【都市ガス】ニチガスの新戦略 プランBを提起

【業界スクランブル/都市ガス】

ニチガスの株主総会において脱炭素化戦略が発表された。その戦略に対してLPガス業界から批判の声が出ているという。「LPガスを捨てる意思表示をした」というのが、その理由だ。ニチガスといえば、いち早くDXへの変革を決断し、無人稼働を目指した世界最大のLPハブ充填基地や無線通信検針による配送業務の効率化、他社へのLPプラットフォーム提供など、LPガス事業内でも革新的な戦略を矢継ぎ早に展開しているのに、なぜなのか。

今回の脱炭素化戦略では、2030年度のCO2削減目標達成のためにエネファームを捨てて、エコジョーズとハイブリット給湯器の普及促進にシフトする戦略が明示されている。さらに、ニチガスの持つ個々のお客さまとのネットワークをフル活用して、LPガス自動車ではなくEVの販売を行い、同時にEV電力料金メニューを提案し、さらには電化の営業も強化して電力販売促進につなげるものだ。この戦略は、今後もLPガス事業を推進しつつも、世界的脱炭素化の動きに伴う電化シフトを見越して、プランBを打ち出したものといえよう。

しかし、これがLPガス元売りにしてみると面白くない。もっとプロパネーションを強調して、LPガス事業が今後も持続的に成長していくと明言してほしかったのに、脱LPガスを暗示させるような戦略になっていることに不快感を覚えているわけだ。そこには、化石燃料を取り扱う事業者にとっての、将来を見通せない不安感情が見え隠れする。

ひるがえって、都市ガス事業はどうだろうか。LPガス同様、メタネーション一本足打法だけでは、将来を見通せないことは誰もが分かっているのではないか。エネルギー基本計画では、30年までにエネルギー需要量は2割弱削減され、熱燃料の需要量は2.5割減少する。われわれにもプランBが必要なのではないか。「環境変化に従って自らを変えることができるものだけが生き残る」というダーウィンの進化論は誰もが知っているはずである。(G)

地域共創に必要なもの ビジョンと地域と仲間

【私の経営論】川村憲一/トラストバンク代表取締役

過去2回の連載では、トラストバンクの組織作りとビジョン経営について紹介してきた。今回は、当社が大事にしている「地域共創」についてお伝えしたい。
当社のビジョン「自立した持続可能な地域をつくる」―。これはトラストバンク単独、ましてや一人で実現できるものではない。多くの共感する仲間がいるからこそビジョンの実現に近づく。地域の発展も同様だ。インターネットやモビリティーなどの技術革新により、これまで以上に地域外との交流が生まれている現在、地域内のコミュニティーを考えるタイミングが訪れている。今後は地域内に閉ざした世界観ではなく、地域の未来像(ビジョン)を明確にし、その地域に関わる皆で盛り上げていくことが必要になっている。
現在、ふるさと納税総合サイト「ふるさとチョイス」は全国の9割以上の自治体が利用しており、多くのおカネを全国に還流させている。ただし、それだけで地域に変化を起こすのは難しい。地域と向き合い、理解する必要がある。

共創に必要な相互理解 自治体とビジョンを共有

どの自治体も総合計画を策定する。当社は自治体の中長期の方針を理解し、そしてふるさと納税において寄付を集めた先の使い道を知ることを徹底する。自治体を知るのは現場だけではない。私が全国行脚して行っている首長訪問を通じて、自治体のビジョンを、資料を読み込むだけでは分からない背景も含めて理解することを同時に進めている。こうすることで、うわべだけの情報で理解したつもりにならず、「生」の言葉を通じて自治体をより深く理解する。相手を理解した上で、当社のビジョンや想いをお話しして、トラストバンクを理解してもらうのだ。
また、自治体職員向けにふるさと納税に関するセミナーや実務者向けの勉強会を全国で実施している。これらは、ふるさと納税制度や制度に関わる業務内容の説明、先輩職員がどのような想いで活動してきたのか、そこにトラストバンクのメンバーがどのような想いで関わっているかを共有する重要な場となっている。制度を通してどう地域を持続可能にしていくのかを議論したり、自治体職員同士の悩みを相談する場としても欠かせないものとなっている。
会合では、ふるさとチョイスの想いやふるさと納税で起きた変化などを共有し、自治体職員一人ひとりが、ふるさと納税でどんなことができるかをイメージしてもらう。当社の想いを言葉で理解してもらうだけではなく、伴走する中で体温を感じてもらいながらお互いの理解を深めていく。
逆に、自治体職員からトラストバンクに勉強会を開催してもらうこともある。勉強会の講師を担当してくれた自治体職員はこう話す。「トラストバンクの考えに共感し、地域のことを一番に考えてわれわれと伴走してくれる姿に感銘も受け、自治体と民間企業という間柄ではなく、『仲間』として時間を共にしてきた。今後どんなに会社の規模が大きくなろうとも、大好きなトラストバンクには自治体と共創することでビジョンを達成してもらいたいという想いが胸にある。入社して間もなかったり、普段自治体職員と関わることがないスタッフ向けに、自治体視点でトラストバンクがどれほど素晴らしい企業なのかという客観的な意見を伝えたかった」。そうした想いから開催された。
お互いの理解をさらに深めていくためには、地域課題を解決するために提案し、伴走することが重要である。昨年2月27日、コロナ禍で全国一斉休校となり、給食の食材を提供している事業者が悲鳴を上げた。そこで、3月4日に給食事業者の品をお礼の品として提供し、寄付者がこれらの事業者を支援できるプロジェクトを立ち上げた。その後も観光関連や外食産業関連、花卉関連と矢継ぎ早に事業者支援プロジェクトを立ち上げ、1年半で約185億円を全国の事業者に届けることができた。
例年起きている災害でも、継続的な被災地支援を実施している。弊社は災害が発生した際、早ければ発災当日に被災自治体のプロジェクトを立ち上げ、寄付を募る。自治体が災害対応に追われている中でも、自治体と日頃から密なコミュニケーションを取っているからこそ、迅速に連絡が取れ、このスピードで寄付を募ることができる。災害の寄付では、寄付募集が3日遅れると6~7倍程度、寄付の集まりに差が生まれるためスピードは非常に重要である。

