エネルギー重視の共和党綱領 フェーズアウト論消滅か

【ワールドワイド/環境】

7月15日、ウィスコンシン州ミルウォーキーで開催された共和党全国党大会においてトランプ前大統領が正式に2024年大統領選に向けた共和党候補として指名され、併せて「アメリカ・ファースト、コモンセンスへの回帰」との序文を掲げた24年共和党政策綱領が採択された。注目されるのはエネルギー重視の姿勢である。

前文では「インフレを破壊し物価を引き下げ、歴史上最も偉大な経済を構築し、国防産業基盤を復活させ、新興産業に燃料を供給し、米国を世界の製造大国として確立したいのであれば、エネルギーを解き放たなければならないことは、常識が明確に物語っている」とし、具体的な政策綱領の中でもエネルギーについて繰り返し言及した。

第1章「インフレの打破と諸物価の速やかな引き下げ」では「米国のエネルギー生産に対する規制を撤廃し、社会主義的グリーン・ニューディールを廃止することで、再び世界のトップとなる。共和党は、原子力を含むあらゆるエネルギー源からのエネルギー生産を解放し、インフレを即座に抑制。信頼性が高く、豊富で、手頃なエネルギー価格で家庭、自動車、工場に電力を供給する」とし、第3章「史上最大の経済の構築」でも「米国を再びエネルギー自給国およびエネルギー支配国にし、エネルギー価格をトランプ大統領の1期目に達成した安値よりもさらに引き下げる」とした。

第4章「アメリカンドリームを取り戻し、全ての人が手ごろな価格で買い物をできるようにする」では「規制負担を軽減し、エネルギーコストを下げ、生活費と日常品・サービスの価格を引き下げる経済政策を推進する」とし、第5章「労働者と農民を不公正貿易から守る」では「米国のエネルギーを解き放つことで、共和党は米国の製造業を回復させ、雇用、富、投資を創出する」とうたった。「バイデン政権が推進してきた電気自動車やその他の義務付けを廃止し、中国車の輸入を阻止することによって、米国の自動車産業を復活させる」とも公約している。ちなみに政策綱領の中に「温暖化」「気候」という言葉は一度も登場しない。バイデン政権の方向性とは真逆であり、トランプ政権復活となれば「化石燃料フェーズアウト」論は消滅するだろう。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院特任教授)

【新電力】料金多様化進むのかが 改革の成否のポイント

【業界スクランブル/新電力】

現在、電力・ガス基本政策小委員会において、電力システム改革を振り返る「検証」が実施されている。関係各者からのヒアリングを終え、今後どのような検証がなされるのか興味深い。

検証に当たり事務局が提示した資料には、自由化以降「多様な料金メニュー」が提供されたことが示された。小売電気事業者が創意工夫して、誰が供給しても同じ品質の電気を売れるような料金体系を開発したということだろう。

事業者にとって、料金メニューは需要家獲得の手段であると同時にリスクヘッジ手段でもある。調達コストに何らかのリスクがある(もしくはない)場合にそのリスクを需要家と自社にどう配分するかを決定付けるのが料金体系ということになる。

最も簡単なのは、いわゆる「市場連動型」のメニューだ。このメニューを販売して市場から調達することとすれば、リスクを需要家にほぼ転嫁できる。完全な従量料金、固定された従量単価のみの料金に対して、BL市場や従量固定単価のみの電源を調達できていればリスクはないが、一般的なエリアみなし小売燃調付料金だとリスクを保有することになる。

燃調付料金を提供する場合は、燃調に連動した調達を実施することでリスクを回避できる。自らの電源調達のプロファイルや市況、さらにはターゲットとなる需要家が訴求する付加価値なども踏まえて料金メニューを設計し、それがリスク許容度の範囲内かを検証することが求められる。

制度改革がさらに進んでいく中で、料金メニューの多様化も進むのかが、システム改革の成否を決める一つのポイントだ。(K)

M7超発生も大規模停電回避 花蓮地震で見えた台湾の特性

【ワールドワイド/経営】

2024年4月3日午前8時前に台湾東部の花蓮県沖を震源とするM7・2の地震が発生し、台湾全域で大きな揺れが観測された。電力系統では発電機のトリップ、送配電線の断線が発生し、広範囲で計37万戸以上が停電したが、長時間にわたる大規模停電は回避された。停電はほぼ全て当日中に復旧し、夜間の電力需給のひっ迫も見られなかった。復旧が速やかであった背景には、再生可能エネルギーや蓄電設備の拡大、近年のレジリエンス強化への投資がある。

今回の地震では、火力発電機計8基がトリップし、一時的に約320万kWが失われた。通常60㎐の周波数が59・46㎐まで低下したが、数秒後には蓄電設備から計51万kWの電力供給があったことに加え、揚水発電機3基の運転停止により周波数は59・7㎐まで上昇した。また基幹送電線である345kV送電線には甚大な被害はなかった。

大規模停電を防げた主な要因は、蓄電設備、太陽光発電、揚水発電の三つだ。台湾では政府が変電設備に併設する形式での蓄電設備の導入を推進しているほか、民間での設置も拡大している。今回の地震では蓄電設備が最大約80万kWの電力供給を担い、太陽光発電は当日正午に約840万kWに達した。

揚水発電は蓄電設備に次ぐ早さで大規模停電回避に貢献し、夜間ピークの電力需給にも対応した。地震発生直後に揚水運転から発電運転に切り替え、約30分後には発電運転を停止し夜間ピークに備えて揚水運転を再開した。同日の夜間の電力需給はひっ迫すると予想されたが、結果的に予備率9%が確保され、ある程度の余裕があった。また台湾電力の送電網への投資もプラス要因だ。345kV送電線は複線化されており、20~23年に台湾電力公司は約1兆円以上をその増強に投資している。

