河野太郎規制改革相や成長戦略会議の下で、再エネのためのさらなる規制緩和の検討が加速している。だが安易な規制緩和の追求は、さらなる再エネの乱開発と環境悪化を招く温床となりかねない。
「規制改革などの政策を総動員し、グリーン投資のさらなる普及を進める」―。菅義偉首相の2050年カーボンニュートラル(実質ゼロ)宣言の号令の下、再エネのさらなる拡大のための規制緩和の検討が始まっている。
まず動きを見せたのが河野太郎規制改革相だ。河野氏は10月26日の首相の宣言に先立ち、日本経済新聞のインタビューで、再エネ拡大を促すために既存の制度を総点検すると表明。規制緩和の対象として、①太陽光では農地法や農業振興地域法、自治体ごとの設置規制、②陸上風力では国・自治体の占有許可や森林法、③洋上風力では再エネ海域利用法や船舶法、④送電網に関する国の運用指針―を挙げた。河野氏は20日の会見でも、「再エネの規制緩和について経済界からの要望が非常に強い」と強調し、具体化に向けた作業を進めていると説明した。
そしてもうひとつの舞台となるのが、未来投資会議から衣替えされた成長戦略会議だ。安倍政権下では、首相が議長を務める未来投資会議が司令塔となり、規制改革推進会議で詳細を詰め、さまざまな規制改革が実行された。翻って、菅政権下の成長戦略会議は、首相ではなく加藤勝信官房長官が議長を務める。また、未来投資会議では経済産業省の意向が強く反映されていたのに対し、現在は和泉洋人首相補佐官の影響力が強いといった違いはある。ただ、メンバーには安倍政権のブレーンの顔ぶれもちらほら。年末に成長戦略の中間取りまとめを、来年6月に戦略を策定する予定だ。
農地での再エネ導入量は拡大 FIT以降に制度変更
「規制緩和で再エネ拡大を」というのは耳障りの良いストーリーだが、果たして真に必要な政策なのか。例えば太陽光については、耕作放棄地へのパネル設置を阻む壁として、農地転用を規制する農地法などが名指しされた。ただ農地法関連でも、FIT導入以降、再エネ拡大を促すための制度変更は実施されている。
農地法に基づく農地転用許可制度は、農業生産性などで区分して、優良な農地は農業に利用し、転用は生産性の低い農地に促していく仕組みだ。さらに、農林漁業と調和が取れ、地域活性化につながる再エネ開発を促す目的で、14年に「農山漁村再エネ法」が施行された。同法で認定を受けると、通常は農地法上転用が原則不許可の区分でも、転用が許可される。また、農業生産をしながら農地の上部で太陽光発電を行う「営農型発電」の促進に向けても、農地法の運用を改善した。
太陽光パネル設置に伴う農地転用許可の実績は、11~18年度までの合計で5万9202件、9968haに上る。農水省はさらなる規制緩和について「これまでも規制改革推進会議の要請に応えてきた。まずは現行の仕組みの活用を考えてほしい」(農村計画課)と語る。
農業政策に詳しい有識者からも、反対の声が挙がっている。山下一仁・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹は、「食料安全保障上、一番重要なのは農地資源。それを再エネのためにと安易に切り売りしてよいのか」と警鐘を鳴らす。宅地への転用や耕作放棄地の拡大で、農地面積は1960年代以降減少を続けるが、農地資源の減少への危機意識が農水省内でも希薄になっているという。「食料安全保障のリスク増大より、農地での再エネ拡大による便益が上回るのなら規制緩和をすべきかもしれないが、そうした検証はない。温暖化のためなら、むしろ森林吸収源対策に力を入れるべきだ」(山下氏)と強調する。

農地法の規制緩和はこれまでも数度実施されてきたが、農業振興や農村地域の活性化などにつながる形で行われてきた。それに比べ、今回の規制緩和は性質が異なると指摘。「一度農地転用の規制のくびきを逃れれば、最初は再エネ発電を行っていても、後に宅地転用するなど、悪用される可能性がある」と訴える。
さらに農業経済学が専門の鈴木宣弘・東大教授は「再エネ振興などを大義名分にし、農林漁家が守ってきた資源が取り上げられるような法改正を、規制緩和の名目で進めようとしている構造を見抜く必要がある」と強調する。
オトモダチ企業のため? 森林や漁業の規制緩和も
鈴木教授によると、農地法関連以外にも、再エネ開発に関わる農水省所管の法改正がここ数年、続けざまに行われたという。例えば、森林経営や管理の効率化を目的に制定・改定された森林関連2法の実態は、木質バイオマス発電での利益拡大を狙う企業のための措置ではないか、とみている。
19年施行の「森林経営管理法」では、民有林について「経営意欲が低い」と市町村に判断された森林所有者から、意欲や能力があるとされた素材生産業者などに経営管理を委託できるようにした。さらに、今春から施行された改正「国有林野管理経営法」では、国有林の所有権は国のままで、最長50年、民間事業者が伐採できる権利を創設した。だが事業者には植林の義務がなく、全国一律で国税として市町村が賦課徴収する「森林環境税」で負担される可能性がある。
同様に漁業法改定は、水産政策の改革という名目で洋上風力に参入しやすくすることが目的、とみることもできる。これらの枠組みは、安倍政権下の未来投資会議がトップダウンで決めてきたが、菅政権でも同様の構造が繰り返される可能性がある。鈴木教授は「重要なことは、農地や山や海はコモンズ(共用資源)だということ。しかし規制緩和の実態は、政権のオトモダチ企業の儲けを増やすための制度変更だ。再エネ事業であっても資源・環境破壊につながりかねず、本末転倒。これ以上は許容できない」と批判する。
公益的事業への新規参入が全て悪というわけではないが、安易な規制緩和を進める前に、まずは既に実施された制度変更の運用実態の検証が必要だ。そして再エネトラブルが多発している現状を踏まえれば、乱開発を抑制する規制措置こそ検討すべきだろう。

