【コラム/7月18日】2023年度第1四半期の制度設計を振り返って


加藤 真一/エネルギーアンドシステムプランニング副社長

2023年度も第1四半期が終わり、夏本番を迎えている。毎年のように夏冬の電力需要ピーク時期は節電や省エネを意識するようになっているが、今年もその傾向は変わらない。

一方で、電気事業をはじめとしたエネルギーに関わる政策や制度は、毎月のように多く開催される審議会などで議論・審議・報告されているように、その変化は終わりを知らないものとなりつつある。

今回は、この第1四半期の制度設計の状況について、簡単に振り返ってみることとしたい。


年度が替わっても相変わらずの慌ただしさ

筆者が追っている審議会などの開催件数は第1四半期の3カ月間で約100件と多く、その議論の内容も資源燃料から発電、送配電、小売り、その他、金融から省エネ、分散型エネルギーリソースの活用、保安、デジタル、地域、環境など、幅広に展開されており、その一つひとつを把握することに加え、それぞれの制度間の関係や、さらには事業への影響を踏まえた活用まで考えると、全体像を理解するのはなかなか困難なことである。

第1四半期は国や自治体、多くの企業にとって、年度の開始であるではあるが、通常国会の会期末であることに加え、毎年、この時期に政府が経済政策を打ち出すため、どうしても、その前までに各審議会などで議論を整理しておく必要があることも、上述のような慌ただしさの要因の一つではないかと考えている。


第1四半期に行われた議論

では、これだけ多くの審議会などで議論が行われ、様々な取りまとめがなされた第1四半期には、具体的に何があったのか。資料1に整理してみた。

大きな流れはこれまでと変わらないが、筆者の整理としては、3つの軸で進んでいると考えている。

1.「方針の提示」

これは政府が示す経済政策などの方向性になる。例えば、今で言えばGX推進のための政策である。第1四半期で言えば、新しい資本主義実現のためのグランドデザインの中に織り込まれているほか、G7の札幌会合でも日本の意を汲んだ内容が盛り込まれ、通常国会では2つの関連法案「GX推進法」、「GX脱炭素電源法」が審議され成立している。

2.「具体的な制度設計」

上記1における法改正や関連審議会の取りまとめがなされた施策については、実務で活用していくための詳細議論が行われる。例えば、GX推進法では、今後10年間で150兆円と言われる投資を支えるために国が主導して発行するGX経済移行債は既に今年度の予算措置が取られているが、その償還財源とされる化石燃料賦課金(28年度導入予定)と排出量取引における発電事業者への有償割当(33年度開始予定)の具体的な設計は、今後2年間かけて検討することとなり、その役割を担うのが、同法で規定されているGX推進機構(今後、創設)となる。

一方、GX脱炭素電源法では、原子力関連と再エネ関連の2つが織り込まれているが、そのうち再エネ特措法については、法成立後、直ぐに関連審議会での議論を始めており、その施行は来年4月を予定している。

特に、最近ではカーボンニュートラル実現に向けた具体策の議論は進んでおり、資源燃料関連であれば、水素・アンモニア、メタネーション、合成燃料、バイオガスなどが、発生したCO2の対応としてCCUSに関する政策の方向性は整理されつつあり、実用化に向けた技術開発支援(GI基金)や予算を活用した調査委託、関連法令などの整備といった準備や具体検討に入り始めている。

脱炭素施策の別の施策として再エネの普及・最大限活用が挙げられているが、特に送配電部門の対応の議論が進みつつある。例えば、系統増強では3月に公表されたマスタープランを踏まえた整備を進めるために「GX脱炭素電源法」の中で電事法を改正し、重要な整備計画などを大臣が認定、資金的な手当て(再エネ賦課金、広域機関による貸し付け)を行うことが規定されたが、この重要な整備計画などの規模について、具体的な制度設計を始めている。系統運用面では、再エネ出力制御量の低減や、ノンファーム型接続のローカル系統での受付開始を踏まえた、今後の系統混雑解消の対策や取り決めの議論を始めている。

エリア需給バランス維持のために行う再エネ出力制御については、この6月に関西エリアで初めて発動したことで、東京エリア以外すべてで実績が出ることとなった。30年度の電源構成上の再エネ目標を実現するには、案件形成やO&Mの高度化などによる発電量増加も必要だが、この再エネ出力制御量の低減も課題となっている。既に4つの包括パッケージを打ち出し、詳細検討や実施を始めているが、特に、需要側の対応(蓄電池の導入・活用、㏋給湯器による上げDR、それらを生かすことができる電力メニューの提供など)も重要と位置付けられ、エネルギー小売り事業者への間接規制や、機器へのDR Readyの搭載促進、揚水発電の最大限活用など、年内には包括パッケージの見直しを行うこととしている。

さらに、小売り電気事業者については、カルテル事案や情報漏洩発生も踏まえ、より一層、健全な競争環境構築について大臣指示が出ており、こちらも電取委含め、具体的な議論を始めている。

電力小売りで言えば、旧一電の内外無差別な卸売について、昨年度来、入札やブローカー取引、個別協議を各社が進め、この6月に電取委にて一定の評価が出された。結果として、北海道・沖縄の2社で内外無差別と評価されている。

【電力】関西電力の発販分離 みそぎのつもりなのか


【業界スクランブル/電力】

2023年4月、経済産業省から「関西電力に対し、小売電気事業の健全な競争を実現するための対応について指示を行いました」と題するプレスリリースが発出された。

いわく、同社が、「役職員による多額の金品受領問題に係る業務改善計画」を履行中にもかかわらず、一般送配電事業者の有する非公開情報の不正閲覧・情報利用、カルテル行為といった不祥事が重なったことを受け、一連の不適切事案の再発防止及び電力システム改革の趣旨に沿った小売電気事業の健全な競争を実現するため、「関西電力が保有する電源の内外無差別な卸取引を強化」「魅力的で安定的な料金、サービスの更なる選択肢の拡大」を速やかに検討するように指示したとのことである。

また、検討に当たっては、これらを実現するための発電事業・小売電気事業の在り方も併せて検討せよとのことで、関西電力社長は、発電と販売を分離する発販分離を検討することの表明でこれに応えている。

