【原子力】屋内退避の再検討終了 原発の安全性を証明


【業界スクランブル/原子力】

4月2日の原子力規制委員会で、原子力災害時の屋内退避の検討結果が承認された。報告書は屋内退避の解除、継続、避難への切り替えなどを定めるもので、その根拠となる周辺地域の被ばく線量が添付されている。

それによれば、重大事故対策を施した結果、たとえ炉心損傷が起きても周辺への放射性物質の放出量は極小で、UPZ(原発から5~30㎞圏内)全域で屋内退避が不要。PAZ(同5㎞圏内)の範囲でも、被ばく線量は格納容器ベントをする場合のみ、2㎞の範囲でIAEAの防護措置実施基準を超えるに過ぎず、そのような範囲の人口はわずかであろう。実際には、ベントせずとも格納容器を守る対策が施されており、PAZ全域では屋内退避すら不要だ。しかも規制委の解析条件は、重大事故対策が追加されているにもかかわらず、わずか1日で放射能放出が始まり、気象条件も厳しいものだった。

炉心損傷後に重大事故対策が不十分で、ベントを実施する可能性は極めて低い。つまり世界で最も厳しいとうたう新規制基準を定め、これに適合して再稼働を許可されたプラントは、実質的に避難計画が不要なほどの安全レベルにあるということだ。

もちろん、だからといって深層防護の第5層の防災体制の構築は求められる。ただUPZに居住する数万人の避難に必要な物資などをそろえておく必要はない。また複合災害を考えても、原子炉が一般施設よりはるかに強靭であることは能登半島地震で証明されている。行政が取り組むべきは家屋や道路などの一般災害対策であり、発生頻度から考えてもそれが最適な投資である。(T)

クリーンな調理が命を救う サブサハラの台所事情


【リレーコラム】松原文彦/丸紅エネルギー事業推進部

昨今、このコラムでも脱炭素の話題が活発だ。今後もこの潮流は止まらないだろう。そこで今春、4年間の南アフリカ駐在を終えるに当たり、調理ストーブ事情について脱炭素の観点から書いてみたい。調理ストーブとは、その名の通り、食べ物を煮炊きする調理器具のことだ。幼少期、秋刀魚を焼く時は都市ガスを使わず、庭に七輪とうちわを引っ張り出して焼いていたことを思い出す。似たような記憶を持つ方も多いのではないか。

サブサハラでの調理ストーブの主な燃料は、薪、木炭だ。一人当たりGDP(国内総生産)が上がると灯油や石炭を使うようになり、さらにClean Cooking Fuels(エタノール、メタノール、LPG、天然ガス、電気)を使うようになる。この現象はサブサハラに限ったことではなく「Energy Ladder理論」として知られている。サブサハラ各国の一人当たりGDPとClean Cooking Fuelsの利用率をプロットすると、強い相関性が確認できる。

調理中の煙が少なくなるような改良型調理ストーブの普及を目指す、Clean Cooking Alliance(在米国)によると、固形燃料の燃焼で発生する煙を吸い込むことにより、毎年約400万人が深刻な肺疾患となり、約100万人が命を落としている。このうち約50%が調理中、母親に背負われている5歳以下の幼児だ。身近なところに、これ程の大きな社会課題があることに慄然とせざるを得ない。


問題の認識が解決の糸口に

近年、多くの企業が調理ストーブからカーボンクレジットを発行するビジネスを行うようになった。カーボンクレジットとは、温暖化ガスを削減する事により貰えるご褒美のようなもので、紙の証書をやり取りする事で完了する。肺疾患の原因となる調理中の煙が少ない改良型調理ストーブを配布し、カーボンクレジット創出を狙う事業主が数多く現れている。このビジネスが大きな社会問題解決策に成り得る。

ただし、問題も多い。最近では米国の研究チームが、調理ストーブからのカーボンクレジットの発行量が実際の削減量の9倍以上に水増しされている、と指摘して耳目を集めた。この研究発表は、瞬く間にカーボンクレジット価格を下落させた。

調理ストーブからのカーボンクレジットは未成熟な業界かもしれないが、大きな社会課題解決のための一筋の光明であることは間違いない。問題解決に必要な最初の一歩は、問題があることの認識だ。このコラムが調理ストーブ問題の存在を知らしめ、どこかで何かのきっかけになれば、幸いだ。

まつばら・ふみひこ 1993年、丸紅株式会社入社、エネルギー・ビジネスが専門。米国10年、南アフリカ4年の海外経験を持つ。南アフリカでは、脱炭素ビジネスを担当。2020年、法政大学より博士号(経営学)を授与される。

※次回は丸紅米国会社の竹原優さんです。

【シン・メディア放談】青色吐息の石破政権 トランプ関税でさらなる窮地に


〈エネルギー人編〉大手A紙・大手B紙・大手C紙

発足から半年経つ石破政権。後半国会に突入する中、トランプ関税というさらなる難題が襲う。

―2025年度予算が辛くも成立したが、各紙社説では「熟議が足りない」などの論調が目立つ。石破政権のこれまでをどう評価する?

