エネ価格補助またも延長か 維新は選挙公約で見直し提起


物価高騰対策で岸田政権時代から続く燃料油・電気・ガス価格への補助金が、またも延長される可能性が濃厚だ。

自民党は今回の衆院選公約の中で、「電気・ガス料金、燃料費高騰対策と併せて、物価高が家計を圧迫する中、国民の皆さまの生活を守るため、物価高騰の影響を受ける事業者や低所得者、地方などに寄り添ったきめ細かい対応など、物価高への総合的な対策に取り組む」と、継続の方向を提示。公明党も公約に「家計を圧迫している電気・ガス料金、ガソリン等の燃料費への支援を続ける」と明記した。

「1ℓ175円」をターゲットに官製相場と化したガソリン価格

化石エネルギーの価格相場が落ち着きを見せている中で、電気・ガス補助は10月分まで、燃料油補助は年末までと、岸田政権では出口戦略の方向性を示していた。にもかかわらず、選挙対策のため、国費11兆円投入の効果や課題などを検証せず、なし崩し的に継続するような公約に対しては、エネルギー業界内外で疑問の声が渦巻いている。

こうした中、日本維新の会だけが公約で、価格補助について事実上の見直しを提起した。〈事業者への補助金投入ではなく需要家への直接給付、最終消費者の省エネ・節電へのインセンティブが働く激変緩和制度の導入、一過性の対策ではなく、持続的に省エネ・節電に資する設備・家電への投資の促進、価格高騰による影響が大きい低所得層への手厚い対応を行う〉

「維新のみが『激変緩和措置廃止』に伴う激変緩和策として、代替案を提示してきたことに注目している。これを機に、補助廃止への議論が盛り上がってほしい」(国際石油アナリスト)

【コラム/11月7日】BRICS首脳会議を開催 脱炭素至上主義より現実的政策を宣言


杉山大志/キヤノングローバル戦略研究所研究主幹 

BRICS会合が開催された。
日本貿易振興機構(JETRO)のHPhttps://www.jetro.go.jp/biznews/2024/10/cfad94d12688624c.htmlで以下のように紹介している。

“BRICSは10月22~24日、ロシア西部のカザンで第16回首脳会議を開催し、36カ国が参加した。原加盟国の5カ国(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ共和国)に加え、2024年1月から枠組みに加わった4カ国〔アラブ首長国連邦(UAE)、イラン、エチオピア、エジプト〕を含む拡大体制となったBRICSとして、初めての首脳会談開催となった。

首脳会議は「公正な世界の発展と安全保障のための多国間主義の強化」をテーマとした。全体会合で採択された共同宣言では、ドルに依存しない自国通貨での新たな決済システムの必要性を確認し、その導入の検討を継続することや、新たに「パートナー国」の制度を創設することが盛り込まれた。パートナー国は加盟国に次ぐ立場にあたる準加盟国に相当し、加盟国との経済協力や会議への参加に対する権利を持つ。パートナー国の創設は、グローバルサウスの結束力を高める狙いがあるとみられる。パートナー国には13カ国(インドネシア、タイ、ベトナム、マレーシア、ウズベキスタン、カザフスタン、ベラルーシ、トルコ、アルジェリア、ナイジェリア、ウガンダ、ボリビア、キューバ)が候補と複数のメディアで報じられた。„(以上、JETROのHPから引用)

あまり大きく報じられていないようだが、インド、中国をはじめ、これだけのグローバルサウスの国々がロシアを訪問し、共同で宣言をまとめたことは、今の世界情勢を認識する上で極めて重要なことである。西側諸国の意図に反して、ロシアは孤立などしておらず、多くの仲間がいる。むしろ、いま孤立気味なのは、欧米の西側先進国、特に米国なのかもしれない。

今回まとめられた共同宣言である「カザン宣言」は一読の価値がある(原文機械翻訳)。

一貫して主張されていることは、「いかなる国であっても、一方的に善悪を決めつけ、多国間主義に反する行動を取ってはならない」、という非難だ。

念頭にあるのは、明らかに、西側の近年の行動である。特に、イスラエルの軍事行動を支持し、支援している結果、周辺諸国において多くの犠牲者が出ていることを強く非難している。
また、これは名指しでは書いていないが、西側によるロシアに対する経済制裁と、それにまつわる二次制裁は、ロシアと貿易をしている多くの国にとって不評を買っている。ロシアはエネルギー、穀物などの物資を輸出してきた。今でもその輸入を継続する国々は多くある。

どの国も、大なり小なり、ジェンダーやマイノリティの人権問題などの火種を抱えている。それが西側によって、ロシアのように制裁対象にされて、西側の金融機関に預けていたドルやユーロ資産を没収されたのではたまらない。それで、西側に依存しないBRICSの決済システムを構築していこう、ということが今回の宣言でも大きなテーマとなった。

LNG関係者の国際会議 移行期後も重要性継続を強調


経済産業省は10月6日、「LNG産消会議2024」を開催した。

IEA(国際エネルギー機関)と2回目の共催となる今回は、GIIGNL(LNG輸入者国際グループ)とも連携し、ネットゼロに向けた天然ガス・LNGの役割を官民挙げて議論する場となった。冒頭であいさつした資源エネルギーの村瀬佳史長官は、「天然ガス・LNGの低炭素化という将来像の提示は安定的なガス市場の発展を促し、世界のエネルギー安定供給に貢献する」と述べた。

成果の一つは、LNG生産時のメタン排出削減を進める枠組み拡大だ。昨年発表された官民一体の取り組みには、日本の大手電力8社、東京ガス、大阪ガス、三菱商事、三井物産など22社が参加。生産国に対し事業単位でメタン排出量の情報提供を促し、年次報告書で公表する。

採択された「広島宣言」を手に(10月7日)

また、翌7日にはGIIGNLも広島で総会を開催し「広島宣言」を発表した。宣言では「LNGは安定的かつ低炭素なエネルギーシステムを維持する上で重要な役割を果たしており、今後何十年も必要とされる」との見通しを打ち出した。

これについて、同組織の副会長でアジア地区代表の東京ガスの内田高史会長は、「LNGは将来的には、バイオLNGやe―メタンに置き換わる」と前置きした上で、「これらの燃料はLNG設備をそのまま利用できるため、LNGへの投資が脱炭素化にシームレスにつながる」と強調。LNGは期間限定のエネルギーではなく、移行期後も重要な役割を担い続けることを訴求した格好だ。

環境相は経済通の浅尾氏 過去には「脱原発」主張も


石破茂政権で環境相に就任した浅尾慶一郎氏は〝経済のあさお〟を自任する経済通だ。衆参で当選6回を誇る入閣待機組だったが、脱炭素と経済成長の二兎を追うグリーントランスフォーメーション(GX)の局面では適任かもしれない。

