【特集1】AI社会が突き付ける電力政策の限界 強靭性回復が日本経済復活の道開く

膨大な電力を消費する半導体産業やデータセンターのプロジェクトが次々と立ち上がっている。

需要家が望む安定、低廉かつ低炭素な電力供給の実現が、「失われた30年」から抜け出す条件だ。

近い将来、日本の電力需要が爆増する―。ほんの2、3年前、そのような未来をどれだけの人が予想していただろうか。

長らく続く景気の低迷や省エネの進展、そして新型コロナウイルス禍が影響し、この10数年、国内の電力需要は漸減してきた。昨年までは、その傾向が少なくとも2030年代初頭までは続くと見られていた。

それが一転。電力広域的運営推進機関が3月に取りまとめた「供給計画」における今後10年の電力需要想定では、33年度に全国の需要電力量が8345億kW時と、24年度の8056億kW時から増加(図1)。これまでとトレンドが大きく変わったことが示されたのだ。

図1 電力需要は上昇トレンドに転じた
出典:広域機関

背景には、企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)化の加速などにより、千葉県印西市をはじめ東京・大阪圏でデータセンター(DC)の建設が進んだこと。それに、熊本県菊陽町でのTSMC(台湾)、北海道千歳市でのラピダスなど、半導体産業の集積が拍車をかけようとしていることがある。家庭用の電力消費量が減少することは変わらないが、こうした新たな需要が全体を押し上げるという構図だ。

足もとでは、需要増が局所的であることもあり、今のところ一般送配電事業者による送変電設備の増強などで対応できている。だが広域機関は、DCや半導体工場の新増設により、24年度には48万kW、33年度には537万kWもの最大電力需要の増加を見込む(図2)。発電所建設のリードタイムはLNG火力で6年、原子力では17年で、現状では、10年でこれだけの需要を賄えるような発電所を建設することは非現実的と言わざるを得ない。

図2 データセンター・半導体工場の新増設による影響
出典:広域機関

今夏(7~9月)の電力需給は、(10年に1度の厳暑を想定した)H1需要に対する予備率が安定供給に最低限必要な3%を上回るものの、7月の北海道・東北・東京エリアは4・1%とかなり低い。原子力発電所の長期稼働停止、再生可能エネルギーの導入拡大に伴う火力発電所の休廃止が加速する中、需要が求める供給力を確保できるのか。不安視する向きは多い。


再エネでDC運用 大規模供給に課題

DCを利用する企業の多くは、事業活動の使用電力を全て再エネ由来とすることを目標とする「RE100」に加盟していたり、脱炭素化を宣言したりしている。世界的なDC急増に伴うCO2排出量が問題視されていることもあり、運用にもグリーン化を求める意向が強い。

NECは、神奈川・兵庫県内で100%再エネ電気を活用したグリーンデータセンターを運用。今のところ、①電力会社のグリーンメニューの購入、②非化石証書、③太陽光パネルでの自家発電―の三つの方法で再エネを調達している。DCは24時間365日、一定の電力を消費するだけに、「需要と供給がマッチするよう再エネ電源を確保することが本当の意味でのグリーンという見解もある」(データセンターサービス統括部の伊藤誠啓統括部長)と、今後、「生再エネ」による運用に挑戦するべく施策を考案中だという。

いち早くそれに取り組もうとしているのが、京セラの子会社である京セラコミュニケーションシステム(KCCS)が、北海道石狩市で今秋開業予定の「ゼロエミッション・データセンター(ZED)」だ。

再エネ電気特定卸供給制度を活用し、グリーンパワーインベストメント(GPI)の小売り子会社を通じて、石狩湾新港洋上風力発電所由来のトラッキング付きFIT非化石証書と合わせた電気の供給を受ける。自社開発の太陽光発電所(1800kW)と蓄電池(6000kW時)を組み合わせ、KCCS自らが需給調整を担い、使用電力の100%を再エネで賄う。

ZED建設を発表した19年は、脱炭素の流れが本格化する前だったが、「発電所と需要設備を一体開発しなければ、再エネの普及拡大は行き詰まる」という、メガソーラーを中心にFIT再エネ開発を手掛けてきた同社だからこその判断があった。デジタルソリューション事業部の尾方哲・デジタルインフラ部長は、「同プロジェクトを、化石燃料依存を少しでも減らす取り組みにつなげていく」と意気込む。

冷涼な気候で空調用の電力消費を抑制、東京・大阪圏との同時被災リスクを低減でき、さらには再エネポテンシャルが高い北海道では、ソフトバンクが苫小牧市で再エネ100%で運用するAI用DCを29年までに建設する方針を打ち出すなど、石狩・苫小牧を中心に複数のプロジェクトが進んでいる。

【九州電力 池辺社長】多様な強み・能力生かし 事業環境が変化する中、 持続的な成長へ

2023年度の連結業績は22年度の赤字から一転し、過去最高益を記録した。

電力供給の安定化や再エネの主力電源化に取り組みつつ、新たな価値創造にも挑戦していく構えだ。

【インタビュー:池辺和弘/九州電力社長】

いけべ・かずひろ 1981年東京大学法学部卒、九州電力入社。2017年取締役常務執行役員コーポレート戦略部門長、18年6月から代表取締役社長執行役員。20年3月から電気事業連合会会長を兼務し、24年3月に退任。

井関 電気事業連合会会長を退任し、4月からは社長業に専念されています。

池辺 電事連会長を務めた4年間は、さまざまな電気事業制度の変更がありましたし、資源高騰という難局に直面したこともあり、勉強の毎日でした。これほど勉強したのは、米国留学した30歳前後の2年間以来だったというくらいです。記者会見を通じて記者の皆さんとコミュニケーションを取ることも、大事な仕事の一つでした。

電事連会長としての発言は、影響が大きいだけに緊張の連続で、何をどうお話すれば理解していただけるのか試行錯誤するなど、大変ではありましたが有意義な経験となりました。4月から社長業に専念と言いましても、もともと各部門の責任者に任せる経営スタイルなので、実は、経営への関与の仕方はそれほど変わっていません。

