【再エネ】各国で再エネ雇用拡大 産業戦略で国益意識


【業界スクランブル/再エネ】

今年9月、国際再生可能エネルギー機関(IRENA)は、国際労働機関(ILO)と共同で「再生可能エネルギーと雇用:第10 版」を公表した。報告書によれば、近年再エネは多くの国々で産業戦略の中に組み込まれており、拡大の動機は、従来の自然災害や貿易紛争、地政学的対立への懸念に向けた対処だけでなく、サプライチェーンの国産率を高めて自国に利益を還元し、雇用を増やすことが目的となっている。

再エネの拡大に伴って、雇用も2012年の730万人から22年の1370万人へと、過去10年で約2倍に増加している。特に再エネ拡大が加速した21年から22年にかけては、雇用が100万件増加した。

技術別では、太陽光関連が全体の3分の1を占め、12年の140万人から500万人へと増加した。過去10年で唯一減ったのは太陽冷熱分野で、約1割減少している。その他の技術については、風力関連が約2倍増、バイオエネルギーや水力関連も増加している。

国別での最大は、全体の40%を占める中国で、550万人の雇用がある。その他の国も、欧州160万人、ブラジル140万人、米国約100万人と、大きな再エネ雇用がある。

一方で、日本における再エネの雇用数は他国に比べ控えめで、導入量世界第三位の太陽光関連の雇用は、約13万人と見積もられている。拡大が期待されている洋上風力については、30年までに7GWを達成すれば、発電所建設で5・4万人(うち直接雇用2万人、間接雇用3・4万人)の雇用が創出され、40年までに36‌GWを達成すれば約7万人の雇用が創出されるという。ただし、必要な技術スキルを身につけた人材を国内で育成するためには、政府による適切な対策が必要だとしている。(R)

「24年問題」リミット迫る 環境改善の絶好機にできるか


【業界紙の目】田中信也/物流ニッポン新聞社 東京支局記者

運送業界などの時間外労働規制を巡る「2024年問題」の期限が迫る中、政府は危機感を強める。

現場は規制強化への対応に追われており、政策パッケージをいかにうまく活用できるかが問われている。

2018年12月に成立した働き方改革関連法では、時間外労働の上限規制が設けられ、19年4月から順次適用してきた。このうち規制強化の影響が大きい建設業、トラック、バス、タクシーの自動車運送業などは24年4月から適用することとし、5年間の猶予が与えられた。かつ、年720時間を上限とする一般則に対し、自動車運送は年960時間の特例が適用されている。

こうした「特別扱い」が行われたにもかかわらず、現時点でトラック業界では、長時間労働の是正、労働条件の改善といった働き方改革が実現しているとは言えない。単に「24年問題」と称する場合、物流の諸問題を想起させることが、そのことを裏付ける。

なぜ、これほどのインセンティブがありながら改善が一向に進まず、これを後押しする有効な政策も打ち出せなかったのか。

その背景には、1990年の貨物自動車運送事業法と貨物運送取扱事業法のいわゆる「物流2法」の施行から進んだ、トラック事業の規制緩和の影響があると考えられる。規制緩和に伴い事業者間で過当競争が起こり、運賃水準が低下する「負のスパイラル」に陥った。この対応にトラック業界や行政当局があまりに長い時間を要したことで、ドライバーの働き方改革の具体的な対策にまで手が回らなかったものと考えられる。

企業間物流の課題強調を 荷主の行動変容要求は画期的

24年4月まで1年を切った中、政府が打ち出した政策パッケージには、所管する国土交通省のみならず、農林水産省、経済産業省、厚生労働省、警察庁、消費者庁、公正取引委員会など、省庁をまたいだ多種多様な政策が盛り込まれ、大手全国紙、テレビキー局など多くのメディアで報じられた。

ただ、「再配達率半減」「送料無料表示の見直し」といった、宅配便など消費者物流での取り組みや政策をクローズアップするメディアが少なくなかった。こうした見出しならば一般消費者の目に触れやすく、世間の関心を集めやすいのは確かだ。それでも24年問題の本筋は、長距離トラック輸送をはじめとする企業間物流である。店舗や工場向けの物流がストップすれば、「スーパーやコンビニエンスストアの棚から商品が消える」「ありとあらゆる製品を製造できなくなる」といった側面を、物流業界や行政当局はもっとアピールすべきだ。

一方、荷主・元請事業者を対象とする物流負荷軽減に関する規制的措置や、荷主の役員クラスに物流の統括管理者、いわゆる欧米企業でのチーフ・ロジスティクス・オフィサー(CLO)の配置義務付けについて、「24年の通常国会での法制化も視野に整備する」ことが明記されたのは画期的なことだ。国交省物流・自動車局などとともに物流対策の検討をけん引してきた、経産省商務・サービスグループの中野剛志物流企画室長は「物流負荷の軽減に向け、荷主の行動変容を求めたことは世界的にも例がない」と強調する。