A紙 石破茂首相が意欲を見せてきた防災庁構想や防衛問題などについて、今国会では全く述べていない。石破番の多くが彼の人柄に魅力を感じるようだが、万博のミャクミャクと戯れる姿など見せられても、国民は違和感を持つだけ。長い党内野党時代、実際首相になったらどう動くのか、全く考えていなかった。

B紙 「原発ゼロ」発言や選択的夫婦別姓もトーンダウン。ただ、高額医療費引き上げを凍結し、引くべきところで引けた点は良かった。前半は予算で精いっぱいだったが、後半の行方に注目したい。「トランプ関税国会」にはなってほしくないな。

C紙 政権の姿勢が見えない中で、役所が好きに動いている印象だ。洋上風力のFIP(市場連動買い取り)転を決定した審議会で、大事ではないかのように資料を作っていた。逮捕された秋本真利前議員と似たようなことをしているのに……。

一方、萩生田光一氏は「暫定予算とし、年度内に成立しなくても良かった」などと語っている。越年は国民が選択した過半数割れの結果であり、下手に維新などと妥協すれば支持者が離れるというのだ。

A紙 萩生田氏は某ネット番組で「(前衆院選では)九死に一生を得た。これからは自分が前に出ていく」とも語っていた。

B紙 そんなことを言っている場合か。6月下旬の都議会選でも自民は厳しいのに、萩生田氏の求心力が高まるとは思えない。

都議選では、国民民主に一番注目している。玉木雄一郎代表が今の勢いをどこまで維持できるのか。一定の成果を残せば、参院選でも議席をかなり伸ばす可能性が出てくる。また、中身のなさが売りである石丸伸二氏率いる「再生の道」の実力はいかほどか。自民が落とした分の受け皿はこの2党となる。

―その他、ポスト石破の動きはどうだろう。

A紙 小泉進次郎氏は政治とカネの問題を一手に引き受けていると悦に入り、昨年より表情は引き締まっているものの、中身は変わらない。その他の面々も静観だが、林芳正氏を除き、自分が見えていない人ばかりだ。

また、野党が不信任案提出に向けて、自民と維新・国民間のシングルイシューごとの団結をほぐせるのか。ただ、立憲民主の野田佳彦代表は引き続き石破氏との戦いを望んでいる。

C紙 最後までだれも手を上げないダチョウ倶楽部状態だ。


米との交渉担当は適任か 「ウルトラC」はなし

―4月2日、首相の商品券問題を吹き飛ばす、衝撃のトランプ関税が発表された。

A紙 石破氏はかつて安倍晋三氏の外交スタンスに対して「友情と国益は違う」と語ったが、それがブーメランとなっている。今の日米首脳は全く関係性が構築できておらず、7日の電話会談もただしゃべっただけだ。

B紙 トランプ氏は1期目と明らかに違う。安倍氏が存命でも、影響は避けられなかっただろう。

―赤沢亮正経済再生担当相が交渉担当となった。

A紙 本来の担当は武藤容司経済産業相のはずで、赤沢氏がしゃしゃり出た感がある。一時期は隙間風が吹いていたが、赤沢氏は石破氏の側近だ。

C紙 あり得ない展開だが、世耕弘成氏、西村康稔氏らパージ組の他、TPP(環太平洋経済連携協定)を担当した甘利明前議員の知恵を借りても良い。赤沢氏ではオールジャパン体制とは程遠い。

―早速赤沢氏の手腕を疑問視する記事も出ている。

A紙 「タフネゴシエーター」の茂木敏充氏も適任だが、そうできないのは人間関係を構築できない石破氏の人見知り故だ。

B紙 信用できる人が少ないんだね。

A紙 だから1年生にも商品券を渡してしまう。


まだやめられない補助金 電力・ガスも復活?

―燃料油補助金は案の定春以降も継続。電力・ガス補助金の復活も検討されている。

A紙 政府が昨夏電力・ガス補助金を復活させた際は猛暑対策と説明し、野党がばらまきだと批判。今年はさらに早い段階で復活の話が浮上した。

B紙 選挙を控え、また繰り返すのだろうと懸念している。別の景気対策が望ましいが、既にスキームがあるからね。また、脱炭素に逆風が吹く中、補助金が脱炭素に反するという批判のトーンも下がっている。

C紙 どうせ金を使うなら有意義な電源確保などにしてほしい。また、アラスカ産LNGをパイプラインで南部に運び輸出するのではなく、北極海航路で砕氷船を使った方が良いといった声が出ている。当然後者のリスクも大きいが、砕氷船に国費を投じれば米国の貿易赤字も減り、一石二鳥の絵が描ける。

―3月号で取り上げたフジテレビ問題のその後だが、第三者委員会の報告書が公表され、予想以上のひどさにドン引きした。

C紙 流れ弾をくらった反町理氏は、関係者に切腹最中を配り歩いているらしい。

A紙 ただ、当該女性記者だけでなく、男性記者でも叱責されることはよくあると聞く。

C紙 中居正広氏とフジ社員の悪行ばかり報じられているが、代理店やスポンサーの問題に触れるメディアは皆無。やはりパンドラの箱は開けられない。

―「オールドメディア叩き」は収束しそうにない。

【石油】ガソリン価格低下 「関税戦争」で実現か


【業界スクランブル/石油】

民主主義は怖い。選挙で選ばれたら、あるいは選挙のためには、政府は何をしても良いらしい。

トランプ米大統領は、パリ協定を離脱したが、今度は関税政策で各国にけんかを売り始めた。原油価格も、年末から予想外の堅調で推移していたが、3月後半辺りから、関税政策による世界不況懸念で軟化した。特に4月初めには「相互関税」発表による米国経済先行き不安に、OPECプラスの自主減産緩和拡大が加わり、NY原油先物価格は2日間で70ドル初めから60ドル初めに10ドル急落した。

