【論説室の窓】宮崎 誠/読売新聞 論説委員
有望なCO2回収技術のダイレクト・エア・キャプチャー(DAC)。
国内企業も積極的にDACに関与し、将来の成長の種とすべきだ。
DACは大気から直接、CO2を回収する技術だ。脱炭素の実現に向けた革新的な対策として、欧米勢が主導している。
米石油大手オキシデンタル・ペトロリアムの傘下で、DACを手がける「ワンポイントファイブ」は7月、マイクロソフト(MS)と大型契約を結んだ。ワンポイントファイブは、テキサス州でプラントの建設を進めており、2025年の稼働を予定している。MSは、そこで回収されたCO2のクレジット(排出枠)を6年間で計50t購入するという。
ワンポイントファイブは35年までに、世界で100カ所のプラントを建設する計画だ。一方、スイスの新興企業である「クライムワークス」は今年5月、アイスランドで世界最大のDACプラントを稼働させた。さらに米国内でも27年に事業を開始する予定だ。
アイスランドに設けたプラントのCO2回収能力は、年間3万6000t。米国での事業規模はこれを大きく上回り、30年までに100万tに引き上げる計画を示している。
米バイデン政権は、21年に制定したインフラ投資法で、DACの建設補助に35億ドルを割り当てた。翌年に成立したインフレ抑制法でも、CO2を1t回収するごとに、最大180ドルを支援すると定めた。こうした枠組みが、DACの商用化を強く後押ししている。

排出枠の争奪戦が激化 米ビッグテックも参入
国際エネルギー機関(IEA)も、50年のカーボンニュートラル(CN)の達成に向け、DACが重要な役割を担うとみている。今後、再生可能エネルギーなどの導入が最大限進んだとしても、鉄鋼やセメントのほか、大型トラックや航空機、船舶などは一定程度、化石燃料に頼らざるを得ず、CO2の排出が残るからだ。
こうした残余排出量は、50年時点において、世界で年20億~100億tに上ると試算されており、DACによる排出枠を巡って争奪戦が生じる可能性が強まっている。
DACを利用する業種は従来、先に挙げた航空や海運、鉄鋼などが想定されていたが、それらに加え、米国のビッグテックの購入が目立つようになっているからだ。
MSのほか、米アマゾン・ドット・コムも昨年、ワンポイントファイブから、25万tの排出枠を10年にわたって購入する契約を結んだ。
ビッグテックは、生成AIで使うデータセンターの電力需要が急増する中、CO2の排出を抑制する手段として太陽光や風力で発電した電気の調達に全力を挙げているものの、それだけでは足りずに、DACの排出枠確保に走っている。
米ビッグテックは、脱炭素に熱心に取り組むことで企業ブランドを高める戦略を進めているとみられ、今後、各社が競うようにDACの排出枠購入に動く可能性がある。
金融界も争奪戦に参入している。米金融大手JPモルガン・チェースは、クライムワークスとの間で2000万ドル以上を支払い、9年間に2万5000tの排出枠を購入する契約を締結。米ボストン・コンサルティング・グループもクライムワークスと長期契約を結んでいる。いずれも、将来、排出枠が値上がりし、他企業に転売することで利益を得る狙いがあるとの見方が出ている。