井関 2024年3月期決算では、売上高が4期ぶりの減収となった半面、経常・最終損益ともに2期ぶりに黒字化しました。

池辺 23年度の連結業績は、経常利益2381億円と過去最高を計上することができ、非常に良い結果になったと受け止めています。燃料価格の下落により、燃料費調整(燃調)の期ずれ影響が前年度の差損から差益に転じたことが大きな要因ではありますが、原子力発電所が4基体制に復帰できたことも収支改善に大きく寄与しました。

原子力の安定稼働は、他の発電設備と同様、社員が日ごろからきちんとメンテナンスし、安定稼働・安定供給に万全を心がけているからこそ実現できます。こうした原子力をはじめとする電力の安定供給と、九電グループ一体となった収益拡大、経営効率化に、努力してくれた社員に大変感謝しています。 

井関 来期は2期ぶりの増収と2期連続の黒字見込みです。

池辺 2期ぶりの増収を見込む一方で、燃料価格下落による燃調の期ずれ差益の縮小や、卸電力市場価格の上昇による購入電力料の増加などにより、経常利益は1100億円程度にとどまり23年度を下回る見通しです。とはいえ、これは当社が25年度の財務目標として掲げる経常利益1250億円以上を十分に狙える水準です。引き続き、電力の安定供給と経営全般にわたる効率化の取り組みなどにより、グループ一体で目標の達成を目指していきます。

現実味を帯びる台湾侵攻 日本のエネルギー供給は窮地に

【今そこにある危機】岩田清文/元陸上幕僚長

中国による台湾への武力侵攻の可能性が高まりつつある。

有事の際、日本のエネルギーインフラは人民解放軍の攻撃対象だ。

米インド太平洋軍司令官ジョン・アクイリノ海軍大将は3月20、21日の米上下院議会軍事委員会において、「中国は3年以内に台湾を侵略する準備ができている」と証言した。台湾有事になれば、太平洋地域で作戦指揮を執る司令官の議会証言は軽視できない。その2カ月前の1月22日には、米戦略国際問題研究所(CSIS)が、米国専門家52人および台湾専門家35人に対して行ったアンケート調査を発表した。その中で、「今後5年間で、北京の第1目標が台湾統一を即座に強行するとしたら、北京はどのような行動に出るか」との質問に対し、「台湾への武力侵攻」のケースに関して、米側67%、台湾側77%の専門家が、「可能性が非常に高い」あるいは「可能性が高い」と答えている。

これらの危機認識がもし現実になった場合、日本にどのような影響が及ぶのだろうか。特にエネルギー問題に絞って考察してみたい。

台湾有事になれば、米国は参戦するであろうし、参戦しなければ台湾の自由と民主主義は奪われる結果となる。参戦した場合、米軍は中国との「戦力集中競争」に勝つ必要がある。距離的に米軍が不利であることは自明であるが、これを補完するのが日本の支援である。在日米軍基地が効果的に稼働することにより、台湾への米軍の戦力投入が可能となる。加えて、安倍晋三政権時に制定した平和安全法制により、重要影響事態が認定されれば、米軍に対する燃料補給や弾薬輸送ができるようになる。また存立危機事態が認定されれば、自衛隊が米軍を防護できる。

日本は台湾有事に耐えられるか


インフラへの攻撃 在中邦人の拘束も

当然ながら、この米国に対する日本の支援を妨害するために、中国は、破壊工作、サイバー攻撃あるいはフェイクニュースなどの非軍事力を駆使して妨害を仕掛けてくるだろう。例えば全国数十カ所の鉄道の変電所に火をかければ、都市圏の交通機能は完全にまひする。あるいはサイバー攻撃で、大手銀行のATM、配送業者の予約システム、自治体や病院などの重要機関の業務システムをダウンさせようとするだろう。電気・ガス・航空・鉄道会社および通信事業者の業務系システムや港湾コンテナターミナルシステム内に侵入したマルウエアによるサイバー攻撃は、電気・ガス料金の支払い、旅行予約及び携帯電話の契約をはじめ、コンテナの運営にまで大きな影響を及ぼすことになる。これだけで日本社会全体が大パニックとなることは容易に想像できる。

そこに、「アメリカに対する支援をやめれば、サイバー攻撃は収まる」との北京発のフェイクニュースがSNS上に氾濫するだろう。これに扇動された数十万人が米国支援を阻止するため、国会議事堂の周りを取り囲むというような事態も想定すべきだ。

情勢の緊迫に伴い、在中国の邦人は早期に帰国するだろうが、避難が遅れた日本企業の従業員は拘束される可能性が極めて高い。日本向けのレアアースの輸出が止められ、予定していた日中経済関連の会議もキャンセルとなる。中国にある日本資産を凍結するとの脅しも北京から発せられるだろう。これらの脅しは2010年、実際に日本に対して行われた。中国の漁船が、尖閣諸島沖で海上保安庁の巡視船に体当たりした際、その船長を逮捕して石垣島で地検が取り調べていたところ、上海で日本企業の社員4人が拘束され、レアアースの輸出も止められた。

中国の脅しに屈した当時の民主党政権は、中国漁船の船長を特別機で送り返すという、極めて屈辱的な外交を行った。この〝成功体験〟を持つ中国は、台湾有事でこの類の脅しを繰り返すと見た方がいい。


LNG輸送は危機に 南シナ海航路が止まる!?

