石破新内閣はエネ安保を中核に 政策の策定に必要な高い視座


【論説室の窓】井伊重之/産経新聞 客員論説委員

原子力の最大活用に前向きな姿勢を強調する新内閣の経産相。

緊迫化する国際情勢も踏まえ、安定電源を確保すべきだ。

石破茂内閣で経済産業相に就いた武藤容治氏は、今回が初入閣だが、これまでに経産副大臣や自民党の経済産業部会長、総合エネルギー戦略調査会事務局長を経験しており、エネルギー政策に通じている。家業である建材商社の経営を率いた経験もあって中小企業政策にも明るい。

初入閣した大臣の場合、就任記者会見の直前、役所の事務方が作成した想定問答を使いながら、主要政策に関するレクチャーを受ける。ただ、武藤氏の場合は「原発政策を含めてレクする必要がないほど、経産省の政策を深く理解されていた」(同省幹部)という。

その武藤氏は、就任会見で現在策定中の次期エネルギー基本計画について「原子力の最大利用は、安全という前提の中で進めていくのは当然だ」と指摘。その上で「再生可能エネルギーを最大限使いながら、原子力も安全に最大限再稼働し、さらに次世代革新炉も検討する」と述べた。これまでのエネ基で「可能な限り原発依存度を低減する」としていた原発の位置付けを転換する考えを強調した。

天然ガスの調達も重要な課題だ

東京電力の柏崎刈羽原発についても「地元に寄り添い、結論を出していくのが石破政権での仕事になる」と語った。同原発を巡っては、岸田前首相は自身が退陣する直前の9月、原子力関係閣僚会議を開き、地元自治体が求める避難路整備などを関係省庁に指示。これを踏まえて武藤氏は、新潟県を含めた地元自治体から再稼働に向けた同意を取り付けることが、石破政権の課題であるとの認識を示した。

石破首相は岸田政権の経済政策を踏襲する方針を掲げており、原子力政策も同じだ。岸田氏はGX(グリーントランスフォーメーション)実行会議を主導し、脱炭素電源として再エネと並んで原発を最大限活用する方針を打ち出してきた。とくにデジタル化の進展に合わせてデータセンターや半導体工場の増設が相次ぐ中で、拡大が見込まれる電力需要に対応する必要があるとの立場を示してきた。石破政権が原発活用の方針を継続するのは当然だろう。


首相官邸の体制が不安材料 GX会議の実行力も未知数

しかし、不安材料は残る。それは石破政権を支える首相官邸の体制だ。岸田前政権では嶋田隆元経産次官が筆頭の政務秘書官として、原発政策に関する政府の実質的な司令塔として機能してきた。岸田氏が主催するGX実行会議を支えてきたのも嶋田氏だった。出身母体の経産省と連携しながら、GX実行会議で原発を最大限活用する方針を示すなど、実務を取り仕切ってきた。新たに発足した石破政権の下で今後、そのGX実行会議がどのように位置付けられるかは不明である。

石破氏は、筆頭の政務秘書官に元防衛審議官の槌道明宏氏を抜てきした。槌道氏は石破氏が防衛相時代に秘書官を務めた経験があり、旧知の間柄だ。もう一人の政務秘書官には、石破事務所で20年以上も秘書を務める女性の吉村麻央氏を起用した。さらに6人の事務秘書官には外務、財務、経産などの各省から一人ずつ派遣されたが、この事務秘書官にも防衛省出身者を一人充てた。防衛省出身の秘書官が二人体制で官邸に配置されるのは極めて異例だ。

第2次安倍晋三政権では経産省出身の今井尚哉氏が長年、政務秘書を務めて安倍氏を支えてきた。安倍政権や岸田政権に比べ、石破政権では経産省の存在感が大きく低下したのは間違いない。そうした中で国民の間に不安感が残る原発を巡り、明確な活用路線をどこまで継続できるかを注目する必要がある。

石破政権に何より求めたいのは、エネルギー安全保障の確立である。ロシアによるウクライナ侵攻や中東情勢のさらなる緊迫化などで、国際的にエネルギー安全保障の重要性は高まるばかりだ。資源輸入国の日本にとってエネルギーの安定調達が実現できなければ、電気・ガス料金の抑制や温室効果ガスの排出削減も達成できない。防衛政策に理解がある石破氏には、エネルギー安全保障でも明確なビジョンを打ち出してほしい。


資源開発の投資促進に課題 電力自由化の見直し不可欠

これまでの日本のエネルギー政策は、温室効果ガスの排出削減や電力自由化にばかり重点が置かれ、エネルギー安全保障に対する視座が欠けていた。岸田政権は脱炭素電源としての原発の優位性に注目したが、石破政権はその視点をさらに高め、エネルギー安全保障をエネルギー政策の基本に据える必要がある。

その点で新内閣の発足直後に広島県で開催された「LNG(液化天然ガス)産消会議」は、大きな成果を挙げた。会議に参加したイタリアとの間で、LNGの安定確保について覚え書きを交わしたからだ。同国の炭化水素公社(ENI)は、カタールと新規のLNG契約を結ぶなど関係は親密だ。我が国ではJERAが2021年にカタールとの長期契約を更新せず、同国との関係が冷え込んでいるが、ENIを通じて新たなLNG調達の道が開かれた。

日本の場合、海外からの資源調達は豪州に大きく依存している。日本に輸入される発電用石炭の7割、LNGも4割を豪州から輸入している。日本もJOGMEC(エネルギー・金属鉱物資源機構)を通じて海外鉱山の開発投資ができる仕組みを導入したが、実際に日本向け輸入を担う民間の電力・ガス会社との関係を緊密にすることで実効性を担保する必要がある。

エネルギー安全保障の精度を高めるには、電力自由化の見直しも不可欠だ。国内の電源不足に対応するための予備的電源の最初の入札は不調に終わった。政府は電力自由化の枠組みの中で電源の安定確保を目指す構えだが、自由化と安定電源の確保は半ば相反する。自由化の進展で大手電力は、運転コストがかかる老朽発電所を相次いで廃止しており、電源の新規投資には消極的だ。新たなエネ基では原発の新設解禁も検討されているが、安定電源の確保は自由化とは異なる枠組みで用意すべきだ。

【覆面ホンネ座談会】石破政権を徹底分析 どうなる⁉ エネルギー政策


テーマ:衆院選と石破政権

自民党総裁選と立憲民主党代表選、さらには首相就任後史上最短での解散総選挙など、この秋は政局に嵐が吹き荒れている。エネルギー政策に与える影響と自民党・石破茂政権の行方を占った。

