電力の現場に自信と誇りを 山積する課題解決に全力投球


【全国電力関連産業労働組合総連合】

壬生守也/電力総連会長

DXやGX、2024年問題への対応などの課題に現場は何を思うのか―。

9月に就任したばかりの電力総連の壬生守也会長に聞いた。

―近年の電力政策をどう見ていますか。

壬生 各電力会社で置かれている状況は違いますが、共通課題は電力システム改革のひずみが顕在化していることです。電力システム改革は①安定供給の確保、②電気料金の最大限抑制、③需要家の選択肢や事業機会の拡大―の三点を目的に進められましたが、果たしてその目的は実現したのでしょうか。

今夏こそ猛暑の中でも安定供給が維持されたものの、昨年3月には福島県沖の地震の影響もあり関東圏を中心に大規模な需給ひっ迫が生じました。今冬も原子力発電所が稼働していない東日本をはじめ、安定供給には不安が残ります。また電気料金は国際情勢などの影響で燃料費が高騰、再生可能エネルギー賦課金も上昇傾向にあります。さらに需要家の選択肢こそ広がりましたが、昨今の新電力撤退により、旧一般電気事業者(旧一電)の最終補償供給契約が増加しました。このように電力システム改革の三つの目的は実現するどころか、むしろ国民の利益を著しく損ねていると言っても過言ではありません。


働く人の声を聞いてほしい デジタル時代も「人」が重要

―一部の電力会社ではカルテルや顧客情報の不正閲覧といった不適切行為が問題となりました。

壬生 労働組合としても、今回の事象は自由化の主旨や送配電事業の中立性に関わる問題として重く受け止めています。今後は、情報管理の適正化が行われ、法令遵守に向けた各事業者の取り組みを労働者の目線から確認したいと考えています。

また問題の根底には、やはり電力システム改革の影響があります。お客さま側も自由化されたという認識が薄く、電気のトラブルが起きれば「旧一電が対応してくれる」と思われている方が多い気がします。そんな中、現場の皆さんは全てのお客さまの問い合わせに丁寧に対応したいという気持ちがあり、閲覧できる状態になっていた他社の顧客情報を閲覧してしまったのです。一部では営業目的で閲覧した事例もありましたが、多くはお客さまからのお問い合わせに対応するためでした。

―所有権分離の検討が盛り込まれた規制改革実施案が閣議決定されるなど、さらなる規制強化を求める声もあります。

壬生 規制強化がプラスに働くのか、疑問を抱かざるを得ません。災害復旧などの公益事業に悪影響を与えないでしょうか。現場は「人」の営みで成り立っています。制度改革を行う際は、現場の声に耳を傾けてほしいと切に願います。

―そういう点では、政治への働きかけがより重要になるのではないでしょうか。

壬生 電力総連は国民民主党を支援し、組織内議員として浜野喜史氏、竹詰仁氏の両参議院議員を抱えています。国民民主党との連携はもちろん、各党との政策懇談会などを通じて幅広く政策を訴えていきます。

日豪経済会議の裏で吹いた隙間風 気候変動相の立ち振る舞いが象徴か


日本と豪州の経済人が一堂に会する日豪経済会議が10月8~10日、豪州メルボルンで開かれた。

過去最多の参加者を数えるほどの盛り上がりの裏で、両国の政府間には隙間風も吹き渡った。

今年で60年周年の節目を迎えた日豪経済委員会の合同会議。日豪合わせて600人以上と過去最多の参加者数となり、大変な盛況ぶりを見せた。

NTTの澤田純会長、三菱商事の中西勝也社長、国際協力銀行(JBIC)の前田匡史会長ら日本経済のかじ取りを担うキーパーソンが顔をそろえ、会議の重みが増した格好だ。一方で西村康稔経済産業相も現地に入り、豪州のクリス・ボーエン気候変動エネルギー担当相らと会談したものの、財界の盛況とは裏腹に、日豪政府の間に隙間風が吹いていた点が注目される。

提供:共同通信
記念撮影する西村氏、ボーエン氏(右端)ら閣僚4人

日豪経済会議は1963年に始まった。両国の地で毎年交互に開催する。新型コロナウイルスの感染拡大により、豪州での対面開催は5年ぶりとなった。日本側から300人超、豪州側から約300人が参加した。会議を主催する日豪経済委員会の広瀬道明委員長(東京ガス相談役)が財界の大物に自らトップセールスをかけ、通常の東京~メルボルン直行便の機体をビジネスクラス主体のものに替えたほどだった。


気候変動重視の労働党 ボーエン大臣は乗船せず

60周年の記念開催という祝賀ムードがある一方、ぎくしゃくしていたのは日豪政府の関係だ。

10月8日の朝、メルボルンからほど近い豪州の液化水素積荷基地があるヘイスティングス港に西村経産相が、さっそうと登場した。港には世界初の液化水素運搬船「すいそ ふろんてぃあ」が停泊しており、西村経産相のほか、日豪の政府関係者や産業界、学識経験者などが船に乗り込んだ。

しかし日豪が水素という新エネルギーを介し、将来にわたって友好関係を続けていく象徴ともいえる液化水素運搬船に、豪州政府のキーマンであるボーエン氏の姿はなかった。

豪州は、日本にとって重要なエネルギーの調達先だ。石炭の約6~7割、LNGの約4割が豪州である。しかし昨年、政権が労働党に交代すると関係性が変化した。労働党は気候変動対策を重視する政策を掲げ、化石燃料事業の課税を増やしたり、セーフガードメカニズムと呼ぶ温室効果ガスの排出抑制策を強めたりと、日本のエネルギー企業に厳しい策を次々と打ち出した。

かくいう「すいそ ふろんてぃあ」に関係するHESCプロジェクトも、やり玉に挙がっている。このプロジェクトは、ビクトリア州ラトロブバレーで産出される褐炭から水素を製造する。その水素を同州ヘイスティングス港で液化し、神戸市にある液化水素荷役実証ターミナルへ輸送する事業だ。豪州の現地企業と日本の川崎重工業が中心になり、エネルギー企業のJパワー、水素事業を手掛ける岩谷産業、丸紅や住友商事が参画している。

迫りくる第三次石油危機 イランとサウジの動向が鍵


 1973年10月の第一次石油危機発生から50年という節目の時期に勃発した、イスラエルとイスラム組織ハマスの軍事衝突。10月24日現在、イスラエル側はパレスチナ・ガザ地区への攻撃を強化すると警告しており、地上侵攻が秒読み段階とみられている。

第五次中東戦争の危機もささやかれる中、世界のエネルギー情勢への影響はどうなのか。原油価格の動向を見ると、WTIでは9月27日に1バレル91・3ドルまで上昇した後、いったんは80ドルまで下落したが、7日のハマスによるカザ地区攻撃を機に反転。24日現在は86ドル付近で推移している。果たして今後100ドル超えの高騰局面に突入し、ひいては第三次石油危機が起きる可能性はあるのか。複数の専門家は「サウジアラビアとイランの動きが鍵を握る」と異口同音に話す。

