【再エネ】太陽光のケーブル盗難 業界全体でリスク分担を


【業界スクランブル/再エネ】

ここ数年、銅価格の高騰を受け、太陽光発電施設の銅線ケーブル盗難が相次いでいる。盗難に伴い長期間の運転停止や復旧への経済的負担が増加し、太陽光発電事業の運営面に対する不確実性が高まっている。

6月、「盗難特定金属製物品の処分防止等に関する法律」が国会で成立した。これまでは自治体ごとに条例を制定していたが不十分との声が上がり、新法を制定した。くず買い受け業者の届出や買い取り時の本人確認、取引記録の保管の他、指定犯行用具の隠匿携帯の禁止や金属盗に関する情報周知が義務付けられた。警察や各省庁とわれわれ事業者との横断的で地道な活動が実を結び、おかげで直近のケーブル盗難は大幅な減少傾向になりつつある。改めて関係者に対して敬意を表したい。

一方、タイミング遅れで問題が顕在化しているのは、ケーブル盗難急増の影響により、発電事業者だけでなく損害保険会社にも深刻な損害が発生したことで、これら盗難に関する保険は原則不担保に見直されている点だ。太陽光発電事業の新規開発のみならず既設案件の事業継続も脅かされており、保険引き受けの適正化は太陽光発電事業者にとって喫緊の課題だ。当然、発電事業者などからも保険会社へ働きかけを継続しているが、まだ道半ばである。

今後は、発電事業者の一定のリスク負担により、有効な盗難対策を一層強化し、被害に遭いにくい施設作りを進めるべきだ。同時に、損害保険会社もそうした施設へは盗難を含む保険引き受けを再開するなど、業界全体でリスクを分担していくことが太陽光発電の長期安定電源化には重要と考える。(F)

原発由来だけではない〝核のごみ〟 余剰プル処分を巡る米国の迷走


【原子力の世紀】晴山 望/国際政治ジャーナリスト

核保有国は核兵器や原子力潜水艦など軍事用の核ごみ処分に手を焼く。

米国では処分先が決まらない核ごみを軍用施設に仮置きしている。

93基の原子力発電所が稼働する世界一の原発大国アメリカ。しかし、その米国でも核のごみ処分を巡っては、日本と同様に最終処分場の建設にめどが立たない状態が続く。 米国は、西部ネバダ州ユッカマウンテンの山中に処分場建設を決め、1978年に調査を始めた。だが地元の根強い反対があり、2008年の米大統領選で激戦区であるネバダ州を制したい民主党のオバマ候補(後の大統領)が、計画撤回を公約した。新たな処分場は設定されないままの状態にあり、7万t以上に達した核のごみは、原発敷地内などに設けたドライキャスクに保管されている。

原潜から取り除かれた原子炉(2024年9月)
提供:米国防総省


軍事専門の核ごみ処分場 MOX燃料への加工断念

米国はロシアと並ぶ核兵器大国でもある。核兵器に使うプルトニウムを製造するため核燃料を再処理、これにより生じた大量の核のごみがある。ただ、処分場は民生用とは切り離し、メキシコ国境に近いニューメキシコ州の核廃棄物隔離試験施設(WIPP)に設けた。

1999年春に操業を始めたWIPPは、フィンランドのオンカロなどと同様に地下地層処分場だ。地下655mの岩塩層が処分場所となる。過去に何度も事故があり、最大だった2014年の事故では放射性物質が施設を汚染する事態にまで至り、3年近く作業中止に追い込まれた。現在の計画では70年まで廃棄物を受け入れ、その後、1万年管理する。

WIPPは、核燃料再処理で発生した半減期が20年よりも長い超ウラン(TRU)廃棄物の処分を想定していた。しかし、時代を経るにつれ、受け入れる核物質の範囲を拡大、最近は核軍縮で余剰になった軍事用プルトニウムも運び込まれている。

米露両国は00年、核兵器削減により余剰となった軍事用プルトニウムについて、核兵器1万7000発分に相当する34tずつを双方が削減することに合意した。核兵器用の高濃縮ウランを希釈して核燃料に使ったのと同様に、軍用プルトニウムも混合酸化物(MOX)燃料にして使うことが決まる。当初は軽水炉での使用を想定していたが、紆余曲折を経て、ロシアはMOXを高速炉の燃料に使うことになった。