〈出席者〉 A政治家 B政治部記者 C経済部記者 Dジャーナリスト

─本号発行時には衆議院選挙が終わっている。読者には結果とともに楽しんでもらうとして、まずは注目選挙区から聞こう。

A 最大の注目は福井2区じゃないか。旧安倍派の幹部で非公認となった高木毅さんに、高市早苗さんの夫で8回の当選を誇る山本拓さんが挑む。山本さんは前回2021年の衆院選で比例単独だったにもかかわらず、21位という順位で登載され次点で落選した。今回は野党も含めて大混戦で、全国的に注目されている。福井県の原子力施設は全て福井2区に立地しているし、エネルギー業界とも関係の深かった保守の両者の対決を複雑な気持ちで見ている人も多いだろう。

B 経済産業相経験者では、兵庫9区の西村康稔さんと東京24区の萩生田光一さんが不記載問題で非公認。知名度が高く、選挙特番では大々的に取り上げられるだろうね。

総裁選後の政局に注目が集まる

A 経産相経験者の商工族といえば、神奈川20区の甘利明さんに触れないわけにはいかない。前回は現職幹事長ながら小選挙区で敗れて復活当選。自民党史上、最も任期が短い幹事長となってしまった。自民党の比例代表登載には「73歳定年制」という党則が適用されるので、今回は重複立候補できない。商工族のボスで霞が関としても大注目だろう。

C 経産省幹部いわく「甘利さんは政策好きの人」で、成長戦略、通商問題など経産省との関係は深かった。額賀福志郎さんも衆議院議長になり、経産相を務めた茨城4区の梶山弘志さんの存在感がより高まっていくだろう。

D 柏崎刈羽原発のお膝元、新潟4区からも目が離せない。自民党の公認候補は鷲尾英一郎さんだが、同じく自民党の元新潟県知事、泉田裕彦さんが立候補。野党で受けて立つのは前知事で立憲民主党の米山隆一さんだ。妻でタレントの室井佑月さんとの二人三脚の活動で、地元でよく浸透しているとのこと。自民党といえども泉田さんは再稼働に消極的だし、米山さんは住民投票を求めている。その中で再稼働推進の鷲尾さんはどうなるか。

B 新潟2区では原子力推進の有力議員である細田健一さんが非公認となった。細田さんは前回まで柏崎市と刈羽村を含む旧2区で戦っていたが、区割り変更で新2区での出馬となり柏崎刈羽地域を離れた。相手は立憲民主党の菊田真紀子さんで厳しい戦いが予想される。愛知7区の鈴木淳司さんは自民党の原子力規制に関する特別委員会の会長として、規制の効率化などを求めるなど議論をリードしてきた。だが不記載問題で総務相を辞任することに。前回は小選挙区で通っていて、その再現が期待されている。


自民党内大荒れか 「大連立」の可能性も

C 環境族は引退などが続き、存在感のある議員が少ない。そんな中で丸川珠代さんは参議院からの鞍替えを目指して東京7区から出馬する。不記載議員なので小選挙区の一発勝負だが、相手は日本維新の会の小野泰輔さんと立民の松尾明弘さん。もともと不記載が明るみになる前から激戦が予想されていた。

B 公認問題でいえば、不記載額が大きかったにもかかわらず「政治倫理審査会に出席した」という理由で福岡11区の武田良太さんと千葉3区の松野博一さんは非公認を免れた。でも政倫審に出席したからというのは建前で、武田さんは総裁選で石破さんを支援していたし、松野さんは安倍派でも岸田文雄さんに近い。非公認は「安倍派潰し」と見られても仕方がない。

A となれば自民党はどの程度の議席減に抑えられるかにもよるが、総選挙後は荒れるだろうね。無所属で西村さんや萩生田さん、和歌山2区で離党した世耕弘成さんが当選し、選挙に弱い旧安倍派議員が比例復活できずに落選したとする。「仲間」を失った彼らがどれだけ数の力を誇れるか分からないが、火種はくすぶり続ける。早くも週刊誌は旧安倍派や麻生派、旧茂木派が高市さんを立てて「石破降ろし」に走るなんて書いている。茂木敏光さんと高市さんは当選同期の〝不仲〟で有名だから簡単にはいかないだろうが。

B そうなれば石破さんが立民代表の野田佳彦さんと組んで「大連立」なんてことも。それを呑めない自民党内の右派と立民内の左派は党を割る。そもそも第二次安倍晋三政権以降に勢力を膨らませた「安倍チルドレン」と旧岸田派などの伝統的な議員は、理念や政治家としての作られ方が違う。そうした違いを包含しながら政権政党を維持してきた自民党内で「恨みと妬み」が勝つのか、総選挙後の政局はどう動くか。

AZEC首脳会合で原則再確認 実質ゼロへ「多様な道筋」


日本政府が呼び掛け発足したアジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)の第2回首脳会合がラオスで10月11日に開かれ、「今後10年のためのアクションプラン」と題した共同声明に合意した。石破茂首相も参加し、気候変動対応・経済成長・エネルギー安全保障の同時実現を目指す「トリプル・ブレークスルー」、「一つの目標、多様な道筋」といった原則を再確認。「1・5℃」の必要性を明記しつつも、欧州主導の議論と一線を画し、アジアの実情を考慮した道筋を示した。

AZEC会合は石破首相(右から3番目)の外交デビューの場ともなった(提供:朝日新聞社)

AZECにはミャンマーを除くASEAN(東南アジア諸国連合)加盟国や日本、豪州の11カ国が参加。共同声明では、各国の政策策定などを支援するため、今夏設立したアジア・ゼロエミッションセンターを通じて協力する方針を提示。関連技術としては、再生可能エネルギーや送電網、省エネ、ゼロエミッション火力などさまざまな分野がある。また、天然ガスやLNGが移行燃料として重要な役割を果たすことや、原子力エネルギーの安全・平和的利用に関する協力の可能性にも触れた。

東京大学公共政策大学院の有馬純特任教授は、「AZECは、その原則を日本一国ではなくアジアの声として発信することで、現実に即したエネルギー転換の重要なプラットフォームとなる可能性がある。岸田文雄前首相の発案を踏襲し、この原則を首脳レベルで再確認できたことが大きかった」と指摘。さらに、「第1回と異なりASEAN首脳会合とセットで開催し、位置付けがランクアップしたことも意味がある」と解説する。

