欧州でバイオメタン利用国 熱分野の現実解として期待


【ワールドワイド/資源】

1月に国際エネルギー機関(IEA)が発表した「Gas Market Report Q1-2025」によると、昨年の世界のバイオメタン生産量は、前年から約20%増加し、100億㎥を超えた。増加した分の85%以上は米国と欧州が占めており、増加率はここ数年で大きく伸びている。

少し用語が紛らわしいため説明しておくと、食品や農業残渣、有機廃棄物などを微生物の力で分解し発生した可燃性のガスがバイオガス、そこから天然ガスと同等の成分となるようひと手間かけて精製したものがバイオメタンだ。バイオガスの段階でもCHPに投入し電力利用することは容易にできるが、近年、欧米ではバイオメタンにアップグレード、導管注入するなど天然ガス代替として利用することが主流となっている。

これは欧州では、ウクライナ問題でロシア産天然ガスの輸入が大幅に減り、その代替エネルギーとしてバイオメタンが注目されたことがあるが、そもそも電化の難しい熱エネルギーや輸送用燃料といった分野の脱炭素化にバイオメタンを積極的に利用していくよう、各国が取り組みを加速させたことがその理由である。水素社会実現はまだまだハードルが高いと認識されるようになり、今できる現実解であるバイオメタンへの期待が高まった。

バイオメタンの先進国としてはデンマークがあげられる。酪農を中心とした農業国でバイオマス資源が豊富にあり、欧州でもいち早くバイオメタン普及に取り組んだ結果、今では国内ガスの約4割がバイオメタンという。フランスでも、バイオメタンの支援・制度を充実させた2020年以降、導入量がそれまでの4倍以上に急増した。米国ではEPA(環境保護庁)の再生可能燃料基準でバイオメタン導入が義務付けられ、さらに州単位でも輸送用燃料の炭素強度削減などの施策が実行されたことで、昨年のバイオメタン生産量は前年から25%増加したという。他にも中国やインド、ブラジルといった国々でバイオメタン導入に向けた施策を提示、生産量増加の兆しが見えている。

それでは日本はどうなのかと見ると、今のところ日本のバイオメタン比率はほぼゼロである。人間が活動する限り廃棄物は無くならず、一定の資源量は確保できるはずである。脱炭素化に貢献できる、しかも国産エネルギーであるバイオメタン、今後はもっと注目し導入を検討しても良いのではないだろうか。

(篠澤康彦/エネルギー・金属鉱物資源機構調査部)

【コラム/5月16日】第7次エネルギー基本計画


矢島正之/電力中央研究所名誉シニアアドバイザー

今年の2月18日に、第7次エネルギー基本計画(以下、第7次エネ基)が閣議決定されるとともに、関連資料として、2040年度のエネルギー需給見通しが提示された。第7次エネ基では、東日本大震災後に策定された第4次エネ基から続いていた「原発依存度の可能な限り低減」の文言が削除された。1昨年に閣議決定されたGX基本方針では、廃炉を決定した原子力の敷地内で次世代革新炉に建て替える方針を示していたが、建て替え対象を「廃炉を決定した原子力を有する事業者の原子力サイト内」と改められた。また、新規立地での新増設は、「その他の開発などは各地域における再稼働状況や理解確保の進展など今後の状況を踏まえて検討していく」ことになった。

また、電源構成に関しては、再生可能エネルギーは4~5割程度と最も比率が高い。ただし、第6次エネ基に記された「再エネ最優先の原則」は削除されている。近年の再生可能エネルギーの年間導入量は、ピーク時の半減と低迷しているため、現状を打開する次世代型太陽電池として、「ペロブスカイト太陽電池」の実用化を急ぎ、2040年までに約2,000万KW普及させる目標を掲げている。第7次エネ基では、脱炭素効果の高い再生可能エネルギーと原子力を最大限活用することが重要としているものの、原子力は2割程度と第6次エネ基と同程度である。低炭素火力については、3~4割程度とし、燃料種ごとに分けなかった。水素やアンモニア、CCUSの普及を見通すことが難しいためである。

2040年度の電源構成を実現していくためには、特に長期の事業期間を見込む大規模な投資に関しては、容量市場の一部として創設された長期脱炭素電源オークションの役割が大きい。しかし、現行の長期脱炭素電源オークションの枠組みで、大規模脱炭素電源は確実に開発されるだろうか。第7次エネ基では、脱炭素電源への投資回収の予見性を高めるため、事業期間中の市場環境の変化に伴う収入や費用の変動に対応できる制度措置や市場環境を整備するとしている。

しかし、金利上昇、インフレ、為替変動などの投資判断時点で予見できないコスト変動要因のすべてを考慮した事後的調整を認めることは現実にはありえないだろう(実際、総括原価方式や規制資産ベース〔RAB〕モデルは想定されていないようだ)。そのような不確実性が存在する場合、応札価格を適切に設定することは、事業者にとって難しく、投資に慎重になる事業者も少なからず存在するだろう。このことは、とくに建設から廃止措置に至るまで総事業期間が100年程度となる原子力発電の建設に当てはまる。

第7次エネ基では、原子力は再生可能エネルギーとともに最重要電源として位置づけられている。原子力に関しては、再稼働を含め既存炉を最大活用する方針だが、ほぼすべての炉が稼働しなければ2040年度における比率を2割程度に引き上げることは困難である。しかし、それは現実的ではないため、再稼働に加えて新設やリプレースが必要となるものの、それを実現するのは容易ではない。これに対して、再生可能エネルギーは立地制約の影響が指摘されているものの、実際にはさらなる拡大の可能性を十分に秘めている。

原子力発電の投資環境の不透明性を考えると、可能な限り、再生可能エネルギーの拡大に努めるべきだろう。再生可能エネルギーの中でも、パブリックアクセプタンス上の問題が少ない洋上風力と需要家側に設置される太陽光発電には大きな期待が寄せられるが、とくに太陽光発電は、2040年度において再生可能エネルギー発電の5割を超え、多くの期待を背負っている。

需要側に設置される再生可能エネルギー電源に共通するのは、発電設備と消費者が近接していることである。需要家側設置の再生可能エネルギー電源は、この近接性ゆえにつぎのような経済的メリットを有している。まず、国内外で、消費地に設置される再生可能エネルギー電源の均等化発電コストが買電料金を下回るようになってきており、同電源よる自己消費が経済的になってきていることが挙げられる。また、多くの場合、再生可能エネルギー電源の運営者は、その発電電力の買い手と非常に密接な関係にあるか、同じ法人・自然人である。

後者の場合、電力の供給者が消費者でもあり、一般的な市場とは大きく異なる非常に安定した「ビジネス関係」を築くことができる。このことは、消費者の立場からは、必ずしも低いコストではないかもしれないが、安定的で予測可能な電力価格で供給を受けることが可能であることを意味している。同時に、供給者が消費者であることで、供給者の立場からは、投資の安全性が確保される。これは、電力取引所を介して販売する集中型電源では不可能である。再生可能エネルギー電源の電力供給者は、その所有する発電所が償却されるまで消費者と事実上の売電契約を結んでいるとみなされ、他の電力供給者との競争の中で、「顧客」を失い、新しい「顧客」を探す必要はない。