米国は南部サウスカロライナ州サバンナリバーにMOX燃料工場の建設を始めた。だが、工期の大幅な遅れや建設費の高騰で計画がつまずく。16年にオバマ政権が建設を止め、翌17年にトランプ政権が計画中止を決めた。代替案として、処分費用が最も安く済むWIPPへの直接処分案が浮上した。 ところが、課題が浮上する。処分場や輸送中に敵国やテロリストなどにプルトニウムが強奪され、核爆弾が製造される事態を阻止する必要がある。そのための手法の検討が進んだ。


プルトニウムを「魔改造」 原潜や空母の処理も課題

米国はプルトニウムに「混ぜ物」をする手法で解決を図ることにした。ただ、この混ぜ物が何であるかは極秘で、詳細は公表されていない。

ロシアは「混ぜ物をしても、核兵器に使えるプルトニウムである点に変わりがない」と批判、米国がプルトニウム削減合意を守っていないとしている。米国が「廃棄」の名を掲げながら、プルトニウムを隠し持とうとしているとの主張だ。

プルトニウムに「混ぜ物」をする作業は、サバンナリバーのMOX工場予定地を再利用した。グローブボックス内で、プルトニウムを10%未満に希釈するため混ぜ物をして小さな缶に詰める。それをドラム缶に梱包し、輸送用のコンテナに詰める。大型トレーラーに載せ、数千㎞も西にあるニューメキシコ州のWIPPに陸上輸送する。

トレーラーは2人乗り。過去にも横転事故など20件もの事故を起こしている。保安対策のため全地球測位システム(GPS)を装着、絶えず衛星が動向を監視しているが、警備車両も付けずに時速約100㎞で単独走行している。米国は長年の間、核物質をこうしたトレーラーでの輸送を続けてきた歴史がある。日本人にとっては意外に映るが、核専門家からは「輸送面で大きな問題が起きたことはない」との評価が定着している。

前代未聞のプルトニウム廃棄輸送は、22年12月に始まった。

だが、トランプ米政権は今年5月になって、突然、方針の変更を打ち出す。同政権は50年までに原子力発電所の容量を4倍増とする新たな原子力政策を発表し、その中で、プルトニウムを重視する政策への変更も打ち出した。余剰プルトニウムの廃棄計画を中止するほか、1976年にフォード政権が核拡散防止のため国内での実施を禁止した民生用の核燃料再処理も再開する考えを示した。ただ、過去にも81年にレーガン政権が再処理モラトリアムを停止した例がある。当時は「採算が合わない」ことを理由に、再処理に乗り出す企業は出なかった。今回は、どうなるのだろうか。

米国など核保有国は、原子力潜水艦や原子力空母の処理・処分にもてこずっている。

原潜は退役が決まると造船所に回航される。まず、原子炉内にある使用済み核燃料を引き抜く。次いで、船体を解体して原子炉を切り取る。米国では太平洋に面する西部ワシントン州の造船所が「原子力海軍の墓場」の役割を務める。取り出した原子炉は前後を密閉した上でバージ(はしけ)に載せ、約1200㎞もコロンビア川をさかのぼり、ハンフォードに運ぶ。86年以後、160基以上の原潜の使用済み原子炉が運び込まれ、野積みされている。

英国では、昨年まで海軍基地2カ所に、初代の原潜を含めて23隻全ての退役原潜が係留されていた。このうち11隻は、使用済み核燃料を抜き出しイングランド北部にあるセラフィールド原子力複合施設に移送した。だが、残りの12隻には現在も核燃料や原子炉も据え付けたままの状態にある。ようやく今年6月に1隻目の解体作業が始まった。

核のごみとの戦いは、民生にとどまらず軍事面でも難航している。

夏場のガス火力低下 議論スルーを直前で回避


【業界スクランブル/火力】

OCCTOが約1年半にわたって議論を重ねた「将来の電力需給シナリオに関する検討会」の報告書が7月に公表された。それによれば、2050年には2300万~8900万kWもの供給力が不足する可能性があるという。25年先の話とはいえ、すでに足元では需給ひっ迫の兆しがあり、大規模な電源開発には着手から10年以上を要することを考えると、残された時間は決して多くない。

しかし、国の対応は鈍い。この検討会の設立趣意書には「ここで策定されるシナリオはエネ基等正式な計画との整合を前提としない」と明言しており、当初から責任回避の余地を残していた。報告書の中でOCCTOは、見直しの時期について3~5年後などと悠長なことを書いている。

