「引き潮合戦」の様相呈す洋上風力 コスト高に加え脱炭素の潮目変わる


脱炭素化の成否を握る洋上風力発電事業の大型案件に暗雲が立ち込めている。

522億円の減損を出した三菱商事以外の事業関係者も続々と難しさを口にし始めた。

「ゼロベースで計画を見直す」。三菱商事の中西勝也社長は2月6日、急遽出席した決算会見で、厳しい表情を浮かべながらプロジェクトの巨額損失について説明した。同社は入札した国内3海域の洋上風力発電プロジェクトで522億円の減損を計上した。三菱商事を中心とする企業連合は2021年12月、政府が公募した事業の第1ラウンドで秋田県、千葉県の計3海域の事業を落札して総なめした。

入札で三菱商事が出した売電価格は、1kW時当たり11・99〜16・49円。入札上限の29円を何とか下回り、20円台をギリギリ割らない程度で応札していた事業者からは、驚嘆の声が漏れた。あまりの事態に経済産業省が入札条件の変更をするなど、業界では「商事ショック」とささやかれていた。

洋上風力に逆風が吹き荒れるか


インフレ、円安…… 負のループに陥る

中西社長は巨額減損の理由を「世界的なインフレの加速、円安など地政学リスクによる事業環境の変化だ」と説明した。確かに入札時にはロシアによるウクライナ侵攻は想定外だった。長引く戦火も予測不能だった。そしてインフレと資材高騰と次から次へと負のループに陥った。

特に打撃を与えたのは資材の高騰だ。鉄鋼価格は入札時と比べ約2倍、風車の調達価格も約1・5倍に膨れ上がっている。

風力はほぼ全て海外産に依存しており、長引く円安も追い打ちをかけた。他の大型プロジェクトを入札したある事業者は「三菱商事の案件の大きさから言って522億円の減損ではすまないはずだ。少なくとも1000億規模の損失になるだろう」と語る。「撤退」という言葉もよぎるが、中西社長は「予断を許さず総合的に判断する」と述べるにとどまった。というより自身の責任問題にも発展しかねない事態だけに、そう答えるのがやっとといったところだ。

現実問題、三菱商事の売電はFIT(固定価格買い取り)制度だ。状況が変わったからといって買い取り価格の値上げはできない。資材の他に人手不足による人件費の高騰、沖合で作業をするために必要な専用船のSEP船の不足によるリース料の高止まりといった要素も加わり、「撤退の条件がむしろそろっている」(エネルギー関係者)。

もっとも鋼材価格の上昇など一連の採算性悪化は三菱商事のプロジェクトだけではない。三井物産や住友商事、東北電力などが落札した第2ラウンド、JERAや丸紅が担う第3ラウンドの事業者も同じ悩みを抱えている。ある落札事業者は「三菱商事の動きを注視している。そもそも陸上風力よりも高くつく洋上風力は採算性確保が難しい事業だ。そこへきてのコスト上昇は追い打ちだ」と話す。

「暫定税率廃止」が抱える問題点 恩恵限定で脱炭素に逆行も


ガソリン税に上乗せされている暫定税率の早期廃止を巡り、与野党の議論が波乱含みの様相を呈す中、脱炭素政策への影響を懸念する声がエネルギー・環境関係者の間で高まっている。3月3日、立憲民主、国民民主の2党が今年4月にガソリン税の暫定税率を廃止する法案を提出した。当初、日本維新の会もこれに加わるとみられていたが、「与党、政府を巻き込まないと実現できない」など準備不足を理由に3党共同提出には応じず、来年4月に暫定税率を廃止する法案を独自に提出。自民、公明両党とも協議体を設置して議論を深めていく構えだ。

暫定税率廃止法案を提出した立民だが……(左は重徳和彦政調会長、右は国民民主の浜口誠政調会長)
提供:朝日新聞社

こうした中、石破茂首相は暫定税率廃止について国民民主と合意したものの、年間約1・5兆円の税収減を補う財源確保が実施上の条件との考えを強調している。3日の衆院予算委員会では、「代替財源を何に求めるのか、地方の減収分をどう手当てをするのか結論が出ないまま、いつ廃止するかというのは申し上げられない」と答弁。12日の参院本会議でも「今年4月の廃止は困難」と述べた。

その一方、石破首相が廃止を決める時期について今年12月をめどとする考えに言及したことから、関係者の間では来年4月の廃止が有力視されている。ただ自民の松山政司参院幹事長や維新の岩谷良平幹事長らをはじめ、自公維3党内から国民生活対策として早期廃止を望む声が聞こえているのも事実だ。政治とカネの問題を背景に、今夏の参院選とほぼ同時期の衆院選実施説も永田町でささやかれる中、暫定税率問題は政局も絡んだ展開となる可能性がある。


CP政策との矛盾 立民はなぜ廃止賛成?

しかし、だ。そもそも暫定税率廃止でガソリン代を安くする政策は、ガソリン車を保有しない国民にとっては直接的な恩恵がなく費用対効果が低いのに加え、化石燃料価格を引き上げることで消費を抑制しCO2排出量の削減を図る「カーボンプライシング(CP)」政策の目的に逆行するという問題がある。大手エネ会社幹部が言う。

「燃料油や電気・ガスの価格高騰対策として巨額補助金を投入した時から、CPなど脱炭素政策との矛盾は指摘されていた。暫定税率廃止も、ガソリン代引き下げが目的なら同様の矛盾を抱えることに。マイカー離れが加速する中で恩恵が限定される意味でも筋が良くない。その意味で、脱炭素の必要性を声高に訴える立民までが暫定税率廃止に賛成なのはおかしい。選挙対策のためと言われても仕方ないだろう。代替策としてEVも対象にした走行課税を導入するなどの施策を提起するのであれば話は別だが、そうした議論は現状で活発化しそうにない」

業界関係者の間では、「石破首相の慎重姿勢は理解できる」(新電力幹部)と見る向きも。代替財源もさることながら、脱炭素との整合性について正面から議論することが不可欠だ。

【電力中央研究所 平岩理事長】持続可能な未来に向け 研究成果を創出し社会実装を目指す


第7次エネ基策定を受けて電気事業への関心が高まる中、「サステナブルなエネルギーで支える安全で豊かな社会」の実現に向けたさまざまな研究開発を進めている。

外部機関との連携や分かりやすい情報発信にも力を入れ、電気事業の発展に貢献する。

【インタビュー:平岩芳朗/電力中央研究所理事長】

ひらいわ・よしろう 1984年東京大学大学院工学系研究科電気工学専門課程修了、中部電力入社。取締役専務執行役員、取締役副社長執行役員、送配電網協議会理事・事務局長などを経て2023年6月から現職。

