電気工事の測定記録を支援 DX化で煩雑な業務を効率化


【関電工】

建設業や電気工事業などで欠かせないのが、品質を担保する「データの測定・記録」だ。煩雑なこの作業に、現場では頭を悩ませてきた。例えば完成間近のビルの建設現場では、空調温度はしっかり制御されているか、フロアの照明は設計通りの照度になっているかなど、何百何千ものデータを測定・記録する必要がある。測定後の事後処理も煩雑だ。そのデータを社内に持ち帰り所定のフォーマットに再度入力し、最終的な報告書に仕上げる。入力ミスも生じる。

そうした改善アイテムとして「通信機能付きの測定器」が登場している。測定器で記録したデータを通信でエクセル記録に落とし込むようなソフトウェアだ。ただ、この方式だと個々の測定器メーカーの専用のソフトウェアに限定される。これではさまざまなメーカーの機種を使って測定している現場では不便だ。効率化できないものか―。そこで、電気工事を手掛ける関電工の技術部門が知恵を絞り編み出したのが、測定や記録のDX化を支える「BLuE」と呼ぶシステムだ。


共通のプラットフォーム ユーザー目線で構築

「一言で説明すると、多様なメーカーの測定値を取り込むことができる『共通プラットフォーム』を作った。現場に持参した測定器から値を読み込み、PDFやエクセルなどの図面や帳票に一瞬にして自動的に反映させる。事後処理も不要だ。電気工事に限らず測定業務であればあらゆる業界で利用可能だ」。戦略技術開発本部技術研究所の中島栄一副長は説明する。

共通プラットフォームで多様なメーカーの測定値を取り込む

関電工は、このプラットフォームの通信仕様を開示しているので、BLuEのユーザーは自由にアプリケーションを自作できる。昨年6月にサービスをリリースしてから1年ちょっとで社内ユーザーは1000件を突破し、測定地点は20万地点を超えたという。同社の試算では、測定100地点で約1時間の業務効率化を実現するそうだ。さらに、データが正確で報告書の信頼性も向上している。

それにしてもなぜ、電気工事を手掛ける関電工がこうしたソフトウェアを開発できたのか。それは同社がさまざまなメーカーの測定器を使い、常に現場でデータを測定しているヘビーユーザーだからだ。「これまでの不便が身に染みていた」(中島氏)。ソフト開発は手探りで、ゼロベースから試行錯誤で開発にこぎつけたそうだ。

「24年問題などで現場では『改善』が求められている。貢献できたら幸いだ。ただ当社の本業は、あくまでも電気工事。このシステムを使ってまずは現場の業務負荷の改善を進めたい」と中島氏は話す。

ベネズエラの原油生産量 制裁解除も増加は期待薄


【ワールドワイド/資源】

ベネズエラの原油生産量は1998年のピーク時には日量320万バレルを上回っていたが、現在日量80万バレル程度まで減少している。原油生産減に追い打ちをかけたのが、マドゥロ政権は公正な選挙を経ていないとして米国が2019年1月に石油産業に科した制裁だ。

今年10月17日、ベネズエラの与野党が来年に実施予定の大統領選挙を自由で公正なものにすると合意したことを受けて、米国は翌18日にこの制裁を6カ月間解除することとした。石油会社は米国から個別に許可を得なくとも、ベネズエラ国営石油会社PDVSAと協力してベネズエラで原油を生産し、輸出できるようになった。

早速、モレル・アンド・プロム(フランス)がPDVSAと原油増産に関する契約を締結するとし、レプソル(スペイン)がベネズエラでの事業を拡大する余地があるとの見方を示した。南米の国営石油会社も、ブラジルのペトロブラスがベネズエラのように石油が豊富な国での存在感を再確立することを検討したり、ボリビアのYPFBがPDVSAとベネズエラでの炭化水素開発に関する協定に署名するなどの動きがあった。15年にはベネズエラ産原油を日量44万バレルも輸入していたが、米国の制裁によって輸入を停止していたインドも、ベネズエラ産原油の輸入再開に向け検討を始めたという。

しかし、ベネズエラでは長年にわたり、原油生産設備や輸送インフラ、発電設備などに対して十分な投資が行われず、故障や老朽化しながらも放置されてきた。またチャベス前政権以降、多くの石油関連技術者が国外に脱出してしまい、技術者不足の問題にも直面している。これらの問題を解決し、原油生産量を増加させるには、多額の投資と時間が必要となる。

一方、米国の制裁解除期間は6カ月で、ベネズエラが公正な大統領選挙を実施できるよう合意を実行する場合にのみ更新されることになっている。

マドゥロ大統領が容易に権力を手放す可能性は低いと見られており、公正な選挙が行われるとの確信が持てないため、メジャーをはじめとする多くの石油会社はベネズエラに復帰し、投資を行うことに慎重にならざるを得ないだろう。このような状況から、米エネルギー情報局が、ベネズエラの原油生産量の伸びは来年末までに日量20万バレル未満にとどまるとするなど、急激なベネズエラの原油生産増は難しいとの見方が強く、原油市場への影響も大きくはないと考えられる。

(舩木 弥和子/独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構調査部)

【インフォメーション】エネルギー企業・団体の最新動向(2023年12月号)