法整備は、省エネ法のエネルギー使用の改善に向けた計画の策定・公表、管理者選任の規定を参考にしていく方針だ。しかし、CO2排出量など指標が明確な省エネ法での規制と異なり、重量や輸送距離を指標とする場合、業界・分野の特性や着荷主のデータの把握が困難なことから、定量・単一的な目標設定が一筋縄ではいかないため、紆余曲折も予想される。

「24年4月がゴールではなくスタート」とは、物流の課題解決に関してもよく言われるフレーズだ。しかし、時間外労働の上限規制適用のリミットは刻一刻と迫っている。法制度が整備され、荷主に対する規制強化の措置が施行されるまで最低2年程度の期間を要するとみられている。そうした中、ドライバーの拘束時間、休息期間などを定める改正改善基準告示の順守が求められる。

政策パッケージ機能するか 政権の人気取りで終わらせず

さらに政策パッケージでは、何も対策を講じなければ「24年度に14%、30年度には34%の輸送力不足」という試算結果が突き付けられており、ドライバーなどの賃金水準向上に向けた適正な運賃収受や価格転嫁のための取り組みが不可欠だ。

しかし、働き方改革関連法に基づく規制強化は段階的に適用されており、19年4月に有給休暇の年5日取得が義務化され、今年4月には「23年問題」とも称される月60時間超の時間外労働に対する割増賃金率引き上げが、中小企業にも適用された。

ほとんどの事業者は、相次ぐ規制強化に着実に対応している。だが、荷主との値上げ交渉がままならず、効率化できるほどの人員や施設・設備のない事業者には、労働時間の短縮や、割り増し分の原資の確保は厳しい。

有休の年5日取得では、ドライバーの「日給月給制」の給与形態がネックとなり、対応に苦慮しているケースもあるようだ。時間外労働上限規制に伴う対応も迫られる中、パッケージに盛りこまれた対策が有効に機能しなければ、規制強化の「三重苦」に押しつぶされる事業者が続出しかねない。

9月下旬には岸田首相がトラック事業者を視察した

こうした中、岸田文雄首相は9月28日、東京都大田区の中小トラック事業者を視察し、業界団体の首脳、経営者、ドライバーと意見を交わした。この場で、24年問題に伴う諸課題への対応に向けて「物流革新緊急パッケージ」を取りまとめることを明言し、10月6日に閣議決定した。

荷役作業の自動化・機械化、電気トラック導入などのための予算措置を、経済対策に盛り込む。さらに、ドライバーの賃上げを実現するための適正運賃収受に向け、荷主・元請事業者への規制措置を「次期通常国会で法制化」する方向性も示した。

新たなパッケージを打ち出したのは、政権側の「支持率向上に向けた人気取り」という狙いも透けて見える。ただトラック業界・事業者は、またとない絶好機を逃してはならない。荷主側とも連携し、取り組みを推進していくことが求められる。

〈物流ニッポン〉○1968年創刊〇発行部数:15.8万部〇読者構成:陸上貨物運送業、貨物利用運送業、倉庫業、海運業、港湾運送業、官公庁・団体、荷主など

【火力】発電所⇔中給の昔話 予測と実運用の難しさ


【業界スクランブル/火力】

今回は、発電所の運転員時代の思い出話である。世の中はバブル景気に向かう頃で、エアコンの普及に伴い電力需要の昼夜間格差が増大し、それに対応するため火力設備ではDSS(毎深夜起動停止)の運用が増えつつあった。その日も朝6時の並列に向けてユニットを起動し、定格回転数まで昇速したので給電指令所に連絡した。

発「〇〇発電所××号機並列準備できました」

給「えーと、並列不要です」

発「はぁ?」

給「本日は、予想より需要が低い見込みとなったのでこれ以上の供給力は不要です。××号機は停めてください」

発「はぁ、了解です……」

当時は、こんなやり取りで済んでいたが、自由化された今日ではどうなるのだろうか。

技術の進歩で予測精度が上がっていると言いたいところだが、自然変動電源の大量導入により需要予測の誤差はむしろ以前より大きくなっている状況だ。市場制度の面から言えば、約定のタイミングをリアルに近づければ誤差は生じないということのようだが、ちょっと待ってくれと言いたい。火力発電は、起動にそれなりの時間がかかる上に停止起動に伴う温度変化が設備に与えるダメージを最小にするため、停止中も最新の注意を払う必要があるのだ。

運転員の労力はDX化により軽減されてきているものの、燃料費や健全性確保のためのコスト、それが空振りとなるリスクを発電側に片寄せするような制度になってしまったら対応は困難となってしまう。

調整力について公募から市場へ移行する議論がたけなわだが、経年火力の退出が懸念材料となっている。しかし、このような事情が正しく理解されず、あげくに「売り惜しみ」などと揶揄されるのは大変心外だ。(N)

