参院選で争点化すべきだった政策とは 既存政党の枠組み超えガラガラポンを

【永田町便り】福島伸享/衆議院議員

これを書いているのは、参議院選挙の投開票日前の各社の最終の情勢記事が出そろった頃である(7月17日現在)。それを前提に、今後の政治を占ってみたい。

今回の参院選は自公の与党が大敗、参政党や国民民主党といった新興政党の躍進、参政党が自民票を奪った漁夫の利での立憲民主党の堅調、左派勢力の停滞といった結果で終わりそうである。

昨年の衆院選に続いて参院選でも与党が過半数を割るという結果は、当面カオスとも言うべき日本政治の状態を生むことであろう。執筆時点では、石破首相が退陣するかどうかはわからない。仮に退陣して自民党が新たな総裁を選んだとしても、その総裁が衆議院本会議で内閣総理大臣に指名されるとは限らない。自民党分裂の引き金になるかもしれないため、慎重にならざるを得ないだろう。

一方、野党が衆参両院で過半数を握ったからといって、立憲民主党や維新から共産党までが一緒になった野党連合政権が誕生することはない。連立の組み替えをしようにも、国民の支持のない弱り切った自公政権に、国民民主党や立憲民主党は当面手を差し伸べないだろう。解散権は現職総理にあるから、このような政治状況の下では解散するわけにもいかない。

カオスとなった政治体制の下で、わが国は外政面では依然続くロシアとウクライナの戦争、不安定な中東情勢、緊迫する東アジアの安全保障環境に備え、トランプ政権との交渉をしなければならない。内政面でも、物価高、人手不足などへの対応をしなければならない。日本にとっての大きな危機だ。


原子力は争点とならず 積極政党が議席伸ばす

今回の参院選では、多くの政党は減税や給付、外国人問題を訴えることが中心で、外交や安全保障、エネルギーの安定供給など国家の根幹に関わる政策はほとんど争点にならなかった。数年前までは原子力政策が与野党間、野党内での選挙での対立軸となったが、今回の参院選ではやはり争点とならなかった。議席を伸ばした政党は、原子力政策に積極的な政党だ。

こうした政治状況にあって、私は目先の減税や給付、情緒的な外国人問題ではなく、この30年間追い求めてきた「政権交代のある二大政党制」の幻想から脱却するための選挙制度の抜本改革を含む政治改革、中長期的視野を見据えたマクロ経済政策、米国の凋落を見据えた自主独立の外交安保政策の確立の三つを柱とした、既存政党の枠組みを超えたガラガラポンが必要だと考える。カオスの状況を続けてはいけない。無所属の立場を最大限生かして、私なりに行動してまいりたい。

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ふくしま・のぶゆき 1995年東京大学農学部卒、通産省(現経産省)入省。電力・ガス・原子力政策などに携わり、2009年衆院選で初当選。21年秋の衆院選で無所属当選し「有志の会」を発足、現在に至る。

【フラッシュニュース】注目の「政策・ビジネス」情報(2025年8月号)

NEWS 01:大もめの洋上風力FIP転 事業者の理解に課題

三菱商事が落札した洋上風力公募第1ラウンド(R1)のFIP(市場連動価格買い取り)制度への転換を巡り、業界内が大もめとなっている。政府が方針を示した後、「後出しのルール変更は公平性を損なう」などと事業者から多数の反発が上がっていた。

政府は3月に開いた経済産業省と国土交通省の合同会議で、FIP転は「制度変更ではなく運用の明確化」だと説明。しかし事業者の不満は収まらず議論は持ち越しに。6月3日の会合には2団体・14事業者が参加し、理解を示す声がありつつも、やはり反対意見が目立った。

R1のFIP転を巡り業界内が揺れている

そして6月下旬、有識者や団体などに再度ヒアリングを実施。青山学院大学大学院の山口直也教授はこの措置について「国民負担の中立性確保を条件として、他の再エネ事業者との公平性を確保する観点からも適切」とした上で、R1の公募とFIP認定の適用拡大の検討時期が重なっていたことから、「政府はFIT・FIP認定のいずれかを選択することが可能になると早い段階で丁寧に説明する必要があった」と指摘した。今後、R2、R3の事業者への配慮としてどのような措置が示されるかが注目される。

他方、別の公募落札組から外資が撤退するうわさが出始めるなど、洋上風力事業全般が岐路に立つ状況に変わりはない。投資完遂に向けたさらなる支援も待ったなしの状況だ。


NEWS 02:メガバンク系として初 金融商品と一体で電力小売り

三菱UFJ銀行の100%子会社MUFGトレーディングが、法人向けの電力小売り事業に乗り出す。メガバンク系としては初の取り組み。電力卸売り事業者や日本卸電力取引所(JPEX)から電気を調達する。7月1日には、パイロット案件として三菱UFJ銀行と年間1600万kW時の契約を締結した。環境価値を組み合わせ、CO2フリーの電気を供給していく。

2022年7月に設立されたMUFGトレーディングは、銅やアルミ、半導体といった現物商品を取り扱い、在庫を一時的に買い取ることで財務負担を軽減する在庫ファイナンスサービスや、輸出入取引における資金供給・与信などの貿易金融サービスを展開してきた。

電力小売り事業には、そうした金融サービスで培ったノウハウを応用する。需要家に対しては、電力の供給に加え、支払い時期の調整や立替払いなど、資金繰りに配慮したサービスを一体的に提供。さらに卸売り事業者向けには、与信サービスを手掛ける。取引実績のない新電力と企業需要家を仲介し、電気料金を立て替え払いした上で自ら回収する仕組みだ。外資系を中心とする卸売り事業者にとっては、信用リスクを軽減する手段となり得る。

新電力業界関係者は、「顧客のアカウントを多数保有しているため、既存の金融サービスに付加した電力サービスに訴求力を出せれば、大きな需要群になる」と、インパクトを予想。また、「卸売り事業者向けにも、各社の与信サイズに応じた取引がMUFGを仲介として行われることが想定され、大きなビジネスのハブになり得る」との見方を示す。 メガバンク系だからこそのビジネススキームが、既存の電力取引の在り方に一石を投じることになりそうだ。