第7次エネ基では、再生可能エネルギーの発電比率は、2022年度の21.8%から、2040年度には4~5割程度と大幅に増大する。2040年度における原子力発電の比率を2割程度とすることは、実現が困難となる可能性が高い状況において、着実な脱炭素化を実現するためには、再生可能エネルギーの潜在能力を最大限に活かせる制度的枠組みの整備が求められる。現在、大部分の再生可能エネルギー電源は、FITやFIPが適用されているが、補助金終了後はリパワリングなどで地域共生型再生可能エネルギービジネスに代表される様々なビジネスを模索する事業者が増えてくると考えられる。

そのため、長期脱炭素電源オークションにおいても、再生可能エネルギー電源の最低入札容量の引下げやアグリゲーションの要件緩和などを行い、同電源の可能性を最大限引き出すべきだろう。


【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授、東北電力経営アドバイザーなどを歴任。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。

【インフォメーション】エネルギー企業・団体の最新動向(2025年5月号)


【理研計器/ガス検知器のメンテナンス車両を導入】

理研計器は3月、災害発生時にインフラ復旧作業者が持ち込むポータブルガス検知器を現地で点検できるメンテナンス車両「REM1(レム・ワン)」を自社拠点に配備した。従来はガス検知器の修理や点検の必要が生じた場合、同社の拠点に送り、作業完了後に返送してもらう必要があった。REM1は点検設備を搭載しておりその場で点検作業が可能で、迅速なインフラ復旧作業に貢献できる。災害復旧支援やBCP活動などに活用する予定で、担当者は「今後は東日本・西日本の拠点に1台ずつの配備を目指す」と説明する。大災害発生時においても日本全国をカバーできるようにする計画だ。


【東京都/脱炭素都市へ新たな目標を策定】

東京都は3月28日、「ゼロエミッション東京戦略 Beyondカーボンハーフ」を策定した。2050年脱炭素化達成に向け、35年までにCO2排出量を00年比で60%削減する新たな目標と、それを達成するための31の個別目標を設定。30年までにCO2排出量を00年比で半減するカーボンハーフのほか、今年4月には太陽光パネル設置義務化も始まり、実効性のある施策を推進する構えだ。再生可能エネルギーの基幹エネルギー化やエネルギー効率の最大化、水素エネルギーの社会実装、適応策の強化など、あらゆる取り組みを戦略的に展開し、世界のモデルとなる「脱炭素都市」の実現を目指す。


【東芝/放熱性能2倍のリチウムイオン電池モジュール新発売】

東芝は4月8日、放熱性能を約2倍に高めたリチウムイオン電池SCiBモジュールの新製品を発表した。リチウムイオン電池は短時間で高い電力を連続して入出力すると、電池に熱が発生し寿命が短くなる。このため、短時間での連続高入出力を実現しながらも、放熱性能を高め電池寿命を維持することが課題だ。新製品は、底板にアルミニウムを採用したことで、放熱性能が従来モジュールの約2倍になり、高電力の短時間連続入出力と電池寿命維持の両立が可能になった。EVバス、電動船の急速充電や定置用途での電力負荷平準化を想定した使い方にも対応できる。


【東京ガス/ガスエンジンを使った袖ケ浦発電所が完成】

東京ガスは3月27日、袖ケ浦LNG基地(千葉県)内に建設した袖ケ浦発電所(9万7800kW)の竣工式を行った。発電設備はガスエンジン10台で構成されており、起動即応性の高さを生かした柔軟な出力調整に対応できるのが特徴。同社では、再エネの出力や電力需要の変動に対応するなど、系統安定化と再エネの普及拡大に向けた調整力として活用していく。


【パーパス/風呂給湯器の新製品を発表】

パーパスは4月1日、「FLashシリーズ」の新製品「GX―HFL241/201/161」シリーズを発表した。独自の出湯制御技術により最小の給湯能力は0.3号、作動流の最低量は毎分1.5ℓを実現している。最近人気の節水カランや美容系シャワーヘッドを使用しても、温度が上下することなく給湯することが可能だ。5月1日から販売を開始する。


【愛知時計電機/家庭用超音波式E型保安ガスメーターを発売】

愛知時計電機は4月7日、家庭用超音波式ガスメーター2.5号と4号のリニューアル品を発表した。特徴は、端子台スペースの拡張による持続効率の向上と、使用状況により外部端子の併用、端子切り替えが可能となった点だ。また新たにマルチメニュー表示機能を搭載したことにより、現場状況の確認ができるようになった。5月から販売を開始する。

効率性の高いシステム構築へ 日本の知恵出し尽くす


【巻頭インタビュー】兵頭誠之/住友商事会長経済同友会2024年度エネルギー委員長

カーボンニュートラルの実現と産業競争力の強化の両立が求められている。

わが国の産業界は、この挑戦にどう挑もうとしているのか。

ひょうどう・まさゆき 1984年京都大学大学院卒業、住友商事入社。2018年代表取締役社長執行役員CEO、24年4月から現職。23年4月経済同友会エネルギー委員会委員長。

―昨年度は、「第7次エネルギー基本計画」や「GX(グリーントランスフォーメーション)2040ビジョン」など、エネルギー政策に関連するさまざまな方針が策定されました。どう受け止めていますか。

兵頭 エネルギーを巡る国内外の将来見通しの不確実性が高い中で、2月に閣議決定された第7次エネ基では日本特有の事情を考慮しながら、あらゆる脱炭素メニューの活用を追求し、カーボンニュートラル(CN)を実現していくことが示されました。また、GX2040ビジョンでは、エネルギー政策と産業構造転換を一体的に遂行していくことが掲げられました。経済同友会として、こうしたエネルギー政策の基本的な方向性に賛同しています。

―CNを前提に、日本の産業競争力をどう強化するべきでしょうか。

兵頭 人類は第一次産業革命以降、CO2を無限に大気に排出できるという前提の下で最も効率の良い社会システムを作り上げてきました。しかし、気候変動の深刻化に伴い、今後は大気へのCO2排出を前提としないシステムへの大転換に迫られています。


産業革命以来の構造転換へ 官民対話が一層重要に

CNへの対応の成否が競争力に直結する現状において、既存の産業構造を維持したまま海外から化石燃料以外の燃料を輸入し、世界に冠たるものとして国内産業が生き残れるという保証はありません。従って、世界最高水準のS+3E(安全性、経済効率性、安定性、環境適合性)の獲得のため、エネルギーシステムの全体最適を考慮し、産業構造転換に向けたコストパフォーマンスの高い投資を実行して、産業競争力を維持・強化していく必要があります。

