【原子力】水産物を輸入禁止 中国の政治的意図


【業界スクランブル/原子力】

福島第一原発のALPS処理水の海洋放出が始まった。日本が放出する処理水のトリチウムの濃度が国際基準を下回っていることはIAEA(国際原子力機関)も認めている。にもかかわらず、はるかに多くのトリチウム量を自国の原発から放出している中国が科学的根拠を無視して、日本からの水産物輸入を理不尽にも全面的に禁止するという強硬措置を打ち出した。

そこには日本との友好の理想はみじんも見えない。もはや、今後のわが国の課題は国内の風評被害対策というよりも、いかに中国依存から脱し、日本の国民が福島県をはじめ東日本の太平洋岸産の水産物を買い支える連帯精神を発揮できるかという方向に移ってきたようだ。

開沼博・東京大学大学院准教授は「中国への水産物の輸出額は1600億~1700億円なので、国民一人が福島産の魚介類を1年間でその分、余分に買えばよい」と提案している。これこそあるべき考え方であろう。岸田首相がすみやかに自らそうした活動の先端に立つことを望みたい。

中国の共産党政権が海洋放出に反対するのは、無理にでも問題化して政治利用したいという思惑・意図からだ。民主的選挙を経ない共産党政権は専制的だが、経済変調がもたらす国民の怒りにおびえる弱い体制でもある。国民の不満の矛先を日本に向け、反日カードに利用したいのだ。

中国の傍若無人ぶりに対して、科学的根拠に基づき論破しようという声が一部に根強い。だが、中国の本音が袖から透けて見える今、そうしたアプローチには多くを期待すべきではない。狙いの本質を見極め、冷静に処理水放出問題の解決を図り、わが国の水産業を守ることに徹すべきである。(S)

【シン・メディア放談】ALPS処理水の海洋放出 異形の大国・中国リスクを再認識


<エネルギー人編> 電力・石油・ガス

東京電力がALPS処理水の海洋放出を開始した。

中国による嫌がらせ行為を日本国民はどう受け取ったか。

─迷惑電話などの嫌がらせ行為はマスコミの格好のネタになった。

ガス テレビを見ていると、漁業者の不安の声や嫌がらせの内容にフォーカスした報道が目立つ。いわゆる社会面的な報じ方だが、こうした報道が風評被害を増長させていないか。処理水放出の安全性や福島県へのふるさと納税額の急増、放出前と変わらず営業している飲食店なども積極的に取り上げるべきだ。

石油 ニュース番組では、最後の株価·為替情報と同じ扱いで淡々と「今日のトリチウム濃度」を伝えたらいい。原発事故直後、漁業者や農家は水産・農産物から基準値超えの放射性物質が検出された時だけニュースになるので困ると言っていた。彼らにとっては「安全」であることにニュースバリューがある。

電力 そもそも、処理水関連のニュースを大々的に報じる必要性があるのか。漁業者の苦悩はあれど、一般国民の生活にはほとんど影響しない。風評被害を増やすだけなら、報道しない方がマシだ。

「仮想敵」となった日本 習近平の異様な経済観

─外交問題になり、朝日や毎日は「対話」の重要性を説いた。

石油 理解する気がない相手と対話するのは時間の無駄だ。新聞がうわべの中国批判を繰り返す中、『ニューズウィーク』(9月12日号)の「処理水で中国が日本をたたく本当の理由」にはうなった。書いたのは香港生まれの経済学者リアン・イーゼン氏。

「共産党支配が始まった当初は地主が『人民の敵』としてサンドバッグになった。その後は『資本主義に走る特権的官僚』のレッテルを貼られた鄧小平ら『走資派』がその役目を果たし、鄧の時代、そして今の習近平時代には、『小日本』がたたかれることとなった」

共産党政権の歴史を振り返りながら、「反日」の根源を突き詰める重層的な内容だった。不動産バブル崩壊などの国内問題から国民の目を逸らすため、日本を「仮想敵」につるし上げたのだろう。

ガス 一連の対応は、日本人に中国と付き合う危険性を知らしめた。3月にはアステラス製薬の幹部が「スパイ容疑」で拘束され、今も5人の日本人が帰国できずにいる。中国経済の先行きは暗く、市場としての魅力もかつてほどではなくなった。

電力 中国は鄧小平以降、自由主義経済を取り入れて経済発展したが、習近平の経済観とは相容れないようだ。彼は欧米流の経済成長は浪費が多く「贅肉的」だとして批判的な立場に立つ。そして、消費主導ではなく「筋肉質」な技術大国にすると意気込んでいる。その「哲学」を裏付けるように、党機関紙『求是』によると8月16日の演説で、消費を促す景気刺激策は避け「忍耐」を促すと語ったという。

石油 実際に地方では、誕生日パーティや新築祝いが禁止というから驚きだ。

電力 そういう「ぜいたく」こそ経済成長につながるのだが……。倹約の奨励など前時代的な発想だ。日本が江戸の三代改革で失敗しているではないか。

ガス 習近平が経済オンチであることは間違いない。ただ党内政治にはめっぽう強く、権力闘争に勝利した習近平は3月、任期制限を撤廃した。彼がトップにいる限り、中国経済は危ういが、大躍進政策で大失敗した毛沢東をあがめるのが中国共産党だ。民主主義国と違い、経済的な失政は党内の権力争いには直結しない。

