エンジン脱炭素化の救世主に!? 石油代替燃料の可能性と障壁


モータースポーツを入り口に用途拡大が期待されるガソリン代替の合成燃料。

自働車業界は石油元売りと連携し商用化を目指すも、乗り越える壁は多い。

自動車メーカーがしのぎを削るモータースポーツの世界で、二酸化炭素(CO2)と水素(H2)を合成して製造する「合成燃料」の行方に注目が集まっている。エンジン車の脱炭素化を促す可能性を秘めているからだ。政府や石油元売り大手も合成燃料の導入拡大に意欲を示す。合成燃料市場の育成を目指す官民の関係者に迫り、普及に向けた道筋や課題を探った。

「今後もエンジンの進化に挑み続ける」。トヨタ自動車、SUBARU(スバル)、マツダのトップは5月に一堂に会し、エンジン開発を継続すると宣言。3社はそれぞれの得意技術を磨きながら、「マルチパスウェイ(全方位)」でカーボンニュートラル(CN)に役立つパワートレーン(動力伝達機構)や燃料の選択肢を広げる戦略を貫く決意を表明した。

スーパー耐久に参戦した合成燃料使用車両(手前)
提供:マツダ


全方位戦略の自動車大手 EV減速を横目に決意

欧米などの主要国で電気自動車(EV)の需要減速が鮮明となる中、メーカーの間で電動車を巡る戦略を見直す動きが広がっている。3社が満を持して表明した決意の背景には、こうした潮目の変化があるようだ。

メーカー各社が脱炭素化につながる「CN燃料」の一つとして熱い視線を注ぐのが、再生可能エネルギー由来の「グリーン水素」と発電所や工場から排出されるCO2などを原料につくる合成燃料。エンジン車であってもCO2排出量を実質ゼロにできることが売りだ。

ガソリンと成分が近い合成燃料は、化石燃料由来の液体燃料と同じくエネルギー密度が高いため、長距離を移動する飛行機やトラックなど電動化や水素化が難しい輸送手段にも向く。災害時に最後のとりでとなるガソリンスタンド(SS)などの燃料インフラを生かせることに加えて長期保存も可能なため、防災面でも威力を発揮する。

ENEOS中央技術研究所サステナブル技術研究所長の早坂和章氏はこうした優位性を踏まえながら、CN社会に移行する過程で「社会全体のコスト負担を抑えるための一つの選択肢になる」との考えを示す。

すでに合成燃料を車両に充填し走行する実証実験が活発化。マツダは市販車に近い車両で競う「スーパー耐久シリーズ」を走る実験室と位置付け、2023年7月にオートポリスサーキット(大分県日田市)で行われたスーパー耐久の第4戦に合成燃料で参戦し完走した。引き続きCN燃料やCO2回収技術などを通じて脱炭素化に貢献する可能性を追求したい考えだ。

「もしトラ」から「確トラ」に!? 米エネ政策は大転換の可能性


「もしトラ」が「確トラ」になるのか―。7月13日、米国のトランプ前大統領がペンシルベニア州バトラーで演説中に銃撃され負傷するという衝撃的な事件が発生した。16日の世論調査を見ると、トランプ氏の支持率は43%とバイデン大統領の41%を2ポイント上回る程度にとどまったものの、18日の共和党全国大会では右耳ガーゼ姿で指名受託演説に登壇。「4カ月後、われわれは素晴らしい勝利を挙げ、米国史上最も偉大な4年間とする」と宣言し、力強さを見せつけた。

銃撃直後に負傷しながらもこぶしを突き上げるトランプ氏(7月13日)

この演説で印象的だったのは、エネルギー政策への言及が多かったことだ。「ただちにインフレ危機を終わらせる。金利を下げ、エネルギーのコストを下げる。石油を掘って、掘って、掘りまくる。(大歓声)。エネルギーを確保し、価格を引き下げていく。今のエネルギー政策は国民を苦しめている」「『グリーン・ニュー詐欺』に何兆ドルも費やした。これらの資金の使い道を道路や橋、ダムなど重要なものに向ける。無意味なグリーン・ニュー詐欺に使うことは許さない」「就任1日目にEV普及の義務化をやめる。米国の自動車産業を崩壊から救い、わが国に取り戻していく」―。

そして21日、ついにバイデン大統領が大統領選挙から撤退する意向を表明。ハリス副大統領を民主党の大統領選候補として支持することを明らかにした。これを受け、トランプ氏は早速、「ハリス氏の方が簡単に倒せる」とコメントした。


国内資源を最大活用へ 「支配的優位」目指す

トランプ氏再選となった場合、米国のエネルギー政策はどうなるのか。米在住の石油アナリストの小山正篤氏は、「『脱炭素化規制からの解放』を目指す一連の施策が、迅速かつ広範に実施されると見るべきだろう」と予想する。共和党全国大会で採択された政策綱領では、国内資源の最大限の活用をうたい、石油・天然ガスをはじめ世界のエネルギー生産で「支配的優位」を目指す構え。これはインフレ対策の筆頭にも挙げられており、豊富・廉価のエネルギー安定供給を優先し、民主党政権の進めた脱炭素化政策を転換する。また中国製EVの浸透から米・自動車産業を守る点からも、EV普及策を取り消すとしている。

「政権党が交替する度にエネルギー政策が反転する今日の米国だが、連邦基準を上回る独自の自動車排ガス規制を導入するカリフォルニア州の権限はく奪が最高裁で確定する場合には、加州主導による脱炭素化という従来の展開はそこで行き詰まる。ちなみに、副大統領候補であるバンス上院議員の選出州・オハイオを含むアパラチア地域は、全米最大級の産ガス・産炭地帯でもある」(小山氏)

地球温暖化対策の国際的枠組みである「パリ協定」からの再離脱が濃厚となる中、わが国エネルギー政策の行方にも大きな影を落としそうだ。

【特集1】川崎で自治体最大規模の事業始動 廃棄物発電に期待される役割


地域の脱炭素化の王道的な手法の一つが、廃棄物発電の利活用といえる。

カーボンニュートラルに向け取り組みが活発化する廃棄物発電の最新事情を紹介する。

桑畑みなみ/NTTデータ経営研究所 社会・環境システム戦略コンサルティングユニット マネージャー

今年4月、川崎市に自治体最大規模の地域エネルギー会社「川崎未来エナジー」が誕生した。以前より同市は市域の再エネ普及拡大を目指しており、当該会社はその担い手として、再エネ電力の供給、太陽光発電などの電源開発、エネルギーマネジメント技術を活用した取り組みの推進を担う。