事態が進展し、台湾周辺で中国軍と米軍が実際に戦闘するようになれば、中国は日本に対しても軍事力を躊躇なく行使してくるだろう。同時に、台湾海峡およびバシー海峡の封鎖により、南シナ海経由のエネルギー供給が止まることになる。

原油は、現状237日分の備蓄があるので大丈夫とされているが、国の施設に備蓄されているのは141日分。10カ所の国家備蓄基地のうち、地下岩盤式は3カ所に限られる。中国のミサイルが着弾すれば、大きな被害を受け、備蓄量が減ることは明らかだ。ちなみに中国は日本列島をカバーする中距離弾道ミサイルを約500発、準中距離弾道ミサイルを約1000発保有している。そのほかの備蓄としては、LPガスは50日分しかない。

最大の問題はLNGだ。マイナス162℃に冷却するので長期備蓄ができず、継続的な輸入が必要となる。22年度の燃料別の発電実績は、LNGがもっとも多く45・4%、次に石炭が42・2%となっている。化石燃料のほぼ100%を輸入する日本は、その海上輸送のうち、原油のほぼ全量およびLNGの約4割を南シナ海航路に依存している。これらは、台湾有事になると迂回を余儀なくされ、マラッカ海峡からはるか東のロンボク海峡、そしてセレベス海などなどに抜ける航路になる。迂回により航行距離が25%以上増加することによる輸送料や船舶保険料も高騰し、加えて航海日数も増えることにより、燃料の輸入遅延、全国的な計画停電の実施などにより、石油精製品のみならず、工業製品の品不足から、これまでに経験したことのない第3次オイルショックが日本を襲うこととなる。

このような想像もしたくない悲惨な状況を絶対に生起させてはならない。重要なことは、習近平主席に対し、「日本に手を出すことは、中国自身が大きな痛手を被ることになる」「日本は攻められたら戦う」との意志と能力を示すとともに、「日本へのエネルギー供給体制は不測事態にも対応できる準備と覚悟がある」ことを示し、台湾有事勃発を抑止することである。

いわた・きよふみ 1957年生まれ、徳島県出身。防衛大学校を卒業後、79年に陸上自衛隊に入隊。陸上幕僚監部人事部長、第7師団長、統合幕僚副長、北部方面総監などを経て2013年に第34代陸上幕僚長に就任。16年退官。

エネルギー業界のDXけん引 プラットフォーム事業にも意欲

【技術革新の扉】LPガス充填・配送システム/ニチガス

ニチガスが川崎市のLPガス充填基地「夢の絆・川崎」を起点に進めるDX。

デジタルなどを駆使し配送までの高効率なシステムを確立している。

ガスを容器に充填して顧客に届けるまでの一連の業務を革新する―。総合エネルギー企業でLPガス販売大手の日本瓦斯(ニチガス)グループはそうした狙いで、デジタルトランスフォーメーション(DX)を世界最大規模のLPガス充填基地「夢の絆・川崎」(川崎市川崎区)を起点に着々と進め、業務の効率化と顧客サービスの向上に結びつけている。

「夢の絆・川崎」の外観


リアルタイムなデータ連携 一連の業務高度化を実現

海に近い臨海部の川崎区浮島町で、宇宙船のような未来感が漂う外観の建物が存在感を放っている。2021年3月に始動した夢の絆・川崎だ。

2万8700㎡という広大な敷地には、78台分もの20tトレーラーの駐車スペースを設置。月間のガス充填能力は約5万tで、一般的な充填所の約100倍に相当する。そうした巨大基地でDXを加速。LPガスを巡る一連の業務を先進技術でリアルタイムにつなぎ、集めた各種データを仮想空間上でAI(人工知能)が独自のアルゴリズムに基づき解析し、さまざまな運営に生かしている。

消費者側のDXを象徴するツールが、ガスメーターをオンライン化するIoT機器「スペース蛍(ホタル)」。IoTサービスを手掛けるソラコムと共同開発した装置で、都市ガスも合わせた合計で140万件以上 (今年4月末時点)に設置した。

LPガスを充填したボンベは戸建ての場合、ガス切れのリスクを避けるため、顧客宅に2本ずつ置かれている。スタッフは各地の顧客宅を訪ねて月1回の検針を行うとともに、過去の検針値に基づいて1本目がなくなりそうなタイミングを予測し、交換を決定。回収したボンベは充填工場に運ばれ、ガスを充填後に新たな顧客宅に配送される。

夢の絆に取り入れたLPガスの回転式充填機

こうした仕組みを革新するのがスペース蛍だ。実績に基づく正確な配送計画を立て配送効率を高められるほか、顧客宅のガスメーターに後付けできる。こうした利点が評価されて他のガス会社への導入も進み、約30社が採用した。

スペース蛍は、ガスメーターから検針データを1時間ごとに取得し、1日に1回24個分のデータをまとめて送信。それを保安業務の高度化につなげるほか、遠隔からパソコンでガス栓を開閉できるようにした。

毎月のエネルギー使用量や請求額をスマートフォンの画面で確認できるアプリ「マイニチガス」も用意し、今年4月末時点で約7割の顧客に浸透。こうした展開で、検針に関する業務や検針票の発行コストが低減したほか、車で顧客宅を巡る際に排出されるCO2排出量を削減する効果も得られたという。

供給側では、AIと仮想空間を生かしたLPガスの新配送システムが威力を発揮。ガスボンベを運ぶトレーラーが夢の絆のゲートを通過すると、トレーラーに積載されたボンベのバーコードを入場口にある8台の高性能カメラが、天候や時間帯にかかわらず正確に自動で読み取ってデータを送信する。

また、スペース蛍からのガス使用量データと配送実績を組み合わせることで算出されるボンベ在庫データに基づいて最適な製造計画を算出するAI「新製造計画エンジン」が、ボンベの充填本数と行き先を決める。

自動検針ツール「スペース蛍」

同様のゲートは、24時間無人で稼働可能なLPガスの容器置き場「デポステーション」にも配備し、容器の入出庫管理を全て自動化した。得られた容器の在庫データは、スペース蛍からのデータと連携。新製造計画エンジンによって「何本の容器を充填し、どの容器をどのデポステーションに持っていけば良いか」といった充填・配送計画を瞬時に導き出す。


チャレンジ精神を原動力に システムの進化を追求

すでに10年に業界に先駆けてクラウドの基幹システム「雲の宇宙船」を開発するなど、先進技術によるビジネス変革に注力。これらが評価され22年には、経済産業省と東京証券取引所が選定する「DX銘柄」のグランプリを獲得。銘柄選定は、前身である「攻めのIT経営銘柄」から通算7年連続だ。