ガザ地区の病院空爆を受け、イスラエル批判を強めるイラン国民(10月18日)

10月中旬、サウジは米国が仲介するイスラエルとの国交正常化交渉を凍結したと報じられた。サウジのムハンマド皇太子は9月、交渉の妥結は「近づいている」としてパレスチナ問題を解決する必要性を強調していたが、10月10日に行われたパレスチナ自治政府高官との電話会談では、パレスチナ側を支える立場を表明したという。米国のバイデン大統領は、ハマスによるイスラエル攻撃の一因に同交渉を阻止する狙いがあったとの見解を示している。


緊張高まる中東情勢 戦争拡大で石油危機も

一方、サウジとイスラエルにとって共通の懸念材料もある。「イランの核武装」だ。今年に入り、海外メディアは「イランがウラン濃縮度84%を成功した」と報道した。ウラン濃縮を90%まで上げることができれば、核兵器製造が可能となる。これを危惧しているのが、イスラエルとサウジだ。

とりわけイスラエル側はイランが核兵器を保有する前に核関連施設を空爆すると警告してきた。「実はイスラエル・米国側はハマスのガザ奇襲を事前に察知していたものの、あえて阻止しなかったとの見方が浮上している。イラン空爆を開始する口実にしようという、いわば太平洋戦争時の真珠湾的な作戦だ」(エネルギー関係者)

ただ、①17日に発生したガザ地区の病院爆破、②19日の国連安全保障理事会に提出された「一時停戦」を求める決議案が米国の反対で否決、③ハマスが断続的に人質を解放へ―といった事態を受け、イスラエルに対する批判が中東はもとより国際社会からも強まり始めた。一方で日本を除くG7は22日、イスラエルの自衛権を支持する共同声明を発出。24日現在もイスラエル軍はガザ地区への激しい空爆を続けている。

「レバノンのヒズボラとイスラエルの交戦も悪化し、米軍が駐留するイラクやシリアでも緊張が高まっている。そんな中でイスラエルがガザに地上侵攻。今後イラン、サウジを巻き込んで大きな戦争に発展すれば、第三次石油危機は避けられない」(前出関係者)。石油の中東依存度95%超の日本も、他人事ではいられない。

【コラム/11月2日】第7次エネ基議論 エネミックスと部門別CO2目標排除の提案


杉山大志/キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹

第7次エネルギー基本計画が来年2024年にも策定されると見られている。

第6次エネルギー基本計画では、「30年に13年比でCO2などの温室効果ガス排出量を46%削減する」と言う無謀な目標がトップダウンで設定され、それに無理に数字を合わせたつじつま合わせが行われた。政治家も介入し、電源構成における再生可能エネルギー38%などといった数字が設定された。今、あらゆる政策措置がこういった数値に従って実施されている。

一応は、30年の数値は「目標」ではなく「見通し」であることになっている。すなわち、その説明をしている政府ホームページには、「エネルギー基本計画見直しで、『2030年度におけるエネルギー需給の見通し』も見直し」という段落の中で、「需給両面におけるさまざまな課題の克服を野心的に想定した場合、どのようなエネルギー需給の見通しとなるのかも示されました」と書いてある。

だが、その続きには、「30年度の新たな削減目標はこれまでの目標を7割以上引き上げるもので、その実現は容易なものではありませんが、エネルギーミックスの実現に向けて、あらゆる政策を総動員し、全力で取り組みます」とも書いてある。つまり数値は「目標」だと説明している。実際には「目標」として認識され運用されている。これが実態だ。

困ったことに、38%といった数字の設定は、技術的・経済的な検討が極めて不十分なままに行われた。このため、再エネ大量導入などに伴ってコストが膨大になり、電気料金はますます高くなってゆくことは必定だ。だが計画に数字が書き込まれているために、なかなかブレーキが利かない。

手本になる米国方式 独立機関の予測重視

そもそも国には将来のCO2排出量を決める能力はない。経済成長がどの程度になるかは予測できない。また、計画の実施段階になって、技術的な課題が克服できなかったり、立地問題に直面したり、経済安全保障の問題が浮上したり、経済的なコストが予想以上にかかったりする。将来のCO2排出量は本質的に不確実である。それにも関わらず数値目標を強行すれば多大な害悪が発生する。

これを除くにはどうすればよいか。米国が参考になる。

米国では、①あらまほしき目標を政権が決めるけれども、②その実施段階においては個別具体的な政策を是々非々で議会が制定し、③その結果としてどの程度のCO2排出量になりそうかは独立な機関が第三者的な立場から予測する――という3つのステップを踏んでいる。

米国の「国家気候タスクフォース」公式ホームページで確認しよう

米国大統領は以下の3点を公約している:

・30年に米国の温室効果ガス排出量を05年比で50~52%削減する。

・35年までに炭素汚染のない電力を100%にする

・50年までにネット・ゼロ・エミッション経済を達成する

そしてこの達成のためとして、インフレ抑制法、超党派インフラ法などの法律を制定している。しかし、米国政府として部門ごとのCO2排出量の内訳を決めるとか、発電部門のエネルギーミックス(電源構成)を定める、といったことはしていない。

その代わりに、エネルギー省(DOE)に属するエネルギー情報庁(Energy Information Administration, EIA)が、現行の政策に基づくとCO2排出量がどのようになるか、予測を発表している

その予測を見ると、前述の米国政府の目標はことごとく未達である! 

例えば、30年のCO2排出量は50%削減には程遠いし、35年の電力部門のCO2排出もゼロには全然なっていない。

EIAは「法律により、我々のデータ、分析、予測はいかなる米国政府の組織または人の承認を受けない独立なものである(By law, our data, analyses, and forecasts are independent of approval by any other officer or employee of the U.S. government)」としている。

政府がつじつま合わせのために鉛筆をなめて作る数字ではない、ということだ。

つじつま合わせ脱却へ 費用便益・リスク精査を

日本も、第7次基本計画においては、米国方式を取るべきだ。つまり、第7次基本計画からは部門別のCO2排出量の数値や、エネルギーミックスと呼ばれる発電部門の電源構成についての数値は除外すべきだ。

そして具体的な政策の導入にあたっては、それら政策の費用・便益・リスクを精査した上で妥当なものを選ぶ。

なお電力部門においては、かつてそうであったように、原子力などの大規模な電源や送電線については、全体としての需給の調整を図るために、国としての長期計画が必要だろう。

独立した機関による長期予測については、実はそれに準じるものが既にある。

日本エネルギー経済研究所は、IEEJアウトルック2023として、過去の趨勢に従った場合(レファレンスシナリオ)と、最大限技術を導入した場合(技術進展シナリオ)について、将来予測を行っている。