これまでの「懸念」は、不況発生に伴う「実需減少」に変わる。世界不況発生による石油需給緩和の拡大で、原油価格はさらに低下するであろう。トランプ大統領は、原油増産によるガソリン価格低下を主張してきたが、それは、不景気を代償とした需要減少で実現される。

わが国では、4月4日に自公国の3党合意で、「6月から、補助金拡充を含め、ガソリン価格の引き下げ」の方針が決まった。しかし、「関税戦争」の勃発で原油価格は低下。補助金はガソリン小売価格(全国平均)が政府基準価格である1ℓ当たり185円を割れば自然消滅し、原油価格に連動して低下を始める。政府は放置しておいた方が良かった。

ただ参院選を前に、与党は物価対策を打たざるを得ない。あるいは、旧暫定税率廃止時期の明示を避けたかったのかもしれない。そもそも、脱炭素が実現するなら、ガソリン税などの税収はなくなり、税自体が無意味になる。暫定税率廃止も、将来的には可能だが、今は無理だということなのだろうか。(H)

【コラム/5月20日】2025年度のGX・DX政策を解説


加藤真一/エネルギーアンドシステムプランニング副社長

2025年度が始まり、既に2カ月が経とうとしている。前回のコラムでは24年度の政策や制度設計について振り返り、25年度に着目する制度の話をしたが、今回は、この2カ月間の動きを見た中で、GX・DX政策について解説したい。

年度当初ということもあり、まだ審議会の開催件数は低調だが、今後、6月以降、活発化することも予想されることから、引き続き注視していくことが求められる。


産業立地政策からスタート 産業創出の好循環を目指す

2月に閣議決定された「GX2040ビジョン」において挙げられた論点のうち、GX産業立地政策の具体化に向けた検討が着手された(GX産業構造実現のためのGX産業立地ワーキンググループの設置)。ビジョンで記載した産業立地と投資促進を深掘りし、参加する委員から政策形成の助言を求め、さらに実施すべき詳細な施策の在り方と制度設計を議論していくとしており、今後、夏頃を目途に取りまとめが行われる予定となっている。

目指すGX産業の姿は、AI、ロボット、ペロブスカイト太陽電池、革新蓄電池、グリーンスチール、半導体といった革新技術を生かした新たな産業創出と、脱炭素エネルギー利用・DX促進によるサプライチェーンの高度化とし、そのためには、①競争力強化に資する企業への支援(設備投資へのインセンティブ、制度改善など)、②立地を促すインフラ設備(産業用地確保、電力・通信インフラ整備など)、③脱炭素電源・データセンター整備(ワット・ビット連携など)を同時・連関的に実行していくことが重要としている。いわば、大きな成長を見込むことができる分野とそれを野心的に進める企業などに集中的に支援を行い、そのために必要な立地確保やインフラ整備、さらには投資を促す支援や税制優遇、規制緩和などを措置し、「世界で勝てる産業」「新たな日本の十八番」を創出していくことを図る構想であると想像される。

戦後に日本の高度成長期はコンビナートや工業団地、港湾に支えられてきた経緯があるが、今後検討される立地施策で生み出される新たな「場」が、次の時代を支える産業をリードしていくことが期待される。そして、そこで製造された製品やそれらを使ったサービスが新たな価値として提供されるという好循環につながることで初めて、GXの成果が出たと言えるだろう。


データセンター立地 順調に進むのか

そうした中、着目されるのがDXの推進となっている。生成AIの発展が目覚ましいこと、デジタル赤字が年間で約7兆円(24年)という状況、データセキュリティ確保が必要なこと、そして低遅延性といった観点から、国内に計算資源を整備する必要があるとして、データセンターの整備の重要性が叫ばれている。

一方で、データセンターは膨大な電力を消費することから、そのために必要十分な供給力と系統の双方を確保しなければならない。供給力については脱炭素電源が志向されているが、現状、東京圏と大阪圏にデータセンターの多くが集中する中で、原子力発電や太陽光発電・風力発電といった再エネの適地が偏在していることから、単純に考えれば、長距離送電を介して電力を送らなければならなくなる。生真面目に1つずつデータセンターの系統接続申し込みに対して規則通りに対応した場合、おそらく、その設備投資額は兆円単位、工事完了も数年はかかってしまうだろう。脱炭素電源も一朝一夕に完成して稼働することは難しく、より現実を見据えた上での対応が必要となる。

こうした課題を解決するために今年3月には「ワット・ビット連携官民懇談会」が設置され、4月には専門的な検討を行う場として「ワット・ビット連携官民懇談会ワーキンググループ」が設置された。電気事業者・通信事業者・データセンター事業者の三者が参加し、インフラ整備の現況や今後の計画の情報共有、立地に必要な条件・課題の整理、効率的な整備に向けた有効な方策の検討を行う。6月までに毎月1回、計3回開催し、取りまとめを行い、結果を懇談会に報告する予定となっている。かなり重要な産業施策であるため慎重な議論が必要な一方で、AI開発が世界で活発化していることや一般送配電事業者へのデータセンターの接続申込が急増しており、あまり悠長に議論している時間もないことから、わずか3カ月というスピードで、まずは方向性をまとめるといったことが推測される。ただし、方向性が決まっても、具体的に実行に移すことが遅れれば本末転倒になってしまうため、取りまとめ後のアクションが重要となるだろう。

