指摘されるDX・GXの新局面 どうなる日本の電力需要


【多事争論】話題:日本の電力需要の将来展望

電力需要急増の可能性があちこちで聞かれるが、果たして将来をどう展望すべきか。

エネルギー基本計画の議論でシナリオ分析を行った2機関の専門家の意見を紹介する。


〈 さまざまな不確実性が存在 いずれも価格動向と密接に関係 〉

視点A:秋元圭吾/地球環境産業技術研究機構「RITE」主席研究員

日本では2010年頃を境に電力消費量は低下傾向となった。省エネルギーの進展が一因ではあるが、より大きな要因は、電力多消費産業の途上国への移転である。他方、最近になってデータセンター(DC)や半導体工場需要など、IT関連の需要の伸びが顕著である。電力広域的運営推進機関が昨年1月に取りまとめた今後10年の電力需要の想定では、10年前後から続いてきた低下トレンドとは異なって上昇に転じる見通しが示された。

日本の電力需要の上昇要因としては、所得効果、世帯数の増大、気候変動要因による夏季の電力需要の増大、デジタル化による電力需要の増大、CO2排出削減対策に伴う電化の促進などがある。他方、減少要因としては、人口の低下、気候変動要因による冬季の電力需要の低下、海外との相対的な労働生産性低下によって電力多消費産業が海外にシフトすることによる需要低下、CO2排出削減対策に伴う海外との相対的なエネルギー価格差の増大で電力多消費産業が海外にシフトすることによる需要低下、などが挙げられる。これらが複合的な要因となりつつ、結果としては10年前後までは需要は大きく上昇、その後低下してきた。

今後の需要には大きな不確実性がある。主には、①生成AIを中心としたIT関連需要の増大の程度、②電化の促進の程度、③CO2排出削減対策に伴う海外への電力多消費産業の移転の程度―と見ている。①、②は需要増大要因、③は減少要因である。しかしいずれの要因についても、海外との相対的な価格を含む、電力価格の展望とも密接に関係している。

計算インスタンスは、今後も劇的に増大していくだろう。従来は、省電力を実現する技術進展が見られ、電力需要の増大はそれほど大きくはなかった。今後も過去と同様の省電力効果が続くとする見方と、省電力効果は飽和するとの見方の双方が、以前から存在している。ところが、ここにきて生成AI需要によって、足元でさえも電力需要増が見られる。計算インスタンスが激増するため、仮に省電力効果が続いたとしても相応の需要の伸びが予想されてきている。技術見通しは不確実性が大きく、明確な見通しを持つことは難しい。しかし、従来とは異なった大きな上昇要因が加わってきたことを認識する必要がある。


想定により50年横ばいから30%増まで 在り方誤れば相対価格上昇へ

潜在的には大きなIT需要が存在したとしても、電力価格が高ければ経済的に成立せず、需要が伸びない可能性もある。また、海外と比べ相対的に電力価格が高い状況になれば、DCなどの一部もしくは多くの立地が海外で進むこととなり、国内の電力需要はそれほど伸びない可能性もある。

電化の流れは間違いなく続くが、CO2排出削減に対応して急速に電化率を高める必要があるのは、日本では75%程度を上回る排出削減領域と見ている。50年カーボンニュートラルの公式目標が実現される場合はかなり電化率が高まるが、費用負担の大きさ、海外との相対価格の上昇の回避という点で、実際にどの程度まで排出削減を進められるかは、国内の気候変動・エネルギー政策だけではなく、海外の政策にもよる。そして、これがまた電力多消費産業の海外移転に大きく効いてくる。今般、政府は40年度の排出削減目標を13年度比で73%減とし、この領域では劇的に電化率を高める経済的合理性は大きくない。CO2排出削減により誘発される追加的な電化は40年以降の電力需要への影響が大きい。

RITEのモデル分析では、世界1・5℃未満、そして日本は50年実質排出ゼロを実現するという前提で、技術進展が順調という想定の下では、海外との相対価格は大きく広がらないため、40年の電力需要は17%上昇、50年では②の効果も強まって30%程度の上昇と推計している。他方、世界での排出削減の協調がない中、日本が50年実質排出ゼロを実現しようとすれば、③の効果が強く働き過ぎて、電力需要は50年に向けて横ばい程度に留まると見ている。実質排出ゼロに拘らず、世界協調を優先しつつ排出削減を進めるシナリオ(40年60%減程度)では、40年7%、50年18%程度の上昇と見ている。政策を誤らなければ、保守的に見てもこの程度の電力需要は実現されるとみられる。

供給と需要は一体であり、電力供給の在り方を誤れば、電力の相対価格が上がり需要は低位になる。高位の電力需要とそれに伴う経済成長と電力の安定供給のためには、需要が上昇する予見性の高い、供給側も併せた政策が必要である。

あきもと・けいご 横国大工学研究科博士課程(後期)修了、博士。RITEシステム研究グループリーダー・主席研究員。東京科学大学総合研究院特任教授兼務。エネルギー、気候変動政策関連の多数の政府審議会委員も務める。

【需要家】コスト指標なく 現実路線迫られるエネ基


【業界スクランブル/需要家】

第7次エネ基の案では、「原発依存度の可能な限りの低減」が削除、「再生エネか原子力かといった二項対立的な議論ではなく、再エネと原子力をともに最大限活用していくことが極めて重要」とされ、原子力政策の方向転換が注目された。本文にある通り、原発の再稼働が進展しているエリアの電気料金が他エリア比で最大3割安いという現実を見れば、電力需要家として歓迎すべきものだ。

前書きでは、欧米の野心的な脱炭素目標が現実と乖離し始め、「経済性と安定供給との間でバランスを取る現実路線への転換」が始まっていると指摘。「わが国が産業を自国に維持・確保し経済成長できるかは、脱炭素電源を十分確保できるかにかかっている」とし、「わが国の産業立地競争力の観点からは、国際的に遜色のない価格で安定した品質のエネルギー供給が不可欠」とされていて、これも歓迎だ。