そして「技術進展シナリオ」においてすら、米国、欧州連合ともに30年のCO2削減目標は未達、とされている。

日本の30年目標も未達である! また50年の世界のカーボンニュートラルについても「実現には程遠い」とはっきり記してある。50年のCO2排出量は20年の半分程度に留まる。

これが現実だ。トップダウンで無謀な目標を立てても、実現不可能なのだ。それに向かってつじつま合わせをした数値目標に振り回されると、どこかで必ず破綻する。それを回避するための軌道修正が遅れるほど、無駄なコストがかさみ経済が疲弊することになる。

次期の第7次基本計画においては、部門別のCO2排出量や、エネルギーミックス(電源構成)の内訳の数字は除外すべきだ。それに代えて、日本エネルギー経済研究所などの研究機関が予測をすればよい。それは、経済成長や技術進歩などの不確実性を取り込めば、当然、かなり大きな幅を持ったものになる。これは米国EIAでもそうなっている。

そして将来予測に当たっては、これも米国EIAに倣い、政府の介入や承認を受けず、独立の専門機関として実施すべきだ。

【プロフィール】1991年東京大学理学部卒。93年同大学院工学研究科物理工学修了後、電力中央研究所入所。電中研上席研究員などを経て、2017年キヤノングローバル戦略研究所入所。19年から現職。慶應義塾大学大学院特任教授も務める。「亡国のエコ 今すぐやめよう太陽光パネル」など著書多数。最近はYouTube「キヤノングローバル戦略研究所_杉山 大志」での情報発信にも力を入れる。

【特集1/討論対論】EVシフトの将来展望と障壁 内燃機関の逆襲はあるか


車両価格や航続距離の短さなどEVには課題が残る。

一方で内燃機関は合成燃料の活用などで存続できるのか。

【EV】和田 憲一郎/日本電動化研究所 代表取締役

わだ・けんいちろう
三菱自動車に入社後、主に内装設計を担当。2005年に新世代電気自動車の開発責任者に任命されアイ・ミーブの開発に着手。13年3月同社退社し、15年6月から現職。

海外勢の進出加速で市場拡大 EVシフトは不可逆的な領域

①EVの長所と短所

ガソリン車とBEV(バッテリーEV)は1886年ごろ、ほぼ同時期に誕生した。その後、1908年にT型フォードが誕生し、それ以降ガソリン車が圧倒的な地位を占めてきた。約130年に及ぶ技術の蓄積により、内燃機関車はガソリン車、ディーゼル車、ハイブリッド車(HEV)などが生み出され、現在でも、内燃機関車は自動車の主流であると言える。

一方、カーボンニュートラル(CN)の概念が広まるにつれ、自動車単体においても、温室効果ガスを出さないゼロエミッション車が求められるようになった。BEVのメリットとしては、①ゼロエミッション車(ZEV)である、②騒音、振動が少なく静か、③電気で走行するためエネルギーコストが安い、④V2H(ビークル・トゥ・ホーム)など非常用電源として活用できる―が挙げられる。しかし、①電池価格が高く、従って車両価格が高い、②1充電当たりの走行距離が短い、③寒冷地では暖房使用により走行距離が短くなる、④充電時間が長く充電インフラがまだ少ない―といったデメリットもある。

②世界のEV情勢をどう見るか

ロシアのウクライナ侵攻による商品・エネルギー価格の高騰など不安定要素が増大したが、それでも新エネルギー車の世界は順調に推移している。国際エネルギー機関(IEA)が発行した「Global EV Outlook 2023」によれば、昨年のBEVとプラグインハイブリッド車(PHEV)を合わせた新エネルギー車の新車販売台数は1000万台を超え、その比率は14%となった。また今年は前年同期比35%増の1400万台、販売比率は18%になると予測している。一方、HEVの世界販売台数は約350万台となり、対前年比で13%伸びたものの、21年よりBEVの販売台数がHEVより大きく上回っており、差が拡大してきている。

BEVおよびPHEVが伸展した要因として国・地域における環境規制強化が挙げられる。米国では昨年8月、米カリフォルニア州大気資源局が、35年までに同州で販売する乗用車およびライトトラックは、全てZEVにするという新たな規制を発表した。ここでいうZEVとはEV、PHEVおよび燃料電池車(FCEV)である。

さらにバイデン政権は昨年8月、「インフレ抑制法」を成立させた。その中に新エネルギー車(NEV)に関連する内容も含まれており、税控除は最大7500ドルとなる。控除条件として、北米生産、重要鉱物、電池要件などがあり、承認を得るため各種調整が続いている。


合成燃料は課題が多い 「アーリーマジョリティー」へ突入

一方、欧州委員会は21年7月、「Fit for55 Package」と呼ばれる包括案を公表した。この中にはガソリン車、ディーゼル車、HEV、PHEVも含めた内燃機関車の新規販売を35年に禁止する法案が含まれる。

中国では、カリフォルニア州のZEV規制を手本に制定された新エネルギー車規制が挙げられる。規制は今年までの予定だが、それ以降は改訂NEV規制に移行すると思われる。また工業情報化部、国家発展改革委員会、科学技術部が、25年までの自動車産業政策となる「自動車産業中長期発展計画」を公表し、産業振興を推進している。

③合成燃料(eフューエル)への考え方

合成燃料は課題が多い。例えば、使用する水素の純度問題、大気から直接回収したCO2の厳密さ、高価格となることが予想される点、製造時に多くのエネルギーを用いることから生じるライフサイクルアセスメント(LCA)の問題などである。実用化に当たっては、これらの課題解決が望まれる。

④日本にEV社会は到来するか

国際エネルギー機関(IEA)が指摘するように、今年にBEV+PHEVが1400万台レベル、新車販売比率の14%に達するのであれば、ワールドワイドで見た場合、イノベータ理論上ではアーリーマジョリティー(市場形成の初期段階にある製品を購入する消費者のグループ)に突入する。つまり、BEVシフトは不可逆的な領域に入るのではないか。日本においてはそこまで至っていないが、昨年はBEV+PHEVの新車販売台数が約9・5万台、21年の約4・4万台の2倍以上に達した。近年は中国のBYDやドイツ勢のBEV輸入も増加しており、今後もさらなる拡大が予想される。EVシフトの波は早かれ遅かれ日本に到達し、普及段階に入るものと予想される。

【特集1】EV・合成燃料時代にどう対応? インフラ事業者の戦略に迫る


EVの普及が進展する一方で、合成燃料の実用化も視野に入ってきた。

充電インフラとSS、それぞれの事業者に脱炭素時代への取り組みを聞いた。

【インタビュー①】丸田 理/CHAdeMO協議会 事務局長

充電インフラ整備は極めて順調 料金適正化や信頼性向上が課題に

―日本のEV市場をどう見ていますか。

丸田 国内市場は昨年、日産が軽EVサクラを発売し、海外勢も中国のBYDや韓国のヒョンデなどが相次いで進出しました。市場の成長は加速するでしょう。

今後、EVは都市部や地方問わず満遍なく普及するとみています。特に地方の場合はサービスステーション(SS)の数が減り、隣町まで車を走らせなければ給油できない地域も存在します。こうした点で、自宅で充電できるEVには圧倒的な優位性があります。サクラの売り上げも好調ですが、軽EVの車種が増えれば普及は一段と進むでしょう。一方、大都市圏ではテスラを筆頭に海外メーカーのEVも普及すると思われます。

海外に比べ日本の充電インフラは信頼性が高い

―ほかにEVの強みは?