―産業構造の大転換を図るためには、高い壁を乗り越える必要があります。

兵頭 再生可能エネルギーの利用において非常に不利でありながら、産業・社会の再構築を実現しなければならないことが今、日本が抱えている本質的な課題となっています。産業政策と社会行動変容、そしてエネルギー政策は一体であり、パッケージで考えなければ最適な設計にはなり得ません。日本特有の事情を科学的、合理的に分析しつつ、既存の社会資本をできるだけ有効活用し、諸外国よりも効率性の高いシステムを構築するためのエネルギー転換プロセスを描けるか―。日本の知恵の出しどころです。

GX2040ビジョンを「GXの勝ち筋シナリオ」とするべく、競争原理や個社の戦略立案の下、官公庁や研究機関などと連携しながら、産業界自らが産業構造全体を改革していくことになります。そのためにも、官民が共に投資戦略をアジャイル、かつ持続的にアップデートし続ける仕組みが必要だと考えています。

ウィルソン主義の終焉 温暖化の理念的理想主義も危機に


【オピニオン】小谷勝彦/国際環境経済研究所理事長

トランプ大統領はパリ協定からの脱退を表明した。WHO(世界保健機関)への資金削減など、戦後の自由主義的な国際的枠組みから離脱しようとしている。

戦後の国際的フレームは、第一次世界大戦後に国際連盟を提唱した米大統領ウッドロウ・ウィルソンの理想主義に基づいている。国際連盟は米国の反対で失敗したが、第二次大戦後、戦勝国は紛争解決の仕組みとして国際連合を設立し、IMF(国際通貨基金)などの国際協調制度も作られた。しかし現在、国連安全保障理事会は中露の反対で機能不全となり、WTO(世界貿易機関)もパネルが開催されない状況で、トランプ氏は国際的な安定よりも米国の利益を優先する姿勢を鮮明にしている。

ウォールストリートジャーナル誌コラムニストでもあるウォルター・ラッセル・ミードは、米国の外交政策を四つの類型に分けている。国際主義の理想を掲げたウィルソン大統領、米国の産業・ファイナンスの力による世界秩序を主張した建国時の財務長官ハミルトンの国際主義に対して、独立戦争の指導者ジェファーソン大統領は海外へのコミットを避け、ポピュリストのジャクソン大統領は米国中心主義を唱えた。トランプ氏が執務室にジャクソン氏の肖像を飾っていたのは偶然ではない。

われわれは、戦後の自由で開かれた国際協調体制の恩恵を受けてきたので、一国主義の考え方には違和感を覚える。しかし、米国の外交政策においてウィルソン主義はあまりにも理想主義的であり、必ずしも一般的ではなかった。ところが、戦後の米ソ対立、さらにソ連崩壊は、法の支配、自由主義経済のウィルソン主義を「歴史の終わり」として、欧米に自信をもたらした。

温暖化対策において、欧米主導の理念的理想主義がデファクト・スタンダードとして、世界をリードしてきたのも同じ発想である。

ここに新たな挑戦者が現れた。中露の台頭である。自由で開かれた世界秩序に対する挑戦であり、トルコやハンガリーの独裁者が続く。西欧においても、反移民などのポピュリスト政党が勢力を伸ばし、米国もトランプ氏がウィルソン主義に反旗を振るう。この時期に、先述のミード氏が“The End of the Wilsonian Era”(Foreign Affairs 2021)という論文を発表したのも当然だ。

戦後の自由で開かれた国際秩序は、ある時代特有の考えである。100年前、第一次大戦後の困難の中でヒトラーが登場したが、現在も各国は国際的理想主義を捨て、自国の利益を優先する時代を迎えつつある。温暖化問題は、冷戦終結後の平和な時代の産物である。EUは、ウクライナの防衛強化が必要となり、二者択一として温暖化対策予算の削減を迫られるかもしれない。

こたに・かつひこ 東京大学法学部卒後、新日本製鐵(現日本製鉄)入社。コーネル大学経営大学院修士。同社環境部長、中国総代表北京事務所長、日鉄住金建材専務取締役などを歴任。2011年に国際環境経済研究所を設立。16年から現職。

海洋プラスチックごみ問題 採取体験で分かった現実


【脱炭素時代の経済評論 Vol.14】関口博之 /経済ジャーナリスト

地球温暖化と並び、国連でも重要な環境問題と位置付けているのがプラスチックごみによる海洋汚染。その一端を知るべく、横浜市金沢区の海岸で漂着したマイクロプラスチックの採取を地元中高生とともに体験した。

マイクロプラスチックはプラスチック製品や容器、包装が川や海へ流れ、紫外線と波の作用で砕けて5㎜以下の破片になったものをいう。国内からの流出量は年間140tに上ると推計されている。今回の採取体験はNPO法人「海の森・山の森事務局」の豊田直之理事長らの指導の下で行われた。満潮時の水際には流木などが集まり、その周辺にマイクロプラスチックもまぎれていた。直接ピンセットで拾うほか、砂ごとふるいにかけて分別していく。

袋に集められたマイクロプラスチック

まず目についたのが緑色の断片、「人工芝」だと教えられた。競技用のグラウンドだけでなく、家庭の人工芝も発生源とされる。すり減ってちぎれた葉先が雨で川から海へ流れ込む。白い円盤形のものは「樹脂ペレット」。プラスチック成型工場などから何らかの事情で原料が漏れ出たものと見られている。つぶれたボールのように見えるのは「農業用肥料が入っていた殻」。前年に施肥した分が代掻きによって地表に出てくるのだという。30分ほどの作業で中高生たちは相当な分量のマイクロプラスチックを集めた。

懸念されるのが生態系への影響だ。魚に蓄積され、それを人が食べることで人体にも影響が及びかねない。中でも豊田氏らが不安視するのは、マイクロプラスチックの表面には海水中にわずかに溶けている有害な化学物質(例えばPCBなど)が吸着しやすいという特性。こうした物質が魚などに濃縮される恐れがあるというのだ。

国連が主導したプラスチックごみ汚染に対処する国際条約の策定だが、去年暮れの政府間交渉は物別れに終わった。プラスチックの生産規制に産油国などが反発したためとされる。

われわれには何ができるのか。神奈川県環境科学センターの調査によれば、相模湾沿岸に漂着したマイクロプラスチックは、地点によって成分や種類、数に明らかな違いがあるという。これは遠く外洋から回遊してきたと見るより、近くの河川からの流出が影響していると考えられる。つまり、われわれの生活圏での対策が出発点になる。人工芝でいえばグラウンドなど周辺の排水溝にフィルターを設置するのも一案だろう。人工芝のメーカーも対策を取り始めている。芝の形状を工夫し、ちぎれにくいようにしたり、プラスチックに替えマニラ麻を原料にした人工芝を開発したりしている。