総選挙につながるシナリオ 補助金継続でいいのか

─処理水放出前には経済産業省が漁業者との折衝を繰り返し、最後は岸田文雄首相が政治決断を下した。

電力 経産省の粘り強い交渉と、岸田首相が「夏ごろ」という放出予定時期を守ったことは評価されるべきだ。

石油 日本政府にとっては、結果的に中国による強硬措置がプラスに働いた面もある。野党も中国を批判せざる得ず、政府批判はトーンダウンした。

ガス 中国が日本バッシングを始め、日本国民が一致団結。政権批判は沈静化―。政権がこうした流れを想定していたのなら恐ろしい。文春報道で騒がれていた裏で、木原誠二前官房副長官がシナリオを練っていたりして(笑)。

石油 そのシナリオには先がある。臨時国会で物価高に対応する経済対策を打ち出し、秋に解散総選挙―。早ければ「10月末解散」という噂も聞こえる。

─物価高対策には激変緩和措置の長期化など批判的な声も。

電力 岸田首相は植田和男日銀総裁と歩調を合わせているのだろう。植田総裁は就任就任前の日経(2022年7月6日)の「経済教室」で、食料·エネルギー価格の上昇など円安による悪影響には、「財政」による対応が適当と書いている。今年8月22日に岸田・植田両者は面会したが、こうした見方を共有したはずだ。

ガス 日米の金利差による円安はメリットの方が大きく、金融政策では対処しないということだ。イールドカーブ・コントロール(YCC)の修正で金融緩和の「出口論」が盛んだが、しばらくは継続されるだろう。

石油 そもそも植田総裁はかねてから、金融緩和の継続は必要だが、長期金利をコントロールするYCCには疑問を投げかけていた。金融緩和の「出口」には、任期(5年)をかけてゆっくりと向かうはずだ。

電力 物価高対策は企業や家計の負担軽減のために意義がある。ただ植田総裁は「経済教室」で「低所得層への所得支援を中心とする対応が適切」と書いていた。

─補助金以外の方法も「検討」してほしい。

【石油】ガソリン高騰対策 トリガー条項では混乱


【業界スクランブル/石油】

8月30日、ガソリン全国平均価格が185・6円と過去最高値を更新した。これに対し、岸田首相は9月末終了予定の燃料油補助金を9月7日から拡充・増額の上、年末まで延長、10月からは175円前後に値下がりすると発表した。補助金については、市場への介入、脱炭素への逆行、6兆円もの所要財源などを理由に批判が強く、むしろ、「トリガー条項」の復活を望む声が大きい。

これは160円以上のガソリン価格が3カ月連続した場合、ガソリン税・軽油引取税の旧暫定税率(各25・1円、17・1円)を減税するというものだが、現在、震災財源臨時特例法で適用停止中で復活には法律改正が必要となる。

確かに補助金より減税の方が市場への悪影響は少なく、制度的にもスッキリするが、問題点も多い。政府は適用前後の混乱、適用範囲の狭さ・不公平性を理由に復活に反対している。国会の混乱で2008年4月に暫定税率が1カ月間停止され、トリガー適用と同じ状況になった際、減税前には買い控え、増税前には買い急ぎで品切れが多発、ガソリンスタンドは課税品を減税価格で売り、暫定税率分の取りはぐれも発生した。またトリガー復活は自動車ドライバー、運輸業界だけが受益者で、補助金対象の灯油利用家庭や農林水産業には恩恵が及ばない。

政府与党の本音は、トリガー条項が鳩山内閣の暫定税率廃止公約の代替措置であることだろう。すなわち、当時、民主党は小沢一郎幹事長主導で、ガソリン税減税を政権公約にしたが、財源を確保できず断念したため、その代わりに、せめてガソリン価格が高騰したら減税することにした経緯がある。その意味で、トリガー条項は「民主党政権の置き土産」「小沢一郎の怨念」である。(H)

【コラム/10月20日】電力分野のプロダクト創出のために求められるデジタル化


矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

デジタル化は、すべての生活領域に浸透しており、もはや押しとどめることのできない現象である。デジタル化の進展により、すべての経済部門で新たな挑戦が生まれており、新たな価値創出が求められている電力分野も例外ではない。ドイツでは、デジタル技術に基づく様々なプロダクトが創出されているが、エネルギー業界団体BDEWの調査によれば、電力分野で求められるデジタル化とは、つぎのようなものである。

(1)プロダクトを構成する要素のネットワーク化

例えば、コネクテットホームは、家電などをIoT機器でネットワーク化したプロダクトである。

(2)顧客の要求を満足させるデジタル技術を駆使したプロダクトの構築

(3)企業内部および企業と外部企業・顧客とのインターフェイスのデジタル化

(4)データに基づく新たな価値創造および価値連鎖全体のデジタル化

例えば、顧客データの分析により発見された新たな価値の創出のために価値連鎖の再構築を行う場合、価値連鎖全体をデジタル化しておくことが求められる。

(5)プロセスの自動化およびフレキシビリティの制御

例えば、VPPでは運転のスケジューリングから取引、機器の制御までのプロセスを自動化している。

(6)デジタル情報に基づく負荷の予測とバランシング

負荷予測が正確であるほど、バランシングのコストは削減できる。予測の精度は、スマートメータデータ分析等により高めることができる。

電力の販売事業がこれらの挑戦に挑むためには、IoT、AI、 ビッグデータ解析、ロボティクスなどの先端的技術要素が必要である。将来的には、販売事業が顧客に提供するサービスは多様な要素から構成され、顧客サイドからは、純粋なエネルギー購入は全体の一部でしかない。場合によっては、顧客はエネルギーへの支払いを内包したプロダクトを購入することになろう。