稼働に対するメリットが必要 地元に「非化石価値」の還元を


【原子力発電所の再稼働】

インタビュー:本部和彦/東京大学公共政策大学院TECUSEプロジェクトアドバイザー

再稼働を巡り、国や需要地が立地自治体に寄り添う姿勢が求められている。

原子力政策に詳しい本部和彦氏は、交付金など従来の仕組みにとらわれない利益還元策を提案する。

─わが国の原子力発電の必要性についてどう考えますか。

本部 急増が見込まれる電力需要への対応、パリ協定が求める国が決定する貢献(NDC)で示した温室効果ガス(GHG)削減目標達成のために、原子力発電所の再稼働は必要不可欠です。また再生可能エネルギーは開発が太陽光発電に集中したことで、全国で出力抑制しなければならない状況となっています。風力発電も電力需要が高い夏場には利用率が低下するなど課題があり、GHGを排出しない大型のベースロード電源としては当分の間、原子力しか選択肢がありません。

再稼働の経済的メリットとは


原子力の価値を再考 企業誘致にもつながる

─政府は8月、柏崎刈羽原子力発電所(KK)再稼働に焦点を絞った原子力閣僚会議を開催しました。再稼働に向けて避難道路の国費での整備といった方針を確認しています。

本部 現在も電源立地地域対策交付金が新潟県に交付され、KKが立地する柏崎市と刈羽村以外も恩恵を受けています。また柏崎市と刈羽村、周辺自治体には電力契約に対する給付金が存在します。今後は女川原子力発電所で作られた電気が新潟県に流れてくるでしょう。しかし小売りが自由化されたとはいえ、

新潟県は東北電力の管内で、「KKが再稼働しても電気は首都圏で使われて地元にはメリットがない」という声が根強いのも事実です。これまでは交付金や給付金など税金で地元の負担に「お返し」をしてきましたが、これは立地に対してのお礼的な意味合いがありました。しかし、これからは原子力発電所の「稼働」に対して、新たなメリットを与える必要があります。

─何か手立てはありますか。

本部 原子力が生み出す価値とは何でしょうか。一つは私たちの生活に欠かせない電気を作ることです。電気は需要地に運ばれて初めて価値を持ちます。

もう一つの価値は非化石価値を生み出すことです。いま非化石価値の取引は固定価格買取(FIT)制度の電源を対象とした「再エネ価値取引市場」と、原子力を含む非FIT電源が対象の「高度化法義務達成市場」の二つに分かれています。現状では、KKの非化石価値は東京電力の供給区域に広く薄く配分されることになりますが、非FIT非化石価値を立地自治体に還元する仕組みを作ってはどうでしょう。交付金や給付金は限りある税金の振り分けで財源的な制約があります。しかし発電事業者の保有する非FIT非化石価値であれば、そうした制約はありません。

例えば新潟県に立地する企業が、非化石価値を優先的に購入できるようにする。企業はGHG排出規制への対応が容易になり、データセンター(DC)などを手掛ける電力多消費企業の進出も期待できます。

【イニシャルニュース 】法改正が起爆剤? LP業界の合従連衡


法改正が起爆剤? LP業界の合従連衡

「コンサルタント会社に持ち込まれるLPガスのM&A案件が急激に増えていると聞く。今後、相当なスピードで業界再編が進んでいくのではないか」

こう語るのは、エネルギー業界通のK氏だ。かつて3万を超える販売事業者が存在していたLPガス。現在は1万6000社程度と半減したものの、今も全国津々浦々、都市ガスが行き届かない地域のエネルギー供給を担っている。その業界にM&Aの嵐が吹き荒れる背景には、過疎化や他エネルギーとの競争などで需要が減り続けていることもあるが、「液石法改正が起爆剤になっている」(業界関係者D氏)との見方も。

中小LPガス業者の行方は?

資源エネルギー庁は今年4月、LPガス業界の不透明な商取引の是正に向け液化石油ガス法を改正した。第一弾として、7月にはガスの契約を獲得するための過大な営業行為が制限された。問題は来年4月に施行を控えた、第二弾の「三部料金制の徹底」だ。

三部料金制には、ガスの消費とは関係ない設備の費用が料金に上乗せされている現状を是正する目的がある。だが、システムの変更やマニュアル作りなど大掛かりな対応に迫られるため、「特に零細事業者にとっては困難。廃業の引き金になってもおかしくない」(業界紙記者A氏)。これを機に、業界再編が加速しそうな情勢となっている。

目下、LPガスの大規模M&Aの案件として業界関係者が注視するのが、M銀行系の投資専門子会社Sが全株式を取得したR社の行方だ。「Sは1年以上R株を保有する気はない。新たな買い手を探しているはずだ」と前出のK氏。事業規模を考慮すると、業界最大手の一角を担うN社が最有力といったところか。


津波想定が25mに どうする浜岡の防潮堤

中部電力浜岡原発の防潮壁が、さらにかさ上げを迫られることになりそうだ。原子力規制委員会は10月11日の審査会合で、南海トラフ地震で巨大津波と海底地滑りが重なった場合、浜岡に到達する津波の高さが最大で25・2mに達するとの中電の評価を概ね了承した。現在の防潮壁の高さは22mのため、中電では壁のかさ上げも含めて対応を検討するとしている。

2011年の東日本大震災以降、中電は浜岡の防潮壁について当初は標高18mで工事に着手。しかし国の有識者会議が想定津波を最大19mとしたことを受け、22mに引き上げ15年12月に完成した。ただ、想定津波はその後も21・1m→22・5m→22・7m→25・2mと段階的に引き上げられてきた格好だ。

中電はさらなる追加工事を行うのか。専門家K氏は「既存の防潮堤(20mの鉄筋コンクリートの上に、さらに2mの鋼板を載せている)で、さらに3m以上のかさ上げは、構造的にも強度的にもさすがに無理があるのでは」と指摘する。

「既存の防潮堤の前面に津波の高さ、津波力を弱める構造物を造る方法も考えられるが、相当な費用が必要になり、新たに造った構造物が既存の防潮堤に悪さをしないなどの実証試験が必要となる。最も現実的な手段は、現行の審査基準である『ドライサイト』をやめることだ。敷地内に津波が流入しても、重要施設に津波が侵入しない構造とすることで対応するべきだ」