日本興業銀行出身で、米スタンフォード大学経営大学院では経営学修士号 (MBA) を取得。旧民主党時代にはデフレ脱却議連に所属し、後の日銀副総裁らと金融緩和を訴えた。経済性を軽視されがちな環境政策の議論で、こうした経済観はプラスに働くはずだ。2026年度の本格導入を予定する排出量取引制度については「50年ネットゼロと経済成長の両方を実現できる制度として実現していきたい」(10月10日のインタビュー)と経済への目配りを忘れない。

経済や外交・安保に強い浅尾慶一郎環境相

エネルギー政策に関しては「政府目標を達成するため、原子力や再エネなどをさまざまに組み合わせる必要がある」と発言。ただ所属する麻生派の中でも河野太郎氏に近く、経済合理性を重視しすぎるあまり脱原発を主張していた過去も。「電力市場の完全自由化、発送電の分離、小売の自由化などを実行すれば、経費が莫大にかかる原子力発電は『割高な電力』として自然に淘汰されていく」(14年12月6日のメルマガ)

福島の除染土処分、能登半島での災害廃棄物処理、水俣病マイクオフ問題からの信頼回復、有機フッ素化合物(PFAS)問題……。環境省には課題が山積している。まずは11月11日に開幕する地球温暖化防止国際会議・COP29への出席が最初の大仕事となりそうだ。

台湾最大規模のエネ展示会開催 世界20カ国・企業470社が出展


【台湾】

脱炭素に向けた取り組みが加速する台湾で10月4日から3日間、国際エネルギー展示会が開催された。

2050年ネットゼロを目指す世界の企業約470社が出展し、最新ソリューションが集結した。

中華民国対外貿易発展協会(TAITRA)と、国際半導体産業協会(SEMI)傘下のグリーンエネルギー・サステナビリティ・アライアンス(GESA)が共催する「台湾国際エネルギー見本市(ENERGY TAIWAN)」および「台湾国際ネットゼロ見本市(NET ZERO TAIWAN)」が、台湾・台北市の台北南港第1展示ホールで開催された。当初は10月2日~4日の予定だったが、台風18号の影響で10月4日~6日に延期された。

台風の影響で二日遅れで開会した会場の様子

同見本市はエネルギーに関する台湾最大の展示会で、今年は世界20カ国から関連企業470社、1625のブースが出展し、昨年比30%増という過去最大の規模で実施された。日本からは、アスエネ、日本太陽光発電検査技術協会、ラスコジャパン、トーネジなどが出展した。


グリーンエネ調達のための 一気通貫枠組みを構築

今回紹介されたのは、太陽光や風力発電、蓄電池などに関する多様な最先端ソリューションだ。産官学連携の下、グリーンエネルギーへの包括的でスムーズな移行を加速させ、ソリューションのワンストップ・プラットフォーム構築に寄与することを目指している。

世界ではネットゼロを見据えた動きが強まり、各国はエネルギー転換の目標を達成するため、再生可能エネルギーの開発を加速させている。同時に、AI技術の発展により電力需要が急増する中、台湾においても半導体産業や投資の増加、電化政策などの推進もあり、2024年から28年は年平均2・5%増で推移すると経済部は予測している。世界に目を向ければ、企業は自らが事業で使用する電力を100%再エネで賄うことを目指す国際的なイニシアチブ「RE100」基準への準拠を目的に、再エネ調達が最優先事項になっている。需要が供給を上回る中、エネルギー効率を維持しつつ、再エネ比率を高めていくための最先端ソリューションが集結するこの展示会に関心が集まった。中でも注目の3社を紹介する。


元晶太陽能科技股份有限公司(TSEC CORPORATION)

会場で最大規模の展示スペースを確保していたのが、元晶太陽能科技股份有限公司(TSEC CORPORATION)だ。同社は台湾を代表する太陽光発電装置製造会社で、同社のソーラーモジュールや太陽電池は欧米、アジアなど世界中で販売されている。台湾で製造されるM6以上のモジュール製品製造のパイオニアであり、同社の技術は世界市場の最先端を走っている。太陽電池に関しても、最大変換効率23・2%以上の優れたMIT太陽電池を製造している。

元晶太陽能の大きなブース

TSECの製品は高品質・高性能で複数の国際認証を取得。台湾優秀PV賞を9年連続で受賞しているだけでなく、VPC認証(台湾経済部標準検験局による認証)、IEC認証(国際電気標準会議による電子部品の品質認証)、UL認証(アメリカ保険業者安全試験所による認証)を同時に取得した業界で唯一の企業だ。


特斯拉(TESLA ENERGY)

会場内の数多くのブースの中でひときわ目を引いたのが、TESLA ENERGYだ。ブースの壁やスタッフの制服は、シンボルカラーのブラックで統一され、スタイリッシュ。同社の家庭用蓄電池Power wallは、太陽光発電による余剰電力や系統からの電力を蓄電し、電力系統の停電を検知すると、自動的に家庭への電気供給を開始する。太陽光発電システムと連携することで、停電時には太陽光で発電した電気を家庭へ供給することも可能だ。アプリを使ってリアルタイムで発電量や電力消費量を確認することもでき、エネルギー自給率を高めたり、万一への備えとして節約を最大化するなど、希望に応じて設定の調整が可能だ。テスラ製品を特徴付けるシンプル、コンパクトなデザインは、多様な住宅の外観にマッチするため人気が高い。

黒が映えるおしゃれなプレゼン


格斯科技(GUS CORPORATION)

GUSは、EVや家庭用蓄電システム(ESS)に適したパウチセルを製造するほか、顧客の要望に応じてカスタマイズしたバッテリーパックやモジュール、ESSのセットアップ一式を製造している。2023年には国内初のバッテリーギガファクトリーを開設し、海外の複数の企業とパートナー提携。電池モジュールアプリケーションの開発・統合を続け、さまざまなグリーンエネルギーアプリケーションに最先端のソリューションを共同で提供するとしている。日本市場で手を組む東芝は「日本と友好関係にある台湾を最重要顧客地域と位置付け、自社の電池技術・製品を台湾のさまざまな問題解決に役立てたいと考えている。GUSが生産する電池が、台湾のみならず、世界の環境問題の解決に貢献できると確信している」とコメントしている。

家庭用蓄電池を説明したボードの前で

前提条件が大きく変わる可能性も 広域連系系統の絵姿をどう描くか


【論点】マスタープランの見直し〈前編〉/長山浩章・京都大学大学院総合生存学館教授

広域連系系統のマスタープランの見直しの要否が検討されている。

長山浩章氏が2回に渡ってそのポイントを解説する。

電力広域的運営推進機関(OCCTO)は昨年3月、地域をまたがる広域での電力系統の長期的な増強方針を示す「広域系統長期方針(広域連系系統のマスタープラン=MP)」を公表した。これは、2020年10月のカーボンニュートラル(CN)宣言後の第6次エネルギー基本計画、国のエネルギー政策を踏まえ、50年CN実現を見据えた将来の広域連系系統の具体的な絵姿として策定されたものである。需要をどこに配置するかで複数シナリオ(需要立地誘導シナリオ、ベースシナリオ、需要立地自然体シナリオ)が検討された。

