ユーザー自らガス検知器を点検 現場作業の効率化をサポート


【理研計器】

ガスインフラの維持に欠かせないガス検知器。現場に出向くときには欠かさず携帯するものであり、作業時に手元にないと困る機器だ。そんなガス検知器の利便性が大幅に向上する設備として、理研計器はガス調整器「SDM―230」の販売を開始した。同製品は、同社のポータブル型ガスリーク検知器「SP―230」シリーズの定期点検やバンプテスト(使用前点検)をユーザー自らが短時間で行えるもので、短時間で点検してすぐに利用できるのが特長だ。

点検時間とコストを大幅に削減

従来、定期点検時には理研計器宛てに検知器を送り、点検後に送り返してもらっていたため、2週間程度の時間を要していた。これがSDM―230を利用すると、定期点検は約5~10分程度、バンプテストは約2~4分と短時間で済ませることができるため、すぐに利用可能だ。

部品交換などを伴うオーバーホール点検も自前で可能。センサーやポンプなどの必要な部品を注文、現場で部品交換、SDM―230で定期点検を実施すれば完了する。

点検は、最大5台まで連結して実施することが可能で、効率的に作業できるのも魅力だ。


デジタル管理が可能 メーカー無償修理を保証

点検結果のデータ管理など、ソフト面においても大きな進歩を遂げた。付属のPCソフトと連携すれば点検履歴の確認や「点検成績表」、「機器管理表」を発行できる。点検成績表で不具合が示された場合には、同社が販売するガスボンベの登録番号が記載されていることなどいくつかの保証条件に適合すれば、定期点検日から3カ月以内なら、必要な修理を無償で行うメーカー保証がついている。

また、エクセルで出力可能な機器管理表には、最終バンプテスト日、最終定期点検日、次回点検日の情報などを取り込むことができ、ガス検知器の管理における一連の工程を確認できる。

このように、SDM―230は点検時間の削減、機器管理の向上だけでなく、点検コストや作業の削減にも寄与する。一定期間預けておく必要がなくなったため、代替機も不要となり、送付作業や料金の負担なども軽減できる。

労働人口の減少による人手不足の拡大が懸念される中、効率的な作業の促進は急務だ。そうした取り組みを支援する同製品は今後ますます需要が高まっていくだろう。

減益目立つ24年度エネ決算 不確実性対応で明暗分かれる


電力、ガスなど主要エネルギー各社の2024年度通期連結決算(25年3月期)が出そろった。売上高は業種や地域によってばらつきが見られた一方、経常利益は総じて減益が目立った。燃料価格の下落に伴う販売価格の低下に加え、物価高によるコスト増が収益を圧迫した格好だ。こうした傾向は来期も続くとみられ、26年3月期の業績見通しでは、多くの企業が減収・減益を予想している。

苦境が続く東京電力HDの小早川社長

まず、大手電力10社については、記録的猛暑や厳冬を背景に冷暖房需要が増加し、電力販売が伸びた地域が見られた。これらの影響を受けた、北陸、関西、四国、九州、沖縄の5社の売上高は過去最高となった。

一方で、経常利益を見ると、前述の燃料価格の下落に伴う燃料費調整額に減少により、四国と沖縄を除く8社で前年を下回る結果となった。販売量の伸びでは補いきれず、採算が悪化した形だ。中でも減益幅が際立ったのが東京で、経常利益は40%減の2544億円に落ち込んだ。柏崎刈羽原発の再稼働が進まないなど先行きが見通せず、大手電力の中で唯一、26年3月期の業績予想の公表を見送った。


都市ガス各社で減収傾向 変動要因への対応が鍵

都市ガス各社は、LNG販売量が低下したことで減収傾向が顕著に。経常利益に関しても、主要6社のうち西部を除く5社が減益となった。中でも東京は、前期に豪州のLNG子会社売却による特別利益を計上した反動や、北米シェール事業の収益停滞が響き、経常利益が49%の大幅減となった。唯一増益となった西部は、売上高こそ減少したものの、ひびきLNG基地の減価償却費の減少などが寄与し、経常は2・3%増となった。

LPガス関連ではニチガスとTOKAIが増収増益。ニチガスはガス販売量こそ減少したものの、電気事業とプラットフォーム事業が大きく伸び、最終利益は115億円と過去最高益となった。TOKAIもグループ顧客の増加や情報通信事業の拡大、不動産部門で好調が追い風となり、売上高と経常、最終利益のいずれも過去最高を更新した。また、岩谷産業は工業用LPガスの販売増と高値で推移した輸入価格が下支えとなり、売上高は4・1%増、経常は1・3%減となった。

石油元売り大手3社は、アメリカの関税措置などを背景に原油価格が下落したことで各社とも保有在庫の評価損を計上。ENEOSではこれらに加え、M&Aに伴う「のれん」の減損処理が大幅減益の要因となった。 一方、アブダビなどの油田権益を有するコスモエネルギーHDは、円安の恩恵を受け石油開発部門で141億円の増益。これが全体の利益を押し上げた。

26年3月期も、燃料価格の不透明さや物価高が事業環境を大きく左右するとみられる。各社にはこうした不確実性に柔軟に対応しながら、収益基盤の強化を図る姿勢が求められる。

「蓄電池祭り」の様相呈す入札2回目 将来の脱炭素電源の確保に黄信号


4月28日、電力広域的運営推進機関は第2回長期脱炭素電源オークションの約定結果を公表した。

初回よりも蓄電池の競争率がさらに激化し、大規模電源は応札そのものが低調。制度の意義が改めて問われている。

この制度により、将来の供給力を脱炭素電源で安定的に確保するという目的を、本当に達成することができるのか――。

2回目の長期脱炭素電源オークションの約定結果を巡り、エネルギー業界からはこのような危惧の声が吹き上がっている。

同オークションは、電源をリプレース、新設する上で課題となる長期的な投資予見性を高め脱炭素電源投資を促進しようと、2023年度にスタートしたもの。容量市場のメインオークションが単年度の供給力に対する支払いであるのに対し、原則20年にわたり固定費相当の収入が保証される。

他市場収益の9割を還付することが条件だが、マーケットからの収入が不透明である以上、事業者にとって利益が確約される利点は大きい。大手電力関係者は、「決して万全な制度ではないが、老朽火力のリプレースなど電源の新陳代謝を促せる」と、一定の期待を寄せる。