当面の核となるのが、市が保有する廃棄物発電の有効活用である。背景の一つに、市の廃棄物処理施設である橘処理センターの建て替えによる発電能力の大幅な増加がある。発電電力は年間120GW時(1GW=100万kW)級を見込み、仮にこれを太陽光発電で代替した場合には2.5万世帯の屋根に設備を設置したことと同じ発電量となる(1世帯当たり4kW、発電効率13.7%として試算)。加えて同市は工業地域として電力需要量が多い一方、立地上、十分な再エネ導入ポテンシャルを期待できないという制約がある。そのような状況下、バイオマス発電としての廃棄物発電の利活用に白羽の矢が立ったのである。

橘処理センターの完成予想図 出典:川崎市ウェブサイト


環境面と安定電源の価値を兼備 積極的な利活用検討を

そもそも廃棄物発電は、太陽光や風力と異なり天候に左右されず、比較的、発電計画が立てやすい特性を持つ。再エネ価値がありながらもベース電源としての活躍を期待することができる貴重な電源だ。国が掲げる第6次エネルギー基本計画における電源構成のうち、2030年度の再エネ比率は36~38%を目指すが、そのほとんどは太陽光や風力、水力といった変動電源に頼っている。皮肉なことに、変動性再エネを導入すればする程、電力系統の管理として安定電源を組み合わせる必要が生じ、そのほとんどを従来型の火力発電が担っているのが実態である。もちろん蓄電池の活用をはじめとするエネルギーマネジメントの高効率化によって最適なバランスは常に試行錯誤されつつあるものの、この局面で環境価値と安定電源の価値を併せ持つ廃棄物発電が果たすべき役割は大きい。

今後、リサイクルのさらなる推進や人口減少などに伴い燃料となるごみの減少が見込まれることには留意が必要となるものの、再エネの最大限の活用、さらには地域資源の活用・地域経済の活性化を見据えると、廃棄物発電の積極的な利活用を真剣に考えていくべきである。川崎未来エナジーには、その成功例となることを期待したい。

【特集1/座談会】脱炭素の追い風も行く手には難路 持続的な成長に必要な視座


再エネ開発を巡るトラブルや問題が相次ぎ、各地で存在が揺らいでいる。

地域共生や経済効果など多様な視点で再考する課題が突き付けられる。

【出席者】
山本隆三/常葉大学名誉教授
諸富 徹/京都大学大学院経済学研究科教授
秋元圭吾/地球環境産業技術研究機構「RITE」システム研究グループリーダー・主席研究員

左から順に、秋元氏、諸富氏、山本氏

―全国各地で土砂流出などの環境影響を心配する地域住民らとのトラブルが相次ぐ中、条例で再エネ発電設備の導入規制に踏み切る自治体が増えています。

秋元 再エネ事業の規律がない中、地域との共生に十分に配慮していない発電設備の開発が顕在化してきたように思います。日本の平地面積が限られているにもかかわらず再エネの導入を強力に促したため、山間地や傾斜地に無理に設置するケースが増えてしまっているという印象です。そうした動きを背景に規制が強まってきたと見ています。

山本 再エネに限らずさまざまなエネルギーを各地で利用しようとすると、環境に負荷をかけてしまいます。再エネは環境に優しいイメージが先行してきましたが、大規模に使い出すと大きな土地と多くの資機材が必要となります。再エネに必要な重要鉱物の量は、原子力発電所の5倍程度、火力発電所の10倍以上に達します。こうした点を踏まえると再エネ開発を巡るトラブルは必然的な問題と言えますが、政府はもっと早く必要な対応を取るべきだったように思います。

諸富 2012年7月に再エネの固定価格買い取り(FIT)制度を導入して以来、地域再生のために活用を促進すべきという立場です。一方で残念ながら、不適格な再エネ開発が放置されてきました。都市計画を厳正につくるドイツとは対照的に日本の建築は自由で、開発事業についても最低限の規制がクリアされていれば立地地域の自治体が許可しています。そうした規制の不備を突く形で再エネがどんどん導入されていったと分析しています。

―再エネ普及に向けた「再エネ特措法」が改正を繰り返し、4月には住民説明会の開催など規律強化を求める改正法が施行されました。どう評価していますか。

秋元 再エネ拡大の圧力が増す中、適切な再エネ開発を促す法改正は必然です。ただ、問題が顕在化してから遅れて手を打っているという印象です。先を見通した上で必要な措置を講じるべきではないでしょうか。

山本 行政が後追いで手を打っているという見方は同感です。さらに言えば、再エネ事業で得られた利益を立地地域に還元する取り組みも十分ではなく、もうけが都市部にいくケースも。各地に広がるメガソーラーの導入に伴い生み出される雇用も限られます。

諸富 国レベルで脱炭素化につながる再エネの導入拡大が至上命題と位置付け、地域再生のための再エネ事業が進められてきました。ただ、その利益が地域にどう配分されるかまでの細かい議論が尽くされていないように思います。そうした点も含め事業者や地域住民が普段から議論する協議会を設ければ、おのずと再エネと地域との共生が進むでしょう。


次世代技術は見極めが不可欠 コストを踏まえた支援スキームを

―設置場所の拡大が見込めるペロブスカイト太陽電池など、エネルギー安全保障や経済成長につながる可能性を秘める再エネの選択肢が増えています。

秋元 太陽光発電や風力発電について見ると、資本集約型産業のため、雇用を含めた利益の地域還元が難しいと言えます。利益を地域に落とそうとすると事業コストが上がってしまう「トレードオフ(二律背反)」の関係に陥り、そこで増えたコストが国民負担に跳ね返ってきます。また、政府はペロブスカイト太陽電池など国産の次世代技術を普及させようとしていますが、これらは普通の太陽光や普通の風力よりもコストが高いので、しっかりと見極めた上で導入に向けた適切な支援のスキームを検討することが重要です。

土砂崩れで太陽光パネルが崩落した(経済産業省のサイトより)