【ガス】調達多様化進むLPガス エネ基で再評価


【業界スクランブル/ガス】

第7次エネルギー基本計画では、LPガスについては、5章5節「化石燃料/供給体制」の基本的考え方の中で、「災害の多い我が国では、エネルギーの強靱性の観点から、可搬かつ貯蔵可能な石油製品やLPガスの安定調達と供給体制確保は重要である」と述べた。石油製品と離して初めて項目立てて有用性に言及した。災害時には、病院などの電源や避難所などの生活環境向上に資する「最後の砦」と、従来の位置付けを維持。「災害時に備え、病院・福祉施設や小中学校体育館等の避難所等における備蓄強化、発電機やGHP等の併設による生活環境向上を促進する」とした。

エネルギー安全保障が注目を集める中、LPガス元売り各社が調達の多様化を進めた結果、中東からの輸入シェアは1割を下回る。地政学的リスクの低い地域からの調達が評価され、LPガスが重要な存在になったといえるだろう。

また、省エネ分野では業務・家庭分野において、「ハイブリッド給湯器、家庭用燃料電池といった高効率給湯器の導入や、設置スペース等の都合から高効率給湯器の導入が難しい賃貸集合住宅向けには、潜熱回収型給湯器の導入を支援する」と政策的に導入拡大することが示されている。

さらに、グリーンLPガスの大量生産技術の確立が重要と位置付け、2030年代の社会実装を目指し後押しするなど、これまでになくLPガスへの期待は大きい。

一方で、商慣行是正について新たな規律を設けたと触れているが、LPガス販売事業者からは、市場の状況は前より悪くなったとの声も聞かれる。業界内で内輪もめをしている場合ではない。(F)

世界の分断と大国の思惑〈上〉 トランプ2.0と二つの停戦交渉


【ワールドワイド/コラム】国際政治とエネルギー問題

1月20日、米国第2期トランプ政権が始動し、4月2日の相互関税措置の発動が世界経済を大きく揺さぶる中で、外交的には二つの停戦交渉が進められている。そのうち、ウクライナ戦争に関しては、2月28日の米ウクライナ首脳会談での両大統領の口論の結果、軍事援助が一時停止される一幕があったものの、両国政府は3月11日、「米国が提案した30日間の即時停戦提案にウクライナが同意した」と発表した。これに対し、ロシア側は18日、これを拒否した。

トランプ大統領のロシアへの対応は一様でない。大統領は3月30日、前述のプーチン大統領の対応に腹を立てていると述べ、戦争終結に向けた自身の取り組みをロシアが妨害していると感じれば、ロシア産原油の買い手に25~50%の関税を課すと警告した。

国際社会の対応としては、ロシアの侵略から3周年となる2月24日、国連総会の特別会合が開催された。同会合では、ウクライナとEUが提出した戦闘の停止とロシア軍の撤退を求める決議案を93カ国の賛成多数で採択したが、米露など18カ国が反対票を投じ、65カ国が棄権した。2022年3月の決議(賛成141、反対5、棄権35)に比べると、48カ国が賛成から逸脱した。

同日開かれた国連安全保障理事会では、米国が提出した「紛争の終結」を求める決議案を10カ国の賛成多数で採択した。この決議にはロシア非難は含まれておらず、米国の主要同盟国の英仏など5カ国は棄権した。米国はこの採決で、ロシア側につく姿勢を示し、これを受けて、EUとウクライナは英仏主導で有志連合の創設に動き出した。

もう一つの停戦に関しても展望は失われた。イスラエルの圧倒的優位の中で、イスラエル・ハマスとの停戦が1月20日に実現したが、3月18日、イスラエル軍の攻撃再開で停戦交渉は行き詰った。これを機に米国がハマスに停戦交渉案を提示する展開が見られるものの、こちらの停戦も実現には時間がかかりそうである。

中東情勢の展開には、2月18日のリヤドおよび3月11日のジッダにおけるウクライナ戦争停戦会議の設定によって存在感を増す、サウジアラビアの対応がカギを握ると見られる中で、ホワイトハウスは4月1日、「トランプ大統領が5月にサウジアラビアを訪問する」と発表した。初めての外遊先に1期目と同様、2期目も同国が選ばれた。主な目的は1兆ドル以上の対米投資の合意獲得にあると報じられるが、サウジの財政支出の規模の流動性は油価の動向次第であり、限られた歳入の最適配分がどうなるかは予断を許さない。

改めて足元の原油価格を見ると、低落基調が続き、本年産油国の財政事情が悪化することは必至である。OPECプラスは、4月3日、5月から減産幅を縮小(=増産)すると発表した。市場環境の好転を増産の理由とするが、OPEC諸国内の増産要請を抑え切れなかったためか、トランプ政権の圧力への対応なのか、評価が分かれる。

(須藤 繁/エネルギーアナリスト)

温暖化めぐりペルー農民がRWE提訴


【ワールドワイド/コラム】海外メディアを読む

ドイツの大手エネルギー会社RWEは、気候変動への加担の責任を問われ、ペルーの農民、サウル・ルシアノ・リュヤ氏から訴えられている。3月14日付のロイターは、ドイツの裁判所で控訴審の法廷審問が始まったことを伝えた。