2024年度の約定結果 (出典:電力広域的運営推進機関)


脱炭素改修は低調 蓄電池は権利転売の動き

では、憂慮される点はどこにあるのか。

同オークションでは、電源種を大きく「脱炭素電源」と「LNG専焼火力」に分けて募集する。今回の結果を受け、特に業界関係者が問題視しているのは、脱炭素電源のうち「既設火力の水素・アンモニア混焼への改修」が四国電力の西条発電所1号機1件(9・5万kW)にとどまり、前回の6件(82・6万kW)に続き低調に終わったことだ。片や蓄電池が大量に約定し、それによる弊害が懸念される。

というのも、第2回入札では「蓄電池・揚水」が運転継続時間によって「3時間以上6時間未満」と「6時間以上」に分けて募集された。初回の約定結果を踏まえ、新規に開発することが難しい揚水の温存をサポートするのが狙いだ。ところが、実際に落札できた揚水は関西電力の奥吉野発電所1、2号機(計36万kW)のみという結果に。

その要因は「6時間以上」の枠でさえ、揚水の価格水準では太刀打ちできない低価格で蓄電池による応札があったことだ。

当落水準は3時間枠で1kW当たり1万円台前半、6時間枠でも2万円台前半ほどと推定されており、いずれも「極端なことをしない限り無理だ」と言われた前回の2万4000~2万5000円を下回る水準。これには前出の大手電力関係者も、「落札した中には、稼働させる意思がない事業者がいる。われわれには思いもよらないことをする人たちに、市場を荒らされている」と不信感を募らせる。

それだけではない。既に初回で落札された蓄電池では、権利の転売ビジネスが始まっているとの情報もある。確かにオークションの約款では、電力広域的運営推進機関の承諾を得た上で、契約を他社へ承継することが認められている。だが、アグリゲーター事業者の一人は、「20年間という契約期間中に、事業者が廃業したり、事業から撤退したりといったケースに備えるのが本来の趣旨。運用開始以前からの転売ビジネスを想定したものではなかったはずだ」と言い、予期しなかった事態だと強調する。価格の妥当性や事業者の参加資格の精査を含め、早急に手を打つことが求められる。

【静岡ガス 松本社長】積極投資で事業を拡大 収益増と変革を両立し包括的施策で公益担う


都市ガスに加え、再エネや住宅再生、海外展開など事業の多角化を進めている。

包括的なサービスで地域のニーズに応えながら、人材育成や株主還元にも取り組み、持続的な企業価値の向上を図る。

【インタビュー:松本尚武/静岡ガス社長】

まつもと・よしたけ 1993年大阪大学理学部卒、静岡ガス入社。2020年静岡ガス&パワー社長、22年南富士パイプライン社長、23年静岡ガス常務執行役員経営戦略本部長などを経て24年1月から現職。

井関 まずは、2024年12月期決算のポイントと評価についてお聞かせください。

松本 24年度は、前年度と比べ大幅な減益という結果になりました。ただこれは、23年度が燃料費調整の期ずれ差益による増益効果が大きかったことの裏返しで、これを補正すると経常利益が23年度は108億円、24年度は116億円と、実質増益となります。それぞれに一過性の増益要因があったことを考慮しても、着実に成長できていると捉えています。

井関 一過性の要因とは。

松本 為替変動や市場の不安定さなどです。例えば、当社が出資している愛知県田原市のバイオマス発電事業では、原料を長期で為替予約して調達しています。ドル建てのため、近年の円安傾向により評価益を計上しました。また昨年、需給調整市場で全商品区分の取引が開始となり、当社グループも参加しています。所有する電源を活用し落札することができましたが、市場は創設されたばかりであり、継続的に落札できることを見通し難いため、これらを抜きにした実力をいかに底上げしていくかが重要です。

井関 そうした要因がなくても、経常利益は増加しています。

松本 都市ガスの大口分野の販売拡大が増益につながりました。第7次エネルギー基本計画では、天然ガスは化石燃料の中で温室効果ガスの排出が最も少なく、カーボンニュートラル実現後も重要なエネルギー源と位置付けられました。産業界において、天然ガス転換へのニーズが高まっていることは追い風です。実際、当社にも、設備更新のタイミングで燃転を要望する声が多く寄せられています。

井関 今後、家庭用や卸売りの販売量はどう推移していくでしょうか。

松本 家庭用に関しては横ばい、もしくは漸減していくと予想しています。人口減少や核家族化に加えて、給湯器や住宅の断熱の性能が飛躍的に向上していることを考えると、家庭部門における販売量の微減傾向は致し方ない部分もあります。卸先への販売量も減少傾向です。都市ガス小売りの全面自由化で、大手電力会社などの新規参入が進んだことによる影響を受けており、今後もこの傾向は続くと予想しています。この点は中期経営計画にも織り込み済みです。

過去には大規模停電が発生 文明社会を揺るがす「宇宙天気」


【今そこにある危機】久保勇樹/情報通信研究機構[NICT]電磁波研究所電磁波伝搬研究センター 宇宙環境研究室 副室長

太陽フレアは通信や電力に深刻な影響を与える可能性がある。

宇宙での現象が地上の暮らしを脅かすメカニズムとは─。

太陽フレアは太陽の黒点周辺で発生する突発的なエネルギー解放現象だ。黒点とは、太陽表面に現れる黒い斑点のことで、周囲よりも温度が低く、強い磁場が集中している。黒点周辺に蓄積された磁場のエネルギーが、何らかのきっかけで不安定になり、磁力線のつなぎ換えによって爆発的に解放されるのだ。フレアが発生すると、大量の電磁波(X線、紫外線、電波など)や水素原子核などの高エネルギー粒子(太陽放射線、太陽エネルギー粒子、プロトンなどと呼ばれる)、コロナガス(太陽の一番外側の大気を構成するガス)が放出される。

