矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー
最近、世界的に原子力発電を支持する世論が増大している。このことは、業界関係者には歓迎すべきものとして受け止められているものの、わが国の世論の実態を見ると、原子力発電に対するパブリックアクセプタンス(PA)は十分得られているとは言えない。本コラムでは、原子力発電に関する世論の世界動向とわが国における原子力PA向上のための課題について述べてみたい。
英国の調査会社Savantaが、20か国を対象に、2023年10月17日~11月14日に行った調査では、20,000人以上の回答者のうち、原子力エネルギーの利用への支持は46%、不支持は28%で、前者は後者の1.5倍以上となった(どちらか言えば支持、不支持を含む)。原子力への支持が不支持を上回る国は17か国で、世界で最も人口の多い中国とインドでは、支持が不支持の3倍以上となっている。エネルギー転換に際して重点を置くべき電源の選好に関しては、原子力は、陸上風力、木質バイオマス、CCS付きガス火力よりも高く、大規模太陽光よりも低い(大規模太陽光33%、原子力25%)。また、運転の安定性(信頼性)について肯定的な回答は66%に上る。そのうち原子力エネルギーの利用への支持は、不支持の4倍以上である。
原子力発電のコストについては、安価との回答が40%で高価との回答27%を上回っている。興味深いのは、過去に原子力発電の段階的廃止を決定したことのあるドイツ、日本、韓国、スウェーデンでは、安価との回答が高価との回答を大きく上回っていることである(ドイツ46%対20%、日本44%対15%、韓国51%対26%、スウェーデン54%対14%)。さらに、これらの国では、原子力は、大規模太陽光や陸上風力よりも安価と考えている回答者が多いことも特筆に値する。
また、健康への影響や安全性に関しては、回答者の79%が懸念していると回答しているものの、この回答グループでは、原子力エネルギーの利用への支持が40%と、不支持の33%を上回っている。さらに、原子力発電の利用国では、その維持を望む回答者は、廃止を望む回答者の3倍以上となっている。また、原子力発電を保有していない国では、新設を望む回答者は、禁止を望む回答者の2倍となっている。2023年12月のCOP28では、2050年までに世界の原子力発電能力を3倍にするという誓約が採択されたが、これは世界的な原子力に対する期待を反映したものといえるだろう。
原子力に対する支持が世界的に高まっているが、調査対象となった20か国のうち、不支持が支持を上回る国は3か国であり、それらは、日本、スペイン、ブラジルである。日本は、不支持40%に対して支持29%となっている。回答からは、わが国では、原子力の信頼性や安全性への懸念が大きいことがわかる。このことは、2011年における東日本大震災とそれに伴う原子力事故が影響しているようだ。
本調査からは、原子力PAの改善のためのヒントを得ることができる。調査回答では、世界的に、原子力発電の仕組みについて高い知識を有する回答者では支持が不支持を大きく(35%ほど)上回ることが示されており、知識の無い回答者では、支持と不支持はほぼ同数となっている。わが国については、原子力発電の仕組みについて高い知識を有する回答者では、支持と不支持がほぼ同数となっており、知識の無い回答者では、不支持が支持を20%ほど上回っている。このことは、原子力発電に関する理解レベルの深化が大変重要であることを示唆するものと言えるだろう。
ある目標達成のためには、一つではなく複数の手段を使うほうが効率的であることは明白である。一つだけの手段では、目標達成のための限界費用は著しく高くなるからだ。わが国では、CN達成のためには、再生可能エネルギーだけでなく原子力も主要な役割を担う。両者いずれかといった二項対立ではなく、利用可能な脱炭素電源は適切に活用していかなくてはならない。エネルギー転換を成功させるためには、必要となる技術の知識基盤の拡大と国民への教育が、必須条件となるだろう。
【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授、東北電力経営アドバイザーなどを歴任。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。