OCCTOがMPで使用しているモデル構成(筆者作成)

50年度の各エリアの電源設備量を固定した上で、地域間連系線および地内増強を行ったケース(Withケース)と、行わないケース(Withoutケース)で、費用便益(以下B/C)計算、必要な調整力、慣性力の試算などを行っている。増強した系統の費用便益分析の結果を提示し、OCCTOが「基本要件」を提示した上で応募者を募る手順となっている。

今年3月の再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会では、日本海ルート(400万kW:北海道~東北~東京ルート新設)で、英国などで実施されている評価ルールと同じ評価期間25年、割引率4%でB/Cが0・67~1・07程度と、便益としては必ずしも十分に高いとは言えない水準であり、関門(九州~中国ルート増強)は、22年間の評価でいずれの割引率でもB/Cが0・29~0・62程度と1以下で、便益がコストを下回る見込みとなる資料が提示された。

これが影響してか、関門連系線の増強工事において本来の締め切りまでに応募意思の表明はなく、提出期限を1カ月延長する事態が起きていた。(その後、9月4日に中国電力ネットワーク、九州電力送配電、電源開発送変電ネットワークの3社が応募意思を表明し、応募資格要件を満たすことが確認された)。また、日本海ルートについても計画の取りまとめが1年繰り延べとなった。


大規模需要立地の計画浮上 次期エネ基見据え検討着手

このような状況下、昨今ではデータセンターや半導体工場などの大規模需要立地の計画が立ち上がり、MPの前提条件が大きく変動する可能性が出てきた。こうしたことから、今般の第7次エネ基改訂を踏まえ、9月11日に再エネ大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会などでMPの見直し要否の検討が始まった。

現行のMPは、長期モデルなどを用いた電源計画の最適化を目的としていないために、50年における本州の9エリアの発電設備量を前提にゾーンごとのロードカーブを構築し、それに供給を合わせている。ロードカーブには、EV、HPを含む電化需要、水素水電解、DAC(ダイレクト・エア・キャプチャー)による吸収などが反映される。

火力、水力は、供給計画や契約申込済電源を反映(CCS、水素、アンモニア混焼・専焼は考慮)、原子力は既存、もしくは建設中の設備が全て60年運転すると仮定している。太陽光、風力は一定の出力パターンを前提としている。モデルの構成は下の図のようなものであると想定されるが、需給、潮流シミュレーションはノーダルモデルで実施し、調整力、アデカシーのシミュレーションはゾーナルモデルで実施している。ノーダルモデルにより送電ロスおよび、連系線、基幹送電線の潮流8760時間のシミュレーションを行い、ゾーナルモデルでkW時、ΔkW、アデカシーを評価する。

あくまで、発電設備容量、全体の需要は変えないが、B/Cにおける費用には系統整備が行われない場合(Without)と、系統整備が行われる場合(With)の総費用の差分を用いている。総費用の差分は、系統整備に係るコスト(減価償却費、運転維持費など)となる。なお、電源はWithとWithoutで配置や導入量が変化しないことを前提としているため、電源開発コストは、総費用の差分(With―Witout)には表れない。

発電設備容量などの変化に対する系統整備への影響は、別途感度分析により評価し、アウトプットとして提示している。もし、火力設備が過剰であっても、メリットオーダーにより稼働しないため、最終的なシミュレーション結果に大きな影響はないものとなっている。

増強後に再エネの出力制御低下があれば、発電電力量が増し、これによって調整力kW時費用は増え、ΔkWは広域連系で必要量を融通するため、必要量は減少するなどの提示がOUTPUTの範囲である。この意味からOCCTOは広域系統監視者としてできる最大限の分析業務は行っているように思える。ただし、全ての前提が明確に示されているわけではないので、表現方法に今後工夫をしていく必要はあるだろう。

ここまで現行のOCCTOのMPについて解説した。次号では、今後の追加検討が必要と思われる点について述べたい。

ながやま・ひろあき 慶応大学経済学部卒後、三菱総合研究所入所。企業戦略構築のコンサルティングなどに従事。エール大学経営大学院修了(MBA取得)。京都大学大学院エネルギー科学研究科博士後期課程修了(博士)。2008年から京大国際交流センター教授。20年から現職。

実力派の武藤氏が経産相に 原子力産業後押しに期待


10月1日に石破茂政権が発足し、経済産業相に武藤容治氏が就任した。翌日の引き継ぎ式では冗談を交えながら笑顔を絶やさず、「気さくな性格で人望が厚い」という評判に間違いはなさそうだ。

武藤氏は麻生派の68歳で当選5回。富士フイルムや家業の建材商社を経て05年に政界入り。外相や通商産業相などを歴任した武藤嘉文氏の次男で、祖父の嘉門氏も岐阜県知事を務めた政治家一家の出身だ。

これまでの知見を生かした経済産業政策に期待がかかる

経済産業政策への知見は疑いようがない。これまでに経産副大臣や自民党経産部会長、総合エネルギー戦略調査会事務局長などを経験し、第6次エネルギー基本計画の策定にも携わった。当選1年目の06年当時から、インタビューで「仕事の中心はエネルギー、経済産業」と語っていたほどだ。ある自民党議員は武藤氏について、「原子力を含めたエネルギー政策への理解が非常に高い。岸田政権の路線をしっかりと継承してくれるはず」と太鼓判を押す。

今回の総裁選では麻生派ということもあり、環境相に就いた浅尾慶一郎氏らと共に河野太郎候補の推薦人となったが、エネルギー政策に対する考え方では河野氏とは一線を画す。

それを象徴するように、原子力の活用には前向きだ。10月2日の報道各社のインタビューでは、議論が進む第7次エネ基について「再生可能エネルギーもやるが、安全性を前提とした原子力の最大限利用は当然のこと」と強調した。原子力に関する発言が右往左往した石破首相だが、経産相人事ではエネルギー業界も一安心か。

建設産業界で投資が加速 洋上風力を新たな事業の柱に


【業界紙の目】松下敏生/日刊建設通信新聞社 編集部長

建設産業界では、洋上風力を新たな事業の柱に育てる動きが盛んだ。

国による公募事業の建設が本格化する2027年以降をにらみ、施工や投資が具体化している。

世界最大級の自航式SEP船(自己昇降式作業台船)「BLUE WIND」を保有する清水建設は昨年、富山県の入善洋上風力発電所に続いて、商用で国内最大規模である石狩湾新港洋上風力発電所(北海道)で洋上工事などを手掛けた。今年からは台湾沖で建設が進む「雲林沖洋上風力発電所プロジェクト」に同船を賃貸している。同船は同社の想定以上に稼働し、顧客から施工能力の高さが評価されたという。

