【電力】需給試算を公表 長期的視点からの支援を


【業界スクランブル/電力】

電力広域的運営推進機関は6月25日、2040年および50年の電力需給試算を発表した。複数の機関が需要、供給について複数の前提に基づいて、いくつかのモデルケースを設定している。

需要においては、どのケースにおいても、人口減少や省エネの進展により家庭部門の電力需要は減少するが、データセンターなどのDX需要、EV普及や自家発廃止などのGX需要増の見込みが異なり、50年で9500億~1兆2500億kW時と想定されている。また、デマンドレスポンス(DR)や蓄電池の導入状況によるロードカーブの変化も織り込まれている。

供給においては、再エネと原子力の供給量で複数シナリオが想定されたほか、火力発電所の主に経年リプレースが進むかどうかでケースごとの差異が大きくなっている。

結論として、需要は低い想定でも足元より増加するがその量にはかなり幅がある。供給は、火力の経年リプレースが行われなければ大幅に不足するため、火力電源の継続的活用と新設・リプレースが必要との示唆が得られる。

しかし、需要の見通しには不確実性があり、環境政策や技術進展が不透明な中で、事業者が十分な火力電源への投資を行うにはリスクが高い。再び電力不足を起こさないようにするためにも、長期的視点から投資促進策、環境技術開発、燃料確保の支援などの施策が必須だ。 この想定自体、需要と供給が別々に推定されており、電源の費用が需要に反映されないといった問題が指摘されている。また、3~5年ごとに見直されることになっており、政策もそれに応じて見直される必要があるだろう。(K)

メタネーション設備の実証運転開始 地産地消モデルを確立しコスト低減


【西部ガス】

西部ガスが6月、メタネーション設備の実証運転を始めた。地域原料を活用した九州独自の「地産地消モデル」として、業界内でも注目されている。

2023年に環境省の補助事業「地域共創・セクター横断型CN技術開発・実証事業」の採択を受け、同社のひびきLNG基地で設備の建設工事を進めてきた。中核となるメタネーション装置(IHI製)に加え、PEM(固体高分子膜)型水電解装置、CO2分離回収装置、圧縮水素トレーラーや液化CO2ボンベの受け入れ設備などで構成されている。

中核となるメタネーション設備

一連の設備運用の知見を得ることに加え、①地域原料を組み合わせることによるコスト削減効果の見極め、②eメタン製造コスト最適化システムの運用と評価、③CO2回収装置の運用と評価、④クリーンガス証書発行におけるCO2トレーサビリティプラットフォーム(PF)の運用と評価―の計4点の検証を進めていく。

メタネーション反応に活用する水素は、水電解装置による水素や近隣工場からの副生水素を活用。CO2は、ひびき基地の都市ガス製造の熱量調整で発生したものを回収して活用するほか、福岡市の下水処理センターからも調達する計画だ。


運用の最適化でコスト減 再エネ余剰の課題解決

運用する上でのポイントは、自動化による最適制御だ。「九州では再生可能エネルギーの余剰が課題だ。余剰時における低価格帯の電力市場価格を見極めながら、コストミニマムな運用を目指す。一連の運用は『最適化システム』によって自動的に制御する。地域資源の最適な組み合わせでコスト低減を実現する『ひびきモデル』を確立していきたい」(西部ガス関係者)

実証現場のひびきLNG基地

今回の実証では、多様な事業者や組織が連携している。最適化システムやCO2トレーサビリティPFを開発するIHI、このPFを活用したCO2削減を評価する日本ガス協会、CO2分離回収装置を開発するJCCLや九州大学、ひびきモデルを参考に各地で地産地消を検討する北海道ガスや広島ガス、日本ガスなどが参画している。まさに業界を挙げたメタネーションの取り組みが各地で広まりつつある。

ペトロナスが若手育成に注力 脱炭素実現へ多国間の連携重視


【ワールドワイド/資源】

6月中旬、マレーシア国営石油会社ペトロナスが主催するEnergy Asia 2025、および若手人材向けの脱炭素をテーマとした相互交流型のサイドイベントFuture Energy Leaders(FEL)が実施され、筆者も参加する機会を得た。両イベントへの参加を通じて得られた二つの気づきについて述べる。

第一に、東南アジア諸国で若年層がいかに重視されているかという点だ。東南アジアは若年層の人口比率が高い。労働人口に対する若年依存度はG7諸国の平均が30%前後であるのに対し、ASEAN地域では49%だ。今後脱炭素という困難な課題に、民主主義制度の中で立ち向かう上で、若年層の理解・支持・参画が不可欠との認識が繰り返し強調されていた。

また、会場となった「PETRONAS Leadership Centre」の設置にも、未来人材への投資を重視する姿勢が表れている。同施設は2023年に開設された非技術系向けの研修施設で、FELのような相互交流型のプログラムの実施も念頭に、約100名全員を収容できる大規模な宿泊施設と一体で作られている。

敷地面積も東京ドーム約2・8個分と巨大で、自然との調和を意識した吹き抜け構造を備え、大学のキャンパスのような印象があった。これほどの規模と環境を構築することは、人的資本への投資を真剣に捉えている証左と言えるだろう。

第二に、ペトロナスの脱炭素への積極的な姿勢と、その根底にある「連携・協調」の精神だ。

脱炭素がテーマのFELもしかり、Energy Asia本体においても脱炭素が前面に出されていた点が印象的だった。近年世界的には地球温暖化防止国際会議・COP26で見られた脱炭素ブームとは一線を画し、安全保障に重きを置く動きが見られる中、ことさら脱炭素が強調されていた点は印象的であった。

筆者がこの姿勢の根底にあると感じたのは、マレーシアが「連携」や「協調」といった価値観を重視している点だ。FELや本会においても、脱炭素以外の文脈でもこれらの言葉が繰り返されていた。彼らは、自国の限界を正しく認識した上で、先進諸国と積極的に連携し、それを補完していくという考え方が強い。この多国間の連携や協調を重視する価値観と、人類共通の問題である脱炭素の実現は親和性が高く、これこそが、ペトロナスが脱炭素へのコミットを強く示し続ける背景にあるのではないかと感じた。

(若佐大夢/エネルギー・金属鉱物資源機構調査部)