丸田 災害時のレジリエンス機能です。2018年の胆振東部地震では北海道電力管内でブラックアウトが発生しましたが、Ⅴ2H(ビークル・トゥ・ホーム)によって数日間の電力を供給できた事例があります。また11年の東日本大震災ではガソリンの供給不安が発生し、SSに長蛇の列ができましたが、日産のリーフや三菱のアイ・ミーブなどのEVが被災地に送られ、復興活動で活躍した実績もあります。

―国内充電インフラの整備の現状を教えてください。

丸田 極めて順調に進んでいます。日本はこれまで、空白地帯が生まれないよう、全国規模で面的な整備を進めてきました。高速道路では数十㎞おきに、一般道ではほぼ全てのカーディーラーが充電器を設置しています。SSよりも充電器を探す方が簡単な地域もあるほどで、諸外国と比べても面的なカバー率や設備の可用性は高いレベルにあります。

―課題はありますか。

丸田 料金体系の適正化が課題の一つです。現在、急速充電の料金体系は充電時間に応じた時間制課金が主流ですが、車や充電器の性能でサービスに格差が生じています。そこで22年に計量法に関する規制緩和が行われ、充電器の計量機能を取引に使えるようになりました。ただ急速充電器の出力は10~150kWとさまざまで、車載電池の性能によっても充電可能な出力が変わります。今後は各事業者が利用実態に応じて時間制課金と従量制課金を併用するなど、柔軟な料金設定が求められています。

―CHAdeMO(チャデモ)協議会としての課題は?

丸田 欧州と北米は法的な規制でCCSという充電規格の採用を義務化している国・地域が多く、チャデモ対応の車種が増えることは考えにくいです。当然、日本メーカーも欧州・北米向けにはCCS対応車種を製造しており、チャデモの欧州や北米への浸透は厳しい状況にあります。

―今後はどのような取り組みを展開しますか。

丸田 アジアを中心にEV市場の拡大を見込む地域では、チャデモの強みを生かせると考えています。例えば、Ⅴ2Hなど双方向の給電機能を製品として実現できている規格は世界でチャデモだけです。電力系統機能が弱い新興国などでは、V2Hが系統の安定に寄与する可能性も秘めており、積極的にアピールします。

国内で最優先に取り組むのは、信頼性の維持です。現在、EVの車種が増えたことで不具合の件数が増えています。中でも、海外メーカーは自国の製造拠点でチャデモの精密なテストを行うことが困難なケースもあります。そこで11月に三重県でマッチングテストセンターの運用を開始し、車両の市場投入前にテストを行える環境を整備します。海外では充電器の故障や稼働率の低さが問題となっていることもあり、信頼性という点で日本がロールモデルとなることは、チャデモの海外普及という点でも重要だと考えています。

まるた・おさむ  1981年東京理科大学工学部卒業、富士通入社。89年東京電力入社。電力制御システム開発に従事。2009年CHAdeMO協議会設立準備会の設置を機に同事務局業務に従事し現在に至る。

【特集1】日本の将来の姿がそこにある!? この目で見た欧州のリアル


「EV先進国」と言われるノルウェーと日本の「半歩先」を行く英国。

そこにはガソリン社会とは全く異なる世界が広がっていた。

小嶌正稔/桃山学院大学経営学部 教授

わが国のEV普及の5年先、15年先を見たくてノルウェーと英国に行ってきた。5年先の姿を英国に、15年先をノルウェーと重ねることにした。わが国のEV新車販売シェアは3・1%(2022年)で、英国で3・2%だったのは19年、ノルウェーでは13年であり想定通りではないが、この2カ国を選んだ。両国ともこれ以降、EV比率は急伸し、22年には英国では22%、ノルウェーでは88%に到達していた。

一方、ストック(道を走っているEV率)は、英国では3・1%、ノルウェーでも全国ベースでは20%程度にとどまっている。ロンドンで緑の印のついたナンバー(EVナンバー)を探したが、ほとんど見かけることはなく、わが国の5年後は現状と変わらないという認識となった。同行した石油販売業者の経営者からは、これならじっくり業態開発を行う時間があるとの安堵というか、余裕が感じられた。


EVであふれるオスロ 日本車の現実を痛感

一方、ノルウェーでは、EVはEで始まるナンバーを付けている。ストックが全国で20%だからEナンバーは目に付く程度かと思いきや、オスロ市内では違った。道路はEナンバーであふれて、探すのはガソリン車、ディーゼル車の方だ。今度はため息まじりの沈黙となった。

現地調査するまでは、CASE(IoT化、自動運転化、シェアリング、電動化)は身近でなかったが、考え方が変わった。日本でも車がワイヤレス(OTA)でつながっていることに便利さを感じていたが、オスロではつながっていない車は不便そのものだ。

ロンドン市内の混雑した道路でも自動運転(運転支援)は難なく機能し、運転に加えて車内の時間の使い方が変わるのを感じた。レベル4の完全自動運転(車)よりも、運転者にあった運転支援(人)が鍵になると思った。

シェアリングは、車所有コストが高額になり、車を持てない若者などが必要とするようになると思っていたが、ロンドンでもオスロでも都市の渋滞は激しく、EVが環境への解決策となるとしても、車の数を減らすことには役に立っていないことを実感した。シェアリングは車の数そのものを減らすことに意義があった。

そしてEVは、新しいモビリティーであることを知らされた。日本メーカーのEVについて、「車はよくできている。足回りも、操作性も抜群で良い車だ。しかし新車を買ったが、乗った瞬間、中古車だった」という評価を聞いた。車のインパネからインフォティメント(情報通信システム+エンターテイメント)まで日本車は遅れに遅れている。

日本の開発者から「このEVは従来のガソリン車と違いがありませんでしょ。とても良い車です」と言われたことがある。走りの技術向上もいいが、EVは市場も買い手の意識も違う。違いがないものでは競争にすらならない。

こじま・まさとし 中央大学商学部卒。共同石油入社。青森公立大学助教授、東洋大学教授などを経て19年から現職。専門は石油流通システム、石油流通産業史など。

【特集1】BEV市場で日本勢の勝算は? 価格+付加価値を意識した支援に


欧米や中国のEVシフトは強固だがアジアなどでは様相が異なり、合成燃料を巡る動きも出ている。

ダイナミックに情勢が動く中、日本勢に勝機はあるのか。経産省自動車課の担当室長に考えを聞いた。

【インタビュー:田邉国治/経済産業省 自動車戦略企画室長】

―各国の情勢、特に欧米や中国の動きをどう捉えますか。

田邉 2022年の世界全体の自動車販売数8000万台弱のうちBEV(バッテリーEV)は1割程度で、普及状況は地域で差があります。米国はインフレ抑制法で強力に国内生産への投資を呼び込もうとしていますが、生産コストの高さも課題です。他方、EUは当初35年に新車販売でゼロエミッション車100%を掲げるも、一部合成燃料の利用を認めました。英国も30年ガソリン車・ディーゼル車販売禁止を、国民負担を考慮して35年に後ろ倒ししました。それでもEVシフトという大勢は揺るがないとの意見が多いです。

―対して日本の対応方針は?

