究者の自由な発想や知的好奇心に基づき行われるべきものだ。「論文になりやすい、なりにくい」といったことが研究テーマの設定に何らかの影響を及ぼしていないか、気になるところである。

新型コロナウイルス感染症の影響で、本年度上半期の大学キャンパス内は学生の数もまばらで寂しいものだった。しかし、秋に入り、キャンパスに学生たちが戻り始めている。ベンチに座り談笑している学生たちの姿を見ると、こちらもうれしくなってくる。

学生たちには、豊かな時間を過ごしてもらい、自由な発想や知的好奇心に基づき研究に打ち込んでほしい。数十年先を見通して、数十年先の社会が苦境に陥らないような知的資源を蓄えてほしいと切に願う。

えむら・かつじ 1988年大阪大学大学院工学研究科修了、住友電気工業入社。同社エネルギーシステム事業開発部企画部長を経て、2020年1月より現職。博士(工学)、第一種放射線取扱主任者、エネルギー管理士。

次回は京都大学特定教授の橋本道雄さんです。

【LPガス】脱炭素化が加速 販売業者の備え


【業界スクランブル/LPガス】

脱炭素化の流れが世界中で加速している。産業界では、2050年における二酸化炭素(CO2)排出量ネットゼロを目指した動きが活発化し、金融機関もESG(環境・社会・ガバナンス)投資が主流となり、グローバル企業として生き残るためには、化石燃料が使えない時代が来る。それも、私たちが想像する以上に早く到来する可能性がある。

9月に発表された、恒例の英石油メジャー・BPの20年版「エネルギーアウトルック(BP統計)」は、再生可能エネルギーの導入拡大と新型コロナウイルスの流行によるエネルギー需要への影響を背景に、化石燃料の消費が歴史上初めて縮小するとの見通しを示している。

もちろん、私たちが取り扱っているLPガスの需要が、この先数年の間に消滅してしまうなどというわけではないが、今般のBP統計の予想では15年のパリ協定における目標(世界の気温上昇を産業革命以前の水準から摂氏2℃を「大きく下回る」水準に抑える)に向けた政府政策のレベルに応じて三つのシナリオを盛り込んでいる。

そのうち二つは、化石エネルギーの需要量が相当程度、今回のコロナ禍の影響により急激に減少すること、そして、それに代わる再エネとして風力、太陽光発電が急増していくということだ。当然これらのシナリオはマクロ的なものであり、私たちのLPガス販売事業に今すぐ大きなインパクトを与えるようなものではないが、5年後、10年後の中長期の経営計画への展望として、事業の将来を考える上で少なからず影響を与える時が来ている。

自らできる対応策は少ないが、まずは徹底的した高効率ガス機器類への販売転換と再エネ関連事業への業態変更は避けて通れないと考える。さらには物流販売面の徹底的な効率化と生産性向上により、自らの使用するCO2の削減量まで問われる時が目の前まで迫っている。いずれにしろ、経営者としてそれらの施策の具現化の時間が迫って来ている。(D)

【熊谷俊人千葉市長】電力と通信は密接な関係


くまがい・としひと 1978年、神戸市出身。2001年早大政治経済学部卒、NTTコミュニケーションズ入社。06年NPO政策塾「一新塾」に入塾後、07年千葉市議に当選。09年から千葉市長を務める。現在3期目。

NTT時代の知見を生かして、千葉市のレジリエンス化に向けて尽力する。阪神・淡路大震災も経験し、史上最年少の政令指定都市市長となった。

生まれは奈良県天理市だが、父親の転勤で大阪府堺市、千葉県浦安市、兵庫県神戸市で少年時代を過ごした熊谷氏。政治に関心を持つきっかけには、「高校生2年生の冬に、阪神・淡路大震災で被災したこと」を挙げる。

震災では、電気・水道・通信など、生活に欠かせないライフラインが分断。「都市計画を日ごろからどう進めるかが、防災にとって重要だと幼いながらに感じた。災害対応は国政の対応よりも、県知事や市長の判断力が問われる。被災を経験した一人の住民として、地方政治に参加したい」との思いを抱いた。

早稲田大学政治経済学部に入学し、卒業後はNTTコミュニケーションズに入社。当時の直属の上司は、現在NTT社長の澤田純氏だった。就職後も政治に対する関心は高かったといい、思いを知る別の上司から「政治家に会ってみないか」との話を受ける。議員会館で、当時民主党の代議士だった田嶋要氏と面会。ちょうど千葉市議選の候補者公募が行われていたこともあり、公募参加の誘いを受ける。その後は大前研一氏が主宰する政治塾に入塾し、公募にも合格。2007年に行われた市議選に出馬し、当選を飾った。