志賀 第7次エネルギー基本計画が閣議決定されました。全体的な評価を教えてください。

平岩 国際情勢の不安定化を背景にエネルギー安全保障の重要性が高まる一方で、データセンターなどに伴う電力需要増加が見込まれています。こうした国内外の情勢変化を踏まえ、カーボンニュートラル(CN)に向けた野心的目標を掲げつつも、安定供給を第一とし、現実的なトランジション(移行)の重要性を示すなど、現実的な計画であると評価しています。

志賀 2040年度のエネルギー需給見通しでは複数シナリオが提示されました。

平岩 革新的技術の不透明性を念頭にリスクケースへの備えの必要性を示したことは、安定供給の重要性を強く認識している表れでしょう。GX(グリーントランスフォーメーション)2040ビジョンとの一体性が強調された点も重要です。DX(デジタルトランスフォーメーション)、GXの進展による経済成長、産業競争力強化の実現とCNに向けたエネルギー政策は密接に関係します。


投資への手当て必要 再エネ運用の合理化を

志賀 電源構成の点ではどうですか。

平岩 エネルギー安全保障に寄与する脱炭素電源として、再生可能エネルギーと原子力発電を最大限活用することを明記し、二項対立から脱却した点と、トランジション手段としてのLNG火力の重要性を化石燃料確保の必要性と合わせて強調した点は、ベストミックスの重要性を再認識したものとして意義があると思います。

志賀 再エネの主力電源化に向けて、統合コストという概念も盛り込まれましたね。

平岩 総合資源エネルギー調査会(経済産業相の諮問機関)発電コスト検証ワーキンググループの電源コスト試算を踏まえ、調整力確保など変動性再エネを電力システムに受け入れるために必要な統合コストの一部を、エネルギーミックスの検討において算定し評価している点は、国民負担を極力抑え、合理的な供給システムの構築を目指しているものと評価しています。

志賀 洋上風力はCN実現に向けた切り札とされていますが、開発コストの上昇などで先行きは不透明です。

平岩 物価上昇と日本近海での施工環境などから、開発コストと建設の動向を注視しています。再エネが集積する地域にデータセンターなどの需要を立地誘導することで、系統設備の稼働率を高め規模を適正化するという考えが現実的になる中で、電力広域的運営推進機関で広域連系系統のマスタープラン見直しの要否が検討されていることは、重要な動きととらえています。

志賀 エネ基ではS+3E(安全性、安定供給、経済効率性、環境適合性)の重要性が再確認されていますが、このために電力システム全体で必要なことは何ですか。

平岩 大量の変動性再エネを電力システムに受け入れ、安定運用するためには、電源や需要も含めた電力システム全体を俯瞰した合理的かつ計画的なネットワークの設備形成と運用技術、および制度設計が肝要です。

利便性とリスクは隣り合わせ 脆弱性にどう向き合うか


【今そこにある危機】本間輝彰/日本スマートフォンセキュリティ協会副会長・理事

スマートフォンから遠隔操作が可能となるスマート家電。

便利だが停電や通信障害が発生すれば、日常生活に支障をきたす。

インターネットやワイヤレス通信技術の進化により、IoT(Internet of Things)によるさまざまなサービスが急速に広がっている。

その中でスマート家電は、エアコン、照明、カメラ、電子ロックなどの普及で、音声アシスタントやスマートフォンからの遠隔操作が可能となり、生活様式やビジネスモデルに革命をもたらしている。これらの家電は、使用状況をリアルタイムで収集でき、クラウドで分析して自動で監視・制御を行い、効率的な利用法を提案、異常検知時の自動通知も可能だ。さらにスマートハウスの概念により、これらのスマート家電を一元管理することで利便性は一段と向上する。例えば、居室に入ると自動で照明が点灯し、温度が調整されるなど、ユーザーに合わせた環境が提供されるのだ。

だが、こうした便利さはセキュリティ上の危険と隣り合わせだ。サイバー攻撃者は、インターネットに接続されたスマート家電を攻撃対象にしている。これまでに学校防犯システムや保育所見守りカメラで、十分なセキュリティ対策が行われていないことによりマルウエア(悪意のあるソフトウエア)に感染し、どちらも第三者から映像が閲覧できる状態になっていた事例がある。さらには、保育所ではインターネットが使えない状態にもなっていた。

スマート化の危険性にも目を向けたい

このようにIoTはセキュリティの脆弱性やプライバシー侵害、データの不正利用が懸念され、特にスマートフォンの場合は攻撃されやすく、気づきにくいという弱点がある。過去にはスマートロックの脆弱性により、Wi―Fiに接続するための暗号化キーが解読されそうになった事例があった。万が一、Wi―Fiに接続されると、接続されているデバイスへの不正アクセスや乗っ取り、プライバシーの侵害のリスクが発生する。被害が拡大する前に適切な対策が必要だ。 こうした背景の中、国内では経済産業省が公表した「IoT製品に対するセキュリティ適合性評価制度構築方針」に基づき、求められるセキュリティ水準に応じて、レベル1~4までの適合基準を定める「セキュリティ要件適合評価及びラベリング制度(JC―STAR)」が3月に始まる予定だ。適合が認められた製品には、二次元バーコード付きの適合ラベルを付与することで、製品詳細や適合評価、セキュリティ情報・問い合わせ先などを調達者・消費者が簡単に取得できる。


多要素認証の重要性 利用者への働きかけを強化

リスクを最小限に抑えるには、製品提供者とユーザーが共に対策を行うことが肝要だ。まず製品提供者は何をすべきか。

攻撃の多くは脆弱性を突いた不正アクセスを起点としているため、脆弱性診断や侵入テストを行い、未使用なポート(情報の送受信口)の遮断が求められる。さらには、インターネット上の多くのサービスではパスワード漏えいなどによる不正アクセスも多いのが実態である。その対策として、初回利用時にパスワード変更、多要素認証や生体認証を導入することで、不正アクセスのリスクを大幅に削減可能となる。

また盗聴や漏えい対策として通信時や保存データの暗号化を行うことで、万が一のデータ流出時にも影響を最小限に抑えられる。 スマート家電を提供するアプリについても、脆弱性診断の実施、利用データの透明性を確保するためのプライバシーポリシーの公開など、日本スマートフォンセキュリティ協会が発行している「スマートフォンアプリケーション開発者の実施規範」が推奨する対策などが求められる。

利用者に正しく利用してもらうために、スマートフォンのアプリなどで適切なアドバイスを能動的に行う仕組みも有効となる。また製品やシステムが適切に設計され、正しく実装されていることを評価するための国際標準規格コモンクライテリア認証(CC認証)やJC―STARの取得なども、製品の信頼度向上として推奨される。

