【特集2】節約応援プランで料金低減 アンペア見直しニーズに対応


【静岡ガス】

静岡ガスは昨年9月、低圧ユーザーのニーズに応える新電気料金プランを打ち出した。今冬から「節約応援プラン」を本格的に展開し、同社ブランド「SHIZGASでんき」の販売に注力する。

節約応援プランは、ユーザーの電力の使用実態に合わせて基本料金を変動させる。一般的な電気料金は、基本料金、電気の使用量に応じた従量料金、燃料費調整額、FITの額で構成されており、基本料金は契約する電力のアンペアに応じて決まっている。

節約プランで料金を抑える

このアンペアは年間のピーク電力使用量からはじき出される。少人数の世帯だと20~30A、世帯人数が多かったり電力使用量が多いユーザーは40~60Aで契約することが一般的だ。静岡ガスのプランは、この契約アンペアを下げて、料金を減らそうとするユーザーが増えたことに対応した。

「家族人数の多かった世帯で、若者の県外移住などによって世帯人数が減少傾向にあった。これまでは契約アンペアをそのままにしているケースが多数あった。一方、昨今の資源価格の高騰や電気値上げなどで、従来以上に電気料金にシビアなお客さまが増えている。そうした中で、アンペアを見直すニーズが出てきた」(営業本部戦略推進部営業企画担当の吉田公春さん)


需要家の使用実態を把握 対面営業の強み生かす

契約アンペアを下げて料金を抑えるプランはいたってシンプルだが、ユーザーの電気使用実態を把握して、アンペアの最適解を見つけ出すのは手間の掛かる作業だ。それでも同プランを手掛ける意義は何か。「これまでガス事業を含め対面を中心に営業を進めてきた当社ならではの強みを生かしたいと考えている。お客さまと接する中で、実際の電力使用実態を把握し、契約アンペアをどれくらい下げれば最適な料金プランになるのか、お客さまと相談しながら決めていく。結果的に契約アンペアの見直しを後押し、節約をサポートすることで『SHIZGASでんき』を選んでもらいたい」(同)

ユーザーと接してさまざまなことが分かった。例えば、省エネ家電が浸透する中、それに伴い、電力消費量も減少傾向にあること。普段からどのような機器を使っているかを把握しておくことも、ユーザーの電力使用実態を調べる上では重要なことだという。

また大手電力各社が整備してきたスマートメーターによって「30分値」を取得できるようになったこともサービスを進化させている。電力消費実態を把握する上で重要なデータとなっており、そのデータは同社が独自で開発したアプリとも連携させている。ユーザー自身もスマホの端末から使用量を把握でき、ユーザー自らも節電や節約の意識を高めるようなシステムを構築した。

単純に単価を下げるような販売では、事業環境によっては事業者自らも首を絞めることになる。それでは高い公益性が求められる事業者として持続可能な事業を営むことは不可能だ。静ガスはユーザーと事業者が互いにウィンウィンになる手法の導入を目指していく。

【特集2】エネファームを戦略商材に デジタル化推進で最適提案


【東京ガス】

都市ガスと電気、それぞれ小口の販売件数が2023年9月、およそ875万件、360万件となった東京ガス。そんな同社が家庭向け戦略商品に掲げているのが家庭用燃料電池「エネファーム」だ。脱炭素に向けた水素社会への流れを受け、日に日に期待が高まっている商材である。都市ガス業界が09年から本格的に販売を開始し、今冬で累積導入台数が全国50万台に到達。東京ガスでも17万台を突破している。

「初期に導入された機器がリプレースの時期を迎えている。当社が手掛けるエネファーム販売で特徴的なのは、リプレースされるお客さまの約9割近くが再びエネファームを採用していること」。リビング技術部技術企画グループ技術企画チームの寺村朋晃チームリーダーはこう話す。

エネファームのラインアップも拡充されている。従来は固体高分子形(PEFC)と呼ぶパナソニック製のみであった。これは給湯や暖房など熱を多く使うユーザーに適しているが、固体酸化物形(SOFC)となる発電主体のアイシン製や京セラ製も商材に加わったことで、多様な需要家ニーズに適応できるようになった。

発電を主体とする製品が商材に加わった

また、アイシン機や京セラ機は、「後付け設置」も可能となっている。エネファームは発電・貯湯ユニット、ガス給湯器で構成されている。後付け設置とはガス給湯器のみを使用しているユーザーが給湯器をそのままに、発電・貯湯ユニットのみを新規に導入するやり方である。イニシャル費の低減に課題を抱えている中、ガス事業者やメーカーが知恵を絞って編み出した、少しでも費用を抑えるための工夫だ。さらに、最近では天気予報と連動させるなど、エネファーム本体側の制御面でも技術開発が進み、最適なユーザー運用をサポートしている。


価値共創型の取り組みに昇華 デジタル化で運用の最適化

東ガスではエネファームや蓄電池などの多様な分散型エネルギーリソース(DER)を活用し、関西電力、パナソニックや京セラなどと連携してVPP実証も進めてきた。実証ではDERを束ねるための仕組み作りが課題と分かり、その後、再エネ事業を手掛けるスタートアップ企業の自然電力が構築したプラットフォームの活用を開始することになった。

リビング技術部技術企画グループソリューション企画チームの白井良和チームリーダーは次のように話す。「多様な企業とこのプラットフォームを共同利用することで運用費を最小化し、電力系統の安定化とユーザーメリットにつなげる価値共創型の取り組みに昇華させたい」