リュヤ氏は、ドイツの活動家グループ「ジャーマン・ウォッチ」の支援を受け、2015年にRWE本社のあるエッセンの地方裁判所に訴えた。地球温暖化により、地元の氷河湖が決壊して洪水が発生する危険が高まったと主張。褐炭焚きの発電所を多数運用するRWEに対し、世界の人為的な温室効果ガスの0.5%を排出してきたとして、応分の洪水対策費用(約340万円)の負担を求めた。

一審は、CO2の排出者は無数に存在するため、RWEのみに責任を問うことはできないとして、訴えを棄却。ところが、控訴審では、気候変動と洪水発生の因果関係が認められれば、温室効果ガスの大規模排出者には、部分的であっても責任を問えるということで審理が続いている。

RWEへの請求は少額だが、この裁判の意義は、気候変動がもたらす被害に対して、一企業でも単独で応分の責任を問われる先例となり得ることだ。実際、こうした報道が世界に配信された時点で、原告側の目的は半ば達成されたとも言える。

そもそも化石燃料の利用は、エネルギー会社の意思のみで続いているわけではない。社会全体として、その大きな恩恵を直ちに捨て切れないから、悩みが深いのである。従って、気候変動による被害への補償は、「ロス&ダメージ基金」のように、国際社会がCOPの場で議論するのが筋ではないか。象徴的に一企業を吊し上げるような手法で、社会の「深い悩み」に迫る議論につながるとは思えないのだがどうだろうか。

(水上裕康/ヒロ・ミズカミ代表)

【コラム/5月19日】IPCC排出シナリオ 「物語に基づいた科学」に過ぎず


杉山大志/キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

Evidence-based Policy(証拠に基づいた政策)とか、Science-based Policy(科学に基づいた政策)ということはよく言われるけれども、そんな綺麗ごとよりも、実際に頻発しているのはNarrative-based Evidence-making(物語に基づいた証拠づくり)である、という指摘を読んだ。

https://wattsupwiththat.com/2025/05/04/narrative-based-evidence-making/

https://thebreakthrough.org/issues/energy/the-worst-thing-about-the-climate-crisis-is-what-it-does-to-your-brain

これらの記事は「気候危機説」という物語に沿うような形で自然災害や環境影響評価についての研究成果が量産されることを指して批判していたのだが、実は排出シナリオ研究も同じことなのだ。

このことを、世界規模の温室効果ガス排出量シナリオの中核的役割を担っていたIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告書の変遷をたどることで示そう。


徐々に増加 2℃、1.5℃シナリオ

IPCCも、かつてはまじめにエネルギーシステム分析をしていた。だから、2007年の第四次評価報告書(AR4)の時には、2℃目標を達成できるというシナリオなどわずか6本しかなかった。当時の研究者たちは、この6本のシナリオに対して、極めて冷ややかだった。そんなものは実現不可能であり、まじめにエネルギー経済のシステムモデル分析をすれば、答えは「実施不可能(インフィージル)」というのが業界での当然の常識だったからだ。

ところがこの2℃シナリオ、この後の第5次、第6次(AR5、 AR6)で急増することになる(表1)

IPCC 世代公表年総シナリオ数≤ 2 °C シナリオ数割合判定根拠の温度/濃度クラス
AR4200717763 %同上カテゴリ I(445–490 ppm)
AR5201496336538 %Table 6.2 430–480 ppm+480–530 ppm(カテゴリ 1+2)
AR620221 20270058 %Table 3.1 C1–C4(< 2 °C を保つ4クラス)
表1 「産業革命前(1850–1900平均)比 +2 ℃を超えない経路」が各世代の IPCC WG III シナリオ全体に占める割合(“≤ 2 ℃シナリオ”=各報告書が採用した温度/濃度分類で 2 ℃を 上回らない と判定された経路。母数はいずれも当該報告書で数量化できた世界シナリオの総数)

それどころか、1.5℃目標さえ達成できるというシナリオまで増殖した(表2)。これは07年にはゼロだったのに、最新の22年の報告書では139本ものシナリオが1.5℃目標を達成できるとしている。

なお1.5℃特別報告書(SR1.5、18年)は提出された414本のすべてが1.5℃または2 ℃未満をターゲットとしており、比率は 100 % だが、定期評価報告ではないため表中には含めていない。

報告書公表年シナリオ総数*1.5 °C ΔT ≤ 1.5 °C に収まるシナリオ数割合補足(判定基準)
AR4200717700 %445-490 ppm(カテゴリ I)は中央値 ≈ 1.7-1.8 °Cで 1.5 °C未達
AR52014963≲ 5≈ 0.5 %当時 “1.5 °C 研究は極めて少数” と SR1.5 第 2章が指摘(IPCC)
AR620223 1311394.4 %C1(1.5 °C 無〜小幅OS)97 本+C2 のうち 2100 年 1.5 °C 収束 42 本(IPCC, IPCC, IPCC)
表2 IPCC WG III シナリオ比較における「産業革命前(1850-1900 平均)からの気温上昇を 1.5 ℃ 以内に抑える経路」の比率の変遷