スマート家電を提供するアプリについても、脆弱性診断の実施、利用データの透明性を確保するためのプライバシーポリシーの公開など、日本スマートフォンセキュリティ協会が発行している「スマートフォンアプリケーション開発者の実施規範」が推奨する対策などが求められる。利用者に正しく利用してもらうために、スマートフォンのアプリなどで適切なアドバイスを能動的に行う仕組みも有効となる。また製品やシステムが適切に設計され、正しく実装されていることを評価するための国際標準規格コモンクライテリア認証(CC認証)やJC―STARの取得なども、製品の信頼度向上として推奨される。

導入コスト削減し社会実装へ 高性能掘削機・探査機を駆使


【技術革新の扉】次世代型地熱発電技術/GeoDreams

特定地域への依存や環境負荷の高さなどの課題を抱える次世代地熱発電。

GeoDreamsはこれらの課題に対処し、地熱の可能性を開こうとしている。

豊富な地熱資源を保有するも、そのポテンシャルを生かしきれていないわが国の地熱業界にブレイクスルーを起こせないか―。そんな思いから、最先端の地下資源開発技術を駆使して地熱業界に新風を巻き起こしているのが、2022年に創業したスタートアップ企業のGeoDreamsだ。同社は、「次世代型地熱発電」として注目をされる「クローズドループシステム(AGS)」の実用化に向け、技術の導入・開発を着々と進めている。

ハイブリッド掘削装置「G—Pulse」


従来型導入拡大に限界 注目の熱抽出技術とは

従来の地熱発電は、マグマの熱により発生した熱水や蒸気のたまり場である地下貯留層の存在を前提としているため、導入可能なエリアは一部の火山地帯などに限定されている。また、貯留層の蒸気を利用することから、温泉設備などへの影響を懸念する地域関係者の理解を得にくく、豊富な資源量に見合った発電設備容量を確保できていないのが実情だ。

こうした問題の解決には、地下貯留層の蒸気を必要としない熱抽出技術の確立が求められる。その中で、次世代型地熱発電として関心が高まっているのがAGSと強化地熱システム(EGS)。どちらも、地下貯留槽の蒸気を使わずに熱抽出を可能とする技術だ。

ただ、AGSは地下深部に熱交換器のように穴を掘り、その中で流体を循環させて熱を抽出するのに対し、EGSは地下深部に人工貯留層を作り、その中で注水による熱抽出を行う。このため、AGSは地下深部に影響を及ぼさないが、EGSは人工貯留層の形成時に岩盤を水圧で粉砕するため、誘致地震のリスクを抱える―という点で両者には決定的な違いがある。

実際に17年11月に韓国のポハンで行われたEGSの実証実験ではマグニチュード5・4の誘発地震が発生し、80人もの負傷者を出す惨事となった。同社がAGSの実用化に焦点を絞った背景には、そのようなリスクを回避する狙いがある。 AGSにも課題はある。地下深部に長距離の掘削が必要となるため、膨大なコストがネックとなり実用化が進んでいない。このような状況を打破すべく、同社が導入を計画しているのが「G―Pulse(ジーパルス)」だ。


高出力掘削でコスト抑制 独自の着眼点で新たな価値

ジーパルスは、既存のダイヤモンド掘削ピット(PDC)と高出力パルスを組み合わせたハイブリッド掘削装置だ。高パルスによる放電を行い、掘削前に岩を破砕することで掘削速度を上げるとともに、PDC消耗の抑制および掘削作業自体の効率化を実現する。ジーパルスは、ハイパルスパワー技術を有する米I―Pulse(アイパルス)とグループ企業が共同出資して設立したG―Pulse社が開発している技術で、同社の試算では、ジーパルスの活用で1㎞当たりの掘削コストが3分の1以下に抑えられる。

高精能探査機「Typhoon」

加えて、アイパルスから高性能探査機「Typhoon」を導入。地下深部への放電と停止を繰り返すことで、電気抵抗値を算出する。従来の探査機では、この放電・停止の切り替えに誤差が生じるため、探査結果の精度に課題があった。同探査機は高出力・高品質下で電流信号の調整を行うことで、この課題に対処。探査深度は従来の5倍、誤差は従来型の30分の1以下となる。

同社取締副社長兼COO(最高執行責任者)の服部浩久氏は「埋蔵鉱床の探査用に開発された同技術を、地熱に活用できたことが大きい。このTyphoonに、ジーパルスが加わることで、次世代地熱のゲームチェンジャーになる可能性が見えてきた。世界の地熱革命を日本がリードして進めていけるはず」と語る。

同社はこれまで、AGSの早期実用化に向け、ジーパルスとTyphoon双方の導入・改良を着々と進めてきた。現在は、ジーパルスの27年の商用化に向けてG―Pulse社は開発を進めており、日本では26年に実証実験を行う予定だ。地熱業界に技術イノベーションを起こし、日本をエネルギー大国にする―という壮大なビジョンを掲げる同社は、その実現に着実に歩を進めていく。

【戸田 衛 六ヶ所村長】再処理工場は地域振興の根幹


とだ・まもる 1947年生まれ。青森県六ヶ所村出身。65年青森県立野辺地高校卒業後、六ヶ所村役場入所。財政、企画、農林水産、総務の各課長を経て、2007年副村長に就任。14年の六ヶ所村長選で初当選。現在3期目。

高校卒業後に六ヶ所村役場に就職して以来、59年にわたり役所一筋で働いてきた。

国策に翻ろうされてきた村の歩みを振り返りながらも、将来を見据えた政策に注力する。

青森県六ヶ所村出身。4人兄弟の長男として生まれた。高校は親戚の家に下宿しながら、隣接する野辺地町の野辺地高校に通った。当時は村全体が貧しく、中学校を卒業したら東京に働きに出るのが当たり前だった。大学に進学したかったが、家庭が貧しく断念した。

高校卒業後は六ヶ所村役場に就職。「村を出たい気持ちはあったが、長男としての宿命だったのかな」と述懐する。以来59年間、役場一筋の人生を送ってきた。

今でも「青森県で1番貧しかったのは六ヶ所村だった」と入庁当時を思い出しながら語る。貧しいままの村でいいのだろうか、という思いが役所人生の原点だ。特に交通の不便さには苦しんだ。中高生だった1960年代、野辺地町に行くには朝と夜のバスしかなかった。「村民が時間を有効活用できるように、思い立った時にすぐどこかに行けるような環境を整えたいと思った」

数年経つと、国が六ヶ所村を中心に石油化学コンビナートや製鉄所などを整備する「むつ小川原開発計画」を立ち上げた。反対を表明した当時の村長と賛成する村議の間でリコール合戦に発展するなど、村は割れた。結果的に石油備蓄基地は完成したが、73年の第一次オイルショックの影響で計画はとん挫し、工業用地の多くが売れ残った。「もうあれから45年か……。コンビナート開発のために、村の中心部の土地を売った。当時は〝バラ色の開発〟と言われたものだ」