前述の豊田氏らはまた違ったアプローチを探る。それは「フナムシ」、テトラポッドなどで見る小さな生き物だが、この腸内バクテリアにプラスチックを分解するものがあるという論文を見つけ、これを生かす方策を地元大学と探っているという。

こんな草の根の取り組みをあざ笑うかのようにトランプ米大統領は、連邦政府の紙ストロー調達を止め、プラスチック製に戻すと宣言した。非科学的な論理でグローバルスタンダードを無効化する、まさに「トランプ関税」の騒動と同じだ。

【コラム/5月13日】EUの炭素関税に過剰反応 排出量取引に潜む日本製造業の崩壊リスク


杉山大志/キヤノングローバル戦略研究所研究主幹 


「EUの炭素国境調整メカニズム(CBAM)が始まるので、日本も排出量取引制度を本格導入しなければならない」。経済産業省が示したGX-ETS(国内排出量取引制度、以下単にETS)の説明会では、こうした論法が繰り返し語られた。しかし、果たして本当にそれだけの必要性があるのだろうか。

まずはCBAMの対象となる素材産業の輸出構造を確認しよう。2024年、EUが輸入した日本製鉄鋼はわずか約220万t。金額にして13億ユーロ、円換算して約2000億円弱だ。日本鉄鋼業界(高炉・特殊鋼)の出荷額は24兆円規模なので、EU向けのシェアは0.8%にすぎない。セメントに至っては700万ドル、0.08%と誤差の範囲内だ。一方、化学品はやや多いものの、それでも3.8%にとどまる。

図=日本の素材産業の出荷額におけるシェア。EUはいずれもわずかである。

EUが求めるCBAMは、輸入品の製造段階で排出されたCO2に、EU排出権取引制度(EU-ETS)の相場を掛けた金額を上乗せする仕組みだ。現行価格は1t当たり80ユーロ前後。日本からEUへ輸出する鉄鋼の場合、排出係数は1t当たり1.9t・CO2で計算すると、1t当たりの追加負担は約150ユーロ。年間排出量では420万t・CO2に相当し、総コストは3億3000万ユーロ、約540億円となる。セメント分はさらに桁が下がるので無視できる水準だ。

一方、政府が検討するETSは国内生産全量を対象とする。有償オークションが本格化した後の参照価格を1t当たり50ユーロ(約8000円)と置けば、国内鉄鋼が排出するCO2は1億8400万t、セメントが3200万tで、合計2億1600万t。単純掛け算で年間 1兆5000億円の負担になる。CBAMで課され得る最大限の金額である540億円と比べると、約30倍である。 さらに問題なのは、EU側が控除を認めるのは「実際に支払った炭素コスト」だけという点だ。日本案は初期段階で排出枠を大量に無償配分する設計であり、その分は控除対象にならない。そうするとETSを導入してもCBAM負担はほぼ残ったまま、国内にだけ新たなコストがのしかかることになる。


CBAMは「炭素ダンピング」関税 EUより米国見た政策を

素材産業の利益構造にも目を向けてみよう。日鉄、JFE、神戸製鋼の3社合算で24年度の営業利益は1.2兆円。セメント大手は600億円、基礎化学は1.3兆円だった。ここから算出したEU起因の利益の寄与額は、鉄鋼で0.8%、セメントで0.02%、化学で3%前後にすぎない。このEU起因の利益を守るためにETSでオークションなどを導入すれば、企業全体の利益の半分以上が吹き飛んでしまう。

EU市場の売上シェアが1%であるにもかかわらず、日本全体に高額な炭素価格を上乗せする──。これでは費用と便益が釣り合わず、競争力を弱めるだけである。CBAMへの「過剰反応」は産業基盤をむしばむことになる。

そもそもCBAMは、EU域内で上がり続ける排出権価格との差額で域外製品を「炭素ダンピング」とみなし、域内業者の競争条件を守る制度だ。EUから見れば一応の理屈はあるが、対象国側にすれば関税と同じ保護措置である。しかも鉄鋼、アルミ、セメント、肥料、電気の5品目に当面絞ったのは、域内で過剰設備と雇用問題を抱えるセクターばかりだ。つまり環境政策というより産業政策色が濃い。

日本の鉄鋼会社については、「EU向け輸出は高付加価値の自動車鋼板が中心で、追加の炭素コストも値上げで吸収できる」という声も聞かれる。背景には欧州メーカーが要求する品質と納期を同時に満たせる企業が限られるという現実がある、ということだ。となれば、EU市場を守るために国内の企業に横並びで事実上の課税をする発想は、ますます割に合わない。

むしろ忘れてはならないのが第三市場の存在だ。日本の鋼材の輸出先は東南アジアで4割、北米で2割、残りを中東・豪州などが占める。これら地域がカーボンプライスを導入する動きは限定的で、むしろ安価な製品を求める傾向が圧倒的に強い。もし日本国内で炭素コストが膨らめば、日本製品は韓国や中国、そしてインドの製品に置き換えられるだけだ。こうして日本から海外に排出が移転するだけの「カーボンリーケージ」が起きて、世界規模での排出削減は全く進まないまま、ただ日本の国富と雇用が流出するという、皮肉な結果になりかねない。

そして日本政府が気にするべきは、実はEUではなく米国だ。トランプ政権が率いる米国は、炭素強度などにはお構いなしに、国内での投資と雇用の創出を重視する。米国はEUと足並みをそろえることなどありえない。ETSなど導入すれば、日本企業は、ますます生産活動を北米にシフトする誘惑に駆られることになる。CBAM対策などよりも、ETSによる日本国内投資環境の劣化の方が、はるかに深刻な競争力問題となることは必定だ。

EUはこれまでしばしば「ブリュッセル効果」を発揮してきた。それはすなわち、EUが先行して環境安全規制を整備することで、諸国政府および世界の企業に影響を与え、追随を余儀なくする、というものだった。しかし、EUの経済力の低下や、EU規制の極端な突出に起因して、その威力は鈍る一方であり、EUのみの規制に終わるものも多い。使い捨てのストローやカトラリーはEUでは禁止だが他の国は追随していない。ネオニコチノイド系農薬もEUでは禁止だが米国や南米などでは広範に使用されている。遺伝子組み換え作物(GMO)についてはEUでは厳しく規制しているが米国では普通に生産され流通している。

そしてCO2については、米国は完全にEUとは別の路線を進んでいる。またBRICSは24年のカザン共同宣言で名指しで非難するなど、団結してCBAMにも猛反対している。CO2についてはブリュッセル効果は発生していない。

ますます多極化する国際秩序の中で、ブリュッセルのCBAMへの対抗としてETSを導入するという政策は、過剰適応であり、費用対便益のバランスを著しく欠いている。日本企業は、多極化する世界市場に対応して、比較的売り上げの小さいEUにおいては現地仕様の製品を生産・供給するなど、柔軟な戦略を取っている。日本政府はETSの導入を取りやめ、日本の製造業ひいては経済全体にとって有益な政策は何かをゼロから再考すべきである。

