地球温暖化防止の現実的な解決策 バイオエタノールが「ゲームチェンジ」に


【バイオエタノールの活用】

気候変動問題の現実的な解決策の一つとして、バイオエタノールに注目が集まっている。

米国では既に自動車用などに広く流通しており、事情に詳しい関係者は「導入を急ぐべきだ」と主張する。

小島 国連のグテーレス事務総長は異常猛暑など最近の気候変動について、「地球が沸騰している」と発言しました。温暖化防止は喫緊の課題です。その対策の一つとして、海外の多くの国が自動車用などの燃料としてバイオエタノールの使用を進めています。

トウモロコシやサトウキビなどの植物が固定した大気中のCO2を利用するため、カーボンニュートラル(CN)燃料となる。米国では、バイオエタノールを10%混ぜた「E10」ガソリンが広く流通しています。ところが日本ではあまり注目されていない。現状をどう見ていますか。

小島正美/ジャーナリスト

横山 いま日本では、平均するとガソリンの中にバイオエタノールは1・7%しか混合されていません。しかも石油系ガスのイソブテンと合成され、ETBE(エチル・ターシャリー・ブチル・エーテル)として混合されています。唯一、名古屋市の中川物産が「E3」「E7」の販売を行っていますが、孤軍奮闘という格好です。

小島 バイオ燃料は温暖化防止にどれくらい役立ちますか。

横山 政府は2030年度の運輸部門のCO2排出量を、13年度比で35%削減する目標を立てています。自動車分野での主な対策は電気自動車(EV)や燃料電池車(FCV)など、次世代自動車の普及拡大と燃費の改善ですが、われわれ専門家の調査によると、EVなどを最大限導入するケースでも目標は達成できません。

しかし、E10が使われるようになれば達成は可能です。いまバイオエタノールの導入量は、年間82万㎘(原油換算50万㎘)にとどまっています。これを220万㎘から250万㎘に増やせば目標は達成できます。

小島 すると、E10などが流通しなければ、政府目標は達成できないということですか。

森山 そう考えています。政府の次世代自動車の新車販売での割合の目標が達成されても、ガソリンを使う自動車が全体ではまだ相当残ります。すると、E10などのバイオ燃料を流通させてガソリン自体を低炭素化させないと、30年度の目標は実現できません。

横山伸也/東京大学名誉教授 アメリカ穀物協会顧問

小島 日本でも石油元売りにバイオ燃料を導入する動きが出ています。ENEOSはバイオ燃料などCN燃料を30年にハイオクに10%混合する目標を立てている。

横山 石油業界は合成燃料、「e―フュエル」を30年ごろから普及させようとしています。しかし、e―フュエルにはオクタン価が低いという課題があります。エタノールはオクタン価が高いので、混合させると低い分を補えることになります。ガソリンに直接混合するのと同時に、元売りはそういうことも考えていると思います。

森山 そうですね。高いオクタン価に注目しているかもしれません。レギュラーガソリンにエタノールを入れるとオクタン価が上がるので、オクタン価が低いガソリンをわざわざ調達しなければいけない。そのガソリンが日本では流通してなく、海外から調達しなければならない。それが、普及が進みにくい理由の一つになっています。

【電力】志賀原発もターゲットに 能登地震巡る陰謀論


【業界スクランブル/電力】

年明け早々、北陸地方で強い地震があり、震源に近い石川県能登地方を中心に強い揺れと津波で甚大な被害が発生している。新年から非常時体制で献身的に対応に当たっている関係者には心から敬意を表したい。他方で、SNS上で人工地震説などの陰謀論やデマを発信する者があり、驚くことにそれを信じこんで拡散してしまう者も少なからずいる。こうした不正確な情報の流布を首相も官房長官も記者会見の中で強い調子で批判していた。よほど目に余ったのだろう。

志賀原子力発電所もこうしたデマ流布のターゲットとなった。反原発のイデオロギーにとらわれたほとんど陰謀論にしか見えない投稿の中には、野党の政治家によるものが少なからずあり、パーティー券問題があろうとも、政権交代などあり得ないと思った。他方、これら投稿にはことごとくコミュニティノートが付いており、SNSの集合知の存在は救いであった。

地震直後に志賀原発に電凸し、そのやりとりをSNSに投稿した元経産官僚もいた。呆れるしかないが、当然に大炎上した。同人、東日本大震災のときはそれなりに発信力があった記憶があるが、元官僚の肩書で陰謀論をそれらしく語っているだけと認知されたのは良いことだ。

マスコミもさすがにデマは報じていないが、見出しに悪意を感じるものがちらほら。そのマスコミがポスト岸田を盛んに報じているが、岸田内閣は被災地が半島の先端で陸の孤島のようになっている困難な状況の中で、的確に対応していると見る。昨年来、国際関係が非常事態なことに加えて、国内も非常事態であるのに、今以上のパフォーマンスが期待されるポスト岸田の展望は見えない。政局ありき・批判ありきの無責任なあおりはこの際無視すべきだ。(V)

衝突続く中東情勢 市場リスクは変わらず


【ワールドワイド/資源】

昨年10月7日、パレスチナ自治区のガザ地区を支配するハマスがイスラエルに対して大規模な侵攻を実施して以来、イスラエルとハマスとの衝突が続いている。紛争は当事者間にとどまらず、レバノンのヒズボラ、イエメンのフーシ派などイランが支援する「抵抗の枢軸」が活動を活発化させ地理的に拡大。パレスチナ問題の重要性を再浮上させただけでなく、1973年の第四次中東戦争とそれに続く第一次石油危機から50年目の出来事であることから、エネルギー市場に大きな影響を及ぼすことが懸念された。