オイルショック後には、石油に代わるエネルギーの一つとして原子力発電の開発・導入が加速した。そこで六ヶ所村にコンビナートの代わりにやってきたのが、核燃料サイクルの関連施設だった。「むつ小川原開発計画がとん挫して、これからどうしようか考えていた。そんな中で、あれよあれよとサイクル計画が進んでいった。でも村民が建設を認めるか悩んだのは確かだ」

日本原燃の関連施設でしゅん工できずにいるのが、使用済み燃料の再処理工場と酸化化合物(MOX)燃料工場だ。どちらも2011年の東日本大震災前にはしゅん工寸前までこぎ着けたが、震災後は原子力規制委員会の審査が長期化している。

再処理工場のしゅん工は、村に固定資産税などの税収増をもたらす地域振興の根幹だ。

繰り返されるしゅん工延期に、村の計画には狂いが生じている。「施設を受け入れた上で地域振興を進めるというのが村のスタンス。だからサイクル事業を終わらせるという選択肢はない。でも、どうして国の事業はいつも上手くいかないんだと落胆することは多い」と複雑な胸の内を明かす。一方で将来を見据え、「土地を提供した村民の子どもや孫は、今も第一次産業に従事している人が多い。固定資産税を使い、農業のスマート化など彼らの力になる政策を実行したい」と意気込む。

支援体制の現状に問題あり!? 国産化失敗の反省生かせるか


【多事争論】話題:ペロブスカイトの社会実装

政府の補助金制度がスタートし、ペロブスカイト導入拡大への機運が高まっている。

技術開発の活性化に向け、求められる支援体制の在り方は。


〈現状は萌芽期、長い目で開発を 「分散型」支援で人材育成へ〉

視点A:池上和志/桐蔭横浜大学大学院工学研究科長

ペロブスカイト太陽電池を巡る動きが加速している。昨年11月、経済産業省から2040年までに20‌GWのペロブスカイト太陽電池導入を目指す方針が発表された。この方針を受け、国内では日本政策投資銀行も出資した新会社の設立および製造拠点の設置が発表された。東京都や大阪府を中心として大規模な実証試験も進められ、実用化が近づいているかのように見える。

かつて日本国内では、大手電機メーカーが競い合い、太陽電池の製造・販売を行い、世界市場でのシェアを席巻していた。しかし、ペロブスカイト太陽電池の社会実装において、日本のメーカーが世界をリードするためには、最終的にシェアを奪われたシリコン太陽電池の轍を踏むことは避けたいところである。すでに中国では、ガラス型ペロブスカイト太陽電池の開発が進んでおり、日本への輸入も現実味を帯びてきている。この状況の中で、日本国内の材料メーカーが、国内製造を目指すのではなく、中国メーカーへの輸出を模索している動きがあることも否定できない。

ペロブスカイト太陽電池の導入拡大に向けた次世代型太陽電池および産業競争力強化を目指す官民協議会の開催は記憶に新しい。この協議会には多くの地方自治体が参加しており、各自治体が脱炭素戦略やカーボンニュートラル戦略の一環として、次世代型太陽電池をいち早く導入したいという意向がみて取れる。ペロブスカイト太陽電池の早期社会実装に向けては、そのポテンシャルを実証することが必要である。その一方で、早期社会実装への支援が設置場所の提供に偏っているという懸念も存在する。


曲がる太陽電池が進化 統合型の研究開発支援に見直しを

現状、ペロブスカイト太陽電池は依然として研究開発の段階にあり、製品としては未成熟である。ペロブスカイト太陽電池は複数の多層構造から成り、その組み合わせによっても出力特性が異なる。一概に「ペロブスカイト太陽電池」といっても、それは一種類の太陽電池を示すものではない。シリコン太陽電

池とペロブスカイト太陽電池の大きな違いは何だろうか。語弊を恐れずに述べるならば、シリコン太陽電池の製造は、その他の半導体産業に比べて生産時間が短く、単モジュール型の製造工程により、ターンキービジネスが成り立つ環境が整っている。一方で、ペロブスカイト太陽電池は、その構造から製造プロセスに至るまで、シリコン太陽電池とは大きく異なり、「進化する」太陽電池である。ペロブスカイト太陽電池の「ペロブスカイト」は光吸収層を担っているが、その製造には透明導電基板、電子輸送材料、正孔輸送材料、電極材料に至るまで、さまざまな材料の組み合わせが検討されている。そして、肝心のペロブスカイト材料においても、その組成や成膜方法には無数の組み合わせが存在する。

製品開発のS字カーブ理論に照らすならば、ペロブスカイト太陽電池の開発は依然として萌芽期にあると言える。政府などの大型支援は、技術の醸成期間を短縮し、ある意味でターンキーによって製品レベルを急速に高める支援に向かっているようにもみえる。しかし、果たしてペロブスカイト太陽電池においてそのモデルが当てはまるのだろうか。

日本国内では、ガラス型ペロブスカイト太陽電池製造で先行している中国からの技術導入により新規参入に関するプレスリリースもある。まさにペロブスカイト太陽電池のターンキーモデル化ともいえる。しかし、ペロブスカイト太陽電池は、使用する材料も、製造方法もまだまだ進化の余地を残す。ペロブスカイト太陽電池の特徴の一つは軽量フレキシブル化であるが、ここには、素材開発を得意とする日本の勝ち筋が隠れている。この素材開発を含む研究開発の裾野拡大が、ペロブスカイト太陽電池の今後の普及のカギとなる。

国においても、GX政策により再エネへの積極的な投資策が発表されている。これらの動きの中では、高い経済効果が見込まれる大型投資に注目が集まるが、ペロブスカイト太陽電池の長期的かつ持続的な成長に結びつくかどうかの懸念もぬぐえない。ペロブスカイト太陽電池の研究開発には、まだまだ掘り起こしの必要な技術が眠っている。その点では、各都道府県レベルでも進んでいる中小企業の研究開発支援にみられるように、研究開発人材の育成・サポート事業が、ペロブスカイト太陽電池のさらなる発展のカギになると思われる。ペロブスカイト太陽電池の社会実装を進めるためには、統合型の研究開発支援から、人材育成を重視した分散型の研究開発支援への拡充も必要なのではないだろうか。

いけがみ・まさし 2005年にペクセル・テクノロジーズに入社。現在は桐蔭横浜大学大学院工学研究科の研究科長。また、ペクセル・テクノロジーズでは、2009年から取締役役も兼務。ペロブスカイト太陽電池の研究においては、成膜装置や測定装置の開発にも関わる。