建設ではゼネコンやマリコンの力が欠かせない

五洋建設と鹿島建設、寄神建設が共同で建造してきた1600tづりクレーンを搭載したSEP型多目的起重機船「CP―16001」は昨年9月に完成。同年11月から五洋建設が施工する、北九州響灘洋上ウインドファーム(福岡県)の建設工事に投入されている。

五洋建設は2027年に就航予定の3船目のSEP船「Sea Challenger」に加え、ケーブル敷設船、大型基礎工事船を建造する。洋上での風車建設に必要となるSOV(サービス・オペレーション・べッセル)や風車部材運搬船も計画し、投資規模は1000億円に上るとされ、海洋土木トップ企業として力が入る。

また鹿島は、施工に携わった商業ベースで国内初の大型プロジェクトである秋田港・能代港洋上風力発電(秋田県)の工事で得た経験を生かしながら、大規模案件での実績を積み重ねていく。

さらに、大林組と東亜建設工業のSEP船「柏鶴」は昨年4月に完成。受注に向け営業活動を展開する。

こうした大手中心の流れに続き、準大手ゼネコン各社も投資を急ぐ。戸田建設、熊谷組、西松建設、若築建設、岩田地崎建設、吉田組の6社は同10月に1300tづりクレーンを搭載したSEP船の調達を発表。洋上風力自体の需要が高まる中、将来に向けたファーストステップの位置付けとなる。SEP船を保有しなければ、リングに上がることができず、洋上風力事業参画への必要条件といえる。

東洋建設は同12月、ケーブル敷設船の建造に着手し、既に引き合いがあるという。同社は商船三井と洋上風力分野の合弁会社「MOL―TOYO洋上風力サービス」も設立。同社の運行ノウハウと海上工事技術をベースに、洋上風力全般を網羅しビジネスチャンスをうかがう。

働きがい向上に向けて 対話で見えた現場の悩み


【電力事業の現場力】東北電力労働組合

事業所の統廃合など効率化に注力する中、社員はどんな苦労を抱えるのか。

働く人の声に耳を傾け経営側に届けるのが労働組合の重要な役割の一つだ。

揺るぎない安定供給と競争力の強化─。電力を取り巻く事業環境の複雑性が高まる中で、東北電力グループでは人的資本の強化が急務となっている。

東北電力グループは4月、2030年までの中長期ビジョンの後半期を前に、今後の経営展開として「よりそうnext+PLUS」を策定。持続的な事業展開を支える経営基盤を強化するため、「CN戦略」「DX戦略」と並んで「人財戦略」に注力する姿勢を打ち出した。採用、育成、配置、評価、処遇といった人財マネジメントサイクルの実効性を高め、特に採用と育成を強化するという。

いま現場では、エンゲージメント(働きがい)の向上が課題となっている。東北電力労組は毎年、「フレンディ・コロキウム」と題した対話活動で、現場の声を聞いて回る。今年はテーマの一つに「エンゲージメント向上に向けた取り組み(働きがい、働きやすさ、能力伸長)」を掲げ、143カ所の事業所を回り1457人の意見を吸い上げた。

相双支部・原町火力発電所での対話活動

再稼働を控えた女川原子力支部での対話活動

人材育成については、現場の悲痛な悩みが浮かび上がってきた。「職場人員が減少することで、人材育成の時間が確保できない」「どの部門も時間外労働が高止まりする中、中間管理職がプレイングマネージャー化している。部下への教育などに影響がある」「効率化を追求してきた結果、仕事の理念や本質を継承しづらくなった」―。また採用・離職の問題も影響し、事業所の年齢構成のバランスも課題だという。斎藤和喜書記長は「近年の職場は、組織整備などの環境変化への適応で手一杯であり、人材育成がままならなかった感がある」と分析する。


働き方改革の難しさ 仕事の魅力発信を

働きやすさの点では、働き方改革の難しさが赤裸々に語られた。「職場人員が限られる中で、土日の配電線事故対応では若年層の独身者の対応頻度が高い。採用数を増やすなど改善を求めたい」「各種制度は整備され働きやすくなったが、人員不足などの理由から、一部制度の利用をためらってしまう」「男性の育休はどんどん取得してもらいたい。時間外を前提としない働き方を実現し、職場の余力を生み出していかなければ」―。

配電の活線作業

水力発電所での夏期安全運動労使パトロール

若年層はプライベート時間の充実や転勤のない働き方を重視する傾向があるが、事業特性を考えると全て応えることもできない。社員エンゲージメントの向上には、きつい仕事や環境に対する手当、働く環境の充実なども有効な手立てだ。

電力会社に対する世間の目は依然厳しい。それでも東北電力グループで働く社員が、人々の生活に欠かせないエッセンシャルワーカーであることは変わらない。対話活動ではグループの魅力向上に向けた施策の拡充を求める意見も見られた。「災害復旧への対応など誇れる点はたくさんある。アピールできる部分はもっと積極的に発信すべき。それが働きがい、自信の創出につながる」

斎藤氏は「電力事業は競争力と高い公益性を求められている特殊な事業。だからこそ、自分たちの手で自分たちにふさわしい人財戦略を見つけていく必要がある」と熱を込める。対話活動では、春闘の好結果に対しての感謝の声も聞かれた。これからも東北電力労組は「いつの時代も企業は人なり」を肝に銘じて、職場との対話を重ねていく。

異例の猛暑長期化で浮き彫り 安定供給新体制の機能不全


記録的な暑さとなった今夏は、一般送配電事業者をはじめ多くの電力関係者が需給対応に追われた。

また、新たな需給バランスの仕組みの機能不全も浮き彫りに。冬に向けどう対策を講じるのか。

7、8月の夏本番はもちろん、9、10月に入っても暑さが引かず冷房需要が増大した今夏。電力需給を振り返ってみると、全国で度々、ひっ迫に伴う広域融通が実施されたのに加え、容量市場に基づく供給力提供(準備)通知の発出、発動指令電源の発動、増出力運転、9月に入ってからは冬の需要期に備えて作業停止に入る発電所の補修調整など、あらゆる追加供給力対策を講じることで、需要家に対し節電を要請することなく乗り切ることができた(表参照)。

追加供給対策の発動実績(4月1日~9月20日)
出典:電力広域的運営推進機関

電力業界関係者が、特に厳しい需給調整に迫られたのが、月平均気温が観測史上最高を記録した9月だ。東京電力パワーグリッド管内では、都心で35℃超の猛暑日に見舞われた18日に最大電力5390万kWを記録したのをはじめ、計4日にわたり同社が事前に見込んだH1需要(10年に1度の厳気象を想定した最大需要)である5237万kWを超えていたという。

17、18日は、地域間連系線など流通設備や発電機の作業調整を含め、計270万kWの供給力を創出し安定供給を確保。系統運用部需給運用計画グループの貝間純一マネージャーは、「電力広域的運営推進機関が翌週の広域予備率を公表するのは、前週の木曜日。それを待っていたのでは、3連休明け17、18日の供給力確保に間に合わない。そこで事前に広域機関と相談し、早めに補修調整に動くことで事業者の協力を得ることができた」と、緊張感漂う中での需給対策を振り返る。