今回、基幹送電線が無事であったことや、蓄電設備や揚水発電の利用が有効に機能した。太陽光発電も火力発電機の再起動までの時間を稼ぐことに貢献し、1999年の大地震による大規模停電と長期間の電気使用制限の再来を防ぐことができた。この教訓は地震大国日本のレジリエンス強化にも有用である。

台湾では5月20日に新たに頼清徳総統が就任した。少数与党であり政治的リソースが限られる中、脱原子力政策の是非を含む新たなエネルギー政策の発表が予想されている。今後も台湾のエネルギー政策の動向が注目される。

(南 毅/海外電力調査会・調査第一部)

【電力】内外無差別徹底で注目 大手小売部門の「稼ぐ力」

【業界スクランブル/電力】

大手電力会社による卸相対取引の内外無差別の徹底は、同時に、大手電力社内における発電・小売部門間の取引が契約として明確になることを意味する。価格や取引条件を社外に対する契約と同様に定義する必要があるからだ。これによって、両部門の部門別収支が極めて分かりやすくなり、かつては曖昧であった責任の所在が明らかになってくるはずだ。とりわけ、注目したいのは小売部門の「稼ぐ力」である。

両部門間の契約で一番鍵になるのは「通告変更」、つまり、刻々と変わる需要に応じて、小売側が購入量を増減する権利である。ひと昔前なら自由に行使できたこの権利こそ、発電部門が提供する大きな価値だ。それゆえ、内外無差別の徹底とともに、発電部門はこの権利を廃止するか、相応の対価を求めるようになった。

予定外に販売量が増減するのは、発電事業にとって極めて大きなリスクである。2022年度の電力・燃料価格高騰時を思い浮かべてほしい。新電力からの大量の戻り需要に対して、燃料費調整ではとても回収できないような価格で燃料や電力をスポット調達し、巨額の損失を被った。通告変更が制限されると、今度は小売部門に需要増減への対応とリスクが回ってくる。

小売部門にとって内外無差別は悪いことばかりではない。需要が安定していたり、安い昼間の電気を買ってくれたりする顧客のありがたみが一段と見えてくる。他の大手電力から仕入れるという選択肢もできた。リスクヘッジの巧拙も業績に現れる。根性営業で量を求めるばかりではない、利益センターとしての「稼ぐ力」を見せる時である。(M)

米シェール大手合併で前進 操業の収れん・寡占化は進行

【ワールドワイド/資源】

2024年5月末、新たなシェール企業同士の大型合併が合意された。米国最大手の石油・ガス生産専業のコノコフィリップスと中堅生産者のマラソンオイルである。買収総額は225億ドル、マラソンの株主承認および公正取引委員会承認後、株式交換により年末目途に取引完了の見通し。コノコフィリップスはマラソンのパーミアン、イーグルフォード、バッケンシェール資産を取得できれば、WTI価格バレル当たり30ドル以下で回収可能な20億バレルの積み増しが可能と強調、買収シナジー効果は年間5億ドル規模とし、それとは別に今後3年間に200億ドルの自社株買い、24年第4四半期の34%増配を実施する計画だ。

両社はシェール出現前の1900年代から石油精製・販売も手掛ける一貫操業者で国内外の探鉱開発やLNGにも力を入れたが、2000年以降、米国のシェールに操業を集約させ10年代には高収益が十分に株価に反映されないとし下流部門を分社化、現在、シェール開発以外は国外のLNG資産をわずかに有するのみ。取引が成立すれば、コノコフィリップスの生産は欧州メジャーBPの日量石油換算230万バレルに迫る同220万バレルに拡大し、時価総額もBPの900億ドルを上回る1300億ドルとなる。

近年、コノコフィリップスは、20年にパーミアンで操業するコンチョリソーシズを97億ドルで買収、21年に欧州メジャーシェルのパーミアン資産を95億ドルで買収し、着実にアセットを積み増してきた。今回の買収ではマラソンのイーグルフォード資産が魅力の一つ。統合後はイーグルフォードにおいてEOGを抜き約40万バレルを生産する当該地域最大の生産者になり、取得する数多くの生産井に再びフラッキングを施して生産性向上を図る計画だ。

24年第1四半期は、世界の上流資産取引のうち9割近くを米国シェールが占めた。徐々にシェール開発は生産効率が落ちる中で、資産統合を繰り返しながら少数精鋭化され、新たな技術イノベーションに取り組み生産効率を高めた企業に操業が収れん、生産寡占化が進行する。

優良資産はすでに取引終了といわれるが、シェール資産の積み増しがうまくいっていない中堅のデボンやアパ(APA)は取引を模索しているとみられ、これらは被買収企業になる可能性もあり、また中小企業が買収ターゲットにもなり得る。

(高木路子/エネルギー・金属鉱物資源機構調査部)

【コラム/8月16日】電気の規制料金撤廃に関する議論

矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

経済産業大臣の諮問機関である総合資源エネルギー調査会で電力システム改革の検討作業が進められているが、低圧需要家向けの小売料金の規制を撤廃すべきかどうかについても議論されている。大手電力会社が大きなシェアを有するなかで規制を撤廃することは、規制無き独占になるとして長らく是認されてきた感のある小売料金の規制であるが、ここにきて多くの疑問が出てきたことは、遅きに失した感がある。

2022年春以降、国際的な燃料価格の高騰のなかで電力供給コストが大幅に上昇したが、低圧分野に残された料金規制のために、一般電気事業者は財務的に大きな痛手を負った。また、卸電力市場から電力を仕入れる新電力は、規制料金に太刀打ち出来ず、2023年3月24日時点で、2021年4月までに登録のあった706社のうち195社が契約停止・撤退・倒産を余儀なくされた。このような状況を踏まえ、規制料金撤廃の議論が沸き起こったことは周知の通りである。欧米に目をやると、電気料金規制は撤廃すべきとの考えが従来から主流である。