【コラム/3月25日】「東日本大震災・福島原発事故14年を考える~最高裁判決と福島再出発への願い」


飯倉 穣/エコノミスト

1,東日本大震災

東日本大震災・福島原発事故から14年となる。今年も3月11日午後2時46分追悼の祈りがあった。岩手や宮城の三陸沿岸の市町村の人的・物的被害は甚大だった。人の死、大事な住宅やコミュニテイの喪失等があった。震災前から大きく変わった地域社会の中で生活再建する被災者の複雑な思いが伝わる。そして直近の大船渡山林火災である。福島県浜通りは、津波に加え、福島第一原発事故があった。強制的な避難も要請され苦難が継続した。

復興の進捗も気に掛る。被災地の多くが、過疎地だったことも、人口減に拍車を掛けている。とりわけ福島第一原発周辺地域は、変容した。最近まで帰還困難となっていて、復興がほぼ終了したといっても、賑わいが戻りそうにない。その様相を伝える報道があった。「福島 進まぬ帰還 居住人口当時の17% 東日本大震災14年」福島県内7町村(毎日25年3月11日)。避難が長引いた地域ほど帰還の動きは鈍いことや原発避難見直しの再考を書いた。直前に長い公判を経た東電福島原発事故刑事裁判最高裁判決もあった。

福島復興の状況を見ながら、改めて福島第一原発事故の対応と現在を考える。


2,福島復興の状況

福島県「ふくしまの現在~復興・再生の歩み第15版」(新生ふくしま復興推進本部24年12月)は、復興の現況を8項目(産業は細目6)で整理している。(以下カッコ内は現状)。 

現況は、①除染(空間線量低下)、②避難指示区域の縮小、③県民健康(調査継続)、④帰還者等生活環境整備進展、⑤公共インフラ99%完了、⑥産業は、・農林水産物輸入規制国減少(残6か国)、・観光県産品は回復基調、・企業立地(出荷額1/4水準)、・福島イノベーションコースト構想具体化中、・福島国際研究教育機構設立、・再エネ拡大過程(県内エネ需要比再エネ55%)で、⑦廃炉・ALPS処理水(取組中)、⑧風評・風化対策努力継続である。

復興が進んでいる点は、空間線量率低下、観光誘客促進、道路等交通網整備、福島イノベーションコースト構想、県産物の消費拡大・販路開拓、災害記憶の継承等である。他方未達成な継続課題は、廃炉推進、ALPS処理水処分対応、復興途上の26千人の避難者の存在、中間貯蔵施設の除去土壌県外処分、風評対策、農林水産物価格の全国との価格差である。つまり残された課題は、原子力発電所関係問題に絞られてきている。

多くの被災者は、10年ひと昔であろうか。現国力の下で、全体の復興関連予算支出40.9兆円(12年間うち復興財源対象経費32兆円、含む福島)で漸くここまで到達した(他に原発事故処理費用計23.4兆円:廃炉汚染水処理8兆円、賠償9.2兆円、除染4兆円、中間貯蔵2.2兆円:23年末)。


3,人口と経済は

浜通りの人口(2市7町3村)は、震災前195千人(11年3月)から現在110千人(24年1月)で、△85千人減(△ 44%減)である。福島原発立地近接町村(第一:大熊、双葉、第二楢葉、富岡。浪江、葛尾)は、67千人(11年)から現在7千人(24年1月)で、△30千人減(△90%減)だった(この時点で大熊、双葉、浪江は未帰還)。

経済の動きをみれば、福島県県内総生産は、震災で1割程度落ち込み、現在約8兆円(22年度)であり、震災前(10年度)の5%上方の水準である。原発のあった相双地域の市町村内総生産計は、震災で生産が半減した後、現在8400億円程度(21年度)で震災前の9割程度の水準にある。火力発電の再稼働や再エネ等の推進はあったが、地場産業的に定着していた福島原発の停止・廃止が大きく影響している。今後の経済拡大は、一次産業再生、地場産業起こし、サービス産業期待となっているが、公的関与の低下が懸念される。故に働く場との絡みで人口の戻りや流入に難渋が予想される。今後の展開を考えるうえで、地場産業的な福島第二原発や事故を免れた福島第一原発5・6号機の扱いに疑問を抱く。

(注)浜通り2市7町3村(=相双地域):相馬市、南相馬市、広野町、楢葉町、富岡町、川内村、大熊町、双葉町、浪江町、葛尾村、新地町、飯館村)

【政策・制度のそこが知りたい】数々の疑問に専門家が回答(2025年3月号)


統合コストの必要性/間接送電権の導入の狙い

Q 再生可能エネルギーの統合コストという考え方はなぜ大事なのでしょうか?

A 電源別のコストとしては、通常、均等化発電コスト、いわゆるLCOEという指標がこれまでよく用いられてきました。電源単独で評価した時の平均的なkW時単価とも言えます。

他方で、電力は高い品質を維持しつつ消費者に届ける必要があります。そのためには、瞬時瞬時で電力の需給を一致させる、いわゆる同時同量が求められます。しかし、とりわけ太陽光発電や風力発電のような変動性再エネ(VRE)は、天候に依存するため単独では同時同量の実現が事実上できません。

温暖化対策としてVREの比率が高まってくると、需給をバランスさせるために要する費用が大きくなっていきます。そのため、統合コストに対する理解を深めることが重要になってきます。

電力市場取引においても、卸取引市場(kW時)から容量市場(kW)や需給調整市場(⊿kW)へと、異なった価値の取引を行う市場が広がってきています。これも統合コストの重要性が高まってきたことと深く連関しています。

第7次エネルギー基本計画の策定に併せて実施された発電コスト検証においても、統合コストの重要性が指摘され、統合コストを含めた場合の各種電源の発電コストの2040年の推計値が提示されました。例えば事業用太陽光発電は、LCOEでは安価と推計されるものの、統合コストを含めると(ただし極端気象時の再エネ出力の予測誤差、送電網の追加整備費用などは含まず)、VREの設備容量比率が5割程度を超えると、原子力や火力よりも高価になると推計されました。今後、ますます増大する再エネ導入に際し、統合コストも含めたコストの理解が一層重要になっていきます。

回答者:秋元圭吾/地球環境産業技術研究機構主席研究員


Q 間接送電権はなぜ導入され、今見直されようとしているのでしょうか?

