大阪湾が一大CN拠点に 大ガス・関電の両軸で検討


大阪湾において、水素・アンモニア・e―メタン(合成メタン)といった次世代エネルギーの社会実装を見据えた計画が活発化している。

大阪ガスとENEOSは8月29日、大阪港湾部におけるグリーン水素を活用した国産e―メタンの大規模製造に関する共同検討を開始した発表した。ENEOSが海外の安価な再生可能エネルギー由来の水素を調達し、大ガスが近隣の工場などから回収したCO2と合成。2030年までに、大ガスが供給する都市ガスの1%、年間6000万㎥の製造を目指す。

翌30日、大阪の臨海工業地帯を拠点とする水素・アンモニアのサプライチェーン構築に向けた共同検討に関する覚書を締結したのは、IHI、三井物産、三井化学、関西電力の四社。アンモニアの受け入れ、貯蔵、供給拠点の整備と、関西・瀬戸内地域での利活用先の拡大に向けた調査を行うという。

次世代エネルギーの製造・貯蔵・輸送、そして利用という一連のサプライチェーン構築が欠かせない、カーボンニュートラル(CN)の実現へ、まずは一歩を踏み出した形だ。

【マーケット情報/10月9日】原油下落、需要後退が供給不安を相殺


【アーガスメディア=週刊原油概況】

10月2日から9日までの原油価格は、主要指標が軒並み下落。特に、中東原油を代表するドバイ現物は、前週比5.85ドルの急落となった。ドル高と景気後退の見通しが、供給不安を相殺した。

米ドル指数は、過去最高に近い水準を維持しており、ドル建てでの決済となる原油や石油製品の需要を弱めた。また、米国債の利回り上昇によるインフレ圧力を背景に、米連邦準備理事会が今年中に、金利を一段と引き上げるとの予測が広がった。さらに、世界銀行は、東アジア・大洋州の経済成長見通しを下方修正。中国経済の回復遅延を指摘した。

加えて、供給面では、米国のクッシング在庫および戦略備蓄が先週から増加。価格の下方圧力となった。

一方、ガザ地区の武装組織・ハマスが7日、イスラエルに攻撃。中東産原油の供給不安が台頭し、9日に原油価格が急伸した。ただ、前週比での価格上昇には至らなかった。

また、サウジアラビアとロシアがそれぞれ、年末までの自主的減産と輸出減を再表明。ただ、これらも油価の上昇圧力にはならなかった。


【10月9日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=86.38ドル(前週比2.44ドル安)、ブレント先物(ICE)=88.15ドル(前週比2.56ドル安)、オマーン先物(DME)=87.10ドル(前週比5.90ドル安)、ドバイ現物(Argus)=87.21ドル(前週比5.85ドル安)

新宿パークタワー30周年事業が始動 コシノジュンコ氏が監修を務める


【東京ガス不動産】

西新宿の超高層ビル群の中でも、ひときわ存在感を放つ「三角屋根」がある。東京ガス不動産が所有する「新宿パークタワー」だ。地下5階・地上52階建ての超高層ビルで、上層階の高級ホテル「パークハイアット東京」をはじめ、オフィスやショップ、多目的ホール、レストランなどを擁する。建築家の丹下健三氏が設計を手掛けた同ビルは、2024年4月に開業30周年を迎える。


写真展や演奏会など 記念イベント目白押し

東京ガス不動産は、開業30周年に当たり「SHINJUKU PARK TOWER 30th Anniversary」と題したプロジェクトを企画する。9月12日には、アニバーサリー・プロジェクト発表会が開かれた。アニバーサリー・プロデューサーには、世界的なデザイナーであるコシノジュンコ氏が就任。東京ガス不動産の穴水孝社長は「30年にわたり多くの方にご愛顧いただいたので、感謝の気持ちを表したいと考えていた。コシノ氏の企画・監修の下、さまざまなイベント行っていくので、一緒に盛り上げていただけると大変ありがたい」とあいさつ。同氏の就任について「パークハイアット東京でさまざまなイベントを手掛けていたことから縁を感じ、ぜひお願いしたいと思っていた」と述べた。

記念ロゴと第1弾イベントが発表された

プロジェクト発表会では、コシノ氏による30周年記念ロゴも公開された。東西南北の方角から見える「三角屋根」と呼ばれるルーフトップをモチーフにデザインされている。

また、プロジェクトの第1弾イベントも発表された。写真展と演奏会だ。写真展は1階ギャラリー1にて10月11日まで、写真家の鈴木弘之氏の作品群を展示。30周年に向けて「価値の再発見・再定義」をテーマに撮り下ろした40点以上の写真が並ぶ。

同じく1階ロビーでは「Morning Play~35人のピアニスト」と題した演奏会を開催する。12月8日までの月・水・金曜日の午前8時15分から1時間、若手音楽家がピアノ演奏を行う。通勤時間帯のひとときを癒すとともに、若手音楽家に演奏の場を提供することで、その活動を支援する。今後はクリスマスオブジェ除幕式やミニコンサートなどのイベントが予定されているという。

コシノ氏は「移り変わる世の中で、文化の発信を継続していくことが大切。文化が経済を生むので、思わず写真を撮りたくなるようなおもしろく、活気のある催しを企画していく」と意気込みを見せる。新宿パークタワーの新しい歴史に今後も注目だ。

