「EV先進国」と言われるノルウェーと日本の「半歩先」を行く英国。
そこにはガソリン社会とは全く異なる世界が広がっていた。
小嶌正稔/桃山学院大学経営学部 教授
わが国のEV普及の5年先、15年先を見たくてノルウェーと英国に行ってきた。5年先の姿を英国に、15年先をノルウェーと重ねることにした。わが国のEV新車販売シェアは3・1%(2022年)で、英国で3・2%だったのは19年、ノルウェーでは13年であり想定通りではないが、この2カ国を選んだ。両国ともこれ以降、EV比率は急伸し、22年には英国では22%、ノルウェーでは88%に到達していた。
一方、ストック(道を走っているEV率)は、英国では3・1%、ノルウェーでも全国ベースでは20%程度にとどまっている。ロンドンで緑の印のついたナンバー(EVナンバー)を探したが、ほとんど見かけることはなく、わが国の5年後は現状と変わらないという認識となった。同行した石油販売業者の経営者からは、これならじっくり業態開発を行う時間があるとの安堵というか、余裕が感じられた。
EVであふれるオスロ 日本車の現実を痛感
一方、ノルウェーでは、EVはEで始まるナンバーを付けている。ストックが全国で20%だからEナンバーは目に付く程度かと思いきや、オスロ市内では違った。道路はEナンバーであふれて、探すのはガソリン車、ディーゼル車の方だ。今度はため息まじりの沈黙となった。
現地調査するまでは、CASE(IoT化、自動運転化、シェアリング、電動化)は身近でなかったが、考え方が変わった。日本でも車がワイヤレス(OTA)でつながっていることに便利さを感じていたが、オスロではつながっていない車は不便そのものだ。
ロンドン市内の混雑した道路でも自動運転(運転支援)は難なく機能し、運転に加えて車内の時間の使い方が変わるのを感じた。レベル4の完全自動運転(車)よりも、運転者にあった運転支援(人)が鍵になると思った。
シェアリングは、車所有コストが高額になり、車を持てない若者などが必要とするようになると思っていたが、ロンドンでもオスロでも都市の渋滞は激しく、EVが環境への解決策となるとしても、車の数を減らすことには役に立っていないことを実感した。シェアリングは車の数そのものを減らすことに意義があった。
そしてEVは、新しいモビリティーであることを知らされた。日本メーカーのEVについて、「車はよくできている。足回りも、操作性も抜群で良い車だ。しかし新車を買ったが、乗った瞬間、中古車だった」という評価を聞いた。車のインパネからインフォティメント(情報通信システム+エンターテイメント)まで日本車は遅れに遅れている。
日本の開発者から「このEVは従来のガソリン車と違いがありませんでしょ。とても良い車です」と言われたことがある。走りの技術向上もいいが、EVは市場も買い手の意識も違う。違いがないものでは競争にすらならない。
