【コラム/7月11日】REPowerEUから3年


矢島正之/電力中央研究所名誉シニアアドバイザー

EUは、天然ガス、石油、石炭などのエネルギーの多くをロシアに依存してきたが、2022年2月24日のロシアによるウクライナ侵攻により、ロシア依存からの脱却を迫られた。欧州委員会は、同年3月8日に欧州の共同アクション「REPowerEU」を提案し(同年5月18日に詳細を発表)、化石燃料のロシアへの依存から2027年には完全に脱却する戦略を打ち出した。欧州委員会は、REPowerEUを発表した翌年以降、毎年5月にその成果の発表を行っている。直近では、REPowerEUが発表されてから3年後の2025年5月に、最新の成果報告書が公表された。

それによれば、REPowerEU の目標である脱ロシアは全体として着実に進展している。ロシア産ガスの輸入量は、2021年の1500億立方メートルから2024年には520億立方メートルに減少し、EUのガス輸入量に占めるロシア産ガスの割合は45%から19%に低下している。また、EUは、2022年12月より海上輸送によるロシア産原油・石油製品の輸入を禁止したこともあり、EUの原油輸入量に占めるロシア産原油の割合は、2022年初頭の27%から2024年には3%に減少している。さらに、石炭については2022年8月より輸入が禁止されている。また、ロシア産の原子燃料に依存するEU諸国は、他国産の燃料に置き換える取り組みを進めている。

しかし、こうした努力にもかかわらず、EUが2024年になっても未だにロシア産のガス520億立方メートル、原油1,300万トン、ウラン2,800トン以上を輸入していることを、欧州委員会は課題として指摘している。以下では、上記報告書の主要なポイントについて具体的に説明する。併せて、同時期に発表された関連文書「REPowerEUロードマップ」(ロシアの石油・ガス・原子力エネルギーをEU市場から段階的に撤退させるロードマップ)について、その内容と直面する課題について述べる。


ガス消費の削減

EUはロシアのウクライナ侵略によって引き起こされたエネルギー危機に対応し、2022年に緊急措置としてガス消費削減規制を採択し、2022年8月から2023年3月までの間に2017年から2021年の平均需要と比較してガスの消費を15%削減するという自主的削減目標を設定した(その後、消費削減措置は2024年3月まで延長された)。EUはこの目標を達成し、2024年3月に規制が失効した後も、EUのガス消費は引き続き減少している。

この自主的な消費削減は、REPowerEUの目標に沿ってロシア産ガスを段階的に廃止する上で重要な役割を果たした。2022年8月から2025年1月の間に、EUはガスの消費を17%削減することに成功したが、これは年間700億立方メートルのガスに相当する。


エネルギー効率の向上

2023年9月の改正エネルギー効率指令の公布により、EU加盟国は、EU基準シナリオ2020の予測と比較して、2030年までに最終エネルギー消費量を11.7%削減するという目標を共同で達成することになった。2023年の最終エネルギー消費量は石油換算8億9,400万トンに減少し、2021年と比較して5.6%の減少となった。この大幅な削減は、エネルギー価格が異常に高騰した時期に達成されたものの、EUのエネルギー効率目標の達成に向けての着実な進展を示している。


ガス貯蔵

2021年11月のガス貯蔵レベルが過去最低を記録したことを受け、EUは毎年冬に備えて貯蔵施設のガスを90%の水準まで確保する目標を設定した。この目標は、2023年と2024年には達成されている。特に注目すべきは、2024年には、ガス貯蔵規則で定められた90%の貯蔵目標を、期限より2ヶ月以上早い8月19日に達成したことである。2024~2025年の冬季には、輸入価格の上昇を背景に、貯蔵施設からの取出量は危機前の水準に戻り、過去2年間よりも大幅に増加した。その結果、貯蔵レベルは2025年4月1日に34%となった(前々年56%、前年59%。現在の貯蔵レベルは、2016年から2021年の平均とほぼ一致しており、EUは来冬までに十分な貯蔵レベルを達成できる見込みである。


供給の多様化

REPowerEUの採択以降、EUはロシアからの化石燃料輸入を大幅に削減し、供給の多様化を図っている。まず、EUの制裁により、ロシア産原油・石油精製製品(海上輸送が対象)、そして石炭の輸入が禁止されている。ロシア産原油は現在、EUの原油輸入量全体の3%に過ぎない(2022年初頭では27%)。また、EU全体のガス輸入量に占めるロシア産ガス(パイプラインおよびLNG)の比率は、2021年の45%から2024年の19%に減少している。予測では、2025年にはさらに13%に減少すると見込まれる。

【フラッシュニュース】注目の「政策・ビジネス」情報(2025年7月号)


NEWS 01:釧路が2例目ノーモア宣言 規制条例も拡大止まらず

釧路湿原などでの大規模太陽光開発に揺れる北海道釧路市が6月1日、「ノーモア・メガソーラー宣言」を行うに至った。2023年8月に宣言した福島市に続く全国2例目。政府は太陽光の長期安定電源化を目指し適切な事業者に集約させる仕組みを今春始めたが、各地で再エネ設備を規制する動きは当面続きそうだ。

鶴間秀典・釧路市長名で発した宣言では、太陽光の建設進行に伴い野生動植物の生育・生息地がおびやかされていることを問題視。生態系の崩壊、減災・防災機能の低下、すみかを失った動物による人里での被害拡大が懸念され、「自然環境と調和が成されない太陽光発電施設の設置を望まない」と表明した。

タンチョウなど釧路の自然が危機に

そして1例目の福島市は、今年4月1日に規制条例を施行。太陽光・風力の設置禁止区域を設定し、禁止区域外では許可制を導入。既設にも管理などの義務を一部適用する。本紙が昨夏取材した際は、ノーモア宣言やガイドラインを機にいくつかの計画が撤回され、「条例化の実効性も研究中。どんな手法が有効か引き続き検討する」としていた。ただ、宣言のきっかけである先達山の開発は25年の運開を目指し進行中で、市民からいまだ多くの問い合わせがある。