さらに、世間ではあまり話題となっていないが、報告書発表の直前になって検討シナリオの信頼性を大きく揺るがす事実が明らかとなった。

原動機にガスタービンを利用するLNG火力は、気温が高くなる影響で夏季に出力が低下する特性を持つが、これまでそのことを考慮していなかったというのだ。修正量は500万~1300万kWに及ぶという。 将来の電力需要や脱炭素技術の進展など不確定要素が多く、とても難しいシナリオ検討であるのは理解できる。だからこそ現時点で分かっている諸元は、なるべく正確にインプットすべきではないのか。報告書に間に合ったので、事なきを得たかに見えるが、火力関係者ならすぐに気が付くような基本的な事項に気が回らなかった事実は重い。メンバー構成の在り方を含め、国やOCCTOには根っこからの見直しを期待したい。(N)

経済多角化に注力するUAE 関係深化へ問われる日本の姿勢


【リレーコラム】山野 総/中東三井物産アブダビ事務所長

三井物産がUAEの首都アブダビに事務所を設けている一番の理由は、1970年代に操業開始したアブダビ国営石油会社(ADNOC)とのLNG事業に参画したことだ。それから50年以上、アブダビでADNOCと協働してきた。長年、パートナーとして真剣に対峙してきた実績も含めた総合評価から、最近では同社が力を入れる脱炭素社会を見据えたクリーンアンモニア製造事業とE―Drive設計を採用した低炭素LNGの生産・販売事業への参画を果たすことができた。

いずれもアブダビから陸路で約2時間半要するルワイス地域での事業となる。ともに昨年最終投資決定がされ、現在建設フェーズだ。強風時の砂嵐に伴う視界不良により工事の中断が発生するなど中東ならではの事象もあるが、ADNOCとわれわれ外国株主がスクラムを組み、そして建設業者と連携しながら計画に則った事業の立ち上げに向けて日々取り組んでいる。数年後の生産開始が待ち遠しい。


エネルギー以外の連携に期待高まる

現在、日本の原油輸入量の半分以上はUAEから供給されている。三井物産はアブダビで原油生産には携わっていないが、アブダビ石油、INPEX、合同石油開発の操業会社のブンドクが当地で長年根を張り原油供給の一翼を担っている。そしてアブダビは長い間、原油を日本に安定的に供給してきたことを誇りにしている。エネルギー供給が原点となって発展した日本・UAEの現在の良好な関係を将来にわたり継続させたいと考えた時、現在の在り方がUAEからの一方通行になってしまっているのではないかと感じる。

UAEは、責任のあるエネルギー供給者として脱炭素事業にも注力しつつ、同時に経済多角化に向け、インフラや農業・食品、ヘルスケア、デジタル分野への投資などに国を挙げて取り組んでおり、多くの米中欧といった各国企業が積極的にアプローチしている。日本企業の進出も聞こえてくるが、まだまだ少ない。特にこの数年、日本企業とこれらの分野での協働を期待する姿勢の強まりを感じている。5月には大規模な経済ミッションを東京に派遣するなど、本気でエネルギー以外のビジネスでのパートナーリングを目指している。

日本がエネルギー供給の観点からアブダビとの関係を重んじ、それに彼らは応えてくれた。今後もこの関係が継続することを信じているが、そのためにも今度は日本がアブダビの期待に応えるべく新たな分野で協力していくことを真剣に考えなければならないし、それを現地で働くわれわれの使命の一つとしなければならないと考えている。

やまの・そう 1998年慶応義塾大学卒、三井物産入社。LNG、排出権、石炭事業に従事し、2009年ブリスベン、20年からアブダビ駐在。

※次回は、国際協力銀行の豊田康平さんです。

【原子力】美浜の建て替え調査再開 迅速な許認可が必須


【業界スクランブル/原子力】

関西電力が美浜1号機の後継機設置に向け、現地調査の再開を公表した。火力は炭素を出し、再エネは天気任せ、蓄電池は高コストとなれば、原子力に頼るしかない。現在、稼働中で最初に炉寿命に達する高浜1、2号機と美浜3号機はいずれも60年運転の許可を得ているが、事業者にとって外的要因の停止期間を除外しても2047年には3基合計248万kWが消え、50年まで運転できない。

後継機の運転開始はいつになるのか。新規建設に要する標準的な年数は、地質調査と基本設計、環境審査と地元了解に5年、設置変更許可と設工認の審査に5年、建設工事に5年で合計15年、実態は20年以上かかる。最近の既設炉の再稼働では、工事が終了し使用前確認を終えても安全協定に基づく地元からの最終合意に追加の時間がかかるが、福井県知事は理解が深く、そう月日を要さないだろう。