今後、新たな知見が出て津波想定がさらに引き上げられる可能性もある。そのたびに、「ドライサイト」の判断基準で防潮堤の引き上げを行うことは非現実的といえよう。すでに地元住民からは、浜岡を守るための防潮壁ばかりに津波対策の関心が向かう風潮に疑問の声が聞こえている。

「25mといえば7階建てのビルくらいの高さだよ。そんな巨大津波が押し寄せてくれば、遠州灘沿いどころか静岡県は壊滅状態になる。その時、われわれ住民を津波から守るための対策を、国や自治体はどう考えているのか。正直言って、浜岡原発がうらやましい。現状では浜岡だけが津波から守られ、避難所となるのは想像に難くない」(浜松市内に住むS氏)

エネ価格補助またも延長か 維新は選挙公約で見直し提起


物価高騰対策で岸田政権時代から続く燃料油・電気・ガス価格への補助金が、またも延長される可能性が濃厚だ。

自民党は今回の衆院選公約の中で、「電気・ガス料金、燃料費高騰対策と併せて、物価高が家計を圧迫する中、国民の皆さまの生活を守るため、物価高騰の影響を受ける事業者や低所得者、地方などに寄り添ったきめ細かい対応など、物価高への総合的な対策に取り組む」と、継続の方向を提示。公明党も公約に「家計を圧迫している電気・ガス料金、ガソリン等の燃料費への支援を続ける」と明記した。

「1ℓ175円」をターゲットに官製相場と化したガソリン価格

化石エネルギーの価格相場が落ち着きを見せている中で、電気・ガス補助は10月分まで、燃料油補助は年末までと、岸田政権では出口戦略の方向性を示していた。にもかかわらず、選挙対策のため、国費11兆円投入の効果や課題などを検証せず、なし崩し的に継続するような公約に対しては、エネルギー業界内外で疑問の声が渦巻いている。

こうした中、日本維新の会だけが公約で、価格補助について事実上の見直しを提起した。〈事業者への補助金投入ではなく需要家への直接給付、最終消費者の省エネ・節電へのインセンティブが働く激変緩和制度の導入、一過性の対策ではなく、持続的に省エネ・節電に資する設備・家電への投資の促進、価格高騰による影響が大きい低所得層への手厚い対応を行う〉

「維新のみが『激変緩和措置廃止』に伴う激変緩和策として、代替案を提示してきたことに注目している。これを機に、補助廃止への議論が盛り上がってほしい」(国際石油アナリスト)

【コラム/11月7日】BRICS首脳会議を開催 脱炭素至上主義より現実的政策を宣言


杉山大志/キヤノングローバル戦略研究所研究主幹 

BRICS会合が開催された。
日本貿易振興機構(JETRO)のHPhttps://www.jetro.go.jp/biznews/2024/10/cfad94d12688624c.htmlで以下のように紹介している。

“BRICSは10月22~24日、ロシア西部のカザンで第16回首脳会議を開催し、36カ国が参加した。原加盟国の5カ国(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ共和国)に加え、2024年1月から枠組みに加わった4カ国〔アラブ首長国連邦(UAE)、イラン、エチオピア、エジプト〕を含む拡大体制となったBRICSとして、初めての首脳会談開催となった。

首脳会議は「公正な世界の発展と安全保障のための多国間主義の強化」をテーマとした。全体会合で採択された共同宣言では、ドルに依存しない自国通貨での新たな決済システムの必要性を確認し、その導入の検討を継続することや、新たに「パートナー国」の制度を創設することが盛り込まれた。パートナー国は加盟国に次ぐ立場にあたる準加盟国に相当し、加盟国との経済協力や会議への参加に対する権利を持つ。パートナー国の創設は、グローバルサウスの結束力を高める狙いがあるとみられる。パートナー国には13カ国(インドネシア、タイ、ベトナム、マレーシア、ウズベキスタン、カザフスタン、ベラルーシ、トルコ、アルジェリア、ナイジェリア、ウガンダ、ボリビア、キューバ)が候補と複数のメディアで報じられた。„(以上、JETROのHPから引用)

あまり大きく報じられていないようだが、インド、中国をはじめ、これだけのグローバルサウスの国々がロシアを訪問し、共同で宣言をまとめたことは、今の世界情勢を認識する上で極めて重要なことである。西側諸国の意図に反して、ロシアは孤立などしておらず、多くの仲間がいる。むしろ、いま孤立気味なのは、欧米の西側先進国、特に米国なのかもしれない。

今回まとめられた共同宣言である「カザン宣言」は一読の価値がある(原文機械翻訳)。

一貫して主張されていることは、「いかなる国であっても、一方的に善悪を決めつけ、多国間主義に反する行動を取ってはならない」、という非難だ。

念頭にあるのは、明らかに、西側の近年の行動である。特に、イスラエルの軍事行動を支持し、支援している結果、周辺諸国において多くの犠牲者が出ていることを強く非難している。
また、これは名指しでは書いていないが、西側によるロシアに対する経済制裁と、それにまつわる二次制裁は、ロシアと貿易をしている多くの国にとって不評を買っている。ロシアはエネルギー、穀物などの物資を輸出してきた。今でもその輸入を継続する国々は多くある。

どの国も、大なり小なり、ジェンダーやマイノリティの人権問題などの火種を抱えている。それが西側によって、ロシアのように制裁対象にされて、西側の金融機関に預けていたドルやユーロ資産を没収されたのではたまらない。それで、西側に依存しないBRICSの決済システムを構築していこう、ということが今回の宣言でも大きなテーマとなった。

LNG関係者の国際会議 移行期後も重要性継続を強調


経済産業省は10月6日、「LNG産消会議2024」を開催した。

IEA(国際エネルギー機関)と2回目の共催となる今回は、GIIGNL(LNG輸入者国際グループ)とも連携し、ネットゼロに向けた天然ガス・LNGの役割を官民挙げて議論する場となった。冒頭であいさつした資源エネルギーの村瀬佳史長官は、「天然ガス・LNGの低炭素化という将来像の提示は安定的なガス市場の発展を促し、世界のエネルギー安定供給に貢献する」と述べた。

成果の一つは、LNG生産時のメタン排出削減を進める枠組み拡大だ。昨年発表された官民一体の取り組みには、日本の大手電力8社、東京ガス、大阪ガス、三菱商事、三井物産など22社が参加。生産国に対し事業単位でメタン排出量の情報提供を促し、年次報告書で公表する。

採択された「広島宣言」を手に(10月7日)

また、翌7日にはGIIGNLも広島で総会を開催し「広島宣言」を発表した。宣言では「LNGは安定的かつ低炭素なエネルギーシステムを維持する上で重要な役割を果たしており、今後何十年も必要とされる」との見通しを打ち出した。