しかし、エネルギー政策が日本の産業を海外に押し出し、国民に窮乏生活を強いて脱炭素化を進めることがないようにするために不可欠である、「国際的に遜色のない価格」の具体的指標、それを実現する施策は残念ながら明記されていない。エネルギー安定供給、経済成長、脱炭素の同時実現を追求する同計画であるが、現状はこれらの間にトレードオフの関係がある。脱炭素によるエネルギーコストアップが本文中でも指摘される中、その対策は「経済効率性の向上を行うことが不可欠な視点」と軽く触れるだけでは不十分であり、国際競争力を維持するエネルギー・電力価格の設定と、その実現を目指す「現実路線への転換」が日本にも必要となろう。(T)

【政策・制度のそこが知りたい】数々の疑問に専門家が回答(2025年2月号)


エネ基策定の意義/電力自由化の当初の狙い

Q エネルギー基本計画は、どのような目的で策定されたのでしょうか。

A エネ基は、2002年6月に成立した「エネルギー政策基本法」を根拠法としています。その12条には「政府は、エネルギーの需給に関する施策の長期的、総合的かつ計画的な推進を図るため、エネルギーの需給に関する基本的な計画(以下『エネ基』)を定めなければならない」とあります。つまり、エネ基を知るには、基本法の立法趣旨を理解しなければなりません。それは、2条(安定供給確保)と3条(環境適合)、そして4条(市場原理の活用)であり、5条で国は、2~4条に定めるエネルギー需給に関する施策について、総合的に策定し実施する責務を有する、として国の役割を明示しています。

それ故のエネ基ですが、2条2項と4条には重要な立法趣旨が読み取れます。2条2項とは「他のエネルギーによる代替又は貯蔵が著しく困難であるエネルギーの供給については、特にその信頼性及び安定性が確保されるよう施策が講じられなければならない」。つまり電力は安定供給が第一義という趣旨であり、市場原理の活用をうたう4条でも「2条・3条の政策目的を十分考慮しつつ、事業者の自主性及び創造性が十分に発揮され、エネルギー需要者の利益が十分に確保されることを旨として、規制緩和等の施策が推進されなければならない」として、安定供給と環境適合性が前提であることがうたわれているわけです。

基本法は故加納時男参議院議員が中心となって起草した議員立法でした。その後、福島第一原子力発電所の事故を踏まえて、安全性を大前提としましたが、その立法趣旨は不変です。この趣旨を着実に追求すれば、エネ基の電源比率などの目標は自ずと定まっていくと思います。

回答者:市村 健/エナジープールジャパン代表取締役社長兼CEO


Q 電力自由化は、そもそも何のために実施されたのでしょうか。

A 1983年の臨時行政調査会最終答申には、エネルギーについて、「民間の活力を生かすことを原則とし、公的部門が行う施策は(中略)効率的・整合的なものとする」と書かれています。臨調は、行政改革の文脈で検討されたものであり、高度経済成長期が終焉した日本において、行財政の肥大化への課題意識から、規制産業であるエネルギーにおける公的な規制・施策を縮小すべきとされたことになります。

80年代から90年代にかけては、欧米で新自由主義的な政権が誕生し、エネルギーや通信、運輸などの公益産業の規制緩和が進展しました。日本の電力産業においても、高コスト構造や内外価格差を是正し「国際的にそん色のないコスト水準」を実現するために、競争原理を導入(自由化)することとなりました。

つまり、電力自由化の当初の目的は「日本の電気代を安くすること」であったと言えます。

ただ、電力は国民生活に不可欠な財であるため、自由化の検討は安定供給や環境への適合といった「公益的課題」との両立を前提とすることとなりました。エネルギー政策の基本である3E(供給安定性、経済合理性、環境適合性)について、安定供給と環境適合を制約条件に経済性を最大化することが、95年から数次にわたった電気事業制度改革の目的意識であると言えます。

その後、東日本大震災後の第5次制度改革である電力システム改革においては、事業の環境変化を踏まえて、安定供給の確保、電気料金の抑制、需要家の選択肢や事業者の事業機会の拡大という三点が主な目的とされ、現在もその実現に向けた制度改革が進められています。

回答者:桑原鉄也/KPMGコンサルティングEnergyセクターリードスペシャリスト

【再エネ】安保上のメリット享受へ 海外依存からの脱却を


【業界スクランブル/再エネ】

第7次エネ基の素案では、2040年における自然エネルギー4~5割の目標が示された。原子力が従来同様の2割とすると非化石電源の目標は6~7割となるが、同時に公開された地球温暖化対策計画の素案で40年度に13年度比73%の温室効果ガス削減を目指すこととされている。原子力の再稼働はいまだ安全対策上の問題がクリアされておらず予定よりも遅れる可能性が高い中で、これら目標達成にさらなる再エネの導入が求められることは言うまでもないだろう。

こうした背景をもとに政府が積極的に導入を支援する再エネだが、今や中国は世界最大級の太陽光パネルおよび風力タービンの市場となっているように、ほとんどの再エネ設備が海外製だ。特に中国製の再エネはコスト競争力が高く普及に寄与している一方で、国が大規模に行う再エネ支援が必ずしも国内産業の活性化につながらないというパラドックスを抱えている。そもそも再エネは自然に存在するエネルギーを活用する国産電源としての一面も評価されてきた。これら設備が中国や欧州といった特定のエリアの製造に依存するとなると、エネルギー安全保障の観点での再エネのメリットが享受できないことにならないか。

逆に、国内の再エネ供給モデルを構築できれば、再エネが外貨市場の価格に左右されずに国内産業の技術力・競争力の向上効果が期待できる。政府はペロブスカイトなど高効率ソーラーパネルを早期に国内製造する目標を掲げているが、これにとどまらずメンテナンスやリサイクルも含む国内再エネサービス産業の創出に本腰を入れるタイミングではないだろうか。(K)