端で見ていると、非常に奇妙な話だ。まず、役職員による多額の金品受領問題も、非公開情報の不正閲覧・情報利用も、カルテル問題も、電源の内外無差別な卸取引とは何の関係もない。また、一部事業者に課している非対称な供給義務を放置したまま火事場泥棒的にそれを進めるなら、制度のゆがみが拡大するだけだ。

特に、現在のように燃料費調整に上限が課された規制料金を放置したまま発販分離をしたら、燃料市場が再び高騰した際には、小売会社はたちまち債務超過の危機に陥るだろう。この点は、東電EPが反面教師になっていないのか。

発販分離が、不祥事を重ねている関西電力のみそぎのつもりなのかもしれないが、愚策としか思えない。(V)

険しい世界の脱炭素化 問われるG20の本気度


【ワールドワイド/環境】

5月21日に閉幕した広島サミットではエネルギー・温暖化が主要な柱の一つだった。温暖化分野においては2025年までに世界全体の温室効果ガス排出量をピークアウトさせる、IPCC第6次評価報告書を踏まえ、世界の温室効果ガス排出量を19年比で30年までに43%、35年までに60%削減することの緊急性を強調。新興国に対し1・5℃を目標に整合的にNDCを見直し、COP28までに提出すること、50年カーボンニュートラル(CN)にコミットすることを求めるなどのメッセージが盛り込まれた。しかし世界全体の排出量に占めるG7のシェアは25%程度であり、世界の温暖化防止に決定的な影響力を有するのはG20である。60年、70年CN目標を掲げる中国、インドがG7の要求に応えるとは考えられない。

G7共同声明では「遅くとも50年までにエネルギー・システムにおけるネット・ゼロを達成するために、排出削減対策が講じられていない化石燃料のフェーズアウトを加速させるというわれわれのコミットメントを強調し、他国に対してわれわれと共に同様の行動を取ることを呼びかける」としているが、23年のG20議長国インドは5月のG20エネルギー転換ワーキンググループにおいて、欧米の主張に対し、「複数のエネルギー経路」をG20のコンセンサスにすべきであるとの考え方を提示した。

インドはCOPなどで提唱される石炭フェーズアウト論に対し、「各国の置かれた事情が異なる。気候変動枠組み条約の共通だが差異のある責任に反する」との理由で反発してきた。インド電力省の石炭クリーン化計画においては欧米が排除する超超臨界、超臨界石炭火力発電の導入が柱として組み込まれている。こうしたインドのポジションは中国、南アなど、ほかのG20の支持も受けているようだ。G20の非OECD諸国は「目指すべきは脱炭素化であり、特定のエネルギー源のえり好みや排除ではない」という考え方であり、本年のCOP議長国であるアラブ首長国連邦(UAE)も同様であろう。エネルギー、温暖化に関しG7とG20は同じページにいない。

インドは欧州が導入を進める炭素国境調整措置に対しても「差別的であり、温暖化防止に偽装された保護主義を認めないという枠組み条約の趣旨に反する」とWTO提訴を検討しているという。脱炭素化への道は険しい。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院特任教授)

ネパールが電力輸出へ インドとの連携がカギ


【ワールドワイド/経営】

ネパール政府は5月16日、バングラデシュ政府との間で、4万kWの電力を輸出することで合意した。今後、年内の電力取引を実現するため、インド政府とともに三国間の電力取引協定の締結を急ぐとしている。

ネパールとバングラデシュは地理的に非常に近い位置にあるものの、国境を接しておらず、両国の間にはインドがある。ネパールはこれまでも雨季の余剰電力をインドに輸出していたが、この計画が実現すれば、インド以外の国に初めて電力を輸出することになる。

ネパールの国土は北部に8000m級の山々を擁するヒマラヤ山脈、中央部に丘陵地帯、そして南部には低地のタライ平原が広がる。タライ平原の最低標高は海抜70mで、南北の標高差が非常に大きい。このような地理的条件から水資源が豊富にあり、理論的な包蔵水力は8300万kW、技術的・経済的に開発可能な包蔵水力は4200万kWあるとされる。

一方で、開発済みの設備容量は5%にとどまる。同国の電源構成は95%が水力発電で、そのほとんどが流れ込み式水力である。そのため、発電電力量は季節変動が大きく、雨季(5~10月頃)には電力をインドに輸出し、乾季(11~4月頃)には不足分をインドから輸入する。政府は民間資本を誘致して水力開発を積極的に進めており、数年以内に電力の純輸出国となることを目指している。

なおネパールでは10年ほど前までは電力不足から1日12時間にも及ぶ停電が生じていたが、インドとの間で40万Ⅴ国際連系線が運開したこと、IPP(独立系発電事業者)による電源開発が進んだことなどから現在、停電はほぼ解消されている。同国では16年の総裁就任後、電力不足問題を直ちに解決したとして、ネパール電力公社のギシン総裁の人気が非常に高い。

ネパール政府は現在、さらなる水力開発を進めるため、インドへの輸出を念頭に、民間企業が電力取引に参加できるよう法改正を検討している。このほか、電力輸出量の増加に対応するためインドとの間で複数の40万V国際連系線の建設が計画されている。

ネパールの電力輸出を実現するには、中心に位置するインドの動向が鍵となる。インド政府は近年、周辺国との連系線強化など電力分野でも周辺国との連携を積極的に進めている。また、恒常的に電力が不足しているバングラデシュでは、41年までに発電電力量の40%をクリーンエネルギーで賄うこと、国外から900万kWの電力を輸入することを目標としている。

(栗林桂子/海外電力調査会・調査第二部)

ロシアが狙うガス輸出 中央アジア経由の可能性は


【ワールドワイド/資源】

 2022年のロシアの天然ガス輸出量は、それまで8割を占めていた欧州向けが2割まで落ちたことにより、全体で前年の約半分まで減少した。ロシアはその代替となる輸出先を探している。現実的なのは中央アジアだ。地理的、政治的、経済的にロシアと関係が近い上に、カザフスタン、ウズベキスタンは需要の拡大が見込まれ、旧ソ連時代からの輸送インフラを利用できる。