地方自治研究機構によると、3月末時点で公布を確認した規制条例は都道府県9、市町村302。昨年7月の前者8、後者277から着実に増えている。


NEWS 02:13兆円が一転ゼロに 東京高裁で逆転判決

「巨大津波を予測できる事情があったとは言えない」東京高裁は6月6日、2011年の福島第一原発事故を巡る株主代表訴訟で、東京電力の旧経営陣に約13兆円の賠償を求めた一審判決を取り消した。争点となった巨大津波の予見性について、木納敏和裁判長は冒頭のように指摘して否定。原告側は最高裁へ上告する方針だ。

福島事故を巡って東電や旧経営陣が被告となった裁判は、①刑事裁判、②民事裁判(株主代表訴訟)、③民事裁判(住民集団訴訟)─の三つがある。

業務上過失致死傷罪が争われた①の刑事裁判では3月、最高裁が1審、2審判決を支持し、旧経営陣の無罪が確定した。今回の高裁判決は②で、22年7月の東京地裁判決では「疑わしきは罰せず」が原則の刑事裁判と異なり、津波の予見可能性と対策の不備を認定し、旧経営陣4人に13兆3210億円という天文学的な賠償額を支払うように命じていた。しかし、今回の高裁判決は刑事裁判と同様に予見可能性と対策の不備を否定したことで、刑事と民事で異なる判断が出ている状況が覆された。

③の集団訴訟は国の責任の有無が争点となったが、最高裁は22年6月、国の責任を認めないとする判決を出した。一方、原子力損害賠償法は事業者の無過失・無限責任を規定しているため、東電に多額の賠償を命じる判決が相次いでいる。

原子力の最大限活用に向けては、事業者の責任範囲を明確にするため、原賠法の規定見直しを求める声が多い。実際に米国や英国、フランスなどは賠償額の上限を定めている。

電力自由化で総括原価方式が廃止となった以上、現行の原賠法は国策である原子力政策を担う事業者にとって重荷となっている。


NEWS 03:梅雨明け前に猛暑到来 早くも追加供給対策

6月中旬、梅雨真っ只中にもかかわらず関東や東海地方の各地で35度を超える猛暑日を記録した。冷房需要が急増し、比較的過ごしやすかった6月前半は3200万~3500万kW程度だった東京エリアの平日の最大電力が、17日には一気に4800万kWまで上昇した。

この時期は通常、夏季の高需要に備え、点検や補修のために火力発電所の多くが稼働を停止している。その上、連系線が作業停止するため他エリアからの受電にも制約がかかる。そうした中での高温予想により、電力広域的運営推進機関が13日に公表した翌週の広域予備率は、17日が最小でマイナス0・4%、18日がマイナス0・7%と、基準の8%を大きく下回ることになった。

これに伴い広域機関は、今年度初の「供給力提供準備通知」を発出。東京電力パワーグリッド(PG)と中部電力PGは、揚水発電設備の運用を発電事業者から送配電事業者に切り替えるなどの追加供給力対策を実施し、東電PGは、11~24日に計画していた周波数変換設備(FC)の新信濃2号機の作業停止を17、18の両日で取りやめた。一連の対策により、両エリアでは安定供給を維持することができた。

需要側でもDR(デマンドレスポンス)の要請を受け、節電対応が取られた。ただし、新電力の関係者は「この時期のDRを想定して準備しておらず、対応できなかった」という。異常気象の常態化が、火力の退出による予備力低下の影響をより深刻なものにしていることがうかがえる。

端境期の需給ひっ迫が繰り返される現状を直視し、調整力を確保し安定供給に万全を期すための抜本的な対策が求められる。


NEWS 04:バイオエタ拡大へ行動計画 28年度E10導入を巡る課題

資源エネルギー庁は6月10日の脱炭素燃料政策小委員会で、ガソリンへのバイオエタノール導入拡大に向けたアクションプラン(行動計画)を取りまとめた。

2030年度までに最大混合率10%(E10)、40年度以降に同20%(E20)の低炭素ガソリンを供給することが柱。30年度のE10本格展開前には、28年度をめどに一部地域で先行導入する。
今後の議論の焦点は、導入に伴う設備コストへの対応だ。

事業者の実情に即した支援が不可欠だ

バイオエタノールの混合方式には、10年施行のエネルギー供給構造高度化法以降、国内で一定の導入実績のあるETBE(エチル・ターシャリー・ブチル・エーテル)方式と、海外で主流の直接混合方式の2種類がある。エネ庁は、エタノールをイソブテンと反応させる工程が必要なETBE方式について、製造コストが高く、イソブテンの安定調達も難しいことから、直接混合方式の採用に前向きな姿勢を示している。

ただ、直接混合には水分混入や腐食への対策が不可欠で、サービスステーション(SS)を含むインフラ整備に多額の費用を要する。石油連盟の試算では、E10化を全国展開した場合の対応コストは9000億円弱に上るという。

石油業界は足元でSS過疎地対策などの課題に直面しており、さらなる負担増には慎重な対応が求められる。事業者の実情に即した支援が不可欠だ。

使用済みパネルの大量廃棄 リサイクル体制を確立できるか


【論説室の窓】宮崎 誠/読売新聞 前論説委員

耐用年数を迎える大量の太陽光パネルが「ごみ」と化す未来が刻一刻と迫っている。

だがリサイクル義務化法案の提出が延期になるなど、環境整備は遅れている。

「使用済み太陽光パネルのリユース・リサイクルを促進するための制度については、引き続き検討を進め、臨時国会への提出を目指すとともに、環境整備を進めること」

石破茂首相は6月5日、こう書かれた決議を自民党の環境・温暖化対策調査会の井上信治調査会長らから受け取った。

政府は今年の通常国会に、使用済み太陽光パネルのリサイクルを義務化する法案の提出を予定していたが、あっけなく先送りとなった。政府は、秋の臨時国会での提出を目指す。

この法案の作成を巡っては、既にパブリックコメントを経て、3月28日には、中央環境審議会からの意見具申も済んでいる。そうしたプロセスを終えたにもかかわらず、法案提出が延期されるのは異例だ。