問題は規制委の許認可に要する時間である。建設中の島根3号機と大間は変更申請から既に12年経つが、合格時期は見えない。両者の審査は他原発の審査終了を待たされ停滞したが、その審査範囲は新規制基準関係だけで、新増設のフルスコープではない。12年を参考とすれば5+12+5で22年、つまり47年運転開始となる。

後継機は120万kWの革新軽水炉と言われるが、喪失する248万kWの半分に満たない。となれば、着手済みの敦賀3、4号機も必要だろう。米国ではトランプ政権が規制委を改革して新規建設の許認可を1年半で終わらせるよう、大統領令を出した。日本のお手本となるような迅速な許認可プロセスの実現を望むところである。(T)

【石油】需給緩和の気配なし 低い需要見通しにバイアス


【業界スクランブル/石油】

昨秋から世界中の多くの石油研究機関は、今年の原油需給の緩和拡大、原油価格の低下を予想し続けてきた。トランプ大統領の就任で、米国のイラン核施設への攻撃、対露制裁強化など地政学リスクの高まりはあるものの、原油価格は予想外の堅調を保っている。特にOPECプラス有志8カ国の追加減産220万バレル(日量)分の緩和拡大・増産があっても、市場はこれを吸収している。

そのOPECは、8月月報で今年と来年の需要はそれぞれ前年比130万バレルを予想。過去の合意違反国の超過増産分の減産もあるので、需給均衡を失することはないとした。

他方、国際エネルギー機関(IEA)の8月月報は各70万バレル増、供給増加はOPECプラスの増産を前提に今年が210万バレル、来年は130万バレルと予想している。予想通りなら、そろそろ原油価格は暴落を始めていいが、その気配は見えない。

果たして、本当に石油需給は緩和しているのであろうか。IEAは低めの需要見通しの理由として、経済減速、EV増加、効率改善などを挙げているが、そこには脱炭素のバイアスがかかっているのではないか。そもそも、石油需要のピークについて、IEAは2027年としているが、OPECは40年代初めまで伸びるとした。

脱炭素の重要性は認めるが、途上国の経済成長を認めないわけにはいかない。本来、エネルギー安全保障を最優先すべきIEAが、脱炭素を優先することは間違っている。日本の経産省・エネ研を含め、圧倒的に影響力があるIEA月報の見通しがこのようなことでは困る。(H)

【シン・メディア放談】参院選経てカオスの自民党 現実に直面する暫定税率廃止議論


〈メディア人編〉大手A紙・大手B紙・大手C紙

自民党のパワーが衰える中、総裁選の行方、そしてエネルギー政策への影響やいかに―。

―参院選からはや1カ月以上。改めてそれぞれ感想は?

A紙 最終日、参政党の芝公園での演説にはびっくり。選挙の風景が変わったと感じた。他方、最後に自民が踏ん張り、国民民主も意外に伸びた。そして立憲民主は低迷が明らかだ。

B紙 今回も出口調査は当てにならず。午後8時の第一報は「与党過半数割れへ」だったのが、日付が変わるころには「微妙な情勢」となった。なんだかんだで自民は比例で1280万票と国民の1・7倍取っている。

C紙 参政は排外主義や反ワクチン、有機農業推進などウイングを広げて「政治的無知層」を掘り起こした。マスコミはオールド政党が見放された理由をしっかり分析しけなれば、オールドメディア離れもまた加速する。

A紙 兵庫県知事選の経験から、選挙期間中でも真偽不明の言動は臆せず攻めるという姿勢が毎日や東京新聞などで顕著だった。ただ、意外にも読者の中には参政支持者が一定数いるという。

C紙 参政が炎上すると、かえって「既存メディアは敵」と支持者の団結が強まっていったね。また、やはり神谷宗幣代表の話し方が分かりやすい点が受けた。石破茂首相とは対照的だ。

A紙 神谷氏は意識的に話を短くまとめる訓練をしている。

C紙 討論会はそうした違いが如実に表れていた。というか、テレビで各党党首を集めるのはもうやめた方がよい。

A紙 試しに月1000円で参政党員になった人の話を聞くと、日本の歴史だのトランプ政権だのに関するボイスメッセージが毎日届き、イベントも毎週のようにあり、工夫が感じられる。


石破降ろし吹くも次見えず どうなる総裁選

―8月中旬になっても総裁選の行方が不透明だ。

C紙 高市早苗氏や茂木敏充氏、小林鷹之氏、斎藤健氏などの名が挙がるが、誰になっても選挙は勝てない。3連敗は裏金問題のせいで、その震源地の旧安倍派が石破降ろしに騒ぎ、根本的にずれている。むしろ石破政権の支持率は上がってきている。