A 間接送電権とは、日本卸電力取引所(JEPX)が運営するスポット市場で市場分断が発生した場合にエリア間値差を精算する商品です。2018年4月からJEPXの間接送電権市場において取引が開始されました。従来、事業者は先着優先に基づき連系線容量を確保していたため、市場分断の影響を受けませんでした。しかし、公正な競争環境の整備と広域メリットオーダーの達成を促す観点からスポット市場を介した連系線利用制度である間接オークションに同年10 月以降、切り替えられました。この制度では、スポット市場でエリア間値差が発生する場合、相対取引などのエリア間取引を行う事業者は、事業者間で合意した取引価格で受渡しができなくなるリスクを抱えます。この値差リスクをヘッジするために間接送電権が導入されました。

JEPXが運営する間接送電権市場では、週間24時間の商品が2カ月前に4~5週間分まとめて取引されます。また、値差が発生する蓋然性が高く、ある程度の取引量が見込まれる5連系線6商品が提供されています。一方、間接オークションが導入される以前に、先着優先に基づき連系線容量を確保していた事業者には無償でエリア間値差の損益を調整する経過措置が26年3月まで適用されます。経過措置の終了後、間接送電権市場の取引量は増加すると考えられます。こうした背景を踏まえ、1月24日に「間接送電権の制度・在り方等に関する検討会」が立ち上がり、他の連系線における商品設定、長期の商品設定、直近での取引追加などについて検討される方向です。連系線を利用する事業者のニーズに合った商品が設定されることが期待されます。

回答者:大西健一/日本エネルギー経済研究所電力ユニット電力グループマネージャー

【需要家】太陽光買い取り新制度 初期支援で普及なるか


【業界スクランブル/需要家】

本年度の調達価格等算定委員会で太陽光発電の初期投資回収を早める「初期投資支援スキーム」が公表された。新たな買取制度では、導入後の数年は系統電力単価をやや下回る価格で買い取り、その後は卸電力価格程度で買い取る見込みだ。将来的には支援期間の短縮を進める方針である。この制度改定が家庭部門の需要家や関連事業者に与える影響について考えてみたい。

新築住宅に太陽光発電を設置する場合、設備費用が住宅の建設・購入費用の一部として組み込まれるため、投資回収期間が大きな障壁にはならないとの指摘がある。一方で、ローコスト住宅の購入者は初期費用を抑えたい傾向があるため、新たな買取スキームが一定の訴求力を持つ可能性がある。

事業者目線に立つと、初期費用の負担低減を売りとしているPPA事業にとっては、制度改定は逆風になりそうだ。委員会資料では、支援期間短縮がファイナンス組成に与える影響について指摘されているが、それより新スキームの導入自体が事業への関心を低下させる一因になりかねない。

既築住宅における太陽光発電の導入は、FIT制度開始直後に急速に進んだが、近年は低調と聞いている。今回の改定では、初期のような高額な買取価格とはならず、既築住宅の需要家にどこまで訴求できるかは不透明だ。

買取価格が系統単価を下回る場合、発電分の自家消費が最も経済的な選択肢となる。このような環境下では、買取価格の在り方よりも、自家消費を促進する対策を進める方が、太陽光発電の普及を効果的に後押しする鍵になるのだろうと考えている。(K)

【コラム/3月24日】激動の2024年度から実行の2025年度へ


加藤真一/エネルギーアンドシステムプランニング副社長

2025年も早3カ月が経とうとしており、あっという間に新年度の息吹が聞こえる季節になった。24年度は、エネルギー業界にとって、大きな3つの政策がまとめられるなど、慌ただしさが目立つ1年であったが、25年度は、そうした政策をいかに具体的な施策に落とし込み、実行に移すことができるかといった段階に入ると見られる。

そこで今回は、25年度以降の主な施策について取り上げたい。


GXの政策は産業立地と成長志向型カーボンプライシングから始まる

2月に閣議決定された「GX2040ビジョン 脱炭素成長型経済構造移行推進戦略 改訂」では、エネルギーと産業政策が一体となった政策で、40年度という目標年度を設定し、GX2.0として大きく8つの論点について課題や他対応の方向性が整理された。エネルギーについては、第7次エネルギー基本計画と整合される形で記載がされている。

このビジョンをいかに具体化していくかが25年度からの課題となる。産業界にとっては、新たなビジネス機会にも繋がる一方で、排出量取引制度や化石燃料賦課金といった新たに課される義務への対応が必要なことには留意が必要である。

25年度に、まず取組が行われるのが、GX産業立地にある「ワット・ビット連携」である。この1年ほど、AIの進展などによるデータセンターの新増設に伴い電力需要が伸びる見通しが注目されており、GX2040ビジョンや第7次エネルギー基本計画の中でも、そうした電力需要に必要な脱炭素電源の確保や系統増強が謳われている。現在、日本国内で東京圏と大阪圏に集中しているデータセンターの地方への分散化、通信ネットワークインフラの整備といった課題を解決するために、3月には「ワット・ビット連携官民懇談会」が立ち上がった。デジタル行財政改革会議での石破茂首相からの指示に基づき実行されたもので、今後、6月を目途に、総務省・経済産業省が共同で具体化を進めていくことなる。これにより、現在、計画されている広域系統のマスタープランや局地的大規模需要対策、再エネの導入拡大、原子力発電の既設炉の最大限活用(再稼働、運転延長)および次世代革新炉の建設、LNG火力の活用、内外無差別な卸売など、様々な制度への影響も出てくるだろう。

次に、GX財源を活用した先行投資であるGX経済移行債の償還原資となる成長志向型カーボンプライシング構想のうち、排出量取引制度と化石燃料賦課金の制度設計が具体化することなる。2月には「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律(GX推進法)」の一部を改正する法律案が閣議決定され、開会中の通常国会に提出された。特に、26年度から本格運用される排出量取引制度については、この改正法案で正式に法定化され、CO2の直接排出10万t以上の企業や発電事業者に全量無償割当の形で制度参加が義務化されることとなる。義務対象となる企業にとっては、割当量次第だが、熱や燃料の省エネや非化石燃料あるいは電化への転換により排出量の削減を強いられることとなり、仮に割当量を超えて排出した場合に排出枠やクレジットを調達・償却することになれば、その分、CO2対策コストがかかることとなり、製品への上乗せ(転嫁)が行われることが予想される。CO2削減対策をするにしても設備投資などのコストがかかるため、いずれにしてもコストが転嫁されることになるが、その中でもCO2排出量の低い製品を選ぶといった評価の在り方(GX製品の評価)も確立していく必要があるだろう。

また、排出量取引制度では、発電事業者も対象になることから、特に非効率石炭火力については、容量市場の稼働抑制リクワイアメントを考慮すると、例えば、春や秋の電力需要の軽負荷期には稼働率をかなり減らすといったことに繋がるだろう。その場合、再エネ出力制御量は軽減され、その間の系統電力のCO2排出係数も低減することが予想される。

まずは法案の審議と成立・公布が必須条件となるが、対象となる企業、また間接的に影響を受ける企業も、法律公布後の詳細設計含め、その状況は注視しておく必要があるだろう。