価値創造の地盤を築く太陽光開発 大量保有で長期安定供給を目指す


【エネルギービジネスのリーダー達】上野嘉郎/エネグローバル執行役員事業開発部部長

本社が所在する茨城県を拠点に、太陽光発電所の開発と運営を手掛ける。

1GW保有を目指し、営農型太陽光の展開など新たな可能性を模索する。

うえの・よしろう 1989年宮城県生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、複数の会社を経験。エネグローバルの初期メンバーとして2017年に入社し、太陽光発電所の事業開発を推進。21年から現職。

「再生可能エネルギーは供給量で貢献しなければならない」

こう語るのは、北関東で太陽光発電所の開発事業を手掛けるエネグローバルの上野嘉郎執行役員だ。同社の目標は2030年までに100万kWを開発すること。再エネを長期的に安定供給するには「GW単位の保有」が最低ラインと上野氏は強調する。直近では営農型太陽光の開発に注力するなど、新たな可能性を模索しながら、目標達成への道を歩んでいる。


コストと効率性を重視 本社周辺で事業を展開

同社は2014年11月の設立以降、本社が所在する茨城県を中心に、出力500~2000kWの高圧領域で開発を進めてきた。建設した発電所の案件数は約200件に上る。

FIT(固定価格買い取り)やFIP(市場連動価格買い取り)を活用した売電やオフサイトPPA(電力供給契約)を結ぶビジネスモデルを確立。小売電気事業者やアグリゲーターに加え、三井物産などの総合商社とも実績を積み重ねてきた。
太陽光の企画、設計、施工、保守・管理までを一貫して手掛けられるのが強み。コストと効率性を追求する事業スタイルだ。

17年に入社し、同社の成長を支えてきた上野氏は「本社を中心に車で二時間以内の地域で開発してきた」と、リソースを本社周辺に集中させ、現場主義に徹することを心掛けてきたことを強調する。

これまで、年間3万kW以上のペースで開発を進め、昨年11月時点で、同社が稼働させている発電所は約19万5000kWに達した。今後は、開発エリアの拡大を視野に、埼玉や群馬、千葉など、他の関東エリアのほか、福島や宮城などの東北への進出を検討中だ。

同社が近年、注力しているのが、営農型太陽光の開発事業。背景には、制度変更により山林開発が制限されてきたことがある。李力欧代表取締役とともに、「これからは営農型の時代だ」と、22年に営農法人「EGファーム」を設立し、23年に本格的に始動した。
EGファームでは里芋やジャガイモなどを栽培している。「営農型太陽光を開発するためのごまかしの栽培ではなく、本格的な農業に挑戦している」と農業への熱意も見せる。

代表取締役には、元農家のエネグローバル社員を登用。農機具には2000万円以上を投資し、農業の知見を持つ人材を積極的に採用している。

こうした努力の背景には、設立後に実施した農業業界へのヒアリングがある。営農型太陽光に対する厳しい評価を聞き、同業界に認められる存在になる必要性を痛感した。

「太陽光と農業を別々に考えるのではなく、新しい事業体として両立させることが重要だ」

エネグローバルが自社開発・運営にこだわる理由は、李氏の経営理念にある。

価値創造の原点は事業開発にあり、0から1を作り出すことが重要だ。1がなければ何も始まらない。われわれは0から1に特化する―というのが、李氏が創業時から掲げ続けるポリシー。上野氏がエネルギー業界への扉を叩いたのも、この理念に共感したからだ。


やりがい求め企業を転々 李氏との出会いが転機に

上野氏は大学卒業後、エネグローバル入社前に民間2社を経験するが、やりがいを見いだせず、いずれも3年未満で退職。その後、大学時代から熱中していたバンド活動に3年ほど取り組むも解散した。

「音楽は好きだったが、誰かのためになることがしたかった」と20代半ばに自分の進むべき道を真剣に考えるようになった。

解散後は自分探しのために、青年海外協力隊に応募。書類選考も順調に進み、面接が決まったタイミングで父親から、家族ぐるみで親交のある李氏との会食に誘われた。

「上野君、アフリカに行くよりもつくば(茨城県)で一緒に面白いことをしてみないか」
この言葉が印象に残り、数カ月後には入社していた。

それから月日が経ち、今年で入社8年目を迎える。エネルギー業界の変化を肌で感じながら、再エネの重要性を実感し、直面する課題に挑み続けている。

今後の挑戦として見据えるのは、FIT調達期間終了後に手放された太陽光設備を維持する体制を整えること。FIT以外にノウハウを持たない事業者は、調達期間終了後、事業を撤退し、発電所を撤去あるいは放置する可能性がある。「打ち捨てられる発電所をリパワリングし、長期的に活用できる仕組みを作りたい」と展望を語る。

政府が掲げる50年カーボンニュートラルの達成には、さらなる再エネの推進が不可欠だ。新規開発、そして既存設備の活用の両輪でそれに貢献していく。

【火力】エネ基議論に積み残し 具体策欠く火力活用


【業界スクランブル/火力】

第7次エネ基は、昨年末に原案が示され今月中にも閣議決定される予定となっている。野心的目標という点が際立っていた前回と比較し、バランスを重視し、より現実解に近づいたものになったとされており、事業者からも原子力の復権や予見性確保の必要性などが明記された内容に歓迎の声が聞かれるが、果たしてどうだろうか。

エネ基の議論は昨年5月から13回の会合が重ねられ、その上で原案が示されたわけだが、その間に多数の関係団体からヒアリングが行われ多くの情報を集めた。ただ、意見を聞くばかりで、具体的な議論があまり交わされなかったように見受けられる。