被災自治体のサポート 地域を超えた共助の形

実は、災害支援の話には続きがある。被災自治体は、発災中は現場対応に追われているため、寄付に対する事務手続きなどに手が回らず、寄付を募ることが難しい。当社では、これを解消すべく被災していない自治体が代わりに寄付を受け付ける代理寄付という仕組みを提供している。これまで多くの自治体が代理寄付を請け負ってくれた。まさに地域を超えて助け合うという共助(共創)の形が出来上がった。
当社のスタンスとして「困っている人を助けよう」「面白いことをやっているから応援しよう」そんな世界をつくりたいと思っており、もっと仲間が必要だ。だからこそ、そこに共感してくれる人がイメージしやすいように明確なビジョンが必要になる。そして、共感してくれる自治体を含めた地域やアライアンス企業と一緒に取り組みをしていく。
「自立した持続可能な地域をつくる」―。自立した仲間たちがお互いのビジョン実現のために支え合う相互依存により持続可能な状態を可能にすると信じている。

かわむら・けんいち 食品専門商社を経て、コンサルティング会社で中小企業の新規ビジネスの立ち上げなどに従事。大手EC企業を経て、コンサルティング会社設立。2016年3月トラストバンク参画。ふるさとチョイス事業統括やアライアンス事業統括を経て、20年1月から現職。

【新電力】小売り部門の意義 脱炭素政策が鍵

【業界スクランブル/新電力】

小売り電気事業者には、本質的な価値はあるのか――。今冬の電力需給ひっ迫を経て、このような言説を見聞きすることが増えた。実際、電力システム全体の中で、小売り部門は調達(発電)費用・託送料金(流通費用)の料金回収機能を担っているが、700社以上の事業者がしのぎを削るだけの価値のある市場だとは到底言えない。小売り部門は明らかに自由化前よりも非効率となっていると考えられる。

一方で、2050年カーボンニュートラル目標の実現や8月9日に公表されたIPCC第六次評価報告書における世界の気温上昇予測(今後20年以内に産業革命前からの気温上昇が1.5℃に達する可能性)を鑑みると、発電部門だけでなく需要家内のエネルギーリソースの脱炭素化は喫緊の課題であるといえる。

日本と同様、熾烈な小売り電気事業者間の競争が行われている英国では、7月23日にビジネス・エネルギー・産業戦略省から「Energy retail market strategy for the 2020s(20年代のエネルギー小売り戦略)」が公表された。戦略では、20年代の小売市場の目標として、①需要家の行動変容を容易にし、エネルギー転換を実現するための持続可能な小売市場の実現、②さらなる競争環境・需要家が競争の果実を得られる仕組みの実現―の2点を挙げている。日本の小売市場にも通ずるものがあるのではないだろうか。

かつて、一般電気事業者において、配電設備の運用・維持に関わる機能は営業部門が担ってきた。それだけ、営業機能と配電設備は密接な関係にあるのだが、現在の小売り電気事業者においては発電・流通整備費用の料金回収と需要家内の設備把握・工事対応機能が残っており、重視されているのはもっぱら前者である。今後、分散電源・EVの導入拡大と脱炭素化に向けた機運の高まりにより、後者の機能強化が求められるのではないだろうか。そのためには、カーボンプライシングなど、需要家の脱炭素化が経済合理性を持つような政策の実現が必要である。政策当局には、需要家の脱炭素化に向けた政策の実現を強く期待したい。(M)

付加価値サービスにこだわり 脱炭素時代のニーズに率先対応

【エネルギービジネスのリーダー達】谷口直行/エネット社長

低価格競争が続いてきた電力小売り市場で、付加価値サービスにこだわってきた。

今後も、脱炭素時代に求められる新たなサービスに率先して取り組み電力業界をけん引する。

たにぐち・なおゆき 1989年日本電信電話に入社。2000年エネット設立に合わせ経営企画部課長に就任。NTTアノードエナジー取締役などを経て21年4月から現職。

 2000年の電力小売り部分自由化のスタートに合わせ、NTTファシリティーズ、東京ガス、大阪ガスの共同出資により誕生した新電力最大手のエネット。今年4月に就任した谷口直行社長は、同社の立ち上げに携わり、新電力として、そしてかつて自由化を経験した通信事業者として、16年の全面自由化に向けた電力市場制度の詳細設計議論の場で意見を発信、大きな役割を果たした一人だ。

安定供給に貢献へ サービスメニューを転換

通信系の技術者としてキャリアをスタートさせながら、この20年の間は電力事業に関わった期間の方が長い。NTTグループが19年6月にグループのエネルギー関連事業を統括する戦略会社としてNTTアノードエナジーを設立すると、その取締役スマートエネルギー事業部長に就任。エネットを離れていたのはわずか2年だが、「電力事業を取り巻く環境は、これまでにない激変を遂げた」と実感しているという。

その背景には、長期化する新型コロナウイルス禍が社会様式の在り方に変化をもたらしていることに加え、昨年の10月に菅義偉首相が掲げた「カーボンニュートラル宣言」、昨年度の冬に発生した火力燃料不足による電力需給ひっ迫に伴う卸市場価格の高騰など、エネルギー事業者に戦略の抜本的な見直しを迫る出来事が相次いでいることがある。