ニチガスの吉田恵一代表取締役専務執行役員は「当社には『同じ成功を繰り返さない』という社風があり、新しいことにチャレンジするカルチャーが根付いていた。こうした土壌があったため、デジタル技術で仕事のやり方や組織を変革するという本質のDXを進めやすかった」と振り返る。

ただ、DXの進化に終わりはない。吉田氏は、成長著しい「シェアリングエコノミー(共有経済)」を踏まえ、「さらにAI技術を投入し、(現実世界を仮想空間に再現する)デジタルツインによって物流システムをブラッシュアップし、多くの事業者に使ってもらえるようにしたい」と強調。グループ再編で新会社「エナジー宇宙」を設立したことを機にこうしたプラットフォーム(基盤)事業を拡大することに意欲を示した。エネルギー業界に新風を吹き込む挑戦の舞台は一段と広がりそうだ。

【平岡清司 五條市長】まずは人命救助の拠点を

ひらおか・きよし 1963年奈良県五條市生まれ。大阪工業大学高等学校(当時)卒業後は五條市内の国民宿舎に勤務し、その後は刺しゅう業などに従事。2013年、五條市議会議員に初当選以来3期目途中まで務める。23年の五條市長選挙に立候補し初当選。

五條市で生まれ育ち、市議会議員を務めた。昨年4月、五條市長に初当選。

公立小中学校の給食費無償化を実現するなど、住民目線の市政に奔走する。

奈良県五條市で生まれ育った。高校は大阪市の大阪工業大学高等学校(現常翔学園中学校・高等学校)に進学し、卒業後は五條市の国民宿舎に勤務。21歳で実家の刺しゅう工場を継いで以来、家業に専念した。

26歳の時、父親が五條市議会議員に初当選。義叔父も市議会議員を務め、選挙の手伝いなどを通じて政治を身近に感じるようになった。自らが政治家を志したきっかけは、2011年の五條市長選だ。新人候補を応援していたが、所属する消防団の団長が現職を支援。しかし現職が敗れたことにより、消防団内部で亀裂が生じた。意見を言いたかったが、「役職のない人間は黙っていろ」と相手にされない。「自分もモノを言える立場にならないと」と思い、市議選への立候補を決めた。40代後半の出来事だった。

13年に五條市議に初当選すると、3期目の任期途中に行われた五條市長選に出馬。初当選を飾った。就任から1年が経つが、市長の仕事には強いやりがいを感じている。「市議と市長は全く違う仕事。市議時代は市民の意見を聞き、行政に訴えかけることが主な仕事だった。だが市長は予算さえあれば、やりたいことをすぐに実行できる」

五條市では今年に入り、県有地でのメガソーラー計画が全国的な話題を呼んだ。県有地は当初、広域防災拠点として2000m級の滑走路の整備が予定されていたが1月、奈良県の山下真知事がこの用地の25ヘクタール以上を利用したメガソーラー整備計画を公表したのだ。

各地で増大する再エネ出力抑制 求められる電力システムの在り方は

【多事争論】話題:再エネ出力抑制と系統増強

東京を除くすべてのエリアで再エネの出力制御が実施されるようになっている。

マスタープランに基づく送電網増強が計画される中、今後重視すべき視点とは。

〈 CNでの電力NWの将来像 コスト効率高い対策優先 〉

視点A:荻本和彦/東京大学生産技術研究所特任教授

2050年の温暖化ガスゼロ排出(CN)に向け、再生可能エネルギーの大量導入が期待される。太陽光発電(PV)は建物の屋根を含め設置面積が確保できる場所から配電網に接続し、風力は発電に適した風況の地域、その多くは大規模な需要地から離れた地点から送電網への接続が中心となる。

PV、風力の発電は、日射や風況によって変動し利用率が低い。その電気を需要地に送るために送電線を新設する場合、出力制御をゼロにするためには最大出力を送る必要があり、送電線の容量・建設費が大きくなり、その利用率は下がり、送電コスト(送電電力量当たりの費用)は増加する。逆に、再エネの出力制御を許容し発電の最大出力より小さい送電容量とすると、建設費は下がり、利用率は上がり、送電コストは低下するが、利用できる発電電力量は出力制御の分減少し、発電コストは上がる。再エネの出力制御と送電費用の間にはトレードオフの関係がある。

現在の約1兆kW時の電力供給の3分の1を再エネが担う場合、PV、風力の利用率を15%、30%と仮定すると、それぞれ250GW(1GW=100万kW)、130GWの導入が必要となる。再エネ出力制御に関する電力ネットワーク(NW)の課題は、この大量導入を見据えて、電力NWの将来を考えることである。

現在、電力広域的運営推進機関による広域連系系統マスタープランとして、全国9エリア間の連系線とエリア内の送配電網増強の検討・実施が行われている。計画検討では費用・便益評価に基づき、再エネの出力制御低減と緊急時の停電の抑制を目標として、北海道・九州から本州向けと、本州内のエリア間の連系線、それに関連したエリア内の送電線の増強が検討されている。しかし、再エネの利用率の低さや受け入れ側での出力制御の増加を考えると、NW増強による再エネの導入拡大の効果は限定的である。

高度化や需要・財蔵技術も重要 広い選択肢で評価・検討を

電力NWの対策は、先に述べたNW自体の増強である「ワイヤ」、運用高度化さらには電力需要・貯蔵技術との組み合わせの「ノンワイヤ」の対策に分けられる。ノンワイヤの対策では、平常時の送電網の容量制約の下での潮流管理と事故時の潮流管理(平行送電線1回線遮断時のN―1電制)が制度化(コネクト&マネージと呼ばれる)され、送電線の運用容量を気象条件によって管理して最大活用するダイナミックラインレーティングも検討されている。