カザフスタンは近年の脱炭素の流れの中で、これまでの強い石炭依存からの脱却のため、石炭からガス利用への転換を推進している。ウズベキスタンは中央アジア諸国で最大の人口を抱え、人口増加に合わせてガス需要が伸びる一方、国内のガス田は生産量減退が続いている。両国とも自国内で生産されるガスを内需に充てるためにガス輸出を今年か来年にも完全停止する見込みだ。ロシアにとっては、需要のあるこれらの国にガスを供給し、さらに彼らが停止する中国向け輸出を代わりに実行するという可能性を追求できる。

ただし、いくつか課題がある。最大の問題は供給価格だ。カザフスタンでもウズベキスタンでも、国内のガス供給価格が低い。ロシアは従来、安い中央アジア産のガスをロシアの国内供給用に輸入して、自国で生産されるガスを高く売れる輸出に回すという構図を作っていた。中央アジア向けに輸出する場合は同地の価格に合わせる必要がある。22年1月には燃料価格の急騰を発端としてカザフスタン全土で暴動が発生した。ロシア産ガスの輸入が国内価格引き上げを起こす可能性があれば、中央アジア側から強い抵抗があろう。

ロシアが中央アジアへのガス供給を実現しても、その先の中国への輸出はまだ遠い。まず中国側にロシア産への需要があるのかが見通せない。中国のエネルギー需要は伸び代があるが、近年の中国には石炭を含めた国産資源での供給を志向し、ロシアから新しいガス調達ルートを確保しようという積極的な動きは見られない。中央アジア経由でなくとも、ロシアは中国向けのガス輸送ルートとして「シベリアの力2」パイプラインの実現を以前から目指しているが、中国側は沈黙を貫いている。

また世界4位の天然ガス埋蔵量を持つトルクメニスタンの存在も無視できない。同国もウズベキスタン、カザフスタンを経由するパイプラインで中国向けガス輸出を拡大中だ。ロシアが中央アジア経由でさらに東へのガス輸出を目指す場合、トルクメニスタンとも何らかの取引が必要になるだろう。

(四津 啓/独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構調査部)

【インフォメーション】エネルギー企業・団体の最新動向(2023年7月号)


【東京ガス/法人・自治体向けEV導入支援サービスを開始】

東京ガスは、法人・自治体向けEV導入支援サービス「チャージプランナー」の提供を開始した。複数の車両を保有する法人や自治体が対象で、EV切り替え導入や充電設備の導入などに関する困りごとをワンストップで解決する。ガス空調やコージェネレーションシステムで培った設備コンサルティングのノウハウや、エネルギーマネジメント技術を活用する。自社で開発したEV充電マネジメントシステムで充電器を自動制御し、電気料金の上昇を抑制する。充電設備の導入では、設置から故障対応までトータルでサービス。導入の初期費用を同社が負担し月々のサービス料として提供することで、顧客は導入コストを平準化できる。サービスは関東エリアで開始し、順次拡大する予定。


【北海道電力ほか/1000kWクラスの水素製造設備の運用を開始】

北海道電力はこのほど、苫東厚真発電所の隣接地で1000kWクラスの水素製造用の水電解装置と水素出荷設備の運用を開始した。水電解による水素製造装置は、再生可能エネルギーの余剰電力や出力変動を吸収。再エネのさらなる導入拡大を図ることができるため、次世代エネルギー設備として期待を集めている。今回導入した水電解装置は寒冷地に対応する。運用することで、安定かつ効率的な水素製造に向け、運用・保守技術の確立を図る。また、水電解装置を製造した日立造船と水素の貯蔵・輸送技術を持つエア・ウォーターと協力し、得られた建設・運用・保守のノウハウを活用することで、北海道における水素供給体制の整備を進める。


【NTT/風力発電の風車を無停止点検する実証開始】

日本電信電話(NTT)は5月、世界で初めて風力発電風車の無停止点検を実現する技術の実証実験を始めた。この技術は、点検対象構造物を挟み込む形で飛行させた2機のドローンの間で、どこでも使用できる無線局免許不要の微弱無線の送受信を行い、その受信信号の変化を解析すると、送受信間にある構造物の損傷有無を検知できるものだ。従来は、風車を停止して点検を行っていたため、発電効率の低下が生じていたが、これを回避可能とすることで、発電効率が向上する。今後は、実際に屋外で運転中の複数の風力発電に対して実験を行い、実物でも損傷検知が行えることを確認する予定だ。同社はさらなる研究や実証実験を重ね、脱炭素への貢献を目指す。


【東北電力/佐渡島に蓄電池システムを設置へ】

東北電力ネットワークは、両津火力発電所構内(新潟県佐渡市)の敷地内で蓄電池システム(出力5000kW)の設置工事を開始した。同社は佐渡島において再生可能エネルギーの導入拡大に向け、蓄電池、内燃力発電、エネルギーマネジメントシステムなどを組み合わせた最適な需給制御の実現に向け取り組んでいる。今回の設置工事はその一環で、今年12月の営業運転開始に向けて、工事を進めていく。他のエネルギー設備も2024年度までに順次運用を開始する。


【大林組・東亜建設工業/大型洋上建設に対応 SEP「柏鶴」が完成】

大林組と東亜建設工業が共同で建造を行っていたSEP(自己昇降式作業台船)「柏鶴」が完成した。洋上風力発電設備の大型化に対応し、クレーンの吊り上げ能力を増強している。風車の基礎から組み立てまで対応できる。施行状況を3Dで可視化し、船の動きをリアルタイムで共有することも可能。基本設計から建造まで、ジャパンマリンユナイテッドが一貫して行った。国内の気象・海象条件を踏まえ、日本特有の建設条件に幅広く対応した仕様になっている。風車メンテナンスや地盤調査用の作業台船としても使用できる。


【清水建設/脱炭素アスファルト開発 バイオ炭でCO2を固定】

清水建設はグループ会社の日本道路とCO2固定効果のあるバイオ炭を用いて、道路舗装に使用するアスファルト合材に炭素を貯留する、脱炭素アスファルト舗装技術の共同開発を始めた。森林資源由来のバイオ炭を利用することで、製造過程で生じるCO2排出量を実質ゼロにする。CO2固定量が排出量を上回るカーボンネガティブのアスファルト舗装材の実用化を目指す。施工現場での実証試験を通じ、バイオ炭を混合したアスファルト合材の施工性や耐久性を検証し、今年度内に道路舗装工事に実適用する考えだ。