国内外の政治状況を鑑みればやむを得なかったとも言えるが、そうだとすると閣議決定がゴールではなく、積み残している実行プランを検討するスタート地点にようやく立ったばかりと、肝に銘じてもらいたい。

火力については、安定供給確保のための役割とトランジションの必要性が明記されたのは大きな前進だが、個々の文脈では矛盾した内容も多い。非効率な石炭火力のフェードアウトという文言が5回も出てくる一方、石炭火力の安定供給は引き続き重要という記載もある。しかるに、高効率石炭火力の扱いや石炭利用における脱炭素化の道筋については、ほぼ触れられていない。LNG火力についても推して知るべしである。

エネ基では、将来の不確実性への対応として複数のシナリオが示されたが、その変動を補う役割は火力が担うことになる。時間軸も意識した火力活用の具体策を詰めることが無ければ、画竜点睛を欠くことになるだろう。(N)

消費者が求める価値を追求 地域の輪の中心で発展サポート


【事業者探訪】青梅ガス

人口減少社会に突入する中、人々が地域に留まり続けるために何をすべきか―。

青梅ガスは「地域密着」から一歩踏み込み、多角的に地域作りをサポートする考えだ。

都心から西に約50㎞に位置する東京都青梅市。都内でありながら御岳の山や渓谷の四季折々の姿が魅力だ。他方、二次産業の割合が大きくハイテク産業が多く立地するという顔も持つ。この地で、青梅ガスは家庭向けの都市ガス供給を主力に60年間事業を営んできた。都市ガスは市内平坦部を中心に2・3万件に年間1600万㎥程度を供給し、家庭用が約4割。LPガスは2300件程度で家庭用の他、多くの特別養護老人ホームにも供給している。

市の計画づくりにも関わる中村社長

現社長の中村洋介氏はNECに20年勤めた後、関係者に請われ2003年に就任。「社長になるつもりはなかったが、とある講演で『同じ仕事をしているとどんなに優秀な人も20年で燃え尽きる』との言葉を聞き、決意した」と振り返る。自身は青梅に住み都心に通ったが、それは少数派だ。13万人弱の人口の流出を食い止め、地域で仕事ができる環境を促すことが、長い目で見て自社の利益にもなると考える。その点、地域のハイテク産業のエネルギー需要は電気が主で、ガスの供給拡大には直結しないものの、元気な企業の存在はアドバンテージになる。

一方、電力は家庭向けを中心に2500件ほどで、いち早く15年4月にスタートさせた。電力小売全面自由化が見え始めた頃から参入は不可欠と考えたが、ガスの卸元であるINPEXは電源を持っていない。そこで中村氏は、旧一般電気事業者で自由な社風が感じられた中部電力に協力を打診した。最終的にはINPEXを巻き込み、首都圏のガス事業者に電力を卸供給するスキームが出来上がった。中部子会社のダイヤモンドパワーのバランシンググループに入り、数年前の価格高騰時も大きな打撃を受けずに済んだという。


「地域密着」の在り方模索 CNの影響力を実感

ここ数年はカーボンニュートラル(CN)の波が押し寄せ、「環境に優しい都市ガス」とうたえず、社員には忸怩たる思いがある。今後の経営ビジョンをどう位置付け、単なる「地域密着」でなく具体的に何をすべきか―。社員のアイデアを募り、22年にその答えを示した。『個と個をつなげ、輪と成す』。青梅の人々がともに支え合い輪を成すような地域を目指し、そこに同社が寄り添い続ける、という絵姿だ。「単にスローガンを掲げるだけでなく、ある社員のお客さまとの実際のやり取りをストーリー仕立てにし、意識の共有を図っている」(中村氏)

コンサルの助言を踏まえガス展を見直した

他方でCNの威力を肌で感じた場面も。同社の提案で、電子部品大手の太陽誘電の子会社が23年、2000kWのコージェネレーションシステムを導入したのだ。同社は、企業がパリ協定に合致した目標を設定するSBTに取り組んでおり、30年に向けた現実的な計画としてコージェネの活用を選択した。

「以前はメーカーなどにコージェネのバックアップ機能をアピールしてもなかなか導入されなかったが、今やCNを目指すグローバル企業にとっては必要な投資だ」と実感する。30年以降については、オフセットガスやe―メタンなど、複数の選択肢を訴求していくという。

また、市のゼロカーボンに向け、INPEXとの3者で協定を締結した。脱炭素に加え、災害に強く、活気ある地域づくりも連携事項としており、多角的に市の計画作りをサポートする。

【原子力】新増設なく目標達成可能も 求められる規模拡大


【業界スクランブル/原子力】

エネ基の改定に伴い、2040年度のエネルギー需給見通しが公表された。温室効果ガス(GHG)排出量の13年比73%減を念頭に、五つのシナリオから、電力供給については再エネ4~5割程度、火力3~4割程度とし、原子力は2割を担うべきとされ、シナリオごとの電力需要の違いで幅はあるが、2100億~2400億kW時の貢献が求められた。

これを発電する原子力の設備規模は利用率に依存しておおむね3000万~4000万kWで、廃炉していない既設炉の全てと建設中の3基の合計3700万kWとほぼ一致する。40年に60年目を超える原子炉が4基あるが、福島事故後の停止期間を除外すれば40年の稼働が可能だ。

つまり、現在建設中の3基以外の新増設に期待しなくても原子力の40年目標は実現でき、そのためにも「原発依存度を可能な限り低減する」という文言は消された。

一方、原子力以外では革新技術によるコストダウンで再エネが4800億~5800億kW時を発電、水素供給が0・2億㎘(石油換算)、CO2回収が0・6億~1・2億tで、GHG排出削減コストは毎年10兆円前後としたが、これを産業界と国民が負担可能だろうか。コストダウンが現状技術の延長上にとどまる場合には、GHG排出の85%を占めるエネルギー起源CO2排出が56%しか減らないとするシナリオもあり、本来ならば原子力の大幅な規模拡大が必要である。