米国では、電力小売の自由化は、1997年にロードアイランド州から始まったが、わが国同様、小売料金を一時的に規制する州が多かった。その規制解除の動きは、2000年代初めからあったが、2000年代半ばにピークを迎えた。規制期間中はこの間生じたコスト増の料金への転嫁は十分には(または完全に)できなかったことから、規制解除後の料金の値上げは大幅なものとなり、大きな問題となった。一例を挙げると、メリーランド州では、2006年7月に規制解除時期を迎え、Baltimore Gas and Electric Company (BGE) と Potomac Electric Power Company (PEPCO) は、それぞれ72%と39%の引き上げを行うことになった。

同州では、料金規制のために、新規参入が進まなかった上に、その解除後に大幅に料金が上昇するとあって、料金規制の問題が一挙に噴き出した。事態を重く見た政治家は、一時、規制当局である公益サービス委員会の委員のうち州知事が任命した5名を解任するという法律まで成立させた(最高裁はこれを無効としている)。また、同委員会の委員長も辞職することになった。筆者は、このような騒ぎの中、公益サービス委員会を訪問したが、委員会のスタッフは、一連の出来事から得られたレッスンは、電気料金にキャップを被せるべきでないとのことであった。

また、メリーランド州などにおける料金規制解除に伴う料金値上げ問題に先立ち、米国では、2000年から2001年にかけて、カリフォルニア州の電力危機を経験している。カリフォルニア州は、1998年に全面自由化に踏み切ったが、 2000年夏場から2001年冬場にかけて、電力需給の逼迫に端を発した電力価格の高騰が発生した。2000年12月には卸電力価格は前年比10倍を記録したが、大手電力会社Pacific Gas and Electric Company(PG&E)の小売料金は規制されていたため、同社は、コスト回収ができず、倒産を余儀なくされた。また、大規模停電も発生し、安定供給が脅かされた。カリフォルニア州の電力危機は、小売料金を規制することの大きな問題点を浮き彫りにした出来事であった。

一方、欧州ではどうかというと、2022年におけるロシアのウクライナ侵攻を契機に、天然ガスをはじめ化石燃料の価格が大きく上昇する中で、電力価格も高騰し、EUは緊急事態として電気料金の上昇を抑制する措置を加盟国に認めたが、このような緊急事態を除き、従来から、小売料金規制は撤廃すべきとの考えである。市場で決まる競争的料金よりも低い規制料金の提供は、新規参入を阻害するからである。また、競争的な料金よりも高い料金が設定されれば、市場参入が活発になると考えるのが常識だろう。自由化市場の下では、市場支配力の行使があれば、本来独禁法で裁かれるものである。やはり、自由化の下では電気料金は規制をすべきでないとの考えは正論なのだ。


【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授、東北電力経営アドバイザーなどを歴任。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。

【インフォメーション】エネルギー企業・団体の最新動向(2024年8月号)

【中部電力パワーグリッド/自治体向けに再エネ自給率の見える化サービスを開始】

中部電力パワーグリッドは、主に自治体を対象に「再エネ自給率見える化サービス」の提供を開始した。この自給率とは、各地域における電力消費量のうち、エリア内で発電・消費した再エネ量の割合のことで、同社ではスマートメーターを活用してその値を提示していく。具体的にはメーターで取得した電力データを束ねて統計加工し、地域の自給率をリアルタイムで知らせる。エリア単位で自給率を見える化することで、各地域の再エネ導入に関する課題分析につなげていく考え。同社ではユーザーからの要望に応じて自給率の向上に資する施策検討の支援も行っていく。


【清水建設/省スペース型の水素利用システムを製品化】

清水建設はこのほど、水素製造・貯蔵装置、燃料電池などの設備をコンテナ内に収納したパッケージ型システム「Hydro Q-BiC Lite」を開発し、製品化したと発表した。同システムは40フィートコンテナ(底面積2.4m×12m)に水素製造装置(1時間当たり5N㎥)、貯蔵装置(300N㎥)、燃料電池(8kW)をパッケージ化したもの。装置仕様の標準化と生産工程のプレハブ化などにより設計・施工を省力化したほか、コンテナ下部の基礎工事と最小限の配管・配線工事だけで完了するなど設置作業も簡略化した。同製品を通じて、カーボンニュートラル社会実現に貢献していく構えだ。


【北海道電力、グリッド/火力・水力需給計画の最適化システムを開発】

北海道電力とグリッド社は火力・水力発電の需給計画を最適に策定するシステム「ReNom Power」のAIエンジンを開発した。計画の策定には膨大な数の発電所の起動・停止や運用上の制約を考慮する必要がある。とりわけ水力発電は農業や観光など多様な用途で利用されるため、水系全体の水の流れを計算し、発電以外の水利上の制約を考慮した計画を策定する必要がある。従来は時間がかかっていたが、今回のAIエンジンにより運用効率が向上する。火力発電向けについては、両社はすでに同様のシステムを開発済みで24年3月から運用しており、1か月に約6億円の燃料費を削減している。


【オムロン、NTTほか/低圧用太陽光パワコンの新機能で遠隔出力制御】

オムロンソーシアルソリューションズと東京センチュリーは、両社が提供する太陽光発電用パワコンの定額貸出サービス「POWER CONTINUE(低圧用)」に新たな機能を加えた。NTTスマイルエナジーが手掛ける遠隔監視サービスで、遠隔で出力制御する「エコめがね」と呼ぶ機能だ。低圧設備も出力制御の対象で、パワコンの更新需要に対応していく方針だ。