諸富 バイオマスや小水力などの再エネ発電設備は林業などの地域産業に一定の経済効果をもたらし、自動車産業のように産業のすそ野が広い洋上風力も期待できます。ただ、再エネの規模に関わらず利益を地域に落とす仕組みづくりをもっと進めるべきです。例えば、大規模事業者が地域で再エネ事業を行いたい場合、利益の一定割合を地域に還元することを義務付けたり、地域企業の株主になったりするスキームが考えられます。

山本 もちろん日本で新たな産業を興すことは大切ですが、間違いなくエネルギー価格を引き上げる産業では結局、長続きしません。再エネに限らずエネルギー価格を引き下げられるような分野に、資金を効果的に投入する対応が求められるのではないでしょうか。

【特集1】洋上風力は地域経済を再生できるか 秋田・能代と石狩の現場をレポート


洋上風力発電事業は、関連産業集積化により新規雇用の創出など地域経済への恩恵が期待されている。

実態はどうなっているのか。先行する秋田県(秋田・能代市)と北海道石狩市の現状を取材した。

2050年カーボンニュートラル(CN)達成の主戦力として、大きな期待がかかる洋上風力発電。地域に利益を落とさず、安全上のリスクだけを押し付けてしまった一部メガソーラーの反省を踏まえると、いかに「地域裨益型」の事業モデルを構築できるかが、その成否を左右すると言って過言ではないだろう。

ともすると、「太陽光と同様、洋上風力導入に伴う雇用創出は建設時のみで、完了すれば失われてしまいかねない」(学識者)。そうあってはならないと、先行する秋田県(秋田・能代市)と北海道石狩市では、着実に地域振興につなげようという動きが活発化している。

能代港では、地耐力強化工事が進んでいる


産業拠点の形成へ 地元企業も受託に意欲

日本海に面した海岸沿いに立つと、能代港湾区域内に立つ20基の洋上風力発電が一望できる。2022年12月に商業運転を開始した、国内初の本格的な洋上風力発電所(総出力8・4万kW)だ。海からの強い風が吹く能代市沖では今後、一般海域でも建設計画が相次ぐ。洋上風力の一大拠点としてスタートを切った今、全国からますます熱い視線を集めている。

昨年度の県外からの視察者は1400人ほど。これだけの人が市内に宿泊し、飲食店を利用するだけに、小売りから飲食、宿泊などさまざまな業種が受ける経済的な恩恵は大きい。それだけではない。市エネルギー産業政策課の三上涼星主査が、「市内企業の意識の変化が顕著。洋上風力関連の仕事を積極的に受託していこうという意欲が非常に旺盛になってきている」と言うように、産業面でも良い効果が出始めているようだ。

洋上風力の拠点港として国の指定を受けた能代港では、将来、部材置き場として対応するための地耐力強化工事が進む。秋田杉の集積地として栄えてきた同港は、県北の玄関口。三上氏は、港湾機能の強化を「周辺地域の産業振興や雇用の創出につなげていかなければならない」と意気込む。

この洋上風力事業を手掛けているのは、丸紅を中心とする特別目的会社「秋田洋上風力発電」だ。23年1月には、能代港に続き秋田港でも13基の洋上風力の商業運転を開始した。同社に出資する13社のうち7社が県外企業。井上聡一社長は、「建設段階、そして運転段階に入った今も、技術的に可能な限り県内の企業、人材を活用している」と、地元との共生を強調する。

実際、発電所の運用や保守などの現場業務に60人ほどが従事しており、そのうち半数が県内出身者とのこと。また、作業員を現場まで輸送するための2隻の洋上風力発電アクセス船(CTV)の運航や、洋上・陸上設備の保守業務の一部、環境調査などに県内企業が関わっている。

一般海域で計画されている全てが完成すれば、秋田県だけで洋上風力の設備容量は200万kWを超える規模に達する。県の試算によると、直接・間接を含めた経済波及効果は、秋田・能代港の港湾内事業分で270億円。一般海域における4事業分では、3550億円とケタ違いに大きい。

目指すのは、「国内最大級の新エネルギー供給基地と関連産業集積拠点の形成」だ。クリーンエネルギー産業振興課の北原達主査は、「発電事業者やメーカーと県内企業のマッチング、県外企業の誘致に着々と取り組んできたことで、さまざまな企業が秋田県に集結しつつある」と手ごたえを感じている。

人口減少が深刻化する中で、いかに県内に仕事を創出し流出を食い止めるかは大きな課題。これまでも、県内の大学生や高校生を対象にメンテナンスなどの人材育成プログラムを実施しており、「建設、オペレーションなどを含め、より包括的な教育ができないか、検討を進めている」(北原氏)ところだ。


再エネ「活用」も重視 GX投資を呼び込む

今年1月、グリーンパワーインベストメント(GPI)が8000kWの大型風車を採用した「石狩湾新港洋上風力発電所」(14基、総出力11万2000kW)が商業運転を開始した北海道石狩市。この地域では、冷涼な気候と豊富な再エネを活用しようと、データセンター(DC)が集積しつつある。課題は、他の産業誘致とは異なり、DC単体では雇用などの経済効果が出にくい点だ。

石狩市が開催した「地域課題解決WS」

「これまでは、DCの誘致が目的となっていたが、今後は地域価値向上のためにどう役立てていくかが重要だ」(企業連携推進課の加藤純課長)。そこで、地域課題の解決を視野に、地域のデジタル需要を掘り起こすソリューションを模索し始めた。

例えば、農業分野では、労働人口の減少による担い手不足や、気候変動による農作物への影響が著しい。こうした課題をDX(デジタルトランスフォーメーション)で解決することで、デジタル需要の創出と地域課題解決を両立しようというわけだ。今年2月には、「石狩市と考えよう『地域課題解決ワークショップ(WS)』」を開催。スタートアップ企業関係者ら約30人が参加した。

「再エネやDCが集積することが、市民にとってどのような利益をもたらすのか見えにくい。これらを活用しより良い市民の暮らしを実現することで、再エネ、DCの利用価値を高めていきたい」(加藤氏)

地方都市は、人口減少に伴いさまざまなサービスや生活インフラが維持困難となっている。洋上風力を軸とした地域振興策により、都市存続へ起死回生を図れるか―。秋田、北海道の動向は、全国のモデルケースとして高い関心が向けられている。