NEWS 03:東ガスが水素導管整備を検証 首都圏拠点に供給網構築へ

水素の利用拡大に向けて、首都圏での供給インフラ整備が本格的に動き出した。東京ガスは7月15日、羽田空港周辺を含む都内への水素供給に向けた高圧パイプライン構築の検討事業を東京都から受託したと発表。輸入拠点の川崎市から、今後の需要拡大が見込まれる大田・品川・港・千代田の4区に水素導管を敷設する構想で、事業期間は来年度末まで。都内への高圧パイプライン構築の具体的な検討は国内では初となる。

背景には、東京都の脱炭素政策がある。都は2030年までにCO2排出量を00年比で半減、50年には実質ゼロとする目標を掲げる。昨年には協議会を立ち上げ、水素活用強化に向けた動きを強化してきた。

ただ、都心の地下は電気やガス、上下水道、通信など多くのインフラが密集しており、東ガスの担当者は、「新たに高圧パイプラインを通すには一定の難易度がある」と話す。今後は各区の埋設状況を調査し、どの位置にどの程度の深さで敷設するかといった具体的な検証を進めるという。

水素供給網の整備には、パイプライン以外にも輸入元の確保や海上輸送、液化設備の整備など多くの要素が絡む。調達先の有力候補である豪州では、岩谷産業や関西電力が水素事業からの撤退を表明し、豪州政府も追加出資を見送るなど、現地プロジェクトの継続が不透明になっている。

こうした逆風を乗り越え、水素社会実現への現実的な道筋を描けるか。今回の取り組みはその試金石となる。前出の担当者は、「需要と供給は両輪で回す必要がある。検証を通じて水素供給の具体的な絵姿を示し、需要喚起にもつなげたい」と意気込む。調達、コストなどで課題の多い水素の光明となるか。


NEWS 04:火力好況で三菱重工の強気 旧一電との立場が逆転か

「三菱重工も立場が強くなったよ。当社の新設計画を持ち掛けても『その条件では無理』と一蹴されてね」。関西電力火力部の関係者はこう嘆息する。

関電が計画する南港火力(180万kW)リプレース。これまで堺港(200万kW)、姫路第二(290万kW)と主力のコンバインドガス火力は軒並み三菱重工業製だった。重工もそんな期待に応えて、当時、最高水準となる発電効率の設備を納めてきた。関電にとって久々の大型ガス火力の更新となる南港についても、「組みやすいパートナーの重工が脳裏にあったはず。少々無理な要求も通るしね」(事情通)。しかし結果は冒頭の通り。結局は、東芝が担うことに。

関電がリプレースを計画する南港
提供:関西電力

重工の強気の背景にあるのは、世界における火力好景気の波だ。アジアや北米に目を向けると、円安を追い風に大型案件を次々と受注。かつて米GEの牙城「ガスタービン世界シェア№1」の戴冠はいつの間にか重工に。国内ではシステム改革によって火力存続が不透明な中、よほどの条件でない限り関電はおろか国内市場にリソースを割けないと見る向きも。

かつては国内の大手電力が長期的な火力の展望を描き、メーカーが技術とコスト競争力を磨いて応えてきた。「主力企業の海外シフトで、『国内空洞化』が今後の国内火力政策を一層と混迷させなければいいが」。前出関係者の心配は尽きない。

【覆面ホンネ座談会】一見サプライズなしも…… 経産・環境人事を裏読み

テーマ:経産・環境省の幹部人事

今年も霞が関人事の季節となり、7月1日、経済産業省や環境省幹部人事の発令があった。両省ともに、全体的に大きなサプライズはなかったように見えるが、関係者や事情通は今回の人事をどう読み解くのか。

〈出席者〉 A 霞が関OB B 霞が関事情通 C ジャーナリスト

―まずは経産省から。飯田祐二氏(1988年)が事務次官を退き藤木俊光氏(同)が就任した。武藤容治経産相が「足元で重要課題を抱える幹部の多くは継続性の観点から留任」と会見で説明したように、部長以下は大きな動きがなかった印象だ。村瀬佳史・資源エネルギー庁長官(90年)も留任だった。

A 同期の飯田氏からバトンタッチされた藤木氏は、経済産業政策局長から次官という王道ライン。留任となった経済産業審議官の松尾剛彦氏(88年)も同期でバランスが良い。

武藤経産相が述べたように、重要課題に関わる幹部の多くが留任。例えば米国の関税対応を巡っては、松尾氏の他、荒井勝喜・通商政策局長(91年)、伊吹英明・製造産業局長(91年)がいずれも留任した。エネルギー的には電力・ガス取引監視等委員会事務局長の新川達也氏(91年)の留任も注目点だ。

B 全体では動きが少ない中、ポイントといえるのがGX(グリーントランスフォーメーション)のラインだ。藤木氏の後任で、畠山陽二郎氏(92年)が産政局長に就き、首席GX推進戦略統括調整官を引き続き兼務。畠山氏の後任で、龍崎孝嗣氏(93年)が資源エネルギー庁次長に。そして脱炭素成長型経済構造移行推進審議官兼GXグループ長は、龍崎氏から伊藤禎則氏(94年)が引き継ぐ。

参院選を経て大混乱が予想される永田町。翻って経産・環境省は堅実な体制に衣替え


意外な省新部、ガス室の人事 再稼働など要所人材は動かず

C 資源エネルギー庁では、電力・ガス事業部長や資源・燃料部長が留任で、省エネルギー・新エネルギー部長に小林大和氏(96年)が就任した。個人的には中小企業庁経営支援部長となった山崎琢矢氏(96年)が省新部長でもおかしくないと思った。山崎氏は省新部も長く、洋上風力政策の初期に法案を作り上げた人だ。

B 確かに山崎氏の人事は驚きだった。ただ、今回退官した奈須野太氏(90年)のように、かつて同じポストを務め中企庁でのキャリアを積み、その後産業技術環境局長や内閣府の要職を務めた人もいる。