電力システム改革検証を踏まえた制度改正の動きが進むか

15年度に電力広域的運営推進機関が創設されてから今年で10年が経つが、この間、電力小売全面自由化、送配電分野の法的分離といった第5次電力システム改革が実行され、その検証が24年度に行われた。多くの関係者からのヒアリングをもとに、今後の電力システムが目指す姿や事業者に求める役割といったことが整理された。

その検証結果の中には、制度改正を伴うものも多く含まれる。そのため、25年度には、そうした制度改正に係る議論を行う新たな会議体を設け、年内に方向性を整理することが記載されている。その中で、法改正が必要なものがあれば、おそらく26年通常国会に電気事業法改正が法案として提出されることになるだろう。

対応が必要な施策のうち、既に関連審議会で議論されているものも多い。例えば、大規模脱炭素電源の事業期間中の市場環境の変化に伴う収入・費用の変動に対応できる制度措置や市場環境の整備では、洋上風力発電において再エネ海域利用法の促進区域での公募落札事業者への物価変動を配慮する価格調整スキームや保証金没収要件の緩和、セントラル方式の基本化などのルール整備が整理されており、今後、促進区域が指定される第4ラウンドから適用される予定となっている。また、短期的な需給運用の効率的な実施として、同時市場の検討を本格化することが挙げられているが、既に同時市場の在り方等に関する検討会では再キックオフがなされ、引き続き各検証が行われている。

一方で、経過措置料金の今後のあり方や小売電気事業者に量的な供給能力(kWh)確保のための責任・役割や遵守を促す規律や制度的措置、広域系統マスタープランの見直しなど、まだ具体的な議論に着手していない施策も多い。

事業者にとって、制度変更は、事業機会とリスクの双方を併せ持つものであることから、この動きも注視すべきものになるといってもよいだろう。

PCS不要の蓄電池技術を開発 独自技術で世界市場を開拓する


【エネルギービジネスのリーダー達】ジェフ・ルノー/RelectrifyCEO

蓄えた電気を直接交流として放電する蓄電池技術を開発した。

来年度から豪州と台湾で商用化。日本市場への参画も目指す。

ジェフ・ルノー 米南部テキサス州ヒューストン出身。大学卒業後、ケミカルエンジニアとして約3年勤務。その後、GEやエナノックなどのクリーンテクノロジー業界で20年のキャリアを積み、2023年から現職。

「kW時を使い倒す(more energy)」―。こうしたビジョンを掲げるのが、豪州発のスタートアップで蓄電池メーカーの「Relectrify(リレクトリファイ)」だ。蓄電池の性能をセル単位で把握・制御し、蓄えた電気を直接交流として放電する独自技術を持つ。ジェフ・ルノー最高経営責任者(CEO)は、「来年度から順次、各国で商業用モデルを導入していく」と、グローバル展開に意欲を見せる。


従来の構造から簡素化 劣化低減で延命も

開発した蓄電池は、インバーターやパワーコンディショナー(PCS)といった交直変換装置を必要としない。従来技術と比べて、構造が簡素化された分、製造コストの負担を抑えられるほか、設置面積を必要としないため、限られた用地でより大容量のエネルギーを貯蔵・供給できる。

さらに、セル単位で性能を把握・制御することで、劣化を低減し蓄電池の長寿命化が図れる。太陽光や風力といった変動型の再生可能エネルギーのkW時をフル活用する、脱炭素時代の鍵となる技術だ。

こうした技術のポテンシャルの高さへの期待から、豪州に加え、米国、欧州、日本を含めたアジアといった、各国のベンチャーキャピタルなどからサポートを受けている。ルノー氏は「その関心に応えられる高い目標を掲げて開発を進めている」と、自信をのぞかせる。

商用化を前に2023年には、日産のEVの中古バッテリーを利用したプロトタイプ「ReVolve(リボルブ)」を豪州やニュージーランドなどに導入した。系統接続が可能で、すでに20台ほどが実際に利用されているという。

この成果を追い風に、25年度には初の商業用モデル「AC1」の市場投入を決定した。リボルブでは三元系(NMC)の中古バッテリーを採用していたが、AC1ではリン酸鉄リチウムイオン(LFP)の新品セルを採用。容量はリボルブの約10倍に当たる1100kW時を誇り、系統接続にも対応する。

最初の導入先として、豪州と台湾を選定した。産業向けの高圧・特別高圧領域の需要家を対象に、電力使用量の低減や需給調整市場に相当する市場取引での運用を視野に入れる。拠点の豪州に加え、台湾を選んだことについて、「当社の蓄電池の製造拠点があることに加え、最近の制度変更によって市場環境が整い、投資回収の加速を見込めると判断した」(ルノー氏)と、ビジネスを展開する上で好条件であることを理由に挙げる。

そして26年度以降、日本市場への参入も目指す。他国に比べ土地が限られる日本では、設置面積を抑えられるAC1の優位性が際立つ。また、「日本はエネルギーを大切にし、節電に積極的だ。この『もったいない』の価値観は、当社の社是『kW時を使い倒す』に通じる」と強調する。

日本国内においては、再エネの普及に伴う出力抑制が増加し、発電事業者の売電量の減少が懸念されている。発電した電力(kW時)を無駄にしないためにも、「蓄電池による調整力(⊿kW)を提供し、再エネプロジェクトの投資回収を少しでも早められるよう貢献していきたい」と意欲を見せる。


ケミカルから転身 20年以上の経験誇る

ルノー氏は、リレクトリファイが研究開発フェーズから商用化へかじを切るタイミングでCEOに就任した。もともとは、ケミカルエンジニアとしてキャリアをスタートさせたが、次第にエネルギートランジション(移行)の必要性を感じ、3年ほど勤めた後、クリーンテクノロジー分野へと転身した。

「気候変動対策につながるだけでなく、それを民間主導で実現し、ビジネスとして成立させられる可能性に惹かれた」と振り返る。

GEやエナノック(現エネル・エックス)など複数の企業で20年にわたってキャリアを積み、クリーンテクノロジー領域で新技術の商用化やグローバル展開に数多く関わってきた。特に、バーチャルパワープラント(VPP)事業での経験が豊富で、複数の電源を束ね、数GW規模のVPPを運用した経験もある。「顧客を深く理解することが全ての基本。その上で、深く洞察し、戦略を立てる。そして、クリエイティブかつオープンマインドな姿勢で協業パートナーを見つけることが、ビジネスの成長には欠かせない」と、これまでの経験から導き出した成功の法則を語る。

いつの時代も産業の発展を押し進めるにはイノベーションが重要だが、技術を広め、社会に根付かせるには開拓者の存在が不可欠だ。こうしたマインドセットを持って脱炭素時代を切り拓こうとしている。