【原子力】ドイツの産業政策 再エネ依存で限界


【業界スクランブル/原子力】

日本と同じく製造業のGDPに占めるシェアが高いドイツは、産業の維持のために競争力のあるエネルギー価格、電気料金が必要と考え、産業用料金の大幅引き下げ策を打ち出した。

欧州委員会のヴェステアー上級副委員長は、ドイツの施策が欧州連合(EU)で禁止されている不当な政府補助に該当する可能性があると指摘している。中小企業と家庭に対する補助は可能だが、大企業を補助対象にするとEU内でドイツ企業が優位に立ち競争環境をゆがめるから認められないとしたのだ。

政権内からも反対の声が上がった。7月にドイツ財務省の科学諮問委員会は、補助案を支持できないとの報告書を提出している。その要旨は「脱炭素に対応する製品の製造には電気の利用が増えるので、今後電気料金はますます産業にとり重要になる。ハーベック経済・気候保護相は将来、再生可能エネルギーが黄金期を迎えるので、それまでのつなぎとしてエネルギー多消費型産業への補助金が必要と主張しているが、この主張には賛同しない」というものだ。

ドイツにとって産業の競争優位性は極めて重要だが、再エネの条件は周辺国よりも劣る。例えばノルウェー(水力発電比率92%)、スウェーデン(水力44%、原子力32%)と比較し、電気料金に競争優位はない。そうなると、補助金が一時的なものではなく永遠に続くことになりかねない。

ドイツ財務省の科学諮問委員会の指摘は妥当な点が多く、補助金におぼれかねない日本が見習うべき点は少なくない。脱原発のドイツは取り組めないが、日本は原発の再稼働、リプレース・新設により電気料金で競争優位を確保できる。岸田文雄首相の経済成長に向けた行動力に期待したい。(S)

電動車に必要なレアメタル資源 確保するということの難しさ


【リレーコラム】青木 努/プライムプラネットエナジー&ソリューションズ バッテリーメタル戦略推進部 部長

社会人になってLMEや貴金属取引を行う部署配属。国際的なトレーディングビジネスを学んだ良い5年間だったものの、「ものづくり」や「リアルな現場」での仕事に興味があった。そんな時期、資源開発のニーズがトヨタグループ内で高まっていた。当時はプリウスが本格的に普及し始めた時期。尖閣諸島問題が発生する前から中国が寡占している状況を懸念する声があった。レアアースの場合は副産物として放射性物質と随伴している。民間企業で鉱山から開発する難しさを感じていた。インド国営会社がウラン・トリウムを抽出した後のレアアースに目を付けた。

何重もの挑戦が資源開発の礎

100%単独出資かつインドのへき地で、初の精錬事業を立ち上げる責任者として駐在することになった。今思い返すとこんな三重のチャレンジが必要なプロジェクトを30代半ばの私に任せてくれた上司陣に心から感謝すると共に、今の日本の企業文化ではチャレンジよりリスクを気嫌いされ、そんな判断はできないだろうと改めて歴史を作ってきた方々への敬意を表したい。

2年後、インドでの精錬事業のDFS完了し、環境許認可を得て建設開始までこぎ着けた。日本のエンジニアリング会社の皆さまの多大なサポートがなかったら難しかった。

駐在帰国後、リチウム資源をアルゼンチンで目を付けた。帰国して6か月後に最初の投資稟議を終えた。そこからジュニアと呼ばれる新興鉱山企業との仕事が始まる。インドでの経験を生かせたかは微妙だが、標高4000mの高地で、スペイン語圏で、やったことのない塩湖からの抽出精錬をジュニア企業と開発スタートした。四重のチャレンジである。

当時、アルゼンチンは既に国債デフォルトを起こしてパリクラブの管理下にあり、五重チャレンジだったかもしれない。資源開発の稟議後、亜国中央銀行の法令変更に直接交渉しに奔走した。ここでもJOGMECのファイナンス担当の方には多大なサポートをしていただいて実現した次第である。

本稿では書ききれない話はたくさんあるが、レアメタルの資源開発は苦労の連続であり、需要も成熟していない中で商社単独では難しい。それでもこれまで携わった案件が黒字化まで実現できているのは、熱くならず冷静に挑戦するものは越えられること。また、一緒に仕事してくれた仲間やサポーターがいたからであり、政府関係者や海外資源会社、エンジニアリング会社の支えがあったからである。資源に携わって16年。仲間と共に一樹の陰を大事にすることが私の座右の銘となった。

あおき・つとむ 1999年豊田通商入社。インドのプラント建設、2012年からアルゼンチンの資源開発を経て、19年よりトヨタ自動車へ出向。現在、トヨタ自動車とパナソニックの合弁電池会社でバッテリーメタル資源確保に従事。