NICTで観測した太陽フレア
提供:情報通信研究機構

太陽フレアをはじめとする太陽活動は、われわれの生活にどんな影響を与えるのか。地球の上空は、航空機の航路が高度10㎞ほどで、高度約60㎞から1000㎞にかけては、紫外線やX線によって大気分子が電離した「電離圏」が存在する。電離圏は電気を帯びた粒子(イオンや電子)が多く存在するため、電波の伝搬に影響を与えている。さらにその先には「磁気圏」と呼ばれる磁力が支配する領域が広がっている。方位磁石が南北を指すように、地球は磁力を持っている(地磁気)からだ。

太陽フレアで発生した電磁波や高エネルギー粒子、コロナガスは、電離圏や磁気圏に影響を及ぼす。電波や衛星などに大きく依存している現代社会で電離圏や磁気圏が乱れると、人工衛星の障害、誘導電流による送電網の異常、通信障害、全地球測位システム(GPS)の誤差などを引き起こすことがあり、警戒が必要だ。

そのメカニズムと実例を具体的に見てみよう。


航路の迂回措置も 送電線に誘導電流

太陽フレアが発生し、8分20秒ほどで地球に到達するのが電磁波だ。X線や紫外線は電離圏に吸収され、電離層の状態は急激に変化する。これにより、短波通信の障害(電波吸収によるブラックアウト)や、GPSなどの誤差が生じる可能性がある。一方、太陽から放射される強力な電波も、GPSに悪影響を与える。地球の電波観測機器にノイズとして混入し、観測を妨害、GPS信号に干渉し、測位精度を低下させかねない。

次に、フレア発生から数十分~数時間で高エネルギー粒子が到達する。もし高エネルギー粒子が人工衛星に衝突すると、電子回路の誤作動や故障、太陽電池パネルの劣化などを引き起こし、衛星の運用に支障をきたしかねない。

高エネルギー粒子は地球の極域に降り注ぎやすく、北極や南極上空を飛行する航空機では、直接の健康影響はないものの、乗務員や乗客の被ばく線量がわずかに増加する可能性がある。このため、大規模な太陽フレア発生時には、航空会社が極航路をう回する措置を取ることがある。極域の電離圏をかく乱し、無線通信に障害を引き起こすこともある。

【コラム/5月28日】洋上風力発電を考える~画餅の国策なのか


飯倉 穣/エコノミスト

1、無資源国の洋上風力期待

カーボンニュートラル(CN)実現に再エネ導入拡大で、この国は太陽光と風力期待である。風力は、陸上適地少なく、海域利用に国運を賭けている。第7次エネルギー基本計画(25年2月)は、洋上風力発電を30年度10百万kW、40年度30~45百万kWを掲げた。そして再エネ海域利用法で公募選定を21年以降3回実施し4.6百万kW(含む他案件5.1百万kW)を確保した。まさにビジョンを掲げ、洋上風力開発競争市場を創設し、意欲的に企業を誘導する手法が功を奏した感があった。

そこに物価高騰の風が吹いた。「国内洋上風力発電事業に係る事業性再評価についてのお知らせ」(三菱商事2月3日)だった。報道もあった。「洋上風力日本も試練 三菱商事損失522億円4-12月 調達建設コスト上昇 米欧で撤退相次ぐ」(日経2月7日)、「三菱商事洋上風力で減損522億円撤退可能性言及避ける」(朝日同)。

暫くすると、「洋上風力 より高値で売電 指針見直し 三菱商事落札の3海域」(日経3月14日)となった。事後的なルール変更に首を傾げる開発事業者もいた。他の分野の専門家から洋上風力導入計画の妥当性に対し疑問提起もあった(IEEI掲載提言4月21日)。洋上風力開発の意義と今後の推進策を改めて考える。


2、洋上風力の可能性

日本の風力発電は、24年12月末累積導入量2720基、584万kW(日本風力発電協会)である。国内発電電力量の約1%を占める(エネ庁集計発電量23年度9,215百万kWh)。これまで陸上風力主体に開発が進んだ。陸上風力159百万kW可能の風呂敷流試算もあるが、立地絡みで先行き限界の指摘もある。

そこで日本列島を囲む海洋に注目が集まる。洋上風力の可能性は、着床式128百万kW、浮体式424百万kW(日本風力発電協会)という見方である。同協会は、2050年風力発電140百万kW(陸上風力発電40百万kW、着床式洋上風力発電40百万kW、浮体式洋上風力発電60百万kW)を開発し、全発電電力量の1/3を風力発電で賄うことを目指している(陸上700億kWh/年、洋上2628億kWh/年、計3328億kWh/年)。

このような見方の後押しを受けてか、第7次エネ基本計画は、再エネで、洋上風力発電の位置を強化した。再エネ期待は、電力供給で、3,800~5,800億kWh(全発電量10,800~12、000億kWh)で、シェア35~50%程度を目論んだ。内訳は、太陽光23~29%、風力4~8%(440~960億kWh)である。因みに原子力は、重要性の認識違いで20%程度(2,100~2,400億kWh)と過小だった。

先行き、再エネでは、太陽光が邁進中ながら、やや開発難になりつつある。地熱発電は、開発者が寡少である。陸上風力は、生態系への影響等で建設難が見える。そこで基本計画は、白地(シロジ)の洋上風力に傾斜である。案件形成に躍起である。その裏付けとなる発電単価試算は、技術革新ケースで、低位、陸上風力12~25円/kWh程度、洋上風力18~38円/kWh程度、高位、陸上風力11~23円/kWh程度、洋上風力12~26円/kWh程度だった。

捕らぬ狸の皮算用ながら、40年のエネ需給見通し(複数シナリオ)は出来上がった。その先のCN実現の姿を考えると、経済水準維持に必要な電力量1兆kWh超確保のためには、国土条件から見て、原子力4000億kWh、太陽光3000億kWh、出来るなら風力発電2000億kWhというイメージがある。つまり風力発電は、現状の20倍の発電量願望となる。

脱リチウムで発火リスク低減 次世代電池の導入にも意欲


【技術革新の扉】ナトリウムイオン型バッテリー/エレコム

世界で初めて、モバイルバッテリーにナトリウムイオン電池を採用した。

従来型の課題を克服し、「高い安全性」と「低環境負荷」を実現している。

外出時の必需品になりつつあるモバイルバッテリーだが、近年発火事故が相次いでいる。こうした状況に危機感を強め、「発火しづらいモバイルバッテリー」の実用化に成功したのが、同分野で国内トップシェアを誇る電子機器メーカーのエレコムだ。1986年の創業以来、ファブレスメーカーとしてPC・スマートフォン関連の製品開発から調達、販売を手掛けてきた同社は、EVや蓄電池用途の電池開発で最先端を走る中国の協力ベンダーからナトリウムイオン電池を調達。熱暴走リスクの低い同電池をモバイルバッテリーに用いることで、安全性の高い製品を生み出した。そして3月29日、この世界初のナトリウムイオン電池採用のモバイルバッテリーの販売を開始した。