太陽光パネルの「大廃棄時代」を迎える


廃棄責任の所在 製造者か所有者か

内閣法制局が大きな壁となり、法案作成を担う環境省と経済産業省の前に立ちはだかった。

法案の柱として検討されていたのは、リサイクル費用をパネルの製造業者、もしくは輸入業者に負担させる仕組みの導入だ。具体的には、製造業者と輸入業者からリサイクル費用を徴収する第三者機関を設置し、費用の納付を義務付けることが想定されていた。

だが、この仕組みには大きな課題がある。設置済みのパネルの扱いだ。これから設置されるパネルについて、責任を負う製造者を明確にすることは難しくはない。しかし、設置済みのパネルでは海外メーカーが多い上に、廃業しているケースも少なくないため、リサイクル費用を負担する製造業者を特定することが困難になる。

さらに、他のリサイクル関連法との整合性の問題が大きい。

例えば、自動車リサイクル法では、クルマの所有者に使用済自動車の「排出者」として処理費用を負担するように定めている。いわゆる「排出者責任」という考え方に基づいている。

これに対して、今回のパネルのリサイクル法案は、製造業者(生産者)が、製品のリサイクルに関して責任を負うという、「拡大生産者責任」を原則にして組み立てられていた。

浅尾慶一郎環境相は、5月13日の記者会見で、内閣法制局から、「関係法令との調整も行った上で制度設計を行うべきとの指摘を受け、改めて検討を進めているところだ」と述べたが、法案の柱の部分を短期間で改めるのは容易ではない。

法案提出が遅延すれば、その分だけ、パネルの「大量廃棄時代」への備えが遅れる。現状では、使用済みパネルの大半は地中に埋立処分されており、リサイクル体制の確立が必要であることは間違いない。パネルに含まれているアルミや銀など価値の高い素材を回収し、有効活用することも求められる。

太陽光発電は、東日本大震災後、固定価格買い取り(FIT)制度の開始に伴って急拡大したが、太陽光パネルの耐用年数は20~30年といわれ、30年代後半に大量廃棄される見込みだ。ピーク時には年間50万tに達すると推計されている。

仮にパネルのリサイクル制度が整わず、全て埋立処分に回された場合、産業廃棄物の最終処分量の約5%に相当する規模になるという。

産業廃棄物の最終処分場は現状でもひっ迫ぎみだ。将来、使用済みパネルが全て埋め立てられることになれば、パンクする可能性も否めない。

太陽光発電の普及を急ぐ余り、使用済みパネルの処理問題を後回しにしてきたツケが回ってきたと言えるだろう。

「DX注目企業2025」に選定 グループ一丸で企業変革を推進


【九州電力】

経済産業省は4月、「デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)2025」を選定した。LNG取引・配船業務の最適化の取り組みが評価されたことで、九州電力は電力会社で唯一、DX銘柄に次ぐ「DX注目銘柄2025」に選定された。経産省は年に一度、東京証券取引所、情報処理推進機構(IPA)と共同で、優れたデジタル活用により企業価値向上が実現した上場企業を選定している。

DXでLNG取引・配船業務を最適化した


経産省のDX調査で選定 企業価値への貢献を評価

企業がDX銘柄の選定を受けるにはまず、経産省による「DX認定」を取得していることが前提となる。これは、対象となる企業にDXの基盤が整っていること、また、同省が策定した指針「デジタルガバナンス・コード」に準拠してDXを推し進めていることを認定するものだ。

DX認定取得済の上場企業がDX銘柄選定にエントリーする場合、経産省はアンケート調査を行う。デジタルガバナンス・コードに沿い、デジタル技術の利活用が企業の持続的成長と競争力向上に貢献しているかを審査するためだ。選定の有無に関わらず回答へのフィードバックが行われるため、自社の現時点での立ち位置を確認する目的で調査を活用することも可能だ。

25年度は31社が「DX銘柄」、そのうち2社は特に優れた取り組みを行ったとして「DXグランプリ」に選定された。そして、DX銘柄に選定されていない企業の中から注目すべき施策を実行した企業として、九州電力を含めた19社が選定された。

九電グループは「DXロードマップ(基本計画)」の中で、DXの本質を企業変革と捉え、デジタル技術やデータを活用した自社サービス、ビジネスモデル、業務プロセスの抜本的改革を図っている。5月に発表した「九電グループ経営ビジョン2035」では、ありたい姿実現に向けたグループの重点戦略六つを示し、その5番目に「企業変革をリードするDX推進」を掲げている。

近年、ニーズの多様化や労働力不足を背景にAIなどの最新技術を活用した変革がより一層求められている。「デジタル×人のチカラで新たな価値へ」というDXビジョンの下、デジタル技術を最大限活用し、生産性向上や業務プロセスの効率化・高度化・自動化に向けてチャレンジを重ねてきた同グループ。DX注目企業に選定されたことを契機に、企業変革のさらなる深化に期待が高まっている。

【覆面ホンネ座談会】行き詰まる再エネ政策 業界人が指摘する突破口


テーマ:2040年に向けた再エネ政策

政府が本腰を入れるFIT(固定価格買い取り)からFIP(市場連動買い取り)への転換や太陽光の集約化などは、狙い通りの成果を挙げられるのか。また、各社厳しい局面を迎える洋上風力政策へのテコ入れが、引き続き重要な検討課題となっている。

〈出席者〉 A 再エネ事業者 B 再エネ業界関係者 C コンサル

―再生可能エネルギーの市場統合や国民負担の軽減に向け政府はFIP転を促進するが、実際どう受け止めているのか。

A 政府の狙いは理解しているものの、実際は簡単ではない。FIPではプレミアム収入の予見性が低く、特に大型のプロジェクトファイナンスではレンダーとの交渉で難しい面がある。一方、アップサイドのチャンスも。詳細は後述するが、バランシングコストの支援があることに加え、併設蓄電池による収益向上、また好条件なPPA(電力購入契約)を獲得できれば、FITのままより収益が上がる可能性がある。