処理水の海洋放出開始が契機 廃炉の最終形と責任の明確化を


【論説室の窓】竹川正記/毎日新聞 論説副委員長

8月24日の海洋放出開始で、福島第一原発の廃炉計画は大きな転換点を迎えた。

政府・東京電力は地元と対話を尽くし、廃炉の最終形や責任の在り方を明確にすべきだ。

「今後、数十年の長期にわたろうとも全責任をもって対応する」

岸田文雄首相は処理水放出決定を翌日に控えた8月21日、官邸で全国漁業協同組合連合会(全漁連)会長と面会し、こう理解を求めた。国と東電は2015年、福島県漁連に「関係者の理解なしには、いかなる処分も行わない」と約束した経緯があり、同漁連や地元から言行不一致を批判されていた。

一方で、大量の処理水を原発敷地に林立するタンクにためたままでは、廃炉作業に支障を来たす厳しい現実もあった。首相は最終的に風評被害対策の強化などを約束した上、国の責任を強調することで海洋放出を政治決断した。


国内でも根強い不安の声 背景に廃炉進捗への疑念

処理水は事故を起こした原子炉建屋に触れた高濃度汚染水を、多核種除去設備(ALPS)に通して大半の放射性物質を除去したものだ。ALPSで取り除けないトリチウムは海水で希釈し、濃度を世界保健機関(WHO)が定める飲料水基準の7分の1以下まで薄めて海洋放出している。

国際原子力機関(IAEA)のチェックも受けており、「科学的に健康や安全に問題ない」(経済産業省幹部)というのは事実だろう。マスコミの多くもトラブル防止や風評被害対策の徹底を注文しつつ、海洋放出を「廃炉と福島復興に向けて止む得ない措置」として概ね受け止めた。海外では、中国が日本の対応を非難し、水産物の輸入の全面停止に踏み切った一方、韓国をはじめとしたアジア諸国や欧米など大半の国は科学的知見を重視し容認している。

にもかかわらず、地元や国民の間で不安や反発の声が根強いのはなぜか。背景には、今回の海洋放出が廃炉の完遂や福島の復興に本当につながるのかとの疑念が拭えないことがある。

ALPS処理水が下流水槽に越流する様子

国と東電は「中長期ロードマップ」で廃炉終了時期を51年と想定しているが、メルトダウン事故で溶け落ちた燃料デブリ(溶融燃料)の取り出しは工法もいまだに定まらず、難航を極めている。そもそも「どんな状態になれば廃炉が完了するのか」という肝心の最終的な姿が明確に定義されていないのは大きな問題だ。

福島県民は原発から全てのデブリを取り出し、原子炉施設を解体して敷地を更地化することを廃炉完了と考えている。多くの国民が持つ、原発敷地を元の安全な環境に戻すイメージとも似ているだろう。その場合、廃炉過程で生じる放射性廃棄物は県外で処分されることが大前提となるはずだ。

しかし、作家・ジャーナリストの尾松亮氏が著書で指摘しているように、日本には事故を起こした原発について廃炉の完了要件を定義した法律がない。廃炉の最終形を巡り、政府・東電と国民の間のコンセンサスもできていない。

そんな中で、ロードマップが想定する廃炉完了時期の技術的な裏付けは乏しく、仮に地元住民が願う更地化までを「完了」と定義するなら、「あと30年足らずでの実現は困難」(原子力の専門家)というのが厳しい現実だ。このままの状況を続けていては、福島の思いを裏切り、政府や東電に対する国民の不信も極まりかねない。

処理水放出開始というハードルを越えた東電は現在、2号機からのデブリの試験的な取り出しに注力している。ただ、仮に成功しても、取り出したデブリをどこに保管するのか規定はない。今後の作業は高放射線量との戦いとなるが、作業員の安全を確保しながら、着実に進める明確なルールも定まっていない。

学生らが東北電に質問状 全面自由化の理解進まず!?


2016年に電力の小売り全面自由化が始まって7年以上がたつが、実は関係者が思っているほど、自由化は世間に浸透していないのではないか―。

9月14日、宮城県内の学生らでつくる気候変動問題や食糧支援などに取り組む2団体が、電気料金を値上げした東北電力に対し公開質問状を提出した。報道などによると、質問状では、電気料金の値上げで生活困窮者が増えていると指摘。その上で、今年度に過去最高の利益が予想される中で、料金値下げを検討しない理由など7項目について回答を求めている。「貧困が広がっている深刻な状況を分かっていないんじゃないか」。質問状を提出した学生は、ニュースの中でこう話していた。

だが、そこには大きな誤解がある。利益が期ズレ差益によるものであること、そもそも規制料金の比率が減少していること、大手電力が嫌なら電力会社を切り替えればいいことなど。今や全面自由化によって規制料金以外の選択肢が豊富にある現実が、すっかり忘れ去られているかのようだ。

認識不足が原因でいらぬ反発を招くのは、業界、利用者のどちらにも不幸なこと。改めて電力自由化をアピールすべきでは?