※次回はBHPジャパン社長のガントス有希さんです。

【コラム/11月21日】再生可能エネルギー電源の支援制度 ~FIP vs. CFD~


矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

わが国では、再生可能エネルギー電源の支援制度として、2022年度よりFIT(Feed- in Tariff)制度に代えて、FIP (Feed-in Premium)制度が同電源の大部分に対して導入されることになった。わが国のFIP制度でも、一定規模以上の大部分の再生可能エネルギー電源に関して、買取価格は競争入札で決める。FIT制度は、再生可能エネルギー電源の普及を促すことを目的として導入されたのに対して、FIP制度は、再生可能エネルギー電源を電力市場へ統合するにあたっての段階的な措置と位置づけられるが、FIP制度には問題点も指摘される。

ドイツでも、現在、再生可能エネルギー電源の支援制度としてFIP制度(変動型プレミアム制度)が幅広く採用されているが、ベルリンにある非営利学術機関であるドイツ経済研究所DIW は、再生可能エネルギー電力の買取価格を入札で決めるFIP制度の問題点を指摘し、下記に述べるように、差金決済契約(Contract for Difference : CFD)制度のほうが、支援制度として優れているとしていると指摘している。

風力発電や太陽光発電は、変動費は低いが、資本費は高い。したがって、資金調達コストがコストの重要な部分を占める。資金調達コストは、発電による将来の収益がどの程度確実かに依存する。投資決定時に、発電による収入の確実性が確保されている場合、投資家は安い金利の借入金で投資資金を調達することができる。他方、投資家が収益計算において不確実な電力価格を考慮しなければならない場合、他人資本を提供する金融機関はリスクを敬遠するため、金融機関からの借り入れは難しい可能性がある。このため、より多くの自己資本が必要となり、資金調達コストが増加する。

過去において、入札価格(落札価格)が市場価格を上回っていたときは、FIP制度の下でも安定的な収入が確保され、資金調達コストは安かった。しかし、最近のように、再生可能エネルギー発電の生産コストが市場価格に近づくほど低下している場合には、状況が異なってくる。FIP入札では競争圧力がかかるため、投資家は可能な限り低い入札額を提示できるよう、電力市場から収入を得る可能性を考慮する結果、入札価格が電力生産コストを下回る傾向がある(欧州の洋上風力発電の入札では、プレミアム0での落札が常態化している)。そのような状況では、市場価格が入札価格(落札価格)よりも低い場合、入札価格での買取が保証されるが、それは、生産コストを下回っている。市場価格が実際の生産コストよりも低い場合、エクイティは実際に必要な配当を受けることはできない。また、市場価格が高く、入札価格を上回る場合、入札価格を超える市場価格が追加的な収益機会を決定するようになる。しかし、入札価格を超える電力市場からの収入は不確実であるため、資金調達コストが増加し、消費者は技術的なコスト低下の恩恵を十分に受けられなくなる。

CFDは、再生可能エネルギー電源に対する支援策として、すでに英国のほか、デンマーク、イタリア、フランスで採用されており、数年後にはEU大でも採用されることになるだろう。CFDは、競争入札で決定された価格での長期購入契約を意味している。現行のFIPと同様に、市場価格が契約価格(入札価格)を下回ると、事業者は、その差を受ける。逆に、市場価格が契約価格を上回った場合、事業者はその差を系統運用者などの契約相手方に支払わなければならない。これにより、再生可能エネルギー賦課金は減少し、消費者の負担は減じる。消費者は、差額契約を上回る電力価格の高騰に対して守られることになるため、エネルギー転換のアクセプタンスも高まると考えられる。

FIPの下では、再生可能エネルギー事業者は、生産コストをカバーするために入札価格を上回る電力価格からの収益を期待するのに対して、CFDは、事業者が入札価格を上回る電力価格からの収益を期待しなくても生産コストをカバーできる収益を保証する。資金調達にさいして、そのような不確実な収益を考慮する必要がなくなるため、CDFは、FIPのように資金調達コストを増加させることはない。

CFDでは、生産コストを下回る入札をすることはないと考えられる。仮に、そのレベルで落札したら、電力価格がそれを上回る部分は契約相手方に返却しなくてはならず、事業は赤字となるからである。逆に、競争環境下では、生産コストを上回る入札もできないため、生産コストで入札すると考えられる。DIWのモデル計算では、生産コストの下落に伴い、CFDによる入札価格よりもFIPの入札価格の方が急激に下落していくが、技術的コストの低下は、高い資金調達コストによって相殺され、消費者のコスト削減にはつながらない。

DIWは、様々な再生可能エネルギー支援制度の中で、消費者が発電コスト低下の恩恵を最も受けることができるのは、CFDの場合であると結論づけている。DIWのモデル計算では、CFDの導入により、現在のFIPを維持する場合と比べて、2030年において、ドイツの消費者全体の支払いは、年間約8億ユーロの節約が可能になる。また、固定プレミアムでは、CFDと比べると、年間27億ユーロ弱の追加コストが発生する。支援制度なしでは、CFDと比べ、追加コストは、年間約34億ユーロと増大する。CFD以外の支援制度では、資金調達にはより多くの自己資本が必要とされる。DIWの見解によれば、このような投資は、基本的に、より大きなリスクとより高い期待リターンを伴う投資を行うことができる大規模なエネルギー事業者のリスクリターンプロファイルに合致するため、再生可能エネルギー電源の担い手の多様性が損なわれる可能性がある。