特に冬の需給ひっ迫と卸市場価格の高騰は、相対契約による電力調達を基本としてきた同社にも大きな打撃を与えた。短期的な影響ばかりではない。全面自由化以降、新電力はあくまでも供給力が十分にあることを前提に、経済性を追求したり付加価値サービスを提供したりすることで顧客争奪戦を繰り広げてきたわけだが、安定供給はもはや所与のものではないことを浮き彫りにしたのだ。

谷口社長は、「参画するプレーヤーが安定供給を支え合いながら、顧客ニーズに対応したサービスでしのぎを削る時代に入った。そういった視点で、エネットとして電力小売り事業にどう取り組んでいくか考えていかなければならない」と強調する。

同社はこれまでも、熾烈な低価格競争とは一線を画し、適切な料金水準を維持しながらサービスの充実に注力してきた。例えば、電気使用状況の見える化を標準サービスとして提供しているほか、節電要請に応じたアクションに対して料金を割引するデマンド・レスポンス(DR)サービス「エネスマート」、CO2排出量の低減や再生可能エネルギーの調達を支援する「エネグリーン」、AIを活用し効率的な省エネの取り組みを提案する「エネットアイ」などを展開している。

こうした早期の取り組みが奏功し、エネスマートは5000件(契約電力約80万kW)、エネットアイは1万5000件の契約を獲得。エネグリーンは2000件で、「RE100」宣言企業の約2割が、同社のサービスを通じて再生可能エネルギー由来の電気を購入しているという。

ただ、こうしたサービスは、あくまでも省エネや再エネ調達など、環境対策に先進的に取り組む顧客企業向けだった。今後は、「これらサービスをブラッシュアップし、負担感を伴わずに顧客企業の需給への参加を促せるようなメニューへと転換し、小売り事業者として安定供給を支える役割とグリーン価値の普及につなげていかなければならない」と意気込む。

再エネ価値を最大化 企業の脱炭素経営を支援

 「カーボンニュートラル宣言」を機に、自社の脱炭素戦略をどう描くかは、多くの国内企業にとっての高い関心事。そこで同社は、経営者やエネルギー管理担当者などを対象にオンラインセミナーを開催し、契約切り替えによる電気料金の低減や、CO2排出量低減に向けた具体的な対策を積極的に提案することで、新たな顧客開拓に積極的に取り組み始めている。

NTTアノードエナジーをはじめとするNTTグループが開発、または権益獲得を進めていく再エネ電気をこうした需要家の脱炭素経営と結び付け、その価値を最大化させることは、小売り事業者としての今後の同社の重要な役割だ。

また、再エネの導入拡大が進み需給構造に変革が起きれば、需要側の技術もそれに合わせて進化する。現在は、周波数や電圧を維持し安定供給を担っているのは一般送配電事業者だが、「電力系統の負荷変動ありきで需要群としての電力利用形態を誘導・コントロールすることで、一層、小売り事業者が安定供給に貢献できるようになる」とみる。

需要側の工夫でネットワーク全体の負荷を下げることができれば、当然、電力コストの低廉化にも貢献する。同社としても、他社に先駆けてDXによりそうしたサービスの実装を目指す方針で、「脱炭素」という新たな競争のステージにおいても、引き続き電力業界をけん引し続ける決意だ。

EUタクソノミー巡り覇権争う独仏

【ワールドワイド/コラム】水上裕康 ヒロ・ミズカミ代表

欧州グリーンディール実現に向け、持続可能な事業に投資先としてのお墨付きを与えることを目的に公表された「タクソノミー」だが、発電分野ではフランスなどが推す原子力、ドイツなど石炭依存の高い国が期待するガス火力、そして森林資源豊富な北欧が求めるバイオの扱いについて大いにもめた。デンマークなど風力などに恵まCれた国々はいずれにも反対。そして原子力反対はドイツが主導する。わが国では「EUは再生可能エネルギー推進」とひとくくりに報道されるが、各国は多様なエネルギー事情を背景に資金の確保に向けて激しく闘っている。4月にバイオは承認されたが、原子力とガス火力は議論が続いている。EUの歴史は、独仏が2度の大戦で争ったエネルギーの共同管理から始まった。両国は今日も欧州の覇権をかけてエネルギー分野で争っているが、対立を調整し「大欧州」として世界に影響力を維持することこそEUの原点だ。これだけのバトルを経て作られるルールだから例外は許されない。生半可な見識で外から議論を仕掛ければ袋だたきに遭うのは当然だ。

フランスに原子力が不可欠なのは当然だが、ドイツが天然ガスにこだわるのは、原子力(発電量の1割)と石炭(同3割)の全廃がいかに大事業かということだろう。安定電源を喪失する上、増え続ける再エネの調整力を確保するのは容易ではない。最近メルケル首相の行動で感心したことが二つ。2038年の石炭火力廃止の前倒しを求める声に対し、「関係者には計画への信頼が必要」と昨年7月の決定を変更することを拒否。また、ロシアからの天然ガスパイプライン「ノルドストリーム2」で反対する米国と手打ちを済ませた。何を守るべきかを理解して前に進むのが大政治家たる所以だろう。

【電力】裏付けは希薄 柔軟性重視の主張

【業界スクランブル/電力】

 再生可能エネルギー規制総点検タスクフォースが、7月30日の総合エネルギー資源調査会基本政策分科会に提出した資料の中に「再エネ最優先の観点からも重要なのが、電力システムの設計思想をベースロード重視から柔軟性重視に転換すること」とあった。