各イオン電池の特性


リン酸鉄での経験が鍵に 安全性求め導入を決意

現在、市場に出回る製品のほとんどはリチウムイオン電池を搭載し、発火リスク以外にも、原料となるリチウム自体が希少で長期的な安定供給に不安があることや、その採掘によって土壌や生態系に悪影響を及ぼすなどの問題を抱えている。 

これに対し、同社は発火リスクの低いリン酸鉄リチウムイオン電池を採用した製品を2022年に発売するなど、モバイルバッテリーの安全性向上に努めてきた。商品開発部スーパーバイザーの田邉明寛氏は、「従来モデルの倍の価格ということもあり、発売当初は全く売れなかった。だが、徐々に認知度が高まり、安全性を評価する消費者の方々に手に取ってもらえるようになった」と振り返る。続けて、「リン酸鉄が学校などで採用されるなど、軌道に乗ったことが大きい。これにより、ナトリウムイオン型の製品化を進めることができた」と、これまでの経緯を振り返る。

イオン電池は正極、負極の間をイオンが行き来することにより充放電する仕組みだが、ナトリウムイオン電池の特徴は正極材の性質に由来する。リチウムやコバルトといったレアメタルの代わりに、高い熱安定性を持ち、かつ反応性が低いナトリウム系の酸化物を正極材に用いることで、熱暴走のリスクを抑えることができる。レアメタル使用量を抑え、「低コストかつ低環境負荷」と「高い安全性」といった特徴を兼ね備えるナトリウムイオン電池は、EVや蓄電池などにも適していることから、世界的にも開発の機運が高まっている状況だ。

世界初のナトリウムイオン導入バッテリー

それでも、これまでに同電池を採用したモバイルバッテリーの製品化が実現することはなかった。原子半径が大きく、エネルギー密度がリチウイオンの半分程度であるため、製品が重くなるといった欠点があるためだ。また、注目されてから日が浅く、特に負極材の検討が進んでいないことも、その要因だった。 課題が山積する中でモバイルバッテリーへのナトリウムイオン電池採用にこだわった理由について田邉氏は、「EVや蓄電池用途ではあるが、ナトリウムイオン電池の開発には複数の大手メーカーが乗り出している。こうした流れの中で密度や重量面での問題はクリアになっていくはず。高い安全性を誇る同電池がモバイルバッテリーの主要な選択肢になり得ると考えた」と説明。その上で、「耐久性が高く、温度範囲も50℃~マイナス35℃と広いため、寒冷地や工事現場など厳しい環境下で利用していただける点は強み」と同製品の特長を強調する。


全固体電池の導入も視野 次世代製品の開発リード

およそ半世紀にわたって技術開発が進められてきたリチウムイオン電池の性能は既に理論的な限界値に近く、大幅な改良は見込めない。加えてその価格はEV市場の動向に左右されやすく、安定性に欠ける。実際に、今年4月時点の価格はEV需要が急増した22年の7分の1程度の低水準となっている。近年のナトリウムイオン電池をはじめとした次世代電池の台頭には、こうした問題意識の高まりが背景にある。

田邉氏は今後に関して、「現時点ではナトリウムイオンを採用したが、将来的には、劣化や発火の原因となる電解液を用いない『全固体電池』の導入も考えている」とし、製品の安全性と利便性を追求していく考え。次世代のモバイルバッテリー開発をリードしていく。

【伊澤史朗 双葉町長】「除染土は首都圏での理解も重要」


いざわ・しろう 1958年福島県双葉町生まれ。80年現在の麻布大学獣医学部卒業後、実家の家畜医院に勤務し、89年イザワ動物病院を開業。2003年双葉町議会議員選挙で初当選。13年双葉町長選で初当選。現在4期目。19~21年には双葉地方町村会長を務めた。

福島第一原発事故により、いまだに大部分が帰環困難区域となっている福島県双葉町。

除染土の再生利用を巡って、県内でも受け入れの必要性を表明して話題となった。

福島県双葉町生まれ。双葉高校時代に兄が理系から文系に進路変更したことで、実家の家畜医院を継ぐと決意した。大学は神奈川県の麻布大学獣医学部へ進み、23歳で父の跡を継いだ。

父と祖父は町議を務めたが、政治の世界には関心がなかった。足を踏み入れるきっかけになったのは、産業廃棄物処分場の建設問題だった。計画の詳細を調べると、化学物質を含む廃棄物が地下水や河川を汚染する可能性があった。河川が汚染されれば、下流域の農地が壊滅的な被害を受けるかもしれない。しかし、行政は期待した対応をとらず、政治の重要性を痛感したという。結果的に、建設予定地の土地を反対住民らが取得することで、建設を阻止できた。

2003年、45歳で町議会議員に初当選した。11年3月11日は、2期目の任期の最終盤だった。福島第一原発(1F)事故を受け、翌日には町内全域に避難指示が出された。役場機能は北西約50㎞の川俣町へ移動したが、19日にはさいたまスーパーアリーナ、30日には埼玉県内加須市の廃校へと再び移動し、2年3カ月を過ごした。その間に行われた13年の町長選で初当選を果たした。

震災後、町長選への出馬どころか、町議を辞めようとさえ考えていた。避難生活が続く中、町議や役場職員には町民の怒りが直接ぶつけられ、続ける意味を見失いかけていた。そんな伊澤氏を奮い立たせたのは、「町民が大変な時に辞めるのはおかしい」という妻の言葉だった。