【三菱造船/舶用エンジン向けアンモニア供給装置を納入】

三菱重工グループの三菱造船はこのほど、舶用大型低速2ストロークエンジン向けのアンモニア燃料供給装置を、エンジンの製造などを手掛けるジャパンエンジンコーポレーション(J-ENG)に納入したと発表した。J-ENGは現在、長崎市の三菱重工業総合研究所長崎地区で、新開発の舶用大型低速エンジンを使った多様な条件下でのアンモニア燃料試験を実施している。三菱造船が今回納入したアンモニア燃料供給装置も同地区に設置され、同試験でエンジンへの燃料供給を担っている。アンモニアは燃焼してもCO2を排出しないため、温室効果ガス(GHG)排出削減に大きく寄与する。同社は今後も、海事業界のGHG排出削減と脱炭素化社会に貢献していく。


【ジャクリジャパン/新型ポータブル電源発売イベント開催】

ジャクリジャパンは6月、新製品発表会を開催した。同社で初めてリン酸鉄リチウムイオン電池を採用した「Plusシリーズ」を発売する。当日は、濱口優・南明奈夫妻によるトークセッションも行われた。「Jackery Solar Generator 2000 Plus」のポータブル電源は、従来機の高速充電性能を踏襲しながら、新たにリン酸鉄リチウムイオン電池を採用。バッテリーの長寿命化などを実現した。ソーラーパネルとのセットで、家庭用の発電システムとして使える。


【NextDrive/鳥取のPPA事業と連携 検針から請求まで管理】

NextDriveが提供するIoEプラットフォーム「Ecogenie+(エコジーニープラス)」が、中海テレビ放送のPPA向け従量課金システムのインフラに採用された。電力メーター管理システム、顧客管理システムと一体的に稼働し、差分計量データの取得から請求までを一気通貫で行う。各地で進展するPPAモデルに合わせた、充実したサービス提供を目指していく。


【ヒートポンプ・蓄熱センター/東京・虎ノ門地区が受賞 蓄熱とコージェネで運用】

ヒートポンプ・蓄熱センターが主催する「デマンドサイドマネジメント表彰」が開催された。資源エネルギー庁長官賞には、虎ノ門一丁目地区の地域冷暖房の事例が選ばれた。大型水蓄熱槽とコージェネを組み合わせたシステムでエリア全体の電力負荷平準化に貢献。電力のひっ迫時には需要家への影響を与えることなく消費電力を低減することが評価された。


【デンソー/工場のエネマネシステム実証実験を開始】

デンソーは、愛知県内の工場でエネルギーマネジメントシステム(EMS)の実証実験を5月から開始した。今回の実証は、同社が開発した固体酸化物形燃料電池(SOFC)を中心に、電気を工場に送電する蓄電池およびV2G(Vehicle-to-Grid)、太陽光発電パネルで構成され、愛知県の西尾製作所「ポケットパーク」内に設置する。同社のSOFCは、自動車用部品で培った熱マネジメント技術やエジェクターの燃料リサイクル技術が導入されたもので、世界最高レベルの発電効率65%を目指している。

報告書の内容を正しく知るには 日経よりまずAIで


【おやおやマスコミ】井川陽次郎/工房YOIKA代表

好みもあるだろうが、国際エネルギー機関(IEA)の報告書を紹介する文はどちらがいいか。

まず日経6月2日「再エネ電源、世界で5割規模へ、発電能力が化石燃料に匹敵、送電・安定供給に課題」は、「世界で太陽光など再生可能エネルギーの導入が急拡大している。IEAは1日、2024年の再生エネ発電能力が約45億kWになる見通しを公表した。50年の二酸化炭素(CO2)実質排出ゼロに向けて各国が導入を加速したほか、ロシアのウクライナ侵攻で化石燃料の輸入依存への危機感が強まったのが要因」と書く。

流行りの「生成AI(人工知能)」の一つ、マイクロソフト版「bing」による要約は、「IEAは報告『再生可能エネルギー市場更新版』を発表した。その要旨によると23年の世界の再エネ容量は、上乗せ幅が過去最大の1.07億kWに達し、4.4億kW増える見通しだ。政策支援の拡充やエネルギー安全保障への懸念、価格競争力の改善が拡大を後押しした。課題として、金利上昇や投資コスト高騰、機器供給網の維持を挙げた」だ。

人間はバイアスをかける。AIは淡々とまとめる。差が分かる。例えば日経は、「2024年の再生エネ発電能力が約45億kW」について「原子力や火力発電所のように24時間発電できるわけではないが、原発4500基分」と解説する。再エネと原子力は能力や発電量、使いどころが全く違う。バイアスに何の意味があろう。

実は太陽光・風力発電は「出力が変動する再エネ」(Variable Renewable Energy、VRE)の名が与えられ特別扱いされている。

variable(移り気)の字義通り気まぐれで、太陽光発電は曇りの日は発電量が落ちる。夜は眠り、晴天の昼はフルに発電する。風力発電も本質は風まかせだ。だからVREが働いていない時は、火力発電など他の電源や蓄電池でバックアップし、ガンガン発電する時は、都市部など大消費地に電気を送り届ける。そのために発電所をいつでも運転できるよう待機させ、送電網も強化する、といった対策が求められてきた。

エコ(依怙)贔屓である。それでも、導入量が飛躍的に増えている理由は、variable(変幻自在)でもあるからだ。多彩な規模の発電設備を比較的速やかに造れる。運転時に燃料が要らず、温暖化ガスは出さない。

エコ贔屓はどこまで可能か。コストをかけず、悪影響を最小限に抑えるにはどうしたらいいか。メディアに必要な視点だろう。

朝日5日「関西で初の出力制御」は、「関西電力送配電は4日、太陽光や風力などの再生可能エネルギーの受け入れを一時的に止める『出力制御』を、午前9時~午後1時半に実施した。これまで、発電量に比べて使用量の比較的少ない地域に限られていたが、太陽光発電の拡大を受け、関西でも初めて行われた」「電気の使用量と発電量のバランスを保って大規模停電を防ぐ狙いがある。4日は休日で工場の稼働が少なく、電気の使用量が減るが、晴天で発電量が伸びる予想だった」と伝える。