田邉 ハイブリッド車(HV)や燃料電池車(FCV)、燃料のグリーン化など多様な選択肢の追求が基本ですが、その中でBEVについても世界市場でいかに勝ち抜くかが課題です。国産リチウムイオン電池の年間生産能力150GWを目指し、補助金などの支援を拡充してBEVの競争力のコアを強化し、価格面だけでなく付加価値をいかに高めるかを意識しています。またクリーンエネルギー自動車の導入補助、充電インフラやV2H(ビークル・トゥ・ホーム)などの整備支援、さらにGI(グリーンイノベーション)基金やGX(グリーントランスフォーメーション)移行債も活用します。

他方、合成燃料について日本では30年代前半までの商用化を目指す方針です。世界でも、チリでの生産プロジェクト始動など新たな動きが出ています。


アジア市場の情勢もポイント 時間軸で見極めを

―テスラやBYDなどの勢いは目を見張るものがあります。

田邉 ただ、現在BEVトップのテスラでも150万台というオーダーで、かつ今はテクノロジーの変革段階にあり、これから勝負できる余地はあります。BEVで競争力をつけるには、バッテリー生産、資源・部材などの調達、開発に加え、車両の「電費性能」がポイントとなります。また内燃機関とは異なる面として、電池、熱マネジメント、空力抵抗などの技術が必要となります。生産技術についても、ギガキャストなど、新たな挑戦の中で各社がしのぎを削っています。

他方、日本車シェアが高いアジア各国では、新たな産業としてBEVへの期待もありつつ、各国の電源構成などを踏まえればBEVが最適解かという声もあります。足元ではまだHVが人気で、フォードもHV販売を増やす戦略です。情勢を地域ごとに時間軸で見極めることが重要になります。

―エネルギー産業への期待は?

田邉 今回策定した充電インフラ指針では、今の3万口から30年30万口に向け、ユーザーの利便性に加え、充電ビジネス拡充や社会的負担軽減など、新たな社会インフラの構築を目指します。エネルギー産業にはぜひシステム側からだけでなく、EVユーザーの実態に即し、ユーザーに響くような新たな展開をお願いしたい。

たなべ・くにはる 2001年通商産業省入省。内閣官房日本経済再生総合事務局企画調整官、経産省経済産業政策局総務課企画官などを経て、22年7月から現職。

【特集1】日本で苦戦するEVの「優勝劣敗」 モビリティー革命が普及への起爆剤か


〝ハイブリッド大国〟の日本において、EVが主役となる時代は本当に到来するのか―。

欧米や中国でのEV台頭を背景に、コストやインフラなど多様な視点でのEV論争が盛んだ。

そもそもわが国では、1997年にトヨタ自動車が世界初の量産ハイブリッド車(HV)となる初代「プリウス」を発売して以来、日産自動車やホンダなど国内メーカー各社が続々とHV市場に参入し、高級車から軽自動車まで多彩な車種でHV化を展開してきた。日進月歩の技術開発で高性能化・低コスト化が着々と進み、今や新車販売の半分をHVが占める状況に。気付けば、世界でも屈指のHV社会が形成されつつあるのだ。

こうしたHV先駆者としての歴史があるだけに、エンジンを搭載しないBEV(バッテリーEV)を巡っては、「環境性能はもとより、イニシャル・ランニングコスト、リセールバリュー、航続距離、エネルギー供給インフラなどさまざまな面でEVの優位性が発揮されない限り、HVを上回るシェア獲得は現実的に難しい」(マツダ関係者)と見る向きが多い。

しかし、その一方で世界的にはEVシフトが加速。海外のモーターショーに目を向ければ、まさに〝EV花盛り〟の様相だ。実際、輸入車を扱うディーラーからは、「10年後には販売車の主力がEVになるのはほぼ確実」(フォルクスワーゲン代理店関係者)との声も。「日本がエンジン車に固執していると、ガラパゴス化してしまう」(同)という危機感は、決して絵空事ではないのだ。

昨年時点での新車販売におけるEVのシェアを見ると、中国20%、欧州12・1%、米国5・8%に対し、日本は1・4%にとどまっている。とはいえ、日産の軽EV「サクラ」の登場や中国・BYDの上陸などで、「EV時代の幕開け」といった雰囲気も漂い始めた。2035年までに新車販売での電動車比率100%を目標として掲げる日本で、EVは乗用車の主役となり得るのだろうか。

駐車場への充電器整備が課題に


必要な充電器整備の加速 集合住宅への設置に課題も

EV時代の行方を占うに当たって、まずは普及の土台となる充電インフラの現状を見てみよう。

EV充電器には、3~6kWの低出力で長時間をかけて給電する普通充電器と、最大150kWの高出力により短時間で給電可能な急速充電器がある。普通充電器は戸建てや集合住宅の共用駐車場などに、急速充電器は高速道路のSA・PAや道の駅、ディーラーなど主に公共用として設置されている。

政府が10月に策定した充電インフラ指針では設置目標が30年までに「30万口設置」となり、これまでの数値から倍増した。だが、3月時点での設置数は普通充電器が約3万基、急速充電器が約9000基。目標にはまだまだ遠い。遠出の際などに重要となる公共用充電器では、EV・プラグインハイブリッド車(PHEV)1台当たりの基数が欧州を上回っているものの、欧州並みのEV普及率を目指すのであれば、整備を一段と加速させる必要がある。

一方で都市部に多い集合住宅向けの普通充電器の設置は、大きな課題を抱えている。まず新築物件については、「ライオンズマンション」などを手掛ける大京が昨年5月、今後開発する分譲マンションの全駐車区画にEV用の充電コンセントを標準設置すると発表。また東京都では25年から新築マンションへのEV充電器設置を義務化するなど、少しずつ取り組みが進み始めた。 

問題は大多数の既築物件だ。充電器の設置には管理組合の同意が必要で、理事会では全会一致、その後の総会で半数以上の賛同が求められるケースが多く、導入は一筋縄ではいかない。ほかにも機械式駐車場では、設置可能な駐車場が限定されることや設置コストが高額といった問題もある。

都市部でマンション住まいの会社員は、電車通勤で車は週末使いというケースが多い。「駐車場に置かれている時間が圧倒的に長いので、その間に充電できてこそEVのメリットがある。それができない限り、現車のHVから買い替える際の選択肢にはなり得ない」(都心在住のサラリーマン)