B 難易度は発電所の規模に左右される。大規模なら蓄電池併設でもペイするが、小規模は簡単ではない。小規模は事業規律などの課題が残る領域でもあり、問題が濃くなっていくことが懸念される。地上設置の低圧をいつまで増やすのか、そろそろ考えるべきかもしれない。また、国民負担が減るというけれど、蓄電池によるタイムシフトのプレミアムが大きくなる可能性もあり、ネットでみて逆のインパクトをもたらす展開もあり得る。

C やはり制度的に分かりづらい面がある。参照価格(市場取引などにより期待される収入)などの情報を事業者は使いこなせているのか、オペレーションに資する仕組みかというと疑問が残る。実際、FIP転をした電源は、FIT・FIPの3%程度に過ぎない。

いまだ各地で太陽光を巡るトラブルは多発。集約化などがプラスに影響するのか


インセンティブが不十分 不良アセットを集約しきれるか

―今春始めた「長期安定適格太陽光発電事業者認定制度」では、一定規模の事業集約を進めようとしている。

B 認定制度の目的をどこに置くかが重要になる。今の仕組みがインセンティブになるのかというと疑問だ。元々太陽光は、JPEA(太陽光発電協会)がカバーしているアセットの割合が小さく、業界での規律確保の体制に課題があった。その観点から、例えば新電力が小規模太陽光などを保有・管理するというのは、規律の面からも新電力の事業面からも効果的であり、環境省の脱炭素先行地域とも方向性が合致する。ただ、本制度は結局発電事業者に寄せる形へ。さらに審議会では「不良なアセットも集約させていくべき」との意見が出ていたが、必要な収益性が確保できなければ受け入れる事業者は株主に説明できない。そのためのインセンティブがなければクリームスキミングが起き、やはり残されたアセットの課題が濃くなるのではないか。

C 2012年から5年間の事業用太陽光の認定量は2900万kW程度で、これが退出すれば電力システムのバランスが崩れてしまうし、蓄電池が収益を確保する見込みがなくなってしまう。長期電源化は進めるべきで、今ある設備を卒FITとして残すことは重要だ。しかし、認定制度で売却希望者情報が3カ月早く見られる程度では、インセンティブといえない。また、特高から低圧までコミットできる事業者は限られ、特に低圧は忌避されがちだ。申し込みサイトが立ち上がり2カ月経つ中、そろそろ進捗を示してほしい。

A 引き取ろうと思える低圧はごく一部で、その下のボリュームゾーンは投資や補強が必要となる可能性が高い。また、適格事業者にはいつまでにどの程度の規模を引き受けるのか、義務ではないものの、目標を中計などに掲げ進捗をウェブ上で公表するよう求められる。例えば、追加投資などが必要な案件を需要家がPPAで高く評価する仕組みなど、再エネを減らさず使い続けることの社会的価値を示せなければ、この制度は機能しないのではないか。また、資源エネルギー庁は再エネの悪いイメージを変えるべくあえて厳しい規律を設けている。当然事業者も努力すべきだが、加えて政府には原発で行っているように、再エネでも人々の不安に向き合いイメージを払拭するような取り組みに注力してほしい。

高度化する現場の安全をサポート 6種類のガスを同時に検知


【理研計器】

理研計器はこのほど、1台で最大6種類のガスを同時検知できるガス検知器「GX―6100」の販売を開始した。担当する営業技術部の安藤史織係長は「従来機種の特性を継承しながら、作業員の利便性が向上することを念頭に製品化した」とアピールする。

具体的には、作業現場で一般的に測定する可燃性ガス、酸素、硫化水素、一酸化炭素に2種類のガスを加えた最大6種類のガスを同時に検知できる。可燃性ガスに関してはppmレベルの低濃度から爆発の危険性を示す%LEL(爆発下限界)、vol%といった高濃度レンジまで、広い濃度範囲を1台でカバーすることができるようになるなど、作業現場でのガス検知をより効率的かつ確実に行える仕様になっている。

Bluetoothで緊急事態情報を共有できる


独自開発のセンサーを搭載 長寿命化し3年保証を実現

この検知を支えるのが、独自の「Rセンサ」だ。同製品では主要な可燃性ガス、酸素、硫化水素、一酸化炭素の検知に採用した。保証期間は、従来の1年から3年へと大幅に延長され、長期にわたり安心して使用できる。さらに、VOCやアンモニアを含む15種類の多彩なラインアップから、用途に合わせて最大2種類のセンサーを選択搭載できる。これにより、幅広い現場での多様なニーズに対応可能となった。

従来機種から搭載するPID(光イオン化式)センサーは、680種類のガス濃度を直読できる。2016年から労働安全衛生法で事業所規模に関わらず化学物質を取り扱う際のリスクアセスメントの実施が義務付けられている。この実施対象となる化学物資のうち約200種類を同センサーで計測できるのも特徴だ。

このほか、Bluetooth通信機能を搭載。スマートフォンと連携し、マンダウン(転倒)警報やパニック警報を遠隔で即時通知可能とした。作業者が単独行動中に倒れて動きが止まった場合でも、設定した連絡先に自動で通知され、迅速に対応できるようになる。

ガスインフラ現場では、作業の高度化が進み、測定機器にもより高い柔軟性と信頼性が求められている。1台で多様な測定に対応するGX―6100は、次世代安全管理のスタンダードとなっていくだろう。

柏崎刈羽「緊急時対応」を容認 再稼働の〝夏越え〟に地元は反発


再稼働に向けて残されたプロセスは、いよいよ「新潟県の同意」のみとなった。

内閣府と新潟県などは6月11日、柏崎刈羽地域原子力防災協議会を開き、重大事故時の避難計画などを定めた緊急時対応について、国の指針に照らして問題ないと確認した。緊急時対応の策定は再稼働の条件の一つで、首相をトップとする原子力防災会議で了承される見込みだ。