言うまでもないが、同時同量の制約がある電力システムにとって、柔軟性すなわちシステムとして柔軟な需給調整能力を備えることは必須である。かつては発電設備の出力調整にもっぱら依存していたが、最近は需要側を含めて多様な柔軟性提供源が実装または構想されている。そして、再エネ導入が進むと柔軟性が重要さを増すのは、再エネに自然変動性があるからだ。

従来型電源よりも使い勝手が悪い自然変動電源をあえて活用することは、当たり前の話だが、それがシステム全体としてメリットがあるときに正当化される。追加的に必要になる柔軟性も考慮した上で、経済的である必要がある。シンプルに言えば、再エネの均等化発電原価(LCOE)が従来型電源の限界費用よりも安かったら、従来型電源の出力を下げて再エネを優先的に使うことが正当化される。さらに安くなれば、蓄電池に貯蔵する、水素を製造するなどコストがかさむ柔軟性技術の実装も正当化され、再エネ大量導入の道が開ける。

世界的には再エネがその水準を達成しつつある国・地域がある一方、日本の再エネは高いままだ。だから、さらにコストをかけてグリーン水素、グリーンアンモニアを輸入、活用することも正当化される可能性があり、石炭火力を含む既存の火力発電所でそれらグリーン燃料をたくことが構想されている。そして原子力だが、一定量コンスタントにCO2フリーの電気を生産する脱炭素化手段として意義は当然にある。

冒頭の文章、石炭火力と原子力への敵意が背景にあると邪推しているのであるが、そもそも再エネのLCOEが劇的に安くなってこそ、柔軟性向上に資源を大量に投入することが正当化される。その見通しを示すことがまずは肝要だろう。 (T)

欧州委員会の包括パッケージ コスト上昇に加盟国が懸念

【ワールドワイド/環境】

7月14日、欧州委員会は欧州グリーンディールを実施するための包括パッケージ「Fit for 55」を発表した。欧州委員会は2019年12月に50年カーボンニュートラルを実現するための欧州グリーンディールを発表し、20年12月に30年の削減目標を1990年比マイナス55%に引き上げることを決定した。提案は30年目標を達成するための具体的な政策パッケージを提示するものであり、その主な内容は次の通りである。

①35年にガソリン・ディーゼル車の生産・販売を実質禁止、②国境炭素調整措置を創設、EU—ETS(EU域内排出量取引制度)を海運業にも拡大、③道路交通、ビルを対象にした新たな排出量取引制度の創設、④再エネ普及目標を32%から40%に引き上げ(最終エネルギー消費比)、⑤省エネ目標を36~39%に引き上げ(ベースライン比、現行32.5%)、⑥航空燃料を対象にエネルギー税を改正、⑦炭素価格上昇に伴う弱者への救済基金設置―。

これらの施策は野心的であると同時に域内の国民、産業に大きなコストを強いることを意味する。このため包括パッケージには26人の欧州委員の3分の1が反対もしくは慎重な姿勢を示しており、加盟国の中からもフランス、スペイン、イタリア、ハンガリーなどがエネルギーコスト上昇に強い懸念を表明している。フランス出身の欧州議会環境委員会のパスカル・カンファン議員は「排出量取引を道路や建物に広げることは政治的自殺行為」と述べている。炭素税引き上げに伴う燃料価格上昇に反発したイエローベスト運動の苦い記憶があるのだろう。

35年のガソリン・ディーゼル車の生産・販売禁止については、ドイツ自動車工業会が「アンチイノベーションの考え方であり、消費者の選択の自由を阻害するものである」として慎重なコメントをしている。ビジネスヨーロッパは包括案を総論としては歓迎しつつも、国境調整措置と引き換えにEU—ETSの無償配賦措置が36年までに終了すること、輸出品に対する還付措置が盛り込まれていないことに懸念を表明している。

このようにマイナス55%目標達成のための包括パッケージについては加盟国、産業界からさまざまな反応が出されている。あくまで欧州委員会の提案段階であり、今後、加盟国、関連産業との間で調整が本格化されることになろう。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院特任教授)

政府の気候変動委員会 電力設備への影響を重視

【ワールドワイド/経営】

英国政府の諮問機関である気候変動委員会(CCC)は毎年、脱炭素化の進捗状況をまとめた報告書を公開している。6月公開の報告書では、前年からのコロナ禍の状況分析に加え、異常気象など気候変動リスクへの対応を取りまとめ、200以上の具体的な方策を提言した。電力部門では、脱炭素化の進展、洪水対策などの取り組みが高評価されたが、今後はこれらに加え、建物(暖房)や運輸の電化を通じた脱炭素化を重要な課題として取り上げている。

CCCが優先事項に位置付けているのは、気候変動が発・送・配電設備に与える影響の緩和である。まず、2019年の報告書で指摘した洪水対策について、必要な主要変電所の9割が本年末までに対策を完了する見通しであることや、23年まで1億7200万ポンドの洪水対策費用が計上されていることを評価した。一方、19年の落雷を発端とした大停電を引き合いに、一部のトラブルが連鎖的に波及する電力部門のリスクの特性に触れ、今後他セクターの電化が進むにつれ影響範囲は広くなると指摘した。また、今後の気温上昇に比例して気候変動リスクにさらされる設備が増加するという研究を紹介し、対策強化に向けた事業者による基準・規則の整備が重要としている。

20年の電力部門では、コロナ禍により需要が前年比5%減少し、再エネを中心に低炭素電源の発電量が5%増加したことから、同部門からの排出量は同15%減、CO2排出原単位も同10%減のkW時当たり182gとなった。一方、近年上昇傾向にある需給調整費用は前年比1.5倍、系統混雑時の再エネ発電抑制費用は2倍となっており、系統運用上の課題が改めて浮き彫りになっている。