【プロフィール】1991年東京大学理学部卒。93年同大学院工学研究科物理工学修了後、電力中央研究所入所。電中研上席研究員などを経て、2017年キヤノングローバル戦略研究所入所。19年から現職。慶應義塾大学大学院特任教授も務める。近著に『データが語る気候変動問題のホントとウソ』(電気書院)。最近はYouTube「杉山大志_キヤノングローバル戦略研究所」での情報発信にも力を入れる。

オーダーメイドの料金を提案 地に足つけた経営でファン獲得へ


【事業者探訪】ゆきぐに新電力

5年前の設立以来、新潟県南魚沼市を拠点に、県外も含め着実に顧客数を拡大している。

一番の特徴は料金メニューがないこと。1件ずつ実態に合わせた丁寧な提案にこだわる。

新潟県南魚沼市といえば全国屈指の米どころで、南魚沼産コシヒカリは押しも押されもせぬトップブランドだ。いくつもの有名酒蔵もある。そして、三国街道沿いの宿場町として栄えた塩沢宿牧之通りは、雪国特有の雁木の町並みを再現し、観光客を楽しませる。この地を拠点とするのが、ゆきぐに新電力だ。

同社代表の中嶋知一氏は、電力自由化以降、業務の一環として大手新電力数社の代理店営業に携わった。特に高圧などで切り替えのニーズがあると実感したことから、地域に根差した新電力は県内に数社程度という状況の中、2020年7月に同社を設立した。

新電力以外も手掛ける中嶋代表

代理店営業の経験から、激化する価格競争に巻き込まれないことを意識してきた中嶋氏。「インフラ会社は何かあったら顧客に迷惑がかかる。身の丈に合った規模でスタートし、会社を安定させて徐々にステップを踏んでいくことが大事で、攻めと守りのバランスを常に考えてきた」と経営理念を語る。具体的には、当時主流の市場連動料金ではなく、固定価格でリスクを抑えた提案に満足してもらえる顧客を探すことにこだわった。地域の大手電力より価格は抑えつつ、顧客と自社がウィンウィンとなる提案を実践してきた。

その戦略が正しかったことは、すぐに証明された。本格的に営業を始めた矢先、21年冬に卸電力市場の高騰局面を迎える。それまで卸電力市場からの仕入価格が安い状況が続いていたため、他社がその仕入割合を増やす中、安定経営にこだわり、固定価格での仕入を続けていたため、経営にはほぼ影響しなかった。むしろ、撤退した他社の顧客を可能な範囲で受け入れ、その中には市も含まれていた。


料金メニューは用意せず 顧客ごとに丁寧に提案

同社には料金メニューというものが存在しない。他ではまず見られないモデルだ。顧客ごとの電気の使用量や負荷率を踏まえ、お互いにメリットが出るような料金を1件1件作り上げていくスタイル。なんと、同じ企業の中でも施設ごとに単価を変えているという。手間暇がかかるが、社員が訪問して需要家に丁寧に説明をすることにこだわり、地域で信用される新電力としての地位を固めてきた。

この他、CO2フリー電気を使いたい、地域由来の再生可能エネルギートラッキング付き非化石証書が良い、といった要望にも可能な限り対応する。法人顧客のビジョンに沿い、年単位で電気の構成を変えることも可能だ。「さまざまな要望に応えやすく、オリジナルの料金で提供できるのは当社の強み。自社リソースで対応可能な範囲の適切な経営規模だからこうした提案が可能になる」と強調する。

さらに顧客とは契約時、切り替えによって料金が削減できた分の1%を寄付に使ってもよいか、確認を取っている。たまった額は適宜、地域貢献に取り組む団体、福祉、スポーツ、青少年育成などの分野に寄付する。原資は拡大し、今は年3回ほど実施している。

高校サッカー部などへの寄付を行っている

電気という商材は差別化が難しいからこそ安さを訴求しがちだ。安易な安売りではなく、自社のファンづくりの取り組みとして、CO2フリー電気や寄付などが必要だと感じている。

洋上風力の在り方を見直すべき時 世界の事業環境が急速に悪化の指摘も


【永田町便り】福島伸享/衆議院議員

去る2月に閣議決定された第7次エネ基では、「洋上風力発電は、今後コスト低減が見込まれる電源として、我が国の電力供給の一定割合を占めることが見込まれ、急速なコストダウンと案件形成が進展する海外と同様、わが国の再生可能エネルギーの主力電源化に向けた『切り札』として、「2030年までに10‌GW、40年までに浮体式を含む30‌GW~45‌GWの案件を形成することを目指す」としている。

これを受けて、今国会では国土交通委員会で基地港湾の混雑対応のための港湾法改正法案、内閣委員会で対象海域をEEZ(排他的経済水域)まで拡大するための海域利用法開催法案が審議されている。私は、国土交通委員会所属議員として、港湾法改正法案の審議に臨んだ。

まず、この1~2年の間に世界の洋上風力を巡る事業環境が急速に悪化していることを指摘した。ウクライナでの戦争や世界的なインフレ傾向によって洋上風力のコストは世界的に増加し、最大手のデンマークのオーステッド社は800人の人員を削減し、ノルウェーなど3カ国から撤退するなど昨年は世界中で大型洋上風力発電プロジェクトの撤退や延期が続いた。

日本でも、国の洋上風力公募第1ラウンドの入札で3海域の権益を独占した三菱商事が、2月6日に中西勝也社長が「ゼロベースで今後の方針を検討する」と表明し、撤退の可能性もある状況となっている。そこに「(化石資源を)掘って、掘って、掘りまくれ」と叫ぶトランプ大統領が再登場。米国ひいては世界の洋上風力の将来は真っ暗の状況に陥っているといえよう。


泥沼化させてはならず 風力協会も危機感表明

こうした状況への見解を資源エネルギー庁に問うたところ、伊藤禎則省エネルギー・新エネルギー部長は「国内の洋上風力プロジェクトについて事業が完遂されるための環境整備を整えていくことが重要」と答弁をした。行政というのは、一度始まるとなかなか変更したり中止したりすることはできないものだが、日支事変以降の泥沼の大東亜戦争のようになってはならない。また、再エネ事業は再エネ賦課金という国民の負担で支えられていることも忘れてはならない。日本風力発電協会も「複合的要因により風力発電の事業性が著しく低下しており、持続可能性について疑問符がついている」と危機感を表明している。

もはや、洋上風力は、エネ基にある「今後コスト低減が見込まれる電源」でも「急速な……案件形成が進展する海外」の状況でもない。当面は事業環境の整備に努めるにせよ、「切り札」としてきた洋上風力の在り方を根本から見直すべき時だ。

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ふくしま・のぶゆき 1995年東京大学農学部卒、通産省(現経産省)入省。電力・ガス・原子力政策などに携わり、2009年衆院選で初当選。21年秋の衆院選で無所属当選し「有志の会」を発足、現在に至る。