市議として活躍していた09年4月、大きな転機を迎える。鶴岡啓一・前千葉市長が収賄で逮捕される事件が発生したのだ。鶴岡氏を支援していた自民・公明陣営の新たな候補者の対抗馬として、熊谷氏に白羽の矢が立った。同年6月に市長選が行われると、過去最高得票を得て当選。政令指定都市では最年少の、31歳4カ月の若さで千葉市長となった。

NTT・東京電力と連携 電気・通信の強靭化に注力

市長としては、11年に東日本大震災、19年には台風15・19号など、未曽有の大災害を相次いで経験。東日本大震災では、千葉市内各所の住宅の損壊、土砂崩れのほか、液状化も発生し、停電や都市ガス供給に支障を来す被害を受けた。その後、市は民間企業と防災に向けた取り組みを進めたが、その最中に台風15・19号が千葉県に襲来。館山市、南房総市など房総半島の広い範囲が長期間にわたって停電に遭い、千葉市でも若葉区、緑区など内陸部の住宅地で数日間にわたって停電が発生した。

「メディアで千葉市内の状況はあまり報道されなかったが、停電で電気が使えないことに加え、水道のポンプが停止したため断水した地域も多かった。千葉にとっては東日本大震災以上の被害が起きた印象だ」と振り返る。

こうした災害の教訓を生かし、4月に東京電力、NTT、NTTアノードエナジー、東電とNTTの合弁会社であるTNクロスが、千葉市のレジリエンス(強靭性)能力を高める取り組みを行うと発表。市内182カ所の避難所に太陽光発電と蓄電池などを導入するほか、NTT東日本千葉支店の周囲に自営線を敷設し、災害時に電力供給を行うという。

東電、NTTグループと連携した防災力の強化について、「18年の北海道のブラックアウトでもそうだが、電気が止まれば通信機器も使えなくなる。私自身、NTTに勤めていた時から、電力と通信は密接な関係にあり一体的なものだと感じていた」と説明する。また古巣のNTTについては、「澤田社長に『電力と通信の強靭化で一緒に何かできませんか』と相談すると、『NTTも電力をしっかりとやらなればならない』と、熱意を持って応えてくれた」と語る。これまで千葉市が民間企業と多くの連携を行ってきたことに加え、熊谷氏の人脈も、電力と通信の融合によるレジリエンス強化という試みに乗り出した大きな要因かもしれない。

また市の内陸は農村地帯が広がり、太陽光発電所も多い。地元住民からは「太陽光を自分たちのレジリエンスのために使えないか」との要望も受けていた。「台風で甚大な被害を受けた地域だからこそ、電力強靭化政策に市民・議会の理解を得られた。これを災害に強いまちづくりの旗頭の一つに据えて取り組みたいと考えている」と抱負を述べる。

座右の銘は「温故知新」。歴史好きであるだけに「歴史の歩みを知ることで、学べることは多い」と、趣味が過去の教訓を生かした政策作りに反映されているのかもしれない。

目下、千葉県知事選への出馬も取り沙汰されている。出馬について聞くと「あくまで報道で出ているだけですよ」とさらり。とはいえ「千葉県には海も山もあり、畜産や新鮮な農水産物もある。いわば東京の隣にある北海道のようなもの。千葉のブランド力向上や地域のアピールを積極的に行いたい」と、さらなる活躍に向け意欲を示した。

自治体首長の中で、ツイッターのフォロワー数は大阪府知事の吉村洋文氏、都知事の小池百合子氏、大阪市長の松井一郎氏に次ぐ4番目。情報発信能力に定評のある熊谷氏の今後に関心が高まりそうだ。

「温暖化台風猛威論」の嘘 現実は大型化も多発化もせず


【気候危機の真相 Vol.08】長辻象平/産経新聞論説委員

「温暖化で台風が大型化・多発化している」といった主張は、既成事実化されつつある。だが統計を見れば誤りであることは一目瞭然。温暖化脅威論の「不都合な真実」がそこにある。