「自宅に充電器がなくてもEVを購入するお客さまも少しずつ増え始めた」(前出の代理店関係者)というが、自宅充電がマストと考えている層にEVの購入を訴求していくのは容易ではないだろう。

【中国電力 中川社長】信頼回復に努めるとともに市場リスクを低減・回避し経営体質の強化を図る


コンプライアンスの強化、収支・財務状況の改善など、大きな使命を背負い、6月に社長に就任した。

再エネ、原子力、火力を最適に組み合わせ、エネルギーの脱炭素化を図ると同時に、市場変動リスクに左右されにくい経営体質を目指す。

【インタビュー:中川 賢剛/中国電力社長】

なかがわ・けんごう 1985年東京大学工学部卒、中国電力入社。2017年執行役員・経営企画部門部長(設備・技術)兼原子力強化プロジェクト担当部長、21年常務執行役員・需給・トレーディング部門長などを経て23年6月から現職。

志賀 前社長の退任を受けての就任となりました。課題山積ですが、まずは経営トップとしての抱負をお聞かせください。

中川 公正取引委員会からの排除措置命令などをはじめ、一連の不適切事案の発生について、お客さまや関係者の皆さまに多大なるご心配、ご迷惑をお掛けしたことについて深くお詫び申し上げます。その原因には、競争環境下で行う業務に対する意識改革ができていないことなど、長期的に取り組むべき課題がありますので、私が先頭に立って再発防止策にしっかりと取り組み、信頼回復に全力を挙げていきます。

もう一つ、取り組まなければならない重要課題が、財務体質の改善です。過去に例を見ない火力燃料の価格高騰により多額の燃料調整の期ずれ差損が生じたことで、2022年度には過去最大の最終赤字に陥りました。今期は収支が回復したように見えますが、前期とは逆に、燃料価格が低下したことにより、多額の期ずれ差益が生じることが主な要因です。

低圧の規制料金を含めた料金見直しにより、ようやく収支・財務状況の改善に向けたスタートラインに立つことができたとはいえ、島根原子力発電所2、3号機はいまだ稼働しておらず、燃料・電力市場価格の変動による収支悪化リスクを抱えている状況に変わりはありません。電源事業本部や需給・トレーディング部門での経験を生かしながら、原子力を含む自社電源の安定運転によるバランスの取れた電源構成を構築するとともに、市場リスク管理を徹底しつつ、デリバティブなどの金融手法を活用することで、市場の変動リスクに左右されにくい経営体質の強化に努め、安定的な収支・財務基盤の構築を目指します。


内部統制強化委設置 信頼の維持を目指す

志賀 9月28日には、公取委に対し処分の取り消しを求めて東京地裁に提訴しました。

中川 事実認定と法解釈において、当社と公取委との間で一部に見解の相違があることから、公取委が独占禁止法違反であると認定した各命令の全部の取り消しを求める訴訟を提起したものです。当社としては、独禁法への抵触を疑われてもやむを得ない事案を起こしたことへの深い反省のもと、再発防止策を着実に実施しつつ、公正な判断を求めていきます。

志賀 内部統制強化委員会を立ち上げた狙いは。

中川 これまでも再発防止に取り組んでいましたが、経済産業大臣からの業務改善命令を受け、外部のアドバイスをいただきながら客観性の高い取り組みにつなげていくために設置しました。信頼回復を果たし、それを維持・継続することはもちろんのこと、電力システム改革の変遷に合わせて内部統制の在り方も変わっていきますので、その変化に合わせ改革し続けます。

【マーケット情報/10月27日】原油反落、需要鈍化への警戒感強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油市場はすべての指標が前週から下落。世界経済の先行き不透明感から原油需要が鈍るとの見方が強まった。

先週発表となった米国第3四半期GDP成長率は市場の予想を上回る4.9%となり、2021年後期以来の高い水準を記録。この結果から、インフレ抑制のため同国で長期金利をさらに上昇させる可能性があるとの懸念が台頭している。また、中国経済が鈍化していることも需要後退の見方が強まっている一因だ。

国際エネルギー機関(IEA)は先週、2030年の原油需要見通しを下方修正。原油需要は少なくとも2050年まで徐々に減少すると予想。

さらに、先週米エネルギー省(EIA)から発表された週間原油在庫統計は、輸入量の増加と出荷の減少から、前週比140万バレル増を示し、米国原油の指標となるWTI先物価格の下方圧力となった。

一方、中東地域では、米国がシリア東部で空爆を決行。情勢悪化による中東産原油の供給不安が強まるも、価格の支えには至らなかった。


【10月27日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=85.54ドル(前週比3.21ドル安)、ブレント先物(ICE)=90.48ドル(前週比1.68ドル安)、オマーン先物(DME)=90.33ドル(前週比3.13ドル安)、ドバイ現物(Argus)=90.17ドル(前週比3.77ドル安)

【コラム/10月30日】原子力の日に考える~原点は大量エネ供給期待、今も変わらず


飯倉 穣/エコノミスト

1,平和利用演説が淵源

60年目の「原子力の日」を迎えた。アイゼンハワー大統領の国連原子力平和利用演説から70年、そして原子力予算計上から69年である。 

今年もメッセージがあろう。「本日、10月26日は原子力の日です」。そして解説「原子力の日は、1963年(昭和38年)、日本原子力研究所の動力試験炉(JPDR、出力12,500Kw)で、日本が初めて原子力による発電に成功した日で、また56年(昭和31年)に日本が国際原子力機関への加盟を決めた日である」と(日本原子力研究開発機構)。

今日も原子力利用は注目度高く、政治・経済・社会且つ報道手合いの課題がつきない。「核ごみ調査 根強い反発 寿都町議選反対派の得票49%」(朝日23年10月5日)、「社説 原発支援強化 経済性があったはずでは」(朝日同8月28日)、「原発処理水 放出を開始「廃炉」目標まで30年 デブリなど難題」(日経同8月25日)、「最古の高浜1号機再稼働 原発「長期運転」幕開け」(日経同8月17日)等々である。

内容は、経年使用の原発再稼働の安全性、福島第一原発の廃炉、放射性廃棄物の中間貯蔵・最終処分、原発の経済性等である。原子力批判の声も続く一方、内外情勢対応で原子力期待も強い。何故か。敗戦後経済推移から、エネルギー源としての原子力開発を考える。


2,何故原子力開発に熱中したか

原子力開発の背景に、国内経済・エネルギー資源事情そして国民生活の推移がある。

第一に敗戦後エネ不足体験である。1940年代後半(敗戦後)の経済である。国民はタケノコ生活、「家計は赤字 貯金引き出し、財産を売る、人から金をかりるかもらう」。家庭用燃料は、戦前比(昭和5~11年=100)、木炭65、薪66、練炭豆43である。鉱工業部門の生産は、戦前比(昭和10~12年同)終戦直後1割、21年9月3割の後,22年4月3割弱で停滞。生産不振原因は、設備の不足、労働力の不足でなく、第一に原料及び石炭、電力の不足であった(「経済実相報告書(第一次経済白書)」47年7月)。