貯蔵技術としては、日本が大きな設備容量を持つ揚水や、価格低下によって世界で大量導入が進む蓄電池、さらには液化空気貯蔵のLAESなどの新技術への期待も大きい。電力需要としては、CNに向けては省エネと、再エネ有効利用に直結する電化の促進に加え、ヒートポンプ(HP)給湯機やEV充電および、産業・業務の各種需要の時間シフト、さらにはデータセンターや半導体工場など新規需要の再エネ有望地域への誘導が有効である。調整力については、大半を供給する従来電源に代わり、PV・風力、蓄電池、需要などの分散型資源による供給を拡大し、化石燃料発電の運転台数を少なくすることで、出力制御量ひいては燃料費の低減につながる。

出力制御の抑制対策として、連系線の増強と定置用(系統用、需要側)蓄電池の適用が注目されているが、日本の設備増強コストの特性・運用特性においては、出力制御時間帯へのHP給湯やEV充電の需要シフトが短期的によりコスト効率の高い選択肢である。また、北海道・九州への半導体工場やデータセンターなど大規模需要の立地は、再エネの導入が先行するエリアでの需要増加という意味で、電源と需要のバランスを改善し、エリア間のNWのニーズを軽減する。そしてNW増強の「ワイヤ」対策の計画では、限られたシナリオによる費用便益分析ではなく、より広い選択肢を対象とした継続的な評価、検討が必要である。

CNへの移行において、日本の電力・エネルギーの供給コストは海外に比べて高くならざるを得ず、社会活動や産業を守るためには社会全体でのコストを下げる不断の努力が必要である。その中で制度、技術を磨くことができれば、エネルギー環境分野での国際貢献、産業競争力の向上にもつながる。再エネの電力NWへの統合には、よりコスト効率の高い対策を優先することと、情報・データと解析ツールの事業者および社会全体への適時・適切な情報提供に基づき3E(供給安定性、経済性、環境性)+S(安全性)を目指すエネルギーの議論の深化が必要であろう。

おぎもと・かずひこ 1979年東京大学工学部卒、電源開発入社。技術研究開発、設備保全業務高度化、技術戦略などに従事し、2008年から現職。専門はエネルギーシステムインテグレーション。

【需要家】再エネ拡大に対策広まる DR機能は評価対象に

【業界スクランブル/需要家】

再エネ大量導入・次世代電力NW小委で取りまとめた「再エネ出力制御対策パッケージ」では、需要側の対策として「ヒートポンプ給湯機等の導入による需要創出・シフトおよびDRレディ化」が挙げられている。再エネ電力比率拡大に備えて、需要側の調整能力向上は必須であり、省エネ小委でもエコキュートのDRレディ検討状況が報告されている状況にある。

EUでも、DR制御などの拡大の必要性は認識されており、約2年前の「建築物のエネルギー性能指令改正案」に反映していた。本指令は欧州議会の承認を経て、今年4月に欧州理事会で成立している。内容は、欧州の最終エネ消費の40%を占める建築物を脱炭素化するために、新築建物は2030年、既存建物は50年までにゼロエミ建物(建物敷地内で化石燃料消費がなく、運用時のCO2排出量がほぼゼロの省エネ建物)とする指令である。このゼロエミ建物定義に蓄電や蓄熱などのデマンドフレキシビリティ機能が含まれており、スマートレディネス指標により需要調整性能が評価されるスキームとなっている。

米国カリフォルニア州では、再エネ電源比率が高いこともあり、新築非住宅建物へのDR導入が義務化されている。また、米国発の国際建物評価基準であるLEEDにおいても、DR機能は評価項目となっている。

需要側でのDR機能普及には新築時や設備更新時が効果的であることを考慮すると、機器へのDRレディ機能標準化だけでなく、建物側の規制や制度(ZEH、ZEBの評価など)にもDR機能促進策を組み込む普及対策にも着手すべきである。(S)

【政策・制度のそこが知りたい】数々の疑問に専門家が回答(2024年6月号)

余力活用契約の仕組みと役割/CO2カウントルールの目的と課題

Q 容量市場における余力活用契約とはどんな仕組みですか?

A 余力活用とは、発電事業者などが提出する発電計画に対して、計画に支障を与えない範囲で出力の運用上限~運用下限の間を調整力として使用することです。昨年度まで一般送配電事業者は、周波数調整・需給バランス調整、系統運用などを目的として、電源Ⅱなどの契約に基づきゲートクローズ後の余力を活用していました。今年度以降、容量市場の開設にあわせて、電源Ⅱなどの公募契約を廃止し、発電事業者などと送配電事業者で「余力活用に関する契約」を締結しています。

なお、容量市場への参入にあたり、安定電源で調整機能を有する電源などは、余力活用に関する契約締結がリクワイアメントとされています。周波数調整・需給バランス調整に必要な調整力は、需給調整市場から調達することとしていますが、調整力が不足する場合は、余力活用契約からも供出することとしており、セーフティネットの役割を担っています。余力活用を契約するリソースについては、需給調整市場の商品相当の調整力、電圧調整、潮流調整などに関する提供可能な機能を供出していただき、余力活用により発生した対価を精算します。また、需給調整の際には、メリットオーダー順に活用する運用を行っています。広域需給調整システムを用いて、需給調整市場で調達した調整力に余力活用分を加えてエリアを跨いだ9エリアで価格の安い順に調整力を融通して広域メリットオーダーを実現しています。

このように、余力を調整力として広域的に有効活用することで、社会コストの低減、より効率的で安定した需給調整と系統運用、需要急増などにおける緊急時における安定供給を実現し、コストと安定供給の両立を図るべく運用しています。

回答者:伊佐治 圭介/送配電網協議会 電力技術部長


Q 合成メタンの普及拡大に伴いCO2カウントルールが導入された目的を教えてください。

A 炭素制約が強まる中、日本のエネルギー企業も排出削減対策に取り組んでいますが、合成メタンもその一つです。合成メタンの導入は熱需要の脱炭素化、エネルギー調達多様化によるエネ安保への貢献などの狙いが期待されています。他方、パリ協定の下では全ての国が国別目標を設定し、排出量を管理するため、合成メタンの普及拡大には、そのCO2削減効果の帰属に関する国レベルのCO2カウントルールの整備が不可欠です。