そのようなサービスでは、機器やデータのネットワーク化が常に進展している。そして、このようなネットワーク化は、必然的に相互接続を可能にする技術の標準化を要求する。例えば、わが国では、家電などをIoT機器で接続するスマートホームにおいて、標準規格は存在していない。ベンダーの独自開発の技術間に互換性がないことが、スマートホームの普及を妨げており、スマートホーム製品の相互接続を可能にする標準化が求められている。

また、間欠性電源である再生可能エネルギーからの電力の増大により、従来の需要志向的な生産から供給依存的な消費への転換が不可欠となっており、販売事業は顧客に存在しているフレキシビリティのポテンシャルを活用するとともに、さらなるポテンシャルを引き出すデジタルソリューションの開発が求められている。

負荷移行の活用により、系統の負荷を軽減し、その建設を遅らせるか回避することが可能となる。また、容量市場が設立される場合には、同市場へのフレキシビリティの投入を通じて追加的な発電能力を最小限度に抑えることができる。さらに、フレキシビリティを需給調整市場に供出することにより、系統のバランシングに寄与することが可能である。

フレキシビリティの利用に関しては、B2C(business to consumer)セグメントとB2B(business to business)セグメントとでは、基本的な違いはないが、その利用の促進のためには、自動化されたシステムが必要である。違いは、B2Bセグメントは、生産プロセスで様々なエネルギーが様々な形で用いられており、フレキシビリティの活用はより複雑である。

また、消費全体に占めるフレキシブルな負荷の割合の違いも指摘できる。通常、フレキシビリティのポテンシャルは、B2BセグメントよりもB2Cセグメントのほうが将来的には期待できるだろう。というのは、温水・冷暖房需要が、そして将来的には、電気自動車の充電需要が、家庭顧客のエネルギー消費の大きな部分を形成することになり、これらの消費は負荷移行に良く適しているからである。

最近の電気料金の高騰で、顧客のフレキシビリティを引き出すデジタルソリューションのビジネスのチャンスが拡大し、また顧客の電力市場への関与の可能性はこれまで以上に高まっており、電気事業としても新たな販売戦略の策定が求められている。

【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授、東北電力経営アドバイザーなどを歴任。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。

【ガス】中国にお株を奪われない 中東との関係構築を


【業界スクランブル/ガス】

現在、日本の原油輸入先の中東比率が95%を超えている。第二次石油危機後、一時68%まで下がった中東比率だが、ウクライナ戦争でロシア産原油が入ってこなくなるなどで、過去最大に。さらには、輸入先の7割強がサウジアラビアとUAEで占められているのだ。

サウジは米国との関係を後退させる中、中国から急接近を受けている。昨年、中国の依頼に従い原油取引を人民元で決済することを認め、年末には中国の仲介によって、犬猿の仲だったイランとの国公正常化に合意した。次いで、8月24日のBRICS首脳会議では、サウジアラビア、UAE、イランの加入が決定した。サウジを中心とした中東諸国が急速に中国に取り込まれていくことで、中国は中東原油に対する影響力を強めていく。そうなると、仮に中国の台湾侵攻が起きて日本が中国と対峙する情勢になった場合、サウジやUAEが中国に協力し日本向け輸出を制限する可能性も出てくる。

これはLNGにとって対岸の火事ではない。過去のオイルショックや湾岸危機のように原油を取り巻く環境が大きく変化し、輸入の滞りなどにより価格が急騰すると、原油価格にリンクする長期契約価格やスポット価格も急騰して、LNG市場は混乱することになる。

7月、岸田首相はサウジ、UAE、カタールの中東3カ国を歴訪し、安倍元首相以来久しぶりに資源外交を行なった。石油の最重要国に加えて、世界のLNG生産工場であるカタールとの関係強化は、日本にとって欠かすことができない。そもそも長年親日である中東諸国との関係強化は、本来日本がやるべき役割であろう。中国にお株を奪われないよう、今後の日本政府の継続的・戦略的な取り組みに期待したい。(G)

テキサスにみる電力モデル


【ワールドワイド/コラム】水上裕康 ヒロ・ミズカミ代表

米国テキサス州は、この夏の間中、電力危機に見舞われていた。今回の危機は寒波で発電関連設備が凍結した2021年の大停電とは様相が異なる。6月以降の猛暑で最大電力の更新が続き、供給予備力は低下、市場価格は何度も上限の5000ドル/MW時(約725円/kW時)に迫った。系統運用者のERCOTは節電要請を繰り返していたが、ついに9月6日、「緊急アラート2」を発令、予備電源の利用、デマンドレスポンス(DR)の発動などを行った。

同州では、この10年で風力と太陽光の発電量が合わせて3倍に急増、全発電量の約25%を占めるようになった。一方で、火力設備は横ばいで推移。この夏は、火力・原子力の安定電源だけでは最大需要を賄えなくなった。風が弱い昼間は太陽光が、夕方以降は風力が供給を担う「必勝リレー」を称賛する声もあったが、あくまで「お天気任せ」なのだ。

容量市場を持たず、kW時市場に発電設備の投資回収を委ねる「エナジーオンリーマーケット」の採用や、再エネの導入先進地として、テキサスは注目を集める。このモデルは、そもそも需給と価格の不安定さが前提であろう。市場価格が激しく騰落すことで、火力、蓄電池、DRなどが利益を上げ、増加する再エネを調整力としてサポートできる。