それにもかかわらず、新聞各紙の論調は原子力が脱炭素とコスト抑制に貢献することに触れず、「可能な限り低減」を消したとの批判的な見出しが踊るばかりである。(H)

友が問う大学教育の真価 自由に生きるための知とは


【リレーコラム】吉田善章/核融合科学研究所所長

「あなたのは、官製学問というのですよ」

敬愛する友であり、さまざまな事を教えてもらった先輩でもある社会学者の似田貝香門氏から言われた言葉を思い出す。

大学という権威をバックに、カリキュラム体系の中で、単位認定という教師と学生の間の契約関係に基づいて、学生たちは小難しい話を聞いている。講義の目的は専門技術の伝授であり、大学は国家に役立つ人材を生産するシステムである。こうした大学教育のあり様を憂いての指摘だったと思う。

「辻説法をやって聞いてもらえるか? それで学問の真価が問われる」―。なるほど、文学部の先生はそういうところに賭けているのかと感心した。最近では、アウトリーチの重要性が指摘され、サイエンスカフェなどもしきりに行われるようになった。だが、居心地の良い空間で、コーヒーの香りを楽しみながらサイエンスの面白さを語る、というプチ・ブルジョア的な情景と、寒風にさらされながら辻に立って説法する、というモノクロが似合いそうなシーンでは、気迫の違いというものがある。

プロの研究者を大量に生み出すシステムが出来上がってきたのは、ちょうど、マックス・ウェーバーが『職業としての科学』を著した20世紀初頭のようだ。本のテーマは、先述の学問論のアンチテーゼのように見えるが、当時のドイツの時代背景に思いを致しつつ、書かれている内容を読み込むと、わが国で一足早く、福沢諭吉が『学問のすすめ』に記したことと重なる。


人の心に響く「辻説法」のごとく

「一身独立して一国独立す」とは、リベラル・アーツ「自由に生きるための知の技法」のすすめだ。大学に学ぶ人たちは(学生のみならず、教師も一生をかけて学び続ける)、「一身」とともに「社会」の独立、すなわちさまざまな制限、干渉、圧力からの自由を求めて知の技法を磨こうとしている。大学の講義は、単に専門技術の伝授といった職業訓練ではなく、「戦って獲得すべき自由」というエスプリを持った説法でありたい。それは「楽しい科学」というものとも少し違う、もっと生活者としての人の心に響く「辻説法」のごときものだと、似田貝氏は言いたかったのではないかと思う。彼が亡くなって2年ほど経つが、友の言葉は深く心に残っている。

私も今年、大学および研究所という所属機関を離れるべき時を迎える。さすがに辻説法に出かける勇気はないが、残りの時間を何らかの仕方でリベラル・アーツ教育に捧げたいと思う。

よしだ・ぜんしょう 1985年東京大学大学院工学系研究科原子力工学専攻・博士課程修了(工学博士)。東京大学大学院新領域創成科学研究科・教授を経て、2021年核融合科学研究所・所長。

次回は、理化学研究所計算科学研究センターの伊藤伸泰さんです。

【コラム/2月21日】物価上昇超え賃上げを再考する~楽しい日本になるために


飯倉 穣/エコノミスト

1、遅ればせながら~デフレ脱却インフレ認識

2025年の国際経済は、対中加墨トランプ関税の話題から始まった。実行は、経済縮小と当事国の物価上昇危惧である。日米首脳会談もあった。引き続き日本経済への注文も気になる。国内経済は、21世紀に入り24年間経済政策を支配し続けた所謂「デフレ」認識で、風向きが変わった。遅ればせの日銀の追加利上げがあった(25年1月24日)。その後報道があった。「日銀の植田和男総裁は4日の衆院予算委員会で・・昨年も話した通り、現在はデフレではなくインフレの状態にあるという認識に変わりはないと述べた」(日経com同2月4日)。「今の物価上昇について、赤澤経済再生担当大臣は「経済学的に言えば、インフレの状態というのはそのとおりで、植田総裁の認識と特にそごはない」と述べました」(NHK同5日)。

四半世紀経て公式見解(?)もデフレから漸く脱したようである。その要因が気に懸かる。輸入物価かコストプッシュかそれとも他か。日銀は「既往の輸入物価上昇を起点とする価格転嫁の影響は減衰してきているものの、賃金上昇等を受けたサービス価格の緩やかな上昇“へ”(経済・物価情勢の展望 2025年1月)」と述べている。

この認識を前提とすれば、公正取引委員会の強権や下請法改正の趣旨にある物価を上回る賃上げや国を挙げての価格転嫁推進は妥当だろうか。過去のデフレ認識の経緯を見ながら、物価上昇超え賃上げの意味を再び考える。


2、デフレ宣言(2001年)の政治的継続

平成バブル崩壊後の90年代経済調整を経て、2000年ITバブル崩壊があり、企業収益低下と株価下落があった。マイナス成長転換となる。内閣府は「デフレ」定義を物価下落(2年以上)に伴う景気後退とした。そして「持続的な物価下落をデフレと定義すると、現在日本経済は緩やかなデフレにある」と述べた(月例経済報告01年3月16日)。その後07年まで米国サブプライムバブル・輸出好調等で経済は回復した。06年内閣府は「物価指標の動向をみると、90年代末から日本経済において顕在化した物価が持続的に下落するという意味でのデフレ状況にはない。今後の海外経済の動向によっては、デフレ状況に後戻りする可能性が残っていることから、デフレを脱却したとまでは言えず」と述べた(経済財政担当大臣報告06年12月)。同様の表現が07年も続く。経済変動看過の実に曖昧な表現だった。日銀は、経済・物価情勢が着実に改善と見て金融引締めに転換した(06年7月、2007年2月金利引上げ)。これも出遅れだった。