最後に付言しておくと、ドイツの現行のFIPは、変動型プレミアム制度であるのに対して、わが国で採用されるFIPは、固定型と変動型の中間の制度と言われている。ともに、プレミアム単価は、参照価格の変動に応じて毎月変更されるが、参照価格は、ドイツでは月単位の平均卸電力市場価格で決められるのに対して、わが国では、前年度年間平均卸電力市場価格に月間補正価格を加味したもので決められる。このような制度設計の違いはあるが、上述の考察は、わが国のFIP制度に関しても当てはまることであり、適切な再生可能エネルギー電源の支援制度を考える上で参考になるだろう。

【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授、東北電力経営アドバイザーなどを歴任。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。

【石油】稼げる間に稼ぐ 100ドル時代到来?


【業界スクランブル/石油】

OPECプラスは10月4日、サウジ・ロシアの自主追加分を含め、現行減産体制の継続を決めた。同日、WTI原油先物は想定の範囲内である、米国ガソリン在庫急増で5ドル安となったが、マクロ的にはOPECプラスの決定で需給ひっ迫の可能性が高まった。

ウクライナ戦争で130ドル近くに上昇した原油価格も2022年秋には侵攻前の70ドル台に下落、本年前半もほぼ横ばいだった。しかし、後半はOPECプラスの減産と米中の底堅い景気動向による需給ひっ迫懸念で堅調に推移している。ハマスとイスラエルの衝突も心配だ。そのため、年末に向けさらなる上昇を予想する向きが多い。

問題は供給面のOPECプラスの減産継続である。従来であればOPECは原油価格が高騰した場合、減産を緩和、増産に転じるなど、市場安定に向け需給緩和に動くものだったが、今回は増産に動く気配はない。また過去の価格回復局面では、合意違反の増産(チーティング)に走る加盟国が出たものだが、今回は大多数が投資不足で増産余力を欠き、イラン、ベネズエラが経済制裁中でもあり、違反増産国もない。

特に過去、安定志向の石油政策を採用し、まとまった増産余力を有するサウジが今回は増産に動かない。OPECプラスの友好国ロシアへの配慮もあろう。

やはり、安定志向の前提は、価格高騰による消費国の石油離れ防止、超長期の石油収入の確保であったと思われるが、脱炭素が現実となった今、その前提は崩れ、石油埋蔵が座礁資産となる前に高値で「稼げる間に稼ぐ」との政策に転換したのだと理解するしかない。

一本調子の値上がりはないにしても、途上国需要がピークアウトするまでは、原油高価格時代は続くのではないか。(H)

【シン・メディア放談】エネルギー価格補助金の論じ方 深みなく物足りない検証記事


<メディア人編> 大手A紙・大手B紙・地方C紙

出口が全く見えないエネルギー補助金。その報じ方はメディア関係者から見ても物足りないようだ。

 ─エネルギー補助金が年末まで延期されたばかりだが、既に来春以降も続く可能性が浮上している。

A紙 経済産業省も財務省も担当者はやめたがっているが、政治案件になってしまった。朝日はこれまでに「始めたらやめられない補助金」といった解説記事などをたびたび掲載。一方ほかのメディアは延長方針などが決まったタイミングで発表物は掲載するが、問題意識を持ち尖った記事は少ない。

B紙 毎日も社説で「出口なきバラマキは愚策」などと断じ、日経も市場を歪めかねないといったスタンスで批判を強めている。11月解散がくすぶる中、さらなる補助金延長はまさしく政権の人気取りだ。エネルギー補助金では政権に批判的なメディアほど真面目に検証記事を書き、政権寄りの産経・読売などはあえて触れないようにしている。

─原子力問題はずばり論じる東京のスタンスはどうだろう。

C紙 印象に残る記事がない。補助金の是非はあるが、消費者の財布に優しいことは確かで、物価上昇が生活を直撃する中で水を差すような記事は載せにくいのだろう。

A紙 ところで、地方では車が生活の足であり、北国では灯油への補助も出ているのに、地方紙は意外とこの政策に批判的だ。

C紙 岸田政権が結局、補助金をやめられないのならば、財政面から気合を入れた検証記事を書けば面白いと思う。だが、どの社も記者が減る中、やりたくてもできない事情もある。

A紙 日々の発表物が優先で、検証記事は二の次になっている。人手が限られる中、いつまでも自社リソースの記事にこだわるべきなのか、検証してもよい頃合いだ。


金融緩和と同じ構図 統一感ない政策にメスを

B紙 記者が経緯をどれだけ分かっているかが、記事の深さに露骨に表れる。でも、そういう観点で記者を評価する人事制度になっていないことも良くない。人手不足でころころ配置転換せざるを得ず、新聞社として意図を持って記者を育成することが難しくなっている。