柏崎刈羽6号機は燃料装荷を行った(6月12日)
提供:朝日新聞社

10日には東京電力が6号機の燃料装荷を開始した。国や東電は今夏の7号機再稼働を想定していたが、実現はほぼ不可能となっている。花角英世知事が再稼働の判断材料の一つとする住民公聴会が、8月末まで行われるからだ。7号機は10月に特重施設の設置期限を迎えるため、関係者は秋以降に6号機を再稼働させる構想を描く。

花角氏は判断の材料として、公聴会のほかに首長との意見交換や県民の意識調査を実施する方針だ。新潟県選出の国会議員は「知事の立場は理解するが、プロセスはなるべく早くやったほうがいい」と注文を付けた上で、「再稼働は技術的な問題で専門的な見地からの判断を重視すべきだ。原子力規制委員会が容認するなら、それを政治が止める必要はない」と指摘する。

一方、地元・柏崎市の櫻井雅浩市長は意識調査の実施について「理解することが難しい」と反発。7号機の燃料装荷から一定期間、再稼働しなかったことで、同市への交付金は最大2億円の減少が見込まれている。地域活性化のために早く再稼働してほしい―。大手メディアは伝えないが、市民の声は「原発が怖い」だけではないはずだ。

【イニシャルニュース 】本心では再稼働容認 与野党の言葉の芸術


本心では再稼働容認 与野党の言葉の芸術

〈実効性のある避難計画の策定、地元合意がないままの原子力発電所の再稼働は認めません〉立憲民主党の参院選公約に盛り込まれた一文だ。一見、再稼働に厳しい姿勢に受け取れるが、それは言葉の妙。党幹部のS氏が明かす。「避難計画と地元合意があれば再稼働を認めるということ。野田佳彦代表の下で、政権交代可能な現実的な政党に生まれ変わろうとしているからね」

ただ「原子力発電所の新増設は認めません」との記述もあり、政府与党とは一線を画す。電力需要が増大する中で、原発抜きに脱炭素電源の確保は不可能だ。もし政権を奪取し、この方針を打ち出されたら業界としてはたまらない。政権政党への脱皮には、やはり党内左派が邪魔をしている。

S氏と同じような発言を、自民党議員のS氏からも聞いた。参院選で自民から新潟選挙区で立候補する中村真衣氏は「県民の安心安全が確保されない限りは再稼働すべきではない」と地元紙で主張。その真意は「安心・安全が担保できるなら、再稼働を止める必要はないということ。参院選もその原則を打ち出して戦うべきだ」(S氏)。

「技術的に難しいのが再エネ、政治的に難しいのが原子力」(元経産官僚)。原発の必要性は理解しつつも、いかに有権者の感情を刺激せずに政策を前進させるか─。与野党ともに苦心する様子が見てとれる。


HVDC計画に逆風 業界で高まる不要論

北海道と本州を結ぶ海底直流送電(HVDC)の整備構想が逆風にさらされている。資源エネルギー庁と電力広域的運営推進機関が中心となり2023年に策定した「広域連系系統のマスタープラン」に盛り込まれ、事業化のための検討が進められてきた。が、この間に①データセンターや半導体工場の建設ラッシュに伴う地域での電力需要増大、②資機材の高騰による建設コストの増大―といった環境変化があり、電力関係者などからHVDC不要論が高まっているのだ。

電力需要増大でHVDCは?

「マスタープランでは、北海道―東北―東京ルートの整備費用が約2・5兆~3・4兆円と試算されていたが、今やその範囲で収まるわけがない。もともと北海道や秋田の洋上風力の電気を首都圏に送るという目的があったわけだが、洋上風力自体のコストアップもあり、へたしたらHVDC経由の電力コストはkW時40円以上に。そんな高価な電気を誰が買うのか」(大手電力幹部A氏)

「北海道で電力需要増大の見通しが出てきた中では、むしろ道内の電気は道内で消費すべきだ。首都圏の電力需要には柏崎刈羽の再稼働推進やLNG火力の新増設などで対応する。そのほうが、よほど経済合理性がある」(新電力幹部B氏)

一方、学識者X氏は「経産省側は形を変えてでも直流送電を事業化したいのでは。コストを抑える意味では、青函トンネルを活用するという案も」と話す。さて今後の展開どうなるか。


S会が反原発団体に? Y氏が代表脱退の波紋

自然保護の観点から再生可能エネルギーの大規模開発に反対する住民組織、S会の全国大会が6月に開かれた。地域3団体がそれぞれの現状を報告。自民党参院議員のA氏とW氏が、同会の趣旨に賛同するビデオメッセージを寄せた。

実は、S会を巡っては昨年、幹部の間で一つの動きがあった。警察出身でS会の設立時から組織を引っ張ってきたY氏が、共同代表から外れたのだ。Y氏は再エネ開発反対の一方で、電力の安定供給と料金低廉化に資する原子力には賛成の立場を貫いていた。そこがS会に参加する自然環境保護団体との間で、意見対立などを引き起こす一因となっていたようだ。

「Y氏がいなくなったことで、S会の反原発色が強まることが懸念される」。電力関係者からはこんな声が聞こえている。

政府が核融合戦略を初改定 30年代の実証実現へ


海水に豊富に含まれる重水素やトリチウムを原料に、わずか1gで石油8t分ものエネルギーを生み出せる―。そんな「夢のエネルギー」とされる核融合発電の実現に向けた動きが、本格化している。

政府は6月4日、2023年に策定した「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」を初めて改定し、「世界に先駆けた30年代の実証を目指す」と明記。年内に工程表を取りまとめる方針を打ち出した。

国内最大級のプラズマ実験装置「JT-60SA」(茨城県那珂市)
提供:共AFP=時事

改定された戦略では、民間企業や大学、主要研究機関の連携を軸とした技術開発体制の構築を掲げ、内閣府にタスクフォースを設置することも盛り込んだ。国が長期ビジョンを示し、開発を主導することで、民間投資の呼び水としたい考えだ。