今後、東ガスでは20年に戦略的提携を開始した英国オクトパスエナジー社のシステム「クラーケン」や「クラーケンフレックス」も活用してDERの価値向上と顧客体験の向上を目指す。「全社一丸となって高度なデジタル技術をベースに、火力や再エネ発電所はもちろん、お客さま先の設備、電力市場取引までを一元管理した運用の最適化を進めている。23年11月に発表したソリューションブランド『IGNITURE』のもとで脱炭素、レジリエンス、最適化した価値を届けたい」。白井氏はこう将来の展望を語っている。

【特集2】電気・リース料金をパッケージ化 「電化のサブスク」を家庭に提案


【関西電力】

気候変動問題に高い関心を持つ人や快適な生活を過ごしたい人など、家庭用の需要家が電力会社に求めることは多様化している。関西電力はそれらの声に耳を傾けて、社会の求めに応える電気料金プランの提供に努めている。

2021年6月から受け付けを始めた「はぴeセット」は、一定量までの電気料金とエコキュートのリース料金をパッケージにした月々の料金を10年間支払うという「電化のサブスクリプションメニュー」だ。

夫婦二人世帯など向けのSプランの場合、基本料金は月1万400円で、基本料金に含まれる電気使用量は月200kW時。オプションとして特別タイプのエコキュートへの変更(月200円~)、IHクッキングヒーター(同1620円~)、EV充電器(同660円~)を加えることができる。基本料金は、一定量の電気料金とエコキュートのリース料金に加えてエコキュートの標準的な取付工事費、機器修理費込みの値段。家庭にとってメリットは大きい。

初期投資の負担を軽減した

「はぴeセット」には、ほかに子育てファミリーや二世代家族向けのMプラン(基本料金月1万5200円、電気使用量450kW時)、大人数ファミリーなど向けのLプラン(同20000円、同700kW時)のプランがある。

いずれも使用量が基本料金に含まれる量を超えると従量料金を支払う内容となっているが、逆に使用量が下回った場合、使わなかった分は1kW時当たり10ポイントの「はぴeポイント」で還元する。

「オール電化の採用をご検討いただくものの、初期投資の高さがネックになるというお客さまの声があることを踏まえて、初期投資の負担を軽減し、多様なライフスタイルにお応えするサービスとして開始した」。ソリューション本部リビング営業計画グループの田中友貴マネジャーはこう話す。


太陽光発電をセットに 災害時対応にも力発揮

22年10月からは、関西エリアの新築の戸建てを対象に「はぴeセットソラレジ」のサービスも始めている。気候変動に加えて省エネや節電などの意識の高まりから、太陽光発電(PV)の設置を希望する人たちが年々増加。そのため、PVの機器リースと一定量の電気料金をパッケージにしたメニューの提供を始めたのだ。

プランはSプランからLプランまであり、例えばMプランの場合、基本料金は月1万4300円で、基本料金に含まれる電気使用量は月400kW時。使用量が基本料金に含まれる量より増減した場合の取り扱いは、はぴeセットと同様。PVの電気は宅内の自家消費に自由に使え、余った電気はFIT制度での売電で収入を得ることも可能だ。

PVに加えて、エコキュート(月2860円~)、蓄電池(同9900円~)、V2H(同1540円~)などもオプションでリース契約ができ、初期費用を軽減しながら住まいの災害レジリエンス向上も期待できる。

ソリューション本部では、需要家のニーズに応えられるものを届けることを重視してきた。「新しい価値の提供を続け、今後も当社のサービスを選んでいただくようにしたい」(田中氏)。次なる提案に注目が集まる。

【特集2】太陽光発電の「地産地消」進める 家庭向けアセットサービス始動


【東京電力エナジーパートナー】

全国で累積1000万台近く導入が進んだエコキュート。深夜の割安な電気料金を活用してお湯を沸かして貯湯し、お風呂などの給湯に利用されてきたが、太陽光を始めとした再エネの普及で、そんな使われ方が変わりつつある。太陽光発電の電気を直接利用して昼間に沸き上げて貯湯する「おひさまエコキュート」が登場しているのだ。これに東京電力エナジーパートナー(EP)は力を入れる。お客さま営業部の花尾美智子・電化推進グループマネージャーが言う。「カーボンニュートラル(CN)に向け、『でんきの地産地消』を提案している。今後、東電管内でも再エネの出力を制限するケースが出てくると思う。電力系統の安定化のためとはいえ、余剰だからといって再エネの出力が抑制されるならその分を上手に使った方が合理的で、CNの流れにも沿う。そこで新たな料金プラン『くらし上手』を設け、おひさまエコキュートの普及に注力中だ」

おひさまエコキュートが登場している


太陽光とエコキュート 初期費用ゼロで蓄電池

同プランは東電管内で、太陽光発電とおひさまエコキュートを併設する、主に戸建て向けが対象だ。基本料金に加え、月間使用量が120kW時までは定額(3694・4円)。それ以上は1kW時当たり30・92円の従量料金だ。通常の戸建てでは120kW時を超えることが一般的だが、両設備によって太陽光発電の地産地消を促す。東電EPは業界に先駆けてこうしたプランを打ち出した。

地産地消をさらに促すために東電EPでは家庭向けのアセットサービス「エネカリプラス」も始めている。太陽光発電設備や蓄電池のPPAサービスだ。ユーザーは初期費用ゼロで、10年または15年の長期間で月々定額のサービス料金で設備を利用できる。仮に太陽光発電(7kW級)と蓄電池(9・5kW時)のセット利用では、毎月のサービス料金(15年間)は約1万4500円(税込)だ。蓄電池も加えてさらに再エネの地産地消を進める。この間の設備の自然故障に伴うユーザー負担はゼロだ。