【覆面ホンネ座談会】エネ補助金の是非を問う 政治介入で迷走の出口戦略


テーマ:エネルギー価格補助金の延長

エネルギー価格高騰に伴う各種補助金は9月末に終了するはずだったが、またも政治決断で風向きが変わり、結局いずれも年末まで延長することとなった。既に10兆円近い国費が投入される中、その成果や影響の精査は十分とは言い難い。ますます出口が遠のくが、この政策はどう着地するのか。

〈出席者〉 A 一般紙記者 B 業界紙記者 C 業界関係者

―燃料油補助金を皮切りに、電力、都市ガス、LPガスと価格高騰対策が次々と手当てされた。まず燃料油については、補助金を石油元売りに手当てし、販売価格を抑制させる仕組みで、政府はその補助額などをたびたび変更。今年6月以降は制度終了に向け、補助率を引き下げており、ガソリンの全国平均価格は上昇、9月初旬には15年ぶりに最高値を更新した。7日からは補助率が再び1ℓ当たり17・4円へ拡大されたことで、足元のガソリン価格は下落に転じている。

A 燃料油補助金はまだコロナ禍最中の昨年1月に支給開始された。前年、LNG高騰につられ原油価格が上がり始めたことで、政府は物価高騰対策として秋ごろから制度を考え始めた。関係者は当時「1ℓ当たり5円の補助金を使い切れるのか」といった受け止めだったが、ロシア・ウクライナ戦争の勃発で油価が急騰した。一時は補助額がℓ35円まで引き上がり、深みにはまっていった。

B ガソリンも生活必需品なので、高騰し数カ月経てば需要は落ち着く。ただ、200円超ともなればそうも言っていられず、補助金があることで需要減退を多少抑える効果はあった。今年6月以降は出口に向かって良い制度ができており、元売りも9月末終了でコンセンサスが得られていた。

しかし同時期に円安が進み、原油価格も徐々につり上がっていった。巨額を投じた制度なのだから、良い頃合いでやめるべきだったが、今回も機会を逸した。これまでもやめようとすると何かが起こり、関係者は「運が悪い」と受け止めているようだ。

C 電力や都市ガスは燃料費調整制度や原料費調整制度があるので、その調整上限を超えなければ消費者に転嫁できた。21年秋ごろのLNG価格高騰の影響は、都市ガスよりも電力の供給力不足として表面化した。しかしその後、調整上限を超える水準までLNGが高騰。電力では燃料費の逆ザヤが深刻な問題となっていった。また戦争勃発後は、サハリン2からの供給が継続されるのかなど、問題がさらに複雑化した。

昨秋から電力を補助金対象とする検討が進み出し、競走上足並みをそろえてほしいとガス業界も敏感に反応。公明党の活躍で、両者セットで補助金の支給が決まった。電気が低圧で1kW時7円、都市ガスが1㎥30円という水準が適切だったかとの議論はあるが、需要期に向かう時期の補助金は有り難かっただろう。

A ただ、平時は気候変動対策上、先進国は途上国に対し「化石燃料への補助金は措置すべきでない」と主張してきた。そういう後ろめたさはあるはずだ。

ガソリン価格高騰のインパクトは大きく、補助金のやめ時が問われている

―さらに、都市ガスが対象ならLPガスもという話が浮上した。コロナ禍での価格高騰対策として、昨年9月に総額6000億円で措置された地方創生臨時交付金を、自治体の判断でLPガス料金の抑制にも使えるようにした。今年3月に政府は同交付金を7000億円増額し、LPガスに特化した支援を自治体に要望した。

B 業界特性からして、一律で補助金を出すことは現実的でなかった。当初は価格上昇抑制策として、配送合理化に向け、遠隔検針が可能なLPWA機器導入やタンクの大型化などへの助成費として22年度補正で約130億円が措置された。さばききれるのか疑問に思ったが、実際、かなりの事業者が恩恵を受けたはずだ。ただ、サウジアラムコのCP価格は高い時で900ドル程度つけたが、ほかの燃料ほどの高騰とはならず、今は500ドル前後で推移。でも、業界は自民党に掛け合って権利をもぎ取った。しかも今春には交付金が7000億円も増額され、自治体の判断でばらまいている。

C 交付金にLPガスを加えた当初、資源エネルギー庁は「電気や都市ガスは別予算で手当てしたので余っているはずだからLPに使えるのではないか」と自治体に働きかけた。ただ、実際は交付金が枯渇している自治体が多く、増額要請した。しかし、この仕組みに平等性はない。しかも必要なシステム構築に数千万円程度かかるからと、交付金受け取りを申請しない事業者もいるようだ。


政府介入で値段操作 競争状況にゆがみ

―問題だと思うのが、今回の延長決定に際し、岸田文雄首相がガソリンのターゲット価格として175円と発言してしまったこと。関係者からは「政権による市場介入は禁じ手ではないか」いった意見が挙がっている。

A 延長を決める直前に平均価格が185円を超えたからね。しかし、政治パフォーマンスとしても首相が額を口にすることはどうなのか。

B エネ庁も業界も9月末で終わるものだと思っていたが、鶴の一声で決まり、補助金で引き下げていくことになる。しかし、地域によっては200円程度で売っている店もある。補助金を投入しても175円には届かず、顧客から問い詰められては気の毒だ。SS(サービスステーション)は1円単位でしのぎを削った結果、ひと時の6万軒から今は2・8万軒弱まで減った。価格は店が周辺状況を見て決めるのに、175円が先行することは望ましくない。