ペロブスカイト開発の現在地㊤ 中国の大規模展示会で見えた商品化競争の最前線


【識者の視点】薛婧/イーソリューションズ執行役員副社長

日本の「国産独自技術」として期待がかかるペロブスカイト太陽電池。

国内ではあまり報じられない、中国の開発競争の現状をレポートする。

2024年に世界で導入された太陽光発電の総容量456GW(1GW=100万kW)のうち、51%を占めるのが中国だ。結晶シリコン(Si)太陽電池サプライチェーンの8割以上を中国が担っている。

多様な最新技術が披露された

その中国で6月11~13日に、太陽光発電関連の展示会「SNEC」が開催された。会場はアジア最大規模の「上海国家会展中心」で、東京ビッグサイトの4倍の広さを誇る。太陽光発電に関連する3000社以上が出展し、国内外の産学が参加するカンファレンスも同時に行われ、参加者数は50万人以上と報告されている。特に注目を集めたのが、日本でも次世代型太陽電池として期待されている「ペロブスカイト」。本稿ではまず、SNECでのペロブスカイトに関する展示内容や、各企業の最新動向を報告する。


新興企業や異業種が参入 多様な製品が一堂に会す

SNECでは、10数社以上のペロブスカイトメーカーが出展した。専業メーカーであるUt-molightやRenshineのほか、製品ラインの拡充を図りペロブスカイト事業に参入した結晶Si太陽光パネルメーカーのGCLやTrinasolar、さらに、ペロブスカイト産業の創出を目的に設立された、中国国有企業の中核光電も参加した。BOEのように、ディスプレイ事業のノウハウを生かし異業種から参入した企業や、西安天交のように、大学から独立したベンチャーも多数登場した。

SNECで展示されていたペロブスカイト製品の種類は多岐にわたる。ガラス型単層ペロブスカイト、結晶Siやペロブスカイトを重ねたタンデム型、窓・壁・屋根など建物への導入を意識し透明化やデザイン性の高い建材一体型(BIPV)のほか、日本が注力する折り曲げ可能なフレキシブル・ペロブスカイトも複数の企業が展示していた。フレキシブル・ペロブスカイトには、一般的に認識されている、樹脂フィルムを基板にした「フィルム型」と、薄板ガラスを基盤にした「薄板ガラス型」の2種類があるが、見た目には区別がつかない。

モジュールの大型化も目立った。日本の多くの企業は0・09㎡モジュールを中心に開発しているが、中国はフレキシブル・ペロブスカイトを含め、実用可能な0・72㎡以上のサイズが標準となっており、最大2.88㎡の製品も展示されていた。

発電効率の高さも注目だ。ガラス型単層の0・09㎡前後のモジュールの効率が22・5%、0・72㎡以上のモジュールでは15・0~19・8%が一般的である。GCLの1・7㎡のSiタンデムモジュールは26・3%、Renshine製の0・72㎡のオールタンデムモジュールは22・2%と、いずれも結晶Si太陽光モジュールと同等以上の効率を実現したと自称している。

【コラム/8月15日】再生可能エネルギー電源拡大に潜むジレンマ


矢島正之/電力中央研究所名誉シニアアドバイザー

今年の2月に、第7次エネルギー基本計画が閣議決定されるとともに、関連資料として、2040年度のエネルギー需給見通しが提示された。同見通しで示された2040年度における電源構成を見ると、再生可能エネルギー電源は4~5割程度と最も比率が高い。

第6次エネルギー基本計画に記された「再エネ最優先の原則」は削除されたものの、再生可能エネルギー電源が主力電源として大きな期待を担っていることには変わりがない。しかし、再生可能エネルギー電源、とくに陸上風力発電や大規模太陽光発電の大幅な導入拡大については、一部の自治体で既に顕在化しているように、パブリックアクセプタンス上の問題が生じる可能性がある。本コラムでは、この問題について掘り下げて考察を行いたい。

わが国では、2021年5月の地球温暖化対策推進法(温対法)の改正により、地方自治体は地球温暖化対策実行計画を策定し、温室効果ガス排出量の削減に努めることが義務づけられた(2022年4月施行)。地球温暖化対策実行計画の中では、各自治体は、ステークホルダーとの協議を踏まえて、地域の再生可能エネルギーを活用した脱炭素化を促進する事業(地域脱炭素化促進事業)に関して促進区域、環境保全のための取組、地域の経済・社会の持続的発展に資する取組についての方針などを定めるよう努めることが規定されている(温対法第21条第5項)。

各自治体が積極的に再生可能エネルギー電源の促進区域を指定することで、同電源の設置が促進され、地域経済が活性化することが期待される中で、2022年7月に全国で初めて長野県箕輪町が促進区域を設定し、2025年3月現在56の市町村が再生可能エネルギー電源の促進区域を設けている(全国1700超の地方自治体のうちわずか3%)。

地方自治体が積極的に再生可能エネルギー電源の促進区域を設定することが期待される一方で、北海道や青森県などのように再生可能エネルギー電源の立地を厳しくする動きもある。北海道は、市町村が再生可能エネルギー電源導入の促進区域を設けるに当たって、排除すべきエリアを示した道の「環境配慮基準」(2024 年11 月)を策定したが、これが陸上風力発電の導入にブレーキをかけることになるのではないかと関係者は懸念している。

環境配慮基準では保安林や地域森林計画対象民有林などを促進区域から除外している。しかし、風力発電に適した場所は山林に広がっている。北海道は全国でトップクラスの再生可能エネルギー電源のポテンシャルを有するが、環境配慮基準がGX投資にネガティブな影響を与えることが懸念される。

また、北海道釧路市では国立公園となっている釧路湿原とその周辺などで太陽光発電施設の建設が相次いでおり、とくに開発が厳しく規制される国立公園から外れた「市街化調整区域」での建設が進んでいる。希少な動植物への影響を懸念した市は、市街化調整区域も含めて、市内全域での10kW以上の事業用太陽光発電施設の設置を許可制(現在は届け出制)とする条例案を、今年の6月19日に市議会の民生福祉常任委員会に示した。今年9月に定例市議会に条例案を提出し、来年1月1日の施行を目指すことになる。加えて、旭川市は今年度、太陽光発電と風力発電の立地に関して「ゾーニングマップ」を作成する。有識者の見解も踏まえて、鳥獣保護などが必要な「保全エリア」、開発しやすい「促進エリア」、その中間の「調整エリア」に分けて作成する。大部分は「保全」か「調整」エリアとなる見込みで、再生可能エネルギー電源の「乱開発」の抑制を目指す。