C紙 残念なのは、この補助金がCO2排出の増大につながり「脱炭素政策をてこ入れする機を逸した」といった検証記事があまり見当たらないこと。記者として目立てるチャンスでもあるのに。

A紙 他方、今夏は猛暑の割に電力需要が思うほど伸びず、補助金の意味にさらなる疑問が生じた。政権が期待するほど景気が反応していない点も絡めて指摘できる。

─しかもイスラエル・パレスチナ紛争激化で補助金を止められない理由がさらに増えてしまった。

A紙 エネルギー補助金と政権浮揚は密接に関係する。目先で始めた補助金だが、その終了は政権が消費者の負担増を選択するということ。だが、原油価格のフェーズが変わる中、少なくとも補助金以外の手段を考える必要がある。

B紙 大規模金融緩和をいつまでも止められないのと同じだ。日本だけが財政健全化から目を背け、お金をばらまいておけば政権支持率は下がらないという安直な考えを取り続けている。日経が厳しく書けば響くはずだ。 

【マーケット情報/11月17日】原油続落、需給緩和の見通し一段と強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み続伸。需給緩和の見通しが強まった。

中国経済の減速で、原油需要が弱まるとの見方が一段と広がった。同国における製油所の10月原油処理量は、精製マージンの縮小を受け、過去最高を記録した前月から減少。また、不動産業界への1~10月投資額が、前年同月比で下落している。同業界は石化製品の主要な消費層となっており、化学品需要の後退が見込まれる。

欧州でも、景気の冷え込みが懸念されている。欧州委員会は、欧州連合および欧州圏における、今年のGDP成長率予測に下方修正を加えた。

供給面では、米国の週間原油在庫が増加。クッシング在庫が4週連続で増加したことが背景にある。さらに、米国の石油サービス会社ベーカー・ヒューズが発表する先週の原油リグ稼働数は、前週から6基増加。原油価格を下押した。


【11月17日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=75.89ドル(前週比1.28ドル安)、ブレント先物(ICE)=80.61ドル(前週比0.82ドル安)、オマーン先物(DME)=79.18ドル(前週比2.22ドル安)、ドバイ現物(Argus)=78.96ドル(前週比2.52ドル安)

【ガス】LPの質量販売 「30分ルール」一部免除の実態


【業界スクランブル/ガス】

経済産業省は昨年7月に質量販売における液化石油ガス法の保安業務告示と通達改正を交付・施行した。改正ではキャンピングカーやキッチンカー、屋台など、屋外でLPガスを移動して使用する一般消費者などは緊急時対応講習を受講して修了証を取得し、緊急時の措置を自ら行う場合には、「30分ルール」から除外するとした。

LPガス販売事業者に課せられている保安業務のうち、需要家の供給設備および消費設備まで原則30分以内に到着し、バルブの閉止などを行う体制の確保を求める「30分ルール」がある。除外措置は、昨今流行っているアウトドア、キャンピングカー業界などの要望に応えた形だ。

緊急時対応講習では、液石法の基礎、各種設備の機能・取り扱い、関係法令などを学ぶ。講習を修了した消費者は、質量販売を扱う販売事業者からLPガスを購入する際、受講修了証を提示し、緊急時に所要の措置を自ら行うことについて、販売事業者の確認を受けることになる。

しかし30分ルールが除外されたとはいえ、修了証を持つ消費者自らが緊急時に必要な措置を行う場合、予期せぬ事故が発生するリスクもあり、販売を敬遠する事業者は多い。施行から1年が経過した現在、講習実施者として認定されているのはイーエルジー(大阪府東大阪市)と千葉県LPガス協会(小倉晴夫会長)の2者だけとなっている。講習には全国各地から参加者が集まるというが、経産局単位か各地区のLPガス協会が講習を実施できる体制を構築することも必要だ。

質量販売はLPガスの良さを生かした供給方法であり、さらにユーザーから求められていることを踏まえ、需要の裾野を拡大するためにも、LPガス事業者は期待に応えなければならないだろう。(F)

産業電化のシンポジウム開催 GX実現に向け電化の可能性探る


【エレクトロヒートシンポジウム】

日本エレクトロヒートセンター(JEHC、内山洋司会長)が主催する第18回エレクトロヒートシンポジウムが11月1日から1か月間にわたってウェブ上で開催される。期間内は誰でもオンデマンドで講演動画やバーチャル展示などのコンテンツを無料で視聴できる。

今回のテーマは、「GX実現に向けてどうする、どうなる?産業電化」だ。GXを目指す最新の産業電化技術がさまざまな企業によって紹介される。

シンポジウムでは、経済産業省産業技術環境局GX投資促進室の西田光宏室長が基調講演を行う。GX実現に向けた政策の最新状況を伝えながら、GXに資するヒートポンプ技術の可能性を紹介する。