【東京ガス/顧客先でCO2資源化サービスを開始】

 東京ガスはこのほど、都市ガス機器利用時の排気に含まれるCO2と水酸化物を反応させ、炭酸塩をオンサイトで製造する「CO2資源化サービス」を開始した。オンサイトでCO2から炭酸塩を製造するサービスは日本初だ。グループ会社の東京ガスエンジニアリングソリューションズが営業窓口となり、炭酸塩をオンサイト利用する工場などの産業用顧客を中心にサービス展開する。またオフィスビルや商業施設に向けても、炭酸塩を洗剤の原料にするなど、炭酸塩の利用用途を拡大する取り組みも進める。このサービスは、カナダ製の二酸化炭素回収装置「CarbinX™」を使用。同社の独自技術を加えて、日本でも排気中のCO2を吸収した炭酸塩を安定的に製造できるようにした。


【東京電力エナジーパートナー/複数発電・熱源をAI制御するシステムを開発】

東京電力エナジーパートナーは、AI技術を活用したエネルギーマネジメントシステム(EMS)を開発した。蓄熱槽やコージェネを含めた複雑な電熱併給型システムの運用を最適化する。このシステムは、電力や熱需要を30分という短時間の周期を高精度に予測することから、設備の高効率運転を計画するだけでなく、デマンドレスポンスの要請にも柔軟に対応できる。東電は東京大学などとともに実際の地冷拠点でEMS開発を進めていた。今回のシステムには「エネルギー需要予測AI」「機器モデリングAI」「運転計画立案AI」のAIを搭載している。蓄熱槽は再エネの余剰電力を活用する設備として期待が高まっている。東電はこのシステムを24年度から製品化する。


【アメリカ穀物協会/自動車分野のCO2削減にバイオ燃料をアピール】

自動車分野での現実的なCO2排出削減策として、バイオ燃料への関心が高まっている。トウモロコシ、サトウキビなどからつくるバイオエタノールをガソリン・軽油などに混ぜて自動車燃料とするもの。バイオエタノールはカーボンニュートラルであり、アメリカでは10%混ぜた「E10」が既に一般的で、「E85」も市場に流通している。日本ではイソブテンと混合してETBEとして導入され、6月から「E7」の販売も始まったが、利用は年間50万㎘(原油換算)にとどまる。バイオエタノールの値段はガソリン価格プラス揮発油税ほど。米国産の輸入に携わるアメリカ穀物協会の浜本哲郎・日本代表は、「E10が普及すれば低コストでCO2排出を大幅に削減できる」と話している。


【積水化学工業・リノベる/住宅ストックの脱炭素社会への貢献を推進】

積水化学工業・住宅カンパニーとリノベるは、協業の第一弾として、ZEH水準リノベーションの提供を開始した。マンションを対象に、ZEH水準リノベーションの設計・施工、温熱計算、BELS申請、費用対効果の見える化を一貫して提供。区分マンションの買取再販事業、個人向けと法人向けのリノベーション請負事業の3チャネルで展開する。両社の技術力と提案力を掛け合わせ、良質な住宅ストックが循環する循環型住宅マーケットを創造、脱炭素社会実現に寄与していく。


【日本郵船ほか/LNGタグボートを改造 アンモニアで脱炭素化へ】

日本郵船は、グループ会社の新日本海洋社が東京湾内で運行していたLNG燃料タグボート「魁」を、アンモニア仕様とする改造工事を開始した。エンジン、燃料タンクを含む機関全体を交換するため、機関室を切断して既存のLNG燃料仕様の設備を取り出し、アンモニア燃料仕様のものを設置する。同社とIHI原動機、日本シップヤード社など4社がNEDOのグリーンイノベーション基金事業で採択された「アンモニア燃料国産エンジン搭載船舶の開発」の一環で行う。2024年6月に完成後、実証運行する予定。


【大阪ガス/関西初! 自治体と連携 ライザップのプログラム】

大阪ガスは、デジタルプラットフォーム「スマイLINK TV Stick」と、ライザップが提供する健康増進プログラムを連携させ、自宅のテレビ画面を通じて、奈良県内で住民の健康増進を促す実証をリモートで行う。実証に関する包括連携協定を大阪ガス、奈良県田原本町、ライザップグループの3者で締結した。近年、高齢化社会が問題視される中、地域全体で健康寿命を延ばして活性化を図り、健康格差を縮小することが重要になっている。地方自治体を対象にテレビを介したオンライン参加型のプログラムの提供は関西初。


【三菱重工エンジン&ターボチャージャ/大型エンジン単筒機で水素混焼率50%実現】

三菱重工エンジン&ターボチャージャは、発電用ガスエンジン(5750kW)の単筒試験機での水素混焼試験を実施し、定格相当出力において水素混焼率50%(体積比)までの安定燃焼を確認した。今後、プラント補機や制御仕様なども含む生産化に向けた仕様を決定し、2025年度中の商品化を目指す。カーボンニュートラル社会への対応として水素利用のニーズが高まっていることから、水素混焼・専焼の製品投入を加速し、低・脱炭素社会実現に向けた選択肢の拡充に寄与する。


【グリッド/AIで蓄電池を制御 再エネ電源の最適化へ】

グリッドはこのほど、社会インフラ特化型SaaS「ReNom Apps for Industry SaaS」に追加する、蓄電池制御最適化エンジン「ReNom Charge」の開発を始めた。このサービスでは、AIが複数の再エネ発電や市場価格予測シナリオの中から変動リスクを確率的に計算。収益最⼤化やCO2最⼩化などの⽬的に沿って最適化された充放電計画を⾃動⽴案する。