【特集1】一層の拡大は地域共生が大前提 需給面でFIP活用が重要に


政府は再エネ乱開発に対し数度にわたり再エネ特措法を改正してきたが、今後の対応で欠かせない視点は。

そして引き続き再エネ主力電源化政策を進める上での課題とは―。日暮正毅・新エネ課長に聞いた。

【インタビュー:日暮正毅/資源エネルギー庁 新エネルギー課長】

―4月施行の改正再エネ特措法では新たな措置を示しました。

日暮 2012年7月の再エネ特措法開始により、電源構成に占める再エネ比率は倍増する一方で、地域との共生を巡る課題が顕在化しています。今後導入量をさらに伸ばす上では、この課題への対応が大前提です。今回の法改正に際しては、森林法や盛土規制法などの許認可取得を認定申請時点の要件とし、さらに関係法令違反が明らかであれば、早期是正を促すため、認定取り消しの前段階で交付金を停止する措置を設けました。既に本年4月、森林法違反で9件の交付金を停止し、今後も随時実施する方針です。加えて毎年1000件単位の設備を現地調査できるよう人員配置する予算措置を講じ、実効的、機動的に事業規律を確保していきます。

―ただ、自治体では再エネ規制条例の制定が続いています。

日暮 再エネを巡るトラブルへの対応では地方の自主性を重んじつつも、カーボンニュートラルに向けて、やはり地域との共生を前提に再エネ拡大を目指す必要があります。各自治体の取り組みについてバランスが取れているのか、良く目配りします。


市場統合を強く推進 国内供給網の強靱化重視

―FIPへの移行が大規模太陽光などで進んでいません。

日暮 FIP電源は少しずつ伸びてはいますが、まだ全体の2%程度。FIPは価格メカニズムを活用し、再エネ電源の市場統合を図る制度であり、供給が多い時間帯に蓄電池にためる、あるいは需給を見て自ら出力を制御し、他の時間帯に発電をシフトさせるといった対応を行う強い動機付けとなります。需給バランスへの貢献やkW時ベースで見た導入拡大の面から、今後はFIPの活用を進めることが重要で、より強く移行を後押しする考えです。なお、国民負担の課題については、入札制の一層の活用など再エネのコスト低減を促します。洋上風力での入札では国民負担ゼロで導入を行う事例も出てきています。

また、今後拡大が期待されるペロブスカイト太陽電池や洋上風力については、国内でサプライチェーンを構築し、地域に裨益する構造とすることが肝要です。前者は国内産出できるヨウ素を使い、かつて国産パネルが競争力を失った反省を踏まえ、官民協議会で英知を結集し、産業競争力強化と再エネ拡大を図ります。後者については、国内調達比率40年60%を目標に掲げていますし、入札プロセスの中で「安定供給」の項目としてサプライチェーンの強靱化を加点要素としています。

第7次エネルギー基本計画の検討も始まりましたが、脱炭素電源の供給確保はまさに今後の産業競争力に直結します。地域との共生、国民負担の抑制を図りながら、再エネの主力電源化に向け取り組んでいきます。

ひぐらし・まさき 2001年東京大学経済学部卒後、経済産業省入省。06年米ジョージタウン大学留学。製造産業局航空機武器宇宙産業課長、経産大臣秘書官などを経て23年から現職。

【特集1】特措法改正で段階的に規律強化も 再エネ規制へ自治体の温度差鮮明に


FIT開始から10余年立つ中、再エネトラブルへの対応策として自治体による条例策定が広がり続ける。

自治体はそれぞれどのようにこの問題を受け止めているのか。アンケート調査でその分析を試みた。

「ここ数年、条例化の中で最も動きがある分野が太陽光など再生可能エネルギー発電設備の規制関係だ」―。自治体向けにさまざまな条例の動きを発信している地方自治研究機構の井上源三顧問は、こう強調する。

FIT(固定価格買い取り制度)導入以降、不適切な再エネ設備を巡るトラブルが各地で報告され、本誌もこれまで数度の特集でその実態に迫ってきた。

資源エネルギー庁はたびたび再エネ特措法を改正し、段階的に規制を強化。例えば2022年4月の改正では未稼働案件の認定失効制度を導入し、23年3月末に最初の失効期限を迎えた案件は約5万件、約4GW(1GW=100万kW)に上る。

にもかかわらず、自治体による再エネ規制の動きは止まる気配がない。単独で再エネを規制する条例は、2014年の大分県由布市と岩手県遠野市の2条例制定を皮切りに増加の一途で、都道府県条例が8件、市町村条例が277件(7月9日時点)。最近はこれまでなかったエリアでの制定も目立ち、「さらに条例が増えるにつれ、事業者は条例がないところを選ぶようになる」(井上氏)―。


既存制度で十分か否か 自治体の判断分かれる

実際、自治体関係者はどのようにこの問題に対峙しているのか。本誌は47都道府県、20の政令指定都市にアンケートを送付。締め切りまでに43都道府県、16都市の回答を得た。

まず都道府県で「再エネ規制条例を定めている」と回答、あるいは実質的な規制条例を導入しているのは8県、政令指定都市は3市だった。さらに、1県が条例制定を検討中という。ほかに環境アセスメント条例の対象にしているとの回答もあった。

規制条例がある8県の太陽光導入量の最新実績は、200万kW台が3県、100万kW台が1県など、より導入量が多い地域があるものの、8県の導入量は一定水準に達し、3市についてはほかの都市よりも多かった。

都道府県には市町村の状況も聞いたところ、過半の29で市町村条例があった。最多レベルでは県内に30超の条例が存在。対して「把握していない・規制か判断できない」が7件、「導入事例なし」は5件だった。

次に「住民から再エネ規制を求める声が寄せられたか」との問いに対しては、都道府県で最も多い回答は「ちらほら寄せられている」で、次いで「把握していない」「ほとんどない」「数多く寄せられている」の順となった。政令指定都市では「把握していない」が最多で、「ちらほら」「ほとんどない」が同数、「数多く」はゼロだった。