首を絞めかねないトランプ関税 国内ガス生産拡大には逆効果か


【ワールドワイド/環境】

トランプ米大統領は1月20日に就任するや、国内面では各種規制の見直しなどを通じた石油、ガス、鉱物資源の国内生産の拡大を図り、インフレ抑制法(IRA)に基づくクリーンエネルギー支援を停止・縮小し、対外面では米国産エネルギーの輸出拡大によるエネルギードミナンスの確立、パリ協定からの離脱などの方針を打ち出した。

中でも注目されるのが、ゼルティンEPA長官が打ち出した危険性認定の見直しの帰趨だ。

危険性認定は大気浄化法の下、温室効果ガス排出が公衆に危険をもたらすと政府が認定するもので、これを根拠に自動車や火力発電所への規制が実施されてきた。撤廃されれば、さまざまな環境規制の根拠がなくなるため、訴訟が提起され、最終的には保守派が6、リベラル派が3の最高裁で争われる。

最高裁は昨年、「法律の曖昧な部分の解釈は規制当局に認め、現場の複雑な事情については行政の専門知識と判断を優先する」という「シェブロン法理」を覆し、「議会が与えたと合理的に理解できる範囲を超えた非常に大きな影響力を持つ権限を行政機関が持つことはできない」という「重要問題法理」を打ち出した。「最高裁まで上がれば、危険性認定の撤廃が認められ、民主党政権が復活しても温室効果ガス規制を復活できない」というのがトランプ政権の目論見だが、予断は許されない。

世界を震撼させているトランプ関税はトランプ政権のエネルギー政策の目的を阻害するかもしれない。トランプ関税は相手国の負担になる上に、米国の消費者の負担になる。貿易戦争の激化により世界経済が減速すれば、エネルギー需要の減退につながり、トランプ政権が目指す国内石油ガス生産増大にならない。それどころか世界同時不況により、2020年以来の全球CO2排出減になるかもしれない。トランプ政権は米国のLNG輸出を拡大し、エネルギードミナンスを確立しようとしているが、そのためには米国が安定的な供給ソースとしての信頼されるパートナーであることが不可欠だ。同盟国であろうとお構いなしに発動されるトランプ関税はそうしたイメージを大きく損なう。トランプ政権に近いヘリテージ財団はエネルギー政策には満点を与えているが、トランプ関税にはF判定だ。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院客員教授)

【新電力】委員固定化の弊害 バランス重視の新人登用を


【業界スクランブル/新電力】

政府審議会については1999年の閣議決定でさまざまな定めが設けられ、その中に「10年ルール」と呼ばれるものがある。「委員の任期については、原則として2年以内とする。再任は妨げないが、一の審議会等の委員に10年を超える期間継続して任命しない」とするものだ。

ところが電力系の審議会では、電取委の「制度設計専門会合」が「制度設計・監視専門会合」(昨年9月)、エネ庁の「系統WG」が「次世代系統WG」(今年1月)に改まり、委嘱から10年経過した複数委員が新審議会委員に選出された。部会名変更、見かけ新設で任期が事実上更新され、下部省庁が内閣の決定ルールを骨抜きにしたのである。

従来の委員は制度に詳しく、役所目線ではレクが楽、長く委員をしてほしいのかもしれない。が、閣議決定を軽視していいのであれば、エネルギー基本計画を軽視しても問題なしになりそうだが、エネ庁、電取委は構わないのか?

委員委嘱があった10年前以降、電力システム改革の各制度設計が行われ、昨年度に全制度の実運用がそろった。制度構築からPDCA段階に入ったのだが、彼らは過去の議論、経緯(例:限界費用原理などミクロ経済原理の信奉)を重視し、新状況への反応、受容が鈍い。新たな問題提起があっても過去経緯から否定姿勢で臨みがちだ。大手電力会社へのルサンチマンが作用して、議論が歪むこともある。

委員固定化の弊害は見えているので、閣議決定ルール順守を徹底するべきだ。ついでながら制度設計側と監視側に同じ委員がいることにも違和感を覚える。委員人事ではバランスを考慮して新人登用を促進してもらいたい。(S)

仏CREが負の価格拡大に懸念 発電抑制インセンティブに意欲


【ワールドワイド/市場】

再生可能エネルギーの大量導入が進む欧州では、スポット価格が1MW時当たり0ユーロを割り込むネガティブ価格の発生頻度が増加傾向にあり、2023年には欧州30カ国のスポット市場で単純に合算した場合、64~70時間のネガティブ価格発生が確認された。この傾向は原子力発電が太宗を占めるフランスも例外ではない。仏送電事業者RTEによると、昨年のネガティブ価格発生時間数は前年比2・4倍の359時間と、2年連続で過去最高を更新した。

仏エネルギー規制委員会(CRE)はネガティブ価格が期待した形での運用に結びつかず、社会的コストにつながっていると指摘。昨年11月にネガティブ価格の発生状況や制度的対応を整理した報告書を公表した。その中で日本のFIT(固定価格買い取り)制度に相当する「買取義務制度(obligation d’achat)」の一部改正が提言された。

現行制度では、発電設備容量などの条件を満たした小規模再エネを対象としており、実質、小規模な太陽光発電に限定される。ただ、初期(10年代前半)に落札された洋上風力プロジェクトなど一部の大型電源も対象だ。うち全面運開に至っていないプロジェクトは、今後支援が開始される予定だ。スポット市場とは無関係に固定価格で買い取られる再エネ電源は、ネガティブ価格発生時であっても発電を抑制するインセンティブが生じない。むしろネガティブ価格時の売電による損失も補填されるため、さらなる負担が賦課金の形で最終需要家に課せられる。CREはこうした課題に対し、「補助が発効中または決定している電源(ストック)」と「支援の対象になりうる新規電源(フロー)」の双方で対策を講じる必要があると説いている。