一昔前、次のような戯れ歌があった。

「郵便ポストが赤いのも、電信柱が高いのも、みんな私のせいなのよ」―。現代ではこのフレーズが「熱中症が増えるのも、梅雨の雨が多いのも、世界で山火事が起きるのも、みんなお前のせいなのだ」に形を変えて大流行の状況となっている。

ここでの「お前」とは、大気中のCO2と地球温暖化のコンビのことである。現代のほとんどありとあらゆる異常気象が、このコンビの仕業とされている。冬に大寒波が南下したり、砂漠に雪が積もったりしてもいろんな理由をこじつけられて、コンビのせいということになってしまうのだ。

そうした認識構造の土台には、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)などが、この約30年間にわたって強調し続けてきたCO2による温暖化脅威論が広く深く根を張っている。

こういう状況下で世の中の人々に最も誤解されやすいのが台風の発生だ。「近年は温暖化によって台風が大型化し、かつ多発化の傾向にある」とする新聞記事などに接する機会が増している。

それに加えて、台風は海面から蒸発する水蒸気を燃料とする気体の渦巻きエンジンという科学知識も普及しているので、温暖化台風猛威論は、多くの現代人に一片の疑いも抱かれることなく受け入れられているのだろう。

気象庁統計で一目瞭然 脅威派の「不都合な真実」

だが、温暖化の進行による台風の強大化と多発化という認識は、正確さを欠いているというより、はっきり言えば誤りだ。

理由は気象庁のデータを見れば一目瞭然だ。同庁のホームページには、上陸時の気圧が低い歴代トップ5を載せた「中心気圧が低い台風」の表がある。台風は中心気圧が低いほど勢力が強い。

この表を一瞥すると驚くだろう。すべてが前世紀の台風で、多くが世紀中頃のものなのだ。

1位は1961年の第二室戸台風(925hPa)。2位は59年の伊勢湾台風(929hPa)、3位は93年の台風13号(930hPa)、4位は51年のルース台風(935hPa)と続く。

5位には54年から91年の間に上陸したいずれも940hPaの台風が6個並んで計10個。温暖化が問題になり始めた90年代の台風は、この10個中、わずか2個という少なさだ。

日本の台風では34年の室戸台風(912hPa)と45年の枕崎台風(916hPa)を忘れてはならないが、これらの超大型は一覧表から漏れている。

理由は気象庁の台風統計が51年からなので、参考記録扱いになっているためだ。

ともあれ、気象庁のデータからは現代よりも、過去の時代において、中心気圧が低くて強大な台風がひしめいていた実態がありありと見えてくる。

温暖化への恐怖をあおる勢力にとっては、まさしく「不都合な真実」だ。

次に、日本に上陸する台風の数は増えているのだろうか――。

1900年から2014年における日本の台風上陸数

気象庁の台風統計は、台風の定義が現在のものになった51年以降のものしかない。長期変化の把握にはもう少し古い時期の上陸数を知りたいところだ。そうした研究はないかと探していたところ、それがあった。

横浜国立大学教育学部の筆保弘徳教授や北海道大学理学部の久保田尚之特任准教授ら三人の台風研究者による2016年の論文だ。

【新電力】衝撃の容量市場 分かれる対応


【業界スクランブル/新電力】

1万4137円という、9月14日に突如公表された容量市場約定価格は、電源を持たない新電力にとって大変高額な負担になる。17日に開催された第42回制度検討作業部会で、新電力からは事業継続性に関わるといった切実な意見が出ている。最も大きな議論になる論点は、経過措置と逆数入札の在り方と考えられ、今後、既設電源の「棚ぼた」について議論が行われることになるだろう。

さて、今回、新電力間でも、電源を持つ新電力と持たない新電力で明暗が分かれた。大手新電力でガス・石油系は自社電源により容量市場収益がそれなりに確保できることから、影響は軽微であろう。問題は電源を持たない新電力、かつ主に高圧需要を積み上げてきた新電力である。高圧需要はここ数年の過当競争により、基本料金が限界まで値引かれているケースが多く、価格引き上げも容易ではない。既に新電力から入札やり直しや約定処理の見直しの声が上がっているが、これまで審議会で決めたルールに基づいて行った入札である。市場の信頼性を維持する観点から、今回の結果に基づいた負担は(仮に電源が「棚ぼた」的な利益を得ていたとしても)受け入れる必要がある。