【デンソー、京セラ/軽量型の太陽光、既設工場向けに実証進める】

デンソーは京セラと共同で、既設工場の屋根に設置可能な軽量型太陽光発電(PV)のシステム実証を行う。PVの設備構造を見直し、固定する器具などの重量を従来比で半分にした。デンソーは自社工場(愛知県西尾市)内の屋根の一部にPVを設置し、長期信頼性や発電量を確認。今年10月から2025年9月まで実証し、25年度中の国内工場への本格展開を目指す。


【沖縄電力/蓄電池導入で宮古島の電力需要増加に対応】

沖縄電力は、観光客などの増加に伴って電力需要が増えている宮古島の供給力の確保に着手する。従来はディーゼル発電設備がその機能を果たしていたが、今後は蓄電池(4万8000kW時)を導入し、2025年5月の運開を目指す。経済性や運用性を含めてディーゼル発電に比べて優位性があると判断した。供給力対策での蓄電池導入は同社にとって初めてのことだ。

米競技会がきっかけ 自動運転ブームの始まり

【モビリティ社会の未来像】古川 修/電動モビリティシステム専門職大学教授・学長上席補佐

自動運転のコンセプトは、1939年にニューヨーク世界博で、GMがFUTURAMAというブースで未来都市を自動運転車が走行する模型を展示したことが起源だ。GMはRCA社と共同で、誘導ケーブルを用いた自動運転車の走行実験を50年代後半から開始している。仕組みとしては、誘導ケーブルに交流を流し、発生する磁場を車載センサーで検知して、誘導ケーブルとの横方向の変位に換算して、それに対応してステアリングを修正制御するというものである。

スタンフォード大学のスタンレイ(筆者撮影)

それ以降、各国で誘導ケーブルを用いた自動走行実験が60年代に実施されており、日本では機械試験所(その後、機械技術研究所を経て現在は産業技術総合研究所に統合)が時速100kmの自動走行実験を成功させている。次の自動運転世代は、車載センサーだけで走行する自律検知型が台頭し、日米欧で自動走行の実験が盛んになる。そして、90年代には磁気マーカーを道路表面に埋め込んで磁場を検知する路車協調型が復活し、やはり日米欧で実証実験が多く行われた。

このように、自動運転の走行実験は路車協調型と自律検知型が交互に施行されてきたが、2000年代初めの米国DARPA(国防高等研究計画局)が主催した自動走行の競技会をきっかけに、一気に自動運転のブームが訪れる。DARPAは04年に「グランドチャレンジ」と称して、カリフォルニアの砂漠で無人運転でスタートからゴールまで走り切る競技会を開催し、賞金が100万ドルと高額なこともあって、多くの大学などのチームが参加したが、完走チームは皆無であった。翌05年にも同じ競技会が実施され、今度はスタンフォード大学のチームが優勝した。そして、07年には模擬市街地の中のコースを無人で走行する「アーバンチャレンジ」が開催され、カーネギーメロン大学のチームが優勝している。

これらの優勝チームの技術を取り込んだのがグーグル社であり、自動運転技術の開発グループを立ち上げて各大学のチームリーダーを次々招聘していった。その成果が米国で無人タクシーとして近年実用化され、グーグルの子会社のウェイモ社とGMクルーズ社の2社が、米国内の数都市で無人タクシーを営業している。中国でも無人タクシーの実用化はスタートしている。

日本では、ラストマイル自動走行サービスという、地方での高齢化対策などの課題を解決するために時速20km以下の低速での自動運転の実証実験が各地で実施されているが、いまだ社会実装には至っていない。また、乗用車メーカーの自動運転技術としては、ホンダが21年3月に自動化レベル3の自動運転機能を搭載したレジェンドを実用化したが、走行条件が高速道路を時速60km以下で走行するという限定されたものである。ホンダはGMクルーズと連携して無人タクシーを国内で走行させる事業を発表しているが、いまだ実用化の気配は見えていない。

このような自動運転の実用化の現状の背景となっている技術課題、社会課題を次回以降に紹介し、自動運転の将来を予想したい。

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ふるかわ・よしみ 東京大学大学院工学研究科修了。博士(工学)。ホンダで4輪操舵システムなどの研究開発に従事。芝浦工業大教授を経て現職。

食料安全保障とエネルギー 危機に備えた対応は十分か

【オピニオン】山下一仁/キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

食料危機が高まっているとして、政府は食料・農業・農村基本法の基本理念に食料安全保障の確保を特記するとともに、「食料供給困難事態対策法」を成立させた。この法律では、世界人口の増加や干害、冷害などによって、コメ、小麦、大豆など国民の食生活上重要な食料が大幅に不足する場合、事業者に、生産や出荷などに関する計画の提出や変更を指示できるとした。さらに、最低限必要な食料も確保できないような場合は、コメやさつまいもなどカロリーの高い作物への生産転換を要請したり指示したりすることができるとしている。

食料危機には二つのケースがある。一つは、価格が上がって買えなくなる場合である。途上国で所得のほとんどをコメやパンに充てていると、価格が3倍になると食料を買えなくなる。しかし、日本では飲食料品への支出額のうち87%が加工・流通・外食への支出である。農水産物への支出は13%、輸入穀物は1%程度に過ぎない。国際価格の高騰で輸入穀物価格が3倍になっても、全体の食料支出にはほぼ影響しない。

もう一つは、物理的に食料を手に入れられない場合である。食料自給率が4割を切る日本の周辺で、軍事的な紛争などで輸入が途絶すると、大変な危機が起きる。小麦も牛肉も輸入できない。輸入穀物に依存する畜産はほぼ壊滅する。海に囲まれている日本が海上封鎖に弱いと認識している国は、われわれの弱点を突いてくるだろう。ウクライナが2年以上も持ちこたえているのは、食料を自給しているため、太平洋戦争末期の日本のように、飢餓で国民の士気が落ちることはないからである。