IEA報告書には「VRE普及で出力制限が増える」傾向を示す世界のデータが載っている。日本の出力制限はこれまで1%に満たない。送電網が充実した欧州でも、ドイツやイタリアは日本の10倍以上、島国の英国、アイルランドはさらに高い。中国も同じだ。

ギリギリまでVREを送電網に受け入れてきた関係者の努力のおかげだろう。少したたえていい。

いかわ・ようじろう  デジタルハリウッド大学大学院修了。元読売新聞論説委員。

【コラム/7月14日】再生可能エネルギー電力促進のための様々な方策


矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

再生可能エネルギー電力促進のための方策は、以前のコラム(5月16日)で述べた経済的なインセンティブ付与にとどまらない。空間システムの設計方法や計画策定手続きへの市民参加、さらには環境分野における専門家の育成などで、再生可能エネルギー電源拡大に向けてパブリックアクセプタンスの向上を図ることができる。本コラムでは、その現状を先回同様、主としてドイツの事例で紹介したい。

空間システムに関しては、未利用地だけでなく既利用地でも再生可能エネルギー電源設置の可能性がある。とくに太陽光発電の場合は、他の空間利用との組み合わせが可能である。例えば、太陽電池モジュールを建物の外壁に組み込むことで、発電だけでなく、断熱、防風、遮音、調光などの機能を持たせることができる。現在のところ、建物一体型太陽光発電の可能性については、様々な研究が進展している。また、大規模駐車場の通路面での太陽光パネルの設置も考えられる。さらに、既存の交通・エネルギーインフラに沿って太陽光パネルを集中的に設置する可能性についても検討されている(高速道路沿いやガスパイプライン上部への設置)。高速道路沿いの設置では、ソーラーノイズバリアとしての可能性についても研究が進展している。

また、ドイツでは、かつての褐炭や石炭の採掘場に大規模ソーラーパークやウィンドパークを建設する計画がある。これらの土地は、すでに何十年も前からエネルギー生産が行われてきた場所であり、土地の継続的な利用により、雇用が維持されるなど、地域経済にプラスの効果が期待できる。例えば、大手電力会社RWEは、2022年に、褐炭の採掘場であるインデン(Inden)で大規模ソーラーパークを稼働させており、同じく褐炭の採掘場であるガルツヴァイラー(Garzweiler)においても2023年に、蓄電池併設型ソーラーパークを稼働させる予定である。

さらに、農地に太陽光発電設備を設置するアグロフォトボルタイックは、生物多様性の保全に貢献し、土地利用をめぐるコンフリクトを軽減させることから、発電設備設置についてのアクセプタンスを促進する可能性がある。ドイツでは、再生可能エネルギー法EEG2023で、地上設置型の太陽光に関してアグロフォトボルタイックの設置規制が緩和された。上述のガルツヴァイラーでは、アグロフォトボルタイックの実証試験も行われる予定である。

空間システムの設計だけでなく、計画手続きに初期の段階から市民を関与させることで、アクセプタンスの向上を図ることができる。ドイツでは、連邦空間計画法で、空間計画の草案は、縦覧に供せられ、市民に意見を述べる機会を与えなくてはならないことを定めている。また、空間計画において、優先地域(自然や景観、風力発電の優先地域など)、留保地域、適性地域(風力発電など、ある用途に適していると宣言された地域)などを指定すること(ゾーニング)を可能にしている 。州は、連邦空間計画法に基づいて、州全体および地域(Region)の州開発計画を策定するが、地域計画で優先地域、留保地域、適性地域などの指定を行う。

連邦、州、地域レベルの空間計画は、地方自治体レベルの都市土地利用計画を通じてより具体化されるが、自治体の計画では、地域の計画よりもより具体的な再生可能エネルギー電源のゾーニングが行われる。

わが国では、都市計画や地区計画の策定プロセスにおいて住民参加に関する規定は存在しているが、再生可能エネルギー電源の明示的なゾーニングは規定されていない。このような中で、2021年5月に地球温暖化対策推進法(温対法)が改正されたことにより、地方自治体は地球温暖化対策実行計画を策定し、温室効果ガス排出量の削減に努めることが義務づけられた(2022年4月施行)。温暖化対策実行計画の中では、各自治体は、ステークホルダーとの協議を踏まえて、地域の再生可能エネルギーを活用した脱炭素化を促進する事業(地域脱炭素化促進事業)に係る促進区域や環境配慮、地域貢献に関する方針などを定めるよう努めることが規定されている。各自治体が積極的に再生可能エネルギー促進区域を指定することで、再生可能エネルギー電源の設置が促進され、地域経済が活性化することが期待される中で、2022年7月に全国ではじめて長野県箕輪町が促進区域を設定し、神奈川県小田原市、福岡市、岐阜県恵那市などがこれに続いた。現在、27市町村にてゾーニングを進めているが、その数は未だに少なく、制度の改善が求められている。

さらに、再生可能エネルギー電源拡大のために必要なパブリックアクセプタンスの向上には、エネルギー転換に関する知識基盤の拡大や専門家の教育が求められる。人々の知識基盤の拡大に関しては、エネルギー転換に関する幅広い教育が、関連するインフラ計画に対する理解を深めることになると考えられる。また、エネルギー転換にともなう新たな技術に関連する専門家の教育が必要となる。例えば、エネルギー転換を効率的に達成するためには、デジタル技術が欠かせないが、そのためには、新たな規制のあり方、データ管理、ITセキュリティなどの新しい課題に対応する力が専門家には求められている。さらに、再生可能エネルギー電源のネットワークへのフィードインの増大にともない、新たな構造をもつネットワークの安全な運用も確保されなければならない。そのためには、集中型と分散型の両方の構造やそれらの相互作用に関する知識が必要となるだろう。


【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授、東北電力経営アドバイザーなどを歴任。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。

大阪から創る都市ガスの未来 メタネーション技術開発が加速


【大阪ガス】

2050年カーボンニュートラル(CN)実現を目指し、都市ガス業界が力を入れるメタネーション。経済産業省のグリーン成長戦略では、e―メタンを30年に1%注入という目標を掲げている。そんな中、大阪ガスがメタネーションの商用化に向けた研究開発を行っているのが、21年に開設したカーボン・ニュートラル・リサーチ・ハブ(CNRH)だ。

