【業界スクランブル/火力】
現在議論されている「小売事業者に対し、実需給3年前に想定需要の5割、1年前に7割の電力量(kW時)を確保させる」という制度案は、燃料調達の予見性を高める狙いがあるものの、電力システム全体の実運用に深刻な影響を及ぼす恐れがある。
電力需要は時間とともに大きく変動し、同時同量が常時求められるが、今回の対策により想定需要の一部を確保させることは、発電設備の運用を矩形的に固定してしまうことになる。これまで需給調整を供給力全体で行ってきたが、7割が固定化されることで、変動対応を残余の設備だけで担うこととなり、すでにひっ迫している調整力不足を一層深刻化させる懸念がある。さらに、調整力としての運用が特定設備へ集中すれば、過度な稼働やメンテナンス制約を通じて設備信頼度を低下させかねない。結果として、燃料確保の予見性を高めるはずの制度が、むしろ予備力や調整力の確保を困難にし、供給信頼度を損なう形で発電事業者の首を絞める恐れがある。
問題の本質は、議論の当事者である国、有識者、送配電、小売り、さらには発電事業者までもが、燃料確保に意識を奪われ、発電設備の運用現場で行われている調整力確保の対応に思いが至っていない点にある。燃料調達リスクの低減を図ることも重要だが、その施策が周囲にどのような影響を及ぼすのかについて、より慎重な検討が求められる。
発電設備の運用を巡っては複数の市場が乱立し、再エネ優先給電ルールも相まって整合性を欠く事例が散見される。今回の検討が制度間の齟齬を整理する契機となるのか、それとも一層の混乱を招くのか、注視が必要だ。(N)