【日本照明工業会/あかりの新たな可能性 募ったアイデアを表彰】

日本照明工業会は10月、「Lighting 5.0~未来のあかりアイデアコンテスト2023~」の表彰式を開催した。未来を照らすあかりの新しい可能性のアイデアを広く募集し、8歳から81歳まで計290件の応募の中から各賞を決定。最優秀賞は、住空間照明をカスタマイズできる「住人灯色―JUNIN TOIRO―」を発表したTOPPANの4人に決まった。


【日揮ほか/次世代太陽電池の実証 北海道の物流に設置】

日揮は、苫小牧埠頭社、エネコートテクノロジーズ社(エネコート)と3社で、北海道苫小牧市の物流施設に次世代太陽電池「ペロブスカイト太陽電池」を設置して共同実証実験を開始する。2024年初春から約1年間の予定。物流施設での実証は国内初で、屋根や壁面向けの新たな設置方法を開発・実証する。モジュール変換効率19.4%という高効率の開発に成功したエネコートは京都大学発のスタートアップ。日揮のエンジニアリング技術と融合させ、早期社会実装に資する施工方法や発電システムの開発に貢献する。


【きんでん・日立製作所/送電ケーブルの加工技能支援ソリューションを試行運用】

きんでんと日立製作所はこのほど、デジタル技術で77kV送電ケーブルジョインターを早期に育成する技能訓練支援ソリューションの試行運用を共同で開始した。同ソリューションは、77kV送電ケーブルの中間接続箱組立作業工程のうち、外部半導電層と絶縁層を規定された寸法にガラス片で切削してケーブル表面を鏡面状に加工する技能を対象としている。日立のセンサー付きグローブによって動作データを収集・数値化し、共同開発したアルゴリズムによって複数の技能検知項目を抽出してデータを比較・解析する。解析結果として改善するべき動作のポイントなどを提示。短期間で効率良く技能を習得することができるほか、作業の標準化や品質の安定化につなげことができる。

エビデンスを嫌悪する朝日 風評加害と印象操作にうんざり


【おやおやマスコミ】井川陽次郎/工房YOIKA代表

あらゆる意味で理解に苦しむ。朝日11月1日夕刊「こころのはなし、数値的なエビデンス、なくてはダメ? 経験が導く感覚の中にも真実がある」である。

冒頭の「何をするにも合理性や客観性が求められ数値的なエビデンス(根拠)を示せと言われる時代。『客観性の落とし穴』(ちくまプリマー新書)の著者で、大阪大教授の村上靖彦さん(53)にエビデンス重視の世の中にどう向きあえばいいか聞いた」からつまずく。

ページをめくると、記事は「オトナの保健室、男性、サイズの悩み切実?」。結論は「『大きければ』は幻想」らしく「小さいのも個性です」とあるのだが、「数値的なエビデンス」をあれこれ並べて男性をいじくり回す記事と同じ紙面にこれか、と。

ちなみに、冒頭記事には「聞き手・真田香菜子」とある。女性記者だろう。熱心な朝日読者、それも男性読者は、この日の夕刊を読んでどう反応したか。

内容もアレレだ。「エビデンスや客観性は、分断の道具として使われてきた」「先日、福島に行ったのですが、住民の方と原発処理水の話題になりました。その方は、福島で『汚染水』とは絶対に口にできないと言いました。政府が示したデータを信用できないという立場を示したら、問題にふたをしながら暮らしている周囲とあつれきが生まれる懸念があるようです」。福島県への風評加害をまだ続けたいらしい。

朝日はこの著作が大のお気に入りのようで、9月30日、10月7日紙面でも紹介している。後者は書評欄だ。メディアに、エビデンスつまり確実な取材は欠かせない。この新聞は大丈夫か。

心配は続く。同2日1面「ガザ難民キャンプ空爆、イスラエル『ハマス標的』、50人超死亡」だ。脇の「人口密集地、被害が集中、衛星データを分析」は群衆が狙い撃ちされているかのような地図を紹介する。2面には「ガザ保健省『家屋標的にした大虐殺』」の見出しも踊る。だが、空爆による主な被害は「施設」だ。

イスラエル軍はハマスによる10月7日の大量虐殺テロの後、200人超の人質奪回のためガザ地区への侵攻方針を表明した。これに伴う被害を抑えるため市民に避難を呼びかけてきた。避難方向を明示した印刷物を空から散布したり、ネットで情報を発信したり、電話で直接伝えたりと複数の手段を用いてきた。太平洋戦争時の空襲で大勢の犠牲者が出た日本とは状況が異なる。

エビデンスとして、イスラエル政府と軍は、印刷物の現物、散布時の動画、ガザ地区住民との通話音声記録も公表している。

だが、パレスチナ紛争の経緯もあり、世界では過激な反ユダヤ活動が広がる。イスラエルとユダヤ人殲滅を活動目標とするハマスに共鳴した大規模デモも起きる。

米国では、ハマスの人質にされた女性や子供の支援を求めるポスターが破り捨てられる。欧州では、ユダヤ人の住居にホロコースト時と同じマークが描かれる。

そんな時に、エビデンスを軽視して「イスラエルによる大虐殺」の印象操作に加担すれば、沈静化は遠のくばかりだ。

そもそも、朝日が記事で引用した「ガザ保健省」は、テロを実施したハマスが指揮する。欧米メディは、印象操作を警戒して「ハマスが運営する保健省」などの呼称を使う。注釈なしではハマスの情報発信に無防備過ぎるだろう。