―逆に、本当は175円以下に下げられるのに、そこまでしないSSもありそうだ。

C 今年6月以降は、出口に向けて徐々に補助金を減らす段階に入った。エネ庁が毎週発表する効果のグラフを見ると、この時期きれいに値上がりしていっている。通常なら他社動向をにらみ、値上げも値下げもなかなか実施できないところだが、補助金により価格競争の要素が薄まった。こうした状況は、適正価格をコストに転嫁する機会を失ったとも言える。補助金終了後の競争状況は、一転して混とんとするのではないか。

A 他方、電気や都市ガスではそうした影響はあまりなかったのではないかな。

C LPガス価格はとにかく安定している。それを武器に燃転などのアピールをしていくべきだ。配送合理化の助成金は、運送業のドライバーの時間外労働時間に対する制限の猶予が終了する「24年問題」解決に資するものであり、業界としてもありがたい内容。これをうまく今後の競争に活用してほしい。

―SS業者やLP販売業者に話を聞くと、補助金が需要を下支えしていて収益面での恩恵は少なくないと異口同音に言う。本来なら市場競争によって値下げすべきところ、補助金が業者の経営努力を妨げているとすれば、大きな問題だと考えている。ところで、A重油やC重油はどんな状況なのか。

B ガソリンの仕切り価格が週決めなので、それに合わせていずれも週単位で補助金が出ている。しかし漁業・農業用やボイラー用などのA重油はほぼ月決めであり、C重油に至っては四半期ごとだ。元売りはこれらをガソリンの仕切り価格に合わせて週単位で、しかも1円も手元に残さないよう、相当な努力をしている。なお、補助金の還元が車ユーザーなど限定的ではないかとの指摘もあるが、運送業や産業用の燃料への補助という形で、濃淡はあれど国民全員が何らかの恩恵を受けている点は、付け加えておきたい。

排出量取引が本格始動へ 東証が新市場を開設


グリーン成長政策の要であるカーボンプライシング。その中で先行する排出量取引制度(ETS)のフィールドとして、東京証券取引所が10月をめどに「カーボンクレジット市場」を開設する。対象とするJ―クレジットの調達手段はこれまで相対やブローカー取引が基本だったが、市場取引も加わることで一層の流動化が期待できる。エネルギー系をはじめ多様なプレーヤー188者(9月19日時点)が参加する。

これに先駆け東証は2022年度に実証を行い、参加した183者中55者で売買が成立。うちオフセット目的の買い手は34者だった。また当初は約70種類もの区分を設けたが、ニーズが細かすぎると売買が成立しにくいことが分かり変更。実証を受け、開設する新市場では6種類を扱う。

ただ売り手不足が課題であり、構造的にクレジット創出を促す仕組みが重要となる。その点、政府のGX―ESTの第二フェーズ(26年度以降)では各社が設定目標の超過達成分をクレジットとして売買できるようになる。日本のカーボンクレジット取引は、今後どう発展していくのか。

再エネ普及などを踏まえ長期予測 送配電設備計画の策定をサポート


【中部電力パワーグリッド/三菱総合研究所】

一般送配電事業者には数十年先を見据えて設備導入を検討・立案する「送配電設備計画」というものがある。同計画では2050年カーボンニュートラル(CN)実現に向けて、分散型エネルギーリソース(DER)の拡大など、新たな要素が加わってきている。

こうした中、中部電力パワーグリッドは7月、三菱総合研究所(MRI)の地域別電力需要予測(DFES)策定サービスを活用しDERを最大限運用する取り組みを開始した。

DERは需要家受電点以下に接続する発電・蓄電などの設備や、系統に直接接続する発電・蓄電設備の総称で、代表的な設備に太陽光発電やEV、蓄電池などがある。50年CN実現に向けては、これらの運用に適した送配電設備の形成が不可欠になる。

設備計画ではDER普及をはじめ、人口動態など各地域の具体的な状況を正確に反映することが求められる。DFESはこれらの要素に加え、エネルギー政策や技術動向、地域特性などのさまざまな要因を基に、数十年先の送配電設備の状態を配電線の電力供給エリア程度の地域粒度と、年度単位のDER導入量、1時間単位の電力潮流を地域単位で予測する。

これにより、詳細かつ合理的な送配電設備の形成、DERの有効活用を実現する。英国などの一部の国や地域では、このDFES策定のプロセスを経ることが送配電設備計画の決定における必要条件となっているとのことだ。

地域別電力需要予測(DFES)のフロー図
出所:三菱総合研究所


一般送配電事業者に展開 電力設備需要を精緻に把握

MRIが開発したDFESは、独自の予測アルゴリズムで前述の地域特性やエネルギー政策、人口動態、DERの導入量などを踏まえ、配電線単位に需要を計算し、これを基に将来的な電力潮流を予測する。

また、MRIは一般送配電事業者向けにサービスを開始するに当たって、DFESの作成や補正の機能を改良。ユーザーインターフェース上から自由なタイミングで実施できるようにしたほか、結果を表やグラフ、地図で視覚的に表示可能にした。

中電PGでは同サービスを活用し、将来の配電線やバンク、変電所などの設備の需要・発電量を詳細に把握し合理的な設備形成を実現していく。

電力業界のCN実現に向けた取り組みにおいて、同サービスの活用が鍵を握っていきそうだ。

【イニシャルニュース 】青森県知事のほこ先 八甲田の風力に向く


青森県知事のほこ先 八甲田の風力に向く

青森県で保守分裂選挙になり、宮下宗一郎知事が6月に誕生した。以前のむつ市長の時から中間貯蔵施設の共同利用問題を巡って電力業界批判を行ったが、9月時点では静かだ。宮下氏は今、八甲田の風力批判にエネルギーを割き、電力関係者はその行方を注視している。