化石燃料賦課金の望ましい単価 高すぎず低すぎず


【オピニオン】土居丈朗/慶應義塾大学 経済学部教授

今年の通常国会で、GX推進法の改正が成立した。2028年度に始める化石燃料賦課金について、納付義務のある化石燃料採取者などの届出、支払期限や滞納処分や延滞金の設定、国内で使用しない燃料への減免などに関する規定が盛り込まれた。化石燃料賦課金を創設し、GX経済移行債の元利償還に充当することや、賦課金単価の設定根拠については、GX推進法が23年に新規制定された時から規定され、それをより具体化したものといえる。

ただ、政令に委ねる事項が多く、できるだけ早期に詳細設計を内外に示す必要がある。化石燃料賦課金として体現される炭素価格の予見可能性を確保すべきだからである。特に賦課金単価は早いに越したことはない。単価を示す時期が早すぎると、企業経営に過度な負担を課したり混乱を引き起したりするとの懸念もあるようだが、杞憂である。なぜ税ではなく賦課金として制度化されたかを踏まえることが重要である。

化石燃料賦課金の発想は、従来「炭素税」として理解されてきた。わが国では、石油石炭税にある地球温暖化対策税として体現された。しかし、成長志向のカーボンプライシングでは、税方式を採用せず、賦課金方式を採用した。そうすれば、賦課金単価は政令で定めることができる。税は、租税法律主義に基づき、税率を変更するには国会での法改正が必要である。賦課金なら、タイムリーに単価変更が可能である。

50年のカーボンニュートラル実現を目指すわが国において、30年や40年までにどの程度のCO2排出量の抑制が望まれるかは、中間目標を設定しないまでもおおむね目途が立てられる。その実現には、まずは自主的な取り組みが求められるが、それだけで足りないならば、(この度の法改正でより具体化した排出枠取引制度と並んで)化石燃料賦課金単価として示される炭素価格で誘導することで補うこととなる。

その観点から、CO2排出量を十分に抑制できるように炭素価格を十分に上げていかなければならない。ただ、賦課金単価が高すぎると、企業などは賦課金負担を回避して他の方法を使いCO2を排出する方策を探るだろう。高すぎると、逆に賦課金収入は少なくなりかねない。

では単価を下げればよいかというとそうではない。なぜなら、化石燃料賦課金は(発電事業者への排出枠の「有償オークション」収入とともに)、GX経済移行債を50年度までに完済できるように徴収しなければならないからである。単価が低すぎると、収入が少なすぎてGX経済移行債を完済できない。

化石燃料賦課金単価は、世界の炭素価格の動向も見極めつつ、このように高すぎず低すぎない水準に設定する必要がある。

どい・たけろう 大阪大学卒。東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東大社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授などを経て2009年4月から現職。行政改革推進会議議員、政府税制調査会特別委員、などを務める。

シンプルな設計の加湿技術を提案 霜を利用し無給水を実現


【電力中央研究所】

戸建て住宅の全館空調向けに、無給水で加湿可能な技術を提案した。

外気の水分を霜に変え、それを加湿に利用する発想を、HPサイクルを用いて実現した。

大気中の水分を霜に変えて、加湿に利用する―。

そんな新たな発想による加湿技術を電力中央研究所が提案した。主に全館空調を備えた戸建て住宅への実装を想定している。

2003年の建築基準法改正以降、シックハウス対策として常時換気システムの導入が義務化されたこともあり、全館空調の導入が進んできた。

全館空調は、室内の温度を均一に保てる利点がある一方で、室内が乾燥しやすく、冬季には快適とされる湿度40~60%を下回ることがある。加湿機能を備えた全館空調は、提供する住宅メーカーが全体の半数程度にとどまっていることから、十分に普及しているとは言えない。

新たな加湿技術は、こうした課題に目を向け提案された。

張氏は長年、HPの着霜対策の研究に取り組んできた

二つの熱交換器と圧縮機から成るヒートポンプ(HP)に、空気の流れを切り替えるダンパーなどを組み合わせたシンプルな設計。加湿運転時には、まず外気を取り込み、冷却した熱交換器に着霜させる。次に、室内の還気でその霜を溶かし、「除霜水」と呼ぶ水を生成。その後、この除霜水を気化させ室内に送ることで、加湿する仕組みだ。

加湿のための水を外気から得るため、給水タンクや水道管への接続は不要だ。HPサイクルを用いるため、従来の蒸気加湿方式と比べると、消費電力を約14%削減できる。


着霜対策の研究が生きる 逆転の発想から研究着手

無給水加湿技術については、既に確立された技術がいくつかある。ただ、既存技術はダクトやダンパーの数が多く、構造が複雑で、装置が大型化しやすいという課題があった。こうした課題に対して、新技術では空気系統のダクトやダンパーを最小限に抑え、装置のコンパクト化と構造の単純化を図っている。

また、外気に含まれる水分量は気温が高いほど多く、加湿能力は地域によって差が出やすい。そこで、北海道や東北など気温・湿度ともに低い地域でも十分な加湿性能を得られるよう、乾燥剤であるデシカントを併用したシステムを同時に提案した。外気条件に左右されにくい加湿技術だ。

この研究を進めたグリッドイノベーション研究本部の張莉氏は、「まずシンプルな構造でも加湿が可能だという点に注目してもらうことが狙いの一つ。興味を持ったメーカーなどと共同で改良を重ね、性能向上につなげていきたい」と展望を語る。

提案のベースには、張氏自身が長年取り組んできたHPの着霜対策の研究がある。張氏は10年以上にわたり、空気中の水分を制御するための技術開発に挑み続けてきた。

入所当初には、HP給湯機であるエコキュートの着霜対策に取り組んだ。HPは、空気中の熱を取り込んで温水をつくる仕組み。その過程で熱交換器に霜が付着し、吸熱効率が低下するという課題があった。

これを解決するべく、水分を選択的に吸着する吸着剤(乾燥剤、デシカント)を熱交換器の表面に塗布する研究に着手した。吸着剤が外気中の水分を先に取り込むことで、熱交換器に水分が付着せず、着霜を防ぐ。結果として、吸熱効率の低下を回避する狙いだ。