大幅に変わった再エネ支援策 事業に与える影響はいかに


【多事争論】話題:FIP・FIT制度の変更

資源エネルギー庁の調達価格等算定委員会が2月、再エネ支援制度の変更案を公表した。

これが、今後の各電源の導入にどのような影響を及ぼすのか。

〈新スキームには一定の期待感 懸念は需要家の行動変容か〉

視点A:加藤真一/エネルギーアンドシステムプランニング副社長

今回は、資源エネルギー庁調達価格等算定委員会が2月に公表した再生可能エネルギーFIT(固定価格買い取り)・FIP(市場連動買い取り)制度の議論の整理の意義と、それがもたらす影響について電源ごとに解説していく。

まず太陽光発電は、近年ではピーク時と比べ新規認定・導入量が停滞しているとはいえ、累積ベースの導入量では中国、米国に次いで世界第3位。2012年からのFITの成果が一定程度、効果を発揮したことが分かる。RPS制度(再エネ利用義務制度)から切り替わったことで事業の予見性が向上し、参入意欲を後押ししたことは間違いない。

加えて、当初、高く設定された買取価格による国民負担軽減のために、入札制度の導入や中長期のコスト目標が設定されたことが機能しコストの低減はある程度順調に進んでいる。大規模なメガソーラーの新設に適した立地があまり残されていないことを踏まえると、今後の新規の認定・導入量の拡大は屋根置き型や建材一体型、ペロブスカイトなどで対応していくことになるだろう。

そうした中で今回導入された「初期投資支援スキーム」は、屋根置き型の設置を促進する効果的な策となることを期待したい。住宅用は初期の4年が1kW時当たり24円、その後10年目までが8・3円、事業用は初期の5年が19円、その後20年目までが8・3円に設定されており、いずれも4~5年で投資回収できる価格設定、残りの期間は卸電力取引市場価格水準での設定となっている。その妥当性に関しては事業者がシミュレーションし判断するものであるが、屋根置き型のネックである投資回収期間の長さにアプローチした今回のスキームは評価すべきだろう。

気がかりなのは、屋根置き所有者である家庭や企業、自治体などが今回のスキームとオンサイトPPA(購入契約)に代表される自家消費のどちらを選択するかによってその有効性が揺らぎ得るということだ。脱炭素化を志向する企業にとって自家消費を選択すれば売電収入はないが、自社施設のCO2排出量低減や再エネ比率向上を享受できる上に、自家消費分には再エネ賦課金がかからない。

一方で今回のスキームを採用すれば、(証書などを購入する場合を除けば)施設自体のCO2排出量低減にはつながらないが、売電収入を見込める。双方に一長一短があり、所有者がどう行動するか予測が難しい。また、事業用については後期の8・3円で実際に運営費用をカバーできるかは不透明で、不十分だと感じた事業者が5年で売電を停止し自家消費に移行するケースも考えられる。とはいえ、10‌kW以上の設備を持つ事業者には11年目から廃棄費用を積み立てる必要があるため、何かしらの規律がかかるものと想定される。


対象外の判断は致し方なしか 今後の議論の進展に注目

次にバイオマスについては、チップやペレットなどを含む一般木材を用いる1万kW以上の案件とパーム油など液体燃料を用いる全規模の案件をFIT・FIP支援の対象外とするなど、大きな変化が見られた。22年以降入札がない現状では、この判断は致し方ないという印象。再エネで唯一燃料を必要とし、そのコストの変動リスクが大きいことが入札低調の要因と考えられるが、今後、短期での自立が難しいバイオマスに対する他の制度的措置や支援を含めた検討が求められる。

最後に地熱に関してだが、JOGMEC(エネルギー・金属鉱物資源機構)が地下資源量の調査を積極的に行う方針が示された意義は大きい。不確実性の高い地熱資源の調査にかかるコストの大きさが、導入が進まない要因の一つであるからだ。また、来年度から設備容量に応じて調達価格が逓減する「フォーミュラ方式」が採用される。これは、1kW時当たり40円であった1・5kWまでの買取価格が高すぎるという委員会の見解を反映したもの。開発リスクやコストが高い現状を踏まえたIRR(内部収益率)の設定を今後検討することになるが、配管にスケール(鉱物)が付着しやすいなど、維持管理にかかる費用を加味した丁寧な議論に期待したい。

一方で一番の問題は案件形成と稼働実績が少ないことにある。国が積極的に事業者を後ろ支えし、導入量がある程度増加しないことには、発電規模ごとの買取価格の設定や必要な収益率を推定する基となるデータが集まらない。この点は、引き続き、制度的措置や支援を講じていくことと並行して、エネ庁が4月14日に設置した「次世代型地熱推進官民協議会」で普及に向け検討を進める次世代型地熱発電の導入が鍵を握ることになるだろう。

かとう・しんいち 1999年東京電力入社。2012年から丸紅にてメガソーラー開発・運営、風力発電のための送配電網整備実証を手掛ける。2015年からはソフトバンクで小売電気事業に係る電源調達・卸売や制度調査を行い、2019年1月より現職。

【エネルギーのそこが知りたい】数々の疑問に専門家が回答(2025年5月号)


浮体式洋上風力のEEZ展開/アンモニアに係る高圧ガスの規制

Q 排他的経済水域(EEZ)に浮体式洋上風力を展開する際の課題は何でしょうか。

A EEZへの浮体式洋上風力の導入が期待されていますが、「沖合」、「浮体式」という二つの特質からくる課題は少なくありません。

まず、EEZは国連海洋法条約で沿岸国の経済的主権が認められていますが、公海の一部のため、設備を設置する際は条約上の他国の権利(航行、海底送電線・通信線の敷設の自由など)との整合や設置場所の通報、安全水域の確保、海洋環境の保全などの配慮が必要となります。漁業の面でもEEZ内での漁業は「沖合漁業」となり、沿岸の漁業権漁業とは漁法も規模も異なる上に、利害関係が複雑であることから関係者の理解醸成と共生をどう図るかが課題です。

浮体式洋上風力は、「設置海域が沖合遠い」「浮く=動く」「過酷な環境」「設備が大きい」という特徴を持っています。このため、環境に適し安定性と耐久性、信頼性を持った浮体構造物をはじめ係留、風車、送電の各システムの技術開発が必要ですし、厳しい環境下での施工・保守技術の開発と低コスト化も大きな課題です。また、これらを支える人材育成も重要な課題です。

大型で耐久性が求められる設備を大量かつ高速に製造する技術の確立と関連サプライチェーンの構築、船舶や港湾などのインフラの充実も必要になります。調査面でも沖合の風況観測や環境影響の調査手法の開発も必要です。