エビデンスが大切なのだ。

いかわ・ようじろう  デジタルハリウッド大学大学院修了。元読売新聞論説委員。

【コラム/12月15日】電力ネットワークの法的分離と消費者の利益


矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

昨年12月から今年の初めにかけて、大手電力会社の送配電子会社が管理する新電力の顧客情報を、同じグループの小売会社に漏洩させていたことが発覚した。送配電子会社には、行為規制が導入され、情報交換のみならず、役員人事などの交流も制限されていた。しかし、送配電と小売の情報遮断ができていなかったことから、法的分離と行為規制の限界を指摘し、送配電の中立性を高めるために、送配電の所有権の分離を含むさらなる構造分離を求める声が上がっている。

このような中、内閣府の有識者会議は、今年3月2日、送配電部門を資本ごと切り離す所有権分離を提言している。また、政府は、6月16日の閣議決定で、所有権分離を検討することを規制改革の実施計画に盛り込み、経済産業省が、今年度中をめどに導入の是非を判断することとなった。検討結果は現時点で発表されていないが、法的分離にとどまる場合には、行為規制の遵守が徹底されることが必要だろう。

EUでも法的分離にとどまっていた電力会社にさらなる構造分離を求める動きがあった。EUでは、2003年「第2次電力ガス指令」で法的分離が行われていたが、2007年に、欧州委員会は、未だに十分な競争は機能していないとの認識の下、送電のさらなる構造分離を求めた。

オプションとしては、①所有権の分離、②ISO( independent system operator)化を挙げた(ISO化をオプションとしたのは、複雑な財産権問題を避けるためである)。しかし、所有権の分離、ISO化ともにドイツ・フランス等8カ国が反対したため、2009年に、エネルギー閣僚理事会はITO( independent transmission operator)を選択肢に加えることで合意した経緯がある。ITOは、法的分離の一形態で従来よりも規制を強めたものである。

この一連の議論の中で、欧州委員会が固執したのは、所有権の分離である。また、欧州の大部分の経済学者も所有権の分離を支持した。その論拠としては、ネットワークへのより公平なアクセスが確保されることが挙げられた。わが国でも、所有権の分離を支持する論拠は、系統へのアクセス条件の一層の整備である。

さらに、欧州委員会は、電力ネットワークの拡張がなかなか進まないのは、電力ネットワークへの第三者のアクセスの拡大を防ぐためと考えた。しかし、業界団体などからは、欧州委員会は、ネットワークへの公平なアクセスのみをあまりにも強調しすぎているという批判があった。現実には、電力会社が、ネットワークを所有している場合、経営戦略上それをどのように位置づけているだろうか。

筆者が、5年ほど前に、欧州の電力業界団体Eurelectric から欧州電気事業者の経営の重点を聞いたところでは、それらは再生可能エネルギー、ソリューションに加えて、電力ネットワークということであった。実際、ドイツの南西に位置する電力会社であるEnBWは、構造分離を法的分離にとどめているが、北部での風力発電が増大し、南北の高圧送電線の建設が急がれる中、その建設プロジェクトに積極的に関与することが、同社にとって重要な戦略になっているとのことであった( SuedLinkや ELTRANETのプロジェクト)。

電力市場が自由化されても、送電部門はなお独占にとどまっている。自由化で発電部門や小売部門は競争にさらされリスキーなビジネスになったと言えるが、送電部門は、規制料金の下で、多くの場合、安定的な利益をもたらしている。このことは、第三者への差別がなければ、法的分離された電力会社に、利益の増大のために、送電を拡大するインセンティブを付与する。

石油産業を巡るダイナミズムを実感 WPCカルガリー大会に出席して


【オピニオン】吉村 宇一郎/石油連盟 常務理事

9月17日から21日にかけて、世界石油会議(WPC)第24回カルガリー大会が開催され、世界の石油・ガスの生産国、消費国などから約5000人の参加があった。大会のスローガンを「Energy Transition: the Path to Net Zero」としたように、カーボンニュートラルを前提とした大会となった。

大会初日の冒頭に行われたMinisterial Dialogueでは、サウジアラビアのアブドルアジーズ・エネルギー大臣がインタビューを受ける形で話が聞けた。原油価格については不確実性を強調し、2カ月後の価格すらも分からないとするなど当然ながらはぐらかしていた。また、石油・ガスの供給国から、水素、再生可能エネルギー、メタノールなどのエネルギー供給国として貢献すると明言し、さまざまな国とプロジェクトを議論しているとした。列挙した国の中に日本が入っていたので、大臣の頭の中に日本が組み入れられているようで安心した。

Plenary1では、サウジアラビアの国営石油会社のナセルCEO、エクソンモービル社のウッズCEOなどが参加したパネルが開催された。ナセル氏は、IEAは専門的なエネルギー需給予測機関から、「政治的な先棒を担ぐような」機関に変貌したと批判していた。エネルギー安全保障の優先度があがったこと、国・地域(グローバルサウスなど)によってエネルギー政策が異なるのは当然、そして石油需要はこれからも増え続けるという趣旨の発言があった。産油国として当然の主張であろう。ウッズ氏は1日に1億バレルも消費するグローバルな石油エネルギーシステムを置き換える困難さについて一般の人々の理解不足を指摘しつつ、脱炭素を進めるには規制や支援が十分に行われ、市場を置き換えるような大規模なプロジェクトの実働が必要とした。水素などの取り組みについて触れるも、CCS(CO2回収・貯留)に言及することが多かったのは、この事業で利益を見込めると考えていること(米国のIRA法の支援があるからか)の表れと感じた。