原油市場は10月中には紛争開始時や13日に生じたアル・アハリ病院の爆発事件など、紛争のエスカレーションを予感させる出来事に反応し90ドル前後まで上昇した。しかし11月に入ると、それまで市場が最大のリスクと認識していた米国・イラン間の直接的な対立の可能性が低いと理解されたことや世界経済の低迷から需給緩和感が市場で醸成され、価格は紛争前の下落基調へと収束した。

天然ガス、特に欧州ガス市場も10月には価格が上昇基調となったが、その背景は原油市場と少し異なる。戦争の勃発当初に、バルチックコネクターパイプラインの停止や豪州LNG施設でのストライキ懸念といった供給不安が重なることで、欧州ガス価格は5ドル程度上昇し、15ドル以上を記録した。しかし11月に入り、需給ひっ迫の懸念が落ち着くとガス価格も紛争前の水準まで下落した。

価格への影響は現時点で落ち着いたものの、イスラエル・ハマス戦争の状況は刻々と変化しており、依然として予断を許さない。1月2日にベイルートを訪れたハマス幹部が殺害されたことで、イスラエルとヒズボラとの間で緊張が高まっており、紛争がさらに拡大することが懸念される。さらにエネルギー市場に直接的な影響を及ぼすのは、イエメンのフーシ派による紅海海運に対する妨害活動である。同派は11月中旬から12月にかけて、イスラエルに関連する、または同国を往来する船舶を攻撃することを宣言し、実際の被害も複数生じている。これによって各海運企業らはスエズ運河を経由するルートからアフリカ大陸南端・喜望峰周りのルートへの迂回を余儀なくされ、エネルギー輸送の遅れによる混乱や運賃、コストが増加することによるインフレ懸念が生じている。イスラエルと非国家主体との対立は、紛争から3カ月以上が経過した現在でも、エネルギー市場に対する主要なリスクであり続けているのだ。

(豊田耕平/独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構調査部)

【コラム/2月16日】欧州の脱ロシアと中国依存リスク


矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

EUは、天然ガス、石油、石炭などのエネルギーの多くをロシアに依存してきたが、2022年2月24日のロシアによるウクライナ侵攻(ウクライナ危機)により、ロシア依存からの脱却を迫られた。欧州委員会は、同年3月8日に欧州の共同アクションREPowerEUを提案し(5月18日詳細発表)、化石燃料のロシアへの依存から2027年には完全に脱却する戦略を打ち出した。

具体的には、天然ガスについては、LNGとパイプラインによるロシア以外の供給者からの輸入を増やし、ロシアへの依存度を1年以内に3分の2に減らすことになった。そして、加盟国に最低レベルのガス貯蔵量の確保を義務付け、2022年11月初旬までに貯蔵率を80%以上に、次の冬以降90%以上(当時30%程度)に引き上げることになった。

また、エネルギー利用効率を高めるとともに、再生可能エネルギーの開発を加速し、エネルギーミックスに占める再生可能エネルギーの比率を、2021年の21.8%から2030年には45%(うち2.5%は努力目標)と倍増させることになった。

さらに、石炭については2022年8月より輸入を禁止することを発表している。また、石油については、2022年5月4日に、同年12月より輸入を禁止する方針を発表している(同年5月30日、ハンガリーやスロバキアの反対に考慮し、パイプライン経由分を除き、海上輸送のみを対象とすることになった)。当初、化石燃料のうち、ガスのロシア依存からの脱却には、時間がかかると考えられていた。

欧州委員会は、2023年5月24日に、REPowerEUの発表から1年経過し、その成果の検証を行っているが、EUは全体として、その目標を達成していると述べている。最大の問題である天然ガスについては、歴史的な価格の高騰の影響もあり、消費の大きな節減が達成されている。

EUでは2022年8月から2023年3月までの間にガスの消費が、過去5年における同期間の平均と比較して18%削減されたが、これは52.8bcmのガスに相当する。また、この削減率は、EUが上記期間におけるガス消費削減目標として設定した15%を超えている。その後EUは、ガス消費削減措置を2024年3月まで延長し、12か月間でさらに60bcmのガスが節約される予定である。

また、EU諸国の地下ガス貯蔵設備の貯蔵率は、2022年11月1日までに95%に達し、2023年1月には80%以上を維持した。そのため、EUは、歴史的最高値となる56%の貯蔵率で、2022年から2023年にかけての暖房シーズンを終えることができた。また、2023年から2024年にかけての暖房シーズンの前に、90%の貯蔵率は、期限より約2.5か月早く、2023年8月18日に達成されている。そして、2023年11月1日には、貯蔵率は99%に達している。

上記のような消費節減の結果、EUのロシア産ガスへの依存度は2022年には、予想よりも速いペースで低下した。2021年初の時点で、EUは、ガス消費量の約9割を輸入しており、ロシア産ガスの輸入は、全体の約4割を占めていた。2023年3月には、ロシア産ガスの輸入は、前年同月に比べ7割強減少している。また、2023年4月25日に開始された共通のガス購入プラットフォーム”Aggregate EU”も順調な滑り出しをみせている。