この技術はその後、冷凍冷蔵ショーケースや電気自動車に搭載する空調システムなどの研究にも応用した。「これまで霜は邪魔な存在として研究していた。それを逆に活用できないか、と考えたのが、加湿技術の出発点だった。水分吸着の研究に携わっていなければ、この発想には至らなかった」と、当時を振り返る。

電中研が提案した加湿技術のイメージ


スピード感を重視 研究競争の激化に危機感

研究を進める上で、張氏が自身に課したテーマは、スピード感だ。

「これまでは、開発提案からプロトタイプ完成までに5年ほどかかっていた。だが、メーカーの実用化への判断はもっと早い。特に家庭用機器や空調分野ではスピードが求められる。昨今の技術開発競争は世界的にも激しく、強い危機感があった」

その反省を踏まえ、今回の無給水加湿技術は、着手からおよそ2年という短期間で形にした。
今後は空調機器メーカーなどと連携し、全館空調向け給水不要な加湿機の商品開発を目指す。

22年に改正された建築物省エネ法や、同年に新設された断熱性能等級6・7を追い風に、高断熱・高気密住宅の普及が進みつつあり、全館空調市場の拡大が期待されている。

「HP関連の研究は、発電や送配電などの領域とは質が異なる。そうした領域だからこそ、生活者の日々の暮らしに役立つ技術を届けたいという気持ちが強い」と、張氏は力を込める。

発想の転換から生まれた無給水加湿技術は、身近な課題に応える新たな選択肢となるかもしれない。これからの住環境づくりに一石を投じたい考えだ。

豪州グリーン水素計画がとん挫 脱炭素への逆風に対峙するには


【脱炭素時代の経済評論 Vol.17】関口博之 /経済ジャーナリスト

豪州北東部、クイーンズランド州で計画されていた「グリーン水素」プロジェクトがとん挫した。現地報道によれば、州政府所有のエネルギー企業で計画の中核を担うスタンウェル社が7月初めに撤退を表明した。広大な太陽光発電所の電力で水の電気分解を行い、2031年には日量800tの液化水素を生産、日本とシンガポールに30年間輸出もする構想だった。日本からも関西電力などが水素の引き取り手として参画していたが、価格面で折り合えず去年以降、撤退が続いていた。

豪州最大のプロジェクトだった
出典:スタンウェル社のホームページ

豪州最大のグリーン水素プロジェクトが行き詰まった直接の要因は、去年10月に労働党から自由国民党に政権交代した州政府が、追加の財政支援を拒んだことだった。実際当初125億豪ドルと見込まれていた事業費見積もりはその後、147億5000万豪ドル(1兆4千億円余り)にまで膨らみ、州政府のジャネツキ財務相は「本質的に投機的なプロジェクト、賭けに税金は使えない」と切り捨てた。

労働党の連邦政府はこのプロジェクトの基本設計などに既に9000万豪ドルの助成を投じてきた。連邦政府は依然、グリーン水素を新たな産業に育て豪州を「水素大国」にする目標を堅持しているようだ。ボーウェン連邦エネルギー相は逆風を認めつつも「電化が難しい熱需要産業の脱炭素化においてグリーン水素の重要性は変わらない」と述べている。

よちよち歩きの水素産業に政策的支援は不可欠だが、政権交代などで政策の〝風向き〟が一気に反転するリスクは常にある。今回の豪州プロジェクトの挫折もそれを物語っている。

さらに日本の視点からは、広大な土地があり太陽光などで安価な再エネ電力が得られる豪州は恵まれて見える。それでさえも「グリーン水素事業」を成り立たせるのは容易ではないという現実は重い。わが国の水素基本戦略は30年に年300万t、1㎥当たり30円、50年に2000万t、同20円の目標を掲げる。

多くを海外から調達する想定だが国際的なサプライチェーンはまだない。最善の選択肢はグリーン水素だとしても、化石燃料の改質とCO2の回収・貯留・利用を組み合わせたブルー水素も合わせて考慮する必要がある。低廉な水素は低廉なアンモニアやeメタンにも欠かせない。製造工程に関わる炭素集約度を確実に抑えつつ、アフォーダブル(手頃)な水素を作っていく、そうした「現実解」が求められる。

現実解にこだわるのは脱・脱炭素とでもいうべき揺り戻しの風潮が広がりつつあるからだ。トランプ政権の減税・歳出法が7月に成立し、バイデン前政権による再エネ支援策が大幅に縮小された。EVの購入補助は今年9月末で打ち切り、太陽光・風力への税額控除も段階的に縮小する。ドイツでも今年連邦議会選挙で躍進したドイツのための選択肢(AfD)は「仮説的な気候モデルに基づく政策を止める」として再エネ・省エネの推進に反対する。似た主張は今般の日本の参議院選挙でも一部の党から見受けられた。ここを突く右派ポピュリズムに対峙するには「現実解」を積み上げていくことが一番だ。

逆境下でも成長し続ける企業へ 攻めの投資と人材育成を強化


【事業者探訪】細谷地

LPガス販売を主軸に、地域に根差したライフラインサービスを手掛けている。

急速な人口減少という逆境下、収益力の向上と人材確保の両面で成長戦略を描く。

2013年に放送されたNHKの朝ドラ「あまちゃん」の舞台として人気の観光地となった岩手県久慈市。この地でLPガス事業を営む細谷地の歴史は、1952年に初代社長の細谷地倖助氏が、炭の粉末を丸めて固めた燃料「たどん」の販売を手掛けたことから始まった。

58年にLPガス事業に参入し、現在は電力小売りや灯油販売、ガソリンスタンド経営といったエネルギー関連事業と共に、家電販売店や携帯電話ショップ、レンタカーショップや道の駅での産直店、さらには農園の経営と、地域に根差したビジネスを幅広く展開している。

顧客数はLPガスが7200軒、灯油が3500軒、電気が1200軒ほど。電力事業では、同社も出資し17年に設立した地域新電力「久慈地域エネルギー」の「アマリンでんき」を家庭や企業向けに販売。22年に環境省の脱炭素先行地域に選定された久慈市は、海と山に囲まれた地形を生かした自然エネルギーに恵まれており、地域の水力発電や太陽光といった再生可能エネルギー由来の電気を供給している。22年の市場価格高騰をきっかけに、新規契約の開拓は停滞したままだったがようやく再開し、地産地消の電気を少しでも安く地域に供給できる環境が戻ったところだ。