CO2カウントに関する二国間ルールとしては既にパリ協定6条2項(二国間クレジット制度などの協力的アプロ―チ)や6条4項(京都議定書のクリーン開発メカニズムの後継となる国連管理メカニズム)があります。加えて合成メタン製造国と日本の相対交渉による新規ルールの合意も選択肢となります。相対交渉による新規ルールとしては、合成メタン燃焼時のCO2排出量を消費国側ではなく、合成メタン製造国側でカウントするという二国間ルールの合意や、合成メタン製造国が発行したCO2回収証書を日本へ移転することで、合成メタン燃焼時の排出量をオフセットにする削減成果の移転などが挙げられます。

これらはもとより課題が多く、6条4項は国連管理となるため、二国間合意に比して煩雑な手続きが必要です。カウントルールの二国間合意、CO2回収証書による成果移転については合成メタン製造国において、CO2回収のインセンティブをどう確保するかが課題となってくる上に、CO2回収証書を設ける場合は、その運用・管理ルールも必要となってきます。合成メタンの海外プロジェクト展開のためにはこれらの点を明確にする必要があり、早急な検討が望まれます。

回答者:有馬 純/東京大学公共政策大学院 特任教授

【マーケット情報/6月21日】原油続伸、需給引き締まる

【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み続伸。中東情勢の悪化による供給懸念、および米国からの需要が増加するとの観測を背景に、買いが強まった。

武装集団フーシ派による、紅海を走行する攻撃は激化。ばら積み貨物船が2隻沈没させられている。これを受け、米英も2月初旬以降初めて空爆で反撃しており、情勢悪化にともなう供給不安が一段と強まった。

また、石油消費大国である米国の在庫が減少したことも、国内需要の強さを示し、需給引き締まりを意識させた。米国では独立記念日を前にドライブシーズンが始まっており、今後ガソリンを中心に需要はさらに伸びることが予想されている。

ただ、米国の経済指標は依然としてインフレ加速を示唆。利下げには時間を要するとの見方が上昇を幾分か抑制した。


【6月21日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=80.73ドル(前週比2.28ドル高)、ブレント先物(ICE)=85.24ドル(前週比2.62ドル高)、オマーン先物(DME)=84.78ドル(前週比2.81ドル高)、ドバイ現物(Argus)=84.90ドル(前週比2.73ドル高)

【再エネ】期待かかるペロブスカイト 商用化の正念場

【業界スクランブル/再エネ】

2030年度の再エネ比率36~38%の目標に対して、現状では再エネに原子力を加えた脱炭素電源比率が4割を超えるのは、北海道、九州、関西エリアの3カ所のみだ。そもそも既存技術で導入できる再エネの適地は限られ、新たな技術開発を進めない限り目標の達成は難しい。

その新たな技術として注目されているのが、ペロブスカイト太陽電池である。従来のシリコン系太陽光パネルに比べて厚さは100分の1、重さは10分の1と薄くて軽い上、柔軟性に優れているのが特徴で、従来型では設置が困難なビルの壁面や曲面の屋根にも設置ができる。加えて、材料を塗布・印刷できることや、原料に高価な貴金属などを使わず、ヨウ化鉛など比較的手に入りやすい素材で製造できることも特徴だ。技術課題である発電効率は大幅に向上しており、従来型と比較して遜色ないレベルまで近づきつつある。

もともとペロブスカイト太陽電池は、桐蔭横浜大学の宮坂力特任教授が発見した日本発の技術であり、日本政府は25年の社会実装を見据えて、多額の補助金で開発を後押ししてきた。しかし昨今、欧米や中国などにおいても開発が急速に進展しており、特許出願件数では中国や韓国に大幅に遅れをとるなど、商用化に向けて海外が先行していると言わざるを得ない状況だ。 太陽光電池の製造は8割が中国に集中しており、風力発電設備の製造は欧州に集中するなど、国民が再エネに支払う料金は海外に流出しているのが実態である。本当の意味での地産地消を実現するために、日本はペロブスカイト太陽電池の商用化に向けて正念場を迎えている。(K)

AIで室内に人工の生態系を創出 経済と生物多様性の両立目指す

【エネルギービジネスのリーダー達】髙倉葉太/イノカ代表取締役CEO

人工の生態系を室内に再現する独自技術で自然環境の保全・研究・教育を手掛けている。

経済活動と生物多様性の両立は可能だとの信念のもと、自然界の循環の最適化を目指す。

たかくら・ようた 東京大学工学部を卒業、同大院暦本純一研究室で機械学習を用いた楽器の練習支援の研究を行う。2019年4月にイノカを設立。サンゴ礁生態系を都心に再現する独自の「環境移送技術」を活用し、大企業と協同でサンゴ礁生態系の保全・研究・教育を行っている。

サンゴ礁をはじめとする海洋生態系を室内空間に再現する「環境移送技術」を活用し、さまざまな企業と連携しながら自然環境の保全・研究・教育を手掛けるイノカ(INNOQUA)。2019年に同社を立ち上げたのが、当時、大学院を卒業したばかりだった髙倉葉太代表取締役CEOだ。


海洋環境を水槽に再現 企業の環境保全活動支援

「環境移送技術」とは、海洋環境を自然に近い形で水槽内に再現する同社の独自技術。水質や水温、水流、照明環境、微生物を含む生物同士の関係性など、多岐に渡るパラメーターをAI/IoTデバイスで制御することで、任意の環境をモデル化し水槽内に再現することができる。

実際の海で行う調査や研究では、天候などのちょっとした変化で有用なデータが取れなくなってしまう。そこでイノカは環境移送技術を活用し、海の環境を再現した槽内でさまざまな実験を行う「海洋治験サービス」を企業に提供している。

例えば大手化粧品メーカーの資生堂とは、日焼け止めクリームがサンゴに与える影響を調査している。生態系に悪影響を与えない製品を開発できれば、生態系を守るだけではなく企業のブランド力向上にもつながる。また、22年2月には、創業当初から取り組んできたサンゴの人工産卵実験に成功した。自然界でのサンゴの産卵時期は5~6月だが、環境移送技術により冬季の産卵に成功したのは世界初だという。