思えば、電気は「いつでも、同じ価格で、欲しいだけ」というのは、ダム式水力や火力などの調整力が出現して以降の常識だ。自流式水力が主流の時代には、大口のお客さまなどに負荷調整をお願いし、最悪は停電によって需給の均衡は維持されていた。テキサス・モデルでは「電気は再び天気に応じて使う時代」という割り切りも必要なのだろう。ただ、風力が豊富なテキサスと違い、太陽光中心の日本では、日没とともにロウソクを灯すことになりそうだ。

【新電力】複数年の相対卸契約 事業安定化に期待


【業界スクランブル/新電力】

8月8日の総合資源エネルギー調査会電力・ガス基本政策小委員会において、昨年度から議論になっていた「内外無差別で安定的な電力取引を実現する仕組みの構築」の一環として、旧一般電気事業者・JERAからの複数年契約の相対卸の販売の計画の説明がなされた。

これまで、公の形で単年契約以上の相対卸が促進されたケースは非常に少なく、発電事業を営んでいない小売電気事業者にとっては、事業ポートフォリオを安定化させるために有効な取り組みになることが期待される。供給力全体の不足が課題として残る中、どの程度の取引水準となるかが注目である。

6月末の電力・ガス取引監視等委員会の制度設計専門会合で発表された内外無差別な卸売りの評価結果は、北海道・沖縄電力が内外無差別な卸売りを行っていると評価された。この評価の中で、半数以上のみなし小売電気事業者の小売料金が調達価格を下回っていることが明らかになった。

規制料金を中心に小売料金が抑えられてしまっていること、既出の長期相対卸へのアクセスが無差別的でないことが要因と考えられるが、ここが解消されることが競争環境の適正化の前提となるところであり、監視・制度の設計の強化を期待したいところである。

とはいえ、発電事業者からすると、固定収入が予見できていたところが、リスクを高める方向になるわけで、制度による制御はより難しくなる。審議会の委員からも、発販双方に分散的になっていく中で、全体の最適解は一意に定めるのは不可能に近いという声もある。供給力の確保・電源構成の入れ替え・諸外国と比較した電気料金の推移を見ながら、操縦するように制度を設定していくことが求められる。(S)

不調のG20環境・気候相会合 両論併記議長サマリーの真意


【ワールドワイド/環境】

7月28日のG20環境・気候・持続可能大臣会合は予想されたとおり、共同声明を採択できす、議長サマリーを発出して終了した。5月のG7サミットでは中国、インドを念頭に「30年目標や長期戦略が1・5度の道筋や50年ネットゼロ目標に整合していない国に対し、COP28に先立って目標の強化、50年ネットゼロへのコミットを求める」との共同声明が採択された。

しかしG20では「パリ協定の気温目標にNDC(国が決定する貢献)を整合させていないすべての国に対し、各国の異なる事情を考慮しつつ、23年末までに、必要に応じて30年目標を再検討し、強化するよう求める」との過去、合意済みの文言を繰り返すにとどまった。「パリ協定の気温目標」は産業革命以降の温度上昇を1・5~2℃に抑制するものであり、1・5℃よりも求められる削減スピードが緩やかであるため、中国、インドの目標引き上げのプレッシャーにはならない。

議長サマリーでは「IPCCの最新報告書の見解や世界的なモデル経路など、緩和に関する問題が取り上げられた。一部のG20メンバーは、遅くとも25年までに排出量を世界的にピークアウトさせ、19年比で35年までに排出量を60%削減する必要性を強調した。(中略)一部のG20メンバーは、パリ協定の気温目標を達成するためには、排出削減と除去の両方が重要であると述べた。一部のG20メンバーは先進国が40年までにネットゼロを達成する必要性を述べた」と異なる見解が両論併記された。言うまでもなく世界全体の削減目標を主張しているのがG7の先進国であり、先進国40年ネットゼロを主張するのは新興国である。

G7諸国はIPCC第6次評価報告書に記載されている25年ピークアウト、35年マイナス60%をグローバルストックテイクに関するCOP28の結論文書にも入れようと目論んでいるが、途上国のシンクタンクは、IPCCシナリオは気候変動枠組み条約の「公正だが差異のある責任」や衡平性の原則を考慮しておらず、先進国と途上国の一人当たり所得や一人当たりエネルギー消費の格差縮小につながらないとの理由で上記の数字を受け入れていない。

G20の結果を見れば、G7諸国とG20の新興国が温暖化防止を巡って「同じページ」にいないことは明らかである。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院特任教授)

【電力】異常さが際立つ 処理水放出を巡るデマ


【業界スクランブル/電力】

東京電力は8月24日、福島第一原子力発電所の処理水の海洋放出を開始した。社会調査研究センターが9月3日に実施した全国世論調査では、54%が「問題はあるが、やむをえない」、29%が「妥当だ」と合計83%が容認しているとのこと。

懸念されていた水産業などへの影響は、国内では「食べて応援」のムードがむしろ高まっているようだ。政府と東電が、IAEAの協力を得ながら入念に準備をしてきたことが奏功したことは間違いなく、関係者の粘り強い努力に頭が下がる。

近隣国では中国が、処理水放出に反発して日本産水産物の輸入を全面的に停止したが、日本政府がかつてないほど精力的かつ毅然とした外交対応をしているので、科学的根拠を欠いた暴挙であることがかえって浮かび上がっているように見える。WTO提訴も毅然と行うべきだ。前政権が東京五輪を放射能五輪などと揶揄していた韓国の現政権が、今回は日本側に立っていることも大きかろう。