これについて、同組織の副会長でアジア地区代表の東京ガスの内田高史会長は、「LNGは将来的には、バイオLNGやe―メタンに置き換わる」と前置きした上で、「これらの燃料はLNG設備をそのまま利用できるため、LNGへの投資が脱炭素化にシームレスにつながる」と強調。LNGは期間限定のエネルギーではなく、移行期後も重要な役割を担い続けることを訴求した格好だ。

環境相は経済通の浅尾氏 過去には「脱原発」主張も


石破茂政権で環境相に就任した浅尾慶一郎氏は〝経済のあさお〟を自任する経済通だ。衆参で当選6回を誇る入閣待機組だったが、脱炭素と経済成長の二兎を追うグリーントランスフォーメーション(GX)の局面では適任かもしれない。

日本興業銀行出身で、米スタンフォード大学経営大学院では経営学修士号 (MBA) を取得。旧民主党時代にはデフレ脱却議連に所属し、後の日銀副総裁らと金融緩和を訴えた。経済性を軽視されがちな環境政策の議論で、こうした経済観はプラスに働くはずだ。2026年度の本格導入を予定する排出量取引制度については「50年ネットゼロと経済成長の両方を実現できる制度として実現していきたい」(10月10日のインタビュー)と経済への目配りを忘れない。

経済や外交・安保に強い浅尾慶一郎環境相

エネルギー政策に関しては「政府目標を達成するため、原子力や再エネなどをさまざまに組み合わせる必要がある」と発言。ただ所属する麻生派の中でも河野太郎氏に近く、経済合理性を重視しすぎるあまり脱原発を主張していた過去も。「電力市場の完全自由化、発送電の分離、小売の自由化などを実行すれば、経費が莫大にかかる原子力発電は『割高な電力』として自然に淘汰されていく」(14年12月6日のメルマガ)

福島の除染土処分、能登半島での災害廃棄物処理、水俣病マイクオフ問題からの信頼回復、有機フッ素化合物(PFAS)問題……。環境省には課題が山積している。まずは11月11日に開幕する地球温暖化防止国際会議・COP29への出席が最初の大仕事となりそうだ。

台湾最大規模のエネ展示会開催 世界20カ国・企業470社が出展


【台湾】

脱炭素に向けた取り組みが加速する台湾で10月4日から3日間、国際エネルギー展示会が開催された。

2050年ネットゼロを目指す世界の企業約470社が出展し、最新ソリューションが集結した。

中華民国対外貿易発展協会(TAITRA)と、国際半導体産業協会(SEMI)傘下のグリーンエネルギー・サステナビリティ・アライアンス(GESA)が共催する「台湾国際エネルギー見本市(ENERGY TAIWAN)」および「台湾国際ネットゼロ見本市(NET ZERO TAIWAN)」が、台湾・台北市の台北南港第1展示ホールで開催された。当初は10月2日~4日の予定だったが、台風18号の影響で10月4日~6日に延期された。

台風の影響で二日遅れで開会した会場の様子

同見本市はエネルギーに関する台湾最大の展示会で、今年は世界20カ国から関連企業470社、1625のブースが出展し、昨年比30%増という過去最大の規模で実施された。日本からは、アスエネ、日本太陽光発電検査技術協会、ラスコジャパン、トーネジなどが出展した。


グリーンエネ調達のための 一気通貫枠組みを構築

今回紹介されたのは、太陽光や風力発電、蓄電池などに関する多様な最先端ソリューションだ。産官学連携の下、グリーンエネルギーへの包括的でスムーズな移行を加速させ、ソリューションのワンストップ・プラットフォーム構築に寄与することを目指している。

世界ではネットゼロを見据えた動きが強まり、各国はエネルギー転換の目標を達成するため、再生可能エネルギーの開発を加速させている。同時に、AI技術の発展により電力需要が急増する中、台湾においても半導体産業や投資の増加、電化政策などの推進もあり、2024年から28年は年平均2・5%増で推移すると経済部は予測している。世界に目を向ければ、企業は自らが事業で使用する電力を100%再エネで賄うことを目指す国際的なイニシアチブ「RE100」基準への準拠を目的に、再エネ調達が最優先事項になっている。需要が供給を上回る中、エネルギー効率を維持しつつ、再エネ比率を高めていくための最先端ソリューションが集結するこの展示会に関心が集まった。中でも注目の3社を紹介する。


元晶太陽能科技股份有限公司(TSEC CORPORATION)

会場で最大規模の展示スペースを確保していたのが、元晶太陽能科技股份有限公司(TSEC CORPORATION)だ。同社は台湾を代表する太陽光発電装置製造会社で、同社のソーラーモジュールや太陽電池は欧米、アジアなど世界中で販売されている。台湾で製造されるM6以上のモジュール製品製造のパイオニアであり、同社の技術は世界市場の最先端を走っている。太陽電池に関しても、最大変換効率23・2%以上の優れたMIT太陽電池を製造している。

元晶太陽能の大きなブース

TSECの製品は高品質・高性能で複数の国際認証を取得。台湾優秀PV賞を9年連続で受賞しているだけでなく、VPC認証(台湾経済部標準検験局による認証)、IEC認証(国際電気標準会議による電子部品の品質認証)、UL認証(アメリカ保険業者安全試験所による認証)を同時に取得した業界で唯一の企業だ。


特斯拉(TESLA ENERGY)

会場内の数多くのブースの中でひときわ目を引いたのが、TESLA ENERGYだ。ブースの壁やスタッフの制服は、シンボルカラーのブラックで統一され、スタイリッシュ。同社の家庭用蓄電池Power wallは、太陽光発電による余剰電力や系統からの電力を蓄電し、電力系統の停電を検知すると、自動的に家庭への電気供給を開始する。太陽光発電システムと連携することで、停電時には太陽光で発電した電気を家庭へ供給することも可能だ。アプリを使ってリアルタイムで発電量や電力消費量を確認することもでき、エネルギー自給率を高めたり、万一への備えとして節約を最大化するなど、希望に応じて設定の調整が可能だ。テスラ製品を特徴付けるシンプル、コンパクトなデザインは、多様な住宅の外観にマッチするため人気が高い。

黒が映えるおしゃれなプレゼン


格斯科技(GUS CORPORATION)