EEZにおける浮体式洋上風力の導入は、再生可能エネルギーの拡大に重要な取り組みであることから、利害調整機能を含む法制度の充実をはじめ浮体システム全体の技術開発と関連産業の育成、技術面・認証面における国際連携が進むことを期待しています。

回答者:寺崎正勝/浮体式洋上風力技術研究組合 理事長


Q アンモニアを利用する際に適用される高圧ガス保安法の規制には何がありますか。

A 高圧ガス保安法(以下「法」)は、高圧ガスによる災害を防止し、公共の安全を確保することを目的に、高圧ガスの製造、貯蔵、販売、移動、消費などの取り扱いを規制しています。

高圧ガスは法の定義によりますが、液体状態のアンモニアについては高圧ガスに該当します。一方、気体状態のアンモニアについては、取り扱われる際の温度、圧力の状態から高圧ガスに該当するかどうか判断されます。また、アンモニアは、可燃性・毒性ガスとなります。

前述の通り、高圧ガスの取り扱いは法の規制を受けます。この取り扱いの中で注意すべきものとして高圧ガスの製造があります。例えば、窒素と水素からアンモニアを合成するような場合に加え、法で定義する高圧ガスの圧力を変化(加圧または減圧)させること、気体を高圧の液化ガスにすること、液化ガスを気化させ高圧ガスにすることなど法に定義する高圧ガスの状態を人為的に生成することを広く高圧ガスの製造としています。

高圧ガスの取り扱いに係る規制の主な事項については、①都道府県知事(指定都市の長)の許可を受け、または届け出る、②技術基準の遵守、③法定資格者の選任、④検査(完成検査、保安検査、定期自主検査など)―となります。これら規制の詳細は、高圧ガスの取り扱いの種類、取扱量(処理量、貯蔵量など)、可燃性、毒性などの性質に応じて変わりますが、高圧ガスの製造に関する規制が最も厳しく、他の取り扱いに係る規制の基本になっていると言えます。なお、高圧ガスを利用する際には、高圧ガスに関する規制について理解するとともに、その運用について都道府県知事(指定都市の長)と相談することが重要です。

回答者:高圧ガス保安協会 保安技術部門

【需要家】変わりゆく原風景を前に 再エネとの共生を想う


【業界スクランブル/需要家】

札幌の実家に毎年帰る度、変わる風景に驚かされている。石狩湾周辺にはこの10年で、LNG基地や風力発電が次々に建てられ、一大エネルギー拠点となった。休日に家族と港や浜辺に出向き、一面に広がる日本海をぼんやりと眺めながら過ごした私の原風景は変わりつつある。

火力発電所や原子力発電所など、これまでの発電所は心理学でNIMBY(Not In My Back Yard)と呼ばれる、誰もが必要性は認めるが自分の住む場所の近くには建ててほしくないという感情を生じがちな施設であった。FIT制度などを追い風に増加した太陽光発電所は近年より生活圏に近い場所で見られるようになったが、ビジネスの側面が強く、発電された電力もその地域で利用されないケースもあるなど、地域に受け入れられるためのコミュニケーションが足りていない印象がある。

今後、乱開発による自然破壊や気象災害などに伴う二次災害のリスクや廃棄の問題が強調されてしまうことで発電所の押し付け合いとなってしまうのか、それとも地域の新たな風景の一部として共生できるのか、効率や収益性だけではない再エネの受容性を高めるための視点や発想も普及拡大には重要であろう。

2月に閣議決定された第7次エネルギー基本計画では、宇宙太陽光発電や浮体式洋上風力発電といった新技術の開発にも触れられている。もしかしたら数十年後には今眺めている空の姿もがらりと変わるかもしれない。絵空事として選択肢から排除してしまうよりも、それらの技術を受け入れた地域の未来の風景と、そこに暮らす人の生活像を一度真剣に描いてみるのはどうだろうか。(K)

【再エネ】衝撃のFIP転換容認 拭えぬ唐突感


【業界スクランブル/再エネ】

3月10日に政府の第31回洋上風力ワーキンググループが開かれ、洋上風力業界に激震が走った。ラウンド1においてFITからFIPへの転換が認められたからだ。

世界的な情勢変化が起きている中、洋上風力発電の電源投資を確実に完遂させるためにさまざまな議論が行われ、事業実施の確実性を高める取り組みそのものは理解できないものではない。また、FITからFIPへの転換自体は、太陽光や陸上風力で推進されていることからも、否定されるものではない。しかしながら、本件に対して釈然としない業界関係者が多いのも事実である。

その理由は、大きく分けて二つ考えられる。まず一つは、ラウンド1はFITであり、FIP転が認められることはないとの理解が一般的であったこと。そしてもう一つは、FIP転によって、ラウンド2、ラウンド3の事業者だけでなく、再エネのPPA市場全体に悪影響を及ぼしかねないとの懸念である。

今回の問題点は、丁寧な議論を経ずに突如として事後的にFIP転が認められ(たように感じている人が多い)、その結果として、ラウンド1の事業者が救われ、その他の事業者が悪影響を受けかねない構図に見えてしまいがちであることだ。そのため、それぞれの立場によって、さまざまな意見が噴出してしまったことは大変残念な状況である。

これからも事業実施の確実性を高めるためにさまざまな取り組みが予想されるが、公募における透明性と公正性を担保しつつ、事業の予見性を確保することで、事業者が安心して洋上風力発電に取り組めるよう、国には丁寧な対応を期待したい。(M)

他業種の経験糧に若手社長が牽引 小売と需要家双方に寄り添い経営


【エネルギービジネスのリーダー達】高橋優人/日本電力調達ソリューション代表取締役社長

小売り電力会社と需要家をつなぐハブとして、電力会社切り替えサポート事業などを展開。

入社から半年で社長に就任した若き経営者は、双方のニーズに応える事業運営を重視する。

たかはし・ゆうと 福岡県広川町出身。高校卒業後、2012年に九州電力に入社。7年間勤務した後、電力切り替えプラットフォーム企業など複数社を経て、24年4月22日に日本電力調達ソリューションに入社。同年9月から現職。