それぞれの判断理由を問うと、条例制定組からは、「住民の不安に応えた結果」との声や、既存制度での対応では不十分といった考えが示された(詳細は別表)。一方、条例を制定していない側からは、「規制すべき状況でない」といったほか、「地域の実情に応じ市町村で判断することが望ましい」「既存の法令やガイドライン、条例アセスなどにより対応できている」「事業者、県、立地市町村の3者による協定締結を推進している」などの声が挙がった。

【JERA奥田社長CEO兼COO】安定供給を堅持しつつ脱炭素時代を視野に 未知の領域に挑戦する


碧南火力発電所において、20%のアンモニア転換を成功させた。

火力発電のゼロエミッション化、そして洋上風力開発に注力することで、脱炭素と安定供給の両立に貢献する

【インタビュー:奥田久栄/JERA社長CEO兼COO】

おくだ・ひさひで 1988年早稲田大学政治経済学部卒、中部電力入社。グループ経営戦略本部アライアンス推進室長、JERA常務執行役員、取締役副社長執行役員 などを経て2023年4月から代表取締役社長CEO兼COO。

志賀 碧南火力発電所4号機において、燃料の20%を石炭からアンモニアに置き換える実証試験を行いました。成果はどうでしたか。

奥田 4月1日に着火し、10日に100万kWのフル出力で20%の燃料アンモニアへの転換を達成しました。6月末まで約3カ月間にわたり試験を実施し、窒素酸化物(NOX)の発生を転換前と同等以下に抑制できたほか、一部欧州で問題になった温室効果の高い亜酸化窒素(N2O)も検出限界値以下であることを確認するなど、全ての試験を問題なく終えることができました。

100万kWの実機を使ってアンモニアを燃焼させる試験は、世界で初めての試みでした。試験結果も良好でしたので、今後は実用化の段階に入っていきます。早ければ2027年度に20%転換で4号機の商用運転を開始し、さらに5号機でも20%転換の商用運転を行うことを予定しています。

志賀 次世代燃料の中で、アンモニアがコスト面で最も有利なのでしょうか。

奥田 将来にわたって何が有利であるかは、今決められることではないと考えています。とはいえ、今の技術水準で実現可能なものの中では、間違いなくアンモニアは現実的な選択肢であると認識しています。技術は進歩していきますので、当社としても柔軟に考え方を変えていく必要があります。


複数プレーヤーと交渉 アンモニアを安定調達

志賀 サプライチェーンの構築にはどう取り組んでいますか。

奥田 LNGを導入した当初は、電力会社はサプライチェーンに関与せず単に購入するだけでした。ただそれでは、火力発電所の運用に合わせた売主との交渉や輸送船の調整といった柔軟な数量調整に対応できません。LNGの時の反省も踏まえ、サプライチェーン全体に対して一定程度マネジメントできる仕組みを最初から作ることが重要だと考えています。マーケットが目まぐるしく変化する中では、価格の決め方がより柔軟であることが望ましく、水素・アンモニアのサプライチェーン構築に自ら参画していきます。

碧南火力発電所・燃料アンモニア実証用タンク

北米では、アンモニア製造の世界最大手の一つであるCFインダスリーズやヤラ・インターナショナル、さらにはエクソンモービルなどと共同プロジェクトを検討しています。これは天然ガスから水素を生成する過程で排出されるCO2をCCS(CO2の回収・貯留)によって地中に固定化し、その水素から製造する「ブルーアンモニア」です。一方インドでは、再生可能エネルギー由来の電気で水を電気分解した水素で「グリーンアンモニア」を製造することを検討しています。インドは、急速な経済成長を背景に火力発電所の需要が高い一方、大規模な太陽光発電の開発にも積極的です。中東諸国をはじめ多くの国でアンモニアに注目していただいていますので、さまざまなプレーヤーと交渉しているところです。また、日本郵船、商船三井とともに大型アンモニア輸送船の開発、安全な輸送体制の構築などについて検討しているところです。

インフレで低迷する内需 利上げで円安に歯止めを


【今そこにある危機】エミン・ユルマズ/エコノミスト

4月29日に1ドル=160円を突破するなど円安が止まらない。

物価高が日本経済を直撃する中で政府・日銀が打つべき一手とは。

円安は日本経済全体にとってプラスなのか、マイナスなのか。この問いに答えるために、円安の要因から考えてみたい。

一つはファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)の影響だ。外国との金利差、エネルギーや食料などの輸入依存度の高さなどが挙げられる。また近年はデジタル化が進んだが、日本企業が使用するAI(人工知能)やクラウドサービスを手掛けるのは海外企業だ。これらの利用料が円安圧力として加わった。

一方で、メディアは日米の金利差を盛んに取り上げる。だが昨今の過度な円安は、金利差だけでは説明がつかない。実際に昨年3月以降、日米の金利差はそれほど拡大していないにもかかわらず、円安は進行した。

円安はマイナス面が大きい


新NISAの影響大 日本は内需型経済

円安にファンダメンタルズ以上に大きな影響を与えているのが、需給的な要因だ。現在、市場ではさまざまな円売り要因がある一方で、円買い要因はほとんどない。

需給面での日本人と外国人、それぞれの動きを見てみよう。日本では1月1日、新NISA(小額投資非課税制度)が始まった。投資信託や米株買いにより、金融機関の機械的な円売りドル買いは増加。その額、月におよそ1兆円だ。日銀の為替介入は総額約9兆7000億円だが、10カ月で相殺されるほどの金額となる。本来であれば、新NISAは日本株に限定するか、外国株式の購入量に制限を設ける必要があった。

外国人の動きで見逃せないのは、海外で円を運用するキャリートレーダーの存在だ。昨年10月、キャリートレード市場はリターン(利益)を追求しやすいリスク志向に変わった。キャリートレーダーたちは「米金利はこれ以上の上昇が見込めない。日米の金利差を使用して、日本から調達した資金でリスク資産に投資しよう」と考え、投機的な動きに走り円安が進んだ。

一方、今年2月22日に日経平均株価が過去最高値を記録したように、外国人は日本株を多く購入している。この動きは一見、円買い圧力に見えるが違う。彼らは将来交換する為替レートを確約する為替先物予約を行い、ヘッジをかけている。このため、外国人による日本株買いが円ドルレートに与える影響はない。