背景にあるのは、米国や中国を中心に加速する国際開発競争の激化だ。仏国で建設中の世界最大級の実験炉「ITER(イーター)」にも、日本はプラズマ磁場予測といった先進技術で貢献してきた。そうした技術的実績を持つがゆえに、政府内では「この分野で日本が遅れるわけにはいかない」との声が強まり、追随姿勢が鮮明になった。

とはいえ、課題が一朝一夕に解消するわけではない。1億℃を超える超高温プラズマの安定制御など、技術的ハードルは依然高いままだ。原子力関係者からは「実現性が定かではない核融合にリソースを割くくらいなら、技術が成熟している革新軽水炉の新設や高速炉の開発に注力したほうがよほど効果的ではないか」と冷静な意見も。夢か現実路線か―。国のエネルギー戦略が問われている。

天気予報の信頼度のもと アンサンブル予報とは


【気象データ活用術 Vol.4】加藤芳樹・史葉/WeatherDataScience合同会社共同代表

今週末は野外フェスに行く―こんな予定があると、多くの人は週末の天気が気になるはずだ。そこで気象庁のウェブサイトを見にいくと、3日目以降の天気予報に信頼度という情報が付加されていることに気づくだろう。

この信頼度という情報は、雨が降るか・降らないか(降水の有無)の予報において、「予報の適中しやすさ」と「予報の変わりにくさ」を表しており、確度が高い順にA・B・Cの3段階で発表されている。もし週末の天気が「晴れ時々曇り」でも信頼度Cの場合、予報に反して雨が降ってしまう可能性、もしくは雨が降る予報に変わってしまう可能性が(信頼度Aに比べて)高いことを意味している。逆に信頼度Aの場合は、雨の心配があまりないことになる。もちろん予報なので当たらないこともあるが、信頼度Cに比べたら予報が外れることは少ない、ということだ。

台風進路のアンサンブル予報の例
提供:気象庁ウェブサイト

気象予測技術は日進月歩であり、気象研究者は予測精度向上のための研究を絶え間なく続けている。しかしそれでも気象予測から不確実性がなくなることはない。ではビジネスにおいて、そのような不確実な情報をもとに意思決定をすることは悪手だろうか。筆者も気象を専門とする一人として、その考え方は明確に否定しておきたい。そう言えるくらいに現代の気象予測精度が高いことは事実であり、何より使わないともったいない。

不確実性を伴う気象予測をビジネスで活用する場合、個々の予測の当たり・外れに過度に固執するよりも、長期的に見てベネフィットがあるかどうかに着目することが得策だ。また個々の予測についても、確率予測を活用することで利益の期待値を計算したり、リスクを定量的に評価したりできるなどのメリットがある。このような確率予測や、先述の信頼度のような情報を作成するために活用されているのが、アンサンブル予報と呼ばれる数値予報技術だ。

前回のコラムでは、数値予報の弱点として「予報時間が進むにつれ初期値に含まれる誤差が非線形に拡大してしまう」ことを述べた。そこであえて少しだけ異なる初期値を複数作成し、複数の予測計算を行い、複数の予報を得る手法がアンサンブル予報だ。複数の予報を解析することで、予報の平均やばらつき(誤差の拡大の程度)といった統計的な情報を抽出したり、気象現象の発生を確率的に予報したりすることが可能となる。このようなアンサンブル予報は、先述の信頼度や降水確率の算出に活用されるほか、台風の進路予報や予報円の大きさを決める際にも活用されている。

エネルギー分野におけるアンサンブル予報の活用を見ると、産総研などの研究機関にて、日射量予測にアンサンブル予報を活用する研究などが行われているが、ビジネスにおいてはまだまだ未開拓といえる。アンサンブル予報を電力需要予測や再エネ出力予測に活用することで、より高度な計画値作成も可能となるだろう。アンサンブル予報のデータ活用には専門性も必要であり、ぜひ気象の専門家の協力も仰いでいただきたい。

かとう・よしき/ふみよ 気象データアナリスト。ウェザーニューズで気象予報業務や予測技術開発に従事。エナリスでの太陽光発電予測開発などの経験を生かし、2018年から「Weather Data Science」として活動。

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【気象データ活用術 Vol.3】エネルギー産業を支える 気象庁の数値予報モデル

エネ庁がガスシステム改革検証 地域インフラの課題解決が焦点に


「今後のガスシステム改革の検証で焦点となるのは、地域エネルギーインフラが直面する課題解決だ」。こう見解を示すのは、ガスシステム改革全体を検証する資源エネルギー庁の審議会「次世代電力・ガス事業基盤構築小委員会」の下に新設された、「ガス事業環境整備ワーキンググループ(WG)」の座長を務める山内弘隆・武蔵野大学特任教授だ。

地域のエネルギーインフラをどう維持していくのか

ガスシステム改革は、①安定供給の確保、②ガス料金の最大限抑制、③需要家の選択肢や事業者の事業機会の拡大、④天然ガス利用方法の拡大―を目的に実施され、2017年の小売り全面自由化以降、首都圏や関西圏を中心とする都市部で新規参入が進んだ。一方、地方では人口減少や高齢化による担い手不足などの課題に直面。ガス事業者にとっては、老朽化した設備の維持やメンテナンス体制の確保が重要な経営課題となりつつある。また、地域に関連する政策議論は、「石破茂首相の関心を引きやすい」と見る向きがあり、今後の展開に追い風となる可能性もある。

WGは7月から本格的な議論を開始し、導管部門の法的分離から5年後に当たる27年3月までに検証をまとめる予定だ。なお、地域の課題解決に関心を示していたエネ庁ガス市場整備室の福田光紀室長が、7月1日付で異動。新室長の迫田英晴氏がかじ取りを行うことになる。