A 小林氏と共に、省新部政策課長の那須良氏(2001年)は電ガ部主要ポスト経験者。こうした人を省新部に配置したということは、電力政策全般を俯瞰しまともな再エネ政策を強力に進めていく、とのメッセージかもしれない。

電ガ部では、小川要・政策課長(97年)、吉瀬周作・参事官(03年)、佐久秀弥・電力流通室長(07年)の3人が、長官官房に新設されたエネルギー制度改革推進総合調整官を併任する。このポストのミッションが何なのか、気になる。また、ガス市場整備室長に就いた迫田英晴氏(04年)は電ガ部、資燃部、電取委とエネルギー関係で相当な経験がある。この人事からは何か動きがあるのかと予想される。ガス業界にはなじみが薄い人かもしれないが、業界内だけを見ずに新たな政策を考える上では適任だろう。

―ガスシステム改革の検証や再構築ではないかと言われている。懸案の柏崎刈羽再稼働を担当する面々についてはどうか。

B 原子力政策課長に就いた多田克行氏(01年)も順当で、原子力に強い人材を持ってきた。そして新潟などで地域対策を担ってきた山田仁・資源エネルギー政策統括調整官(92年)や、佐々木雅人・エネルギー・地域政策統括調整官(95年)も留任。本来は部長にしてもおかしくなかった。村瀬長官にとっては柏崎刈羽の再稼働が最大のミッションであり、自身の仕事に直結するポストの人材は課長級も含め変えたくなかったのだろう。とはいえ各人の受け止めは気になる。

青森に福島の使用済み燃料搬入へ 宮下知事が協力姿勢のワケ

東京電力の小早川智明社長は7月7日、青森県庁で宮下宗一郎知事と面会し、福島第一原発5、6号機と福島第二の使用済み燃料を、むつ市の中間貯蔵施設に搬入する方針を示した。同社は福島事故後の点検や技術評価で、中間貯蔵と再処理が可能だと想定。中間貯蔵施設は昨年9月、柏崎刈羽原発から使用済み燃料が運び込まれ、11月に操業を開始している。

青森県の宮下宗一郎知事(手前)と会談する東京電力の小早川智明社長(右から2人目)

2023年6月に就任した宮下知事は、4年の任期を折り返した。むつ市長時代に電力会社による中間貯蔵施設の共同利用案に強く反対していたため、業界からは原子力政策へのスタンスを不安視する向きがあった。だが、「国策としてのエネルギー政策に協力し……電源立地県としての責任を果たしていきます」という知事選の公約通り、国や事業者への協力姿勢を見せている。柏崎刈羽の使用済み燃料の搬入を容認し、六ケ所再処理工場についても6月、本誌のインタビューで「操業をしっかり進めていくことが重要」との認識を示した。

こうした宮下知事の姿勢について県政関係者は「事業者へのスタンスは実は優しいのではないか」とした上で、「自身が進める子育て支援などの財源確保には原子力関連の枠組みしかないと考え、核燃料税収増を見据えて国や事業者とディールをしているのだろう」と分析する。

しかし、発信力が強い宮下知事だけに、計画のとん挫や安全性が疑われる事態が生じた際の影響は計り知れない。予定通りの再処理工場の操業、最終処分場の選定プロセスの前進が重要なのは言わずもがなだ。

【イニシャルニュース 】政情より私情? 石破人事に疑念の声

政情より私情? 石破人事に疑念の声

7月20日に投票を迎える参議院選挙。記事執筆の7月中旬にはまだ結果が出ていないものの、自公連立政権には厳しい結果になりそうだ。そして選挙中から自民党で話題になったのは、石破茂首相の度量のなさだ。その表れの一つが人事だ。

現在の政権の重要課題は米国のトランプ政権との関税・貿易交渉だ。7月時点でトランプ大統領は、日本からの輸入品に対して8月1日から25%の関税を課すことを自身のSNSで明らかにした。実は、自民党内や霞が関の官僚団で「交渉を担当すれば」と期待されていたのが、かつて石破派にいたS議員だ。経産官僚出身、同省大臣も務め、米国との通商交渉の経験も長い。しかし石破首相は、担当者に側近のA大臣を選び、主担当であるM大臣も飛ばした。もちろん米国側の主張が不当とはいえ、交渉は難航した。コメ価格の高騰でも、農水相を務めたS氏の登場を期待する声があったが、首相は小泉進次郎氏を担当大臣にした。

内政でも選挙公約で突如、自民党は「違法外国人ゼロ」を掲げた。しかし党内で厳しい外国人管理政策を主張したY元法相を、政府の要職に就けていない。S氏、Y氏とも岸田文雄首相が選ばれた2020年の総裁選で石破首相への支持を見送った。それをいまだ根に持っているらしい。

また以前、支持をしたK元経産相、旧石破派のT議員などにも政府の重要ポストを渡していない。自民党関係筋は「首相の器の狭さでは必ずいつか大きな失敗をするし、党もまとまりがなくなる」と懸念する。エネルギー政策に悪い形で波及しなければいいが。

再稼働で社長交代なるか


東電・原電の社長人事 再稼働後に同時交代?

日本原子力発電の村松衛社長の後任に、東京電力ホールディングス(HD)執行役副社長の永澤昌氏が就くのではないかとの観測が、電力業界関係者の間で広まっている。

永澤氏は、旧東電の企画畑のエースで、優秀な人物との評。22年から東電リニューアブルパワーの社長を務めていたが、去る6月の人事で東電HDに副社長の立場で戻ってきた。代表執行役副社長の酒井大輔氏と並んで、小早川智明社長の後任候補と見る向きもあるが、永澤氏が原子力事業に精通していることや東電役員を巡る諸事情を踏まえると、「個人的には村松氏の後継になるのではないかと考えている」(元東電企画畑出身のA氏)。同じく東電の有力OBであるB氏も、同様の見立てだ。

村松氏は旧東電の企画部長などを経て、14年に日本原電の副社長、翌15年に社長に就任。以来、交代説がささやかれながらも、「村松社長の代わりになる人材が見当たらない」(原電関係者C氏)といった事情から、10年以上にわたって社長職を務め続けている。