最も早い商用化が期待されるのは、すでに技術が確立しているサバティエメタネーション。水を電気分解して水素をつくり、CO2と反応(サバティエ反応)させて合成メタンを生成する基本的な技術だ。商用化にはプラントの大規模化が課題となっていたが、大阪ガスは24~25年度、INPEXの長岡鉱場(新潟県)隣接地で家庭用1万戸に相当する世界最大級の実証を予定。CNRHではこの大規模実証に向けて実験が行われているが、都市ガスとe―メタンの燃焼力に差がないことが確認できた。

バイオメタネーション技術の進展も著しい。バイオメタネーションは、生ごみを処理して生まれたバイオガスから不純物を取り除き、CO2とともに発酵させる。そこに水素を吹き込んでメタンを生み出す技術だ。サバティエメタネーションが「化学の力」なら、こちらは「生物の力」。来年度には大阪市舞洲地区のごみ焼却工場で、また25年度には大阪・関西万博の会場内で実証が行われる。

超高効率メタネーション 小さなセルが未来を変える

CNRHの取り組みで最も革新的なのが、SOEC(固体酸化物形電解セル)を用いたメタネーション技術だ。SOECを利用することで、これまでの1・5倍程度のエネルギー変換効率が実現できるといい、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が公募した「グリーンイノベーション基金」にも採択された。一体、これまでの技術と何が違うのか。

SOECメタネーションで製造したメタンにともされた火

SOECメタネーションでは、メタン合成時に生まれる廃熱を、SOECを用いた電解装置で有効活用する。放熱ロスを少なくし、水電解・メタン合成というプロセスを一貫して行うことができるのだ。21年1月には、SOECの低コストとスケールアップに適した新型SOECの実用サイズセルの試作に国内で初めて成功。メタネーションが実用化した後の〝革新的メタネーション〟として日の目を見ることになるだろう。

CNRHが立地する酉島地区は、大阪ガスが長年、石炭や石油から都市ガスを製造してきた土地だ。歴史を感じるこの場所で、さまざまな共同研究パートナーと都市ガスの未来を創っていく。

コミュニケーション成立の鍵 専門家にこそリベラルアーツを


【オピニオン】岸田一隆/青山学院大学経済学部教授

青山学院大学には「青山スタンダード」と呼ばれる科目群がある。所属する学部・学科にかかわらず、全ての青学生がその科目群のどれかを受講しなければいけない全学共通のリベラルアーツ(教養)関連科目のことである。私は現在、青山スタンダード教育機構の副機構長として、カリキュラム全体の運営の責任の一部を担っている。

リベラルアーツというと、広く浅く教養を付けて教養人となったり、専門教育を学ぶ前の準備として学習したり、などといった準備段階の勉強というイメージを持つ人も多いだろう。だが、私が青山スタンダードで考えているリベラルアーツは全く違ったものである。例えば、戦いを遂行する際に、特定の武器の扱いに詳しくなるだけでは勝利することはできない。戦場となる地域の地形や気候、その土地の歴史や住民たちの考え、同盟国や敵対国との外交関係などなど、あらゆる要素を全て考えなくてはならない。こうして見ると、専門分野の知識というものは「特定の武器の扱い」にすぎず、大切なのは「あらゆることを考える」ことだと分かる。これがリベラルアーツの本質である。

一人の人間があらゆることに目を配るのは不可能に思えるかもしれない。だが、意外にも一つのものを持つだけで可能となる。それは「責任感」である。小さな赤子を育てる親にとって、子育ては自分ごとである。だから、健康・栄養・教育・環境など、あらゆることに配慮する。医学や栄養学や教育学の専門家ではなくても、自分なりに学ぼうとする。全ての分野について専門家レベルの知識を身に付けることは無理だが、それなりにバランスよく知恵を備え、総合的に判断できるようになる。リベラルアーツの本質とは責任感にあると私は考えている。

私が青山スタンダード科目を担当することになった時、迷うことなく選んだ題材はエネルギーであった。エネルギーの話題を扱おうとすると、非常に多岐にわたる分野と関連することが分かる。科学技術をはじめ、産業・経済・環境・社会システムなど、身近な問題から世界全体に関わる大きな問題まで、考えなくてはならないことは幅広い。リベラルアーツを養うには格好の題材といえるだろう。そして、共同体としての人類に対して責任感ある判断を下せるようになるのが、私の科目履修の最終目標である。

本誌の読者や執筆者の多くはエネルギーの専門家であり、日夜責任ある判断を下す立場にあるだろう。だが、時に自らのリベラルアーツの幅の広さを自問していただきたい。現実問題の多方面の知識や情報だけでなく、地球史や文明史まで遡って持続可能性を論じてほしい。進化論や脳科学などから人間を理解して、一般市民を自分と同じ共同体の成員として連帯してほしい。そして、時には自分の側が変わることも恐れないでほしい。豊かなコミュニケーションを成立させる鍵はリベラルアーツにある。専門知識はそのための準備にすぎない。

きしだ・いったか 東京大学大学院理学系研究科修了。1988年東京大学物理学科助手。93年理化学研究所研究員。2016年4月から現職。専門は科学コミュニケーション、原子核・素粒子物理学。理学博士。

環境省・脱炭素先行地域に選定 蓄電池やLPガスでグリッド構築


【地域エネルギー最前線】 鹿児島県 日置市

市として地域新電力を立ち上げ、九州電力よりも割安な料金メニューで顧客数を増やしてきた。

民間企業と連携して小規模電力網を構築。その運用ノウハウを活用しながら脱炭素先行地域に選ばれた。

4月末、環境省の「脱炭素先行地域」に選定された鹿児島県・日置市。工業団地や住宅エリア、公共施設群を対象に再エネを主体に脱炭素を目指している。

民生部門に対しては、PPA(電力販売契約)事業により、太陽光発電と蓄電池(計1300kW分程度)を導入し、さらに未利用地や耕作放棄地に6600kW程度の太陽光を設置する。小規模な水力発電も利用する。民生分野以外では、工業団地の民間施設に太陽光(約700kW)を導入し、将来的にはRE100を目指していく。