ストックについては、ネガティブ価格時に発電を継続した電源への補助金を停止し、発電を停止した電源に対して金銭的補償を提供することが提案された。すなわち発電抑制インセンティブの創出である。フローに対しては、ストックと同様のインセンティブ導入に加え、制度対象をより小規模な電源へ絞ることが望ましいと提言されている。

ネガティブ価格の増加に対する再エネ支援制度の適応についてはCREが審議を主導しており、今年3月にはFIP(市場連動価格買い取り)制度の適応をテーマとする審議会が催された。蓄電池や国際連系線などの物理面と制度面での両面での対応が急務となっている。

(伊藤 格/海外電力調査会・調査第一部)

【電力】業界存亡の危機もたらす 技術人材の不足


【業界スクランブル/電力】

年度の変わり目である4月は、企業が新入社員を迎え入れる季節である。少子高齢化が進む日本において、就職する新卒者は減り続けている。今年度大卒新入社員の人口(2021年時点の18歳人口)は117万人であり、2000年前後の約160万人から大幅に減少した。人材争奪戦は激化しており、近年は売り手市場が続いている。

電力業界でも、人材確保は深刻な課題となっている。1月に報告された電力システム改革の検証結果と今後の方向性(案)においても、「安定的な事業運営には、電気事業の現場を支え、高い信頼性と技術の蓄積、安定供給を尊重する人材の確保と定着が必要」とされた。一方で、「電力自由化や東日本大震災の影響により電気事業の魅力が低下し、人材の確保や定着が難しくなってきている」という記載もある。

実際に、02年のマイナビ社による理系大学生の就職人気企業ランキングでは、100位以内に東京電力(34位)、関西電力(51位)がランクインしていたが、25年では電力会社は一社も入っていない。業界の魅力を高めて人材流入を図ることが重要課題であるが、人口の絶対数が減少する中では大量採用で数を確保することはほぼ不可能である。

そうなると業務量を減らすことが必須。発電所や送配電部門の技術系職場では、DXによる業務効率化の取り組みが盛んであるが、主たる目的は収益拡大や成長分野への人材投入でなく、退職や人材獲得の困難化を踏まえた業務体制維持・存続となっている。

投資の呼び込みは重要だが、技術人材の決定的な不足は最優先で対応すべき業界全体の存亡に関わる課題だ。(K)

欧州でバイオメタン利用国 熱分野の現実解として期待


【ワールドワイド/資源】

1月に国際エネルギー機関(IEA)が発表した「Gas Market Report Q1-2025」によると、昨年の世界のバイオメタン生産量は、前年から約20%増加し、100億㎥を超えた。増加した分の85%以上は米国と欧州が占めており、増加率はここ数年で大きく伸びている。

少し用語が紛らわしいため説明しておくと、食品や農業残渣、有機廃棄物などを微生物の力で分解し発生した可燃性のガスがバイオガス、そこから天然ガスと同等の成分となるようひと手間かけて精製したものがバイオメタンだ。バイオガスの段階でもCHPに投入し電力利用することは容易にできるが、近年、欧米ではバイオメタンにアップグレード、導管注入するなど天然ガス代替として利用することが主流となっている。

これは欧州では、ウクライナ問題でロシア産天然ガスの輸入が大幅に減り、その代替エネルギーとしてバイオメタンが注目されたことがあるが、そもそも電化の難しい熱エネルギーや輸送用燃料といった分野の脱炭素化にバイオメタンを積極的に利用していくよう、各国が取り組みを加速させたことがその理由である。水素社会実現はまだまだハードルが高いと認識されるようになり、今できる現実解であるバイオメタンへの期待が高まった。

バイオメタンの先進国としてはデンマークがあげられる。酪農を中心とした農業国でバイオマス資源が豊富にあり、欧州でもいち早くバイオメタン普及に取り組んだ結果、今では国内ガスの約4割がバイオメタンという。フランスでも、バイオメタンの支援・制度を充実させた2020年以降、導入量がそれまでの4倍以上に急増した。米国ではEPA(環境保護庁)の再生可能燃料基準でバイオメタン導入が義務付けられ、さらに州単位でも輸送用燃料の炭素強度削減などの施策が実行されたことで、昨年のバイオメタン生産量は前年から25%増加したという。他にも中国やインド、ブラジルといった国々でバイオメタン導入に向けた施策を提示、生産量増加の兆しが見えている。

それでは日本はどうなのかと見ると、今のところ日本のバイオメタン比率はほぼゼロである。人間が活動する限り廃棄物は無くならず、一定の資源量は確保できるはずである。脱炭素化に貢献できる、しかも国産エネルギーであるバイオメタン、今後はもっと注目し導入を検討しても良いのではないだろうか。

(篠澤康彦/エネルギー・金属鉱物資源機構調査部)