「もし交代するにしても、原電にとっての最重要課題である東海第二原発の再稼働にメドを付けてからではないか」(C氏)との見方も根強くある中で、電力事情に詳しいジャーナリストは「今年度中に、東電の柏崎刈羽原発6号機の再稼働が無事実現すれば、それを花道に、社長9年目に突入している小早川氏が交代する可能性がある。これが原電においてもトップ交代のタイミングになるかも」と予想する。

東電、原電ともに長らく現社長体制が続いていることに加え、長期停止中の原発の再稼働という重要イベントが、トップ交代を左右するカギとなりそうだ。


省内の実力者を暗示 「右ルート」再来あるか

霞が関の各省庁の役人トップは事務次官だが、実態はそうではないケースがある。例えばかつてのK省だ。10年ほど前、K省の次官はX氏。そして官房長は実力派として知られたY氏だった。隣り合った二つの部屋の左が事務次官室、右が官房長室。そのうち官房長室の「右ルート」は常に渋滞するようになり、記者が話を聞こうとしても待たされるケースがたびたび発生するように。当時、同省で取材していた記者は「省内の意思決定を実際に担っているのは右ルートの人」と察したという。

Y氏はその2年後、次官に就任。それまでは他省と対立していたような案件でも協調路線を重視し、K省が融和型に脱皮する下地を作った。ただ、X氏も貴重な人脈を持っていて、当時の政権で要職を務め、権威を振るった政治家と長年の付き合いがあった。重要政策を巡り最後は、この政治家との直通ルートで決定を仰ぐことがあったという。

さて、7月の人事で各省は新たな布陣となったわけだが、先述のような現象のデジャブがあるのか、注目して見てみるのも面白いかもしれない。

【コラム/8月7日】米国政府の挑戦状 気候危機に対峙する報告書が波紋

杉山大志/キヤノングローバル戦略研究所研究主幹 

7月に公表された米国エネルギー省の気候作業部会の報告が反響を巻き起こしている。タイトルは「温室効果ガス排出が米国気候に与える影響に関する批判的レビュー(A Critical Review of Impacts of Greenhouse Gas Emissions on the U.S. Climate)」だ。

これまでは気候変動といえば「2050年までにCO2排出をゼロにしなければ地球温暖化が暴走する」といった気候危機説が諸国政府やメディアによって流布されてきた。しかしこれは科学的な根拠がない。そのことを、この報告書はデータに基づいて説得的に述べている。気候危機論者への、米国政府による公式の挑戦状だ。

この報告書は、自らが多様な専門知識を持つクリス・ライト米エネルギー長官が集めた5人の独立科学者からなる「気候ワーキンググループ(Climate Working Group, CWG)」が作成した。調査対象としてはもちろん地球全体であるが、特に米国への影響に重点を置いている。


EAP「CO2危険性」撤回を提案 CWGの見解を引用

さっそく政策形成にも影響を与えている。報告書の発表と同日にトランプ政権は米国環境保護庁(EPA)の「CO₂危険性認定」を撤回する提案を公表した。撤回が実現すれば、EPAは自動車などのCO2排出を規制する権限を失う。この提案にはCWG報告が何度も引用されている。

以下、各章の概要を紹介しよう。

第1章では、CO2はいわゆる汚染物質ではないこと、それには植物の生育を促進するなどの直接的な効果と、温室効果ガスとしてふるまうという間接効果があることを説明している。

第2章では、大気中CO2の直接的な効果として「地球緑色化」に焦点を当てている。すなわち大気中CO2の増大は、光合成を高めるという「施肥効果」によって、地球上の植物を繁栄させてきた。このCO2がもたらす生態系への便益は大きなものだが、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)などの既往の報告では扱いが極めて乏しかった。

第3章では、CO2 のもう一つの直接的効果として「海洋酸性化」を論じている。用語として「海洋酸性化」は不適切で、むしろ「海洋中性化」というべきである。というのは、海水は弱アルカリ性であり、CO2はそれをやや弱くするだけだからだ。なお海洋生態系は弱酸性の海洋で進化してきた歴史があるために、この海洋中性化に大きな問題にあるとは考えにくい。

第4章では、人間活動による温室効果ガス(とエアロゾル)が地球の気温上昇を司る支配的な要因であるというIPCCの説に有力な疑問を投げかける。太陽活動の変化や大気・海洋などの内部変動の寄与は無視できないほど多いという論文が紹介される。またIPCCが環境影響評価に用いるシナリオの排出量が非現実的に多すぎるため、環境影響が過大に評価されていることも指摘する。

第5章では、CO2がどの程度気温を押し上げるか――いわゆる気候感度(ECS/TCR)が議論される。IPCCが示す範囲よりも気候感度は低い、つまりCO2が排出されてもそれほど気温は上昇しない、という論文が紹介されている。

第6章では、IPCCが用いる気候モデルの性能検証を行う。気候モデルは過去の再現にも大きく失敗している。観測データに比べて全般的に気温が上昇しすぎる傾向が顕著であり、また、南北半球の反射率が大きく異なるなど、観測データに合わない出力になっている。これでは将来予測も信頼に足らず、政策決定のツールとして使い物にならない。

小売りのkW時確保義務化へ 新制度巡り賛否噴出

資源エネルギー庁が7月4日の有識者会合で提示した、小売り電気事業者に供給力(kW時)確保義務を履行させるための新制度案を巡り、電力業界ではさまざまな意見が飛び交っている。制度案は、小売り事業者に対し、実需給年度の3年前に想定の50%、1年前に70%のkW時を確保することを義務付けるというもの。これに違反した場合、事業者登録の取り消しを見据える。調達手段は問わないが、新たに中長期取引市場の整備が検討される見通しだ。 

エネ庁は違反した事業者の登録取り消しも辞さない構え

全面自由化後、小売り事業者には卸電力市場での全量調達が許容され、燃料価格が高騰すると電力価格にダイレクトに影響することが懸念されてきた。新制度により、卸電力市場価格の変動リスクを抑制し、電気料金の変動を抑えたい考え。また、現状では市場での固定費回収が困難な発電事業者にとっても、「燃料調達の予見性が高まり、電源投資の促進にもつながる」(学識者)ことが期待される。