CCCは、50年の脱炭素化には、電力の排出原単位を30年までに50g、35年までに10gにする必要があるとして、供給サイドはもちろんのこと、ヒートポンプや電気自動車(EV)導入による需要側の柔軟性向上が欠かせないと指摘する。最近は、バッテリー価格の下落を背景にEVの販売台数が増加し、充電インフラの整備も進んでいるものの、EVへの転換が都市部に集中していることから、政策面での工夫を求めた。また建物の脱炭素化には、ヒートポンプなどの導入や都市部の熱供給ネットワークの整備に向けた財政支援を課題とした。今後は財務省の全面的な資金支援を後ろ盾にした積極的な脱炭素化戦略の策定が必要であるとして、11月に開催されるCOP26までに包括的な戦略を固めることを政府に求めている。

(宮岡 秀知/海外電力調査会調査第一部)

大規模油田の開発オペレーター メキシコ国営会社を選定

【ワールドワイド/資源】

メキシコのエネルギー省は7月、カンペチェ湾に位置するZama油田開発のオペレーターに国営石油会社ぺメックスを選定した。Zama油田は、Talos Energy(米)/Harbour Energy(英)/Sierra Oil and Gas(墨)からなるコンソーシアムが、2015年に実施された鉱区入札で落札したエリア7で17年に発見した。約80年間で初のぺメックス以外の企業によるメキシコでの油田発見であり、可採埋蔵量は石油換算で6億7000万バレルとされている。油層が隣接するぺメックスのAE-0152-Uchukil鉱区にまで広がっていたため、共同開発を行うこととなったが、権益比率やどちらがオペレーターを務めるかについて政府が決定することとなっていた。

メキシコでは、18年12月に発足したロペス・オブラドール政権が、ペニャ・ニエト前政権下で実施されたエネルギー改革を逆行させ、ぺメックスや連邦電力委員会を強化し、エネルギー市場への外資の参入を制限する政策を推し進めている。ロペス・オブラドール大統領は、21年6月に実施された中間選挙により、下院で与党連合が憲法改正に必要な3分の2以上の議席を獲得し、憲法改正を伴う抜本的な改革を行うことを計画していた。しかし、必要な議席を得られず、憲法改正は難しくなり石油業界に安堵感が広がっていた。

ぺメックスは1000億ドルを超える負債を抱え、政府からも2021年に35億ドルの減税や最大16億ドルの資金投入など支援を受けているが、この程度の金融支援では、インフラの制約や経営不振という根本的な問題に対処できないとみられている。また深海で油田開発を行う技術を持ち合わせておらず、水深110m以深の開発を行った経験がないが、Zama油田は水深168mの海域に位置している。資金面、技術面で問題を抱えるぺメックスがこれを開発できるのか疑問視されている。

さらに、今回の決定はZama油田だけの問題ではない。メキシコの石油生産量は日量170万バレル弱である。内訳を見てみると、ぺメックスの生産量は日量160万バレル台で増減を繰り返しているのに対し、外国石油会社などぺメックス以外の企業の生産量は日量5万バレル程度と少ないものの、確実に増加している。

メキシコで油・ガス田を発見しても自らオペレーターとなって開発を行えなくなる可能性があるとなれば、石油生産増の鍵を握る国際石油企業の探鉱、投資意欲を失わせることもあり、懸念される。

(舩木弥和子/石油天然ガス・金属鉱物資源機構)

情報を正確に伝えているか コロナ禍で混乱あおるTBS

【おやおやマスコミ】井川陽次郎/工房YOIKA代表

 信頼失墜が指摘される報道関係者への警告に思えた。「情報を正確に判断し、factとopinionを見極める力が問われる」。実は、大学入試センターが今年6月にまとめた報告書にある記述だ。むろん情報を見極める能力が問われているのは受験生である。

報告書は、今年1月に初実施された大学入学共通テストの結果を評価するために作成された。問題の記述は、英語(リーディング)科目の項目にある。

従前の入試センター試験から衣替えし、英語科目は長文を大量に読ませて内容を問う形式になった。新たな試みの一つが、ある文章が事実(fact)について述べたものか誰かの意見(opinion)なのかを答えさせる問題だ。

例えば、警察のデータで夜間の犯罪被害が3倍に増えたとあれば事実である。合唱コンクールの審査員が参加団体の歌唱力は素晴らしいと評価した場合は、この審査員の意見である。

問われるのは、正確な読解力と常識、基礎学力、判断力だ。

コロナ禍を巡るTBSのNスタ8月3日「中等症では入院できない? 医療現場の前線からは憤りの声も」は共通テストの合格レベルに達していただろうか。

感染拡大を受け、前日の関係閣僚会議で菅義偉首相が「重症患者や重症化リスクの特に高い方は確実に入院していただけるよう、必要な病床を確保します。それ以外は自宅療養を基本とし、症状が悪くなればすぐ入院できる体制を整備します」と新たな対処方針を打ち出したことを報じた内容だ。

 首相が触れていない「中等症では入院できない?」の文言が画面に表示されていた。情報を正確に判断できていない。不合格。

コメンテーターの医師は「(菅義偉首相に)国を任せていては国民の命は守れません。至急ですね、お辞めになった方がいい」と声を荒げていた。冷静な報道とは言えない。やはり不合格。

当然ながら、措置が必要な中等症患者は入院させる。政府はそう説明したが、国会では与党議員からも「中等症の自宅療養」方針を撤回するよう求める声が出た。

一連の騒動は、TBS関連の毎日が8月2日夕に「中等症や軽症者は自宅療養を基本」との速報をネットで報じたことが発端だ。夜になって、ひっそり「入院患者以外は原則自宅」と修正したが、情報は独り歩きした。