輸入が途絶すると、コメ、イモ、麦主体の最低限のカロリーを摂取するだけの戦中・戦後の食生活に戻る。当時の2合3勺の配給量では1600万tのコメが必要となる。コメは水田面積の4割におよぶ減反で700万tしか生産していないが、減反を廃止して収量の高い品種を作付けすれば、この目標は達成できる。

しかし、食料輸入が途絶するときは、石油や肥料原料なども輸入できない。石油などに依存した現在の農業の生産性(面積当たりの収量)は大幅に低下する。さらに、多くの農産物は加工が必要だし、家畜を処分して肉を貯蔵しなければならない。食料の供給では、農業生産資材の供給、農業生産、加工、貯蔵、輸送に、多くのエネルギーが必要となる。

危機の際には、稀少となった石油やエネルギーなどをどのような物資にどれだけ割り当てるのか、特別な政府組織が必要となる。戦前は、貴重な物資を割当て・配分する企画院という各省庁の上に立つ役所も作られた。食料安全保障は農業だけを見ては達成できない。特に、エネルギーの供給が不可欠である。

やました・かずひと 1977年東京大学法学部卒、農林省入省。82年ミシガン大学応用経済学修士、行政学修士。2005年東京大学農学博士。農林水産省ガット室長、地域振興課長、農村振興局次長などを歴任。10年から現職。

小売り全面自由化の必然? 大手電力の「地域主義」回帰

【脱炭素時代の経済評論 Vol.05】関口博之 /経済ジャーナリスト

大手電力やガス会社の事業戦略に改めて「地域」というキーワードが戻ってきているようだ。それぞれが基盤とする供給エリアに貢献する姿勢を鮮明にしている。それを反映し、自治体との地域包括連携協定も多くのインフラ企業が締結するようになっている。テーマは防災・レジリエンスの強化だったり、脱炭素社会への移行だったりする。

望ましいことだし、これは2016年の電力、17年のガスの小売り全面自由化のある意味、当然の帰結に思われる。地域独占という「特権」が崩れた後では改めて顧客や地域社会に正面から向き合う必要がある。「地域共生」「地域共創」「地域の課題解決」が重点目標に掲げられるのもその証だ。

そんな中に中部電力ミライズの一つの取り組みもある。「TSUNAGU table(ツナグテーブル)」というこのサービス、そのままでは廃棄されかねない各種の加工食品をミライズの子会社がメーカーから買い受け、福袋形式で箱詰めにして消費者に宅配しているものだ。レトルト食品や調味料、菓子やスイーツ、さらに贈答セットなど、20数点が入って4980円という価格設定だが、元値は8000円から1万円相当だという。22年11月の開始以来、のべ1万3000人が利用し、参加企業も150社を超えている。

中部電力「ツナグテーブル」の詰め合わせ例

背景には食品業界の商習慣である「3分の1ルール」がある。例えば賞味期限6カ月の商品なら、最初の3分の1、つまり2カ月以内が小売店への納品期限とされ、それを過ぎたメーカー在庫は最終的に廃棄ともなりかねない。そこで品質に問題なく賞味期限も十分に残っているものを安価に提供しようというのだ。福袋形式なので、個々の商品の価格は表に出ない。メーカーは商品のブランド価値を損なうことなく在庫処分ができる。

電力供給を通し地域の家庭と食品メーカー、双方とつながりがある中部電力グループの強みが「つなぎ役」に生かされたわけだ。加えて重要なポイントは「食品の廃棄を減らす」、つまり「フードロスの削減」という社会課題を前面に掲げたこと。まさに課題解決型のモデルだ。会社ではこれまでに23万食分のロスを削減したと試算する。儲けだけを狙った新規事業では挫折していたと担当者もいう。

しかも、この宅配サービスは中部電力と電力契約を結んでいない(離脱した)顧客も利用できる。自由化以降多くの電力会社が電気・ガスのセット販売に加え、新規サービスのアイデアを打ち出してきた。住まいの水回りの補修や高齢者の見守りなどさまざまだ。ただその多くは電気を売るための「付帯サービス」であり、あくまで顧客囲い込みの手段だったように思われる。それが一歩進み、顧客(地域住民)の新たなニーズを捉え、企業や自治体に必要とされるインフラ企業へという、次のフェーズに入ったともいえよう。

中部電力の場合、さらにその先には「地域インフラ事業」の担い手という未来像を描く。そこではエネルギーの枠を超え、資源リサイクル事業や上下水道、地域交通などへの領域の拡大を目指すという。「地域主義」は将来、日本版シュタットベルケにも近づくのかもしれない。

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.01】ブルーカーボンとバイオ炭 熱海市の生きた教材から学ぶ

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.02】国内初の水素商用供給 「晴海フラッグ」で開始

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.03】エネルギー環境分野の技術革新 早期に成果を刈り取り再投資へ

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.04】欧州で普及するバイオプロパン 「グリーンLPG」の候補か

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せきぐち・ひろゆき 経済ジャーナリスト・元NHK解説副委員長。1979年一橋大学法学部卒、NHK入局。報道局経済部記者を経て、解説主幹などを歴任。

環境価値取引に変化の兆し 市場活用へのシフト進む

【マーケットの潮流】野澤 遼/enechain代表取締役

テーマ:環境価値市場

環境価値の取引は、企業がカーボンニュートラルを達成するために欠かせない。

昨今では複数のマーケットが立ち上がり、より流動性が高い取引が実現しつつある。

本年5月、2023年度受渡し向けとしては最後の非化石証書のオークションが開催された。電力供給事業者には、エネルギー供給構造高度化法に基づいて、非化石エネルギー(再生可能エネルギーや原子力)の利用を促進する義務が課されており、非化石証書はその義務を果たすための重要な手段として機能している。