人材確保についてのセッションもあった。今回は、他の業界からの人材受け入れが必要であり、魅力的と思われる業界とならなければならないという趣旨のメッセージであった。それほど人材確保が困難なのかと印象であったが、水素、メタノール、合成燃料などの新たなエネルギー供給産業として変革することで、関心を持つ人が増えるという意識であり、前向きな気持ちになることができた。

WPCは名称をWPCエナジーとこの大会以降から変更し、石油・ガスだけでなくエネルギー全般についても活動の対象とした。足元のエネルギー供給責任を果たしながらも、石油業界は変化するという意思表明と受け止めている。石油連盟は昨年5月に定款を変更し、水素、アンモニア、合成燃料、SAFなどの新燃料も活動の対象とし、新燃料を含む石油産業の健全な発展を図り、国民経済のサステナブルな発展に寄与することとしている。

よしむら・ういちろう 1982年東京大学工学部電気工学科卒、通商産業省(当時)入省。国際原子力機関(IAEA)、原子力安全・保安院、経済協力機構(OECD)勤務などを経て2014年から現職。

エネルギー地産地消を呼び水に オールドニュータウン再生へ


【地域エネルギー最前線】 大阪府堺市

かつてのにぎわいが去った「オールドニュータウン」問題が全国津々浦々で報じられている。

脱炭素化でこの解決を図ろうという新たなモデルを目指す挑戦が、堺市で始まっている。

高度経済成長期に各地のベッドタウンで開発が進んだニュータウン(NT)は、おしなべて今、危機に直面している。西日本最大規模の泉北NT(大阪府堺市)も街びらきから半世紀が経過する中、多分に漏れず、全国平均を上回る高齢化と、老朽インフラへの対応が喫緊の課題となっている。

泉北NTエリアでは府営住宅の建て替えや集約化が計画されており、これに伴って創出される活用地を民間に売却する予定だ。その区画に、ZEH(ネットゼロエネルギーハウス)から二段上の「次世代ZEHプラス」を整備し、子育て世帯を呼び込もうという計画が動いている。市は「不動産価値が落ちる郊外のNTを、先進的な取り組みで価値向上につなげたい。難しさはあるが、全国的にこうした問題が顕在化する中、チャレンジすべき取り組みだ」(脱炭素先行地域推進室)と説明する。

実は既に、市には泉北NTの一画で同様のモデルを実施した経験がある。市立小学校跡地を大和ハウスグループに売却し、2013年に誕生した「晴美台エコモデルタウン」だ。全65戸をZEH化することで街区全体のエネルギー消費量を創エネ量が上回り、独自に「ZET(ネットエゼロエネルギータウン)」と呼んでいる。脱炭素と絡めた学校跡地の活用は当時珍しく、大和ハウスとしても先進的な取り組みとして注目された。

「ZET」として成果を示した晴美台エコモデルタウン

小学校跡地再生の実績 「ZET」第二弾へ

今回はこれをさらに大規模、高性能化し、ZETの範囲を広げようというのだ。新たに供給が想定される住宅は約180戸。また全戸を次世代ZEHプラス化するだけでなく、太陽光発電(PV)(想定出力計1260kW)と、蓄電池の最大限の導入を図る。経験に基づいた計画は実現可能性が高いとの評価を受け、環境省の脱炭素先行地域に選定された。

晴美台のケースではFIT(固定価格買取制度)で余剰売電も行ったが、脱炭素先行地域では補助金が手厚い代わりに、FITなどの既存制度は活用できない。最大限の自家消費を追求し、実需給の面でいかに「ZET」に近づけられるかが勝負だ。また住宅の供給は一挙にではなく数十戸ずつ進めるため、街区全体というより、住宅ごとのエネルギー自給率向上が基本となる。

「今回は政策も絡み、さまざまな条件付きでの開発となり、販売価格面などで難しさはある。しかし、住宅性能が高く健康増進にもつながるZEHは、自然に選ばれる住まいになると考える」(同)。さまざまな世代を呼び込みNT全体の魅力が上がるという好循環の実現は、民間事業者も含めて可能だと捉えている。

再エネ時代の新しい調整力に 神奈川県内でVPP形成促進


【神奈川県/東京電力エナジーパートナー】

カーボンニュートラル(CN)な地域社会の構築に向け、太陽光発電など地産地消型の再生可能エネルギーの一層の普及拡大が欠かせない。同時に、気象条件で出力が変動する再エネを最大限に活用するには、需給バランスのための調整力確保も、重要な課題だ。

神奈川県は、再エネ大量導入時代を見据えた新たな調整力として、デマンドレスポンス(DR)など需要側の使用量を供給に合わせてコントロールするVPP(仮想発電所)に着目。2022年度に「VPP形成促進事業(神奈川VPP)」をスタートさせた。

神奈川VPPに参画する松岡の東京湾岸物流センター

運営事業者として選定された東京電力エナジーパートナー(東電EP)が、参加する産業用需要家を募集。需要家の電力使用状況を把握するために必要な計測・制御機器の導入費用の3分の1を県が補助する。DR事業者であるエナジープールジャパンが日々の運用を担い、需給バランスに合わせたDRの発動を支援する。