簡易ガスやLPガスなどを含め、事業者単独では維持が困難になりつつある地域のエネルギーインフラをどう支えていくのか。本来は自治体も絡めた総合的な議論が求められる。

e—メタン試験施設をスケールアップ カーボンニュートラル化へ前進


【大阪ガス】

大阪ガスはe―メタンの導入拡大に向け、SOECメタネーションの試験施設を竣工した。

軸となる電解装置やメタン合成プロセスでの課題を抽出し、30年度までの技術確立を目指す。

今使っている都市ガスがいつの間にかカーボンニュートラル化されていく―。そんな未来を実現する鍵となるのが、「e―メタン」の社会実装だ。大阪ガスではその実現に向けて、既存技術であり大規模化に取り組むサバティエ方式、下水汚泥や廃棄物などを活用するバイオ方式メタネーションの開発・実証を進めてきた。そして同社が並行して力を入れているのが、世界最高水準のエネルギー変換効率を実現するポテンシャルを秘めた「SOECメタネーション」の技術開発だ。

SOECの要となる電解装置

SOECメタネーションは、水やCO2を700~800℃の高温下で電気分解し、得られた水素やCO(一酸化炭素)からCH4(メタン)を製造する。サバティエなどの従来方式が水素生成とメタン合成を別々のプロセスとして行い、各プロセスでエネルギーロスが生じるのに対し、SOEC方式ではメタン合成で発生する排熱を前段の電解プロセスに再利用でき、システム全体のエネルギー効率を大幅に高められるのが特長だ。投入した再生可能エネルギーをどれだけメタンに変換できるかを示す変換効率は、従来方式が60%程度に留まるのに対し、SOEC方式では85~90%を実現できる可能性がある。


試験スケールは100倍に 電解・熱除去能力の向上へ

同社がSOECメタネーションの技術開発に本格的に乗り出したのは2022年。産業技術総合研究所とともに新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のグリーンイノベーション基金事業に採択されたことを受けたものだ。

ラボスケール、ベンチスケール、パイロットスケールの3段階で開発を進める計画で、30年度までの技術確立を目指している。昨年から実証していたラボスケールでの試験を終え、現在は製造規模が100倍となるベンチスケール段階に移行中。このほどベンチスケール試験施設が完成し、6月3日に竣工式が行われた。

竣工式の様子

ベンチスケールでの試験は27年度までを予定。この段階では水素生成とメタン合成の両工程において、高温下での制御やスケールアップに伴う課題の抽出が求められる。大阪ガス先端技術研究所SOECメタネーション開発室統括室長の大西久男氏は、具体的な技術課題として「高温電解装置の大型化」「メタン合成装置における熱除去能力の向上」の2点を挙げる。

今回のスケールアップにより、これまでは一般家庭2戸分であったe―メタン製造量は、200戸相当へと拡大する。このe―メタンのもととなる水素を生成する高温電解においては、固体酸化物を用いた電気分解素子(セル)を積層した「セルスタック」を複数設置し、電気分解を均一に行う必要がある。そのためには、原料の水蒸気などを安定的かつ均一に供給するシステムの構築が不可欠となる。

一方、メタン合成反応においては、発生する排熱を効率的に除去し、装置内の温度上昇を抑えながら、この熱を電解に有効利用する仕組みの開発が重要な検討項目となる。大西氏は、「製造規模が拡大しても、ラボ段階で得られた効果がそのまま再現できるか、しっかり検証していく必要がある」と強調する。

太陽光リサイクル法案の迷走 問題点を徹底解説


【業界紙の目】濱田一智/化学工業日報 編集局記者

環境省と経産省が、今国会への太陽光パネルリサイクル義務化に向けた法案の提出を見送った。

有識者会議が取りまとめた義務化の在り方について、内閣法制局が待ったをかけた顚末を解説する。

使用済み太陽光パネルのリサイクルを義務化するための法案が暗礁に乗り上げている。環境省と経済産業省は今年の通常国会への提出を念頭に、素案を練り上げパブリックコメント募集まで済ませていたものの、内閣法制局から「他のリサイクル法令との整合性が取れない」と物言いがついて5月半ばに断念。石破内閣は秋の臨時国会での成立を目指すが、法制局を説得できないと今回の二の舞になる。では整合性とは何を指すのか。

前提として、現行制度ではパネルをリサイクルする義務はない。業務用パネルの所有者(=発電事業者)には、廃棄物処理法により「適切な処理」が求められるが、コストを理由に大半が埋め立て処分される。ところが、このままではあと10年ほどで処理場がひっ迫し始める恐れがあり、パネルに含まれる有害物質が漏れ出す懸念も拭えない。そこで新法を制定し、パネルのリユースやリサイクルを推奨あるいは義務化すべきとの意見が続出。新法制定に向けた有識者会議が発足した。

有識者会議で挙がった論点は多岐にわたるが、とりあえず押さえておくべきは、①誰がリサイクルの義務を負うか、②義務化の対象となるパネルはどこまでか―という2点だ。最初に、論点①「リサイクル義務の主体」について、家電、自動車、容器包装(その典型がペットボトル)に関する各種法令と比較しながら検討する。

パネルのリサイクル義務化は急務だ


義務化の対象範囲 「既設までカバー」が物議

まず、家電や自動車では、メーカーが自らリサイクルを実施する必要がある。ただし、自動車なら購入時に、家電なら廃棄時に、所有者がリサイクル料金を支払う必要がある。以上が家電リサイクル法と自動車リサイクル法のルールだ。

一方、ペットボトルでは、飲料や容器のメーカーが自らリサイクルを実施する必要はない。その代わり、メーカーは日本容器包装リサイクル協会(容リ協)にリサイクル料金を支払う必要がある。リサイクルを実施するのは専門業者で、要リ協を介して業者へ料金が流れる仕組みとなる。以上が容器包装リサイクル法(容リ法)のルールだ。

つまり、家電と自動車についてメーカーはリサイクルを実施する責任(=物理的責任)を負い、ペットボトルについてメーカーはリサイクル料金を負担する責任(=金銭的責任)を負う。このように「メーカーが(生産・使用の段階だけでなく)廃棄・リサイクルの段階でも物理的または金銭的な責任を負う」という考え方を、環境経済学などの専門用語で拡大生産者責任(EPR)と呼ぶ。