中国政府は、国内経済が不動産バブル崩壊で雲行きが怪しい中で、政治的に利用できると思って国民を煽ったのかもしれないが、その結果が日本への電話殺到では、日本国民のみならず他国に対しても異常さを際立たせてしまったのではないか。

一方国内では、「トリチウムは生体濃縮する」という説を広めた社会学者や、東電が以前から公開しているトリチウム以外の放射性物質のデータを隠しているかのようにコメントしたTBSのキャスターなど、少し調べればわかるデマを流布した人たちが炎上している。彼らが確信犯なのか本当に無知なのかは定かでないが、昭和の時代にはオピニオンリーダーと目されていた人たちが実はポンコツだった。処理水放出はこんなことも明らかにしている。(Ⅴ)

英国で進む需給ひっ迫対策 電力調整促すサービスを導入


【ワールドワイド/経営】

再生可能エネルギーの導入が進む英国では近年、電力の需給状況に応じて消費の調整を促すサービスの導入が進む。

きっかけとなったのは、2022年度冬季に想定されていたエネルギー危機への備えである。英国としては初めて、一般家庭も対象とした補償付きの節電による負荷削減サービスを導入。エネルギー料金の高騰が背景にもあるが、一般家庭も電力消費の調整に関心を持っていることが示され、この取り組みは成功を収めた。

一方、夏季は風力や太陽光の発電が増加し、出力抑制の頻発が近年の課題だ。昨冬の節電の成功もあり、今夏は、再エネ発電量が多い時間帯や電力需要が低い週末に電力消費を促す新たなプログラムが導入され始めた。

エネルギー小売大手ブリティシュガスの新プログラムでは、23年6月25日から同年9月24日までの毎週日曜日、午前11時から午後4時までに使用した消費電力量にかかる電気料金を50%割り引く。同社は期間中の割引総額について最大500万ポンド(約9億円)に達すると予想している。

主要新電力のオクトパスエナジーが8月に導入した新プログラムでは、英国内の一部の対象地域において、電力供給が需要を上回ると予想される時間帯の単価を無料にする。配電事業者と提携することで対象地域の需給予測情報を取得。前日までに需要家に電力消費が無料となる時間帯を通知する。特徴的なのは、電力消費を促す時間帯を需要家ごとに個別に割り振り、配電系統の細かなエリアごとに混雑および再エネの出力抑制の低減につなげる点である。

消費調整を促す料金メニューとしては、従来はベースロード電源の運転を考慮した、夜間の単価割引といった時間帯別料金が主流だった。現在は市場連動型プランがあるが、価格高騰のリスクもある。こうした中、小売市場におけるデジタル技術の活用が進み、よりピンポイントに地域の需給状況や需要家の生活に合わせた消費調整が可能になりつつある。電気自動車所有者向けのスマート充電プランの普及も代表的な例である。

英国エネルギー省や規制機関も、一部の事業者で進むイノベーションによる新サービスを多くの需要家が利用できるようにしていく考えを示している。割安な電力単価の自動適用や、需要家によるアクティブな消費調整は、コスト上昇を抑えるだけでなく、電力部門のネットゼロ達成にも欠かせない。今後も英国の小売市場での革新的な取り組みが注目される。

(宮岡秀知/海外電力調査会・調査第一部)

UAEの野心的な脱炭素戦略 COP28控えアピールか


【ワールドワイド/資源】

11月30日~12月12日にドバイで国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)を開催するアラブ首長国連邦(UAE)が、脱炭素への取り組みを強化している。

UAEは7月3日、新たな国家エネルギー戦略、国家水素戦略など、エネルギー関連の重要政策を閣議決定した。新国家エネルギー戦略では、クリーンで持続可能なエネルギーの供給能力強化を目指し、2030年までに約400億~545億ドルを投資して、再生可能エネルギー発電設備の容量を3倍にするとともに、31年までにエネルギーミックス全体に占めるクリーンエネルギーの割合を30%まで引き上げる。国家水素戦略では、国内企業の支援、投資誘致などにより、31年までにUAEが世界有数の水素生産国になるという目標を掲げた。

さらにアブダビ国営石油会社(ADNOC)は7月31日、従来目標から5年前倒しとなる45年までに排出ネットゼロを達成するとの目標を発表した。サウジアラムコなどほとんどの国営石油会社が50年以降のネットゼロ達成を目指す中、ADNOCは野心的な排出目標を設定した。ADNOCは1月、30年までに脱炭素化プロジェクトに150億ドルを投資すると発表したが、ADNOCの低炭素ソリューション責任者は8月、同社の新たな目標設定を受け、脱炭素化予算が150億ドルから増額となる可能性が高いと表明した。脱炭素戦略に関する発表は、COP28開催を控え、率先して気候変動対策を進めるUAEの姿勢を国際社会に向けて積極的にアピールする狙いがある。

ADNOCは脱炭素への取り組みを強化する一方で、石油生産能力を27年までに日量500万バレルに増強する計画を推進している。欧米の環境活動家や環境派の議員から、ADNOCのCEOを兼務するスルタン・ジャーベル産業・先端技術相はCOP28議長として不適格であるという批判が出ているが、ジャーベル氏は主要国政府の支持を取り付けており、同氏の議長としての活動に影響は出ていない。