B紙 今回も自民に入れた1280万が岩盤保守層とすれば、高市総裁などは支持されないはず。それにしても、FIT法を人質に辞任を拒んだ菅直人氏がマシに思えるような宰相が現れるとは……。石破氏は選挙直後落ち込んでいたが、旧安倍派の動きでスイッチが入り戦闘状態に。こんなことなら石破氏は再度総裁選に出ればよい。

A紙 「石破やめるなデモ」が心の支えであるのは間違いない。今の自民には核となる政治家がおらず、このままでは総裁選がないかもしれない。

B紙 五分五分とまではいえないが、その可能性はあるね。

C紙 当選14回の勘で、石破氏がこの流れを読んでいたのならすごい。他方、野田佳彦・立民代表も追い詰められている。得票率は自民以上に落ち、今選挙をしたら自民よりもダメージが大きい。蓮舫氏を比例で擁立する辺り、センスがない。

A紙 立民では票が取れないからと、地方議員がぞくぞく離党している。共産か社民党のような道に入り始めている。

トランプ2.0と国際社会〈上〉 波乱含みのウクライナ停戦


【ワールドワイド/コラム】国際政治とエネルギー問題

石油市場には、供給過剰と需給ひっ迫という相反する要素が共存する。原油(WTI)の1~7月平均は1バレル当たり68.2ドルで昨年通年(76.6ドル)より8ドル低く、IEA(国際エネルギー機関)の最新月次報告によれば、今年の石油供給は昨年比で日量210万バレル増加するものの、需要量は同70万バレル増にとどまり供給過剰が残る一方、地政学リスクが払拭できない。

こうした基調の中で、トランプ関税は今日の原油相場にさまざまな影響を与えている。今年の原油相場で大きく下げたのは、4月2日のトランプ関税発表後、およびイランとイスラエルの「12日間戦争」に米軍参戦後、イランに戦闘能力がないことが明らかになった6月下旬である。WTIでフォローすれば、4月2~4日に約10ドル下げ(72.1から62.4)、6月20~27日には9ドル(75.7から66.7)下げた。

トランプ関税交渉の進展過程では、景気後退懸念と実施先送りが相場を形成した。4月2日の相互関税の発表に対し、各国首脳から同決定は世界経済への大打撃であるとする批判が相次いだが、その後の展開は批判通りの展開となった。

その後、実施日の順延、関税率の下方修正、中国との合意観測予想などが原油相場を浮揚させたが、原油相場は4月2日以前に戻っていない。

関税交渉絡みで次に注目されたのはインドの扱いだった。トランプ大統領は、同国は安価なロシア原油を大量に輸入し転売して利益を得ていると批判し、7月31日付けで25%にすると主張していたが、実際は8月6日の大統領令により27日からインドからの輸入品には合計50%の関税を賦課するとした。

世界は8月、さらに振り回された。ウクライナ戦争に対する米露停戦交渉の進展報道で原油は2カ月ぶりの安値をつける中で、トランプ・プーチン両大統領は15日に対面会合を持つことで合意し、原油価格はさらに急落した。

トランプ大統領は、7月末時点では「8日までにプーチンが停戦に合意しなければ、ロシア原油輸入国に懲罰的追加関税100%を賦課する」と述べていたが、本措置の扱いは不詳である。報じられた「ほぼ現状での固定」では、ウクライナが了解するはずはなく、そのことは属国化を目指すプーチン大統領も同様である。

国際紙の報道ではウクライナ戦争の現状凍結がトランプ提案の骨子となる公算が大きいものの、どのような進展を見せるか予断を許さない。トランプ大統領は13日、「初日の協議での停戦合意は難しい」との見方を示すとともに、2回目がより重要だと話しており、ゼレンスキー大統領を含めた2回目の会談を開く可能性に言及した。

ウクライナ停戦交渉の展開は、英仏独3国が13日、対イラン制裁復活を求めて国連に書簡を送ったこと、及びイランの同措置復活阻止に向けた中露との協力を示唆する対応と併せて、目が離せなくなった。

(須藤 繁/エネルギーアナリスト)

露産原油巡るEUの印制裁は妥当か


【ワールドワイド/コラム】海外メディアを読む

インドを代表する英字経済誌エコノミック・タイムズは、ウクライナ紛争が勃発して以降、EU(欧州連合)がロシア産のLNGの輸入量を急増させているにも関わらず、インドの石油会社に制裁を課したことについて、その偽善を批判した。