【フラッシュニュース】注目の「政策・ビジネス」情報(2025年5月号)


NEWS 01:ステークホルダー対応重視へ東ガス社長が会見で言及

「短期的な経済性を一定程度追求しなければ、さまざまなステークホルダーの期待に応えられない」

東京ガスの笹山晋一社長は3月26日の定例会見でこのように語り、長期的な成長だけでなく、短期的な利益を求める投資家にも配慮する考えを示した。

同日には次期中期経営計画(2026~28年度)の策定方針も提示。強固な国内顧客基盤と国内外のエネルギーアセットを生かした収益力・資産価値の向上のほか、今年度から28年度の間に累計1000億円程度の不動産を売却する方向性を明らかにした。

記者会見する東京ガスの笹山晋一社長

同社は1月に公表した「持続的な企業価値向上に向けた取組方針」で、25年度に自己資本利益率(ROE)8%にコミットメント、30年ごろに10%以上を目指す目標を掲げた。8%達成に向けては昨年度から継続して、今年度上期中に1200億円を上限に自己株式の取得を見込む。

背景にあるのは「物言う株主」の存在だ。昨年11月に米ヘッジファンド、エリオット・インベストメント・マネジメントが株式の5%超を保有。所有不動産の売却による資本効率の改善や、自社株取得などでの株主還元を要求したとされる。

笹山氏は「ステークホルダーとの対話を重視することを示した」と強調した。短期の果実を確保しつつ、中長期の成長を見据えた難しいかじ取りが必要な局面だ。


NEWS 02:中長期の需給バランス悪化へ 火力休廃止の増加阻止がカギ

2030年前後に火力発電設備の休廃止計画が集中し、中長期的な需給バランスの悪化が懸念されている。電力広域的運営推進機関(広域機関)が3月28日に公表した25年度の供給計画(25~34年度)から、その実態が浮かび上がった。

27~29の各年度に休廃止する設備容量は、昨年度の供給計画(24~33年度)よりも増加。この結果、新増設から休廃止を差し引いた設備の減少量が昨年度の供給計画との比較で2倍以上に拡大した。30年度以降は新増設の設備量も増加するが、設備量の減少傾向は続く。

背景には、政府が打ち出した30年に向けた石炭火力フェードアウトの方針を踏まえて事業者が休廃止の計画を具体化させるほか、長期脱炭素電源オークションで落札された29年度以降に運開予定の新設LNG火力に、既設火力のリプレース案件が含まれているため、工事期間中の20年代後半に供給力が減少することがある。一方で需要は、データセンターや半導体工場などの建設に伴い、昨年度計画よりも増加する想定だ。このため、供給信頼度の指標となる年間EUE(停電期待量)は、27年度に北海道、東北、東京、九州の広いエリアで、28~34年度には東北、東京、九州で目標停電量を上回り、その基準を満たせない見通しとなった。

広域機関は同日、経済産業相に意見として、既設火力の維持に向けた方策を提案。低稼働の設備を、供給力や調整力、慣性力として活用するなど、脱炭素と安定供給の両立を図るため制度的措置の検討継続を求めた。業界からは、将来的な撤去が前提とされる環境下で、再稼働に追加的なコストを要する低稼働火力の維持は困難だとの声が上がっていた。実効性のある制度設計が求められる。


NEWS 03:相次ぐ都市ガス値上げ 経費膨らみ苦渋の決断

全国の都市ガス事業者の間で、ガス料金の値上げ改定の動きが加速している。小田原ガス(神奈川県小田原市)は2023年9月に150円、伊東ガス(静岡県伊東市)は昨年1月に200円、基本料金を一律値上げ。名張近鉄ガス(三重県名張市)は10月に平均5・9%、豊岡エネルギー(兵庫県豊岡市)は11月に同8・1%、今年4月には同14・6%と段階的に値上げし、新年度が始まってからも4月に新宮ガス(和歌山県新宮市)が同10・9%、日本海ガス(富山市)が6月から同7・1%と続いている(いずれも検針月)。

さらに、これまで無料だった紙の検針票の発行や機器の相談サービスの有料化など、特定のサービスを利用する顧客に適正なコストを負担してもらおうという取り組みも広がる。東京ガスの場合、昨年11月検針分から紙の検針票の発行に毎月165円かかるが、スマートフォン対応のウェブサービス「myTOKYOGAS」であれば、引き続き無料で確認できる。

一連の値上げの背景には、資材や物流、光熱費といった諸経費全般が高騰するなど、「このままでは事業を継続できない」(都市ガス事業者幹部)という苦渋の決断がある。DX化により、できる限り効率化を図ってはいるものの、供給設備の耐震化への対応など、安定供給の維持とサービス品質向上のための投資は欠かせない。

17年度の小売り全面自由化以降、大半の事業者で料金規制が廃止され、経済産業局の査定を受けることなく事業環境の変化に合わせた柔軟な料金改定が可能になったことは大きい。とはいえ、所管する経産局から苦言を呈されるケースも。

インフラを維持していく上で値上げは不可避。これは全国共通であり、まだまだ続きそうだ。


NEWS 04:都の太陽光義務化が開始 都議から財産権侵害の声も

東京都は4月1日、新築戸建て住宅に太陽光パネルの設置を義務付ける制度を開始した。年間供給延べ面積が2万㎡以上の大手住宅メーカーに、全供給戸数の内、最高で85%に設置する義務を課す。その際、日照や屋根面積などの条件が芳しくない住宅は対象外とする。都の試算では、初年度で約2万戸の新築住宅に太陽光が設置される見通しで、戸建て住宅への義務化は全国初となる。

CO2排出量低減への効果はいかに

背景には、依然として住宅部門のCO2排出量の増加傾向が続いていることがある。都内の排出量のおよそ3割を占めるなど、その改善が喫緊の課題となっている。2030年度に排出量を00年度比で半減させる「カーボンハーフ」の実現に力を入れる小池百合子知事が21年に設置義務化の方向性を示したのを契機に、22年末には環境確保条例の改正で下地を整え、4年弱で実施にこぎ着けた。

気がかりなのは、設置コストを誰が負担するのかという点だ。住宅価格に反映されれば消費者の購買意欲を下げかねず、そうでなければ下請けメーカーにしわ寄せがいく。

義務化の動きを当初から注視してきた上田令子都議会議員は「一番の問題は都民に拒否権があることを周知していないこと。住宅が憲法で保障されていることを知らず、条例である義務化を不本意に優先し、財産権を侵害されるケースが発生するのではないか」と疑問を呈した。