ジャーベル氏は最近、「化石燃料の段階的廃止は不可避かつ不可欠である」と、国営石油企業としては踏み込んだ発言を行っており、前回のCOP27エジプトで産油国の反対で決議されなかった「全化石燃料の段階的削減・廃止」が今後、COP28の正式議題となり、先進国や発展途上国、産油ガス国など立場の異なる各国間で合意を形成できるかが注目される。

(猪原 渉/独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構調査部)

【マーケット情報/10月13日】原油急伸、中東産の供給不安が背景


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み急伸。中東地域の情勢悪化を背景に、供給不安が台頭した。

イスラエルは、米軍の支援とともに、ガザ地区を拠点とする武装組織ハマスに対して大規模な軍事行動を計画。中東地域の治安が一段と悪化するとの予測が広がった。これにより、中東産原油の供給不安がさらに強まった。ただ、米国はイスラエルに、パレスチナ市民に対する無差別攻撃は控えるよう進言しており、紛争の激化を防ぎたい意向だ。

また、サウジアラビアとロシアは12日、それぞれ日量100万バレルと日量30万バレルの自主的追加減産を、年末まで続けると強調。供給が逼迫するとの見通しが強まった。

加えて、供給面では、国際エネルギー機関が、今年の石油需要予測を上方修正した。中国、インド、ブラジル需要が強まるとの見方が背景にある。


【10月13日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=87.69ドル(前週比4.90ドル高)、ブレント先物(ICE)=90.89ドル(前週比6.31ドル高)、オマーン先物(DME)=88.89ドル(前週比4.14ドル高)、ドバイ現物(Argus)=88.75ドル(前週比4.10ドル高)

「問題の根源は日本にあり」 中国の代弁者に落ちた東京新聞


【おやおやマスコミ】井川陽次郎/工房YOIKA代表

事実誤認に加え、論理も破綻している。東京9月2日社説欄「〈ぎろんの森〉ナショナリズムをあおらない」である。

東京電力福島第一原子力発電所からの処理水放出に対する中国発の日本への嫌がらせ電話などを論じる。異様なのは、朝日、毎日、読売、産経、日経の社説の見出しだけを並べて、「中国側の責任のみを問うことの是非」を問題視した点だ。読解力さえ怪しい。

例えば、朝日8月29日社説「中国と処理水、冷静な対話こそ必要だ」は、「中国の市民が懸念を抱くことは理解できる。朝日の社説は、安全確保と風評被害対策で日本政府と東電が負うべき重い責任を指摘し、国内外で説明と対話を尽くすよう訴えてきた」とした上で、「一方、科学的な議論に応じないだけでなく、正確な情報を国内に伝えず、不安ばかりをあおる中国政府の対応も、極めて責任を欠いたもの」と指摘する。

読売同日社説「処理水放出、中国は嫌がらせを放置するな」、翌日の日経社説「中国は理不尽な迷惑行為をやめさせよ」も、それぞれ「日本政府は、中国の宣伝戦に冷静に対処し、安全性を客観的なデータに基づいて国際社会に説明し続けることが重要」「対中感情の悪化も否めない。だが、いま必要なのは冷静さだ」である。

東京の記事は「問題の根源が日本側にあることは明白」と日本の責任のみを問う。中国政府と同じだ。そして「『迷惑』電話の多さは尋常でありませんが、敵意で応じ、ナショナリズムをあおる報道や振る舞いは厳に慎まねばなりません」。論理飛躍だ。迷惑行為への抗議が、なぜナショナリズムになるのか。福島県の旅館などは深夜の電話に苦しむ。病院や学校も標的だ。台風、地震など災害時なら人命に関わろう。思い込み記事が、当事者を一層苦しめる。

NHKも同類だろう。山口放送局がネット配信した8月26日「(山口県)上関町に使用済み核燃料『中間貯蔵施設』、建設反対派が講演会」は、「環境破壊が避けられない」「周辺では被ばくする可能性」と、反対派の講演内容を引用して恐怖をあおる。

読売8月18日「使用済み核燃料中間貯蔵、上関町、調査受け入れ、中国電に伝達」から経緯を確認する。「中国電力が原子力発電所の使用済み核燃料を一時的に保管する『中間貯蔵施設』を関西電力と共同で建設するため、上関町に申し入れた地質などの調査を巡り、西哲夫町長は18日、受け入れを表明」「町では原発2基の建設計画があるが、準備工事が中断。今年2月、中国電に新たな地域振興策を求め、中国電は中間貯蔵施設の設置案を示していた」「(18日の町議会臨時会で)西町長が『町は急速に疲弊が進んでいる。調査を受け入れる』と考えを示し、議長を含む10人が意見を述べ、賛成7人、反対3人」だった。そこに至るまで自発的、民主的に決めたことは明白である。

当事者の西氏が電気新聞9月4日で語る。安全性は「(使用済み核燃料を保管する既設の)乾式貯蔵施設を視察し、リスクが非常に低いと理解」とし、反対運動について「(登庁時に)車を取り囲んで揺らし、閉じ込められた」と批判、やったのは「半数以上が町民ではないと思われる。部外者にかき回されている」と困惑する。

民意はどうか。「(昨年の町議選、町長選で原子力推進派が伸び)賛成が多い。町長選は70.4%の得票率。(施設が)立地すれば財政も安定し、人口増にもなる」。一方的な報道の被害者はここにもいる。