こうしたアセットサービスは、これまでは法人向けに「エネルギーサービス」として導入されてきた。東電EPの取り組みをきっかけに、家庭分野でも同様のサービスが本格化しそうだ。

【特集2】省エネ強化へ「三本柱」推進 非化石転換とDRも同時に実行


カーボンニュートラル実現に向け、家庭部門では省エネ、非化石転換、DRの「三本柱」に取り組む。

2023年度の補正予算では経産、国交、環境3省連携の省エネ支援で4215億円を計上している。

2050年カーボンニュートラル(CN)実現の鍵を握るのが業務・家庭部門の省エネだ。資源エネルギー庁によると、業務用、家庭用、運輸など、くらし関連部門のCO2総排出量は日本全体の約5割を占めるという。

この対策として国が進めているのが、省エネと非化石転換、デマンドレスポンス(DR)の三つだ。家庭や中小企業の省エネは産業部門に比べて、支出全体に占めるエネルギーコストの割合が少なく、省エネへの取り組みによる金銭的メリットは必ずしも多くない。このため、需要家にとっての省エネインセンティブが弱く省エネが進みにくいといわれている。

そこで、家庭部門では、産業部門のような直接的な規制ではなく、省エネを行う消費者行動を促す間接的な施策が主に採られている。代表的なものに、資源エネルギー庁が21年に創設した「省エネコミュニケーション・ランキング制度」がある。エネルギー事業者が需要家に対し、エネルギーに関する情報提供を行い、一層の省エネに取り組んでもらうことを目的としたもので、電力会社と都市ガス会社、LPガス会社を対象に、省エネに関する情報・サービスの提供状況を調査し、ランキング形式で評価・公表するものだ。

家庭部門の省エネの鍵を握るのは給湯器だ

例えば、太陽光発電や蓄電池などの設備を需要家に初期費用ゼロで提供する条件で電力購入契約を結ぶ、PPAサービスなどの存在を知らせるのが代表的だ。住環境計画研究所の鶴崎敬大研究所長は「エネルギー事業者が家庭向けに手軽に再エネ設備や蓄電池を導入できることを発信し、需要家が省エネ行動を促進する良い流れをつくっている」と評価する。


住宅の省エネ支援に注力 高効率給湯器導入を促す

23年度の補正予算では、経済産業省、国土交通省、環境省の3省連携による住宅省エネ化支援で4215億円が盛り込まれた。

同補助金事業の柱となるのが、高効率給湯器の導入だ。家庭部門のエネルギー消費量の約3割を占める給湯器を、高効率品に更新する効果は大きい。最近は、再生可能エネルギー拡大に伴う出力制御対策や寒冷地における光熱費の高額化も問題となっており、設備更新を後押しする。補助額は、ヒートポンプ給湯機「エコキュート」の昼間の余剰再エネ電気を活用できる機種で10万円、家庭用燃料電池「エネファーム」のレジリエンス機能搭載機種で20万円、ヒートポンプ給湯機とガス給湯器を組み合わせたハイブリッド給湯機の昼間の余剰再エネ電気を活用できる機種で13万円となっている。

ハイブリッド給湯機では、リンナイが「ECO ONE X5」シリーズの新モデルとして、屋外コンセント対応のプラグインモデルと、マンション向けの集合住宅専用モデルを展開する。プラグインモデルはシステム全体の電力を監視しヒートポンプ運転時の消費電力を低減し、既設の屋外コンセントを使用可能にした。設置のハードルを下げることで、従来の給湯機からの交換を促し、既築住宅の省エネを後押しする。

【特集1/座談会】大幅な制度変更に弊害はあるか 電力システムの最適化を


業界からは、大幅な制度変更の弊害を懸念する声が聞こえてくる。

こうした声を踏まえ議論をどう進めるべきか。キーパーソンが意見を交わした。

【出席者】
石坂匡史/東京ガス 執行役員電力事業部長
市村 健/エナジープールジャパン 代表取締役社長兼CEO
市村拓斗/森・濱田松本事務所 パートナー弁護士
岡本 浩/東京電力パワーグリッド 取締役副社長執行役員

左上から時計回りに、市村(拓)氏、石坂氏、市村(健)氏、岡本氏

―同時市場改革の必要性について、どのように考えますか。

市村(健) 電力システム改革以降、それまで電力会社に課されていた供給義務が供給能力確保義務に形を変え、送配電事業が分離された中でも、バランシンググループ(BG)に30分計画値同時同量を課すことで安定供給確保を目指してきました。ですが実態ではそれが誠実に履行されておらず、そのしわ寄せを一般送配電事業者(TSO)が受けています。そうであるならば、供給と需要のリソース情報をTSOに集約しようという議論になることは至極合理的です。これに加え、対策を必要としているのが太陽光発電です。大量導入が進めば系統の混雑管理をしきれなくなりますから、TSOがワンストップで管理するという、同時市場の考え方に合理的なソリューションを見出すことは理解できます。