GUSは、EVや家庭用蓄電システム(ESS)に適したパウチセルを製造するほか、顧客の要望に応じてカスタマイズしたバッテリーパックやモジュール、ESSのセットアップ一式を製造している。2023年には国内初のバッテリーギガファクトリーを開設し、海外の複数の企業とパートナー提携。電池モジュールアプリケーションの開発・統合を続け、さまざまなグリーンエネルギーアプリケーションに最先端のソリューションを共同で提供するとしている。日本市場で手を組む東芝は「日本と友好関係にある台湾を最重要顧客地域と位置付け、自社の電池技術・製品を台湾のさまざまな問題解決に役立てたいと考えている。GUSが生産する電池が、台湾のみならず、世界の環境問題の解決に貢献できると確信している」とコメントしている。

家庭用蓄電池を説明したボードの前で

前提条件が大きく変わる可能性も 広域連系系統の絵姿をどう描くか


【論点】マスタープランの見直し〈前編〉/長山浩章・京都大学大学院総合生存学館教授

広域連系系統のマスタープランの見直しの要否が検討されている。

長山浩章氏が2回に渡ってそのポイントを解説する。

電力広域的運営推進機関(OCCTO)は昨年3月、地域をまたがる広域での電力系統の長期的な増強方針を示す「広域系統長期方針(広域連系系統のマスタープラン=MP)」を公表した。これは、2020年10月のカーボンニュートラル(CN)宣言後の第6次エネルギー基本計画、国のエネルギー政策を踏まえ、50年CN実現を見据えた将来の広域連系系統の具体的な絵姿として策定されたものである。需要をどこに配置するかで複数シナリオ(需要立地誘導シナリオ、ベースシナリオ、需要立地自然体シナリオ)が検討された。

OCCTOがMPで使用しているモデル構成(筆者作成)

50年度の各エリアの電源設備量を固定した上で、地域間連系線および地内増強を行ったケース(Withケース)と、行わないケース(Withoutケース)で、費用便益(以下B/C)計算、必要な調整力、慣性力の試算などを行っている。増強した系統の費用便益分析の結果を提示し、OCCTOが「基本要件」を提示した上で応募者を募る手順となっている。

今年3月の再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会では、日本海ルート(400万kW:北海道~東北~東京ルート新設)で、英国などで実施されている評価ルールと同じ評価期間25年、割引率4%でB/Cが0・67~1・07程度と、便益としては必ずしも十分に高いとは言えない水準であり、関門(九州~中国ルート増強)は、22年間の評価でいずれの割引率でもB/Cが0・29~0・62程度と1以下で、便益がコストを下回る見込みとなる資料が提示された。

これが影響してか、関門連系線の増強工事において本来の締め切りまでに応募意思の表明はなく、提出期限を1カ月延長する事態が起きていた。(その後、9月4日に中国電力ネットワーク、九州電力送配電、電源開発送変電ネットワークの3社が応募意思を表明し、応募資格要件を満たすことが確認された)。また、日本海ルートについても計画の取りまとめが1年繰り延べとなった。


大規模需要立地の計画浮上 次期エネ基見据え検討着手

このような状況下、昨今ではデータセンターや半導体工場などの大規模需要立地の計画が立ち上がり、MPの前提条件が大きく変動する可能性が出てきた。こうしたことから、今般の第7次エネ基改訂を踏まえ、9月11日に再エネ大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会などでMPの見直し要否の検討が始まった。

現行のMPは、長期モデルなどを用いた電源計画の最適化を目的としていないために、50年における本州の9エリアの発電設備量を前提にゾーンごとのロードカーブを構築し、それに供給を合わせている。ロードカーブには、EV、HPを含む電化需要、水素水電解、DAC(ダイレクト・エア・キャプチャー)による吸収などが反映される。

火力、水力は、供給計画や契約申込済電源を反映(CCS、水素、アンモニア混焼・専焼は考慮)、原子力は既存、もしくは建設中の設備が全て60年運転すると仮定している。太陽光、風力は一定の出力パターンを前提としている。モデルの構成は下の図のようなものであると想定されるが、需給、潮流シミュレーションはノーダルモデルで実施し、調整力、アデカシーのシミュレーションはゾーナルモデルで実施している。ノーダルモデルにより送電ロスおよび、連系線、基幹送電線の潮流8760時間のシミュレーションを行い、ゾーナルモデルでkW時、ΔkW、アデカシーを評価する。

あくまで、発電設備容量、全体の需要は変えないが、B/Cにおける費用には系統整備が行われない場合(Without)と、系統整備が行われる場合(With)の総費用の差分を用いている。総費用の差分は、系統整備に係るコスト(減価償却費、運転維持費など)となる。なお、電源はWithとWithoutで配置や導入量が変化しないことを前提としているため、電源開発コストは、総費用の差分(With―Witout)には表れない。

発電設備容量などの変化に対する系統整備への影響は、別途感度分析により評価し、アウトプットとして提示している。もし、火力設備が過剰であっても、メリットオーダーにより稼働しないため、最終的なシミュレーション結果に大きな影響はないものとなっている。

増強後に再エネの出力制御低下があれば、発電電力量が増し、これによって調整力kW時費用は増え、ΔkWは広域連系で必要量を融通するため、必要量は減少するなどの提示がOUTPUTの範囲である。この意味からOCCTOは広域系統監視者としてできる最大限の分析業務は行っているように思える。ただし、全ての前提が明確に示されているわけではないので、表現方法に今後工夫をしていく必要はあるだろう。

ここまで現行のOCCTOのMPについて解説した。次号では、今後の追加検討が必要と思われる点について述べたい。

ながやま・ひろあき 慶応大学経済学部卒後、三菱総合研究所入所。企業戦略構築のコンサルティングなどに従事。エール大学経営大学院修了(MBA取得)。京都大学大学院エネルギー科学研究科博士後期課程修了(博士)。2008年から京大国際交流センター教授。20年から現職。

実力派の武藤氏が経産相に 原子力産業後押しに期待


10月1日に石破茂政権が発足し、経済産業相に武藤容治氏が就任した。翌日の引き継ぎ式では冗談を交えながら笑顔を絶やさず、「気さくな性格で人望が厚い」という評判に間違いはなさそうだ。

武藤氏は麻生派の68歳で当選5回。富士フイルムや家業の建材商社を経て05年に政界入り。外相や通商産業相などを歴任した武藤嘉文氏の次男で、祖父の嘉門氏も岐阜県知事を務めた政治家一家の出身だ。