いかわ・ようじろう  デジタルハリウッド大学大学院修了。元読売新聞論説委員。

国を滅ぼす再エネ政策 目を覚ませ! 日本よ


【オピニオン】大高未貴/ジャーナリスト

エネルギーに関して大きなエポックは、やはり福島第一原発事故とウクライナ戦争だ。大半の日本人は価格高騰に辟易している。エネルギー価格のみならず全ての物価に影響を与えているのだから庶民の痛手は大きい。

まず福島事故。原発の危険性が顕在化したことは確かだが、人間のつくるもの全てに絶対はない。万が一何かあった時にはその影響を拡大させない事が大事だ。そういった対処方法をはじめ、原子力規制庁には原子力の再稼働が遅れると社会にいろいろな影響を与え、社会全体の安全性を脅かす結果になることも踏まえてほしいものだ。

ともあれ福島事故後、菅直人政権は何をやってきたのか? を問いたい。東京電力たたきに終始し、あのFITを孫正義氏とともに導入しただけではなかろうか。当初、家庭の負担額はひと月当たりコーヒー1杯程度とうたいながら、今や標準家庭で年間1万円突破の負担にもなっている。これをペテン師と言わずになんと表現すればいいものか。しかも私は関東に住んでいるので関西の倍額の支払いをせねばならず不公平感満載だ。

さらに2012年のFIT導入後、安価な「ウイグル・ジェノサイドパネル」を再エネ事業者が導入した結果、日本の産業も潰してしまった。これではわが国が半導体や精密機器製造で世界と勝負していこうとしても無理筋だ。安定した電力がベースにないと品質の良い製品は作れない。震災後、菅氏はお遍路の旅に出たそうで、さぞかし自分で音頭をとった脱原発の愚の罪滅ぼしかと思いきや、現在に至っても性懲りもなく原発反対を世界に出かけて吹聴しているとは驚きだ。

一帯一路に原発を売り込み、原発覇権大国への道をまい進する中国からはさぞかし感謝されているであろう。加えて菅政権の脱原発政策に起因し、FIT初期の太陽光買い取り価格バブルでぼろ儲けした人々や、昨今週刊誌をにぎわせている再エネ議連の秋本真利氏の贈収賄に象徴される、再エネ利権屋の売国政策が中国を喜ばせ、そのツケを日本国民が背負わされているのは理不尽極まりない。

またシリコンバレー銀行破綻を皮切りに、意識高い系のSDGs投資バブルもはじけ、したたかな欧米はSDGsから静かに後退している。ウクライナ紛争勃発から1年半にも及び、世界はエネルギーを獲得し生き残るための熾烈な戦略を打ち立てている。にもかかわらず、日本政府はGXに官民挙げて150兆円投入とは。資源のない日本はこれから何を目指してやっていくのか。まさに軸も芯もない外交では太刀打ちできない。ましてや宗教のようにCO2削減至上主義に踊らされ、いずれ気が付いて周りを見回すと、脱炭素やSDGsをそのまま律義に守っているのは日本だけとなりはしないか。世界の30%のCO2を出す中国、それに比べて3%しか出さない日本。中国は50年ではなく60年に達成するとの戦略的宣言をしながら、ほくそ笑んでいるはず。いい加減に覚醒せよ! 日本。

おおたか・みき フェリス女学院大学卒。世界100カ国以上を訪問。チベットのダライラマ14世、台湾の李登輝元総統などにインタビュー。タリバン全盛の1998年にアフガニスタン・カブールに単独潜入し、西側諸国ではじめて同国の崩壊の予兆を報道。

【インフォメーション】エネルギー企業・団体の最新動向(2023年10月号)


【東京ガスエンジニアリングソリューションズ/独自の水処理技術で排水ソリューション提供】

東京ガスエンジニアリングソリューションズの子会社である東京ガスケミカルは、日本金属の板橋工場に、東京ガスグループ独自の水処理技術による排水処理ソリューションの提供を開始した。排水回収率の約60%向上を可能とし、大幅な節水により省コスト化・省資源化する。同工場では老朽化していた設備を更新し、フッ素含有排水回収システムと汚泥返送制御システムの導入により、排水回収率や排水処理効率の向上と、薬剤使用料の削減を目指す。加えて、中央監視システムの導入により、工場オペレーションの省力化や運営管理の高度化も実現。東京ガスグループは顧客の幅広い経営課題を解決し、環境価値向上や事業継続性強化、事業生産性向上に貢献していく。


【ベックジャパン/省エネ行動変容の研究成果を一挙紹介】

気候変動・省エネルギー行動会議(代表=中上英俊・住環境計画研究所会長)が主催する省エネシンポジウム「ベック・ジャパン」が都内で開催された。企業や団体が省エネの行動変容に関する研究成果を発表。「環境意識が高い若者の特長分析」(東京ガス)、「ネットゼロゴール達成に向けた電気自動車の役割」(日本オラクル)、「学校向け脱炭素WEBアプリの開発と実証について」(トインクス)など多様な研究成果が紹介された。電力中央研究所は「住宅用蓄電池やVTOHの導入拡大に向けた情報提供手法の模擬実証」を実施。卒FITを控える世帯では、蓄電池による経済的便益の詳報が蓄電池導入への関心度を高める結果となったとの成果を発表した。