事業者は困惑しきり 広域予備率の不確かさ

一方、7、8月は猛暑で確かに需要は増大したものの、業界関係者は「需給ひっ迫融通と呼ぶため深刻な印象を与えがちだが、エリア間融通で乗り切れたこの時期は実際には供給力が足りていた。それほど厳しかったわけではない」と口をそろえる。

それにもかかわらず、発動指令電源の発動は頻発。6~9月の間だけで、北海道と東北を除く7エリアで8~10回と、年間の上限である12回に迫る発動があった。これについて広域機関運用部の松本理担当部長は、「今年度から、発電、小売事業者の双方が広域予備率に基づいて自主的に行動することを踏まえた需給運用の仕組みに変更された。これに伴い揚水発電の供給力への計上方法が変わったほか、発動指令電源の発動順位が揚水発電機の運用切り替えや余力活用電源の追加起動といった、その他の追加供給力対策よりも上位となったことから多く発動されることになった」と解説する。

広域予備率が8%を下回ることが見込まれた場合、広域機関は機械的に供給力提供(準備)通知を発出し、市場応札量を増やすことで予備率の改善を図る。一方、インバランス料金が高騰することで小売事業者は自ら不足の解消に動く―。要はバランシンググループ(BG)が電力取引により計画値同時同量を達成し、一般送配電事業者が調整力を確実に調達することで需給バランスが維持されることを前提とした仕組みなのだが、猛暑が災いしてうまく機能しないことが鮮明化したというわけだ。

この状況に新電力関係者は、「広域予備率が8%を切っても、小売りが需給ギャップを埋めるための経済的な調達手段は限られている。しかも、直前まで本当に不足が生じるのかさえ分からない。インバランス料金は散発的に高騰し、供給力・調整力を確保できないツケを小売りに回している感は否めない」と不満を隠しきれない様子。一方の発電事業者側も、「発動指令に必死に対応して市場に投入しても、結局使われないということが度々起きていた。余力があるのになぜ通知が発出されるのか」と、不信感を募らせる。


発動基準を8%から5%へ 状況打開へ苦肉の策

このままでは、冬季の需給ひっ迫に対応しきれない。そこで9月13日には、東京で発動指令の発出基準を8%から5%に引き下げ。その後、全エリアで同様の措置を講じることになった。さらに10月23日の広域機関の「調整力及び需給バランス評価等に関する委員会」において、①揚水発電の運用切り替えと余力活用電源を追加起動する基準となる広域予備率を8%未満とすることで、発動指令電源よりも優先的に活用する、②需給調整市場で調整力が調達未達であっても必要量分の供給力を織り込むことで、見た目の広域予備率の低下を回避する―という対策案が示された。

ただ、これらはあくまでも暫定措置。松本担当部長は、「国と連携しながら今後、短期的にできる対策に加え、システム更新を含む長期的な対策などについてもしっかりと検討していきたい」と、抜本的な状況改善に尽力する意向だ。

同日、広域機関が公表した今年度冬季(12月~来年3月)の電力需給見通しは、最も厳しい1月でも各エリア11%以上で、安定供給の目安となる予備率3%以上を確保できる見込み。

とはいえ、これまでも、深刻な需給ひっ迫は真夏・真冬だけでなく端境期にも起きている。電力業界関係者は、「端境期のひっ迫を度々経験してきたにもかかわらず、対策が追い付いていない。端境期も含めるなど、需給検証の期間を見直す必要がある」と強調する。

そうなると、突き付けられるのはそもそも供給力が足りていないという現実だ。端境期の需要を精査するとともに、年間の補修停止可能日数を増やすなど、容量市場でしっかりと必要な供給力を確保する必要がある。今後、原子力の再稼働が進み、ますます稼働率の低下が免れない火力電源の維持も懸念材料だ。調整力を確保し安定供給に万全を期すために、火力の最低負荷運転を支えるような新たなスキームの検討が求められる。

女川2号機が11月に発電開始 東日本・BWR初の再稼働へ


2011年3月の東日本大震災以降、長期稼働停止を続けていたBWR(沸騰水型原子炉)の原子力発電所が、いよいよ再稼働の時を迎えている。

東北電力は女川2号機(出力82・5万kW)について560体の燃料装荷を完了。10月29日に起動を行い、11月上旬にも発電を再開する。当初は2月に発電開始の計画だったが、安全対策工事の遅れなどから3度にわたって再稼働時期を延期。12月ごろの営業運転開始を無事実現できれば、50 Hz地域での原発ゼロ状態がようやく解消されることになる。

2号機の燃料装荷が終わり再稼働に入った東北電力女川

同じBWRの中国電力島根2号機(82万kW)も、4月と9月に構内で火災が発生したものの、中国電が10月17日に原因と再発防止策を発表。28日に燃料装荷が始まり、12月上旬に再稼働、来年1月上旬に営業運転を再開する見通しだ。

BWR陣営の次なる課題は、東京電力柏崎刈羽7号機(135・6万kW)の再稼働だ。本号88頁で本誌取材班が現地の最新事情を報じている通り、安全対策工事が完了。後は、新潟県側の再稼働同意を待つばかりだ。ただ花角英世知事は慎重姿勢を崩しておらず、県議会でも依然反対論が根強い。東日本地域の電力供給の安定化を図る上で7号機の再稼働は重要な位置付けを担うため、県には政治やイデオロギーに流されない、冷静かつ的確な対応が求められる。


「審査長期化を解消」 国民民主が公約で提起

全国の原発の現況を見てみると、柏崎刈羽6号機、日本原子力発電東海第二が、原子力規制委員会の新規制基準に合格。このほか北海道電力泊1~3号機、Jパワー大間(建設中)、東北電力東通1号機、中部電力浜岡3、4号機、北陸電力志賀2号機、島根3号機について、新規制基準の審査が行われている。

その審査があまりにも長期化し、化石燃料費の増大による国富の流出や電気料金の上昇など国益を損ねる事態に陥っていることから、規制委の審査体制の在り方を疑問視する向きが、エネルギー業界はもとより、政府部内でも広まりつつある。

こうした情勢下、国民民主党が今回の衆院選公約の中で、原子力がカーボンニュートラルとエネルギー安全保障の両面で大きく貢献するとして、〈原子力をわが国の電力供給基盤における重要な選択肢と位置付け〉ることに言及した上で、〈原子力に関する規制機関の審査体制の充実・強化や審査プロセスの合理化・効率化等を図り、適合性審査の長期化を解消〉すると提起したことは特筆される。

「原子力推進にかじを切った自民でさえ、規制委の問題には当たらず触らずの中で、国民民主の姿勢は大いに評価できる。お家事情から原子力への旗色を鮮明にしない公明党が頼りないので、国民民主も与党に入ってほしい」(大手電力関係者)