一方、これに強く反発するのが、さらなる負担を強いられることになる小売り事業者だ。関係者の一人は、「義務を履行するには、数年前から大量の電力量を確保するための契約を結ぶ必要があり、前払金や信用保証の負担でキャッシュフローが圧迫されかねない」と懸念する。

中長期市場については、「現行のスポット卸電力市場やベースロード市場といった既存の市場との整合性をどう取るのか」(大手エネルギー関係者)、「発電側に市場への供出を義務付けるのか」(発電事業関係者)といった声も。より一層踏み込んだ議論が求められそうだ。

外れることもある気象予報 恩恵を最大限に引き出す方法

【気象データ活用術 Vol.5】加藤芳樹・史葉/WeatherDataScience合同会社共同代表

現代社会において天気予報は非常に身近な存在であり、多くの人が毎日チェックする情報だ。中には、晴れの天気予報を見て外出したら急な豪雨に遭ってびしょ濡れになった、という経験をした人もいるだろう。では二度と天気予報を見ないかというと、そういう人は少数派だ。ここに「気象の不確実性を上手に活用して最大限に恩恵を受けるにはどうしたらよいか」という課題感がある。そこで本コラムのタイトルにもある、気象の不確実性のマネジメントが登場する。

例えば次のような単純で仮想的な問題を考えてみる。倉庫に500万円の価値の物品があるとする。この物品は気温25℃未満で保管する必要があるが、25℃以上になると劣化して価値0円になってしまう。倉庫内の気温は何もしなければ外気温に一致するとする。物品の管理者はエアコンで室温管理を行うとして、外気温が25℃未満なら電気代100万円で済むが、25℃以上になると200万円もかかるとする。もし翌日の天気予報で最高気温24℃と予報されていた場合、管理者はエアコンを付けるべきだろうか?

予想気温24℃の時の実況気温の出現分布

素直に考えると、最高気温24℃ならばエアコンを付ける必要はない、という結論になりそうだが、ここでポイントになるのが天気予報の不確実性だ。近年の天気予報の精度は十分に高いとはいえ、最高気温の予報に1℃程度の誤差は存在する。つまり最高気温24℃の予報では、25℃に届く可能性が否定できないということだ。

ではどうするか。一案として、過去数年間の天気予報データと観測データを収集し、最高気温24℃予報の時の実況気温の分布を描いてみる。すると図のように、最高気温24℃予報の時に実際には25℃以上となった割合=確率が得られる。これでエアコンを付けた場合と付けなった場合の損失金額の期待値を計算することができる。

では25℃以上の確率が20%だった場合を計算してみよう。エアコンを付けた場合は外気温が25℃以上かどうかでコストが変わってくるため、『期待値=0.2×200万円+0.8×100万円=120万円』となる。対してエアコンを付けなかった場合、20%の確率で物品が劣化=500万円の損失となるため、『期待値 =0.2×500万円+0.8×0万円=100万円』となる。よってエアコンを付けないと意思決定した方が、長期的には損失金額を小さくできるということだ。

では25℃以上の確率が30%だったらどうか。エアコンを付けた場合は『期待値=0.3×200万円+0.7×100万円=130万円』、エアコンを付けなかった場合は『期待値=0.3×500万円+0.3×0万円=150万円』となる。前述とは異なり、エアコンを付けると意思決定した方が長期的には良いという結果が得られる。

現実の問題はもっと複雑ではあるが、このように気象の不確実性のマネジメントを取り入れることで、単に予報が当たった、外れたという議論を超えて、気象データがビジネスに新たな価値を生み出す可能性を感じていただけたら幸いだ。

かとう・よしき/ふみよ 気象データアナリスト。ウェザーニューズで気象予報業務や予測技術開発に従事。エナリスでの太陽光発電予測開発などの経験を生かし、2018年から「Weather Data Science」として活動。

・【気象データ活用術 Vol.1】気象予測を応用 電力消費や購買行動を先読み

【気象データ活用術 Vol.2】時をかける再エネ予測開発⁉ 三つの時間軸を俯瞰する

【気象データ活用術 Vol.3】エネルギー産業を支える 気象庁の数値予報モデル

【気象データ活用術 Vol.4】天気予報の信頼度のもと アンサンブル予報とは

強まるエコハウスへの要求 「新築戸建て」以外の在り方模索を

【業界紙の目】荒井隆大/新建新聞社 新建ハウジング編集長

物価上昇や気候変動の影響で、住まいとエネルギーへの注目がこれまで以上に高まっている。

生活者の住宅観も大きく様変わりする中、より多様なエコハウスが求められている。

今年4月、改正建築物省エネ法が全面的に施行され、戸建て住宅など300㎡未満の小規模建築物もようやく省エネ基準適合義務化の対象となった。一方で、省エネ基準を超える、より高い水準への誘導施策も活発化している。

その最たるものが「GX(グリーントランスフォーメーション)志向型住宅」だろう。2024年度の補正予算で国土交通省が創設した子育てグリーン住宅支援事業における新たな枠組みで、断熱等級6(省エネ基準は断熱等級4)以上・一次エネルギー消費量削減率35%以上(省エネ基準比)が要件になっている。経済産業省もZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の基準を、GX志向型住宅のレベルに引き上げる見通しだ。自治体レベルでも、鳥取県の「とっとり健康省エネ住宅(NE―ST)」を筆頭に、国の基準を上回る独自基準を設定する例が増えている。

小規模工務店の超高断熱・PV搭載賃貸住宅


工務店の意識高く 再エネ自家消費にシフト

50年カーボンニュートラルに向けて規制や要求が強まる中、住宅供給の多くを占める地域工務店は厄介者にされがちだった。習熟度の低い工務店が多い、義務化すると工務店がついていけない―。そんな理由で、本来は20年に施行されていたはずの省エネ基準の適合義務化も5年先延ばしになってしまった。