岡本 TSOの立場として、同時市場の議論が始まったことを歓迎しています。需給ひっ迫を何度か経験する中で、最も怖かったことが、情報が足りず打つ手がなかったことです。2021年1月上旬のひっ迫時は、連絡できる自家発電のお客さま全てに電話で協力を求めましたが、対応いただけるのは三が日明けの1月4日になってしまうなど、当時は何ができるのかさえ分からない状況でした。こうした経験から、同時市場の中で需給に関わる情報をTSOや電力広域的運営推進機関に集約し共有することが必要だと強く感じています。ただ、供給力確保策としてはこれで十分ではありません。容量を確保するには、日々の需給運用の前提となるユニットの起動が可能であることと、そのための燃料が確保されていること、さらに長期的な燃料契約や設備投資が促されなくてはなりません。同時市場の議論を端緒に、全体の議論をしていただければと思います。


予見性失うことに危機感 供給力確保の仕組みは別途必要

石坂 20年度冬季の需給ひっ迫時は、LNGが不足していて設備が足りないということではなかったのですが、TSOと発電事業者双方がより効率的な仕組みを考えなければならないという問題意識を持つきっかけとなりました。需給調整市場が始まると、三次調整力①の不足と価格高騰というさらなる問題が発生し、同時市場の勉強会が始まったことは歓迎すべきです。とはいえ、事業者からすると、急激に制度が変更されると予見性を失いかねません。他のソリューションも含めて検討した結果、最終的に同時市場がふさわしいというのであれば、事業に大きな影響が出ない形で進めていただきたいと考えています。

市村(拓) 同時市場において実現すべきことは、電源情報の一元的把握と短期市場の効率化と考えています。前者は岡本さんコメントの通りですが、後者はkW時と⊿kWを別々の時間軸で調達することの非効率や、卸電力市場におけるブロック入札の精緻化の限界があるため、スリーパート情報に基づき市場運営者が落札していく方が、短期市場がより効率化されます。よく申し上げているのは、同時市場は供給力があることを前提として機能する仕組みということです。容量市場や長期脱炭素電源オークションなどの整備が進んでいますが、それだけでは十分ではないため、同時市場は価格・量両面での安定的な燃料・供給力確保を阻害しないような仕組みを追求していくべきです。

【特集1】議論で踏まえるべき三つの事実 志向すべき日本型の電力市場とは


電力システム改革の失敗に伴う予備力不足を端緒にスタートした同時市場の検討。

大阪大学大学院の西村陽氏は、議論に当たっては日本の電力市場を巡る三つの事実を踏まえるべきだと強調する。

西村 陽/大阪大学大学院工学研究科招聘教授

同時市場について政策当局や電気事業関係者から「なかなか理解や議論が進まない」と、悩みを聞かされることが多くなってきた。それは、電気事業関係者の多くが「自らがどのようなルールと成り立ちで事業を運営しているのか」の本質を理解せずに日々仕事をしているために、制度案の持つ意味が分からないからにほかならない。ここではまず、同時市場を考える時に踏まえるべき三つの事実を直視するところから始めたい。


困難さ増す再エネバランシング 市場や仕組みづくりに遅れ

一つ目は、日本のような島国での再エネバランシングは当初想定していたよりもはるかに困難だということである。同時市場の議論を起こした主な原因は、需給調整市場の三次調整力と卸電力取引市場の取り合いだが、これは送配電会社が再エネ変動分の予備力を万全に確保しなければならない再エネFIT(固定価格買い取り)制度が生み出した副作用とも言える。

導入された再エネのほとんどが雲の動きに左右される太陽光であり、発電量が30分コマで大きくブレる日本において、1日以上前にその量を送配電側が高い精度で当てることは至難の業だ。15分同時同量に移行すれば調整力確保の低減に相当貢献するだろうが、そのために必要な法制度の整備も次世代スマートメーターによる15分計量もとても間に合わない。これは、再エネバランシングに向けた市場や仕組みの準備スピードが遅きに失していることを意味しており、欧州のように他国連系線にフレキシビリティーの相当部分を頼れる国と違って致命的である。

再エネ導入加速に対し市場整備の遅れは否めない

二つ目は、世界各地を見ても予備力のない国・地域の電力政策ほどみじめなものはないということだ。卸価格は常にスパイクリスクを孕み、競争している小売事業者が適切に調達ヘッジしながら毎年利益を上げることは極めて困難となる上、政策当局は通常の市場運営では打つ手を失う。

当然、予備力不足の下で信頼度維持と卸電力取引の有効性を両立させるために限られた電源を使うのであれば、どうしても計画経済的な配分システムが必要になり、パワープール下の最適化システム(電源配分計算)に酷似した仕組みにならざるを得ない。電力量の取引と競争が電気事業の姿だという間違った認識を持っていては、これを理解することができない。

三つ目に、日本は決してPJM(米北東部の地域送電機関)のような純粋なパワープール制度に移行することを志向しているわけではないということだ。「日本もプールになる」と誤解する向きもあるが、パワープールとは独占時代の需給・系統運用をベースに組み立てられる日本の電力制度とは全く異質なものであり、それに移行する場合は現行の電力・ガス取引監視等委員会も、日本卸電力取引所(JEPX)も廃止することになる。現在の検討はそうした方向を向いてはおらず、小売・発電事業者の機能と責任を重視する現在の制度下で電力量(kW時)、需給調整力(⊿kW)の約定・配分について予備力不足時代の解決策を求めているものである。