日航と対照的な地震対応の遅れ 教訓を忘れた政府とメディア


【おやおやマスコミ】井川陽次郎/工房YOIKA代表

万が一の事態にどう備えるか。改めて考えさせられた。

まずは東京・羽田空港で1月2日に起きた日本航空機と海上保安庁機の衝突事故である。大破炎上した日航機からわずか18分で乗員乗客379人全員が脱出した。

読売4日「全員脱出『奇跡的』称賛次々、海外メディア」は「英BBCは『いかに乗員が訓練されていたかが分かる。彼らは驚くべき仕事をした』とする専門家の見方を伝えた」と書く。記事によれば「混乱した乗客からは、『早く出せ』『(出口を)開ければいいじゃないですか』と怒声も上がった」が、乗員は冷静だった。

東京同日「日航、乗員の行動明らかに」は日航の記者会見内容を報じる。「着陸時に煙が機内に。乗務員が窓越しにエンジンからの炎を見た。チーフ乗務員が確認し機長に報告しようとすると操縦室ドアも壊れていた。規定通りパニックのコントロールと『落ち着いてください』と大声を出す行動を取った」「使った非常口は左右最前方と左最後方の計3カ所。他の非常口は炎で開けられないと判断。機長は機内を座席1列ずつ乗客がいないことを確認し脱出」。訓練に基づく的確な行動だった。

石川県能登地方で1日に最大震度7を観測した能登半島地震は対照的だ。読売5日「道路寸断、救助阻む。『孤立』多数、不明者の把握難航」は「広範囲に壊滅的な被害が生じており、不明者の捜索は難航。幹線道路寸断や通信環境の悪化が対応を難しくさせている」と惨憺たる状況を伝える。

被害が大きい輪島市では震災3日後も「携帯、固定電話が不通で道路も寸断され、全く連絡が取れない地域がある」という。

備えはどうだったか。同記事には「今回の地震は県の想定を超えていた。地域防災計画では『マグニチュード(M)7.0」を想定していたが、それを上回るM7.6」「現行の被害想定は1997年度に作られたもので、県は断層に関する最新の研究成果や県民の高齢化、過疎化といった社会情勢を反映した新たな計画を2025年度に策定予定だった」とある。その上で「県の担当者は『ちょうど作業を進めている途中』とうなだれた」と紋切り型の文章が続く。

内閣府の「中山間地等の集落散在地域における地震防災対策に関する検討会」が2005年に提言をまとめている。序文に「(04年の)新潟県中越地震では土砂災害が多発した。交通寸断や情報通信途絶により、山古志村はじめ各地で孤立集落が発生した。発生がほぼ日没時で初動対応が夜間となったことから被害状況把握が困難となった。救助・避難、物資供給等のためにヘリコプターを活用するなどの対応が必要であった。高齢化の進んだ地域であり被災者に災害時要援護者が多く、避難生活において種々の困難を経験した」とある。今回と似ている。

提言は、必要な対策として非常用電源や衛星携帯電話など通信手段の確保、ヘリコプターの夜間離着陸設備の整備、津波により孤立可能性のある集落・地域の特定などを挙げ、「地方公共団体において、地域防災計画に明記し、推進していくことが必要」と結ぶ。だが、教訓は生かされなかった。

その間にもリスクは増大した。朝日3日「能登半島の地震、なぜ相次いでいたの?」は「2020年12月から地震活動が活発に。23年12月末までの震度1以上の地震は506回」と解説する。

政府や自治体、そしてメディアに油断はないか。日航に学べ。

いかわ・ようじろう デジタルハリウッド大学大学院修了。元読売新聞論説委員。

【インフォメーション】エネルギー企業・団体の最新動向(2024年2月号)


【エネファームパートナーズ/「エネファーム」が累計販売台数50万台突破】

エネファーム普及推進協議体(エネファームパートナーズ)は1月、家庭用燃料電池「エネファーム」の累計販売台数が50万台を突破したと発表した。エネファームは、都市ガスやLPガスから取り出した水素と空気中の酸素の化学反応で発電する燃料電池システム。発電と同時に排熱を給湯などに利用することで、省エネ・省CO2に寄与する。2009年にPEFC方式、11年にSOFCタイプが販売開始となり、マンション設置機種、停電時発電機能搭載機種などのラインアップ拡充が図られてきた。近年は、数千台のエネファームを遠隔制御し、系統電力に対する調整力の供出や系統需給状況に応じた制御の確立に向けたVPP実証への参画など技術確認の取り組みも実施している。


【JERA/横須賀火力発電所2号機が営業運転開始】

JERAはこのほど、子会社のJERAパワー横須賀合同会社を通じて進めてきた横須賀火力発電所2号機のリプレース工事を終え、営業運転を開始した。これにより、2019年8月から取り組んできた同発電所1、2号機のリプレースが完了した。同発電所2号機は、超々臨界圧発電方式(USC)を採用した高効率な石炭火力発電所で、発電出力は65万kWに上る。安定した供給力として電力需給に寄与すると同社では考えている。なお、営業運転の開始日は23年度の冬季重負荷期の供給力として貢献するため、当初予定していた24年2月から前倒しした。JERAは、引き続き、最新鋭の火力発電所へのリプレース工事を進め、電力の安定供給とCO2排出量の削減に努めていく構えだ。


【商船三井/海運で世界初となるブルーボンドを発行】

商船三井は国内市場において、公募形式によるブルーボンドを発行した。海運業界として世界初。調達資金の使途を、海洋汚染の防止や持続可能な海洋資源に関連する事業などに限定して発行する債券で、100億円規模の予定だ。策定したブルーボンドフレームワークは、資金使途が持続可能な海洋経済に貢献し、環境改善効果が期待される点が評価され、日本格付研究所から最上位評価の「Blue1(F)」を取得した。資金使途の候補例は、洋上風力発電関連事業や海洋温度差発電に係る設備投資、同社開発の次世代帆船「ウインドチャレンジャー」や、開発中のゼロエミッション船「ウインドハンター」など。同社は環境課題解決への投資額を2023~25年度で6500億円規模としている。