このように昨年来、ファンダメンタルズに大きな変化はないが、需給的な要因が悪化している。そんな中、純粋な円買い要因と言えるのは年間約5兆円のインバウンド消費くらいだ。ただこの額でさえ、新NISAやキャリートレードがすぐにかき消してしまう。

「日本にとっては、輸出企業に利益をもたらす円安の方が望ましい」。こうした声も聞かれるが、それは昭和の話だ。日本の経済構造は現地生産の増加などで大きく変化した。輸出依存度は約15%で、ドイツ(約38%)や韓国(約35%)とは異なり、米国(約12%)に近い。貿易黒字が国内総生産(GDP)に直結する輸出依存型から脱却し、内需型経済となった。

課題克服し社会実装に挑む ガスCN化の切り札となるか


【技術革新の扉】革新的メタネーション技術/東京ガス

コスト面や効率面など、既存技術の課題を補う革新的メタネーション技術。

東京ガスが取り組む二つの新技術で都市ガスのカーボンニュートラル化を加速させる。

ガスのカーボンニュートラル化として期待が高まるメタネーション技術。発電所などから排出されるCO2を利用してメタンを生成することができるため、燃焼時に発生するCO2量を差し引きゼロで考えることができる。メタネーションで生成されたメタンはe―メタン(合成メタン)と呼んでおり、官民が力を入れて、社会実装に取り組む施策のひとつだ。

こうした中、東京ガスは既存技術である「サバティエ方式」に加え、革新的な技術である「ハイブリッドサバティエ方式」と「PEMCO2還元方式」の社会実装に向けた取り組みを加速させている。

サバティエ方式とは、水を電気分解するなどして作った水素とCO2を、触媒を通すことによって反応(サバティエ反応)させて、e―メタンを生成する製法だ。すでに技術が確立されており同社は2022年3月から横浜テクノステーション(横浜市鶴見区)内に敷設したメタネーション施設でこの方式を用いた実証試験を開始している。

横浜テクノステーションの実証試験は順調だ

同施設で製造されるメタンの純度は97%以上と不純物をほとんど残さない。この高い数値を保つために、反応器を二つ連結して使用し、段階的にメタン濃度を引き上げている。

同社によると、こうして製造されたメタンは一般的な都市ガス使用において特段の問題はないとのこと。ガスコンロやガスエンジンコージェネレーションなどのガス機器に供給し、その実用性について確認済みだ。

しかし、こうした既存のサバティエ技術にはいくつか課題がある。一つはコスト面だ。サバティエ方式では、水を電気分解して水素を発生させる水電解装置やそれを貯蔵する水素タンク、メタン合成装置など独立した高価な装置が複数必要となる。さらに、発熱反応を伴い、約500℃といった高温になるため、さまざまな熱マネジメントで課題があるという点だ。そうした懸念点を補完すべく、革新的技術として挑むのが前述したハイブリッドサバティエ方式とPEMCO2還元方式だ。

【上定昭仁 松江市長】島根2号機は安心・安全を最優先


うえさだ・あきひと 1972年生まれ。松江市出身。95年九州大学法学部卒業、日本開発銀行(現日本政策投資銀行)入行。建設省(現国土交通省)大臣官房政策課出向、シンガポール次席駐在員、社長秘書、松江事務所長、米国法人CEOを歴任。2021年4月の松江市長選で初当選。

日本政策投資銀行に25年間勤め、2021年に松江市長に就任した。

持ち前のリーダーシップで、市の魅力を国内外に発信する。

松江市生まれ。小学6年生の時、バレーボールの島根県大会で優勝。全国大会に出場するため東京を訪ね、「松江には何もないが、東京には何でもある」と思い込んだ。中学生になって、「将来社会の課題を解決する公的な仕事に就きたい」と裁判官を志す。司法試験合格に向けて、松江南高校を経て、九州大学法学部に進学した。

大学時代に印象的だったのは、友人との島根旅行。初めて出雲大社や松江城を訪れ、ふるさとの魅力に気づかされた。遅ればせながら愛着や誇りが芽生え、「地元の発展に貢献できないか」と考えるように。同時に海外への関心も高まった。ゼミ旅行でインドネシア・バリ島を訪れた際、現地の子どもと写真を撮ったら金をせがまれた。貧富の差を目の当たりにして「井の中の蛙」だったと気づく。

そんな矢先、日本開発銀行(現日本政策投資銀行)に内定した先輩から、同行の使命を聞き感銘を受けた。当時まだ「グローカル」という言葉はなかったが、世界と地域を結ぶ仕事に興味が湧き、同行に就職した。

入社2年目に九州支店に配属。民間企業への融資や第3セクターによる都市開発プロジェクトに関わった。福岡市には、九州電力、西日本鉄道といった大企業があり、まちづくりが民間主導で進む。一方、中小企業中心で経済規模の小さい松江市では、地方行政がまちづくりをけん引していかなければならない。25歳の時、地元の発展を導く役割を果たすため、松江市長になることを人生の目標と定めた。「市長になる」ためのキャリアを積みたいと、中央官庁の出向ポストを希望すると、当時の上司は「市長はなりたいからなれる職業ではない。周りから『なってほしい』と請われる人物になれ」と助言をくれ、国土交通省の官僚になった。

その後、日本政策投資銀行のシンガポール駐在などを経て2017年に念願の松江事務所長に就任した。19年にはニューヨークに赴任し世界最大のコロナ禍を経験。行政の危機管理の使命を痛感しながらニューヨークで立候補を表明し、21年4月の松江市長選で初当選を果たした。

脱炭素電源を安定確保できるか 初回の評価と制度の展望を考える


【多事争論】話題:長期脱炭素電源オークションの評価

脱炭素電源への新規投資を促すため創設された長期脱炭素電源オークション。

専門家は、初回の結果の評価と、制度の今後をどう考えるのか。

〈 再エネはほとんど落札せず 目的と整合的な制度運用を 〉

視点A:諸富 徹/京都大学大学院経済学研究科教授

本制度は、2050年カーボンニュートラル(CN)目標を達成するため、段階的に化石電源を全て脱炭素電源に置き換えるという野心的な狙いを持つ。電力供給の安定化を図りつつ、脱炭素化を推進する上で極めて重要な役割を担う政策手段だといえる。本稿では、4月末に発表された長期脱炭素電源オークションの結果について、「脱炭素化の促進」という視点で評価してみたい。