【特集1】同時市場への移行は不可避 改革の実効性を高める議論を


電力システムを巡るさまざまな課題が山積する中、進む同時市場改革議論。

今後の議論の方向性はどうあるべきか。松村敏弘東京大学教授に聞いた。

【インタビュー:松村敏弘/東京大学社会科学研究所教授】

―同時市場改革の意義をどう考えますか。

松村 同時市場改革は狭義には、スポット市場と調整力市場を統合することでkW時と⊿kWの調達の最適化を目指すものです。一方で、ノーダル制への移行やネガティブプライスの導入など、現行の電力システムの弊害を解決するための独立したさまざまな論点があり、これらも含めた総合的な改革が必要です。最短で2028年からと言われている同時市場への移行時に間に合わないとしても、大きな改革を見据え、将来の改革に対応できるシステムを整備すべきです。電力システム全体の抜本改革につながる大きな議論も別途必要です。

―同時市場への移行は既定路線なのでしょうか。

松村 現在、調整力市場の価格高騰や応札不足による調達の未達が深刻な問題となっています。これだけ酷い状態にあるにもかかわらず、解決するための説得力ある対案が出てこない以上、少なくとも狭義の同時市場改革、同時市場への移行は不可避と考えます。調整力に回った電源の収益が下がらないよう、制度設計において合理的な価格決定の仕組みを構築すれば、変動再生可能エネルギーが拡大し、調整力不足が懸念される中でも調整力を備えた電源を効率的に活用できるようになるはずです。全体最適な運用に貢献した電源がそれにふさわしい収益を得る。それを実現する同時市場とするべきです。


交錯する関係者の思惑 全体最適を目指すには

―今後の論点は。

松村 発電事業者が自ら電源の運転パターンを決める「セルフスケジュール」をどこまで認めるかは重要な論点です。これは技術的に不可避な面もありますが、無条件に認め全体最適に貢献しない電源だらけになれば、現行のシステムが複製されるだけで改革の意義が失われます。今の非効率な仕組みを結果的に温存するのか、改革の名にふさわしい志の高い制度設計ができるかは、これからの議論次第です。

自社電源不調時のインバランスリスクを回避するために、同時市場に出さず自社の余力を温存したいと考える事業者がいるとすれば、そんな意識の低い事業者が生き残る現行制度の問題を示しています。余力は、自社電源不調以外の要因での需給ひっ迫時にも効率的に利用されるべきです。結果的にインバランスを出しても⊿kWを供給することで得る収益と相殺できるよう、⊿kW取引をスポット、容量市場と同様にシングルプライス化することは、この観点からも意味があります。

―バランシンググループ(BG)の在り方も変わりますか。

松村 BGが残ることが自然な解とは思いませんが、存続しても効率的な制度設計は可能だと考えます。BGを選択しないと不利になる不自然な制度設計を回避して、インバランス料金体系などを合理的なものとしていけば、BG制の役割はおのずから限定されると思います。

まつむら・としひろ 1988年東京大学経済学部卒。東京工業大学社会理工学研究科助教授などを経て2008年から現職。専門は産業組織、公共経済学など。

【特集1】改革によって何を目指すのか 関係者のコンセンサス必要


【インタビュー:筑紫正宏/資源エネルギー庁 電力産業・市場室長】

―同時市場改革が電力業界の大きな関心事となっています。

筑紫 昨年8月に立ち上げた「同時市場の在り方等に関する検討会」では、今夏をめどに方向性を示すこととしています。主に調整力をはじめとした需給調整の課題解決を目的としているため、一般送配電事業者(TSO)と発電・小売・DRといった他の事業者との間には温度差があります。参加するプレーヤーがいなければ市場の意味がありませんから、改革によって何を目指すのか、全関係者のコンセンサスを得られるような取りまとめを目指しています。

―TSOへの電源運用の権限集約と考える人もいます。

筑紫 同時市場では、市場に登録された情報はTSOの次期中給システムを経由して各TSOに届くわけですが、TSOへの情報集約は、調整力確保のための費用を抑制するためにも重要です。

とはいえ、需給管理の全てをTSO任せにし、発電・小売がそれぞれの計画の範囲内で責任を持つ義務をなくすのかというと、それは相当慎重に議論する必要があると考えています。

―市場内外で取り引きされるということですか。

筑紫 市場での取引もあれば、情報のみを登録し市場外で取り引きされることもあり得ます。システムを作る上で、誰がどのように参加することが前提となるのか、整理しなければなりません。決して小さな制度議論ではありませんから、関係者の目線を合わせていくためにも息の長い議論をしていくことになるでしょう。

【特集1】kW時と⊿kWの効率的な確保へ 検討進む同時市場の仕組みと課題


脱炭素時代の電力システムの在るべき姿を追求する中で、浮上した同時市場改革。

同時市場の仕組みとは。そして、現行システムを抜本的に変革させなければならない理由とは何か。

電力システム改革に伴い、電気の価値は「電力量(kW時)」「供給力(kW)」「調整力(⊿kW)」に細分化され、それぞれ「卸電力市場」「容量市場」「需給調整市場」という、異なる時間軸、市場で取り引きされることとなった。

2024年度には、需給調整市場で新たに三つの商品の取引が始まり、応動・継続時間に応じて区分された一次調整力から三次調整力②までの五つの商品全てが出そろう。これによって、予定されていたkW時、kW、⊿kWの3つの価値を取り引きする市場が一応の完成形を見るわけだが、そうした中で、資源エネルギー庁が模索しているのが、kW時と⊿kWを同時約定する仕組みへの移行だ。

同時市場の仕組みのイメージ

この議論は、22年6月の「卸電力市場、需給調整市場及び需給運用の在り方に関する勉強会」の取りまとめで、中長期的に目指す電力システムの仕組みのイメージとして、週間断面での電源起動の仕組みと合わせ、「同時市場」を設けることが提案されことに端を発する。