社名のイノカには、「アクアリウムをイノベートする」という意味がある。同社で働く14人は、エンジニアや再生医療の専門家、水族館でイルカショーに出演していたエンターテイナーなど得意分野はばらばらだが、唯一の共通点が大の生き物好きだということ。髙倉氏自身も、父親の影響で中学生のころから自宅の水槽で熱帯魚やエビなどさまざまな生物を飼育することに熱中していた、自他ともに認める生き物好きだ。

大学院時代はAIの研究に携わっていたが、17年に同社の「チーフ・アクアリウム・オフィサー(CAO)」を務める増田直記氏と出会ったことが起業の大きなきっかけに。そのころアメリカでは、サンゴからがんの治療薬を開発する研究が行われており、研究者と増田氏のような海洋環境を再現できるアクアリストをつなぐことで、医薬品開発などを後押しできるのではないかと考えた。

当初は、環境教育プログラムと一体で水槽をショッピングセンターなどに設置することを主な事業としていたが、20年7月にインド洋モーリシャス島沖で発生したばら積み貨物船「WAKASHIO」の座礁事故が転機となる。重油の流出でマングローブ林やサンゴ礁をはじめ、貴重で豊かな海生生物が生息する生態系への影響が懸念された中、サンゴ礁への知見を生かし、同地の自然環境を保護し、回復させるプロジェクトに参画することになったのだ。

その翌年には、国連主導でTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)が発足し、これを契機に上場企業が自然に関連する財務リスクや、事業活動が自然に対して与える影響を開示することに力を入れ始めたことが追い風ともなり、生態系保全の領域でパイオニア的な存在として成長し続けてきた。


自然界の循環を最適化 海外での技術応用も視野

既に2期連続で黒字を達成し、経営が軌道に乗り始めたとはいえ、今はまだいろいろな取り組みが実証実験段階である上に、ビジネスを展開するマーケットの規模も長期的な視点で冷静に促える必要があると見ている。

「僕らが携わったからこそ、この海が守られ、地域の自然も人も豊かになったと言われるよう取り組んでいきたい」(髙倉氏)と言い、自然にも地域経済にもきちんとリターンを返すことでサステナブルなビジネスとして確立していくことが、当面の目標だ。現在は、国内のフィールドを対象にした活動がメインだが、将来は東南アジアなど海外でも同社の技術を応用していく方針だ。

今、地球温暖化に伴う海水温の上昇などにより、水生生物の生活を支えるサンゴ礁や藻場、マングローブなどが消失の危機にあり生態系にもたらす影響は計り知れない。これは、人間の経済活動により自然環境のバランスが崩れてしまった結果だ。

「大事なことは、難しく考えて〝ワンイシュー〟にしてしまわないこと。生態系の循環を最適化することができれば、人間の経済活動と脱炭素化・生物多様性を両立させ持続可能な社会を取り戻せる。元々自然とうまく付き合ってきた日本人だからこそ、その活路を開けるはずだ」と、目指すべき未来を見据えている。

【火力】ゆがむ容量市場に危機感 正しい理解必須

【業界スクランブル/火力】

容量市場は、電力の安定供給のために必要な電源を確保する仕組みだ。今年度から実需給期間となり、それに伴い容量拠出金の支払いが始まっているが、世間に仕組みの正しい理解が広まっていないことに危機感を抱いている。

全国紙の記事によると、新電力の中で拠出金の負担を電気料金に転嫁する動きが広がりつつある一方で、発電設備を有する大手電力には転嫁の動きが見られない。これは不公平であり、市場競争を歪めるものであるとしている。

大手電力と一部の新電力の対応が異なっているのは事実だが、実態はこの記事から受ける印象とは真逆なものである。そもそも、電力量を取引する卸電力市場において、価格スパイクを抑制すれば固定費の一部を回収できなくなるミッシングマネーの問題があり、それを小売事業者や送配電事業者に公平に負担してもらおうというのが容量市場だ。今般、小売事業者が容量拠出金により負担が増えると訴えるのは、供給力確保の義務があるにもかかわらず本来負担すべき設備費の一部を免れ、大手電力の電源にただ乗りしてきたことを自ら認めていることにほかならない。

新電力もその点は理解していると思うが、記事で内閣府のタスクフォースメンバーが拠出金を大手電力への補助金であるとコメントしている点は看過できるものではない。 自由化前に建設された発電所であっても、設備の維持には修繕費や改良費などがこれから必要で、費用を回収できなければ退出を考えざるを得ない。設備を安定確保するための容量市場が、むしろ供給力不足を招くという皮肉が現実になりつつある。(N)

5年連続の黒字経営を実現 地域密着で価格以外の価値追求

【事業者探訪】ところざわ未来電力

ところざわ未来電力は設立から一貫して地域密着で低炭素電気の安定供給を重視する。

黒字経営が続き、さらに経営方針に需要家のニーズがマッチしてきたと実感している。

電力自由化を契機に地域新電力が各地に誕生した。ただここ数年、国内の電力市場価格のスパイクや世界的なエネルギー資源価格の高騰で、経営の岐路に立つ新電力は少なくない。そうした中、埼玉県所沢市が中心となり設立したところざわ未来電力は、設立から5年連続で黒字を確保。その経営や事業にはどんな特徴があるのだろうか。

同社は所沢市が50%超を出資し、JFEエンジニアリング、飯能信用金庫、所沢商工会議所も出資して2018年に発足した。きっかけは、11年の東日本大震災の経験からエネルギーの安定供給の在り方を見つめ直したことだ。市は14年に「マチごとエコタウン所沢構想」を策定。有限なエネルギー資源に過度に依存しないライフスタイルへの転換を目指した。

副市長で同社代表の中村俊明氏は「電源立地地域の取り組みの上に都会の利便性が成り立っていると痛感した。地域の再生可能エネルギーの普及とエネルギーコスト削減を進めるため、『エネルギーで支える地域のくらしと地球の未来』を経営理念として掲げ、新電力を立ち上げた」と振り返る。