第1回目の結果で注目されるのは、次の3点である。第一は、今回の落札合計976・6万kWのうち、LNG火力の約定量が575・6万kWと全体の約6割を占めたことである。本オークションは大きく分けて「脱炭素電源」と「LNG火力」という二つのカテゴリーがあるが、火力発電への支援が過半を占める結果となった。

第二は、再生可能エネルギー電源がほとんど落札していないことである。確かにバイオマス専焼が落札しているが、約定量が19・9万tと全体のわずか2%にすぎない。

第三は、脱炭素電源のうち「蓄電池・揚水」が募集上限の100万kWを大きく超え、166・9万kWが落札したことである。これは、全体の約定量が募集量400万kWを下回ったため、あらかじめ定めたルールに基づき、入札量が募集量を大きく上回った「蓄電池・揚水」に落札枠を割り振ったためである。ただ、「蓄電池・揚水」は不落札量の方も、372・8万kWと最大量になっている。

以下はこれらの評価である。第一は、この落札結果は脱炭素化と整合的か、という点である。本オークションの特徴は、「脱炭素」をうたいながらLNG火力の新設・リプレースを対象にしていることである。その理由は、①LNG火力は石炭火力に比べればCO2排出量が少ないにもかかわらず、石炭火力よりもコスト高である、②柔軟な起動・停止能力に優れているため、再エネの調整電源として適性がある―ためだと思われる。だが、50年CNを視野に入れれば、それがCO2の排出電源という事実に変わりはなく、「移行電源」の性質を帯びていることは否めない。本オークションで落札された電源については、遅くとも50年までに排出実質ゼロの実現をリクワイアメントとして課すべきだろう。

同様のことは既存火力の改修(水素混焼/アンモニア混焼)にも当てはまる。50年時点での実質ゼロ排出だけでなく、それに向けた着実な進ちょくが図られているかもポイントだ。途中経過を点検し、軌道から外れ実現できそうにないと判断される場合、容量支払いは差し控えられるべきであろう。政策手段の目的と整合的な制度運用が重要である。


今後の再エネの応札可能性に期待 最低入札容量に改善の余地

第二は、再エネの落札がなかったことについてである。蓄電池・揚水とLNG火力で落札総量の76%超に達した結果を見れば、本オークションは、再エネの調整電源の容量を確保する制度として解釈可能かもしれない。実際、再エネの出力制御が昨年度に著増し、今後も増加が見込まれることを考えると、蓄電池・揚水の容量増加を積極的に支援することの意義は大きい。

とはいえ「長期『脱炭素』電源オークション」をうたいながら、再エネの落札がなかったのは残念である。筆者は、そもそも再エネの応札がなかったと聞いているが、次の理由からであろう。一つは、参加要件でFIT(固定価格買い取り)・FIP(フィードインプレミアム)制度を適用する電源は除外されること、もう一つは、最低入札容量が10万kW(蓄電池は1万kW)と定められていることである。もっとも今後は、卒FIT電源のリプレース/リパワリングが増えるであろうこと、近年PPA(電力販売契約)などを用いて非FIT・非FIPの枠組みで再エネ開発を行う事例が増えていることを考えると、再エネの応札可能性は増えるのではないだろうか。

今後の本オークションの発展を展望すれば、脱炭素電源の本命の一つとして再エネがもっと落札できる制度に改善していただきたい。そこで障害となるのは、10万kWという最低入札要件である。メインオークションと異なり本オークションでは、分散的に立地する小規模電源をアグリゲートして応札することはできない。だが、同一サイトにおける複数発電設備をアグリゲートして応札することは可能である。今後、建設が進む洋上風力発電ならば、風車単体なら要件を満たさなくとも、同一海域に立地する複数の風力発電設備をアグリゲートして応札することも十分可能だろう。そうした動きに対して、十分促進的なオークション制度であってほしい。

もろとみ・とおる 1998年京都大学大学院経済学研究科博士課程修了。横浜国立大学助教授などを経て2010年3月から現職。内閣府経済社会総合研究所客員主任研究官、ミシガン大学客員研究員などを歴任。

【政策・制度のそこが知りたい】数々の疑問に専門家が回答(2024年7月号)


戦略的余剰LNG(SBL)の意義/洋上風力公募におけるゼロプレミアム

Q 昨年12月に開始した戦略的余剰LNG(SBL)の意義、実効性について教えてください。

A 本制度は、LNG需給ひっ迫対策であっても、電力需給ひっ迫対策ではないことに留意したいです。わが国は21世紀以降の複数回の大規模電源脱落に、石油火力たき増しで対応しました。当時、発電用重油は国内に180日程度の在庫があり、内航船やパイプラインで速やかな電力、燃料供給回復ができましたが、SBLはLNG火力大規模脱落時の効果は限定的です。採択事業者はJERAのみ、量はひと月あたり1カーゴと少ないです。国民負担額が気になり拡大できていません。本来は必要な守備力を定量設定し、LNGで不足であれば他手段を並行検討するべきでしょう。緊急時の実効性にも懸念はあり、「対象船腹をひっ迫エリアに仕向けるとして、船陸整合やひっ迫側タンク内ガスと船側ガスの性状整合性が確保されるのか」「内航船、小型船しか受入ができないLNG購入者への受渡はどうするのか」など課題があります。石油たき増しに比べ時間がかかるため、需給ひっ迫の備え万全とは言い難いです。

 そもそもLNG火力の将来の位置付けが不透明なので、燃料調達、物流を維持しにくい状況は変わりません。短期限界費用で発電所の稼働を決めればよし、という従来発想のまま今に至り、同時市場検討でも同じ思考のまま(起動費、最低出力コストが加算されるが考え方は同じ)だと高限界費用電源であるLNG火力の稼働量が不透明になります。少量の洋上LNG船腹に燃料を貯蔵しても、電力ガスの安定供給維持には力不足です。総括原価時代の方が守備力は手厚く、LNG調達の予見可能性もあったということになりますが、それではシステム改革失敗の自認になるので、パッチワークが施されたことと私は理解しています。