続く同年7月から昨年4月に開かれた「あるべき卸電力市場、需給調整市場及び需給運用の実現に向けた実務検討作業部会」では、実需給の1週間程度前から実需給までの一連の仕組みを議論し、この全体を「同時市場」と呼ぶことと整理。これらを踏まえ、現在、昨年8月に立ち上げた「同時市場の在り方等に関する検討会」で、制度化に向けた具体的な検討が進んでいる。

同検討会では、同時市場を導入した際の費用便益の分析に加え、電力広域的運営推進機関を中心に約定ロジック(電源起動、出力配分、価格算定)の設計や、その実現性・妥当性を検証することになっており、1年程度で取りまとめを行う方針。つまり、今夏にも、新たな制度改革に向けた大きな方向性が示される公算が大きい。

用語解説


システム全体の最適化へ 発電側の情報を集約

これまでに提案されている同時市場の仕組みは、発電事業者は電源諸元として「起動費」「最低出力費用」「限界費用カーブ」の三つの情報を入札時に登録(これをスリーパートオファー方式と呼ぶ)し、小売電気事業者はこれまで通り、買い入札価格と量(kW時)を入札。電源のスリーパート情報を元に、需要予測に従ってkW時と⊿kWを過不足なく確保できるよう、電源の起動・停止と出力計画を策定するもの。

発電にかかるさまざまな費用を全て考慮した上で、メリットオーダーで電源の起動・運用・停止を判断しkW時と⊿kWに合理的に割り付けることができれば、電力システム全体の最適化が図られ、安定供給と経済性の両立が実現するという考え方だ。

これに対し現行制度は、計画値同時同量制度の下、小売電気事業者がバランシンググループ(BG)を形成し、自社の小売りに必要なkW時を卸電力市場や相対取引で調達することで供給能力確保義務を果たし、一般送配電事業者が周波数制御・需給バランス調整のための⊿kWを需給調整市場で調達することで、安定供給とコスト最適化を目指す仕組みとなっている。

だが、kW時と⊿kWの取引が異なる市場で運営されることで、①過剰な台数の起動など、電源の運転が非効率になる、②卸電力市場と需給調整市場のオークション方式および価格規律の関連が薄く、電源のメリットオーダーが成立しにくい、③調整力として確保された電源がスポット市場や時間前市場に売り入札されず、市場の売り切れに伴う価格高騰が発生する、④BGが需給調整市場に入札せず、調整力の調達が確実に行えない―など、安定供給やメリットオーダーの観点での課題は多い。

【大阪ガス 藤原社長】LNGの安定調達とe―メタンの社会実装へ 両利きの経営に挑戦する


LNG調達の地政学リスクが高まる一方、脱炭素化という長期的な課題に直面する。

エネルギー安定供給の使命を果たしつつ、e―メタンの早期社会実装を目指し、脱炭素社会構築に貢献していく。

【インタビュー:藤原 正隆/大阪ガス社長】

ふじわら・まさたか 1982年京都大学工学部卒、大阪ガス入社。大阪ガスケミカル社長、常務執行役員、副社長執行役員などを経て2021年1月から現職。

志賀 2023年度上半期決算は、経常利益が1238億円と前期の378億円の赤字から黒字転換しました。その要因をどのように分析していますか。

藤原 前期は、22年6月8日に米テキサス州のフリーポートLNG基地がトラブルで出荷を停止して以降、当社の供給力の4分の1が停止した状態が8カ月間続きました。ロシアによるウクライナ侵攻に伴い世界の天然ガス需要がひっ迫する中、安定供給確保のために高騰していたスポット市場から調達せざるを得ず、また、当社はフリーポートLNG基地のオーナーでもありますので、その収入が入ってこないことも収益に影響を及ぼし、合計で1477億円の損失を余儀なくされました。23年2月にバース2基のうち1基が稼働を再開し、11月には2基目も復帰したことで、今期は安定的にLNGが供給されています。そこに原料費調整の期ずれ差益が重なり、黒字化を果たすことができました。

志賀 パナマ運河の渇水で船舶の滞留も発生しています。改めてLNG調達の多様化の重要性が認識されたのではないでしょうか。

藤原 都市ガス業界は1970年代から調達先の多様化に取り組み、ブルネイ、豪州、マレーシア、オマーンに加え、2000年代後半のシェール革命で北米からの調達も可能になりました。このように、産ガス国が分散しセキュリティ性に優れていることは天然ガスの大きな利点だと言えます。考え方が大きく変わったといえば、22年までは余剰をあまり持たずに不足すればスポットで補う方針を取っていましたが、現在は少し余裕を持つようになったことです。

パナマ運河のみならず、ウクライナ戦争、中東情勢の悪化、そして現在はしっかりと稼働しているサハリンも、経験豊かな欧米のオペレーターが引き上げている中で今後の供給継続に不安があることは間違いなく、調達の多様化とともに余裕を持った調達を行うことで引き続き安定供給を確保する必要があります。

志賀 新規に長期契約するような検討はされていますか。

藤原 当社は現在、年間約1000万tのLNGを調達しそのうち600万tを国内の都市ガス事業で供給、残りで需給の最適化を目指したトレーディングなどを行っています。この1000万tについては、他の電力会社やガス会社とコンソーシアムを組み長期でしっかりと確保できていますので、新たな大型契約を結ぶような環境にはありません。