EPRを正当化する根拠の一つが、「メーカーに環境配慮設計を促すから」という理屈だ。「最終的にリサイクルしなければならない圧力を与えられたメーカーは、最初からリサイクルしやすい製品をデザインすることになるだろう」と説明される。

LNG火力構内にDC検討 制度的課題は今後整理へ


データセンター(DC)の建設ラッシュを迎えている東京湾岸エリアで、新たなDCモデルの動きが浮上している。JERAのLNG火力発電所構内にさくらインターネットのDC新設を検討することで基本合意書を締結したと、両者が6月5日に発表した。

DCを巡る既存火力の活用が論点に浮上している(写真は五井火力)

ポイントは、JERAの火力構内の発電設備から系統を介さずにさくら社のDCに電力を直接供給すること。具体的な地点はまだ明かされていない。

DC向けの電力需要が急増中の千葉県印西市では系統増強が進みつつも、連系プロセスの混雑といった課題が表面化。その点、DCへの直接供給が実現すればこうした課題の解消につながり、増強費用や託送料金を負担せずに済む可能性がある。

ただ、制度的な障壁の整理は必要だ。米国では、DCが隣接する原発などから直接供給を受ける「併設負荷」を巡り、発電&DC側と、系統運用者との意見が対立。前者は先述のようなメリットを享受したい考えで、後者は系統信頼度や費用負担面での悪影響を指摘する。

JERAは制度上の障壁に関して、電力と通信の効果的連携の在り方を検討する「ワット・ビット連携官民懇談会」の動向を踏まえつつ、政府や東京電力パワーグリッドと議論するとしている。なお、同懇談会は6日に第一弾の取りまとめを提示。足元の需要に対応する上で、「系統余力・既設設備の有効活用」を掲げ、「電力系統余力があるエリアや発電所の隣接地など、早期に電力インフラが活用可能な場所へのDC立地促進」を提起している。

アジアの中核市場へ 急増する電力先物の取引量


【マーケットの潮流】高井裕之/国際ビジネスコンサルタント

テーマ:電力先物市場

電力価格の市場リスクの高まりを背景に、先物取引が活況を呈している。

今後、長期的な取引も可能に。事業者のリスクヘッジの選択肢がさらに広がろうとしている。

わが国の電力先物の取引量が急増している。筆者が日本法人の代表を務める欧州エネルギー取引所(EEX)が運営するJapan Power(日本のスポット電力市場の月間平均価格を参照して差金決済する金融商品)の出来高は、昨年1~12月合計で前年比4倍の73‌TW(1TW=10億kW)時、3月単月では過去最高の13・6TW時を記録するなど活況を呈している。

日本全体の電力消費量が月間平均約70‌TW時とすれば、5年弱で実需給の2割弱の規模に成長したことになる。取引所で売買される日本電力先物全体に占めるEEXのシェアは、24年合計で99%と極めて高く日本全体の市場規模が拡大していると言っても過言ではない。

Japan Powerの取引量の推移

電力自由化後、価格は需給に基づき事業者間の競争で決まることになり大きく変動するようになった。先物取引は、不確実な将来の価格をあらかじめ固定化することで経営を安定化させる効用がある。その急拡大には二つの要因がある。一つは、価格の不確実性の高まりだ。価格を左右する需給バランスは、地球温暖化に伴う天候の激化・不安定化と再生可能エネルギー普及による発電量の天候依存度の高まりによって加速度的に不安定になっている。

スポット電力市場(日本卸電力取引所:JEPX)の一日前市場(東京エリア)の価格を見ると、今年4月各日の午前9時から9時半までの30分だけを捉えても、1kW時当たり0・01円から20・42円までの振れ幅があった。同市場から電力を調達する小売事業者が相場変動を回避するには、販売価格を市場に連動させて最終需要家にリスクを転嫁するか、調達価格が高騰してもマージンが残るような高い販売価格を設定せざるを得ない(その場合には販売競争に負けることもある)。しかし、電力先物を買うことであらかじめ調達価格を安く確定することができれば、その価格を基準に販売価格を設定することで経営を安定させるとともに、競合に対して優位に立つことができる。


活況の要因の一つ リスクテイカーの思恵とは

もう一つの要因は、取引参加者の多様性、特にリスクテイカーの存在だ。EEXの日本電力先物市場には、国内の電力事業者に加え、海外の石油ガスメジャー・資源系商社・金融プレイヤー、そして欧州などの電力事業者が多数参加している。海外勢の多くは、国内で発電したり現物の電力を販売したりする実需筋ではなく、市場でリスクを取りながら「ペーパー電力」を収益化すべく売買するリスクテイカーである。一見、彼らの利益追求と捉えられがちだが、実は国内市場にとっても少なからぬ恩恵をもたらしている。

発電事業者であれば発電原価、小売事業者であれば最終需要家に対する販売価格が先物価格の妥当性を判断する主な基準となる一方、リスクテイカーは発電燃料などの先物価格との相関性や精度の高い天候データ分析に基づく需要予測など、実需筋とは異なる観点から妥当性を判断して売買する。

先に小売事業者が先物を活用する例を挙げたが、取引が成立するのは、彼らが安いと思った価格を逆に高いと考え、売り手に回る相手がいるからである。この場合の取引相手は同じ目線を持つ小売事業者ではなく、発電事業者であったり、リスクテイカーであったりする。一般的にリスクテイカーには投機筋を連想させるネガティブな印象がつきまとうが、株式でも為替でも市場が活性化して流動性が生まれるにはその存在が不可欠であり、彼らが取引相手になるからこそ、実需筋が先物によるリスクヘッジを行うことができる。

加えて、多様な参加者が加わることで市場価格がより透明性のある指標として機能しやすくなる。価格の質の向上は、小売事業者の調達コストや発電事業者の売電収入に見通しを与え、結果として最終需要家への価格安定や発電投資の最適化にも寄与する。グローバル資本の参入が、巡り巡って日本の家庭や企業の電気代に間接的な安定効果をもたらし得る。