修正版ネット記事の末尾に言い訳がある。「当初『中等症や軽症者に関しては自宅療養を基本とする内容』としていたのを修正しています。取材過程で、中等症の人を一律自宅療養とするわけではないことが判明したためです」。見苦しい。3日朝刊は修正版と同じ内容だが、誤報に言及はない。

 読売7月30日は「『学校に新聞』小・中とも初の5割超、文科省『全ての学校に置かれるよう促す』」と報じている。

文部科学省の調査で「新聞を置いている割合は、小学校は56.9%で前回から15.8ポイント増、中学校は56.8%で19.1ポイント増、高校は95.1%で4.1ポイント増。各校に置いている新聞の数は、小学校が平均1.6紙、中学校が2.7紙、高校が3.5紙だった」という。

文科省が新聞を推す理由は書かれていない。前提として教材に値すると見なしていることは間違いないだろう。ただし、東日本大震災後の風評被害を拡散する報道、そしてコロナ禍をあおり続けてきた報道を考えれば、批判的に活用すべき教材と言わざるを得ない。

いかわ・ようじろう  デジタルハリウッド大学大学院修了。元読売新聞論説委員。

【マーケット情報/9月10日】原油混迷、方向感を欠く値動き

【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、強弱材料が混在し、各地で方向性を欠く値動きとなった。米国原油の指標となるWTI先物と、北海原油を代表するブレント先物が小幅上昇。一方、中東原油の指標となるドバイ現物は、前週から小幅下落した。

米国メキシコ湾における生産は、12日時点で依然49%が停止。半分程度の生産設備が引き続き、ハリケーン「アイダ」の影響を受けている。石油会社Shellは、多くの買い手に対しフォースマジュールを宣言した。また、生産停止を受け、先週の国内原油在庫は減少した。

さらに、リビアでは政情不安で、一部輸出港からの出荷が停止。加えて、OPEC+の8月産油量は前月から増加したものの、増産目標には届かず。カザフスタンにおける生産設備の定修が背景にあり、欧米原油の強材料となった。

一方、中国は、原油の戦略備蓄を放出すると発表。国内の製油所などが直面する、原油等のコスト高に対応するとしている。具体的な数量や時期は明らかになっていないが、供給増加の見方が広がり、ドバイ現物の重荷となった。

また、新型コロナウイルス変異株の感染拡大で、経済の冷え込みと石油需要後退への懸念が根強い。日本では、一部地域の緊急事態宣言を、9月末まで延長。需要の弱まりを受けたアラムコは、アジア向けの10月積みターム契約価格を引き下げた。

【9月10日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=69.72ドル(前週比0.43ドル高)、ブレント先物(ICE)=72.92ドル(前週比0.31ドル)、オマーン先物(DME)=71.01ドル(前週比0.38ドル安)、ドバイ現物(Argus)=70.71ドル(前週比0.50ドル安)

【コラム/9月13日】再生可能エネルギー共同体

矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

わが国は、2020年10月に、2050年カーボンニュートラルを目指すことを宣言した。これを踏まえ、政府は、「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を作成している。この「グリーン成長戦略」では、14の重要な分野ごとに高い目標を掲げた上で、現状の課題と今後の取組を明記し、予算、税、規制改革・標準化、国際連携などの政策を盛り込んだ実行計画を策定している。また、「グリーン成長戦略」は、「我が国の企業が将来に向けた投資を促し、生産性を向上させるとともに、経済社会全体の変革を後押しし、大きな成長を生み出すもの」と強調し、2兆円規模のカーボンニュートラル基金を創設すると言明している。

「グリーン成長戦略」は、エネルギー関連産業、輸送・製造関連産業、家庭・オフィス関連産業と幅広く産業をカバーしているが、市民の参加というボトムアップのアプローチが言及されていない。しかし、地域密着型の電力会社や日本型シュタットヴェルケを目指す自治体にとって、グリーン成長戦略との関連で、このようなアプローチに対しての政策支援があれば、大きなビジネスチャンスが生まれるのでないだろうか。欧州では、市民によるカーボンニュートラルへの取り組みが進展しており、今回のコラムではその動向について紹介したい。

まず、EUであるが、 2018年12月に発効した「クリーンエネルギーパッケージ」の「再生可能エネルギー指令」は、「再生可能エネルギー共同体」について、「加盟国は、最終需要家、特に家庭用需要家が、最終需要家としての権利または義務を維持しつつ、再生可能エネルギー共同体への参加を妨げるような不当なまたは差別的な条件や手続きに従うことなく、再生可能エネルギー共同体に参加する権利を有することを保証しなければならない」と規定している。これに基づき、加盟各国は、この規定についての国内法化が求められている。

同指令にいう「再生可能エネルギー共同体」とは、次のような法人と定義されている。

(1) 適用される国内法に従い、オープンで自発的な参加に基づき、自律的であり、当該法人が所有・開発する再生可能エネルギープロジェクトの近傍に所在するステークホルダーまたは構成員によって効果的に支配されていること。