東洋紡岩国事業所の天然ガス転換で新設された自家火力発電所

ただ30年代半ばには多くの契約が満期を迎えますので、その際に将来の需要を見極めた上でどう判断するかが焦点になります。石炭焚きボイラーを利用している化学業界などに天然ガス転換を展開していくことで、相当大きな新規需要が創出される可能性がありますが、今、そうした企業もGX(グリーントランスフォーメーション)に向けどう対応していくべきか非常に頭を悩ませているのが実情です。産ガス国がどういった条件を提示してくるのか、国内でLNGの位置付けがどうなっているのか不透明であり、現時点では方針を決める段階にありません。

【マーケット情報/1月26日】原油上昇、需給逼迫感が強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み上昇。需給逼迫感の強まりが、価格に対する上方圧力となった。米国原油の指標となるWTI先物、および北海原油を代表するブレント先物は、それぞれ前週比4.6ドルと4.99ドルの急伸となった。WTI先物は、2か月振りの高値を記録した。

米商務省経済分析局が発表した2023年第4四半期の国内総生産(GDP)の成長率は3.3%となり、予想を上回る高水準を記録。米国の経済回復、原油需要の増加が期待され、買いが優勢となった。

加えて、米国では寒波の影響で、一部の原油生産が停止。米エネルギー情報局が発表した原油の在庫統計は、産油量の減少を背景に、大幅な減少を示した。同国では、寒波により原油精製も停止し、需要の弱さが懸念されていた。ただ、それを上回る生産減の影響が示されたことで、原油価格が上昇した。

中東情勢の悪化も引き続き、供給懸念として価格を支えている。イエメンを拠点とする武装集団フーシが、紅海を航行中のコンテナ船にミサイルで攻撃。これを受け、米英両軍が、報復措置として、フーシの軍事拠点を再度空爆。中東地域の緊迫感がさらに強まった。


【1月26日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=78.01ドル(前週比4.60ドル高)、ブレント先物(ICE)=83.55ドル(前週比4.99ドル高)、オマーン先物(DME)=81.56ドル(前週比2.77ドル高)、ドバイ現物(Argus)=81.59ドル(前週比2.85ドル高)

次代を創る学識者/坂口綾 筑波大学数理物質系化学域放射線・アイソトープ地球システム研究センター教授


環境中の放射性同位体や安定同位体を用いた、地球・環境化学の研究に従事。

放射性物質への正しい理解が社会に広がるよう、人材育成の重要性を強調する。

放射性同位体や安定同位体を用いた地球・環境化学についての研究を手掛ける筑波大学数理物質系/放射線・アイソトープ地球システム研究センターの坂口綾教授。これまで、環境中の放射性物質に着目し、海流の動きや地層の年代指標となるマーカーとして活用する研究などに携わってきた。

例えば、核実験や原発事故由来などの人工放射性物質の中から、長期にわたり環境に残存する半減期の長いものを探し出し、それを用いて表層だけではなく深層の海流を3次元的に観測することで、海水循環を明らかにする。海洋は気象と気候に大きな影響を与えているため、温暖化が進むのか、寒冷化に転じるのかといった地球のこれからを予測する重要なパラメーターとなり得るという。

東日本大震災発生時は、広島大学理学部地球惑星システム学科で、地球表層の物質循環を研究していた。事故によって放射性物質が環境中に拡散されるようなことは起きてはならないが、それでも、放出された放射性同位体の濃度を正しく定量的に評価できる人が少なかったために、間違ったデータが世の中に広まり、震災後の社会の混乱に拍車をかけたことに忸怩たる思いを募らせた。

そしてこれが大きな動機となり、2014年、環境中の放射性同位体を専門に研究する施設があり、世界をけん引していこうという研究者がいる現在の所属の前身である筑波大学アイソトープ環境動態研究センターに活動の場を移した。


自然科学の解明へ 不可欠な放射性物質研究

子供の頃は、特に理科系科目が好きだったり得意だったりするわけではない、「ごく普通の少女だった」という坂口教授のターニングポイントとなったのが、金沢大学理学部化学科4年時の研究室選びだ。親しくしていた教員に進路を相談したところ、「坂口の性格に合っているのはここ」と、勧められたのが「低レベル放射能実験施設」だった。

研究室のOBに連れられて、琵琶湖に初めてのフィールドワークに赴き、宇宙線と大気の核反応でできる微量の放射性物質を検出する研究に従事。フィールドワークで自ら試料を採取し、それを研究室に持ち帰って分析し、その結果から事象を考察する楽しさに気づき、研究にのめり込んでいった。

新型コロナウイルス禍でフィールドワークに出かける機会は極端に減ったものの、「新たな放射性物質を利用することで、これまで見えなかったものが見えるようになることが楽しい」と、研究者としての初心を忘れず、学生にテーマを与えるだけではなく、ともに実験・分析し考察するという研究スタイルを続けている。

「有事の際の適切な対応のためのみならず、自然科学を語る上で放射性物質は外すことができない」と強調。一般社会に正しく理解してもらうためにも、「この分野の研究に面白さを見出し、携わってくれる人材が育ってくれれば」と願っている。

さかぐち・あや 2002年金沢大学理学部化学科卒。07年同大自然科学研究科博士後期課程修了。博士(理学)。広島大学理学部准教授、筑波大学数理物質系/アイソトープ環境動態研究センター准教授などを経て23年4月から現職。