原子力主力化へ再稼働の動きが加速するのか、要注目だ。

【電源開発 菅野社長】事業者間で競争し合いトップランナーとして脱炭素の実装に貢献へ


中期経営計画で火力トランジションの方向性を示した。

多様な技術実装を図る中、トップランナーを自負する
IGCC+CCS分野でコスト抑制に向けた競争に挑む。

洋上風力開発など再エネ投資も加速させつつ、
大間原発は地元の期待を背に2030年度運転開始への対応を進める。

【インタビュー:菅野 等/電源開発社長】

かんの・ひとし 1984年筑波大学比較文化学類卒。同年電源開発入社。執行役員経営企画部長、取締役常務執行役員、代表取締役副社長執行役員などを経て、2023年6月から現職。

志賀 10月1日、石破政権が誕生しました。電源開発にとってどのような影響がありますか。

菅野 総裁選に立候補した9人のどなたがなられてもエネルギー政策の流れは大きく変わらないと思っていました。その上で、再生可能エネルギーと原子力のバランスの問題、あるいは核燃料サイクルへの力の入れ方など、新政権の重点の置き方を注視していく必要があります。

志賀 前岸田政権は、エネルギー政策では安定供給重視の姿勢を鮮明にしました。

菅野 おっしゃる通りで、特に原子力についてはかなり進展したと思います。カーボンニュートラル(CN)のために必要な電源と位置付け、40年超の運転期間の問題についても具体策を示し、さらに福島の処理水の海洋放出も実施しました。これからCNに向けた社会実装の時期に入りますので、引き続きリアリティーのあるエネルギー政策が必要だと思います。


火力の方向性鮮明化 IGCC+CCSが有望

志賀 社長に就任されて1年強。この間、最もエポックメーキングな発表が、中期経営計画の中で国内火力のトランジションの方向性を示したことでしょう。

菅野 1年かけて議論してきました。これから地元の方々へ説明し、ご理解を求めていきます。

志賀 Jパワーの個性が表れていますね。例えば磯子火力は水素、橘湾はアンモニア利用へ。松島2号機と石川石炭はIGCC(石炭ガス化複合発電)とCCS(CO2回収・貯留)の組み合わせ、といった方針ですが、それぞれの意図は?

菅野 高砂火力、そして松島の1号機は廃止します。全体の設備容量は縮小していくことを前提に、サイトの特徴を生かしてトランジションを図る考えです。例えば、アンモニアを利用する場合は大量のアンモニアを使用することになります。アンモニアは劇物です。管理を徹底する上で居住地との離隔距離が課題となるため、橘湾など面積に余裕のある地点でアンモニア利用を進めます。

一方、磯子は横浜市内のコンビナートで、非常に手狭な土地。ここでのアンモニア利用は難しい一方、磯子周辺の自治体が水素供給インフラの整備に意欲を示していることから、水素の活用を目指します。

2号機に石炭ガス化設備を付加する予定の松島火力発電所

志賀 アンモニアの調達面はどう想定していますか。

菅野 アンモニアはサプライチェーンの構築が最大の課題で、必要な量を安定的に確保できるのか、コストはどの程度か、といった点が重要になります。橘湾は四国電力との共同立地であることからコストを抑えるため共同調達という方法も考えられます。他社でのアンモニア基地化の動きも注目しています。こうした動向を踏まえつつ、さまざまな協働の形を検討しています。

志賀 ところで、水素と石炭火力の相性は良いのですか。

菅野 輸入した石炭をガス化すると、水素と一酸化炭素(CO)を多く含む混合ガスになります。これを水とシフト反応させ、CO2を分離回収することで水素を取り出すことができます。当社では、石炭火力をIGCC化し、さらにCO2を分離回収し日本近海に貯留(CCS)することで、CO2フリー発電を目指します。 現状では海外で石炭から水素を生産し水素自体を大量輸入するよりも、化石燃料のまま輸送して日本で水素を生産する方式のフィージビリティーが高いと思っています。また、CO2分離回収という面においても、IGCC+CCSはCO2濃度を高めて回収することになるので、空気中からCO2を直接回収するDAC(直接空気回収技術)よりも効率的と言えます。

【コラム/10月30日】物価上昇見合い賃上げの胡散臭さ~逆転の発想の限界


飯倉 穣/エコノミスト

1、迷走が続く

石破首相の所信表明演説があった。デフレ脱却し、経済あっての財政という経済運営で賃上げと投資が牽引する成長型経済を目指すと述べた。報道もあった。「所信表明演説 首相「生産性上げ賃金増 成長型経済 投資に力点」(日経24年10月5日)、「経済対策でデフレ脱却、物価上昇を上回る賃金増加、起業支援などを掲げたが、岸田政権の路線承継で、独自性は乏しい」(朝日記事同)。そして選挙となった。

党首討論等で、この30年間の経済停滞を嘆き・不満・攻撃・打開の言葉が飛び交う。従前は、金融政策、財政の発動、近時は、物価上昇見合いの賃上げ、中小企業の賃上げ支援、消費税引き下げ・廃止等々の主張が聞こえる。与党以上に野党の主張を聞いても、働く人の疑心暗鬼が消えない。財源沈黙且つ意味不明なバラマキ継続ばかりである。

政治万能の巧言令色と日銀の国債買取頼りの経済運営が、国民経済をたよたよとした。各党の主張は、マクロ的に論拠薄弱で、次の経済の姿が浮かばない。報道も選挙で経済問題を取り上げるが、財政破綻・論理不知等の本質問題回避である。今後の経済・企業行動を、石破総理の所信表明演説における経済政策から考える。


2、石破政権発足と経済政策

(冷ややか且つ投げやりの起草)

所信表明演説の内容は、納得と共感の政治を強調する。政治家として「すべての人に安全と安心を」を掲げ、ルールを守る、日本を守る、国民を守る、地方を守る、若者・女性の機会を守ると続く。この5本柱で日本の未来を創り、そして未来を守るという。経済では、「デフレ脱却」を確実にする。「経済あっての財政」で経済財政運営を行い、賃上げと投資が牽引する成長型経済を実現する。イノベーション促進で高付加価値創出や生産性の向上で、GDPの5割を占める個人消費を回復させ、消費と投資を最大化する成長経済を実現する。それでコストカット型経済から高付加価値創出型経済へ移行する。また「物価に負けない賃上げ」を述べる。物価上昇を上回る賃金上昇を定着させる。賃上げと人手不足緩和の好循環に向けて、一人一人の生産性を上げ、付加価値を上げ、所得を上げ、物価上昇を上回る賃金の増加を実現すると。賃上げと投資が牽引する成長型経済の実現を強調する。個別政策で、脱炭素・最適エネルギーミックス、GX取り組みの加速、科学技術等フロンテイアの開拓推進、スタートアップ支援策強化、貯蓄から投資で資産運用立国(投資大国)、地方こそ成長の主役で地方創生の交付金を当初予算ベースで倍増する等々である。(石破首相の所信表明演説10月5日参照)