現在、需要家として約15社が参加しており、最終的には150~200社まで増やしたい考えだ。

総合物流サービスを手掛ける松岡が運営する冷蔵・冷蔵倉庫「東京湾岸物流センター」(川崎市川崎区)は、今年度神奈川VPPに参画した事業所の一つ。倉庫の規模は約8万tと国内でも最大規模で、首都圏向けの輸入冷凍・冷蔵食品の一大物流拠点となっている。

「特に冷蔵品は、温度管理がシビアで、一歩間違えれば商品価値を落としてしまいかねない。そういったことを勘案しながら、DRに協力している」と語るのは、同センターの谷本明所長。同センターでは、DRの発動に合わせて倉庫の設定温度を調整しているが、荷主との間で決められた範囲内で保管しなければならず、商品管理に支障がないよう調整しようとすると、必ずしもDRの目標を全て達成できるわけではない。「需要側をコントロール」して需給バランスを調整することは、一筋縄ではいかないことがうかがえる。


期待される上げDRの拡大 インセンティブの創出が鍵

さらには、現在は電力の不足時に需要を抑制する「下げ」DRがメインであり、今後は再エネの出力増に合わせて使用を促す「上げ」DRに対応する必要がある。とはいえ、上げDRのインセンティブ料金体系は不確実性もあり、現状では需要家の協力を得る難しさも否定できない。

課題もあるが、東電EP法人営業部DR推進グループの小林淳マネージャーは、「新たな料金メニューの開発も含め、エナジープールジャパンの欧州の知見・AI予測技術などを活用し、5年間の事業期間の中でトライ&エラーを繰り返しながら実効性を高めたい」と、同事業を足掛かりとしたVPPの拡大形成に意欲を見せる。

ネガティブエミッション 国の計画にも反映を


【脱炭素時代の経済探訪 Vol.21】関口博之 /経済ジャーナリスト

日本エネルギー経済研究所が毎年出す「IEEJアウトルック」。2050年までの世界のエネルギー需給を予測し公表しているものだが、最新版では初めて章を設けて「ネガティブエミッション技術」を取り上げている。ネガティブエミッション=負の排出とは、CO2を回収し、大気中のCO2濃度を純減させることを指す。脱炭素対策を進めても鉄鋼・セメント・化学など排出をなくすのが困難な部門は残る。この残余の排出を相殺し、埋め合わせるのがこうした技術だ。

なぜ今回の「アウトルック」でここに焦点をあてたのか。同研究所の小林良和研究主幹は「米国のインフラ抑制法でDACCS(直接大気回収貯留)に対し大規模な支援が導入されたことや、日本でも同種の技術開発支援が始まるタイミングを捉えた」という。小林氏らのリポートの主張は明快だ。産業や長距離輸送などで化石燃料の利用がどうしても残ってしまうとすれば、ネガティブエミッションの活用を、長期的な排出削減計画の中に明確かつ具体的に位置付けるべきだという。全く同感だ。現行の第六次エネルギー基本計画はDACCSや森林吸収などに触れてはいるが、数値目標などはない。いわば“最後の手立て”という扱いにすぎない。

製鉄などCO2排出ゼロが困難な部門がある

われわれも、もっとこのネガティブエミッション技術を知る必要がある。代表的なものの一つが前述のDACCS。大気から化学的あるいは物理的にCO2を吸着・回収し、それを老朽油田やガス田など地中に埋める。地下貯留ではBECCSもある。バイオマス発電(原理的にはこれ自体がカーボンニュートラル)から出るCO2を回収して埋めるものだ。専門家によればこの二つは技術が実用段階に近い上、除去できる量のポテンシャルが大きく、その計測も容易なことがメリットだという。

自然のプロセスを使うネガティブエミッションもある。植林によるCO2吸収はイメージしやすい。木は成長するとCO2の吸収が低下するので伐採しては植え直す、山火事を防ぐ管理をする、こうしたことも大事だ。近年では海岸でマングローブの生育を促す、ブルーカーボンも注目されている。一方、土壌炭素貯留は不耕起(耕さない)栽培で、農地の土壌の中に炭素を蓄える量を増やす試みだ。さらには木材を炭にすることで炭素を長期間閉じ込めるバイオ炭という手法もある。この炭を堆肥と一緒に農地にまけば土地を肥やすメリットもあるという。さまざまな技術の特性、コスト、実現可能性を見極めつつ推進していくことが求められる。

技術開発とともに重要なのは国民の理解だろう。ネガティブエミッションに対しては“化石燃料の延命”を許すことになるのではないか、という懐疑的な見方があるのも確かだ。誤解や思い込みもあるかもしれない。こうした疑念には丁寧に答えるべきだ。ただ、はっきりしているのは、カーボンニュートラルの実現に本気なら、こうした将来技術は「総動員」するしかないということだ。本気じゃない傍観者になってはいけない。

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せきぐち・ひろゆき 経済ジャーナリスト・元NHK解説副委員長。1979年一橋大学法学部卒、NHK入局。報道局経済部記者を経て、解説主幹などを歴任。

商用車のEV化をAIでサポート 効率的な充電や運行をマネジメント


【中部電力】

中部電力はアークエルテクノロジーズと共同で、路線バスや配送トラックなどの商用電気自動車(EV)向け充電マネジメントシステム「OPCAT(オプキャット)」を開発し、9月下旬にサービスの受付を開始した。


充電・運行を一括管理 コストを最小限にとどめる

カーボンニュートラル(CN)実現に向け、商用車の電動化が急務となっている。複数台の充電設備を設置する事業所が増え、設備増強にかかるコストや充電が集中することによる電気料金(契約電力)の上昇など、経済的な負担が課題だ。