【川崎市/地域新電力でエネ地産地消目指す】

川崎市はNTTアノードエナジーや東急グループなど7社と設立発起人会を開き、地域新電力「川崎未来エナジー」を10月に設立すると発表した。地域新電力は全国に60以上あるが、神奈川県内では初となる。これまで売電により市外に流出していた廃棄物発電などの再生可能エネルギー電源を活用し、市内の公共施設や民間事業者、一般家庭などに電力を供給する。年間発電量は国内最大規模となる見通しだ。資本金1億円のうち、市が51%を出資。NTTアノードエナジーが18.5%のほか、東急、東急パワーサプライや、金融機関パートナーとして川崎信用金庫やJAセレサ川崎など四社が出資している。同市は、地域自立型の脱炭素化・再エネ地産地消を実現するとしている。


【九州電力/米国で賃貸集合住宅の開発に参画】

九州電力は米国現地法人Kyuden Urban Development America社を通じて、三菱商事子会社のDiamond Realty Investments社と共同で、テキサス州ダラスの賃貸集合住宅開発事業に参画している。米国のデベロッパー、ウッドパートナーズ社と共同で、木造5階建て、総戸数280戸の賃貸集合住宅の開発を行う。高速道路に近く、ダラス・フォートワース空港や、ダラス中心部へのアクセスも良い。周辺には商業施設や病院、小学校などがある。2024年3月に完成予定だ。


【ENEOS/系統用蓄電池を設置 VPP事業体制に寄与】

ENEOSは8月、大型蓄電池を根岸製油所(横浜市)内に設置し、充放電の遠隔制御を開始した。蓄電池出力は5MW、容量10MW時だ。同社はVPP事業の体制構築に向け、2020年から喜入基地(鹿児島市)と中央技術研究所(横浜市)で産業用蓄電池を活用した実証実験に取り組んできた。これらの知見を基に、同社初となる系統用蓄電池を導入した。蓄電池の制御は、自社開発したAIを活用する。同社は根岸製油所に続き、室蘭事業所(出力50MW)や千葉製油所(出力100MW)でも蓄電池の設置を進めている。


【平田バルブ工業/液体水素用製品を拡充 独自の仕切弁を発売】

平田バルブ工業は、液体水素プロセスライン用仕切弁の独自開発に成功し、液体水素用の製品ラインアップを拡充した。液体水素実液で漏えい試験を行い、ほぼ無漏えいの優れた締切力を持つバルブであることを確認した。今後も高圧化、大口径化、逆止弁開発を含むラインアップを拡充するとともに、供給体制を整備し、拡大する液体水素関連施設への需要に応える構えだ。同社の液体水素プロセスライン用玉形弁は、JAXA種子島宇宙センターのロケット燃料供給設備に採用され、今日まで使用され続けている。


【エクサウィザーズ/中国電力の「広島エコシステム」を構築】

AIを活用したサービスを提供するエクサウィザーズ社は、中国電力が運営する地域特化のビジネスサイト「広島エコシステム」を構築した。広島県内の企業や団体の連携を目的とし、同社の企業検索に特化したAI検索エンジン「exaBase企業検索」を活用することで、自由なキーワードによる意図に沿った、連携先企業などの探索ができる。「コンサルティング」や「生成AI」といったワードによる検索も可能。その結果を活用して中国電力が広島銀行と連携し、地域企業のサポートも行う。


【関西電力/停電費用保険を販売 生保との協業は国内初】

関西電力は日本生命の子会社であるニッセイプラス少額短期保険と協業し、7月に「停電費用保険」の販売を開始した。近年、自然災害は増加傾向にあり停電リスクが高まる中、停電により思わぬ費用が発生したという声から開発された。電力会社と保険会社が連携して個人の顧客に対し停電時の補償をする保険を提供するのは国内では初となる。


【NextDrive/EV充電パターンを推定 ステーション設置に活用】

NextDriveはe―Mobility Power、東京大学と共同で、EVユーザーの自宅での基礎充電行動の推定に関する共同研究を開始した。研究にはスマートメーターのBルートデータの消費電力(W)と累積電力量(kW時)を用いる。家庭での充電頻度や充電量などを把握し行動推定モデルを構築。充電ステーションの設置検討や新サービス開発などへの活用を目指す。


【ヤンマーHD/船舶の脱炭素化実現へ 燃料電池システムを構築】

ヤンマーホールディングスのグループ会社であるヤンマーパワーテクノロジーは、船舶の脱炭素化を実現する「舶用水素燃料電池システム」を商品化した。同社は水素燃料電池を搭載した試験艇での実証運航試験や70MPa高圧水素充てん試験の実施など、水素燃料電池船の社会実装に向けたさまざまな取り組みを進めてきた。こうした技術や知見と舶用エンジン事業のノウハウを融合し、蓄電や電力制御、水素貯蔵などのシステムを含む設計を行い、船舶全体の脱炭素化とデジタル化に対応するシステムを提供していく構えだ。


【凸版印刷/電極部材の量産で水素エネ市場に参入】

凸版印刷はこのほど、水素エネルギー市場への参入に向け、燃料電池などで中核となる重要な部材のCCM/MEAの量産を始めた。世界初となる独自の製造方式で、触媒層付き電解質膜の生産設備を高知工場に導入。8月から販売している。この設備は、同社がこれまで大型カラーフィルターの製造で培ってきた大サイズ均一塗工技術や、枚葉基板搬送技術などの製造技術を活用しており、CCM/MEAを枚葉式で量産できる。年間生産枚数は最大6万枚で、車やドローンなどの移動体用燃料電池向CCM/MEAに換算すると、年間約60万枚分に当たる。同社は今後、水素を「つくる」「ためる・はこぶ」「つかう」の全領域にCCM/MEAを展開し、水素社会の実現に貢献する方針だ。