リーマンショックがあった(08年9月)。GDPマイナスに慌てふためき財政金融出動の経済調整に陥る。経済対策は、中身の吟味もしづらい巨額な事業規模となった。4回の経済対策の規模は、合計138.2兆円(金融以外32.5兆円:国費26.6兆円程度、金融105.7兆円)だった。財政出動規模の妥当性が問われた。やり過ぎの感があった。その中身を説明不足と民主党が批判した。

因みに各経済対策を挙げれば、「安心実現のための緊急総合対策:事業規模11.5兆円うち金融9.1兆円 」(08年8月29日)。「生活対策:事業規模26.9兆円うち金融21.8兆円」( 同10月30日)。「生活防衛のための緊急対策:事業規模43兆円うち金融33兆円」(同12月19日)。「経済危機対策:事業規模56.8兆円うち金融41.8兆円」(09年4月10日)である。


3、デフレ宣言再び(2009年)

民主党政権登場で経済実体無視の政策運営となった。経済の流れ読まずである。紆余曲折があった。菅直人経財相のデフレ宣言があった(月例経済報告09年11月20日)。必要性疑問符の事業仕分けをしつつ、確実な景気回復・デフレ克服を目指すと言い訳した。その前にデフレ脱却の宣言は見当たらずだが、「政府デフレ認定3年5か月振り」と報道があった。経済の戻りの中で、東日本大震災があった。経済低下は△1~2%程度だったが、政権による対応混乱と混迷助長があった。災害対応と財政金融政策の不慣れな対応に加え、不要な原子力発電停止で経済は混乱した。それでも経済変動論理の通り経済は回復に向かった。デフレどころでなかった。民主党政権の政治・経済運営不安が強く印象に残る。


4、デフレ脱却標榜(2013年)

安倍晋三政権となる。そしてアベノミクス(大胆な金融緩和、機動的な財政出動、民間投資を喚起する成長戦略)である。日銀に「デフレ脱却と持続的な経済成長の実現のための政府・日本銀行の政策連携について」という「共同声明」を強要した(13年1月22日)。デフレ・円高解消と叫びながら、デフレ認識を事後10年以上継続した。その間賃上げ・消費増・投資増の好循環という根拠無き政策スタイルが罷り通った。金融緩和・財政出動頼りの意味不明な政策が続いた。何もせずとも経済基調は上向きの時期だった。経済の動きは、通常の景気変動等で多少の上下があったものの、水平飛行状態だった。

リーマンショック等の経済的ショック時は、やや恐慌的で物価下落は当然であるが、留意したいことがある。この四半世紀の“デフレ的”物価停滞状態の理解である。略ゼロに近い低成長経済(成長要因不足)なら、物価横ばいは当然である。その状態で日本特有の過当競争や不要な競争促進政策となれば、趨勢的不況(停滞)という現象は当然である。残念ながら、その政策の過誤が現在も継続している。


5、コロナ回復、エネ資源等輸入物価インフレ

20年1月新型コロナウイルス感染症に直面する。21年(第2四半期)以降コロナ回復過程で、国際資源エネ・食料品価格の上昇で、輸入物価が上昇し(前年比20%程度増加:円・契約通貨ベースとも)、企業物価上昇となる(同4.6%増)。このとき消費者物価への波及は、価格転嫁の遅れがあった(同△0.2%)。ウクライナ戦争(22年2月)が始まると、国際エネ価格の急騰があり、22年輸入物価は急騰し(同円ベース39%増、契約通貨ベース21%増)、企業物価も高騰する(同9.8%増)。消費者物価も、価格転嫁等で22年同2.5%増となる。明らかに輸入物価牽引インフレ現象だった。だがデフレ脱却宣言も金融政策変更もなしだった。物価上昇の原因を考えず、何故か政府主導の賃上げが喧伝された。

【石油】不透明感増す原油価格 トランプ氏の影響見えず


【業界スクランブル/石油】

今年の国際原油需給が一段と緩和すると予想される中、昨年末から年初の原油価格は意外にも堅調に推移。WTI先物価格は60ドル台後半から70ドル台に回復した。米国経済の好調維持や中国経済回復への期待に加えて、パレスチナ紛争やウクライナ戦争の激化、OPEC(石油輸出国機構)プラスの減産緩和先送りなどが影響したのであろうか。一方で第2次トランプ政権が原油需給を緩める可能性もあり、価格の不透明感が増しそうだ。

トランプ政権復帰の影響が全く見えない。選挙戦から原油やガスの生産拡大を主張してきたが、本当に増産できるのか。脱炭素を敵視する姿勢が政策にどの程度反映されるかも分からない。外交的には、中国への敵視が原油価格の低下要因に、逆にイラン制裁の強化が上昇要因となろう。

注視すべき問題は、日本国内のガソリン価格への影響だ。燃料油補助金を2段階で縮小する政府の方針で、年始の全国平均価格は昨年12月上旬比1ℓ当たり約10円上がり、新たな基準価格185円となった。補助金縮小を決めた11月時点では、原油価格が1バレル当たり約5ドル下落するか、あるいは10円程度の円高進行で、補助金が自然消滅する見通しだった。

185円を下回れば、補助金が自動的にストップになる。毎週の補助金単価は、油価上昇と円安進行で減少するどころか拡大傾向にあり、消滅から遠ざかった。原油価格が堅調と言っても、ドル建てではウクライナ侵攻以前より安い。いまや国内価格が高いと騒いでいるのは日本ぐらいだろう。企業の収益拡大と株高をもたらす円安の家計への影響は重大というしかない。(H)