これまでの知見を生かした経済産業政策に期待がかかる

経済産業政策への知見は疑いようがない。これまでに経産副大臣や自民党経産部会長、総合エネルギー戦略調査会事務局長などを経験し、第6次エネルギー基本計画の策定にも携わった。当選1年目の06年当時から、インタビューで「仕事の中心はエネルギー、経済産業」と語っていたほどだ。ある自民党議員は武藤氏について、「原子力を含めたエネルギー政策への理解が非常に高い。岸田政権の路線をしっかりと継承してくれるはず」と太鼓判を押す。

今回の総裁選では麻生派ということもあり、環境相に就いた浅尾慶一郎氏らと共に河野太郎候補の推薦人となったが、エネルギー政策に対する考え方では河野氏とは一線を画す。

それを象徴するように、原子力の活用には前向きだ。10月2日の報道各社のインタビューでは、議論が進む第7次エネ基について「再生可能エネルギーもやるが、安全性を前提とした原子力の最大限利用は当然のこと」と強調した。原子力に関する発言が右往左往した石破首相だが、経産相人事ではエネルギー業界も一安心か。

建設産業界で投資が加速 洋上風力を新たな事業の柱に


【業界紙の目】松下敏生/日刊建設通信新聞社 編集部長

建設産業界では、洋上風力を新たな事業の柱に育てる動きが盛んだ。

国による公募事業の建設が本格化する2027年以降をにらみ、施工や投資が具体化している。

世界最大級の自航式SEP船(自己昇降式作業台船)「BLUE WIND」を保有する清水建設は昨年、富山県の入善洋上風力発電所に続いて、商用で国内最大規模である石狩湾新港洋上風力発電所(北海道)で洋上工事などを手掛けた。今年からは台湾沖で建設が進む「雲林沖洋上風力発電所プロジェクト」に同船を賃貸している。同船は同社の想定以上に稼働し、顧客から施工能力の高さが評価されたという。

建設ではゼネコンやマリコンの力が欠かせない

五洋建設と鹿島建設、寄神建設が共同で建造してきた1600tづりクレーンを搭載したSEP型多目的起重機船「CP―16001」は昨年9月に完成。同年11月から五洋建設が施工する、北九州響灘洋上ウインドファーム(福岡県)の建設工事に投入されている。

五洋建設は2027年に就航予定の3船目のSEP船「Sea Challenger」に加え、ケーブル敷設船、大型基礎工事船を建造する。洋上での風車建設に必要となるSOV(サービス・オペレーション・べッセル)や風車部材運搬船も計画し、投資規模は1000億円に上るとされ、海洋土木トップ企業として力が入る。

また鹿島は、施工に携わった商業ベースで国内初の大型プロジェクトである秋田港・能代港洋上風力発電(秋田県)の工事で得た経験を生かしながら、大規模案件での実績を積み重ねていく。

さらに、大林組と東亜建設工業のSEP船「柏鶴」は昨年4月に完成。受注に向け営業活動を展開する。

こうした大手中心の流れに続き、準大手ゼネコン各社も投資を急ぐ。戸田建設、熊谷組、西松建設、若築建設、岩田地崎建設、吉田組の6社は同10月に1300tづりクレーンを搭載したSEP船の調達を発表。洋上風力自体の需要が高まる中、将来に向けたファーストステップの位置付けとなる。SEP船を保有しなければ、リングに上がることができず、洋上風力事業参画への必要条件といえる。

東洋建設は同12月、ケーブル敷設船の建造に着手し、既に引き合いがあるという。同社は商船三井と洋上風力分野の合弁会社「MOL―TOYO洋上風力サービス」も設立。同社の運行ノウハウと海上工事技術をベースに、洋上風力全般を網羅しビジネスチャンスをうかがう。

働きがい向上に向けて 対話で見えた現場の悩み


【電力事業の現場力】東北電力労働組合

事業所の統廃合など効率化に注力する中、社員はどんな苦労を抱えるのか。

働く人の声に耳を傾け経営側に届けるのが労働組合の重要な役割の一つだ。

揺るぎない安定供給と競争力の強化─。電力を取り巻く事業環境の複雑性が高まる中で、東北電力グループでは人的資本の強化が急務となっている。

東北電力グループは4月、2030年までの中長期ビジョンの後半期を前に、今後の経営展開として「よりそうnext+PLUS」を策定。持続的な事業展開を支える経営基盤を強化するため、「CN戦略」「DX戦略」と並んで「人財戦略」に注力する姿勢を打ち出した。採用、育成、配置、評価、処遇といった人財マネジメントサイクルの実効性を高め、特に採用と育成を強化するという。

いま現場では、エンゲージメント(働きがい)の向上が課題となっている。東北電力労組は毎年、「フレンディ・コロキウム」と題した対話活動で、現場の声を聞いて回る。今年はテーマの一つに「エンゲージメント向上に向けた取り組み(働きがい、働きやすさ、能力伸長)」を掲げ、143カ所の事業所を回り1457人の意見を吸い上げた。

相双支部・原町火力発電所での対話活動

再稼働を控えた女川原子力支部での対話活動

人材育成については、現場の悲痛な悩みが浮かび上がってきた。「職場人員が減少することで、人材育成の時間が確保できない」「どの部門も時間外労働が高止まりする中、中間管理職がプレイングマネージャー化している。部下への教育などに影響がある」「効率化を追求してきた結果、仕事の理念や本質を継承しづらくなった」―。また採用・離職の問題も影響し、事業所の年齢構成のバランスも課題だという。斎藤和喜書記長は「近年の職場は、組織整備などの環境変化への適応で手一杯であり、人材育成がままならなかった感がある」と分析する。


働き方改革の難しさ 仕事の魅力発信を

働きやすさの点では、働き方改革の難しさが赤裸々に語られた。「職場人員が限られる中で、土日の配電線事故対応では若年層の独身者の対応頻度が高い。採用数を増やすなど改善を求めたい」「各種制度は整備され働きやすくなったが、人員不足などの理由から、一部制度の利用をためらってしまう」「男性の育休はどんどん取得してもらいたい。時間外を前提としない働き方を実現し、職場の余力を生み出していかなければ」―。

配電の活線作業

水力発電所での夏期安全運動労使パトロール

若年層はプライベート時間の充実や転勤のない働き方を重視する傾向があるが、事業特性を考えると全て応えることもできない。社員エンゲージメントの向上には、きつい仕事や環境に対する手当、働く環境の充実なども有効な手立てだ。