(2) ステークホルダーまたは構成員が、自然人、中小企業、または自治体を含む地方公共団体であること。

(3) 金銭的な利益よりも、ステークホルダーや構成員、または事業を行う地域に対して、環境的、経済的、または社会的な利益を提供することを主な目的としていること。

 欧州では、このEU指令に先立って、「再生可能エネルギー共同体」の設立の動きがすでに散見される。ドイツでも、そのような動きがあるが、それを支えているのが、手厚い政策支援である。同国では、従来から「エネルギー効率の高い都市再開発」の立案と実施に関して、地方自治体は、KfW(ドイツ復興銀行)へ資金的支援を申請し、これが認められれば、同銀行から費用の65%の助成を受けることができる。2021年4月以降は、都市開発のテーマは拡大され、「モビリティ」、「気候保護と気候変動への適応」、「デジタル化」も含まれるようになった。また、州によっては、 助成の上乗せがある(ニーダーザクセン州では同州開発銀行により20%)。同国では、シューレスヴィッヒ・ホルシュタイン州のボルデルムで「再生可能エネルギー共同体」構想が進展している。

 また、1990年に地球温暖化防止のために行動する都市のネットワークとして設立された

気候同盟(Climate Alliance)のドイツ地域のネットワークは、Region-Nプロジェクトにより、2030年までに、地域の省エネポテンシャルを活用するとともに、再生可能エネルギー供給量を100%にし、気候保護を強化することを目指している。このような動きは、地域密着型電力供給事業者に大きなチャンスを提供するとともに、地域の活性化につながることから、わが国でも大いに参考になると思われる。

【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授などを歴任。東北電力経営アドバイザー。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。

温室効果ガスの削減 海外に目を向けて取り組みを

【オピニオン】近本一彦/日本エヌ・ユー・エス代表取締役

 2050 年カーボンニュートラル(CN)に伴うグリーン成長戦略(21年6月)に続いて次期エネルギー基本計画の素案(同年7月)が示された。これは、30年度の温室効果ガス排出量を13年度から46%削減し、さらに50%の高みを目指すためのエネルギー政策の道筋を示すものである。安全性の確保を大前提に、気候変動対策を進める中でも安定供給の確保やエネルギーコストの低減(S+3E)にも取り組むとしている。

エネルギー分野から排出される温室効果ガスは全体の8割を占めており、その削減は気候変動対策の大きな鍵となる。「エネルギーと環境を考える」を社名の枕詞に据えるコンサル会社の人間として思うことは少なくない。CNを達成するためには、脱炭素電源(再エネや原子力)の活用、炭素排出電源における炭素削減技術(水素・アンモニア発電、CO2回収・利用・貯留(CCUS))の導入など、さまざまな技術を活用していく必要がある。気候変動対策は地球規模の課題であり、国内にとどまらず広く海外に目を向け、取り組む必要がある。

原子力は実用段階にある有力な脱炭素電源である。わが国は特に原子力に対する社会受容性が厳しいが、市民の監視レベルが高いことは、国や事業者がこれまでの経験を地に足の着いた安全な原子力技術の社会実装に生かせるプラスの力と捉えることもできる。安全確保を最優先して既設炉を再稼働した後は、長期サイクル運転、40年を超える長期運転、出力増強など、諸外国で実績のある効率的な運転管理技術を検討すべきである。また、将来の電源として安全性を高めた小型モジュール炉(SMR)、水素製造を併設するわが国の高温ガス炉(HTTR)、核融合技術など、諸外国では立ち止まることなくR&Dが行われている。廃止措置、核燃料サイクル、廃棄物処分なども重要な課題である。いずれも国際的な連携の下で着実に検討を進める必要がある。弊社は、SMRの実用化に関し、HTTRおよびNuScale業務に取り組んでいる。長期的なエネルギーの安定供給に貢献すべく、産官学のさまざまな側面でこれらの課題に向き合っている。

一方、東南アジア諸国は今後も化石燃料に頼らざるを得ないことから、CCUSに対する期待が高い。21年6月、アジア全域でCCUSを活用するための産官学プラットフォーム(アジアCCUSネットワーク、ACN)が設立され、その第1回フォーラムで弊社らが遂行中のインドネシア・グンディCCSプロジェクトの取り組みを紹介した。また、東南アジアの3カ国(インドネシア、ベトナム、マレーシア)における主要なCO2排出源(火力発電所、製鉄所など)、潜在的なCO2貯留先およびガスパイプラインの位置情報などを調査・整理し、その結果を可視化するポテンシャルマップを作成した。このマップはACNのウェブサイトに公開されている。今後もASEAN地域におけるCCUSプロジェクトの展開に貢献する活動を進めていきたい。

ちかもと・かずひこ 1986年東海大学大学院工学研究科修了、日本エヌ・ユー・エス入社。2009年リスクマネジメント部門長、14年理事新ビジネス開発本部長、15年取締役、20年代表取締役社長。

電化でCO2を7割削減へ ニチガス戦略に賛否両論

脱炭素時代への対応を視野に、「脱ガス」へとかじを切り始めた大手ガス会社がある。ほかでもない、東京電力グループとの連携強化に力を入れるニチガスだ。

7月に発表した経営戦略を見ると、「2030年に向けた脱炭素への取り組み」として、電気・ガスのハイブリッド給湯器の販売促進や、電気自動車(EV)の推進と充電拠点の整備を明記。需要家宅におけるガスの消費量を半減させる一方、EV向けを含め電気の販売量を大幅に拡大することで、需要家1件当たりの年間CO2排出量を現状の平均約1万3700㎏から同4000kgへと約7割削減する方針を打ち出した。

「ここまで鮮明に電化シフトを掲げたガス会社は、まだどこにもないだろう。東京ガスや大阪ガスがメタネーションや水素などで脱炭素化に対応していくのとは一線を画す意味で注目される」。市場関係者はこう評価する。

だが、同業のガス業界からは「LPガス自動車やエネファームに見切りをつけた裏切り者」「もはや〝身内〟ではない」などの批判が聞こえる。脱ガス戦略は吉と出るか、凶と出るか。