故に傾斜生産(46年12月以降)となる。敗戦後の飢餓を乗り越え、ドッジライン(49年3月:縮小均衡調整)不況後、朝鮮戦争特需好況(50~52年:ガチャマン景気)で一息、サンフランシスコ条約で独立(52年4月発効)。そして53年停戦不況、54年不況(吉田デフレ予算で経済均衡努力)を乗り越えた。

日本経済は、復興一段落ながら、経済拡大願望の下で国内エネ事情は先行き見通し難であった。そこにアイゼンハウアー大統領の国連演説(原子力の平和利用提唱)があった(53年12月8日)。核分裂性物質の共同管理等に加え、核分裂性物質の最も効果的な平和的利用の探求を提唱した。独立後の日本に原子力開発が現実となった。


3,国内エネ事情、将来展望描けず

55年当時の我国のエネ事情は、切実だった。主力の石炭生産の頭打ち、水力開発の立地難に直面する。経済に必要なエネ需給で各国同様、第二の産業革命を招来しそうな原子力の平和利用に期待が集まった。当時電力で、水力発電、火力発電、地熱発電、風力発電、潮力発電、原子力発電の検討があった。原子力は、昨日までの夢扱いから正夢となる。

原子力平和利用国際会議(55年)で、日本代表は、政府試算を紹介した。わが国のエネルギー需要は、石炭換算75年2億トンで5000万トン不足、2000年4億トンと推定すれば、国内炭、包蔵水力の限界、消費効率の向上、新エネの獲得だけで間に合わず、原子力の開発を期待したいと。エネ不足を補う有力候補であった(「エネルギー読本」動力新聞社55年12月参照)。

次代を創る学識者/伊藤弘昭・富山大学 学術研究部工学系教授


瞬間に大電力を生み出すパルス電力を研究し、産業分野での活用拡大を目指す。

競争が加速するEVへの無線給電技術での活用に向け、研鑽を積んでいる。

工学系の中でも、電力インフラに必須である強電系(高電圧)の専門家は減少傾向にある。この分野で、特に大電力を瞬間的に発生させるパルス電力の研究を続けるのが、富山大学の伊藤弘昭教授。100V程度の電圧でコンデンサーなどにエネルギーをため、短時間で放出すると、マイクロ~ナノ秒単位では日本の総発電電力量(数千億kW時)程度もの高出力エネルギーを生み出せる技術だ。

パルス電力の新たな用途として、走行中EVへの無接触給電での活用を目指す。EV社会につながるホットな分野であり、電気工学研究の発展に向けて電気事業連合会が運営する「パワーアカデミー」の研究助成に一時採択されていた。伊藤氏は「パルス電力技術の産業利用の研究は十分ではなく、さらなる進展が期待できる。根本的には強電系の技術者が増えることが重要であり、そこにつながるような成果を示したい」と強調する。

無線給電は、給電装置側のコイルから車体側のコイルへと電力を送る仕組みだ。ここで今主流になりつつあるのが磁気共鳴方式。音さのように、同じ周波数で振動する二つの物体を近づけ、片方を振動させるともう一方も勝手に振動する現象を指し、両者の位置が多少ずれても充電できる点が長所だ。

EV給電技術に風穴を 傍流での成果目指す

他方、伊藤氏の研究する手法は電磁誘導で、二つのコイルを近づけて一方に電流を流すと磁束が発生。これを媒介に、もう片側にも起電力が生まれる現象だ。こちらでは二つのコイル位置をぴたり一致させる必要があるが、「パルス電力なら両者がすれ違う一瞬にエネルギーを送れるのではないか」という狙いだ。逆に磁気共鳴では大電力を送ることはできない。

模擬実験では、パルス電力を用いれば横の位置ずれは大きな問題ではないことを確認。「これまでに、時速100㎞程度なら条件が合えば効率良くエネルギーを転送できることを示し、原理は確立できた」(伊藤氏)。今後は車体を用いた実験を目指し、高さのずれやコスト面などの課題の解消を図る。乗用車以外に、ディーゼル車を用いる鉄道の電化などで研究成果を生かせる余地があると考える。

社会のためになる功績を残したいとの思いを抱き、大学では電気電子工学を専攻。卒業研究で自作したプラズマ加速器に愛着を持ち、高エネルギー物理の道へ。指導教授は、超高温プラズマを対象とする核融合を研究するなど、エネルギー産業分野との縁もあった。自身が大学教員となり、富山大に移ってからは研究テーマが少し変わり、パルス電力技術を用いたプラズマ応用を専門とするように。さまざまな巡り合わせで今の研究につながっていると振り返る。

「まずは『EV給電に電磁誘導』という風穴を開けたい。また、現在ではベンチャーも立ち上がりつつある核融合への興味もある」。次世代に欠かせない研究分野に、もう少し日が当たることを願い、引き続き研究にまい進する考えだ。

いとう・ひろあき 1998年3月、宇都宮大学大学院工学研究科博士後期課程物性工学修了。博士(工学)。同大学大学院工学研究科助手、富山大学大学院理工学研究部助手、同助教、同准教授、同教授を経て、2019年10月から現職。

各社がテスラ規格を採用 NACSの課題とは


【どうするEV】箱守知己/CHAdeMO協議会 広報部長

フォードとゼネラルモーターズ(GM)に続き、メルセデス・ベンツと日産自動車が2025年からテスラが提唱する充電規格・北米標準充電規格(NACS)の導入を決めた。メディアで盛んに伝えられたため、覚えている方も多いだろう。

充電規格で勝った、負けたと何とも騒々しい。たしかに自動車メーカー(OEM)や充電器メーカーにとっては勝負だろうが、規格の策定と研究を行うわれわれのような団体は、そうした喧騒に違和感を覚える。なぜなら、充電規格の良し悪しは、結局のところユーザーの要望とOEMの戦略の組み合わせで決まるからだ。

テスラ規格の採用で利便性は高まるのか

今回、北米の急速充電規格CCS1がOEMに見放された大きな原因は、その稼働率の低さ(=故障率の高さ)にある。実際に6月、同僚がカリフォルニア州でいくつもの充電ポイントを回り、CCS1の実情を確認してきた。体験談はこんな感じだ。

充電ガンが物理的に破損していたり、画面が壊れていて操作できなかったり、カードで認証ができなかったり……と、まぁ散々だった。画面は操作できないが、アプリからは充電できたという混乱もあった―。

