【巻頭インタビュー】金子修一/原子力規制庁長官
原子力の最大限活用に向けて、原子力規制庁は審査の長期化などの課題をどう克服するのか。
7月に就任したばかりの金子修一長官に、国民や事業者からの疑問の声をぶつけた。

─7月に長官に就任しました。意気込みを聞かせてください。
金子 長官の仕事は、委員会と事務局を合わせた約1400人の組織を上手く機能させることです。次長時代から「働き方改革」を担当しており、フレックスタイム制やリモートワークの積極的な活用、会議時間短縮など職員が柔軟に働ける環境づくりを進めてきました。これからも、働きやすく、やりがいを持って成果を出せる職場をつくっていきます。
―審査の長期化をどう見ていますか。申請から10年以上が経過したサイトもあります。
金子 もっと早く審査が終わるようにしなければなりません。特に時間がかかっているのは、地震や津波といった自然ハザードの評価です。その最大の要因は、規制側と事業者側で、何をどこまで立証すれば基準を満たしたことになるのかという「ハードル」の認識が共有できなかったことにあります。
最初は事業者が提出したものに対して「それだけでは不十分だ」と突き返すようなやり取りが続いて時間を要しました。この経験から、まずはどのような論点があり、それをどの程度のレベルで説明すれば理解が得られるのか、「予見性」を互いに共有することが重要だと分かりました。初期段階の「粗ごなし」を丁寧に行うことで、その後の審査が納得できるものとなります。事業者とのコミュニケーションを改善し、行政手続法上の標準処理期間2年で終わるかは分かりませんが、「普通の審査」にしていくことが必要です。
ドライサイトをどう見るか 運転中審査は非現実的
―審査に必要なリソースは足りているのでしょうか。
金子 特に自然ハザードの評価では、専門的な知見を持つ人材が日本全体で不足しているという構造的な問題があります。これは事業者も同様で、われわれも募集をかけていますが、原子力発電所の審査という需要が急増したため、なかなか人材を確保できない状況です。可能な範囲で最大限の努力をしています。
―事業者からは、例えば津波対策で敷地内に海水を一滴も入れてはならない「ドライサイト」の見直しなど、規制の柔軟性を求める声があります。
金子 私たちはドライサイトそのものを要求しているわけではありません。もし海水の侵入を許容する設計を選んだとしても、それで安全機能が維持できればよいのです。ただ、ドライサイト以外の方法を選ぶと、人員や車両のアクセスルートの確保など考慮すべき事項が格段に増え、前例のない対策を検討する必要が生じます。事業者にとって説明のハードルが見えにくいのは事実で、前例のないアプローチへの対応は双方にとって課題と言えるでしょう。
―運転中審査を認めるべきという意見はどう思いますか。
金子 2011年の東日本大震災後は「怖いものは止めよう」という空気が日本社会を覆っていました。その状況で規制機関が運転中審査を認めるのは無理でした。仮にそれを認めたならば、数多くの訴訟が提起され、その対応に追われて、かえって審査が進まなくなった可能性さえあります。

外部の意見に傾聴 信頼関係を築く覚悟
―敦賀2号機の不許可判断は物議を醸しました。原子炉安全専門審査会(炉安審)などを活用して外部の声に耳を傾けるべきではないですか。
金子 それは規制委・規制庁にとって重要なポイントです。行政事業レビューなどで私たちの活動に対する外部の意見を聞いていますし、山中伸介委員長は若手とのコミュニケーションに積極的です。ただ、規制の判断の最終的な意思決定は規制委が行わなければなりません。
というのも、福島第一原発事故の大きな反省として、基準を作る組織(原子力安全委員会)と審査・許認可をする組織(原子力安全・保安院)の間で責任の所在が曖昧になっていた点があります。そこで震災後は、規制委が基準の策定から審査、監督まで全責任を負うことになりました。重要な判断をするときに「ほかの有識者がこう言っていたから」という形にはしてはいけません。
――事業者とのコミュニケーションで重要なことは。
金子 絶対にダメなのは、表に出ない形で合意形成をする「バックドアコミュニケーション」です。規制の内容に関わる対話は、必ず議事概要を作成し、オープンにすることを徹底しています。設立当初はお互いにやり方が分からず、非常に硬直した関係でした。しかし10年以上が経ち、ようやく建設的な対話ができるという認識が共有されつつあると感じています。
─最後に事業者へのメッセージをお願いします。
金子 悩んだり困ったりしたら、まずは遠慮せずに直接ぶつけてきてください。小出しにしたり、探りを入れたりするのではなく、素直に話をしていただいた方が、早く、良い解決策が見つかります。これは間違いありません。立場は違えども、信頼関係を構築し、対話に臨む覚悟はできています。