未知の領域を開拓し 経営力向上に注力

「これまでは潰れない会社を目指してきたが、今は成長する会社づくりへと経営戦略を転換し取り組んでいる」と話すのは、3代目社長の細谷地茂陽氏。久慈市は過疎化が進む岩手県の市町村の中でも、4番目に人口減少率が高く、今後は地域経済の疲弊に伴う市場の縮小が避けられそうにない。こうした厳しい状況下であっても、企業としての持続的な発展を追求していこうという意思は固い。

3代目の細谷地茂陽社長

その実現のために経営戦略の柱に据えるのが、「長期投資計画」と「働きがい改革」だ。新たな需要を創出し収益力を高めることに加え、魅力的な職場環境を作り優秀な人材を確保することは、成長に向けた大きな経営課題。今年は、新しい領域や分野を切り開いていこうという意味を込めた「フロンティア戦略」を掲げ、全社を挙げ経営力向上に挑戦している。

長期投資計画では、人口減少下で収益を伸ばすための鍵となる商圏と事業の拡大に取り組む。事業エリアを久慈市内にとどめず、隣接する盛岡市や青森県八戸市といったより大きな商圏で事業基盤を築くほか、事業の多角化をより一層、進めていく必要がある。また、他社との協業やLPガスの商圏譲渡案件が出た際のM&A、生産性向上のためのDX(デジタルトランスフォーメーション)投資を積極的に行うなど、新たな収益チャンスへの種まきに余念がない。

「LTV(顧客生涯価値)」向上も、大切な取り組みの一つ。人口減少により、潜在的な顧客数が減っていくことは避けようがない。そこで、ガスのみならず電気、灯油、水、携帯電話といったさまざまな商材を取り扱いながら、デジタル、リアル双方で顧客接点を持つ頻度を増やす。それとともに、他社にはない商品・サービスの提供やアフターサービスの充実、社員への信頼感の醸成することで、顧客満足度や付加価値を高め、高収益モデルを築き上げようという狙いがある。「原点に立ち返りながら、お客さまとの円滑なコミュニケーションで信頼関係を築き、末永く当社と取引していただけるようにしていきたい」(細谷地氏)

参院選で争点化すべきだった政策とは 既存政党の枠組み超えガラガラポンを


【永田町便り】福島伸享/衆議院議員

これを書いているのは、参議院選挙の投開票日前の各社の最終の情勢記事が出そろった頃である(7月17日現在)。それを前提に、今後の政治を占ってみたい。

今回の参院選は自公の与党が大敗、参政党や国民民主党といった新興政党の躍進、参政党が自民票を奪った漁夫の利での立憲民主党の堅調、左派勢力の停滞といった結果で終わりそうである。

昨年の衆院選に続いて参院選でも与党が過半数を割るという結果は、当面カオスとも言うべき日本政治の状態を生むことであろう。執筆時点では、石破首相が退陣するかどうかはわからない。仮に退陣して自民党が新たな総裁を選んだとしても、その総裁が衆議院本会議で内閣総理大臣に指名されるとは限らない。自民党分裂の引き金になるかもしれないため、慎重にならざるを得ないだろう。

一方、野党が衆参両院で過半数を握ったからといって、立憲民主党や維新から共産党までが一緒になった野党連合政権が誕生することはない。連立の組み替えをしようにも、国民の支持のない弱り切った自公政権に、国民民主党や立憲民主党は当面手を差し伸べないだろう。解散権は現職総理にあるから、このような政治状況の下では解散するわけにもいかない。

カオスとなった政治体制の下で、わが国は外政面では依然続くロシアとウクライナの戦争、不安定な中東情勢、緊迫する東アジアの安全保障環境に備え、トランプ政権との交渉をしなければならない。内政面でも、物価高、人手不足などへの対応をしなければならない。日本にとっての大きな危機だ。


原子力は争点とならず 積極政党が議席伸ばす

今回の参院選では、多くの政党は減税や給付、外国人問題を訴えることが中心で、外交や安全保障、エネルギーの安定供給など国家の根幹に関わる政策はほとんど争点にならなかった。数年前までは原子力政策が与野党間、野党内での選挙での対立軸となったが、今回の参院選ではやはり争点とならなかった。議席を伸ばした政党は、原子力政策に積極的な政党だ。

こうした政治状況にあって、私は目先の減税や給付、情緒的な外国人問題ではなく、この30年間追い求めてきた「政権交代のある二大政党制」の幻想から脱却するための選挙制度の抜本改革を含む政治改革、中長期的視野を見据えたマクロ経済政策、米国の凋落を見据えた自主独立の外交安保政策の確立の三つを柱とした、既存政党の枠組みを超えたガラガラポンが必要だと考える。カオスの状況を続けてはいけない。無所属の立場を最大限生かして、私なりに行動してまいりたい。

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ふくしま・のぶゆき 1995年東京大学農学部卒、通産省(現経産省)入省。電力・ガス・原子力政策などに携わり、2009年衆院選で初当選。21年秋の衆院選で無所属当選し「有志の会」を発足、現在に至る。

【フラッシュニュース】注目の「政策・ビジネス」情報(2025年8月号)


NEWS 01:大もめの洋上風力FIP転 事業者の理解に課題

三菱商事が落札した洋上風力公募第1ラウンド(R1)のFIP(市場連動価格買い取り)制度への転換を巡り、業界内が大もめとなっている。政府が方針を示した後、「後出しのルール変更は公平性を損なう」などと事業者から多数の反発が上がっていた。

政府は3月に開いた経済産業省と国土交通省の合同会議で、FIP転は「制度変更ではなく運用の明確化」だと説明。しかし事業者の不満は収まらず議論は持ち越しに。6月3日の会合には2団体・14事業者が参加し、理解を示す声がありつつも、やはり反対意見が目立った。

R1のFIP転を巡り業界内が揺れている

そして6月下旬、有識者や団体などに再度ヒアリングを実施。青山学院大学大学院の山口直也教授はこの措置について「国民負担の中立性確保を条件として、他の再エネ事業者との公平性を確保する観点からも適切」とした上で、R1の公募とFIP認定の適用拡大の検討時期が重なっていたことから、「政府はFIT・FIP認定のいずれかを選択することが可能になると早い段階で丁寧に説明する必要があった」と指摘した。今後、R2、R3の事業者への配慮としてどのような措置が示されるかが注目される。