同誌はウォール・ストリート・ジャーナルに次いで世界で2番目に多く読まれている英字ビジネス紙と言われ、紙媒体がインド国内の主要14都市で発行されているのに加え、ウェブサイトはインド国内外から数千万のアクセスを集めるなど、絶大な影響力を誇る。

その8月7日付の記事によると、EUが昨年に輸入したロシア産LNGの量は、2021年に比べ9.6%増加し過去最高を記録。また、今年7月のガスプロムによる欧州向け天然ガス輸出量は前月比で37%増加したと指摘した。その一方で、EUは7月にインドのナヤラ・エナジー製油所(ロスネフチが49.13%の株式を保有)に対し制裁を発動した。その批判は一定理解できるところはあるが、全体像はより複雑だ。

EUは確かにロシア産LNG輸入を増やしたが、パイプライン経由を含めた天然ガス全体では6割以上減らしている。肥料など輸入量がほとんど変わらないものや、鉄鋼やニッケルなど継続して輸入しているものもあるが、全体の輸入額は22年初頭から今年第1四半期にかけて86%減少している。一方、インドのロシアからの輸入額は石油を中心に急拡大し、約8倍に膨れ上がった。

米国のトランプ大統領は、インドがロシアから石油などを輸入していることを問題視し、合計で50%となる関税を課す大統領令に署名。印米関係は危機的な状況に陥っている。インドのエネルギー戦略は今後難しいかじ取りを迫られそうだ。

(大場紀章/ポスト石油戦略研究所代表)

【ガス】国民・参政が躍進 どうなる選挙後のエネ政策


【業界スクランブル/ガス】

今回の参院選は物価高対策を争点に始まったが、後半に入ると外国人問題が活発に取り上げられた。日本が抱える問題は、経済の成長戦略、少子化対策、対米・対中などの外交問題、原発を含むエネルギー政策、財政健全化など、多岐にわたるはずだ。目先の物価高対策を論じて消費税減税などを提起することはまだ理解できるが、欧米などに比べて移民が少ない日本において外国人問題が大きなイシューになったことは残念だと言わざるを得ない。

選挙を経て、次はガソリン暫定税率の廃止や消費税減税などが焦点となるだろう。私感だが、一度でも減らした税金を元通りに復活させることは極めて困難だ。決して賛成できる政策ではないが、減税などをせずに税収入を維持しながら給付金などを「バラまく」方がまだマシではないか、と考えてしまう。

一方、エネルギー会社にとって今後の政策で注目すべきは再エネの動向である。今回大躍進した参政党は公約において「再エネの推進中止・賦課金廃止」をうたっている。再エネ賦課金廃止は国民民主党も同様の意見だ。目先の国民負担を減らすべく再エネ賦課金をなくしても、その部分を他の財源で賄う必要があり、結局は何らか別の国民負担が増加する可能性もある。

第7次エネ基に明記されたが、DXやGXが進む中で電力需要増加が見込まれている。「再エネか原子力か」といった二項対立的議論ではなく、再エネと原子力を共に最大限活用していくことが重要だ。エネルギー政策は短期でコロコロと変えるものではなく、長期的視点に立つ必要があると肝に銘じて、冷静に議論を進めてほしいものだ。(Y)

供給力確保の義務化巡り 小売事業者に動揺


【業界スクランブル/新電力】

7月に開かれた制度設計ワーキンググループで提言された、小売事業者に供給力確保を促す仕組みが物議を醸している。当局による発電事業者に対する監督が功を奏し卸電力市場の価格高騰局面が激減したため、小売事業者が市場調達比率を高めた矢先の相対調達比率義務化の提言である。小売事業者に動揺が走るのも無理ならざるかな、である。

発電事業者からすれば、火力燃料の太宗を占める天然ガスは、ロシアのウクライナ侵攻以降高止まりであり、卸市場での販売では逆ザヤである。容量市場や長期脱炭素電源オークションなどの固定費回収スキームが整備されたとて、可変費回収スキームの確保は喫緊の課題である。当局の指示に従い供給力を提供し続けた結果、卸市場価格が下落し自身の経営基盤を脆弱化させる事態となるのは看過し難く、適正価格での売電先を保証してほしいといったところか?