浮上したアラスカ産LNG投資 交渉“カード”とする前に


【論説室の窓】神子田 章博/〈NHK〉解説主幹

「トランプ関税」が世界経済を揺るがす中、日本政府は引き下げに向けた交渉に入った。

しかし、アメリカ経済への悪影響が顕在化する可能性があり、政策の持続性を注視すべきだ。

アメリカのトランプ大統領が打ち出した異例の関税政策が世界経済を振り回している。トランプ政権は、海外からの製品に高い関税をかけることで輸入をブロックし、国内の生産を拡大させ、投資や雇用を拡大させる狙いだが、4月2日に打ち出された相互関税などの政策は、各国の想定を大きく超えるものだった。

政策の柱は、基本の関税率を設定して全ての国や地域からの輸入品を対象に一律で10%の関税を課す。さらに日本や中国など、アメリカが貿易赤字を抱える国に対しては、相手国の関税率や非関税障壁を勘案して関税を上乗せする、「相互関税」を適用するというものだった。衝撃的だったのは、日本が24%、中国が34%(その後、中国が報復措置を取ったことで、最終的には145%にまで引き上げられる)など、関税率の高さと、相互関税の適用が世界の幅広い国々に及んだことだ。世界経済の後退が懸念される中で、9日には国際的な原油の先物価格・WTIが一時1バレル55ドル台まで急落するなど、影響はエネルギー価格にまで及んでいる。

その後トランプ政権は、相互関税の発動を90日間停止することを発表したが、それ以前に打ち出した輸入車に対する25%の関税や、10%としている基本の関税率は継続して適用されている。日本政府は、こうした措置はいずれも国際的な貿易ルールに反するものだとした上で、関税の引き下げを求めてアメリカ側との交渉に入った。

この交渉を巡って、アメリカ側が重視しているのは、日本に対して抱える貿易赤字の削減に向けて日本がどんな対応を取るのかだ。具体的には、コメなどアメリカ産の農産物に対する関税の引き下げ、自動車などの工業製品をめぐる安全のための規制の緩和、さらに、アメリカから日本への輸出がしやすいように、為替相場を円安傾向から円高方向へと是正することなどが焦点となるが、そうした取引材料の中の一つとして浮上しているのが、アラスカでのLNG天然ガスの開発プロジェクトに対する日本からの投資だ。

トランプ関税の先行きは……


看板政策として掲げるも 採算性は未知数

トランプ大統領は3月に行った施政方針演説で、アラスカ州で世界最大級のLNGのパイプラインの建設に取り組んでいるとした上で、「日本、韓国そのほかの国々が何兆ドルもの資金を投じてパートナーとなることを望んでいる」と述べた。アラスカでのLNGの開発は、化石燃料の増産を通じてエネルギー価格を下げる方針を打ち出しているトランプ政権が押し進める看板政策の一つである。さらに注目されるのは、相互関税発動後にベッセント財務長官が、「アラスカへの投資はアメリカ国内の投資や雇用を拡大することにつながる」という認識を示した上で、日本からアラスカのLNG開発への投資が、日本に対する貿易赤字を縮小するための〝代替措置〟になり得るという考えを示したことだ。

【覆面ホンネ座談会】「檻の中」でもがく東電 再建には業界再編が不可避


テーマ:5次総特の策定延期

東京電力ホールディングス(HD)は「第5次総合特別事業計画」(5次総特)の策定を延期し、4次総特の改訂版を公表した。柏崎刈羽原発(KK)の再稼働が遅れ「稼ぐ力」が回復しない中、打開策はあるのだろうか。

〈出席者〉A 政治家 B 電力OB C コンサルタント D 新聞記者

─5次総特の策定遅れと4次総特の改定をどう見たか。

C 策定遅れはKKが再稼働できなかったからだが、金融機関との交渉がまとまらなかったというのも理由の一つだろう。

B このまま再稼働しなければ、2026年度にも資金が財務上の防衛ラインを下回ると言われているが、金融機関が何らかの手当をするはずだ。さすがに彼らもショートさせる気はないだろう。ただ金融機関は東電だけでなく、原子力損害賠償・廃炉等支援機構(NDF)に対しても不信感を抱いているかもしれない。貸した金を返していないのに「また貸してくれ」と言ってくるのだからね。単にキャッシュが足りないだけでなく、負債比率維持などのコベナンツ(誓約条項)に引っかかっている可能性もある。そうなれば、信用収縮どころではない。

A でもNDFのバックは国だ。暗黙の政府保証のようなものでは。

B 確かにそうだが、3・11後に原子力損害賠償法の「三条ただし書き」(原子力損害が異常に巨大な天災地変、社会的動乱によって生じた場合、事業者の損害賠償責任が免責される)を認めなかった政府を、一体どこまで信用していいのかという複雑な気持ちはあるだろう。

東電の再建問題は行き詰まっている

─KKを抱える新潟県はどんな反応をしている?

D 一般的に4次総特の改定でクローズアップされているのは、国からの援助額の1・9兆円積み増しと、再稼働の前提を3基から1基に変更したことだ。県内ではKK再稼働に向けて「東電の信頼性」が一つのファクターになっているが、積み増しや策定遅れで「この会社は大丈夫なのか」という見られ方をしている。再稼働に向けてはプラスとはいえない改定だった。

B 原子力だけでなく、さまざまな現場のモチベーションを維持できるのか心配だ。特に東電パワーグリッドは、改修予定だった基幹系統に対して設備投資が十分にできず、その場しのぎで何とか対応している。NDFに納付する特別負担金も、キャッシュフロー上はボディーブローのように効いてくる。

A 東電にとって、一番の資産は送配電網だ。増強の必要性が叫ばれている中で、本来なら投資をけん引する立場だというのに。

D KKの稲垣武之所長は頑張っているが、まだ組織全体に所長の考えが浸透し切っていない気がしている。かつて福島第一原発(1F)を取材したが、社員は非常に強い使命感で仕事に向き合っていた。KKと1Fで置かれている状況は違うとはいえ、1Fと比べるとKKの士気は物足りない。再稼働の時期が見通せず、仕方がない面もあるが。

C 策定遅れは表面的にはKKが動かなかった結果だが、この間にJERAのような包括的アライアンスなど火中の栗を拾う改革ができていれば、社員のモチベーションも変わっていただろうね。

A KK再稼働問題に矮小化しては駄目だ。仮にKKの数基が稼働しても、構造的な東電の経営問題は解決しない。マクロの視点に立ち、大きな絵を描かないと。

【イニシャルニュース 】支持広げる保守系3党 エネ政策連携は難しい?


支持広げる保守系3党 エネ政策連携は難しい?