スーパーやホームセンターなど高圧領域の需要家を対象に、電力調達コンサルティングなどを手掛ける日本電力調達ソリューション。指揮を執るのは、入社からわずか半年で社長に就任した31歳の若手経営者・高橋優人氏だ。「需要家側だけでなく、提携先の小売り電力会社側のニーズにも目を向けるよう心掛けている」と、需要家と電力会社をつなぐハブとしての強みを生かしながら、事業運営に注力している。


電力会社と緊密に連携 柔軟な対応が好評

同社が展開する事業は大きく三つ。①電力調達や再生可能エネルギー導入におけるコンサルティング・プロセス代行、②燃料費等調整額の予測データ提供および電気料金予算作成支援、③電力会社切り替えサポート―だ。このうち好調なのが、電力会社切り替えサポート事業。単に、電気料金を抑えるだけではなく、価格高騰へのリスクヘッジなどを重視する要望に応じ、提携先電力会社各社の多様なプランから最適な選択肢を提示している。加えて、複数の需要家を束ねて同社経由で一括切り替えすることで、料金単価の低減を実現する独自の戦略も展開している。利用料が無料であることも後押しし、事業を開始した昨年4月からたった11カ月で、契約口数は約120件、電力量は約2億kW時に達した。高橋氏は「提携先の電力会社と密接に連絡を取り合い、信頼関係を築いているからこそ、要望に合わせた柔軟な調整ができる」と、他社にはない強みを語る。

切り替え後、需要家には定期的なレポートなどを通じて情報提供を行い、契約継続を促している。「電力会社は顧客の獲得だけでなく顧客との長い付き合いを求めている。双方のニーズを満たすことが重要だ」と語る。

高橋氏がアフターフォローを含めた丁寧な事業運営を重視する姿勢は、同社入社以前に得た経験に根差している。

高校卒業後の2012年、九州電力に入社。約7年間、電力の法人営業やガスの個人営業などに従事した後、電力切り替えプラットフォーム企業に転職し、その直後の22年に、ロシアによるウクライナ侵攻に伴う燃料価格の高騰に直面した。

「いくつかの新電力が撤退し、需要家との契約を一方的に打ち切る場面を目の当たりにした。一方で、何とか需要家を守ろうと事業継続に踏みとどまる新電力もいた。逆風にさらされながらも創意工夫する姿勢を応援したいという思いが、この時芽生えた」と振り返る。

この思いを形にすべく、自ら経営することを決意し、23年にグロービス経営大学院に入学した。学費を工面するため、当時所属していた電力切り替えプラットフォーム企業で働く傍ら、副業として飲食店のホールスタッフのアルバイトに励んだ。

「当時は30歳手前だった。無機質にサービスを提供するだけではなく、目の前のお客さんに真に喜んでもらえるよう向き合う大切さを改めて実感した。電力業界では、契約後のアフターフォローがやや手薄になりがちな印象がある。当社ではそこを補っていきたい」と力を込める。


行動力を武器に チームに道を示す

同社は22年12月に創業した。高橋氏は昨年4月に営業部に入社。優れた営業成績と経営への強い関心が評価され、半年で社長に抜擢された。以降、ボードメンバーに支えられながら経営のかじ取りを担っている。「経営メンバーには、大手電力会社で幹部を務めた経験を持つ人物もいる。その中で、最も若く経験の少ない私がチームを率いている以上、言葉だけでなく行動と結果で示す姿勢を意識している。持ち前の行動力を活かして自ら先頭に立ち、会社の進むべき道を示していきたい。能力や知識の面で不足を感じる部分もあるが、そこは他のメンバーと補完し合いながら、役職の垣根を越えて取り組んでいく」

今後は、人材強化に積極的に取り組む予定だ。創業時のメンバーがベテラン社員を中心に構成されていたこともあり、持続的な成長を支える次世代の戦力確保が課題となっている。

「自分は異色の経歴を持っている。それゆえに経歴だけで人を判断すべきではないと考えている。優れた能力がありながら埋もれている人材にも目を向けた採用に力を入れていく」

また、各事業の売上構成を適切に分散させたポートフォリオの実現を構想している。「現在、電力切り替えサポート事業が好調だが、他の事業についてもサービス拡充などを通じ成長を図っていく」と、収益拡大に意欲を見せる。再エネ導入に限ったコンサルティングだけではなく、蓄電池などの商材も取り入れることで、需要家が抱える課題への対応範囲を広げ、ハブとしての存在感を高めていく考えだ。

核開発の裏に潜む「闇市場」 濃縮分野で暗躍した人物とは


【原子力の世紀】晴山 望/国際政治ジャーナリスト

通貨下落に伴う物価上昇を背景に、イランの3月消費者物価指数は前年比37・1%増に。

厳しい経済制裁を米国から受けてまで、核開発を断念せずに続けるのはなぜなのか。

米国のトランプ政権が日本や欧州、中国などに相互関税をかけ、世界の金融市場が大混乱に陥っている。米国との貿易がないイランは、ロシア、北朝鮮などと同様に相互関税の対象にはなっていない。だが米国による「最大限の圧力」が続く中、通貨イラン・リヤルの暴落が止まず、3月末には、とうとう1ドル=100万リヤルを割り込み、紙切れ同然になりつつある。

そんな大打撃を受けているイランが核開発に乗り出したきっかけは、イラン・イスラム革命翌年から始まったイランイラク戦争だ。混乱が続くイランをたたくのは絶好の機会だとみたイラクのサダム・フセイン政権は1980年9月、イラン侵攻を始める。虚を突かれたイランだが、果敢に反撃し、戦争は長い小康状態に入った。

最前線では、現在のウクライナ戦線と同様、双方が塹壕を掘り巡らした。総攻撃を仕掛ける際は、敷き詰められた地雷を「踏み潰し道を開く」ため、年端のいかない少年兵を大量に投入、地雷を爆破した後に戦闘車両が進軍する悲惨な闘いが続いた。テヘラン市内を歩くと、地雷を踏み命を落とした少年兵の顔写真が多く飾られている。

イラクは友邦ソ連から調達したスカッド弾道ミサイルを使った。イランは北朝鮮から同様のミサイルを調達して応戦した。イラクは、化学兵器の使用にも踏み切る。イラン軍は対抗しようと開発を始めたが、最高指導者ホメイニ師は「多くの人を殺傷する化学兵器のような大量破壊兵器は、イスラムの教えに反する」と待ったをかけた。