非化石証書と並んで取引されている環境価値が、J―クレジットだ。非化石証書は主に電力供給事業者による取引が中心だが、J―クレジットは、一般企業、つまり需要家の自主的なCO2排出量の削減やCSR活動に対する需要に支えられている。

民間企業は、既に自助努力でのCO2排出量の削減に取り組んでいるが、省エネなどだけでCO2の排出量をゼロにすることは不可能だ。ゆえに、国が掲げる50年カーボンニュートラルを達成するためには、J―クレジットや非化石証書といった、他の事業者の脱炭素活動によって創出された環境価値を利用して、自社のCO2排出量をオフセット(相殺)する取り組みも必要となる。政府も、バリューチェーン全体の脱炭素活動を促進するために、脱炭素活動によって得られる環境価値を売買するカーボンプライシング市場を国のGX戦略の最重要の位置付けとしている。

本稿では、この環境価値取引を盛り上げていくためには何が必要かについて論じたい。


低い予見性と価格制約 直近では約定量が低迷

非化石価値を取引する官製オークションは、年に4回開催される。最終回のオークションでは、需給がひっ迫する可能性も予想されていたが、結果的に、23年度4回目のオークションでの、非FIT非化石証書の約定量は前回から85%減の1・7億kW時にとどまった。

2023年度受渡し向けオークションの結果(非化石証書再エネ指定)

このオークション制度は、18年、非化石エネルギーの価値を適正に評価し、流動性を向上させるために誕生した。一方、直近複数回のオークションでは、「買い入札量=約定量」と需要が低迷しており、その目的を担う難しさを示している(図表参照)。

オークションは、取引機会が年に4回と限られ、一発勝負のため約定するかどうかが分からず、収支の見通しが立てづらい。また、最低落札価格や価格上限が設定されているため、需給を適切に反映しづらいという声も聞かれる。実際、足元では、電力事業者は相対取引や他プラットフォームを用いて、オークションで設定された最低落札価格である0・6円/kW時よりも安い価格で売買を行っている。

政治改革の本丸は小選挙区制度廃止 超党派議連発足で抜本検討に着手

【永田町便り】福島伸享/衆議院議員

自民党派閥パーティー裏金問題に端を発した「令和の政治改革」は、パーティー券の購入者の公開基準を5万円にするか10万円にするかなどの矮小化した議論にとどまり、何のためなのか理念も明確ではなく、改革の名に値しない結果となった。しかし「令和の政治改革」はこれで終わりではない。むしろ多くの国民にとっても、この「食い足らなさ」がより抜本的な政治改革を促す号砲となろう。

こうした中、通常国会会期末の6月18日に「政治改革の柱として衆議院選挙制度の抜本改革を実現する超党派議員連盟」の設立総会が開催され、私もその設立に向けた呼びかけ人となった。与党の自民党、公明党から野党の立憲民主党、日本維新の会以下すべての政党が名を連ね、超党派の100人以上のメンバーでスタートした。私は、無所属ながら幹事長という重責を担うこととなった。

リクルート事件を契機とした平成の政治改革は、「カネのかからない政治」を目指し、衆議院の小選挙区制度の導入によって、政権交代の起き得る政党同士の政策選択の選挙にその解決策を見出した。しかし約30年がたち、この間選挙による政権交代は1回だけ。与党は政権の座を生かして相も変らぬ業界や団体を締め付けて与党の座を守り続け、野党は政策選択というより、実現不可能な耳目を引く極端な政策を掲げて野党の座が固定してしまっている。原発ゼロか否かの二元論を問われたエネルギー政策は、その象徴だ。小選挙区比例代表並立制により小選挙区で敗れても比例復活できることから、政治家は自らの政策を磨きそれを主張するよりは、党に従って議席を守るだけの政党の従業員のような小粒な政治家ばかりになってしまっている。この小選挙区制度の約30年間は、日本の停滞の期間と重なるのは偶然ではないだろう。


大物議員ら多数参加 政党の枠組み壊す

2022年に10増10減の選挙区の見直しを行った時の付帯決議で、25年の国勢調査の結果を受け「選挙区割りのあり方などの抜本的な検討を行う」とされた。来年までに何らかの抜本的な検討を行わなければならないのだ。私たちの議連は、通常国会閉会後衆議院の全政党会派に代表者で額賀福志郎衆議院議長に対し、可及的速やかに議長の下に選挙制度の正式な協議機関を設けることを申し入れた。議連の顧問には、自民党の小渕優子、立憲民主党の大串博志両選対委員長。石破茂議員や中村喜四郎議員など大物議員も多数名を連ねる。

今後この選挙制度の抜本改革の議論によって、既存政党の枠組みを壊すような大きな政治の変革を促していくことを目指していきたい。

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ふくしま・のぶゆき 1995年東京大学農学部卒、通産省(現経産省)入省。電力・ガス・原子力政策などに携わり、2009年衆院選で初当選。21年秋の衆院選で無所属当選し「有志の会」を発足、現在に至る。

多様な脱炭素手段を駆使 CN社会へ着実に手を打つ

【東京ガス】

 「最適な脱炭素ソリューションが提供できるよう、多様な手段の開発と社会実装が求められている」―。

東京ガスが7月1日に行った、カーボンニュートラル(CN)実現に向けたメディア説明会で、木本憲太郎代表執行役副社長は、取り組みの意義をこう語った。

説明会に登壇した東ガスの木本代表執行役副社長

実際、同社のCNの取り組みは、都市ガス分野でe―メタン(合成メタン)、電力分野で太陽光や洋上風力などと多岐にわたる。とりわけ、e―メタンについては、水素利活用技術の開発やDAC(ダイレクト・エア・キャプチャー)設備の導入も視野に入れるなど、先進的技術の開発にも積極的だ。