国政では自民・公明の連立政権が少数与党に転落する中で、政策ごとの部分連合がありそうな状況だ。しかし選挙直後に「有り得る」と思われたエネルギー問題での中道・右派連合はまとまりそうにない。

昨年10月の衆議院選挙では、リベラル色を強めた自民党から保守層が離れ、中道色を強めた国民民主党が617万票、参政党が187万票、総選挙初挑戦の日本保守党が114万票を獲得した。

選挙直後に、国民民主党の玉木雄一郎代表らが「政策ごとの部分連合」を提案し、話題を集めた。ところがエネルギー分野では「各党いろいろ問題があり、協議を進める状況ではない。有権者の関心は税と控除になった」(国民民主党関係者)という。

参政党は、反原発活動をする元大学教授のT氏が当初の中心メンバーだったが、党首の神谷宗弊氏と総選挙前に仲違い。日本保守党については著名作家で代表の百田尚樹氏を、かつて同党から衆院補選に出馬した研究者のI氏が批判。これに対し、保守党は名誉毀損でI氏を訴えた。

この問題を巡っては保守系オピニオン誌のW誌とH誌が保守党批判を行い、同党を巡る言論は混乱状態になっている。国民民主党も玉木代表が女性問題で今年3月まで3カ月間の役職停止処分となっていた。「せっかく追い風が吹いたのに、自らのミスで党勢が伸び悩む。国会議員として襟を正し、まっとうな政策論議を展開してほしい」(永田町関係者)

日本保守党は、前名古屋市長の河村たかし共同代表が、反原発の立場だ。ただし3党とも、再エネ支援に批判的だった。部分連合の話も浮上していたものの、「結局、具体化していない。7月の参議院選挙前にもなさそうだ」(同関係者)。エネルギー関係者にとっては、まだ新党の政策への影響を考えなくてもよいかもしれないが、若年層を中心に着実に支持を集めている点には要注目だ。


豪がLNG輸出抑制⁉ 野党が選挙公約で表明

3年ぶりの政権交代か、それとも現政権の継続かー。5月3日に投開票されるオーストラリアの連邦総選挙は、労働党現政権と自由党を中心とする野党連合との間で激しいデッドヒートが繰り広げられている。

エネルギー政策も重要な争点の一つだが、自由党のピーター・ダットン党首が選挙公約に突如、LNGの輸出を抑制すると表明して波紋を広げている。特に最大の輸出先である日本のエネルギー業界にとっては寝耳に水であり、もし自由党が政権を奪取すれば日本のLNG調達計画が大幅に狂う可能性も否定できない。

政権奪取の公算は低いとの見方も

ダットン氏は選挙戦の遊説先で、豪州全体のガス供給量が不足して価格が上昇する懸念があることを理由に「豪州人のための、豪州のガス」と名打ったガス計画を発表し、LNGの輸出を抑制するとの意向を表明した。しかもダットン氏はその際「(最大の輸出国である)日本とは外交に関係するU氏とT氏に話をした」とコメントしたというのだ。

確かにダットン氏率いる自由党は、再生可能エネルギーを重視する労働党現政権に対するアンチテーゼとして「これからのエネルギーの柱はLNGだ。国内供給を重視する」と主張している。しかしそれは2030年以降の話だと誰もが認識していた。 ある大手エネルギー企業の関係者は「そもそも長期契約で調達が当面決まっている話を覆すことはできない。おそらく中長期的に抑制するということだと理解しているが」と首をかしげる。

外交に関係する2人に話した内容も判然としない。T氏は豪州の地元メディアのインタビューで、ダットン氏から忠告があったのではないかと問われた際「忠告というわけではないですが、話はありました。日本は豪州に多額の投資をしていて、事業の予見性が重要なことです」と見事なまでのゼロ回答で煙に巻いた。

ダットン氏が政権を奪取すれば、日本のエネルギー政策を混乱させる要素が出てきただけに気が気でないところだが「ダットン氏は人気がないうえに、自由党の公約が実現可能性がないとの分析が各所でされており、政権奪取できないのではないかとの見方が有力視されている」(外交筋)といい、杞憂に終わる可能性もありそうだ。

7年ぶりにトップ交代 九州電力社長に西山氏


九州電力は3月27日、西山勝・取締役常務執行役員が6月末に社長に昇格する人事を発表した。社長交代は7年ぶり。在任中、4年にわたって電気事業連合会会長を務めた池辺和弘社長は、代表権のある会長に就任する。

握手を交わす九州電力の池辺社長(右)と西山次期社長
提供:朝日新聞社

西山氏は、鎌田迪貞社長・会長の秘書を務めたほか、経営企画部門を中心に幅広く経験を積み、2023年からは、エネルギーサービス事業統括本部長として、水力や火力、営業などの部門を束ねている。「とにかく真面目」(電力業界関係者)な人柄で、瓜生道明会長や池辺氏の信頼は厚く、早くからポスト池辺との呼び声が高かった。

「九州は成長の姿が見えてきた。地域と共に事業をさらに飛躍させたい」と、同日の会見で抱負を語った西山氏。熊本県で、半導体受託生産世界最大手の台湾企業「TSMC」が工場を稼働させ、データセンターの集積が計画されるなど、同エリアでの電力需要の高まりが予想されている。すでに川内1、2号機、玄海3、4号機を再稼働しているが、新たな大規模電源投資の検討は必至だ。

同社は昨年、純粋持ち株会社体制への移行に向けた準備を開始することを発表。実現すれば、九電は発販事業会社として、九州電力送配電などと共に持ち株会社傘下に入ることになる。社長には池辺氏が就任すると目されている。5月に新たな経営ビジョンの発表を控える九電。エネルギー事業を取り巻く環境が激変する中で、ビジネス機会を捉えさらなる成長へと導くことができるのか。西山氏の手腕に期待がかかる。

次世代地熱で官民協議会 30年代の早期実装を目指す


資源エネルギー庁は4月14日、次世代型地熱技術の普及に向けて議論する官民協議会(座長=藤光康宏・九州大学大学院教授)の初会合を開催した。2030年代の早期実用化を目指し、課題や技術開発要素を整理した上で、10月ごろにロードマップを取りまとめる。

冒頭あいさつに臨む竹内真二・経産政務官(左から4人目)

次世代型は従来型に比べ、約4倍の地熱ポテンシャルを秘めている。高温岩体発電(EGS)、超臨界地熱、クローズドループなどが該当し、近年では欧米を中心に、クローズドループやシェール技術を適用したEGSへの取り組みが盛んだ。冒頭あいさつした竹内真二経産政務官は「日本も早期実用化を目指し世界の地熱利用をけん引していくべきだ」と強調した。

協議会には、電力・ガス事業者のほか、メーカーやゼネコンなど76の民間企業・業界団体が参加。オブザーバーには、エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)のほか、環境省や林野庁なども名を連ね、発電所建設の法規制の検討を視野に入れた体制が構築された。地熱開発に携わるメーカー関係者は「地熱はリードタイムが長く、調査費用も莫大。地元理解の醸成も不可欠であり、開発のハードルは他の再生可能エネルギーよりも高い。だからこそ、国が旗を振ってくれることに大きな期待がある」と語る。

火山国である日本の地熱資源量は、米国・インドネシアに次ぐ世界第3位を誇る。一方で、設備導入量は10位。世界3位のポテンシャルを生かせるか―。石破茂首相自らが地熱に関心を寄せる中、協議会の議論が開発拡大の鍵を握る。