【コラム/5月16日】第7次エネルギー基本計画


矢島正之/電力中央研究所名誉シニアアドバイザー

今年の2月18日に、第7次エネルギー基本計画(以下、第7次エネ基)が閣議決定されるとともに、関連資料として、2040年度のエネルギー需給見通しが提示された。第7次エネ基では、東日本大震災後に策定された第4次エネ基から続いていた「原発依存度の可能な限り低減」の文言が削除された。1昨年に閣議決定されたGX基本方針では、廃炉を決定した原子力の敷地内で次世代革新炉に建て替える方針を示していたが、建て替え対象を「廃炉を決定した原子力を有する事業者の原子力サイト内」と改められた。また、新規立地での新増設は、「その他の開発などは各地域における再稼働状況や理解確保の進展など今後の状況を踏まえて検討していく」ことになった。

また、電源構成に関しては、再生可能エネルギーは4~5割程度と最も比率が高い。ただし、第6次エネ基に記された「再エネ最優先の原則」は削除されている。近年の再生可能エネルギーの年間導入量は、ピーク時の半減と低迷しているため、現状を打開する次世代型太陽電池として、「ペロブスカイト太陽電池」の実用化を急ぎ、2040年までに約2,000万KW普及させる目標を掲げている。第7次エネ基では、脱炭素効果の高い再生可能エネルギーと原子力を最大限活用することが重要としているものの、原子力は2割程度と第6次エネ基と同程度である。低炭素火力については、3~4割程度とし、燃料種ごとに分けなかった。水素やアンモニア、CCUSの普及を見通すことが難しいためである。

2040年度の電源構成を実現していくためには、特に長期の事業期間を見込む大規模な投資に関しては、容量市場の一部として創設された長期脱炭素電源オークションの役割が大きい。しかし、現行の長期脱炭素電源オークションの枠組みで、大規模脱炭素電源は確実に開発されるだろうか。第7次エネ基では、脱炭素電源への投資回収の予見性を高めるため、事業期間中の市場環境の変化に伴う収入や費用の変動に対応できる制度措置や市場環境を整備するとしている。

しかし、金利上昇、インフレ、為替変動などの投資判断時点で予見できないコスト変動要因のすべてを考慮した事後的調整を認めることは現実にはありえないだろう(実際、総括原価方式や規制資産ベース〔RAB〕モデルは想定されていないようだ)。そのような不確実性が存在する場合、応札価格を適切に設定することは、事業者にとって難しく、投資に慎重になる事業者も少なからず存在するだろう。このことは、とくに建設から廃止措置に至るまで総事業期間が100年程度となる原子力発電の建設に当てはまる。

第7次エネ基では、原子力は再生可能エネルギーとともに最重要電源として位置づけられている。原子力に関しては、再稼働を含め既存炉を最大活用する方針だが、ほぼすべての炉が稼働しなければ2040年度における比率を2割程度に引き上げることは困難である。しかし、それは現実的ではないため、再稼働に加えて新設やリプレースが必要となるものの、それを実現するのは容易ではない。これに対して、再生可能エネルギーは立地制約の影響が指摘されているものの、実際にはさらなる拡大の可能性を十分に秘めている。

原子力発電の投資環境の不透明性を考えると、可能な限り、再生可能エネルギーの拡大に努めるべきだろう。再生可能エネルギーの中でも、パブリックアクセプタンス上の問題が少ない洋上風力と需要家側に設置される太陽光発電には大きな期待が寄せられるが、とくに太陽光発電は、2040年度において再生可能エネルギー発電の5割を超え、多くの期待を背負っている。

需要側に設置される再生可能エネルギー電源に共通するのは、発電設備と消費者が近接していることである。需要家側設置の再生可能エネルギー電源は、この近接性ゆえにつぎのような経済的メリットを有している。まず、国内外で、消費地に設置される再生可能エネルギー電源の均等化発電コストが買電料金を下回るようになってきており、同電源よる自己消費が経済的になってきていることが挙げられる。また、多くの場合、再生可能エネルギー電源の運営者は、その発電電力の買い手と非常に密接な関係にあるか、同じ法人・自然人である。

後者の場合、電力の供給者が消費者でもあり、一般的な市場とは大きく異なる非常に安定した「ビジネス関係」を築くことができる。このことは、消費者の立場からは、必ずしも低いコストではないかもしれないが、安定的で予測可能な電力価格で供給を受けることが可能であることを意味している。同時に、供給者が消費者であることで、供給者の立場からは、投資の安全性が確保される。これは、電力取引所を介して販売する集中型電源では不可能である。再生可能エネルギー電源の電力供給者は、その所有する発電所が償却されるまで消費者と事実上の売電契約を結んでいるとみなされ、他の電力供給者との競争の中で、「顧客」を失い、新しい「顧客」を探す必要はない。

第7次エネ基では、再生可能エネルギーの発電比率は、2022年度の21.8%から、2040年度には4~5割程度と大幅に増大する。2040年度における原子力発電の比率を2割程度とすることは、実現が困難となる可能性が高い状況において、着実な脱炭素化を実現するためには、再生可能エネルギーの潜在能力を最大限に活かせる制度的枠組みの整備が求められる。現在、大部分の再生可能エネルギー電源は、FITやFIPが適用されているが、補助金終了後はリパワリングなどで地域共生型再生可能エネルギービジネスに代表される様々なビジネスを模索する事業者が増えてくると考えられる。

そのため、長期脱炭素電源オークションにおいても、再生可能エネルギー電源の最低入札容量の引下げやアグリゲーションの要件緩和などを行い、同電源の可能性を最大限引き出すべきだろう。


【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授、東北電力経営アドバイザーなどを歴任。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。