実際にエネルギーを使う需要側による二つの特別講演も実施する。一つは、デンソーやアイシン、矢崎総業などが加盟する日本自動車部品工業会だ。同会では、2030年度のCO2排出量を13年度比で46%以上の削減を目指している。協会としての会員企業への支援活動や課題解決に向けた取り組みといった活動概要を説明する。また、カーボンニュートラル(CN)に向けた事例集なども紹介する。もう一つが、電機・電子温暖化対策連絡会だ。22年に改定した「気候変動対応長期ビジョン」の内容や活動事例を紹介する。

産業電化にはさまざまな技術がある。

いずれの団体に加盟する企業群は、最終製品を支える部品や部材などをグローバルで製造・納入している。片や世界のモノづくりの現場では、最終製品の脱炭素化は、こうした企業群の取り組みの上に成り立っているだけに、エネルギーの需要家としての取り組みは注目される。

その他、技術発表のコーナーでは、抵抗加熱や電磁波加熱、誘導加熱といったさまざまな電化による「加熱」の最新動向や導入事例、その効果が各社から1か月間にわたって紹介される。

加えて、「簡易ロードマップの策定とAIを活用した最適制御」(関西電力)、「ものづくりの革新に貢献するデジタル共創プラットフォーム」(中部電力)、「電化(ヒートポンプ)がスコープ1・2・3に与える影響」(ほっとコンサルティング)といった1週間程度の期間限定のWeb講演もある。


GXと産業電化の親和性 学生向けに簡単に解説

今回のシンポジウムでは、初めての試みとして「業界大図鑑」のコーナーを設けた。実際に産業電化を手掛ける企業で働く若手社員へのインタビューなどを通じて、産業電化の仕組みをわかりやすく解説するコーナーだ。

JEHCの担当者は「GXの取り組みと産業電化は親和性が高いと考えている。将来の日本の産業を担う学生に少しでも関心を持ってもらえれば」と話している。

英スナク首相の「ネット・ゼロ」会見に思う


【ワールドワイド/コラム】水上裕康 ヒロ・ミズカミ代表

去る9月20日に行われた、英国スナク首相の「ネット・ゼロ」政策に関する記者会見を視聴した。日本も含め、各国のメディアは「ガソリン車等の販売禁止を延期」と見出しを付け、「ネット・ゼロ政策の後退」と結論付けたものが多かったように思う。

実際に演説を聴いてみると、なるほど内燃機関の自動車や化石燃料ボイラーの販売禁止を2035年まで先送りしたり、住宅への断熱基準適用の強制をやめたりと、「後退」とみえる部分もある。一方、ヒートポンプ購入補助金の増額、陸上風力建設禁止の解除、CO2回収・貯留(CCS)や原子力の推進、送配電網の整備に向けた改革など、前向きな政策もある。全体的には「後退」というより、施策の「再編」といったほうが相応しいような印象を受けた。

スナクは演説のなかで、「困難な選択とそれに伴う代償について、国民に正直であったり、民主的な議論をしたりせず、見出しになるような目標を押し付ける」ことを批判し、「現実的」という言葉を繰り返していた。貧困層を置き去りにした「EV100%」や具体策を伴わない「送配電網の整備」といった見栄えのいい言葉の裏に存在した問題に手を付け、国民の理解を得ながら前進しようとの趣旨であろう。

「気候正義」という言葉に追い立てられるように、各国はさまざまな計画の導入を競ってきた。結果として、一元的に導入された施策に、社会の最も弱い層が悲鳴を上げ始めたということではないか。使える経済資源が限られる中、実効性をもって目標に近づくためには、社会の現実に応じた「正直」で「現実的」な議論を繰り返さねばなるまい。そんな中で、具体的な議論もなく「日本は遅れ」を繰り返す、経済メディアの「上から目線」の記事をみつけると、がっかりしてしまうのだ。

【新電力】不適切な営業活動抑止 ガイドラインより監視


【業界スクランブル/新電力】

電力小売業界では、しばしば不適切な営業活動、料金メニュー案内や事業不振による突然の倒産、事業中止といったマイナス事象がみられる。消費者保護を一層徹底したい資源エネルギー庁は、8月の基本政策小委で小売指針の改定を打ち出した。①情報開示の強化「ヘッジ比率の開示」「燃料、市場価格と電気料金の因果関係の説明」、②一層丁寧な消費者案内「高齢者等への専用資料」「筆談読み上げによるコミュニケーション」―などである。

情報弱者、ハンディのある人達への優しさを感じる方針ではあるが、そのままの指針化は早計だ。①「ヘッジ比率」は業務機密に属し、かつ定量化が難しく、「因果関係」は正解がない。②はネット中心の集客実態とそもそも合わず、かつゼロコストでは実施できないため、標的顧客からこうした人々を除外する誘因になりかねない。

