【脱炭素時代の経済評論 Vol.12】関口博之 /経済ジャーナリスト
改正建築物省エネ法が4月に全面施行される。これまでは300㎡以上のビルのみに義務付けられていた省エネ基準適合が、原則全ての新築住宅・ビルに義務付けられる。建築分野の脱炭素化が一歩前進する。
国は2030年までに省エネ基準を、新築はZEB・ZEH(ネットゼロエネルギービル・ハウス)水準に引き上げ、50年にはストック平均でもZEB・ZEH水準の確保を目指している。しかし現状では省エネ基準を満たさない(基準導入以前の)建物が延床面積の6割以上に上る。それだけ既存ビルの省エネ改修が重要になる。
大成建設の次世代技術研究所(完成予想図) 提供:大成建設
ビルオーナーにしてみると、どこを変えれば省エネ性能の向上になるか、コストはどうなる、テナントの理解は得られるか、といった課題に直面する。このため環境省は改修による「省エネ・CO2排出削減ポテンシャルの見える化」調査も支援する。
しかし既存ビルでは新築のように一からの最新設計はできない。外壁断熱、高効率空調、LED照明の導入などが主な手段だが、環境省が加えて推奨するのが「ダウンサイジング」だ。ビル建設時にはどんな使用実態になるか見通せないため、設備は余裕をもった過大な容量になっていることが多い。これを実情に合わせ、より小さい設備・機器に切り替えるダウンサイジングをすれば、改修費用も抑えられ、ランニングコストも削減できるというわけだ。
建築物の脱炭素化の重要性は去年のCOP29でも再確認された。それとともに今、国際的な潮流として注目されているのが建築物に関する「ライフサイクルカーボン」の考え方だ。建築物の資材製造から施工、使用、修繕、解体に至るまでの環境負荷をトータルに捉えるものだ。建物の使用時のエネルギー消費を「オペレーショナルカーボン」、建設から改修、解体までに要するCO2排出を「エンボディドカーボン」と呼ぶ。従来のZEBは「オペレーショナルカーボン」のルールだが、脱炭素化の概念は拡大している。
欧州委員会は既に加盟国に対し、28年までに1000㎡超の新築建築物にライフサイクル全体でのCO2排出量を算定し開示することを義務付けている。
日本でも産官学連携の下、「ゼロカーボンビル推進会議」が発足。国土交通省や経済産業省、環境省などによる連絡会議では今年度中に建築物のライフサイクルカーボン削減に向けた基本構想をまとめることにしている。制度化に向けては建材ごとのCO2原単位の算定方法など、国際的にも通用する基準を早期に整備する必要がある。
ゼロカーボンビルを実践しようという企業も現れている。大成建設は埼玉県幸手市に建設中の技術研究所で、国内初のライフサイクル全体でCO2排出量ネットゼロの実現を目指している。鋼材はリサイクルを想定し、電動式の建設重機も導入、現場事務所もリユースの太陽光パネルで覆いZEB化した。ビル自体には窓ガラスや手すりと一体化した太陽光発電システムを備える。
「このビルはライフサイクルカーボンの算定はしていますか?」そうテナントが聞いてくる日も遠くないかもしれない。
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せきぐち・ひろゆき 経済ジャーナリスト・元NHK解説副委員長。1979年一橋大学法学部卒、NHK入局。報道局経済部記者を経て、解説主幹などを歴任。