(経済政策をまとめれば)

要すれば、経済活力で①物価を上回る賃上げでデフレ脱却、②個人消費回復・投資の最大化で経済成長、③貯蓄から投資で資産運用立国・投資大国実現、④省エネ・再エネ・原子力発電活用でエネ確保、⑤イノベーションとスタートアップ支援で高付加価値創出、⑥地方創生交付金で地域経済活性化等を取り上げる。相変わらず財政・金融活用が大事な実現手段のようである(補正予算13兆円示唆:日経10月16日)。これらの事項は、過去アベノミクスや新しい資本主義で幾度も重点施策として取り上げられながら、いずれも実効性に乏しかった。勿論財政・金融政策一体の財政拡大は、些か経済を膨らますと同時に、国債残高を著増させ、今日の金融政策の足枷となる。見果てぬ夢を語る国風なのであろうか。


3、アベノミクスとは何であったか

アベノミクス(評価対象13~19年)は明瞭だった。3本の矢(大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略)である。そして思い違いであった。2012年以降は、景気の戻りの時期だった。その間の政策は、幾つか改善に力を貸したかも知れないが、流れで見れば、日本経済(経済均衡)改善とは評しにくい。やってもやらなくてもさほど変わりないか、問題をドロドロ化させた。財政の膨張で、国の借金を増加させた。金融緩和がそれを手助けする。企業経営は、自立自営の活力を低下させ、次の方向の葛藤に明け暮れる。


4、新型コロナ感染ショック

そこに新型コロナ感染ショックである。感染症の防止は最優先事項で、一応の規模で移動禁止の措置となった。GDPに対する影響は、1%程度と推測された。サービス業中心に、業務停止で、支援が適切な状況となる。影響を受ける人は、50~70万人程度で一定期間の給付が必要だった。必要額は、貸付を除けば20兆円程度(当方試算)である。政府は、100兆円を超す巨額な補正予算を組み、吟味無きバラマキに走る。綿製マスクが揶揄された。同時に緊急時に必要な施設等の不足が目立った。 


5、岸田政権が登場し、新しい資本主義の言葉が舞った。

中身は、未定だった。到達点の「経済財政運営と改革の基本方針2024」(24年6月)は、賃上げと投資が牽引する成長型経済の実現を副題にしている。今を、デフレから完全脱却し成長型経済実現の千載一遇のチャンスと見た。賃上げを起点とした所得と生産性の向上が移行の鍵で、日本を成長型の新たなステージに移行可能と考える。故に本年、物価上昇を上回る所得の増加を確実に実現し、来年以降物価上昇を上回る賃上げ定着と決意を述べた。ジョブ型人事指針、スタートアップ育成5か年計画、資産所得倍増プラン・資産運用立国実現プラン、労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針などを呈示する。お上対応である。賃上げはしたが、「健全な経済均衡」回帰に必要な問題の解消にほど遠い。

両候補が持つ不確実性 企業は情報分析能力の強化を


【今そこにある危機】峯村健司/キヤノングローバル戦略研究所主任研究員

米大統領選はドナルド・トランプ前大統領vsカマラ・ハリス副大統領という構図となった。ハリス氏にこれといった思想や信念は感じられない。なぜ彼女が副大統領にまで上り詰めたかといえば、バイデン政権のDEI(多様性・公平性・包括性)政策の影響が大きい。むしろ能力よりもDEIを優先していた感さえある。


ハリスを阻む「正統性」問題 トランプに対する誤解

バイデン・ハリスはワンチームだと思われがちだが、ハリス氏の政策はバイデンよりもリベラルだ。加えて、政策が極端な方向に傾きかねないリスクを抱えている。

日本ではあまり見聞きしないが、強調したいのはハリス氏の大統領候補としての「正統性」を巡る問題だ。バイデン氏が7月21日に撤退を表明してから、民主党では候補者を決める予備選が実施されなかった。バイデン氏は現職大統領といえども、予備選という民主的な手続きを経て民主党の候補者となった。だがハリス氏の擁立は、バラク・オバマ元大統領やナンシー・ペロシ元下院議長 、ヒラリー・クリントン元国務長官ら、党内の重鎮の影響で非民主的に決定した。今後の論戦で共和党側がこのプロセスを追及する可能性がある。

日米関係への影響は……

候補者としての正統性の欠如は、「ハリス政権」の弱点になりかねない。自らを大統領候補に押し上げた党内左派に頭が上がらず、より政策が左傾化する可能性がある。一方で、彼女の唯一の強みはバイデン政権の副大統領だったという点だ。だからバイデン路線の大きな変更も許されない。ハリス氏が抱えるジレンマは、国内の経済政策や外交・安全保障政策にとって悪影響となりかねない。

外交・安全保障は「結果責任」だ。この点、バイデン政権の中東外交は大失敗だった。トランプ政権が築いたサウジアラビアとの良好な関係を破壊し、中国が付け入る隙を与えてしまった。だからといって、イラン封じ込めもできていない。大きな戦略が見えない外交を展開していた。

外交は常に最悪の事態を想定する必要があるが、最悪の事態を避けるために妥協を重ねてはならない。例えば、対ロシア外交上の最悪の事態は核戦争への突入だが、それを避けるためにウクライナの領土を割譲することは許されない。しかし、民主党のオバマ政権ではクリミア半島の併合を許し、バイデン政権ではウクライナ侵略を防げなかった。

いま民主党内では、オバマ政権で大統領補佐官を務めたスーザン・ライス氏の影響力が増しているという。彼女の補佐官 時代、私は朝日新聞の米国総局員として取材を重ねたが、彼女は典型的な親中派で、日本や台湾にあまり関心がない。米国の抑止力を弱めた張本人と言っていい。彼女が政権中枢に入り込めば東アジアの安全保障上、プラスに働かないだろう。

結果責任でいえば、トランプ政権一期目の外交は大成功だった。世界で国家間同士の大きな戦争は起きなかった。

ウクライナ対応を巡っては「トランプはロシアに甘い」という言説を耳にするが、それは正しくない。トランプ氏の外交・安全保障政策の根底にあるのは「力による平和」だ。トランプ氏が嫌っているのは、だらだらとウクライナ戦争が続くことで、突如支援を打ち切りロシア有利で停戦を行う可能性は低い。むしろより早く戦争を終結させるために多くの武器を短期集中的に供与し、ウクライナが優位性を得たタイミグで停戦する狙いだろう。今夏以降、ウクライナがロシア領土に越境攻撃を実施しているが、トランプ氏はこの動きに反対してない。

とはいえ、トランプ外交が一期目のようにうまくいくかは不透明だ。というのも、一期目はトランプ氏にまだ政治経験がなく、ハーバート・マクマスター大統領補佐官(国家安全保障担当)やマット・ポッティンジャー大統領副補佐官(同)という共和党主流派のプロフェッショナルが、外交のグランドデザインを描いていた。一期目以降はトランプ氏に政治経験や人脈が築かれ、二期目では彼らの影響力が低下する可能性がある。よりトランプ色が出て「日米同盟軽視」となった場合、蜜月関係を築いた安倍晋三元首相のようなリーダーは日本にいない。