こうした課題に対し、両社は2022年から、複数台配備されたEVの充電スケジュールをAIにより自動生成し、運行に必要な電力量を効率的に充電するEV充電マネジメントシステムの実証・開発を進めてきた。システムの実証・開発には、施設の電力需要予測や時間帯別の電気料金に加え、EVの運行計画や位置情報、電池残量などリアルタイムな車両データを組み合わせている。

電気料金の上昇の抑制と走行ルートの最適化を行う

OPCATでは、車両ごとの充電状態と次回の充電予定や充電器ごとの充電スケジュール、充電量や詳細な電力使用量などを把握可能だ。同システムの導入により、複数台のEVの充電を最適に制御し、施設全体の消費電力を抑えるピークカットと、電気料金の安い時間帯に充電をシフトするピークシフトを実現。EVの導入による経済的負担を最小限に抑えることが可能となる。加えて、運行計画を踏まえた最適な充電で、車両稼働率の向上と車両電動化によるCO2削減にも寄与する。

中部電力事業創造本部の石川和明部長は「国は公共用の急速充電器3万基を含む充電インフラを15万基設置し、30年までにガソリン車並みの利便性の実現を目標に掲げている。これに伴い、バスやトラックなど商用車も電動化に向け、急速充電器の設置台数は拡大していくと想定。車両の複雑な運行計画を一括管理し、スマートな充電を行うことができるOPCATは、市場において優位だと考えている。アークエルテクノロジーズと共に、商用EVのさらなる普及に向けた課題解決・環境整備を進めていく」とコメント。アークエルテクノロジーズの宮脇良二CEOは「CNに向け、車両のEV化は必ず取り組むべきだが、充電が理由で切り替えが進まない事態も発生している。商用EV導入と運用への不安を払拭し、普及に貢献していきたい」と話す。両社はOPCATの提供を通じ、脱炭素社会の実現に貢献していく方針だ。

政権末期の様相を呈す岸田政権 肝心なことを忘れていないか


【永田町便り】福島伸享/衆議院議員

10月23日、6月から続いた長い長い国会議員の夏休みがようやく終わり、岸田文雄首相の所信表明演説で臨時国会の論戦の幕が開いた。

この所信表明演説でエネルギー政策が論じられたのは2カ所だけ。冒頭「エネルギー政策の転換…をはじめ、時代の変化に応じた先送りできない課題に一つ一つ挑戦し、結果をお示ししてきました」と胸を張ったが、原発の再稼働への道を開いただけで、現下のわが国の厳しいエネルギー供給構造を解決する何らかの結果が示されたわけではない。

もう一カ所は、「9月には、年内の緊急措置として、リッター175円をガソリン価格の実質的な上限とするため補助を拡大しました。この措置を電気・ガス料金の激変緩和措置と合わせて来年春まで継続します」とのバラマキ継続宣言だ。

エネ価格補助を追及 岸田首相は答弁できず

もとより、円安の流れは止まらず、ロシアとウクライナの戦争に端を発した世界的な物価高やエネルギー供給危機の状況は変わっていない。この岸田首相の所信表明演説の前には、イスラエルとハマスの間の戦闘が始まり、中東情勢ばかりか世界全体の情勢は極めて不透明になっている。かつてのオイルショック以上のことが起き得ると警戒しなければならない。そうした緊迫した日本のエネルギーを巡る環境の中で、岸田首相の所信表明演説はあまりにも能天気すぎるのではないか。

昨年11月の臨時国会の予算委員会で、私は岸田首相に「今回のこれ(エネルギー価格高騰)は、ある意味チャンスと捉えなくてはならないかもしれない。カーボンニュートラルにいく良いチャンスなんですよ。それを、電気代やガス代の補助によって潰してしまっている可能性もあるんです」と訴え、1973年の第一次オイルショック時の田中角栄内閣が、石油緊急対策で総需要抑制対策をやって、徹底した省エネをやることによって、日本は世界一の省エネ国家になり、原子力産業が発達したことを紹介した。

この議論に対して、岸田首相は「ちょっと答えるのが、なかなか難しくなってまいりました」とまともな答弁はできなかったのだ。岸田首相は、世界の情勢に照らしたわが国の抱えるエネルギーの困難な構造的な問題を、はなから理解しておらず、それを解決するための骨太の政策をつくる気がないのだ。

8月号の本コラムで私は「これまで見てきた政権では、一度解散のチャンスを逃した政権に二度目の解散のチャンスはやってこない」と書いた。今後の中東情勢次第では、近々ガソリン代補助のような的外れな政策では全く対応できないような荒波が襲ってくる可能性もある。

その時まで、果たして岸田政権が続いていいのか。われわれ与野党の国会議員は真剣に考えなければならない。

ふくしま・のぶゆき 1995年東京大学農学部卒、通産省(現経産省)入省。電力・ガス・原子力政策などに携わり、2009年衆院選で初当選。21年秋の衆院選で無所属当選し「有志の会」を発足、現在に至る。

【マーケット情報/12月8日】原油続落、需給緩和を映す


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、需給緩和感を背景に、各指標全てが続落。また、米国原油の指標となるWTI先物価格は6日、69.34ドルの終値をつけ5カ月振りの低値を更新した。北海原油の指標となるブレント先物価格も同日、6月以来の低値となる74.05ドルを付けた。