【シン・メディア放談】メディアのエネ基・NDC批判 「結論ありき」と言うけれど……


〈エネルギー人編〉電力・石油・ガス

原発回帰とCO275%削減で決着したエネ基。

日本経済にとっては妥当な決着だった。

 ─第2次トランプ政権が発足した。皆さんの業界も戦々恐々としているのでは。

電気 いや、特には(笑)。

ガス 同感だ。

石油 私も。

電気 輸出産業ではないので影響を受けにくい。国内景気が関税や米国からの投資減で伸び悩めば、需要は減るかもしれない。その辺りが少し気になるだけ。

石油 環境政策にしても、アメリカがパリ協定から抜けたからといって日本や欧州諸国が続くわけではない。トランプ政権の4年間は脱炭素に向けた流れが緩やかになるというだけの話。トランプ氏の復活以前から、欧州では急進的な環境政策からの揺り戻しが起きていた。

ガス ただ資源価格の不透明感は増す。トランプ氏は全ての国に一律10~20%の関税をかけると豪語するが、相手国としてはアメリカ産の石油や天然ガス購入が交渉カードになるかもしれない。年末には欧州の一部の国で、ウクライナ経由のロシア産ガスの供給が止まった。

─日本の場合、アメリカからの購入量を増やすのはエネルギー安全保障上、悪くないのでは。

ガス そういう声は多いが、急に増やせるものではない。既に他国との契約で一杯で、購入できる量は限られている。

電力 市況で言えば、中国リスクが大きいのでは。景気減速が進む中、トランプ関税で追い込まれれば、需給バランスが一段と緩みかねない。

石油 日経電子版は、毎日ニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)の市況をコメント付きで掲載している。昔は滅多に見なかったが、ここ5年は中国ファクターが頻繁に書かれるようになった。原油価格は地政学リスクで一時的に跳ね上がる可能性はあるが、脱炭素もあって供給優位という長期的なトレンドは変わらない。


亡国から救国へ ガス・石油も納得

─まもなく第7次エネルギー基本計画が閣議決定される見込みだ。

電力 電力需要増が騒がれたが、あくまで電力の話。ガスや石油の需要が増えるわけではない。実際にエネ基を読んでも電力に主眼が置かれていて、「電力基本計画」のようだ。

石油 時代の潮目を感じたね。前回が「亡国のエネ基」なら、今回は「救国のエネ基」だ。第6次は書き出しが福島事故と気候変動対策だった。ただ今回は最初にエネルギー安全保障がドーンと書かれている。そして原発依存度の「可能な限り低減」削除と建て替えの条件緩和。朝日や毎日、東京は「国民的議論なき原発回帰はけしからん」という論調に終始していたが。

電力 朝日は相変わらず「福島事故を忘れるな」という感情論が多いね。投書欄じゃあるまいし、現実を踏まえた「論」を書いてくれ。

ガス 基本政策分科会の委員は原発推進派が多かった。あのメンバーで議論すれば結論は見えている。と同時に、日本は今回のような結論にせざるを得ない環境に置かれているのも事実。メディアにはそういうリアルを書いてほしいのだが。

石油 その点、読売の書きぶりはあっさりだった。事実を並べるだけで〝正力(松太郎)イズム〟は感じられない。頑張ったのは日経と産経。経済誌はエネ基に紙幅を割かなかった。

ガス エネ基全体のボリュームは落ちているが、電力とガスの個別の記述割合は変わっておらず一安心だ。業界として書いてもらいたいことはほぼ網羅されていたと思う。脱炭素技術があまり進展しない技術進展シナリオでは、LNGの供給量は40年度で7400万t程度だった。これはかなり現実的な数字だ。

石油 LPガスではrDME(バイオ由来ジメチルエーテル)を混入した低炭素LPガスの導入に触れていた。ほんの2行の記述だが、将来の補助金につながるので「書かれた」という事実が重要だ。


原理主義者に惑わされず 「下に凸」はあり得ない

─政府の温室効果ガス(GHG)削減目標が「35年度60%減(13年度比)」で決着。審議会は大荒れだった。

ガス 年末に急きょ3日間かけて集中審議が行われたが、結論は変わらず。環境原理主義者に惑わされずに良かった。環境省と経済産業省を褒めたい。

電力 環境派は「結論ありき」と言うが、イデオロギーで主張する以上、納得の上で決めるのは無理だ。

石油 とにかく、国連にNDC(国別目標)を提出する必要があるんだからさ。右も左も批判する気持ちは分かるが、こればかりは仕方ない。

電力 13年度を起点に50年GHG排出量ゼロに向けて「直線」を引いた例のグラフがある。60%減はその直線上に位置するが、環境派は「下に凸」を求める。一方で私のような現実派は「いやいや、上に凸だろう」と主張する。となれば、やはり結論は直線上の60%しかない。

ガス 下に凸になるとしても、技術が進展した45年付近の話。そもそも30年46%減も怪しいのに、そこから5年で14%も積み増せるわけがない。66%減や75%減となれば電力不足に陥るだろうし、電気代は急騰。日本経済は崩壊してしまう。

電力 原発報道にも言えるが、自分たちに都合の悪い結論が出て「結論ありき」「議論が足りない」と叫ぶのは左派系メディアの伝統芸。もう飽き飽きしている。

─「オントラック」はいつ脱線するのか。

【ガス】阪神大震災から30年 危機管理で不断の努力


【業界スクランブル/ガス】

1月17日、阪神・淡路大震災発生から30年となった。この大震災において大阪ガスは、最終的な供給停止戸数85万7400戸という未曽有の復旧作業に、全国のガス事業者から最大約3700人の応援を得て取り組んだ。激しい交通渋滞、道路上の家屋倒壊のがれきや障害物、ガス管内に侵入した水・土砂の排出など、困難な状況下での業界挙げての取り組みだった。

都市ガス業界では、それ以前もいくつかの災害復旧で応援体制が取られてきた。そして阪神大震災という大規模災害での復旧作業などの経験を糧として、供給ブロックの細分化、PE管の積極導入、材料の共通化など、保安の高度化、災害時の対応力強化の取り組みを一段と加速させた。