電力会社に対する世間の目は依然厳しい。それでも東北電力グループで働く社員が、人々の生活に欠かせないエッセンシャルワーカーであることは変わらない。対話活動ではグループの魅力向上に向けた施策の拡充を求める意見も見られた。「災害復旧への対応など誇れる点はたくさんある。アピールできる部分はもっと積極的に発信すべき。それが働きがい、自信の創出につながる」

斎藤氏は「電力事業は競争力と高い公益性を求められている特殊な事業。だからこそ、自分たちの手で自分たちにふさわしい人財戦略を見つけていく必要がある」と熱を込める。対話活動では、春闘の好結果に対しての感謝の声も聞かれた。これからも東北電力労組は「いつの時代も企業は人なり」を肝に銘じて、職場との対話を重ねていく。

異例の猛暑長期化で浮き彫り 安定供給新体制の機能不全


記録的な暑さとなった今夏は、一般送配電事業者をはじめ多くの電力関係者が需給対応に追われた。

また、新たな需給バランスの仕組みの機能不全も浮き彫りに。冬に向けどう対策を講じるのか。

7、8月の夏本番はもちろん、9、10月に入っても暑さが引かず冷房需要が増大した今夏。電力需給を振り返ってみると、全国で度々、ひっ迫に伴う広域融通が実施されたのに加え、容量市場に基づく供給力提供(準備)通知の発出、発動指令電源の発動、増出力運転、9月に入ってからは冬の需要期に備えて作業停止に入る発電所の補修調整など、あらゆる追加供給力対策を講じることで、需要家に対し節電を要請することなく乗り切ることができた(表参照)。

追加供給対策の発動実績(4月1日~9月20日)
出典:電力広域的運営推進機関

電力業界関係者が、特に厳しい需給調整に迫られたのが、月平均気温が観測史上最高を記録した9月だ。東京電力パワーグリッド管内では、都心で35℃超の猛暑日に見舞われた18日に最大電力5390万kWを記録したのをはじめ、計4日にわたり同社が事前に見込んだH1需要(10年に1度の厳気象を想定した最大需要)である5237万kWを超えていたという。

17、18日は、地域間連系線など流通設備や発電機の作業調整を含め、計270万kWの供給力を創出し安定供給を確保。系統運用部需給運用計画グループの貝間純一マネージャーは、「電力広域的運営推進機関が翌週の広域予備率を公表するのは、前週の木曜日。それを待っていたのでは、3連休明け17、18日の供給力確保に間に合わない。そこで事前に広域機関と相談し、早めに補修調整に動くことで事業者の協力を得ることができた」と、緊張感漂う中での需給対策を振り返る。


事業者は困惑しきり 広域予備率の不確かさ

一方、7、8月は猛暑で確かに需要は増大したものの、業界関係者は「需給ひっ迫融通と呼ぶため深刻な印象を与えがちだが、エリア間融通で乗り切れたこの時期は実際には供給力が足りていた。それほど厳しかったわけではない」と口をそろえる。

それにもかかわらず、発動指令電源の発動は頻発。6~9月の間だけで、北海道と東北を除く7エリアで8~10回と、年間の上限である12回に迫る発動があった。これについて広域機関運用部の松本理担当部長は、「今年度から、発電、小売事業者の双方が広域予備率に基づいて自主的に行動することを踏まえた需給運用の仕組みに変更された。これに伴い揚水発電の供給力への計上方法が変わったほか、発動指令電源の発動順位が揚水発電機の運用切り替えや余力活用電源の追加起動といった、その他の追加供給力対策よりも上位となったことから多く発動されることになった」と解説する。

広域予備率が8%を下回ることが見込まれた場合、広域機関は機械的に供給力提供(準備)通知を発出し、市場応札量を増やすことで予備率の改善を図る。一方、インバランス料金が高騰することで小売事業者は自ら不足の解消に動く―。要はバランシンググループ(BG)が電力取引により計画値同時同量を達成し、一般送配電事業者が調整力を確実に調達することで需給バランスが維持されることを前提とした仕組みなのだが、猛暑が災いしてうまく機能しないことが鮮明化したというわけだ。

この状況に新電力関係者は、「広域予備率が8%を切っても、小売りが需給ギャップを埋めるための経済的な調達手段は限られている。しかも、直前まで本当に不足が生じるのかさえ分からない。インバランス料金は散発的に高騰し、供給力・調整力を確保できないツケを小売りに回している感は否めない」と不満を隠しきれない様子。一方の発電事業者側も、「発動指令に必死に対応して市場に投入しても、結局使われないということが度々起きていた。余力があるのになぜ通知が発出されるのか」と、不信感を募らせる。


発動基準を8%から5%へ 状況打開へ苦肉の策

このままでは、冬季の需給ひっ迫に対応しきれない。そこで9月13日には、東京で発動指令の発出基準を8%から5%に引き下げ。その後、全エリアで同様の措置を講じることになった。さらに10月23日の広域機関の「調整力及び需給バランス評価等に関する委員会」において、①揚水発電の運用切り替えと余力活用電源を追加起動する基準となる広域予備率を8%未満とすることで、発動指令電源よりも優先的に活用する、②需給調整市場で調整力が調達未達であっても必要量分の供給力を織り込むことで、見た目の広域予備率の低下を回避する―という対策案が示された。

ただ、これらはあくまでも暫定措置。松本担当部長は、「国と連携しながら今後、短期的にできる対策に加え、システム更新を含む長期的な対策などについてもしっかりと検討していきたい」と、抜本的な状況改善に尽力する意向だ。

同日、広域機関が公表した今年度冬季(12月~来年3月)の電力需給見通しは、最も厳しい1月でも各エリア11%以上で、安定供給の目安となる予備率3%以上を確保できる見込み。

とはいえ、これまでも、深刻な需給ひっ迫は真夏・真冬だけでなく端境期にも起きている。電力業界関係者は、「端境期のひっ迫を度々経験してきたにもかかわらず、対策が追い付いていない。端境期も含めるなど、需給検証の期間を見直す必要がある」と強調する。

そうなると、突き付けられるのはそもそも供給力が足りていないという現実だ。端境期の需要を精査するとともに、年間の補修停止可能日数を増やすなど、容量市場でしっかりと必要な供給力を確保する必要がある。今後、原子力の再稼働が進み、ますます稼働率の低下が免れない火力電源の維持も懸念材料だ。調整力を確保し安定供給に万全を期すために、火力の最低負荷運転を支えるような新たなスキームの検討が求められる。