気になるのは再生可能エネルギー系新電力の動きである。小泉進次郎環境相は9月29日、10月2日、6日の閣議後会見で容量市場の透明性・価格の妥当性について強い口調で触れており、「主に再エネを販売する新電力から容量市場への要望書を受け取った」と述べている。また、自民党再エネ普及拡大議連でも容量市場について扱うようだ。同議連では発電側課金について、参加議員から強い反発があり、検討が中断している経緯がある。

容量市場にせよ、発電側課金にせよ、有識者会議でさまざまな利害関係者を含めて議論を積み上げた結果、決まった制度である。行政府での議論に参加せず、施行段階で立法府を巻き込んで制度の根本をひっくり返すのは、制度設計・施行の根幹を揺るがすルール違反である。今後の展開に注目したい。(M)

温暖化で注目集まる電気の環境価値 需要家が分かりやすい電源構成表示を


【多事争論】話題:電源構成表示の在り方

再生可能エネルギーの導入拡大が進み、電気の環境価値への注目が高まっている。 FIT、非FITなどが混在する中、あらためて電源構成表示の在り方が問われている。

<FIT電気の環境価値は全電源平均 再エネと分け固有の電気として扱うべき>

視点A:市村拓斗 /森・濱田松本事務所弁護士

エネルギー供給構造高度化法(高度化法)に基づく中間目標の第1フェーズが今年度から開始し、原則5億kW時を超える小売り電気事業者は、3年度の平均で達成状況が判断される中間目標に応じた非化石証書を調達することが必要となる。そのため小売り電気事業者としては、事業戦略上、相対や非化石価値取引市場で調達したことにより発生するコストを、どのように小売料金に反映するかがポイントとなる。

また、近時はRE100や脱炭素化の流れにより、再エネ由来の電気を調達する需要家ニーズが高まりを見せており、非化石価値に付随する再エネ価値(再エネ指定証書のみ)やCO2フリーの価値(以下「再エネ価値等」と総称)をアピールして販売することが販売戦略上より一層重要となってくる。

今年度からすべての非化石電源が非化石証書制度の対象となり、再エネ価値などは電源構成とは完全に切り離されている。例えば、水力の電気を需要家へ販売する場合でも、非化石証書を取得していなければ再エネとして訴求することはできないとされる。もっとも、水力発電所から発電した再エネ由来であることは事実であるため、仮に非化石証書が充てられていない水力の電気であっても、「再エネ由来」であることを訴求することもありうるし、「再エネ由来」の訴求を認めるか否かにかかわらず、電源構成の表示としては再エネ100%になると思われる。

ただし、そうした場合、「再エネ」として訴求できないことと、「再エネ由来」であることを訴求できることとの違いは、一般消費者をはじめとする需要家にとっては、容易に理解しがたい。

電源構成表示に求められる

「正しさ」と「分かりやすさ」

需要家の誤解を回避するための解決策として、注釈(「この電気は非化石証書を充てていないため、再生可能エネルギーとしての価値を有しません」等)を付けることが考えられる。ただ、注釈が多いのも需要家にとっては分かりにくいし、そもそも再エネ由来とアピールしながらその価値を有しないという注釈はかえって混乱を生む懸念もある。電力の小売り営業に関する指針(小売りガイドライン)の環境価値表示については、「正しさ」は大前提であるが、同時に「分かりやすさ」が求められ、電源構成に関する表示は前提としつつも「再エネ由来」といった訴求は認めるべきではないように思われる。

また、FIT電気の表示の在り方についても、見直しが議論されている。これまで、非化石証書を充てる場合、「実質再エネ」という表示が認められてきたが、再エネにもかかわらず「実質」というのは、需要家に分かりにくいという指摘を受けてのものである。ただし、FIT電気については、国民負担で賄われていることを踏まえた制度設計が必要である。すなわち、需要家の負担するFIT賦課金を原資とした交付金による補てんを受けており、その環境価値はすべての需要家に薄く帰属すると考えられる。

そのため、CO2排出係数の算定上は、再エネの電気とは異なる全電源平均の環境価値を有する電気、いわばFIT電気という固有の電気として取り扱うことが必要と思われる。再エネ指定の非化石証書を充てた場合であっても、「実質再エネ」という表示を求めているのは、この点を踏まえたものと言える。