本件の根底には、限界費用が極めて安価であるが不安定な太陽光と、価格は割高だが安定電源である火力・原子力の両立という、電力システム改革の根源に係る課題がある。この課題解決には、小売事業者・発電事業者双方の努力が不可欠であろう。従って当局が小売事業者にのみに制約を課すのでは不十分である。

発電事業者には、卸販売における公平性・透明性の徹底ならびに、卸販売メニューの多様化(日中は太陽光活用を推進し、夜間帯のみの卸販売メニューの新設など)を求めたい。小売事業者にも、今回の提言を機に、蓄電池を活用した太陽光発電所とPPAを推進するなど、ピンチをチャンスに変えるような行動が求められよう。(S)

G7と対照的なBRICS会合 現実路線で首脳宣言採択


【ワールドワイド/環境】

7月6、7日にリオデジャネイロでBRICSサミットが開かれ、個別分野の共同声明採択に終わったG7サミットと異なり包括的な首脳声明を採択した。気候変動、エネルギー関連の主要メッセージは以下の通りだ。

①気候変動対策における一方的措置が、差別的あるいは貿易制限的な手段となることに懸念。CBAM(炭素国境調整措置)などは国際法に沿わない懲罰的・保護主義的措置として反対、②SDG7に沿った安価・信頼性あるエネルギーアクセスと公正な転換にコミット、③エネルギー安全保障、市場安定、供給の多様性、インフラ保護の必要性に言及。化石燃料の依然として重要な役割を認識、④公正で包摂的な移行に向けた資金アクセスと投資拡大の必要性を強調し、先進国に対し、譲許的資金の予測可能・低コストな供給を要求、⑤ゼロ・低排出エネルギー技術や供給網強靭化における重要鉱物の役割を認識。資源主権を尊重しつつ、信頼性・責任ある持続可能な鉱物サプライチェーンの促進を支持―。

気候変動面ではパリ協定、気候変動枠組み条約の目的追及への結束を再確認しつつも、2050年カーボンニュートラルや1・5℃目標へのコミットメントは全く見られない。むしろ、気候変動資金動員に向けた先進国の責任が強調されている。

エネルギー面では安価で信頼性のあるエネルギーアクセスがうたわれ、エネルギー転換途上における化石燃料の役割が明確に認知されている。化石燃料や石炭火力のフェーズアウトを掲げてきたG7と対照的だ。

重要鉱物については鉱物生産国としての立場を前面に出し、「鉱物資源に対する主権を完全に保持し、資源国の利益分配、付加価値、経済多様化を保証するための公正なサプライチェーン」と強調。サプライチェーンの多様化、環境や人権基準に基づく市場ルール設定を企図しているG7に対峙している。

世界のエネルギー・温暖化情勢の帰趨を左右するのはG7(エネルギー消費、CO2排出量の対世界比は30%、25%)よりもBRICS11か国(同49%、58%)であり、その差は開いていくのだから当然だ。1975年の第1回G7ランブイエサミット当時と異なりG7とBRICS、G20を併せて見なければ世界の帰趨は語れない。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院客員教授)

電源投資量は内生変数か 教科書的理想論の限界


【業界スクランブル/電力】

7月下旬開催の「電力システム改革の検証を踏まえた制度設計ワーキンググループ(第3回)」の議事要旨を見ていて、おやっと思った委員発言があった。

いわく、「投資量は内生変数だということは忘れないでほしい。収益性は外生ではなく、需要が激増するのに投資が進まないとなれば当然、他の条件を一定にして収益性は上がる。それが投資を促すということだ」とのこと。

内生変数とは、モデル内で他の変数から影響を受ける変数のことで、この場合は、市場の需給関係から価格が決まり、価格から投資の予想される収益性が決まり、それが投資量を決める、といったメカニズムを指していると想像される。

こうした形で市場が機能するのは教科書的な理想であり、電力システム改革とは市場をこのように機能させることを目指すもので「かつては」あったのだろう。

他方、今取り組まれているのは「脱炭素電源の確保ができなかったために、(略)⽇本経済が成⻑機会を失うことは、決してあってはならない」と宣言した第7次エネ基の下、OCCTOが作成した電力需給シナリオを共有しつつ、全体として必要な投資量が外生的に与えられ、これを長期脱炭素電源オークションなどを通じて確保していく枠組みの設計―。すなわち、電源投資量を内生変数から外生変数に変えていく取り組みだ。

こうした動きが起こっている背景には、教科書的理想論の限界、すなわち、それでは電源投資不足が起こり、それが制約となって日本経済の成長機会を奪いかねないという危機感があることも忘れてはならないだろう。(V)

大量倒産を経た英小売市場 規制強化で立て直し狙う当局


【ワールドワイド/市場】

英国の電気・ガス小売市場では、2021年後半以降のエネルギー価格の高騰により、約30の小売事業者が経営破綻した。契約獲得のため割安な料金プランを提供しながらも、エネルギーの事前調達によるヘッジを怠っていた事業者の多くが撤退を余儀なくされた。