期待される効果は、①再エネ事業による収益の一部を積み立てた基金で持続可能な投資に回していくこと、②再エネ事業を通じ、地元の公立高校と連携しながら再エネ人材を育成すること、③工業団地で再エネ導入を進めることによる企業ブランドの向上―が挙げられる。いずれの取り組みにおいて中心的な役割を担うのが、社員数わずか3人の地域新電力、「ひおき地域エネルギー」である。

同社の前進となる組織、ひおき小水力発電推進協議会(会長=宮路高光・日置市長、当時)が立ち上がったのは2013年。その後、LPガス販売を担う太陽ガスや日置市などが出資して、現在のひおき地域エネルギーが誕生する。16年には電力の小売り事業に進出。発足から10年近くの歴史を持つ老舗の地域新電力だ。その間、小型の水力発電を自前で整備した。

「地域の経済を回すという意味で、エネルギーコストを地域内に循環させる仕組みを作りたかった。収益の一部を基金に積み立て、子育て世帯向けに電気の基本料金を2年間無料にするなどのサービスに充当している」。日置市総務企画部企画課ゼロカーボン推進係の井上英樹係長はこう話す。

ひおき地域エネルギーは小売り事業を本格的に始めて以降、九州電力と比べて電気料金を10%程度の割安な価格で提供することをうたい文句に、業績は黒字続きだった。また、同社と日置市は、電力供給を含めた「脱炭素に関する包括連携協定」を結んでおり、公共施設は原則、同社が電力を供給することとなっている。入札にはかけない。

先行するEV技術 どう船に取り込むか


【脱炭素時代の経済探訪 Vol.16】関口博之 /経済ジャーナリスト

「船のEV化は、車でいえばまだテスラから最初のスポーツカーが出た頃のレベル」。電動推進船の企画・開発を手がけるベンチャー、e5ラボの末次康将CTO(最高技術責任者)はこんな風にたとえる。テスラがロードスターを出したのは2008年だから15年は遅れていることになる。急速に進むEV化の波は、船の世界には及んでいないのか。そもそも車のEV技術が船に転用、活用されないのはなぜか。業界関係者は舶用品には独自規格があるため、他分野からの転用のハードルになっていると指摘する。限られた市場では、国内にある舶用電機専業メーカーとしても新しいEV技術には挑戦しづらいのではと見られてきた。

こうした状況に風穴を開けようとしたのが、e5ラボが企画し、金川造船が建造したEVタグボート「大河」だ。昨年暮れに竣工、今は私の住む横浜港を中心に使われている。タグボートなので全長30mあまりの小型船だが、1500kWのモーター2基で4000馬力という“お化け”パワーを出す。リチウムイオンバッテリーに加え、ディーゼル発電機を積むシリーズハイブリッド方式だ。EVのイメージで加速性能はあっても低速・高トルクの特性はどうなのか、と素人考えで思ってしまったが、ほとんど力を使わない状態から一気に高出力を出す、負荷変動が大きい作業こそモーターの得意分野だという。確かにタグボート向きだ。

EVタグボート「大河」

このプロジェクトでは、陸上EV技術とは一線を画す業界慣行にどうやって風穴を開けたのか。「国内勢がやらないなら海外経由で技術を持ち込もうという発想だった」と末次さんは言う。陸上機器に加えEV船でも実績のあるスイスの重電大手ABBの電源装置を入れ、それを国内製品に組み込んだという。最新EVやスマート工場など、陸では次世代成長産業に桁違いの投資が行われ、技術革新が加速している。こうした技術の活用で船にも別次元の進化を起こす、これが末次さんたちの狙いだ。

電動化すれば次に視野に入るのは「船版のCASE」、自動運転化だ。接岸など仕事の範囲が限られているタグは、将来的に無人化することも可能だという。そうなれば人手不足という内航海運全体の課題解決にもつながると、末次さんは意義を強調する。さらに社会実装に向けては、単体のEV船建造からモジュール化や標準化を図り、生産コストを下げることが課題だ。5000隻を超える内航船の数%でも、EV化されれば大きな市場になる。港の給電施設の規格統一化も検討されているという。まさに車のEV化の後を追っているわけだ。

ちなみに今回はざっくり「EV船」と書いてきたが、クルマのEVがElectric Vehicle(車両)なら船はさしずめElectric Vessel(船舶)―。となると「EV船」というのは重複した表現かもしれない。海外ではEPS(Electric Powered Ship=電動推進船)とも呼ぶようだが、こちらもまだ浸透していない。さて呼び方は、これからどう定着していくのだろう。


【脱炭素時代の経済探訪 Vol.1】ロシア軍のウクライナ侵攻 呼び覚まされた「エネルギー安保」

【脱炭素時代の経済探訪 Vol.2】首都圏・東北で電力ひっ迫 改めて注目される連系線増強

【脱炭素時代の経済探訪 Vol.3】日本半導体の「復権」なるか 天野・名大教授の挑戦

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.4】海外からの大量調達に対応 海上輸送にも「水素の時代」

【脱炭素時代の経済探訪 Vol.5】物価高対策の「本筋」 賃上げで人に投資へ

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.6】なじみのない「節ガス」 欠かせない国民へのPR

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.7】外せない原発の選択肢 新増設の「事業主体」は

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.8】豪LNG輸出規制は見送り 「脱炭素」でも関係強化を

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.9】電気・ガス料金への補助 値下げの実感は? 出口戦略は?