こうした技術開発を加速させる上で中核を担っているのが、横浜テクノステーション(横浜市鶴見区)での実証試験だ。水素とCO2を、触媒を用いて反応させる「サバティエ方式」のメタネーション実証施設は、22年3月に稼働。自治体などと連携しながら試験の幅を広げ、e―メタンの地産地消の実現を目指している。昨年7月には、市内のごみ焼却工場で生じる排ガスから回収したCO2をメタネーションに利用する検証を開始し、今年度には市内の下水道センターで発生するバイオガスの一種「消化ガス」や、下水を処理した「再生水」を原料に使用する予定だ。

先進的技術の活用についてはMW級水電解装置の稼働が7月中、DACの導入は早ければ今年中を計画しており、全設備の電力供給を敷地内の太陽光発電が賄うことで、全量グリーンのe―メタン製造が可能になる。

高効率にe―メタンを製造できる革新的メタネーション技術の早期実装にも力を入れている。宇宙航空研究開発機構(JAXA)との連携で開発した「ハイブリッドサバティエ方式」は、水電解装置とメタネーション装置が一体となった構造。メタン合成時に生じる熱を吸熱反応である水の電気分解に利用することで、水素の調達からメタン製造にかかるトータルのエネルギー効率を現行の50%から80%まで引き上げることができる。


需要家のニーズに対応 20年代後半にも小型実証機

矢加部久孝・水素・カーボンマネジメント技術戦略部長は、熱需要家から「現地で早く利用したいとの声が寄せられている」として、早期に同施設での実証を開始し、20年代後半にも需要家敷地内に小型実証機を導入したい考えを明らかにした。同社はこうした取り組みを足掛かりに、着実にCN社会実現に歩みを進めていく構えだ。

【フラッシュニュース】注目の「政策・ビジネス」情報(2024年8月号)

NEWS 01:波紋呼ぶ万博メタンガス爆発 対策徹底もぬぐえない不安

2025年国際博覧会(大阪・関西万博)の会場西側にある来場者用トイレの建設現場で、3月28日に発生したメタンガスによる爆発事故。これを受けて万博協会は6月に会期中の安全対策を発表したが、不安の声が根強い。開幕まで1年を切る中、再発防止に向けた対策の徹底が求められている。

メタンガスの爆発が起きた現場

今回の事故が起きたのは、「グリーンワールド工区」の屋外イベント広場横にある東トイレの1階。溶接作業時に発生した火花が、床下の配管ピット内にたまったメタンガスに引火して爆発。けが人はでなかったものの、コンクリートの床などが破損する被害が出た。

会場の「夢洲」(大阪市此花区)は人工島。事故現場の夢洲1区は廃棄物の最終処分場として埋め立てられた土地で、地中からは空気より軽いメタンガスが常に発生する。そこで協会はガスの滞留を防ごうと、機械で強制的に換気するなどの対策を打ち出した。

ただ事故現場以外でも低濃度のメタンガスが検出され、大阪府の子ども招待事業で会場に行く可能性のある学校現場からも不安の声が浮上。7月中旬の大阪市議会万博推進特別委員会では、対策を巡る厳しい意見が飛び交い、「国内のみならず海外からも多くの来場者が来場するビッグイベント。徹底して安全・安心に取り組んでほしい」といった要望も出た。


NEWS 02:今年も「脱原発否決」強調 電力株主総会の報道に喝!

6月26日に開かれた大手電力9社の株主総会は、2023年度の好業績を背景に、電気料金値下げに関する株主質問が目立った。毎年議題に上がる脱原子力に加え、今年は利益水準にも焦点が当たったようだ。

各社は23年度の大幅増益について、燃料費調整制度の期ずれによる一過性の利益であることに言及した上で、電気料金の値下げには原子力の安定稼働が重要とし、そのための費用に充てていくことを説明した。

一方で、大手メディアは今年も、一様に脱原発を求める株主提案が否決されたことを前面に押し出して報じ、「脱原発株主提案、電力9社が否決」(毎日新聞)、「原発への姿勢問う声相次ぐ」(朝日新聞)など、見出しには「脱原発提案否決」の文字が並んだ。

かねてから、電力株主総会では原発反対派の株主が脱原発を提案し、それを経営陣が否決するという展開がある種の恒例行事となっている。とりわけ、11年3月の東京電力福島原発事故後はその傾向に拍車がかかり、メディアもその切り口で株主総会を大きく取り上げてきた。しかし……。

「このところの電力株の動きを見ていてもわかる通り、原発稼働が株価の上昇に寄与しているのは明らかだ。その意味では、原発反対ではなく、原発の安全で安定した稼働を求めるのが真っ当な株主の姿だろう」(大手エネルギー関係者)大手電力の経営陣は総じて、安定供給や電気料金の低廉化、脱炭素化対応のため、安全・安心を前提とした原発稼働の必要性を繰り返し強調している。この点が株主価値向上につながるとの判断があるからだ。そうした点に着目せず、これまでと同じ「紋切型」報道に終始するメディアの見識が問われている。


NEWS 03:NDCは35年60%減か 40年エネ基と分断狙い?