現在、再エネ表示などの議論が行われている電力・ガス取引監視等委員会の制度設計専門会合においては、「再エネ」としての訴求を認めた上で、FIT電気であることの明示や説明を行うことなどを求めることが案として取り上げられている。前記のように、FIT電気という固有の電気として取り扱うとの考えを踏まえると、非化石証書を充てた場合であってもFIT電気の説明を行うことなどは当然として、「再エネ」と「FIT電気」の表示は、「FIT電気(再エネ)」「再エネ(FIT電気)」といったように、最低限セットでの表示を義務付けるべきである。

以上、全非化石電源の非化石証書化に伴う表示ルールの見直しに関する私見を述べたが、再エネ価値などについては、電源構成とは完全に切り離されていることを需要家が正確に理解することは難しい。小売り電気事業者は、説明義務を履行するために最低限必要な内容にとどまらず、より一層分かりやすい説明をすることが求められる。

この点は、基本的には小売り電気事業者が総意工夫すべきものと言えるが、非化石価値・取引については政府の広報も重要であり、小売りガイドライン以外に小売り電気事業者が活用できるパンフレットを作成するといった対応も一案と思われる。

いちむら・たくと 森・濱田松本事務所弁護士。早大法科大学院修了。著書に『知らなかったでは済まされない!電力・ガス小売ビジネス116のポイント』がある。

【電力】環境相への要望 骨太の取り組みを


【業界スクランブル/電力】

上限価格に近い約定価格(kW当たり1万4137円)となった容量市場の第1回メインオークションに小泉進次郎環境相が大臣会見で疑義を挟んでいる。おそらく結果に不満な事業者が陳情したのだろうが、数年にわたって議論を積み上げ、やっと実施に移した制度を、もし政治が介入してひっくり返すことになれば、託送料金の発電側基本料金に続く事態となる。

これらはいずれも、インフラコストの負担について、現存する需要家間の不公平を適正化するためのものであることが見落とされていないか。再エネ主力電源化は国策だが、サイレントマジョリティの負担で再エネを甘やかし続けることが主力電源化ではないだろう。

小泉環境相の政治手法は、父親譲りなのか敵をつくってたたいて注目を集めようとするもののようだ。石炭火力しかり、今回の容量市場しかりである。そして、そのようなパフォーマンスが、すぐに対立の構図をつくろうとするマスコミの格好の材料になる。

容量市場については、10月3日の朝日新聞朝刊が「容量市場、電気料金に響くか 経産相『追加負担ではない』環境相『可能性ある』」と報じているが、これなど最たるものだ。内容をよく見れば、両大臣の発言は矛盾するものではない。それをあたかも見解の相違があるように演出する朝日も朝日だが、無駄に攻撃的な物言いでマスコミに使われる大臣も大臣だ。

小泉環境相の誕生時、筆者は福島第一原発のトリチウム水問題の進展を期待したが高望みし過ぎた。COPでは各国間調整に精力的に動き、各国から感謝されたと聞く。それには素直に敬意を表するが、国内については、本人も温室効果ガス削減効果に乏しいと認めてしまうレジ袋有料化とか、誰が見ても空手形と分かる自治体の2050年CO2ゼロ宣言とか、同じように入閣前の立ち位置が与党内野党的であった河野太郎大臣とはだいぶ差がついたように思える。

せっかく環境大臣に再任されたのだから、もっと骨太の課題、さしずめ、大型炭素税に本気で取り組んでいただけるなら、見直すこと必定なのだが。(T)

SDGsとは何か 持続可能な開発の意味


【羅針盤】三井久明/国際開発センター SDGs室長・主任研究員

持続可能な開発目標(SDGs)を、長期的な経営戦略作りの指針として活用する企業が増えてきている。SDGsを経営に活用するには、まず持続可能な開発の意味を理解する必要がある。

コロナ禍で先行きが見えない今日、将来の社会の持続性を考えるツールとして、SDGsへの関心が高まってきている。このたび、SDGsとは何か、これを企業経営にどのように活用するかといった課題を整理し、拙著『SDGs経営の羅針盤』として刊行した。今回を含め3回に分けてこの書籍の内容を紹介する。第1回では、SDGsとは何か、「持続可能」はどういった意味か、について解説する。

国連サミットで提示 17のゴールから構成

SDGsとは、2015年の国連サミットで「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に掲げられた、国際的な開発目標のことである。世界の150カ国を超える加盟国首脳の参加のもと、全会一致で採択された。貧困、飢餓、ジェンダー、教育、環境、経済成長、人権など、幅広いテーマをカバーしており、30年までの達成が目指されている。「誰一人取り残さないこと」が強調されている。