【Looop/市場連動型プランのアプリがグッドデザイン賞受賞】

Looopの電力小売事業「Looopでんき」の市場連動型プラン「スマートタイムONE」と、そのスマートフォンアプリが2023年度のグッドデザイン賞を受賞した。同プランでは、市場価格が高い時間帯から安い時間帯へ電力使用をシフトさせるピークシフトを推奨。そのピークシフトを直感的に実践できるアプリのデザインが評価された。電気を使う時間帯の工夫で、電気代の節約を実現し再エネを有効活用していく。 


【NTTファシリティーズ/無停電電源装置の販売 安定した給電を実現】

NTTファシリティーズは12月21日、サーバールーム向け無停電装置「FU―T3シリーズ(30~100kVA)」の販売を開始した。整流器とインバーターを通して電力を供給する、常時インバーター給電方式を採用。停電、瞬断、電圧低下、波形乱れなどの入力電源異常が起きても、無瞬断でバッテリー運転に切り替え、負荷設備に常に安定した給電が可能だ。また電力変換効率が前シリーズの92%から94%に向上したことで、運用時の電気使用量を削減し、ランニングコストとCO2の低減に貢献する。


【ノーリツ/水素100%で燃焼 家庭用給湯器を開発】

ノーリツは水素100%を燃料とし、安全に安定した出湯が可能な家庭用給湯器を開発した。現行の家庭用給湯器と同等の最大能力24号、最小能力2.4号に対応し、変わらない快適性を実現。また導入時のインフラを考慮し、ガスから水素への仕様変更も可能としている。同社は水素をはじめとするエネルギーの変化に対応しながら、安全に安定したお湯の提供を使命としている。CO2を排出する機器の中で大きな割合を占める家庭用給湯器を水素100%燃焼に対応させることで、脱炭素社会の実現に貢献する。


【大成建設/既築自社ビルのZEB化で見学会】

大成建設は、省エネと創エネ技術を導入してリニューアルZEB化した同社横浜支店ビル(築50年)で見学会を行った。外装・壁面の発電システムやBEMSによる高度環境制御などを取り入れており、中規模オフィスに最適なZEB化技術を紹介。家具や照明に神奈川県産木材を取り入れるなど、地産地消で地元の産業・環境にも寄与する。今回のZEB化で、CO2削減量は年間150t、光熱費は同700万円を削減した。同社は今後も既築建物のZEB化の取り組みで脱炭素を進めていく。


【中部電力ほか/AI活用の水力運用 最適計画の策定支援】

中部電力とツナグ社、コミュニティアナリティクス社の3社はAIを活用して水力発電所の最適な発電計画を策定する支援システムを共同で開発し、特許を出願した。中部電は既存電源の増電に取り組んでいる。本システムではダムへの流水量予測や気象の類似条件における過去との比較、売電価格の最大化など目的に合わせて発電する計画を支援する。


【住友電気工業/業界で最小最軽量 家庭用蓄電池を発売】

住友電気工業はこのほど、家庭用蓄電システム「POWER DEPO V」の販売を開始した。同製品は小型・軽量を生かした屋内への設置に加え、太陽光発電システムが未設置でも使用可能なため、マンションなどの集合住宅でも使用できる。また、鉛電池の代替としてバックアップ電源用途でも使用可能だ。この他、本体の保証期間を10年から15年に延長した。


【IHI/専・混焼可能なボイラー トヨタ九州で試験開始】

IHIのグループ会社であるIHI汎用ボイラ社は、都市ガス専焼モードと水素混焼モードを備えた産業用小型水素混焼ボイラーを開発した。水素燃料は体積比60%(熱量比30%)が上限で、盤面の操作だけでモードを切り替えられる。水素燃料の調達計画に応じてボイラーを稼働できるため、ラインを止めずに熱源供給が可能だ。トヨタ自動車九州宮田工場内に発生蒸気量750kgの試験機を設置し、工場敷地で生成した水素を燃料とする運用評価試験を始めており、2024年度の販売開始を目指して開発を進めている。


【静岡ガス/静岡ガス&パワー富士発電所ガスエンジン発電設備2基増設】

静岡ガスのグループ会社で、電力事業を展開する静岡ガス&パワーは、同社が運営する静岡ガス&パワー富士発電所(静岡県富士市)において、ガスエンジン発電設備2基(最大出力合計1万5600kW)を増設し、昨年11月末から稼働を開始した。今回の増設工事は、静岡ガスグループの静岡ガス・エンジニアリングが元請けとなり、川崎重工業製カワサキグリーンガスエンジン「KG―18―T」(発電効率クラス世界最高:51.0%)を2基設置、12月に発電所が完工した。発電した電力は「SHIZGASでんき」として地域(8.9万件)に販売される。同社では電力調達における自社発電出力が2倍に向上し、電力の安定供給、調達コストの低減化・平準化が可能となる。

環境基本法からパリ協定へ 政策に欠かせない「理解と協力」


【オピニオン】奈須野 太/内閣府知的財産戦略推進事務局長

旧通商産業省に入省して4年目、公害対策基本法を環境基本法に抜本改正する作業に携わった。1993年のことである。当時は89年に導入した消費税がいまだ定着しておらず、加えてリクルート事件や東京佐川急便事件など、政治とカネを巡って国民の怒りが渦巻いていた。

そこで、とかく不人気な消費税を目的税化して理解を得ようと、環境税とか福祉税に衣替えする案もあった。公害防止事業団に設けた「地球環境基金」がその受け皿になるとうわさされた。

