世界ではロシアによるウクライナ侵攻前後から原子力活用を巡る動きが相次いでいる。
新設や輸出加速のための支援策などで日本が学ぶべき点は多い。
「いい加減、『再エネ主力電源化』の旗を降ろすべきだ」
奈良林直・東京工業大学特任教授は、エネルギーフォーラムが運営するオンライン番組で声高に訴えた。その意味するところは、「原子力の主力電源化」にほかならない。
英仏は具体的な目標設定 開発の米国、輸出の韓国
世界を見渡せば、原子力が復権している。2010年代半ば以降、各国は野心的な温室効果ガス削減目標を打ち出したが、変動電源である再生可能エネルギーだけではカーボンニュートラル(CN)は達成できない。そこで「CO2が発生しないベースロード電源」として原子力のメリットが再評価され始めた。

その後、コロナ禍からの需要回復やロシアによるウクライナ侵攻で世界的に化石燃料価格が高騰。山場は越えたものの、23年10月にはイスラム組織ハマスがイスラエルに対して大規模攻撃を展開し、戦闘地域全体への波及が懸念されている。世界は身をもってエネルギー安全保障の重要性を認識し、原子力が脚光を浴びることになった。
23年末、日米英仏など22カ国が50年までに世界の原子力発電設備容量を20年比で3倍にすると宣言。日本や欧米はオイルショックの教訓から1970~80年代に多くの原子力発電所を建設したが、ある意味、当時と似た雰囲気が漂う。ここからは原子力活用を巡る各国の動きを見ていこう。
フランス
「今われわれが築き上げるべきは、(中略)フランス原子力発電のルネサンス(再興)である」(マクロン大統領)。
マクロン大統領はウクライナ侵攻直前の22年2月、縮・原子力の方針を転換し、28年に6基の新設に着工すると発表した。将来的には8基を追加し、最大14基の新設を目指す。
同国はオランド前政権時、発電容量の7割を超えていた原子力の比率を25年までに50%まで下げる目標を掲げ、国内の原子力の規模をこれ以上増やさない方針を示した。17年のマクロン政権発足後も踏襲したが、18年に年限を35年に引き伸ばした。その後、建設基数に応じての電源比率や全体的なコスト算出など綿密なシナリオ分析を実施。結果、具体的な時期と基数を明示した方針発表となった。
新増設実現に向けた手立ても打ってある。まずは22年7月、政府がフランス電力(EDF)の完全国有化を発表。23年5月には既存の原子力発電所の敷地内やその周辺で原子炉などを新設する場合に、手続き合理化を認める法案が成立した。同時に「35年50%」目標を削除。発電比率の最適解を柔軟に模索する姿勢を打ち出した。
英国
「大胆な計画によって、不安定な国際価格にさらされる電源への依存を減らし、より安価なコストでエネルギー自給を享受できるだろう」(当時のジョンソン首相)
ウクライナ侵攻後に原子力政策の大転換を図ったのが英国だ。22年4月、「エネルギー安全保障戦略」を発表し、原子力を「50年ネットゼロ達成の基盤」と位置付けた。50年までに最大2400万kWの設備容量を達成し、電力需要の25%を原子力で供給するとの目標を掲げる。2400万kWという数字は、現在の設備容量が600万kWの英国にとって複数基の新設を意味する。
英国では近年、日立製作所が参入した新設計画ホライズン・プロジェクト(HP)が中止となり、ヒンクリー・ポイントC(HPC)原子力発電所の新設も延期となった。中止・延期の要因の一つがファイナンス面だ。HPやHPCに導入した差額契約型固定価格買い取り制度(FIT―CfD)の固定価格が、建設費用の上振れリスクなどに起因して高水準に押し上げられて折り合いがつかなかった。
こうした失敗を踏まえて生み出されたのが、発電前からリターンが得られ、建設費が増加した場合も規制当局が許可すれば回収できる規制資産ベース(RAB)モデルだ。総括原価的な方式と言っていい。サイズウェルC原子力発電所の建設計画で適用される予定で、ファイナンス面の支援を検討中の日本としても注目だ。