中国では11月、原油輸入量が過去10カ月で最低を記録。加えて、米格付け大手ムーディーズ・インベスターズ・サービス社は不況を背景に、中国国債への評価を下方修正。中国景気が一段と減速し、同国からの原油需要が引き続き鈍るとの見方が強まった。

供給面では、米エネルギー情報局(EIA)が、同国9月の産油量が過去最多となったと公表。さらに、米金融大手ゴールドマン・サックスは、OPECプラスが現在以上の減産について合意を得るのは困難だとの見通しを示し、原油価格の下げ基調を強めた。

一方、OPECプラスの11月生産量は、前月から11万バレル減となる日量3,610万バレルとなり、削減目標を下回る水準。ただ、需給の緩みを引き締める材料には至らなかった。


【12月8日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=71.23ドル(前週比2.84ドル安)、ブレント先物(ICE)=75.84ドル(前週比3.04ドル安)、オマーン先物(DME)=75.85ドル(前週比5.39ドル安)、ドバイ現物(Argus)=75.76ドル(前週比5.37ドル安)

東ガス英洋上ファンド出資 国内事業にも知見反映へ


東京ガスが洋上風力事業関係で新たな巨額投資を決めた。同社は11月17日、英オクトパスエナジーが設立した洋上風力投資に特化したファンドに対して2・2億ユーロ(約350億円)の出資にコミットしたと発表。ファンドは東ガス以外の投資家も募り、2030年までに総額35億ユーロを目指すという。

両社はこれまで電力小売事業で協業してきたが、その分野をさらに拡大する。ファンドは当面、欧州の案件を投資対象とし、その初号案件として、21年に稼働したオランダの着床式風力(73・15万kW)の株式5%を取得する。

東ガスは国内外で30年に再エネ600万kWという自社目標達成の推進力として洋上風力に期待しており、国内では茨城県鹿島港の案件などの検討を進めている。

今回の狙いについて、「多様なポートフォリオの案件にさまざまな形で関与できると考えている。海外での洋上風力事業を増やしていく側面と、そこでいろいろな学びを得て国内事業に生かすという両面で価値がある」(川村俊雄・東ガス再生可能エネルギー事業部長)と話している。

目指すは大型水素発電の商用化 「高砂水素パーク」が稼働開始


【三菱重工業】

国の目標よりひと足先にカーボンニュートラルを目指す三菱重工業は水素専焼発電の開発に注力する。

この開発の一大拠点となるのが同社高砂製作所内に開設した「高砂水素パーク」だ。

CO2フリーの次世代燃料として期待されている水素―。この早期実用化に向けて、三菱重工業はガスタービンコンバインドサイクル(GTCC)発電の製造拠点である高砂製作所内に、水素の製造から発電まで一貫して実証可能な「高砂水素パーク」の本格稼働を開始し報道陣に公開した。

高砂製作所内の「高砂水素パーク」全景

同パークは水素の製造、貯蔵、利用の三つのエリアに分かれている。水素製造においては、さまざまな製造方式がある中、世界最大級の水素製造能力1100N㎥時を有するノルウェーハイドロジェンプロ社製のアルカリ水電解装置を採用した。5万1000kW規模のアルカリ水電解装置であり、大型セルスタックでアルカリ水溶液を水素と酸素に分解し、水溶液混じりの水素をガスセパレーターで水素とアルカリ水溶液を分離させる仕組みだ。

三菱重工は米国ユタ州で再生可能エネルギー由来の水素を利用したGTCC発電プロジェクトでインターマウンテン電力向けに水素焚きJAC形2基(84万kW)を導入している。同プロジェクトではグリーン水素を製造する設備の導入も三菱重工が担当しており、ハイドロジェンプロのアルカリ水電解装置を22万kW分に当たる40台を導入している。

高砂水素パークにも、ハイドロジェンプロ社の装置を1台導入した。同装置で1日半程度かけて3・5t分の水素を製造する。水素は隣接する貯蔵施設に貯める。1本当たり10‌kgの水素タンクが350本あり、約20MPaで圧縮して貯蔵する。

東澤隆司GTCC事業部長は「水素混焼の実証は30%から開始する。製造した水素を利用してGTCCをフル稼働すると、1時間程度で消費してしまう。来年には50%混焼を実施するため、タンクを現状の約3倍に増やす」と話す。

川内原発が20年運転延長 準国策に電力供給で貢献


原子力規制委員会は11月に川内原子力発電所1、2号機(出力各89万kW)の20年の運転期間延長を認可した。住民団体などが延長の賛否を問う住民投票条例の制定を直接請求していたが、県議会で否決されている。「九州電力は延長の決定にホッとしていることだろう」(電力関係者)というのも、今後、九州では安価で安定した電力供給が欠かせなくなるからだ。熊本県では半導体受託製造大手のTSMC、またソニーが半導体工場を建設している。多くの関連企業も周辺に立地する。今や準国策といえる半導体の国内生産。それを電力供給面で支えるために、それぞれ2024年、25年に運開から40年を迎える川内1、2号機の稼働延長が必要だった。

九電の経営への影響も大きい。川内原発を再稼働する際に、安全対策工事や特重(特定重大事故等対処施設)の建設に膨大な額の投資を行っている。投資資金を回収するに20年の運転延長は不可欠だっただろう。

原子力で次の一手は―。川内原発の新増設がささやかれている。1兆円を超えるとされる建設資金の回収など課題は多いが、九電の経営は好調。その「挑戦」に期待する声は多い。