こうした中、旧環境庁は「経済的手法」を基本法の施策メニューに位置付ける案を法案協議で提示してきた。これは今で言うカーボンプライシングで、環境に負荷を与える物質の排出に課金し、または排出量の上限を付与して、省エネや非化石燃料への転換を促すとともに、税収やクレジット売却益をその財源にする。

しかし経済的手法は、根拠とメカニズムが不明である。例えば、付加価値に課税する消費税は経済活動に中立的という政府の立場は、CO2に課税して排出が削減されるという理屈と矛盾しないか。

現実問題としてCO2排出は、産業活動にも国民生活にも不可避である。財源目的の「第二消費税」と誤解されたら、国民の憤怒はいよいよ高まるだろう。しかも、国際的枠組みなしに日本だけ取り組んでも意味がない。サボる国に産業が移転してしまうからだ。

したがって導入以前の問題として、経済的手法の効果や影響につき調査研究する必要がある。仮に措置するときは国民の「理解と協力」が不可欠になる。そして国際的連携が求められる。環境基本法22条2項は、このような考えでわれわれが起草したものだ。複雑怪奇な条文は「霞が関文学の粋」と揶揄された。われわれもいかなる枠組みの下、何の理解と協力を求めるか分かっていなかった。

その後20余年を経て、環境政策課長としてパリ協定締結を担当した。協定では産業革命後の気温上昇を2℃未満にし、今世紀後半に人為的排出と吸収を均衡させることが決まった。

問題は排出と吸収の均衡をどうやって実現するかである。そもそも世界政府はない。各国も個々の排出を直接統制できないし、わずかな排出可能量を公平に配分する能力も欠く。

あり得る枠組みとしては、吸収量に基づくクレジットを世界で流通させてCO2の排出者に購入させ、オフセットを義務付けて排出と吸収を均衡させる市場メカニズム以外に見当たらない。

未来社会では、経済活動にクレジット価格を織り込むコストアップ、エネルギー転換に伴う仕事と暮らしのリスクが不可避だ。国民にはこれを甘受し、対策を日々の行動に反映してもらう。それが「理解と協力」だろう。これは全ての国に共通の枠組みの下でなければならない。まさに環境基本法の予期する通りである。当時は思い至らなかったが、パリ協定のできた今では、なかなか先進的な条文だと思っている。

なすの・ふとし 1990年東京大学教養学部教養学科卒、通商産業省(当時)入省。中小企業庁次長、産業技術環境局長、内閣府科学技術・イノベーション推進事務局統括官などを経て2023年から現職。

マイクログリッドと地冷を一体運用 スーパーシティ特区とも連動へ


【地域エネルギー最前線】 茨城県つくば市

企業誘致に向け、グリーン電力を活用したマイクログリッドと地冷の一体運用に挑戦する。

さらにスーパーシティ構想特区という利点を生かし、次世代型マネジメントなども視野に入れる。

研究学園都市として多くの研究機関が立地し、約40年前の万博のイメージも強い茨城県つくば市は、早くから環境を意識した市政に取り組んできた。例えば2007年には官民で、当時としては思い切った「30年CO2排出50%削減」目標を提示。その後も政府の環境モデル都市やSDGs(持続可能な開発目標)未来都市などに選ばれている。そして政府方針を踏まえた市のゼロカーボン宣言を契機に、カーボンニュートラル(CN)化のビジョンの具体化に取り組んでいる。

実は22年、同市は大阪市と共に2地域だけの「スーパーシティ型国家戦略特区」に指定されている。特区ではAIやビッグデータなどの先進技術を駆使し、30年ごろの未来都市を先取りし実現する構想だが、特区での計画について五十嵐立青・つくば市長は「グリーンの要素が少ない」との心残りがあったという。こうした背景を受け、環境省の「脱炭素先行地域」に応募し、昨秋の第4回で選定された。スーパーシティとも連動させ、市の強みを生かしたCNの具体化を目指す。

未来のエネルギーモデル発信の舞台となるつくば市街地

地域課題としては、①地域への還元を生む科学技術のビジネス化、②東京圏への流出を防ぐ若者の地域定着、③ベッドタウン化に歯止めをかける中心市街地の活性化―などがある。解決に向けて脱炭素をキーワードに、スタートアップや大手・外資系などのオフィスを駅前に誘致し、昼間人口の増加を促す考えだ。そのための環境整備として、安価で安定したエネルギー供給とゼロカーボンの両立が欠かせない。市環境政策課は「CO2フリーな環境への企業のニーズはあり、すでに立地に興味を示す声も聞こえている」と強調。先行地域の事例で業務系に特化した誘致は珍しく、新たなモデルの発信に意気込む。

「システム改革」の改革へ 電力政策のシンポジウム開催


【公益事業学会】

識者で作る公益事業学会政策研究会(電力)のシンポジウムが1月15日にオンライン形式で開催された。今回のテーマは、「電力改革トランジションの現在地と進路」。冒頭、論点提起を行った山内弘隆・武蔵野大学経営学部特任教授は、「システム改革がスタートして10年以上が経過し、電力システムを巡る環境は大きく変化した。特に脱炭素化は、当初の想定を上回る影響を及ぼしており、システム改革を改革する時代が来ている」と述べ、学識者と実務家が議論を重ねながら、改革をより良い方向へ進める必要性があることを強調した。