SDGsのポスター(17のアイコン日本語版)

国連で合意された国際的な開発目標には、これまでもいくつもの枠組みがあった。SDGsの前身であるMDGs(ミレニアム開発目標)がその代表的なものである。従来は、こうした開発アジェンダは、国や国際機関やNGOなどが対処するものという考え方が一般的であった。だが、近年の環境や経済、社会課題は、地球規模で影響が拡大しており、政府や国際機関だけでは対処できなくなりつつある。企業、市民社会、メディア、教育機関などのさまざまな組織の積極的な関与が必要となっている。特に、企業は環境、社会、経済への影響力が大きく、ビジネスを通じてSDGsに取り組むことが期待されている。

SDGsは17のゴールから構成されている。各ゴールには、カラフルなアイコンがセットになっており、それぞれのアイコンに簡潔にゴール内容が表記されている。例えば、ゴール1は「貧困をなくそう」、ゴール2は「飢餓をゼロに」、ゴール3は「すべての人に健康と福祉を」、ゴール4は「質の高い教育をみんなに」といった具合である。

近年、本邦企業を対象としてSDGsに関する意識調査が各種実施されている。「どのSDGsゴールを重視するか」といった質問には、13(気候変動)、8(働きがい・雇用)、12(消費・生産)、3(健康と福祉)、7(エネルギー)、5(ジェンダー平等)といった回答が多い。やはり地球温暖化など気候変動は日本企業にとっても身近なテーマと受けとめられている。また、「働きがい・雇用」や「消費・生産」も民間セクターが深くかかわるゴールであり関心が高い。

SDGsという言葉は、徐々に日本社会に浸透しつつあるように見えるが、そもそも「持続可能な開発」とは何なのか。実は、1987年に発表された国連の委員会の報告書の中で明確な定義がある。持続可能な開発とは、「将来世代のニーズを満たす能力を損なうことがないような形で、現在の世代のニーズも満足させるような開発」と示されている。つまり、開発が持続可能かどうかの焦点は、将来の世代のニーズを損なうか損なわないかにある。現代の世代のニーズばかり追い求めることで、我々の子供や孫といった将来の世代の暮らしが、甚大な悪影響を受けるようであれば、その開発は持続的でないことになる。

エネルギー参入で事業規模拡大 次の成長領域は地域密着型


【私の経営論(2)】吉本幸男/エフビットコミュニケーションズ社長

前回は、私が18歳で通信事業を立ち上げ、新規領域に積極的に乗り出すことで業容を拡大してきた経緯についてお話させていただきました。企業の成長には、新領域に進出する決断力、勇気が必要であると述べましたが、その経営理念は創業から56年が経過した今も変わりません。

IC(通信)事業、法人向けソリューション事業に続いて着手した、マンションISP(インターネット・サービス・プロバイダー)事業、チェーンホテル向けのビデオ・オンデマンド(VOD)事業でも市場競争が過熱化し、以前のような高い収益を生むことが難しい情勢となりました。そこで、満を持して乗り出したのが電力事業です。

2008年の高圧契約の自由化を機に、マンションなどの大型施設で電力会社と一括契約することで電気代を削減できる高圧一括受電とLED設置などを合わせて、エコとコスト削減を実現する電力ソリューションの提供を開始したのです。

通信とエネルギービジネスを多角的に展開

小売りから発電まで エネルギー事業も多角化

エネルギー分野への進出は、畑違いに打って出るように見えるかもしれませんが、ISPサービスを手掛けマンション管理組合との関係を構築していたので、実はとても親和性があり一括受電契約を獲得しやすい環境でした。

また、自動検針による電力メーターチェックや料金未納に伴う供給停止など、エネルギー事業には通信技術を必要とする要素も多く実はつながっています。そしてこれを起点に、当社はエネルギービジネスの多角化も進めていくことになります。

11年には、再エネFIT制度を活用し、全国の遊休地などを利用したメガソーラー事業を開始しました。建設を進めた山林は、境界線があいまいだったり、土地の登記がでたらめだったりと、開発許可を取得、造成し太陽光パネルを設置する以前に、権利を取得する段階で大変な苦労がありましたが、この7年間で15万kW程度を開発し、約750億円の特需を得ることができました。

さらにエネルギー小売り全面自由化に伴い、16年には電力小売り事業者として「エフビットでんき」を、17年には都市ガス小売り事業者として「エフビットガス」の販売をスタートしました。電力については現在、高圧需要家向けを中心に約40万kWの契約電力を獲得。これを24年には100万kW規模まで拡大したいと考えています。