中村俊明代表


価格ヘッジスキームが奏功 再エネと未利用エネが柱

地産電源として、メガソーラー所沢やフロートソーラー所沢、さらにFIT(固定価格買い取り制度)ではないソーラーシェアリングや東部クリーンセンターでのごみ焼却熱発電などを活用する。もともと同センターをJFEエンジが委託管理していたことや、環境負荷の少ない電源を多く保有していたため、同社が新電力経営に参画した。併せて、JFEグループで地域新電力支援を手掛けるアーバンエナジーを介し、同社の契約発電所からの相対調達も行う。

ところざわ未来電力の電源構成は、日本卸電力取引所(JEPX)への依存度が低い点が特徴だ。清掃工場が72%、次いで太陽光14%、そのほかが14%。なお清掃工場のうち、45%が再エネの廃棄物バイオマス、27%が未利用エネルギーとなる。さらにアーバンエナジーが提供する市場連動のFIT電力を含む全調達電力を対象とした価格ヘッジスキームが、安定経営につながっている。「市場価格が安い時期は思うところもあったが、今となっては安値より価格の安定化を重視し続けてきて良かった」(中村氏)

ところざわ未来電力では再エネ+未利用エネ比率が86%と目標を上回り、市内地産地消比率20%という目標もクリア。また23年度のCO2排出係数が1kW時当たり0・28㎏と、30年のNDC(国別削減目標)に近い水準を実現している。

地産電源の一つ「フロートソーラー所沢」

【原子力】日本の原発輸出は? ウクライナからのシグナル

【業界スクランブル/原子力】

本稿掲載時点のウクライナ情勢は不明だが、15基のロシア製原発の取替燃料を全てウェスチングハウス(WH)社製に切り替え、さらに9基のWH製AP―1000新規建設を契約して脱ロシアを進めるウクライナは2月、まずフメルニッキ3、4号機の完成と5、6号機の新設を表明した。

この際、同国のエネルギー相は「原発の拡大と電力の安定供給のために日本企業と協力する」と述べたと報道されたが、これは何を意味するだろうか。PWRメーカーの三菱重工はWHとの関係が切れており、参画できまい。

またウクライナはロシアへの使用済燃料搬出をやめ、乾式中間貯蔵施設の建設を委ねた米ホルテックと4月、SMR300導入の覚書を結んだ。このSMRの計装制御系は三菱電機が納入するが、SMRが本当にウクライナで建設されるだろうか。同国の将来にとって西欧への電力輸出、復興資金獲得が重要で、大型炉を必要とするはずである。

ウクライナは米国依存だが、日本の原発輸出に可能性がない訳ではあるまい。格安だが中露は呼ばれず、競争相手は欧米だが円安で日本が有利。政府も公的支援で支えるだろう。しかし三菱重工は海外で蒸気発生器や圧力容器上蓋の取替など多数の機器納入を誇るが新設でなく目立たない。 英国では日立が撤退したホライズンプロジェクトの用地が売られ、新たなSMR計画に応札するのは米国のGE日立であり日本の日立GEではない。韓国はUAEでの成功以来あちこちで顔を見せる。日本のメーカーはもはや弱小なら統合して1社にし、技術の結集によるコスト削減を目指すしかないか。(H)

サステナブルな建築求める声 32年五輪の構想考える

【リレーコラム】井上郁美/豪州建築設計事務所Buchan取締役日建設計ベトナム社長

日建設計は、オーストラリアの建築設計事務所バカンと業務提携をしてから9年目になる。豪州、日本といったホームベースだけではなく、中東、インド、中国などで協働して都市計画や建築設計のプロジェクトに取り組んできた。現在、一番両社が切望しているのは2032年にブリスベンで開催される五輪・パラリンピックの競技施設の計画・設計に携わることである。翻って20年東京五輪・パラリンピックでは体操や新体操、トランポリン、ボッチャの競技会場となった「有明体操競技場」を日建設計と清水建設とで設計した。その最大の特徴は、建物各所に多岐にわたり木材を利用していることだ。これは立候補ファイルにて謳われた「施設の木質化」「サステナビリティ」を積極的に具現化したものであり、かつて貯木場であったこの土地の記憶を表出させたものでもあった。環境に優しい木材をふんだんに使ったという特徴もさることながら、同じくらい大切だったのは大会のレガシーとして残る施設を開催後にどのように利用するかであった。有明の施設は大会後に仮設の客席部分などを撤去し、一部改修された後に展示場として長く利用されることを前提に設計された。現在は、有明GYM―EX(ジメックス)と改名して稼働している。


異分野のエキスパートとの連携が鍵

森林資源の豊富な豪クイーンズランド州でも、新しいスポーツ施設に木材を使いたいという声が聞かれている。木材は、ブリスベンの亜熱帯気候や既存の地元建築と共鳴する美しい素材だ。また、ブリスベンの大会では「クライメート・ポジティブ」とすることをクイーンズランド州政府が宣言している。つまり大会が排出する以上の炭素を大気から取り除くことを目的とした、強力な気候変動対策に取り組むというのだ。新設される、または大幅に改修される大会関係施設はすべてグリーンスター(豪州の環境認証)の6つ星を得ることも州政府が目標に掲げている。

では、具体的に何をすれば良いのか、どのような技術が必要なのか。環境性能やエネルギー効率を上げるために、一つひとつの施設でやれること、大会全体で取り組むべきこと、街として取り組むことなどそれぞれにおいて異分野のエキスパートたちと組みながら知恵を振り絞っていくしかない。私たち建築設計者も、新築や改修設計の要件が提示されるのをただ待つだけではなく、開発を抑えられる土地の条件、公共交通機関の利用促進、スポーツ大会やコンサートなどの開催日以外でも賑わいをもたらす仕掛けなどで自発的にアイデアを提案することが求められている。

いのうえ・いくみ 東京大学工学部建築学科卒業。1991年に日建設計に入社。2015年に豪州の建築設計事務所Buchan(バカン)と日建設計が業務提携をしたことを契機にメルボルンに5年間赴任。現在はホーチミン在住。

※次回はエアトランクの神田巧海さんです。