シンポジウムでは、①電力市場の設計の論点と今後の電力ビジネス像、②安定供給基盤確立に向けた電源投資・維持、燃料調達の姿、③再生可能エネルギー最大活用・GXと分散型電力システム―の三つをテーマにセッションを行い、脱炭素化とそれに伴う変動型再エネの大量導入が進むことで顕在化した新たな課題に対応するためのシステムの今後の在り方について、官学民の関係者が活発な意見を交わした。

官学民の関係者が意見を交わした

セッション①で大きな論点となったのは、資源エネルギー庁の有識者会議で議論が進むkW時(電力量)と⊿kW(調整力)を同時約定する「同時市場」の是非についてだ。2020年度冬期の電力需給ひっ迫時には、kW時と⊿kWの取り合いのような状況が発生し価格高騰を招いたのに加え、足元でも需給調整市場(三次調整力①、②)の調達未達や価格高騰の問題が起き、より効率的な調達の仕組みが求められている。

登壇者からは、「同時市場の機能を最大限に発揮するルールを整備するとともに、プレーヤーの仕組みに対する理解が重要になる」(谷口直行・エネット社長)、「ルールの細部については国や地域で差があるのでそれを勉強しつつ、情報発信していきたい」(小笠原潤一・日本エネルギー経済研究所研究理事)などと、前向きな意見が相次いだ。


競争モデルの転換点 〝手のひら返し〟は可能か

また、東京電力ホールディングス経営技術戦略研究所の戸田直樹チーフエコノミストは、「電力自由化の競争モデルは世界的に転換期にあるのに、古いモデルを深追いし続けるのは無駄。大胆に手のひらを返すべきではないか」と投げかけ。これに対し資源エネルギー庁の筑紫正宏・電力産業市場室長は「制度としての安定性のため手のひら返しは最低限に抑えつつ、直すべきところは毅然と直す必要がある。そのための理解を得られるよう努めたい」と応じた。

【マーケット情報/2月12日】原油上昇、需給引き締まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

2月5日から12日までの原油価格は、主要指標が軒並み上昇。中東情勢のさらなる悪化にともなう供給不安、米国における需給逼迫観が強材料となった。

イスラエルは、米国や中東諸国の仲介にもかかわらず、イスラム組織ハマスが提案したガザでの停戦を拒否。また、イエメンを拠点とする武装集団フーシは引き続き、紅海を航行する船舶を攻撃している。さらに、米軍のドローン攻撃で7日、イランの武装集団幹部が一人死亡。中東地域の治安悪化で、原油の供給不安が一段と強まった。

供給面では、米国のガソリン、軽油の週間在庫が、製油所の定修を受け減少。また、米エネルギー情報局は、今年の国内生産予測に下方修正を加えた。米国における需給の引き締まりも、価格に対する上方圧力となった。


【2月12日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=76.92ドル(前週比4.14ドル高)、ブレント先物(ICE)=82.00ドル(前週比4.01ドル高)、オマーン先物(DME)=80.83ドル(前週比3.43ドル高)、ドバイ現物(Argus)=80.84*ドル(前週比3.50ドル高)

*ドバイ現物のみ9日との比較

終わりなき防災対策 「ソフト力」を高め続けよ


【脱炭素時代の経済探訪 Vol.23】関口博之 /経済ジャーナリスト

2024年の元日、最大震度7の地震が石川県の能登半島を襲った。犠牲者のご冥福を祈るとともに、被災され避難生活を続ける方々に早く日常が戻るよう願うばかりだ。

能登には東日本大震災以来の大津波警報が出された。それとともにNHKのアナウンサーは一気に切迫した口調になった。「今すぐ逃げること! 高い所に逃げること!」「東日本大震災を思い出してください」「今すぐ避難! 今すぐ避難!」。叱るかのような強い口調に驚いた視聴者も多かっただろう。しかし、これは過去の反省に立ちNHKが積み上げてきた「命を守るための呼びかけ」のノウハウ、ソフトだ。従来は災害時も冷静沈着を旨としてきたが、東日本大震災の津波ではそれでは命が救えなかった。異常事態であることを伝え「行動を促すためのことば」について組織を挙げて検討した。その結果が今のノウハウになっている。ソフト力の進化があったのだ。

東日本大震災の教訓は生きたか

さらに防災担当の解説委員は、日本海側の津波は到達が早いことを繰り返し強調した。まだ大丈夫、自分だけは大丈夫という正常性バイアスを打ち破るためだ。その後も、気象庁の潮位観測の具体的なデータを基に「1.2m以上」と伝えられた輪島は、実はそれ以降、観測値が取れなくなっていてさらに高い津波が襲っている可能性もあること、ほかの観測点でも潮位が高いまま続いていることを伝え、避難を呼びかけた。この程度ならもう大丈夫だろう、という予断こそ危険だからだ。

日本海側には原子力発電所も多く立地している。この原稿の執筆時点で、安全上問題になる異常が生じている原発はないが、気は抜けない。震源域に最も近かった志賀原発については地震当日、北陸電力と原子力規制庁は「安全上、重要な機器への電源は確保されている」と発表したが、被災状況が明らかになるにつれ、説明を修正する場面もあった。外部から電力を受ける変圧器が1、2号機でそれぞれ1台破損した事案では、当初“爆発音”や“火災”との情報もあり、政府の説明も混乱した。電源自体は別の系統に切り替え確保されたが、変圧器から漏れた油の量が当初に見込んでいた5倍以上あったことが判明した。また津波との関連では、海水の取水槽の水位に変動はないと説明したものを「一時3m上昇」と訂正。関係者間の情報共有が不十分だったとしている。発災直後の混乱の中では難しさもあろうが、こうした時こそ原発では迅速で正確な情報が欠かせない。