しかし、弊紙が24年末に行った工務店アンケートでは、6割以上が断熱等級6、つまりGX志向型住宅以上のレベルが新築の標準だと答えている。これが工務店全体の平均だとは言わないが、工務店の全国組織であるJBN・全国工務店協会の調査でも、23年度の着工件数に占める断熱等級5以上の割合が9割近くに達している。

遅くとも30年には、省エネ基準がいわゆるZEH水準(断熱等級5・一次エネルギー20%削減)に引き上げられる。工務店が脱炭素施策の足を引っ張っているわけでは決してなく、むしろ5年後、10年後に求められる水準の住宅を、着実につくり続けている。

昨今は、再生可能エネルギー、住宅で言えば太陽光発電(PV)に関する議論も盛んだ。懐疑的な意見が根強いし、パネルの廃棄など解決しなくてはならない課題も多いのは事実だろう。しかし、第7次エネルギー基本計画にも改めて盛り込まれた「30年までに新築戸建て住宅の6割に設置」という目標、そして高騰する光熱費の負担を減らしたい生活者(施主)からの突き上げ、あるいは東京都の〝義務化〟条例、GX志向型住宅での要件化といった施策により、工務店の間でも取り組みは広がりつつある。PV設置率が8~9割という工務店も決して珍しくはない。

かつては売電収入がPVの大きな魅力として打ち出されていたが、買電単価の低下や、九州を中心とする出力制御の影響もあり、関心は自家消費に移っている。住宅でとりわけ多くのエネルギーを消費するのが給湯だが、夜間、深夜電力を使うのではなく、昼間に湯を沸かす「おひさまエコキュート」が各社から発売されている。同じく多量のエネルギーを消費する空調も、高断熱化に伴い低出力の壁掛けエアコン1~2台で賄えるようになっている。エコキュートもエアコンも電力なので、PVの発電が光熱費削減に寄与する。

その先には、余剰電力をフルに活用する手段としての蓄電池やEV・V2H(ビークル・トゥ・ホーム)がある。コストや普及の度合いからして、一般的な住宅への波及はまだ時間がかかりそうだが、レジリエンス性などの観点からニーズは間違いなく高まると見る。前述したZEHの定義見直しにおいても、戸建て住宅では蓄電池の設置が求められる。電気を各家庭で「貯める」ことは、いずれ当たり前になるだろう。

トランプ肝いりの減税法が成立 米国での再エネ投資に急ブレーキ

米トランプ政権肝いりの新たな減税・歳出法「一つの大きく美しい法」が7月4日に成立した。今年末で期限切れとなる所得税の減税措置の恒久化を目的に、バイデン前政権のインフレ抑制法(IRA)が打ち出した再生可能エネルギーなどの税額控除を大幅に後退させる。トランプ氏が選挙前から掲げるスローガン通り、化石燃料重視の姿勢が制度設計に色濃く反映された形だ。

トランプの「好み」が色濃く反映された
提供:CNP/時事通信フォト

以前から否定的だった太陽光や風力、EVへの措置は厳しく見直した。税額控除の適用期間を大幅に前倒し、特にEV支援は9月末で打ち切る方針だ。

一方、原子力、バイオ燃料、持続可能な航空燃料(SAF)、CCUS(CO2回収・利用・貯留)への支援は維持・拡大する。水素では、天然ガス由来のブルー水素への支援は維持する一方、再エネ由来のグリーン水素の支援期間は短縮するなど、技術ごとの「選別」が際立つ。

もう一つのポイントが中国の排除だ。「禁止外国組織等に関する制約」を新設し、中国政府や企業が一定以上関与する場合は控除の対象外とする。

東京大学公共政策大学院の有馬純客員教授は、「〝禁止外国組織〟や〝一定程度〟の定義次第だが、サプライチェーンの見直しなどが必要となり、事業者にとっては大きな負担になる可能性がある」と指摘する。さらに、「新法では脱炭素化コストを負担しない方向性が強調された。日本も、競争力を維持しながらGXを進めるため、コストへの一層の目配りが求められる」とし、慎重な政策判断の必要性を強調した。

「12日間戦争」さなかの産消会議 不確実性に対する役割確認

今年のLNG産消会議は奇しくもイスラエル・イラン間の「12日間戦争」さなかの開催となった。テーマは「世界の不確実性に対処し経済成長を導くLNGの役割」。ロシア・ウクライナ戦争などの地政学リスク、エネルギー需要の増大、新エネルギー導入などに加え、今回の12日間戦争と、不確実性の要素は増える一方だ。そうした中、引き続きLNGがエネルギー安全保障に不可欠で、経済成長のドライバーとして重要であることに加え、供給網全体の低炭素化の必要性を確認した。

JERAとウッドサイドの調達契約の発表などがあった

経済産業省と国際エネルギー機関(IEA)が6月20日に開き、対面で30カ国、約470人が参加した。閣僚級セッションではいくつか発表があり、一つがJERAと豪・ウッドサイド社による冬季のLNG調達契約だ。日本の需給がひっ迫する冬季に2027年度から5年間、必要に応じて追加的に年間約20万t調達するもので、通年供給とは異なる珍しい形となる。なお、JERAはこれに先立ち、米国の4プロジェクトから新たに年間最大550万t、仕向け地フリーの長期契約を締結している。

新興輸出国の積極姿勢も目立った。参加したカナダ関係者は、同国初の大型LNG事業であるLNGカナダについて、日本に対する地理的優位性や、LNGの中でも温室効果ガス排出量の少なさをアピール。年間生産能力は1400万tで、現地時間6月30日に出荷が始まり、事業に参画する三菱商事が年間約210万t引き取る予定だ。

不確実性が高まる中、産・消ともに動きが活発化している。

季節外れの電力需要急増 スポット価格の上昇は一時的

【マーケットの潮流】金子将人/ENECHANGE営業統括部 統括部長

テーマ:電力価格

全国的に暑い日が続いたにもかかわらず、JEPX価格上昇は限定的だった。

こうした中で電力危機の教訓を風化させないためにも、適切なリスク判断が求められる。

今年2月、JEPX(日本卸電力取引所)市場はシステムプライス13・94円/kW時と高値を付け、その後6月中旬までは落ち着いた動きを見せていた。この背景には、北東アジア向けスポットLNG価格(JKM)が3月以降、月平均で1ドル弱ずつ下落したことに加え、需要に対し供給力が十分に確保され、需給バランスが保たれていたことがある。しかし、この平穏な電力マーケットが6月に大きな変調を迎えた。