いわゆる「ヤンチャ系小売り」のために真っ当に事業を遂行している各社が追加対応に汗をかかされるのは合理的ではない。不適切な営業活動は電取委が個別に摘発、指導し、必要があればレッドカードを出し退場させるなどの措置を講ずるべきだ。

さらにカーボンニュートラルに向けた新しい料金メニューやサービス開発を小売りに求める考察も示されたのだが、小売事業者の能力を過信しているのではないか。制度インセンティブを事業者、消費者双方に付与しないと何も進まない。

自由化したはずが、なぜ箸の上げ下ろしを事細かく規定され続けるのか。悪性の事業者は淘汰されるはず。淘汰に要する時間を短縮させるための情報提供に国が関わるくらいの間合いがほどほどと考えるが、規制の態様が変わる気配はない。小売りに国策遂行を無償代行させたいマインドが見え隠れする。(S)

英スナク首相の「方針変更」 合理的エネ政策に転換なるか


【ワールドワイド/環境】

9月20日、ラシ・スナク英首相はガソリン車とディーゼル車の新車販売の禁止を2030年から35年に延期した。ボリス・ジョンソン前首相が打ち出した内燃エンジン車からEVへの移行が5年遅れることになる。35年以降も既存のガソリン車やディーゼル車の中古車販売も認められる。ガスボイラーのフェーズアウトのペースを緩め、家屋所有者に対する省エネ義務の導入も見送られた。

スナク首相は記者会見において「自分は50年カーボンニュートラル目標にコミットしている。他方、その目標追求に当たっては、よりプラグマティックで身の丈に合った、現実的なアプローチをとる。現在の政策を続ければ国民の同意を失うことになる。それは当該政策に対するバックラッシュになるのみならず、われわれが目指す目標そのものをも危うくする」と述べた。EVに関しては「われわれは英国をEVの世界的リーダーにするために努力しており、30年までには販売自動車の大半がEVになると期待される。他方、選択を行うのは消費者自身であるべきで政府ではない。初期費用はいまだに高く、充電インフラの整備にも時間がかかる」と述べた。

今回の方針転換の背景は苦戦が予想される来年の総選挙に向け、低所得層のコスト負担増を防ぐというポジションを打ち出し、温暖化対策のさらなる強化を唱導する労働党との差別化を図ることにあったといわれている。スナク首相は財務大臣時代からEV義務化やガスボイラーフェーズアウトのコストについて疑問を感じており、今年夏に政策の費用対効果をレビューさせたが、納得する回答が得られなかったという。

環境関係者は「長期的に英国民のコスト負担を増大させ、温暖化問題における英国のリーダーシップを毀損するものだ」とスナク首相の方針変更を激しく批判。環境NGOは訴訟の構えで、野党労働党は保守党を攻撃する絶好のチャンスと捉えている。

スナク政権の軌道修正により、来年予定される総選挙ではグリーン政策が一つの争点になろう。高コストのグリーン政策の見直しによって保守党の支持を強化しようというスナク首相の目論見が成功するのか、さらにはこれが欧州において跳梁跋扈する環境原理主義からより合理的なエネルギー環境政策への転換の第一歩になるのか、今後の動向が注目される。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院特任教授)

【電力】政治的動機で軽視される 推定無罪の原則


【業界スクランブル/電力】

 9月25日、中部電力と中部電力ミライズは、企業向け電力販売でカルテルを結んだとして、今年3月に公正取引委員会から発出された計275億円の課徴金納付命令の処分取り消しを求めて東京地裁に提訴した。訴状の内容は明らかになっていないが「公取委との間で、事実認定と法解釈について見解の相違がある」とのことだ。

28日には中国電力、29日には九州電力および子会社の九電みらいエナジーと、命令の対象となった全社が提訴に踏み切った。法の適用に異論があるなら株主利益を背負っている以上、企業が司法に訴えることは当然かつ正当な権利の行使である。

そう考えると、先日の旧一電数社の料金改定審査の際に、消費者庁がカルテル問題の影響の検証を執拗に主張していたことには違和感を持つ。公取委による認定が正しいとはまだ結論付けられていないのに、推定無罪はどこに行ったのか。

筆者には、これは感情的あるいは政治的な動機によるパフォーマンスと映ってしまう。時に感情に支配される政治の現実は理解するものの、過ぎれば法の支配がないがしろになる危うさもはらむ。同様のことは、昨今の旧統一教会に対する解散命令請求の動きについても言える。

電力・ガス取引監視等委員会が7月に発出した業務改善命令もそうだ。李下に冠を正さずは理想だが、それができていないから業務改善命令というのはいささか乱暴であるし、カルテル認定の結論が出ていない段階でそのような命令を出すことに実質的な意味はあるのか。

先日の電取委の会合で「カルテル問題の検証という問題意識を持っているのは消費者庁の誰か」と問われ、同庁の参事官が自分であると回答していたが、果たしてそうか。あれは官僚の発想ではないだろう。(V)