他方、別の公募落札組から外資が撤退するうわさが出始めるなど、洋上風力事業全般が岐路に立つ状況に変わりはない。投資完遂に向けたさらなる支援も待ったなしの状況だ。


NEWS 02:メガバンク系として初 金融商品と一体で電力小売り

三菱UFJ銀行の100%子会社MUFGトレーディングが、法人向けの電力小売り事業に乗り出す。メガバンク系としては初の取り組み。電力卸売り事業者や日本卸電力取引所(JPEX)から電気を調達する。7月1日には、パイロット案件として三菱UFJ銀行と年間1600万kW時の契約を締結した。環境価値を組み合わせ、CO2フリーの電気を供給していく。

2022年7月に設立されたMUFGトレーディングは、銅やアルミ、半導体といった現物商品を取り扱い、在庫を一時的に買い取ることで財務負担を軽減する在庫ファイナンスサービスや、輸出入取引における資金供給・与信などの貿易金融サービスを展開してきた。

電力小売り事業には、そうした金融サービスで培ったノウハウを応用する。需要家に対しては、電力の供給に加え、支払い時期の調整や立替払いなど、資金繰りに配慮したサービスを一体的に提供。さらに卸売り事業者向けには、与信サービスを手掛ける。取引実績のない新電力と企業需要家を仲介し、電気料金を立て替え払いした上で自ら回収する仕組みだ。外資系を中心とする卸売り事業者にとっては、信用リスクを軽減する手段となり得る。

新電力業界関係者は、「顧客のアカウントを多数保有しているため、既存の金融サービスに付加した電力サービスに訴求力を出せれば、大きな需要群になる」と、インパクトを予想。また、「卸売り事業者向けにも、各社の与信サイズに応じた取引がMUFGを仲介として行われることが想定され、大きなビジネスのハブになり得る」との見方を示す。 メガバンク系だからこそのビジネススキームが、既存の電力取引の在り方に一石を投じることになりそうだ。


NEWS 03:東ガスが水素導管整備を検証 首都圏拠点に供給網構築へ

水素の利用拡大に向けて、首都圏での供給インフラ整備が本格的に動き出した。東京ガスは7月15日、羽田空港周辺を含む都内への水素供給に向けた高圧パイプライン構築の検討事業を東京都から受託したと発表。輸入拠点の川崎市から、今後の需要拡大が見込まれる大田・品川・港・千代田の4区に水素導管を敷設する構想で、事業期間は来年度末まで。都内への高圧パイプライン構築の具体的な検討は国内では初となる。

背景には、東京都の脱炭素政策がある。都は2030年までにCO2排出量を00年比で半減、50年には実質ゼロとする目標を掲げる。昨年には協議会を立ち上げ、水素活用強化に向けた動きを強化してきた。

ただ、都心の地下は電気やガス、上下水道、通信など多くのインフラが密集しており、東ガスの担当者は、「新たに高圧パイプラインを通すには一定の難易度がある」と話す。今後は各区の埋設状況を調査し、どの位置にどの程度の深さで敷設するかといった具体的な検証を進めるという。

水素供給網の整備には、パイプライン以外にも輸入元の確保や海上輸送、液化設備の整備など多くの要素が絡む。調達先の有力候補である豪州では、岩谷産業や関西電力が水素事業からの撤退を表明し、豪州政府も追加出資を見送るなど、現地プロジェクトの継続が不透明になっている。

こうした逆風を乗り越え、水素社会実現への現実的な道筋を描けるか。今回の取り組みはその試金石となる。前出の担当者は、「需要と供給は両輪で回す必要がある。検証を通じて水素供給の具体的な絵姿を示し、需要喚起にもつなげたい」と意気込む。調達、コストなどで課題の多い水素の光明となるか。


NEWS 04:火力好況で三菱重工の強気 旧一電との立場が逆転か

「三菱重工も立場が強くなったよ。当社の新設計画を持ち掛けても『その条件では無理』と一蹴されてね」。関西電力火力部の関係者はこう嘆息する。

関電が計画する南港火力(180万kW)リプレース。これまで堺港(200万kW)、姫路第二(290万kW)と主力のコンバインドガス火力は軒並み三菱重工業製だった。重工もそんな期待に応えて、当時、最高水準となる発電効率の設備を納めてきた。関電にとって久々の大型ガス火力の更新となる南港についても、「組みやすいパートナーの重工が脳裏にあったはず。少々無理な要求も通るしね」(事情通)。しかし結果は冒頭の通り。結局は、東芝が担うことに。

関電がリプレースを計画する南港
提供:関西電力

重工の強気の背景にあるのは、世界における火力好景気の波だ。アジアや北米に目を向けると、円安を追い風に大型案件を次々と受注。かつて米GEの牙城「ガスタービン世界シェア№1」の戴冠はいつの間にか重工に。国内ではシステム改革によって火力存続が不透明な中、よほどの条件でない限り関電はおろか国内市場にリソースを割けないと見る向きも。

かつては国内の大手電力が長期的な火力の展望を描き、メーカーが技術とコスト競争力を磨いて応えてきた。「主力企業の海外シフトで、『国内空洞化』が今後の国内火力政策を一層と混迷させなければいいが」。前出関係者の心配は尽きない。

【覆面ホンネ座談会】一見サプライズなしも…… 経産・環境人事を裏読み


テーマ:経産・環境省の幹部人事

今年も霞が関人事の季節となり、7月1日、経済産業省や環境省幹部人事の発令があった。両省ともに、全体的に大きなサプライズはなかったように見えるが、関係者や事情通は今回の人事をどう読み解くのか。

〈出席者〉 A 霞が関OB B 霞が関事情通 C ジャーナリスト

―まずは経産省から。飯田祐二氏(1988年)が事務次官を退き藤木俊光氏(同)が就任した。武藤容治経産相が「足元で重要課題を抱える幹部の多くは継続性の観点から留任」と会見で説明したように、部長以下は大きな動きがなかった印象だ。村瀬佳史・資源エネルギー庁長官(90年)も留任だった。

A 同期の飯田氏からバトンタッチされた藤木氏は、経済産業政策局長から次官という王道ライン。留任となった経済産業審議官の松尾剛彦氏(88年)も同期でバランスが良い。

武藤経産相が述べたように、重要課題に関わる幹部の多くが留任。例えば米国の関税対応を巡っては、松尾氏の他、荒井勝喜・通商政策局長(91年)、伊吹英明・製造産業局長(91年)がいずれも留任した。エネルギー的には電力・ガス取引監視等委員会事務局長の新川達也氏(91年)の留任も注目点だ。