今年の政策議論の中で、GX(グリーントランスフォ―メーション)2040ビジョンや第7次エネルギー基本計画と併せ、次期NDC(国別目標)の行方も要注目だ。政府は6月28日、中央環境審議会の小員会と産業構造審議会のワーキンググループの合同会合を開き、NDCを含めた地球温暖化対策計画の見直しに着手した。

各国政府には来年2月までに次期NDCの提出が求められる。
35年を基準とした新目標では、1・5℃目標や、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第6次評価報告書が示したシナリオの一つ、世界全体で35年温暖化ガス60%減(19年比)を意識すべきとの風潮がある。一方、エネルギー価格高騰を背景に、欧州などでエネルギー多消費産業の生産活動低下・生産拠点の移転が見られ、各国では多様で現実的なアプローチへと政策の修正も始まっている。

ただ、ある政府幹部は、「ネットゼロがある以上、日本も逆算して35年60%減程度を掲げるほかないだろう」と語る。現行目標でも政策的な裏付けは乏しく、電源構成の需要想定を減らすことで再エネ比率などを何とか調整。翻って今回のエネ基議論ではGXやDXに伴う電力需要の急増が主要論点であり、前回の手法は到底使えない。

そうした中、NDCとエネ基のリンクをできる限り避けようとする考えもある。ターゲットイヤーは、NDCが先述の通り35年で、一方のエネ基はGX2040ビジョンと平仄を合わせ40年となる見通し。実際、欧米はNDCをあくまでチャレンジングなビジョンと位置づけ、それを電源構成などに細かく落とし込むようなことはしていない。日本も今回は本音と建て前をうまく使い分けることができるかが問われる。


NEWS 04:米で「原発100基増設」宣言 日米の経済格差に直結か

米国原子力学会(ANS)が6月16~19日、ネバダ州ラスベガスで先進原子力プラント国際会議(ICAPP2024)を開催した。

米ラスベガスで行われたACAPP2024
提供:奈良林直・東工大特任教授

ANSの年会を兼ねた本会議には約1200人が参加。米エネルギー省(DOE)のジェニファー・グランホルム長官やアイダホ国立研究所のジョン・ワグナー理事ら、官学の代表がパネルディスカッションを行った。さらにはマイクロソフトやグーグルメタといった米国を代表する巨大IT企業の幹部が登壇し、電力安定供給の必要性などを訴えた。

米国は近年、原子力発電の拡大に力を入れる。昨年のCOP28では米国などが主導して、日米など22か国が50年までに原子力発電の容量を3倍に引き上げると宣言。それに呼応するかのように、今回のANS年会では「30年代に100万kW級原発100基に相当する100GWの原子力発電を送電線に接続する」との宣言が行われた。

ANS年会に参加した東京工業大学教授の奈良林直特任教授は、「電力がなければ世界とのAI競争に負ける、という米企業の危機意識を感じた。米国が原発増設に全力投入する一方で、再稼働すらままならない日本の現状は両国の経済格差に直結する」と焦りをあらわにする。

電力需要の急増を前に、原子力に対しては「好きか嫌いか」ではなく「必要か否か」という視点が求められている。

再エネや原発拡大では不十分 新エネ基で火力の扱い明確化を

【論説室の窓】竹川正記/毎日新聞 論説委員

次期エネルギー基本計画策定に向けた議論で焦点となる電源構成。

火力発電を再評価し、国益にかなう効果的使い道を探るべきだ。

政府は、第7次エネ基を年度内にまとめる。最大の課題は、電力の安定供給と脱炭素化の両立に資する実効性のある2040年の電源構成を示せるかどうかだ。ハードルは、現行計画を策定した21年の改定時よりも格段に高まっている。

前回は、人口減少などを理由に電力需要が減る想定だった。しかし、生成AI(人工知能)の普及に伴うデータセンター増設や半導体工場新設などで状況は一変。需要が大きく増える見通しとなり、供給力の強化も求められている。一方で、35年の温室効果ガス排出削減目標は13年比で60%以上(現行は30年に同比46%減)に引き上げられる見通しで、電源の脱炭素化加速も必須だ。

電力の安定供給を支える火力発電所

発電時に二酸化炭素(CO2)を排出しない「ゼロエミッション」電源として太陽光や風力などの再生可能エネルギーと、原発の活用が注目されている。第7次エネ基を巡る総合資源エネルギー調査会(経済産業相の諮問機関)の議論でも、洋上風力発電の導入加速などの再エネ拡大論や、原発の建て替えも含めた原子力活用論が花盛りだ。

マスコミの関心も第6次エネ基の電源構成目標(30年度)で36~38%とされた再エネ比率(水力も含む)や、20~22%とされた原発比率がどれだけ上積みされるかに集中している。だが、安定供給の責任を担う電力業界関係者の見方はもっとシビアだ。


現実と乖離した電源目標 電力首脳は理想論にくぎ

「記録的な猛暑や寒波にも臨機応変に対応でき、再エネの調整電源としても活躍する火力発電の役割を『余りもの』のように過小評価すべきでない」。大手電力会社首脳はこうくぎを差す。30年度の目標は、原発比率を従来並みに維持する一方、再エネ比率を「野心的」に高めた結果、そのしわ寄せを受けた火力を4割程度まで縮小させる構成となった。

しかし、22年度の電源比率を見ると、再エネは21・7%、原発は5・6%にそれぞれとどまり、石炭や液化天然ガス(LNG)などを原料とする火力発電が7割以上を占めるのが実態だ。目標との乖離が鮮明で、第7次エネ基策定に当たっては、このギャップがきちんと検証されなければならない

再エネ導入拡大で火力の発電電力量や稼働率が継続的に低下しているのは確かだ。一方、荒天などで再エネの発電量が落ち込んだ際にバックアップ電源として補えるのは火力しかないのが実情。想定外の暑さ・寒さに見舞われた需給ひっ迫時には、火力の炊き増しが停電を回避する「最後のとりで」となっている。

日本にとって脱化石燃料は急務だが、第7次エネ基が現実を度外視し、再エネや原発の比率を大幅に引き上げ、火力を「余りもの」のように扱えば、将来に禍根を残すだろう。