これを教訓に英国のエネルギー規制機関は、小売市場の安定化に向け事業者の財務健全化を促す各種規制を導入している。中心となる規制は、事業者資本に対する下限値および目標値の設定だ。家庭用小売事業者を対象とするこの規制は、一契約当たり調整後純資産0ポンドの下限値、さらに、市場の動揺時にバッファーとなる資本の合理的な水準として、一契約当たり57・5ポンド(電気・ガス両方契約の場合は115ポンド)の目標値を設定している。下限値を満たさない事業者は小売ライセンスの規約違反となり、規制機関による強制措置の対象となる。下限値を満たすものの目標値を下回る場合、事業者は資本増強計画を作成し規制機関に提出する必要があり、計画が承認されるまで新規営業や資金の移動などが制限される。なお、目標値はヘッジを適切に行っている事業者を参考に設定された。

この規制の導入により、小売市場全体の調整後純資産は、経営破綻が相次いでいた頃のマイナス17億ポンドから今年3月末にはプラス75億ポンドまで改善した。この規制に加え、事業者に十分な流動資産を確保させる財務管理義務の要件強化や、資産状況の監視強化、事業者固有リスク(グループ会社に起因するリスクエクスポージャーなどを含む)のリスト化とその報告義務、新規契約者のみを対象とした専用料金プランの提供の禁止措置も導入されている。

また、再生可能エネルギー購入義務制度用の資金や需要家の前払い・過払いにより発生した預り金が、経営破綻時に多く喪失したことから、これらを保護するリングフェンス制度も導入された。リングフェンス内で発生した資金を用いて、他で発生した損失を相殺することが認められなくなった。ただし、預り金のリングフェンスは、前述の資本目標値を下回った場合、または事業者の流動資産が預り金総額の20%を下回った場合のみ発動される。英国の小売市場における規制はこのように強化されたが、体力のある大手に有利な状況と見ることもできる。これら規制が新規参入や競争にどう影響するかが注目される。

(宮岡秀知/海外電力調査会・調査第一部)

欧州に流れる米国産LNG カナダ産はアジア向けが主体か


【ワールドワイド/資源】

今年6月、カナダが新たなLNG輸出国に加わった。年産1400万t規模のプロジェクト「LNGカナダ」が稼働を始め年内にフル生産に至る見通しである。

米国では、トランプ政権が今年1月に誕生、バイデン政権下でサスペンドされたLNG輸出認可が公約通り再開され、複数のLNG計画が急速に進展し始めた。今年に入ってルイジアナLNGプロジェクト、CP2・LNGプロジェクト、そしてコーパスクリスティ拡張プロジェクトが最終投資決定(FID)に至った。既存分と合わせると建設段階の合計年産能力は8300万tに達し、2030年までに順次生産開始される見通しである。

米国では、昨年末から今年初めにかけて年産3000万t相当の輸出能力が上乗せされ、総年産能力1・2億tに増強された。カタール(同7700万t)、豪州(同7850万t)を大きく引き離している。

米国産LNGは、今年は7月までに約6000万tが出荷され、昨年より大幅に早いペースで伸びている。他方、そのうち7割以上、約4200万tが欧州市場に輸出されており、アジア需要家が期待していたような、成長著しいアジア市場への供給にはつながっていない。

背景として、EU(欧州連合)はトランプ大統領との間で、今後3年間で米国産エネルギーについて7500億ドルの購入を約束し、米国産の輸入が増えることが予想される。加えてEUは27年末に向けてロシア産ガスから脱却することを宣言しており、代わりに米国産に代替される可能性が高い。短期面でも今年初頭に低水準だったガス貯蔵量を来冬に向けて着実に増強することが課題であり、その調達先は米国産LNGとなるだろう。

そのほかにも、米国とアジア市場をつなぐパナマ運河もLNG船の通航制限が緩和されたとはいえ、依然として喜望峰周りを選択するケースがほとんどである。世界第2位の生産量を誇るカタール産LNGは、フーシ派からの攻撃を恐れてスエズ運河の通航を避け、9割近くがアジア市場に流入している。

カナダは数年内に合計年産能力2000万t規模に達する見通しであり、そのほとんどがアジア市場に吸収されるだろう。増大する米国産LNGではあるが、地政学ならびに地経的リスクに影響を受けてアジア市場ではなく、欧州市場に流れやすい地合いが形成されている。

(高木路子/エネルギー・金属鉱物資源機構調査部)