宮下氏はむつ市長だった2020年ごろ、電力業界による原子力発電の使用済み核燃料の中間貯蔵施設の建設や既存施設の共同利用を模索する動きを、「振り回され迷惑」と繰り返し批判した。

彼は反原発ではないが、共同利用に前向きで政治的に対立する関係だった前任のM知事や、自民党E議員を批判する材料に使ったようだ。しかし選挙戦でも、知事就任後も、この問題には積極的に言及していない。

宮下氏は現時点で「青森知事を長期務めることを見越して、県庁の人事と仕組みを考え、電力との対応は様子見のようだ」(電力筋)。

一方で8月末、同県八甲田山での大規模風力開発の批判を始めた。もともとこの開発について批判的だったのだが、地元自治体の首長らの陳情を機に、「事業者の良識を疑う」「反対をみんなで」と一歩踏み込んだ行動への意欲を示唆したのだ。

この開発事業には、秋本真利衆議院議員に贈賄したと名前が上がる日本風力開発が参加している。「宮下さんは、橋下徹さんほど派手ではないが、敵を作って改革を進めたがる人だ。風力問題は県民の受けが良く、敵に勝てると思って動き始めたのだろうが、その勢いが電力批判に向かなければいい」(同)との懸念も。イケメンで派手な政治家と、電力業界の次の戦いはどうなるのだろうか。


日豪水素事業がとん挫? 豪州側の支援打ち切りか

オーストラリアの大手エネルギー会社のA社、日本の大手重工業のK社など日豪の大企業が参画する水素エネルギーサプライチェーン(HESC)プロジェクトが頓挫するのではないかという憶測が豪州内で流れている。

HESCプロジェクトは、ビクトリア州ラトロブバレーで産出される褐炭から水素を製造する。その水素を同州ヘイスティングス港で液化し、神戸にある液化水素荷役実証ターミナルへ輸送する事業だ。K社が中心になり、エネルギー企業のJ社、水素事業を手掛けるI社、M社やS社といった商社が参画している。

日本政府と豪州政府、ビクトリア州政府が支援するため、日豪の官民を挙げたプロジェクトとして注目されていた。2022年には実証事業を終え、いよいよ商用化に向け動き出すところまでこぎつけようとしていた。

ところがここ最近、豪州の経済紙などが、ビクトリア州が20億ドルの資金援助スキームから化石燃料ベースのプロジェクトを除外する決定を下したと相次いで報道した。支援対象になるためには、CCSの実現可能性を示すよう求めているという。現地メディアは、豪州側からの資金支援がなくなる可能性に危機感を募らせたK社の現地担当者が交渉を開始すると報じた。

水素支援に難色を示すビクトリア州

実証事業には、ビクトリア州政府と連邦政府がそれぞれ5000万ドルの資金を拠出した。しかし商用化の段階になって急に支援から除外する可能性に言及し始めたのだからたまらない。

ビクトリア州G党のT氏は「ビクトリア州にはふさわしくないプロジェクトだ。 このプロジェクトは石炭を存続させようとしている」と厳しく批判する。

HESCプロジェクトにはCCS事業も含まれているため、関係企業には動揺が広がっている。しかしG党のT氏は「CCSは夢物語だ」と強硬だ。

豪州側の支援が続かず、プロジェクトが頓挫すれば、ただでさえ脆弱な水素供給網がより厳しい状況に陥る。日本のグリーントランスフォーメーション(GX)の要の一つとなる水素戦略が揺らぎかねない。

現地の日本企業関係者は「豪州の政策はころころ変わるので安心できない。最近人気に陰りが見え始めているアルバニージー政権が国内向けの人気取りに走っている可能性があり、気が気でない」と苦悩する。

再エネに自治体が「待った」 宣言や課税で乱開発阻止へ


災害の発生が危惧され、誇りである景観が損なわれるような産地への大規模太陽光発電施設の設置をこれ以上望まないことをここに宣言します」

8月31日に福島市の木幡浩市長が行った「ノーモアメガソーラー宣言」は、行き過ぎた太陽光乱開発に対する明確な意思表示となった。福島市は20を超えるメガソーラー事業を抱えており、景観面で大きな被害が出ている。「市民生活の安全安心を守り、ふるさとの景観を地域の宝として次世代へ守り継いでいかなければならない」と、山面へのメガソーラー設置計画に反対する姿勢を示した。

再エネ新税に意欲を見せる宮下知事(7月撮影)

再エネ課税の動きも広がる。宮城県議会では7月4日、森林開発を伴う再エネ発電設備の所有者に課税する全国初の条例が成立した。また青森県の宮下宗一郎知事も9月12日、再エネ事業者に対する新税の検討に言及。第1弾として陸上・洋上風力への課税導入について、県議会で関連条例案の議決を目指す。新税の経緯について「都会の電力のために青森県の自然が搾取されている」と強調した。