B 全体では動きが少ない中、ポイントといえるのがGX(グリーントランスフォーメーション)のラインだ。藤木氏の後任で、畠山陽二郎氏(92年)が産政局長に就き、首席GX推進戦略統括調整官を引き続き兼務。畠山氏の後任で、龍崎孝嗣氏(93年)が資源エネルギー庁次長に。そして脱炭素成長型経済構造移行推進審議官兼GXグループ長は、龍崎氏から伊藤禎則氏(94年)が引き継ぐ。

参院選を経て大混乱が予想される永田町。翻って経産・環境省は堅実な体制に衣替え


意外な省新部、ガス室の人事 再稼働など要所人材は動かず

C 資源エネルギー庁では、電力・ガス事業部長や資源・燃料部長が留任で、省エネルギー・新エネルギー部長に小林大和氏(96年)が就任した。個人的には中小企業庁経営支援部長となった山崎琢矢氏(96年)が省新部長でもおかしくないと思った。山崎氏は省新部も長く、洋上風力政策の初期に法案を作り上げた人だ。

B 確かに山崎氏の人事は驚きだった。ただ、今回退官した奈須野太氏(90年)のように、かつて同じポストを務め中企庁でのキャリアを積み、その後産業技術環境局長や内閣府の要職を務めた人もいる。

A 小林氏と共に、省新部政策課長の那須良氏(2001年)は電ガ部主要ポスト経験者。こうした人を省新部に配置したということは、電力政策全般を俯瞰しまともな再エネ政策を強力に進めていく、とのメッセージかもしれない。

電ガ部では、小川要・政策課長(97年)、吉瀬周作・参事官(03年)、佐久秀弥・電力流通室長(07年)の3人が、長官官房に新設されたエネルギー制度改革推進総合調整官を併任する。このポストのミッションが何なのか、気になる。また、ガス市場整備室長に就いた迫田英晴氏(04年)は電ガ部、資燃部、電取委とエネルギー関係で相当な経験がある。この人事からは何か動きがあるのかと予想される。ガス業界にはなじみが薄い人かもしれないが、業界内だけを見ずに新たな政策を考える上では適任だろう。

―ガスシステム改革の検証や再構築ではないかと言われている。懸案の柏崎刈羽再稼働を担当する面々についてはどうか。

B 原子力政策課長に就いた多田克行氏(01年)も順当で、原子力に強い人材を持ってきた。そして新潟などで地域対策を担ってきた山田仁・資源エネルギー政策統括調整官(92年)や、佐々木雅人・エネルギー・地域政策統括調整官(95年)も留任。本来は部長にしてもおかしくなかった。村瀬長官にとっては柏崎刈羽の再稼働が最大のミッションであり、自身の仕事に直結するポストの人材は課長級も含め変えたくなかったのだろう。とはいえ各人の受け止めは気になる。

青森に福島の使用済み燃料搬入へ 宮下知事が協力姿勢のワケ


東京電力の小早川智明社長は7月7日、青森県庁で宮下宗一郎知事と面会し、福島第一原発5、6号機と福島第二の使用済み燃料を、むつ市の中間貯蔵施設に搬入する方針を示した。同社は福島事故後の点検や技術評価で、中間貯蔵と再処理が可能だと想定。中間貯蔵施設は昨年9月、柏崎刈羽原発から使用済み燃料が運び込まれ、11月に操業を開始している。

青森県の宮下宗一郎知事(手前)と会談する東京電力の小早川智明社長(右から2人目)

2023年6月に就任した宮下知事は、4年の任期を折り返した。むつ市長時代に電力会社による中間貯蔵施設の共同利用案に強く反対していたため、業界からは原子力政策へのスタンスを不安視する向きがあった。だが、「国策としてのエネルギー政策に協力し……電源立地県としての責任を果たしていきます」という知事選の公約通り、国や事業者への協力姿勢を見せている。柏崎刈羽の使用済み燃料の搬入を容認し、六ケ所再処理工場についても6月、本誌のインタビューで「操業をしっかり進めていくことが重要」との認識を示した。

こうした宮下知事の姿勢について県政関係者は「事業者へのスタンスは実は優しいのではないか」とした上で、「自身が進める子育て支援などの財源確保には原子力関連の枠組みしかないと考え、核燃料税収増を見据えて国や事業者とディールをしているのだろう」と分析する。

しかし、発信力が強い宮下知事だけに、計画のとん挫や安全性が疑われる事態が生じた際の影響は計り知れない。予定通りの再処理工場の操業、最終処分場の選定プロセスの前進が重要なのは言わずもがなだ。

【イニシャルニュース 】政情より私情? 石破人事に疑念の声


政情より私情? 石破人事に疑念の声

7月20日に投票を迎える参議院選挙。記事執筆の7月中旬にはまだ結果が出ていないものの、自公連立政権には厳しい結果になりそうだ。そして選挙中から自民党で話題になったのは、石破茂首相の度量のなさだ。その表れの一つが人事だ。

現在の政権の重要課題は米国のトランプ政権との関税・貿易交渉だ。7月時点でトランプ大統領は、日本からの輸入品に対して8月1日から25%の関税を課すことを自身のSNSで明らかにした。実は、自民党内や霞が関の官僚団で「交渉を担当すれば」と期待されていたのが、かつて石破派にいたS議員だ。経産官僚出身、同省大臣も務め、米国との通商交渉の経験も長い。しかし石破首相は、担当者に側近のA大臣を選び、主担当であるM大臣も飛ばした。もちろん米国側の主張が不当とはいえ、交渉は難航した。コメ価格の高騰でも、農水相を務めたS氏の登場を期待する声があったが、首相は小泉進次郎氏を担当大臣にした。

内政でも選挙公約で突如、自民党は「違法外国人ゼロ」を掲げた。しかし党内で厳しい外国人管理政策を主張したY元法相を、政府の要職に就けていない。S氏、Y氏とも岸田文雄首相が選ばれた2020年の総裁選で石破首相への支持を見送った。それをいまだ根に持っているらしい。

また以前、支持をしたK元経産相、旧石破派のT議員などにも政府の重要ポストを渡していない。自民党関係筋は「首相の器の狭さでは必ずいつか大きな失敗をするし、党もまとまりがなくなる」と懸念する。エネルギー政策に悪い形で波及しなければいいが。

再稼働で社長交代なるか


東電・原電の社長人事 再稼働後に同時交代?