回答者:阪本周一/東急パワーサプライ シニアフェロー

Q 洋上風力発電事業の公募で、1kW時あたり3円で入札する事業者が多いのはなぜですか。

A 促進区域における洋上風力発電事業の公募第1ラウンドでは、三菱商事グループのコンソーシアムが圧倒的な低価格で3海域を総取りしました。国民負担抑制の観点からは再エネのより安価な利活用が評価できるものの、例えば地域共生の観点からは、地元との合意形成に注力する事業者が落札できないことに対しての懸念が生じました。それを受け第2ラウンド以降は、調達価格のみで勝敗が決まらないよう、いくつか評価ルールの変更がなされています。
 公募審査は、供給価格と事業実現性、両面での評価がポイントです。まず供給価格については、FIP制度が適用され、市場への売電のほか、需要家に環境価値と合わせて売電することが可能となりました。既に海外では需要家との相対取引を前提として、FIP制度のプレミアムを受け取らない落札事例が出ています。このようなケースも想定し、市場価格を十分に下回る価格(ゼロプレミアム水準)として1kW時あたり3円が示され、この価格以下での入札は価格点が満点となることが決まりました。第2ラウンドでは12社中9社がゼロプレミアム水準である1kW時あたり3円の入札により価格点の最高評価を獲得しました。
 事業実現性については、これまでのルールでは差がつきにくかったという反省から、公募海域ごとに最高評価を受けた事業者の評価点が満点になるように補正されるようになりました。つまり、供給価格は差が生まれにくくなり、事業実現性は差が生まれやすい評価ルールとなったのです。現在公募中の第3ラウンドでも供給価格がコミットできる事業者は限られる一方で、1kW時あたり3円入札は落札の必須条件となるでしょう。

回答者:桑畑みなみ/NTTデータ経営研究所 社会・環境戦略コンサルティングユニットマネージャー

【需要家】次期エネ基の省エネ効果 達成可能な見通し示せ


【業界スクランブル/需要家】

5月以降、第7次エネルギー基本計画策定に向けた議論が進んでいる。基本政策分科会における第2回までの議論は、おおむね供給側の内容が主となっているが、需要側の対策として省エネルギーの在り方についても今後の議論を期待したい。

これまでのエネルギー基本計画や地球温暖化対策計画を振り返ると、省エネルギー対策の効果は国の政策目標達成の調整弁として、やや過大な数値が見込まれていたように思う。

例えば、HEMS(家庭用エネルギー管理システム)については、家庭の電力需要に対する省エネ率10%が想定されており、これが2030年に約4900万世帯に普及する見通しとなっている。強制的な機器制御でも行わない限り、継続的な10%の省エネは実現が困難と思われる。

このほか、エネルギー事業者による省エネの情報提供も一定の省エネ効果と普及量が想定されているが、現時点でエネルギー事業者のウェブサイトなどで、定期的に省エネに関わるコンテンツを確認する消費者は多くないと思われる。このため、仮にエネルギー事業者のほぼ全てがコンテンツを提供したとしても、その実効性は定かでない。

将来的な省エネルギー量やCO2の排出削減量の目標が野心的な内容であることに異議はないが、同時に達成可能な見通しであることも重要であり、個々の対策の精緻な積み上げを期待している。

さらに、具体的な対策の検討にあたっては、時代とともに変化する需要家の経済活動やライフスタイルなどの実態把握を踏まえた上で、有効な施策を検討することも重要だろう。(K)

【コラム/7月24日】成長政策を考える~成長現象を忘れた政府提案


飯倉 穣/エコノミスト

1、成長願望の計略 払底の兆し

昨年度物価上昇の中でGDPは実質1%増(当初見通し1.5%、1月見込み1.6%)、名目5%(同2.1%、同5.5%)であった。24年度見通しは実質1.3%、名目3.0%である。どうなるか。

今年も「経済財政運営と改革の基本方針2024(以下:経済運営方針2024)」と「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2024年改訂版」が策定された(2024年6月21日)。報道もあった。「閣議決定「骨太」焼き直し中心「成長型の経済」掲げる」(朝日同6月22日)、「骨太の方針 閣議決定 所得・生産性向上に力点」「一目で分かる骨太の方針 賃上げ定着へ6年計画 成長産業育成 半導体量産に政府保証 所得向上 iDeCo拠出上限拡大」(日経同)。

今日、政府万能論なのか、いつも政府頼りの成長願望がある。日本経済は、何故思うような成長できないのか。経済財政運営の基本方針の内容が筋違いなのか、新しい資本主義(過去ならアベノミクス等)の中身に問題があるのか。それとも他に要因があるのか。見果てぬ夢は、国内の劣化でもある。成長の現象と成長政策を考える。


2、現在の成長政策~項目の羅列はあるが、牽引する主体は

「賃上げと投資が牽引する成長型経済実現」(経済運営方針2024)の旗の下、投資の拡大でDX、GX、フロンテイア開拓、イノベーション、資産運用立国、他にスタートアップ支援、海外活力取り込みを掲げる。DXは、デジタル技術の社会実装を目論む。医療・介護・こども・教育・交通・物流等多岐の分野での活用を促し、A・I半導体投資の支援に力を入れる。

GXは、省エネ、再生可能エネの促進、そして及び腰ながら原子力活用を述べる。嘘か眞か官民150兆円投資(含国民負担GX債20兆円)を掲げる。国際卓越大学制度の支援金や人への投資でイノベーションを期待する。スタートアップは、30年来の起業家待望が続く。海外活力取組みは、対内対外直接投資、海外人材・資金の呼び込みである。継続は力なりか、思い付き枯渇の感もある。

果たして賃上げや、政府主導・支援で、民間設備投資の呼び水効果があるのか。これまで構造改革で半壊状態の研究開発体制でイノベーションは生まれるのか。起業(ベンチャー)期待一辺倒で何が生まれるのか。GXの対象分野(原燃料転換、再エネ・二次エネ等開発等)は、実用・商業化手前の研究・実証段階か技術開発終了・商業化困難の搔き集めと言える。民間企業なら商売第一である。公的資金頼りに、且つ政府の金が尽きるまでの請負を継続する(協力する)ことにならないか。率先する企業は何処に存在するだろうか。政府の方針に半信半疑なら上出来である。他方エネ供給を混乱させている足元の電力自由化見直し等は迷走している。