長らく続いた不適切な再エネビジネスの「野放し状態」に、しびれを切らす地元自治体。これを機に、政府も乱開発規制の強化に一段と踏み込むのか、注目だ。

脱炭素先行地域事業の進捗評価 基準見直しでより高い実現可能性へ


【識者の視点】磐田朋子/芝浦工業大学副学長

環境省肝いりの「脱炭素先行地域」は、目標の100カ所に対し第3回までに60件程度の提案が選定された。

これまでにどのような課題や成果が見えてきたのか。選定に関わる評価委員の識者が見解を述べる。

 2030年までに全国100カ所で脱炭素のモデル地域づくりを目指す脱炭素先行地域の選定は第3回まで終了し、計62提案が選定された。第1回募集から約1年半を経て計187件(重複含む)の提案があった。評価委員会ではより優れた提案を選ぶため、たびたび選定基準を改善してきた。

脱炭素先行地域とは、地域課題解決と住民の暮らしの質向上の両者を実現しながら、脱炭素への方向性を示す地域であるという大前提のもと、確実に30年までに民生部門の電力消費に伴うCO2排出実質ゼロを実現する提案が必要となる。どうすれば地域の皆を巻き込んで脱炭素に向かえるのか、そのために新たに必要となるビジネスモデルは何か、といった問いに答える提案が期待されている。


項目を適宜改定 合意レベルの熟度把握へ

評価委員会では、先述の目標達成に必要な要素として、自治体における推進体制が整っているか、再生可能エネルギー電源を導入予定の関係者から合意を得られているか、資金調達の目途はついているか、住民が主体的に脱炭素型ライフスタイルに移行するための工夫が講じられているか。こうした実現可能性に関わる項目に加えて、地域活性化への貢献や、モデル地域としての波及を考慮した議論が行われている。

第3回に至るまで、環境省も評価委も評価における視点にブレはない。しかしながら、書類選考とヒアリング選考において先述の項目を十分評価するために必要な情報が欠けていると感じる点が、回を重ねるごとに生じた。そのため、選定基準を都度改定してきた。

例えば再エネ電源を確実に追加導入するためには、設置場所の土地・建物所有者の合意を得ていることが必須である。第1回選考では、応募書類の中で合意の有無を明記する欄を設けず、ヒアリングで都度確認することとなった。

しかし、一言に合意といってもレベルはさまざまである。再エネ導入に関心があるのみで口頭ベースの合意もあれば、再エネ電源の所有者の経済的負担や電気代に関する具体的情報を共有した上での合意もある。あるいは、経済的負担も考慮し合意したものの建物耐荷重性の問題から実際には設置できないケース、環境アセスメントや周辺住民の理解が得られていないケース、など実にさまざまだ。

こうした課題を全てクリアし、高い熟度で合意形成が進められる自治体はほとんどない。そこで第2回募集では、合意の熟度を書類上に記載する項目を追加した。加えて、地域の状況を熟知する環境省地方事務所からの情報も共有した上でヒアリング選考を実施することで、より正確に合意の熟度を理解できるよう、改善されてきた。

ステークホルダーとの合意形成がカギを握る

ほかにも、地域で再エネ・省エネビジネスを実施するための金融機関との連携状況、具体的な電力販売価格設定や事業収支計画書の提出を求めるようにするなど、「先行地域」を見極めるため、回を重ねて応募書類の改善を進めている。

「反西側」陣営に中東加盟 求められる石油戦略の再構築


BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)連合の拡大が、エネルギー関係者の関心を集めている。8月24日、南アフリカで開かれたBRICS首脳会議で、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、イランなど6カ国が来年1月から正式加盟することが決まった。

BRICSに加盟するサウジとUAE

一見すると、中露が主導する「反西側」陣営が、中東の主要産油国に対する影響力の強化に成功した格好だ。このため、「西側のエネルギー安全保障体制に大きな影を落とすのでは」(大手エネルギー関係者)と見る向きが出ている。とりわけ日本にとっては、サウジ、UAE両国で石油調達量の77%を占めるだけに、その動向は無視できない。

ただ一方で、石油アナリストによれば、「中東諸国にとって根本的に重要なのは、航行の自由を含む国際石油秩序の維持だ。今後も米国に安全保障を依存する情勢は変わらず、過剰な懸念は必要ない。むしろ問われるのは、西側主導の国際政治・経済運営の不備であり視野の狭さ」だという。

脱化石や再エネ拡大に偏重し、石油政策をなおざりにしてきたことがBRICS拡大を招いたとすれば、西側に必要なのは現実的な石油戦略の再構築である。

地熱活用をトータルで支援する 世界トップレベルの技術者集団


【西日本技術開発】

九電グループの西日本技術開発は、40年以上にわたり国内外の地熱事業に携わっている。

調査から運用まで一貫して担う総合力を持ち、その指折りの技術力は世界から高い評価を得ている。

海外の地熱開発は、危険と隣り合わせのことがある。「途上国では部族間の争いに巻き込まれそうになったり、政局が不安定な国ではクーデターが始まったりする。山奥では疫病への注意も欠かせない。だが、国際協力で相手国が自国の固有資源であり、温室効果ガス排出削減につながる地熱を有効利用しようとしている。その支援ができることは大きな喜び」。こう話すのは、国内唯一の国際地熱コンサルタント部門を擁する西日本技術開発の松田鉱二取締役だ。