日本原子力発電の村松衛社長の後任に、東京電力ホールディングス(HD)執行役副社長の永澤昌氏が就くのではないかとの観測が、電力業界関係者の間で広まっている。

永澤氏は、旧東電の企画畑のエースで、優秀な人物との評。22年から東電リニューアブルパワーの社長を務めていたが、去る6月の人事で東電HDに副社長の立場で戻ってきた。代表執行役副社長の酒井大輔氏と並んで、小早川智明社長の後任候補と見る向きもあるが、永澤氏が原子力事業に精通していることや東電役員を巡る諸事情を踏まえると、「個人的には村松氏の後継になるのではないかと考えている」(元東電企画畑出身のA氏)。同じく東電の有力OBであるB氏も、同様の見立てだ。

村松氏は旧東電の企画部長などを経て、14年に日本原電の副社長、翌15年に社長に就任。以来、交代説がささやかれながらも、「村松社長の代わりになる人材が見当たらない」(原電関係者C氏)といった事情から、10年以上にわたって社長職を務め続けている。

「もし交代するにしても、原電にとっての最重要課題である東海第二原発の再稼働にメドを付けてからではないか」(C氏)との見方も根強くある中で、電力事情に詳しいジャーナリストは「今年度中に、東電の柏崎刈羽原発6号機の再稼働が無事実現すれば、それを花道に、社長9年目に突入している小早川氏が交代する可能性がある。これが原電においてもトップ交代のタイミングになるかも」と予想する。

東電、原電ともに長らく現社長体制が続いていることに加え、長期停止中の原発の再稼働という重要イベントが、トップ交代を左右するカギとなりそうだ。


省内の実力者を暗示 「右ルート」再来あるか

霞が関の各省庁の役人トップは事務次官だが、実態はそうではないケースがある。例えばかつてのK省だ。10年ほど前、K省の次官はX氏。そして官房長は実力派として知られたY氏だった。隣り合った二つの部屋の左が事務次官室、右が官房長室。そのうち官房長室の「右ルート」は常に渋滞するようになり、記者が話を聞こうとしても待たされるケースがたびたび発生するように。当時、同省で取材していた記者は「省内の意思決定を実際に担っているのは右ルートの人」と察したという。

Y氏はその2年後、次官に就任。それまでは他省と対立していたような案件でも協調路線を重視し、K省が融和型に脱皮する下地を作った。ただ、X氏も貴重な人脈を持っていて、当時の政権で要職を務め、権威を振るった政治家と長年の付き合いがあった。重要政策を巡り最後は、この政治家との直通ルートで決定を仰ぐことがあったという。

さて、7月の人事で各省は新たな布陣となったわけだが、先述のような現象のデジャブがあるのか、注目して見てみるのも面白いかもしれない。

【コラム/8月7日】米国政府の挑戦状 気候危機に対峙する報告書が波紋


杉山大志/キヤノングローバル戦略研究所研究主幹 

7月に公表された米国エネルギー省の気候作業部会の報告が反響を巻き起こしている。タイトルは「温室効果ガス排出が米国気候に与える影響に関する批判的レビュー(A Critical Review of Impacts of Greenhouse Gas Emissions on the U.S. Climate)」だ。

これまでは気候変動といえば「2050年までにCO2排出をゼロにしなければ地球温暖化が暴走する」といった気候危機説が諸国政府やメディアによって流布されてきた。しかしこれは科学的な根拠がない。そのことを、この報告書はデータに基づいて説得的に述べている。気候危機論者への、米国政府による公式の挑戦状だ。

この報告書は、自らが多様な専門知識を持つクリス・ライト米エネルギー長官が集めた5人の独立科学者からなる「気候ワーキンググループ(Climate Working Group, CWG)」が作成した。調査対象としてはもちろん地球全体であるが、特に米国への影響に重点を置いている。


EAP「CO2危険性」撤回を提案 CWGの見解を引用

さっそく政策形成にも影響を与えている。報告書の発表と同日にトランプ政権は米国環境保護庁(EPA)の「CO₂危険性認定」を撤回する提案を公表した。撤回が実現すれば、EPAは自動車などのCO2排出を規制する権限を失う。この提案にはCWG報告が何度も引用されている。

以下、各章の概要を紹介しよう。

第1章では、CO2はいわゆる汚染物質ではないこと、それには植物の生育を促進するなどの直接的な効果と、温室効果ガスとしてふるまうという間接効果があることを説明している。

第2章では、大気中CO2の直接的な効果として「地球緑色化」に焦点を当てている。すなわち大気中CO2の増大は、光合成を高めるという「施肥効果」によって、地球上の植物を繁栄させてきた。このCO2がもたらす生態系への便益は大きなものだが、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)などの既往の報告では扱いが極めて乏しかった。

第3章では、CO2 のもう一つの直接的効果として「海洋酸性化」を論じている。用語として「海洋酸性化」は不適切で、むしろ「海洋中性化」というべきである。というのは、海水は弱アルカリ性であり、CO2はそれをやや弱くするだけだからだ。なお海洋生態系は弱酸性の海洋で進化してきた歴史があるために、この海洋中性化に大きな問題にあるとは考えにくい。

第4章では、人間活動による温室効果ガス(とエアロゾル)が地球の気温上昇を司る支配的な要因であるというIPCCの説に有力な疑問を投げかける。太陽活動の変化や大気・海洋などの内部変動の寄与は無視できないほど多いという論文が紹介される。またIPCCが環境影響評価に用いるシナリオの排出量が非現実的に多すぎるため、環境影響が過大に評価されていることも指摘する。

第5章では、CO2がどの程度気温を押し上げるか――いわゆる気候感度(ECS/TCR)が議論される。IPCCが示す範囲よりも気候感度は低い、つまりCO2が排出されてもそれほど気温は上昇しない、という論文が紹介されている。

第6章では、IPCCが用いる気候モデルの性能検証を行う。気候モデルは過去の再現にも大きく失敗している。観測データに比べて全般的に気温が上昇しすぎる傾向が顕著であり、また、南北半球の反射率が大きく異なるなど、観測データに合わない出力になっている。これでは将来予測も信頼に足らず、政策決定のツールとして使い物にならない。