【多事争論】話題:日本の電力需要の将来展望
電力需要急増の可能性があちこちで聞かれるが、果たして将来をどう展望すべきか。
エネルギー基本計画の議論でシナリオ分析を行った2機関の専門家の意見を紹介する。
〈 さまざまな不確実性が存在 いずれも価格動向と密接に関係 〉
視点A:秋元圭吾/地球環境産業技術研究機構「RITE」主席研究員
日本では2010年頃を境に電力消費量は低下傾向となった。省エネルギーの進展が一因ではあるが、より大きな要因は、電力多消費産業の途上国への移転である。他方、最近になってデータセンター(DC)や半導体工場需要など、IT関連の需要の伸びが顕著である。電力広域的運営推進機関が昨年1月に取りまとめた今後10年の電力需要の想定では、10年前後から続いてきた低下トレンドとは異なって上昇に転じる見通しが示された。
日本の電力需要の上昇要因としては、所得効果、世帯数の増大、気候変動要因による夏季の電力需要の増大、デジタル化による電力需要の増大、CO2排出削減対策に伴う電化の促進などがある。他方、減少要因としては、人口の低下、気候変動要因による冬季の電力需要の低下、海外との相対的な労働生産性低下によって電力多消費産業が海外にシフトすることによる需要低下、CO2排出削減対策に伴う海外との相対的なエネルギー価格差の増大で電力多消費産業が海外にシフトすることによる需要低下、などが挙げられる。これらが複合的な要因となりつつ、結果としては10年前後までは需要は大きく上昇、その後低下してきた。
今後の需要には大きな不確実性がある。主には、①生成AIを中心としたIT関連需要の増大の程度、②電化の促進の程度、③CO2排出削減対策に伴う海外への電力多消費産業の移転の程度―と見ている。①、②は需要増大要因、③は減少要因である。しかしいずれの要因についても、海外との相対的な価格を含む、電力価格の展望とも密接に関係している。
計算インスタンスは、今後も劇的に増大していくだろう。従来は、省電力を実現する技術進展が見られ、電力需要の増大はそれほど大きくはなかった。今後も過去と同様の省電力効果が続くとする見方と、省電力効果は飽和するとの見方の双方が、以前から存在している。ところが、ここにきて生成AI需要によって、足元でさえも電力需要増が見られる。計算インスタンスが激増するため、仮に省電力効果が続いたとしても相応の需要の伸びが予想されてきている。技術見通しは不確実性が大きく、明確な見通しを持つことは難しい。しかし、従来とは異なった大きな上昇要因が加わってきたことを認識する必要がある。
想定により50年横ばいから30%増まで 在り方誤れば相対価格上昇へ
潜在的には大きなIT需要が存在したとしても、電力価格が高ければ経済的に成立せず、需要が伸びない可能性もある。また、海外と比べ相対的に電力価格が高い状況になれば、DCなどの一部もしくは多くの立地が海外で進むこととなり、国内の電力需要はそれほど伸びない可能性もある。
電化の流れは間違いなく続くが、CO2排出削減に対応して急速に電化率を高める必要があるのは、日本では75%程度を上回る排出削減領域と見ている。50年カーボンニュートラルの公式目標が実現される場合はかなり電化率が高まるが、費用負担の大きさ、海外との相対価格の上昇の回避という点で、実際にどの程度まで排出削減を進められるかは、国内の気候変動・エネルギー政策だけではなく、海外の政策にもよる。そして、これがまた電力多消費産業の海外移転に大きく効いてくる。今般、政府は40年度の排出削減目標を13年度比で73%減とし、この領域では劇的に電化率を高める経済的合理性は大きくない。CO2排出削減により誘発される追加的な電化は40年以降の電力需要への影響が大きい。
RITEのモデル分析では、世界1・5℃未満、そして日本は50年実質排出ゼロを実現するという前提で、技術進展が順調という想定の下では、海外との相対価格は大きく広がらないため、40年の電力需要は17%上昇、50年では②の効果も強まって30%程度の上昇と推計している。他方、世界での排出削減の協調がない中、日本が50年実質排出ゼロを実現しようとすれば、③の効果が強く働き過ぎて、電力需要は50年に向けて横ばい程度に留まると見ている。実質排出ゼロに拘らず、世界協調を優先しつつ排出削減を進めるシナリオ(40年60%減程度)では、40年7%、50年18%程度の上昇と見ている。政策を誤らなければ、保守的に見てもこの程度の電力需要は実現されるとみられる。
供給と需要は一体であり、電力供給の在り方を誤れば、電力の相対価格が上がり需要は低位になる。高位の電力需要とそれに伴う経済成長と電力の安定供給のためには、需要が上昇する予見性の高い、供給側も併せた政策が必要である。