阪神大震災以降も、新潟県中越沖地震、東日本大震災、熊本地震、大阪北部地震などで応援体制が取られ、復旧作業の熟度も増してきたといえよう。ただ、災害復旧や復興への対応に「万全」は存在しない。政府の地震調査委員会は、M8~9程度の南海トラフ巨大地震の30年以内の発生確率を80%程度とした。南海トラフや首都圏直下型地震など、複数の大都市が被災する、従来を上回る規模の災害が起こることも想定される。

復旧のみならず、その後の復興への対応も求められる。

大都市の復興局面では、阪神大震災でも大阪ガスが東京ガスに支援を要請したように、ガス工事の対応は難しい。また災害時、お客さまが求めるのは、自分の家がいつからガスを使えるかの情報である。ウェブなどでのよりきめ細かな情報提供が大手のみならず全事業者に求められる。災害の大規模化は、危機管理の不断の進歩を必要とする。(F)

転換期の世界の勢力図〈下〉 台頭する新興国と頭打ちの中国


【ワールドワイド/コラム】国際政治とエネルギー問題

分断と統合が同時進行した昨年。その中において、徐々に明らかになったのは、グローバルサウス諸国のしたたかさと、経済成長が頭打ちした中国が途上国市場でなお比較優位を維持している現状である。

昨年11月の米大統領選で、スイング・ステーツは激戦州を指したが、国際政治では案件ごとに連携する相手を変える国々をスイング・ステーツと呼ぶ用法が見られるようになった。EU(欧州連合)とNATO(北太平洋条約機構)の加盟国でありながら、ロシアに歩み寄るハンガリーが一例であり、QUAD(日米豪印戦略対話)を通じてG7(主要7カ国)と近いが、同時にSCO(上海協力機構)のメンバーであるインドを同様に捉える見方も現れている。

BRICSでは昨年1月、イラン、エジプト、エチオペア、アラブ首長国連邦が参加し、年明け6日にはインドネシアが10番目の加盟国となった。その中でサウジアラビアはBRICS加盟に関し立場を明確にしていない。米トランプ政権は、BRICSが脱ドル化を進めれば加盟国に100%関税を掛ける考えを明らかにしており、グローバルサウスの中で存在感を高めるサウジが加盟にどのような立場をとるか今後の展開が注目される。

グローバルサウスの国々は、G7側にも中露側にも全面的にはくみしない。これらの国々が大国間の対立を見定め、自国の安全保障や経済的利益を確保しようとするしたたかな外交政策をとることが昨年を通じて一層明らかになった。

一方、経済成長の頭打ちが顕在化した中国の動向に関しては、さまざまな評価がある。不動産バブルの崩壊、消費の低迷、人口動態など構造的要因に基づくデフレ現象は否定できないものの、その一方で中国はEV、ソーラーパネル産業などで圧倒的な競争力を持つ。こうした問題を内包しつつも、中国企業は熾烈な価格競争を通じて、国際競争力を強めている。欧米諸国が高額の関税を賦課して中国製品から市場を守ろうとしても、そうした保護政策は自国産業の国際競争力強化にはつながらないため、途上国市場においては、中国製品の競争力を相対的に高めるという皮肉な結果を招く。こうした展開は、日本企業にとっても他山の石であり、厳しい競争環境の中で、日産とホンダの統合が話題に上るようになった。

一方、NATOは昨年7月の首脳会議に、日韓豪ニュージーランドの首脳を招き、G7でも10月19日に国防相会議がイタリアで初開催され、中谷元防衛大臣が参加した。こうした新たな動きの背景には、ウクライナ危機の長期化によって、欧米の量産能力の乏しさが明らかになった事情がある。ウクライナに供与すべき砲弾が間に合わず、NATO側は日韓の生産能力に注目し始めた。

防衛に関するハード対応面で、日韓の貢献が求められている。防衛技術協力と経済安全保障の議論は今年どのような展開を見せるか、日本政府のかじ取りが注目される。

(須藤 繁/エネルギーアナリスト)

米国を襲う脱炭素の教条


【ワールドワイド/コラム】海外メディアを読む

昨年1月、米バイデン政権は新規LNG輸出プロジェクトの承認審査を凍結。エネルギー省(DOE)による経済・環境上の影響評価の報告を待つ、とした。12月半ばに当報告書がようやく公表。当時のグランホルムDOE長官は、「公共の利益」に照らして「既往の取り組み方は推奨し得るものではない旨、裏付けられた」と声明を出した。これに米誌ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が社説で真っ向から反論。米国内のエネルギー価格上昇や地球温暖化への影響に関し、報告書の穏当な内容を誇張、曲解している。また、中東産LNGの輸送リスクなど、安全保障面でも報告書の指摘を無視している、と批判した。

新規輸出許可に否定的なグランホルム氏の見解は、それが世界の天然ガスの供給過剰を招くだけ、という認識に基づいていた。事実、報告書が検討した五つのシナリオのうち四つが、2050年までの間、承認済みの能力をフル稼働させるだけで米輸出に対する海外需要を上回る、と推計している。

WSJ紙は触れていないが、この四つのシナリオのうち二つはCOP26での各国の排出削減目標(米国は50年に炭素中立)達成、残り二つは全世界で50年に炭素中立達成を前提としていた。天然ガス需要見通しが劇的に減少するのは当然で、それは脱炭素化に極めて楽観的な前提条件の単なる裏返し。つまり「新規輸出は不要と前提したら、不要との推計結果を得た」と言うのと同じだ。

脱炭素化の教条が、思考停止をもたらす事例の一つだった。政権交代で米国の脱炭素化政策は撤回されても、狭隘な米国第一主義という別の教条が現れる危険は大きい。理想と現実をつなぐ生き生きとした思考力の回復が、米国はじめ各国のエネルギー政策に求められる。

(小山正篤/石油市場アナリスト)