電力需要は急増したが、スポット価格の上昇は一時的だった
エネチェンジインサイトマーケットより


需要期前のひっ迫常態化 地政学リスクを注視

電力会社は、年間で最も需要の多い夏季(7〜9月)と冬季(12〜2月)を避ける形で発電所の定期検査を計画的に行っている。これ以外のいわゆる端境期は、各エリアで電源の稼働率を抑えることで、需要期の安定供給体制を確保しつつ、過剰供給による市場価格の下落や小売価格が調達価格を下回る「逆ザヤ」状態を避けている。

しかし6月は、梅雨時期で太陽光発電が少ない中で、想定外の気温上昇に見舞われた。供給力が低い端境期と急激な需要増加が重なったことで需給バランスが崩れ、特に夕方の点灯帯においてJEPX価格が高騰した。

全国的に見ても、6月は気象庁による統計開始以来最も平均気温が高く(前年同月比1・04度高)、電力需要は4・7%増加し、真夏日を記録した県庁所在地は最多を更新した。

特に東京エリアでは、同時期に予備率がマイナスを記録するなど供給力不足が顕著となり、送配電事業者からも供給準備指示が発信された。これは、従来の「需要期」と「端境期」の期間設定が、現実の気象パターンと乖離するケースの状態化を示唆している。

結果的に、電力需要増で需給はひっ迫しJEPX価格は一時高騰したが、容量市場によりkW(容量)が確保されていたこともあり、6月の市場は比較的秩序が保たれたと評価できる。

これと同時期、中東情勢の緊張によりJKMは一時14ドル後半まで高騰したが、その後の停戦発表とアジア需要の低迷で下落に転じ、6月の月間を通した市場全体のひっ迫度に大きな変化はなかった。夏季に突入する7月以降は、計画停止していた電源が徐々に稼働するため、JEPX価格も落ち着くと予想される。

今年も法人需要家の電力切り替えが集中する4月を迎えたが、大手電力を中心に年度契約への転換が進んだことで、例年以上に集中した。

22年の電力危機後の混乱期には、最終保障供給契約からの切り替えニーズが多数存在したが、そのニーズは一巡している。足元でJEPX価格が落ち着いていること、加えて契約形態の変化(特に長期契約の増加)を背景に需要家の電力切り替えニーズは低下している。事実、法人需要家向けの電気代見直し一括見積サービス「エネチェンジBiz」への1〜3月のオンライン問い合わせは前年比で約30%減少した。一方で、新電力各社は顧客獲得活動を活発化させており、競争環境は激化している。

参議院で与党過半数割れ 原子力巡る思想対立に終止符

7月20日に投開票が行われた参議院議員選挙は、自民、公明両党の獲得議席が47議席にとどまり、非改選を合わせた参議院の過半数に3議席とどかなかった。1955年以降、衆参ともに与党が少数になるのは初めてだ。野党では参政党が躍進、国民民主党が勢いを維持し、立憲民主党や日本維新の会が伸び悩んだ。

原子力推進を鮮明に打ち出す国民民主は目標だった16議席を上回り、勢いを維持した

現職のある衆議院議員は「参政は主張こそ右派的だが、風を味方につけて政権批判票が流れ込んだ。国民民主は候補者選定で一悶着ありながら、昨年の衆院選に続いて大幅に議席数を伸ばし、東京でも2議席を獲得した。勢いだけでなく、地力をつけてきた証拠だ」と振り返る。

柏崎刈羽原発を抱える新潟選挙区は激戦となったが、約1万票差で立憲民主の現職が自民の新人を破った。2016年に1人区となって以来、同区では与野党の接戦が続いていたが、保守票を奪ったとされる参政の候補者が20万票を獲得した中での僅差に、大善戦と見る向きがある。ただ自民関係者に覇気はない。「小選挙区で全敗した衆院選に続いての敗戦で、再稼働推進の勢いはなくなった。もう新潟は〝立憲王国〟で、今のままでは年内再稼働は難しいかもしれない。自公国連立などで勢いが出ればいいが、とにかく今後の政局次第だ」


国民・参政は原発推進 政策の中身を競う時代に

エネルギー政策はどう変わるのか。国民民主は比例区の候補者と原発の必要性を認める確認書を交わした。公約では、電力システム改革の必要な見直しや原子力規制委員会の審査プロセスの合理化・効率化など、現実的な提言が目立つ。参政も次世代炉の開発には前向きで、パリ協定の離脱やカーボンニュートラルの必要性の検証など従来の政策の大幅転換を狙う。一方、比例の獲得票数で野党3位に甘んじた立憲民主は「50年再エネ100%」を掲げ、「核燃料サイクルの中止」を盛り込んだ。中道の野田佳彦氏が代表を務めるとはいえ、党内は相変わらず左へのウイングが広い。

こうした点から、福島伸享衆議院議員は今回の結果を「エネルギーを巡るイデオロギー対立の終焉」と前向きに捉える。「原発か、脱原発かという対立が終わり、今後は原子力の活用を前提としてエネルギー政策の質を競う時代になる。現実的なベストミックスや規制、研究開発をどう進めていくのか。業界はこれまでのように反原発に対するカウンターではなく、政策を磨いた方がいい。第7次エネ基の原子力の方針転換で一息ついている場合ではない」

今後、与党としては秋の臨時国会までに補正予算を成立させられる状況を作る必要がある。仮に自民党総裁選となれば、候補者ごとに異なる連立の枠組みを提示する異例の展開となる可能性も……。一体どんな政治風景で秋を迎えるのか、現時点では想像がつかない。