カーン氏率いる闇商人 80年代から中東などへ

イラン軍は同時期、化学兵器より強力な殺傷力を持つ核兵器の開発も目指し始めた。当時、世界には核兵器開発に使う機器やノウハウを売りさばく複数の集団が居た。

ひとつは、欧州の英国・西ドイツ・オランダが共同で設立したウラン濃縮会社「ウレンコ」に、ウラン濃縮用の遠心分離機や、ベアリング、真空ポンプなどの関連機器を納入するメーカーだ。欧州のメーカーが中心だ。「ウレンコ」は欧州各国の原子力発電所用に濃縮度3~5%の濃縮ウランを製造している民間企業だ。だが、この技術を軍事転用すれば、核爆弾に使う濃縮度90%以上に達する濃縮ウランの製造ができる。

ウラン濃縮用の遠心分離機「IR-1」
出所:筆者撮影

もうひとつは、「ウレンコ」の技術を盗み取り、本国パキスタンに持ち帰った人物、A・Q・カーン博士が率いる「核の闇市場」だった。博士はパキスタンの「原爆の父」と呼ばれるなど国民のヒーローだった。核兵器開発に一段落がつき、今度は、自らが培ったノウハウやネットワークを活用して巨万の富を築こうと「市場」に参入した。

闇商人たちは80年代に入り、中東諸国や北朝鮮、ブラジルなど核武装を目指す国々に相次いで接触、遠心分離機などの売り込みを図った。

カーン博士のグループが最初に標的に定めたのは、独裁者・カダフィー大佐が支配するリビアだった。84年1月、「パキスタンは核兵器開発に10年の歳月と3億ドルを費やした。これを1億5000万ドルでお分けする。開発期間も半分になる」とリビアを口説いた。だが、リビアは、現時点は十分な技術的基盤が足りないと断る。

次の標的はイランだった。メンバーであるスイス人が、87年3月にテヘランを訪問、遠心分離機のビデオを見せながら欧州製の濃縮機器の購入を強く勧めた。それから1カ月後、スイスのチューリヒ空港で落ち合い、レマン湖の見えるホテルで2度目の面会に臨む。闇市場側は、イランが核兵器を取得するまで、全ての面で面倒を見ると説明、手はじめに、分離機の設計図やサンプルを2000万㌦で売り渡すと持ちかける。

11月上旬にアラブ首長国連邦(UAE)であった3度目の会合で商談は成立するが、イラン側は、「この分離機は欧州製ではなく、パキスタン製だ」と読み切っていた。イランは隣国パキスタンを「最貧国」と見下しており、購入数は限定的だった。遠心分離機は天然ウランの中にわずか0・7%しかないウラン238を分離するための機械だ。音速を超す速度で回す制御技術が難しく、ウレンコでも日本でも、実験中に「発射台からミサイルのように飛び出してしまう」事故が相次いだ。イランも同様だった。


分離機のノウハウつかむ 鍵握るトランプ氏との関係

モスクワ・赤の広場であったナチス・ドイツ打倒を祝う戦勝50周年式典に参列した翌日、クリントン米大統領はエリツィン露大統領とクレムリンで向き合っていた。クリントン氏は「イランは核兵器開発を目指している。イラン向けの遠心分離機や原発の輸出はやめて欲しい」と要請する。ロシアは原発輸出こそ主張を曲げなかったが、分離機輸出は米国の要請に従うことを決めた。

イランは再び、カーン博士の「闇市場」と接触、分離機や、パキスタンが中国から入手したという核兵器の設計図などを次々に購入する。試行錯誤を重ねたイランだが、若手の技術者の活躍もあり、徐々に分離機のノウハウをつかんでいく。2003年には中部ナタンツに設置した濃縮施設で運転に成功、これを機に濃縮の規模拡大を図っていく。

それから約20年あまり。国際原子力機関(IAEA)によると、イランは、原爆(濃縮度90%以上)製造まであと一歩の段階にある濃縮度60%のウランを約275㎏保有。原爆6~7発分に相当し、90%濃縮までの期間はわずか数日から1週間だ。

昨年11月のトランプ氏当選を受け、イランは翌12月から濃縮作業を加速した。「最大限の圧力」を復活させるというトランプ氏を意識したものだ。とはいえ、イランの経済状況は苦しく、イスラエルとの実力差も際立ち始めた。生き残るには、何とか米国と妥協点を見いだすしかない。イランは4月に入り、トランプ大統領からの要請を受け入れ、米国との直接協議に応じる姿勢を見せた。今後、両国の駆け引きが本格化していく。

【火力】再エネ普及に寄与!? ワット・ビット連携の展望


【業界スクランブル/火力】

ワット・ビット連携官民懇談会が発足した。設立趣旨によれば、AIの普及に伴うデータセンター(DC)の電力需要増加に対応し、都市部に集中する電力・通信インフラを地方へ分散させることで、脱炭素と地方経済の活性化の両立を目指すという。

電気事業の視点では、需要と供給をバランスよく配置し、効率的な運用を図るのが基本的な考え方だ。しかし、電力自由化による発送電分離の影響で需給調整が十分に機能していない現実がある。ワット・ビット連携への取り組みは、この課題に切り込む点でも注目される。

ワット・ビット連携の大きな利点は、DCの稼働を電力供給と連携させることで、需給バランスを最適化できる点にある。例えば、電力が余る時間帯に処理を集中させ、ひっ迫時には他地域のDCへ処理をシフトすることで対応可能となる。このような柔軟な運用を実現することで、再生可能エネルギーの活用も一層促進される。

しかし、ワット・ビット連携によって一定程度の需要変動に対応できたとしても、自然変動電源のみでは限界がある。安定供給を確実なものとするためには、火力や原子力といった安定電源の活用について幅広な議論が必要だ。特に火力発電はCO2排出の観点から敬遠されがちだが、調整力としての役割をどのようにバランスさせるかが、今後の大きな課題となる。

DCの需要拡大が避けられない中、低廉で安定した電力供給をどう確保していくかは、日本のエネルギー政策の重要テーマである。その実現のためには、電源構成について、現実的かつ柔軟な議論を行うことが不可欠だ。(N)