両極端なエネルギー政策 議会選挙も要注目

大統領選と同日に行われる連邦議会選にも要注目だ。仮にハリス政権が誕生したとしても、議会で共和党が過半数を得ると政権運営で行き詰まる可能性が高い。一方、トランプ政権は財政負担となっている電気自動車(EV)購入の税額控除の撤回などインフレ抑制法(IRA)の部分修正を狙っているが、実現には議会での法改正が必要だ。議会を民主党が握れば、それは不可能となる。

バイデン政権下では日本の自動車メーカーなどを中心に、米国のEV工場や車載電池工場への投資が加速した。ハリス氏のエネルギー政策はバイデン路線を一段と加速させたもので、ほかにも石油・ガス企業への補助金の撤廃、緑の気候基金(GCF)に対する30億ドルの拠出、連邦政府の車両のEV化などを打ち出している。

もしトランプ政権になれば、発電所と自動車の排ガス規制が撤廃となるだろう。蓄電池導入に対する補助金もばっさりカットする可能性が高い。もちろん、パリ協定から離脱し、GCFへの資金拠出も止まるはずだ。日本企業は戦略の見直しが求められる。

残念ながら、日本企業は総じて地政学など海外要因に対するリテラシーが低い。対米関係でいえば、しっかりとしたロビイング活動を行う企業が少なく、同盟国という安心感もあり政治的に鈍感だ。しかし、大統領選だけでなく連邦議会選挙にも目配りしながら、機動的な対応を求められる時代になった。米国の内政を含めた地政学リスクを認識するため、インテリジェンス能力を高める必要がある。

みねむら・けんじ 朝日新聞社で中国総局員、米国総局員、編集委員などを務める。LINEの個人情報管理問題で新聞協会賞、中国軍の空母建造計画スクープでボーン・上田国際記者記念賞を受賞。専門は米中関係。

三つの電源制御で技術力発揮 災害に強いまちづくりを後押


【技術革新の扉】分散型電源システム/関電工

千葉県いすみ市で先進的な「地域マイクログリッド」が動き出した。

再エネと蓄電池にLPガスを組み合わせて電力供給を支える仕組みだ。

太陽光発電、蓄電池、LPガス発電機という三つの電源を高度に制御―。関電工はそうした独自開発の電源システムを千葉県いすみ市に構築し、特定エリア内でエネルギーを自給自足する「地域マイクログリッド(小規模電力網)」の運用で存在感を発揮している。災害に備えて電力インフラのレジリエンス(回復力)強化を目指す地域のニーズに応える事例で、全国に広がる可能性を秘める。分散型エネルギー社会づくりを後押しする同社の最前線に迫った。

いすみ市に構築した地域マイクログリッド


市庁舎や中学校に設備設置 域内でエネルギー地産地消

太平洋に面した房総半島南部に位置する人口約3万5000人のいすみ市。同市が取り組む「いすみ市国土強靭化地域計画」の実現に向けて全国に先駆けて取り組んできたのが、「いすみ市地域マイクログリッド構築事業」だ。

この事実は2021年6月、経済産業省による補助事業「地域共生型再生可能エネルギー等普及促進事業費補助金(地域マイクログリッド構築支援事業のうち、地域マイクログリッド構築事業)」に採択された。これを受けて関電工は、同市と一般送配電事業者の東京電力パワーグリッド(PG)と組み、マイクログリッドの構築事業を始動。23年2月にマイクログリッド設備の運用を始めた。

送配電網は、電力を発電所から変電所に送るための「送電線」と、変電所から企業や家庭に送るための「配電線」から構成されている。

今回構築した地域マイクログリッドでは、大規模災害などの影響で長時間の停電が見込まれる場合、既設の配電線からマイクログリッド対象エリアを切り離し、そのエリア内の電力システムを独立運用させる。

地域マイクログリッドの構築範囲は、防災拠点を担ういすみ市庁舎と避難場所に指定された大原中学校を取り囲むエリアで、約30軒の電力需要家が存在する。平時には、発電された電力を自家消費に充てるため、購入電力量を削減できる。

設備面では、太陽光発電設備を市庁舎と中学校に設置。中学校には、同設備に加えて蓄電池とLPガス発電機も配置した。それぞれの出力規模は、太陽光パネルが合計279kWで、蓄電池が238kW時。LPガス発電機は2台導入し、合わせて100kWとなる。

地域マイクログリッドに電力を供給する電源は、太陽光をはじめとする再エネ発電設備を使用するのが一般的。再エネの発電電力は天候などに左右されるため、電力需給の調整役として蓄電池をセットにするケースも多い。ただ、蓄電池の放電が完了すると停電するリスクがあるため、長期間にわたり域内で電力の安定供給できる仕組みづくりが望まれていた。


多様な場面想定し実証試験 大規模停電の経験生かす

そこで関電工は、「全国で簡単に入手できる」「長期保存しても劣化がほとんどない」「持ち運びが容易」といった利点を兼ね備えるLPガスに注目。災害に強いLPガスを燃料とする発電機を採用し、太陽光発電設備と蓄電池に組み合わせた。

さらに関電工は、三つの電源を統合制御するという前例のない管理システムの有効性を確かめるため、産業技術総合研究所や電力中央研究所(電中研)で実証試験を積み重ねた。

電中研赤城試験センター(群馬県前橋市)では、停電発生時に外部電源に頼らず電源供給を再開する「ブラックスタート」や系統事故などを想定して新開発の電源システムを実際に動かし、実践的なデータを蓄積した。関電工グリーンイノベーション本部事業開発ユニット事業開発部部長の宮本裕介氏は「いろいろなケースを想定して、電力の域内供給を維持できるよう試験や工夫を重ねた」と振り返る。

電中研赤城試験センター内の電源システム

地域マイクログリッドへの期待感が高まる背景には、自然災害に伴う大規模停電が多発する背景がある。18年の北海道胆振東部地震では、道内全域が停電するブラックアウトに陥った。台風15号が上陸した19年には、千葉県を中心とした東電エリアで約93万軒の停電が発生し、全復旧までに多くの時間を要したことが、いまだ人々の記憶に残っている。

さらに関電工は、再エネを生かしながら電力を自給自足する機運が各地で高まる傾向にも目を向け、域内で自立的に運用可能なマイクログリッドを追求することにした。今後は、送配電会社でなくても新規参入を認める国の「配電事業ライセンス制度」も追い風にしながら、いすみ市のようなマイクログリッド構築の動きが広がりそうだ。

「停電の復旧が見通せない場合には、長期間にわたり電力を送る必要がある。そんな役割を担う地域マイクログリッドの技術をさらに磨いていきたい」と宮本氏。災害に強いまちづくりを支援する同社の挑戦から、今後とも目が離せない。