余震はしばらく続くおそれがある。また道路の寸断が広範囲に及んだ今回の地震は、万が一の原発事故の際に避難が計画通りにいかないリスクも浮き彫りにした。防災は施設・設備のハードだけで実現できるものではなく、関わる人間がソフトとしての“安全文化”を構築していかなければならない。脱炭素化に向け、またエネルギー安全保障上も、原子力の役割が増す中だからこそ、各地の原発では運用マニュアルの更新とその徹底、不断の訓練などでソフト力を高め続ける必要がある。安全対策に終わりはない。

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せきぐち・ひろゆき 経済ジャーナリスト・元NHK解説副委員長。1979年一橋大学法学部卒、NHK入局。報道局経済部記者を経て、解説主幹などを歴任。

電力の安定供給に欠かせない業務 日頃の作業や訓練で得た成果を競う


【東京電力パワーグリッド】

東京電力パワーグリッドは昨年12月4日~8日の5日間、全社技術技能競技大会を東京電力総合研修センター(東京都日野市)で開催した。同大会は電力の安定供給に必要な技術の向上と継承を目的に毎年行われている。競技内容は送電、地中送電、変電、流通土木、監視制御、配電設計工事監理、配電保守、技術サービス、系統運用、電子通信、ドローンと送配電会社の専門分野別に分かれている。日頃の業務や訓練で培った技術成果を競い合った。

㊤鉄塔に付着した異物をドローンで観察
㊦ドローンによる点検競技


点検に必須のドローン 正確かつ迅速な作業を競う

12月7日にはドローンの競技が行われた。テーマは、台風の影響により広域にわたって設備被害を受け、部門横断によって対応するというもの。競技内容は、送電線で事故が発生。送電部門が他部門で編成されたドローン機動チームに送電設備点検を依頼する。ドローン機動チームが点検を実施し、異常箇所など点検結果を送電部門に報告するまでの正確さと迅速さを競う。参加者は事前にどのような箇所に異常があるかなどは聞かされていない。

今回は、異常箇所として写真㊤のように、鉄塔に付着した異物をより詳しく観察したり、ドローンで近づくことではじめて異常と判断できる細かな送電線の欠陥などの障害が用意されていた。この一連の作業のタイムトライアルと正確さが審査された。

ドローンのエキシビションでは、操作に特化した競技が行われた。障害物をクリアしたり、ドローンをホバリングさせて目標物をカメラで撮影したり、難易度が高い内容が設定されていた。

ドローン操縦は総じて若手社員が長けている印象だ。上下左右の動きが操縦できても、奥行きが加わると、コントローラーのディスプレイと肉眼で交互に位置を確認しながらドローンを操縦しなければならず、より複雑な作業が求められるためだ。

電力の安定供給を守るためには日頃の訓練が欠かせない。合わせて業務効率化にも取り組んでいくことが求められる。こうした視点からも、成果を競う同大会の開催意義は大きい。

能登半島地震で原発巡る流言飛語 原子力規制庁の情報発信に問題あり


【永田町便り】福島伸享/衆議院議員

今年は、元旦から能登半島での大地震という痛ましい災害で始まった。マグニチュード7.6、最大震度7という異例の規模の地震で、被災地にある志賀原発の状況に全国の国民の注目が集まった。

震災当日の午後6時半から原子力規制庁の広報官による記者ブリーフィングがテレビで中継された。震災後2時間しか経っていない時点であり未確定の情報が多いのはやむを得ないが、安全上重要な電源の確保、使用済み燃料プールの冷却継続、モニタリングポストの平常値の確認など、重要な情報を的確に発出できたのは良かった。志賀原発は、新規制基準の適用を受けているプラントではないが、改めて地震の大きな揺れに対する備えは十分になされていることが確認できたのではないか。

規制委ウェブサイトに問題 欲しい情報を得られず

一方、その後の規制庁の対応はいただけない。震災後数日たってさまざまな情報が入ってくるようになると、志賀原発に関してもネット上などでさまざまな情報が入り混じるようになった。使用済み燃料プールのスロッシング、1号機変圧器からの絶縁油の漏洩、いくつかのモニタリングポストの欠測など。「原子力災害を見せないために被災地でドローンの飛行を禁止している」とか、「やっぱり地震国日本では原発は無理だ」などの流言も飛び交っていた。

問題は、こうした情報を確認しようとしても、原子力規制委員会のウェブサイトからは欲しい情報を得られないことだ。経済産業省や国土交通省のサイトでは、トップページに震災関連情報にアクセスしやすいように目立つポップが出ているが、規制委はトップページの「記者会見・ブリーフィング」の中にある「原子力規制庁臨時ブリーフィング」をクリックしないと、震災関連の情報にたどり着けない。しかも、そこにあるのは1月1日に行われた2回のブリーフィング資料だけだ。

北陸電力のウェブサイトでは、トップページから会社が発表しているさまざまな情報にアクセスできるようなっているが、電力会社側の情報だけでは国民が安心を得ることはできない。電力会社の出す情報の妥当性を専門的見地から確認し、規制当局として別の立場から国民に説明することこそ、規制庁の役割なのではないか。1999年の東海村JCO事故を契機として、全国の原発サイトに原子力防災専門官と原子力保安検査官が常駐することとなった。石川県にも志賀原子力規制事務所があるが、1月1日以降、現地の規制当局の職員が何らかの情報を確認したとの発表はない。

今回は事なきを得ているが、こうした一つ一つの国民とのコミュニケーションを規制庁が怠っていては、原子力に対する国民の信頼を得ることはできないだろう。規制庁は、もっと危機感を持ってしっかりと仕事をしてほしい。