【再エネ】米国でも40年再エネ8割 難局こそ政策強化を


【業界スクランブル/再エネ】

第7次エネ基は2月末には閣議決定される見込みである。2040年の電力需給見通しと電源構成は、以前のエネ基と比較すると、22年末の岸田政権下での原子力回帰方針に沿った形で大きく方向転換したように映る。福島第一原子力発電所事故の経験、反省と教訓を肝に銘じつつとしながらも、再エネと原子力は二項対立では無く、経済合理性と自給率向上を前提に、脱炭素電源を最大限活用すべしという方針である。エネルギー政策は、将来のあるべきエネルギー需給形態を創造し、それに近づく中長期的アクションプランを明示すべきと思うが、従来通りに、国内外の周辺環境に流される結果を想定しているかのようだ。

最近の米国エネルギー情報局の予想では、米国でさえトランプ政権に替わっても、40年の全電力量の8割を再エネが占める(太陽光37%、風力37%)可能性が高いとしている。日本の政策が海外の見通しから大きく乖離しており、海外の潮流からすら目を背けているように感じる。

特に風力発電については、陸上、洋上ともコロナ禍以降、ウクライナ侵攻、中東紛争があり、為替変動や資材費・輸送費の高騰なども重なり、決して当初目標通りの安価な発電コスト実現には向かっていないのが実情だ。

しかし、それだからこそ政策が最も重要で、一段ギアを上げて対応する必要性を感じる。経済合理性評価でも、一部の学識経験者が指摘しているように、再エネの脱炭素価値評価が無い点、原子力の放射性廃棄物処分費用が入っていない点なども含め、国民が納得する確固とした政府の考え方が明確に出されているとは言い難い。(S)

新たな人材と「安全・安心」にまい進 民営化で着々とサービス拡充


【事業者探訪】金沢エナジー

公営事業を引き継ぎ3年。民間企業としての自立化は最終段階に入り、サービス拡充も進む。

県では昨年、大地震と豪雨が発生。「安全・安心」への責務を果たしつつ、被災地支援を続ける。

金沢市は加賀百万石の城下町として栄え、きらびやかな伝統文化が息づく町だ。一方、石川県内では昨年、能登半島地震、さらに豪雨と災害が相次いだ。奥能登地方ではいまだ多くの人が被害の爪痕に苦しんでいる。

民営化準備段階から携わる石本社長


3年で完全自立化へ 25年度は民営化仕上げの年

エネルギー的には4年前、大きなトピックスがあった。2021年に市企業局のガス・水力発電事業の譲渡先として、北陸電力、東邦ガス、北國銀行、北國新聞社、松村物産、小松ガスのコンソーシアムが発足。5月に前身の「金沢ガス・電気」が設立され、社名公募を経て11月に新会社・金沢エナジーが誕生した。公営事業の実績を引き継ぎ、「100年続く地域密着の総合エネルギー企業」を目指す。なお、同社は都市ガス会社で水力発電所を有する唯一の存在だ。

北陸電力から出向し、2年前社長に就任した石本毅氏は「当時はコロナ禍の影響で議会承認が数カ月ずれこむ中、半年後の翌春には事業を開始。その後も、企業局の人材が順次市の部局に帰っていく中、その期間のうちに万全な事業継承を目指してきた」と怒涛の日々を振り返る。約80人いた企業局の人員が3年の間に順次社を離れるため、人員確保が急務に。現在、派遣社員も含めた全社員175人のうち、企業局は30人弱、出資企業の出向者は50人ほどに対し、新規採用の正社員は86人だ。

前職でエネルギーに縁がなかった人もおり、「インフラ会社の矜持」を伝えることを特に意識したという。例えば、22年8月に豪雨が発生。犀川上流の5カ所に計3・4万kWの水力発電所を所有しており、設備の一部が停止した。土砂災害で道が寸断した中、道なき道を行き、なんとか復旧に当たった。

被災地での泥出しなどの活動を続けていく

苦労も経て新体制を構築しつつ、数十年の実績がある公営事業を引継ぐ作業は、ようやく完了に近づいている。25年度は企業局派遣職員が全員市へ戻り、完全自立の年となる。なお、企業局から同社に転籍する職員もおり、民営化の事例では珍しい。

新たに手掛けるようになった事業もある。ガス供給エリアを行政区域に制限する必要がなくなり、設立当初からエリア拡大を重要課題に据え、隣接する野々市市へ導管を延伸。昨春、粟田地区への供給を開始した。さらに2㎞ほどの延伸工事を続けており、この他の計画もある。6・2万件、4000万㎥のガス販売をさらに拡大する構えだ。

23年6月には電力小売りをスタート。水力で約1・42億kW時(24年度見込み)を発電し、従来は基本的に全て卸供給していたところ、現在は順調に小売販売件数を伸ばしている。 カーボンオフセット都市ガスの取り扱いも始めた。例えば市の学校給食共同調理場にはカーボンオフセットガス、さらに自社水力由来の電気を供給し、使用エネルギーを全て実質ゼロに切り替えた。「水力は当社の魅力の一つ。地元で発電した電気を地元で使ってほしい。オフセットガスの引き合いもある」と、一層の拡大を見据える。

【火力】発電最大手がシンクタンク 知見の積極活用を


【業界スクランブル/火力】

JERAが国内外のエネルギー情勢を分析するシンクタンク組織「JERA Global Institute」を1月に立ち上げた。同社は国内最大の発電会社で、燃料の取扱量も世界最大級の規模を誇っている。今回の組織は、英石油大手シェルをモデルにしたとのことだが、エネルギー事業を営む企業が自らこのような取り組みを進めることに大いに期待している。

それというのも、第7次エネルギー基本計画の議論は、複数のシンクタンクが作成したシナリオをベースに進められていたが、どれも現実から乖離した印象を拭えない。

2050年カーボンニュートラルからのバックキャストという点が、縛りとなっている影響も大きい。一般のシンクタンクでは、調査・分析に秀でていても発電所運用などの実務に精通しているわけではなく、事業リスクをわが事として実感することが難しいものと思われる。

そのため、JERAのような事業者をシナリオの作成から検討に参加させ、現場実態を反映し、責任ある姿勢で実行させるのが有効ではないか。もちろん自社の利益より国益を優先する姿勢が求められるが、それ以外でも懸念が無いわけではない。

今回の組織では、30人のチームメンバーの多くを社外から招聘しているように見受けられる。グローバル化が進むエネルギー事業において、外部とのコミュニケーション力の強化は重要ではあるが、電気は全て国内で発電されているのが現実だ。国内最大の発電設備を日々稼働させることから得られる知見というアドバンテージを、ゆめゆめ無駄にすることがないようにしてもらいたい。(N)