脱炭素政策が追い詰める貧困層 欧米の実情は対岸の火事にあらず

【識者の視点】山本隆三/常葉大学名誉教授

気候変動対策強化にまい進する欧米では、エネルギー貧困問題が深刻になるとの懸念が出ている。

今後、電気料金などの上昇が待ち受ける日本にとっても、対岸の火事では済みそうにない。

地方自治体などからの依頼で、「節電、省エネ」についての講演を市民の方を対象に行うことが時々ある。対面の質疑応答の際に、「ガス代、電気代を節約するために望ましい暖房方法は」「電気代をもっと節約したいが何をすればいいか」と、電気・ガス料金に直結した質問もあった。

こうしたエネルギー価格に関心を持つ人たちも、これから脱炭素政策を進めれば価格が上昇し、生活に影響を与える可能性があることを認識されていないように思う。欧州連合(EU)では、脱炭素政策が貧困層に大きな影響を与えるのではとの疑問が出始めた。脱炭素に熱心な欧州委員会(EC)が1990年比2030年温室効果ガス55%削減実現のための法案とEU指令改正案を7月14日に発表したが、労働組合、産業界からはエネルギー価格上昇を懸念する声が出ている。

EU55%減目標の弊害 価格上昇避けられず

EC提案の中には、輸送と住宅部門を対象に現在の排出枠の取引市場とは別の新たな市場を創設する改正案が含まれている。住宅、車などの使用者に直接排出枠を割り当てるのではなく、輸送と住宅部門へ燃料供給を行っている事業者に排出枠を割り当てる新市場を25年から運用する計画だ。

欧州労働組合連合(ETUC)は運輸、住宅部門でのCO2削減が重要な課題であると理解するとしながら、新市場への影響はあまりに大きいと次の声明を出した。「新たな排出枠市場の創設は、ガソリン、軽油に課税されていたフランスの炭素税引き上げが招いた黄色ベスト運動のような市民の抵抗を欧州全土で引き起こし、環境上の効果はほとんど生み出さないだろう」

ECによると、EUには適切な暖房あるいは冷房ができないエネルギー貧困と呼ばれる世帯が5000万軒ある。低収入、高エネルギー価格、住宅の断熱効果の悪さが貧困の原因を作っている。ポーランド経済研究所は、輸送、住宅分野において排出枠取引制度を導入すれば、エネルギー貧困世帯を中心に大きな影響が生じるとの分析結果を公表している。

30年に当該部門で05年比40%削減を実現するためには、170ユーロ(現在の3倍程度)のCO2価格が必要になるが、その家計への影響額はEU27カ国で25~40年の間で1兆1120億ユーロ(約145兆円)。年間負担額の増加は、1世帯当たり輸送関連で373ユーロ(約4万8000円)、住宅関連で429ユーロ(5万6000円)になる。

EU27カ国の下位20%に属する低所得者層では、輸送関連と住宅関連支出が、それぞれ平均44%、50%増加すると予測されている。

ECは、国、世帯による収入の違いを考慮し、55%削減策により影響を受ける層への対策として加盟国が総額1444億ユーロ(約19兆円)を拠出する社会気候基金を設立するとしている。

しかし、ポーランド経済研究所はECの対策では不十分とし、冬季の気候が厳しく大きな額の燃料支出が必要で、低所得者の多い東欧諸国に対しては、財政、気候条件なども考慮した上で対策が取られるべきだと指摘している。

脱炭素を進める米国も、エネルギー貧困の問題に直面することになる。バイデン大統領は35年電源の非炭素化を目標としているが、再生可能エネルギー導入、送電網強化などの投資が必要とされており、エネルギー価格にも結果的に影響を与えることになる。米国では州による制度の違いがあり、居住地域により貧困層の受ける影響は異なる。一部の州では健康上の理由があっても、料金を支払わなければ電気が止められてしまう。

米エネルギー省のレポートによると、エネルギー貧困世帯は所得の8・6%をエネルギー購入に当てており、平均的世帯のエネルギー関連支出2・5~3%の約3倍になっている。中にはエネルギー関連支出が収入の30%にもなる貧困世帯もあるとされている。

米国と日本の世帯所得分布

米国は2019年、日本は18年のデータ
出典:統計局(米国)、厚生労働省(日本)

貧困で省エネが困難に 低所得者多い日本では

貧困世帯のエネルギー関連支出は平均的世帯より絶対額は少ないが、相対的には高くなる。その理由は、プロパンガスなど相対的に高い燃料の使用が多いこと。貧困世帯の59%は賃貸住宅に住んでおり、住宅の家主が断熱など住宅の省エネに熱心ではないこと。省エネ機器の導入を行う資金を用意できないなど、貧困ゆえに省エネ、節電対策が難しいことをエネルギー省は指摘している。そんな中で、電源の非炭素化が進むと貧困世帯はさらに電気料金の支払いができず、地域によっては熱波、寒波による健康被害を受けることになる。

日本でも再エネ導入による電気料金上昇が懸念されるが、日本と米国の世帯所得の分布を比較すると、日本の方が低所得に分布が広がっている(図)。世帯所得の中央値も日本の437万円(18年)に対し米国は6万3761ドル(約700万円、19年)。平均世帯所得は、高所得者が多い米国の9万1406ドル(約1000万円)に対し、日本は552万円だ。

電気料金上昇の影響は低所得者が多い日本の方が大きいだろう。温暖化問題も重要だが、国民の生活に与える影響も十分に考慮した上で政策を決定するべきだ。

やまもと・りゅうぞう 京都大学工学部卒業後、住友商事入社。2010年富士常葉大学総合経営学部教授、21年常葉大学名誉教授。国際環境経済研究所副理事長兼所長も務める。