また、電力小売りビジネスの競争力強化に向け、今年8月には新電力のFパワーが千葉県袖ケ浦市に所有していたガス火力発電所「新中袖発電所」を買収しました。発電所を保有、運用するのは当社としても初めてのことです。この件については次号で詳述しますが、地産地消のバイオマス発電所の設立に向けても動き出しています。

中小企業の省エネを支援 顧客に寄り添うコンサル事業


【エネルギービジネスのリーダー達】安孫子崇弘/エネルギーアンドシステムプランニング代表取締役

省エネ支援を通じて、これまで携わった需要家やパートナー企業に恩返しをしたいと起業した。

創業以来、「お客さまに寄り添うこと」を第一に、コンサルタント事業などを展開している。

あびこ・たかひろ 1998年東京電力入社。2000年新規事業会社のハウスプラス住宅保証に出向。06年日本ファシリティ・ソリューションに出向し、建物や設備の省エネ対策の実務を担当。13年東電に帰任後、同社を退職して起業し現職。

脱炭素化、省エネ法や「RE100」への対応など、企業は省エネに対してさまざまな取り組みを求められている。だが、情報収集力や資金力を豊富に持つ大手企業とは異なり、中小企業ではなかなか手が回らないのが現状だ。

エネルギーアンドシステムプランニングは、ここにビジネスの種を見いだし、中小企業を中心に省エネコンサルティング業務を展開する。これまで、製紙工場、味噌・醤油工場、電線工場、合金製造業、化学プラントなど、産業系の工場で実績を積み上げてきた。

創業から7年目。単身で立ち上げた安孫子崇弘社長は「お客さまに100%寄り添い、良質なサービスを提供すること」を信条とする。工場は、照明のLED化や設備の更新でも省エネが可能だ。だが、作業環境の改善と生産品の品質確保を両立するには、生産工程にまで踏み込む必要がある。

例えば、化学プラントでは、現場の安全確保のため、化学反応で発生した熱を冷ます「冷却工程」が欠かせない。一方で、エネルギー使用量が多く、削減の余地は大きい。提案に当たり、まずは生産工程を知ることからスタートする。

高校の教科書を開いて化学反応をおさらいし、それでも分からないことは、現場担当者から教わることも。「良い提案をしなければ」というプレッシャーをばねに、積極的に専門知識の習得に努めた。

長期にわたる出向経験 顧客ファーストを醸成

工場は企業秘密の塊だ。一方、現場から信頼され、徐々に情報が入るようになれば、提案の幅が大きく広がる。エネルギーは専門性が高い。「省エネの意義や技術的な内容などにビジネスの視点を入れて、分かりやすく翻訳すること」が同社の役割だ。企業と二人三脚で省エネを進めてきた。

時間も労力も費やすが、辛いと思ったことは一度もない。顧客と共に得る達成感。そこに仕事の楽しさがある。

大学卒業後、東京電力に入社。その2年後、東電が新たに立ち上げたハウスプラス住宅保証に出向し、ハウスメーカーへの住宅性能評価制度の普及や営業などに取り組んだ。約6年半の在籍後、子会社の日本ファシリティ・ソリューション(JFS)に出向。企業の省エネ診断やESCO提案とともに、改正省エネ法に関する新サービスの立ち上げにも携わる。新しいことにチャレンジするのが好きな性分。さまざまなジャンルの業務を意欲的にこなしていった。

約13年間の出向期間、顧客に近い業務が多かったことが、独立した時に掲げた「お客さまファースト」という理念を醸成。また、電力会社に在籍したことで、多種多様な工場や機械・設備を扱う機会に恵まれた。その経験から、今ではだいたいの設備の仕組みや構造を把握できるようになった。

東日本大震災の発生後、福島第一原発の廃炉関連業務に携わった。いったんエネルギーサービスの仕事から離れた時、これまで関わった企業担当者の顔が次々と浮かんだ。震災後、「JFSさんは関係ないよ」と変わらず取り引きを続けてくれた企業もあった。「エネルギーサービスで世の中にもっと貢献したい」。この思いが強くなり、独立への一歩を踏み出した。