言うまでもないが、電気自動車(EV)の普及にとって、確実に充電できるインフラ設備の維持は必須。CCS1は稼働率の低さが命取りとなった。

さて、ご存じのようにNACSは、テスラの独自規格を基に作られている。だが、アメリカの民間規格である自動車技術者協会(SAE)が6月、NACSを標準化すると声明を出しているとはいえ、国際電気標準会議(IEC)や米国電気電子学会(IEEE)といった国際規格を満たしていないのだ。つまり、NACSはまだ世界から認められておらず、これから解決すべき点があることを意味する。

果たして、NACSの採用でバラ色の未来が訪れるのだろうか。結論から言えば、テスラがこれまで提供していたようなユーザー体験は得られない可能性がある。

特に多くの人がNACSで手に入ると夢見ているプラグ・アンド・チャージ(PnC、認証操作をせず、充電ケーブルを挿すだけで充電が可能)について言えば、テスラの場合はこれまで「充電サービス会社(CPO)×充電器×EV」の3要素が自社内で完結していた。これは数式にすれば「1×1×1」で、通信にかかる負荷も軽く済み、システムの動作検証も比較的容易で、結果的に迅速な充電が可能だったのだ。

ところが、フォード、GM、リビアン、ボルボなど多種多様のEVがNACS充電器につながるとなれば、3要素の数式は「n×n×n」に変わる。しかも、電力線通信(PLC)での通信だから、安定かつ迅速にできるか疑問が残る。PnCが「こんなに待たされるの?」と失望されないか心配だ。今後はテスラの技術力が試されることになるだろう。

はこもり・ともみ NHK、東京都、国立大学に勤務後、2022年4月から現職。主にアジア地区の広報を担当。「EVsmart」ブログチーム所属。EVオーナーズクラブ副代表を務め、EVとの関わりは12年目に。

【源馬 謙太郎 衆議院議員 立憲民主党 国際局長】 「現実的なエネルギー政策を」


げんま・けんたろう 1972年生まれ。静岡県浜松市出身。96年成蹊大学卒業。98年米センターカレッジ卒業。2000年米アメリカン大学修士号取得。01年NGO日本紛争予防センター(現・REALs)職員、05年松下政経塾入塾を経て、17年の衆議院総選挙で初当選(比例東海ブロック)。21年小選挙区で当選(静岡8区)。当選2回。

カンボジアでの紛争解決活動、松下政経塾を経て政界へ進出した。

立憲民主党のイメージ刷新へ、若手・中堅議員と連携。マクロな視点での政治を訴える。

実家は静岡県内で「源馬の塩辛」として愛される老舗塩辛屋。浜松市で生まれ育ち、成蹊大学法学部を卒業。当時は国連などの国際機関で働きたい思いがあった。アメリカ留学で国際関係学を専攻すると、国際平和と紛争解決学に関心を持つようになり、帰国後は紛争予防に関わるNGO、日本紛争予防センター(現・REALs)に入社した。外務省からの外部委託専門家としてカンボジアに赴き、小型武器回収プロジェクト立ち上げなど平和活動に尽力してきた。

「1万2000丁を超える武器を回収し、活動に自信を持っていた。しかし武器はそれ以上にカンボジアに入ってきた。世の中の仕組みを変えなければ、平和な社会は実現できない」。世の中の仕組みを整える政治家を志すと、松下政経塾に入塾。静岡県議を経て国政に打って出た。静岡8区は文部科学相、自民党総務会長などを歴任した塩谷立議員が、長年にわたり議席を守っていた。12年の衆院選立候補から有権者一人ひとりに声をかけ続け、少しずつ支持を広げると、17年には比例東海ブロックで初当選。21年には小選挙区で勝利を果たした。「私の世代は企業での働きに加え、子育てや親の介護を抱えるど真ん中の世代。同じ課題を持った有権者から思いを託してもらった」と自身への期待を分析。日本の中核を担い、社会のリーダーとして働く同世代の声を届けたいと話す。

国会議員としては予算委員会に所属。党首討論と並んで与野党における国会論戦の花形だが、批判によるパフォーマンスではなく、政策による論戦が重要だと語る。これまでの海外経験を生かし、政府外交の考え方も野党として追求。NGO活動を行ってきたカンボジアを例に挙げ、公正な選挙が行われないカンボジア与党独裁政権に対し、日本政府がODAによる多額の支援を続けていると苦言を呈した。日本外交について「はっきりしたスタンスを示さず、間違ったメッセージを与えかねない場面がある」と警鐘を鳴らす。

洋上風力公募の入札疑惑を追及 政治との癒着を痛烈に批判

エネルギーについては「自前のエネルギーを確保すること」「環境にとって持続可能なエネルギーであること」の2点を重視する。エネルギー確保の観点では、多様な供給先の確保と安全保障の重要性を指摘する。22年には立憲民主党国際局長としてドイツ大使館と面談。欧州のエネルギー政策について意見交換を交わしてきた。「再生可能エネルギーの活用を優先するドイツ『緑の党』でも、原子力発電所の再稼働を認めるなど、現実的なエネルギー政策を行っている」。ウクライナ情勢によるエネルギー危機を前に、環境政策を重視するドイツが、ロシアからのエネルギー依存脱却に原発再稼働という現実的な選択肢を取った点を評価。エネルギーを一国に依存せず、バランス良く確保する政策は日本も見習うべきだと話す。

サステナブルの観点では、浜松市が日本全国でもトップクラスの日照時間を誇るため、太陽光発電に注目、期待を寄せている。また、車社会である浜松市出身として、日本が技術的優位性を持つハイブリッド車(HEV)、合成燃料の活用推進を呼びかける。そのほか、2月の予算委員会では、洋上風力発電の入札制度に関する疑惑を追及。衆議院議員の秋本真利容疑者による入札の評価基準見直しまでの流れを問いただした。洋上風力事業は自国産エネルギーの確保につながるとして、企業参入を推進する考えで、一連の騒動については「政治家が介入し、ルールを勝手にねじ曲げることはあってはならない」と痛烈に論じた。今後は洋上風力で利益を得る国民、消費者がどう受け止めるかが大事だとして、マイナスのイメージを払しょくするために、政府による丁寧な説明が重要になると話す。

座右の銘は「一燈照隅、万燈照国」。天台宗の最澄が説いた言葉として知られており、隅を照らす小さな光でも、集まれば国全体を照らすことができるという意味を持つ。その座右の銘を具現化するのが、自身が事務局長を務める立憲民主党内の派閥「直諫の会」(会長・重徳和彦衆議院議員)だ。

党内の若手・中堅議員が集結し、将来世代のため医療制度改革、年金制度改革などの政策を提言する。先日、メンバー15人による共著「どうする、野党!?」の出版を発表し、批判ばかりと言われがちな立憲民主党イメージの刷新を訴えた。

「現在の立憲民主党は、旧民主党系列ではない4期生以下の議員が全体の6割を占める。政策で与党と対決できるよう、野党第一党として立て直しを図りたい」。保守・リベラル、改憲・護憲と言った色分けにとらわれず、マクロな視点で政治を行うことが目標だ。確かな実務で党の未来を担う政治家として、これからも愚直に政策を訴えていく。