西技開発は1967年に創立。以降、九州電力の発電所開発や維持など幅広い建設コンサル事業者として、50年以上にわたり九州の産業インフラ構築に貢献している。地熱発電については、67年に九電が大分県に事業用として国内初の大岳発電所を建設。火山の多い九州で、西技開発も九電と共に地熱事業にいち早く取り組んできた歴史がある。

73年の第1次オイルショックの後、通商産業省(当時)が主導で全国の地熱資源調査を進め、西技開発も受託して多くの事業に携わった。77年、九電が日本最大の八丁原発電所を大分県に建設した際も参画し、翌年には組織に「地熱部」が誕生した。

海外進出もこの頃始まった。国際協力機構(JICA)の海外技術者研修プログラムで講義を担当するなど、JICAを通じた技術支援は40年以上続いている。今では技術支援以外でもアジア、中南米、アフリカなど20か国以上で地熱プロジェクトの実績がある。英語社名「WestJEC(ウエストジェック)」は海外の地熱業界で広く知られた存在だ。


高精度の資源量評価 計画から運営までサポート

西技開発の最大の強みは、地熱コンサルとしての総合力にある。計画・調査から発電所の建設・運営まで全ての段階をカバーできるコンサル会社は世界にも数社しかない。

地熱部には約50人が所属。資源調査や評価に係る「地球科学調査」、大深度の抗井を高温化で掘削する工事の「監理技術」、蒸気・熱水の生産や地下資源の評価・管理に係る「貯留層工学」、発電所の設備設計・工事監理を担う「機械技術」の専門家が在籍し、人材育成も行っている。

地熱開発のポイントは、蒸気や熱水がある貯留層の評価技術だ。資源の特性や規模によって発電の方式や出力が決まるため、計画段階での正確な評価が事業の成功を左右する。

同社は、地熱資源の評価に、世界最先端の汎用ソフトや独自の解析ツールを活用している。MT法と呼ばれる電磁法探査などで地下構造を解析。さらに、これらのデータを集約しデータベースに取り込んで三次元画像にする。ただし、これらの画像からだけでは地下に熱水や蒸気が存在しているかどうかの判断はできない。「データはあくまでも考える材料。解析結果や三次元の地下構造から、各専門家が経験に基づき評価、考察して掘削場所を判断する」という。

どのくらいの幅を持ってデータを読むか、地質が異なる海外の多様な事例を扱い、技術力を高めてきた専門家が力を合わせる。精度の高い評価に加え、20年30年先まで維持できるかどうかも、解析技術と豊富な経験で予測する。

同社の総合力は高い信頼を得、現在取り組む開発地点の案件数は九州で10数件、九州を除く国内で約10件、インドネシア、ケニア、コスタリカ、ジブチなどの海外で10数件。業務数は毎年100件を超える受注がある。

地熱事業には多岐にわたる専門家が必要。西技開発は全ての段階をワンストップでサポートする

豪州で盛り上がる原発導入論 最大野党が次期選挙で争点化も


原子力発電所の建設を禁止しているオーストラリアで、原発導入の気運が高まっている。

最大野党の保守連合(自由党・国民党)は、2025年に予定される総選挙の公約に原発導入を掲げる見通しだ。

「労働党は、地方部への再生可能エネルギー導入と送電網の開発を性急に進める誤った判断をしている」。自由党きってのエネルギー政策通で、原発推進派のテッド・オブライエン下院議員は8月、原発に反対するアルバニージー現政権のエネルギー政策を痛烈に批判する傍ら、立地地域の住民の意見に配慮しながら原発導入を進めていく必要性を強調した。

野心的な脱炭素政策を掲げる豪州は、火力発電所の閉鎖計画でエネルギー不足が顕在している。エネルギー問題の解消、産業転換による雇用の確保、気候変動対策という三つの背景から、最大の争点に浮かび上がる可能性が出てきた。

自由党が次期総選挙をにらみ、原発の導入推進を声高に訴え出したのは、1年前にさかのぼる。ピーター・ダットン党首が政党間協議の場で「エネルギーの安全保障に寄与し、電力価格を下げる手段として、次世代の原子力技術の可能性を模索する」と明言したのだ。保守連合は原発推進を次期総選挙の公約とする方向だ。原発導入に反対する現政権のエネルギー政策との違いを鮮明にすることで、政権奪取の足掛かりをつくる狙いが透けて見える。

豪州では1990年代に制定された「環境保護・生物多様性保全法(EPBC法)」と、「放射線防護・原子力安全法」の二つの連邦法に原発開発を禁止する条項が盛り込まれている。世界最大のウラン埋蔵国であるにもかかわらず、原発の建設、稼働ができないのはこのためだ。


現実的な選択肢で俎上に 電力の危機的状況が後押し

ただ自由党など保守勢力は2000年代から原発の可能性について模索していた。モリソン前政権内でも、二つの法律から原発活用を禁止する条項を削除することを、総選挙の公約にしようと目論んでいた経緯がある。

今回、保守連合が再び原発導入の議論を活発化させてきたのは、保守勢力の悲願を現実のものにしたいという表れだ。

だが原発導入の議論は単なる政争の具として浮上しただけではない。豪州のエネルギーの在り方を問いかける現実的な選択肢として俎上に載せられたのだ。急激な脱炭素化による深刻な電力不足が顕在化したことが、大きく影響した格好だ。

