【論説室の窓】神子田章博/NHK 解説主幹
EV販売が減速し、ハイブリッド車が一気に巻き返している。
日本メーカーも各市場を踏まえた多元的な戦略づくりが必要だ。
脱炭素のニーズが高まる中で、環境対応車の主力と見られていた電気自動車(EV)。中国EVメーカーが世界を大きくリードする一方、市場の拡大に向けては課題も残っている。ハイブリッド車を含めた環境対応車を巡る世界の主要市場の動きを俯瞰する。
EV市場の伸長著しい中国では、同国でのEV販売台数が2019年に101万9000台となったが、昨年は668万5000台とわずか4年の間に6倍以上に急拡大した。こうした中で現地の日本車メーカーは、環境対応車で大きく後れを取る。日本が強みを持つハイブリッド車が、中国政府が補助金や税制優遇の対象とする「新エネルギー車」の扱いをされず、苦戦を強いられているのだ。
中国EVメーカーの勢いは、国内にとどまらない。日本メーカー進出の歴史が古く、東南アジア地域での日本車の牙城とも言われたタイ。政府の振興策を背景に、昨年1年間のEVの新規登録台数は7万6000台余りと、前の年に比べて8倍近くに急増したが、このうち中国EV最大手のBYDが4割のシェアを占めている。BYDは現地生産も開始し、今年中にはタイ国内の販売店の数を現状の2倍に当たる200店舗まで拡大させる計画だ。
中国が過剰生産で攻勢 欧米諸国が影響を問題視
現地の消費者は中国のEVについて、性能と価格を考えたら日本車よりも手ごろと受けとめているようだ。こうした中国EVメーカーの台頭で日本は、タイの自動車市場でシェアを落とし、昨年は8割台を下回った。日本は環境意識が高まりつつあるタイのマーケットでも、環境対応車をどう強化していくかの対応を迫られている。
中国のEV攻勢に対する危機感は欧米にも広がっている。それを象徴するのが、中国メーカーのEVを「過剰生産だ」とする批判の声だ。中国と対立する米国のイエレン財務長官は、今年4月に北京を訪れて、中国政府で金融や経済政策などを統括する何立峰副首相らと会談。その時の記者会見では、中国の過剰生産の問題が米国や世界経済に大きな影響を与えると指摘した上で、「中国からの安価な輸入品によってアメリカの産業が破壊されることを容認しない」と強調。新たに立ち上げる米中間の意見交換の枠組みを通じて、中国側に政策転換の必要性を求めていく考えを示した。
EU(欧州連合)は、価格を抑えた中国のEVが欧州の企業に損害を与える恐れがあるとして、暫定的に38・1%の関税を上乗せする方針を発表した。
欧米諸国の懸念は、5月に開かれた主要7カ国(G7)の財務相・中央銀行総裁会議でまとめられた共同声明にも反映された。「中国メーカーによるEVなどの過剰生産が、G7各国の労働者や産業、経済的な強靭性を損なう中国の非市場的な政策や慣行について懸念を表明する。
公平な競争条件を確保するための措置を講じることを検討する」として、G7が一致して中国をけん制する姿勢を示した。
こうした対応の背景には、中国がEVの開発・製造・生産の過程で、事実上の国家による補助を与え、市場原理にそぐわない安価な価格で海外に輸出しているのではないかという疑念がある。EUは調査を通じてその実態をつかもうとしているが、中国側は過剰生産の指摘がそもそもあたらないとして、批判をはねつけている。
中国メーカーの競争力は、政府の補助に頼る必要がないほど強くなっている。かつて日本メーカーが世界を席巻した際に、米国から高額の関税をかけられ、日本政府が「国際貿易ルールに違反している」として、世界貿易機関(WTO)に提訴した事案があったが、そうした「無理筋」の貿易制限措置でも取らない限り、中国製EVの勢いを止めるのは難しそうだ。


