最新EVに試乗できる! EVイベントのすすめ


【どうするEV】陰山惣一/『Eマガジン』編集長

世界的に新型EVの発表が相次ぐ昨今。日本でも各メーカーがEVのCMを放映し、「次のクルマはEVに?」と検討をされている方もいるかもしれません。

2023年度、日本で新たに購入できるEVは約15台が追加され、スタイル、価格、航続距離もさまざま。検討するにしても「ディーラーに行くのはハードルが高いし、そもそもどんなEVがあるのか実際に見て試乗もしてみたい」と考える方も多いのではないでしょうか。今回はそんな皆さまのために、最新EVを一気に見ることができ、さらにご自身で試乗もできる入場無料のEVイベントを二つ紹介します。

春に東京の二子玉川、秋に神戸と年2回開催しているのが、欧州車を得意とする自動車雑誌『ル・ボラン』が主催する「EV:LIFE」です。開催場所は二子玉川ライズと神戸旧居留地という、ラグジュアリーな街や商業施設。蔦屋家電横のガレリアや神戸大丸前の並木道にEVが並ぶ姿は圧巻で、欧州の高級EVが似合うイベントとなっています。しかも当日予約(先着順)でポルシェやレクサスといった高級EVにも試乗可能。23年の神戸では発表されたばかりのアバルト500eが人気となっていました。

「EV:LIFE KOBE 2023」では公道に最新EVがズラリ

一口にEVと言っても、それぞれモーターの数やパワー、航続距離や車内エンターテインメントの楽しみ方など個性がいろいろですが、助手席にはEVに詳しいコドライバーが同乗するので免許さえあれば大丈夫。リアシートにも同乗できるので、ご家族で訪れるのもよいかもしれません。

軽井沢プリンスショッピングエリアで5月、10月と年2回開催しているのが「軽井沢モーターギャザリング」です。「はじめようサステナブルカーライフ」をテーマとし、有名ブランド店舗が並ぶエリアに併設する芝生の広場では、最新EVや次世代エネルギー車を展示。イベントで使用される電力は展示するEVからの給電で一部を賄い、「古いものを大切にする」という観点からヴィンテージカーの展示やコンクールオブデレガンス(車両の審査会)も開催しています。さらにアウトドアエリアでは最新のキャンプグッズやたき火でのマシュマロ焼き体験も可能で、広くファミリーの方にも楽しんでいただけるイベントになっています。

このイベントも「EV:LIFE」同様、当日受付で最新EVに試乗できるのですが、緑豊かな軽井沢の街並みを静かなEVで走れるとあって、買い物の合間での人気コンテンツとなっています。10月のイベントでは発表されたばかりで注目を集めていたBYDドルフィンの試乗が人気となっていました。

今後のイベントとしては二子玉川で開催される「EV:LIFE FUTAKOTAMAGAWA 2024」(3月23〜24日)がおすすめ。地方からのお客さまも多く、最新EVが気になる方は是非訪れてみてください!

かげやま・そういち 『世田谷ベース』などライフスタイル誌の編集長を経て、EV専門誌『Eマガジン』を創刊。1966年式の日産・セドリックをEVにコンバートした「EVセドリック」を普段使いしている。

【山田修 東海村長】「BWRの再稼働は必要」


やまだ・おさむ 1961年生まれ。水戸市出身。86年高崎経済大学経済学部卒、茨城県庁入庁。財政課、産学連携推進室室長補佐、地域計画課課長補佐(総括)などを経て2010年東海村副村長に就任。13年村上達也前村長の引退を受け東海村長選挙に立候補し初当選。現在3期目。

茨城県庁からの出向で副村長を務め、東日本大震災後の2013年に村長に就任した。

東海第二原発、日本原子力研究開発機構など原子力関連施設が集積する村のかじ取りを担う。

水戸市に生まれ、高崎経済大学卒業後は茨城県庁に入庁。県庁時代はさまざまな部署を渡り歩き、東海村とのかかわりはほとんどなかったが2010年4月、出向で副村長に就任した。当時は東海第二原子力発電所が稼働中。関連企業で働く人も多く「原子力が地域経済を支えている」と実感した。

13年9月、震災後に反原発の旗色を鮮明にした村上達也前村長が4期目の任期を終えようとしていた。支持者からは「もう1期」という声もあったが、村上氏は悩んでいたという。東海村へ来て3年間、村民はいい人ばかり。原発を巡って対立する姿は見たくなかった。そんな中、ある有志のグループから山田氏擁立の機運が高まり、原発問題は「中立」という立場で村上前村長からも後継指名を受けた。地元出身ではないが、「村民の対立を私が防げるのなら」と火中の栗を拾う気持ちで出馬を決意した。

原子力は日本のエネルギー供給にとって重要だと考えている。東海第二原発の再稼働判断については、「原子力規制委員会の最終的な審査、広域避難計画などの防災対策の整備、住民の意向把握」が不可欠だが、震災後に再稼働した原発が全て加圧水型原子炉(PWR)に偏る中で「沸騰水型原子炉(BWR)の再稼働は必要」との考えを持つ。

現在、東海第二原発は安全対策工事中で、ゼネコンなど多くの人が村内で働いている。しかし、震災前には定期検査など運転に関わる人たちの雇用があった。さらに村には、日本原子力発電だけでなく、核燃料を製造する三菱原子燃料と原子燃料工業(原燃工)が所在する。前者はPWR用の燃料を製造するが、後者はBWR用だ。原燃工の社員の中には、家族を村に残し単身赴任で関連企業に出向している人も少なくない。BWRが再稼働すれば、原燃工の社員が家族とともに過ごすことができる。再稼働には税収や雇用だけではなく、村民により豊かな生活をもたらす効果もあるのだ。