豪州のエネルギー市場の管理などを担うエネルギー市場オペレーター(AEMO)は8月下旬、23年12月~24年2月ごろの夏季にかけて電力需給がひっ迫する可能性があると警告した。一部の州では停電リスクがあるとも指摘。気候変動の影響が顕著になる今後10年間について、一部の州を除き全国的に供給不足に陥る可能性があるというのだ。

現政権は脱炭素化を急速に進める政策を前面に打ち出し、30年には再エネ発電量を現在の約40%から82%に引き上げるという途方もない目標を掲げている。

このため、やり玉に挙がる石炭火力発電所などは早期閉鎖を余儀なくされており、すでにいくつかの火力が停止している。再エネ導入は急ピッチで進められているものの、新規投資が遅れており、火力の閉鎖分を補えるほどではない。気候変動の影響で高まっている需要に対して、有効な策が打てない状況といえよう。

自国産ウラン資源を活用する狙いも(豪州北部のウラン鉱山)

こうした電力の危機的状況が、原発導入の議論を後押ししていることは否めない。前出のオブライエン下院議員の政権批判も電力不足問題の延長線上にある。火力のように温室効果ガスを排出しない、自然条件で変動する再エネとは違い設備稼働率が安定的な原発こそが、脱炭素化と電力不足を両立できるというわけだ。

こうした状況が理解されているのか、世論も原発導入には好意的だ。豪州の経済紙オーストラリアン・ファイナンシャル・レビューが7月に実施した読者調査によると、回答者の58%が化石燃料を廃止するための解決策として、小型モジュール炉(SMR)を使った原発の導入を望んでいると答えた。また資源業界団体の最近の調査でも、原発導入について賛成が45%に上ったという。

経済界も前向きだ。現地メディアは、経済団体のオーストラリア産業グループとオーストラリア・ビジネス・カウンシル、オーストラリア労組が22年8月、上院委員会で原発を電源構成から除外しないよう求めたと報じた。

オーストラリアの建設・林野・鉱山・エネルギー労組は、老朽化した石炭火力の代わりに、SMR建設を提案した。これにより、10年間で810人の直接雇用と建設時に1600人の雇用が創出されると説明。産業転換による雇用問題の解決にもつながると主張している。


政権側は火消しに躍起 日本のビジネス機会に?

このような原発推進の動きに対し、政権側は火消しに躍起だ。現地メディアの報道などによると、クリス・ボーエン気候変動・エネルギー相は、コストが極めて高いことや、建設に時間がかかり、多大な放射性廃棄物が出るなどの理由から原発導入に反対している。

他の政権幹部は「野党の原子力に対する新たな恋心は、最も安価なエネルギーである自然エネルギーにイデオロギー的に反対しているだけだ。根拠がある信頼できるエネルギー政策を(自らが)持っていないという事実から目をそらそうとしているにすぎない」と、野党側を厳しく批判した。

ただ与党労働党が賛成する豪米英の安全保障枠組み「AUKUS(オーカス)」による原子力潜水艦の導入が、豪州内での原発を含めた原子力の技術研究や開発に道を開くきっかけになるのではないかとの指摘もある。

豪州では25年の総選挙に向けて、原発導入の是非を巡る議論はさらに盛り上がることだろう。エネルギー政策の失策が原因で政権交代が起こるようなことがあれば、原発の導入が現実味を帯びてくる。日本のエネルギー関連企業にとっても新たなビジネスチャンスが到来するかもしれず、動向から目が離せない。

秋本氏逮捕も賄賂性否認 汚職事件を巡る不可解な点


国の洋上風力公募を巡る汚職事件で、元自民党の秋本真利衆院議員が9月7日逮捕された。報道などによれば、日本風力開発の塚脇正幸前社長から、①青森県の海域で強い規制をしないこと、②公募の評価基準見直し―に関し、国会質問を依頼された見返りに賄賂を受けた受託収賄容疑だ。

日風開は、公募の対象となった秋田県内の複数海域のほか、青森県・陸奥湾などでも環境アセスメントを実施し、風力事業の展開を狙っていた。こうした背景から、塚脇氏は秋本容疑者への贈賄を認めているものの、肝心の秋本氏は東京地検の調べに対し一貫して贈収賄性を否認しているもようだ。

東京拘置所に入る秋本氏を乗せたとみられる車

この事件を巡って、不可解な点が二つある。一つは、秋本氏が家宅捜査を受けた8月4日時点で、日風開がウェブサイト上で「当社が国会議員ほか公務員に対し贈賄をした事実は一切なく、この点を立証できる客観的な証拠が数点存在しています」と、完全否定するコメントを出していたことだ。が、その1週間後に塚脇氏はなぜか賄賂性を認め、今回の秋本氏逮捕につながった。客観的な証拠は一体どうなったのか。

もう一つは、経産省が昨年3月18日に、公募中だった秋田県八峰町・能代市沖のルール見直しを発表したが、2カ月後に示された見直し案はなぜか日風開・秋本氏側の狙いとは異なる内容になっていたことだ。「経産省事務局が彼らの要求に左右されず見直しの検討を進めたからだろう。塚脇氏の変化についてはおそらく司法取引でもあったのでは」(事情通)

一方で、秋本氏を巡っては2年前の電力高騰時にも資金提供を受けた疑いが一部で取り沙汰されている。事件の波及に要注目だ。