ふくしま・のぶゆき 1995年東京大学農学部卒、通産省(現経産省)入省。電力・ガス・原子力政策などに携わり、2009年衆院選で初当選。21年秋の衆院選で無所属当選し「有志の会」を発足、現在に至る。

「処理水」巡る経済的威圧 中国の政治的思惑とは


【論説室の窓】神子田 章宏/NHK 解説委員

福島第一原発の処理水放出を巡り、中国政府は日本産海産物の禁輸措置をとった。

強硬策に出た中国の国内事情、そして日本政府と東電に求められる対応とは何か。

先日、オーストラリアへ出張した帰りの飛行機の中のことである。

食事の時間に、隣に座るアジア系の女性が話しかけてきた。機内食で出てきたサーモンについて、「このサーモンは、オーストラリア産だと思うか。それとも日本産か」と真剣な表情で尋ねられたのだ。「オーストラリア発の便の機内食だから、オーストラリア産では」と当て推量で答えたが、聞けばその女性、10年以上前に中国広東省からシドニーに移住したという。「日本の水産物は危険だと聞いているから」と言葉を継いだ。福島第一原発の処理水放出を受けて、処理水を「汚染水」と称し、安全ではないという印象を与える中国政府の〝宣伝〟は、中国本土にとどまらず、海外の中華系の人々にも広く浸透しているようだ。

昨年11月の日中首脳会談
提供:中国通信/時事通信フォト


台湾への露骨な威圧 「牽制カード」として

中国政府は昨年8月、「福島の『核汚染水』が食品に対してもたらす放射性物質による汚染リスクを全面的に防いで中国の消費者の健康を守り、輸入食品の安全を確保する」として、日本を原産地とする水産物の輸入を全面的に停止する措置をとった。これに対し日本政府は、科学的根拠に基づく冷静な対応を求め、輸入停止措置の撤廃を求めているが、双方の主張は平行線が続いている。

東京電力は、溶け落ちたデブリと触れた汚染水を、専用設備で浄化しているが、水と一体化しているため取り除けないトリチウムについては、海水で基準の40分の1以下に薄めて放出。1年間に放出されるトリチウムの量についても、国内外の多くの原子力施設からの年間の放出量と比べても低い水準だとしている。

これに対し中国側は、「福島の『核汚染水』は、メルトダウンを経た水であり、正常な原発による放出とは別物だ」と主張するが、東電はトリチウム以外の29の核汚染物質についても基準値以下に抑えている。国際原子力機関(IAEA)も処理水を分析するなどした結果、国際的な安全基準に合致し、環境への影響は無視できるとする報告書を公表した。

こうした中、日本国内の有力政治家からは、中国側の対応は、経済安全保障上の概念である「経済的威圧」に当たると批判する声が強まっている。

「経済的威圧」とは聞き慣れない言葉だが、要は、政治的な思惑を達成するために、貿易など経済的措置を手段として揺さぶりをかけるというもので、中国はしばしばこの手法をとっていると指摘される。ここで、処理水問題とは直接関係はないが、最近の分かりやすい例で説明しよう。

佐渡島で再エネ導入拡大へ 太陽光・蓄電池システムが運開


【東北電力ネットワーク】

2023年12月、新潟県佐渡島において島内最大の太陽光・蓄電池システムが運転を開始した。

電力系統が独立する離島において、最適な需給制御の実現に向けた取り組みが始動する。

東北電力ネットワークの供給エリアである東北6県および新潟県では、人口減少や高齢化といった社会的構造の変化などによる地域経済停滞の課題に直面している。その中でも離島はこれらの課題に加え、エネルギー供給のほぼ全てを島外から海上輸送する化石燃料に頼っており、災害時における安定供給確保や環境負荷低減なども大きな課題となっている。

2022年3月、新潟県では、佐渡島や粟島における環境負荷の低減やエネルギー供給源の多様化などを図ることを目的に「新潟県自然エネルギーの島構想」を取りまとめた。関連事業者と連携し、再生可能エネルギーや次世代エネルギーの導入拡大に向けた取り組みを進めている。

佐渡島は、東北電力ネットワークが発電・送配電・販売まで一貫して行っている。独立した電力系統のため電力需要も島内に限定され、天候によって出力が変動する再エネが大量に接続された場合、電気の使用量と発電量のバランスが保てなくなり、電力の安定供給に影響を及ぼすことが懸念される。こうした背景を踏まえ、同社は、「新潟県自然エネルギーの島構想」の先導的プロジェクトとして、再エネや蓄電池、内燃力発電、エネルギーマネジメントシステム(EMS)などを組み合わせた最適な需給制御の実現に向け、取り組んできた。


最適な需給制御に向けて 新設設備の運転を開始

この取り組みの中で、同社は太陽光発電、蓄電池システム、EMSの導入を計画。これまでに佐渡市栗野江地区に出力規模1500kWの太陽光発電を、両津火力発電所構内には容量5000kW時の蓄電池をそれぞれ設置し、23年12月に運転を開始した。

栗野江地区に建設した太陽光発電所の名称は、同発電所が佐渡島の将来を明るく照らす「光の力」となって、東北電力グループのカーボンニュートラル(CN)の実現に向けて貢献するようにとの願いを込めるとともに、東北電力グループスローガン「より、そう、ちから。」になぞらえ、「ひかり、の、ちから栗野江」と命名した。24年度にはEMSの運用開始を予定している。

両津火力発電所内の「蓄電池システム」