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.10】“循環型経済先進国” オランダに教えられること

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.11】高まる賃上げの気運 中小企業はどうするか

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.12】エネルギー危機で再考 省エネの「深掘り」

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.13】企業が得られる「ごほうび」 削減貢献量のコンセプト

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.14】EUがエンジン車容認 EV化の流れは変わらず

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.15】メタンの排出削減 LNG輸入国としての責務

せきぐち・ひろゆき 経済ジャーナリスト・元NHK解説副委員長。1979年一橋大学法学部卒、NHK入局。報道局経済部記者を経て、解説主幹などを歴任。

電力データ使いAIで分析 自治体向けフレイル検知サービス


【中部電力】

中部電力は4月から、電力スマートメーターで取得した電力データを活用した、国内初の自治体向けフレイル検知サービス「eフレイルナビ」の提供を行っている。フレイルとは、日本老年医学会が2014年に提唱した概念で、加齢により心身が老い衰えた状態のことを指す。早く気づいて適切に対処することで、要介護状態の予防や、健康な状態への回復が見込まれる。このため近年、健康寿命を延ばす取り組みの中で注目を集めており、高齢化が進む自治体では、限られた人員で、効率的かつ早期のフレイル発見が求められている。

フレイル検知サービス「eフレイルナビ」のイメージ

自治体側の悩みとして「フレイルは高齢者本人にも気づきにくい」「閉じこもりがちな高齢者ほどリスクが高く、周囲が把握しづらい」「気づいたときには重症化している場合が多い」などがある。「eフレイルナビ」では、スマートメーターで計測した30分ごとの電気の使用量から、AIが外出時間・頻度や起床・就寝時間、活動量を推定し、健康な人に多い生活パターンかフレイルリスクを持つ人に多い生活パターンかを分析する。検査結果は毎月自治体側に通知し、高齢者の状態把握が可能で、職員による声かけや個別的な支援に活用する。


AI分析が効果を発揮 自治体からも高評価

2020年から三重県東員町で、電力データからフレイルを検知するAIの開発を開始。22年からは長野県松本市で、フレイル検知サービスの実証を行ってきた。フレイルリスクが高いとAIが評価した高齢者のうち83%が実際にフレイルであると判明した。高齢者のフレイル比率は全国平均で約11%とも言われ、AI分析が効果を発揮した形だ。

実証した自治体からは「閉じこもりがちな一人暮らし高齢者の多くと、継続的な接点ができた」「状態に応じた声かけができ、フレイルからの回復や早期対応につながった」などの報告があり、住民の健康寿命の延伸に効果を発揮。自治体の介護予防事業における有効性を確認できたという。

中部電力は「お客さまや地域社会が求める新たな価値をお届けするため、ビジネスモデルの変革に挑戦し、エネルギーにとどまらず、社会課題の解決やお客さまのニーズに適ったサービスの提供を進める」として、今後は全国の自治体に向けてサービスの拡大を進める構え。これまでスマートメーターの活用に取り組んできた中部電力ならではの試みが、高齢者が生き生きと暮らせる社会発展のカギとなるか注目だ。

電力値上げにみる政治力の弱体化 制度問題解消の要求は当然の権利


【永田町便り】福島伸享/衆議院議員

国会会期末が解散含みで控える中、電力規制料金の値上げ申請が認可された。昨年のエネルギー高騰に対する補助金導入の際には、各党が値下げ案を示し百家争鳴状況だったが、国会では電気料金値上げがあまり議論になっていない。河野太郎消費者相のみが張り切って腕まくりをして厳密な審査をしようとしていたくらいだ。

メディアでは、今回の値上げが、物価高の中で国民生活を圧迫する要因となるとして電力会社の経営努力を求めたり、独禁法違反問題などの不祥事と絡めて論じられることが多い。しかし、そもそもの原因を探ると、電力会社の経営問題などではなく、制度上の問題によることを指摘する向きはほとんどない。

電力・ガスシステム改革法によって、2016年から電力小売りが全面自由化されたが、経過措置として家庭用などの低圧部門については規制料金が残された。これは総括原価方式によって決定され、燃料費は調整制度によって料金に反映できることとなっているが、それには上限が設定されている。今般の燃料費高騰は上限を大きく上回るものであったため、電力会社はその分を料金で回収することができず、自由料金より規制料金が安いという自由化当初には想定していない事態となった。 

結果、電力各社の22年度収支状況は惨憺たるものとなった。一方、経過措置による規制料金のない大手都市ガスは、東京ガスの2809億円の黒字など歴史的好決算。経営努力とは関係なしに、まさに制度によってエネルギー各社の業績が決まってしまう事態となったのだ。


言うべきことを言う 適切なロビイングを

こうした状況に対して、電力会社の経営陣から何らかの声や要求が表立って上げられているようには見えない。制度は法律によって定められ、その法律を作るのは立法府の国会である。電力ガスシステム改革によって誕生した制度に、当初想定していなかった制度上の矛盾が生じたり、制度の違いによるエネルギー業界の競争環境の著しい差が出ているのだとすれば、その解消や改変を要求するのは電力会社の当然の権利である。

かつて電気事業連合会は、原子力政策などを巡ってその政治力を世に轟かせている時代もあった。公益事業として、国のエネルギー政策全般については意見を言っても、業界の利益について直接要求するようなことはしないという美学があるのかもしれない。しかし日本経済の重要な位置を占める業界として、一般送配電事業を通じ公益的役割を果たす産業として、制度上の問題から起因する厳しい収益状況を放置するわけにはいかないだろう。電力事業を見る国民の目は厳しいものがあるのかもしれないが、政治の場に言うべきことははっきりと言い、その実現を促す適切なロビイングや政治力の行使ができる体制を整える必要があるのではないか。

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ふくしま・のぶゆき 1995年東京大学農学部卒、通産省(現経産省)入省。電力・ガス・原子力政策などに携わり、2009年衆院選で初当選。21年秋の衆院選で無所属当選し「有志の会」を発足、現在に至る。

電力先物取引が急拡大 ヘッジ手法に広がり


卸電力市場価格や燃料価格の変動激化を背景にリスクヘッジの必要性が高まる中、電力先物取引量がここ数年で飛躍的に伸びている。

3年前に日本で電力先物を始めたEEX(欧州エネルギー取引所)によると、現在の参加者数は56者(日系と外資半々)で、今年5月中旬までの取引高が既に昨年同期間の約4倍に到達。EEXが各国で展開する市場の中でも日本の存在感が急拡大し、「特に今年に入りステージが変わった印象。マーケットシェアは概ね9割となり、日本の先物市場のベンチマークになっている」(EEX関係者)。

さらにEEXは参加者の要望に応え、6月26日から先物の日次商品を導入。ベースロードとピークロードで、2週間先までの1日分を取引でき、選択肢が広がる。

またトレンド面では、LNGスポット調達と電力先物を組み合わせるヘッジ手法が拡大。LNGをある価格で調達した後に電力価格が下落する際、LNG調達の赤字リスクを回避するため、電力先物の活用で利益を確保できる。

拡大する日本の電力先物市場の行方に、国内外の関心が集まる。