審議会をレポートで配信 ビジネスのヒントに

初の取引先となった佐賀県の企業をはじめ、新潟県、栃木県、徳島県―と、顧客先は全国各地に及ぶ。「遠くても近くても、お客さまとの心の距離は離れないよう心掛けている」。各社の訪問は月に1回程度。これまで築き上げた関係があるので、コロナ禍であっても関係性に影響はない。

2年ほど前から制度情報配信サービス「制度TRACKER」を開始した。経済産業省や環境省では、エネルギー・環境分野に関する審議会が同時並行で開催されており、聴講だけでも大変だ。そこで、審議会を毎回ウオッチし、月に1回、レポートで配信する。

各審議会が関連するジャンルを表で表すほか、その内容はポイントをまとめて箇条書きで表記。さらに、今後の見通しや将来展望なども記載されている。

新規参入企業にとって、規制領域だった電力事業は分からないことが多い。「自由化で参入した企業が、制度を知らないことで事業上のリスクを負わないようにしたい」という。議論の結果を踏まえ、今後のビジネスを考えるヒントとして省エネ以外のエネルギーサービスにつなげていく狙いもある。

一方で、新規事業にも動き出した。昨年、IoT化を支援する子会社「マーカーシステムズ」を設立。工場のIoT化による生産性向上とデータ収集分析は、設備更新や省エネ改修などの低コスト化につながると考えている。

「頼んで良かった」。この言葉が何よりうれしい。「より多くのお客さまに品質を落とさないサービスを提供していくこと」が、今後の課題であり目標でもある。「顧客に寄り添う」という創業当時の思いは、これからも変わらない。

原子力界でのロスアトムの実力 核燃サイクルで世界をリード


【ロスアトム】

日本ではこれから六ヶ所再処理工場の稼働が始まり、核燃料サイクルのスタート地点に立つ。だが、隣国ロシアのロスアトム社は、核燃料サイクルで既に世界をリードする存在になっている。

ロスアトム社には、ウラル地方とシベリア地方に使用済み燃料の再処理工場がある。いずれも六ヶ所工場と同じように、ピューレックス法(PUREX法)で使用済み燃料からプルトニウム、ウラン、そして高レベル放射性廃棄物(HLW)を分離する。ただ、六ヶ所工場と違い、シベリアの工場では液体試薬をループすることにより、液体廃棄物を全く出さない。

高速炉用のMOX燃料の集合体

再処理により分離されたウランは濃縮され、核燃料として再利用されている。RBMK(黒鉛減速沸騰軽水圧力管型原子炉)は、全てこのウラン燃料を使用している。また、VVER(ロシア型加圧水型原子炉)の燃料に転換することも計画されている。

人工元素であり、ウランの核変換によってのみ生成されるプルトニウムは、エネルギー強度の面でウランよりもさらに価値がある。核分裂時にはウランの核分裂より14%も多くエネルギーを生む。

しかし、軽水炉では十分なパワーが出ず、高速炉で実力を発揮する。ロシアの高速炉、BN−800は再処理で作り出されたプルトニウムを燃料に使用している。

廃棄物から有用元素を分離 アクチニドを高速炉で燃焼

再処理により出るHLWの中には、現在世界で最も高価なカリフォニウムの原料になるキュリウムなどの元素を含んでいる。また、同じようにセシウム、ストロンチウム、アメリシウム、プロメチウム、キセノン、クリプトンなどの成分も産業利用ができる。

課題はそれらの分離だ。ロスアトム社は、HLWから、まずマイナーアクチニド(ネプツニウム、アメリシウム、キュリウム)と、「ホット」フラクションと呼ばれるストロンチウム、セシウムを分離することに取り組んでいる。アクチニドは高速炉で燃焼し、ホット成分は強制冷却する。

これらの作業により、使用済み燃料のうち約3%とごく一部だけを最終処分にでき、放射性廃棄物の危険性を大幅に減らせられる。ロスアトム社は廃棄物の組成をこのようにすることを目標にしており、その廃棄物は300~350年後には地表近くで処分できる。

また、原子炉ではMOSART(溶融塩アクチニドリサイクル転換炉)の開発を進めている。核燃料物質を溶融塩に溶解させた液体燃料炉で、フッ化リチウム塩、核分裂生成物(主にプルトニウム)、マイナーアクチニドを燃料とする。

燃料塩が下から上にゆっくりと移動し、核反応を起こしてマイナーアクチニドを危険性の低い核種に変換していく。2022年に概念設計を作成し、31年の運転開始を目指している。