アフリカで広がるビジネスチャンス 電力セクターで民間投資活況

【国際協力機構】

人口増と経済成長を追い風に、アフリカがビジネスマーケットとしての存在感を増している。

電力セクターでは投資環境が整い、欧米勢などの民間企業による参入が活発化している。

既存技術を経ずに最新技術に進展することを 「リープフロッグ」という。通常は数十年かかる変化がわずか数年で起こることから、「カエル跳び」になぞらえこう呼ばれている。近年、この現象を体現しているのがアフリカ諸国だ。1990年代のアフリカはグローバリゼーションの波から取り残され、国際社会で支援対象国として見なされていた。しかし、人口増加と経済成長を追い風に、いまや自立的なビジネスマーケットへと姿を変えつつある。中でも、民間投資を原動力にエネルギー分野での変化は著しい。

左からJICAの高畠氏、吉澤氏、杉岡氏


BtoBが本格化 民間主導で電源開発進む

長らくアフリカ諸国では、発電所や送電網の開発を公共事業として進められてきたが、2010年代半ば以降、国際機関の主導で、電力インフラ分野への民間投資を呼び込む仕組みづくりが活発化した。 

電力市場の予見性が低いアフリカでは、民間資本の参入には高いリスクが伴う。そこで公的機関が全量を買い取るPPA(電力購入契約)を外貨建てで契約する仕組みを整備。外資系IPP(独立系発電事業者)の参入が一部で急伸した。

しかし、この手法は公的な負担も無視できず、各国が持続性に課題を抱えた。20年代前半には、買い取りを制限する国も一部で現れ始め、民間投資が停滞した。

そうした中、民間企業同士が独自にPPAを締結できる環境も整備されたことで、BtoB(企業間取引)による取引が本格化。民間主導の電源開発が各国で活況を呈するようになってきている。一連の変化について、南アフリカ共和国に駐在しエネルギー事業に携わってきたJICA(国際協力機構)の杉岡学氏は、「ここ2~3年でBtoBの契約件数が急増した。産業向けや経済開発向けの発電・送電事業において、公共部門の役割が変化した数年だった」と語る。

一方で、家庭部門では、国営の送電網が届かない農村部で、ミニグリッド(小規模電力網)や、家庭用の太陽光発電システムといった分散型電源などが、普及拡大している。この動きを後押ししているのが、携帯電話の普及とフィンテック企業の台頭だ。モバイルマネー決済が利用できるため、支払い履歴を信用情報として活用できる。これにより、従来は公共事業のサービス対象外だった低所得層に民間がアプローチ可能となった。

欧米出身者のベンチャー企業や、社会的課題の解決を重視するインパクト投資家が、アフリカ電力市場への参入を加速させている。日本勢は商社など取引経験のある企業が、現地の市場動向や投資ノウハウを生かして、スタートアップとの連携やベンチャーキャピタルを活用した投資を始めている。ただ、日本企業による参入は限定的だ。

杉岡氏は、「日本ではアフリカを依然として支援の対象と見る意識が根強い。しかし実際には、各国がアフリカを投資対象として注目している。現地では、リープフロッグな発展が次々と起きており、予想を超える市場としての魅力がある。他の日本企業にもぜひ、こうした視点でアフリカの市場性を捉えてほしい」と力を込める。

地域公共交通の再構築がモデルに!? 地方ガス事業の生き残り策を探る

人口減少・過疎化の荒波が、地方の都市ガス事業に押し寄せつつある。

地域公共交通分野で進むリ・デザイン(再構築)の取り組みから、再生の鍵を探った。

青森県の中央部に位置する黒石市。人口減少や高齢化が進む地域の一つだ。1955年の約4万2000人をピークに徐々に減り、2023年には約3万1000人となった。同市で都市ガス事業を展開する黒石ガスもそのあおりを受ける。需要家数は、16年度の4274から23年度には4145と、緩やかではあるが減少傾向を見せる。

国立社会保障・人口問題研究所の人口推計(中位推計)によれば、生産年齢人口(15~64歳)は今後40年で約1100万人減少する。地方から都市部への人口流出の傾向を踏まえると、地方におけるガス需要の減少がますます加速していくことは避けられない。事業を担う人材確保も含めた都市ガスインフラの持続可能性が揺らぎ始めている。

資機材や運搬費、人件費、原料費などの高騰が、これに追い打ちをかけている。目下、こうした要因を背景に全国でガス料金の改定が相次いでいる。東北地方では、釜石ガスが6月検針分から値上げしたのに続き、盛岡ガスと東部ガス秋田地区が9月検針分から引き上げる。11年3月の東日本大震災で大きな被害を受けた東北では、被災地の支援を優先し、ガス料金を据え置いていた。だが、断続的な諸経費の上昇に耐えられなくなった格好だ。料金値上げをしなければ、経年埋設管の更新など安定供給に不可欠な設備投資に支障が出てしまう。事業を取り巻く環境の厳しさを物語る。

他分野に先駆け、交通分野は協調路線に切り替えた


地域公共政策を転換 競争から協調へ

こうした傾向は、都市ガスに限らない。バスやタクシー、鉄道といった交通インフラも同様だ。需要の減少で採算が取れず、運営継続が困難となる地域が全国に広がっている。近くに利用可能な交通手段がない「交通空白」地域の拡大は、まさにその象徴だ。さらに運転業務の担い手不足は深刻だ。ドライバーの確保がままならず、「2024年問題」として社会的に注目を集めたことは記憶に新しい。

こうした交通インフラの危機に対して、国土交通省は地域公共交通政策の転換を図ってきた。

その起点とされるのが、07年に施行された「地域公共交通活性化再生法(地域交通法)」だ。市町村が主体となって、地域の交通政策に関する協議会の設置や計画の策定が可能となった。その後、同法は、20年までに2度改正され、都道府県による協議会の設置や計画の策定が認められたほか、計画づくりは自治体の努力義務とされた。

20年には、「独占禁止法特例法」が施行された。かつてバス事業者同士が運賃やダイヤ、路線構成を調整することは、独禁法上の「カルテル(不当な取引制限)」に該当するとした法解釈が存在した。市場競争の阻害要因とみなされたからだ。

それが一転、特例法により、共同経営が実現可能となった。21年には熊本市が特例法適用の第1号として、同市のバス事業者5社と、共同経営方式を導入した。その後、共同経営は全国的な流れとなっていった。