A それなりに規模の大きな新電力は、これまでも大手電力との交渉による相対契約によってある程度電源を確保できていた。それが、内外無差別の流れで2022年に大手側から今後は交渉できなくなるかもしれないと言われ始め、実際、23年には全く交渉できなくなり、卸調達を受けるために入札に参加せざるを得なくなった。相対交渉の時はオーダーメイドの調達ができたし、こちらも汗をかくことで好条件を引き出すことさえできた。今は、レパートリーが増えてきたとはいえ、入札条件は必ずしも当社にとって都合の良いものばかりではないのが痛い。入札一辺倒による内外無差別対応について、望ましくないと思っている新電力は多いと思うよ。
B 全小売事業者が入札という同じ土俵の上で調達するということは、個別に相対交渉をしてきた新電力の過去の営業努力が全く無駄になってしまうということだ。小規模な事業者にとっても、大手電力によって入札条件がさまざまで不透明な上に獲得できる量もたかが知れているし、結局入札には参加できなかったという話も聞く。現状への評価は総じてネガティブだと言わざるを得ない。
C これまで大手の電源にアクセスする手段がなかった事業者にその機会が与えられたことを評価する声もあり、一定の進捗はあったのだろう。だけど使い勝手が良いかというとそうでもなく、特に小規模事業者は与信の問題があって必ずしも活用しきれていない。内外無差別を仕掛けた当の新電力も、相対・個別交渉を一気に切られてその強みを生かせなくなってしまったというし、内外無差別を強く主張することで、その手段が入札に絞られてしまったことは予期せぬことだった。
―そもそも、何をもって内外無差別な卸取引が行われていると評価するのか。
C 監視委の内外無差別の評価結果で、23年度の通年の相対契約について内外無差別な卸売りが担保されていると評価されたのは北海道と沖縄の2電力のみだった。あの評価表に合わせて大手各社が入札要件を書いているのが今の傾向だ。
A 監視委だって、入札一辺倒にしたいと考えているわけではない。大手電力が規制当局の指導を恐れるがあまりに、入札さえ実施すれば問題ないだろうと安全サイドに寄ってしまった結果、今の状況を招いた。監視委から言うのははばかられるかもしれないから、資源エネルギー庁から大手電力に対し、必ずしも入札でなくともよいということを言ってもらえないものだろうか。
B 経産省は消費者庁に対して強いアレルギーを持っていて、これ以上電力制度に突っ込まれたくない。大手電力がさまざまな監視を受ける中で、最も安全な方法を採ってしまうのもそのためだ。現行の法的分離体制の下できちんと内外無差別が機能していることが証明されれば、もう少し緩くなるのだろうが、正直やすきに流れてしまったなと思う。
現状の内外無差別は「公平性」という点で疑問符が付く
公平性のはき違え!? 一律対応に募る不満
―規制当局の企図する通り、競争は進むのだろうか。
B 内外無差別で自由化が進むというけど、問題は大手電力の域外営業がほとんど行われていないことだ。一部が東京エリアで活動しているだけで、地方に行くほど大手同士の競争がない。結局域外では競争力も営業力もないのであれば、内外無差別が進んだところで競争の進展は期待できない。
C 監視委の専門会合で、大手電力の域外進出の割合は3・5%程度と示されていた。その時は電源調達に問題があるのではなく、域外では知名度がないことなどからだとの説明だった。もともと自由化がスタートした時は、大手同士の域外での「仁義なき戦い」が想定されていたにもかかわらず、無風だ。
―本来求められている内外無差別の在り方とはどのようなものだろう。
B 相対交渉を含め、多種多様なレパートリーがあってこそ公平な競争環境なのだということをもう少し理解してもらいたい。新電力と大手電力との信頼関係に基づく個別交渉に加え、原子力などアクセスしづらい大型電源の一部を入札にするなど、選択肢は多様であるべきだ。今の状況では、多くの人員を割いてきちんとリスクに対応している事業者と、コストも人もかけない、いわゆるフリーライドと呼ばれる事業者を一緒くたにしているだけで、とても公平とは言えない。
A 自由化は自由な交渉が保証されなければならないはずで、交渉力のない新電力が買えるようになったことは弱者救済でしかない。一方で、北海道電力が24年度から常時バックアップを廃止することを決め、入札による内外無差別が進むことで他電力もこれに続く可能性がある。これがそうした新電力にとって良いことなのか、甚だ疑問だ。
C そもそも、調達のレパートリーを拡大するという意味では、そうした新電力の販売部門にトレーディングなどフロント業務ができる人がいないことに問題がある。そのために、相対交渉ができなかったし、入札システムに移行してもその状況を生かせない。人材育成が後手に回ってしまったような新電力は、厳しいことに変わりないよ。
A そういう人材を育成することも競争のうちで、外部から採用するのか、もしくは委託するのかそういった努力をしていかないと。